特許第6783883号(P6783883)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6783883
(24)【登録日】2020年10月26日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂成型体を得るための素板
(51)【国際特許分類】
   B29B 15/08 20060101AFI20201102BHJP
   B29C 51/14 20060101ALI20201102BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20201102BHJP
   B29C 70/46 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   B29B15/08
   B29C51/14
   B32B5/28 A
   B29C70/46
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-27499(P2019-27499)
(22)【出願日】2019年2月19日
(62)【分割の表示】特願2015-31838(P2015-31838)の分割
【原出願日】2015年2月20日
(65)【公開番号】特開2019-123242(P2019-123242A)
(43)【公開日】2019年7月25日
【審査請求日】2019年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森口 芳文
(72)【発明者】
【氏名】岩本 貴至
(72)【発明者】
【氏名】中谷 雄俊
【審査官】 赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−270834(JP,A)
【文献】 特開昭58−197312(JP,A)
【文献】 特開2005−052987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00− 5/24
B29B 11/16
B29B 15/08− 15/14
D03D 1/00− 27/18
B29C 41/00− 41/52
B29C 51/00− 51/46
B29C 70/00− 70/88
B32B 1/00− 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化樹脂成型体を得るための素板であって、連続繊維によって構成される織布が複数枚積層されてなり、織布を構成する連続繊維が、芯部が高融点重合体、鞘部が低融点重合体からなる芯鞘型複合繊維であり、織布は、該芯鞘型複合繊維からなるマルチフィラメント糸によって構成され、
積層された織布同士は、織布を構成する熱可塑性重合体のうち最も融点の低い重合体が溶融または軟化することによって一体化していることを特徴とする素板。
【請求項2】
繊維強化樹脂成型体を得るための素板の製造方法であって
続繊維によって構成され、連続繊維が芯部が高融点重合体、鞘部が低融点重合体からなる芯鞘型複合繊維であり、該芯鞘型複合繊維からなるマルチフィラメント糸によって構成される織布を複数枚積層し、
次いで、加熱処理を施し、織布を構成する熱可塑性重合体のうち最も融点の低い重合体を溶融または軟化させ、織布同士を一体化させることを特徴とする素板の製造方法。
【請求項3】
加熱処理の際の温度が、織布を構成する熱可塑性重合体のうち最も融点の低い重合体の融点よりも高い温度であり、かつ、該最も融点の低い重合体以外の重合体の融点未満の温度であることを特徴とする請求項2記載の素板の製造方法。
【請求項4】
加熱処理の際の設定温度が、織布を構成する熱可塑性重合体のうち最も融点の低い重合体が軟化する温度であることを特徴とすることを特徴とする請求項2記載の素板の製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の素板を所定の成型金型にて、熱成型することにより、素板を構成する低融点重合体を溶かし、高融点重合体は溶かさずに繊維の形状を維持させ、所定の形状を賦形し、冷却固化して、繊維強化樹脂成型体を得ることを特徴とする繊維強化樹脂成型体の製造方法。
【請求項6】
請求項2〜4のいずれか1項記載の素板の製造方法により得られた素板を、所定の成型金型にて、熱成型することにより、素板を構成する低融点重合体を溶かし、高融点重合体は溶かさずに繊維の形状を維持させ、所定の形状を賦形し、冷却固化して、繊維強化樹脂成型体を得ることを特徴とする繊維強化樹脂成型体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂成型体を得るための素板およびこれを用いて繊維強化樹脂成型体を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂材料は補強繊維とマトリクス樹脂で構成される機械的物性に優れた複合素材であり、船舶、航空機、機械類、自動車の部材などに利用されている。例えば補強繊維とマトリクス樹脂からなるプリプレグシートを積層し、所定の形状に賦形する方法や、補強繊維からなるプリフォームにマトリクス樹脂を含浸させる方法などにより製造される。
補強繊維としてガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維などの高強度・高弾性率繊維が用いることで機械的物性に優れた樹脂材料を得ることができる。補強繊維が無機繊維である場合、使用済みの製品のリサイクルが困難であり、また屈曲の多い成型品に用いる場合は補強繊維による補強効果が十分に得られないこともあるため、補強繊維として熱可塑性樹脂からなる繊維のみを用いた複合材料も検討されている。マトリクス樹脂としては熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が使用されているが、後者は成形時のサイクルタイムが短く、自動車分野などで開発が進められている。マトリクス樹脂に熱可塑性樹脂を用いて、自動車内装材に好適な複合材料として、例えば、特許文献1には、繊維長5〜100mmの強化繊維と粒子形態や繊維形態の熱可塑性樹脂とを湿式分散法により抄造したシートにニードリングして加熱・圧縮によりスタンパブルシート(素板)を得る方法が開示されている。
【0003】
マトリクス樹脂として熱可塑性樹脂を選択した場合、熱可塑性樹脂は、溶融時もある程度の粘度を有するため、溶融した熱可塑性樹脂を補強繊維間に均一かつ十分に含浸し難いが、特許文献1の技術によれば、粒子形態や繊維形態の熱可塑性樹脂と補強繊維とを湿式分散法により混合させるため、均一に混合しやすいという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−217829号公報(特許請求の範囲、段落番号0001、0025〜0027)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
補強繊維が繊維長5〜100mmの短繊維の場合は、上記した特許文献1のように混合しやすいが、補強繊維が連続繊維の場合には上記方法が適用できない。連続繊維からなる補強層とマトリクス樹脂と一体化する方法としては、例えば補強繊維からなるシートに熱可塑性樹脂からなるフィルムを積層したものを熱処理により一体化する方法、粉末状の熱可塑性樹脂を連続補強繊維シートに散布等により担持させた後に熱処理する方法、補強繊維からなるシートの表面に熱可塑性樹脂をコーティングした後に熱処理する方法などが挙げられる。本発明は、より均一かつ十分に連続繊維からなる補強繊維間にマトリクス樹脂を配合させ、機械的特性に優れた品質の高い繊維強化樹脂成型体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を達成するものであり、以下を要旨とする。
【0007】
すなわち、本発明は、繊維強化樹脂成型体を得るための素板であって、連続繊維によって構成される織布が複数枚積層されてなり、織布を構成する連続繊維が、芯部が高融点重合体、鞘部が低融点重合体からなる芯鞘型複合繊維であり、織布は、該芯鞘型複合繊維からなるマルチフィラメント糸によって構成され、
積層された織布同士は、織布を構成する熱可塑性重合体のうち最も融点の低い重合体が溶融または軟化することによって一体化していることを特徴とする素板を要旨とする。
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
本発明の繊維強化樹脂成型体を得るための素板は、連続繊維によって構成される織布が複数枚積層されてなり、織布が、少なくとも2種の融点の異なる熱可塑性重合体を含んでいる。融点の異なる2種の熱可塑性重合体のうち、低融点の重合体は、樹脂成型体のマトリックス樹脂となり、高融点の重合体が繊維形態を維持して樹脂成型体における補強繊維となる。なお、本発明 において、明確な融点を有さない非晶性の重合体については軟化点を融点とみなす。
【0010】
繊維強化樹脂成型体において、補強繊維として、連続繊維によって構成される織布を選択している理由は、機械的強度と寸法安定性 に優れることにある。例えば、不織布は構成繊維がランダムに配置されたものであるが、このような不織布に比べ、織布は、繊維が均一に配置され、物理特性の方向性も制御し易い。
【0011】
本発明における織布は、少なくとも2種の融点の異なる熱可塑性重合体を含むものであり、織布を構成する連続繊維は、芯部が高融点重合体、鞘部が低融点重合体からなる芯鞘型複合繊維であり、織布は、前記芯鞘型複合繊維からなるマルチフィラメント糸により構成される。なお、連続繊維には必要に応じて撚糸や仮撚り加工、インターレース加工、タスラン加工などを施してもよく、また、織布を得る際に紡績糸やスリットヤーンも併用可能である。

【0012】
高融点重合体と低融点重合体との組み合わせとしては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート/低融点ポリエステル共重合体等が挙げられる。
【0013】
織布の織組織は、特に限定されないが、平織、綾織、朱子織や、多重織を用いることもできる。
【0014】
このような織布が複数枚積層され、織布を構成する熱可塑性重合体のうち、最も融点の低い重合体が溶融または軟化することによって、積層された織布同士は一体化して、繊維強化樹脂成型体を得るための素板となる。積層枚数は、繊維強化樹脂成型体の用途や要求性能に応じて、また、織物の組織に応じて適宜選択すればよく、2枚以上とし、上限は10枚程度とする。素板を構成する織布が1枚では、繊維強化樹脂成型体として十分な強度を維持し難い。
【0015】
織布が積層されて一体化した素板において、高融点重合体と低融点重合体との質量比は、高融点重合体:低融点重合体=3〜7;7〜3であるのが好ましい。ここで、高融点重合体とは、繊維強化樹脂成型体とした際に補強繊維となるものであり、一方、低融点重合体とは、繊維強化樹脂成型体とした際にマトリックス樹脂となるものである。高融点重合体の量がこの比率よりも少ないと、補強繊維の比率が少なくなるため、耐衝撃性や曲げ強度が低下する傾向となる。一方、高融点重合体の量がこの比率よりも多いと、マトリックス樹脂となる低融点重合体の比率が少なくなり、溶融させて成型体を得るにあたりマトリックス樹脂の量が少なく所望の形状の成型体になりにくく、成型時に溶融させた樹脂を追加することを要する。
【0016】
繊維強化樹脂成型体を得るための素板を得るには、上記した織布を複数枚積層し、加熱処理を施し、織布を構成する熱可塑性重合体のうち最も融点の低い重合体を溶融または軟化させ、織布同士を、溶融または軟化した重合体を介して一体化させる。
【0017】
加熱手段としては、熱風処理機、熱プレス機、熱ロール機等が挙げられる。なかでも、熱と圧力とを同時に与えることにより効率よく一体化の処理を施すことができることから、熱プレス機あるいは熱ロール機を用いることが好ましい。加熱処理は、積層した複数枚の織布を一体化させることが目的であるため、織布を構成する熱可塑性重合体のうち最も融点の低い重合体が溶融または軟化することにより織布同士が一体化すればよい。すなわち、成型体とした際、マトリックス樹脂となる重合体である低融点重合体をすべて溶融させる必要はなく、最も低い融点を有する重合体を少なくとも溶融または軟化させるとよい。なお、マトリックス樹脂となる重合体(低融点重合体)をすべて溶融させて素板としてもよい。すなわち、織布を構成する低融点重合体同士を十分に溶融させて、積層した織布同士の境界が不明になるほど強固に溶融により一体化したものであってもよく、また、低融点重合体が軟化することにより積層一体化したものであって、積層した織布同士の境界が明瞭な状態のものでもよい。後者の場合は、低融点重合体が軟化する温度で熱処理すればよく、加熱処理の設定温度は低融点重合体の融点よりも低い温度でもよい。また、マトリックス樹脂となる低融点重合体を2種以上含む場合においては、最も低い融点を有する重合体のみを溶融または軟化させて、他方の低融点重合体は、素板を製造するための熱処理では熱の影響を受けない温度で処理してもよい。すなわち、織布が、融点の異なる熱可塑性重合体を3種含むことにより構成され、融点の異なる3種の熱可塑性重合体A、熱可塑性重合体B、熱可塑性重合体Cのそれぞれの融点と加熱処理の際の温度 (Tx)とが、熱可塑性重合体Aの融点(Ta)、熱可塑性重合体Bの融点(Tb)、熱可塑性重合体Cの融点(Tc)がTa>Tb>Tcの関係であり、熱可塑性重合体Bおよび熱可塑性重合体Cが成型体とする際にマトリックス樹脂となる低融点重合体の場合に、加熱処理の際の設定温度(Tx)との関係をTa>Tb>Tx>Tcとするとよい。素板を製造するにおいて、織布同士を接着させる程度の溶融または軟化する程度にとどめて、素板においては低融点重合体の全てを溶融させず、成型体を得る段階で低融点重合体全てを溶融させることにより、素板の取り扱い性が良好となり、また素板にフレキシブル性を持たすことによって、成型体を得る段階で成型型枠の形状に沿いやすく、屈曲等の所望の形状を付与しやすい。
【0018】
なお、加熱処理後の冷却としては、徐冷であっても、空冷や、冷媒で冷却した金型を用いる等により積極的な冷却であってもよい。
【0019】
上記により得られた素板は、所定の成型金型にて熱成型して、素板を構成する低融点重合体(マトリックス樹脂となるもの)を溶かし、高融点重合体は溶かさずに繊維の形状を維持させ、所定の形状を賦形し、冷却固化して、繊維強化樹脂成型体を得る。熱成型においては、素板に予め熱を加えて次いで金型で成型する方法、金型内で加熱して熱成型する方法、予め熱を加えてさらに金型内でも加熱により熱成型する方法のいずれでもよい。熱成型においては、高融点重合体は溶けずに繊維形態を維持するため良好に樹脂成型体の補強繊維としての役割を担うものとなる。また、熱成型する際に、必要に応じて素板を複数枚積層して用いてもよい。
【0020】
また、本発明においては、素板の材料である織布を複数枚積層した積層体を用いて、織布間の熱接着を予め行わず、一気に織布間を一体化すると同時に熱成型を行うことにより繊維強化樹脂成型体を得ることもできる。すなわち、上記した連続繊維によって構成される織布であって、該織布が融点の異なる熱可塑性重合体を少なくとも2種含むことにより構成されたものであり、該織布を複数枚積層し、該積層体を、所定の成型金型にて熱成型して、織布を構成する低融点重合体(マトリックス樹脂となるもの)を溶かし、高融点重合体は溶かさずに繊維の形状を維持させ、所定の形状を賦形し、冷却固化して、繊維強化樹脂成型体を得る。積層体は、2枚以上の織布を積層したものとし、積層枚数の上限は限定しないが、成型体の要求性能に応じて適宜選択すればよいが、10枚程度とする。熱成型においては、上記と同様で、積層体に予め熱を加えて次いで金型で成型する方法、金型内で加熱して熱成型する方法、予め熱を加えてさらに金型内でも加熱により熱成型する方法のいずれでもよい。熱成型においては、高融点重合体は溶けずに繊維形態を維持するため良好に樹脂成型体の補強繊維としての役割を担うものとなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、繊維強化樹脂成型体を得るための材料として、高融点重合体と低融点重合体を含む織物を用いており、成型体とする際に、高融点重合体が補強繊維となり、低融点重合体がマトリックス樹脂となるものであり、材料の段階より、高融点重合体と低融点重合体とが繊維の形態として均一に存在しているため、マトリックス樹脂と補強繊維とが均一に存在する成型体を得ることができる。
【実施例】
【0022】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0023】
実施例1
芯にポリエチレンテレフタレート(融点250℃)、鞘にエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステル共重合体(融点160℃)が配された芯鞘複合フィラメントからなる1670dtex/192fのマルチフィラメント糸(A)を準備した。芯鞘複合フィラメントの芯鞘比は、体積比で芯:鞘=2.7:1であった。
【0024】
前記芯鞘複合フィラメントからなるマルチフィラメント糸を経糸および緯糸に配して平織組織の織布を作製した。織密度は、経緯ともに25本/インチとした。
【0025】
得られた織布を3枚重ねて、180℃に加熱したプレス機にて、押圧0.5MPaの条件で加熱加圧処理を行い、その後、室温で徐冷し、構成繊維同士および織布同士が熱融着してなる素板を得た。
【0026】
実施例2
芯にポリエチレンテレフタレート(融点250℃)、鞘にエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステル共重合体(融点160℃)が配された芯鞘複合フィラメントからなる1100dtex/96fのマルチフィラメント糸(C)を準備した。芯鞘複合フィラメントの芯鞘比は、体積比で芯:鞘=2.7:1であった。
【0027】
一方、ポリエチレンテレフタレートのみからなる単相のポリエステルフィラメントからなる1100dtex/192fのマルチフィラメント糸を準備し、このマルチフィラメント糸4本を合撚して合撚糸を準備した。
【0028】
上記の芯鞘複合フィラメントからなるマルチフィラメント糸を経糸に用い、合撚糸を緯糸に配し、1/3綾両面織の組織で織布を作製した。織密度は、経113本/インチ、緯14本/インチとした。
【0029】
得られた織布を3枚重ねて、180℃に加熱したプレス機にて、押圧0.5MPaの条件で加熱加圧処理を行い、その後、室温で徐冷し、構成繊維同士および織布同士が熱融着してなる素板を得た。
【0030】
得られた実施例1、2の素板を180℃の雰囲気中で加熱した後、雄型と雌型とからなる平板金型にて成型 し、平板状の補強繊維成型体を得た。