(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
径方向に開口するコイル挿入用開口部を有する複数のスロットと、周方向の側壁に設けられ軸方向に延びる凹部とを有する円環状のステータコアと、前記複数のスロットに収容されるスロット収容部を含むコイルと、前記凹部に配置されるウェッジとを備えるステータの製造方法であって、
前記ステータコアの径方向から前記コイル挿入用開口部を介して前記複数のスロットに前記コイルの前記スロット収容部を挿入する工程と、
前記コイルを挿入する工程の後、熱可塑性樹脂を含み、前記ステータコアの周方向において前記ウェッジの両端部近傍に設けられ前記凹部に係合するとともに前記ステータコアの軸方向の一方側から見て前記コイルに向かって凸状でかつ弧状に形成された外周面を有する一対の係合部と、前記ステータコアの周方向において前記ウェッジの中央部に設けられ、加熱変形可能な変形部とを含む前記ウェッジを加熱変形させながら、前記ウェッジを前記ステータコアの径方向一方側から前記コイル挿入用開口部を介して径方向他方側に移動させることにより、前記ステータコアの径方向から見て前記コイル挿入用開口部の少なくとも一部を塞ぐように、前記ウェッジを前記凹部に係合させる工程とを備える、ステータの製造方法。
前記ウェッジを前記凹部に配置する工程に先立って、前記ステータコアの周方向における前記コイル挿入用開口部の周方向幅未満の第1の周方向幅を有する前記ウェッジを形成する工程をさらに備え、
前記ウェッジを前記凹部に係合させる工程は、前記ウェッジの幅方向を前記ステータコアの周方向に沿うように配置し、前記ウェッジの周方向幅が前記第1の周方向幅を有する状態から、前記コイル挿入用開口部の周方向幅よりも大きい第2の周方向幅を有する状態に変化するように前記ウェッジを加熱変形させながら、前記ウェッジを前記凹部に係合させる工程である、請求項5に記載のステータの製造方法。
前記ウェッジを前記凹部に係合させる工程は、前記ウェッジを前記ステータコアの径方向一方側から加熱しながら押圧して、前記一対の係合部が前記コイルにより前記凹部にガイドされることにより、前記一対の係合部と前記凹部とを係合させるように、前記ウェッジを前記凹部に係合させる工程である、請求項7に記載のステータの製造方法。
前記ウェッジを前記凹部に係合させる工程は、前記変形部が前記ステータコアの径方向一方側に突出するように配置された屈曲形状を有する前記ウェッジの前記変形部を、前記ステータコアの径方向一方側から加熱しながら押圧することにより、前記ウェッジの前記一対の係合部が前記ステータコアの周方向に広げられた状態に変化するように前記変形部を加熱変形させながら、前記ウェッジを前記凹部に係合させる工程である、請求項7または8に記載のステータの製造方法。
前記ウェッジを前記凹部に係合させる工程の後、前記ウェッジへの加熱を完了することにより、前記ウェッジの前記一対の係合部が前記凹部に係合した状態の前記ウェッジの形状を固定する工程をさらに備える、請求項7〜9のいずれか1項に記載のステータの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
[第1実施形態]
(ステータの構造)
図1〜
図7を参照して、第1実施形態によるステータ10について説明する。ステータ10は、ロータ20を備える回転電機100の一部を構成する。回転電機100は、たとえば、モータまたはジェネレータとして構成されている。なお、本願明細書では、「軸方向」は、ステータ10(回転電機100)の軸線Cに沿った方向(矢印Z方向)を意味する。また、「径方向」は、ステータ10の径方向(半径方向:矢印R方向)を意味する。また、「径方向内側」は、ステータ10の径方向内側を意味し、「径方向外側」は、ステータ10(ステータコア11)の径方向外側を意味する。また、「周方向」は、ステータ10(ステータコア11)の周方向(矢印A方向)を意味する。
【0017】
図1に示すように、ステータ10(ステータコア11)は、ロータ20の外周面と半径方向に対向するように配置されている。ステータコア11には、複数のスロット12が設けられている。また、スロット12を挟むように、複数のティース13が設けられている。また、
図2に示すように、ステータ10は、スロット12に配置されたコイル30およびウェッジ40を含む。
【0018】
スロット12は、
図3に示すように、径方向内側に開口するとともに、コイル30がスロット12に径方向内側から挿入される際に通過する開口部12aを有する。なお、開口部12aは、請求の範囲の「コイル挿入用開口部」の一例である。
【0019】
また、スロット12は、径方向内側のスロット12の部分12bと、径方向外側のスロット12の部分12cとを有する。また、ステータコア11は、部分12bの径方向内側で、かつ、ティース13の周方向の両側の側壁12dにそれぞれ設けられ、ステータコア11の軸方向に延びる一対のウェッジ挿入溝12eを含む。そして、周方向において、部分12bの幅W1よりも、部分12cの幅W2が大きい。また、一対のウェッジ挿入溝12eの底部12f同士の距離D1の大きさは、部分12bの幅W1よりも大きく、かつ、開口部12aの幅W3よりも大きい。なお、幅W1と幅W3は、略等しい。なお、ウェッジ挿入溝12eは、請求の範囲の「凹部」の一例である。また、ティース13の周方向の両側の側壁12dは、請求の範囲の「周方向の側壁」の一例である。
【0020】
詳細には、ウェッジ挿入溝12eは、軸方向の一方側から見て、弧状を有するように構成されている。そして、ウェッジ挿入溝12eに、後述するウェッジ40の係合部41が嵌り込むことにより、ウェッジ挿入溝12eは、係合部41に係合するように構成されている。また、ウェッジ挿入溝12eと開口部12aとは、周方向の幅が径方向内側に向かってD1からW3に変化する段差を構成する。これにより、ウェッジ40が開口部12aから径方向内側に脱離するのが防止される。
【0021】
また、スロット12の径方向外側の部分12cと径方向内側の部分12bとの境界に、後述するコイル30の第2収容部34をスロット12に挿入する工程の際に、一対のスロット収容部31のうちの第1収容部33が径方向内側に移動するのを規制する段差部12gが設けられている。なお、
図4に示すように、スロット12の径方向外側の部分12cには、一対のスロット収容部31のうちの第1収容部33が配置される。また、スロット12の径方向内側の部分12bには、径方向外側の部分12cに配置されるコイル30とは異なるコイル30の一対のスロット収容部31のうちの第2収容部34が配置される。
【0022】
コイル30は、
図4に示すように、丸線30aが複数巻回されることにより形成されている。そして、
図5に示すように、コイル30は、ステータコア11のスロット12に収容される一対のスロット収容部31と、一対のスロット収容部31を接続する一対のコイルエンド部32とを含む。そして、
図4に示すように、コイル30は、軸方向から見て、一対のスロット収容部31のうちの第1収容部33がスロット12の径方向外側に配置されている。また、第2収容部34が、第1収容部33が配置されるスロット12から周方向に所定の数のスロット12の分、離れたスロット12(
図12参照)に配置されている。すなわち、コイル30は、2層重ね巻きコイルとして形成されている。
【0023】
また、第1収容部33は、軸方向から見て、略矩形形状を有する。そして、第1収容部33の径方向内側の面33aには、径方向外側に窪むコイル凹部33bが設けられている。そして、第2収容部34は、径方向外側に突出するとともに、第1収容部33のコイル凹部33bに嵌るコイル凸部34aが設けられている。また、第2収容部34には、径方向内側に突出するとともに、後述するウェッジ40のウェッジ凹部40aに嵌るコイル凸部34bが設けられている。そして、第2収容部34の周方向の面34cとコイル凸部34bとは、滑らかに接続されており、この部分がウェッジ40をウェッジ挿入溝12eにガイドするガイド部35を構成する。
【0024】
また、
図5に示すように、コイル30には、一対のスロット収容部31と、一対のコイルエンド部32とを覆うように、シート状の絶縁部材36が取り付けられている。また、絶縁部材36は、たとえば、PEN(polyethylene naphthalate)フィルムからなる芯材と、芯材の両面を覆うように設けられるアラミド繊維からなる表面部材とからなる。
【0025】
ここで、第1実施形態では、
図6に示すように、ウェッジ40は、ステータコア11の径方向内側から見て開口部12aを塞ぐようにウェッジ挿入溝12eに配置されており、熱可塑性樹脂を含む。また、ウェッジ40の軸方向の大きさL1は、ステータコア11の軸方向の大きさのL2に略同一である。
【0026】
具体的には、
図7に示すように、ウェッジ40は、周方向においてウェッジ40の両端部近傍に設けられウェッジ挿入溝12eに係合する一対の係合部41と、周方向においてウェッジ40の中央部に設けられ、加熱変形可能な変形部42とを含む。
【0027】
詳細には、第1実施形態では、ウェッジ40は、2色成形により形成されている。ウェッジ40は、変形部42を構成する第1樹脂部分43と、第1樹脂部分43の周方向両側に設けられ、軟磁性を有する材料を含む第2樹脂部分44とにより構成されている。
【0028】
第1樹脂部分43は、たとえば、PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)などの熱可塑性樹脂により構成されている。これにより、第1樹脂部分43は、加熱(たとえば、280℃以上に加熱)された場合に、軟化して変形可能に構成されている。すなわち、第1樹脂部分43は、融点が280℃未満の熱可塑性樹脂を含む。なお、第1樹脂部分43には、軟磁性を有する材料は含有されていない。
【0029】
第2樹脂部分44は、熱硬化性樹脂に軟磁性を有する材料(たとえば、鉄粉)が含有されている。これにより、第2樹脂部分44は、樹脂成型可能であるとともに、磁束を通すことが可能に構成されている。周方向一方側の第2樹脂部分44と周方向他方側の第2樹脂部分44は、第1樹脂部分43を介して離間して配置されている。これにより、第1樹脂部分43は、磁気的なギャップとして機能して、コイル30の径方向内側を周方向に横切るように磁束が通過することが防止されている。
【0030】
また、第1樹脂部分43の周方向に沿った方向の幅W4は、周方向一方側の第2樹脂部分44の幅W5および周方向他方向側の第2樹脂部分44の幅W5よりも大きい。たとえば、幅W4は、ウェッジ40の幅W3の約2分の1の大きさである。
【0031】
また、第1実施形態では、第1樹脂部分43の径方向の厚みt1は、第2樹脂部分44の径方向の厚みt2よりも小さい。すなわち、変形部42の厚みt1は、係合部41の厚みt2よりも小さい。すなわち、ウェッジ40は、周方向の中央部の厚みが比較的薄く、周方向の両端部側の部分の厚みが比較的厚く構成されている。なお、厚みt1は、第1樹脂部分43のうちの最も薄い部分の厚みを意味するものとし、厚みt2は、第2樹脂部分44のうちの最も厚い部分の厚みを意味するものとする。
【0032】
また、ウェッジ40の径方向内側のスロット12の開口部12aを塞ぐ部分の周方向の幅はW3である。また、ウェッジ40の係合部41の周方向の両端部同士の距離でありウェッジ40の幅W6は、幅W3よりも大きい。そして、第1実施形態では、ウェッジ40の一対の係合部41の外周面41aは、軸方向の一方側から見て、弧状(たとえば、円弧状)を有するように形成されている。すなわち、係合部41は、ウェッジ挿入溝12eおよびコイル30のガイド部35(
図13参照)に対応する形状を有するように構成されている。なお、幅W6は、請求の範囲の「第2の周方向幅」の一例である。また、「幅W6」および後述する「幅W7」は、最端部同士の距離を意味するものとして記載している。
【0033】
また、ウェッジ40の径方向内側の面45は、ステータコア11(ティース13)の径方向内側の面13a(
図4参照)と径方向位置が略同一(面一)になるように配置されている。また、ウェッジ40の径方向外側の面46は、径方向内側に窪むとともに、コイル凸部34bに嵌るウェッジ凹部40aを構成する。
【0034】
(ステータの製造方法)
次に、
図5、
図6、
図8〜
図16を参照して、ステータ10の製造方法について説明する。
【0035】
〈ウェッジを形成する工程〉
ここで、第1実施形態におけるステータ10の製造方法では、ウェッジ40を形成する工程が行われる。ウェッジ40を形成する工程は、後述するウェッジ40をウェッジ挿入溝12eに配置する工程に先立って行われる。具体的には、
図8に示すように、ウェッジ40を形成する工程において、スロット12の開口部12aの幅W3以下の幅W7を有するウェッジ40が形成される。なお、
図8では、幅W7を幅W3と等しい大きさに図示しているが、幅W7は幅W3以下であればよい。また、幅W7は、請求の範囲の「第1の周方向幅」の一例である。
【0036】
詳細には、第1実施形態では、ウェッジ40を形成する工程において、ウェッジ挿入溝12eに係合される一対の係合部41と一対の係合部41の間に設けられ加熱変形可能な変形部42とを含むとともに、一対の係合部41と変形部42とが屈曲形状を構成するウェッジ40が形成される。言い換えると、周方向の中央部の変形部42が径方向内側に突出するとともに、周方向の両端部側の一対の係合部41が径方向外側に突出する、屈曲形状を有するウェッジ40が形成される。
【0037】
具体的には、2色成型によりウェッジ40が形成される。まず、PPSなどの熱可塑性樹脂を含む樹脂材料(第1樹脂部分43の材料)が準備される。また、熱硬化性樹脂に磁性を有する材料(たとえば、鉄粉)が含有された樹脂材料(第2樹脂部分44の材料)が準備される。そして、変形部42を構成する第1樹脂部分43が成形された後に第1樹脂部分43の両側に、一対の係合部41を構成する第2樹脂部分44が形成される。なお、第1樹脂部分43には、磁性を有する材料を含有しないことが好ましい。
【0038】
〈コイルを形成する工程〉
図5に示すように、丸線30aを巻回することにより、コイル30が形成される。具体的には、図示しない巻枠に丸線30aが複数回巻回される。そして、コイル30の少なくとも一対のスロット収容部31を覆うように、コイル30に絶縁部材36が取り付けられる。具体的には、一対のスロット収容部31と、コイルエンド部32とを覆うように、コイル30に絶縁部材36が取り付けられる。また、絶縁部材36は、コイル30を覆った状態で、環形状(六角形形状)を有する。
【0039】
〈コイルをスロットに挿入する工程〉
次に、コイル30をスロット12に挿入する工程が行われる。まず、
図9に示すように、電磁鋼板が軸方向に沿って積層されることにより形成されたステータコア11が形成される。また、
図10に示すように、ステータコア11のスロット12に対応するように設けられる溝部51を有するコイル挿入冶具50が準備される。
【0040】
そして、
図11に示すように、コイル挿入冶具50の溝部51がスロット12に対向するように、コイル挿入冶具50がステータコア11の径方向内側に配置される。そして、一対のスロット収容部31のうちの第1収容部33をスロット12の径方向外側の部分12cに配置するとともに、第2収容部34を溝部51に配置する。なお、スロット12(溝部51)と同じ数の分のコイル30が、スロット12および溝部51に配置される。
【0041】
そして、
図12に示すように、コイル挿入冶具50とステータコア11とを周方向に相対的に移動させる(回転させる)ことにより、コイル30が変形される。これにより、
図11に示すように、コイル挿入冶具50の移動前(回転前)において、第1収容部33に対して径方向に対向するように配置されていた第2収容部34が、所定のスロット12の数の分、周方向に移動される。なお、
図11および
図12では、コイル凹部33b、コイル凸部34aおよび34bの図示は省略している。
【0042】
そして、コイル30の第2収容部34が、第1収容部33が配置されたスロット12から周方向に離れた位置に位置するスロット12に挿入される。具体的には、第2収容部34が徐々に径方向外側に移動される。これにより、第2収容部34が溝部51から開口部12aを介して径方向内側からスロット12の径方向内側の部分12bに挿入される。
【0043】
〈ウェッジをウェッジ挿入溝に配置する工程〉
次に、第1実施形態におけるステータ10の製造方法では、ウェッジ40をウェッジ挿入溝12eに配置する工程が行われる。ウェッジ40をウェッジ挿入溝12eに配置する工程では、熱可塑性樹脂を含むウェッジ40を加熱変形させながら、ウェッジ40をステータコア11の径方向内側から開口部12aを介して径方向外側に移動させることにより、ステータコア11の径方向内側から見て開口部12aを塞ぐように、ウェッジ40がウェッジ挿入溝12eに配置される。
【0044】
具体的には、
図13に示すように、第1実施形態では、軸方向の一方側から見て、屈曲形状を有するようにウェッジ40が、各スロット12の開口部12aに配置される。言い換えると、ウェッジ40の幅方向がステータコア11の周方向に沿うように、ウェッジ40が各スロット12の開口部12aに配置される。たとえば、ウェッジ40がウェッジ配置冶具60により開口部12aに配置される。ウェッジ配置冶具60は、径方向に沿って延びる溝部61を有し、溝部61を介してウェッジ40が開口部12aに配置される。
【0045】
そして、
図14に示すように、ステータコア11の径方向内側に、円柱形状(ロッド形状)のヒータ71と、断熱部72と、ヒータ保持部73とを含む、加熱押圧装置70が配置される。たとえば、
図15に示すように、ヒータ71は、リード線71aを介して供給された電力を用いて、約280℃に加熱される。断熱部72は、ヒータ71の熱が加熱押圧装置70の他の部分に伝達するのを抑制する。ヒータ保持部73は、ヒータ71および断熱部72を保持した状態で、ステータコア11に対して径方向(矢印B方向)および周方向(矢印A方向)に移動可能である。
【0046】
そして、
図16に示すように、ウェッジ40が加熱押圧装置70によりステータコア11の径方向内側から加熱されながら押圧される。これにより、ウェッジ40の第1樹脂部分43の変形部42のみが軟化されて、ウェッジ40が加熱変形されるとともに、ウェッジ40の一対の係合部41がコイル30のガイド部35によりコイル30に対して周方向外側のウェッジ挿入溝12e側に移動される。そして、一対の係合部41同士の距離が周方向に離れることにより、ウェッジ40が屈曲形状した状態から屈曲形状のウェッジ40が周方向に広がった状態に変化して、ウェッジ40の幅が幅W7(W3)よりも大きくなる。なお、一対の係合部41は、鉄粉を含むとともに、コイル30やティース13に接触するため、一対の係合部41は、変形部42に比べて低い温度となる。
【0047】
そして、ウェッジ40の一対の係合部41がウェッジ挿入溝12eに嵌り、係合される。そして、ウェッジ40の幅が、一対の係合部41がウェッジ挿入溝12eに係合した状態で、開口部12aの幅W3よりも大きく、かつ、ウェッジ挿入溝12e同士の距離D1に略等しい幅W6を有する状態に変化する。
【0048】
その後、加熱押圧装置70とステータコア11とが周方向にスロット12の1つ分、相対的に移動される。そして、加熱押圧装置70によりウェッジ40が、上記したように径方向内側から開口部12aを介して、ウェッジ挿入溝12eに挿入して配置される。この動作が繰り返され、
図1に示すように、各スロット12の開口部12aに配置されたウェッジ40の全てが、径方向内側から見て、開口部12aを塞ぐようにウェッジ挿入溝12eに配置される。
【0049】
〈ウェッジを固定する工程〉
次に、ウェッジ40をウェッジ挿入溝12eに配置する工程の後、ウェッジ40への加熱を完了(停止)することにより、ウェッジ40の一対の係合部41がウェッジ挿入溝12eに係合した状態のウェッジ40の形状を固定する工程が行われる。すなわち、軟化していたウェッジ40の変形部42に含まれる熱可塑性樹脂の温度が低下することにより、ウェッジ40が硬化される。言い換えると、屈曲形状が広がり、幅W6を有するとともに一対の係合部41がウェッジ挿入溝12eに係合した状態で、ウェッジ40が硬化して、ウェッジ40の形状が固定される。これにより、ウェッジ40が開口部12aを介して径方向内側に脱離されるのが防止されるとともに、ウェッジ40により、コイル30が開口部12aを介して径方向内側に脱離されるのが防止される。
【0050】
[第2実施形態]
図1および
図17を参照して、第2実施形態によるステータ210について説明する。第2実施形態によるステータ210では、第1樹脂部分43と第2樹脂部分44とにより2色成形により構成されていた第1実施形態によるウェッジ40とは異なり、第1樹脂243からなるウェッジ240を備える。なお、上記第1実施形態と同一の構成については、図中において同じ符号を付して図示し、その説明を省略する。
【0051】
第2実施形態では、
図1に示すように、ステータ210は、ウェッジ240を備える。
図17に示すように、ウェッジ240は、熱可塑性樹脂を含む第1樹脂243からなる。すなわち、ウェッジ240の第1樹脂243は、周方向の中央部の変形部242と、周方向の両端部近傍の一対の係合部241との両方を含む。これにより、ウェッジ240を2色成形する場合に比べて、ウェッジ240を容易に形成することが可能となる。また、ウェッジ240は、第1実施形態のウェッジ40と同様に、周方向に幅W10を有するとともに、屈曲形状を有するように形成される。そして、屈曲形状を有するウェッジ240は、ウェッジ240がウェッジ挿入溝12eに配置される際に、変形部242が加熱変形されて、ウェッジ240が幅W11(距離D1と略等しい)を有する状態に変形される。なお、ステータ210のその他の構成および製造方法は、上記第1実施形態のステータ10の構成および製造方法と同様である。また、幅W10は、請求の範囲の「第1の周方向幅」の一例である。また、幅W11は、請求の範囲の「第2の周方向幅」の一例である。
【0052】
[第3実施形態]
図18〜
図20を参照して、第3実施形態によるステータ310について説明する。第3実施形態によるステータ310には、ウェッジ340同士をステータコア11の周方向に互いに連結する連結部350が設けられている。なお、上記第1または第2実施形態と同一の構成については、図中において同じ符号を付して図示し、その説明を省略する。
【0053】
第3実施形態では、
図18に示すように、ステータ310は、ステータコア11の軸方向の両側に配置され、複数のウェッジ340同士をステータコア11の周方向に互いに連結する連結部350を備える。具体的には、連結部350は、複数のウェッジ340と一体的に構成されており、軸方向の一方側から見て、円環状(
図20参照)を有する。ウェッジ340は、第1実施形態によるウェッジ40または第2実施形態によるウェッジ240と同様に構成されている。そして、連結部350は、熱可塑性樹脂により構成されていてもよいし、熱硬化性樹脂により構成されていてもよい。たとえば、連結部350の径方向の厚みt11は、ウェッジ340の変形部342の厚みt12と略等しい。なお、ステータ310のその他の構成は、上記第1実施形態のステータ10の構成と同様である。
【0054】
(第3実施形態のステータの製造方法)
第3実施形態では、
図20に示すように、複数の屈曲形状を有するウェッジ340と連結部350とが一体的に形成される。そして、複数のウェッジ340が連結部350により連結された状態で、ステータコア11の径方向内側に配置された後、第1実施形態のステータ10の製造方法と同様に、加熱押圧装置70(
図14および
図15参照)により各々のウェッジ340がウェッジ挿入溝12eに挿入される。なお、ステータ310のその他の製造方法は、上記第1実施形態のステータ10の製造方法と同様である。
【0055】
[第1〜第3実施形態の構造の効果]
上記第1〜第3実施形態では、ウェッジ(40、240、340)を、熱可塑性樹脂を含むように構成する。これにより、ウェッジ(40、240、340)を加熱することにより、ウェッジ(40、240、340)の周方向の幅を変化させることができる。その結果、ウェッジ(40、240、340)をコイル挿入用開口部(12a)の周方向の幅よりも小さく形成することにより、コイル挿入用開口部(12a)を介してウェッジ(40、240、340)をスロット(12)に径方向から挿入することができるとともに、挿入中または挿入後に、ウェッジ(40、240、340)を加熱変形させてウェッジ(40、240、340)の周方向の幅をコイル挿入用開口部(12)の周方向の幅よりも大きくして、ウェッジ(40、240、340)を凹部(12e)に係合させることができる。この結果、ウェッジ(40、240、340)を加熱変形させずに軸方向に沿って移動させてウェッジ(40、240、340)を凹部(12e)に係合させる場合と異なり、スロット(12)に対するコイル(30)の占積率を高めて、ステータコア(11)の軸方向の長さを比較的大きく構成した場合にも、ウェッジ(40、240、340)とコイル(30)とが軸方向に摩擦することを防止することができる。その結果、スロット(12)に対するコイル(30)の占積率を高めた場合にも、コイル(30)に負荷を与えることなく、ウェッジ(40、240、340)をスロット(12)の凹部(12e)に容易に配置することができる。
【0056】
また、上記第1〜第3実施形態では、ウェッジ(40、240、340)は、ステータコア(11)の周方向においてウェッジ(40、240、340)の両端部近傍に設けられ凹部(12e)に係合する一対の係合部(41、241、341)と、ステータコア(11)の周方向においてウェッジ(40、240、340)の中央部に設けられ、加熱変形可能な変形部(42、242、342)とを含む。このように構成すれば、ウェッジ(40、240、340)の一対の係合部(41、241、341)をコイル挿入用開口部(12a)を通過させた後に、ウェッジ(40、240、340)の中央部を加熱変形することにより、一対の係合部(41、241、341)を移動させて容易に凹部(ウェッジ挿入溝)(12e)に係合させることができる。
【0057】
また、上記第1〜第3実施形態では、ステータコア(11)の径方向において、変形部(42、242、342)の径方向厚み(t1、t12)は、一対の係合部(41、241、341)の径方向厚み(t2)よりも小さい。このように構成すれば、変形部(42、242、342)の径方向厚み(t1、12)が小さい分、変形部(42、242、342)を容易に加熱変形させることできるとともに、一対の係合部(41、241、341)の径方向厚み(t2)が比較的大きい分、一対の係合部(41、241、341)の凹部(12c)に対する接触面積を大きくすることができるので、係合強度を大きくすることができる。また、一対の係合部(41、241、341)の径方向厚みが大きい分、一対の係合部(41、241、341)の機械的強度を大きくすることができる。
【0058】
また、上記第1〜第3実施形態では、ウェッジ(40、240、340)は、ステータコア(11)の軸方向の一方側から見て、一対の係合部(41、241、341)の外周面(41a)が弧状を有するように形成されている。このように構成すれば、ウェッジ(40、240、340)を樹脂成型により容易に形成することができるとともに、変形部(42、242、342)を加熱変形させた際に、弧状を有する一対の係合部(41、241、341)の外周面(41a)が、コイル(30)やスロット(12)の凹部(12e)以外の側壁(12d)の部分に引っ掛かるのを防止することができる。これにより、ウェッジ(40、240、340)をスロット(12)の凹部(12e)により容易に配置することができる。
【0059】
また、上記第1または第3実施形態では、ウェッジ(40、340)は、変形部(42、342)を構成する第1樹脂(43、243)と、一対の係合部(41、341)を構成するとともに磁性を有する材料を含む第2樹脂(44)とにより、一体的に形成されている。このように構成すれば、一対の係合部(41、341)が配置されている部分に磁束を通すことができるので、ステータ(10、310)の磁気特性を向上させることができる。
【0060】
また、上記第3実施形態では、ステータコア(11)の軸方向の一方側に配置され、複数のウェッジ(340)同士をステータコア(11)の周方向に互いに連結する連結部(341)をさらに備える。このように構成すれば、複数のウェッジ(340)を一体的に形成することができるので、ウェッジ(340)を形成する工程数を削減することができる。
【0061】
[第1〜第3実施形態の製造方法の効果]
上記第1〜第3実施形態では、熱可塑性樹脂を含むウェッジ(40、240、340)を加熱変形させながら、ウェッジ(40、240、340)をステータコア(11)の径方向一方側からコイル挿入用開口部(12a)を介して径方向他方側に移動させる。これにより、ウェッジ(40、240、340)を加熱変形させずに軸方向に沿って移動させてウェッジ(40、240、340)を凹部(12e)に係合させる場合と異なり、スロット(12)に対するコイル(30)の占積率を高めて、ステータコア(11)の軸方向の長さを比較的大きく構成した場合にも、ウェッジ(40、240、340)とコイル(30)とが軸方向に摩擦することを防止することができる。その結果、スロット(12)に対するコイル(30)の占積率を高めた場合にも、コイル(30)に負荷を与えることなく、ウェッジ(40、240、340)をスロット(12)の凹部(12e)に容易に配置することが可能なステータ(10、210、310)の製造方法を提供することができる。
【0062】
また、上記第1〜第3実施形態では、ウェッジ(40、240、340)を凹部(12e)に係合させる工程に先立って、ステータコア(11)の周方向におけるコイル挿入用開口部(12a)の幅未満の第1の周方向幅(W7、W10)を有するウェッジ(40、240、340)を形成する工程をさらに備え、ウェッジ(40、240、340)を凹部(12e)係合させる工程は、ウェッジ(40、240、340)の幅方向をステータコア(11)の周方向に沿うように配置し、ウェッジ(40、240、340)の幅が第1の周方向幅(W7、W10)を有する状態から、コイル挿入用開口部(12a)の幅(W3)よりも大きい第2の周方向幅(W6、W11)を有する状態に変化するようにウェッジ(40、240、340)を加熱変形させながら、ウェッジ(40、240、340)を凹部(12e)に係合させる工程である。このように構成すれば、一旦、ウェッジ(40、240、340)の幅を小さくするための変形を行うことなく、形成された状態のウェッジ(40、240、340)を、コイル挿入開口部(12a)に通過させて移動させることができる。その結果、ウェッジ(40、240、340)の幅を小さくするための変形が不要な分、ステータ(10、210、310)の組立工程の工程数が増加するのを防止することができる。
【0063】
また、上記第1〜第3実施形態では、ウェッジ(40、240、340)を形成する工程は、凹部(12e)に係合される一対の係合部(41、241、341)と一対の係合部(41、241、341)の間に設けられ加熱変形可能な変形部(42、242、342)とを含むとともに、一対の係合部(41、241、341)と変形部(42、242、342)とが屈曲形状を構成するウェッジ(40、240、340)を形成する工程であって、ウェッジ(40、240、340)を凹部(12e)に係合させる工程は、ステータコア(11)の軸方向の一方側から見て屈曲形状を有するようにウェッジ(40、240、340)をステータコア(11)の径方向一方側に配置した状態から、ウェッジ(40、240、340)の一対の係合部(41、241、341)がステータコア(11)の周方向に広げられた状態に変化するようにウェッジ(40、240、340)を加熱変形させながら、ウェッジ(40、240、340)を径方向他方側に移動させることによりウェッジ(40、240、340)を凹部(12e)に係合させる工程である。このように構成すれば、屈曲形状のウェッジ(40、240、340)をステータコア(11)の周方向に広げることにより、ウェッジ(40、240、340)の幅を容易に第1の周方向幅(W7、W10)から第2の周方向幅(W6、W11)に変化させることができるとともに、一対の係合部(41、241、341)を凹部(12e)に容易に係合させて、ウェッジ(40、240、340)を凹部(12e)(スロット:12)に係合させることができる。
【0064】
また、上記第1〜第3実施形態では、ウェッジ(40、240、340)を凹部(12e)に係合させる工程は、ウェッジ(40、240、340)をステータコア(11)の径方向内一方側から加熱しながら押圧して、一対の係合部(41、241、341)がコイル(30)により凹部(12e)にガイドされることにより、一対の係合部(41、241、341)と凹部(12e)とを係合させるように、ウェッジ(40、240、340)を凹部(12e)に係合させる工程である。このように構成すれば、コイル(30)により一対の係合部(41、241、341)が凹部(12e)にガイドされるので、一対の係合部(41、241、341)と凹部(12e)とを係合させるための専用の冶具を設けることなく、一対の係合部(41、241、341)と凹部(12e)とを係合させることができる。その結果、ステータ(10、210、310)の製造装置の構成が複雑化するのを防止することができる。
【0065】
また、上記第1〜第3実施形態では、ウェッジ(40、240、340)を凹部(12e)に係合させる工程は、変形部(42、242、342)がステータコア(11)の径方向一方側に突出するように配置された屈曲形状を有するウェッジ(40、240、340)の変形部(42、242、342)を、ステータコア(11)の径方向一方側から加熱しながら押圧することにより、ウェッジ(40、240、340)の一対の係合部(41、241、341)がステータコア(11)の周方向に広げられた状態に変化するように変形部(42、242、342)を加熱変形させながら、ウェッジ(40、240、340)を凹部(12e)に係合させる工程である。このように構成すれば、変形部(42、242、342)を加熱変形させることにより、一対の係合部(41、241、341)を加熱変形させることなく一対の係合部(41、241、341)を移動させることができる。その結果、一対の係合部(41、241、341)の形状が崩れるの(変形する)を防止しながら、一対の係合部(41、241、341)を凹部(12e)に係合させることができる。
【0066】
また、上記第1〜第3実施形態では、ウェッジ(40、240、340)を凹部(12e)に係合させる工程の後、ウェッジ(40、240、340)への加熱を完了することにより、ウェッジ(40、240、340)の一対の係合部(41、241、341)が凹部(12e)に係合した状態のウェッジ(40、240、340)の形状を固定する工程をさらに備える。このように構成すれば、ウェッジ(40、240、340)の形状が固定されるので、ウェッジ(40、240、340)が変形して凹部(12e)から脱離するのを防止することができる。
【0067】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく請求の範囲によって示され、さらに請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0068】
たとえば、上記第1〜第3実施形態では、ウェッジを、熱可塑性樹脂としてPPSを含むように構成する例を示したが、本発明はこれに限られない。すなわち、ウェッジをPPS以外の熱可塑性樹脂を含むように構成してもよい。
【0069】
また、上記第1〜第3実施形態では、磁性を有する材料として鉄粉を係合部に含むようにウェッジを構成する例を示したが、本発明はこれに限られない。すなわち、係合部に鉄粉以外の磁性を有する材料を含むようにウェッジを構成してもよい。
【0070】
また、上記第1〜第3実施形態では、ウェッジを2色成型により形成する場合と、1つの樹脂材料により形成する場合とを示したが、本発明はこれに限られない。すなわち、ウェッジを3色以上の多色成形を行って形成してもよい。
【0071】
また、上記第1〜第3実施形態では、複数のウェッジをウェッジ挿入溝に1つずつ挿入する例を示したが、本発明はこれに限られない。すなわち、複数のウェッジをウェッジ挿入溝に同時に挿入してもよい。
【0072】
また、上記第1〜第3実施形態では、屈曲形状を有するウェッジを形成する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、屈曲形状を有しないウェッジを形成した後に、屈曲形状に加熱変形しながらウェッジをウェッジ挿入溝に挿入し、その後、屈曲形状を広げるように加熱変形しながらウェッジをウェッジ挿入溝に配置してもよい。
【0073】
また、上記第1〜第3実施形態では、スロットの開口部を、径方向内側に設ける例(インナーロータ型の回転電機に適用する例)を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、スロットの開口部を、径方向外側に開口するように形成して、アウターロータ型の回転電機を構成してもよい。この場合、ウェッジは、径方向外側から径方向内側に向かって移動されることにより、スロットに挿入される。
【0074】
また、上記第1〜第3実施形態では、ウェッジがスロットに配置された状態で、スロットの開口部全体を塞ぐようにウェッジを構成する例を示したが、本発明はこれに限られない。すなわち、ウェッジは開口部の少なくとも一部を塞いでいればよく、たとえば、ウェッジの変形部の一部に軸方向の孔を設けて、その孔を介して径方向一方側から見た場合に、コイルが見えるように、開口部の一部をウェッジにより塞いでもよい。