(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に示すような製造装置を用いて、例えば厚みがあって幅の広いマットレス用のフィラメント3次元結合体(例えば、厚みが250mm、幅が2m)を製造しようとすると、高温の溶融フィラメント群が冷却水槽中に大量に投入されることになる。その結果、冷却水槽中の冷却水温度が溶融フィラメント群中央部(
図6に「PM」で示す部分)においては100℃近い温度になる一方、溶融フィラメント群両端部(
図6に「PL」および「PR」で示す部分)においては、滑り板を流れる冷却水の流入により、冷却水槽中の冷却水温度が中央部より低い温度になる。
【0008】
一般的に溶融フィラメント群は温度が低くなるほど融着し難くなるので、このような状況が生じると、溶融フィラメント群両端部において、溶融フィラメントどうしの融着力(接着力)が小さくなる課題があった。融着力が許容範囲を超えて小さくなると、その部分においてフィラメントどうしが結合しない、或いは結合が弱くなるといった問題が生じ、フィラメント3次元結合体の品質劣化を招く虞がある。
【0009】
特に、冷却によって結晶化が速く進む樹脂材料を用いると、滑り板を流れる冷却水によって樹脂が冷やされるだけで、樹脂の流動性が失われやすい(樹脂粘度が高くなりやすい)ので、強固な融着力が得られ難くなる。
【0010】
一方、冷却水槽中の冷却水温度の温度差を少なくするために、滑り板を流れる冷却水の水量を少なくすると、溶融フィラメントが滑り板に堆積しやすくなるといった課題や、滑り板に対して溶融フィラメントがスリップとグリップを繰り返す脈動現象が発生しやすくなり、フィラメント3次元結合体の厚み方向両端部の表面状態が不均一になるといった課題があった。この場合にも、フィラメント3次元結合体の品質劣化が問題となる。
【0011】
本発明は上記課題に鑑み、厚み方向端部における溶融フィラメント群の融着力を低下し難くするとともに、フィラメント3次元結合体の品質劣化を抑えることが可能となるフィラメント3次元結合体製造装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るフィラメント3次元結合体製造装置は、複数の溶融フィラメントからなる溶融フィラメント群を排出する溶融フィラメント供給装置と、前記溶融フィラメント群を受けて第1方向へ搬送し、前記溶融フィラメントどうしを融着結合させたフィラメント3次元結合体を形成する3次元結合体形成装置と、を備え、前記3次元結合体形成装置は、前記溶融フィラメント群の第1方向と直交する厚み方向の端部を受取り、当該端部を前記溶融フィラメント群の厚み方向中央側へ近づく第2方向へ搬送するように駆動するコンベア部を有する構成とする。
【0013】
本構成によれば、コンベア部の駆動により溶融フィラメント群の厚み方向端部を中央側へ近づけることが出来る。そのため、例えば滑り板を流れる冷却水の利用を省略し、厚み方向端部における溶融フィラメント群の融着力を低下し難くするとともに、フィラメント3次元結合体の品質劣化を抑えることが可能となる。なおここでの溶融フィラメント群は、3次元結合体形成装置において溶融フィラメントどうしが融着した状態のものも含む概念である。
【0014】
また上記構成としてより具体的には、第1方向は、鉛直下方であり、第2方向は、前記厚み方向から第1方向寄りに傾斜した方向である構成としてもよい。また上記構成としてより具体的には、前記コンベア部は、受取った前記端部を第2方向へ搬送する第1コンベア部と、当該搬送された前記端部を含む前記溶融フィラメント群を第1方向へ搬送する第2コンベア部とが、一連のコンベアベルトにより形成された構成としてもよい。
【0015】
本構成によれば、第1コンベア部により溶融フィラメント群の厚み方向端部を中央側へ近づけるとともに、引き続き第2コンベア部によって、その溶融フィラメント群を第1方向へ搬送することが可能となる。またこれらのコンベア部を一連のコンベアベルトにより形成するため、これらを別個のコンベアベルトで形成する場合に比べて、構成の簡素化や駆動効率の向上等が容易となる。
【0016】
また上記構成としてより具体的には、前記コンベアベルトを張架支持するローラとして、少なくとも第1ローラ、第2ローラ、および第3ローラを備え、第1コンベア部の両端は、第1ローラと第2ローラにより前記コンベアベルトが支持されており、第2コンベア部の両端は、第2ローラと第3ローラにより前記コンベアベルトが支持されている構成としてもよい。本構成によれば、例えば第1ローラを用いない場合に比べ、前記傾斜の角度(傾斜角)を適切な範囲内に設定することが容易となる。
【0017】
また上記構成としてより具体的には、前記コンベアベルトは、外周部がポリテトラフルオロエチレン材のプラスチックモジュラーチェーンで構成された耐熱ベルト、または、外周面が平滑なシリコーンゴム材で形成された耐熱ベルトである構成としてもよい。本構成によれば、高い離型性が得られ、溶融フィラメントがコンベアベルトに融着することを極力防ぐことが可能となる。
【0018】
また上記構成としてより具体的には、前記3次元結合体形成装置は、前記溶融フィラメント群の冷却に用いる冷却水を貯留する冷却水槽を備え、第2コンベア部の少なくとも一部が前記冷却水中に位置することを特徴とする構成としてもよい。本構成によれば、第2コンベア部による溶融フィラメント群の搬送により、当該溶融フィラメント群を確実に冷却水中へ導くことが可能となる。
【0019】
また上記構成としてより具体的には、前記3次元結合体形成装置は、前記冷却水槽内において前記コンベア部の周囲に壁を形成するように設けられた槽内隔壁を有する構成としてもよい。本構成によれば、槽内隔壁の内側の冷却水の温度が外側の冷却水の影響を受け難くなり、その分、コンベア部近傍の冷却水の温度を安定させ、溶融フィラメント群の厚み方向中央部と端部における冷却水の温度差を低減させることが可能となる。
【0020】
また上記構成としてより具体的には、前記3次元結合体形成装置は、前記槽内隔壁の鉛直下方に設けられて前記冷却水を撹拌する冷却水撹拌装置を有する構成としてもよい。本構成によれば、槽内隔壁に囲まれる冷却水域を通過した溶融フィラメント群を効率良く冷却することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るフィラメント3次元結合体製造装置によれば、厚み方向端部における溶融フィラメント群の融着力を低下し難くするとともに、フィラメント3次元結合体の品質劣化を抑えることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態について図面を参照しながら以下に説明する。なお、以下の説明における上下、左右、および前後の各方向(互いに直交する方向)は各図に示す通りである。下方向は鉛直下向きに一致し、前後および左右方向は水平方向に含まれる。また本実施形態における下方向は、本発明に係る第1方向の一例である。
【0024】
図1は、本実施形態に係るフィラメント3次元結合体製造装置1の概略的な構成図である。
図2は、
図1に示すフィラメント3次元結合体製造装置1のA−A´断面矢視図である。
図3は、
図1に示す厚み規制コンベア22a、22b近傍の概略的な構成図である。
【0025】
フィラメント3次元結合体製造装置1は、熱可塑性樹脂からなるフィラメント(線条)どうしを融着結合させた空隙率の高いフィラメント3次元結合体3を製造する装置であり、溶融フィラメント供給装置(押出成形機)10と、3次元結合体形成装置20とを備えている。
【0026】
溶融フィラメント供給装置10は、複数の溶融フィラメントからなる溶融フィラメント群2を鉛直下方へ排出する装置である。溶融フィラメント供給装置10から排出されて3次元結合体形成装置20に至るまでの溶融フィラメント群2は、溶融フィラメントそれぞれが下方へ並進する状態であり、溶融フィラメントどうしの融着はなされていない。
【0027】
3次元結合体形成装置20は、溶融フィラメント供給装置10から供給される複数の溶融フィラメントどうしを、3次元的に融着結合させながら冷却固化させることにより、溶融フィラメント同士が3次元的に融着結合したフィラメント3次元結合体3を形成する装置である。なお以下の説明では、3次元結合体形成装置20において溶融フィラメントどうしが融着した状態のものも、溶融フィラメント群と称することがある。
【0028】
溶融フィラメント供給装置10は、加圧溶融部11(押出機)とダイ12を含む。加圧溶融部11は、材料投入部13(ホッパー)、スクリュー14、スクリューモーター15、スクリューヒーター16、および図示しない複数の温度センサーを含む。
【0029】
加圧溶融部11の内部には、材料投入部13から供給された熱可塑性樹脂を加熱溶融しながら搬送するためのシリンダー11aが形成されており、スクリュー14が回転可能に収容されている。シリンダー11aの下流側端部には熱可塑性樹脂をダイ12に向けて排出するためのフィラメント排出部11bが形成されている。
【0030】
ダイ12は、ノズル部17、複数のダイヒーター18a〜18f、および図示しない複数の温度センサーを含む。ダイ12の内部には、フィラメント排出部11bから排出された溶融熱可塑性樹脂をノズル部17に導く導流路12aが形成されている。
【0031】
ノズル部17は、複数の円形ノズル17a(断面が円形の孔)が形成された略直方体の金属製の厚板であり、導流路12aの最下流部にあたるダイ12の下部に設けられている。複数の円形ノズル17aは、例えば、前後と左右方向へ複数列をなすようにマトリクス状に配置される。本実施形態においては、円形ノズル17aは内径1mm、隣接する円形ノズル17a間の距離(ピッチ)を10mmに設定しているが、フィラメント3次元結合体3の反発力の仕様に基づき、ノズル形状、ノズル内径、ノズル間隔、およびノズル配置を適宜調整することができる。
【0032】
本実施形態でフィラメント3次元結合体の材料として用いることのできる熱可塑性樹脂としては、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂およびポリスチレン樹脂や、スチレン系エラストマー、塩ビ系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ニトリル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、フッ素系エラストマー等の熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。
【0033】
材料投入部13から供給された熱可塑性樹脂は、シリンダー11a内で加熱溶融された後、溶融熱可塑性樹脂としてシリンダー排出口11bからダイ12の導流路12aに供給された後、複数の円形ノズル17aから複数の溶融フィラメントからなる溶融フィラメント群2が、下方の3次元結合体形成装置20に向けて排出される。この排出の方向は重力方向に一致するため、排出された溶融フィラメント群2は、ほぼ真直ぐ落下するように3次元結合体形成装置20へ到達することになる。
【0034】
3次元結合体形成装置20は、溶融フィラメント群2を冷却する冷却水を貯留する冷却水槽21と、溶融フィラメント群2の幅を規制しながら3次元結合を形成させる一対の厚み規制コンベア22a、22bと、厚み規制コンベア22a、22bの周囲を囲む一対の槽内隔壁23a、23bと、一対の冷却水撹拌装置26a、26bと、一対の搬送コンベア24a、24bと、複数の搬送ローラ25a〜25fとを含む。
【0035】
なお、一対の厚み規制コンベア22a、22bと、一対の槽内隔壁23a、23bと、一対の冷却水撹拌装置26a、26bと、一対の搬送コンベア24a、24bは、
図1および
図3に示す対称面S(溶融フィラメント群2の厚み方向中央に位置する面)を基準として、前後に対称に設けられている。以下、これらの構成および役割等について順に説明する。
【0036】
(1)厚み規制コンベア
一対の厚み規制コンベア22a、22bは、フィラメント3次元結合体3の厚みに相当する間隙を開けて設置されている。これらの一方の厚み規制コンベア22aは、第1ローラ22a1と、第2ローラ22a2と、第3ローラ22a3と、加圧ローラ22a4と、これらのローラにより回転可能に張架支持される耐熱ベルト22a5とを含む。第3ローラ22a3は回転駆動する駆動ローラであり、第1ローラ22a1および第2ローラ22a2は従動ローラである。
【0037】
他方の厚み規制コンベア22bは、第1ローラ22b1と、第2ローラ22b2と、第3ローラ22b3と、加圧ローラ22b4と、これらのローラにより回転可能に張架支持される耐熱ベルト22b5とを含む。第3ローラ22b3は回転駆動する駆動ローラであり、第1ローラ22b1および第2ローラ22b2は従動ローラである。上記の各耐熱ベルト22a5、22b5は、部分的に冷却水槽21に貯留される冷却水と接触するように配設されている。
【0038】
上述した何れのローラも、
図3に示す矢印の向き(溶融フィラメント群2を下方へ搬送する方向)へ回転する。本実施形態においては、2本の耐熱ベルト22a5、22b5として無端ベルトを用いているが、この他、例えば成形するフィラメント3次元結合体3よりも長い有端ベルトを用いてもよい。
【0039】
ここで
図4を参照し、一方の厚み規制コンベア22aの構成についてより詳細に説明する。なお、他方の厚み規制コンベア22bの構成については、厚み規制コンベア22aと同様であるため説明を省略する。また
図4に示すように、溶融フィラメント群2を構成する各列の溶融フィラメントを、前側から順にA、B、C、D、E、F・・・と称する。
【0040】
耐熱ベルト22a5のうち、両端が第1ローラ22a1と第2ローラ22a2により支持されている部分(第1コンベア部C1)は、
図4に示すように前後方向(水平方向)に対して傾斜角θだけ傾斜するように伸びている。第1コンベア部C1は、上側から供給される溶融フィラメント群2のうち、厚み方向前側端部側の所定部分(
図4に示す例では、AとBの部分)を受取ることが出来るように、上側に露出している。
【0041】
また耐熱ベルト22a5のうち、両端が第2ローラ22a2と第3ローラ22a3により支持されている部分(第2コンベア部C2)は、上下方向に伸びている。第2コンベア部C2は、第2ローラ22a2と接する位置において、第1コンベア部C1に連接している。また本実施形態では、第2コンベア部C2の最上部近傍の位置が、冷却水槽21に貯留された冷却水の水面位置となっている。
【0042】
上記構成により第1コンベア部C1は、AとBの溶融フィラメントを受取り、これらを溶融フィラメント群2の厚み方向(前後方向)から下方へ傾斜角θだけ傾斜した方向へ搬送する。この搬送の方向は、溶融フィラメント群2の厚み方向中央側へ近づく方向である。第1コンベア部C1により、AとBの溶融フィラメントは厚み方向中央側の溶融フィラメントと合流する位置まで搬送され、その後、第2コンベア部C2により更に下方へ搬送される。
【0043】
上記の傾斜角θは、溶融フィラメント群2の厚み方向最端部に位置する溶融フィラメントと接触する位置(
図4に示す位置P)における、水平面に対する耐熱ベルト22a5の傾斜角と見ることも出来る。本実施形態では、この傾斜角θは30度に設定されている。
【0044】
落下する溶融フィラメントを受け取る際に、傾斜角θが垂直(90度)に近い角度であると、溶融フィラメントが第1コンベア部C1上をスリップしやすくなり、安定したループの形成が難しくなる。逆に傾斜角θが水平(0度)に近い角度であると、第1コンベア部C1で搬送される溶融フィラメントが、第1コンベア部C1の終端近傍で直角に近い角度で曲がり、溶融フィラメントのループが折れ曲がった状態での融着が発生し易くなる。これらの現象は、フィラメント3次元結合体3の品質維持を阻害する原因となり得る。このような問題を極力防ぐため、傾斜角θは適切な範囲(通常、25度から40度の範囲)で設定されることが好ましい。
【0045】
耐熱ベルト22a5を張架するローラ(駆動ローラおよび従動ローラ)の数としては、本実施形態のように、鉛直方向に配置する2本のローラを含めて3本以上とすることが好ましい。仮に鉛直方向に配置した2本のローラ(第2ローラ22a2および第3ローラ22a3)のみで張架すると、耐熱ベルト22a5の傾斜角θが第2ローラ22a2の曲率の影響を大きく受けることになり、傾斜角θを適切な範囲内の角度(例えば、25度から40度の範囲)に保つことが難しくなる。
【0046】
この点、本実施形態では第1ローラ22a1をも設けるようにし、第1コンベア部C1の両端は第1ローラ22a1と第2ローラ22a2により支持され、第2コンベア部C2の両端は第2ローラ22a2と第3ローラ22a3により支持されるようにしたので、傾斜角θを適切な範囲内に保つことが容易である。なお、第1ローラ22a1および第2ローラ22a2の一方又は両方の位置を可変としておき、傾斜角θを適宜調節出来るようにしてもよい。
【0047】
図3に戻り、耐熱ベルト22a5、22b5の移動速度(フィラメント3次元結合体3の搬送速度)が、ノズル部17からの溶融フィラメントの落下速度と同等以上になると、溶融フィラメントのループが適切に形成されない。そのため、耐熱ベルト22a5、22b5の移動速度は、溶融フィラメントの落下速度より遅い速度に設定される。
【0048】
耐熱ベルト22a5、22b5の移動速度が遅い程、溶融フィラメントの密度が高くなり、反発力の高い高密度のフィラメント3次元結合体3が形成される。この原理を利用して、当該反発力は、耐熱ベルト22a5、22b5の移動速度により調節され得る。反発力はフィラメント3次元結合体3が使用されるマットレスやクッション等の仕様に応じて決められるが、通常、耐熱ベルト22a5、22b5の移動速度は、溶融フィラメントの落下速度に対して5〜20%程度に設定される。
【0049】
上述のとおり、ノズル部17から供給される溶融フィラメント群2の厚み方向両端部は、前後一対の第1コンベア部C1によって受け止められ、溶融フィラメントのループを形成しながら高密度の表面層を形成した後、溶融フィラメント群2の厚み方向中央部に導かれる。一方で溶融フィラメント群2の厚み方向中央部については、冷却水の浮力作用を利用して、複数の溶融フィラメントを滞留させてループを形成することができる。
【0050】
またこのようにループが形成されるとともに、隣接する溶融フィラメントどうしが3次元的に融着結合し、空隙率の高いフィラメント3次元結合体3が形成されることになる。ループした溶融フィラメントどうしの融着は冷却水の水面付近から開始され、当該融着がなされた箇所を含む溶融フィラメント群2が厚み規制コンベア22a、22bによって冷却水中を下方へ搬送される過程で、溶融フィラメント群2の融着結合および冷却固化が進行する。なお先述のとおり、溶融フィラメント群2の厚み方向両端部は高密度の表面層を形成して溶融フィラメント群2の厚み方向中央部に導かれるため、溶融フィラメント群2は、高密度で平滑な表面層が形成された状態で冷却固化される。
【0051】
耐熱ベルト22a5、22b5には、落下する溶融フィラメントを受け止めるとともに、冷却水中で溶融フィラメントを剥離する機能が求められる。このことも考慮し、耐熱ベルト22a5、22b5の仕様は、フィラメントの形成に使用される熱可塑性樹脂の材料特性等に応じて選定すればよい。通常、耐熱ベルト22a5、22b5としては、外周部がポリテトラフルオロエチレン材のプラスチックモジュラーチェーンで構成される耐熱ベルトや、外周面が平滑なシリコーンゴム材で形成された耐熱ベルトなどが好適である。これらを採用すれば高い離型性が得られ、溶融フィラメントが耐熱ベルト22a5、22b5に融着することを極力防ぐことが可能となる。
【0052】
また、3次元結合体形成装置20に離形剤塗布装置を設けることにより、耐熱ベルト22a5、22b5の外周面に、ワックスなどの離型剤が塗布されるようにしてもよい。ただし離型剤として融点の低い(例えば、融点が100℃以下の)ワックスを用いると、冷却水中に液体となって混ざり込み易くなってしまう。そのため、このような事態を極力回避できる程度に融点の高い(例えば、融点が101℃以上の)ワックスを用いることが好ましい。
【0053】
(2)槽内隔壁
一対の槽内隔壁23a、23bは、厚み規制コンベア22a、22bの周囲に壁を形成するように設けられており、冷却水槽21内における槽内隔壁23a、23b外の冷却水が、厚み規制コンベア22a、22b側へ容易に流れ込まないようにする役割を果たす。溶融フィラメント群2は、厚み規制コンベア22a、22bで搬送される過程において溶融フィラメントどうしの融着が進行する。槽内隔壁23a、23bを設けることにより、この際に温度の低い冷却水の影響を受け難くし、溶融フィラメント群2の厚み方向両端部の融着力を低下し難くすることが可能である。
【0054】
前側の槽内隔壁23aは、前側垂直板23a1と前側水平板23a2を有する。前側垂直板23a1は、厚み規制コンベア22aの前側近傍に配置された垂直な壁であり、前方視により厚み規制コンベア22aの全体を覆い隠す。前側垂直板23a1の上側の縁は、冷却水の水面より上方へ位置し、下側の縁は、厚み規制コンベア22aの下端より下側に位置する。
【0055】
前側水平板23a2は、厚み規制コンベア22aの下側近傍に配置された水平な壁である。前側水平板23a2の前側の縁は、前側垂直板23a1に全体的に密着しており、前側水平板23a2の左右方向寸法は、前側垂直板23a1と同等である。
【0056】
後側の槽内隔壁23bは、後側垂直板23b1と後側水平板23b2を有する。後側垂直板23b1は、厚み規制コンベア22bの後側近傍に配置された垂直な壁であり、後方視により厚み規制コンベア22bの全体を覆い隠す。後側垂直板23b1の上側の縁は、冷却水の水面より上方へ位置し、下側の縁は、厚み規制コンベア22bの下端より下側に位置する。
【0057】
後側水平板23b2は、厚み規制コンベア22bの下側近傍に配置された水平な壁である。後側水平板23b2の後側の縁は、後側垂直板23b1に全体的に密着しており、後側水平板23b2の左右方向寸法は、後側垂直板23b1と同等である。
【0058】
前側水平板23a2の後側の縁と後側水平板23b2の前側の縁との間には、厚み規制コンベア22a、22bによって下方へ搬送される溶融フィラメント群2を通過させるための隙間が設けられている。この間隙を介して、冷却水が槽内隔壁23a、23bの内外をある程度出入り或いは循環可能となっているが、必要に応じて、槽内隔壁23a、23bの各所に冷却水循環用の孔を設けてもよい。ただしこのような孔の配置は、通常、厚み規制コンベア22a、22b近傍の冷却水温が大きく変動しない範囲に止めることが好ましい。
【0059】
なお、一対の槽内隔壁23a、23bの左右端が、冷却水槽21の左右内壁にまで達している場合、外部の冷却水が左右方向から厚み規制コンベア22a、22b側へ流入することも抑えることが可能である。またこれに準じた効果を得るため、厚み規制コンベア22a、22bの左右両端側にも槽内隔壁を設け、槽内隔壁によって厚み規制コンベア22a、22bの前後左右が囲まれるようにしても良い。
【0060】
本実施形態においては、各水平板23a2、23b2を設けることにより、冷却水の上下方向(鉛直方向)の移動も十分に遮ることが可能となっている。ただし、温かい水の比重は冷たい水の比重よりも小さく、温まった冷却水は下方へ移動しにくいことから、各水平板23a2、23b2の一方または両方の設置を省いても、冷却水の移動のし易さへの影響は比較的小さい。この点を考慮し、各水平板23a2、23b2の一方または両方の設置を省いて、3次元結合体形成装置20の構成を簡素化してもよい。なおこのようにする場合、各垂直板23a1、23b1の下端の上下方向位置については、厚み規制コンベア22a、22bの下端よりも下方であることが望ましい。
【0061】
(3)冷却水撹拌装置
一対の冷却水撹拌装置26a、26bは、例えばファンを用いて冷却水を撹拌することにより水流を発生させ、フィラメント3次元結合体3の冷却を促進する装置である。本実施形態において一対の冷却水撹拌装置26a、26bは、一対の水平板23a2、23b2と一対の搬送コンベア24a、24bの間(これらによって上下に挟まれた位置)に配置されている。
【0062】
一方の冷却水撹拌装置26aは、水平板23a2の下方に配設されており、一対の水平板23a2、23b2の間から出てきたフィラメント3次元結合体3の前側端部に対向する。他方の冷却水撹拌装置26bは、水平板23b2の下方に配設されており、一対の水平板23a2、23b2の間から出てきたフィラメント3次元結合体3の後側端部に対向する。このように一対の冷却水撹拌装置26a、26bは、フィラメント3次元結合体3の両端部近傍の位置にそれぞれ配設されている。
【0063】
冷却水撹拌装置26a、26bの仕様や配設される位置および向き等については、発生させる水流によってフィラメント3次元結合体3が所望の程度で冷却されるように、適切に設定すれば良い。例えば、両方の冷却水撹拌装置26a、26bが、フィラメント3次元結合体3に向かう方向へ水流を発生させるようにしても良い。ただし通常は、冷却水撹拌装置26a、26bの一方がフィラメント3次元結合体3に向かう方向へ水流を発生させ、他方がフィラメント3次元結合体3から離れる方向へ水流を発生させるようにする方が、フィラメント3次元結合体3の厚み方向中央部と両端部をより均一に冷却できる点で好ましい。
【0064】
なお溶融フィラメント群2は、一対の水平板23a2、23b2の間から下方へ出るまでの段階において、溶融フィラメントどうしの融着結合が十分になされたフィラメント3次元結合体3の状態となっている。そのため、水平板23a2、23b2の間から下方へ出た段階のフィラメント3次元結合体3に対しては、冷却による融着力の低下を懸念する必要は無い。
【0065】
(4)搬送コンベア
一対の搬送コンベア24a、24bは、それぞれスラットコンベアで構成され、フィラメント3次元結合体3の厚みに対応する隙間を空けて配設されている。搬送コンベア24a、24bは、搬送面が平滑な搬送部材を用いて形成されるのが好ましく、例えば、金属メッシュベルトやプラスチックモジュラーチェーンを用いたコンベアなどが採用されてもよい。一対の搬送コンベア24a、24bは、一対の冷却水撹拌装置26a、26bの間を通ってきたフィラメント3次元結合体3を前後方向に挟み、これを更に下方へと搬送する。
【0066】
一対の搬送コンベア24a、24bにより搬送されたフィラメント3次元結合体3は、更に複数の搬送ローラ25a〜25fによって、冷却水中をU字状に方向を変えながら搬送され、最終的に冷却水槽21の外側にまで搬送される。なお、上述した厚み規制コンベア22a、22b、搬送コンベア24a、24bおよび複数の搬送ローラ25a〜25fは、図示しない駆動モーターおよび駆動ギアによって駆動され、溶融フィラメント群2ないしフィラメント3次元結合体3を適切に搬送する。
【0067】
4.総括
以上に説明したとおりフィラメント3次元結合体製造装置1は、複数の溶融フィラメントからなる溶融フィラメント群2を排出する溶融フィラメント供給装置10と、溶融フィラメント群2を受けて第1方向(本実施形態では、鉛直下方)へ搬送し、溶融フィラメントどうしを融着結合させたフィラメント3次元結合体3を形成する3次元結合体形成装置20と、を備える。更に3次元結合体形成装置20は、溶融フィラメント群2の厚み方向(前後方向)の端部を受取り、当該端部を溶融フィラメント群2の厚み方向中央側へ近づく第2方向(本実施形態では、上記厚み方向から下方へ30度傾斜した方向)へ搬送するように駆動する厚み規制コンベア22a、22b(コンベア部)を有する。
【0068】
フィラメント3次元結合体製造装置1によれば、厚み規制コンベア22a、22bの駆動により、溶融フィラメント群2の厚み方向端部を中央側へ適切に近づけることが出来る。そのため、例えば滑り板を流れる冷却水(
図6に示す例では冷却水W)の利用を省略して、冷却水槽中の冷却水温度が溶融フィラメント群両端部において中央部より低い温度になることを回避することが可能である。その結果、溶融フィラメント群両端部において溶融フィラメントどうしの融着力(接着力)を低下し難くするとともに、フィラメント3次元結合体3の厚み方向両端部の表面状態が不均一になることも極力防ぎ、フィラメント3次元結合体3の品質劣化を抑えることが可能である。
【0069】
また厚み規制コンベア22a、22bは、受取った溶融フィラメント群2の厚み方向端部を第2方向へ搬送する第1コンベア部C1と、当該搬送された前記端部を含む溶融フィラメント群2を第1方向へ搬送する第2コンベア部C2とが、一連のコンベアベルトにより形成されている。
【0070】
そのため、第1コンベア部C1により溶融フィラメント群2の厚み方向端部を中央側へ近づけるとともに、引き続き第2コンベア部C2によって、その溶融フィラメント群2を第1方向へ搬送することが可能である。またこれらのコンベア部を一連の耐熱ベルト22a5、22b5により形成しているため、これらを別個のベルトで形成する場合に比べて、構成の簡素化や駆動効率の向上等が達成されている。
【0071】
また3次元結合体形成装置20は、溶融フィラメント群2の冷却に用いる冷却水を貯留する冷却水槽21を備え、第2コンベア部C2の少なくとも一部が当該冷却水中に位置する。そのため第2コンベア部C2による溶融フィラメント群2の搬送により、当該溶融フィラメント群2を確実に冷却水中へ導くことが可能である。
【0072】
また3次元結合体形成装置20は、冷却水槽21内において厚み規制コンベア22a、22bの周囲に壁を形成するように設けられた槽内隔壁23a、23bを有する。そのため、槽内隔壁23a、23bの内側の冷却水の温度が外側の冷却水の影響を受け難くなり、その分、厚み規制コンベア22a、22b近傍の冷却水の温度を安定させ、溶融フィラメント群2の厚み方向中央部と端部における冷却水の温度差を低減させることが可能である。
【0073】
仮に槽内隔壁23a、23bを設けないとすると、溶融フィラメント群2の厚み方向両端部において、温度の低い冷却水(溶融フィラメント群2から離れた位置の冷却水)の影響を大きく受けることになり、溶融フィラメントどうしの融着力の低下を招く虞がある。この点、本実施形態のように槽内隔壁23a、23bを設けると、溶融フィラメント群2の厚み方向両端部においても温度の低い冷却水の影響を受け難くなり、このような問題を極力防ぐことが可能となる。
【0074】
また3次元結合体形成装置20は、槽内隔壁23a、23bの鉛直下方に設けられて冷却水を撹拌する冷却水撹拌装置26a、26bを有する。そのため、槽内隔壁23a、23bに囲まれる冷却水域を通過した溶融フィラメント群2を効率良く冷却することが可能である。
【0075】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明の構成は上記実施形態に限られず、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。すなわち上記実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の技術的範囲は、上記実施形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内に属する全ての変更が含まれると理解されるべきである。