(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明を実施するための各実施の形態について説明する。なお、
以下では本発明の目的を達成するための説明に必要な範囲を模式的に示し、本発明の該当
部分の説明に必要な範囲を主に説明することとし、説明を省略する箇所については公知技
術によるものとする。
【0011】
本発明の一実施の形態に係る機械学習装置、データ処理システム、推論装置及び機械学
習方法を説明する前に、以下には先ず機械学習装置等が適用される流体圧駆動弁について
説明を行う。
【0012】
(流体圧駆動弁)
図1は、本発明の一実施の形態に係る流体圧駆動弁10の一例を示す概略図である。本
実施の形態における流体圧駆動弁10としては、例えば、プラント設備において各種のガ
スや石油等が流れる配管100に設置され、プラント設備に異常等が発生した緊急停止時
に、配管100の流れを遮断するための緊急遮断弁として用いることができる。なお、流
体圧駆動弁10の設置場所や用途は、上記の例に限られない。
【0013】
図1に示す流体圧駆動弁10は、配管100の途中に配置される主弁11と、主弁11
に連結された弁軸13を駆動流体の流体圧に応じて駆動させることで主弁11の開閉操作
を行う流体圧式の駆動装置12と、駆動装置12に対して駆動流体の給排を制御する機能
を有する電磁弁1とを備えている。
【0014】
この流体圧駆動弁10に用いられる駆動流体には、計装空気(以下、単に「空気」とい
う)Aが採用されている。この空気Aは空気供給源14から第1の空気配管140を介し
て電磁弁1に供給され、さらに、第2の空気配管141を介して駆動装置12に供給され
る。また、流体圧駆動弁10には、外部装置15及び電磁弁1の間で各種のデータを送受
信するための通信ケーブル150と、外部電源16から電磁弁1に電力を供給するための
電力ケーブル160とが接続されている。なお、駆動流体としては、上記の空気Aに限ら
れず、他の気体でも液体(例えば、油)でもよい。
【0015】
外部装置15は、流体圧駆動弁10との間で各種情報を送受信するための装置であって
、例えば、プラント管理用のコンピュータ(ローカルサーバ及びクラウドサーバを含む。
)、作業者(保守点検者)が使用する診断用コンピュータ、又は、USBメモリや外付け
HDD等の外部記憶ユニットで構成されている。この外部装置15は、後述する機械学習
装置200に接続されて学習用データセットを構成する各種データを送信することも可能
である。また、この外部装置15は、流体圧駆動弁10に異常が発生した場合に作業者等
に対して異常が発生したことやその内容を報知するための、GUI(Graphical
User Interface)等からなる報知手段を備えている。なお、外部装置1
5及び電磁弁1の間の通信には無線通信を利用してもよい。
【0016】
本実施の形態の流体圧駆動弁10の駆動方式は、エアーレスクローズ方式が採用されて
いる。したがって、定常運転時は空気供給源14から電磁弁1を介して駆動装置12に空
気Aを供給(給気)することで、主弁11が開操作され、緊急停止時や試験運転時は、駆
動装置12から電磁弁1を介して空気Aを排出(排気)することで、主弁11が閉操作さ
れる。なお、流体圧駆動弁10は、エアーレスオープン方式を採用してもよく、その場合
には、駆動装置12に空気Aを供給することで閉操作され、駆動装置12から空気Aを排
出することで主弁11を閉操作される。
【0017】
主弁11には、ボールバルブが採用されている。この主弁11の具体的な構成としては
、配管100の途中に配置される弁箱110と、弁箱110内に回転可能に設けられたボ
ール状の弁体111とを備えている。また、弁体111の上部には、弁軸13の第1の端
部130Aが連結されている。弁軸13が0度〜90度に回転駆動されることに応じて弁
箱110内で弁体111が回転し、主弁11の全開状態(
図1に示す状態)と全閉状態が
切り替えられる。なお、主弁11として用いられる弁は、ボールバルブに限られず、例え
ば、バタフライバルブやその他のオンオフ弁であってもよい。
【0018】
駆動装置12には、主弁11と電磁弁1との間に配置された単作動式のエアシリンダ機
構が採用されている。この駆動装置12の具体的な構成としては、円筒状のシリンダ12
0と、このシリンダ120内に往復直線移動可能に設けられピストンロッド121を介し
て連結された一対のピストン122A、122Bと、第1のピストン122A側に設けら
れたコイルばね123と、第2のピストン122B側に形成された空気給排口124と、
シリンダ120を径方向に沿って貫通するように配置された弁軸13とピストンロッド1
21とが直交する部分に設けられた伝達機構125と、を備えている。なお、駆動装置1
2は、単作動式に限られず、例えば、複作動式等の他の形式で構成されていてもよい。
【0019】
第1のピストン122Aは、コイルばね123により主弁11を閉方向に動作するよう
に付勢されている。また、第2のピストン122Bは、空気給排口124から供給された
空気A(給気)により主弁11を開方向に動作するように(コイルばね123の付勢力に
抗して)押圧するものである。さらに、伝達機構125は、ラックアンドピニオン機構、
リンク機構、カム機構等で構成されており、ピストンロッド121の往復直線運動を回転
運動に変換して弁軸13に伝達するものである。
【0020】
弁軸13は、シャフト状に形成されており、回動可能な状態で駆動装置12を貫通する
ようにして配置される。弁軸13の第1の端部130Aは主弁11に連結され、弁軸13
の第2の端部130Bは電磁弁1により軸支される。なお、弁軸13は、複数本のシャフ
トがカップリング等を介して連結されたものでもよい。
【0021】
電磁弁1は、駆動装置12に対して空気Aの給排を制御する機能を有し、例えば、2ポ
ジションでノーマルクローズタイプ(通電時「開」、非通電時「閉」)の三方電磁弁とし
て構成されている。この電磁弁1は、屋内型又は防爆型の電磁弁1のハウジングとして機
能する収容部6の内部に、空気Aが流れる流路を切り替えるスプール部2と、通電状態(
通電時又は非通電時)に応じてスプール部2を変位させるソレノイド部3とを備えている
。なお、この電磁弁1には、上述したタイプの三方電磁弁に限られず、3ポジションであ
っても、ノーマルオープンタイプであっても、四方電磁弁等であってもよく、これらの任
意の組み合わせに基づく各種の形成で構成できる。また、本実施の形態では、電磁弁1は
、流体圧駆動弁10におけるパイロットバルブとして用いられるものであるが、電磁弁1
の用途はこれに限られない。
【0022】
スプール部2は、空気供給源14に第1の空気配管140を介して接続される入力ポー
ト20と、駆動装置12に第2の空気配管141を介して接続される出力ポート21と、
駆動装置12からの排気を排出する排気ポート22とを備える。
【0023】
ソレノイド部3は、通電時に、入力ポート20と出力ポート21との間を連通するよう
に、スプール部2を変位させ、非通電時に、出力ポート21と排気ポート22との間を連
通するように、スプール部2を変位させる。
【0024】
上述した一連の構成により、電磁弁1が通電状態である場合には、空気供給源14から
の空気A(給気)が、第1の空気配管140、入力ポート20、出力ポート21及び第2
の空気配管141の順に流れて、空気給排口124に供給されることで、第2のピストン
122Bが押圧されてコイルばね123が圧縮する。そして、コイルばね123の圧縮に
応じてピストンロッド121が移動した分だけピストンロッド121及び伝達機構125
を介して弁軸13が回転駆動されると、弁箱110内で弁体111が回転し、主弁11が
全開状態に操作される。
【0025】
一方、電磁弁1が非通電状態である場合には、シリンダ120内の空気A(排気)が、
空気給排口124から第2の空気配管141、出力ポート21及び排気ポート22の順に
流れて、外気に排出されることで、第2のピストン122Bの押圧力が低下し、コイルば
ね123が圧縮状態から復元する。そして、コイルばね123の復元に応じてピストンロ
ッド121が移動した分だけ伝達機構125を介して弁軸13が回転駆動されると、弁箱
110内で弁体111が回転し、主弁11が全閉状態に操作される。
【0026】
図2は、本発明の一実施の形態に係る電磁弁1の一例を示す断面図である。本実施の形
態に係る電磁弁1は、
図2に示すように、上記のスプール部2及びソレノイド部3に加え
て、電磁弁1の各部の状態を取得する複数のセンサ4と、複数のセンサ4のうち少なくと
も1つが載置された基板5と、スプール部2、ソレノイド部3、複数のセンサ4及び基板
5を収容する収容部6とを備える。
【0027】
収容部6は、スプール部2を収容する第1の収容部60と、第1の収容部60に隣接さ
れるとともに、ソレノイド部3、複数のセンサ4及び基板5を収容する第2の収容部61
と、通信ケーブル150及び電力ケーブル160が接続されるターミナルボックス62と
を備える。第1の収容部60及び第2の収容部61は、例えば、アルミニウム等の金属材
料で製作されている。
【0028】
第1の収容部60は、入力ポート20、出力ポート21及び排気ポート22として、そ
れぞれ機能する開口部(不図示)を有する。
【0029】
第2の収容部61は、両端(第1のハウジング端部610a及び第2のハウジング端部
610b)が開放された円筒状のハウジング610と、ハウジング610の内部に配置さ
れるボディー611と、第1のハウジング端部610aに固定されたソレノイド部3を外
気から覆うソレノイドカバー612と、第2のハウジング端部610bに固定されたター
ミナルボックス62を外気から覆うターミナルボックスカバー613とを備える。
【0030】
ハウジング610は、その下部に形成されて弁軸13の第2の端部130Bが挿入され
る軸挿入口610cと、その上部に形成されてボディー611が挿入されるボディー挿入
口610dと、第2のハウジング端部610b側に形成されて通信ケーブル150及び電
力ケーブル160が挿入されるケーブル挿入口610eとを有する。
【0031】
第1の収容部60及び第2の収容部61には、ボディー611を貫通するようにして、
入力側流路26から分岐して入力側流路26と第1の圧力センサ40との間を連通する第
1の流路63と、出力側流路27から分岐して出力側流路27と第2の圧力センサ41と
の間を連通する第2の流路64と、スプール部2とソレノイド部3とを連動させるための
空気Aが流れるスプール流路65が形成されている。
【0032】
スプール部2は、スプールケースとして機能する第2の収容部61内に形成されたスプ
ールホール23と、スプールホール23内に移動可能に配置されたスプールバルブ24と
、スプールバルブ24を付勢するスプールスプリング25と、入力ポート20とスプール
ホール23との間を連通する入力側流路26と、出力ポート21とスプールホール23と
の連通する出力側流路27と、排気ポート22とスプールホール23との間を連通する排
気流路28とを備える。
【0033】
ソレノイド部3は、ソレノイドケース30と、ソレノイドケース30内に収容されたソ
レノイドコイル31と、ソレノイドコイル31内に移動可能に配置された可動鉄芯32と
、ソレノイドコイル31内に固定状態で配置された固定鉄芯33と、可動鉄芯32を付勢
するソレノイドスプリング34とを備える。
【0034】
電磁弁1が非通電状態から通電状態に切り替えられた場合には、ソレノイド部3におい
て、コイル電流がソレノイドコイル31に流れることによりソレノイドコイル31が電磁
力を発生し、当該電磁力により可動鉄芯32がソレノイドスプリング34の付勢力に抗し
て固定鉄芯33に吸引されることで、スプール流路65を流れる空気Aの流通状態が切り
替えられる。そして、スプール部2において、スプール流路65を流れる空気Aの流通状
態が切り替えられたことにより、スプールバルブ24がスプールスプリング25の付勢力
に抗して移動されることで、入力ポート20と排気ポート22との間を連通する状態から
、入力ポート20と出力ポート21との間を連通する状態に切り替えられる。
【0035】
基板5は、基板面500A、500Bが軸挿入口610cから挿入された弁軸13に沿
うように配置された第1の基板50と、ターミナルボックス62に近接して配置された第
2の基板51と、ソレノイド部3に近接して配置された第3の基板52とを備える。
【0036】
第1の基板50の基板面500A、500Bのうち、第1の基板面500A側には、ボ
ディー611、ソレノイド部3及び第3の基板52が配置される。第1の基板面500A
側と反対側の第2の基板面500B側には、第2の基板51及びターミナルボックス62
が配置される。
【0037】
第1の基板50、第2の基板51及び第3の基板52の適所には、センサ4が配置され
ている。このセンサ4としては、例えば、入力側流路26及び第1の流路63を流れる空
気Aの流体圧を計測する第1の圧力センサ40と、出力側流路27及び第2の流路64を
流れる空気Aの流体圧を計測する第2の圧力センサ41と、弁軸13が回転駆動するとき
の回転角度を計測し、当該回転角度に応じて主弁11の弁開度情報を取得する主弁開度セ
ンサ42とを含む。
【0038】
主弁開度センサ42は、例えば、磁気センサにより構成されており、弁軸13の第2の
端部130Bに取り付けられた永久磁石131が発生する磁気の強さを計測し、当該磁気
の強さに応じて主弁11の弁開度情報を取得する。この主弁開度センサ42は、軸挿入口
610cから挿入された弁軸13に沿うように配置された第1の基板5の第1の基板面5
00Aのうち弁軸13の軸周りの外周に対向する位置に載置されると好ましい。これによ
り、収容部6内において、配置スペースを無駄にすることなく、第1の基板50に載置さ
れた主弁開度センサ42と、弁軸13の第2の端部130Bとを近接して配置することが
可能となり、弁開度情報を正確に取得することができる。
【0039】
図3は、本発明の一実施の形態に係る電磁弁1の一例を示すブロック図である。電磁弁
1は、
図3に示すように、電気的な構成例として、上記の基板3及びセンサ4の他に、電
磁弁1を制御する制御部7と、外部装置15と通信するための通信部8と、外部電源16
に接続される電源回路部9とを備える。
【0040】
複数のセンサ4は、各部の物理量を計測するセンサ群として、上記の第1の圧力センサ
40、第2の圧力センサ41及び主弁開度センサ42の他に、ソレノイド部3に対する供
給電圧を計測する電圧センサ43と、ソレノイド部3における通電時の電流値及び非通電
時の抵抗値を計測する電流・抵抗センサ44と、電磁弁1の温度、特にソレノイド部3を
収容する収容部6の内部温度を計測する温度センサ45と、ソレノイド部3が発生する磁
気の強さを計測する磁気センサ46とを備える。
【0041】
また、複数のセンサ4は、各部の動作履歴に関する情報を取得するセンサ群として、ソ
レノイド部3の稼働時間としてソレノイド部に対する通電時間の合計及び現在の通電連働
時間の少なくとも一方を計測する稼働時間計(タイマ)47と、電磁弁1、駆動装置12
及び主弁11それぞれの作動回数を計数する作動カウンタ(カウンタ)48とを備える。
【0042】
また、これらのセンサ40〜48は、上述のようにそれぞれのセンサが個別に設けられ
たものに限られず、特定のセンサが他のセンサの機能を兼ねることで、当該他のセンサが
個別に設けられていなくてもよい。例えば、磁気センサ46が、ソレノイド部3が発生す
る磁気の強さを計測するとともに、当該磁気の強さに基づいてソレノイド部3における通
電時の電流値を求めることで、電流・抵抗センサ44が個別に設けられていなくてもよい
。また、マイクロコントローラ70が、センサの機能を内蔵したり、センサの機能の一部
を実現したりしてもよく、例えば、マイクロコントローラ70が、稼働時間計47及び作
動カウンタ48を内蔵することで、稼働時間計47及び作動カウンタ48が個別に設けら
れていなくてもよい。
【0043】
制御部7は、複数のセンサ4により取得された電磁弁1の各部の状態を示す情報を処理
するとともに、電磁弁1の各部を制御するマイクロコントローラ70と、ソレノイド部3
の通電状態を制御し、試験運転時における主弁11の開閉操作を行うバルブテストスイッ
チ71とを備える。
【0044】
マイクロコントローラ70は、CPU(Central Processing Un
it)等のプロセッサ(不図示)と、ROM(Read Only Memory)、R
AM(Random Access Memory)等により構成されるメモリとを備え
る。このマイクロコントローラ70は、本実施の形態において後述するデータ処理システ
ム300を実現する機能を含むことができる。
【0045】
バルブテストスイッチ71は、所定の試験運転条件が満たされた場合にマイクロコント
ローラ70からの指令を受けて、試験運転として、流体圧駆動弁10のストロークテスト
を実行するためのものである。
【0046】
ストロークテストは、例えば、フルストロークテスト及びパーシャルストロークテスト
のいずれかにより実行される。フルストロークテストは、主弁11を全開状態において通
電状態から非通電状態に切り替えることで全閉状態に操作し、全閉状態において非通電状
態から通電状態に切り替えることで全開状態に戻すことで実行される。パーシャルストロ
ークテストは、主弁11を全閉状態に操作することなく(すなわち、プラント設備を停止
することなく)、主弁11を全開状態において通電状態から非通電状態に切り替えること
で所定の開度まで部分的に閉じて、部分的な閉状態において非通電状態から通電状態に切
り替えることで全開状態に戻すことで実行される。
【0047】
なお、試験運転条件としては、例えば、管理者により設定値として指定された実行頻度
(例えば、1年に1回)による実行時期や特定の指定日時が到来したり、外部装置15か
らの実行命令を受け付けたり、電磁弁1に設けられた試験実行ボタン(不図示)が管理者
により操作されたりした場合に、試験運転条件を満たすものとして、試験運転(ストロー
クテスト)が実行されるようにすればよい。
【0048】
(機械学習装置)
上述した一連の構成を備える流体圧駆動弁10においては、上述した複数のセンサ4を
備えることにより、例えば定常運転時及び非定常運転時(例えば、開閉操作が行われる試
験運転時や緊急停止時を含む。)において流体圧駆動弁10の各種情報を取得することが
できる。そこで、以下には、流体圧駆動弁10から取得可能な情報(状態変数)に基づい
て流体圧駆動弁10の診断情報を推定することが可能な推論モデル(学習済モデル)を学
習する機械学習装置200について、説明を行う。なお、ここでいう機械学習装置200
は、それ単独で動作する装置として提供されるもののみならず、任意のプロセッサに以下
に説明する動作を実行させるためプログラム、あるいは当該動作を実行させるための1乃
至複数の命令を格納した非一時的なコンピュータ読取可能媒体の形式で提供されるものを
含む。
【0049】
図4は、本発明の一実施の形態に係る機械学習装置200の概略ブロック図である。本
実施の形態に係る機械学習装置200は、
図4に示すように、学習用データセット取得ユ
ニット201と、学習用データセット記憶ユニット202と、学習ユニット203と、学
習済モデル記憶ユニット204とを備えている。
【0050】
学習用データセット取得ユニット201は、例えば有線又は無線の通信回線を介して接
続された各種機器から学習(トレーニング)用データセットを構成する複数のデータを取
得するためのインタフェースユニットである。ここで、学習用データセット取得ユニット
201に接続される各種機器としては、例えば外部装置15や流体圧駆動弁10の作業者
が使用する作業者用コンピュータPC1等を挙げることができる。なお、
図4においては
外部装置15とコンピュータPC1とは別々に接続された例を示しているが、外部装置1
5と作業者用コンピュータPC1とは同一のコンピュータにより構成されていてもよい。
この学習用データセット取得ユニット201では、流体圧駆動弁10の複数のセンサ4の
検出データを入力データとして例えば外部装置15から取得すると共に、この入力データ
に関連付けられる流体圧駆動弁10の診断情報を出力データとして、例えば作業者用コン
ピュータPC1から取得することができる。そして、これら互いに関連付けられる入力デ
ータと出力データとが、後述する一の学習用データセットを構成する。
【0051】
図5は、本発明の一実施の形態に係る機械学習装置200で使用されるデータの構成例
(教師あり学習)を示す図である。
図6は、本発明の一実施の形態に係る機械学習装置2
00で使用されるデータの構成例(教師なし学習)を示す図である。なお、
図5、
図6は
、データ処理システム及び推論装置の説明でも適宜参照する。
【0052】
学習用データセットは、
図5、
図6に示すように、入力データとして、少なくとも、ソ
レノイド部3の制御パラメータ、及び、電磁弁1の温度を、出力データとして、ソレノイ
ド部3を含む電磁弁1の診断情報を含んでおり、後述する機械学習において使用するため
のデータセットを指すものである。これらの各種データの詳細について以下に一例を説示
するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
電磁弁1の温度は、本実施形態ではソレノイド部3を収容する収容部6の内部温度の値
を指すものであって、上述した温度センサ45により取得できる。
【0054】
ソレノイド部3の制御パラメータは、ソレノイド部3を制御するための各種パラメータ
情報であって、具体的にはソレノイドコイル31へ供給される供給電圧、ソレノイドコイ
ル31への通電時の電流値、及び、ソレノイド部3の稼働時間の少なくとも1つを含むこ
とが好ましい。このうち、ソレノイドコイル31へ供給される供給電圧は上述した電圧セ
ンサ43により取得でき、ソレノイドコイル31への通電時の電流値は上述した電流・抵
抗センサ44により取得でき、ソレノイド部3の稼働時間は上述した稼働時間計47によ
り取得できる。
【0055】
なお、入力データを構成するソレノイド部3の制御パラメータ、及び、電磁弁1の温度
は、それぞれがある特定の時点における1つのデータ(時点データ)で構成されていても
よいし、
図5、
図6の括弧書きで示すように、所定期間内の異なる複数の時点でそれぞれ
取得された複数のデータ(時系列データ)で構成されていてもよい。なお、各データが時
系列データで構成されている場合には、ソレノイド部3の制御パラメータの時系列データ
、及び、電磁弁1の温度の時系列データの各々は、同一のサンプリング周期及び同一の位
相(位相差がない状態)で複数の時点で取得されたものでもよいし、サンプリング周期及
び位相の少なくとも一方が異なるものでもよい。推論の精度を効果的に向上させるために
は、後者の時系列データの形式であることが好ましい。
【0056】
ソレノイド部3の診断情報は、ソレノイド部3に対する異常診断が行われたときの、ソ
レノイド部3に何らかの異常が発生しているか否かを示す情報であって、そのデータ形式
としては種々のものを採用することができる。異常は、異常診断が行われた時点において
異常の発生が判明したような事後的な異常だけなく、異常診断が行われた時点では正常と
判断される許容範囲ではあるが、将来的な異常の発生が予見されたような異常の兆候も含
む。
【0057】
例えば、一態様としての診断情報は、
図5に示すように、ソレノイド部3が正常である
こと(異常なし)及び異常であること(異常あり)のいずれかを表す情報で構成すること
ができる。この場合、診断情報は、2値に分類され、例えばソレノイド部3が正常な状態
であることを示す値を「0」とし、ソレノイド部3が異常な状態であることを示す値を「
1」として、作業用コンピュータPC1を用いて作業者により入力データに関連付けた形
で該当する値が入力されればよい。なお、この場合には具体的な異常の内容に関する情報
は必ずしも必要ない。
【0058】
加えて、上記診断情報のうち、ソレノイド部3の異常であることを表す情報は、
図5の
破線で示すように、異常の具体的な内容をも含んでいてもよい。異常の具体的な内容とし
ては、例えば、空気A回路の不良、空気供給源14からの空気Aの供給圧力の異常、ソレ
ノイド部3における供給電圧異常、ソレノイドコイル31の劣化・破損、電気回路の短絡
、電磁弁1の異常発熱、鉄芯の動作不良等が含まれる。この場合、診断情報は、複数の値
(3以上)に分類され、例えばソレノイド部3が正常な状態であることを示す値を「0」
とし、ソレノイド部3が主弁11の動作不良に該当する異常であることを示す値を「1」
、ソレノイド部3に該当する異常であることを示す値を「2」、以下同様に各異常の内容
に合わせて値を一意に事前に定めた上で、作業用コンピュータPC1を用いて作業者によ
り入力データに関連付けた形で該当する値が入力されればよい。このような診断情報の設
定を行うことで、異常の発生の有無のみならず、異常が発生したときの異常の具体的な内
容の情報(
図6に示す異常1/異常2/…/異常nに対応する。)をも含んだ学習用デー
タセットを準備することができる。上述した一態様としての診断情報は、以下に述べる機
械学習においては、教師あり学習(
図5参照。)を行う場合に利用されるものである。
【0059】
また、ソレノイド部3の診断情報としては、上述したもの以外にも採用することができ
る。例えば、他の態様としての診断情報は、
図6に示すように、ソレノイド部3が異常で
なく正常であることのみを表す情報とすることができる。この場合、診断情報にはソレノ
イド部3が正常であることを表す情報しか含まれないため、必然的にこの診断情報を出力
データとして含む学習用データセットは、ソレノイド部3が正常である場合の入力データ
と出力データとで構成されたデータセットのみとなる。したがって、この場合における学
習用データセットの出力データは常に同じであるため、学習用データセットは出力データ
をデータとして有している必要は必ずしもないことは、当業者であれば当然に理解できる
であろう。当該他の態様としての診断情報は、以下に述べる機械学習においては、教師な
し学習(
図6参照。)を行う場合に利用されるものである。
【0060】
また、他の態様としての診断情報は、
図5に示すように、ソレノイド部3が正常な状態
であること(異常なし)及びソレノイド部3の余寿命が予め設定された期間(例えば数時
間、数日、数ヶ月、又は、数年等)以内の異常な状態であること(異常あり)のいずれか
を表す情報で構成することができる。この場合、診断情報は、2値に分類され、例えばソ
レノイド部3が正常な状態であることを示す値を「0」とし、ソレノイド部3の余寿命が
予め設定された期間以内の異常な状態であることを示す値を「1」として、作業用コンピ
ュータPC1を用いて作業者により入力データに関連付けた形で該当する値が入力されれ
ばよい。なお、この場合には具体的な異常の内容に関する情報は必ずしも必要ない。
【0061】
加えて、上記診断情報のうち、ソレノイド部3の余寿命が予め設定された期間以内の異
常であることを表す情報は、
図5の破線で示すように、余寿命の具体的な内容をも含んで
いてもよい。この場合、診断情報は、複数の値(少なくとも3以上)に分類され、ソレノ
イド部3が正常な状態であること、ソレノイド部3の余寿命が予め設定された複数の余寿
命の期間以内のいずれかに該当するという異常であることのいずれかを表す情報で構成す
る。
【0062】
例えばソレノイド部3が正常な状態であることを示す値を「0」とし、ソレノイド部3
の余寿命が第1の期間(例えば6ヶ月以上1年未満)に該当する異常であることを示す値
を「1」、ソレノイド部3の余寿命が第1の期間よりも短い第2の期間(例えば6ヶ月未
満)に該当する異常であることを示す値を「2」、以下同様に各異常の内容に合わせて値
を一意に事前に定めた上で、作業用コンピュータPC1を用いて作業者により入力データ
に関連付けた形で該当する値が入力されればよい。このような診断情報の設定を行うこと
で、異常の発生の有無のみならず、異常が発生したときの余寿命の具体的な内容の情報(
図6に示す異常1/異常2/…/異常nに対応する。)をも含んだ学習用データセットを
準備することができる。上述した一態様としての寿命予測情報は、以下に述べる機械学習
においては、教師あり学習(
図5参照。)を行う場合に利用されるものである。
【0063】
また、ソレノイド部3の寿命予測情報としては、上述したもの以外にも採用することが
できる。例えば、他の態様としての寿命予測情報は、
図6に示すように、ソレノイド部3
が異常でなく正常であることのみを表す情報とすることができる。この場合、寿命予測情
報にはソレノイド部3が正常であることを表す情報しか含まれないため、必然的にこの寿
命予測情報を出力データとして含む学習用データセットは、ソレノイド部3が正常である
場合の入力データと出力データとで構成されたデータセットのみとなる。したがって、こ
の場合における学習用データセットの出力データは常に同じであるため、学習用データセ
ットは出力データをデータとして有している必要は必ずしもないことは、当業者であれば
当然に理解できるであろう。当該他の態様としての寿命予測情報は、以下に述べる機械学
習においては、教師なし学習(
図6参照。)を行う場合に利用されるものである。
【0064】
オプションとして、学習用データセット内の入力データには、更に、流体圧駆動弁10
の総稼働時間、流体圧駆動弁10に対して最後に電源が投入されてからの稼働時間、主弁
11の作動回数、駆動装置12の作動回数、ソレノイド部3の作動回数、及び、主弁11
の開閉時間を選択的に含むことができる。このうち、流体圧駆動弁10の総稼働時間と流
体圧駆動弁10に対して最後に電源が投入されてからの稼働時間とは上述した稼働時間計
47により取得でき、主弁11の作動回数と駆動装置12の作動回数とソレノイド部3の
作動回数とは上述した作動カウンタ48により取得でき、主弁11の開閉時間は図示しな
いタイマ等を用いて取得できる。入力データの種類を増やすことは、機械学習の後に得ら
れる学習済モデルの推定精度を向上させるのに概ね寄与するものであるが、診断情報との
相関度合いが低い入力データを採用することは、却って学習済モデルの推定精度の向上を
阻害する可能性がある。したがって、入力データとして採用するデータの数及び種類につ
いては、学習済モデルが適用される流体圧駆動弁10の状態等を考慮して適宜選択される
べきものである。
【0065】
学習用データセット記憶ユニット202は、学習用データセット取得ユニット201で
取得した学習用データセットを構成するための複数のデータを、関連する入力データと出
力データとを関連付けて1つの学習用データセットとし、格納するためのデータベースで
ある。この学習用データセット記憶ユニットを構成するデータベースの具体的な構成につ
いては適宜調整することができる。例えば、
図4においては、説明の都合上、この学習用
データセット記憶ユニット202と後述する学習済モデル記憶ユニット204とを別々の
記憶手段として示しているが、これらは単一の記憶媒体(データベース)によって構成す
ることもできる。
【0066】
学習ユニット203は、学習用データセット記憶ユニット202に記憶された複数の学
習用データセットを用いて機械学習を実行することで、複数の学習用データセットに含ま
れる入力データと出力データとの相関関係を学習した学習済モデルを生成するものである
。本実施の形態においては、後に詳しく説示するように、機械学習の具体的な手法として
ニューラルネットワークを用いた教師あり学習を採用している。ただし、機械学習の具体
的な手法については、これに限定されるものではなく、入出力の相関関係を学習用データ
セットから学習することができるものであれば他の学習手法を採用することも可能である
。例えば、アンサンブル学習(ランダムフォレスト、ブースティング等)を用いることも
できる。
【0067】
学習済モデル記憶ユニット204は、学習ユニット203で生成された学習済モデルを
記憶するためのデータベースである。この学習済モデル記憶ユニット24に記憶された学
習済モデルは、要求に応じて、インターネットを含む通信回線や記憶媒体を介して実シス
テムへ適用される。実システム(データ処理システム300)に対する学習済モデルの具
体的な適用態様については、後に詳述する。
【0068】
次に、上述のようにして得られた複数の学習用データセットを用いた、学習ユニット2
03における学習手法について、教師あり学習を中心に説明する。
図7は、本発明の一実
施の形態に係る機械学習装置において実施される教師あり学習のためのニューラルネット
ワークモデルの例を示す図である。
図7に示すニューラルネットワークモデルにおけるニ
ューラルネットワークは、入力層にあるl個のニューロン(x1〜xl)、第1中間層に
あるm個のニューロン(y11〜y1m)、第2中間層にあるn個のニューロン(y21
〜y2n)、及び、出力層にあるo個のニューロン(z1〜zo)から構成されている。
第1中間層及び第2中間層は、隠れ層とも呼ばれており、ニューラルネットワークとして
は、第1中間層及び第2中間層の他に、さらに複数の隠れ層を有するものであってもよく
、あるいは第1中間層のみを隠れ層とするものであってもよい。なお、
図7においては、
出力層が複数個(o個)設定されたニューラルネットワークモデルを例示しているが、例
えば上述した診断情報が一の値から特定されるものである場合、すなわち、後述する教師
データの数が1個(t1のみ)である場合には、出力層のニューロンの数も1個(z1の
み)とすることができる。
【0069】
また、入力層と第1中間層との間、第1中間層と第2中間層との間、第2中間層と出力
層との間には、層間のニューロンを接続するノードが張られており、それぞれのノードに
は、重みwi(iは自然数)が対応づけられている。
【0070】
本実施の形態に係るニューラルネットワークモデルにおけるニューラルネットワークは
、学習用データセットを用いて、ソレノイド部3の制御パラメータ、及び、電磁弁1の温
度と、ソレノイド部3の診断情報との相関関係を学習する。具体的には、状態変数として
のソレノイド部3の制御パラメータ、及び、電磁弁1の温度のそれぞれを入力層のニュー
ロンに対応づけ、出力層にあるニューロンの値を、一般的なニューラルネットワークの出
力値の算出方法で、つまり、出力側のニューロンの値を、当該ニューロンに接続される入
力側のニューロンの値と、出力側のニューロンと入力側のニューロンとを接続するノード
に対応づけられた重みwiとの乗算値の数列の和として算出することを、入力層にあるニ
ューロン以外の全てのニューロンに対して行う方法を用いることで、算出する。なお、上
記状態変数を入力層のニューロンに入力するに際し、状態変数として取得した情報をどの
ような形式として入力するかは、生成される学習済モデルの精度等を考慮して適宜設定す
ることができる。具体的には、入力データそれぞれに対応させるニューロンの数を調整す
るため、あるいはニューロンに対応可能な値に調整するために、特定の入力データに対し
て前処理を実行することができる。
【0071】
そして、算出された出力層にあるo個のニューロンz1〜zoの値、すなわち本実施の
形態においては1以上の診断情報と、学習用データセットの一部を構成する、同じく1以
上の診断情報からなる教師データt1〜toとを、それぞれ比較して誤差を求め、求めら
れた誤差が小さくなるように、各ノードに対応づけられた重みwiを調整する(バックプ
ロバケーション)ことを反復する。
【0072】
そして、上述した一連の工程を所定回数反復実施すること、あるいは前記誤差が許容値
より小さくなること等の所定の条件が満たされた場合には、学習を終了して、そのニュー
ラルネットワークモデル(のノードのそれぞれに対応づけられた全ての重みwi)を学習
済モデルとして学習済モデル記憶ユニット204に記憶する。
【0073】
(機械学習方法)
上記に関連して、本発明は、機械学習方法を提供する。以下に本発明に係る機械学習方
法について、
図5(学習フェーズ)、
図6(学習フェーズ)、
図7、
図8を参照して説明
を行う。
図8は、本発明の一実施の形態に係る機械学習方法の例を示すフローチャートで
ある。以下に示す機械学習方法においては、上述した機械学習装置200に基づいて説明
を行うが、前提となる構成については、上記機械学習装置200に限定されない。また、
この機械学習方法はコンピュータを用いることで実現されるものであるが、コンピュータ
としては種々のものが適用可能であり、例えば外部装置15、作業用コンピュータPC1
あるいはマイクロコントローラ70を構成するコンピュータ装置や、ネットワーク上に配
されたサーバ装置等を挙げることができる。また、このコンピュータの具体的構成につい
ては、例えば、少なくともCPUやGPU等からなる演算装置と、揮発性又は不揮発性メ
モリ等で構成される記憶装置と、ネットワークや他の機器に通信するための通信装置と、
これら各装置を接続するバスとを含むものを採用することができる。
【0074】
本実施の形態に係る機械学習方法としての教師あり学習は、機械学習を開始するための
事前準備として、先ず、所望の数の学習用データセット(
図5参照。)を準備し、準備し
た複数個の学習用データセットを学習用データセット記憶ユニット202に記憶する(ス
テップS11)。ここで準備する学習用データセットの数については、最終的に得られる
学習済みモデルに求められる推論精度を考慮して設定するとよい。
【0075】
この教師あり学習に用いられる学習用データセットを準備する方法にはいくつかの方法
が採用できる。例えば特定のソレノイド部3において異常が発生した場合、あるいは作業
者が異常の兆候を認識した場合において、そのときの流体圧駆動弁10の定常運転時にお
ける各種情報を複数のセンサ4等を用いて取得し、これらの情報に関連付ける形で作業者
が診断情報を、作業用コンピュータPC1等を用いて特定・入力することで、学習データ
セットを構成する入力データと出力データ(例えば、この場合の出力データの値は「1」
)とを準備する。そしてこのような作業を繰り返すことで所望の数の学習用データセット
を準備する方法が採用できる。なお、学習用データセットを準備する方法としてはこのよ
うな方法以外にも、例えば積極的にソレノイド部3に異常状態を作ることで学習用データ
セットを取得する等、種々の方法を採用することができる。ただし、ソレノイド部3の各
種情報はソレノイド部3夫々に特有の傾向が存在することが多いため、学習用データセッ
トを構成するデータを取得する対象としては、後述する機械学習を経て得られる学習済み
モデルを適用する予定の一のソレノイド部3のみから収集することが好ましい。また、学
習用データセットとしては、異常が発生した場合の入出力データで構成されたもののみな
らず、異常が発生していないとき、すなわちソレノイド部3の正常状態における入力デー
タ及び出力データ(例えば、この場合の出力データの値は「0」)で構成された学習用デ
ータセットが所定数含まれる。
【0076】
ステップS11が完了すると、次いで学習ユニット203における学習を開始すべく、
学習前のニューラルネットワークモデルを準備する(S12)。ここで準備される学習前
のニューラルネットワークモデルは、その構造としては、例えば
図7で示した構造を有し
、且つ各ノードの重みが初期値に設定されている。そして、学習用データセット記憶ユニ
ット202に記憶された複数個の学習用データセットから、例えばランダムに一の学習用
データセットを選択し(ステップS13)、当該一の学習用データセット中の入力データ
を、準備された学習前のニューラルネットワークモデルの入力層(
図7参照。)に入力す
る(ステップS14)。
【0077】
ここで、上記ステップS14の結果として生成された出力層(
図7参照。)の値は、学
習前のニューラルネットワークモデルによって生成されたものであるため、ほとんどの場
合望ましい結果とは異なる値、すなわち、正しい診断情報とは異なる情報を示す値である
。そこで、次に、ステップS13において取得された一の学習用データセット中の教師デ
ータとしての診断情報とステップS13において生成された出力層の値とを用いて、機械
学習を実施する(ステップS15)。ここで行う機械学習とは、例えば、教師データを構
成する診断情報と出力層の値とを比較し、好ましい出力層が得られるよう、学習前のニュ
ーラルネットワークモデル内の各ノードに対応付けられた重みを調整する処理(バックプ
ロパゲーション)であってよい。なお、学習前のニューラルネットワークモデルの出力層
に出力される値の数及び形式は、学習対象としての学習用データセット中の教師データと
同様の数及び形式である。
【0078】
ここでいう機械学習について具体的に例示すると、仮に、教師データを構成する診断情
報が、正常の場合を「0」とし、異常の場合を「1」としたいずれかの値(2値分類)で
構成され、且つステップS13で選択された一の学習用データセット内の出力データの値
が「1」である場合、出力層の値は、0〜1の所定の値、具体的に言えば、例えば「0.
63」といった値が出力される。そこで、ステップS15では、仮に同様の入力データが
入力層に入力された場合に学習中のニューラルネットワークモデルによって得られる値が
「1」に近づくように、当該学習中のニューラルネットワークモデルの各ノードに対応付
けられた重みを調整する。
【0079】
ステップS15において機械学習が実施されると、さらに機械学習を継続する必要があ
るか否かを、例えば学習用データセット記憶ユニット202内に記憶された未学習の学習
用データセットの残数に基づいて特定する(ステップS16)。そして、機械学習を継続
する場合(ステップS16でNo)にはステップS13に戻り、機械学習を終了する場合
(ステップS16でYes)には、ステップS17に移る。上記機械学習を継続する場合
には、学習中のニューラルネットワークモデルに対してステップS13〜S15の工程を
未学習の学習用データセットを用いて複数回実施する。最終的に生成される学習済モデル
の精度は、一般にこの回数に比例して高くなる。
【0080】
機械学習を終了する場合(ステップS16でYes)には、各ノードに対応付けられた
重みが一連の工程によって調整され生成されたニューラルネットワークを学習済モデルと
して、学習済モデル記憶ユニット204に記憶し(ステップS17)、一連の学習プロセ
スを終了する。ここで記憶された学習済モデルは、後述するデータ処理システム300に
適用され使用され得るものである。
【0081】
上述した機械学習装置の学習プロセス及び機械学習方法においては、1つの学習済モデ
ルを生成するために、1つの(学習前の)ニューラルネットワークモデルに対して複数回
の機械学習処理を繰り返し実行することでその精度を向上させ、データ処理システム30
0に適用するに足る学習済モデルを得るものを説示している。しかし、本発明はこの取得
方法に限定されない。例えば、所定回数の機械学習を実施した学習済モデルを一候補とし
て複数個学習済モデル記憶ユニット204に格納しておき、この複数個の学習済モデル群
に妥当性判断用のデータセットを入力して出力層(のニューロンの値)を生成し、出力層
で特定された値の精度を比較検討して、データ処理システム300に適用する最良の学習
済モデルを1つ選定するようにしてもよい。なお、妥当性判断用データセットは、学習に
用いた学習用データセットと同様のデータセットで構成され、且つ学習に用いられていな
いものであればよい。
【0082】
以上説明した通り、本実施の形態に係る機械学習装置及び機械学習方法を適用すること
により、電磁弁1の適所に設けられた複数のセンサ4により取得される各種データから、
異常(事後的な異常及び異常の予兆を含む。)が発生するか否かを示す診断情報を的確に
導出することが可能な学習済モデルを得ることができる。
【0083】
上記機械学習装置200の学習方法及び機械学習方法では、「教師あり学習」について
説明したが、学習済みモデルを生成する方法としては、畳み込みニューラルネットワーク
(CNN)等のその他の公知の「教師あり学習」の手法を用いることでもよいし、また、出
力データを構成する診断情報として、上述した他の態様に係る診断情報、すなわち流体圧
駆動弁10が異常でなく正常であることのみを表す情報を含む学習用データセット(
図6
参照。)を用いた「教師なし学習」を用いてもよい。「教師なし学習」を用いることで、
入力データに対応付けられた出力データにおける診断情報が、電磁弁1の正常状態の情報
しか入手できない場合であっても、
図6の「学習フェーズ」で示すように、入力データと
出力データとの正常状態の特徴を表す相関関係を学習することにより、学習済みモデルを
得ることができる。この場合、後述するデータ処理システム300における推論時には、
正常状態の特徴に所定量合致しないと判断した入力データを正常状態でない、つまり、異
常状態であるとみなすことで、診断情報の推論が実現できる。この「教師なし学習」の具
体的な手法としては、例えば、
図6に簡略的に示すオートエンコーダ等を用いた公知の手
法を用いることができ、詳細な説明はここでは省略する。
【0084】
(データ処理システム)
次に、
図9を参照して、上述した機械学習装置200及び機械学習方法によって生成さ
れた学習済モデルの適用例を説示する。
図9は、本発明の一実施の形態に係るデータ処理
システムを示す概略ブロック図である。
【0085】
本実施の形態に係るデータ処理システム300としては、上述した流体圧駆動弁10の
マイクロコントローラ70内に搭載された態様を例示する。なお、このデータ処理システ
ム300については、その少なくとも一部を他の機器、例えば外部装置15や流体圧駆動
弁10に接続された他の装置に適用することも可能である。
【0086】
このデータ処理システム300は、入力データ取得ユニット301と、推論ユニット3
02と、学習済モデル記憶ユニット303と、報知ユニット304とを少なくとも含むも
のである。
【0087】
入力データ取得ユニット301は、電磁弁1が有する複数のセンサ4に接続されて各セ
ンサ4が出力するデータを取得するためのインタフェースユニットである。この入力デー
タ取得ユニット301は、少なくとも、ソレノイド部3の制御パラメータ、及び、電磁弁
1のソレノイド部3の温度を取得する。なお、
図9に示す例においては、後述する推論に
利用可能な入力データの全てが取得できるように、電磁弁1の備える全てのセンサ4に接
続されているが、入力データ取得ユニット301にどのセンサ4を接続するかについては
、後述する推論ユニット302において用いられる学習済モデル等に合わせて適宜選択す
ることができる。また、推論ユニット302の推論結果は、図示しない記憶手段に記憶す
ることが好ましく、記憶された過去の推論結果は、例えば学習済モデル記憶ユニット30
3内の学習済モデルの推論精度の更なる向上のための、オンライン学習に用いられる学習
用データセットとして利用することができる。
【0088】
推論ユニット302は、入力データ取得ユニット301により取得されたソレノイド部
3の各種データから、電磁弁1に異常が発生しているか否かを推論するためのものである
。この推論には、例えば上述した機械学習装置200及び機械学習方法を用いて学習が行
われた学習済モデルが用いられ、この学習済モデルは任意の記憶媒体で構成された学習済
モデル記憶ユニット303内に格納されている。なお、この推論ユニット302は、学習
済モデルを用いた推論処理を行う機能のみならず、推論処理の前処理として、入力データ
取得ユニット301により取得された入力データを所望の形式等に調整して学習済モデル
に入力する前処理機能や、推論処理の後処理として、学習済モデルが出力した出力値に、
例えば所定の閾値を適用することで異常(事後的な異常及び異常の予兆を含む。)の発生
の有無(異常なし(正常)又は異常あり(異常))を最終的に判断する後処理機能をも含
んでいる。
【0089】
学習済モデル記憶ユニット303は、上述した通り、推論ユニット302において用い
られる学習済モデルを格納するための記憶媒体である。この学習済モデル記憶ユニット3
03内に格納される学習済モデルの数は1つに限定されない。例えば入力されるデータの
数が異なる、あるいはその学習手法の異なる(例えば、上述した機械学習装置200等で
実施される教師あり学習と教師なし学習)複数個の学習済モデルが格納され、選択的に利
用可能とすることができる。
【0090】
報知ユニット304は、推論ユニット302の推論結果を作業者等に報知するためのも
のである。具体的な報知の手段は種々採用でき、例えば推論結果を通信部8を介して外部
装置15に送信し、外部装置15のGUIに表示等を行ったり、ソレノイド部3に予め発
光部材やスピーカ等を設け、それらを動作させたりすることで、作業者等に異常の発生の
有無を知らせることができる。
【0091】
以上の構成を備えたデータ処理システムによるデータ処理プロセスについて、
図5(推
論フェーズ)、
図6(推論フェーズ)、
図10を参照して以下に説明を行う。
図10は、
本発明の一実施の形態に係るデータ処理システム300によるデータ処理工程の例を示す
フローチャートである。
【0092】
流体圧駆動弁10の電磁弁1に外部電源16からの電力の供給が開始され、それに伴っ
てソレノイド部3の異常の診断が開始されると、入力データ取得ユニット301が、複数
のセンサ4により取得された電磁弁1の各部の状態を示す各種データを取得する(ステッ
プS21)。入力データ取得ユニット301が、所望の入力データ(ソレノイド部3の制
御パラメータ、及び、電磁弁1のソレノイド部3の温度(
図5、
図6参照。))を取得で
きた時点で、当該入力データに基づく推論ユニット302による推論が実施される(ステ
ップS22)。このとき、推論に用いられる学習済モデルは事前に特定されていることが
好ましい。また、事前に特定された学習済モデルが、例えばその入力データとして所定の
時系列データを要するものである場合には、入力データ取得ユニット301において必要
なデータ量が取得された後に、ステップS22における推論が実施される。
【0093】
具体的には、推論ユニット302は、入力データに前処理を施して学習モデル済モデル
に入力するとともに、その学習モデル済モデルからの出力値に対して後処理を施すことに
より、推論結果である異常(事後的な異常及び異常の予兆を含む。)の発生の有無を判断
する。教師あり学習(
図5の「推論フェーズ」参照。)における後処理では、推論ユニッ
ト302は、学習モデル済モデルの出力値(2値分類であれば、0〜1の間の数)と所定
の閾値とを比較し、例えば、学習モデル済モデルの出力値が、所定の閾値以上であれば「
異常あり(異常)」、所定の閾値未満であれば「異常なし(正常)」と判断することで、
その判断結果を推論結果として出力する。また、教師なし学習(
図6の「推論フェーズ」
参照。)における後処理では、推論ユニット302は、学習モデル済モデルの出力値(特
徴量)と、入力データに基づく特徴量との差(距離)を求め、その差(距離)が所定の閾
値以上であれば「異常あり(異常)」、所定の閾値未満であれば「異常なし(正常)」と
判断することで、その判断結果を推論結果として出力する。
【0094】
そして、ステップS22において、推論ユニット302による推論が実施された結果、
その推論結果が「異常なし(正常)」を示す場合(ステップS23でNo)には、引き続
き一連の推論を継続するようステップS21に戻る。一方、その推論結果が、
図5、
図6
に示すように、「異常あり(異常)」を示す場合(ステップS23でYes)には、報知
ユニット304により推論結果が「異常あり(異常)」であること、すなわち、電磁弁1
に異常(事後的な異常及び異常の予兆を含む。)が発生したことを作業者等に報知する(
ステップS24)。そして、ステップS24において異常の発生を報知した後は、引き続
き一連の推論を継続するようステップS21に戻る。なお、電磁弁1の使用用途や検出さ
れた異常の内容によっては、異常が検出された段階で電磁弁1を停止するといった対応を
実行するようにしてもよい。
【0095】
(推論装置)
本発明は、上述したデータ処理システム300の態様によるもののみならず、推論を行
うための推論装置の態様で提供することもできる。その場合、推論装置としては、メモリ
と、少なくとも1つのプロセッサとを含み、このうちのプロセッサが、一連の処理を実行
するものとすることができる。当該一連の処理とは、ソレノイド部3の制御パラメータ、
及び、電磁弁1の温度を含む入力データを取得する処理と、当該入力データが入力された
際にソレノイド部3における診断情報を推論する処理と、を含む。本発明を上述した推論
装置の態様で提供することで、データ処理システム300を実装する場合に比して簡単に
種々のソレノイド部3を含む電磁弁1への適用が可能となる。このとき、推論装置が診断
情報を推論する処理を行うに際しては、ここまで本書において説明した、本発明における
、機械学習装置及び機械学習方法によって学習された学習済みモデルを用い、データ処理
システムの推論ユニット302が実施する推論手法を適用してもよいことは、当業者にと
って当然に理解され得るものである。
【0096】
本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範
囲内で種々変更して実施することが可能である。そして、それらはすべて、本発明の技術
思想に含まれるものである。