特許第6783762号(P6783762)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6783762
(24)【登録日】2020年10月26日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】消毒配合物及びその使用
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/16 20060101AFI20201102BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20201102BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20201102BHJP
   A01N 25/30 20060101ALI20201102BHJP
   A01N 25/04 20060101ALI20201102BHJP
   C02F 1/50 20060101ALI20201102BHJP
   A61L 2/18 20060101ALI20201102BHJP
   A61L 101/02 20060101ALN20201102BHJP
【FI】
   A01N59/16 A
   A01P1/00
   A01P3/00
   A01N25/30
   A01N25/04 102
   C02F1/50 510A
   C02F1/50 520J
   C02F1/50 520L
   C02F1/50 531E
   A61L2/18
   A61L101:02
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-529966(P2017-529966)
(86)(22)【出願日】2014年8月19日
(65)【公表番号】特表2017-531030(P2017-531030A)
(43)【公表日】2017年10月19日
(86)【国際出願番号】RU2014000615
(87)【国際公開番号】WO2016028183
(87)【国際公開日】20160225
【審査請求日】2017年8月17日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517054914
【氏名又は名称】オブシェストヴォ エス オグラニチェノイ オトヴェトストヴェノスチュ “ナノバイオテク”
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デニソフ,アルバート ニコラエヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】クルチャコフ,ユーリー アンドレーヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】クドリンスキー,アレクセイ アレクサンドロヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ゼレビン,パベル ミハイロヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】クリモフ,アレクセイ イゴレヴィッチ
【審査官】 桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−508321(JP,A)
【文献】 特開2009−235058(JP,A)
【文献】 特開2011−225722(JP,A)
【文献】 特開2012−153863(JP,A)
【文献】 KIM, Seungwood et al.,Facile Synthesis of Silver Chloride Nanocubes and Their Derivatives,Bull. Korean Chem. Soc.,2010年,Vol.31, No.10,2918-2922
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 59/16
A01N 25/04
A01N 25/30
A01P 1/00
A01P 3/00
A61L 2/18
C02F 1/50
A61L 101/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀及び塩化銀の両方を含有するナノサイズ粒子並びに少なくとも1つの両性界面活性物質を含有する消毒配合物であって、
前記少なくとも1つの両性界面活性物質が、N−(2−エチルヘキシル)−イミノジプロピオン酸及びその塩、N−オクチルイミノジプロピオン酸及びその塩、N−タローアルキルイミノジプロピオン酸及びその塩、N−ココアルキルイミノジプロピオン酸及びその塩、N−ココアルキルアミノプロピオン酸及びその塩;
次の
【化1】

(式中、Rがココアルキルと定義され、M及びMがNaと定義され、a=2、b=2又は3、c=2、m=2、n=1、p=0)もつI型の化合物;
がココアルキルと定義され、M及びMがNaと定義され、a=1、b=3、c=1、m=2、nが5〜10の範囲内にあり、p=0のI型の化合物の混合物;
がタローアルキルと定義され、M及びMがNaと定義され、a=1、b=3、c=1、m=2、nが1〜5の範囲内にあり、p=0のI型の化合物の混合物;
がココアルキルと定義され、M及びMがNaと定義され、a=1、b=3、c=1、m=2、nが1〜5の範囲内にあり、pが7〜10の範囲内にあるI型の化合物の混合物;
並びに次の
【化2】

(式中、Rがココアルキルと定義され、M及びMがNaと定義され、a=2、b=3、c=2、m=2、q=1、p=0;又はRがココアルキルと定義され、M及びMがNaと定義され、a=1、b=2、c=1、m=1、q=1、p=0)をもつII型の化合物;
がココアルキルと定義され、M及びMがNaと定義され、a=1、b=3、c=1、m=2、qが5〜10の範囲内にあり、pが7〜10の範囲内にあるII型の化合物の混合物、を含む群から選択される消毒配合物。
【請求項2】
前記消毒配合物中の両性界面活性物質の濃度が、0.001質量パーセント〜20質量パーセントの範囲内にある請求項1に記載の消毒配合物。
【請求項3】
前記消毒配合物中のナノサイズ粒子の濃度が、10−4質量パーセント〜0.5質量パーセントの範囲内にある請求項1に記載の消毒配合物。
【請求項4】
前記消毒配合物が補足添加剤を含有する請求項1に記載の消毒配合物。
【請求項5】
補足添加剤が、酸度補正剤、腐食防止剤、及び増粘剤を含む群から選択される請求項に記載の消毒配合物。
【請求項6】
前記消毒配合物が水消毒用である請求項1〜のいずれか1項に記載の消毒配合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、水泳プール及び他の人工貯水槽の水の消毒、部屋、家庭用装置、家具、家庭用機器、及び産業用装置の公衆衛生及び衛生学的な処理、並びにすすぎ水及び廃水の消毒を対象とする消毒剤を含む、公衆衛生及び衛生学、並びに消毒配合物の範囲に入る。
【背景技術】
【0002】
水泳プール及び他の人工貯水槽の水の消毒、並びに部屋及び機器の公衆衛生及び衛生学的な処理を対象とする抗微生物配合物が先行技術から公知である。
【0003】
1935年5月3日付けの米国特許第19993686号は、0.5〜1質量パーセントの「亜塩化銀(silver subchloride)」、すなわち、式中x=2の次式:AgCをもつ物質を含有する消毒特性をもつ石鹸を製造する方法を開示している。該特許で提案された石鹸は抗菌作用を示し、光に曝された際に色の変化がない。しかし、その石鹸の欠点のなかには、抗微生物効果の効率が低いこと、すなわち銀の含有量が高いことが含まれる。
【0004】
ロシア連邦によって刊行された2011年3月27日付けの特許第2414912号は、銀イオン、蒸留水、乳酸、及び過酸化水素の33%水溶液を含有する消毒水溶液を開示している。該発明は、医療(health care)、食品、及び製薬産業、並びに地方公営企業における飲料水の消毒及び保存、並びに水泳プールの消毒での使用を対象とする。しかし、その殺生物効果が短いことがこの配合物の限界である。
【0005】
ロシア連邦の特許の刊行物の出願第2010134589号は、水泳プールの水槽(basins)及びユーティリティルームの表面の抗真菌消毒効果をさらに長くする方法を開示し、その方法では、濃度が167ppmの銀のナノ粒子の有機水溶液で16〜20Cの温度にて40〜50時間処理することによってナノサイズの銀粒子が外装セラミックタイルの表面に塗布され、さらにそれらの粒子は炭化水素、水アルコール混合物、及び蒸留水で室温にて30分間洗い流される。しかし、この配合物の殺生物効果は不十分で、それが該配合物の限界である。さらに、そのような多段階の処理方法は幾分複雑で、労働集約的である。
【0006】
先行技術から、ポリヘキサメチレングアニジン塩:
【0007】
【化1】
【0008】
に基づく抗微生物配合物、及びポリヘキサメチレンビグアニド:
【0009】
【化2】
【0010】
に基づく抗微生物配合物が公知である。
【0011】
2011年8月27日付けのロシア連邦特許第2427380号は、皮膚カバー(cutaneous cover)の処理を対象とする消毒剤を開示し、該消毒剤は、コロイド状の銀、ポリヘキサメチレングアニジン塩、又はポリヘキサメチレンビグアニド塩を含有する。この消毒剤は、Escherichia coli、Staphylococcus aureus、Leuconostoc mesenteroides、Aspergillus niger、Saccharomyces cerevisiaeに対して強い殺生物作用を示す。それらの株に対する、ロシア連邦特許第2427380号に開示の消毒剤の最小発育阻止濃度は、コロイド状の銀を含有しない類似体消毒剤の最小発育阻止濃度と比べて数倍低い。本質的な特長の組み合わせによると、ロシア連邦特許第2427380号に開示の消毒剤は本発明のもっとも近い類似体である。
【0012】
現時点で利用可能なコロイド状の銀及びポリヘキサメチレングアニジンの誘導体に基づく抗微生物配合物の主な限界並びにそれらの配合物の使用関連方法の限界の1つは、ポリヘキサメチレングアニジンの誘導体によって安定化された正の電荷をもつ銀の粒子が、水泳プールの配管や壁ではなくむしろ、水処理フィルター、特に、酸化ケイ素及びアルミノケイ酸塩を含有する材料から作られたものに容易に取り込まれることである。さらに、それらの配合物は凍結及びさらなる解凍時に安定性を失う。コロイド状の銀に基づく配合物の殺菌作用に非常に重要な役目を果たす銀イオンの生成速度は銀粒子の酸化溶解の過程においてかなり低いので、水中で銀イオンの十分な濃度を維持するためには、高濃度のコロイド状の銀を用いる必要がある。
【0013】
上記に対して、a)凍結及びさらなる解凍に対する耐性を向上することによって配合物の安定性を上げる課題;b)これらの配合物が水処理フィルターに捕捉される度合いを下げる課題;c)銀イオンを生成する速度を上げる、したがって、消毒剤の殺菌作用を増やす課題などの含銀消毒配合物及びそれらの使用の関連方法の効力を高める課題が現れている。
【0014】
特許を請求する技術的成果は、消毒配合物を用いることによって達成され、その詳細を下記に記載する。
【発明の概要】
【0015】
コロイド状の銀に基づく配合物の抗微生物活性に対するさまざまな添加物の影響に関する実験研究の過程で、x>1である不定比の組成物AgClをもつ粒子を含む銀及び塩化銀の両方を含有するナノサイズ粒子のほうが、類似銀(Ag)粒子及び塩化銀(AgCl)のナノサイズ粒子と比べて高いレベルの抗菌活性を示すことが見出されている。
【0016】
塩化銀による銀の部分置換が、塩化銀の漸進的な溶解による銀イオンの生成速度の増加をもたらすという事実に関連するようである。それにより、求められる効力を達成するために使用される銀ナノ粒子に基づく配合物の量と比べて少ない量の銀及び塩化銀の両方を含有するナノサイズ粒子に基づく配合物を用いてその目的を達成することが可能になる。ところで、塩化銀ナノサイズ粒子のコロイド状溶液の実験的に観察された抗菌活性は、銀及び塩化銀の両方を含有するナノサイズ粒子に基づく配合物の抗微生物活性と比べて低い。この現象は、まず第一に、低分子化合物によって安定化された塩化銀コロイド状溶液は凝集しやすく、特に、生物培地に含有される電解物に曝されたときに凝集しやすいことに起因する。ナノ粒子集合体の表面積は、集合体を形成する粒子の総表面積と比べて著しく小さいため、塩化銀ナノ粒子の凝集の過程において、粒子の表面積に正比例して変わる、粒子溶解時の銀イオンの生成速度は著しく低下する。さらに、光に曝された際に塩化銀は光分解されやすい。
【0017】
よって、銀及び塩化銀を含有するナノサイズ粒子は、a)塩化銀の存在に起因する銀イオンの生成が速いこと;b)銀ナノ粒子の凝集安定性が高いこと;及びそれゆえにc)顕著な抗菌活性が大きいことを特徴とする。
【0018】
処理条件及び配合物の成分に応じて、銀及び塩化銀の両方を含有するナノサイズ粒子を使用することにより、a)低濃度の活性物質で、つまり、低コストの消毒配合物で、ナノサイズの銀又は塩化銀粒子に基づく配合物に対して、同じ強度又は増加した強度の抗微生物作用を達成すること;b)配合物のコストは変えずに、銀コロイド溶液の作用の強度と比べて抗微生物作用の強度を増加させること;c)配合物のコストは変えずに、塩化銀コロイド溶液の作用の強度と比べて抗微生物作用の強度を増加させることが可能になる。
【0019】
銀及び塩化銀の両方を含有するナノサイズ粒子に基づく配合物の抗微生物作用に対する安定剤の影響に関する実験研究の過程において、アミノ酢酸のN−アルキル置換誘導体、3−アミノプロピオン酸、イミノ二酢酸、及びイミノジプロピオン酸を含む、ω−アミノカルボン酸及びイミノジカルボン酸の誘導体などの両性界面活性物質(SAS)を含有する配合物が見出されている。
【0020】
実験研究を実施する間に、そのようなナノ粒子がグラム陽性及びグラム陰性菌並びに真菌を含む多くの原核及び真核微生物に対して顕著な殺生物活性を示すことが見出されている。両性SASによって安定化された銀及び塩化銀を含有するナノ粒子は広範囲のpHで安定であり、電解物の存在下において凝集に対して耐性があり、この事実に起因してそのようなナノ粒子が幅広い範囲の活性をもつ消毒配合物として使用できることが見出されている。
【0021】
試験された両性SASによって安定化された銀及び塩化銀を含有するナノ粒子は負の電荷をもち、これに起因して、そのようなナノ粒子の取り込みが、同様に帯電する水処理フィルター並びに特に酸化ケイ素及びアルミノケイ酸塩を含有する材料から作られたフィルターにおいて妨げられる。さらに、そのようなナノ粒子のコロイド溶液は、さらなる解凍を伴って何度も凍結した際に凝集安定性を保持する。
【0022】
銀及び塩化銀の両方を含有するナノ粒子は、例えば、塩化物イオンの存在下でナノサイズの銀粒子を部分酸化することによって得られることができる。
【0023】
本発明は、銀及び塩化銀の両方のナノサイズ粒子を含有する消毒配合物に属する。
【0024】
本発明の好ましい実施形態では、消毒配合物は、少なくとも1つのさらなる両性界面活性物質を含有する。
【0025】
本発明の好ましい実施形態では、消毒配合物中の両性界面活性物質の濃度は0.001質量パーセント〜20質量パーセントである。
【0026】
本発明の好ましい実施形態では、ナノサイズの銀粒子の濃度は10−4質量パーセント〜0.5質量パーセントである。
【0027】
本発明の好ましい実施形態では、消毒配合物は補足添加剤を含有する。
【0028】
本発明の好ましい実施形態では、補足添加剤は、酸度補正剤、腐食防止剤、及び増粘剤を含む群から選択される。
【0029】
本発明の好ましい実施形態では、少なくとも1つの両性界面活性物質は、次の一般式:
【0030】
【化3】
【0031】
をもつカルボン酸及びそれらの誘導体(I型化合物);
【0032】
並びに次の一般式:
【0033】
【化4】
【0034】
をもつカルボン酸及びそれらの誘導体(II型化合物)を含む群から選択され、
【0035】
式中、M及びMは、H、Na、K、NHを含む群から選択され、aは1又は2に等しく、bは2又は3に等しく、cは1又は2に等しく、mは1又は2に等しく、nは0に等しいか又は0より大きく、pは0に等しいか又は0より大きく、qは0より大きく、さらに置換基Rは分岐及び非分岐飽和及び不飽和直鎖及び環状炭化水素基を含む群から選択される。
【0036】
本発明の好ましい実施形態では、少なくとも1つの両性界面活性物質は、N−(2−エチルヘキシル)−イミノジプロピオン酸及びその塩、N−オクチルイミノジプロピオン酸及びその塩、N−タローアルキル(tallowalkyl)イミノジプロピオン酸及びその塩、N−ココアルキルイミノジプロピオン酸及びその塩、N−ココアルキルアミノプロピオン酸及びその塩、Rがココアルキルと定義され、M及びMがNaと定義され、a=2、b=3、c=2、m=2、n=1、p=0のI型の組成物;Rがココアルキルと定義され、M及びMがNaと定義され、a=2、b=2、c=2、m=2、n=1、p=0のI型の組成物;Rがココアルキルと定義され、M及びMがNaと定義され、a=1、b=3、c=1、m=2、nが5〜10の範囲内にあり、p=0のI型の化合物の混合物;Rがタローアルキルと定義され、M及びMがNaと定義され、a=1、b=3、c=1、m=2、nが1〜5の範囲内にあり、p=0のI型の化合物の混合物;Rがココアルキルと定義され、M及びMがNaと定義され、a=1、b=3、c=1、m=2、nが1〜5の範囲内にあり、pが7〜10の範囲内にあるI型の化合物の混合物;Rがココアルキルと定義され、M及びMがNaと定義され、a=2、b=3、c=2、m=2、q=1、p=0のII型の組成物;Rがココアルキルと定義され、M及びMがNaと定義され、a=1、b=2、c=1、m=1、q=1、p=0のII型の組成物;Rがココアルキルと定義され、M及びMがNaと定義され、a=1、b=3、c=1、m=2、qが5〜10の範囲内にあり、pが7〜10の範囲内にあるII型の化合物の混合物を含む群から選択される。
【0037】
「ココアルキル」という用語は、飽和及び不飽和炭化水素基、主にC〜C22の混合物を意味し、ココナッツオイルの化学的処理の過程で得られる生成物の一部である。
【0038】
「タローアルキル」という用語は、飽和及び不飽和炭化水素基、主にC〜C24の混合物を意味し、獣脂の化学的処理の過程で得られる生成物の一部である。
【0039】
本発明はまた、水の消毒方法に属し、そこでは銀及び塩化銀の両方を含有するナノサイズ粒子が水に少なくとも1回加えられる。
【0040】
本発明の好ましい実施形態では、さらに少なくとも1つの両性界面活性物質が水に加えられる。
【0041】
本発明の好ましい実施形態では、少なくとも1つの両性界面活性物質は、次の一般式:
【0042】
【化5】
【0043】
をもつカルボン酸及びそれらの誘導体(I型化合物);
【0044】
並びに次の一般式:
【0045】
【化6】
【0046】
をもつカルボン酸及びそれらの誘導体(II型化合物)を含む群から選択され、
【0047】
式中、M及びMは、H、Na、K、NHを含む群から選択され、aは1又は2に等しく、bは2又は3に等しく、cは1又は2に等しく、mは1又は2に等しく、nは0に等しいか又は0より大きく、pは0に等しいか又は0より大きく、qは0より大きく、さらに置換基Rは分岐及び非分岐飽和及び不飽和直鎖及び環状炭化水素基を含む群から選択される。
【0048】
本発明の好ましい実施形態では、少なくとも1つの両性界面活性物質は、N−(2−エチルヘキシル)−イミノジプロピオン酸及びその塩、N−オクチルイミノジプロピオン酸及びその塩、N−タローアルキルイミノジプロピオン酸及びその塩、N−ココアルキルイミノジプロピオン酸及びその塩、N−ココアルキルアミノプロピオン酸及びその塩、Rがココアルキルと定義され、M及びMがNaと定義され、a=2、b=3、c=2、m=2、n=1、p=0のI型の組成物;Rがココアルキルと定義され、M及びMがNaと定義され、a=2、b=2、c=2、m=2、n=1、p=0のI型の組成物;Rがココアルキルと定義され、M及びMがNaと定義され、a=1、b=3、c=1、m=2、nが5〜10の範囲内にあり、p=0のI型の化合物の混合物;Rがタローアルキルと定義され、M及びMがNaと定義され、a=1、b=3、c=1、m=2、nが1〜5の範囲内にあり、p=0のI型の化合物の混合物;Rがココアルキルと定義され、M及びMがNaと定義され、a=1、b=3、c=1、m=2、nが1〜5の範囲内にあり、pが7〜10の範囲内にあるI型の化合物の混合物;Rがココアルキルと定義され、M及びMがNaと定義され、a=2、b=3、c=2、m=2、q=1、p=0のII型の組成物;Rがココアルキルと定義され、M及びMがNaと定義され、a=1、b=2、c=1、m=1、q=1、p=0のII型の組成物;Rがココアルキルと定義され、M及びMがNaと定義され、a=1、b=3、c=1、m=2、qが5〜10の範囲内にあり、pが7〜10の範囲内にあるII型の化合物の混合物を含む群から選択される。
【0049】
本発明の好ましい実施形態では、さらに補足添加剤が水に加えられる。
【0050】
本発明の好ましい実施形態では、補足添加剤は、酸度補正剤、腐食防止剤、及び増粘剤を含む群から選択される。
【実施例】
【0051】
本発明を下記の代替的な実施形態の例を用いて説明する。
【0052】
実施例1
0.03質量パーセントの両性SAS、N−ココアルキルイミノジプロピオン酸ナトリウム及び0.0025質量パーセントのナノサイズ銀粒子を含有するコロイド状溶液中の銀ナノ粒子の部分酸化から生成した溶液を消毒配合物として使用した。銀のコロイド状の溶液は、2011年5月27日付けのロシア連邦特許第2419439号「抗菌配合物及びその製造方法」に開示された方法を用いて得た。両性SAS、N−ココアルキルイミノジプロピオン酸ナトリウムの溶液を陽イオンSASの溶液の代わりに用いた。酢酸銀の水溶液を両性SASの溶液に撹拌しながら滴下した。得られた混合物を15分間撹拌し、次に水素化ホウ素ナトリウムNaBH及び両性SASを含有する水溶液を混合物に撹拌しながら滴下した。全量の水素化ホウ素ナトリウムを加えて、溶液をさらに1時間撹拌した。よって、濃い茶色の銀コロイド溶液が得られた。合成の過程の間、銀塩が水素化ホウ素ナトリウムによって完全に還元され、ナノサイズの銀粒子が生成されることが示された。銀ナノ粒子の部分酸化の目的のために、化学量論的な量の2倍の過剰塩化ナトリウム溶液を得られた溶液に加え、次に濃度が9質量パーセントの過酸化水素溶液を撹拌しながら滴下した。そのままで溶液は徐々に濃い青紫色を増した。
【0053】
塩化銀コロイド状溶液とは対照的に、得られた消毒配合物A−1は、光に曝された際に安定であり、長期の凝集安定性を示す。同時に、スペクトルの紫外領域及び可視領域内での、得られた消毒配合物の吸収スペクトルは、初期のナノサイズの銀粒子の吸収スペクトルと異なる。A−1消毒配合物を透過電子顕微鏡法で調べた。配合物の試料において非晶質ナノ粒子が見出され、電子ビームによる分解のもとに銀粒子が生成された。電子微小回折によって得られた情報から、マイクロディフラクトグラム(microdiffractogram)パターンの回折環の位置が多結晶銀試料の標準的なマイクロディフラクトグラムパターンと同じであったので、配合物の分解の過程で銀粒子が生成されたことが確かめられた。さらに、A−1配合物の組成中の塩化銀及び銀の存在を広域X線吸収微細構造分光法(EXAFS)で確認した。A−1配合物の凝固ナノサイズ粒子の試料において結合Ag−Ag及びAg−Clが検出され、配合物のナノサイズ粒子が銀及び塩化銀の両方を含有することの証拠を提供した。
【0054】
よって、A−1消毒配合物は、N−ココアルキルイミノジプロピオン酸ナトリウム、銀及び塩化銀を含有するナノサイズ粒子、並びに他の反応生成物のほかに、水を最高で100質量パーセントまで含有した。
【0055】
グラム陰性菌Escherichia coli ATCC 25922及びグラム陽性菌Staphylococcus aureus FDA 209P、並びに他の細菌に対する配合物の抗菌活性を、細胞懸濁液をコロイド状ナノサイズ溶液と1時間インキュベーションした後に評価する過程で、懸濁液の試料を温度30Cで取り出し、ペトリ皿の固体寒天培地に播いた。ペトリ皿を30Cの温度で24時間インキュベーションし、出現コロニーの数を目視で数えた。第1の対照、N−ココアルキルイミノジプロピオン酸ナトリウムによって安定化された銀ナノ粒子の初期溶液、並びに第2の対照、0.03質量パーセントのN−ココアルキルイミノジプロピオン酸ナトリウム及び0.0025質量パーセントの塩化銀を含有するコロイド状塩化銀溶液の抗菌活性を類似の方法で推定した。第2の対照は、N−ココアルキルイミノジプロピオン酸ナトリウムを追加で含有した、化学量論的な量の硝酸銀溶液と塩化ナトリウム溶液を混ぜることによって作製した。
【0056】
同じ効力の抗菌作用を達成するためには、第の対照は提案されたA−1消毒配合物の2〜2.5倍の過剰量で細胞懸濁液に加えられる必要があることが示された。さらに、同じ効力の抗菌作用を達成するために、第2の対照は、提案されたA−1消毒配合物の量の7〜8倍の過剰量で細胞懸濁液に加える必要があることが示された。また、同じ効力の抗菌作用を達成するために、第1の対照と第2の対照の同量の混合物は、提案されたA−1消毒配合物の量の4〜5倍の過剰量で細胞懸濁液に加える必要があることが示された。これは、銀及び塩化銀を含有するナノ粒子に基づく消毒配合物がコロイド状銀又はコロイド状塩化銀と比べて幾分多くの殺生物活性の出現(some more expressed biocidal activity)を示すことを意味する。またこれは、銀及び塩化銀を含有するナノ粒子の使用が銀と塩化銀の殺生物活性を相互に増強する相乗効果をもたらすことを意味する。よって、提案された消毒配合物の使用は、特許を請求する技術的成果の達成、すなわち該配合物の殺生物活性の増加をもたらした。
【0057】
産業用及び家庭用装置及び機器を得られたA−1消毒配合物で処理した。配合物の消毒作用の効力は、処理対象体から取った拭き取り試料採取の細菌量に基づいて評価した。得られた消毒配合物は産業及び家庭の両方で消毒に使用できることが示された。また、得られた消毒配合物は水の消毒にも使用できた。得られた消毒配合物はヒトに対して低毒性であり、さらに皮膚及び粘膜を刺激せず、増感、発がん性、変異原性、又は催奇性の効果を持たないことが示された。
【0058】
毒物学試験を行った後、得られた配合物を水泳プールの水消毒用の消毒剤として試験した。試験の実施には、容量が10mの水槽を選んだ。水槽は、スキマーを通して排水し、砂濾過器を通して濾過し、且つ水槽を濾過した水で再び給水することを含む標準的な再循環回路を有した。60gの硫酸アルミニウムを加えることによって、加重(weighted)粒子の凝固を1週間に1回行った。水槽には1日当たり30〜70人が訪れた。1か月間、水1mにつき、15mgの銀及び塩化銀の両方を含有するナノ粒子に相当する6リットルの得られた消毒配合物を水槽に毎日加えた。ロシア連邦GOST R 51309−99「飲料水 原子分光法による元素含有量の測定」の国家標準に従って、原子吸光分光計Shimadzu AA−7000を用いた吸光分析の方法で水槽の水中の銀の濃度を毎日測定した。水中の銀の平均含有量は4mg/mになり、配合物の粒子の部分的な凝固及びフィルター上の粒子の吸着に関連することが示された。そのような銀濃度を維持することは、試験の全期間、以下の値の水の細菌量を達成及び維持することを可能にした。総菌数(TBC)は1ml当たり40コロニー形成単位(CFU)を超えていなかった。大腸菌群は存在しなかった。耐熱性大腸菌群は存在しなかった。さらに上記の要素はすべて、得られた消毒配合物を用いた水消毒の効力の証拠を提供した。
【0059】
したがって、得られた配合物は、水泳プールの水消毒用の消毒剤として使用できる。
【0060】
一群の例(Group of examples)1
一群の例1の消毒配合物を実施例1に記載のものに類似の方法で得た。その場合では、硝酸銀及び酢酸銀を還元し、さらにN−ココアルキルイミノジプロピオン酸ナトリウム、又はN−(2−エチルヘキシル)−イミノジプロピオン酸ナトリウム、又はN−オクチルイミノジプロピオン酸ナトリウム、又はN−タローアルキルイミノジプロピオン酸塩、又はN−ココアルキルアミノプロピオン酸ナトリウム、又はRがココアルキルと定義され、M及びMがNaを表わし、a=2、b=3、c=2、m=2、n=1、p=0のI型の組成物;又はRがココアルキルと定義され、M及びMがNaを表わし、a=2、b=2、c=2、m=2、n=1、p=0のI型の組成物;又はRがココアルキルと定義され、M及びMがNaを表わし、a=1、b=3、c=1、m=2、nが5〜10の範囲内にあり、p=0のI型の化合物の混合物;又はRがタローアルキルと定義され、M及びMがNaを表わし、a=1、b=3、c=1、m=2、nが5〜10の範囲内にあり、p=0のI型の化合物の混合物;又はRがココアルキルと定義され、M及びMがNaを表わし、a=1、b=3、c=1、m=2、nが5〜10の範囲内にあり、pが7〜10の範囲内にあるI型の化合物の混合物;又はRがココアルキルと定義され、M及びMがNaを表わし、a=2、b=3、c=2、m=2、q=1、p=0のII型の組成物;又はRがココアルキルと定義され、M及びMがNaを表わし、a=1、b=2、c=1、m=1、q=1、p=0のII型の組成物;又はRがココアルキルと定義され、M及びMがNaを表わし、a=1、b=3、c=1、m=2、qが5〜10の範囲内にあり、pが7〜10の範囲内にあるII型の化合物の混合物を両性SASとして使用した。両性SASの濃度は0.001質量パーセント〜20質量パーセントの範囲内でさまざまであり、ナノサイズの銀粒子の濃度は10−4質量パーセント〜0.5質量パーセントの範囲内でさまざまであった。得られた消毒配合物は各々、両性SAS、銀及び塩化銀を含有するナノサイズ粒子、並びに配合物の合成の過程の間に起こった反応の生成物のほかに、水を最高で100質量パーセントまで含有した。
【0061】
Escherichia coli、Staphylococcus aureus、Leuconostoc mesenteroides、Legionella pneumophila、Shigella spp.、Pseudomonas aeruginosa、Salmonella enterica、Candida albicans、Trichophyton spp.に関して、得られた消毒配合物の効力の評価を実施例1で用いたものに類似した方法で実施した。消毒配合物は、試験で使用された微生物に対して殺生物活性の出現を示した。すべての場合において、ナノサイズの銀粒子に基づく類似配合物及び塩化銀に基づく配合物と比較して配合物の殺生物活性が統計的に有意に増加した技術的成果が達成された。
【0062】
産業用及び家庭用装置及び機器を得られた消毒配合物で処理した。配合物の消毒作用の効力は、処理対象体から取った拭き取り試料採取の細菌量に基づいて評価した。得られた消毒配合物は産業及び家庭の両方で消毒に使用できることが示された。また、得られた消毒配合物は水の消毒にも使用できた。
【0063】
少量の化学的に適合性のある補足添加剤を、開発した消毒配合物、特に、酸度補正剤、腐食防止剤、及び増粘剤の組成に導入することが配合物の殺生物活性の著しい減少をもたらさないことが示された。
【0064】
銀及び塩化銀並びに本明細書の例に述べられていない両性SASを含有するナノ粒子に基づく消毒配合物の多くが、該例に記載の配合物を作製する方法に類似の方法で作製及び使用できることは当業者に明らかである。特許を請求する消毒配合物は、合理的で、技術的に実現可能で、且つ合法的である場合、他の消毒配合物のように特定の実務上課題を解決するのに使用できることは当業者に明らかである。よって、特許を請求する、消毒配合物の使用方法のリストは、特許を請求する消毒配合物の実際の使用の可能な実施形態を限定しないことは明らかである。