【実施例】
【0022】
(準備)
NaClを40.5g、CaCl
2・2H
2Oを1.8475g、Na
2HPO
4を0.735g、35wt%HClを8.875gを、純水に溶解して、500cm
3のリン酸カルシウム水溶液を調製した。このときのリン酸水素イオン濃度は10mmol/dm
3である。以下、この溶液を10倍濃度リン酸カルシウム水溶液と総称する。なお、人造体液は1倍濃度リン酸カルシウム水溶液(リン酸水素イオンの濃度は1.0mmol/dm
3)である。
上記10倍濃度リン酸カルシウム水溶液Aを下記に示される実施例および比較例に記載の濃度に希釈し、フッ化物イオン濃度はNaFを添加することにより調製した。
各種高分子樹脂フィルムをポリプロピレン製樹脂板に固定し、表1に示される試料を準備した。ポリビニルアルコールフィルムの結晶化度は熱処理温度にて調整した。
【0023】
【表1】
【0024】
(評価方法)
ポリビニルアルコールのけん化度
試料1〜5に使用されるポリビニルアルコールのけん化度についてJIS K 6726(1994)に準拠して測定した。
【0025】
ポリビニルアルコールフィルムの結晶化度
試料1〜5のポリビニルアルコールフィルムについてFT−IR(TERMO AVATAR 360)を用いて式1に示されるJ.F.Kenny法(Journal of Polymer science Part A−1 vol.4 679−698(1966))により測定した。
結晶化度(%)= 92×(1140cm
−1付近のピーク強度)
/(1420cm
−1付近のピーク強度)―18 (式1)
【0026】
接触角測定
試料1〜9の各高分子樹脂フィルムについて、水(73mN/m)に対する接触角を接触角計(協和界面科学:DROP MASTER)にて測定した。
【0027】
SEM(走査型電子顕微鏡)による観察
試料の表面をSEMによって観察した。試料台に張り付けた導電性テープにフッ素アパタイト結晶(又はポリビニルアルコールフィルム上に形成されたフッ素アパタイト結晶)を載せ、オスミウムプラズマコーティング装置(真空デバイス:HPC―1S)によってコーティングを行った。コーティング済みの試料をSEM(キーエンス:VE−9800)により観察した。
【0028】
XRD(X線解析)
試料ホルダーを固定し、X線回析装置(リガク:MiniFlexII)で解析を行った。X線源としてCuKαを使用し、管電圧50kV、管電流120mAの条件で、連続スキャン法により2θ―3〜60°の走査範囲で測定を行った。
【0029】
[実施例1]
試料1について下記のサンプルa〜eにより、リン酸カルシウム水溶液中のフッ化物イオン濃度が異なることにより、得られた結晶の形態を確認した。
ポリビニルアルコールフィルム表面上のSEM画像を
図3に、XRDパターンを
図4に示す。なお、SEM画像を得るにあたり、ポリビニルアルコールフィルムを90℃の温水により溶解して、フッ素アパタイトの層のみからなるシートを得た。
【0030】
(サンプルa)
フッ化物イオン濃度が1.50mmol/dm
3で、37℃の、2.0倍濃度リン酸カルシウム水溶液(pH7.2)中に、試料1を24時間浸漬した。その結果の拡大倍率が異なるSEM画像を
図3のa1〜3に示す。
【0031】
(サンプルb)
フッ化物イオン濃度が1.05mmol/dm
3で、37℃の、2.0倍濃度リン酸カルシウム水溶液(pH7.2)中に試料1を24時間浸漬した。その結果の拡大倍率が異なるSEM画像を
図3のb1〜3に示す。
【0032】
(サンプルc)
フッ化物イオン濃度が0.53mmol/dm
3で、37℃の、2.0倍濃度リン酸カルシウム水溶液(pH7.2)中に、試料1を24時間浸漬した。その結果の拡大倍率が異なるSEM画像を
図3のc1〜3に示す。
【0033】
(サンプルd)
フッ化物イオン濃度が0.26mmol/dm
3で、37℃の、2.0倍濃度リン酸カルシウム水溶液(pH7.2)中に、試料1を24時間浸漬した。その結果の拡大倍率が異なるSEM画像を
図3のd1〜3に示す。
【0034】
(サンプルe)
フッ化物イオン濃度が0mmol/dm
3で、37℃の、2.0倍濃度リン酸カルシウム水溶液(pH7.2)中に、試料1を24時間浸漬した。その結果の拡大倍率が異なるSEM画像を
図3のe1〜3に示す。
【0035】
(実施例1の結果)
図3によれば、フッ化物イオン濃度が0mmol/dm
3であって、フッ化物イオンを含有しないサンプルeでは、ポリビニルアルコールフィルム表面に何ら変化がみられないが、フッ化物イオン濃度が低いサンプルdでは、ポリビニルアルコールフィルム表面の50%程度の範囲にフッ素アパタイトの結晶が確認された。
さらに、サンプルc、b及びaとフッ化物イオン濃度が高くなるに従い、ポリビニルアルコールフィルム表面でのフッ素アパタイトの被覆量が増加したことがわかる。またフッ素アパタイトの結晶はc軸方向に結晶が成長してなる柱状(ロッド状)であることもわかる。また、
図4によれば、サンプルa〜cにはフッ素アパタイトの結晶に由来するピーク(002)(211)が現れている。サンプルdにはフッ素アパタイトの結晶に由来するピーク(211)が現れている。
この原因として、フッ化物イオン濃度が高くなると、フッ化物イオンとポリビニルアルコールフィルムのヒドロキシル基との相互作用が高まり、これを起点に結晶核生成が誘起されることが考えられる。
なお、
図4によれば、サンプルc以上のフッ化物イオンの濃度であればフッ素アパタイトの結晶に由来するピークが生成することがわかる。
【0036】
[比較例1]
試料1について下記のサンプルa〜cにより、高濃度のリン酸カルシウム水溶液中における結晶の形態を確認した。
ポリビニルアルコールフィルム表面上のSEM画像を
図5に示す。
【0037】
(サンプルa)
フッ化物イオン濃度が0mmol/dm
3で、37℃の、2.5倍濃度リン酸カルシウム水溶液(pH7.2)中に、試料1を24時間浸漬した。その結果の拡大倍率が異なるSEM画像を
図5のa1〜3に示す。
【0038】
(サンプルb)
フッ化物イオン濃度が1.05mmol/dm
3で、37℃の、2.5倍濃度リン酸カルシウム水溶液(pH7.2)中に、試料1を24時間浸漬した。その結果の拡大倍率が異なるSEM画像を
図5のb1〜3に示す。
【0039】
(サンプルc)
フッ化物イオン濃度が1.50mmol/dm
3で、37℃の、2.5倍濃度リン酸カルシウム水溶液(pH7.2)中に、試料1を24時間浸漬した。その結果の拡大倍率が異なるSEM画像を
図5のc1〜3に示す。
【0040】
(比較例1の結果)
比較例1によれば、いずれのサンプルにおいても、浸漬時において均一核が形成し、結晶が容器内に沈殿した。サンプルaによれば、柱状結晶ではなくシート状結晶が形成されていた。フッ化物イオン濃度が1.05mmol/dm
3及び1.50mmol/dm
3であるサンプルb及びcによると小さい柱状(ロッド状)結晶の集積体が形成されるが、濃度が高いために、その上に別の結晶体がランダムな方向に形成されてc軸に配向した結晶ではなかった。
【0041】
[実施例2]
試料1について下記のサンプルa〜cにより、リン酸カルシウム水溶液中に浸漬する時間をより長時間にすることによって得られた結晶の形態の変化を確認した。
ポリビニルアルコールフィルム表面上のSEM画像を
図6に、浸漬時間毎のSEM画像とナノロッド(柱状結晶)径の関係を
図7に、下記のサンプルaのときと同じフッ化物イオン濃度での場合において、浸漬時間を変化させたときのXRDパターンを
図8に示す。なお、
図8中の(d)は浸漬前のポリビニルアルコールフィルムの測定結果である。
なお、フッ素アパタイト自立膜を得るにあたり、サンプルa〜cのポリビニルアルコールフィルムを90℃の温水により溶解した。
【0042】
(サンプルa)
フッ化物イオン濃度が1.50mmol/dm
3で、37℃の2.0倍濃度リン酸カルシウム水溶液(pH7.2)中に、試料1を120時間浸漬した。その結果の拡大倍率が異なるSEM画像を
図6のa1〜3に示す。
【0043】
(サンプルb)
フッ化物イオン濃度が1.05mmol/dm
3で、37℃の、2.0倍濃度リン酸カルシウム水溶液(pH7.2)中に、試料1を120時間浸漬した。その結果の拡大倍率が異なるSEM画像を
図6のb1〜3に示す。
【0044】
(サンプルc)
フッ化物イオン濃度が0mmol/dm
3で、37℃の、2.0倍濃度リン酸カルシウム水溶液(pH7.2)中に、試料1を120時間浸漬した。その結果の拡大倍率が異なるSEM画像を
図6のc1〜3に示す。
【0045】
(実施例2の結果)
図6のサンプルa及びbの結果によれば、フッ化物イオンを含有しないサンプルcに比べて結晶が形成されない領域が減少し、かつ、上記実施例1のサンプルa及びbと比較すると、結晶がより密に、かつ1つ1つの結晶がより太く形成されていることがわかる。
また
図7に示した、浸漬時間毎のSEM画像とナノロッド径の関係によれば、浸漬時間が24時間のときには、ナノロッド径は101nm程度であるが、120時間の浸漬により603nmと大幅にロッド径が増加した。
実施例1に記載の
図4のサンプルaおよびbと
図8のサンプルaおよびbを比較すると、浸漬時間が24〜120時間と時間経過につれて、c軸配向に由来する(002)ピークが強くなり、本来の最強ピークである(211)を上回った。
なお、サンプルa〜cについて得られたフッ素アパタイト層を有するポリビニルアルコールフィルムを90℃の温水に浸漬してポリビニルアルコールを溶解・除去することで、サンプルaおよびbではフッ素アパタイト自立膜を得たが、崩壊し易い脆い膜であった。サンプルcについてはポリビニルアルコールの溶解過程で膜が崩壊した。
【0046】
[比較例2]
試料1についてフッ化物イオンを含有しない2.0倍濃度リン酸カルシウム水溶液(pH7.2)に、ポリアスパラギン酸をカルボキシル基の濃度が0.50mmol/dm
3又は1.50mmol/dm
3となるように添加した。得られた37℃の2.0倍濃度リン酸カルシウム水溶液に、試料1を24〜120時間浸漬した。
浸漬後のSEM画像を
図9に示す。
図9の(a)はカルボキシル基0.50mmol/dm
3で24時間浸漬、(b)はカルボキシル基0.50mmol/dm
3で120時間浸漬、(c)はカルボキシル基1.50mmol/dm
3で24時間浸漬、(d)はカルボキシル基1.50mmol/dm
3で120時間浸漬したものである。
比較例2によれば、ポリアスパラギン酸の濃度に関わらずポリビニルアルコールフィルム上には柱状(ロッド状)結晶を得ることができなかった。カルボキシル基の濃度が1.50mmol/dm
3である場合には、半球状の薄く拡がった形状の結晶を確認するのみである。リン酸カルシウム中のカルシウムイオンがポリアスパラギン酸に吸着されるためにこのような現象が起きたと考えられる。
【0047】
[比較例3]
試料1についてフッ化物イオンを含有しない2.0倍濃度リン酸カルシウム水溶液(pH7.2)に、D−アスパラギン酸を8.3mmol/dm
3となるように添加した。得られた37℃の2.0倍濃度リン酸カルシウム水溶液に、試料1を24〜120時間浸漬した。
浸漬後のSEM画像を
図10に示す。
図10の(a)は24時間浸漬したもの、(b)は120時間浸漬したものである。
比較例3によれば、D−アスパラギン酸を添加するとポリビニルアルコールフィルム上には柱状(ロッド状)結晶を得ることができなかった。リン酸カルシウム中のカルシウムイオンがD−アスパラギン酸に吸着されるためにこのような現象が起きたと考えられる。
【0048】
[実施例3]
試料1についてフッ化物イオン含有リン酸カルシウム水溶液中に浸漬する工程を2回行うことによって、2段階の結晶成長を行った。
(第1段階(下地形成))
フッ化物イオン濃度が1.50mmol/dm
3で37℃の、2.5倍濃度リン酸カルシウム水溶液(pH7.2)中に、試料1を6時間浸漬した。その結果の拡大倍率が異なるSEM画像を
図11のa〜cに示す。大きさが2nmのフッ素アパタイトのナノロッド構造体が高密度に成長していた。
(第2段階(結晶成長))
フッ化物イオン濃度が1.50mmol/dm
3で37℃の、2.0倍濃度リン酸カルシウム水溶液(pH7.2)中に、第1段階により得た、表面に大きさが2nmのフッ素アパタイトのナノロッド構造体が高密度に成長している試料1を、24時間浸漬、及び120時間浸漬した。
【0049】
(実施例3の結果)
実施例3の結果を
図12及び
図13に示す。
図12の(a1)及び(a2)は、第2段階において24時間浸漬した試料1の表面のSEM画像であり、(b)はその結晶が形成されたポリビニルアルコールフィルムの断面、(c1)及び(c2)は、第2段階において120時間浸漬した試料1の表面のSEM画像であり、(d)はその結晶が形成されたポリビニルアルコールフィルムの断面である。
この断面によれば、フッ素アパタイトのナノロッドがポリビニルアルコールフィルム表面から垂直方向に成長していることを確認でき、24時間浸漬したときに形成されたフッ素アパタイトの厚さは5.8±0.3μm、ナノロッドのロッド径は440±91nm、120時間浸漬したときのフッ素アパタイトの厚さは6.4±0.2μm、ナノロッドのロッド径は512±92nmであった。
【0050】
図13はXRDパターンの測定結果である。図中(a)は第2段階において120時間浸漬後のパターン、(b)は第2段階において24時間浸漬後のパターン、(c)は第1段階終了後のパターン、(d)はフッ化物イオン濃度が1.50mmol/dm
3で37℃の、2.0倍濃度リン酸カルシウム水溶液(pH7.2)中に、試料1を120時間浸漬したときのパターンである。
(c)においては、フッ素アパタイト由来のパターンを確認できなかったが(b)さらに(a)と浸漬時間を長くするほど(002)(004)のピークが強くなり、ナノロッドがc軸配向することを確認できた。(d)のように1段階で120時間浸漬するよりもこれらのピークが強いことがわかる。
なお、
図12の(a1)及び(a2)にあたるフッ素アパタイトの結晶層が形成されたポリビニルアルコールフィルムを、温水に浸漬して該ポリビニルアルコールフィルムを溶解すると、フッ素アパタイト自立膜が得られたが非常に脆い膜であった。
【0051】
[実施例4]
試料2について実施例3と同様な実験を実施した。実施例3と同様にポリビニルアルコールフィルム表面にフッ素アパタイトに由来する柱状結晶の生成が観察された。
【0052】
[実施例5]
試料3について実施例3と同様な実験を実施した。実施例3と同様にポリビニルアルコールフィルム表面にフッ素アパタイトに由来する柱状結晶の生成が観察された。
【0053】
[実施例6]
試料4について実施例3と同様な実験を実施した。実施例3と同様にポリビニルアルコールフィルム表面にフッ素アパタイトに由来する柱状結晶の生成が観察された。
【0054】
[比較例4]
試料5について実施例3と同様な実験を実施した。結晶成長工程にてポリビニルアルコールフィルムが溶解したため、フッ素アパタイトに由来する柱状結晶は観察されなかった。
【0055】
[比較例5]
試料6について実施例3と同様な実験を実施した。ポリビニルブチラール表面にフッ素アパタイトに由来する柱状結晶がわずかに確認できるに過ぎなかった。
【0056】
[比較例6]
試料7について実施例3と同様な実験を実施した。ポリウレタン表面にフッ素アパタイトに由来する柱状結晶がわずかに確認できるに過ぎなかった。
【0057】
[比較例7]
試料8について実施例3と同様な実験を実施した。ポリアミド66表面にフッ素アパタイトに由来する柱状結晶がわずかに確認できるに過ぎなかった。
【0058】
[比較例8]
試料9について実施例3と同様な実験を実施した。ポリプロピレン表面にはフッ素アパタイトの結晶が析出しなかった。
【0059】
[実施例7]
試料1についてフッ化物イオン含有リン酸カルシウム水溶液中に浸漬する工程を3回以上行うことによって、3段階以上の結晶成長を行った。
このため、上記実施例3の第1段階(下地形成)及び第2段階(24時間浸漬による結晶成長)の工程をそのまま実施し、次いで一旦乾燥させた後に、この第2段階の工程をそのままさらに1回以上実施した。なおその第2段階に相当する工程の前には乾燥工程を設けた。
【0060】
(実施例7の結果)
得られたフッ素アパタイト層を有するポリビニルアルコールフィルムの面に垂直な断面のSEM画像を
図14に示す。
図14の(a)は上記実施例3における第2段階を合計で2回行ったときの断面図、(b)(c)(d)は順に3回、4回及び5回行ったときの断面図である。このように結晶成長させる工程を複数回行った際の断面の模式図を
図2に示す。実施例3に示される第2段階を1回行う1層構造と、本実施例の2回行う2層構造とでは、本実施例では第2層が第1層より厚みを増すように結晶が成長しており、さらにポリビニルアルコールフィルムの面に対して垂直方向(c軸方向)に結晶が伸びている。この傾向は第2段階を5回行う5層構造においても同様であり、工程を増加させた分だけフッ素アパタイトの結晶層を積層させることができた。
【0061】
図15は、上記
図13において(a)のときの構造を示す。
図15(a)(d)及び(e)はポリビニルアルコールフィルムの厚さ方向に切断して得た断面図、
図15(b)及び(c)はフッ素アパタイト表面の図である。他にも
図14の(b)、(c)及び(d)に相当する場合においても、各層は
図15(a)の場合と同様の構造を示す。
第2段階を1回行うと、得られたフッ素アパタイトの厚さは5.8±0.3μm、同様に2回行うと厚さは27.1±5.4μm、3回行うと厚さは47.2±8.9μm、4回行うと厚さは66.4±11.3μm、5回行うと厚さは87.5±22.9μm、であった。
【0062】
また、
図16に、これらの得られたフッ素アパタイトのXRDパターンを示す。
図16の(a)は上記第2段階を5回行って得たフッ素アパタイトのパターン、(b)は同じく4回行って得たもの、(c)は同じく3回行って得たもの、(d)は同じく2回行って得たもの、(e)は1回行って得たものである。
このXRDパターンによれば、フッ素アパタイトのc軸配向に由来する(002)及び(004)のピークが、本来の最強ピーク(211)よりも強く、フッ素アパタイトを多層積層して得たナノロッドはc軸配向していることがわかる。
【0063】
上記の第2段階を5回行って得た積層されたフッ素アパタイトの各層について、詳細に測定すると、下層のナノロッド先端から、径が50nm程度の新規ナノロッドが新たに生成して多層構造を形成させている。そして上層のナノロッドは直下の層のナノロッドの方位を引き継いでエピタキシャル成長している。
各層のナノロッドの先端の最大径は350nm程度であり、その先端から新たに生成するナノロッドの径は50nm程度であった。つまり、ナノロッドの径が350nm程度になるまで成長し、そこから50nm程度の径で新たなナノロッドが成長することになり、これを繰り返して各層が形成される。
図14の(d)に示す上記第2段階を5回行って形成されたフッ素アパタイトの各層のナノロッドの先端の径は、ポリビニルアルコールフィルム側から順に第1層が382±59nm、第2層が399±103nm、第3層が434±181nm、第4層が342±81nm、第5層が325±65nmであり、各層の最下部のナノロッドの径は48±10nmであった。
【0064】
(フッ素アパタイト自立膜)
図14の(d)に示す上記第2段階を5回行って形成されたフッ素アパタイトが形成されたポリビニルアルコールフィルムにおいて、該ポリビニルアルコールフィルムを溶解するために、これを90℃の温水に15分間浸漬した。その結果、フッ素アパタイトのみからなるシート状物が得られた。
【0065】
[実施例8]
実施例3の第1段階と同じ工程を行った後、D−アスパラギン酸濃度が1.5mmol/dm
3、フッ化物イオン濃度が1.50mmol/dm
3で37℃の、2.0倍濃度リン酸カルシウム水溶液(pH7.2)中に24時間浸漬した。そしてこの工程を合計で5回繰り返した。その結果5層構造のフッ素アパタイトのナノロッド配向構造体を得た。
【0066】
(実施例8の結果)
ポリビニルアルコールフィルム側から順に、柱状結晶の長さは、第1層が250±63nm、第2層が231±53nm、第3層が251±54nm、第4層が217±59nm、第5層が196±46nmであり、各層の最下部のナノロッドの径は29±8nmであった。
D−アスパラギン酸を添加することによりa軸方向への結晶成長を抑制できること、さらにナノロッドの径や長さもより小さくなった。