特許第6783550号(P6783550)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6783550
(24)【登録日】2020年10月26日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】高屈曲ヒータ線及び面状発熱体
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/56 20060101AFI20201102BHJP
   H05B 3/10 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   H05B3/56 B
   H05B3/10 A
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-100841(P2016-100841)
(22)【出願日】2016年5月19日
(65)【公開番号】特開2017-208275(P2017-208275A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2019年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003414
【氏名又は名称】東京特殊電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】中山 毅安
(72)【発明者】
【氏名】仲條 裕一
(72)【発明者】
【氏名】田中 大介
(72)【発明者】
【氏名】北沢 弘
(72)【発明者】
【氏名】小池 千秋
(72)【発明者】
【氏名】宮原 正平
【審査官】 石黒 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 韓国公開実用新案第20−2009−0010665(KR,U)
【文献】 韓国登録特許第10−1065115(KR,B1)
【文献】 韓国登録特許第10−1335598(KR,B1)
【文献】 韓国登録特許第10−1249191(KR,B1)
【文献】 特開平9−260041(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2014−0019958(KR,A)
【文献】 韓国登録特許第10−1335599(KR,B1)
【文献】 特開2015−115316(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2019−0098458(KR,A)
【文献】 韓国登録特許第10−1639299(KR,B1)
【文献】 韓国登録特許第10−1642236(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/56
H05B 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束又は繊維糸からなる芯材と、該芯材の外周に複数本の発熱線を撚り合わせて周回ごとの空間なく設けられた発熱部と、該発熱部の外周に設けられた、繊維束又は繊維糸からなる緩衝層と、該緩衝層の外周に溶融押出で設けられた絶縁被覆層とを有し、横断面の扁平率が0.1以下の高屈曲ヒータ線である、ことを特徴とする高屈曲ヒータ線。
【請求項2】
前記発熱線は、発熱素線と該発熱素線の外周に設けられた絶縁皮膜とからなり、前記発熱素線の直径が0.02mm以上0.2mm以下の範囲内であり、前記発熱線の本数が14本以上200本以下の範囲内である、請求項1に記載の高屈曲ヒータ線。
【請求項3】
前記発熱部は、前記芯材の外周に2層又は3層に巻かれた前記発熱線で構成されている、請求項1又は2に記載の高屈曲ヒータ線。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の高屈曲ヒータ線を基材に配設した、ことを特徴とする面状発熱体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈曲ヒータ線及び面状発熱体に関し、さらに詳しくは、自動車等に用いられる高屈曲性のヒータ線、及びそれを用いた面状発熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒータ線は、電気カーペット、電気毛布等の暖房製品や、シートヒータ、ステアリングヒータ等の車両用暖房部材の発熱源として利用され、それぞれの用途に応じた形態が提案されている。一般的な引き揃えた状ヒータ線としては、ポリアミド繊維束からなる芯材上に、絶縁被覆された導体素線を引き揃えられた状態で巻き、その外周に絶縁層を押出形成したものが知られている。
【0003】
こうしたヒータ線において、絶縁被覆された導体素線としてエナメル線を用いた場合、絶縁被膜であるポリウレタン樹脂やポリイミド樹脂等の硬質材料は、表面の滑りが悪く、ヒータ線が屈曲等の外力を受けた際、導体素線とその外周に形成される絶縁体層等との摩擦力等により導体素線に応力が加わるため、繰り返しの屈曲により導体素線の断線が生じ易いという問題があった。
【0004】
特許文献1では、そうした問題を解決すべく、導体素線の外周をフッ素樹脂被覆したことで絶縁体層との摩擦力を小さくし、屈曲等の外力を受けても導体素線に応力が加わりにくくなり、その結果、導体素線が少なくとも1本切れるまでの屈曲回数が2万回以上とすることができたというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−20951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
暖房製品や暖房部材に用いられるヒータ線は、高屈曲性が求められており、特に車両用暖房部材に用いられるヒータ線では、屈曲特性試験で20万回以上の高い信頼性が求められている。
【0007】
上記従来のヒータ線110では、図4(A)に示すように、繊維束からなる芯線101上に絶縁被覆素線102を引き揃えられた状態で横巻きする場合、各線間を均等になるようにつめて並べて巻装すると、製造途中で線同士の乗り上げ等が発生し易かったことから、揃えられた絶縁被覆素線102を周回ごとに若干の空間105を空けて巻いている。この巻き形態では、図4(B)に示すように、ヒータ線110の中央に対して絶縁被覆素線102は常に偏った位置に配置されることになる。そのため、同じ個所を繰り返し屈曲させたときに、各素線102にかかる応力は均等とならずに偏ってしまい、特定の素線102に応力集中して断線し易くなってしまう。特に外側の絶縁体層104の厚さが薄かったり絶縁体層104が無かったりする場合、空間105が支点になって屈曲すると、その反対側の素線に応力がかかり易くなって断線し易くなる。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、高い屈曲性を示す高屈曲ヒータ線、及びそれを用いた面状発熱体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る高屈曲ヒータ線は、繊維束又は繊維糸からなる芯材と、該芯材の外周に複数本の発熱線を4mm以上12mm以下の範囲のピッチで撚り合わせて設けられた発熱部と、該発熱部の外周に設けられた絶縁被覆層とを有する、ことを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、芯材の外周には複数本の発熱線を撚り合わせた発熱部が設けられているので、従来のように芯材が露出した周回ごとの空間がない状態で発熱部が設けられている。その結果、引張強度や屈曲特性が著しく向上した高屈曲ヒータ線を提供することができる。また、発熱部は、発熱線を4mm以上12mm以下のピッチで撚り合わせているので、撚りのほどけを抑制できるとともに良好な屈曲特性を有するヒータ線を提供できる。
【0011】
本発明に係る高屈曲ヒータ線において、前記発熱線は、発熱素線と該発熱素線の外周に設けられた絶縁皮膜とからなり、前記発熱素線の直径が0.02mm以上0.2mm以下の範囲内であり、前記発熱線の本数が14本以上200本以下の範囲内であるように構成することが好ましい。
【0012】
この発明によれば、細い発熱線を複数本撚り合わせて発熱部とするので、発熱部を細径化でき、ヒータ線全体の細径化と軽量化と柔軟化を実現できる。その結果、このヒータ線を用いて面状発熱体を製造する場合に、面状発熱体を構成するシート基材へのヒータ線の縫い付けが容易に行なえるとともに、最小曲げ半径を小さくすることもできる。また、細い発熱線を複数本撚り合わせて発熱部とするので、従来のような周回ごとの空間がなく、その空間に基づいた応力不均等を低減できるとともに、その空間の存在により生じる表面凹凸を著しく低減することができる。その結果、応力集中を低減して引張強度や屈曲特性を向上させることができる。なお、発熱線は、発熱素線それぞれに絶縁皮膜が被覆されたものであるので、発熱素線間を絶縁でき、仮に断線が発生しても、その部位でヒートスポットが発生することを抑制することができる。
【0013】
本発明に係る高屈曲ヒータ線において、横断面の扁平率が、0.1以下であることが好ましい。
【0014】
この発明によれば、0.1以下の扁平率であるので、各部での強度のバラツキが小さくなっているという利点がある。こうした扁平率を持つ高屈曲ヒータ線は、表面凹凸の低減に由来しているので、ヒータ線を用いて面状発熱体を製造する場合に、面状発熱体を構成するシート基材に縫い付けた固定部が滑り易くなって特定箇所に荷重が集中し難いという利点がある。また、ヒータ線を曲げて配置する時にも局部的な負荷がかからない。その結果、引張強度や屈曲特性を向上させることができる。
【0015】
(2)本発明に係る面状発熱体は、上記本発明に係る高屈曲ヒータ線を基材に配設したことを特徴とする。この発明によれば、信頼性の高い高屈曲ヒータ線を備えた面状発熱体を提供することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、引張強度や屈曲特性が著しく向上した高屈曲ヒータ線を提供することができる。屈曲特性試験で20万回以上の高い屈曲特性を示すことができる。また、信頼性の高い高屈曲ヒータ線を備えた面状発熱体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る高屈曲ヒータ線の一例を示す模式的な説明図である。
図2】本発明に係る高屈曲ヒータ線の模式的な断面図であり、(B)に示す高屈曲ヒータ線は(A)に示す高屈曲ヒータ線よりも発熱線の数を多くしたものである。
図3】本発明に係る高屈曲ヒータ線の他の一例を示す模式的な説明図(A)と断面図(B)である。
図4】従来のヒータ線の模式的な説明図(A)と断面図(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る高屈曲ヒータ線及び面状発熱体について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は図示の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
[高屈曲ヒータ線]
本発明に係る高屈曲ヒータ線10は、図1図3に示すように、繊維束又は繊維糸からなる芯材1と、芯材1の外周に複数本の発熱線3を4mm以上12mm以下のピッチで撚り合わせて設けられた発熱部2と、発熱部2の外周に設けられた絶縁被覆層5とを有している。この高屈曲ヒータ線10は、0.5mm以上1.2mm以下の外径、0.1Ω/m以上4.0Ω/m以下の抵抗範囲において、上記特許文献1で示されている公知形態の面状発熱体のヒータ線として好ましく用いることができる。なお、「有する」とは、本発明の効果を阻害しない範囲でそれ以外の構成が含まれていてもよいことを意味し、例えば、図3に示す緩衝層4等が設けられていてもよいことを意味している。
【0020】
この高屈曲ヒータ線10では、芯材1の外周に複数本の発熱線3を撚り合わせてなる発熱部2が設けられているので、図4に示す従来例のように、芯材101が露出した周回ごとの空間105がない。その結果、引張強度や屈曲特性が向上した高屈曲ヒータ線10を提供することができる。また、発熱部2は、発熱線3を4mm以上12mm以下のピッチで撚り合わせているので、撚りのほどけを抑制できるとともに良好な屈曲特性を有するヒータ線を提供することができる。
【0021】
以下、高屈曲ヒータ線の各構成要素を詳しく説明する。
【0022】
(芯材)
芯材1は、高屈曲ヒータ線10の中心に位置する必須の構成であり、巻芯として機能する高張力体であることが好ましい。芯材1の例としては、複数の繊維からなる繊維糸を束ねた繊維束が好ましく用いられるが、繊維糸だけを用いて芯材1としてもよい。繊維束とするか繊維糸とするかは、芯材1の外径に応じて選択される。繊維束又は繊維糸を構成する繊維としては、強度があり、発熱線3の加熱によっても熱的影響のない耐熱性の繊維であればよく、例えば、テトロン(登録商標)等のポリエステル繊維や、ケブラ(登録商標)等の全芳香族ポリアミド繊維や、ベクトラン(登録商標)等のポリアリレート繊維、ガラス繊維等を挙げることができる。また、芯材1は、異なる材質の繊維や、外径の異なる繊維糸を任意に複合させたものであってもよい。
【0023】
芯材1はこれらの繊維束又は繊維糸を集合線、撚り線又は編み込み線にして同心円状(真円形)の断面になっている。このとき、芯材1をより同心円状(真円形)の断面にするためには、繊維束又は繊維糸を撚り線とすることがより好ましい。芯材1の外径は特に限定されないが、例えば0.17mm以上、0.8mm以下の範囲を例示できる。繊維束や繊維糸からなる芯材1は柔軟で変形し易いことから、芯材1の外径は、芯材1が真円形である場合はその直径とし、芯材1が扁平形である場合はその断面積から真円形の断面積に換算した直径として評価する。また、「dtex」は繊維糸を重量換算で示すものであり、1dtexは、長さ10000mで1gであることを意味する。
【0024】
本発明に係る高屈曲ヒータ線10は、柔軟で強度もある繊維束を芯材1として用いるので、芯材1のないヒータ線に比べて、引張強度や屈曲特性を著しく向上させることができる。
【0025】
(発熱部)
発熱部2は、芯材1の外周に設けられる必須の構成であり、複数本の発熱線3を4mm以上12mm以下のピッチで撚り合わせて設けられている。撚り合わせ形態としては、図1に示すように、芯材1の周りに隙間なく撚り合わせる同心撚り形態が好ましい。
【0026】
図1に示す撚り形態は、図4に示す従来のヒータ線110のように芯材101の外周に線状の発熱線102をスパイラル状に横巻きしたものとはその形態が異なっている。本発明では、芯材1の外周を覆うように複数本の発熱線3を撚り合わせた発熱部2を設けるので、図4に示すように芯材101が露出した周回ごとの空間105がない。その結果、引張強度や屈曲特性が向上した高屈曲ヒータ線10とすることができる。
【0027】
発熱線3は、発熱素線3aと、その発熱素線3aの外周に設けられた絶縁皮膜3bとで構成されている。発熱素線3aは、電流によって発熱する抵抗線であり、その発熱仕様の抵抗値となるように、抵抗線の直径及びその本数を任意に選択して用いることができる。発熱素線3aとしては、例えば、銅線や銅合金線等を挙げることができる。銅合金線としては、CuAg合金、CuSn合金、CuNi合金等を挙げることができる。一方、絶縁皮膜3b(エナメル皮膜ともいう。)としては、耐熱性を有するポリエステルイミド(PEI)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)等を挙げることができる。
【0028】
発熱素線3aは、発熱仕様の抵抗値にすることを前提にして選択され、その直径としては0.02mm以上、0.2mm以下の範囲内であることが好ましい。一方、絶縁皮膜3bの厚さは、一般的なJIS規格で1種、2種、3種の程度であり、その中から任意の厚さを選択することができる。絶縁皮膜3bは発熱素線間を絶縁するので、仮に断線が発生したとしても、その部位でヒートスポットが発生することを抑制することができる。
【0029】
こうした発熱素線3aと絶縁皮膜3bとで構成される発熱線3の直径は、0.03mm以上、0.22mm以下の範囲内であることが好ましい。発熱線3の本数は、抵抗値と直径とを考慮して設計されるが、14本以上、200本以下の範囲内であることが好ましい。上記範囲の細い直径の発熱線3をこの範囲の本数で構成することにより、発熱部2を設けた後の全体の直径を小さくでき、結果として、ヒータ線全体の細径化と軽量化と柔軟化を実現できる。また、細い発熱線3を複数本用いることにより、図4示す従来のような周回ごとの芯材101の露出部(空間)105を無くすことができるので、その露出部(空間)105に起因したヒータ線表面の表面凹凸を著しく低減することができる。本発明では、そうした露出部(空間)105がないので、強度バランスを崩す要因(表面凹凸)を低減でき、その表面凹凸に起因した応力集中を低減して引張強度や屈曲特性を向上させることができる。
【0030】
発熱線3の直径が0.03mm未満では、表面凹凸はより小さくなる点では好ましいが、発熱素線3a自体が細径化して多くの本数が必要になるとともに単線強度の絶対値が小さくなり、直径が0.22mmを超えると、表面凹凸が大きくなってしまう。発熱線3の本数は、発熱線3の抵抗値や直径との関係で決まるものであるが、14本未満では、発熱素線3a自体が大径化して全体の表面凹凸に影響することがあり、200本を超えると、発熱素線3a自体が細径化して多くの本数が必要になるとともに単線強度の絶対値が小さくなることがある。
【0031】
発熱線3の撚りピッチは、4mm以上12mm以下の範囲内であることが好ましい。撚りピッチをこの範囲とすることにより、撚りがほどけることを抑制でき、屈曲特性のバラツキを小さくすることができ、さらに断面が丸くなりやすい。
【0032】
撚りピッチが12mmを超えると、撚りがゆるくなって作業中にほどけるような挙動を示すことがあり、その結果、断面が丸くならない場合もあり、屈曲特性にもバラツキが生じることがある。さらに、例えばマンドレルを用いた屈曲試験時に、マンドレル側の発熱線3は曲がるけれども、マンドレル側でない側の発熱線3は引っ張られて伸び易くなって、繰り返しによって屈曲特性が低下する可能性がある。一方、撚りピッチが4mm未満では、発熱線3をきつめに巻くことになるので、発熱線の重なりが多くなり易く、その結果として断面が丸くならない場合があったり、堅くなって屈曲特性を満たさないか又はバラツキが生じたりすることがある。
【0033】
発熱線3の本数は上記のように14本以上200本以下であるが、撚りピッチが4mm以上12mm以下の範囲内で前記した作用効果を実現できる発熱線3の望ましい本数としては、14本以上、100本以下が好ましい。特に100本を超える場合には、4mm未満で撚ったときの発熱線の重なりが多くなり、その結果として断面が丸くならない場合があったり、堅くなって屈曲特性を満たさないか又はバラツキが生じたりすることがある。
【0034】
(緩衝層)
緩衝層4は、必須の構成ではないが、図3に示すように、発熱部2の外周に設けることができる。緩衝層4は、発熱部2の外周に設けられて、発熱部2の外周表面に現れる発熱線間の凸凹をより一層低減するように作用する。緩衝層4は、例えば繊維束や繊維糸からなる層が好ましい。繊維束や繊維糸については、上記した芯材1の欄で説明したものと同様のものを用いることができる。例えば、芯材1と同様のポリエステル繊維やポリアミド繊維等を用いることができる。この繊維束や繊維糸を横巻糸として発熱部2を覆うように巻き付けたり、撚り合わせたりして設けることができる。
【0035】
緩衝層4の厚さは特に限定されないが、例えば0.02mm以上、0.2mm以下の範囲内とすることができる。緩衝層4として繊維束や繊維糸を用いる場合には、そうした厚さになるように、繊維束や繊維糸の種類や太さを選定する。
【0036】
(絶縁被覆層)
絶縁被覆層5は、発熱部2(緩衝層4が設けられている場合にはその緩衝層4)を覆うように設けられている。例えば、発熱部2を設けた後に、その外周を覆うように例えば樹脂押出等で形成することができる。絶縁被覆層5の構成材料としては、絶縁性があり、耐熱性のある樹脂材料であればよく、例えばポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素系樹脂等を挙げることができる。絶縁被覆層5の厚さは、0.05mm以上、1.0mm以下の程度であればよいが、屈曲特性向上のためには厚い方がよく、例えば0.1mm〜0.3mm程度が好ましい。
【0037】
絶縁被覆層5の厚さは均等であることが好ましいが、絶縁被覆層5は主に樹脂押出で形成されることから、樹脂押出し前の段階である発熱部2又は緩衝層4が設けられた後の表面は、発熱線3に基づいた表面凹凸が小さいことが好ましい。本発明では、複数本の発熱線3を撚り合わせてなる発熱部2を芯材1を覆うように設けているので、図4に示す従来のヒータ線110に比べて細い多本数の発熱線を用いている。そのため、発熱部2の表面の凹凸が小さくなっている。したがって、その外周に絶縁被覆層5を樹脂押出で形成した後の外径も表面凹凸が小さくなり、かつ絶縁被覆層5の厚さも各部で均一になり、その結果、局部的な応力集中を低減でき、屈曲寿命が長くなる。
【0038】
こうして構成される高屈曲ヒータ線10は、その横断面の扁平率は小さくなっているが、その程度は0.1以下であることが好ましい。扁平率は、横断面において、[(最大径−最小径)/最大径]で計算される。上記範囲の扁平率の高屈曲ヒータ線10は、その断面が同心円又は略同心円になっており、表面各部での強度のバラツキが小さくなっているという利点がある。こうした扁平率を持つ高屈曲ヒータ線10は、上記したように発熱線3の撚りピッチを4mm以上12mm以下の範囲内にして断面の形状を丸くし易いことや、絶縁被覆層5の表面凹凸の低減に由来している。その結果、ヒータ線10を用いて面状発熱体を製造する場合に、面状発熱体を構成するシート基材に縫い付けた固定部が滑り易くなって特定箇所に荷重が集中し難いという利点がある。また、面状発熱体の製造時にヒータ線を曲げて配置する時にも局部的な負荷がかからない。その結果、引張強度や屈曲特性の高を向上させることができる。
【0039】
高屈曲ヒータ線10の扁平率が0.1を超えると、例えば最大径の方向に屈曲させた場合と最小径の方向に屈曲させた場合とで屈曲特性に差が生じ、屈曲特性のバラツキが生じ易い。図4に示す従来のヒータ線110では、発熱線間に空間105があることから、空間のない本発明に係る高屈曲ヒータ線10に比べて扁平率が大きくなり、屈曲方向によって屈曲特性に差が生じる。一方、本発明に係る高屈曲ヒータ線10は、空間がなく、扁平率が小さい同心円又は略同心円の断面であるので、屈曲方向によって屈曲特性に差が生じ難い。
【0040】
[面状発熱体]
本発明に係る面状発熱体は、ヒータ線として本発明に係る高屈曲ヒータ線10を適用した他は、上記特許文献1等で示されている公知形態の面状発熱体と同様である。すなわち、本発明に係る面状発熱体は、本発明に係る高屈曲ヒータ線10を基材21に配設しているので、信頼性の高い高屈曲ヒータ線を備えた面状発熱体を提供することができる。
【0041】
面状発熱体としては、各種の用途に用いるものを挙げることができ、例えば、電気カーペット、電気毛布等の暖房製品や、シートヒータ、ステアリングヒータ等の車両用暖房部材を挙げることができ、好ましくは上記特許文献1で提案されている自動車用のシートに装着することができる。自動車用暖房部材としての面状発熱体では、高屈曲ヒータ線は、シート基材に縫い込んで配設されている。
【0042】
本発明に係る高屈曲ヒータ線10は、ヒータ線全体の細径化と軽量化と柔軟化を実現できているので、面状発熱体を構成するシート基材へのヒータ線10の縫い付けが容易になるとともに、最小曲げ半径を小さくすることもできる。
【0043】
シート基材へのヒータ線の縫い付けは、ヒータ線の直径が細く、柔軟であるほど好ましいが、本発明に係る高屈曲ヒータ線10はその両方を満たすので、最小曲げ半径を小さくして縫い込むことができる点で有利である。また、高屈曲ヒータ線10の表面が平滑であるので、面状発熱体のシート基材への固定部が滑り易く、特定箇所に荷重が集中し難く、ヒータ線が曲げられた場合であっても、表面凸凹(直径変動)による局部的な負荷がかからない。その結果、断線が生じ難く、屈曲試験での屈曲特性を向上させることができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳しくて説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【0045】
[実施例1]
芯材1として、ポリアリレート繊維からなる繊維糸(280dtex、外径約0.17mm)を1本用いた。なお、1dtexとは、長さ10000mで1gの繊維のことである。この芯材1上に、直径0.05mmの発熱素線3aに厚さ0.006mmのポリエステルイミド皮膜(絶縁皮膜3b)が設けられた直径0.06mmの発熱線3を32本用い、図1及び図2(A)に示すようにピッチ12mmで撚り合わせて発熱部2とした。このときの発熱素線3aはCuSn合金線を用い、32本の抵抗が約0.3Ω/mになるものを採用した。次に、溶融押出しによって、ナイロン樹脂(絶縁被覆層5)を厚さ0.25mmで形成し、直径が0.93mmのヒータ線10を作製した。得られたヒータ線10の表面の凹凸は僅かであり、扁平率は0.03であり、丸線形状であった。
【0046】
[実施例2]
実施例1において、直径0.05mmの32本の発熱素線3aに代えて、直径0.08mmの14本の発熱素線3aを用いた。このときの抵抗は約0.3Ω/mである。それ以外は実施例1と同様にして実施例2のヒータ線10を作製した。最終的な高屈曲ヒータ線10の直径は0.96mmであった。得られたヒータ線10の表面の凹凸は実施例1よりも少し大きかったが均等であり、扁平率は0.04であり、丸線形状であった。
【0047】
[実施例3]
実施例1において、直径0.05mmの32本の発熱素線3aに代えて、直径0.05mmの60本の発熱素線3aを用いた。このときの抵抗は約0.15Ω/mである。それ以外は実施例1と同様にして実施例3のヒータ線10を作製した。最終的な高屈曲ヒータ線10の直径は0.97mmであった。得られたヒータ線10の表面の凹凸は僅かであり、扁平率は0.04であり、丸線形状であった。
【0048】
[実施例4]
実施例1において、発熱部2の上に、ポリエステル繊維からなる繊維糸(280dtex、外径約0.17mm)を6本束ねて撚り合わせた緩衝層4(厚さ:0.07mm)を設け、その上に溶融押出しによって、ナイロン樹脂を厚さ0.10mmで形成した。それ以外は実施例1と同様にして実施例4のヒータ線10を作製した。最終的な高屈曲ヒータ線10の直径は0.77mmであった。得られたヒータ線10の表面の凹凸は実施例1よりも小さく、扁平率は0.02であり、丸線形状であった。
【0049】
[実施例5]
実施例4において、ナイロン樹脂の厚さを0.10mmから0.15mmに変更した外は実施例4と同様にして実施例5のヒータ線10を作製した。最終的な高屈曲ヒータ線10の直径は0.87mmであった。得られたヒータ線10の表面の凹凸は実施例4よりも小さく、扁平率は0.01であり、丸線形状であった。
【0050】
[実施例6]
実施例1において、発熱線3の撚りピッチを12mmから4mmに変更した他は、実施例1と同様にして実施例6のヒータ線10を作製した。得られたヒータ線10の表面の凹凸は僅かであり、扁平率は0.03であり、丸線形状であった。
【0051】
[実施例7]
実施例1において、直径0.05mmの32本の発熱素線3aに代えて、直径0.05mmの60本の発熱素線3aを用いた。さらに、発熱線3の撚りピッチを12mmから4mmに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして実施例7のヒータ線10を作製した。得られたヒータ線10の表面の凹凸は僅かであり、扁平率は0.04であり、丸線形状であった。
【0052】
[比較例1]
芯材101として、ポリアリレート繊維からなる繊維糸(560dtex、外径約0.27mm)を1本用いた。この芯材101上に、直径0.1mmの発熱素線に厚さ0.01mmの絶縁皮膜が設けられた直径0.12mmの発熱線102を7本引き揃え、その状態で芯材101の外周に横巻した。横巻きの際には、図4に示すように、線の重なりを防ぐために引き揃えた7本束の隙間(空間105)を1.0mm空けてピッチ2.0mmで横巻きした。このときの発熱素線はCu線を用い、7本の抵抗が約0.3Ω/mになるようにした。次に、溶融押出しによって、ナイロン樹脂(絶縁被覆層105)を厚さ0.21mmで形成し、直径が0.90mmのヒータ線110を作製した。得られたヒータ線の表面の凹凸は大きく、実施例1との比較ではかなりの違いがあり、扁平率も0.12であり、少し扁平した形状であった。
【0053】
[比較例2]
芯材は使用せず、直径0.080mmの発熱素線に厚さ0.01mmのポリエステルイミド皮膜(絶縁皮膜)が設けられた直径0.10mmの発熱線102を14本用い、ピッチ12mmで撚った。このときの発熱素線はCuSn合金線を用い、14本の抵抗が約0.3Ω/mになるようにした。次に、溶融押出しによって、ナイロン樹脂を厚さ0.25mmで形成し、直径が0.92mmのヒータ線を作製した。得られたヒータ線の表面の凹凸は実施例2よりもやや大きく、扁平率は0.05であり、丸線形状であった。なお、比較例2のヒータ線は、芯材がないことから、剛性があって硬く、柔軟性の点で劣っていた。
【0054】
[比較例3]
実施例1において、発熱線3の撚りピッチを12mmから2mmに変更した他は、実施例1と同様にして比較例3のヒータ線を作製した。得られたヒータ線の表面の凹凸は僅かであったが、扁平率は0.12であり、少し扁平した形状であった。
【0055】
[比較例4]
実施例1において、発熱線3の撚りピッチを12mmから16mmに変更した他は、実施例1と同様にして比較例4のヒータ線を作製した。得られたヒータ線の表面の凹凸は僅かであり、扁平率は0.06であり、丸線形状であった。
【0056】
[特性評価]
各実施例と比較例について屈曲試験を行った。屈曲試験は、半径5mmのマンドレルの間に各実施例と比較例で作製したヒータ線を挟み、マンドレルと垂直方向に両側90度ずつの屈曲を1回として屈曲回数を測定した。屈曲回数の評価は、発熱線が1本切れるまでの回数とした。切断の有無は、各発熱線の抵抗値を計測して行った。
【0057】
実施例1〜7のヒータ線は、いずれも屈曲回数20万回を超えたので、超えた時点で測定は終了した。一方、比較例1のヒータ線は、屈曲回数が5万回であり、比較例2のヒータ線は、屈曲回数が7万回であり、いずれも20万回まで到達しなかった。また、比較例3,4のヒータ線も、いずれも20万回まで到達しなかった。
【0058】
なお、扁平率は、得られた各ヒータ線をエポキシ樹脂に埋め込んだ後に断面研磨し、その横断面を光学顕微鏡で観察して最大径と最小径を出し、[(最大径−最小径)/最大径]で計算して求めた。
【符号の説明】
【0059】
1 芯材(繊維束又は繊維糸)
2 発熱部
3 発熱線
3a 発熱素線
3b 絶縁皮膜(エナメル皮膜)
4 緩衝層(繊維束又は繊維糸)
5 絶縁被覆層
10,10A,10B 高屈曲ヒータ線
101 芯材
102 発熱線(絶縁被覆素線)
104 絶縁被覆層
105 空間(芯材の露出部)
110 ヒータ線
図1
図2
図3
図4