(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記センシングカフは、前記対向面と向き合った第1シートと、前記第1シートと前記対向面との間に位置した第2シートとを含み、前記第1シート及び前記第2シートの一方を平らにした自然状態で、前記第1シート及び前記第2シートの他方に、前記センシングカフの幅方向に関して両側の縁部の間で前記センシングカフの長手方向に沿って延びた弛みを有する請求項1乃至4の何れか1項に記載の血圧計。
第1流体を収容可能に袋状に構成された押圧カフを含み、被検者の被測定部位に巻き付け、前記押圧カフを膨張させることによって、前記被測定部位へ向かって押圧力を発生する押圧部材と、
第2流体を収容可能に袋状に構成され、前記押圧部材の前記被測定部位との対向面側に設置されたセンシングカフと、
前記押圧カフにおける前記第1流体の量及び前記センシングカフにおける前記第2流体の量を調整する調整装置と、
前記センシングカフ内の圧力を検知する圧力センサと、
血圧測定時に、前記被検者の生体情報に応じた量の前記第2流体が前記センシングカフに収容され、この状態で前記押圧カフが膨張するか又は膨張及び収縮するように、前記調整装置の動作を制御するとともに、前記圧力センサの出力から前記被検者の血圧値を算出する制御部と、
情報を入力するための入力部と
を備え、
前記制御部は、
測定モードを第1モードから第2モードへと切り替え可能であり、
前記第1モードの血圧測定では、前記入力部を介して入力された前記情報の少なくとも一部を前記生体情報として用いて前記調整装置の前記動作を制御するとともに、前記圧力センサの出力から前記被検者の血圧値を算出し、
前記第2モードの血圧測定では、それよりも前の血圧測定において前記制御部が算出した前記血圧値を前記生体情報として用いて前記調整装置の前記動作を制御するとともに、前記圧力センサの出力から前記被検者の血圧値を算出する血圧測定装置。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、同様又は類似した機能を有する要素については、同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0037】
(血圧計の構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る血圧計を、ベルトを締結した状態で描いた斜視図である。
図2は、
図1の血圧計を、ベルトを開放した状態で描いた斜視図である。
【0038】
図1及び
図2に示す血圧計1は、活動量計や脈拍計などの機能を有している腕時計型の血圧計である。つまり、この血圧計1は、腕時計型ウェアラブルデバイスである。
この血圧計1は、本体10とベルト2とカフ構造体20とを含んでいる。
【0039】
本体10は、被検者(ユーザ)の日常活動の邪魔にならないように、小型で、薄厚に形成されている。
【0040】
本体10は、この例では、略短円筒状のケース10Bと、ケース10Bの一方の開口部(
図1及び
図2では上方の開口部)に取り付けられた円形状のガラス板10Aと、ケース10Bの他方の開口部に取り付けられた裏蓋10C(
図6参照)とを有している。なお、以下の本体10に関する説明では、ガラス板10A側及び裏蓋10C側をそれぞれ前面側及び背面側と呼ぶ。
【0041】
ケース10Bは、その側面に、ベルト2を取り付けるためのラグ10B1、10B2、10B3及び10B4を有している。ラグ10B1及び10B2は、ケース10Bの略短円筒部の側面から一方向へ突き出ており、それらには、貫通孔が同軸に設けられている。また、ラグ10B3及び10B4は、ケース10Bの略短円筒部の側面からラグ10B1及び10B2とは略反対方向へ突き出ており、それらにも、貫通孔が同軸に設けられている。
【0042】
ケース10B内であって、ガラス板10Aの背面側には、表示器50が設置されている。表示器50は、この例では液晶ディスプレイであり、例えば、血圧測定結果などの血圧測定に関する情報を表示する。なお、表示器50は、有機ELディスプレイに限られるものではなく、例えば有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイなどの他のタイプの表示器であってもよい。また、表示器50は、発光ダイオードを含んでいてもよい。
【0043】
本体10には、ケース10Bの側面であって、ラグ10B1とラグ10B3との間の位置に、プッシュ式のスイッチ52A乃至52Cが設けられている。スイッチ52A乃至52Cは、入力部の一例である操作部を構成している。入力部については、後で詳述する。
【0044】
本体10は、その内部に、ポンプを含む血圧測定要素を搭載している。血圧測定要素についても、後で詳述する。
【0045】
ベルト2は、本体10から延在しており、被測定部位、この例では左手首を取り巻いて装着される。ベルト2の幅方向Xの寸法は、この例では29mmに設定されている。また、ベルト2の厚さは、この例では2mmに設定されている。
【0046】
図2によって良く分かるように、ベルト2は、本体10のラグ10B1及び10B2の位置から延びた第1ベルト部3と、本体10のラグ10B3及び10B4の位置から第1ベルト部3とは逆向きに延びた第2ベルト部4とを含んでいる。第1ベルト部3のうち本体10に近い根元部3eは、本体10のラグ10B1及び10B2に対して、ベルトの幅方向Xに延びた連結棒7(例えば、ばね棒)を介して、両矢印Aで示す方向へ回動自在に取り付けられている。同様に、第2ベルト部4のうち本体10に近い根元部4eは、本体10のラグ10B3及び10B4に対して、ベルトの幅方向Xに延在する連結棒8(例えば、ばね棒)を介して、両矢印Bで示す方向へ回動自在に取り付けられている。
【0047】
第1ベルト部3のうち本体10から遠い先端部3fには、尾錠5が取り付けられている。尾錠5は、公知のタイプのものであり、略U字状の枠状体5Aと、つく棒5Bと、ベルトの幅方向Xに延びた連結棒5Cとを含んでいる。枠状体5A及びつく棒5Bの各々は、第1ベルト部3のうち本体10から遠い先端部3fに対して、連結棒5Cを介して両矢印Cで示す方向へ回動自在に取り付けられている。第1ベルト部3のうち先端部3fと根元部3eとの間の部分は、第1ベルト部3の長手方向(左手首90の周方向Yに相当)に関して予め定められた位置に、リング状のベルト保持部6A及び6Bを一体に有している。第1ベルト部3の内周面3aは、ベルト保持部6A及び6Bの位置で突き出ておらず、これにより、ベルト2がカフ構造体20を均一に取り巻いて拘束することが図られている。
【0048】
第2ベルト部4のうち根元部4eと本体10から遠い先端部4fとの間の部分には、複数の小穴4wが、第2ベルト部4をその厚さ方向に貫通するように形成されている。第1ベルト部3と第2ベルト部4とを締結する際には、尾錠5の枠状体5Aに第2ベルト部4の先端部4f及びそれに連なる部分が通され、第2ベルト部4の複数の小穴4wのうちの何れか1つに尾錠5のつく棒5Bが挿通される。これにより、
図1に示すように、第1ベルト部3と第2ベルト部4とが締結される。
【0049】
ベルト2を構成する第1ベルト部3及び第2ベルト部4は、この例では、厚さ方向に関して可撓性を有し、かつ、長手方向(左手首90の周方向Yに相当)に関して実質的に非伸縮性を示すプラスチック材料からなる。これにより、装着の際にベルト2がカフ構造体20の外周側を容易に取り巻いて拘束できるとともに、後述する血圧測定時に左手首90の圧迫を助けることができる。なお、第1ベルト部3及び第2ベルト部4は、革材料からなるものであってもよい。また、尾錠5を構成する枠状体5A及びつく棒5Bは、この例では金属材料からなるが、プラスチック材料からなるものであってもよい。
【0050】
カフ構造体20は、帯状であり、
図2に示すように、本体10に一端20fが取り付けられている。カフ構造体20は、最外周に設置されたカーラ24と、このカーラ24の内周面に沿って設置された押圧カフ23と、この押圧カフ23の内周面に沿って設置された補強板としての背板22と、この背板22の内周面に沿って設置されたセンシングカフ21とを含んでいる。本実施形態においては、上述したベルト2と、カーラ24と、押圧カフ23と、背板とが、手首へ向かって押圧力を発生可能な押圧部材として働き、これらの押圧部材によってセンシングカフ21を介して手首を圧迫する。
【0051】
カフ構造体について、以下に、更に詳しく説明する。
図3(A)は、
図2の血圧計が含んでいるカフ構造体を示す断面図である。
図3(B)は、
図3(A)のカフ構造体をその内周面が最前面となるように展開して描いた平面図である。なお、
図3(A)の断面は、
図3(B)におけるIIIA−IIIA線に沿った断面に相当している。
【0052】
図4(A)は、
図3(B)の一部を拡大して示す断面図である。
図4(B)は、
図4(A)に示す構造のIVB−IVB線に沿った断面図である。
【0053】
図5(A)は、
図3(A)及び
図3(B)に示すカフ構造体が含んでいる押圧カフを示す平面図である。
図5(B)は、
図3(A)及び
図3(B)に示すカフ構造体が含んでいる背板の平面図である。
【0054】
図3(A)及び
図3(B)に示すように、カーラ24、押圧カフ23、背板22、及びセンシングカフ21の各々は、一方向(Y方向)に細長い帯状の形状を有している。この例では、カーラ24の幅方向Xの寸法W1は28mmであり、押圧カフ23の幅方向Xの寸法W2(溶着された両側の縁部を除く)は25mmであり、背板22の幅方向Xの寸法W3は23mmであり、センシングカフ21の幅方向Xの寸法W4(溶着された両側の縁部を除く)は15mmである。また、この例では、カーラ24の長手方向Yの寸法L1(本体10に取り付けられる根元部24fを除く)は148mmであり、押圧カフ23の長手方向Yの寸法L2は140mmであり、背板22の長手方向Yの寸法L3は114mmであり、センシングカフ21の長手方向Yの寸法L4は110mmである。
【0055】
センシングカフ21は、
図4(A)及び
図4(B)から分かるように、左手首90に接する第1シート21Aと、この第1シート21Aに対向する第2シート21Bとを含んでいる。第2シート21Bは、押圧部材の一部をなす背板22の内周面に対向して設置されている。第1シート21A及び第2シート21Bは、それらの周縁部21mが互いに溶着されて袋状に構成されている。この例では、
図4(B)に示すように、このセンシングカフ21には、その幅方向Xに関して両側の縁部21mに連なる箇所に、自然状態で、このセンシングカフ21の長手方向Yに沿って延在する弛み21rが設けられている。また、
図4(A)に示すように、第1シート21Aのうち、このセンシングカフ21の長手方向Yに関して両側の縁部21m(
図4(A)では、先端側のみを示す)に連なる箇所に、自然状態で、このセンシングカフ21の幅方向Xに沿って延在する弛み21rが設けられている。このような弛み21rは、例えば、第1シート21A及び第2シート21Bの周縁部21mを互いに溶着又は接着させる際に、公知の手法により形成され得る。
図3(A)及び
図3(B)から分かるように、センシングカフ21の長手方向Yに関して根元側(+Y側)の端部には、このセンシングカフ21に圧力伝達用の第2流体(この例では、空気)を供給し、又は、センシングカフ21から圧力伝達用の第2流体を排出するための可撓性チューブ38が取り付けられている。第1シート21A及び第2シート21Bは、この例では伸縮可能なシリコーン樹脂シート(厚さt=0.15mm)である。カフ構造体20の内周面20aは、センシングカフ21の第1シート21Aによって構成されている。
【0056】
なお、本明細書で、「接する」とは、直接のみでなく、他の部材(例えばカバー部材)を介して間接的に接する場合も含む。
【0057】
押圧カフ23は、
図4(A)及び
図4(B)から分かるように、厚さ方向に積層された2つの流体袋23−1及び23−2を含んでいる。流体袋23−1及び23−2の各々は、伸縮可能な2枚の熱可塑性ポリウレタンシート(厚さt=0.15mm)を対向させ、それらの周縁部23m1及び23m2を溶着して形成されている。
図5(A)に示すように、内周側の流体袋23−1の長手方向Yの寸法は、外周側の流体袋23−2の長手方向Yの寸法(L2)よりも少しだけ小さく設定されている。外周側の流体袋23−2の長手方向Yに関して根元側(+Y側)の端部には、この押圧カフ23に圧力伝達用の第1流体(この例では、空気)を供給し、又は、押圧カフ23から圧力伝達用の第1流体を排出するための可撓性チューブ39が取り付けられている。また、内周側の流体袋23−1とそれに隣り合う外周側の流体袋23−2との間には、複数(この例では、4つ)の貫通孔23oが形成されている。これにより、これらの貫通孔23oを通して、2つの流体袋23−1及び23−2間で加圧用の第1流体(この例では、空気)を流通可能になっている。これにより、押圧カフ23は、装着状態で、可撓性チューブ39を通して本体10側から加圧用の第1流体の供給を受けたとき、積層された2つの流体袋23−1及び23−2が膨張し、全体として左手首90を圧迫するようになっている。
【0058】
背板22は、この例では、樹脂(この例では、ポリプロピレン)からなる、厚さ1mm程度の板である。
図3(A)及び
図3(B)から分かるように、背板22は、長手方向Y(左手首90の周方向に相当)に関してセンシングカフ21の長さを越えて帯状に延在している。従って、背板22は、補強板として働いて、押圧カフ23からの押圧力をセンシングカフ21の長手方向Y(左手首90の周方向に相当)に関して全域に伝えることができる。また、
図4(A)及び
図5(B)から分かるように、背板22の内周面22a及び外周面22bには、それぞれ、幅方向Xに延びる断面V字状又はU字状の溝22d1及び22d2が、長手方向Yに関して互いに離間して複数平行に設けられている。この例では、背板22の内周面22aに設けられた溝22d1と、背板22の外周面22bに設けられた溝22d2とは、長手方向Yに関して同じ位置に設けられている。これにより、背板22が、溝22d1及び22d2の位置で他の位置に比して薄肉になって、屈曲し易くなっている。従って、装着の際に、被検者が、ベルト2で、左手首90とカフ構造体20とを一括して取り巻く状態にするときに、カフ構造体20が左手首90の周方向Yに沿って湾曲しようとするのを、背板22が妨げることがない。
【0059】
カーラ24は、この例では、厚さが1mm程度であり、或る程度の可撓性及び硬さを有する樹脂板(この例では、ポリプロピレン板)である。
図3(A)及び
図3(B)から分かるように、カーラ24は、展開状態では、長手方向Y(左手首90の周方向に相当)に関して押圧カフ23の長さを越えて帯状に延在している。このカーラ24は、
図7に示すように、自然状態では、左手首90を取り巻く周方向Yに沿って湾曲した形状を有する。これにより、カフ構造体20の自然状態での形状が、
図2に示すように、左手首90の周方向Yに沿って湾曲した状態に保たれる。
【0060】
背板22の内周面22aの周縁部及びカーラ24の内周面24aの周縁部には、それぞれ、被測定部位(この例では、左手首90)から遠ざかる向きに湾曲したアール22r及びアール24rが形成されている。これにより、被検者に対して、カフ構造体20の装着による違和感を与えないようにしている。
【0061】
図6は、
図1及び
図2の血圧計が含んでいる本体の裏側を描いた斜視図である。
図6に示すように、本体10の裏側には裏蓋10Cが設けられている。裏蓋10Cは、4つの貫通孔を有しており、これらの貫通孔の位置で、ネジ10C1、10C2、10C3及び10C4によってケース10Bの裏側に固定されている。ケース10Bの側面のうち第1ベルト部3の根元部3eで隠れる部分には、フィルタ付き吸排気孔10Boが設けられている(第2ベルト部4の根元部4eで隠れる部分でも同様)。これにより、生活防水機能を実現しながら、ケース10Bの内外間の空気流通が可能になっている。
【0062】
図7は、
図6に示す本体と
図1及び
図2の血圧計が含んでいるカーラとを描いた分解斜視図である。
図7に示すように、本体10のケース10B内には、血圧測定要素を搭載するためのインナーケース部材11が収容されている。インナーケース部材11の裏側には、突起11pの周りを取り囲む環状溝11dが形成されている。カーラ24の根元部24fには、環状溝11dに対応した形状を有するリング24oが形成されている。本体10を組み立てる際には、インナーケース部材11の環状溝11dに、カーラ24の根元部24fのリング24oが嵌められる(同時に、インナーケース部材11の突起11pにリング24oが嵌まる)。そして、インナーケース部材11の裏側と本体10の裏蓋10Cとの間に、後述の2つの流路形成部材(第1流路形成部材390及び第2流路形成部材380)と重なった状態で、カーラ24の根元部24fが挟持される。
【0063】
これにより、
図2に示すように、カフ構造体20の一端20f(カーラ24の根元部24f)が本体10に取り付けられる。カフ構造体20の他端20e(カーラ24の先端部24e)は自由端になっている。この結果、カフ構造体20はベルト2の内周面3a及び4aに対向し、内周面3a及び4aから離間自在になっている。
【0064】
このようにしてカフ構造体20が本体10に取り付けられている場合、本体10にカフ構造体20の一端20fが確実に保持される。また、保守サービスの際には、本体10の裏蓋10Cを開くことによって、ベルト2とは無関係に、本体10に対してカフ構造体20を交換することができる。また、カフ構造体20の長手方向Y(左手首90の周方向に相当)の寸法が、ベルト2とは無関係に、最適寸法に設定され得る。
【0065】
なお、この血圧計1では、本体10とベルト2とが互いに別々に形成され、本体10に対してベルト2が取り付けられているので、保守サービスの際に、カフ構造体20とは無関係に、本体10に対してベルト2を交換することもできる。
【0066】
図7に示す第1流路形成部材390は、互いに対向して薄板状に広がる2枚のシート板391及び392と、これらのシート板391及び392を予め定められた間隔(この例では、0.7mm)に保つスペーサ部393とからなる。同様に、第2流路形成部材380は、互いに対向して薄板状に広がる2枚のシート板381及び382と、これらのシート板381及び382を予め定められた間隔に保つスペーサ部383とからなる。なお、シート板381及びスペーサ部383については、後で説明する
図9に示している(
図9では、理解の容易のために、インナーケース部材11から遠いシート板392及び382の図示が省略されている)。第1流路形成部材390の端部及び第2流路形成部材380の端部には、それぞれ、横向きピン390p及び380pが流体流通可能に取り付けられている。カーラ24を含むカフ構造体20が本体10に取り付けられる際に、押圧カフ23からの可撓性チューブ39が横向きピン390pを介して第1流路形成部材390に接続される。また、この際、センシングカフ21からの可撓性チューブ38が横向きピン380pを介して第2流路形成部材380に接続される。
【0067】
第1流路形成部材390及び第2流路形成部材380は、この例では、エラストマーの一体成形によって形成されている。第1流路形成部材390及び第2流路形成部材380の厚さは、この例では1.2mmに設定されている。
【0068】
図10は、
図1及び
図2に示す血圧計のブロック図である。
血圧計1の本体10には、既述の表示器50、スイッチ52A乃至52Cを含んだ操作部(入力部)52に加えて、血圧測定を実行するための血圧測定要素として、制御部としてのメインCPU(Central Processing Unit)100及びサブCPU101、記憶部としてのメモリ51、加速度センサ54、通信部59、電池53、押圧カフ23の圧力を検出するための第1圧力センサ31、センシングカフ21の圧力を検出するための第2圧力センサ32、ポンプ30、開閉弁33、並びに、ポンプ30を駆動するポンプ駆動回路35が搭載されている。なお、メインCPU100は主に血圧計1全体の動作を制御し、サブCPU101は主にエア系の動作を制御する。以下では、簡単のため、メインCPU100とサブCPU101とを併せて、単にCPU100と呼ぶ。
【0069】
操作部52は、
図1及び
図2を参照しながら説明したスイッチ52A乃至52Cを含んでいる。スイッチ52Aは、血圧測定モードにおいては血圧測定の開始又は停止の指令の入力に利用し、設定モードにおいては設定項目を選択するために利用する。スイッチ52Bは、設定モード及び血圧測定モードなどの間での切り替えに利用し、設定モードにおいては、選択した選択項目を決定する指令の入力にも利用する。スイッチ52Cは、設定モードにおいては決定を取り消す指令の入力に利用し、血圧測定モードにおいては、過去の血圧や活動量などの測定記録を表示器50に表示させるための指令の入力に利用する。
【0070】
スイッチ52A乃至52Cは、上記の通り、入力部の一例である操作部を構成している。操作部は、プッシュ式スイッチに限られるものではなく、例えば、感圧式(抵抗式)又は近接式(静電容量式)のタッチパネルなどの他の接触式入力装置であってもよい。また、入力部は、マイクロフォンを備えた音声式の入力装置、又は、コンピュータやスマートフォンなどとの有線又は無線による通信を可能とする通信式の入力装置であってもよい。或いは、入力部は、接触式入力装置、音声式入力装置、及び通信式入力装置の2以上の組み合わせであってもよい。
【0071】
入力部は、被検者による情報の入力、例えば、上腕式血圧計で測定した血圧、被測定部位、この例では手首の周囲長、及び体脂肪率などの生体情報の入力に使用する。また、入力部は、被験者による指令の入力、例えば、血圧測定開始の指令や血圧測定停止の指令の入力に使用する。入力部は、入力された情報や指令をCPU100へ出力する。
【0072】
メモリ51は、血圧計1を制御するためのプログラムのデータ、血圧計1を制御するために用いられるデータ、血圧計1の各種機能を設定するための設定データ、血圧値の測定結果のデータなどを非一時的に記憶する。また、メモリ51は、プログラムが実行されるときのワークメモリなどとして用いられる。
【0073】
ここで、血圧計1の各種機能を設定するための設定データは、被験者が操作部52を介して入力する生体情報を含んでいる。また、血圧計1を制御するために用いられるデータは、上記の生体情報から、センシングカフ21へ供給すべき第2流体の量(目標供給量)を算出するために利用する関係式又はテーブルに相当するデータを含んでいる。
【0074】
CPU100は、メモリ51に記憶された血圧計1を制御するためのプログラムに従って、制御部として各種機能を実行する。例えば、CPUは、被験者が操作部52を介して入力した生体情報と、上記の関係式又はテーブルとから、センシングカフ21へ供給すべき第2流体の量(目標供給量)を算出する。また、血圧測定機能を実行する場合は、CPU100は、操作部52のスイッチ52Aを介して血圧測定開始の指令が入力されると、第1圧力センサ31及び第2圧力センサ32からの信号に基づいて、ポンプ30及び開閉弁33を駆動する制御を行う。そして、CPU100は、第2圧力センサ32からの信号に基づいて、血圧値及び脈拍などを算出する制御を行う。
【0075】
加速度センサ54は、本体10内に内蔵された三軸加速度センサからなる。加速度センサ54は、互いに直交する三方向の加速度を表す加速度信号をCPU100に出力する。この例では、この加速度センサ54の出力は、活動量を測定するために用いられる。
【0076】
通信部59は、CPU100による制御のもと、ネットワークを介して所定の情報を外部の装置に送信したり、ネットワークを介して外部の装置からの情報を受信してCPU100に受け渡したりする。このネットワークを介した通信は、無線及び有線の何れでもよい。この実施形態において、ネットワークは、インターネットであるが、これに限定されず、病院内LAN(Local Area Network)のような他の種類のネットワークであってもよいし、USBケーブルなどを用いた1対1の通信であってもよい。この通信部59は、マイクロUSBコネクタを含んでいてもよい。
【0077】
電池53は、この例では、充電可能な二次電池である。電池53は、本体10に搭載された要素、この例では、CPU100、メモリ51、加速度センサ54、通信部59、第1圧力センサ31、第2圧力センサ32、ポンプ30、開閉弁33、及び、ポンプ駆動回路35の各要素へ電力を供給する。
【0078】
ポンプ30は、押圧カフ23における第1流体の量及びセンシングカフにおける第2流体の量を調整する調整装置の一部を構成している。ポンプ30は、この例では圧電ポンプからなり、CPU100から与えられる制御信号に基づいてポンプ駆動回路35によって駆動される。このポンプ30は、第1流路を構成する第1流路形成部材390及び可撓性チューブ39を介して、押圧カフ23に流体流通可能に接続されている。ポンプ30は、第1流路形成部材390及び可撓性チューブ39を通して、押圧カフ23に加圧用の第1流体として空気を供給することができる。なお、このポンプ30には、ポンプ30のオン/オフに伴って開閉が制御される図示しない排気弁が搭載されている。即ち、この排気弁は、ポンプ30がオンされると閉じて、押圧カフ23内に空気を封入するのを助ける一方、ポンプ30がオフされると開いて、押圧カフ23の空気を可撓性チューブ39及び第1流路形成部材390を通して、大気中へ排出させる。この排気弁は、逆止弁の機能を有し、排出される空気が逆流することはない。
【0079】
ポンプ30は、第2流路を構成する第2流路形成部材380及び可撓性チューブ38を介して、センシングカフ21に流体流通可能に接続されている。第2流路(実際には、第1流路形成部材390と第2流路形成部材380との間)には、開閉弁(この例では、常開の電磁弁)33が介挿されている。開閉弁33は、ポンプ30とともに、上述した調整装置を構成している。
【0080】
開閉弁33は、CPU100から与えられる制御信号に基づいて開閉(開度)が制御される。この開閉弁33が開状態にあるとき、ポンプ30から第2流路を通してセンシングカフ21に圧力伝達用の第2流体として空気を供給して収容させることができる。
【0081】
第1圧力センサ31及び第2圧力センサ32は、この例では、各々がピエゾ抵抗式圧力センサである。第1圧力センサ31は、第1流路を構成する第1流路形成部材390及び可撓性チューブ39を介して、押圧カフ23内の圧力を検出する。第2圧力センサ32は、第2流路を構成する第2流路形成部材380及び可撓性チューブ38を介して、センシングカフ21内の圧力を検出する。
【0082】
なお、
図8(本体10の内部を斜め上方から見たところ)に示すように、ポンプ30と第1圧力センサ31とは、本体10内でインナーケース部材11の略中央に配置されている。開閉弁33と第2圧力センサ32とは、インナーケース部材11の周辺に配置されている。
図9(本体10の内部を斜め下方から見たところ)に示すように、第1流路形成部材390は、インナーケース部材11の裏側で、ポンプ30の吐出口30dと、第1圧力センサ31の空気導入口31dと、開閉弁33の入口33iとにまたがって設置されている。第2流路形成部材380は、インナーケース部材11の裏側で、開閉弁33の出口33eと、第2圧力センサ32の空気導入口32dとにまたがって設置されている。
【0083】
この血圧計1は、本体10に上述のような血圧測定要素を搭載することによって、小型で一体に構成されている。従って、被検者の使い勝手が良い。
【0084】
(血圧測定方法)
図11は、一例に係る血圧測定方法の一部のステップを示すフローチャートである。
図12は、
図11に一部のステップを示す血圧測定方法の残りのステップを示すフローチャートである。
【0085】
この方法では、先ず、
図11のステップS1に示すように、被験者は、血圧計1に生体情報を入力する。生体情報の入力は、操作部52のスイッチ52A乃至52Cを操作することにより行う。
【0086】
生体情報は、被験者の血圧、被測定部位における動脈及び骨の位置、脂肪量、被測定部位の周囲長などの、血圧計測精度に影響を及ぼし得る情報である。この生体情報は、被験者の血圧及び被測定部位の周囲長の少なくとも一方を含んでいることが好ましい。また、生体情報の少なくとも一部として被験者の血圧値を利用する場合は、この血圧は、上腕式血圧計で測定したものであることが好ましい。ここでは、一例として、生体情報は、上腕式血圧計で測定した血圧であるとする。
【0087】
血圧計1に生体情報を入力すると、CPU100は、
図11のステップS2に示すように、この生体情報に基づいて、センシングカフ21へ供給すべき第2流体の量、即ち目標供給量を算出する。具体的には、この生体情報と、メモリ51が記憶している上記関係式又はテーブルとから、目標供給量を算出する。メモリ51は、この目標供給量を記憶する。
【0088】
次に、被験者は、
図11のステップS3に示すように、血圧計1を被測定部位、この例では左手首に装着する。
【0089】
具体的には、
図13Aに示すように、まず、被検者は、左手首90に、右手99を使ってカフ構造体20を装着する。ここで、カフ構造体20は、自然状態ではカーラ24によって左手首90の周方向Yに沿って湾曲している。従って、被検者は、この例では、右手99を使って左手首90の外周面にカフ構造体20の内周面を当てることによって、左手首90にカフ構造体20を容易に装着することができる。左手首90にカフ構造体20が装着された状態では、被検者が右手99をカフ構造体20から離したとしても、カフ構造体20が左手首90を把持することから、カフ構造体20(及びベルト2、本体10)は左手首90から脱落し難い。
【0090】
次に、
図13Bに示すように、被検者は、右手99を使って、ベルト2で、左手首90とカフ構造体20とを一括して取り巻く状態にする。具体的には、第1ベルト部3の尾錠5の枠状体5Aに第2ベルト部4の先端部4fに連なる部分を通し、さらに、第2ベルト部4の複数の小穴4wの何れか1つに尾錠5のつく棒5Bを挿通する。このようにして、
図13Cに示すように、第1ベルト部3と第2ベルト部4とを締結する。これにより、本体10から延在するベルト2が左手首90を取り巻くとともに、本体10に一端20fが取り付けられた帯状のカフ構造体20がベルト2よりも左手首90に近い内周側に配置された状態になる。
【0091】
ここで、この血圧計1では、カフ構造体20がベルト2の内周面3a及び4aから離間自在であるとともに、カフ構造体20の一端20fと反対の側の他端20eは自由端になっている。従って、第1ベルト部3と第2ベルト部4とを締結する際に、ベルト2からカフ構造体20が内向きの力を受けて、左手首90の外周面に丁度沿うようにカフ構造体20がスライド又は変形し得る。これにより、装着状態では、左手首90の外周面に対して、カフ構造体20、ベルト2がこの順に略密接した状態、つまり、左手首90を全体として帯状に取り巻く状態となる。このようにして、この血圧計1は、左手首90に対して容易に装着され得る。
【0092】
詳しくは、
図14に示すように、この装着状態では、カフ構造体20に含まれたカーラ24の内周側で、袋状の押圧カフ23が、左手首90の周方向Yに沿って延在する。また、カフ構造体20に含まれた袋状のセンシングカフ21が、押圧カフ23よりも内周側に配置されて左手首90に接し、かつ、左手首90の動脈通過部分90aを横切るように周方向Yに延在する。さらに、カフ構造体20に含まれた背板22が、押圧カフ23とセンシングカフ21との間に介挿され左手首90の周方向Yに沿って延在する。なお、
図14では、本体10とベルト2の図示は省略されている。
図14中には、左手首90の橈骨93、尺骨94、橈骨動脈91、尺骨動脈92、及び腱96が示されている。
【0093】
この状態で、
図11のステップS4に示すように、被験者がスイッチ52Aを介して測定開始の指令を入力すると、血圧計1は、
図11のステップS5に示すように、初期化を行う。具体的には、CPU100は、処理用メモリ領域を初期化する。また、CPU100は、ポンプ駆動回路35を介してポンプ30をオフし、ポンプ30に内蔵された排気弁を開くとともに、開閉弁33を開状態に維持して、押圧カフ23内及びセンシングカフ21内の空気を排気する。続いて、第1圧力センサ31及び第2圧力センサ32の0mmHgの調整を行う制御を行う。
【0094】
次に、CPU100は、開閉弁33を開状態に維持させたまま、ポンプ駆動回路35を介してポンプ30を駆動させる(
図11のステップS6)。これにより、押圧カフ23及びセンシングカフ21の加圧を開始する。この加圧過程では、第1圧力センサ31及び第2圧力センサ32によって押圧カフ23及びセンシングカフ21の圧力をモニタしながら、ポンプ駆動回路35を介してポンプ30を駆動する。これにより、第1流路(第1流路形成部材390及び可撓性チューブ39)を通して押圧カフ23に、また、第2流路(第2流路形成部材380及び可撓性チューブ38)を通してセンシングカフ21に、それぞれ第1及び第2流体として空気を送出する。
【0095】
次に、
図11のステップS7に示すように、CPU100は、センシングカフ21へ供給した第2流体の量が目標供給量に達したか判断する。例えば、CPU100は、第1圧力センサ31又は第2圧力センサ32の出力から、センシングカフ21の圧力が、目標供給量に対応した圧力(例えば15mmHg)に到達したか判断する。或いは、CPU100は、ポンプ30の駆動時間が、目標供給量を達成する時間(例えば3秒間)だけ経過したか判断する。CPU100は、ステップS7でNOと判断した場合には、開閉弁33を開き且つポンプ30を駆動したまま、上記の判断を再度行う。CPU100は、ステップS7でYESと判断した場合には、ポンプ30を駆動させたまま、開閉弁33が閉じるように、その動作を制御する(
図11のステップS8)。
【0096】
ポンプ30を駆動させたまま開閉弁33を閉じると、センシングカフ21内の第2流体の量は一定に維持され、一方、押圧カフ23内の圧力は徐々に高まる。この圧力上昇に伴って生じる押圧力は、背板22を介してセンシングカフ21へ伝えられる。このようにして、センシングカフ21は、左手首90(動脈通過部分90aを含む)を圧迫する。この加圧過程で、CPU100は、血圧値を算出するために、第2圧力センサ32によって、センシングカフ21の圧力Pc、即ち、左手首90の動脈通過部分90aの圧力をモニタし、変動成分としての脈波信号Pmを取得する。
図17に、この加圧過程で得られるセンシングカフ21の圧力Pc及び脈波信号Pmの波形を例示している。
【0097】
ここで、
図16A及び
図16Bは、センシングカフ21に適量の空気が収容され、開閉弁33が閉じられた加圧状態での、左手首90の長手方向(カフの幅方向Xに相当)に沿った断面を模式的に示している。
図16Aは、左手首90の腱96が通る部分の断面(
図14中のXVIA−XVIA線に沿った断面に相当)を示している。一方、
図16Bは、左手首90の橈骨動脈91が通る部分の断面(
図14中のXVIB−XVIB線に沿った断面に相当)を示している。
【0098】
図16Bに示すように、左手首90の橈骨動脈91が通る部分は比較的柔らかいので、センシングカフ21の第1シート21Aと第2シート21Bとの間に、空気が存在する隙間21wが残っている。従って、センシングカフ21のうち橈骨動脈91に対向する部分は、左手首90の動脈通過部分90aの圧力を反映することができる。一方、
図16Aに示すように、左手首90の腱96が通る部分は比較的硬いので、センシングカフ21のうち幅方向Xに関して略中央に相当する部分では、第1シート21Aと第2シート21Bとが互いに接している。しかしながら、センシングカフ21のうち幅方向Xに関して両側の縁部21mに連なる箇所では、既述のように長手方向Y(左手首90の周方向に相当)に沿って延在する弛み21rが設けられていることから、長手方向Yに沿って空気が存在する隙間21w’が残っている。この結果、センシングカフ21に収容された空気が、隙間21w’を通して、センシングカフ21の長手方向Yに沿って流通し得る。従って、センシングカフ21は、左手首90の動脈通過部分90aに加えられた圧力を、空気(圧力伝達用の流体)の圧力として本体10内の第2圧力センサ32へ首尾良く伝達することができる。
【0099】
CPU100は、以上のようにして脈波信号Pm等を取得するとともに、この脈波信号Pmに基づいて、オシロメトリック法により公知のアルゴリズムを適用して血圧値(収縮期血圧SBPと拡張期血圧DBP)の算出を試みる(
図12のステップS9)。次いで、CPU100は、ポンプ30を停止させて、押圧カフ23内の空気を排気させる制御を行う。
【0100】
続いて、CPU100は、血圧値を計測できたか判断する(
図12のステップS11)。CPU100がNOと判断した場合、例えば、データ不足のために血圧値を算出できなかった場合、押圧カフ23の圧力が上限圧力(安全のために、例えば300mmHgというように予め定められている)に達していない限り、ステップS9乃至S11からなるシーケンスを再度行う。CPU100がYESと判断した場合、CPU100は、開閉弁33を開く制御を行い(
図12のステップS12)、センシングカフ21内の空気も排気させる。
【0101】
このようにしてCPU100が算出した血圧値は、メモリ51によって血圧値X0として記憶される(
図12のステップS13)。CPU100は、表示器50がこの血圧値X0を表示するように、その動作を制御する(
図12のステップS14)。
【0102】
なお、この例では、ステップS1及びS2をステップS3よりも前に行っているが、ステップS1は、ステップS3の後であって、ステップS4よりも前に行ってもよく、ステップS2は、ステップS3の後であって、ステップS6よりも前に行ってもよい。
【0103】
この血圧計1によると、ダブルカフ構造を採用していながらも、高い血圧計測精度を達成することが可能である。これについて、以下に説明する。
【0104】
図14に示すように、装着状態では、センシングカフ21が左手首90の外周面に略密着した状態となるが、この状態においてセンシングカフ21は、大きく分けて5つの領域に分けることができる。この5つの領域とは、
図14に点線の楕円で示したように、尺骨94に対応する領域F1、尺骨動脈92に対応する領域F2、腱に対応する領域F3、橈骨動脈91に対応する領域F4、及び橈骨93に対応する領域F5である。これらの領域のうち、尺骨94に対応する領域F1、腱に対応する領域F3、及び橈骨動脈91に対応する領域F4は、それぞれ、被測定部位のうち尺骨94、腱96、及び橈骨93が存在する硬い部分に対応する領域である。また、尺骨動脈92に対応する領域F2、及び橈骨動脈91に対応する領域F4は、それぞれ、被測定部位のうち尺骨動脈92及び橈骨動脈91が存在する柔らかい部分に対応する領域である。
【0105】
仮に、これらの領域F1、領域F2、領域F3、領域F4、及び領域F5の全てにおいてセンシングカフ21が膨らむ程度に流体が収容されている場合には、センシングカフ21を手首に押圧すると、これらの全ての領域からの反発力が、センシングカフ21の内圧として第2圧力センサ32によって検出され、血圧値の算出が行われることになる。しかしながら、領域F1、領域F3、及び領域F5は、それぞれ、尺骨94、腱96、及び橈骨93が存在する硬い部分に対応する領域なので、押圧力に対するこれらの硬い部分からの反発力が、尺骨動脈92近傍や橈骨動脈91近傍の柔らかい部分からの反発力よりも高くなる。結果として、センシングカフ21の内圧は、尺骨動脈92及び橈骨動脈91近傍の圧力よりも全体として高くなり、血圧値の誤差が大きくなる。また、センシングカフ21内に収容される流体の量は、センシングカフ21を構成する第1シート21Aと第2シート21Bの張力の発生にも関係し、流体の量が多いほど張力が増加し、センシングカフ21の内圧が高くなって、この場合も血圧値の誤差が大きくなる。以上のように、領域F1、領域F3、及び領域F5に流体が収容されている場合には、反発力及び張力の影響によって、内圧が高くなって、血圧値の誤差が大きくなる。
【0106】
しかしながら、
図14に示すように、領域F1、領域F3、及び領域F5においては、第1シート21Aと第2シート21Bとが接し、領域F2、及び領域F4においては、第1シート21Aと第2シート21Bとが離間する状態まで流体を供給した場合には、上述した硬い部分からの影響がなくなる。つまり、流体の量がこの程度の場合には、センシングカフ21が手首に押圧されると、上述した硬い部分に対応する領域F1、領域F3、及び領域F5には流体が存在せず(仮に存在しても、流体が逃げ)、橈骨動脈91及び尺骨動脈92の2つの動脈に対応する領域F2及び領域F4に流体が収容される。しかも、この血圧計1では、センシングカフ21のうち幅方向Xに関して両側の縁部21mに連なる箇所では、
図16Aに示すように長手方向Y(左手首90の周方向に相当)に沿って延在する弛み21rが設けられていることから、長手方向Yに沿って隙間21w’が残っている。この結果、領域F1、F3及びF5においては、センシングカフ21に収容された流体が、隙間21wを通して、領域F2及びF3に流通し、流体は領域F2及びF3に収容される。なお、
図16Aにおいては、理解を容易にするために、第1シート21Aと第2シート21Bとを若干離間して示しているが、実際には、第1シート21Aと第2シート21Bは接している。
【0107】
このように、
図14に示すような流体の量であれば、領域F1、領域F3、及び領域F5においては、流体が存在しないので、尺骨94、腱96、及び橈骨93からの反発力は、センシングカフ21の内圧に寄与しない。また、これらの領域では流体が存在しないので、第1シート21Aと第2シート21Bに流体による張力が発生していない。
【0108】
一方、橈骨動脈91及び尺骨動脈92の2つの動脈が存在する柔らかい部分に対応する領域F2及び領域F4においては、センシングカフ21の第1シート21Aと第2シート21Bとが離間する状態となるまで流体が収容されている。従って、橈骨動脈91及び尺骨動脈92の周辺の圧力は、センシングカフ21の内圧として検出される。以上のように、流体の量を
図14に示すような量にすることによって、センシングカフ21の内圧は、もっぱら、橈骨動脈91及び尺骨動脈92の2つの動脈が存在する柔らかい部分に対応する領域F2及び領域F4から検出されることになるので、センシングカフ21の内圧と橈骨動脈91及び尺骨動脈92の周辺の圧力を等しくすることができ、血圧値の誤差が小さくなると考えられる。
【0109】
但し、上記の通り、被験者の被測定部位、例えば、手首、足首又は上腕における動脈及び骨の位置並びに脂肪量には、個人差がある。また、被験者の血圧値にも、個人差がある。そして、動脈及び骨の位置、脂肪量、並びに血圧値が異なると、脈波信号の伝わり方などに相違を生じ、これが、高い血圧計測精度を達成することを困難とする。
【0110】
上記の通り、この血圧計1では、被験者の生体情報に基づいて、センシングカフ21へ供給する第2流体の量を決定する。身長、体重、体脂肪率、及び被測定部位の周囲長などは、動脈及び骨の位置並びに脂肪量と或る程度の相関を有している。それ故、血圧測定時におけるセンシングカフ内の流体の量を、血圧値、身長、体重、体脂肪率、及び被測定部位の周囲長などの生体情報に応じた量とすることにより、高い血圧計測精度を達成することが可能となる。従って、この血圧計1によると、ダブルカフ構造を採用していながらも、高い血圧計測精度を達成することが可能である。
【0111】
また、この血圧計1では、予め分かっている生体情報を使用する。そのため、第1回目の血圧測定時から、高い血圧計測精度を達成することができる。
【0112】
また、上記の通り、この血圧計1では、血圧測定の都度、センシングカフ21に第2流体である空気を供給し、第2圧力センサ32は、押圧カフ23とは別に、センシングカフ21の圧力Pc、即ち、左手首90の動脈通過部分90aの圧力自体を検出する。従って、ベルト2とカフ構造体20(適宜、単に「カフ」と総称する。)の幅方向Xの寸法を小さく(例えば25mm程度に)設定した結果、加圧時に押圧カフ23が厚さ方向に大きく膨張して圧迫ロスが発生した場合であっても、血圧値を精度良く測定できる。
【0113】
更に、装着状態では、センシングカフ21は、左手首90の動脈通過部分90aを横切るように、周方向Yに延在する。従って、被検者が実際に血圧計1を左手首90に装着する際に、左手首90の周方向Yに関して本体10とともにカフが或る程度位置ずれしたとしても、左手首90の動脈通過部分90aからセンシングカフ21が外れることはない。従って、実際の血圧に対して血圧測定値がばらつくのを防止でき、この結果、血圧値を精度よく測定できる。
【0114】
(血圧測定方法の第1変形例)
上述した血圧計1は、測定モードを第1モードから第2モードへと切り替え可能であり、第1モードによる測定を、
図11及び
図12を参照しながら説明した方法により行い、第2モードによる測定を、
図15に示す方法によって行ってもよい。
【0115】
図15は、
図11及び
図12に示す方法で血圧値を測定した後に行う血圧測定方法を示すフローチャートである。
【0116】
この方法では、先ず、
図11を参照しながら説明したステップS3及びS4を順次行う。次に、
図12を参照しながら説明したステップS13においてメモリ51が記憶した血圧値X0に基づいて、センシングカフ21へ供給すべき第2流体の量、即ち目標供給量を算出する(
図15のステップS15)。具体的には、この血圧値X0と、メモリ51が記憶している上記関係式又はテーブルとから、目標供給量を算出する。メモリ51は、この目標供給量を記憶する。
【0117】
次いで、CPU100は、
図11及び
図12のステップS5乃至S12を参照しながら説明した制御を行う。これにより、血圧値を測定する(
図15のステップS16)。
【0118】
このようにしてCPU100が算出した血圧値は、メモリ51によって血圧値X0として記憶される(
図15のステップS13)。即ち、血圧値X0が書き換えられる。CPU100は、表示器50がこの血圧値X0を表示するように、その動作を制御する(
図15のステップS14)。
【0119】
被検者の血圧値は、常に一定である訳ではない。例えば、血圧測定時における被験者の血圧は、被験者が血圧計1に入力した血圧値からずれていることがある。この血圧値のずれが小さければ高い血圧計測精度を達成できるが、このずれが大きくなると、高い血圧計測精度を達成することが難しくなる。従って、例えば、初回の使用時に、
図11及び
図12を参照しながら説明した方法による測定、即ち、第1モードによる測定を行い、2回目以降の使用時には、
図15を参照しながら説明した方法による測定、即ち、第2モードによる測定を行うと、被験者の血圧値が徐々に変化した場合であっても、常に高い血圧計測精度を達成することができる。
【0120】
(血圧測定方法の第2変形例)
図18は、他の例に係る血圧測定方法の一部のステップを示すフローチャートである。
図19は、
図18に一部のステップを示す血圧測定方法の残りのステップを示すフローチャートである。
【0121】
この方法では、先ず、
図18に示すように、
図11及び
図12を参照しながら説明したステップS1乃至S13を順次行う。なお、
図18のステップS16は、
図11及び
図12のステップS5乃至S12に相当している。
【0122】
次に、
図19に示すように、
図18のステップS13でメモリ51が記憶した血圧値X0に基づいて、センシングカフ21へ供給すべき第2流体の量、即ち目標供給量を算出する(
図15のステップS15)。具体的には、この血圧値X0と、メモリ51が記憶している上記関係式又はテーブルとから、目標供給量を算出する。メモリ51は、この目標供給量を記憶する。
【0123】
次いで、
図18のステップS16と同様に、血圧値を測定する(
図19のステップS16)。ここで、CPU100が算出した血圧値は、メモリ51によって血圧値X1として記憶される(
図19のステップS17)。
【0124】
次に、CPU100は、血圧値X0と血圧値X1との差が十分に小さいか判断する(
図19のステップS18)。具体的には、CPU100は、血圧値X0と血圧値X1との差が、予め定められている許容範囲内にあるか判断する。
【0125】
CPU100がNOと判断した場合、血圧値X1は血圧値X0としてメモリ51によって記憶される。即ち、血圧値X0は、血圧値X1で書き換えられる(
図19のステップS19)。そして、CPU100は、
図19のステップS15乃至S18を再度行う。
【0126】
CPU100がYESと判断した場合も、血圧値X1は血圧値X0としてメモリ51によって記憶される。即ち、血圧値X0は、血圧値X1で書き換えられる(
図19のステップS20)。CPU100は、表示器50がこの血圧値X0を表示するように、その動作を制御する(
図19のステップS14)。
【0127】
血圧値は、被験者の体調や測定時刻などに応じて変動する。上記の血圧測定方法を採用した血圧計1によれば、短期間で血圧値が大きく変動した場合であっても、高い血圧計測精度を達成することができる。
【0128】
(血圧測定方法の第3変形例)
図18及び
図19を参照しながら説明した血圧測定方法は、
図20に示す血圧測定方法と組み合わせてもよい。
【0129】
図20は、
図18及び
図19に示す方法で血圧値を測定した後に行う血圧測定方法を示すフローチャートである。
【0130】
図18及び
図19を参照しながら説明した血圧測定方法と、
図20に示す血圧測定方法と組み合わせる場合、前者による測定を第1モードでの測定とし、後者による測定を第2モードでの測定とする。そして、上述した血圧計1は、測定モードを第1モードから第2モードへと切り替え可能なものとする。
【0131】
第2モードでの測定、即ち、
図20に示す方法による測定では、
図18を参照しながら説明したステップS3及びS4を順次行う。次に、
図19を参照しながら説明したステップS15乃至S18を順次行う。
【0132】
CPU100がNOと判断した場合、血圧値X1は血圧値X0としてメモリ51によって記憶される。即ち、血圧値X0は、血圧値X1で書き換えられる(
図20のステップS19)。そして、CPU100は、
図20のステップS15乃至S18を再度行う。
【0133】
CPU100がYESと判断した場合も、血圧値X1は血圧値X0としてメモリ51によって記憶される。即ち、血圧値X0は、血圧値X1で書き換えられる(
図20のステップS20)。CPU100は、表示器50がこの血圧値X0を表示するように、その動作を制御する(
図20のステップS14)。
【0134】
上記の血圧測定方法を採用した血圧計1によれば、短期間で血圧値が大きく変動した場合であっても、高い血圧計測精度を達成することができる。また、例えば、初回の使用時に、
図18及び
図19を参照しながら説明した方法による測定、即ち、第1モードによる測定を行い、2回目以降の使用時には、
図20を参照しながら説明した方法による測定、即ち、第2モードによる測定を行うと、被験者の血圧値が徐々に変化した場合であっても、比較的少ない回数で血圧値X0と血圧値X1との差を十分に小さくすることができる。
【0135】
(血圧測定方法の第4変形例)
図21は、更に他の例に係る血圧測定方法を示すフローチャートである。
この方法は、初回の測定時に利用する第2流体の目標供給量を予めメモリ51に記憶させておき、ステップS1、S2及びS20を省略したこと以外は、
図18及び
図19を参照しながら説明した血圧測定方法と同様である。
【0136】
上記の血圧測定方法を採用した血圧計1によれば、短期間で血圧値が大きく変動した場合であっても、高い血圧計測精度を達成することができる。また、そのような血圧計1は、被検者が生体情報を入力する必要がないため、操作が簡便である。
【0137】
(他の変形例)
上記の血圧計1は、長時間に亘って装着し、血圧測定を短い時間間隔で繰り返し行ってもよい。或いは、血圧測定は、比較的長い時間間隔で繰り返し行ってもよい。但し、血圧値は時間帯で異なる。例えば、夜間は血圧値のバラツキが大きい。従って、
図11及び
図12を参照しながら説明した方法や、
図15を参照しながら説明した方法を採用する場合、例えば、血圧値のバラツキが大きい時間帯に測定した血圧値は、第2流体の目標供給量を決定に利用から除外することが好ましい。或いは、この場合、複数回の測定で得られた血圧値の平均を、第2流体の目標供給量を決定に利用することが好ましい。
【0138】
センシングカフ21の材料は、シリコーン樹脂でなくてもよい。例えば、センシングカフ21の材料は、熱可塑性ポリウレタンなどの熱可塑性エラストマーであってもよい。センシングカフ21の材料は、ゴム、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂の何れのエラストマーであってもよい。
【0139】
センシングカフ21は、Shore A硬度が60以下であることが好ましい。Shore A硬度が大きなセンシングカフ21は、それに供給する第2流体の量を変化させた場合に生じる張力の変化が大きい。それ故、そのようなセンシングカフ21を使用した場合、その張力を細かく設定することが難しい。これに対し、Shore A硬度が大きなセンシングカフ21は、それに供給する第2流体の量を変化させた場合に生じる張力の変化が小さい。即ち、そのようなセンシングカフ21を使用した場合、その張力をより細かく設定でき、それ故、高い精度での血圧計測が容易である。
【0140】
センシングカフ21は、Shore A硬度が10以上であることが好ましい。Shore A硬度が小さすぎると、センシングカフ21に流体を導入した際に、局部的な膨れが発生し易く、センシングカフ21の張力を均一とすることが難しくなることがある。その場合、血圧計測精度が悪化する。
【0141】
上記の血圧計1は、脈波信号Pmの取得を押圧カフ23の加圧過程で行っているが、脈波信号Pmの取得は、押圧カフ23の減圧過程で行ってもよい。
【0142】
第1及び第2流体は、空気でなくてもよい。例えば、第1及び第2流体の少なくとも一方は、水などの液体であってもよい。
【0143】
上記の血圧計1は、血圧測定機能に加え、時計などの他の機能を更に有する血圧測定装置であってもよい。例えば、上記の血圧計1は、血圧測定機能を有するスマートウォッチであってもよい。
【0144】
また、上記の血圧計1は手首に装着するものであるが、上述した技術は、足首や上腕などの他の被測定部位に装着する血圧計にも適用可能である。
【実施例】
【0145】
以下に、本発明の実施例を記載する。
(試験1)
4名の被検者(被計測者)A乃至Dの各々に対して、上述した血圧計1を使用して、血圧測定を行った。
【0146】
具体的には、被検者A及びBに対しては、Shore A硬度が75である熱可塑性ポリウレタンからセンシングカフ21及び押圧カフ23がなる血圧計1を使用した。被検者C及びDに対しては、Shore A硬度が30のシリコーン樹脂からセンシングカフ21がなること以外は、被検者A及びBに対して使用したのと同様の血圧計1を使用した。そして、被検者A乃至Dの各々に対して、センシングカフ21へ供給する空気の量を変化させて、複数回にわたって血圧測定を行った。その結果を、
図22及び
図23に示す。
【0147】
図22は、センシングカフの空気量と血圧測定誤差との関係の例を示すグラフである。
図23は、
図22の一部を拡大して描いたグラフである。
【0148】
ここで、血圧測定誤差とは、或る被検者について、血圧計1によって測定された血圧値(収縮期血圧SBP)から、標準的な(正確な)血圧計によって測定された血圧値(収縮期血圧SBP)(これを「リファレンス血圧値」と呼ぶ)を差し引いて得られた差分を意味している。即ち、(血圧測定誤差)=(血圧計1により測定された血圧値)−(リファレンス血圧値)である。
【0149】
図22及び
図23に示すように、センシングカフの空気量と血圧測定誤差とは相関している。そして、センシングカフ21の材料としてShore A硬度が30であるシリコーン樹脂を使用した場合、センシングカフ21の材料としてShore A硬度が75である熱可塑性エラストマーを使用した場合と比較して、センシングカフ21へ供給する空気の量が、血圧計測精度に及ぼす影響が小さい。
【0150】
(試験2)
12名の被検者の各々に対して、上述した血圧計1を使用して、血圧測定を行った。
具体的には、全ての被検者A及びBに対して、Shore A硬度が75である熱可塑性ポリウレタンから押圧カフ23がなり、Shore A硬度が30のシリコーン樹脂からセンシングカフ21がなる血圧計1を使用した。そして、試験1と同様に、センシングカフ21へ供給する空気の量を変化させて、複数回にわたって血圧測定を行った。そして、血圧測定誤差が0mmHgとなる空気量を求めた。その結果を、
図24及び
図25に示す。
【0151】
図24は、リファレンス血圧値とセンシングカフの空気量との関係の例を示すグラフである。
図25は、被測定部位の周囲長とセンシングカフの空気量との関係の例を示すグラフである。
【0152】
図24に示すように、リファレンス血圧値及びセンシングカフの空気量は高い相関を有している。また、
図25に示すように、被測定部位の周囲長及びセンシングカフの空気量も高い相関を有している。
【0153】
(試験3)
12名の被検者の各々に対して、上述した血圧計1を使用して、血圧測定を行った。
具体的には、全ての被検者A及びBに対して、試験2において使用したのと同様の血圧計1を使用した。そして、被検者の各々について、その被検者のリファレンス血圧値と
図24に示すグラフとから、センシングカフ21へ供給する空気の量を求め、この空気量のもとで血圧測定を行った。また、被検者の各々について、センシングカフ21へ供給する空気の量を0.5mLとして血圧測定を行った。更に、被検者の各々について、センシングカフ21へ供給する空気の量を1.0mLとして血圧測定を行った。その結果を、
図26に示す。
【0154】
図26に示すように、センシングカフ21へ供給する空気の量(流体量)を個別に設定した場合、流体量を0.5mL又は1.0mLに固定した場合と比較して、血圧測定誤差を著しく小さくすることができた。
以下に、当初の特許請求の範囲及び当初の発明の効果に記載していた事項を付記する。
[1]
第1流体を収容可能に袋状に構成された押圧カフを含み、被検者の被測定部位に巻き付け、前記押圧カフを膨張させることによって、前記被測定部位へ向かって押圧力を発生する押圧部材と、
第2流体を収容可能に袋状に構成され、前記押圧部材の前記被測定部位との対向面側に設置されたセンシングカフと、
前記押圧カフにおける前記第1流体の量及び前記センシングカフにおける前記第2流体の量を調整する調整装置と、
前記センシングカフ内の圧力を検知する圧力センサと、
血圧測定時に、前記被検者の生体情報に応じた量の前記第2流体が前記センシングカフに収容され、この状態で前記押圧カフが膨張するか又は膨張及び収縮するように、前記調整装置の動作を制御するとともに、前記圧力センサの出力から前記被検者の血圧値を算出する制御部と
を備えた血圧計。
[2]
情報を入力するための入力部を更に備え、
前記制御部は、前記入力部を介して入力された前記情報の少なくとも一部を前記生体情報として用いて前記調整装置の前記動作を制御するとともに、前記圧力センサの出力から前記被検者の血圧値を算出する項1に記載の血圧計。
[3]
情報を入力するための入力部を更に備え、
前記制御部は、
測定モードを第1モードから第2モードへと切り替え可能であり、
前記第1モードの血圧測定では、前記入力部を介して入力された前記情報の少なくとも一部を前記生体情報として用いて前記調整装置の前記動作を制御するとともに、前記圧力センサの出力から前記被検者の血圧値を算出し、
前記第2モードの血圧測定では、それよりも前の血圧測定において前記制御部が算出した前記血圧値を前記生体情報として用いて前記調整装置の前記動作を制御するとともに、前記圧力センサの出力から前記被検者の血圧値を算出する項1に記載の血圧計。
[4]
前記制御部は、算出される前記血圧値のばらつきが許容範囲内になるまで、前記第2モードでの血圧測定を繰り返す項3に記載の血圧計。
[5]
前記入力部を介して入力される前記情報は、前記被検者の血圧及び前記被測定部位の周囲長の少なくとも一方を含む項2乃至4の何れか1項に記載の血圧計。
[6]
前記制御部は、算出される血圧のばらつきが許容範囲内になるまで血圧測定を繰り返し、2回目以降の血圧測定においては、それよりも前の血圧測定において前記制御部が算出した前記血圧値を前記生体情報として用いて、前記調整装置が前記センシングカフへ供給する前記第2流体の量を制御する項1に記載の血圧計。
[7]
前記センシングカフは、前記対向面と向き合った第1シートと、前記第1シートと前記対向面との間に位置した第2シートとを含み、前記第1シート及び前記第2シートの一方を平らにした自然状態で、前記第1シート及び前記第2シートの他方に、前記センシングカフの幅方向に関して両側の縁部の間で前記センシングカフの長手方向に沿って延びた弛みを有する項1乃至6の何れか1項に記載の血圧計。
[8]
前記押圧部材は、
前記押圧カフの外周面と向き合うように設置され、前記被測定部位に巻き付けられるベルトと、
前記押圧カフと前記センシングカフとの間に設置され、前記被測定部位の周方向に沿って延びた背板と
を更に含んだ項1乃至7の何れか1項に記載の血圧計。
[9]
前記センシングカフはShore A硬度が60以下である項1乃至8の何れか1項に記載の血圧計。
[10]
第1流体を収容可能に袋状に構成された押圧カフを含み、被検者の被測定部位に巻き付け、前記押圧カフを膨張させることによって、前記被測定部位へ向かって押圧力を発生する押圧部材と、
第2流体を収容可能に袋状に構成され、前記押圧部材の前記被測定部位との対向面側に設置されたセンシングカフと、
前記押圧カフにおける前記第1流体の量及び前記センシングカフにおける前記第2流体の量を調整する調整装置と、
前記センシングカフ内の圧力を検知する圧力センサと、
血圧測定時に、前記被検者の生体情報に応じた量の前記第2流体が前記センシングカフに収容され、この状態で前記押圧カフが膨張するか又は膨張及び収縮するように、前記調整装置の動作を制御するとともに、前記圧力センサの出力から前記被検者の血圧値を算出する制御部と
を備えた血圧測定装置。
[11]
第1流体を収容可能に袋状に構成された押圧カフを含み、被検者の被測定部位に巻き付け、前記押圧カフを膨張させることによって、前記被測定部位へ向かって押圧力を発生する押圧部材と、第2流体を収容可能に袋状に構成され、前記押圧部材の前記被測定部位との対向面側に設置されたセンシングカフとを、前記被測定部位に巻き付けることと、
前記被検者の生体情報に応じた量の前記第2流体を前記センシングカフに収容させ、この状態で前記押圧カフを膨張させるか又は膨張及び収縮させて、前記センシングカフ内の圧力から前記被検者の血圧値を求めることと
を含んだ血圧測定方法。
上記の通り、本発明者らは、ダブルカフ構造を採用した血圧計には、測定結果のバラツキに個人差があることを見出している。即ち、或る被検者については、ダブルカフ構造を採用した血圧計で十分に高い血圧計測精度を達成できたとしても、他の被験者については、ダブルカフ構造を採用した血圧計で高い血圧計測精度を達成できない可能性がある。
本発明者らは、その理由について調査したところ、以下の事実が判明した。即ち、血圧計測精度には、被検者の生体情報、例えば、血圧値や被測定部位の周囲長が影響を及ぼし、また、センシングカフの張力も影響を及ぼす。そして、被験者の血圧値や被測定部位の周囲長が異なると、高い血圧計測精度を達成し得るセンシングカフへの張力の範囲も異なる。
以上から、本発明者らは、血圧測定時におけるセンシングカフの張力を、被検者の生体情報に応じた値とすることにより、高い血圧計測精度を達成し得ることを見出した。
但し、センシングカフの張力を血圧計において測定可能とすることは難しい。これに対し、センシングカフの張力と関連したパラメータであるセンシングカフへの流体の供給量は、例えば、センシングカフへ流体を供給した時間や、センシングカフへ流体を供給した後であって、計測を開始する前におけるセンシングカフ内の圧力から、容易に求めることができる。
それ故、血圧測定時におけるセンシングカフ内の流体の量を、被検者の生体情報に応じた量とすることにより、高い血圧計測精度を達成し得る。従って、項1に係る血圧計によると、ダブルカフ構造を採用していながらも、高い血圧計測精度を達成することが可能である。
本発明者らは、被験者の血圧値や被測定部位の周囲長が異なると、高い血圧計測精度を達成し得るセンシングカフへの流体の供給量の範囲も異なる理由は、以下の通りであると考えている。
被験者の被測定部位、例えば、手首、足首又は上腕における動脈及び骨の位置並びに脂肪量には、個人差がある。また、被験者の血圧値にも、個人差がある。そして、動脈及び骨の位置、脂肪量、並びに血圧値が異なると、脈波信号の伝わり方などに相違を生じ、これが、高い血圧計測精度を達成することを困難としている。身長、体重、体脂肪率、及び被測定部位の周囲長などは、動脈及び骨の位置並びに脂肪量と或る程度の相関を有している。従って、血圧測定時におけるセンシングカフ内の流体の量を、血圧値、身長、体重、体脂肪率、及び被測定部位の周囲長などの生体情報に応じた量とすることにより、高い血圧計測精度を達成することが可能となる。
項2に係る血圧計は、項1に係る血圧計において、情報を入力するための入力部を更に備えたものであって、制御部は、入力部を介して入力された情報の少なくとも一部を生体情報として用いて調整装置の動作を制御するとともに、圧力センサの出力から被検者の血圧値を算出するものである。この血圧計は、予め分かっている生体情報を使用するため、第1回目の血圧測定時から、高い血圧計測精度を達成することができる。
項3に係る血圧計は、項1に係る血圧計において、情報を入力するための入力部を更に備えたものであって、制御部は、測定モードを第1モードから第2モードへと切り替え可能であり、第1モードの血圧測定では、入力部を介して入力された情報の少なくとも一部を生体情報として用いて調整装置の動作を制御するとともに、圧力センサの出力から被検者の血圧値を算出し、第2モードの血圧測定では、それよりも前の血圧測定において制御部が算出した血圧値を生体情報として用いて調整装置の動作を制御するとともに、圧力センサの出力から被検者の血圧値を算出するものである。それ故、例えば、第2モードで測定を行えば、被検者の血圧値が徐々に変動したとしても、常に高い血圧計測精度を達成することができる。
項4に係る血圧計は、項3に係る血圧計において、制御部は、算出される血圧値のばらつきが許容範囲内になるまで、第2モードでの血圧測定を繰り返すものである。それ故、この血圧計によれば、短期間で血圧値が大きく変動した場合であっても、高い血圧計測精度を達成することができる。
項5に係る血圧計は、項2乃至4の何れかに係る血圧計において、入力部を介して入力される情報は、被検者の血圧及び被測定部位の周囲長の少なくとも一方を含むものである。被検者の血圧及び被測定部位の周囲長は、入手しやすい生体情報であり、また、これらを用いた場合、特に高い血圧計測精度を達成することができる。
項6に係る血圧計は、項1に係る血圧計において、制御部は、算出される血圧のばらつきが許容範囲内になるまで血圧測定を繰り返し、2回目以降の血圧測定においては、それよりも前の血圧測定において制御部が算出した血圧値を生体情報として用いて、流体供給装置がセンシングカフへ供給する第2流体の量を制御するものである。この血圧計は、例えば、被験者が生体情報を入力することなしに、高い血圧計測精度を達成することができる。また、この血圧計によれば、短期間で血圧値が大きく変動した場合であっても、高い血圧計測精度を達成することができる。
項7に係る血圧計は、項1乃至6の何れかに係る血圧計において、センシングカフは、上記対向面と向き合った第1シートと、第1シートと上記対向面との間に位置した第2シートとを含み、第1シート及び第2シートの一方を平らにした自然状態で、第1シート及び第2シートの他方に、センシングカフの幅方向に関して両側の縁部の間でセンシングカフの長手方向に沿って延びた弛みを有するものである。この弛みは、血圧測定時に、センシングカフ内に、その長手方向に延びた隙間を生じさせ、この隙間を通じた第2流体の流通や脈波信号の伝達等を可能とする。従って、センシングカフにおける第2流体の量が少ない場合であっても、高い血圧計測精度を達成することができる。
項8に係る血圧計は、項1乃至7の何れかに係る血圧計において、押圧部材は、押圧カフの外周面と向き合うように設置され、被測定部位に巻き付けられるベルトと、押圧カフとセンシングカフとの間に設置され、被測定部位の周方向に沿って延びた背板とを更に含んだものである。ベルトや背板は、より均一な押圧を可能とする。従って、この血圧計によると、特に高い血圧計測精度を達成することができる。
項9によると、項1乃至8の何れかに係る血圧計において、センシングカフはShore A硬度が60以下であるものである。そのようセンシングカフは、それに供給する第2流体の量を変化させた場合に生じる張力の変化が小さい。従って、この血圧計によると、その張力をより細かく設定でき、それ故、高い精度での血圧計測が容易である。
項10に係る血圧測定装置は、項1に係る血圧計の構成要素を含むものである。ここで、「血圧測定装置」は、血圧測定機能を有する装置、好ましくは、血圧測定機能と他の機能とを有する装置であって、例えば、スマートウォッチなどの腕時計型ウェラブルデバイスである。この血圧測定装置は、項1に係る血圧計の構成要素を含むものであるため、ダブルカフ構造を採用していながらも、高い血圧計測精度を達成することが可能である。
項11に係る血圧測定方法は、第1流体を収容可能に袋状に構成された押圧カフを含み、被検者の被測定部位に巻き付け、押圧カフを膨張させることによって、被測定部位へ向かって押圧力を発生する押圧部材と、第2流体を収容可能に袋状に構成され、押圧部材の被測定部位との対向面側に設置されたセンシングカフとを、被測定部位に巻き付けることと、被検者の生体情報に応じた量の第2流体をセンシングカフに収容させ、この状態で押圧カフを膨張させるか又は膨張及び収縮させて、センシングカフ内の圧力から被検者の血圧値を求めることとを含んでいる。それ故、この方法によれば、ダブルカフ構造を採用していながらも、高い血圧計測精度を達成することが可能である。