(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記抜け止めピン及び前記第2の挿入溝によって前記シャフトの前記一方側への移動が規制され、前記抜け止めピン及び前記第1の挿入溝によって前記シャフトの前記他方側への移動が規制される、請求項1に記載のシャフトの抜け止め構造。
前記ハウジングが、前記シャフトの軸とは異なる所定の回転軸の回りに回転する回転体であり、前記第1の挿入溝が前記第2の挿入溝よりも前記回転軸側に位置する、請求項3に記載のシャフトの抜け止め構造。
前記シャフトの軸方向と前記第2の挿入溝の底面との成す角度(θ2)が、前記シャフトの軸方向と前記第1の挿入溝の底面の延在方向との成す角度(θ1)よりも小さい、請求項3〜5のいずれか1項に記載のシャフトの抜け止め構造。
【背景技術】
【0002】
従来、遊星歯車装置のピニオンシャフトの抜け止め構造に代表されるように、回転体を支持するシャフトが当該シャフトを支持するハウジングから抜け落ちないようにするための構造が知られている。例えば、特許文献1及び2には、ピニオンシャフトと、ピニオンシャフトを支持するキャリアとに、それぞれピン孔を設け、これらのピニオンシャフト及びキャリアのピン孔に亘って固定ピンを配置することで、ピニオンシャフトを固定する構造が開示されている。特許文献1及び2に開示された構造以外にも、種々のピニオンシャフトの固定構造あるいは抜け止め構造がある。
【0003】
図9は、従来のピニオンシャフトの抜け止め構造の一例を示す模式図である。ピニオンシャフト161の軸方向の両端側は、キャリア131に設けられた孔部133,139に支持されている。ピニオンシャフト161の周囲には、図示しないニードルベアリング等を介して図示しないピニオンギヤが支持される。キャリア131には、孔部139を貫くようにして、第1の挿入孔141及び第2の挿入孔143からなるピン挿入孔が設けられている。また、ピニオンシャフト161には、径方向に貫通するピン挿入孔165が設けられている。これらの第1の挿入孔141、ピン挿入孔165、及び第2の挿入孔143に亘って抜け止めピン151が配置されることで、ピニオンシャフト161がキャリア131から抜け落ちないようにされている。
【0004】
図10は、従来のピニオンシャフトの抜け止め構造の別の例を示す模式図である。キャリア131の孔部132,133に支持されたピニオンシャフト161の軸方向の両端部がカシメられてカシメ部134,135が形成されている。これにより、ピニオンシャフト161がキャリア131から抜け落ちないようにされている。
【0005】
図11は、従来のピニオンシャフトの抜け止め構造の別の例を示す模式図である。ピニオンシャフト161を支持するキャリア131の孔部133,136のうちの一方の孔部136のうち、ピニオンシャフト161の端面が位置する側の開口の周囲には、孔部136を挟んで両側に第1の挿入溝137及び第2の挿入溝138が設けられている。また、ピニオンシャフト161には、径方向に貫通するピン挿入孔163が設けられている。抜け止めピン151がピン挿入孔163に挿入された状態で、抜け止めピン151の両端側をキャリア131の第1の挿入溝137及び第2の挿入溝138内に配置することで、図の左方向へピニオンシャフト161が抜け落ちないようにされている。また、ピニオンシャフト161のうち、抜け止めピン151が挿入された側の端面に対向する位置に、シャフト抜け止めストッパ171が設けられている。これにより、図の右方向へピニオンシャフト161が抜け落ちないようにされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2に開示された構造又は
図9に示した構造は、キャリアに、抜け止めピンが挿入される挿入孔を有しており、強度を確保するためにはキャリアの肉厚を確保しなければならない。したがって、遊星歯車装置の重量が増加したり、小型化が困難になったりするおそれがある。
【0008】
また、
図10に示した構造は、キャリアの孔部の周囲をカシメた際に、ピニオンシャフトに割れが発生するおそれがある。具体的に、ピニオンシャフトは、外周面上をニードルベアリングが転走するため、例えば、浸炭処理や窒化処理によって表面硬度が高められて、耐久性が確保されている。一方、ピニオンシャフトのカシメられる部分は、硬度が高いと割れが発生するために、防炭処理等によって硬度の上昇が抑制され得る。しかしながら、浸炭処理後の焼き入れ工程において、ピニオンシャフトのコアの部分の硬度が上昇するために、依然として割れが生じるおそれがある。
【0009】
さらに、
図11に示した構造は、
図9に示した構造に比べてキャリアの肉厚を薄くすることができるものの、抜け止めストッパを配置する必要があるため、抜け止めストッパの配置スペースを確保しなければならない。
【0010】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、シャフトのカシメを要せずに、省スペース化を実現可能な、新規かつ改良されたシャフトの抜け止め構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、回転体を支持するシャフトと、シャフトを支持する孔部を有するハウジングと、孔部を貫いてシャフトの軸方向に対して傾斜する方向に沿ってハウジングに設けられたピン挿入溝と、シャフトの軸方向に対して傾斜する方向に沿ってシャフトに設けられたピン挿入部と、ピン挿入溝及びピン挿入部に亘って配置されて孔部からのシャフトの抜け落ちを防止する抜け止めピンと、を備えた、シャフトの抜け止め構造が提供される。
【0012】
上記のシャフトの抜け止め構造において、ピン挿入溝は、孔部を挟んで両側に位置する第1の挿入溝及び第2の挿入溝を有し、第1の挿入溝は、シャフトの軸方向の一方側に開放され、第2の挿入溝は、シャフトの軸方向の他方側に開放され
る。
【0013】
抜け止めピン及び第2の挿入溝によってシャフトの一方側への移動が規制され、抜け止めピン及び第1の挿入溝によってシャフトの他方側への移動が規制されてもよい。
【0014】
抜け止めピンは第1の挿入溝側からピン挿入溝に挿入可能であり、第2の挿入溝は、抜け止めピンの脱離を防止する立上部を有してもよい。
【0015】
ハウジングが、シャフトの軸とは異なる所定の回転軸の回りに回転する回転体であり、第1の挿入溝が第2の挿入溝よりも回転軸側に位置してもよい。
【0016】
第1の挿入溝のエッジの一部を溝側にカシメたカシメ部を有してもよい。
【0017】
シャフトの軸方向と第2の挿入溝の底面との成す角度(θ2)が、シャフトの軸方向と第1の挿入溝の底面の延在方向との成す角度(θ1)よりも小さくてもよい。
【0018】
回転体及びシャフトが、それぞれ遊星歯車装置のピニオンギヤ及びピニオンシャフトであってもよい。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように本発明によれば、シャフトのカシメを要せずに、省スペース化されたシャフトの抜け止め構造を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0022】
<1.第1の実施の形態>
(1−1.遊星歯車装置の構成例)
まず、本発明の第1の実施の形態に係るシャフトの抜け止め構造を適用可能な遊星歯車装置の構成例について説明する。本実施形態に係るシャフトの抜け止め構造は、回転体としてのピニオンギヤを支持するピニオンシャフトが、ハウジングとしてのキャリアから抜け落ちることを防ぐための抜け止め構造である。
【0023】
図1は、遊星歯車装置10の構成例を示す断面図である。かかる遊星歯車装置10は、車両の前後進切替装置を構成する装置として、車両の自動変速装置に備えられる。前後進切替装置は、例えば、トルクコンバータと無段変速機との間に配設される。ただし、遊星歯車装置10は、車両の前後輪間又は左右の車輪間の差動を吸収する差動装置を構成するものであってもよく、その他の装置を構成するものであってもよい。
【0024】
遊星歯車装置10は、ダブルピニオン式遊星歯車装置であり、サンギヤ15と、ニードルベアリング17と、ピニオンギヤ13(13a,13b)と、ピニオンシャフト61と、インターナルギヤ11と、キャリア31とを備えている。サンギヤ15は、図示しないトルクコンバータの出力軸21にスプライン結合されている。それぞれのピニオンギヤ13a,13bは、ニードルベアリング17を介してピニオンシャフト61に回転可能に支持されている。サンギヤ15が第1のピニオンギヤ13aに噛合し、第1のピニオンギヤ13aが第2のピニオンギヤ13bに噛合し、さらに、第2のピニオンギヤ13bがインターナルギヤ11に噛合している。
図1に示した断面図において、上半分には第1のピニオンギヤ13aのみが示され、下半分には第2のピニオンギヤ13bのみが示されている。なお、遊星歯車装置10は、シングルピニオン式遊星歯車装置であってもよい。
【0025】
ピニオンシャフト61の両端は、キャリア31に支持されている。キャリア31には、複数のピニオンギヤ13及びピニオンシャフト61が、トルクコンバータからの出力軸21の軸回りに等間隔で配置されている。キャリア31は、図示しない無段変速機のプライマリプーリへの入力軸23にスプライン結合されている。かかるプライマリプーリへの入力軸23の端部に、トルクコンバータの出力軸21が同軸状に挿通され、軸受を介して相対回転可能に支持されている。
【0026】
トルクコンバータの出力軸21にはクラッチドラム26が結合されている。クラッチドラム26の内周にはキャリア31の外周が対向配置され、クラッチドラム26の内周とキャリア31の外周とはクラッチプレート27を介して連設される。かかるクラッチプレート27に対してクラッチピストン28により荷重が与えられる。また、インターナルギヤ11とケース5との間にはブレーキプレート24が介装され、ブレーキプレート24に対してブレーキピストン25により荷重が与えられる。
【0027】
エンジンの始動時等、クラッチプレート27及びブレーキプレート24の開放状態においては、トルクコンバータの出力軸21の回転に伴ってクラッチドラム26及びサンギヤ15が回転しても、サンギヤ15が空転するのみで、エンジンから無段変速機へのトルク伝達は遮断される。
【0028】
また、セレクトレバーがドライブレンジにセットされると、クラッチピストン28が作動してクラッチプレート27が結合され、クラッチドラム26とキャリア31とが係合する。このとき、ブレーキプレート24は、開放状態で維持される。この状態で、トルクコンバータの出力軸21が回転すると、当該回転がキャリア31に伝達され、サンギヤ15、クラッチドラム26、及びキャリア31が同期して回転する。これにより、プライマリプーリへの入力軸23が正転する。
【0029】
一方、セレクトレバーがリバースレンジにセットされると、ブレーキピストン25が作動してブレーキプレート24が結合され、インターナルギヤ11が固定される。このとき、クラッチプレート27は開放状態とされ、クラッチドラム26とキャリア31との係合が解除される。この状態で、トルクコンバータの出力軸21が回転すると、サンギヤ15の回転によって、キャリア31に支持されているピニオンギヤ13がインターナルギヤ11の内周を自転しながら周回する。これにより、キャリア31が所定の減速状態で逆回転し、プライマリプーリへの入力軸23が逆回転する。
【0030】
かかる遊星歯車装置10において、ピニオンギヤ13を支持するピニオンシャフト61は、キャリア31から抜け落ちないようにして支持されなければならない。また、ピニオンシャフト61には、ピニオンシャフト61の外周面とニードルベアリング17との間に潤滑油を供給するための油路63が形成されており、ピニオンシャフト61の向き(軸回転位相)が所定の向きとなるようにキャリア31に支持されなければならない。このため、遊星歯車装置10では、所定のシャフトの抜け止め構造が採用されている。
【0031】
(1−2.シャフトの抜け止め構造)
次に、本実施形態に係るシャフトの抜け止め構造について詳細に説明する。
図2及び
図3は、本実施形態に係るシャフトの抜け止め構造を示す説明図である。
図2は、シャフトの抜け止め構造を示す説明図であり、ピニオンシャフト61の軸線を含む断面を示している。
図3は、ピニオンシャフト61の軸方向からキャリア31及びピニオンシャフト61を見た説明図である。なお、
図2及び
図3において、潤滑油を供給する油路、ニードルベアリング、及びピニオンギヤの図示が省略されている。なお、以下に説明するシャフトの抜け止め構造は、第1のピニオンギヤ13aを支持するピニオンシャフト61又は第2のピニオンギヤ13bを支持するピニオンシャフト61のいずれにも適用可能である。
【0032】
本実施形態に係るシャフトの抜け止め構造において、ピニオンシャフト61の両端部は、キャリア31に設けられた孔部32,33に支持されている。ピニオンシャフト61の一端側を支持する孔部32の周囲には、孔部32を挟んで両側に位置する第1の挿入溝34及び第2の挿入溝36からなるピン挿入溝が設けられている。第1の挿入溝34は、ピニオンシャフト61の軸方向の一方側(
図2の右側)に開放され、第2の挿入溝36はピニオンシャフト61の軸方向の他方側(
図2の左側)に開放されている。
【0033】
図2に示した断面図において、第1の挿入溝34の底面35が成す直線と、第2の挿入溝36の底面37が成す直線とは、略平行となっている。また、当該2本の直線間の距離は、抜け止めピン51の直径に適宜のクリアランス分を足した大きさとなっている。また、キャリア31に設けられた第1の挿入溝34及び第2の挿入溝36の溝幅は、抜け止めピン51の直径に適宜のクリアランス分を足した大きさとなっている。
【0034】
また、ピニオンシャフト61には、ピニオンシャフト61の軸方向に対して傾斜する方向に沿って設けられたピン挿入部65が設けられている。本実施形態に係るシャフトの抜け止め構造において、ピン挿入部65は、ピニオンシャフト61を貫通して設けられたピン挿入孔となっている。かかるピン挿入部65の直径は、抜け止めピン51の直径に適宜のクリアランス分を足した大きさとなっている。かかるピン挿入部65のピニオンシャフト61の軸方向に対する傾斜角度は、キャリア31に設けられた第1の挿入溝34及び第2の挿入溝36のピニオンシャフト61の軸方向に対する傾斜角度と略一致している。
【0035】
抜け止めピン51は、少なくともピニオンシャフト61に設けられたピン挿入部65の長さよりも長い。抜け止めピン51の中央部がピニオンシャフト61のピン挿入部65内に位置し、両端部がそれぞれキャリア31の第1の挿入溝34及び第2の挿入溝36内に位置する。キャリア31のピン挿入溝とピニオンシャフト61のピン挿入部65とに亘って抜け止めピン51が挿入された状態では、ピニオンシャフト61は、大きくガタつくことなく、既定の位置及び向き(軸回転位相)で固定される。このため、潤滑油の油路を適切に配置するための位置決め用の目印をピニオンシャフト61から省略することができる。
【0036】
抜け止めピン51は、第1の挿入溝34側からピン挿入部65及び第2の挿入溝36に挿入される。第1の挿入溝34の底面35は、キャリア31の外面に至るまで略直線状に形成される一方、第2の挿入溝36の底面37は、キャリア31の外面に至る手前で立ち上げられた立上部38を有する。第1の挿入溝34側からピン挿入部65及び第2の挿入溝36に挿入された抜け止めピン51は、第2の挿入溝36内で立上部38に当接する。これにより、第1の挿入溝34側から挿入された抜け止めピン51が、第2の挿入溝36側から脱離しないようになっている。
【0037】
また、第1の挿入溝34には、エッジの一部を溝側にカシメたカシメ部39が設けられている。かかるカシメ部39は、第1の挿入溝34、ピン挿入部65、及び第2の挿入溝36に抜け止めピン51が挿入された後に形成され、抜け止めピン51が第1の挿入溝34側から脱離しないようになっている。
【0038】
上述のとおり、第1の挿入溝34と第2の挿入溝36とが、それぞれ逆方向に向けて開放されている。このため、
図2に示した断面図において、第1の挿入溝34の底面35は、抜け止めピン51の左側に対向し、第2の挿入溝36の底面37は、抜け止めピン51の右側に対向している。したがって、抜け止めピン51及び第2の挿入溝36によってピニオンシャフト61の一方側への移動が規制され、抜け止めピン51及び第1の挿入溝34によってピニオンシャフト61の他方側への移動が規制される。具体的には、
図2の左方向へのピニオンシャフト61の移動は、抜け止めピン51と第1の挿入溝34とによって規制され、
図2の右方向へのピニオンシャフト61の移動は、抜け止めピン51と第2の挿入溝36とによって規制される。これにより、キャリア31の孔部32,33からのピニオンシャフト61の抜け落ちを防止することができる。
【0039】
ここで、本実施形態に係るシャフトの抜け止め構造のように、ハウジングとしてのキャリア31が、ピニオンシャフト61の軸線とは異なる所定の回転軸の回りに回転する回転体である場合には、第1の挿入溝34が第2の挿入溝36よりも所定の回転軸側に位置してもよい。つまり、キャリア31は、ピニオンシャフト61とは別のトルクコンバータからの出力軸21を中心に回転する回転体であるため、当該出力軸21側に第1の挿入溝34が位置してもよい。
【0040】
図4は、本実施形態に係るシャフトの抜け止め構造を構成する際の配置例を示す説明図である。
図4に示したシャフトの抜け止め構造は、遊星歯車装置10の作動時に、抜け止めピン51に生じる遠心力が向かう方向に第2の挿入溝36を位置させてある。つまり、抜け止めピン51の挿入側となる第1の挿入溝34がサンギヤ15側に配置され、第2の挿入溝36がインターナルギヤ11側に配置されている。このため、トルクコンバータからの出力軸21あるいはプライマリプーリへの入力軸23を中心にキャリア31が軸回転したときに、抜け止めピン51に第2の挿入溝36側への遠心力が生じた場合であっても、抜け止めピン51は第2の挿入溝36の立上部38に押し付けられて移動が規制される。これにより、抜け止めピン51の脱離を防止する効果がより高められる。
【0041】
このように、本実施形態に係るシャフトの抜け止め構造では、ピニオンシャフト61のカシメを要せずに、かつ、キャリア31のさらに外側に抜け止めプレート等を配置することなく、ピニオンシャフト61の軸方向両側への抜け落ちを防ぐことができる。また、かかるシャフトの抜け止め構造では、キャリア31に設けられる抜け止めピン51の挿入部分が、孔ではなく溝となっている。このため、ピン挿入溝が設けられる部分のキャリア31の肉厚を必要以上に厚くしなくとも、キャリア31の強度を確保することができる。また、ピン挿入溝を形成する場合、キャリア31にピン挿入孔を形成する場合に比べて、容易に形成することができる。例えば、溝であれば、別の加工工程を設けることなく、キャリア31を型成形する際にあらかじめ形成することができる。
【0042】
(1−3.変形例)
図5は、本実施形態に係るシャフトの抜け止め構造の変形例を示す。本実施形態の変形例に係るシャフトの抜け止め構造では、
図5に示す断面図において、ピニオンシャフト61の軸方向に対して第2の挿入溝36の底面37の成す角度θ2が、ピニオンシャフト61の軸方向に対して第1の挿入溝34の底面35の成す角度θ1よりも小さくされている。したがって、第1の挿入溝34側からピン挿入部65及び第2の挿入溝36内に抜け止めピン51を挿入する際に強く押し込められることで、抜け止めピン51の先端の一部が第2の挿入溝36の底面37に押し付けられて塑性変形する。
【0043】
これにより、抜け止めピン51が、第1の挿入溝34の底面35及び第2の挿入溝36の底面37に当接させられ、ピニオンシャフト61の軸方向への抜け止めピン51のガタつきを低減することができる。また、変形例に係るシャフトの抜け止め構造では、第2の挿入溝36の底面37への抜け止めピン51の押し付け度合いによっては、第1の挿入溝34のエッジの一部をカシメることなく、抜け止めピン51の脱離を防ぐ効果を得ることができる。
【0044】
<2.第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施の形態に係るシャフトの抜け止め構造について説明する。第1の実施の形態に係るシャフトの抜け止め構造では、ピニオンシャフトのピン挿入部が、ピニオンシャフトを貫通するピン挿入孔となっていたが、本実施形態に係るシャフトの抜け止め構造では、ピニオンシャフトのピン挿入部が、ピニオンシャフトの外周面に形成されたピン挿入溝とされている。以下、主として、第1の実施の形態に係るシャフトの抜け止め構造と異なる点について、本実施形態に係るシャフトの抜け止め構造を説明する。なお、本実施形態に係るシャフトの抜け止め構造についても、第1の実施の形態に係るシャフトの抜け止め構造と同様に、遊星歯車装置に適用された例について説明する。
【0045】
図6及び
図7は、本実施形態に係るシャフトの抜け止め構造を示す説明図である。
図6は、シャフトの抜け止め構造を示す説明図であり、ピニオンシャフト61及び抜け止めピン53の側面と
図7に示したキャリア31のI−I断面が示されている。
図7は、ピニオンシャフト61の軸方向からキャリア31及びピニオンシャフト61を見た説明図である。なお、
図6及び
図7において、潤滑油を供給する油路、ニードルベアリング、及びピニオンギヤの図示が省略されている。
【0046】
図7に示すように、本実施形態に係るシャフトの抜け止め構造において、抜け止めピン53は、略U字状の部分53bと、U字状の部分53bの底部に接続された頭部53aとを有する。ピニオンシャフト61には、ピニオンシャフト61の軸方向に対して傾斜する方向に沿って設けられたピン挿入部67が設けられている。ピン挿入部67は、ピニオンシャフト61の外周面に設けられたピン挿入溝となっている。かかるピン挿入部67は、抜け止めピン53のU字状の部分53bを構成する2本の足がそれぞれ挿入されるように2つのピン挿入溝を含む。かかるピン挿入部67の溝幅は、抜け止めピン53の2本の足の直径に適宜のクリアランス分を足した大きさとなっている。かかるピン挿入部67のピニオンシャフト61の軸方向に対する傾斜角度は、キャリア31に設けられた第1の挿入溝41及び第2の挿入溝44のピニオンシャフト61の軸方向に対する傾斜角度と略一致している。
【0047】
ピニオンシャフト61の両端部は、キャリア31に設けられた孔部32,33に支持されている。ピニオンシャフト61の一端側を支持する孔部32の周囲には、孔部32を挟んで両側に位置する第1の挿入溝41及び第2の挿入溝44からなるピン挿入溝が設けられている。第1の挿入溝41は、抜け止めピン53のU字状の部分53bの全体を挿入可能な比較的大きい幅の1つの溝であって、ピニオンシャフト61の軸方向の一方側(
図6の右側)に開放されている。第2の挿入溝44は、抜け止めピン53のU字状の部分53bを構成する2本の足のそれぞれを挿入可能な比較的小さい幅の2つの溝であって、ピニオンシャフト61の軸方向の他方側(
図6の左側)に開放されている。
【0048】
第1の挿入溝41の溝幅は、抜け止めピン53のU字状の部分53bの横幅に適宜のクリアランス分を足した大きさとなっている。また、第2の挿入溝44の溝幅は、抜け止めピン53のU字状の部分53bを構成する2本の足のそれぞれの直径に適宜のクリアランス分を足した大きさとなっている。ただし、第2の挿入溝44が、抜け止めピン53のU字状の部分53bの全体を挿入可能な1つの溝として形成されてもよい。
【0049】
抜け止めピン53の挿入方向に沿った抜け止めピン53の長さは、少なくとも抜け止めピン53の挿入方向に沿ったピニオンシャフト61の寸法よりも長い。抜け止めピン53のU字状の部分53bの底部、及び、頭部53aが第1の挿入溝41内に位置する。また、抜け止めピン53のU字状の部分を構成する2本の足のうち、U字状の部分の底部から中央部がピニオンシャフト61のピン挿入部67内に位置し、ピニオンシャフト61を挟持した状態となっている。抜け止めピン53のU字状の部分を構成する2本の足の先端部がそれぞれキャリア31の第2の挿入溝44内に位置する。
【0050】
キャリア31のピン挿入溝とピニオンシャフト61のピン挿入部67とに亘って抜け止めピン53が挿入された状態では、ピニオンシャフト61は、大きくガタつくことなく、既定の位置及び向き(軸回転位相)で固定される。このため、潤滑油の油路を適切に配置するための位置決め用の目印をピニオンシャフト61から省略することができる。
【0051】
第1の挿入溝41と第2の挿入溝44とが、それぞれ逆方向に向けて開放されている。このため、
図6に示した断面図において、第1の挿入溝41の底面42は、抜け止めピン53の左側に対向し、第2の挿入溝44の底面45は、抜け止めピン53の右側に対向している。したがって、抜け止めピン53及び第2の挿入溝44によってピニオンシャフト61の一方側への移動が規制され、抜け止めピン53及び第1の挿入溝41によってピニオンシャフト61の他方側への移動が規制される。具体的には、
図6の左方向へのピニオンシャフト61の移動は、抜け止めピン53と第1の挿入溝41とによって規制され、
図6の右方向へのピニオンシャフト61の移動は、抜け止めピン53と第2の挿入溝44とによって規制される。これにより、キャリア31の孔部32,33からのピニオンシャフト61の抜け落ちを防止することができる。
【0052】
このように、本実施形態に係るシャフトの抜け止め構造においても、ピニオンシャフト61のカシメを要せずに、かつ、キャリア31のさらに外側に抜け止めプレート等を配置することなく、ピニオンシャフト61の軸方向両側への抜け落ちを防ぐことができる。また、かかるシャフトの抜け止め構造では、キャリア31に設けられる抜け止めピン51の挿入部分が、孔ではなく溝となっている。このため、ピン挿入溝が設けられる部分のキャリア31の肉厚を必要以上に厚くしなくとも、キャリア31の強度を確保することができる。また、ピン挿入溝を形成する場合、キャリア31にピン挿入孔を形成する場合に比べて、容易に形成することができる。例えば、溝であれば、別の加工工程を設けることなく、キャリア31を型成形する際にあらかじめ形成することができる。
【0053】
図8は、本実施形態に係るシャフトの抜け止め構造の変形例を示す。本実施形態の変形例に係るシャフトの抜け止め構造では、頭部53a及び略U字状の部分53bを有する抜け止めピン53がクリップリングとして構成されている。具体的には、抜け止めピン53のU字状の部分53bの先端側の幅が、U字状の部分53bの中央部の幅よりも小さくなっている。また、ピニオンシャフト61に設けられるピン挿入部67としてのピン挿入溝も、抜け止めピン53のU字状の部分53bの形状に沿って形成されている。これにより、ピニオンシャフト61に装着された抜け止めピン53が、ピニオンシャフト61から外れにくくなっている。したがって、第1の挿入溝41をカシメたりすることなく、ピニオンシャフト61の脱離を防ぐ効果が高められる。なお、かかる変形例では、抜け止めピン53のU字状の部分53bの先端側が挿入される第2の挿入溝47は、1つの溝として形成されている。
【0054】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0055】
例えば、上記実施形態では、本発明のシャフトの抜け止め構造を、車両の前後進切替装置に設けられる遊星歯車装置に適用した例を説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明に係るシャフトの抜け止め構造は、ハウジングに設けられた孔部に支持されて、所定の回転体を支持するシャフトの抜け落ちを防ぐための構造として、種々の装置に適用可能である。