特許第6783717号(P6783717)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6783717
(24)【登録日】2020年10月26日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0568 20100101AFI20201102BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20201102BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20201102BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20201102BHJP
   C01B 32/21 20170101ALI20201102BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALN20201102BHJP
【FI】
   H01M10/0568
   H01M10/0567
   H01M4/587
   H01M4/36 C
   C01B32/21
   !H01M10/0525
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-148043(P2017-148043)
(22)【出願日】2017年7月31日
(65)【公開番号】特開2019-29215(P2019-29215A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2019年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】石井 健太
(72)【発明者】
【氏名】山本 邦光
(72)【発明者】
【氏名】安部 浩司
(72)【発明者】
【氏名】近藤 正英
(72)【発明者】
【氏名】島本 圭
【審査官】 上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−053184(JP,A)
【文献】 特開2013−201052(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/189769(WO,A1)
【文献】 特開2016−222641(JP,A)
【文献】 特開2014−053174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
H01M 10/0568
C01B 32/21
H01M 4/36
H01M 4/587
H01M 10/0567
H01M 10/0525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、非水電解液と、を備え、
前記負極活物質は、平均粒子径(レーザー回折・光散乱法に基づく体積基準のD50粒径。単位は、μm。)に対するBET比表面積(窒素吸着法に基づく値。単位は、m/g。)の比が0.15以下である非晶質コート黒鉛を含み、
前記非水電解液は、2,5,8,11−テ卜ラオキサドデカンを配位子とするリチウムカチオンと、ジフルオロリン酸アニオンと、からなるリチウム塩化合物を含み、
前記リチウム塩化合物のジフルオロリン酸リチウム換算の含有量は、前記正極活物質のBET比表面積1mあたり、0.1×10−3mol以上である、非水系二次電池。
【請求項2】
前記リチウム塩化合物のジフルオロリン酸リチウム換算の含有量が、前記正極活物質のBET比表面積1mあたり、0.17×10−3mol以下である、請求項1に記載の非水系二次電池。
【請求項3】
前記リチウム塩化合物のジフルオロリン酸リチウム換算の含有量が、前記正極活物質のBET比表面積1mあたり、0.15×10−3mol以上である、請求項1または2に記載の非水系二次電池。
【請求項4】
前記非晶質コート黒鉛は、前記平均粒子径に対するBET比表面積の比が0.1以上である、請求項1から3のいずれか一項に記載の非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水系二次電池では、非水電解液に添加剤を添加して電池性能を向上することが検討されている。これに関連する先行技術として、特許文献1には、長鎖のエーテル化合物(グライム)を配位子としたリチウムカチオンと、ジフルオロリン酸アニオンとからなるリチウム塩化合物を非水電解液に添加することで、電池の高温耐久特性を向上し得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2016/189769号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によれば、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO)にグライムを配位させて上記リチウム塩化合物の形態とすることで、非水電解液に対する溶解性を向上することができる。このため、非水電解液中により多くのLiPOを含有させることができ、高温耐久特性の向上効果を好適に発揮し得る。
【0005】
しかし、本発明者らの検討によれば、負極に黒鉛系材料を含み、かつ非水電解液に上記リチウム塩化合物を含む電池では、充放電時に、上記リチウム塩化合物が電荷担体と共に黒鉛の層間に共挿入されることがある。そのため、黒鉛の層状構造に歪みが生じ、電池抵抗が増大したり、耐久特性が低下したりすることがある。したがって、負極に黒鉛系材料を含み、かつ非水電解液に上記リチウム塩化合物を含む電池では、電池抵抗の低減と耐久特性の向上とをより良くバランスすることが求められている。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、電池性能の向上した非水系二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明により、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、非水電解液と、を備える非水系二次電池が提供される。上記負極活物質は、平均粒子径(単位は、μm)に対するBET比表面積(単位は、m/g)の比が0.15以下である非晶質コート黒鉛を含む。上記非水電解液は、2,5,8,11−テ卜ラオキサドデカンを配位子とするリチウムカチオンと、ジフルオロリン酸アニオンと、からなるリチウム塩化合物を含む。上記リチウム塩化合物のジフルオロリン酸リチウム換算の含有量は、上記正極活物質のBET比表面積1mあたり、0.1×10−3mol以上である。
【0008】
上記リチウム塩化合物のジフルオロリン酸リチウム換算の含有量を所定値以上とすることで、正極および/または負極の表面に良質な(低抵抗かつ高耐久な)皮膜を備えることができる。また、負極に上記非晶質コート黒鉛を含むことで、上記リチウム塩化合物が黒鉛の層間に共挿入されることを好適に抑制することができる。このことにより、上記非水系二次電池では、電池抵抗を低く抑えると共に、耐久特性を向上することができる。
【0009】
なお、本明細書において、「平均粒子径」とは、レーザー回折・光散乱法で測定された体積基準の粒度分布において、累積50%に相当する粒子径(D50粒径)をいう。単位は、μmである。また、本明細書において、「BET比表面積」とは、窒素吸着法で測定された表面積をBET法で解析した値をいう。単位は、m/gである。
【0010】
好適な一態様では、上記リチウム塩化合物のジフルオロリン酸リチウム換算の含有量が、上記正極活物質のBET比表面積1mあたり、0.17×10−3mol以下である。これにより、上記リチウム塩化合物が黒鉛の層間に共挿入されることをより良く抑制して、一層優れた電池性能を実現することができる。
【0011】
好適な一態様では、上記リチウム塩化合物のジフルオロリン酸リチウム換算の含有量が、上記正極活物質のBET比表面積1mあたり、0.15×10−3mol以上である。これにより、正極起因の抵抗をより低く抑えることができる。
【0012】
好適な一態様では、上記非晶質コート黒鉛は、上記平均粒子径に対するBET比表面積の比が0.1以上である。これにより、上記リチウム塩化合物が黒鉛の層間に共挿入されることをより良く抑制して、一層優れた電池性能を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、一実施形態に係る非水系二次電池を模式的に示す縦断面図である。
図2図2は、正極活物質の単位BET比表面積あたりのLiPOの含有量と、SOC15%におけるIV抵抗との関係を示すグラフである。
図3図3は、正極活物質の単位BET比表面積あたりのLiPOの含有量と、SOC50%におけるIV抵抗との関係を示すグラフである。
図4図4は、正極活物質の単位BET比表面積あたりのLiPOの含有量と、サイクル特性(容量維持率)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明し、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は必ずしも実際の寸法関係を反映するものではない。
【0015】
図1は、一実施形態に係る非水系二次電池100の内部構造を模式的に示す縦断面図である。非水系二次電池100は、電極体40と、図示しない非水電解液とが、電池ケース50に収容され、構成されている。
【0016】
電池ケース50は、上端が開口された扁平な直方体形状(角形)の電池ケース本体52と、その開口を塞ぐ蓋板54と、を備えている。電池ケース50の材質は、特に限定されないが、例えば、アルミニウム等の軽量な金属である。なお、電池ケース50の外形は、円筒形状やコイン型等であってもよいし、ラミネートフィルム製の袋体形状であってもよい。蓋体54には、図示しない注液口が設けられている。蓋板54からは、外部接続用の正極端子70と負極端子72とが突出している。
【0017】
電極体40は、帯状の正極シート10と、帯状の負極シート20と、帯状のセパレータシート30とを有している。電極体40は、正極シート10と負極シート20とがセパレータシート30を介在させた状態で重ねられ、長手方向に捲回されて構成されている、所謂、捲回電極体である。電極体40の外観は、扁平形状である。電極体40は、捲回軸に直交する断面において、略角丸長方形状を有している。ただし、電極体40は、矩形状の正極シートと矩形状の負極シートとが、矩形状のセパレータシートを介在させた状態で積層されてなる、所謂、積層電極体であってもよい。
【0018】
正極シート10は、帯状の正極集電体と、その表面に固着された正極活物質層とを備えている。正極集電体としては、導電性の良好な金属(例えばアルミニウム)からなる導電性部材が好適である。正極活物質層は、正極集電体の表面に、正極集電体の長手方向に沿って形成されている。正極集電体の幅方向の一方(図1の左側)の端部には、正極活物質層の形成されていない正極活物質層非形成部分12nが設けられている。正極シート10は、正極活物質層非形成部分12nに付設された正極集電板12cを介して正極端子70と電気的に接続されている。
【0019】
正極活物質層は、正極活物質を含んでいる。正極活物質としては、電池の正極に使用し得ることが知られている各種の材料を特に限定なく1種または2種以上用いることができる。一好適例として、リチウムニッケルマンガン複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミナ複合酸化物、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。
【0020】
正極活物質層は、正極活物質以外の成分、例えば、導電材やバインダ等を含んでいてもよい。導電材としては、例えば、アセチレンブラックやケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛等の炭素材料が例示される。バインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のハロゲン化ビニル樹脂や、ポリエチレンオキサイド(PEO)等のポリアルキレンオキサイドが例示される。
【0021】
正極活物質層の密度は、特に限定されないが、概ね1.5g/cm以上、典型的には2g/cm以上、例えば2.5g/cm以上であって、概ね4g/cm以下、典型的には3.5g/cm以下、例えば3g/cm以下であるとよい。このように密度の高い正極では、その表面に充分な量の皮膜を形成する観点から、非水電解液中に多くのLiPOを含有させることが必要となる。そのため、ここに開示される技術を適用することが特に効果的である。
【0022】
正極活物質層の表面には、典型的には皮膜が形成されている。この皮膜は、非水系二次電池100の構築時に非水電解液に含ませたリチウム塩化合物に由来する成分、例えばLiPOの場合、POを含んでいる。このことにより、低抵抗と高耐久とが高いレベルでバランスされた良質な皮膜が実現される。すなわち、LiPOは分子内の電荷偏りが大きく、電荷担体を引き付ける力が強い。このことにより、正極活物質層の表面の電荷担体濃度を高めることができ、正極起因の抵抗を低く抑えることができる。また、LiPOは、正極活物質層の活性点と強固に結合され、安定性に優れる。このことにより、耐久特性を向上することができる。さらに、正極活物質からの金属元素の溶出を抑制して、正極活物質の構造安定性を向上することができる。
【0023】
負極シート20は、帯状の負極集電体と、その表面に固着された負極活物質層とを備えている。負極集電体としては、導電性の良好な金属(例えば銅)からなる導電性材料が好適である。負極活物質層は、負極集電体の表面に、負極集電体の長手方向に沿って形成されている。負極集電体の幅方向の一方(図1の右側)の端部には、負極活物質層の形成されていない負極活物質層非形成部分22nが設けられている。負極シート20は、負極活物質層非形成部分22nに付設された負極集電板22cを介して負極端子72と電気的に接続されている。
【0024】
負極活物質層は、負極活物質を含んでいる。負極活物質は、非晶質コート黒鉛を含んでいる。負極活物質は、非晶質コート黒鉛のみで構成されていてもよいし、非晶質コート黒鉛に加えて、電池の負極に使用し得ることが知られている各種の材料を1種または2種以上併用してもよい。非晶質コート黒鉛は、負極活物質全体の概ね50質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは95質量%以上、特には実質的に100質量%を占めることが好ましい。
【0025】
非晶質コート黒鉛は、粒子状である。非晶質コート黒鉛は、コアとなる黒鉛粒子と、その表面に形成され、非晶質カーボンを含む非晶質層と、を有する。非晶質コート黒鉛は、平均粒子径に対するBET比表面積の比(BET比表面積/平均粒子径)の値が、0.15以下である。一般に、非晶質性の高いものほど単位粒子径あたりのBET比表面積が大きくなり、上記比の値も大きくなる。このことから、上記比の値は、非晶質コート黒鉛の非晶質層の厚みを示す1つの指標となる。本発明者らの検討によれば、黒鉛は表面結晶性が高いため、非水電解液中のリチウム塩化合物が電荷担体と共に黒鉛の層間に共挿入され易い。上記比の値を満たすことで、黒鉛の表面結晶性を低下させて、リチウム塩化合物が共挿入されることを好適に抑制することができる。上記比の下限値は、特に限定されないが、電池性能(例えばエネルギー密度)をより良く向上する観点から、概ね0.05以上、例えば0.10以上であるとよい。
【0026】
非晶質コート黒鉛のコアとなる黒鉛粒子の形状は、特に限定されない。一好適例では、鱗片状の黒鉛に応力が加えられ球形化された、略球状の形状である。言い換えれば、コアとなる黒鉛粒子は、所謂、球形化黒鉛であるとよい。一般に、黒鉛では、エッジ面と呼ばれる反応活性の高い部分が発達している。球形化黒鉛では、この反応活性の高いエッジ面が折り畳まれ、褶曲されている。このことにより、リチウム塩化合物が黒鉛の層間に共挿入されることをより良く抑制することができる。また、エッジ面と非水電解液との接触をより良く抑制することができる。さらに、球形化によって黒鉛の配向性が小さくなり、負極活物質層内の導電性を均質化することができる。したがって、球形化黒鉛を用いることにより、負極起因の抵抗を好適に低減すると共に、耐久特性をより良く向上することができる。
なお、本明細書において「略球形状」とは、球状、ラグビーボール状、多角体状等をも包含する用語であり、例えば、平均アスペクト比(粒子に外接する最小の長方形において、短軸方向の長さに対する長軸方向の長さの比。)が、概ね1〜2、例えば1〜1.5のものをいう。
【0027】
非晶質コート黒鉛の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、概ね1μm以上、典型的には5μm以上、好ましくは10μm以上であって、概ね50μm以下、典型的には30μm以下、好ましくは20μm以下である。また、非晶質コート黒鉛のBET比表面積は、特に限定されないが、例えば、概ね1m/g以上、好ましくは2m/g以上、例えば2.5m/g以上であって、概ね10m/g以下、典型的には5m/g以下、好ましくは4m/g以下、例えば3m/g以下である。上記性状のうち1つまたは2つを満たすことで、優れた電池性能(例えば、高入出力特性や高耐久特性)をより良く発揮することができる。
【0028】
負極活物質層は、負極活物質以外の成分、例えば、増粘剤、バインダ、分散剤、導電材等を含んでいてもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)やメチルセルロース(MC)等のセルロース類が例示される。バインダとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム類や、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のハロゲン化ビニル樹脂が例示される。導電材としては、例えば、カーボンブラック、活性炭等の非晶質炭素材料が例示される。
【0029】
負極活物質層の固形分全体に占める負極活物質の割合は、特に限定されないが、概ね50質量%以上、典型的には90質量%以上、例えば95質量%以上であって、概ね99.8質量%以下、典型的には99.5質量%以下、例えば99質量%以下であるとよい。負極活物質層の密度は、特に限定されないが、概ね0.5g/cm以上、例えば1g/cm以上であって、概ね2g/cm以下、例えば1.5g/cm以下であるとよい。
【0030】
負極活物質層の表面には、典型的には皮膜が形成されている。この皮膜は、非水系二次電池100の構築時に非水電解液に含ませたリチウム塩化合物に由来する成分、典型的にはLiPOの分解生成物、例えばPOを含んでいる。このことにより、低抵抗と高耐久とが高いレベルでバランスされた良質な皮膜が実現される。
【0031】
セパレータシート30は、正極シート10の正極活物質層と、負極シート20の負極活物質層との間に配置されている。セパレータシート30は、正極シート10の正極活物質層と、負極シート20の負極活物質層とを絶縁する。セパレータシート30は、帯状の樹脂基材で構成されている。樹脂基材としては、例えば、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、セルロース等の樹脂からなるシート(フィルム)が例示される。セパレータシート30は、単層構造であってもよく、材質や性状(厚みや空孔率等)の異なる2種以上の多孔質樹脂シートが積層された構造であってもよい。また、セパレータシート30は、その表面に耐熱層(Heat Resistant Layer:HRL層)を備えていてもよい。
【0032】
非水電解液は、典型的には、非水溶媒と、支持塩と、所定のリチウム塩化合物とを含んでいる。非水電解液は、非水系二次電池100の使用温度範囲内(典型的には、−20〜+60℃、例えば、−10〜50℃の温度範囲)において常に液状である。
【0033】
非水溶媒としては、特に限定されないが、例えば、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶媒が例示される。なかでも、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等のカーボネート類が好適である。
【0034】
支持塩は、非水溶媒中で解離して電荷担体を生成する。支持塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩等が例示される。なかでも、LiPF、LiBF等のリチウム塩が好適である。支持塩は、典型的には後述するリチウム塩化合物よりも非水溶媒に対する溶解度が高い化合物である。支持塩の溶解度(25℃における値。以下同様。)は、典型的には0.5mol/L以上、例えば0.8mol/L以上であるとよい。支持塩の濃度は、例えば、0.8〜1.3mol/Lであるとよい。
【0035】
リチウム塩化合物は、2,5,8,11−テ卜ラオキサドデカン(メチルトリグライムともいう。CH−O−(CHCH−O)−CH;以下、「TOD」と略称することがある。)を配位子として錯体化されたリチウムカチオンと、ジフルオロリン酸アニオン(PO)と、から構成されている。リチウム塩化合物は、所謂、皮膜形成剤として機能し得る。
リチウム塩化合物は、以下の化学式((1):〔Li(TOD)〕2+〔(PO)で表される。
【0036】
【化1】
【0037】
なお、単独の(錯体化されていない)LiPOは、カーボネート類等の非水溶媒に対する溶解度が、凡そ0.11mol/Lと低い。このため、正極の密度が例えば2g/cm以上と高い場合には、単独のLiPOを非水電解液中に溶解度までの濃度で含ませたとしても、正極の単位面積あたりの皮膜形成量が小さくなってしまい、電池性能向上の効果が得られ難い。これに対して、本発明者らの検討によれば、上記(1)のリチウム塩化合物は、非水溶媒に対する溶解度が、ジフルオロリン酸リチウム基準で単独のLiPOの概ね3倍、凡そ0.30mol/Lである。このように、錯体化によって非水電解液中のLiPOの含有量を高めることができる。その結果、高容量タイプの電池においても、正極および/または負極の表面に充分な量の皮膜を形成することができる。
【0038】
本実施形態では、上記(1)のリチウム塩化合物が、正極活物質のBET比表面積に応じて添加されている。具体的には、上記リチウム塩化合物のジフルオロリン酸リチウム換算の含有量が、正極活物質のBET比表面積1mあたり、0.1×10−3mol以上となるように、上記リチウム塩化合物が添加されている。このことにより、正極の表面に充分な量の皮膜を形成することができる。そして、正極起因の抵抗を低減すると共に、耐久特性を向上することができる。以上の観点からは、上記リチウム塩化合物のジフルオロリン酸リチウム換算の含有量を、正極活物質のBET比表面積1mあたり、0.15×10−3mol以上とすることがより好ましい。上記リチウム塩化合物のジフルオロリン酸リチウム換算の含有量の上限値は、特に限定されるものではないが、溶解度との兼ね合いから、正極活物質のBET比表面積1mあたり、概ね0.25×10−3mol以下、典型的には0.2×10−3mol以下、例えば0.17×10−3mol以下とするとよい。
【0039】
また、上記(1)のリチウム塩化合物のジフルオロリン酸リチウム換算の濃度は、特に限定されるものではないが、典型的には支持塩の濃度よりも低く、概ね0.05〜0.5mol/L、例えば0.2〜0.3mol/Lであり得る。なお、上記(1)のリチウム塩化合物は、1分子内に2つのLiPO構造部分を含んでいることから、上記(1)のリチウム塩化合物のジフルオロリン酸リチウム換算の濃度は、上記(1)の〔Li(TOD)〕2+〔(POそのものの濃度を2倍した値となっている。
【0040】
上記リチウム塩化合物のジフルオロリン酸リチウム換算の濃度は、イオンクロマトグラフィー(IC:Ion Chromatography)によって測定することができる。なお、電池構築時に非水電解液に含有されている上記リチウム塩化合物は、その一部あるいは全部が、充放電の後に正極および/または負極の表面に付着した状態であってもよい。
【0041】
非水電解液は、上述した非水溶媒と支持塩とリチウム塩化合物との3成分で構成されていてもよいし、添加的に上記以外の成分を含んでいてもよい。添加的な成分の例としては、分散剤、ゲル化剤、皮膜形成剤(上記(1)のリチウム塩化合物を除く。)、過充電ガス発生剤等が例示される。
【0042】
以上のように、本実施形態の非水系二次電池100は、負極に、表面結晶性の抑えられている非晶質コート黒鉛を含み、かつ、非水電解液に、上記(1)のリチウム塩化合物を所定値以上の含有量で含んでいる。非水系二次電池100では、上記リチウム塩化合物により、正負極の表面に上記リチウム塩化合物由来の成分を含んだ良質な(低抵抗かつ高耐久な)皮膜が形成される。また、非水系二次電池100では、負極に上記性状の非晶質コート黒鉛を含むことで、上記リチウム塩化合物の黒鉛層間への共挿入が抑制される。これらの効果が相俟って、非水系二次電池100では、電池抵抗を低く抑えると共に、耐久特性を向上することができる。
【0043】
非水系二次電池100は、従来品に比べて、入出力特性や耐久特性に優れている。また、非水系二次電池100は、充放電サイクルを繰り返してもガスの発生が少なく、電池膨れが生じ難い。このため、ここに開示される技術は、電池ケース50内の残空間が低減された高エネルギー密度タイプの非水系二次電池100に対して特に好ましく適用することができる。非水系二次電池100は各種用途に利用可能であるが、このような性質を活かして、例えば、車両に搭載される駆動用電源として好適に用いることができる。車両の種類は特に限定されないが、例えばプラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)、電気トラック、電動スクーター、電動アシスト自転車、電動車いす、電気鉄道等が例示される。
【0044】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0045】
[非水系二次電池の構築]
まず、正極活物質としてのリチウムニッケルコバルトアルミナ複合酸化物(NCA)と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、質量比が、NCA:AB:PVdF=94:3.5:2.5となるように秤量し、N−メチルピロリドン(NMP)で粘度を調整しながら混練して、正極スラリーを調製した。この正極スラリーを、厚み12μmのアルミニウム箔(正極集電体)に塗工して、乾燥後に圧延することにより、正極集電体上に正極活物質層(電極密度2.9g/cm)を有する正極を作製した。
【0046】
次に、負極活物質として、表1に示す性状(BET比表面積/平均粒子径)を有する非晶質コート黒鉛を作製した。具体的には、球形化天然黒鉛を炭素前駆体であるコールタールピッチと所定の比率で混合して、焼成温度1000℃で炭化した後、粉砕・分級した。これにより、球形化天然黒鉛の表面に非晶質層を備える粒子状の負極活物質を得た。そして、負極活物質としての非晶質コート黒鉛(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)と、分散剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、質量比が、C:SBR:CMC=99:0.5:0.5となるように秤量し、イオン交換水で粘度を調整しながら混練して、負極スラリーを調製した。この負極スラリーを、厚み8μmの銅箔(負極集電体)に塗工して、乾燥後に圧延することにより、負極集電体上に負極活物質層(電極密度1.4g/cm)を有する負極を作製した。
【0047】
上記で作製した正極と負極とをセパレータを介して捲回して電極体を作製した。なお、セパレータとしては、ポリエチレン(PE)の両面にポリプロピレン(PP)が積層された三層構造のもの(厚み20μm)を用いた。
【0048】
次に、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とをEC:DMC:EMC=30:40:30の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを1.1mol/Lの濃度で溶解させて、参考例1の非水電解液を調製した。また、参考例2,3および例1〜例10では、正極活物質のBET比表面積1mあたりのジフルオロリン酸リチウムの含有量(LiPO換算濃度/正極活物質BET)が表1に示す値となるように、参考例1の非水電解液に対して、単独のLiPO(参考例2,3)または〔Li(TOD)〕2+〔(PO(例1〜例10)を添加し、非水電解液を調製した。
【0049】
そして、アルミニウム製の電池ケースに上記電極体を収容し、電池ケースの開口部と蓋体とを溶接した。次に、蓋体に設けられた電解液注液口から上記非水電解液を注入した。次に、セル注液口に内圧センサーを固定し、シーリング材で密封した。このようにして、リチウムイオン二次電池(参考例1〜3、例1〜例10)を構築した。
【0050】
[活性化処理]
上記構築した各電池について、活性化処理を行った。具体的には、25℃の環境下において、電池電圧が4.1Vに到達するまで1/3Cの充電レートで定電流充電した後、充電レートが2/100Cになるまで定電圧充電した(コンディショニング処理)。そして、上記コンディショニング処理後の電池を、温度60℃の恒温槽に24時間放置した(エージング処理)。
【0051】
[初期容量の測定]
上記活性化処理後の電池を、25℃の環境下において、電池電圧が3.0Vに到達するまで1/3Cの放電レートで定電流放電した後、3.0Vから4.1Vの電圧範囲で、以下の手順1、2に従って初期容量を測定した。
(手順1)電池電圧が4.1Vに到達するまで1/3Cの充電レートで定電流充電した後、充電レートが1/100Cになるまで定電圧充電する。
(手順2)電池電圧が3.0Vに到達するまで1/3Cの放電レートで定電流放電した後、放電レートが1/100Cになるまで定電圧放電する。
そして、手順2における定電流定電圧放電容量を初期容量とした。
【0052】
[IV抵抗の測定]
次に、25℃の環境下において、SOC15%およびSOC50%の状態のIV抵抗を測定した。具体的には、25℃の環境下において、電池のSOCを15%あるいは50%に調整した後、0℃の恒温槽に3時間放置した。電池の表面温度が0±0.5℃となっていることを確認した後、10Cの放電レートで5秒間の放電を行い、電圧降下量を測定した。この電圧降下量を放電電流の値で除して、IV抵抗(mΩ)を算出した。結果を表1に示す。
【0053】
[容量維持率の測定]
次に、温度60℃の恒温槽に電池を収容し、SOCが0〜100%の範囲において、2Cの充放電レートで500サイクルの充放電を行った。その後、初期容量と同様にして高温サイクル試験後の電池容量を測定した。そして、高温サイクル試験後の電池容量を初期容量で除して、容量維持率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0054】
[ガス発生量の測定]
また、高温サイクル試験の前後において、セル注液口に配設した内圧センサーのゲージ圧を読み取り、内圧上昇値を求めた。そして、内圧上昇値と電池内の残空間とから、状態方程式に基づいて、ガス発生量(cm/Ah)を算出した。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
参考例1は、LiPOを含んでいない非水電解液を用いた試験例である。参考例1の電池の評価結果を基準として、結果を考察する。
【0057】
図2は、正極活物質の単位BET比表面積あたりのLiPOの含有量と、SOC15%におけるIV抵抗との関係を示すグラフである。
表1および図2に示すように、参考例2,3および例1〜例5の結果から、SOC15%におけるIV抵抗は、正極活物質の単位BET比表面積あたりのLiPOの含有量が大きくなるにつれて低減される傾向にあった。これは、非水電解液中のLiPOの含有量が増すにつれ、正極表面に形成される皮膜量が多くなり、正極起因のIV抵抗を低減することができたためと考えられる。
【0058】
図3は、正極活物質の単位BET比表面積あたりのLiPOの含有量と、SOC50%におけるIV抵抗との関係を示すグラフである。
表1および図3に示すように、参考例2,3および例1〜例5の結果から、SOC50%におけるIV抵抗は、正極活物質の単位BET比表面積あたりのLiPOの含有量によらず、概ね同等の値であった。これは、SOC50%では負極起因のIV抵抗の影響が大きく、正極起因のIV抵抗低減の効果が相対的に小さくなったためと考えられる。
【0059】
図4は、正極活物質の単位BET比表面積あたりのLiPOの含有量と、サイクル特性(容量維持率)との関係を示すグラフである。
表1および図4に示すように、参考例2,3および例1〜例5の結果から、正極活物質の単位BET比表面積あたりのLiPOの含有量が大きくなるにつれて、耐久特性が改善される傾向にあった。すなわち、容量維持率の向上と共に、ガス発生量の低減が認められた。耐久特性改善の効果は、正極BETあたりのLiPOの含有量が0.1×10−3mol/mとなったところで、頭打ちとなっていた。
【0060】
例6〜例10は、非晶質コート黒鉛の表面結晶性(BET比表面積/平均粒子径の比の値)を変化させた試験例である。例6〜例10の結果から、上記比の値が0.15を超える、すなわち、表面結晶性が高い例8〜例10では、SOC15%における電池抵抗(IV抵抗)の増大や(容量維持率)の低下が認められた。これに対して、上記比の値が0.15以下である、すなわち、表面結晶性が抑えられている例6、例7では、電池抵抗を低く抑えると共に、耐久特性を向上することができた。
【0061】
これらの結果から、負極に上記比の値が0.15以下である非晶質コート黒鉛を含み、かつ、非水電解液に〔Li(TOD)〕2+〔(POを添加して、非水電解液中のLiPO含有量を所定値以上に高めることにより、電池性能を向上することができることが示された。かかる結果は、ここに開示される技術の技術的意義を裏付けるものである。
【0062】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態および実施例は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0063】
10 正極シート
20 負極シート
30 セパレータシート
40 捲回電極体
50 電池ケース
100 非水系二次電池
図1
図2
図3
図4