(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の構成においては、貫通穴と突出融着部のシール幅が狭いため、長期信頼性において融着樹脂層から内部へ水分が透過するおそれがある。加えて、特許文献1に記載の構成以外にも、膨張した外装フィルムを突起物が突き破ることにより内部圧力を開放する構成もあるが、突起となる部品をデバイス毎に付ける等コスト増となる。また常に突起物がついているので、デバイスの取扱いにも注意が必要となる。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、異常時に上昇した内部圧力を安全に開放することができ、信頼性が高い蓄電セル、外装フィルム及び蓄電モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る蓄電セルは、蓄電素子と、外装フィルムパッケージとを具備する。
上記外装フィルムパッケージは、上記蓄電素子を収容し、上記蓄電素子側の第1の主面と、上記第1の主面と反対側の第2の主面とを有する金属層と、上記第1の主面に積層された合成樹脂からなる内部樹脂層と、上記第2の主面に積層された合成樹脂からなる外部樹脂層とを有し、上記外部樹脂層にスリットが形成された外装フィルムパッケージであって、上記蓄電素子の周縁において上記内部樹脂層が互いに熱融着することによって形成されたシール領域と、上記シール領域と上記蓄電素子の間において上記内部樹脂層が互いに接触する非シール領域とを有し、上記シール領域は上記蓄電素子に向かって突出する突出部を有し、上記スリットは上記突出部と上記非シール領域の境界に交差する外装フィルムパッケージである。
【0008】
この構成によれば、蓄電セルの異常によって内部圧力が上昇すると、外装フィルムパッケージを互いに離間させる応力が生じ、この応力がシール領域である突出部の頂点に集中する。そして、内部圧力がさらに上昇し続けると、上記応力が突出部に集中し続けることで、突出部の頂点から突出部の剥離が進行し、上記応力がスリットに伝播する。そして、スリットに伝播した応力により、スリットを介して外装フィルムパッケージが開裂することで、内部圧力が開放される。
【0009】
即ち、スリットの形成箇所において内部圧力が開放されるため、スリット以外の部分からの圧力開放を防止することができ安全である。また、通常時(蓄電セルに異常が生じていない時)には金属層によって水分の収容空間への透過が防止されており、蓄電セルの信頼性を確保することも可能である。
【0010】
上記スリットは、上記非シール領域から上記突出部を横断して上記非シール領域に到り、
上記突出部は、上記スリットと上記境界が交差する第1の交点及び第2の交点と上記第1の交点及び上記第2の交点より上記蓄電素子側に位置する上記突出部の頂点により形成される三角形状を有する。
【0011】
この構成であることにより、蓄電セルの異常時において、内部圧力が上昇することにより生じる応力(外装フィルムパッケージを互いに離間させる力)が初めに集中する箇所が突出部の頂点に限定される。これにより、突出部の頂点とスリットとの距離を調整することで、上昇した蓄電セルの内部圧力が開放される開放圧力を所望の圧力にコントロールすることが可能である。
【0012】
上記スリットは、上記外部樹脂層において上記スリットの先端から上記第2の主面までの距離が0μm以上15μm以下となる深さであってもよい。
【0013】
本発明では、スリットの深さは外部樹脂層において上記の深さであればよく、金属層にまで到達させる必要がない。これにより、蓄電セルが腐食性環境中で用いられても金属層の腐食が防止される。
【0014】
上記内部樹脂層は、無延伸ポリプロピレン又はポリエチレンからなり、
上記外部樹脂層は、ポリエチレンテレフタレート及びナイロンの少なくとも一方からなるものであってもよい。
【0015】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る外装フィルムは、蓄電素子を収容する収容空間を形成する外装フィルムであって、上記蓄電素子を収容し、上記蓄電素子側の第1の主面と、上記第1の主面と反対側の第2の主面とを有する金属層と、上記第1の主面に積層された合成樹脂からなる内部樹脂層と、上記第2の主面に積層された合成樹脂からなる外部樹脂層とを有し、上記外部樹脂層にスリットが形成され、上記蓄電素子の周縁において上記内部樹脂層が互いに熱融着することによって形成されたシール領域と、上記シール領域と上記蓄電素子の間において上記内部樹脂層が互いに接触する非シール領域とを有し、上記シール領域は上記蓄電素子に向かって突出する突出部を有し、上記スリットは上記突出部と上記非シール領域の境界に交差する外装フィルムである。
【0016】
上記構成を有する外装フィルムによって蓄電素子を被覆することにより、異常時に上昇した内部圧力を安全に開放することができ、信頼性が高い蓄電セルを作製することが可能である。
【0017】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る蓄電モジュールは、複数の蓄電セルが積層された蓄電モジュールである。
上記蓄電セルは、蓄電素子と外装フィルムパッケージとを具備する。
上記外装フィルムパッケージは、上記蓄電素子を収容し、上記蓄電素子側の第1の主面と、上記第1の主面と反対側の第2の主面とを有する金属層と、上記第1の主面に積層された合成樹脂からなる内部樹脂層と、上記第2の主面に積層された合成樹脂からなる外部樹脂層とを有し、上記外部樹脂層にスリットが形成された外装フィルムパッケージであって、上記蓄電素子の周縁において上記内部樹脂層が互いに熱融着することによって形成されたシール領域と、上記シール領域と上記蓄電素子の間において上記内部樹脂層が互いに接触する非シール領域とを有し、上記シール領域は上記蓄電素子に向かって突出する突出部を有し、上記スリットは上記突出部と上記非シール領域の境界に交差する外装フィルムパッケージである。
【0018】
上記外装フィルムパッケージは、上記蓄電素子の周縁において上記内部樹脂層が互いに接触している接触領域を有し、
上記スリットは、蓄電セルの接触領域のうち隣接する蓄電セルの接触領域と向かい合う箇所に形成されていてもよい。
【0019】
この構成によれば、蓄電セルの異常に伴って上昇した内部圧力が開放されることによりスリットから電解液が漏れた場合に、上記箇所に対策部品(スポンジ等の吸収部材)を設けることによって、互いに隣接している蓄電セルに共通した対策部品により、電解液を吸収させることができる。
【0020】
仮に、互いに隣接している蓄電セルが背中合わせとなっている箇所にスリットが形成される場合はそれぞれのセル毎に対策を行い、スリットが同一方向に形成される場合は構造が異なる方式でセル毎に対策部品を設ける必要がある。
【0021】
従って、スリットを上記箇所に設けることにより、装置構成を複雑化させず且つ低コストで、スリットから電解液が漏れた場合に対処可能な蓄電モジュールを提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によれば異常時に上昇した内部圧力を安全に開放することができ、信頼性が高い蓄電セル、外装フィルム及び蓄電モジュールを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0025】
[蓄電セルの構造]
図1は、本実施形態に係る蓄電セル10の斜視図であり、
図2は、
図1のA−A線における蓄電セル10の断面図である。以下の図においてX方向、Y方向及びZ方向は相互に直交する3方向である。
【0026】
図1及び
図2に示すように、蓄電セル10は、外装フィルム20、蓄電素子30、正極端子40及び負極端子50を有する。
【0027】
蓄電セル10においては、2枚の外装フィルム20によって構成される外装フィルムパッケージが収容空間Rを形成し、収容空間Rには蓄電素子30が収容されている。2枚の外装フィルム20は、蓄電素子30の周縁においてシールされており、外装フィルムパッケージは2枚の外装フィルム20が接触する接触領域20aと、蓄電素子30を収容する素子収容部20bを備える。接触領域20a及び素子収容部20bについては後述する。
【0028】
本実施形態の蓄電セル10の厚みは、特に限定されないが、例えば12mm以下とすることができる。これにより、後述するスリットSと突出部E3とが蓄電セル10に形成されることによる作用効果がより顕著なものとなる。
【0029】
蓄電素子30は、
図2に示すように、正極31、負極32及びセパレータ33を備える。正極31と負極32はセパレータ33を介して対向し、収容空間Rに収容されている。
【0030】
正極31は、蓄電素子30の正極として機能する。正極31は正極活物質やバインダ等を含む正極材料からなるものとすることができる。正極活物質は例えば活性炭である。正極活物質は、蓄電セル10の種類に応じて適宜変更することが可能である。
【0031】
負極32は、蓄電素子30の負極として機能する。負極32は負極活物質やバインダ等を含む負極材料からなるものとすることができる。負極活物質は例えば炭素系材料である。負極活物質は、蓄電セル10の種類に応じて適宜変更することが可能である。
【0032】
セパレータ33は、正極31と負極32の間に配置され、電解液を通過させると共に正極31と負極32の接触を防止(絶縁)する。セパレータ33は、織布、不織布又は合成樹脂微多孔膜等であるものとすることができる。
【0033】
図2においては、正極31と負極32がそれぞれ一つずつ設けられているが、それぞれが複数設けられることも可能である。この場合、複数の正極31と負極32がセパレータ33を介して交互に積層されるものとすることができる。また、蓄電素子30は、正極31、負極32及びセパレータ33の積層体がロール状に巻回されたものとすることも可能である。
【0034】
蓄電素子30の種類は特に限定されず、リチウムイオンキャパシタやリチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ等とすることができる。収容空間Rには、蓄電素子30と共に電解液が収容される。この電解液は、例えばSBP・BF
4(spirobipyyrolydinium tetrafuloroborate)等を溶質とする溶液であり、蓄電素子30の種類に応じて選択することができる。
【0035】
正極端子40は、正極31の外部端子である。
図2に示すように、正極端子40は、正極配線41を介して正極31と電気的に接続され、接触領域20aにおいて2つの外装フィルム20の間を介して収容空間Rの内部から外部へ引き出されている。正極端子40は導電性材料からなる箔や線材であるもとすることができる。
【0036】
負極端子50は、負極32の外部端子である。負極端子50は、負極配線51を介して負極32と電気的に接続され、接触領域20aにおいて2つの外装フィルム20の間を介して収容空間Rの内部から外部へ引き出されている。負極端子50は導電性材料からなる箔や線材であるもとすることができる。
【0037】
上記のように、蓄電セル10は、接触領域20aと素子収容部20bを備える。接触領域20aは、2枚の外装フィルム20が接触する領域であり、素子収容部20bは接触領域20aに囲まれ、蓄電素子30を収容する部分である。
【0038】
図3は、蓄電セル10をZ方向から見た模式図である。同図に示すように、接触領域20aは、シール領域E1と非シール領域E2とを有する。接触領域20aの幅は、例えば、数mmから数十mm程度とすることができる。
【0039】
シール領域E1は、外装フィルム20が互いに熱融着することにより形成されている領域であり、外装フィルム20の周縁に設けられている。
【0040】
非シール領域E2は、シール領域E1が熱融着されていることにより、外装フィルム20が接触している領域であり、シール領域E1と素子収容部20bの間に設けられている。シール領域E1及び非シール領域E2の幅は、例えば、数mmから数十mm程度とすることができる。
【0041】
[外装フィルムの構成]
図4は、外装フィルム20の断面図である。同図に示すように、外装フィルム20は、金属層25、内部樹脂層26及び外部樹脂層27から構成されている。
【0042】
金属層25は、箔状の金属からなる層であり、大気中の水分の透過を防ぐ機能を有する。金属層25は、
図4に示すように、第1の主面25aとその反対側の第2の主面25bとを有する。
【0043】
金属層25は、例えば、アルミニウムからなる金属箔とすることができる。また、金属層25はこの他にも銅、ニッケル又はステンレス等の箔であってもよい。本実施形態に係る金属層25の厚みは、数十μm程度とするのが好適である。
【0044】
内部樹脂層26は、第1の主面25aに積層され、収容空間Rの内周面を構成し、金属層25を被覆して絶縁する。
【0045】
内部樹脂層26は、合成樹脂からなり、例えば、無延伸ポリプロピレン(CPP)又はポリエチレンからなるものとすることができる。この他にも、内部樹脂層26はポリエチレンの酸変成物、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド又はエチレン−酢酸ビニル共重合体等からなるものとすることができる。また、内部樹脂層26は複数層の合成樹脂層が積層されて構成されてもよい。
【0046】
外部樹脂層27は、第2の主面25bに積層され、蓄電セル10の表面27aを構成し、金属層25を被覆して保護する。
【0047】
外部樹脂層27は、合成樹脂からなり、例えば、ポリエチレンテレフタレート及びナイロンの少なくとも一方からなるものとすることができる。また、外部樹脂層27は、例えばオリエンテッドナイロン等からなるナイロン層にポリエチレンテレフタレート層が積層された2層構造であってもよい。この他にも、外部樹脂層27は2軸延伸ポリプロピレン、ポリイミド又はポリカーボネート等からなるものとすることができる。
【0048】
本実施形態では、上記構成を有する外装フィルム20の2枚が蓄電素子30を介して対向し、接触領域20aでシールされた外装フィルムパッケージによって収容空間Rが形成されている。シール領域E1においては、2枚の外装フィルム20の内部樹脂層26が互いに熱融着されている。外装フィルム20は、内部樹脂層26が収容空間R側(内側)となり、外部樹脂層27が表面27a側(外側)となるように配置される。
【0049】
外装フィルム20は、柔軟性を有する状態で用いられ、蓄電素子30の形状に応じて
図2に示すような周縁が湾曲した形状をなしてもよい。また、外装フィルム20は、予めエンボス加工によって同形状が形成された状態で用いられてもよい。2枚の外装フィルム20のどちらか一方にはスリットSが形成されている。
【0050】
[突出部について]
図5は、蓄電セル10をZ方向から見た模式図である。本実施形態に係るシール領域E1は、
図5に示すように、蓄電素子30に向かって突出する突出部E3を有する。これにより、非シール領域E2内へシール領域E1が食い込む構成となり、突出部E3が最も蓄電素子30に接近しているシール領域E1となる。
【0051】
シール領域E1が突出部E3を有することにより、シール領域E1と非シール領域E2との境界Bは、
図5に示すように、境界B1と境界B2からなる。境界B1は突出部E3と非シール領域E2との境界であり、境界B2は非シール領域E2を囲い、境界B1を除くシール領域E1と非シール領域E2との境界である。
【0052】
図6は、突出部E3をZ方向から見た拡大図である。本実施形態に係る突出部E3は、同図に示すように、三角形状を有する。三角形状は、
図6に示すように、スリットSと、非シール領域E2と突出部E3の境界B1とが交差する第1交点P3及び第2交点P4と、第1及び第2交点P3,P4より蓄電素子30側に位置する突出部E3の頂点P2により形成される。
【0053】
また、突出部E3において、スリットSと頂点P2との間の距離D1と、X方向の最大幅D3は、例えば数mm〜数十mm程度とすることができる。
【0054】
本実施形態に係る突出部E3の形状は、
図6に示すように三角形状に限定されず、例えば矩形状や半円形状等であってもよい。
【0055】
突出部E3の形成位置は、
図5に示す位置に限定されない。突出部E3は、例えば、正極端子40及び負極端子50が設けられているシール領域E1に対して垂直なシール領域E1から蓄電素子30に向かって突出したものであってもよい(
図8参照)。あるいは、正極端子40及び負極端子50が設けられているシール領域E1の長手方向に対して平行なシール領域E1から蓄電素子30に向かって突出したものであってもよい(
図9参照)。
【0056】
[スリットについて]
図7はスリットSを含む外装フィルム20の断面図である。スリットSは、
図7に示すように、外部樹脂層27の表面27aから途中まで形成されている。これにより、外部樹脂層27はスリットSによって部分的に分離されている。
【0057】
スリットSの深さD4は、通常時において金属層25が水分の透過を防止し、異常時において金属層25が速やかに断裂する深さが好適である。具体的には、外部樹脂層27において、スリットSからの先端P1から第2の主面25bまでの距離D5が、例えば0μm以上5μm以下となる深さとすることができる。なお、距離D5は、0μm以上5μm以下に限定されず、例えば0μm以上15μm以下であってもよい。
【0058】
スリットSは、
図5及び
図6に示すように、突出部E3と非シール領域E2の境界B1に交差している。具体的には、スリットSは、同図に示すように、非シール領域E2から突出部E3を横断して非シール領域E2に到るように形成されている。これにより、突出部E3はスリットSにより分断される。スリットSの長手方向の距離(長さ)は、例えば数十mm程度とすることができる。
【0059】
本実施形態のスリットSは、突出部E3と非シール領域E2の境界B1に交差していればよく、その延伸方向は特に限定されないが、シール領域E1の周縁に対して平行に形成されていることが好ましい。これにより、蓄電セル10の異常時において、スリットSから内部樹脂層26の膨張及び破裂が容易となり、蓄電セル10の内部圧力が開放される開放圧力を小さくすることができる。
【0060】
図8及び
図9は、スリットSと、突出部E3の形成位置を示す模式図である。本実施形態のスリットSは、
図8に示すように正極端子40及び負極端子50が設けられているシール領域E1の長手方向に対して垂直でもよく、
図9に示すように同長手方向に対して平行でもよい。
【0061】
[スリットと突出部の作用]
蓄電セル10の使用時において、通常時(蓄電素子30に異常が生じてない状態)、即ち収容空間Rの内部圧力が許容範囲内の場合には、外装フィルム20は
図4及び
図5に示した状態を維持する。この状態ではスリットSは金属層25を分離していないため、金属層25によって水分が外装フィルム20を透過することが防止されている。
【0062】
一方、蓄電セル10の使用時において蓄電セル10に異常が生じ、内部圧力が上昇すると外装フィルム20が膨張する。そして、内部圧力が一定以上となると、外装フィルム20は、スリットSが形成されている部分において開裂する。これにより、収容空間Rの内部圧力が開放される。
【0063】
即ち、本実施形態では、外装フィルム20にスリットSが形成されていることにより、外装フィルム20が開裂する位置を予め特定しておくことが可能である。仮にスリットSが設けられていない場合、外装フィルムパッケージにおいて最も強度が弱いシール領域E1が開裂し、内部圧力が開放される。その場合、蓄電素子30の周縁全体に形成されているシール領域E1のどの部分が開裂するかがわからなくなる。
【0064】
また、上記のように異常時における内部圧力の開放は、外装フィルム20の開裂によって生じる。即ち、外装フィルム20の強度によって、蓄電セル10の内部圧力が開放される開放圧力を調整することが可能である。
【0065】
外装フィルム20の強度は、例えば外装フィルム20の厚みによって調整することができる。この場合、金属層25、内部樹脂層26及び外部樹脂層27を含む外装フィルム20の全体の厚みによって外装フィルム20の強度を調整することができる。いずれの場合であっても、スリットSにおける外装フィルム20の開裂が生じる内部圧力が、シール領域E1が開裂する内部圧力よりも小さければよい。
【0066】
さらに、本実施形態では、蓄電セル10の異常に伴い上昇した収容空間Rの内部圧力が開放される開放圧力を、スリットSが形成される位置によって調整することもできる。
【0067】
より詳細には、本実施形態の蓄電セル10は、
図5及び
図6に示すように、非シール領域E2に食い込むシール領域E1である突出部E3を有する。これにより、蓄電セル10では、異常に伴い内部圧力が上昇し外装フィルム20が拡張すると、外装フィルム20を互いに離間させる応力(以下、応力と称する。)が境界B2に集中する前に、突出部E3の頂点P2に集中する。
【0068】
その後、内部圧力がさらに上昇し続けると、応力が突出部E3に集中し続けることで、突出部E3の頂点P2から突出部E3の剥離が進行し、応力がスリットSに伝播する。なお、本実施形態における突出部E3の剥離とは、突出部E3を構成する互いに熱融着している外装フィルム20同士において、一方の外装フィルム20が他方の外装フィルム20から剥離する状態を意味し、以下の説明においても同義である。
【0069】
続いて、スリットSに伝播した応力により、突出部E3に形成されているスリットSを介して外装フィルム20が開裂し、収容空間Rの内部圧力が開放される。次いで、収容空間Rの内部圧力が開放されるに伴い、非シール領域E2に形成されているスリットSを介して外装フィルム20が開裂する。従って、外装フィルム20は、スリットSが形成されている全ての箇所において開裂するものとなる。これにより、蓄電セル10では、上昇した内部圧力が短時間で開放される。
【0070】
本実施形態では、蓄電セル10の異常に伴い生じた応力がまず突出部E3に伝播し、この応力が突出部E3を剥離させる応力となる。そして、当該応力がスリットSに伝播することによって、スリットSを介して外装フィルム20が開裂し、収容空間Rの内部圧力が開放される。よって、本実施形態では、スリットSの形成位置を突出部E3と交差する範囲内で調整することで、蓄電セル10の開放圧力を調整することが可能である。
【0071】
特に、本実施形態に係る突出部E3は、
図6に示すように、第1及び第2交点P3,P4と、頂点P2により形成される三角形状を有する。これにより、応力が境界B2よりも先に集中する箇所が突出部E3の頂点P2に限定される。
【0072】
従って、本実施形態では、突出部E3の頂点P2とスリットSとの間の距離D1(境界B2とスリットSとの間の距離D2)を調整することにより、蓄電セル10の開放圧力を所望とする圧力にコントロールすることができる。
【0073】
例えば、距離D2より距離D1を長くすると、応力がスリットSに伝播するまでに要する突出部E3の剥離面積が大きくなる。これにより、スリットSに伝播するまでに必要とされる応力が大きくなるため、結果的に蓄電セル10の開放圧力が高くなる。
【0074】
一方、距離D2より距離D1を短くすると、応力がスリットSに伝播するまでに要する突出部E3の剥離面積が小さくなる。これにより、スリットSに伝播するまでに必要とされる応力が小さくなるため、結果的に蓄電セル10の開放圧力が低くなる。
【0075】
また、本実施形態に係る蓄電セル10は、上述のとおり、応力が境界B2に集中する前に、収容空間Rの内部圧力がスリットSを介して開放される。これにより、これまでの蓄電セルよりも、異常に伴い上昇した内部圧力が開放される開放圧力を低減させることができる。具体的には、蓄電セル10においては、開放圧力を0.05Mpa程度にまで低減させることができる。
【0076】
さらに、本実施形態の蓄電セル10においては、異常時における開放圧力が調整可能であることにより、蓄電セル10が比較的厚みが薄いセルであってとしても、開放圧力が所望とする圧力よりも高い圧力となることが抑制される。これにより、スリットSが形成されている箇所以外の箇所から内部圧力が開放されることを防止することができる。
【0077】
加えて、本実施形態では、頂点P2とスリットSとの距離D1等を調整することで、蓄電セル10の開放圧力を所望の圧力に調整可能である。従って、本実施形態では、スリットSの深さD4が蓄電セル10の開放圧力の設定に大きく関与するものではなくなる。これにより、スリットSの加工精度を従来よりも緩和することができ、蓄電セル10の生産性を向上させることが可能となる。
【0078】
具体的には、本実施形態のスリットSの深さD4は、スリットSの先端P1と金属層25の第2の主面25bとの間の距離D5が0μm以上15μm以下となる深さであればよく、金属層25にまで到達させる必要がなくなる。これにより、蓄電セル10が腐食性環境中で用いられても金属層25の腐食が防止される。
【0079】
[蓄電モジュールについて]
本実施形態の蓄電セル10を複数積層することにより蓄電モジュールを構成することができる。
図10は、蓄電モジュール100の模式図である。蓄電モジュール100は、同図に示すように、複数の蓄電セル10、熱伝導シート101、プレート102及び支持部材103を備える。
【0080】
複数の蓄電セル10は、熱伝導シート101を介して積層され、支持部材103によって支持されている。蓄電セル10の数は2つ以上であってもよい。蓄電セル10の正極端子40及び負極端子50は図示しない配線又は端子によって蓄電セル10の間で接続されているものとすることができる。複数の蓄電セル10の最上面及び最下面には、プレート102が積層されている。
【0081】
蓄電モジュール100は、
図10に示すように、スリットSが非シール領域E2に形成されていることにより、プレート102によって内部樹脂層26の膨張が妨げられず、所定圧力での内部圧力の開放が可能である。
【0082】
また、本実施形態に係る蓄電モジュール100は、
図10に示すように、蓄電セル10の接触領域20aのうち、隣接する蓄電セル10の接触領域20aと向かい合う箇所にスリットSが形成されている。
【0083】
これにより、蓄電セル10の異常に伴って上昇した内部圧力が開放されることによりスリットSから電解液が漏れた場合に、上記箇所に対策部品(スポンジ等の吸収部材)を設けることによって、互いに隣接している蓄電セル10に共通した対策部品により、電解液を吸収させることができる。
【0084】
仮に、互いに隣接している蓄電セル10が背中合わせとなっている箇所にスリットSが形成される場合はそれぞれのセル毎に対策を行い、スリットSが同一方向に形成される場合は構造が異なる方式でセル毎に対策部品を設ける必要がある。
【0085】
従って、スリットSを上記箇所に設けることにより、装置構成を複雑化させず且つ低コストで、スリットSから電解液が漏れた場合に対処可能な蓄電モジュール100を提供することが可能となる。
【0086】
[変形例]
図11は変形例に係る外装フィルム20の断面図であり、
図12及び
図13は変形例に係る突出部E3をZ方向からみた拡大図である。上記実施形態において、蓄電セル10は、2枚の外装フィルム20によって構成される外装フィルムパッケージが収容空間Rを封止するものとしたがこれに限られない。
図11に示すように、蓄電セル10は、1枚の外装フィルム20が蓄電素子30を介して折り曲げられ、3辺がシールされて形成された外装フィルムパッケージが収容空間Rを封止する構成であってもよい。
【0087】
また、上記実施形態のスリットSは、境界B1と交わる交点が2つであるが、これに限られず、
図12に示すように境界B1と交わる交点が一つだけであってもよい。
【0088】
さらに、上記実施形態のスリットSは一つであるがこれに限られず、スリットSは
図13に示すように複数の境界B1と交差するように複数設けられてもよい。これにより、蓄電セル10の異常に伴い上昇した内部圧力を、スリットSを介して開放させる確実性を向上させることができる。