(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。
【0011】
以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0012】
また、実施の形態で用いる図面においては、図面を見易くするためにハッチングを省略する場合もある。
【0013】
(実施の形態)
<半導体装置の製造工程について>
本実施の形態の半導体装置の製造工程を、
図1〜
図15を用いて説明する。
【0014】
本実施の形態では、同一の半導体基板SB上に、n型の低耐圧MISFETQ1、p型の低耐圧MISFETQ3、n型の高耐圧MISFETQ2およびp型の高耐圧MISFETQ4が形成される例を示す。
【0015】
ここで、MISFETQ1およびMISFETQ3は、MISFETQ2およびMISFETQ4よりも高速動作が可能なトランジスタであり、ロジック回路またはSRAM(Static Random Access Memory)等に使用される。MISFETQ2およびMISFETQ4は、MISFETQ1およびMISFETQ3よりも高い耐圧を有するトランジスタであり、入出力保護回路等に使用される。なお、MISFETQ1およびMISFETQ3のゲート長およびゲート絶縁膜の厚さは、それぞれMISFETQ2およびMISFETQ4のゲート長およびゲート絶縁膜の厚さよりも小さい。また、MISFETQ1およびMISFETQ3のゲート長は、90nm以下である。
【0016】
図1〜
図15において示される領域1AはMISFETQ1が形成される領域であり、領域2AはMISFETQ2が形成される領域であり、領域3AはMISFETQ3が形成される領域であり、領域4AはMISFETQ4が形成される領域である。
【0017】
図1に示される構造に至るまでの過程を、簡単に説明する。まず、支持基板である半導体基板SBと、半導体基板SB上に形成された絶縁層BXと、絶縁層BXの上に形成された半導体層SMと、を有する、所謂SOI基板を準備する。
【0018】
半導体基板SBは、好ましくは1〜10Ωcm程度の比抵抗を有する単結晶シリコンからなり、例えばp型の単結晶シリコンからなる。絶縁層BXは、例えば酸化シリコンからなり、絶縁層BXの厚さは、例えば10〜20nm程度である。半導体層SMは、好ましくは1〜10Ωcm程度の比抵抗を有する単結晶シリコンからなり、半導体層SMの厚さは、例えば10〜20nm程度である。なお、半導体層SMには、イオン注入などによって不純物が導入されていない。
【0019】
SOI基板の製造方法に制限はないが、例えば、SIMOX(Separation by IMplanted OXygen)法で製造することができる。SIMOX法では、シリコン(Si)からなる半導体基板に高いエネルギーで酸素(O
2)をイオン注入し、その後の熱処理でシリコンと酸素とを結合させ、半導体基板の表面よりも少し深い位置に酸化シリコンからなる絶縁層BXを形成する。この場合、絶縁層BX上に残存するシリコンの薄膜が半導体層SMとなり、絶縁層BX下の半導体基板が半導体基板SBとなる。また、貼り合わせ法によりSOI基板を形成してもよい。貼り合わせ法では、例えば、シリコンからなる第1半導体基板の表面を酸化して絶縁層BXを形成した後、その第1半導体基板にシリコンからなる第2半導体基板を高温下で圧着することにより貼り合わせ、その後、第2半導体基板を薄膜化する。この場合、絶縁層BX上に残存する第2半導体基板の薄膜が半導体層SMとなり、絶縁層BX下の第1半導体基板が半導体基板SBとなる。更に他の手法、例えばスマートカットプロセスなどを用いて、SOI基板を製造することもできる。
【0020】
続いて、半導体層SM、絶縁層BXおよび半導体基板SBを貫くように溝を形成し、溝内に絶縁膜を埋め込むことで素子分離部(図示は省略する)を形成する。各領域1A〜4Aは、素子分離部によって、互いに分離されている。
【0021】
続いて、領域1Aの半導体基板SBに、フォトリソグラフィ法およびイオン注入法によって、n型のウェルDNW1を形成し、ウェルDNW1内にp型のウェルPW1を形成する。ウェルPW1は、後述のゲート電極G1と共に、MISFETQ1のゲートとして機能する領域であり、ウェルPW1にゲート電極G1とは独立した電圧が印加されることによって、MISFETQ1の閾値を制御するための領域である。なお、ウェルPW1に電圧を印加するために、領域1Aの半導体層SMおよび絶縁層BXの一部を除去し、ウェルPW1を露出して給電領域としているが、ここでは給電領域の説明は省略する。また、絶縁層BXに接するウェルPW1の表面に、ウェルPW1よりも高濃度のp型不純物領域を形成してもよい。
【0022】
続いて、領域3Aの半導体基板SBに、フォトリソグラフィ法およびイオン注入法によって、n型のウェルNW1を形成する。ウェルNW1は、後述のゲート電極G3と共に、MISFETQ3のゲートとして機能する領域であり、ウェルNW1にゲート電極G3とは独立した電圧が印加されることによって、MISFETQ3の閾値を制御するための領域である。なお、ウェルNW1に電圧を印加するために、領域3Aの半導体層SMおよび絶縁層BXの一部を除去し、ウェルNW1を露出して給電領域としているが、ここでは給電領域の説明は省略する。また、絶縁層BXに接するウェルNW1の表面に、ウェルNW1よりも高濃度のn型不純物領域を形成してもよい。
【0023】
なお、領域1Aおよび領域3Aの半導体層SMには、閾値調整などを目的とするイオン注入を行わず、不純物が導入されていない。
【0024】
続いて、領域2Aの半導体基板SBに、フォトリソグラフィ法およびイオン注入法によって、n型のウェルDNW2を形成し、ウェルDNW2内にp型のウェルPW2を形成する。次に、領域4Aの半導体基板SBに、フォトリソグラフィ法およびイオン注入法によって、n型のウェルNW2を形成する。
【0025】
なお、領域2Aおよび領域4Aの半導体基板SBには、閾値調整などを目的とするイオン注入を行ってもよい。
【0026】
続いて、領域1Aおよび領域3Aの半導体層SMと絶縁層BXとを残すように、領域2Aおよび領域4Aの半導体層SMと絶縁層BXとを選択的に順次除去することで、領域2Aおよび領域4Aの半導体基板SBを露出させる。
【0027】
以上の工程により、
図1に示される構造に至る。
【0028】
続いて、
図2に示されるように、熱酸化法などを用いて、領域1Aの半導体層SM上にゲート絶縁膜GI1を、領域3Aの半導体層SM上にゲート絶縁膜GI3を、領域2Aの半導体基板SB上にゲート絶縁膜GI2を、領域4Aの半導体基板SB上にゲート絶縁膜GI4を、各々形成する。ここで、ゲート絶縁膜GI2およびゲート絶縁膜GI4の膜厚は、それぞれゲート絶縁膜GI1およびゲート絶縁膜GI3の膜厚よりも大きい。
【0029】
このように各ゲート絶縁膜GI1〜GI4の膜厚を変える手法の一つを以下に説明する。まず、熱酸化法を用いて、領域1Aおよび領域3Aの半導体層SM上と、領域2Aと領域4Aの半導体基板SB上とに、膜厚の厚い酸化シリコン膜を形成する。次に、フォトリソグラフィ法およびドライエッチング法を用いて、領域1Aおよび領域3Aの膜厚の厚い酸化シリコン膜を選択的に除去する。次に、再び熱酸化法を用いることで、領域1Aおよび領域3Aの半導体層SM上に、膜厚の薄い酸化シリコン膜を形成する。
【0030】
また、各ゲート絶縁膜GI1〜GI4の上に、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって、例えば酸化ハフニウムまたは酸化タンタルからなり、酸化シリコンよりも高い誘電率を有する膜を形成し、各ゲート絶縁膜GI1〜GI4の一部として使用してもよい。
【0031】
続いて、各ゲート絶縁膜GI1〜GI4の上に、例えばCVD法によって、導電性膜として、例えば多結晶シリコン膜を形成する。次に、フォトリソグラフィ法およびイオン注入法によって、多結晶シリコン膜に選択的に不純物を導入することで、領域1Aおよび領域2Aの多結晶シリコン膜をn型とし、領域3Aおよび領域4Aの多結晶シリコン膜をp型とする。次に、多結晶シリコン膜上に、例えばCVD法によって、絶縁膜として、例えば窒化シリコン膜を形成する。次に、窒化シリコン膜と多結晶シリコン膜との積層膜をパターニングする。これにより、ゲート絶縁膜GI1上にゲート電極G1およびキャップ膜CP1が形成され、ゲート絶縁膜GI2上にゲート電極G2およびキャップ膜CP2が形成され、ゲート絶縁膜GI3上にゲート電極G3およびキャップ膜CP3が形成され、ゲート絶縁膜GI4上にゲート電極G4およびキャップ膜CP4が形成される。また、各ゲート電極G1〜G4下以外の各ゲート絶縁膜GI1〜GI4は、除去してもよい。なお、各ゲート電極G1〜G4の厚さは、60nm〜120nm程度であり、各キャップ膜CP1〜CP4の厚さは、10nm〜30nm程度である。
【0032】
なお、各ゲート電極G1〜G4を構成する導電性膜は、多結晶シリコン膜に限定されず、金属膜、または、多結晶シリコン膜と金属膜との積層膜であってもよい。また、各キャップ膜CP1〜CP4を構成する絶縁膜は、窒化シリコンに限定されず、他の材料でもよいが、後に説明するサイドウォールスペーサSW1およびサイドウォールスペーサSW2と同じ材料で形成されていることがより好ましい。
【0033】
続いて、
図3に示されるように、各ゲート電極G1〜G4および各キャップ膜CP1〜CP4を覆うように、領域1Aおよび領域3Aの半導体層SM上と、領域2Aおよび領域4Aの半導体基板SB上とに、CVD法などによって、例えば酸化シリコンからなる絶縁膜OSを形成する。なお、絶縁膜OSの膜厚は、2nm〜5nm程度である。
【0034】
また、絶縁膜OSの形成前に、各ゲート電極G1〜G4の上面および側面に、CVD法などによって、例えば窒化シリコンからなる絶縁膜を形成し、その後、異方性エッチングを行うことで、各ゲート電極G1〜G4の側面に、オフセットスペーサを形成しても良い。
【0035】
続いて、
図4に示されるように、各領域1A〜4Aの絶縁膜OS上に、CVD法などによって、例えば窒化シリコンからなる絶縁膜SNを形成する。次に、フォトリソグラフィ法を用いて、領域2Aおよび領域4Aの絶縁膜SNを覆い、領域1Aおよび領域3Aの絶縁膜SNを開口するレジストパターンを形成する。次に、このレジストパターンをマスクとして、領域1Aおよび領域3Aの絶縁膜SNに異方性エッチングを行うことで、領域1Aおよび領域3Aに、それぞれサイドウォールスペーサSW1を形成する。なお、MISFETQ1およびMISFETQ3のゲート長方向におけるサイドウォールスペーサSW1の幅は、15nm〜40nm程度である。次に、ドライエッチングまたはウェットエッチング処理を行うことで、サイドウォールスペーサSW1から露出している半導体層SM上、キャップ膜CP1上およびキャップ膜CP3上に形成されていた絶縁膜OSを除去する。
【0036】
続いて、
図5に示されるように、エピタキシャル成長により、領域1Aおよび領域3Aの半導体層SM上に、例えば単結晶シリコンからなるエピタキシャル層EP(半導体層EP)を形成する。半導体層EPの膜厚は、20nm〜40nm程度である。この時、領域1Aおよび領域3Aのゲート電極G1およびゲート電極G3は、それぞれキャップ膜CP1およびキャップ膜CP3で覆われているので、ゲート電極G1上およびゲート電極G3上にエピタキシャル層EPは形成されない。また、領域2Aおよび領域4Aは、絶縁膜SNで覆われているため、エピタキシャル層EPは形成されない。
【0037】
また、このエピタキシャル成長は、半導体層SMにイオン注入などによる不純物の導入が行われていない状態で行うことが望ましく、例えば、後述のエクステンション領域EX1およびエクステンション領域EX2を形成する前に行うことが望ましい。
【0038】
この理由としては、イオン注入工程によりダメージを受けた半導体層SM上にエピタキシャル層EPを形成する場合、前記ダメージに起因して半導体層SMを構成するシリコンの結晶性にばらつきが生じ、エピタキシャル層EPが良好に成長しないためである。この結果、エピタキシャル層EPが、所望の膜厚および形状で形成されない恐れがある。すなわち、半導体基板SBの面内には複数のMISFETQ1およびMISFETQ3が存在するが、それぞれのMISFETのエピタキシャル層EPの膜厚および形状が、ばらついてしまう恐れがある。従って、本実施の形態の半導体装置では、エピタキシャル層EPの形成を、エクステンション領域EX1およびエクステンション領域EX2を形成する前に行っている。
【0039】
なお、エピタキシャル層EPは半導体層SMと同じ材料であるため一体化するが、本実施の形態では、発明の理解を容易にするため、エピタキシャル層EPと半導体層SMとの境界を破線で示している。また、後の工程によって、エピタキシャル層EP内および半導体層SM内に、拡散層SD1および拡散層SD2を形成する際に、エピタキシャル層EPの図示が非常に判り辛くなるため、図面中では矢印によってエピタキシャル層EPを示している。
【0040】
続いて、
図6に示されるように、領域1Aおよび領域3Aを覆い、領域2Aおよび領域4Aを開口するようなレジストパターンRP1を形成する。次に、レジストパターンRP1をマスクとして、異方性エッチングを行うことで、領域2Aおよび領域4Aの絶縁膜SNを加工し、ゲート電極G2の側面およびゲート電極G4の側面に、それぞれ絶縁膜OSを介してサイドウォールスペーサSW2を形成する。次に、ドライエッチングまたはウェットエッチング処理を行うことで、サイドウォールスペーサSW2から露出している半導体基板SB上、キャップ膜CP2上およびキャップ膜CP4上に形成されていた絶縁膜OSを除去する。その後、レジストパターンRP1を、アッシング処理によって除去する。
【0041】
続いて、
図7に示されるように、絶縁膜OSに対して高い選択性を有するエッチングによって、領域1Aおよび領域3Aにおいて、サイドウォールスペーサSW1、キャップ膜CP1およびキャップ膜CP3を除去し、領域2Aおよび領域4Aにおいて、サイドウォールスペーサSW2、キャップ膜CP2およびキャップ膜CP4を除去する。このため、各ゲート電極G1〜G4の側面に形成されていた絶縁膜OSは、ほとんどエッチングされずに残存する。また、サイドウォールスペーサSW1およびサイドウォールスペーサSW2は、各キャップ絶縁膜CP1〜CP4と同じ材料により形成されていたので、これらを同時に除去することができる。従って、マスクの追加を行う必要がないので、製造工程を簡略化することができる。
【0042】
続いて、
図8に示されるように、領域1A、領域3Aおよび領域4Aを覆い、領域2Aを開口するようなレジストパターンRP2を形成する。次に、レジストパターンRP2をマスクとして、イオン注入法によって、領域2Aの半導体基板SBに不純物を導入することで、n型の導電性を有する半導体領域LDD1を形成する。半導体領域LDD1は、MISFETQ2のソース領域またはドレイン領域の一部となる。半導体領域LDD1を形成するための不純物は、例えばリン(P)またはヒ素(As)であり、イオン注入の条件はエネルギーを20〜40keVとし、ドーズ量を1×10
13〜2×10
14/cm
2程度とする。また、半導体領域LDD1を形成するためのイオン注入は、半導体領域LDD1がゲート電極G2の直下に達するように、斜めイオン注入を用いて行われ、例えば、半導体基板SBに対する垂線から、15度以上であって45度以下に傾けた角度で行われる。また、この斜めイオン注入は、半導体基板SBに対する垂線から傾ける角度が、後述の垂直イオン注入よりも大きい。その後、レジストパターンRP2を、アッシング処理によって除去する。
【0043】
続いて、
図9に示されるように、領域2A、領域3Aおよび領域4Aを覆い、領域1Aを開口するようなレジストパターンRP3を形成する。次に、レジストパターンRP3をマスクとして、イオン注入法によって、領域1Aの半導体層SMおよびエピタキシャル層EPに不純物を導入することで、n型の導電性を有するエクステンション領域EX1(半導体領域EX1)を形成する。エクステンション領域EX1は、MISFETQ1のソース領域またはドレイン領域の一部となる。エクステンション領域EX1を形成するための不純物は、例えばヒ素(As)であり、イオン注入の条件はエネルギーを2〜5keVとし、ドーズ量を1×10
14〜6×10
14/cm
2程度とする。
【0044】
なお、エクステンション領域EX1を形成するためのイオン注入は、垂直イオン注入で行われ、例えば、半導体基板SBに対してほぼ垂直な角度で行われる。ここで記載するほぼ垂直な角度とは、イオンがエピタキシャル層EPに遮られることなく絶縁膜OS下の半導体層SMに到達できる角度を意味し、例えば、半導体基板SBに対して垂直な角度、または、半導体基板SBに対する垂線から10度以下の範囲で傾けた角度を意味する。また、この垂直イオン注入の角度は、前述の斜めイオン注入の角度よりも小さい。
【0045】
このような垂直イオン注入を用いる理由は、エピタキシャル層EPの上面の高さが半導体層SMの上面に対して高いため、上記のほぼ垂直な角度よりも大きい角度でのイオン注入は、エピタキシャル層EPに遮られてしまうからである。従って、エクステンション領域EX1を、ゲート電極G1の両側の半導体層SM(絶縁膜OS下の半導体層SM)に、イオン注入によって形成するためには、上記のほぼ垂直な角度で行う必要がある。
【0046】
しかしながら、垂直イオン注入を行うと、イオンの一部は、ゲート電極G1の側面に形成された絶縁膜OSの膜厚により遮られる場合もあり、エクステンション領域EX1は、ゲート電極G1の直下には達しない位置、または、ゲート電極G1の直下に僅かに達する位置に形成されやすくなる。すなわち、エクステンション領域EX1の端部は、ゲート電極G1と重ならない位置、または、ゲート電極G1と僅かに重なる位置に形成される。このため、仮にエピタキシャル層EPがなく、且つ、斜めイオン注入を用いることが可能であった場合と比較すると、MISFETQ1の実行的なチャネル長が増加するため、MISFETQ1のオン電流が低下してしまう問題がある。
【0047】
そこで、本発明者は、熱処理工程の工夫によって、エクステンション領域EX1をゲート電極G1の直下に十分に達するように形成し、その結果、半導体装置の信頼性および性能を両立させることを検討した。この検討の詳細については、後で詳しく説明する。
【0048】
また、エクステンション領域EX1形成用のイオン注入は、半導体層SM上に絶縁膜OSが残されている状態で行われているので、半導体層SM中にイオン注入によるダメージが入ることを緩和できる。このようなダメージの緩和は、MISFETQ1のオン電流の増加に寄与する。
【0049】
エクステンション領域EX1を形成した後、
図9で示したレジストパターンRP3を、アッシング処理によって除去する。その後、半導体基板SBに、900℃以上、且つ、100秒以上の条件として、例えば950℃、且つ、120秒で第1熱処理を施すことで、半導体領域LDD1とエクステンション領域EX1とに含まれる不純物を活性化させる。これによって、エクステンション領域EX1はゲート電極G1の直下まで拡散する。具体的には、エクステンション領域EX1を構成している不純物であるヒ素(As)が、2nm以上であり10nm以下の範囲で拡散する。なお、この第1熱処理を施す時間は、後述の第2熱処理を施す時間よりも長くなるようにしている。
【0050】
また、領域2Aに形成したn型の半導体領域LDD1と、領域1Aに形成したn型のエクステンション領域EX1とに、同時に第1熱処理を施すことで、製造工程の簡略化を図ることができる。
【0051】
続いて、
図10に示されるように、領域1A、領域2Aおよび領域3Aを覆い、領域4Aを開口するようなレジストパターンRP4を形成する。次に、レジストパターンRP4をマスクとして、イオン注入法によって、領域4Aの半導体基板SBに不純物を導入することで、p型の導電性を有する半導体領域LDD2を形成する。半導体領域LDD2は、MISFETQ4のソース領域またはドレイン領域の一部となる。半導体領域LDD2を形成するための不純物は、例えば二フッ化ボロン(BF
2)であり、イオン注入の条件はエネルギーを20〜40keVとし、ドーズ量を1×10
13〜2×10
14/cm
2程度とする。また、半導体領域LDD2を形成するためのイオン注入は、半導体領域LDD1の形成工程と同様の斜めイオン注入で行われる。その後、レジストパターンRP4を、アッシング処理によって除去する。
【0052】
続いて、
図11に示されるように、領域1A、領域2Aおよび領域4Aを覆い、領域3Aを開口するようなレジストパターンRP5を形成する。次に、レジストパターンRP5をマスクとして、イオン注入法によって、領域3Aの半導体層SMおよびエピタキシャル層EPに不純物を導入することで、p型の導電性を有するエクステンション領域EX2(半導体領域EX2)を形成する。エクステンション領域EX2は、MISFETQ3のソース領域またはドレイン領域の一部となる。エクステンション領域EX2を形成するための不純物は、例えば二フッ化ボロン(BF
2)であり、イオン注入の条件はエネルギーを2〜5keVとし、ドーズ量を1×10
14〜6×10
14/cm
2程度とする。また、エクステンション領域EX2を形成するためのイオン注入は、エクステンション領域EX1の形成工程と同様の垂直イオン注入で行われる。その後、レジストパターンRP5を、アッシング処理によって除去する。
【0053】
続いて、
図12に示されるように、各ゲート電極G1〜G4の側面上に、それぞれサイドウォールスペーサSW3を形成する。サイドウォールスペーサSW3形成工程は、次のようにして行うことができる。まず、各領域1A〜4Aにおいて、各ゲート電極G1〜G4および絶縁膜OSを覆うように、例えば窒化シリコン膜からなる絶縁膜を形成する。次に、この絶縁膜を異方性エッチングすることで、各ゲート電極G1〜G4の側面上に絶縁膜OSを介して、それぞれサイドウォールスペーサSW3が形成される。
【0054】
なお、領域1Aおよび領域3Aにおいて、サイドウォールスペーサSW3の端部はエピタキシャル層EPの上面に位置している。これは、後述のシリサイド膜SLを形成する工程で、シリサイド膜SLの元となる金属がエピタキシャル層EPと過剰に反応し、シリサイド膜SLが絶縁膜OS下の半導体層SMに達してしまうことを防ぐためである。
【0055】
続いて、
図13に示されるように、領域3Aおよび領域4Aを覆い、領域1Aおよび領域2Aを開口するようなレジストパターンRP6を形成する。次に、レジストパターンRP6をマスクとして、イオン注入法によって、領域1Aのエピタキシャル層EPおよび半導体層SMと、領域2Aの半導体基板SBとに不純物を導入することで、領域1Aにn型の導電性を有する拡散層SD1(半導体領域SD1)を形成し、領域2Aにn型の導電性を有する拡散層SD2(半導体領域SD2)を形成する。拡散層SD1は、MISFETQ1のソース領域またはドレイン領域の一部となる。また、拡散層SD2は、MISFETQ2のソース領域またはドレイン領域の一部となる。なお、拡散層SD1の不純物濃度はエクステンションEX1の不純物濃度よりも高く、拡散層SD2の不純物濃度は半導体領域LDD1の不純物濃度よりも高い。また、拡散層SD1および拡散層SD2を形成するための不純物は、例えばリン(P)またはヒ素(As)であり、イオン注入の条件はエネルギーを5〜30keVとし、ドーズ量を1×10
15〜1×10
16/cm
2程度とする。その後、レジストパターンRP6を、アッシング処理によって除去する。
【0056】
なお、本実施の形態では、拡散層SD1および拡散層SD2を形成するためのイオン注入を同時に行っているが、これらのイオン注入は個別のレジストパターンを用いて、それぞれ独自に行うことも可能である。
【0057】
続いて、
図14に示されるように、領域1Aおよび領域2Aを覆い、領域3Aおよび領域4Aを開口するようなレジストパターンRP7を形成する。次に、レジストパターンRP7をマスクとして、イオン注入法によって、領域3Aのエピタキシャル層EPおよび半導体層SMと、領域4Aの半導体基板SBとに不純物を導入することで、領域3Aにp型の導電性を有する拡散層SD3(半導体領域SD3)を形成し、領域4Aにp型の導電性を有する拡散層SD4(半導体領域SD4)を形成する。拡散層SD3は、MISFETQ3のソース領域またはドレイン領域の一部となる。また、拡散層SD4は、MISFETQ4のソース領域またはドレイン領域の一部となる。なお、拡散層SD3の不純物濃度はエクステンションEX2の不純物濃度よりも高く、拡散層SD4の不純物濃度は半導体領域LDD2の不純物濃度よりも高い。また、拡散層SD3および拡散層SD4を形成するための不純物は、例えばボロン(B)であり、イオン注入の条件はエネルギーを1〜5keVとし、ドーズ量を1×10
15〜1×10
16/cm
2程度とする。その後、レジストパターンRP7を、アッシング処理によって除去する。
【0058】
なお、本実施の形態では、拡散層SD3および拡散層SD4を形成するためのイオン注入を同時に行っているが、これらのイオン注入は個別のレジストパターンを用いて、それぞれ独自に行うことも可能である。
【0059】
その後、半導体基板SBに、900℃以上、且つ、1秒以下の条件として、例えば1050℃、0.1秒で第2熱処理を施すことで、半導体領域LDD2、エクステンション領域EX2および拡散層SD1〜SD4に含まれる不純物を活性化させる。ここで、先に第1熱処理が施されたn型の半導体領域LDD1およびn型のエクステンション領域EX1にも、第2熱処理が施されることになるが、第2熱処理の時間は第1熱処理の時間と比較して非常に短いため、半導体領域LDD1およびn型のエクステンション領域EX1の拡散長はほとんど変化しない。なお、第2熱処理のような短時間の熱処理は、一般的にTED(Transient Enhanced Diffusion)抑制アニールまたはスパイクアニールと呼称されている。
【0060】
続いて、
図15に示されるように、サリサイド(Salicide:Self Aligned Silicide)技術により、各拡散層SD1〜SD4上および各ゲート電極G1〜G4上に、それぞれ低抵抗のシリサイド膜SLを形成する。
【0061】
シリサイド膜SLは、具体的には次のようにして形成することができる。各領域1A〜領域4Aにおいて、各ゲート電極G1〜G4を覆うように、シリサイド膜SL形成用の金属膜を形成する。この金属膜は、例えばコバルト、ニッケルまたはニッケル白金合金からなる。次に、半導体基板SBに熱処理を施すことによって、各拡散層SD1〜SD4および各ゲート電極G1〜G4を、金属膜と反応させる。これにより、各拡散層SD1〜SD4上および各ゲート電極G1〜G4上に、それぞれシリサイド膜SLが形成される。その後、未反応の金属膜を除去する。シリサイド膜SLを形成したことで、各拡散層SD1〜SD4および各ゲート電極G1〜G4における、拡散抵抗とコンタクト抵抗とを低くすることができる。
【0062】
以上より、各MISFETQ1〜Q4が形成される。
【0063】
続いて、各領域1A〜領域4Aにおいて、各MISFETQ1〜Q4を覆うように、層間絶縁膜IL0を形成する。層間絶縁膜IL0としては、酸化シリコン膜の単体膜、または、窒化シリコン膜とその上に厚い酸化シリコン膜を形成した積層膜などを用いることができる。層間絶縁膜IL0の形成後、必要に応じて、層間絶縁膜IL0の上面をCMP(Chemical Mechanical Polishing)法で研磨することもできる。
【0064】
次に、フォトリソグラフィ法およびドライエッチング法などによって、層間絶縁膜IL0内にコンタクトホールを形成し、コンタクトホール内にタングステン(W)などからなる導電性膜を埋め込むことで、層間絶縁膜IL0内にプラグPGを形成する。
【0065】
次に、プラグPGが埋め込まれた層間絶縁膜IL0上に層間絶縁膜IL1を形成する。その後、層間絶縁膜IL1に配線用の溝を形成した後、配線用の溝内に例えば銅を主成分とする導電性膜を埋め込むことで、層間絶縁膜IL1内にプラグPGと接続する第1配線M1を形成する。この第1配線M1の構造は、所謂ダマシン(Damascene)配線構造と呼ばれる。
【0066】
その後、デュアルダマシン(Dual Damascene)法などにより、2層目以降の配線を形成するが、ここでは図示およびその説明は省略する。また、第1配線M1および第1配線M1よりも上層の配線は、ダマシン配線構造に限定されず、導電性膜をパターニングして形成することもでき、例えばタングステン配線またはアルミニウム配線とすることもできる。
【0067】
以上のようにして、本実施の形態の半導体装置が製造される。
【0068】
<半導体装置の製造方法の主な特徴について>
本実施の形態における半導体装置の製造方法の主な特徴は、
図9で説明した第1熱処理であり、領域1Aに形成したn型のエクステンション領域EX1に、長時間の熱処理を施している点である。
【0069】
この点について、第1熱処理と、
図14で説明した第2熱処理などとの関係を含めて、以下に説明する。
【0070】
図16は、本実施の形態で説明した製造工程のうち、本実施の形態の主な特徴に関連するイオン注入工程および熱処理工程を簡潔に纏めたものである。
【0071】
各ゲート電極G1〜G4を形成後、n型の半導体領域LDD1とn型のエクステンション領域EX1とを形成する。
【0072】
その後、半導体基板SBに、900℃以上、且つ、100秒以上の条件として、例えば950℃、且つ、120秒で第1熱処理を施す。この第1熱処理は、エクステンション領域EX1がゲート電極G1の直下まで確実に拡散するような熱処理である。具体的には、エクステンション領域EX1を構成している不純物であるヒ素(As)が、2nm以上であり10nm以下の範囲で拡散する。
【0073】
続いて、イオン注入法によって、p型の半導体領域LDD2、p型のエクステンション領域EX2、n型の拡散層SD1、n型の拡散層SD3、p型の拡散層SD2およびp型の拡散層SD4を順次形成する。
【0074】
その後、半導体基板SBに、900℃以上、且つ、1秒以下の条件として、例えば1050℃、0.1秒で第2熱処理を施すことで、上記の各不純物領域の活性化を行っている。すなわち、第2熱処理は第1熱処理よりも短い時間で行われている。
【0075】
元々、n型の不純物を構成するリン(P)またはヒ素(As)は、p型の不純物を構成するボロン(B)または二フッ化ボロン(BF
2)よりも拡散係数が低いため、拡散し難い。更に、
図9で説明したように、エクステンション領域EX1は、半導体領域LDD1のように斜めイオン注入で形成すると、エピタキシャル層EPに遮られことがあるため、垂直イオン注入で形成していた。従って、垂直イオン注入の終了時点では、エクステンション領域EX1の端部は、ゲート電極G1と重ならない位置、または、ゲート電極G1と僅かに重なる位置に形成される。よって、n型の不純物で構成されるエクステンション領域EX1をゲート電極G1の直下まで確実に拡散させるためには、半導体領域LDD1とエクステンション領域EX1とを形成した後に行う第1熱処理の時間を長くする必要がある。
【0076】
例えば、エクステンション領域EX1を短時間で行われる第2熱処理で拡散させようとすると、n型の不純物で構成されるエクステンション領域EX1をゲート電極G1の直下まで確実に拡散させることが難しい。そこで、第2熱処理の時間を第1熱処理と同じ程度まで長くすると、p型の不純物は拡散係数が高いため、p型の不純物で構成されるエクステンション領域EX2が拡散しすぎてしまい、MISFETQ3の短チャネル特性が劣化してしまう。また、ボロン等のp型の不純物は、熱処理の時間が長すぎるとゲート絶縁膜GI3に引きつけられる。このため、ゲート絶縁膜GI3と半導体層SMとの界面に局所的に高濃度領域が形成されることで、ゲート絶縁膜GI3の一部に電界が集中するという、所謂パイルアップと呼ばれる問題の原因となる。なお、このパイルアップの問題は、MISFETQ4の半導体領域LDD2においても同様に発生する。従って、第2熱処理は短時間で行うことが望ましい。
【0077】
また、拡散層SD1〜SD4については、拡散長を長くさせる必要は無く、むしろp型不純物である拡散層SD3および拡散層SD4では上記のパイルアップの問題が引き起こされる恐れもあるので、第2熱処理は短時間で行うことが望ましい。
【0078】
以上により、n型のエクステンション領域EX1は、p型のエクステンション領域EX2およびp型の半導体領域LDD2よりも先に形成しておく必要があり、長時間で行われる第1熱処理で拡散させる必要がある。言い換えれば、p型のエクステンション領域EX2およびp型の半導体領域LDD2は、長時間で行われる第1熱処理によって拡散されすぎてしまわないように、第1熱処理を行った後に形成する必要がある。これによって、p型の半導体領域LDD2とp型のエクステンション領域EX2に悪影響を与えることなく、領域1Aに形成されるn型のエクステンション領域EX1を、ゲート電極G1の直下まで確実に拡散させることができる。
【0079】
また、後述の
図20にて詳細に説明するが、エクステンション領域EX1に長時間の第1熱処理を施すことにより、エクステンション領域EX1の拡散長を長くすることができたので、MISFETQ1のオン電流を増加することができる。また、イオン注入によるダメージが、長時間の熱処理によって回復することによっても、オン電流を増加することができる。そして、エクステンション領域EX1の拡散長が大きくなると共に、エクステンション領域EX1の端部での濃度プロファイルが、より緩やかとなるため、GIDLによるリーク電流を低減することができる。従って、半導体装置の信頼性および性能を両立させることができる。
【0080】
以下では、本願の発明者が、本実施の形態の半導体装置の製造方法を考案するに至るまでの経緯を、比較検討例1〜3として示す。
【0081】
<比較検討例1について>
比較検討例1では、SOI基板を用いず、半導体基板SBに高耐圧MISFETと低耐圧MISFETとが形成される半導体装置であって、ゲート長が150nm以上の世代の半導体装置を対象としている。
【0082】
図17は、比較検討例1の半導体装置の製造方法のうち、本実施の形態の主な特徴に関連するイオン注入工程および熱処理工程を簡潔に纏めたものである。
【0083】
図17に示すように、まず各ゲート電極G1〜G4を形成する。その後、イオン注入法によって、n型の半導体領域LDD1、p型の半導体領域LDD2、n型のエクステンション領域EX1、p型のエクステンション領域EX2、n型の拡散層SD1、n型の拡散層SD2、p型の拡散層SD3およびp型の拡散層SD4を順次形成する。
【0084】
続いて、半導体基板SBに、例えば950℃、120秒で熱処理を施すことで、各不純物領域の活性化と拡散を行っている。この熱処理の条件は、本実施の形態で示した第1熱処理の条件と対応している。
【0085】
比較検討例1の半導体装置では、ゲート長も長く、ゲート絶縁膜の膜厚も厚いため、後述の比較検討例2の説明で示すような、短チャネル特性の劣化およびパイルアップの問題などは顕著ではない。そのため、比較検討例1の半導体装置は、各不純物領域を形成した後に長時間の熱処理を施して製造している。従って、比較検討例1の熱処理の方法を、微細化の進んだ本実施の形態の半導体装置にそのまま採用することはできない。
【0086】
<比較検討例2について>
比較検討例2では、SOI基板を用いず、半導体基板SBに高耐圧MISFETと低耐圧MISFETとが形成される半導体装置であって、ゲート長が例えば90nm〜65nmの世代の半導体装置を対象としている。
【0087】
比較検討例2では比較検討例1と比較して、ゲート長が短くなったことで、低耐圧MISFETの短チャネル特性の劣化が顕著となった。よって、比較検討例1の熱処理を用いると不純物の拡散が大きすぎるため、比較検討例1の製造方法では微細化に対応できなくなった。また、短チャネル特性を改善するために、ゲート電極G1下のチャネル領域に、p型の不純物で構成されるハロー領域が形成される構造が適用された。このため、パイルアップの問題も顕著となった。従って、不純物の拡散を抑えるため、短時間で熱処理が可能なTED抑制アニールが適用されている。
【0088】
更に、これらの状況に加えて、低耐圧MISFETの微細化のため、n型のエクステンション領域EX1およびp型のエクステンション領域EX2をより浅く形成し、且つ、高濃度とする必要があった。これにより、GIDLによるリークも問題となり始めた。
【0089】
図18は、比較検討例2の半導体装置の製造方法のうち、本実施の形態の主な特徴に関連するイオン注入工程および熱処理工程を簡潔に纏めたものである。
【0090】
図18に示すように、まず各ゲート電極G1〜G4を形成する。その後、イオン注入法によって、n型の半導体領域LDD1を形成する。その後、半導体基板SBに、例えば950℃、120秒で熱処理を施すことで、n型の半導体領域LDD1を拡散および活性化させる。この熱処理の条件は、本実施の形態で示した第1熱処理の条件と対応している。
【0091】
続いて、p型の半導体領域LDD2、n型のエクステンション領域EX1およびp型ハロー領域を形成する。なお、n型のエクステンション領域EX1およびp型のハロー領域は、ゲート電極G1下に位置するように、斜めイオン注入によって形成する。その後、半導体基板SBに、例えば920℃、0.1秒でTED抑制アニールを施す。このTED抑制アニールは主にハロー領域を活性化させるために行われる。ハロー領域のp型不純物は一度活性化することで、後の熱処理によって形成位置が変動しづらくなる。
【0092】
続いて、p型のエクステンション領域EX2、n型のハロー領域、n型の拡散層SD1、n型の拡散層SD2、p型の拡散層SD3およびp型の拡散層SD4を順次形成する。その後、半導体基板SBに、例えば1050℃、0.1秒でTED抑制アニールを施すことで、上記の各不純物領域の活性化を行っている。このTED抑制アニールの条件は、本実施の形態で示した第2熱処理の条件とほぼ対応している。
【0093】
また、比較検討例2では、SOI基板でなく半導体基板SBに低耐圧MISFETを形成しているため、n型のエクステンション領域EX1を浅く形成することが重要であった。言い換えれば、n型のエクステンション領域EX1の端部がゲート電極の直下に位置させると共に、n型のエクステンション領域EX1の深さ方向の拡散は抑える必要があった。従って、比較検討例2では、斜めイオン注入によって、n型のエクステンション領域EX1のゲート長方向の位置を比較的自由に設定し、短時間の熱処理によって深さ方向の拡散を抑えている。
【0094】
よって、比較検討例2のn型のエクステンション領域EX1の形成には、斜めイオン注入と短時間の熱処理との組み合わせが適用された。
【0095】
これに対して、本実施の形態ではn型のエクステンション領域EX1の形成に垂直イオン注入を行っているので、比較検討例2の熱処理方法を採用すると、n型のエクステンション領域EX1の拡散長が足りなくなる。このため、本実施の形態の半導体装置に、比較検討例2の熱処理方法をそのまま採用することはできない。
【0096】
<比較検討例3について>
比較検討例3では、SOI基板上に低耐圧MISFETが形成され、半導体基板SBに高耐圧MISFETが形成される半導体装置であって、ゲート長が例えば90nm〜65nmの世代の半導体装置を対象としている。
【0097】
SOI基板は、本実施の形態と同様に、半導体基板SBと、半導体基板SB上に形成された絶縁層BX、および、絶縁層BX上に形成された半導体層SMを有する。絶縁層BXの膜厚は10〜20nm程度であり、半導体層SMの膜厚は10〜20nm程度である。また、半導体層SMには、閾値調整用などの目的によるイオン注入が行われていない。従って、比較検討例2と比較して、短チャネル特性に対して強い構造となっているため、半導体層SMにハロー注入を形成していない。従って、比較検討例2で行っていたハロー領域の変動を抑える熱処理工程が不要となった。
【0098】
図19は、比較検討例3の半導体装置の製造方法のうち、本実施の形態の主な特徴に関連するイオン注入工程および熱処理工程を簡潔に纏めたものである。
【0099】
図19に示すように、まず各ゲート電極G1〜G4を形成する。その後、イオン注入法によって、n型の半導体領域LDD1を形成する。その後、半導体基板SBに、例えば950℃、120秒で熱処理を施すことで、n型の半導体領域LDD1を拡散および活性化させる。この熱処理の条件は、本実施の形態で示した第1熱処理の条件と対応している。
【0100】
続いて、イオン注入法によって、p型の半導体領域LDD2、n型のエクステンション領域EX1、p型のエクステンション領域EX2、n型の拡散層SD1、n型の拡散層SD2、p型の拡散層SD3およびp型の拡散層SD4を順次形成する。その後、半導体基板SBに、例えば1050℃、0.1秒でTED抑制アニールを施すことで、上記の各不純物領域の活性化を行っている。このTED抑制アニールの条件は、本実施の形態で示した第2熱処理の条件とほぼ対応している。このTED抑制アニールによって、p型のエクステンション領域EX2が拡散しすぎる問題と、パイルアップの問題とを解決することができる。
【0101】
また、SOI基板を用いた場合には、半導体層SMの厚さが薄いことから、n型のエクステンション領域EX1の下面およびn型の拡散層SD1の下面は、絶縁層BXに接するように形成される。従って、比較検討例1および比較検討例2のような半導体基板SBにMISFETQ1を形成した際に問題となる、エクステンション領域EX1と半導体基板SBとの接合リークがない。このため、主に問題となるのは、GIDLによるリーク電流である。
【0102】
なお、比較検討例3は、比較検討例2の技術背景を踏襲する形で開発された経緯があるため、n型のエクステンション領域EX1の濃度は高く設定されており、熱処理は短時間のTED抑制アニールを用いていた。しかし、これらの技術を踏襲するだけでは、GIDLの対策が不十分であることが判った。
【0103】
<比較検討例3と本実施の形態の詳細検討>
図20は、本願の発明者によってなされた実験結果であり、比較検討例3と本実施の形態の各々の低耐圧のn型MISFETQ1について、GIDLによるリーク電流とオン電流との比較が示されている。縦軸は、GIDLによるリーク電流の大きさを示しており、横軸は、オン電流の大きさを示している。なお、縦軸および横軸の数値は、実測値ではなく、比率を表している。
【0104】
図中のA点〜C点は、n型のエクステンション領域EX1のイオン注入条件および熱処理の条件を、それぞれ変えた結果である。
【0105】
A点は、比較検討例3の条件であり、ドーズ量を2×10
16/cm
2とし、熱処理を1050℃、0.1秒とした条件である。ここで、GIDLによるリーク電流が高い値となっていることが判る。これは上述のように、エピタキシャル層EPの存在により、エクステンション領域EX1の形成に、比較検討例2のような斜めイオン注入を用いることができず、垂直イオン注入を用いていることに起因する。すなわち、エクステンション領域EX1の形成は、垂直イオン注入と短時間の熱処理との組み合わせで行われているため、エクステンション領域EX1の端部がゲート電極G1の直下まで十分に拡散できていない。
【0106】
B点は、比較検討例3の変更条件であり、ドーズ量を2×10
14/cm
2とし、熱処理を1050℃、0.1秒とした条件である。すなわち、B点は、A点と比較して、ドーズ量を1桁程度少なくした条件である。このように、エクステンション領域EX1の濃度を低くすれば、エクステンション領域EX1の端部での濃度プロファイルが緩やかとなるので、GIDLによるリーク電流は低減するが、オン電流も低減するため、MISFETQ1の性能が低下する。
【0107】
C点は、本実施の形態の条件であり、ドーズ量を2×10
14/cm
2とし、熱処理を950℃、120秒とした条件である。すなわち、C点は、B点と比較して、熱処理の時間を大幅に長くしており、GIDLによるリーク電流が更に低減すると共に、オン電流が増加している。
【0108】
この理由としては、熱処理の時間を長くしたことで、エクステンション領域EX1の拡散長を大きくすることができたので、MISFETQ1の実効チャネル長が減ったことによって、オン電流が増加したと考えられる。また、イオン注入によるダメージが、長時間の熱処理によって回復したことによっても、オン電流が増加したと考えられる。
【0109】
そして、エクステンション領域EX1の拡散長が長くなると共に、エクステンション領域EX1の端部での濃度プロファイルが、B点と比較してより緩やかとなったため、GIDLによるリーク電流が低減したと考えられる。
【0110】
また、本実施の形態の半導体装置では、半導体層SMの厚さが薄いことから、n型のエクステンション領域EX1の下面は、絶縁層BXに接するように形成される。このため、エクステンション領域EX1に長時間の熱処理を施しても、比較検討例1および比較検討例2のようなSOI基板を用いない半導体装置で問題となる、エクステンション領域EX1と半導体基板SBとの接合リークを考慮する必要がない。
【0111】
更に、本実施の形態では、エクステンション領域EX1の熱処理を、半導体領域LDD1の熱処理と同時に行うことができるので、比較検討例3と比較して、製造工程の追加を行う必要がない。
【0112】
以上のように、本実施の形態の半導体装置の製造方法は、比較検討例3と比較して、製造工程の追加を行うこともなく、半導体装置の信頼性および性能の両立を図ることができることが判った。
【0113】
そして、本実施の形態の半導体装置の製造方法は、各比較検討例1〜3の製造方法とは異なっており、その思想も異なっていることが判る。すなわち、本実施の形態の半導体装置の製造方法は、SOI基板上にMISFETQ1などの半導体素子を製造する場合であって、且つ、例えばゲート長が90nm以下の微細な半導体素子を検討した場合に、初めて気付くことのできる問題を解決するものである。
【0114】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。