特許第6783281号(P6783281)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6783281限外ろ過膜の製造方法、限外ろ過膜装置、超純水製造装置及び超純水製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6783281
(24)【登録日】2020年10月23日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】限外ろ過膜の製造方法、限外ろ過膜装置、超純水製造装置及び超純水製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 61/20 20060101AFI20201102BHJP
   B01D 65/10 20060101ALI20201102BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20201102BHJP
   C02F 1/42 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   B01D61/20
   B01D65/10
   C02F1/44 J
   C02F1/42 A
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-188303(P2018-188303)
(22)【出願日】2018年10月3日
(62)【分割の表示】特願2014-193932(P2014-193932)の分割
【原出願日】2014年9月24日
(65)【公開番号】特開2018-202419(P2018-202419A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2018年10月3日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】菅原 広
(72)【発明者】
【氏名】市原 史貴
【審査官】 関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−000548(JP,A)
【文献】 特開2007−313421(JP,A)
【文献】 特開2007−229718(JP,A)
【文献】 特開2008−062119(JP,A)
【文献】 特開2010−058109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 37/02
B01D 61/00−71/82
C02F 1/42
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超純水製造装置のサブシステムで用いられる限外ろ過膜装置であって、サイズが5nm〜500nmの範囲から選択される球形の微粒子を付加した限外ろ過膜を有し、
前記微粒子は、前記限外ろ過膜の分画分子量に基づく該限外ろ過膜の孔径分布において最も大きな割合を占める孔の孔径以上から選択されたサイズを有する金粒子、ポリスチレンラテックス粒子、シリカ粒子の少なくともいずれかであることを特徴とする限外ろ過膜装置。
【請求項2】
イオン交換装置と、該イオン交換装置の後段に、請求項1に記載の限外ろ過膜装置を備えた、超純水製造装置。
【請求項3】
前記限外ろ過膜装置がサブシステムの末端に設置された、請求項2に記載の超純水製造装置。
【請求項4】
超純水製造装置のサブシステムで用いられる限外ろ過膜に、微粒子を含む調製用水を通水して該限外ろ過膜に該微粒子を付加する処理を行う除粒子性能を高めた限外ろ過膜の製造方法であって、
前記微粒子は、5nm〜500nmの範囲から前記限外ろ過膜の分画分子量に基づく該限外ろ過膜の孔径分布において最も大きな割合を占める孔の孔径以上から選択されたサイズを有する金粒子、ポリスチレンラテックス粒子、シリカ粒子の少なくともいずれかが選択され、
前記調製用水が、純水又は超純水に前記微粒子を分散させて調製されたものであることを特徴とする除粒子性能を高めた限外ろ過膜の製造方法。
【請求項5】
被処理水をイオン交換装置でイオン交換処理する工程と、該イオン交換装置の後段に設けられた請求項1に記載の限外ろ過膜装置で該イオン交換処理された被処理水のろ過処理を行う工程とを備えた、超純水製造方法。
【請求項6】
前記限外ろ過膜装置がサブシステムの末端に設置された、請求項に記載の超純水製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い除粒子性能を有する限外ろ過膜の製造方法(以下、限外ろ過膜の「製造」を「調製」ということがある)、この調製方法により得られた限外ろ過膜を有する限外ろ過膜装置に関する。この限外ろ過膜装置は、超純水のろ過装置として利用することができる。この限外ろ過膜装置を、超純水製造装置内のサブシステムの末端又はその近傍に設置することで、微粒子数の少ない超純水を提供することが可能となる。
【背景技術】
【0002】
半導体製造産業においては、不純物を高度に除去した超純水を用いてシリコンウエハの洗浄等が行われている。超純水は、一般に、原水(河川水、地下水、工業用水)中に含まれる懸濁物質や有機物等の一部を前処理工程で除去した後、その処理水を一次純水システム及び二次純水システム(サブシステム)で順次処理することによって製造され、ウエハ洗浄を行うユースポイントに供給される。超純水製造装置には、一般的に、超純水から微粒子、菌、コロイド、高分子化合物等を除去するためのろ過膜装置が設置されている。
【0003】
超純水からの微粒子等の除去に用いられるろ過膜装置としては、限外ろ過膜(ultrafiltration membrane:UF膜)や精密ろ過膜(microfiltration membrane)が用いられている。限外ろ過膜は、膜表面の緻密層で微粒子や高分子物質の除去を行うものである。限外ろ過膜のろ過性能は、分画分子量(カットオフ値)により規定されている。この分画分子量は、既知の分子量を有する指標物質をろ過した際に阻止率90%が得られる分子量を示している。一方、精密ろ過膜は、多孔質膜として形成されており、膜表面以外に膜内部(多孔質構造の細孔内部)においても微粒子の除去が行われ、そのろ過性能は、除去率99%程度の標準粒子の粒径による「定格ろ過精度」によって規定されている。(非特許文献1)
【0004】
特許文献1には、一次純水製造装置と二次純水製造装置をサブシステムとして有し、処理水中の溶存酸素を低下させて水質を安定化させるための脱気装置を一次純水製造装置に設け、二次純水製造装置の末端に限外ろ過膜装置を配置してユースポイントへ超純水を供給し、使用した残余の超純水を一次純水製造装置に循環する構成を有する超純水製造装置が開示されている。
超純水製造装置において用いられている限外ろ過膜の分画分子量は数千〜数万の範囲にある。
【0005】
特許文献2及び3には、超純水中の微粒子を直接測定する方法が開示されており、特許文献4にはフィルターの除粒子性能の評価方法が開示されている。
一方、超純水中に含まれる微粒子の分布について、非特許文献1には、粒子サイズ(例えば直径)と個数の関係について、粒子の個数が「1/(粒子サイズ)3」との関係で指数関数的に分布する等、粒子サイズが小さくなるにしたがって粒子の個数が増加するとの報告があることが記載され、更に、小さい粒子の個数濃度を測定しなくても、例えば0.1μmよりも大きい粒子の個数濃度を測定することによって、それよりも小さい粒子の個数濃度を推定することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−312175号公報
【特許文献2】特開平09−276672号公報
【特許文献3】特開2007−70126号公報
【特許文献4】特開2013−31835号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「クリーンテクノロジー」、日本工業出版、2003年5月号、第70頁〜第74頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
超純水中の微粒子の分布に関しては、非特許文献1には粒子サイズが小さくなるに従って微粒子の個数が大きな割合で増加する点が示唆されており、超純水中に相当数の粒径が50nm未満の微粒子(sub-50nm微粒子)が含まれている可能性がある。一方、sub-50nm微粒子を計測するためのパーティクルカウンターも提供されているが、超純水中のsub-50nm微粒子の計測における信頼性については、なお検証がなされている段階にある。従って、超純水に含まれるsub-50nm微粒子の分布についての実験値や実測値の詳細な報告例は未だ見当たらないのが現状である。このように、超純水中のsub-50nm微粒子の分布についての情報が十分にない状況において、超純水がsub-50nm微粒子を含む場合に、sub-50nm微粒子を要求される基準まで低減する上での限外ろ過膜の有効性や、限外ろ過膜によってsub-50nm微粒子を超純水から除去する際の技術課題についてこれまで着目されておらず、これらの点に関しての検討すら行われていなかった。すなわち、sub-50nm微粒子を超純水から除去するために、どのような限外ろ過膜やどのような限外ろ過膜装置が有効かどうかについての十分な情報はいまだ得られていない。
【0009】
本発明の目的は、簡便な方法により限外ろ過膜の高性能化及び高信頼化を達成し得る限外ろ過膜の調製方法、並びに、かかる調製方法により調製された限外ろ過膜を用いる水処理方法を提供することにある。本発明の更なる目的は、かかる調製方法により調製された限外ろ過膜を有し、高性能及び高信頼性を有し、コストを抑えることができる限外ろ過膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にかかる限外ろ過膜装置は、超純水製造装置のサブシステムで用いられる限外ろ過膜装置であって、サイズが5nm〜500nmの範囲から選択される球形の微粒子を付加した限外ろ過膜を有し、前記微粒子は、前記限外ろ過膜の分画分子量に基づく該限外ろ過膜の孔径分布において最も大きな割合を占める孔の孔径以上から選択されたサイズを有する金粒子、ポリスチレンラテックス粒子、シリカ粒子の少なくともいずれかであることを特徴とする。
本発明にかかる超純水製造装置は、イオン交換装置と、該イオン交換装置の後段に、上記の限外ろ過膜装置を備えたことを特徴とする。
本発明にかかる限外ろ過膜の製造方法は、超純水製造装置のサブシステムで用いられる限外ろ過膜に、微粒子を含む調製用水を通水して該限外ろ過膜に該微粒子を付加する処理を行う除粒子性能を高めた限外ろ過膜の製造方法であって前記微粒子は、5nm〜500nmの範囲から前記限外ろ過膜の分画分子量に基づく該限外ろ過膜の孔径分布において最も大きな割合を占める孔の孔径以上から選択されたサイズを有する金粒子、ポリスチレンラテックス粒子、シリカ粒子の少なくともいずれかが選択され、前記調製用水が、純水又は超純水に前記微粒子を分散させて調製されたものであることを特徴とする。
本発明にかかる超純水製造方法は、被処理水をイオン交換装置でイオン交換処理する工程と、該イオン交換装置の後段に設けられた上記の限外ろ過膜装置で該イオン交換処理された被処理水のろ過処理を行う工程とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる限外ろ過膜の調製方法及び水処理方法によれば、限外ろ過膜に微粒子を付加するという簡便な処理によって、限外ろ過膜の高性能化を達成することができる。この調製方法により調製された限外ろ過膜を有する限外ろ過膜装置を用いることにより、高性能及び高信頼性を有し、コストを抑えることができる限外ろ過膜装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明にかかる限外ろ過膜の調製用水による処理を行う装置の一例を模式的に示す図である。
図2】限外ろ過膜装置中で本発明にかかる限外ろ過膜の調製用水による処理を行う場合の限外ろ過膜装置の一例を模式的に示す図である。
図3】超純水装置の構成の一実施形態を説明するためのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明にかかる限外ろ過膜の調製方法は、限外ろ過膜の膜面に対して微粒子を付加する工程を有する。
【0014】
限外ろ過膜の膜面に対して微粒子を付加し、付加された微粒子が限外ろ過膜の膜面に付着及び/又は固定することによって、限外ろ過膜の除粒子性能を向上させることができる。この限外ろ過膜の除粒子性能の向上は、以下の理由によると本発明者らは考えている。
限外ろ過膜の分離性能の指標として一般的に分画分子量が使われる。分画分子量は、既知の分子量を有する標準物質を透過させて阻止率90%に相当する分子量から定める。即ち、分画分子量5000の限外ろ過膜であれば、分子量5000の物質の90%を捕捉できる。限外ろ過膜の孔径は完全な均一ではなく、通常は分画分子量を規定するメインの孔径を含むバラツキを有している。このメインの孔径を有する孔が孔径分布において最も大きな割合を占めるが、このメインの孔径よりも大きな孔があると、除去対象のサイズの微粒子がそこを通過して除去できない場合が生じる。即ち、規定された分画分子量よりも大きい分子量の物質が捕捉されない可能性がある。そこで、このような大きな孔を微粒子で塞ぐことで限外ろ過膜の完全性を高め、除粒子性能を向上させるとともに、限外ろ過膜の信頼性を高めることができる。更に、限外ろ過膜に通水をすると、水はより大きな孔を通る確率が高くなる、すなわち、ミクロ的な限外ろ過膜の通水のし易さには膜面において分布があり、より大きな孔の周辺への水の流れが形成され易いと考えられる。このため、孔閉鎖用の微粒子を含む調製用水を限外ろ過膜に通水すると、孔閉鎖用の微粒子が、大きな孔に供給される確率が高くなり、大きな孔を効率よく塞ぐことが可能であると考えられる。
【0015】
上述した通り、孔閉鎖用微粒子は、限外ろ過膜の多数の孔の一部を閉鎖して完全性を上げ(限外ろ過膜の膜表面の緻密層にある大き目の細孔径を塞ぎ、微粒子リークを引き起こす欠陥部分を少なくする)、除粒子性能(排除率)を高める目的で使用する。
孔閉鎖用微粒子の種類は特に限定されるものではなく、対象となる限外ろ過膜やその使用目的に応じて適宜選択することができる。特に、超純水システムの末端又はその近傍に設置する限外ろ過膜装置に対して適用する場合は、低溶出が要求される。したがって、できるだけ少量の微粒子の添加によって狙い通りの効果を発揮するために、溶出量が少ない球状の合成粒子を使用することが好ましい。また、単分散であること又は単分散に近い(実質的に単分散)ことが、孔閉鎖用微粒子の膜への付加率等の調製条件を管理する上で好ましい。
孔閉鎖用微粒子としては、例えば、金粒子(金コロイド)、PSL(ポリスチレンラテックス)粒子、シリカ粒子等があげられる。
【0016】
孔閉鎖用微粒子のサイズは、限外ろ過膜の分画分子量と、ろ過処理において目的とされる除粒子性能に応じて設定することができる。除去対象となる被処理水中の微粒子のサイズに応じた限外ろ過膜の分画分子量に基づくサイズを有するもの、例えば、限外ろ過膜のメインの孔のサイズ(孔径)以上のサイズから選択されたサイズを有する孔閉鎖用微粒子を選択して用いることができる。
また、この孔閉鎖用微粒子は、孔閉鎖用微粒子の限外ろ過膜への付加前後における、被処理水中の除去対象微粒子の除粒子率(排除率)を、実験によって確認することで決定することもできる。具体的には、先ず、限外ろ過膜の分画分子量を目安として、目的とする除粒子性能(被処理水から除去すべき微粒子の除去率)を得ることができる限外ろ過膜を選択し、被処理水を通水して選択された限外ろ過膜の除去すべき微粒子の除粒子率(R1)を求める。次に、限外ろ過膜に孔閉鎖用微粒子を付加した後、被処理水を通水して孔閉鎖用微粒子の付加後における限外ろ過膜の除粒子率(R2)を求める。このようにR1、R2を孔閉鎖用微粒子の種類やサイズで振り分けて実験を行い、R2>R1となる孔閉鎖用微粒子を選定する。
【0017】
分画分子量が5000〜7000の限外ろ過膜を用いる場合における孔閉鎖用の微粒子のサイズは、5nm〜500nmの範囲から、孔閉鎖用の微粒子の付加後に目的とする微粒子サイズにおける排除率の向上を達成するサイズを選択することができる。この場合における孔閉鎖用の微粒子のサイズの下限は、10nmが好ましく、孔閉鎖用の微粒子のサイズの上限は、100nmが好ましく、50nmがより好ましく、30nmが更に好ましい。なお、ここで言う微粒子のサイズは平均粒径であり、粒径幅(CV)が15%以下のものを使用するのが好ましい。
限外ろ過膜への孔閉鎖用の微粒子の付加率は、膜面積に対して10%(面積比)以下に設定することが、除粒子性能を向上させつつ、ケーキろ過状態を形成せずに、通水における顕著な差圧上昇を抑制するために好ましい。孔閉鎖用の微粒子の付加率は、0.01%以上、好ましくは0.1%以上、更に好ましくは0.5%を超えた値に設定することができる。孔閉鎖用微粒子の膜面積に対する付加率は、微粒子がそのサイズを直径とする単一球形であり、単層で膜面に付着すると仮定したときの微粒子投影面積の総和の膜面積に対する割合である。
【0018】
微粒子付加率は、限外ろ過膜の膜面に付加された微粒子の数に基づいて以下の式(1)により算出することができる。
微粒子付加率=[微粒子付加量(個数)から得られる膜面上での微粒子の占有面積]/[限外ろ過膜の膜面の面積]×100%・・・・式(1)
微粒子付加量(個数)は、調製用水の微粒子濃度×調製用水の積算通水量(単位時間当たりの通水量×時間)から求めることができ、また、膜面での微粒子の占有面積は以下の式(2)により求めることができる。
微粒子付加量(個数)×各微粒子の膜面上への投影面積・・・式(2)
なお、各球形微粒子の投影面積Sは、S=π(L/2)2(L=球状微粒子の直径)である。
【0019】
なお、孔閉鎖用微粒子のサイズよりも小さな微粒子が調製用水に含まれていても差し支えない。小さな微粒子は、限外ろ過膜を通過して排出される。処理後の限外ろ過膜の除粒子性能に影響を及ぼすことはない。しかし、限外ろ過膜からの処理水中に調製用水中に含まれていた微粒子が流出しないように、使用前に限外ろ過膜の膜中や二次側に付着した小さな微粒子を、洗浄やブロー処理により予め排出することが好ましい。一方、孔閉鎖用のサイズよりも大きな微粒子が調製用水に含まれていても、更に大きな孔を塞ぐことができるので差し支えない。
【0020】
孔閉鎖用微粒子のサイズの特定には、微粒子を取扱う際に当業界において通常用いられているものを利用すればよく、球形であればその直径を用いることができる。
【0021】
限外ろ過膜に孔閉鎖用微粒子を付加するための調製用水は、孔閉鎖用微粒子を水に分散させて調製することができる。調製用水を得るための水は、限外ろ過処理する水のグレードに応じて選択することができる。例えば、限外ろ過処理される水が純水や超純水であれば、調製用水を得るための水として純水や超純水を用いることが好ましい。調製用水中の孔閉鎖用微粒子の濃度は、目的とする膜面積に対する微粒子付加率を得ることができるように設定すればよい。例えば、102〜1015個/ml、好ましくは103〜1013個/mlの範囲から選択することができる。
孔閉鎖用微粒子を含む調製用水の限外ろ過膜への孔閉鎖効果を得るための積算通水量は、目的とする孔閉鎖効果を得ることができるように設定すればよく、上述した付加率が達成できるように、孔閉鎖用微粒子の調製用水中の濃度、通水時間、流速等に基づいて設定することが好ましい。
【0022】
孔閉鎖用微粒子の限外ろ過膜への付加処理による調製は、調製用装置中に限外ろ過膜を設置して、超純水製造装置の限外ろ過膜装置への設置前に予め行うことができる。
【0023】
図1に調製用装置の一例を示す。図1の調製用装置は、限外ろ過膜モジュール1を脱着可能に設置する処理部4、調製用水の貯留槽2−1、貯留槽2−1から処理部4へ調製用水を供給する供給系2−2、処理部4からのろ液を回収系(不図示)に排出する排出系3を有する。供給系2−2は、配管と、配管の途中に配置された弁及びポンプを有する。供給系2−2と切り替え可能に供給系2−4が設けられおり、限外ろ過膜モジュール1への充填液の貯留槽2−3から充填液の供給が可能となっている。
図示した例では、限外ろ過膜モジュール1と供給系2−2とは栓1−1を介して、排出系3とは栓1−2を介して脱着可能に接続されており、調製用水での処理終了後に、栓1−1及び1−2を閉じて充填液を満たした状態で密閉した限外ろ過膜モジュール1を処理部4から取り出し可能となっている。
【0024】
処理部4に限外ろ過膜モジュール1を設置して、供給系2−2及び排出系3と接続させ、栓1−1、1−2を開け、貯留槽2−1から供給系2−2を経て、調製用水を限外ろ過膜モジュール1の一次側1Aへ供給する。二次側1Bからのろ液は排出系3を介して排出される。限外ろ過膜の一次側膜面において目的とする微粒子付加量が得られた時点で調製用水の限外ろ過膜の一次側への供給を停止する。供給系2−2を供給系2−4に切り替え、貯留槽2−3から充填液を限外ろ過膜モジュールに通液する。限外ろ過膜モジュール1内の調製用水を充填液に置き換えた状態で栓1−1及び1−2を閉じて密閉し、処理済み限外ろ過膜モジュールとして、超純水製造装置のサブシステムにおける微粒子除去に用いることができる。
【0025】
充填液は、膜の乾燥を防止するためのものであり、純水やホルマリン(ホルムアミド水溶液)等の薬液を用いることができる。ホルマリン等の薬液は、処理済みの限外ろ過膜モジュールの長期保存用として利用することができ、ホルマリンのホルムアミド濃度としては数千ppm程度とすることができる。充填液として純水を用い、限外ろ過膜モジュールに通水して、二次側1Bに透過した小さい粒子を限外ろ過膜モジュールから排除する洗浄処理を行ってもよい。
【0026】
限外ろ過膜モジュールは、限外ろ過膜を密封可能な容器に収納し、限外ろ過膜装置に着脱可能に設置できる構造を有するカートリッジタイプとすることができる。このカートリッジタイプの限外ろ過膜モジュールに、上述したような調製用装置での調製用水での処理と、充填液の充填及び密封を行い、保管、輸送等を経て超純水製造装置の限外ろ過膜装置に設置して使用することができる。また、膜モジュールは中空糸型の他、チューブラー型、スパイラル型、モノリス型等、種々の膜モジュールを使用することができる。
図1に示す装置における調製用水での処理は、全ろ過処理であるが、限外ろ過膜モジュールを濃縮水取り出し可能な構成とし、限外ろ過膜に対してクロスフローで調製用水を供給して、濃縮水を取り出すろ過条件を採用してもよい。調製用水の濃縮水は、循環系を用いて貯留槽に戻して再利用することもできる。この点は、後述する図2で示す限外ろ過膜装置内での処理においても同様である。
【0027】
本発明にかかる調製方法により微粒子が付加された限外ろ過膜を用いた限外ろ過膜は、例えば、特許文献1に開示されるような超純水製造装置のサブシステムの末端又はその近傍に設けられた限外ろ過膜装置に好適に用いることができる。
【0028】
本発明にかかる被処理水の水処理方法は、限外ろ過膜に、微粒子を含む調製用水を通水して該限外ろ過膜に該微粒子を付加する調製工程と、前記調製工程を行った後、前記限外ろ過膜に被処理水を通水する工程と、を含む。
上記の調製工程は、限外ろ過膜に微粒子を含む調製用水を通水させる第1の装置に限外ろ過膜を装着して、第1の装置に装着した限外ろ過膜に前記調製用水を通水させる工程とすることができる。この第1の装置としては、図1に示す調製装置を用いることができる。
上記の限外ろ過膜に被処理水を通水する工程は、調製工程により第1の装置に装着された限外ろ過膜に調製用水を通水させた後、第1の装置に装着された限外ろ過膜を前記第1の装置から取り外し、第1の装置から取り外した限外ろ過膜を、被処理水から超純水を製造するための第2の装置に装着して、第2の装置に装着された前記限外ろ過膜に被処理水を通水する工程とすることができる。
【0029】
孔閉鎖用微粒子の限外ろ過膜への付加処理による調製は、図2の一実施形態に示すとおり、超純水製造装置の限外ろ過膜装置の前段に調製用装置を付加した形態で行うこともできる。図示した限外ろ過膜装置は、限外ろ過膜モジュール1、被処理水の供給系6、被処理水の貯留槽5、調製用水の貯留槽2、処理された水をユースポイントへ供給するための排出系3A、濃縮水取り出し系3Bを有する。被処理水の限外ろ過膜モジュール1での処理を行う本運転に先だって、切り替えバブルを調節して限外ろ過膜モジュール1と調製用水の供給系とを接続し、濃縮水取り出し系3Bを閉鎖した状態で、貯留槽2の調製用水を限外ろ過膜モジュール1の一次側に供給し、限外ろ過膜への通水を行う。限外ろ過膜に通水した調製用水は、限外ろ過膜装置の二次側に設けた排出系から分岐されたブロー(不図示)から排出される。調製用水中に含まれる微粒子の目的とする付加量が限外ろ過膜の膜面に得られた段階で、調製用水の通水を停止して、調製処理を終了する。調製用水の供給系を、被処理水供給系に切り替え、貯留槽5から被処理水を限外ろ過膜モジュール1に導入して除粒子処理を行う。
なお、調製用水の供給系から被処理水供給系への切り替え時後の所定時間を洗浄処理に利用して、限外ろ過膜モジュール1の二次側に小さな微粒子が透過して存在する場合は、これを洗浄処理によって除去し、別途設けた排出系(不図示)により廃棄してもよい。あるいは、洗浄用の水、例えば超純水を限外ろ過膜モジュール1の一次側に供給するための洗浄水供給系(不図示)を別途設置し、調製用水の供給系から被処理水供給系への切り替え時に、洗浄を行ってから被処理水供給系への切り替えを行ってもよい。
図2における限外ろ過膜装置での本運転において、濃縮水を取り出す場合には濃縮水取り出し系3Bが利用され、全ろ過運転を行う場合には濃縮水取り出し系3Bを閉じればよい。
【0030】
調製対象の限外ろ過膜は、特に限定されるものではなく、上水、工業用水、純水、超純水等の被処理水の種類やろ過目的に応じて選択することができる。特に、超純水システムの末端又はその近傍に設置する限外ろ過膜装置に対して適用することが好ましい。このような限外ろ過膜として、例えば、旭化成ケミカルズ製(OLT-6036H)、日東電工製(NTU-3306-K6R)を、プラント用限外ろ過膜モジュールとして挙げることができる。いずれも分画分子量6000のポリスルホン製中空糸膜モジュールである。
本発明にかかる調製方法により微粒子が付加された限外ろ過膜を用いた限外ろ過膜は、例えば、特許文献1に開示されるような超純水製造装置のサブシステムの末端又はその近傍に設けられた限外ろ過膜装置に好適に用いることができる。
【0031】
図3に、本発明の限外ろ過膜装置を組み込んだ超純水製造装置の一実施形態のフロー図を示す。図3に示す装置は、一次純水システム41とその下流側に接続された二次純水システム42(サブシステム)を有する。
二次純水システム42は、一次純水を貯留する純水貯槽43の下流側に、紫外線酸化装置44(図中UVで示す)、強酸性陽イオン交換樹脂と強塩基性陰イオン交換樹脂との混床による1塔式の非再生型イオン交換装置45(図中CPで示す)、膜脱気装置46(図中MDで示す)、限外ろ過膜装置47(図中UFで示す)を、この順序に通水するように設置したものである。限外ろ過膜装置47として、本発明の限外ろ過膜装置が組み込まれている。限外ろ過膜装置47からの超純水は、ユースポイント48に供給される。二次純水システム42では連続循環運転を行っており、得られた超純水の一部をユースポイント48に送るとともに、残部を純水貯槽43に循環している。なお、紫外線酸化装置44とその後段の非再生型イオン交換装置45との間、非再生型イオン交換装置45とその後段の膜脱気装置46との間、膜脱気装置46とその後段の限外ろ過膜装置47との間には、必要に応じ、他の装置を設置してもよい。
【0032】
また、一次純水システム41としては、目的とする一次純水が得られる構成とすればよく、例えば、前処理システムによって懸濁物質、有機物の一部等が除去された水が導入され、その水の中のイオン、非イオン性物質、溶存ガス等の大部分を除去して一次純水を得るシステムを利用することができる。
本発明にかかる調製方法によって得られる限外ろ過膜における除粒子性能の確認は、微粒子のサイズによって、パーティクルカウンターや、特許文献2及び3に開示の直接測定方法等によって行うことができる。
本発明に調製方法によれば、従来のろ過実績のある限外ろ過膜を用いた場合でも、高性能化及び高信頼化を達成することができる。また、市販の限外ろ過に簡便な方法で調製処理を行うことができるので、限外ろ過膜の設置及び交換にかかるコストを低く抑えることができる。
【0033】
本発明の調製方法によれば、限外ろ過膜に孔閉鎖用の微粒子が付加されていることで、限外ろ過膜の完全性を向上させ、除粒子率を高めることができる。特に、超純水中のsub-50nm微粒子除去に効果を発揮する限外ろ過膜の提供が可能となる。
なお、微粒子を含む超純水を被処理水とする限外ろ過処理において、被処理水の限外ろ過膜への通水開始からある程度の時間経過後に被処理水中に孔閉鎖作用を有する微粒子が含まれている場合には、本発明に係る除粒子性能の向上効果が期待できる。しかし、大きな孔が塞がるまでの時間内ではろ過性能は向上しておらず、しかも、超純水中の微粒子の種類、並びにそのサイズ及び個数に関する分布は超純水の種類やその製造方法等によって変動し、また、限外ろ過膜の種類もろ過目的に応じて設定されるため、大きな孔を塞ぐことによる効果が得られるまの通水時間は通水処理毎に異なる。しかも、工業的に利用される限外ろ過膜の膜面積は非常に大きく、かかる除粒子性能が向上していない状態での通水時間も長くなる。
これに対して、本発明では、予め設定された条件での孔閉鎖用微粒子の限外ろ過膜への付加を確実に行うことで、除粒子性能の向上を再現性よく得ており、通常の微粒子を含む超純水の限外ろ過処理と大きく異なるものである。
【実施例】
【0034】
実施例1
分画分子量6000のポリスルホン製中空糸型限外ろ過膜モジュールの中空糸膜をセットした小型モジュールを作製し、中空糸膜の一次側(外側)から超純水中に粒径10nmと規定された金粒子(金コロイド)試薬(平均粒径10nm、粒径幅(CV)10%未満)を添加、分散させた調製用水を通水し、金粒子の付加率に対する被処理水の微粒子除去率を測定した。調製用水に含まれる金濃度は約1ppbとした。なお、通水はデッドエンド式の全ろ過条件で行った。各時点での積算通水量によって膜面積に対する金粒子の付加率を先に示した式(1)及び(2)により算出した。
限外ろ過膜からの透過液(中空糸膜の内側に透過してくる水)を採取して、透過液中の金濃度をICP-MS分析法により測定した。限外ろ過膜の入口と出口の金濃度から、限外ろ過膜の金粒子の除粒子率(排除率)を求めた(特許文献4参照)。
表1に、金粒子の粒子付加率と、金粒子の除粒子率との関係を示す。金粒子を限外ろ過膜に付加する(粒子付加率が大きくなる)につれて、除粒子率が大きくなった。分画分子量6000の限外ろ過膜は、10nmの粒子を十分に排除することができる(排除率90%以上)。すなわちメインの孔径は10nmよりも小さい。しかし、僅かに金粒子が限外ろ過の二次側にリークするということは、限外ろ過膜には孔径分布があり10nm粒子が通ることができる細孔が少なくとも存在していることを示す(不完全性)。本実施例によって、10nm粒子(金粒子)を限外ろ過膜に付加することで、10nm粒子が通ることができる細孔が閉塞され(粒子付加率が大きくなれば、閉塞される細孔が多くなる)、除粒子率が大きくなることが確認された。金粒子(金コロイド)試薬には粒度分布があり、10nmと規定されていても、10nmよりも大きな粒子が存在する。この大きな粒子は、限外ろ過膜にある10nm粒子が通ることができる細孔を閉塞することができる。また、10nm粒子でも10nm粒子が通ることができる細孔内で捕捉されることもあり、10nm粒子が通ることができる細孔を閉塞することができる。これにより限外ろ過膜に粒子を付加することで、限外ろ過膜の除粒子性能(微粒子の除粒子率)が向上することが確認された。なお、このとき明らかなフラックスの低下は認められなかった。
【0035】
【表1】
【符号の説明】
【0036】
1 限外ろ過膜モジュール1
1−1、1−2 栓
2−1 調製用水の貯留槽
2−2 調製用水の供給系
2−3 充填液の貯留槽
2−4 充填液の供給系
3 排出系
4 処理部
図1
図2
図3