(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
溶媒を少なくとも活物質および結着材と混合することにより形成された湿潤造粒物を,ロール対の間隙に通すことでシート状に成形しつつ集電箔上に付着させることで集電箔上に電極合剤層を形成する湿潤粉体成膜方法において,
前記湿潤造粒物を,
前記溶媒として,粘度が,1000mPa・s以上,5000mPa・s以下の範囲内のものを用い,
前記活物質として,前記溶媒に対する接触角が,10°以上,80°以下の範囲内のものを用い,
全体の重量に占める固形分の重量の割合を,65%以上,90%以下の範囲内として形成することを特徴とする湿潤粉体成膜方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下,本発明を具体化した最良の形態について,図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0012】
まず,
図1により,本形態の方法において製造される電極板100について説明する。電極板100は,
図1の断面図に示すように,集電箔110と,電極合剤層120とを有している。電極板100は,
図1における左右方向に長いものである。本形態の電極板100において,電極合剤層120は,集電箔110の第1面111のみに形成されている。本形態の電極板100は,例えば,リチウムイオン二次電池の正極板や負極板として用いられるものである。
【0013】
集電箔110は,例えば金属箔である。例えば,電極板100がリチウムイオン二次電池の正極板である場合には,集電箔110としてアルミニウム箔を用いることができる。また,例えば,電極板100がリチウムイオン二次電池の負極板である場合には,集電箔110として銅箔を用いることができる。
【0014】
また,電極合剤層120は,電極合剤材料として,少なくとも活物質121と結着材122とを含むものである。活物質121は,例えば,リチウムイオン二次電池においては,リチウムイオンを吸蔵,放出することで,充放電に寄与するものである。また,結着材122は,電極合剤層120を構成する材料を互いに結着させて電極合剤層120を形成するとともに,その電極合剤層120を集電箔110の第1面111に結着させるためのものである。
【0015】
また,電極板100がリチウムイオン二次電池の正極板である場合には,例えば,活物質121として三元系正極活物質であるNMC(LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2)を,結着材122としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いることができる。また,電極板100がリチウムイオン二次電池の負極板である場合には,例えば,活物質121として黒鉛を,結着材122としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を用いることができる。
【0016】
次に,本形態における電極板100の製造方法について説明する。本形態では,電極板100を,
図2に示す湿潤粉体成膜装置1を用いて製造する。湿潤粉体成膜装置1は,
図2に示すように,第1ロール10,第2ロール20,第3ロール30を有している。
図2において,上下方向が鉛直方向であり,重力は下向きに作用している。
【0017】
本形態の湿潤粉体成膜装置1において,第1ロール10,第2ロール20,第3ロール30はいずれも,軸方向を水平にした状態で配置されている。第1ロール10,第2ロール20,第3ロール30は,例えば,金属などの材質よりなるものである。また,第1ロール10および第2ロール20は,それぞれの外周面11,21が第1対向位置Aにおいて互いに対向した状態で,平行に配置されている。また,第3ロール30は,外周面31が第2ロール20の外周面21と第2対向位置Bにおいて対向した状態で,第2ロール20と平行に配置されている。
【0018】
第1ロール10および第2ロール20は,軸間距離が一定の距離となるように保持されている。そして,第1対向位置Aにおける第1ロール10の外周面11と第2ロール20の外周面21との間には,隙間GAが設けられている。また,第3ロール30は,第2ロール20との軸間距離が一定の距離となるように保持されている。そして,第2対向位置Bにおける第2ロール20の外周面21と第3ロール30の外周面31との間には,隙間GBが設けられている。
【0019】
第1ロール10,第2ロール20,第3ロール30は電極板100を製造する際にはそれぞれ回転するものである。
図2には,第1ロール10,第2ロール20,第3ロール30の回転方向をそれぞれ矢印により示している。つまり,
図2において,第1ロール10および第3ロール30の回転方向は時計回りであり,第2ロール20の回転方向は反時計回りである。
【0020】
第1ロール10および第2ロール20の回転方向は,第1対向位置Aにおける外周面11,21の移動方向がともに,同じとなる向きである。具体的には,第1ロール10および第2ロール20の回転方向は,第1対向位置Aにおける外周面11,21の移動方向がともに,鉛直方向の下向きとなる向きである。また,第3ロール30の回転方向は,第2対向位置Bにおける外周面31の移動方向が,第2ロール20の外周面21の移動方向と同じとなる向きである。
【0021】
また,本形態では,第2ロール20は,第1ロール10の周速よりも速い周速で回転するものである。さらに,第3ロール30は,第2ロール20の周速よりも速い周速で回転するものである。つまり,第1ロール10,第2ロール20,第3ロール30は,この順で,回転の周速が速いものである。
【0022】
また,第1対向位置Aの上方には,仕切り部90が設けられている。仕切り部90は,第1ロール10および第2ロール20の上面から湿潤造粒物130がこぼれ落ちないようにするための囲いである。そして,仕切り部90の内側には,湿潤造粒物130が溜まっている。湿潤造粒物130は,第1ロール10および第2ロール20の回転により,仕切り部90の内側から第1対向位置Aへと供給される。
【0023】
また,第3ロール30の外周面31には,
図2に示すように,集電箔110が巻き掛けられている。集電箔110は,第2面112側を第3ロール30の外周面31に向けた状態で,第3ロール30の第2対向位置Bに巻き掛けられている。このため,集電箔110は,第3ロール30の回転により搬送される。
【0024】
また,集電箔110の第1面111は,第2対向位置Bにおいて,第2ロール20の外周面21に対向している。なお,第3ロール30は,前述したように,第2ロール20よりも速い周速で回転するものである。このため,第2対向位置Bにおける集電箔110の第1面111の移動速度は,第2対向位置Bにおける第2ロール20の外周面21の移動速度よりも速いものである。
【0025】
また,集電箔110は,
図2における第3ロール30の右下から湿潤粉体成膜装置1内に供給され,第2対向位置Bを通過後,第3ロール30の右上に向けて排出されるように搬送されている。集電箔110は,湿潤粉体成膜装置1に供給されてくるときには,その第1面111に,まだ何も形成されていない状態である。そして,湿潤粉体成膜装置1は,第2対向位置Bにおいて集電箔110の第1面111に電極合剤層120を形成することにより,電極板100を製造することのできるものである。
【0026】
次に,湿潤粉体成膜装置1によって電極板100が製造される過程について説明する。まず,仕切り部90の内部に供給された湿潤造粒物130は,その下方のものより順に,第1ロール10および第2ロール20の回転によって第1対向位置Aへと送られる。
【0027】
第1対向位置Aに到達した湿潤造粒物130は,第1ロール10および第2ロール20の回転によって隙間GAを通過しつつ,その隙間GAの通過時に第1ロール10の外周面11と第2ロール20の外周面21との間で加圧される。この加圧により,湿潤造粒物130は圧延されつつ,湿潤造粒物130中の各粒子同士が結着材122の作用によって結着される。これにより,第1対向位置Aを通過した湿潤造粒物130はシート状に成形され,成膜シート131とされる。
【0028】
また,成膜シート131は,第1ロール10の外周面11および第2ロール20の外周面21のうち,第1対向位置Aにおける移動速度が速い方の面に付着する。そして,前述したように,湿潤粉体成膜装置1においては,第2ロール20の方が,第1ロール10よりも周速の速いものである。つまり,第1対向位置Aで形成された成膜シート131は,第1対向位置Aの通過後,第2ロール20の外周面21に付着する。第2ロール20の外周面21に付着した成膜シート131は,第2ロール20の回転によって搬送され,第2対向位置Bへと到達する。
【0029】
また,第2対向位置Bには,集電箔110が通されている。このため,第2ロール20の回転により第2対向位置Bへと到達した成膜シート131は,集電箔110とともに,第2対向位置Bの隙間GBを通過する。その隙間GBの通過の際に,集電箔110および成膜シート131は,その厚み方向に第2ロール20および第3ロール30によって加圧される。
【0030】
第2対向位置Bにおいても,加圧された成膜シート131は,第2ロール20の外周面21および集電箔110の第1面111のうち,第2対向位置Bにおける移動速度が速い方に付着する。そして,前述したように,湿潤粉体成膜装置1における第3ロール30は,第2対向位置Bにおける集電箔110の第1面111の移動速度が,第2ロール20の周速よりも速くなる周速で回転している。このため,第2対向位置Bを通過した成膜シート131は,第2ロール20の外周面21上から集電箔110の第1面111上に転写される。
【0031】
よって,
図2に示すように,第2対向位置Bを通過後の集電箔110の第1面111には,電極合剤層120が形成されている。そして,湿潤粉体成膜装置1では,第1ロール10,第2ロール20,第3ロール30を連続して回転させることにより,成膜シート131の形成と,その成膜シート131の集電箔110への転写とが連続して行われる。従って,集電箔110の搬送方向における長さの長い電極板100が製造される。なお,電極板100は,電池の製造に用いられる際には,適宜,適当な大きさに切り出される。
【0032】
ここで,本形態の湿潤造粒物130について
図3により説明する。湿潤造粒物130は,前述したように,電極合剤層120を形成するための材料である。このため,湿潤造粒物130の製造には,
図3に示すように,電極合剤材料である活物質121および結着材122を用いる。さらに,湿潤造粒物130の製造には,溶媒123を用いる。すなわち,本形態の湿潤造粒物130は,電極合剤材料である活物質121および結着材122を,溶媒123とともに攪拌し,これらを混合することで製造されたものである。つまり,湿潤造粒物130は,溶媒123によって電極合剤材料の各粒子同士が付着し,元の粒子よりも大きな塊となることで形成されたものである。
【0033】
また,本形態では,溶媒123として,粘度が,1000mPa・s以上,5000mPa・s以下の範囲内のものを用いている。溶媒123の粘度が低すぎる場合には,その粘度の低い溶媒123によって電極合剤材料の粒子同士を付着させることができない。電極合剤材料の粒子同士の間における溶媒123の液架橋力が低くなってしまうからである。一方,溶媒123の粘度が高すぎる場合には,電極合剤材料の粒子を溶媒123中に適切に分散させることができない。
【0034】
よって,溶媒123の粘度は,低すぎても高すぎても,電極合剤層120を適切に形成することができない。これに対し,本形態では,溶媒123の粘度を上記の範囲内とすることで,電極合剤材料の粒子を溶媒123中に適切に分散させつつ,電極合剤材料の粒子同士を,溶媒123によって付着させることができる。これにより,湿潤造粒物130を適切に形成するとともに,その湿潤造粒物130を用いて良好な電極合剤層120を形成することができる。
【0035】
さらに,本形態では,活物質121として,溶媒123に対する接触角が,10°以上,80°以下の範囲内のものを用いている。活物質121は,電極合剤層120を構成する主材料であり,電極合剤材料のうち,その大半を占めている物質である。そして,活物質121の溶媒123に対する接触角が小さすぎる場合には,溶媒123が活物質121の粒子の表面にのみ存在してしまい,電極合剤材料の粒子同士の間に存在する溶媒123の量が不足してしまうこととなる。一方,活物質121の溶媒123に対する接触角が大きすぎる場合には,活物質121と溶媒123との接触面積が小さくなってしまう。
【0036】
すなわち,活物質121の溶媒123に対する接触角は,小さすぎても大きすぎても,溶媒123の,電極合剤材料の粒子同士を付着させる液架橋力が不足してしまうこととなる。つまり,例えば,湿潤粉体成膜装置1の第1対向位置Aにて形成された成膜シート131が,脆いものとなってしまうおそれがある。このため,例えば,第1対向位置Aにて形成され,一方の面が第1ロール10の外周面11,他方の面が第2ロール20の外周面21に張り付いている成膜シート131が,第1ロール10から適切に剥がれず,厚み方向の中間の位置で裂けてしまう等のおそれがある。これにより,第2ロール20の外周面21上に形成されるべき成膜シート131が,一部,第1ロール10の外周面11上に残ってしまうおそれがあった。
【0037】
これに対し,本形態では,活物質121として,溶媒123に対する接触角が上記の範囲内のものを用いていることで,電極合剤材料の粒子同士の間に作用する溶媒123の液架橋力を十分なものとすることができる。これにより,本形態では,成膜シート131を,第2ロール20の外周面21上に適切に形成することができる。また,湿潤粉体成膜装置1の第2対向位置Bにおいても,第2ロール20の外周面21上に成膜シート131を残すことなく,適切に,集電箔110の第1面111上へと転写することができる。
【0038】
なお,活物質121は,粉末である。このため,本形態では,活物質121の溶媒123に対する接触角を,次のようにして測定した。
図4は,本形態における接触角の測定方法を示す図である。
図4には,ペレット140と,ペレット140の表面に滴下した溶媒123とを示している。接触角θは,
図4に示すように,溶媒123のペレット140表面との角度により示されるものである。
【0039】
また,ペレット140は,活物質121によって形成したものである。具体的には,ペレット140は,活物質121の粉末に圧縮荷重をかけて固めたものである。本形態では,活物質121の粉末に12kNの荷重をかけて固めたものをペレット140として用い,その表面に溶媒123を滴下することで接触角θの測定を行った。
【0040】
さらに,本形態では,湿潤造粒物130を,全体の重量に占める電極合剤材料(固形分)の重量の割合を,65%以上,90%以下の範囲内として形成している。全体の重量は,電極合剤材料の重量に,溶媒123の重量を加えた重量である。この全体の重量に占める電極合剤材料の重量の割合が低すぎる場合,溶媒123の量が多すぎることにより,攪拌によって湿潤造粒物130を適切に形成できない。一方,全体の重量に占める電極合剤材料の重量の割合が高すぎる場合,溶媒123が含まれない電極合剤材料の粒子の集まりが形成され,一部,粉末の状態で残ってしまう。
【0041】
すなわち,全体の重量に占める電極合剤材料の重量の割合は,低すぎても高すぎても,湿潤造粒物130を適切に形成することができない。これに対し,本形態では,全体の重量に占める電極合剤材料の重量の割合を上記の範囲内として形成しているため,湿潤造粒物130を適切に形成することができる。
【0042】
すなわち,本形態では,溶媒123の粘度,活物質121の溶媒123に対する接触角,全体の重量に占める電極合剤材料の重量の割合をそれぞれ上記の範囲内として形成した湿潤造粒物130を用いることで,均一な厚みの電極合剤層120を形成することができている。これにより,品質の高い電極板100を製造することができる。
【0043】
また,本形態では,電極合剤材料の粒子同士の間に作用する溶媒123の液架橋力を十分なものとすることができる。このため,湿潤粉体成膜装置1の各ロールの回転速度を速くしても,第2ロール20上の成膜シート131および集電箔110上の電極合剤層120が適切に形成される。すなわち,本形態では,品質の高い電極板100をより短時間で製造することができる。
【0044】
次に,本形態の実施例について,比較例とともに説明する。実施例および比較例ではいずれも,
図2に示す湿潤粉体成膜装置を用いて電極板を作製した。また,実施例および比較例ではいずれも,湿潤造粒物を,活物質,結着材,溶媒としてそれぞれ同じ成分のものを用い,リックス社製の攪拌造粒機を用いて形成した。さらに,実施例および比較例ではいずれも,電極合剤材料における活物質と結着材との割合を,99:1とした。つまり,実施例,比較例において,電極合剤材料に占める活物質の割合は,その他の材料と比較して高いものである。
【0045】
ただし,実施例および比較例ではそれぞれ,溶媒の粘度,活物質の溶媒に対する接触角,全体の重量に占める電極合剤材料の重量の割合を異なる条件として湿潤造粒物を形成した。その形成条件を,次の表1にまとめて示している。
【0047】
表1に示すように,本形態に係る実施例1〜7はいずれも,溶媒の粘度,活物質の溶媒に対する接触角,全体の重量に占める電極合剤材料の重量の割合(固形分率)をそれぞれ本形態の範囲内として形成した湿潤造粒物を用いている。これに対し,比較例1〜7では,溶媒の粘度,活物質の溶媒に対する接触角,固形分率のうち,少なくとも1つの条件が,本形態の範囲外である。
【0048】
具体的には,比較例1では,溶媒の粘度が,1000mPa・s未満の500mPa・sである。比較例2では,溶媒の粘度が,5000mPa・sを超える6000mPa・sである。比較例3では,活物質の溶媒に対する接触角が,10°未満の5°である。比較例4では,活物質の溶媒に対する接触角が,80°を超える85°である。比較例5では,固形分率が,65%未満の63%である。比較例6では,固形分率が,90%を超える92%である。比較例7では,溶媒の粘度が,1000mPa・s未満の1mPa・sであるとともに,活物質の溶媒に対する接触角が,80°を超える120°である。
【0049】
なお,上記の実施例1〜7および比較例1〜6で使用した活物質について,ここでは,活物質の表面性状を異なるものとすることにより,溶媒に対する接触角を調整している。また,活物質の表面性状の処理は,真空プラズマ3次元体処理装置(魁半導体製のYHS−DOS)により行った。具体的に,比較例7では,真空プラズマ3次元体処理装置による処理を行っていない活物質を使用した。これに対し,比較例7以外,すなわち実施例1〜7および比較例1〜6ではそれぞれに,真空プラズマ3次元体処理装置によるプラズマ処理によって表面性状を,溶媒に対する接触角が表1に示す角度となるように調整した活物質を使用した。
【0050】
また,表1には,実施例1〜7および比較例1〜7について,評価項目を示している。この評価は,実施例1〜7および比較例1〜7でそれぞれ作製した電極板の電極合剤層の品質に関する評価である。具体的には,集電箔の表面に形成された電極合剤層を観察し,均一な厚みで品質の高い電極合剤層が形成されたものについては,評価を「○」として示している。一方,電極合剤層の厚みが均一でなく,例えば,電極合剤層の形成されるべき範囲において集電箔が露出しているような欠陥部分が存在している場合には,評価を「×」として示している。
【0051】
表1に示すように,実施例1〜7はいずれも評価が「○」であり,比較例1〜7はいずれも評価が「×」であった。まず,比較例1においては,粘度の低い溶媒を使用しているため,溶媒の液架橋力が低く,その溶媒によって電極合剤材料の粒子同士を付着させることができない。また,比較例2においては,粘度の高い溶媒を使用しているため,溶媒中に電極合剤材料の粒子を適切に分散させることができない。
【0052】
さらに,比較例3においては,溶媒に対する接触角の小さな活物質を使用しているため,電極合剤材料の粒子同士の間に存在する溶媒の量が不足してしまう。また,比較例4においては,溶媒に対数する接触角の大きな活物質を使用しているため,活物質の粒子と溶媒との接触面積が不足してしまう。
【0053】
加えて,比較例5においては,固形分である電極合剤材料に対して溶媒が多いことにより,湿潤造粒物を適切に形成することができない。また,比較例6においては,固形分である電極合剤材料に対して溶媒が少ないことにより,湿潤造粒物を適切に形成することができない。また,比較例7においては,粘度の低い溶媒,および,溶媒に対する接触角が大きな活物質を使用している。
【0054】
すなわち,比較例1〜7はいずれも,溶媒の粘度,活物質の溶媒に対する接触角,固形分率の少なくとも1つが,本形態の範囲外であるため,厚みの均一な電極合剤層を形成することができなかった。これに対し,溶媒の粘度,活物質の溶媒に対する接触角,固形分率をいずれも本形態の範囲内とした実施例1〜7では,厚みの均一な電極合剤層が形成できることが確認された。
【0055】
以上詳細に説明したように,本実施の形態では,湿潤造粒物を,第1ロールおよび第2ロールの隙間に通すことでシート状の成膜シートに成形しつつ,これを集電箔の第1面上に転写により付着させる。これにより,集電箔上に電極合剤層を形成して電極板を製造する。湿潤造粒物は,活物質および結着材を含む電極合剤材料を溶媒と混合することにより形成したものである。また,湿潤造粒物を,溶媒として,粘度が,1000mPa・s以上,5000mPa・s以下の範囲内のものを用いて形成している。さらに,湿潤造粒物を,活物質として,溶媒に対する接触角が,10°以上,80°以下の範囲内ものを用いて形成している。加えて,湿潤造粒物を,全体の重量に占める固形分の重量を,65%以上,90%以下の範囲内として形成している。これにより,湿潤造粒物により集電箔上に厚みが均一な電極合剤層を形成することができる湿潤粉体成膜方法が実現されている。
【0056】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。従って本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,上記の実施形態では,集電箔の第1面のみに電極合剤層を形成する場合について説明したが,集電箔の第2面にも電極合剤層を形成することができる。集電箔の第2面の電極合剤層の形成についても,上記の実施形態で説明した第1面に形成する場合と同様に行うことができる。
【0057】
また例えば,電極合剤材料には,活物質および結着材の他にも,導電材等の材料が含まれていてもよい。この場合であっても,電極合剤材料に占める活物質の割合は,その他の材料よりも高いものである。よって,例えば,電極合剤材料に,例えば,アセチレンブラック(AB)のような導電材が含まれているような場合であっても,本発明を適用することができる。
【0058】
また,上記の実施形態で示した具体的な材料は,単なる一例であり,当然,その他のものを用いることもできる。つまり,例えば,活物質としては,三元系正極活物質であるNMC(LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2)に替えて,スピネル型のLiMn
2O
4等のその他のものを使用することも可能である。また例えば,リチウムイオン二次電池の電極板に限らず,その他の電池の電極板にも適用することができる。
【0059】
また例えば,上記では,活物質粒子にプラズマ処理を施し,活物質粒子の表面性状を調整することにより,活物質の溶媒に対する接触角を調整するものとして説明している。しかし,活物質の表面性状は,例えば,その他の方法によって調整することもできる。例えば,活物質粒子の表面性状は,コロナ放電によって放出された電子を活物質粒子に衝突させるコロナ処理によっても調整することが可能である。また,活物質粒子同士,あるいは活物質粒子に他の粒子を接触させることで,機械的に活物質粒子表面の面粗さを調整することで,活物質粒子の表面性状を調整することもできる。また,活物質の官能基を調整することによっても,活物質粒子の表面性状を調整することも可能である。よって,これらの方法によっても,活物質の溶媒に対する接触角を調整することができる。