特許第6783539号(P6783539)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6783539
(24)【登録日】2020年10月26日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】動力断続装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 13/52 20060101AFI20201102BHJP
   F16D 13/69 20060101ALI20201102BHJP
   F16D 48/02 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   F16D13/52 C
   F16D13/69 Z
   F16D48/02 640Z
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-63859(P2016-63859)
(22)【出願日】2016年3月28日
(65)【公開番号】特開2017-180513(P2017-180513A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】特許業務法人太田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100100103
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 明男
(74)【代理人】
【識別番号】100173163
【弁理士】
【氏名又は名称】石塚 信洋
(74)【代理人】
【識別番号】100134522
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 朝子
(74)【代理人】
【識別番号】100135024
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 敢
(72)【発明者】
【氏名】大塚 崇仁
【審査官】 渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−176192(JP,A)
【文献】 特開昭47−20833(JP,A)
【文献】 特開平5−141444(JP,A)
【文献】 実開平6−1888(JP,U)
【文献】 特開2011−64311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/78
F16C 19/18
F16J 15/3232
B60B 35/02
B60B 35/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転部材と、
前記回転部材に対する接続又は解放を切り換え可能なクラッチ部材と、
油圧により前記回転部材または前記クラッチ部材の少なくとも一方を他方に向けて前記回転部材の回転軸方向に押圧する押圧部材と、
前記押圧部材について押圧方向に設けられる磁石と、
前記押圧部材から前記磁石を挟んで前記回転軸方向に設けられ、電流が供給されたときに前記磁石を退ける磁力を発生させる電磁石と、を備え、
前記回転部材と前記クラッチ部材とは、
前記油圧を上昇させ、前記電流を減少させることにより接続され、
前記油圧を低下させ、前記電流を上昇させることにより解放される動力断続装置。
【請求項2】
前記電磁石に発生する磁力は、前記押圧部材による被押圧部材の押圧の際に低下する、
請求項1に記載の動力断続装置。
【請求項3】
前記電磁石に発生する磁力の変化の程度は、時間に応じて変えられる、
請求項1又は2に記載の動力断続装置。
【請求項4】
前記磁石は、前記押圧部材に固定される、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の動力断続装置。
【請求項5】
前記磁石は、前記押圧方向と反対方向に引きつけられる、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の動力断続装置。
【請求項6】
前記電磁石は、磁性体とコイルとを備える、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の動力断続装置。
【請求項7】
前記磁性体の磁力の向きと前記電磁石から前記磁石へ向かう方向とが一致するように、前記電磁石が設けられる、
請求項6に記載の動力断続装置。
【請求項8】
前記磁性体及び前記磁石を前記回転軸方向に見たときに、前記磁性体が前記磁石内に重なる、
請求項6又は7に記載の動力断続装置。
【請求項9】
前記磁石と前記電磁石との間には空間が設けられる、
請求項1〜8のいずれか1項に記載の動力断続装置。
【請求項10】
前記電磁石は、回転しない部材に固定される、
請求項1〜9のいずれか1項に記載の動力断続装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力断続装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の動力伝達に関する技術の発展に伴い、動力の伝達態様を制御するための様々な動力断続装置が開発されている。当該動力断続装置としては、回転部材とクラッチ部材との間の摩擦力によって回転部材とクラッチ部材とを接続させることにより動力を伝達させる装置がある。
【0003】
このような動力断続装置では、回転部材とクラッチ部材との接続が解放される(以下、クラッチが解放される、とも表現する。)際に、ドラグトルクにより当該接続が解放されにくくなることがある。
【0004】
これに対し、特許文献1では、回転部材とクラッチ部材とが常時連結され、当該クラッチ部材とギヤ部材とが噛み合い部を介して連結され、電磁石を用いて当該クラッチ部材を吸引することにより当該噛み合い部の連結を解除させる動力断続装置に係る発明が開示されている。このように、特許文献1では、摩擦力ではなく噛み合いによって動力が伝達されるため、接続の解放が妨げられにくくなると考えられている。
【0005】
また、リターンスプリングを用いて回転部材とクラッチ部材との接続の解放を促す技術を利用することが考えられる。例えば、クラッチが解放される際に、リターンスプリングによる反発力が作用することにより、回転部材とクラッチ部材とが離隔され、接触しなくなる。従って、クラッチが解放されやすくなると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−149724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1で開示される発明は、摩擦力によって回転部材とクラッチ部材とが接続される(以下、クラッチが締結される、とも称する。)動力断続装置に適用できないため、当該動力断続装置における上述したドラグトルクによる接続の解放が妨げられるといった問題が依然として解消されていなかった。
【0008】
また、リターンスプリングが用いられる場合には、クラッチの締結が不安定になるおそれがある。例えば、クラッチが締結される際にも、リターンスプリングによる反発力は作用する。そのため、クラッチの締結に要される押圧力すなわち油圧(以下、締結点の油圧とも称する。)が高くなる。そのため、油圧が締結点の油圧に達するまでに時間がかかり、クラッチの締結の遅れが生じる。また、油圧が締結点に達していない間はクラッチの締結が不安定であるため、ショックが発生するおそれもある。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、摩擦力によって動力が伝達される動力断続装置において回転部材とクラッチ部材との接続の解放を円滑化することが可能な、新規かつ改良された動力断続装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、回転部材と、前記回転部材に対する接続又は解放を切り換え可能なクラッチ部材と、油圧により前記回転部材または前記クラッチ部材の少なくとも一方を他方に向けて前記回転部材の回転軸方向に押圧する押圧部材と、前記押圧部材について押圧方向に設けられる磁石と、前記押圧部材から前記磁石を挟んで前記回転軸方向に設けられ、電流が供給されたときに前記磁石を退ける磁力を発生させる電磁石と、を備え、前記回転部材と前記クラッチ部材とは、前記油圧を上昇させ、前記電流を減少させることにより接続され、前記油圧を低下させ、前記電流を上昇させることにより解放される動力断続装置が提供される。
【0013】
また、前記電磁石に発生する磁力は、前記押圧部材による被押圧部材の押圧の際に低下してもよい。
【0014】
また、前記電磁石に発生する磁力の変化の程度は、時間に応じて変えられてもよい。
【0015】
また、前記磁石は、前記押圧部材に固定されてもよい。
【0016】
また、前記磁石は、前記押圧方向と反対方向に引きつけられてもよい。
【0017】
また、前記電磁石は、磁性体とコイルとを備えてもよい。
【0018】
また、前記磁性体の磁力の向きと前記電磁石から前記磁石へ向かう方向とが一致するように、前記電磁石が設けられてもよい。
【0019】
また、前記磁性体及び前記磁石を前記回転軸方向に見たときに、前記磁性体が前記磁石内に重なってもよい。
【0020】
また、前記磁石と前記電磁石との間には空間が設けられてもよい。
【0021】
また、前記電磁石は、回転しない部材に固定されてもよい。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように本発明によれば、摩擦力によって動力が伝達される動力断続装置において回転部材とクラッチ部材との接続の解放を円滑化することが可能な動力断続装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】リターンスプリングを用いた動力断続装置の概略的な構成の例を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る動力断続装置の概略的な全体構成の例を示す図である。
図3】電磁アクチュエータの全体を図2に示したX軸方向と反対方向から見た図である。
図4】本発明の一実施形態に係る動力断続制御装置の概略的な機能構成の例を示すブロック図である。
図5】本発明の一実施形態に係る動力断続制御装置の処理の例を概念的に示すフローチャートである。
図6】本発明の一実施形態に係る動力断続装置の動作例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0025】
<1.序論>
まず、本発明の一実施形態に係る動力断続装置の発明経緯について説明する。動力断続装置は概して、回転部材とクラッチ部材とを備え、当該回転部材とクラッチ部材との接続を制御することにより動力の伝達を制御する。図1は、リターンスプリングを用いた動力断続装置の概略的な構成の例を示す図である。
【0026】
例えば、図1に示したように、動力断続装置10は、シャフト12、クラッチドラム14、ピストン16、ディッシュプレート18、フリクションプレート20、ストッパープレート22、スナップリング23、クラッチプレート24、クラッチハブ26、ギヤ28、30および32ならびにリターンスプリング34を備える。なお、以下では、シャフト12、クラッチドラム14、ピストン16、ディッシュプレート18、フリクションプレート20、ストッパープレート22およびスナップリング23をまとめてドラム側とも称する。また、クラッチハブ26ならびにギヤ28、30および32をまとめてハブ側とも称する。
【0027】
クラッチドラム14、フリクションプレート20、ストッパープレート22およびスナップリング23は、シャフト12に入力される動力に応じて回転する。また、ピストン16は、油圧によりシャフト12の回転軸方向に動かされ、ディッシュプレート18を押圧する。ディッシュプレート18は、ピストン16に押圧されると、フリクションプレート20を押圧しクラッチプレート24に接触させる。
【0028】
このように、フリクションプレート20とクラッチプレート24とが接触することにより、ドラム側の回転が摩擦力によってクラッチプレート24に伝達される。そして、クラッチプレート24と接続されるクラッチハブ26ならびにギヤ28、30および32すなわちハブ側に動力が伝達される。
【0029】
ここで、このような摩擦力によって動力が伝達される動力断続装置では、クラッチが解放される際に、ドラグトルクによりクラッチが解放されにくくなることがある。
【0030】
これに対し、リターンスプリング34を用いてドラム側とハブ側との接続の解放を促す技術を利用することが考えられる。例えば、クラッチが解放される際に、リターンスプリング34による反発力が作用することにより、ピストン16がディッシュプレート18の押圧方向と反対方向に押し返される。そのため、ディッシュプレート18が押圧していたフリクションプレート20とクラッチプレート24とが離隔され、接触しなくなる。その結果、ドラム側とハブ側との接続が解放される。
【0031】
しかし、当該技術では、クラッチが締結される際にもリターンスプリング34による反発力が作用し、クラッチの締結に要される押圧力すなわち締結点の油圧が高くなる。そのため、油圧が締結点の油圧に達するまでに時間がかかり、クラッチの締結の遅れが生じる。また、油圧が締結点に達していない間はクラッチの締結が不安定であるため、ショックが発生するおそれもある。
【0032】
そこで、本発明の一実施形態では、摩擦力によって動力が伝達される動力断続装置において回転部材とクラッチ部材との接続の解放を円滑化することが可能な動力断続装置100を提案する。
【0033】
<2.本発明の一実施形態に係る動力断続装置>
以上、本発明の一実施形態に係る動力断続装置100の発明経緯について説明した。次に、本発明の一実施形態に係る動力断続装置100について説明する。
【0034】
<2−1.全体構成>
まず、図2を参照して、動力断続装置100の全体構成について説明する。図2は、本発明の一実施形態に係る動力断続装置100の概略的な全体構成の例を示す図である。
【0035】
図2に示したように、動力断続装置100は、シャフト102、クラッチドラム104、ピストン106、ディッシュプレート108、フリクションプレート110、ストッパープレート112、スナップリング113、クラッチプレート114、クラッチハブ116、第1のピニオンギヤ118、第2のピニオンギヤ(図示せず。)、サンギヤ120、リングギヤ122および電磁アクチュエータ130を備える。例えば、動力断続装置100は、湿式クラッチ方式(湿式多板クラッチ方式)の動力断続装置であってよい。
【0036】
シャフト102は、動力源において発生する動力を伝達する。具体的には、シャフト102は、エンジンまたはモータなどにより発生する回転トルクに応じて回転する回転軸を備え、回転トルクをシャフト102と溶接により接合されるクラッチドラム104に伝達する。
【0037】
また、シャフト102は、動力断続装置100が湿式クラッチ方式の装置である場合、潤滑油を通す領域を有してもよい。具体的には、シャフト102内部には、クラッチドラム104内部へつながる空間が設けられ、当該空間を通じてクラッチドラム104内部へ潤滑油が流入される。
【0038】
クラッチドラム104は、ドラム側の部材を格納し、シャフト102からの回転トルクに応じて回転する。具体的には、クラッチドラム104は、ピストン106、ディッシュプレート108、フリクションプレート110、ストッパープレート112およびスナップリング113を格納する。クラッチドラム104は、溶接により接合されるシャフト102から伝達される回転トルクによって回転する。
【0039】
ピストン106は、押圧部材として、ディッシュプレート108を押圧する。具体的には、ピストン106は、油圧機構400による油圧を受けてシャフト102の回転軸方向に前後進する。例えば、ピストン106は、油圧機構400の油圧ポンプなどから吐出される作動油を介して押圧されることにより、回転軸の一方の方向すなわち図2に示したX軸方向に移動させられる。それにより、ディッシュプレート108がピストン106により押圧される。
【0040】
ディッシュプレート108は、回転部材の一部として、フリクションプレート110とクラッチプレート114とを接続させる。具体的には、ディッシュプレート108は、ピストン106により押圧されることにより、フリクションプレート110をクラッチプレート114に向かって押圧する。その結果、フリクションプレート110とクラッチプレート114とが接続される。なお、フリクションプレート110の回転トルクがディッシュプレート108により一時的に緩和され、回転トルクが緩和された状態でフリクションプレート110とクラッチプレート114とが接触する。このため、フリクションプレート110とクラッチプレート114の回転トルクに差がある場合であっても、フリクションプレート110とクラッチプレートとを滑らかに接続させることができる。
【0041】
フリクションプレート110は、回転部材の一部として、クラッチプレート114との接続によりドラム側の回転トルクを伝達する。具体的には、フリクションプレート110は、接続されるクラッチドラム104の回転と共に回転し、ディッシュプレート108の押圧によりクラッチプレート114と接続される。より具体的には、フリクションプレート110の外側のスプラインとクラッチドラム104の内側のスプラインとが嵌合されることにより、フリクションプレート110とクラッチドラム104とは接続される。また、ディッシュプレート108の押圧によりフリクションプレート110とクラッチプレート114とが接触し、摩擦力が生じることにより、ドラム側の回転トルクがクラッチプレート114に伝達され、クラッチプレート114が回転する。例えば、フリクションプレート110は、複数設けられてもよく、その場合、クラッチプレート114も複数設けられる。図2に示したように、フリクションプレート110とクラッチプレート114とがX軸方向に交互に組合せられる。
【0042】
スナップリング113は、クラッチドラム104をカバーする。具体的には、スナップリング113は、クラッチドラム104に内蔵される各種プレートの外側に設置され、クラッチドラム104に固定される。例えば、スナップリング113は、図2に示したようにクラッチドラム104の内部に設けられるフリクションプレート110、クラッチプレート114およびストッパープレート112よりも外側に設けられる。これにより、フリクションプレート110、クラッチプレート114およびストッパープレート112などがクラッチドラム104の外部へ抜け出ることを防止することができる。
【0043】
クラッチプレート114は、クラッチ部材の一部として、ドラム側の回転トルクをハブ側に伝達する。具体的には、クラッチプレート114は、クラッチハブ116と接続され、フリクションプレート110との接続により得られる回転トルクをクラッチハブ116へ伝達する。より具体的には、クラッチプレート114の内側のスプラインとクラッチハブ116の外側のスプラインとが嵌合されることにより、クラッチプレート114とクラッチハブ116とが接続される。また、フリクションプレート110との接触により生じる摩擦力により、クラッチプレート114が回転する。それにより、クラッチプレート114と接続されるクラッチハブ116が回転する。なお、上述したようにクラッチプレート114は複数設けられてよい。
【0044】
クラッチハブ116は、ドラム側の回転トルクを出力軸に伝達する。具体的には、クラッチハブ116は、接続されるクラッチプレート114の回転に応じて回転し、接続される出力軸にスプラインを介して回転トルクを伝達する。例えば、クラッチハブ116は、クラッチプレート114と接続される部位(以下、入力部位とも称する。)と、出力軸に接続される部位(以下、出力部位とも称する。)と、を備える。また、入力部位と出力部位との間に第1のピニオンギヤ118、第2のピニオンギヤ、サンギヤ120およびリングギヤ122が設けられる。第1のピニオンギヤ118はサンギヤ120と噛み合わされ、第2のピニオンギヤはリングギヤ122と噛み合わされる。このように、第1のピニオンギヤ118、第2のピニオンギヤ、サンギヤ120およびリングギヤ122を備えるダブルピニオン式プラネタリギヤが構成される。そして、入力部位と出力部位とは第1のピニオンギヤ118および第2のピニオンギヤを通じたキャリアで接続される。また、サンギヤ120はシャフト102とスプラインを介して接続される。
【0045】
車両が前進する場合には、フリクションプレート110とクラッチプレート114とが接触し、クラッチドラム104の回転がクラッチハブ116に伝達される。言い換えると、クラッチが締結される。これにより、シャフト102、クラッチドラム104、クラッチハブ116の入力部位、第1のピニオンギヤ118、第2のピニオンギヤ、サンギヤ120および出力部位が一体となって回転する。そして、出力部位と接続される出力軸に回転トルクが伝達される。車両が後進する場合には、シャフト102に連結されるサンギヤ120にシャフト102の回転トルクが伝達されてサンギヤ120が回転する。なお、この場合では、クラッチハブ116の入力部位と接続されるクラッチプレート114とフリクションプレート110とは離隔し、接触していない。言い換えると、クラッチは開放されている。また、リングギヤ122は、図示しないブレーキ(例えば多板ブレーキ)によって固定される。それにより、第1のピニオンギヤ118および第2のピニオンギヤは、サンギヤ120の回転に応じてサンギヤ120の周りを前進時と反対方向に回る。そして、出力部位と接続される出力軸に前進時と反対方向の回転トルクが伝達される。
【0046】
電磁アクチュエータ130は、クラッチドラム104の内部に設置され、クラッチが解放される際にピストン106を押し戻す。なお、詳細については後述する。
【0047】
<2−2.電磁アクチュエータ>
次に、本発明の一実施形態に係る動力断続装置100の備える電磁アクチュエータ130について詳細に説明する。
【0048】
電磁アクチュエータ130は、電磁石140および磁石150を備える。具体的には、磁石150は、ピストン106について押圧方向に設けられ、電磁石140は、ピストン106から磁石150を挟んで回転軸方向に設けられる。例えば、磁石150は、図2に示したようにピストン106の内側に固定される。また、電磁石140は、回転しないケースの支柱(図示せず)などに固定され、クラッチハブ116とは図2に示したようなベアリング146(例えば、ニードルベアリングなど)を介して回転可能に固定される。また、図2に示したように、電磁石140と磁石150との間には空間が設けられる。さらに、図3を参照して、電磁アクチュエータ130の構成について詳細に説明する。図3は、電磁アクチュエータ130の全体を図2に示したX軸方向と反対方向から見た図である。
【0049】
電磁アクチュエータ130は、複数の電磁石140および円環状の磁石150を備える。具体的には、複数の電磁石140は、磁石150と重なるように設けられ、複数の電磁石140の各々は等間隔で離隔される。さらに、磁性体144の回転軸方向に垂直な断面は、磁石150の回転軸方向に垂直な断面に相当する。例えば、電磁石140は、図3に示したように、電磁石140の磁性体144の断面が磁石150の断面に収まるような大きさ、形状および配置となるように設けられる。これにより、電磁石140から発生する磁束を電磁石140と磁石150との間の反発力の発生に効率的に用いることができる。なお、当然ながら、磁性体144の断面が磁石150の断面をはみ出してもよい。
【0050】
続いて、電磁石140について詳細に説明する。電磁石140には、磁石150を退ける磁力が発生する。具体的には、ピストン106による押圧から被押圧部材が解放される際に、電磁石140に磁石150を退ける磁力が発生する。例えば、クラッチが解放される際、すなわちピストン106にかかる荷重を生み出す油圧(以下、単にピストン106の油圧とも称する。)が低下する際に、電磁石140に電流が供給されることにより、電磁石140に磁力が発生する。この際に発生する磁束が電磁石140から磁石150に向かう方向であるように、電磁石140および磁石150が設けられる。これにより、電磁石140と磁石150との間で反発力が生じ、ピストン106が押し戻される。当該ピストン106を押し戻す反発力(以下、リターン荷重とも称する。)は、下記の式(1)で算出される。
【0051】
【数1】
【0052】
上記の式(1)における変数および定数は以下の通りである。
F:リターン荷重
N:コイルの巻き数
I:電磁石140に供給される電流
l:ソレノイド長
g:ギャップ長
μ:透磁率
μ:比透磁率
【0053】
ここで、ピストン106を押し戻すリターン荷重は、上記の式(1)が示すように、ギャップ長すなわち電磁石140と磁石150との間の距離に応じて変動する。そのため、電磁石140および磁石150を変えずにギャップ長を変えることにより、要求されるリターン荷重を得ることができる。
【0054】
また、電磁石140に発生する磁力は、ピストン106による被押圧部材の押圧の際に低下する。例えば、クラッチが締結される際、すなわちピストン106の油圧が上昇する際に、電磁石140へ供給される電流が減少する(例えば電流の供給を停止する)ことにより、電磁石140の磁力が低下する。これにより、クラッチが締結される際に、リターン荷重が低減され、円滑なクラッチの締結が可能となる。
【0055】
なお、電磁石140に発生する磁力の変化の程度は、時間に応じて変えられてよい。具体的には、上述したようなクラッチが解放される際には磁力の強さが段階を経て強くなるように磁力が発生させられ、クラッチが締結される際には磁力の強さが段階を経て弱くなるように磁力が低下させられる。例えば、クラッチが解放される際には電磁石140への電流の供給量が段階を経て増加させられ、クラッチが締結される際には電流の供給量が段階を経て低減させられる。なお、電磁石140に供給される電流の制御については後述する。
【0056】
さらに、電磁石140の構成について詳細に説明する。電磁石140は、図2に示したように、コイル142および磁性体144を備える。
【0057】
コイル142は、磁性体144に巻き付けられる。また、コイル142の一方の端部は配線148Aと接続され、コイル142の他方の端部は配線148Bと接続される。
【0058】
磁性体144は、磁化について方向性を有する。例えば、磁性体144は、強磁性体である方向性鉄心であってよい。これにより、電磁石140の飽和磁束密度が高くなる。従って、電磁石140にて発生する磁力を増大させることができ、リターン荷重を増大させることが可能となる。また、電磁石140は、磁性体144の磁化方向と電磁石140から磁石150へ向かう方向とが対応するように設けられる。例えば、電磁石140は、電磁石140の磁化方向と電磁石140から磁石150へ向かう方向とが一致するように設けられる。
【0059】
続いて、磁石150について詳細に説明する。磁石150は、半永久的に磁力を発生させ、ピストン106の押圧方向と反対方向に引きつけられる。例えば、磁石150は、永久磁石であってよく、ピストン106の押圧方向と反対方向に設けられる部材(例えばクラッチドラム104)の材質は強磁性体を含んでよい。なお、磁石150もまた、磁性体を有してよい。例えば、磁石150は、方向性鉄心を有し、当該方向性鉄心と磁石150との接触面の面積は同一あってよい。また、磁石150は1つの円環である例を説明したが、電磁石140と対応する位置に個別に設けられてもよい。
【0060】
<3.本発明の一実施形態に係る動力断続制御装置>
次に、本発明の一実施形態に係る動力断続制御装置200について説明する。
【0061】
<3−1.装置の構成>
まず、図4を参照して、動力断続制御装置200の機能構成について説明する。図4は、本発明の一実施形態に係る動力断続制御装置200の概略的な機能構成の例を示すブロック図である。なお、動力断続制御装置200の機能のうちの動力断続装置100の制御に関わる機能についてのみ説明する。
【0062】
動力断続制御装置200は、図4に示したように、油圧制御部202および電流制御部204を備える。なお、動力断続制御装置200は、TCU(Transmission Control Unit)などのECU(Electronic Control Unit)であってよい。
【0063】
油圧制御部202は、クラッチの締結制御に関する油圧機構400を制御する。具体的には、油圧制御部202は、ギヤのセレクト操作に応じてピストン106の油圧を制御する。例えば、油圧制御部202は、シフトレバーユニット300からクラッチ締結指令を受けると、油圧機構400に油圧を上昇させる指令を出力する。また、油圧制御部202は、シフトレバーユニット300からクラッチ解放指令を受けると、油圧機構400に油圧を低下させる指令を出力する。
【0064】
電流制御部204は、油圧制御に応じて電磁アクチュエータ130への電流の供給を制御する。具体的には、電流制御部204は、ピストン106の油圧の向上に応じて電磁アクチュエータ130への電流の供給量を低減させる。例えば、電流制御部204は、上記油圧の増加が開始されると同時にまたはその前に、段階を経て電流の供給量を低減させる。詳細には、油圧の増加が開始されまたは動力断続制御装置200がクラッチ締結指令を受けると、電流制御部204は、電流の供給量の低減を開始する。電流制御部204は、まず電流の供給量を第1の低下率で低減させる。そして、電流制御部204は、所定量まで電流の供給量が減るかまたは所定の時間が経過すると、電流の供給量を第1の低下率よりも小さい第2の低下率で低減させる。なお、油圧が閾値以上まで増加した際に電流の供給量が低減させられてもよい。
【0065】
また、具体的には、電流制御部204は、当該油圧の低下に応じて電流の供給量を増加させる。例えば、電流制御部204は、上記油圧が閾値以下まで低下すると、段階を経て電流の供給量を増加させる。詳細には、閾値以下まで油圧が低下すると、電流制御部204は、電流の供給を開始する。電流制御部204は、まず電流の供給量を第1の増加率で増加させる。そして、電流制御部204は、所定量まで電流の供給量が増加するかまたは所定の時間が経過すると、電流の供給量を第1の増加率よりも大きい第2の増加率で増加させる。
【0066】
なお、電流制御部204は、上述したギヤのセレクト操作に応じて電流の供給を制御してもよい。
【0067】
<3−2.装置の処理>
次に、図5を参照して、動力断続制御装置200の処理について説明する。図5は、本発明の一実施形態に係る動力断続制御装置200の処理の例を概念的に示すフローチャートである。
【0068】
動力断続制御装置200は、クラッチ締結指令が取得されたかを判定する(ステップS502)。具体的には、油圧制御部202および電流制御部204は、シフトレバーユニット300からクラッチ締結指令を受けたかを判定する。
【0069】
クラッチ締結指令が取得されたと判定されると、動力断続制御装置200は、電磁アクチュエータ130への電流の供給量を減らす(ステップS504)。具体的には、クラッチ締結指令を受けたと判定されると、電流制御部204は、電磁アクチュエータ130への電流の供給量を低減させる。
【0070】
次に、動力断続制御装置200は、ピストン106の油圧を油圧機構400に上昇させる(ステップS506)。具体的には、油圧制御部202は、電流の供給量が低減されると同時にまたはその後に、ピストン106の油圧を油圧機構400に上昇させる指令を出力する。
【0071】
ステップS502にてクラッチ締結指令が取得されていないと判定されると、動力断続制御装置200は、クラッチ解放指令が取得されたかを判定する(ステップS508)。具体的には、油圧制御部202は、シフトレバーユニット300からクラッチ解放指令を受けたかを判定する。
【0072】
クラッチ解放指令が取得されたと判定されると、動力断続制御装置200は、ピストン106の油圧を油圧機構400に低下させる(ステップS501)。具体的には、クラッチ解放指令を受けたと判定されると、油圧制御部は、ピストン106の油圧を油圧機構400に低下させる指令を出力する。
【0073】
次に、動力断続制御装置200は、電磁アクチュエータ130への電流の供給量を増やす(ステップS512)。具体的には、電流制御部204は、油圧が閾値低下まで低下すると、電磁アクチュエータ130への電流の供給を開始する。なお、油圧の低下の開始またはクラッチ解放指令の取得から所定の時間経過後に、電流の供給が開始されてもよい。
【0074】
<4.動作例>
以上、本発明の一実施形態に係る動力断続装置100および動力断続制御装置200について説明した。次に、図6を参照して、動力断続装置100の動作例について説明する。図6は、本発明の一実施形態に係る動力断続装置100の動作例を示すグラフである。
【0075】
動力断続装置100は、ギヤのセレクト操作によりクラッチ締結指令を受けると、電磁アクチュエータ130への電流の供給量の低減を開始し、ピストン106の油圧の上昇を開始する(時間t1)。例えば、動力断続装置100は、シフトレバーユニット300からクラッチ締結指令が取得されると、電磁アクチュエータ130への電流の供給量を減らすと共に、ピストン106の油圧を油圧機構400に上昇させ始める。それにより、ピストン106がディッシュプレート108を押圧し始め、フリクションプレート110とクラッチプレート114とが接触し始める。従って、ドラム側からハブ側へ伝達される回転トルク(以下、クラッチ伝達トルクとも称する。)が上昇し始める。
【0076】
また、動力断続装置100は、電流の供給量を段階的に減らす(時間t1−t2)。例えば、動力断続装置100は、クラッチ締結指令が取得されると、まず所定量まで電流の供給量を減らす。そして、動力断続装置100は、時間t1から時間t2まで時間をかけて緩やかに電流の供給量を低減させていく。ここで、低油圧時において電流の供給量が急峻に低減されると、ピストン106にかかるリターン荷重が一気に抜けてしまい、ピストン106が回転軸方向に振動する場合がある。この場合、フリクションプレート110とクラッチプレート114とが振動に応じて細かく接触、離隔を繰り返すことにより、クラッチ伝達トルクのチャタリングが発生しかねない。これに対し、低減の程度が時間に応じて小さくなるように電流の供給量が低減させられることにより、クラッチ伝達トルクのチャタリングを防止することができる。
【0077】
そして、動力断続装置100は、油圧が最高値まで達するまで油圧を上昇させる(時間t1−t3)。例えば、動力断続装置100は、ピストン106にかかるリターン荷重を減らす一方で、油圧を最高値まで上昇させていく。油圧が最高値に達すると、クラッチ伝達トルクも最高値に達する。ピストン106にかかるリターン荷重がないまたは小さいため、リターンスプリングが動力断続装置に用いられる場合と比べて、クラッチ伝達トルクが最高値に達するのに要する油圧が低くなる。従って、リターンスプリングが動力断続装置に用いられる場合と比べて、クラッチ伝達トルクの上昇にかかる時間すなわちクラッチ締結までにかかる時間を短縮することができる。
【0078】
次に、動力断続装置100は、ギヤのセレクト操作によりクラッチ解放指令を受けると、ピストン106の油圧の低下を開始する(時間t4)。例えば、動力断続装置100は、シフトレバーユニット300からクラッチ解放指令が取得されると、ピストン106の油圧を油圧機構400に低下させ始める。それにより、ピストン106がディッシュプレート108を押圧する力が低下し始め、フリクションプレート110とクラッチプレート114との間の摩擦力が低下し始める。従って、クラッチ伝達トルクが低下し始める。
【0079】
そして、動力断続装置100は、油圧が閾値以下まで低下すると、電磁アクチュエータ130への電流の供給を開始する(時間t5)。例えば、動力断続装置100は、油圧が閾値以下または最低値まで低下すると、電磁アクチュエータ130への電流の供給を開始する。ここで、油圧が低下しても、フリクションプレート110とクラッチプレート114との間の残存する摩擦力によりドラグトルクが発生し、フリクションプレート110とクラッチプレート114との接続すなわちクラッチの締結が解放されない場合がある。そこで、動力断続装置100は、電磁アクチュエータ130へ電流を供給することにより電磁アクチュエータ130からピストン106へのリターン荷重を発生させ、ピストン106を押圧方向と反対方向に押し戻す。それにより、フリクションプレート110とクラッチプレート114との接続が解放され、ドラグトルクによるクラッチの締結を解放することができる。
【0080】
また、動力断続装置100は、電流の供給量を段階的に増やす(時間t5−t6)。例えば、動力断続装置100は、油圧が閾値以下に低下すると、まず時間t5から時間t6まで時間をかけて所定量に達するまで緩やかに電流の供給量を増やす。そして、動力断続装置100は、供給量が所定量まで達すると、電流の供給量を最大値まで増加させる。ここで、低油圧時において電流の供給量が急峻に増加すると、ピストン106にかかるリターン荷重が急激に増えてしまい、ピストン106が回転軸方向に振動する場合がある。そのため、クラッチ締結の場合と同様に、クラッチ伝達トルクのチャタリングが発生しかねない。これに対し、増加の程度が時間に応じて大きくなるように電流の供給量が増加させられることにより、クラッチ伝達トルクのチャタリングを防止することができる。
【0081】
<5.むすび>
以上、本開示の一実施形態によれば、動力断続装置100は、回転部材と、当該回転部材と接続されるクラッチ部材と、当該回転部材または当該クラッチ部材の少なくとも一方を他方に向けて当該回転部材の回転軸方向に押圧する押圧部材と、当該押圧部材について押圧方向に設けられる磁石と、当該押圧部材から当該磁石を挟んで当該回転軸方向に設けられる電磁石と、を備える。
【0082】
従来では、電磁石を用いてクラッチ部材を吸引することによりクラッチ部材と回転部材との摩擦力による接続を解放していたが、ドラグトルクが発生した場合に当該接続を解放できるだけの吸引力を装置の大型化なしで実現することが困難であった。特に、湿式クラッチ方式の動力断続装置においては、潤滑油の粘着性を原因として回転部材とクラッチ部材と接続が解放されにくくなることがある。
【0083】
これに対し、動力断続装置100によれば、電磁石140と磁石150とを備える電磁アクチュエータ130により押圧部材たるピストン106を押し戻すことができる。そのため、電磁石140および磁石150の両方の磁力を利用してピストン106を押し戻すことにより、リターン荷重を従来よりも増加させることができる。それにより、ピストン106の押圧によるフリクションプレート110とクラッチプレート114との接続をより確実に解放することができる。従って、装置の大型化なしに摩擦力によって動力が伝達される動力断続装置において回転部材とクラッチ部材との接続の解放を円滑化することが可能となる。
【0084】
また、上記電磁石に上記磁石を退ける磁力が発生する。このため、ピストン106を押し戻すリターン荷重を制御することができる。従って、リターンスプリングにより常時リターン荷重がピストン106にかかる場合と比べてリターン荷重による油圧の増加を抑制することができ、油圧制御にかかる時間を短縮することが可能となる。さらに、リターンスプリングなしで上述したドラグトルクによるクラッチの締結を抑制することができる。また、動力断続装置100が前後進機構を有する場合には、リターンスプリングなしで前進機構および後進機構の両方に同時に回転トルクが伝達されることを抑制することができる。
【0085】
また、上記押圧部材による押圧から被押圧部材が解放される際に、上記電磁石に上記磁石を退ける磁力が発生する。このため、クラッチが解放される際に、ピストン106にリターン荷重がかかることにより、ドラグトルクによるクラッチの締結を回避することができる。従って、回転トルクの伝達がクラッチ解放指令に即して行われることにより、クラッチ解放指令に係る操作に対する応答性を向上させることが可能となる。
【0086】
また、上記電磁石に発生する磁力は、上記押圧部材による被押圧部材の押圧の際に低下する。このため、クラッチが締結される際に、リターン荷重がピストン106にかからないことにより、油圧制御にかかる時間を短縮することができる。従って、回転トルクの伝達がクラッチ締結指令に即して行われることにより、クラッチ締結指令に係る操作に対する応答性を向上させることが可能となる。
【0087】
また、上記電磁石に発生する磁力の変化の程度は、時間に応じて変えられる。低油圧時において電流の供給量が急峻に変化すると、ピストン106にかかるリターン荷重が一気に変動してしまい、ピストン106が回転軸方向に振動する場合がある。この場合、フリクションプレート110とクラッチプレート114とが振動に応じて細かく接触、離隔を繰り返すことにより、クラッチ伝達トルクのチャタリングが発生しかねない。これに対し、時間に応じて電流の供給量の変化の程度が変わることにより、クラッチ伝達トルクのチャタリングを防止することができる。従って、当該動力断続装置100が搭載される車両においてチャタリングによる振動が抑制されることにより、車両の乗員に不快感を与えるおそれを低下させることが可能となる。
【0088】
また、上記磁石は、上記押圧部材に固定される。このため、磁石150がピストン106に固定されることにより、ピストン106をリターン荷重によって確実に押圧することができる。また、電磁石140と磁石150との対応がずれるおそれを抑制することができ、リターン荷重をより確実に発生させることが可能となる。
【0089】
また、上記磁石は、上記押圧方向と反対方向に引きつけられる。このため、電磁石140と磁石150との間の反発力によるリターン荷重に加えて、磁石150の磁力によりピストン106の外側の部材(例えばクラッチドラム104)が吸引される力を利用することができる。従って、ピストン106のリターン荷重をさらに増大させることが可能となる。
【0090】
また、上記電磁石は、磁性体とコイルとを備える。このため、電磁石140がコイル142単体である場合と比べて磁束を収束させることができる。従って、電磁石140と磁石150との間の反発力すなわちピストン106のリターン荷重を増大させることが可能となる。
【0091】
また、上記磁性体は、磁化について方向性を有し、上記電磁石は、上記方向性に係る方向と上記電磁石から上記磁石へ向かう方向とが対応するように設けられる。このため、磁性体144が方向性を有しない場合と比べて磁束を揃えることができる。従って、電磁石140と磁石150との間の反発力すなわちピストン106のリターン荷重を増大させることが可能となる。
【0092】
また、上記磁性体の上記回転軸方向に垂直な断面は、上記磁石の上記回転軸方向に垂直な断面に相当する。このため、電磁石140から放出される磁束と磁石150から放出される磁束とを対応させることができる。従って、反発力の発生についての磁束の利用効率を向上させることが可能となる。
【0093】
また、上記磁石と上記電磁石との間には空間が設けられる。上述したように、リターン荷重はギャップ長すなわち電磁石140と磁石150との距離に応じて変化する。そこで、電磁石140と磁石150との間に設けられる空間を調節することにより、得られるリターン荷重を調節することができる。従って、要求されるリターン荷重が異なる車両について構成要素が同一である電磁アクチュエータ130を利用することができ、コストの低減が可能となる。
【0094】
また、上記電磁石は、回転しない部材に固定される。このため、コイル142への電流供給をブラシなしで実現することができる。従って、動力断続装置100の構成の簡素化およびコストの低減が可能となる。
【0095】
また、上記磁石は、磁性体を備える。このため、磁石150の磁束を収束させることができる。従って、電磁石140と磁石150との間の反発力すなわちピストン106のリターン荷重をさらに増大させることが可能となる。
【0096】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0097】
例えば、上記実施形態では、ハブ側に電磁石140が固定され、ドラム側に磁石150が固定されるとしたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、コイル142の配線が可能であれば、ドラム側に電磁石140が固定され、ドラム側に磁石150が固定されてもよい。
【0098】
また、上記実施形態では、電磁石140が回転しない部材に固定される例を説明したが、電磁石140は回転する部材に固定されてもよい。例えば、電磁石140はクラッチハブ116と一体として固定され、配線148はブラシを用いてコイル142と接続されてよい。
【0099】
また、上記の実施形態のフローチャートに示されたステップは、記載された順序に沿って時系列的に行われる処理はもちろん、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的にまたは個別的に実行される処理をも含む。また時系列的に処理されるステップでも、場合によっては適宜順序を変更することが可能であることは言うまでもない。
【0100】
また、動力断続制御装置200に内蔵されるハードウェアに上述した動力断続制御装置200の各機能構成と同等の機能を発揮させるためのコンピュータプログラムも作成可能である。また、当該コンピュータプログラムが記憶された記憶媒体も提供される。
【符号の説明】
【0101】
100 動力断続装置
102 シャフト
104 クラッチドラム
106 ピストン
108 ディッシュプレート
110 フリクションプレート
112 ストッパープレート
113 スナップリング
114 クラッチプレート
116 クラッチハブ
118 第1のピニオンギヤ
120 サンギヤ
122 リングギヤ
130 電磁アクチュエータ
140 電磁石
142 コイル
144 磁性体
146 ベアリング
148 配線
150 磁石
200 動力断続制御装置
202 油圧制御部
204 電流制御部
300 シフトレバーユニット
400 油圧機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6