(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ボルテックスジェネレータは、負圧面が互いに対向するように配置された一対のフィンにより形成されるフィンセットを複数含み、前記フィンの高さHに対する前記一対のフィンの後縁の間隔Sの比S/Hが、2.5≦S/H≦5.0を満たす
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の風車翼。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1の開示においては、あるサイズ(≒ロータ直径)の風車翼に対して適用すべきVGの大きさについて何ら言及されておらず、風車翼のサイズとVGのサイズとの適切な関係が不明である。このため、将来的に開発され得る風車の大きさに対して適切なサイズのVGを設計することが困難であるという問題があった。
【0006】
上記問題に鑑み、本発明の少なくとも一実施形態は、風車翼のサイズに対して適切なサイズのボルテックスジェネレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る風車翼は、
複数のフィンを含むボルテックスジェネレータを備えた風車翼であって、
各々の前記フィンの高さH(m)と前記風車翼の最大コード長C(m)とが、H/C=0.3〜0.9×10
−2を満たす。
【0008】
風車翼の翼根部にボルテックスジェネレータを適用する際、異なるサイズの風車翼に対して風車に関する何らかのパラメータを指標として適切なサイズのボルテックスジェネレータを適用することは重要である。本発明者らは、風車翼の最大コード長とボルテックスジェネレータのフィンの高さHとの適切な関係を導くことで、ある風車翼のサイズに対して適切なサイズのボルテックスジェネレータを適用することができるという知見を得た。そして、上記(1)の構成によれば、風車翼のサイズに対して適切なサイズのボルテックスジェネレータを提供することができる。
【0009】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の構成において、
前記フィンの高さHは、翼劣化状態における定格周速比での境界層厚さδ
1に対して、H≧0.1δ
1を満たしてもよい。
【0010】
翼劣化状態では境界層が発達して厚くなり易く、剥離を抑えるためのフィンの高さが問題となる。しかし、フィンの高さが大きければフィンによる剥離抑制効果よりもフィン自体の抗力の影響によるデメリットが大きくなる。そこで本発明者らは、鋭意検討の結果、翼劣化状態における境界層厚さδ
1に対して、H≧0.1δ
1を満たす高さHを有するフィンとすることで、剥離抑制効果と抗力とのバランスを適切に保つことができるという知見を得た。よって、上記(2)の構成によれば、翼劣化状態において剥離抑制効果と抗力とのバランスに優れたボルテックスジェネレータを備えた風車翼を得ることができる。
【0011】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)に記載の構成において、
前記フィンの高さHは、翼健全状態における最適周速比での境界層厚さδ
2に対して、H≦δ
2を満たしてもよい。
【0012】
翼健全状態では風車翼の表面が滑らかであるから境界層厚さδ
2が比較的薄い。このため、剥離を抑制するために必要な高さ以上のフィンとすれば抗力によるデメリットが大きくなる。そこで、本発明者らは鋭意検討の結果、翼健全状態における最適周速比での境界層厚さδ
2に対して、H≦δ
2とすることで、剥離抑制効果と抗力とのバランスを適切に保つことができるという知見を得た。よって、上記(3)の構成によれば、翼健全状態において剥離抑制効果と抗力とのバランスに優れたボルテックスジェネレータを備えた風車翼を得ることができる。
【0013】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(3)の何れか一つに記載の構成において、
前記フィンは、風の流入方向を基準としたフィンコードの角度が、12度以上18度以下を満たしてもよい。
【0014】
風の流入方向を基準としたフィンコードの角度は、フィンの迎角にあたる。この迎角が大きすぎると、フィン周囲の流れがフィンの前縁側で剥離しやすくなり、失速の原因となり得る。逆に、フィンの迎角が小さすぎると、縦渦の発生に好ましい揚力を得ることができない可能性がある。そこで、本発明者らの検討の結果、上記(4)のように、フィンコードの角度を風流入方向に対して12度以上18度以下とすることによって、ボルテックスジェネレータによる縦渦の生成を安定させることができ、剥離抑制効果を向上させることができる。
【0015】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(4)の何れか一つに記載の構成において、
前記フィンは、前記フィンの高さHとフィン根本のコード長Lの比L/Hが、2.0≦L/H≦4.0を満たしてもよい。
【0016】
一般に、揚力傾斜は翼(フィン)の平面形状の影響を受け、アスペクト比L/Hの大きさによって、同じ迎角において得られる揚力係数の大きさが変化する。このため、縦渦の生成を促し剥離抑制効果を高める観点からは、フィンのアスペクト比に閾値を設けることが望ましい。そこで、本発明者らの知見によれば、上記(5)の構成のように、L/Hが、2.0≦L/H≦4.0を満たすフィンの大きさとすることによって、縦渦の生成に効果的な揚力を実現することができ、ボルテックスジェネレータの剥離抑制効果を向上させることができる。
【0017】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(5)の何れか一つに記載の構成において、
前記ボルテックスジェネレータは、
前記風車翼の表面に取り付けられるとともに、前記フィンが立設される表面及び該表面に対向する平坦な底面を有する基部をさらに備え、
少なくとも、前記風車翼の翼長方向に沿った前記基部の断面が湾曲凸形状を有していてもよい。
【0018】
上記(6)の構成によれば、ボルテックスジェネレータの基部の翼長方向に沿った断面形状が湾曲凸形状を有するため、風車翼の曲げ変形に追従して基部が変形可能であり、基部に発生する応力を分散させることができる。これにより、風車翼の表面からのボルテックスジェネレータの脱落のリスクを低減できる。
【0019】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(6)の何れか一つに記載の構成において、
前記ボルテックスジェネレータは、負圧面が互いに対向するように配置された一対のフィンにより形成されるフィンセットを複数含み、前記フィンの高さHに対する前記一対のフィンの後縁の間隔Sの比S/Hが、2.5≦S/H≦5.0を満たしてもよい。
【0020】
S/Hが小さいほど、生成された縦渦どうしの間隔が狭くなり、縦渦どうしが干渉することによって剥離抑制効果が低減する原因となり得る。加えて、フィンの数が増えることによって、ボルテックスジェネレータ自体の抵抗が増加してしまう。他方、S/Hが大きいほど、生成された縦渦どうしの間隔は広くなり、風車翼上におけるボルテックスジェネレータの取付範囲にて縦渦が存在しない箇所が多くなるため、剥離抑制効果が低減する原因となり得る。そこで、上記(7)のように、S/Hが、2.5≦S/H≦5.0を満たす構成とすることで、ボルテックスジェネレータ設置による技術的利得を効果的に享受できる。
【0021】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(7)の何れか一つに記載の構成において、
各々の前記フィンの高さH(m)と前記風車翼を含むロータの半径R(m)とが、
H/R=0.2〜0.7×10
−3を満たしてもよい。
【0022】
上記(1)で述べたように、風車翼の翼根部にボルテックスジェネレータを適用する際、異なるサイズの風車翼に対して風車に関する何らかのパラメータを指標として適切なサイズのボルテックスジェネレータを適用することは重要である。そこで、本発明者らは、風車翼を含むロータの半径Rとフィンの高さHとの適切な関係を導くことで、ある風車翼のサイズに対して適切なサイズのボルテックスジェネレータを適用することができるという知見を得た。そして、上記(8)の構成によれば、風車翼のサイズに対して適切なサイズのボルテックスジェネレータを提供することができる。
【0023】
(9)本発明の少なくとも一実施形態に係る風車翼へのボルテックスジェネレータの配置決定方法は、上記(1)乃至(8)の何れか一つに記載の風車翼へのボルテックスジェネレータの配置決定方法であって、
前記ボルテックスジェネレータは、前記風車翼のコード方向に沿った線分に対して線対称に配置された一対の前記フィンを含む。
【0024】
上記(9)の構成によれば、ボルテックスジェネレータを風流入方向に対して適切な方向で配置することができ、ボルテックスジェネレータによる渦の生成を安定させることができる。
【0025】
(10)本発明の少なくとも一実施形態に係る風車翼へのボルテックスジェネレータの配置決定方法は、上記(1)乃至(8)の何れか一つに記載の風車翼へのボルテックスジェネレータの配置決定方法であって、
前記ボルテックスジェネレータは、前記負圧面が互いに対向するように配置された一対の前記フィンにより形成されるフィンセットを複数含み、
前記一対のフィンの後縁の間隔Sに対する、隣り合う2つの前記フィンセットの配列ピッチZの比Z/Sが1.5以上3.0
以下となるように前記ボルテックスジェネレータが配置される。
【0026】
剥離抑制効果を高める観点からは、ボルテックスジェネレータを高密度で配置することが望ましい。一方、抵抗低減のためには、低密度でボルテックスジェネレータを配置することが望ましい。そこで、上記(10)の方法のように、Z/Sが1.5以上3.0以下を満たす密度でボルテックスジェネレータを配置すれば、剥離抑制効果と抵抗低減効果を同時に享受することができる。
【0027】
(11)本発明の少なくとも一実施形態に係る風車翼へのボルテックスジェネレータの配置決定方法は、上記(1)乃至(8)の何れか一つに記載の風車翼へのボルテックスジェネレータの配置決定方法であって、
前記ボルテックスジェネレータは、前記負圧面が互いに対向するように配置された一対の前記フィンにより形成されるフィンセットを複数含み、
前記一対のフィンの高さHに対する、隣り合う2つの前記フィンセットの配列ピッチZの比Z/Hが6.0以上8.0
以下となるように前記ボルテックスジェネレータが配置される。
【0028】
上記(10)で述べたように、剥離抑制効果を高める観点からは、ボルテックスジェネレータを高密度で配置することが望ましい。一方、隣り合うフィンセット同士の間隔が近い程、生成された縦渦同士の干渉により剥離抑制効果が低減する原因となり得る。そこで、上記(11)の構成のように、Z/Hが6.0以上8.0以下を満たすボルテックスジェネレータを配置すれば、剥離抑制効果と抵抗低減効果を同時に享受することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の幾つかの実施形態によれば、風車翼のサイズに対して適切なサイズのボルテックスジェネレータを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0032】
まず、
図1及び
図2を参照して、幾つかの実施形態に係るボルテックスジェネレータが適用される風車翼アセンブリ及び風力発電装置の全体構成について説明する。
図1は、一実施形態に係る風力発電装置の概略構成図であり、
図2は一実施形態に係るボルテックスジェネレータが適用される風車翼アセンブリの斜視図である。
【0033】
図1に示すように、風力発電装置90は、少なくとも一本(例えば3本)の風車翼アセンブリ1を備える。風車翼アセンブリ1は、後述するように、風車翼2及びボルテックスジェネレータ10を含む。風車翼アセンブリ1は放射状にハブ94に取り付けられ、風車翼アセンブリ1及びハブ94により風力発電装置90のロータ93が構成される。風車翼アセンブリ1で風を受けると、ロータ93が回転し、ロータ93に連結された発電機(不図示)で電力が生成されるようになっている。
なお、
図1に示す実施形態において、ロータ93は、タワー96の上方に設けられたナセル95によって支持されている。また、タワー96は、水上又は陸上に設けられた土台構造97(基礎構造又は浮体構造等)に立設されている。
以下に説明するように、上記構成の風力発電装置90において、風車翼アセンブリ1の風車翼2には、一実施形態に係るボルテックスジェネレータ10が取り付けられる。
【0034】
図2に示すように、風車翼アセンブリ1は、風車翼2を備える。風車翼2の表面(翼面)には、一実施形態に係るボルテックスジェネレータ10が取り付けられる。なお、
図2には、ボルテックスジェネレータ10がすでに風車翼2に取り付けられた状態の風車翼アセンブリ1が図示されている。
風車翼2は、風力発電装置90のハブ94に取り付けられる翼根3と、ハブ94から最も遠くに位置する翼先端4と、翼根3と翼先端4の間に延在する翼型部5と、を含む。また、風車翼2は、翼根3から翼先端4にかけて、前縁6と後縁7とを有する。また、風車翼2の外形は、圧力面(腹面)8と、圧力面8に対向する負圧面(背面)9とによって形成される。
【0035】
図2に示すように、風車翼アセンブリ1において、複数のボルテックスジェネレータ10が風車翼2の負圧面9に取り付けられる。また、複数のボルテックスジェネレータ10は、風車翼2の負圧面9において翼長方向に複数配列されている。
なお、本明細書において、「翼長方向」とは、翼根3と翼先端4とを結ぶ方向であり、「翼コード方向」とは、風車翼2の前縁6と後縁7とを結ぶ線(コード)に沿った方向である。
【0036】
次に
図3及び
図4を参照して、ボルテックスジェネレータ10の構成について具体的に説明する。
図3は、一実施形態に係るボルテックスジェネレータの斜視図である。
図4は、一実施形態に係るボルテックスジェネレータの平面図である。
【0037】
図3に示すように、幾つかの実施形態に係るボルテックスジェネレータ10は、風車翼アセンブリ1の表面(より具体的には風車翼2の表面)に固定される基部11と、基部11上に立設される少なくとも一本のフィン12と、を備えている。
図3及び
図4に示す実施形態では、ボルテックスジェネレータ10は、基部11上において隣り合うように設けられた一対(合計2本)のフィン12(12A,12B)を有している。
【0038】
図3及び
図4に示す実施形態では、基部11は平面視において円形形状を有している。
幾つかの実施形態では、基部11は、円形以外の形状を有していてもよい。基部11は、例えば、楕円形状や、長方形等の多角形の形状を有していてもよい。
また、幾つかの実施形態では、ボルテックスジェネレータ10は基部11を有さずに、フィン12が風車翼2に直接取り付けられていてもよい。
【0039】
幾つかの実施形態において、フィン12はフィン12の高さHに対するフィン根本のコード長Lの比であるL/Hが、2.0≦L/H≦4.0を満たす(
図3参照)。
【0040】
一般に、揚力傾斜(迎角に対する揚力係数の増加の仕方)は翼の平面形状の影響を受け、アスペクト比L/Hの大きさによって、同じ迎角において得られる揚力係数の大きさが変化する。縦渦29(後述)の生成に好ましい揚力Fを得るためには、アスペクト比L/Hが大きいことが望ましいが、逆に、アスペクト比L/Hが大きすぎると揚力傾斜が小さくなるため、縦渦29の形成に十分な揚力Fを得られない可能性がある。したがって、風の流入方向とフィンコード24なす角度(迎角)に対して、縦渦29の生成に好ましい揚力Fを得るためには、フィン12のアスペクト比L/Hに閾値を設けることが望まれる。
【0041】
そこで、本実施形態によれば、L/Hが、2.0≦L/H≦4.0を満たすようなフィン12の形状を構成することによって、縦渦29の生成に効果的な揚力Fを実現することができ、ボルテックスジェネレータ10の剥離抑制効果を高めることができる。
【0042】
幾つかの実施形態によれば、フィン12の高さHに対する一対のフィン12の後縁の間隔Sの比S/Hが、2.5≦S/H≦5.0を満たすことを特徴とする(
図3参照)。
【0043】
S/Hは一対のフィン12の後縁間の距離に関する値であり、S/Hが小さいほど、フィン12の後縁14側で生成される縦渦29どうしの間隔が狭くなる。このため、縦渦29どうしが干渉することによって剥離抑制効果が低減してしまう原因となり得る。加えて、S/Hが小さいほど、風車翼2上でのボルテックスジェネレータ10の取付け領域におけるフィン12の数が増えることになるため、ボルテックスジェネレータ10自体の抵抗が増加し、ドラッグペナルティ発生の原因にもなり得る。他方、S/Hが大きいほど、生成された縦渦29どうしの間隔は広くなる。この場合、風車翼2上におけるボルテックスジェネレータ10の取付範囲にて縦渦29が存在しない箇所が多くなるため、剥離抑制効果が低減する原因となり得る。そこで、本実施形態のように、S/Hが、2.5≦S/H≦5.0を満たす構成とすることで、ボルテックスジェネレータ10の設置による技術的利得を効果的に享受できる。
【0044】
図4は、
図3におけるボルテックスジェネレータ10を真上から見た平面図を示している。幾つかの実施形態では、風の流入方向に沿った線分l
w(l
wA,l
wB)とフィンコード24の延長線l
C(l
CA,l
CB)とのなす角θ(θ
A,θ
B)は、12度以上18度以下を満たす。
【0045】
風の流入方向を基準としたフィンコード24の角度θは、フィン12の迎角にあたる。この迎角が大きすぎると、フィン12周囲の流れがフィン12の前縁17側で剥離しやすくなり、失速の原因となり得る。逆に、フィン12の迎角が小さすぎると、縦渦29の発生に望ましい揚力Fを得ることができない可能性がある。そこで、本発明者らの検討の結果、本実施形態のように、風の流入方向に対するフィンコード24の角度θを12度以上18度以下とすることによって、ボルテックスジェネレータ10による縦渦29の生成を安定させることができ、剥離抑制効果を向上させることができる。
【0046】
幾つかの実施形態において、
図4に例示するように、フィン12は、風車翼2のコード方向に沿った直線L
Hに対して、フィンコードの延長線l
CA及びl
CBが所定の角度をなすように風車翼2上に配置される。
図4では、風流入方向の上流側から下流側に向けて(すなわち、風車翼2(
図2参照)に取り付けた状態で、風車翼2の前縁6側から後縁7側に向けて)、一対のフィン12A,12Bの間の隙間が広がるように各々のフィン12A,12Bが設けられている。
幾つかの実施形態では、風流入方向の下流側から上流側に向けて(すなわち、風車翼2(
図2参照)に取り付けられた状態で、風車翼2の後縁7側から前縁6側に向けて)、一対のフィン12A,12Bの間の隙間が広がるように各々のフィン12A,12Bが設けられていてもよい。
【0047】
また、一実施形態では、風車翼2のコード方向に沿った直線L
Hが、一対のフィンコードの延長線l
CA,l
CBのなす角度の二等分線となるようにボルテックスジェネレータ10を配向させた状態で風車翼2上に配置されてもよい。つまり、ボルテックスジェネレータ10は、風車翼2のコード方向に沿った線分に対して線対称に配置された一対のフィン12A,12Bを含んでいてもよい。
このように、風流入方向に沿った風車翼2のコードを基準として、フィンコードに角度を持たせてボルテックスジェネレータ10を配置することで、風流入方向に対して剥離抑制効果を高めるのに適切な取付方向でボルテックスジェネレータ10を風車翼2に取り付けることができる。
【0048】
図5は、翼長方向に沿ったボルテックスジェネレータ10の基部11の断面28を示している。
図5に示すように、幾つかの実施形態に係るボルテックスジェネレータ10において、基部11は、外部に露出した表面25と、風車翼2の表面25に対向した裏面27と、を含む。
図5に示すように、幾つかの実施形態では、翼長方向に沿った基部11の断面28の形状が湾曲凸形状を有する。
【0049】
ここで、「湾曲凸形状」とは、風車翼2から離れる方向に隆起するとともに、隆起した部分の輪郭(基部11の表面25の形状)の少なくとも一部が湾曲しているような形状を指す。
隆起した部分の輪郭は、
図5に示す実施形態のように単一の曲率半径の円弧によって形成されていてもよいし、図示は省略するが他の実施形態として複数の曲率半径の円弧の組合せ、または、1以上の曲率半径の円弧と1以上の直線との組合せによって形成されていてもよい。
【0050】
風力発電装置90の運転中、空力荷重に起因した曲げ変形によって風車翼2は撓む。このため、風車翼2の表面に取り付けられたボルテックスジェネレータ10の基部11には大きな応力が生じてしまう。この点、上記実施形態によれば、ボルテックスジェネレータ10の基部11が風車翼2の翼長方向に沿った湾曲凸形状の断面を有するように配置されるため、風車翼2の曲げ変形に追従して基部が変形可能であり、基部11に生じる応力を分散させることができる。
【0051】
ここで、ボルテックスジェネレータ10の空力的作用について簡単に説明する。
図6は、ボルテックスジェネレータ10の作用を説明するための斜視図である。なお、
図6には、
図3〜4に示すボルテックスジェネレータ10を風車翼2の翼長方向に複数設置することで形成されるフィン列(複数対のフィン12A,12B)のうち、隣り合う一対のフィン12A,12Bのみを示している。
風車翼2の負圧面9における流れの剥離は、前縁6近傍の層流域からその下流側の乱流域に向かって境界層が徐々に厚くなり、後縁7に到達する前に流れが剥がれてしまうことで生じる。
図6に示すように、風車翼2に取り付けられたボルテックスジェネレータ10は、フィン12が生み出す揚力Fによって、フィン12の負圧面(背面)23側に縦渦29を形成する。これらの縦渦29によって、フィン12の後流側において境界層31内外の運動量交換が促進される。これにより、隣接するフィン12の負圧面23間の領域では、フィン12の後流の境界層31の厚さDは薄くなる(D1<D2)。よって、複数のフィン12を翼長方向に配列することで、風車翼2の表面における境界層31が全体として薄くなり、風車翼2の後縁剥離が抑制されるようになっている。
【0052】
図7は、風車翼2に配置されたボルテックスジェネレータ10の斜視図である。幾つかの実施形態に係るボルテックスジェネレータ10は、
図7に示すように、圧力面15及び負圧面16をそれぞれ有し、負圧面16が互いに対向するように配置された一対のフィン(12A,12B)により形成されるフィンセット25を複数含んでいる。幾つかの実施形態では、一対のフィン(12A,12B)の後縁14の間隔Sに対する、隣り合う2つの前記フィンセット(25A,25B)の配列ピッチZの比Z/Sが、1.5以上3.0以下となるようにボルテックスジェネレータ10が配置される。
【0053】
剥離抑制効果を高める観点からは、ボルテックスジェネレータ10を高密度で配置することが望ましい。一方、抵抗低減のためには、低密度でボルテックスジェネレータ10を配置することが望ましい。そこで、上記のように、Z/Sが1.5以上3.0以下を満たす密度でボルテックスジェネレータ10を配置すれば、剥離抑制効果と抵抗低減効果を同時に享受することができる。
【0054】
次に、ボルテックスジェネレータ10の寸法は、通常、境界層厚さδに合わせて設計する。すなわち、ボルテックスジェネレータ10のフィンの高さが、境界層厚さδをカバーしつつ、ドラッグペナルティが生じないような高さであることが望ましい。
図8は、コード方向位置における境界層厚さδ(δ
1及びδ
2)について、翼劣化状態の場合と翼健全状態の場合とを示している。
図8によれば、後縁7に近づくにつれて、境界層厚さδが翼劣化状態におけるδ
1と翼健全状態におけるδ
2とで大きく異なっている。このため、後縁側で翼劣化状態での境界層厚さδ
1に適したボルテックスジェネレータ10の寸法を用いたとしても、翼健全状態での境界層厚さδ
2を大きく超えているため、ボルテックスジェネレータ10自体の抵抗が大きくなり、ドラッグペナルティが生じてしまう。逆に、後縁側で翼健全状態に適したボルテックスジェネレータ10の寸法を採用しても、翼劣化状態では境界層厚さδ
1よりも小さいため、翼劣化状態において剥離抑制効果が低減してしまう。
【0055】
そこで、本開示の幾つかの実施形態では、上記の構成において、フィン12の高さHは、翼劣化状態における定格周速比での境界層厚さδ
1に対して、H≧0.1δ
1を満たす。
翼劣化状態では境界層が発達して厚くなり易く、剥離を抑えるためのフィン12の高さが問題となる。しかし、フィン12の高さHが大きければフィン12による剥離抑制効果よりもフィン12自体の抗力の影響によるデメリットが大きくなる。そこで本発明者らは、鋭意検討の結果、翼劣化状態における境界層厚さδ
1に対して、H≧0.1δ
1を満たす高さHを有するフィン12とすることで、剥離抑制効果と抗力とのバランスを適切に保つことができるという知見を得た。よって、上記(2)の構成によれば、翼劣化状態において剥離抑制効果と抗力とのバランスに優れたボルテックスジェネレータ10を備えた風車翼2を得ることができる。
【0056】
さらに、幾つかの実施形態では、上記の構成において、フィン12の高さHは、翼健全状態における最適周速比での境界層厚さδ
2に対して、H≦δ
2を満たす。
翼健全状態では風車翼2の表面が滑らかであるから境界層厚さδ
2が比較的薄い。このため、剥離を抑制するために必要な高さ以上のフィン12とすれば抗力によるデメリットが大きくなる。そこで、本発明者らは鋭意検討の結果、翼健全状態における最適周速比での境界層厚さδ
2に対して、H≦δ
2とすることで、剥離抑制効果と抗力とのバランスを適切に保つことができるという知見を得た。よって、上記の構成によれば、翼健全状態において剥離抑制効果と抗力とのバランスに優れたボルテックスジェネレータ10を備えた風車翼2を得ることができる。
【0057】
ここで、
図9〜13を参照して一実施形態に係る風車翼2のサイズと、この風車翼2に取り付けるために適切なフィン12のサイズとについて説明する。
図9は、ロータ半径、最大コード長及び最大コード長部の無次元半径方向位置を示す概略図である。
図10は、風車翼への風の流入速度と周速比とを説明するための図である。
図11は、乱流境界層の速度分布を説明するための図である。
図12は、最大コード断面における境界層の代表的な厚さを最大コード長で無次元化した値とロータ半径との関係を示す図である。
図13は、最大コード断面における境界層の代表的な厚さとロータ半径との関係を示す図である。
一実施形態に係る風車翼2は、複数のフィン12を含むボルテックスジェネレータ10を備えた風車翼2であって、各々のフィン12の高さH(m)と前記風車翼の最大コード長C(m)とが、H/C=0.3〜0.9×10
−2を満たす(
図12参照)。
【0058】
風車翼2の翼根部(翼根3)にボルテックスジェネレータ10を適用する際、異なるサイズの風車翼2に対して風力発電装置90(以下、単に風車とも称する)に関する何らかのパラメータを指標として適切なサイズのボルテックスジェネレータを適用することは重要である。これに関し、本発明者らは、風車翼2の最大コード長C
maxとボルテックスジェネレータ10のフィン12の高さHとの適切な関係を導くことで、ある風車翼2のサイズに対して適切なサイズのボルテックスジェネレータ10を適用することができるという知見を得た。以下にその内容を例示的かつ非限定的に説明する。
【0059】
一般に、ボルテックスジェネレータ(以下、VGとも称する)の最適サイズは、VGを適用する位置における境界層厚さδから決定される。境界層厚さδは風車の運転点や機種によって異なるため、空気力学の観点からすれば、各機種ごとに適切なサイズのVGを適用することが理想的である。一方、コストの観点では数種類程度(或いは単一)のVGで複数の機種に対応できることが望ましい。
【0060】
ここで、風車翼2の翼根部にVGを適用する際には、最大コード長部40を代表断面と考えることができる(
図9参照)。最大コード長C
maxや最大コード長部40の無次元半径方向位置μ
c(=r
c/R)は、空力性能や翼重量及び輸送性などから決定される。これらは、経験的には、
C
max=0.06R〜0.08R
μ
c=0.2〜0.3R
となる。ここで、Rはロータ93の半径である。上記に基づき、ここでは、
C
max=0.07R
μ
c=0.25R
と考える。
一般に、近年の風車は、周速比(Tip speed ratio:TSR)8〜10程度に設定される。これは、翼先端部のエロ―ジョンを防止するためには周速を100m/s以下にする必要があるためである。これに基づけば、風車翼2の代表的な運転点は、
風速V=8m/s、周速比λ=9
と考えることができ、最大コード長部40における風の流入速度Wは、
W=√(V・λ・μ
c(1+a
2))2+(V(1−a
1))2≒19 [m/s]
となる(
図10参照)。ここで、軸方向誘導係数a
1は最適値の1/3、接線方向誘導係数a
2は0とした。
以上の仮定に基づけば、最大コード長C
max断面におけるレイノルズ数は、
Re
c=C
max・W/ν
=0.07R・19/1.5×10
−5
=8.9×10
4×R
となる。ただし、νは動粘性係数であり、常温における値とした。
【0061】
次に、平板上の乱流境界層の厚さ(境界層厚さ)δは、
δ=0.37x/Re
x0.2
と表される。ここで、xは平板前縁からの距離であり、Re
xはxに基づいたレイノルズ数である。
ここで、最大コード長C
max断面におけるVGのコード方向位置を仮定する。最も翼先端側のVGのコード方向位置は25〜75%が適するとされていることから、
(x/C)
ref=0.5
とする。
以上の仮定から、VG取付位置における境界層厚さδは以下を代表値と考えることができる(
図11参照)。
δ=0.37x/Re
x0.2
=0.37・(Re
c・x/C)
−0.2・0.5C
=0.37×(8.9×10
4×R×0.5)
−0.2×0.5×0.07R
=1.5×10
−3R
0.8 [m]
また、δ/Cは、
δ/C=1.5×10
−3×R
0.8/0.07R
=2.2×10
−2R
0.8 [−]
となる。
【0062】
VGの頂部は、十分な流速がある領域に位置する必要があり、そのためには、VGの高さHをδの20%〜100%程度とするのがよいと考えられる。よって、ここではδの20%〜80%(H=0.2〜0.8δ)を適切なサイズであるとすることができる。
以上から、風車翼2に対するVGの適切なサイズは、
図12及び
図13に示す塗りつぶし箇所であるといえる。ここで、
図12及び
図13中、yは風車翼2の表面からの距離を示す。例えば、ロータ半径が100m以下の場合は、
図12より、VG高さHとコード長Cとの比H/Cは0.3〜0.9%が適切であると考えられる。
【0063】
以上述べた構成により、風車翼2のサイズに対して適切なサイズのボルテックスジェネレータ10を提供することができるものである。
【0064】
また、幾つかの実施形態では、各々のフィン12の高さH(m)とロータの半径R(m)とが、H/R=0.2〜0.7×10
−3を満たしてもよい。
すなわち、C
max=0.07Rと仮定すれば、
H/R=0.07H/C
max=0.21〜0.63×10
−3
となるから、H/R=0.2〜0.7×10
−3とすることで適切なVG高さ(サイズ)をロータ半径Rとの関係で考えることができる。よって、風車翼2のサイズに対して適切なサイズのボルテックスジェネレータ10を提供することができる。
【0065】
さらに、本発明の少なくとも一実施形態に係る風車翼へのボルテックスジェネレータの配置決定方法は、上記何れか一つに記載の風車翼へのボルテックスジェネレータの配置決定方法であって、ボルテックスジェネレータ10は、負圧面9が互いに対向するように配置された一対の前記フィン12により形成されるフィンセットを複数含み、一対のフィン12の高さHに対する、隣り合う2つのフィンセットの配列ピッチZの比Z/Hが6.0以上8.0
以下となるようにボルテックスジェネレータ10が配置されてもよい。
【0066】
上述したように、剥離抑制効果を高める観点からは、ボルテックスジェネレータ10を高密度で配置することが望ましい。一方、隣り合うフィンセット同士の間隔が近い程、生成された縦渦同士の干渉により剥離抑制効果が低減する原因となり得る。そこで、上記構成のように、Z/Hが6.0以上8.0以下を満たすボルテックスジェネレータ10を配置すれば、剥離抑制効果と抵抗低減効果を同時に享受することができる。
【0067】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変更を加えた形態や、これらの形態を組み合わせた形態も含む。