(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、ガラス板への樹脂分の付着が低減できるガラス合紙、及びこのようなガラス合紙の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた発明は、パルプ繊維を主成分とし、界面活性剤及びサイズ剤が内添されている基紙を有し、上記サイズ剤のSP値が7以上10以下であるガラス合紙である。
【0008】
当該ガラス合紙は、界面活性剤と、所定のSP値を有するサイズ剤とが内添されているため、ガラス板へのシリコーン等の樹脂分の付着を低減することができる。この理由は定かでは無いが、以下の理由が推察される。シリコーンオイル等のシリコーンのSP値は、通常、7以上10以下である。そのため、同様の7以上10以下のSP値を有するサイズ剤はシリコーンとの相溶性が高く、界面活性剤と共に、油分であるシリコーンを核として形成されるミセル構造体を特に微細に形成することができる。この微細なミセル構造体は、得られるガラス合紙中でパルプ繊維表面に強く固着されるため、ガラス表面へのシリコーン等の付着が抑制される。また、ガラス表面へシリコーン等が付着した場合においても、界面活性剤等と共にミセル構造体として付着するため、水等の洗浄によって比較的容易に洗い流すこともできる。
【0009】
上記サイズ剤がロジン系サイズ剤であることが好ましい。所定のSP値を有するロジン系サイズ剤を用いることにより、ガラス板表面の汚染防止機能をより高めることができる。ロジン系サイズ剤は、所定のSP値を満足すれば、製紙分野で従来公知のものであって、特に限定されない。ロジン系の物質は、例えばガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等のロジン類をフマル酸、マレイン酸、アクリル酸等のα,β−不飽和カルボン酸あるいはその無水物で変性した強化ロジンや、上記ロジン類をグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン等の多価アルコールを反応させて得られるロジンエステルを挙げることができる。また、ロジン系サイズ剤には、これらの単独またはその混合物をエマルジョン化したもの、単独でエマルジョン化した後に混合したものも含まれる。さらに、上記エマルジョン化したものに、サイズ発現性をより向上させるために各種ポリマーを添加したものも含まれる。
【0010】
上記界面活性剤が非イオン性界面活性剤であることが好ましい。非イオン性界面活性剤を用いることにより、ガラス板表面の汚染防止機能をより高めることができる。非イオン性界面活性剤としては、多価アルコールの脂肪酸エステル、多価アルコールの脂肪酸エステルのアルキレンオキシド付加物、脂肪酸アミド及び脂肪酸アミドのアルキレンオキシド付加物、アルキルアミンのアルキレンオキシド付加物、アルコール、アルコールのアルキレンオキシド付加物、炭素数2〜4のオキシアルキレン基を構成単位とするポリアルキレングリコールであり、好ましくは炭素数3〜4のオキシアルキレン基を構成単位に有するポリアルキレングリコール等が挙げられる。これらの中でも、脂肪酸系でシリコーンを含まない液状の自己乳化型の界面活性剤がより好ましい。
【0011】
上記パルプ繊維がドライパルプであることが好ましい。ドライパルプとは、原料パルプ製造後一旦乾燥してなる、乾燥履歴を有するパルプをいう。当該ガラス合紙は、片艶紙であることが好ましい。片艶紙は、通常、抄紙後ヤンキードライヤーで加熱乾燥することにより得られるものであり、一方の面が高光沢化された艶面にされている。ヤンキードライヤーでの加熱乾燥の際、基紙中に残存するシリコーン等の樹脂分は、蒸発する水分と共に非艶面側へ移動する。特に、当該ガラス合紙においては、特定のサイズ剤を用いて微細なミセル構造体を形成しているため、非艶面側への移動が効率的に生じさらにパルプ繊維表面に強固に固着される。そのため、艶面に残存するシリコーン等の樹脂分は少なくなり、ガラス面に艶面が密着しても、シリコーン等の樹脂分のガラスへの転移しにくくなる。また、非艶面は、平滑度が低く表面に凹凸があるため、ガラスへの密着性が低く、また移動したシリコーン等の樹脂分はパルプ繊維に強固に固着されているため、ガラスへの転移は低減される。
【0012】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、パルプ繊維を主成分とし、界面活性剤及びサイズ剤を含むパルプスラリーを抄紙する工程を含み、上記サイズ剤のSP値が7以上10以下であり、上記パルプスラリーにおける界面活性剤のパルプ繊維に対する含有量が0.1kg/パルプt以上6kg/パルプt以下であり、上記パルプスラリーにおけるサイズ剤のパルプ繊維に対する含有量が3kg/パルプt以上8kg/パルプt以下であるガラス合紙の製造方法である。
【0013】
当該製造方法によれば、基紙中に界面活性剤と、所定のSP値を有するサイズ剤とが内添された、ガラス板へのシリコーン等の樹脂分の付着が低減されたガラス合紙を得ることができる。また、当該製造方法によれば、抄紙の際に、所定のSP値を有するサイズ剤と界面活性剤とが油分であるシリコーンを核とする微細なミセル構造体を形成し、このミセル構造体は微細なため系外(基紙外)に排出されやすい。これにより、基紙に残存するシリコーン等の油分自体を低減することができ、ガラス基板への樹脂分の付着が低減されたガラス合紙を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ガラス板への樹脂分の付着が低減できるガラス合紙、及びこのようなガラス合紙の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係るガラス合紙及びその製造方法について詳説する。
【0016】
<ガラス合紙>
当該ガラス合紙は、パルプ繊維を主成分とし、界面活性剤及びサイズ剤が内添されている基紙を有し、上記サイズ剤のSP値が7以上10以下である。
【0017】
(パルプ繊維)
上記パルプ繊維は、基紙の主成分を構成する。主成分とは、質量基準で最も含有量の多い成分をいう。上記パルプ繊維としては、特に限定されず広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、古紙パルプ(DIP)、機械パルプ(TMP)等を1種類又は2種類以上を混合して用いることができる。
【0018】
特に、好適に用いえるパルプは、公知の円網或いは長網と多筒ドライヤーとを組み合わせた抄紙機、パルプマシン或いはシート形成装置とその他の熱風乾燥装置とを組み合わせたパルプマシンにおいて、木材からパルプ化工程を経て得られた原料パルプを、乾燥処理し、水分含有量が3〜25%の範囲(絶乾パルプ重量当り)、好ましくは5〜20%の範囲に乾燥されたドライパルプが好適に用いられる。水分が5〜20%に乾燥されたドライパルプは、紙にした際に伸縮率の低減に効果があるばかりでなく吸水率の低減に極めて有効であり、更に片艶紙として抄造することでガラス合紙として適した寸法安定性を得ることができる。
【0019】
さらに、ドライパルプは、湿潤状態で形成されたパルプ繊維の絡み状態が乾燥後も残り易く、乾燥履歴を持たない湿潤状態の木材からパルプ化工程を経て得られた原料パルプから抄紙した紙と比較し、ガラス合紙として用いられる際に必要とされるクッション性や平滑性が発現され易く、特に片艶紙として抄紙後の空隙率が高く成りやすく、本発明で所望とする作用効果が発現されるものと推定される。
【0020】
なお、パルプの水分含有量を3%未満まで乾燥するとパルプ繊維の劣化が生じるので適さない場合があり、水分含有量が25%を越えるとパルプ繊維の分子内の水分を除去することができないので、パルプ化工程を経て得られた原料パルプと同等の品質になり寸法安定性を向上させるのに寄与しないので不適となる場合がある。
【0021】
これらのパルプ繊維の中でも、洗浄度が要求されるガラス板に対し、漂白処理を施し、樹脂分を低くコントロールされた針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)及び広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)が好ましく、LBKPがより好ましい。全パルプ繊維中のLBKPの含有量としては、80質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、100質量%がさらに好ましい。
【0022】
上記パルプ繊維のフリーネスの下限としては、450mLが好ましく、500mLがより好ましく、520mLがさらに好ましい。一方、この上限としては、650mLが好ましく、600mLがより好ましく、550mLがさらに好ましい。フリーネスが上記下限未満の場合は、密度が上がるため、基紙内に樹脂分が残留しやすく、ガラス板への樹脂分の付着が十分に低減しなくなる場合がある。逆に、フリーネスが上記上限を超える場合は、パルプ繊維の結束による地合ムラが発生しやすく、部分的に樹脂分が残留しやすくなる場合が有り、この結果、ガラス板への樹脂分の付着が十分に低減しなくなる場合がある。
【0023】
(界面活性剤)
界面活性剤は、パルプスラリー中において、サイズ剤と共にシリコーン等の樹脂分を核としてミセル構造体を形成し、一部は抄紙の際に基紙外に排出され、他の一部は基紙内に残存する。また、基紙中に樹脂分と共にミセル構造体として存在する界面活性剤は、ガラス板表面に付着した場合も、ぬれ性の高い界面活性剤であるため容易に洗い流すことができる。従って、ガラス板の洗浄性及び清浄性を高めることができる。
【0024】
上記界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤(アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩等)、アニオン性界面活性剤(アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等)、両性界面活性剤(アルキルジメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタイン等)、非イオン性界面活性剤等を挙げることができるが、非イオン性界面活性剤がより好ましい。非イオン性界面活性剤を、pHが7以上10以下のサイズ剤と併用することで、シリコーン等の油分を核とするミセル構造体がより微細化し、抄紙の際に基紙外に排出されやすくなると共に、ガラス板に付着した場合の洗浄性も高まる。
【0025】
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル等の脂肪酸エステルや、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等の高級アルコール系界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のアルキルフェノール系界面活性剤などを挙げることができる。これらの中でも、ガラス板の清浄性をより高めることができるなどの観点からは、脂肪酸エステルが好ましい。
【0026】
(サイズ剤)
SP値が7以上10以下の上記サイズ剤は、シリコーンとの相溶性が高く、界面活性剤と共に、油分であるシリコーンを核として形成されるミセル構造体を特に微細なサイズに形成することができる。この微細なミセル構造体は、得られるガラス合紙中でパルプ繊維表面に強く固着されるため、ガラス表面へのシリコーン等の付着が抑制される。また、ガラス表面へシリコーン等が付着した場合においても、界面活性剤等と共にミセル構造体として付着するため、水等の洗浄によって比較的容易に洗い流すこともできる。
【0027】
上記SP値の下限としては、8が好ましく、8.5がより好ましく、9がさらに好ましい。また、上記SP値の上限としては、9.5がより好ましい。SP値が上記範囲であることで、シリコーン等とのより微細なミセル構造体を形成することができるなどの理由により、当該ガラス合紙の清浄性等をより高めることができる。
【0028】
なお、SP値(Solubility parameter:溶解性パラメーター)とは、2成分系正則溶液(Regular solution)の凝集エネルギー密度の平方根(単位(cal:cm
−3)
1/2)をいい、「最新紙加工便覧」(昭和63年8月20日、テックタイムス発行)の第523〜524行に記載の方法により算出することができる。
【0029】
SP値が7以上10以下のサイズ剤としては、SP値が7.5のワックス系化合物(荒川工業社の「サイズパインW−116H」)、SP値が8.5のロジン系化合物(ミサワセラミックス社の「RFサイズ880L−50」)、SP値が9.3のロジン系化合物(荒川化学工業社の「サイズパインE−50」)、SP値が9.7のポリエチレンイミン系樹脂(ビーエーエスエフジャパン社の「ポリミンSN」)などを挙げることができる。
【0030】
上記サイズ剤の中でも、ロジン系サイズ剤(ロジン系化合物)が好ましい。ロジン系サイズ剤を用いた場合、シリコーン等とのより微細なミセル構造体を形成することができるなどの理由により、ガラス板表面の汚染防止機能をより高めることができる。
【0031】
上記サイズ剤は、アルカリ性のサイズ剤であることが好ましい。理由は以下の通りである。当該ガラス合紙の紙面pHは、3以上6以下、より好ましくは3以上5以下になるように調整することが好ましい。紙面pHが3未満となるよう硫酸バンドを添加すると、パルプ繊維が凝集しフロックが発生し易くなるため地合が悪くなり、ガラス板の搬送時に傷が入り易くなる。硫酸バンドは、地合のことを考えると添加しないことが望ましいが、ドライヤー剥離性や定着性などを考慮すると添加を行う場合がある。このようなサイズ剤を用いることで、ガラス合紙の紙面pHを効果的に好適な範囲に調整することができる。このようなアルカリ性のサイズ剤としては、下記式で表されるロジン(アビエチン酸)と無水マレイン酸との反応生成物(マレイン化ロジン)が挙げられる。
【0033】
なお、このマレイン化ロジンは、一分子中に複数のカルボキシ基(酸無水物基を含む)を有するため、パルプ繊維への定着性も高く、樹脂分を核とするミセル構造体をパルプ繊維表面に強く付着させることができる。このため、このようなサイズ剤を用いた場合、ガラス板表面へのミセル状の樹脂分の付着をより低減させることもできる。このようなアルカリ性のマレイン化ロジンとしては、具体的には、荒川化学工業社の「サイズパインE」、「サイズパインE−50」、「サイズパインE−K」、「サイズパインE−K−50」等を挙げることができる。
【0034】
また、上記界面活性剤として非イオン性の界面活性剤を用い、かつ、上記サイズ剤として非イオン性のサイズ剤を用いることが好ましい。このように共に非イオン性の成分を用いることで、シリコーン等との親和性がより高まり、より微細なミセル構造体を形成することができる。従ってこの場合、抄紙の際に効果的に基紙外へこのミセル構造体を排出して樹脂分の含有量を低減させることができると共に、基紙内へ残ったミセル構造体もパルプ繊維表面に強く付着し、ガラス板への付着を抑制することができる。非イオン性のサイズ剤としては、荒川化学工業社の「サイズパインE」、「サイズパインE−50」、「サイズパインE−K」、「サイズパインE−K−50」等を挙げることができる。
【0035】
(その他の成分等)
当該ガラス合紙の基紙においては、上記界面活性剤及びサイズ剤以外の内添剤を内添させることができる。このような内添剤としては、硫酸バンド、消泡剤、ドライヤー剥離剤等を挙げることができる。但し、これらの内添剤のガラス板への転移を少なくするために、ドライヤー剥離等に影響が出ない範囲で、極力少ないほうが好ましい。
【0036】
当該ガラス合紙は、上記基紙の他、他の塗工層等を有していてもよいが、上記基紙のみから構成されていることが好ましい。当該ガラス合紙が基紙のみから構成されていることにより、ガラス板に対する樹脂分の付着などをより抑制することができる。
【0037】
(平滑度等)
当該ガラス合紙は、片艶紙であることが好ましい。片艶紙は、通常、ヤンキードライヤーでの加熱乾燥により得られ、一方の面のみが艶面(光沢を有する面)である紙をいう。ヤンキードライヤーにより加熱乾燥することにより、基紙中に残存するシリコーン等は、サイズ剤等と共に溶融し、定着される。これにより、ガラス板表面への樹脂分の付着がより低減されたガラス合紙となる。また、ヤンキードライヤーでの加熱乾燥の際、基紙中に残存するシリコーン等の樹脂分は、蒸発する水分と共に非艶面側へ移動する。このため、特に非艶面側は、ガラス板表面との密着性が良好であることに加え、ガラス板表面への樹脂分の付着が低減される。
【0038】
片艶紙であるか否かは、表面及び裏面の平滑度で定義することもできる。例えば、表面のベック平滑度(秒)が、裏面のベック平滑度(秒)の5倍以上、好ましくは10倍以上のものを片艶紙とみなすことができる。
【0039】
表面(艶面)の具体的なベック平滑度の下限としては、50秒が好ましく、100秒がより好ましく、150秒がさらに好ましい。一方、この上限としては、300秒であってよく、200秒であってもよい。また、裏面(非艶面)のベック平滑度の下限としては、1秒が好ましく、2秒がより好ましく、5秒がさらに好ましい。一方、この上限としては、30秒であってよく、20秒であってもよく、10秒であってもよい。
【0040】
(坪量)
当該ガラス合紙の坪量の下限としては、30g/m
2が好ましく、40g/m
2がより好ましい。一方、この上限としては、100g/m
2が好ましく、80g/m
2がより好ましい。坪量が上記下限未満の場合は、緩衝性が低下するおそれなどがある。逆に、坪量が上記上限を超える場合は、ハンドリング性が低下し、また、コスト高となる。
【0041】
(使用方法等)
当該ガラス合紙は、ガラス板の輸送や保管時などに、複数のガラス板の間に挿入することにより、ガラス板を保護するガラス合紙として用いられる。すなわち、当該ガラス合紙とガラス板とが交互に積層されてなる積層体が、輸送又は保管される。上記ガラス板としては、液晶テレビ、プラズマテレビ、タブレット、スマートフォンなどのフラットパネルディスプレイに用いられるガラス基板等を挙げることができる。なお、当該ガラス合紙を挿入する際、特に、ガラス板において特に傷や異物の付着が少ないことが望まれる側の面(例えば、透明電導膜等の加工を施す側の面)と、当該ガラス合紙の艶面とが接触するように挿入することが好ましい。艶面はガラス板との密着性が高く、また、上述のように当該ガラス合紙においては、艶面側の樹脂分の存在量が低減されている。従って、艶面と接触している側の面の傷や異物の付着を効果的に抑制することができる。
【0042】
当該ガラス合紙は、上述のように、ガラス板表面への樹脂分の付着を低減し、ガラス板表面の清浄性を高めることができる。従って、当該ガラス合紙は、人が近い距離で視認し、特に高い清浄性が要求されるタブレットやスマートフォン用のガラス板用のガラス合紙として特に好適に用いることができる。
【0043】
<ガラス合紙の製造方法>
当該ガラス合紙の製造方法は特に限定されないが、以下の方法により効果的に製造することができる。すなわち、本発明の一実施形態に係るガラス合紙の製造方法は、パルプ繊維を主成分とし、界面活性剤及びサイズ剤を含むパルプスラリーを抄紙する工程を含み、上記サイズ剤のSP値が7以上10以下であり、上記パルプスラリーにおける界面活性剤のパルプ繊維に対する含有量が0.1kg/パルプt以上6kg/パルプt以下であり、上記パルプスラリーにおけるサイズ剤のパルプ繊維に対する含有量が3kg/パルプt以上8kg/パルプt以下である。なお、「パルプt」とは、乾燥状態のパルプ繊維1tに対する添加量をいう。
【0044】
当該製造方法によれば、基紙中に界面活性剤と、所定のSP値を有するサイズ剤とが内添された、ガラス板へのシリコーン等の樹脂分の付着が低減されたガラス合紙を得ることができる。また、当該製造方法によれば、抄紙の際に、所定のSP値を有するサイズ剤と界面活性剤とが油分であるシリコーンを核とする微細なミセル構造体を形成し、このミセル構造体は微細なため系外(基紙外)に排出されやすい。これにより、基紙に残存するシリコーン等の油分自体を低減することができ、ガラス基板への樹脂分の付着が低減されたガラス合紙を得ることができる。
【0045】
上記パルプスラリーに含有されるパルプ繊維、界面活性剤及びサイズ剤は、上述したとおりである。
【0046】
上記パルプスラリーにおける界面活性剤のパルプ繊維に対する含有量の下限は、0.1kg/パルプtであるが、0.3kg/パルプtが好ましく、0.5kg/パルプtがより好ましく、0.8kg/パルプtがさらに好ましく、1kg/パルプtが特に好ましい。一方、この上限は、6kg/パルプtであるが、4kg/パルプtが好ましく、2kg/パルプtが好ましく、1.5kg/パルプtが好ましい。界面活性剤の添加量が上記下限未満の場合は、十分にパルプスラリー中の樹脂分等が系外に排出されないことや、残存するミセル構造体がパルプ繊維に十分に定着しないことなどにより、ガラス板への樹脂分の付着が十分に低減されない。一方、界面活性剤の添加量が上記上限を超える場合は、効果が頭打ちとなり、また、ガラス板への界面活性剤の付着量が増え、清浄性が逆に低下する場合がある。
【0047】
上記パルプスラリーにおけるサイズ剤のパルプ繊維に対する含有量の下限は、3kg/パルプtであるが、4kg/パルプtが好ましい。一方、この上限は、8kg/パルプtであるが、6kg/パルプtが好ましく、5kg/パルプtがより好ましい。サイズ剤の添加量が上記下限未満の場合は、十分にパルプスラリー中の樹脂分等が系外に排出されないことや、残存するミセル構造体がパルプ繊維に十分に定着しないことなどにより、ガラス板への樹脂分の付着が十分に低減されない。一方、サイズ剤の添加量が上記上限を超える場合は、効果が頭打ちとなり、また、ガラス板へのサイズ剤の付着量が増え、清浄性が逆に低下する場合がある。
【0048】
上記パルプスラリーにおいては、上記界面活性剤及びサイズ剤以外の他の内添剤が添加されていてもよいが、他の内添剤の添加量としては、10kg/パルプt以下が好ましく、8kg/パルプ以下がより好ましい。他の内添剤の添加量を少なくすることにより、基紙中の樹脂分を低減し、ガラス板への樹脂分の付着を低減することができる。
【0049】
上記抄紙は、長網抄紙機等を用いた公知の方法で行うことができる。
【0050】
当該製造方法においては、上記抄紙工程後のパルプスラリー(基紙)をヤンキードライヤーにより加熱乾燥する工程をさらに有することが好ましい。ヤンキードライヤーにより加熱乾燥することにより、基紙中に残存するシリコーン等は、サイズ剤等と共に溶融し、パルプ繊維に強固に定着される。これにより、ガラス板表面への樹脂分の付着がより低減されたガラス合紙を得ることができる。また、ヤンキードライヤーでの加熱乾燥の際、基紙中に残存するシリコーン等の樹脂成分は、蒸発する水分と共に非艶面側へ移動する。このため、特に非艶面側は、ガラス板表面との密着性が良好であることに加え、ガラス板表面への樹脂分の付着が低減される。
【0051】
<その他の実施形態>
本発明のガラス合紙及びその製造方法は、上記実施の形態の記載に限定されるものではない。例えば、抄紙後の乾燥をヤンキードライヤー以外の乾燥機により乾燥させることもできる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
本実施例で行った品質及び性能の評価方法は以下のとおりである。
【0054】
[坪量(g/m
2)]
JIS−P8142(1998)に記載の「紙及び板紙−坪量測定方法」に準拠して測定した。
【0055】
[ベック平滑度(秒)]
JIS−P8119(1998)に記載の「ベック平滑度の測定方法」に準拠して測定した。
【0056】
[フリーネス(mL)]
得られたガラス合紙をJIS−P8220に準拠して離解して離解パルプとし、この離解パルプをJIS−P8121に準拠して測定した。
【0057】
[ガラス板への異物の付着量(洗浄前)]
サイズ650×550×0.7mm厚の液晶ディスプレイ用無アルカリガラス板を46枚用意し、各々のガラス片を0.01モル/リットルのNaOH水溶液に30秒間浸漬した後、水洗し窒素ブロワーを吹き付けて乾燥した。次に、このガラス板を2枚ずつ23組に分け、各々、2枚のガラス板の間に、得られたガラス合紙各々を挟み、搬送パレット上に平置きした。そして、この状態で20℃、80%RHの恒温恒湿度雰囲気下で10日間保持した。次に、各々の2枚組みのガラス板のうち、艶面及び非艶面に接触した面のガラス板それぞれを10×10cm角に切り出し、艶面及び非艶面と接触した面における異物付着を目視にて、以下の基準で判定した。
◎:艶面及び非艶面側とも汚れ・キズは一切見受けられなかった。
○:光を照らし、僅かに油膜状の付着が見られるが、使用には差し支えのない範囲と判断される。
△:油膜状の付着が僅かに見られたが、使用には差し支えのない範囲と判断される。
×:油膜状の汚れが散見される。
【0058】
[ガラス板への異物の付着量(洗浄後)]
上記[ガラス板への異物の付着量(洗浄前)]で切り出したガラス板を、更に20℃の純水の流水下(3リットル/分)で30秒間シャワーで水洗いした後、窒素ブロアーにて乾燥させた。次に、このガラス板の艶面及び非艶面との接触面における異物付着を目視で判定した。評価基準は、上記[ガラス板への異物の付着量(洗浄前)]と同様である。
【0059】
実施例に用いたサイズ剤を以下に示す。
サイズ剤A:SP値が7.5のワックス系化合物(荒川工業社の「サイズパインW−116H」)
サイズ剤B:SP値が8.5のロジン系化合物(ミサワセラミックス社の「RFサイズ880L−50」)
サイズ剤C:SP値が9.3のロジン系化合物(荒川化学工業社の「サイズパインE−50」)
サイズ剤D:SP値が9.7のポリエチレンイミン系樹脂(ビーエーエスエフジャパン社の「ポリミンSN」)
サイズ剤a:SP値が6.2のフッ素化合物(明成化学工業社の「アサヒガードAG−550」)
サイズ剤b:SP値が7.2のフッ素系撥水剤(ポリクロロトリフルオロエチレン水分散体
サイズ剤c:SP値が10.5のポリスチレン−アクリル共重合物(荒川化学工業社の「ポリマロン1308S」)
サイズ剤d:SP値が23.4のポリビニルアルコール系樹脂(クラレ社の「クラレポバールPVA−117」)
【0060】
実施例に用いた界面活性剤を以下に示す。
非イオン性界面活性剤:脂肪酸エステル(星光PMC社のDF6300)
カチオン性界面活性剤:ポリアルキレンポリアミン脂肪酸エピクロルヒドリン(東邦化学社製のソフノンP−400)
アニオン性界面活性剤:硫酸エステル(第一工業製薬社製のハイテノールLA10)
【0061】
[実施例1]
LBKPの原料パルプに、サイズ剤としてサイズ剤Aを4.5kg/パルプt、非イオン性界面活性剤を1kg/パルプt、及び硫酸バンドを5kg/パルプt添加し、原料としてのパルプスラリーを得た。このパルプスラリーを長網抄紙機にて抄紙し、ワイヤー面をヤンキー乾燥機にて艶面(表面)とし、実施例1のガラス合紙を得た。実施例1のガラス合紙の坪量は60.0g/m
2、フリーネスは530mLであった。また、表面のベック平滑度は164秒、裏面のベック平滑度は7秒であった。
【0062】
[実施例2〜17、比較例1〜6]
添加したサイズ剤及び界面活性剤の種類及び量を表1の通りとしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜17、比較例1〜6のガラス合紙を得た。なお、各ガラス合紙のフリーネス、坪量及びベック平滑度(表面及び裏面)は実施例1と同様であった。
【0063】
[評価]
得られた各ガラス合紙に対して、上記方法にて、ガラス板への異物の付着量を評価した。評価結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示されるように、各実施例のガラス合紙は、ガラス板への異物の付着が少なく、また、洗浄によって、付着した異物も効率的に除去されることがわかる。