特許第6783914号(P6783914)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6783914導電性高分子ハイブリッド型電解コンデンサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6783914
(24)【登録日】2020年10月26日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】導電性高分子ハイブリッド型電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/035 20060101AFI20201102BHJP
   H01G 9/028 20060101ALI20201102BHJP
   H01G 9/145 20060101ALI20201102BHJP
   H01G 9/15 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   H01G9/035
   H01G9/028 E
   H01G9/145
   H01G9/15
【請求項の数】6
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2019-190226(P2019-190226)
(22)【出願日】2019年10月17日
【審査請求日】2019年11月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519373660
【氏名又は名称】冠坤電子企業股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100088214
【弁理士】
【氏名又は名称】生田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100100402
【弁理士】
【氏名又は名称】名越 秀夫
(74)【代理人】
【識別番号】100129805
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 晋
(72)【発明者】
【氏名】蘇 家禾
(72)【発明者】
【氏名】奥山 浩二
【審査官】 多田 幸司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−174233(JP,A)
【文献】 特開2016−015365(JP,A)
【文献】 特開2018−074046(JP,A)
【文献】 特開2014−072465(JP,A)
【文献】 特開2018−061033(JP,A)
【文献】 特開昭62−009618(JP,A)
【文献】 特開平08−227827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/035
H01G 9/028
H01G 9/145
H01G 9/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムの誘電体酸化皮膜が形成された陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して巻回してなるコンデンサ素子を有する電解コンデンサであって、
前記誘電体酸化皮膜上に形成された導電性ポリマー層と、電解液を有し、前記電解液は溶質と溶媒を含み、前記溶媒が、ジエチレングリコールまたは/およびトリエチレングリコールを含み、更に、γ-ブチロラクトン単独またはγ-ブチロラクトンとスルホランの混合溶媒を第二の溶媒として含み、ジエチレングリコールまたは/およびトリエチレングリコールの含有率が、溶媒全体に対して、30〜90重量%であり、残部がγ-ブチロラクトン単独あるいはγ-ブチロラクトンとスルホランの混合溶媒であることを特徴とし、かつ、前記溶質が、炭素数が12以上の長鎖二塩基カルボン酸(ジカルボン酸)と沸点が150℃以上のアミンとの塩を含む
ことを特徴とする導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサ。
【請求項2】
前記溶媒において、ジエチレングリコールまたは/およびトリエチレングリコール及び第二の溶媒であるγブチロラクトンを含有する組成におけるエチレングリコールまたは/およびトリエチレングリコールの含有率が45重量%から80重量%の範囲であり、
ジエチレングリコールまたは/およびトリエチレングリコールとγ-ブチロラクトンを合計した含有量は80重量%以上であり、γ-ブチロラクトンの含有量は20重量%〜55重量%であることを特徴とする請求項に記載の導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサ。
【請求項3】
前記溶質は、炭素数が12以上の長鎖二塩基カルボン酸と沸点が150℃以上のアミンとの塩を含み、前記電解液に含まれる前記溶質の含有率が5〜40重量%であることを特徴とする請求項1に記載の導電性ポリマーハイブリッド型電解コンデンサ。
【請求項4】
コンデンサの定格電圧範囲が63Vから200Vの範囲で、最高使用温度保証が105℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサ。
【請求項5】
コンデンサの定格電圧範囲が63Vから200Vの範囲で、最高使用温度保証が125℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサ。
【請求項6】
コンデンサの定格電圧範囲が63Vから200Vの範囲で、最高使用温度保証が135℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の導電性ポリマーハイブリッドアルミ電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ポリマーハイブリッド型電解コンデンサに使用する電解液に関し、63V以上の高い定格電圧において、同じ導電性ポリマーを使用した場合に比べて、顕著に高い熱安定性と信頼性を有し、すなわち高温で長時間使用した場合であっても、初期特性からの特性変化が少ない導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサに使用する電解液の組成に関わるものであり、より具体的には、鉛フリーリフロー耐熱性及び125℃を超える高温での耐久性と、63V以上の高耐圧特性の両方を具備し、低ESR、高リップルで高容量という特徴を維持しつつ、63Vから200Vの広い定格電圧の範囲で使用可能な導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサの製造を可能にする電解液と、それを含有する導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサは、電子電導性のある固体電解質層を形成する導電性ポリマー(第一の陰極)と、イオン電導性を有する電解液(第二の陰極)の両方を陰極成分として含有することが特徴である。第一の陰極である導電性ポリマーの特性と、コンデンサ素子の形成方法によって、導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサの基本的な電気特性、すなわち低温から高温までの広い温度範囲において固体電解コンデンサと同等の低い電気抵抗(ESR:等価直列抵抗)と耐高リップル性や容量の初期特性が決定される。
【0003】
導電性ポリマーから成る陰極を形成する手段としては、近年、高純度微粒子の導電性ポリマーの水分散体を用いてコンデンサ素子を浸漬し、減圧加圧操作で導電性ポリマー粒子を素子の深部に浸透させた後、乾燥させて固体電解質層を形成する方法が開発され、不純物が少なく安定性の高い陰極が形成できるようになった。好ましい高分子分散体としては、例えば、ポリスチレンスルホン酸(PSS)がドープされたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、すなわちPEDOT/PSSが挙げられる。
【0004】
導電性ポリマーハイブリッド型アルミアルミ電解コンデンサにおいて、第二の陰極となる電解液は、導電性ポリマーの固体電解質層で決定される基本的な電気特性を維持したまま、コンデンサの安全性と長期信頼性を保証する上で、決定的な役割を持つ。固体電解質の導電性ポリマーだけを陰極とする固体コンデンサは、高温リフロー半田工程や、高温・低温環境での熱衝撃や、機械的ストレスによって生じたアルミ電極の誘電体の欠陥を修復する機能が弱いため、漏れ電流の急激な増大や、最悪の場合、偶発的なショート故障に至るリスクがある。特に、高い定格電圧になるほど偶発的故障の確率が高まるため、63V以上の電源回路での実用化の障害になっている。電解液を含有する導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサは、電解液による誘電体の欠陥の修復速度が速く、高温リフロー半田工程、高温・低温環境での熱衝撃や機械的ストレス下においても、漏れ電流の上昇が少なく、定格電圧を大きくすることが可能であるため、近年、車載機器や通信回路など高耐圧が要求される用途で需要が急速に高まっている。
【0005】
導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサにおける電解液の役割は、かかる誘電体欠陥の修復性だけではなく、導電性ポリマー層の熱に対する安定性や、リフロー半田工程での耐熱性や、高温での連続使用の耐久性などの信頼性、さらにはコンデンサの耐電圧特性に深く関連し、電解液と導電性ポリマーの組合せにより導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサの性能が変化することが知られており。電解液の改良に関する多くの先行技術・特許が知られている。
【0006】
電解液は、高電気伝導度のイオン性溶質と、その溶質を溶かし、コンデンサの電極への浸透を助けるための、比較的低粘性の有機溶媒から構成される。代表的な溶媒としてはエチレングリコール、γ-ブチロラクトン、スルホン化合物が知られている。
【0007】
エチレングリコールは水酸基を有し、溶質中のアミンを溶解し易く、電解液の電導度を高める効果〔低ESR〕や、火花電圧(耐電圧)が高く、高電圧定格に適する溶媒として知られている。また、導電性ポリマーや誘電体の酸化アルミニウムとも相溶性が良いことが知られている。一方で、加熱によって酸化劣化を受けやすく、信頼性試験(高温寿命試験)でショートが発生し易いという問題点も知られており、とりわけ250℃以上の鉛フリーリフロー半田工程では蒸気圧が急に増大するため、コンデンサの膨れが生じるという問題点が知られている。γ-ブチロラクトンは、低温での液体の粘度が低く、特性に優れるが、封口ゴムを通した高温での蒸散性が大きく、耐久性が悪いという欠点がある。スルホランは、電解液の誘電体層を修復する機能を高め、漏れ電流の低減に貢献することや、高沸点で電解液の蒸散を抑制し、高温特性が良好である特徴が知られているが、低温特性に劣ること、さらに比較的高価な溶媒で製造コストの上昇に繋がるという問題がある。従ってこれらの溶媒は単独で用いることは少なく、各溶媒の長所と欠点を補う合う混合溶媒がハイブリッド型アルミ電解コンデンサの電解液の基本組成をなす。
【0008】
電解液を構成するもう一つの成分は溶質である。溶質は有機酸と塩基の塩からなる。有機酸としては、有機カルボン酸あるいはボロジサリチル酸などが代表的であり、塩基成分としては、第1級〜第3級アンモニウムやアミン化合物、第4級アミジニウム化合物、または第4級アンモニウム化合物が知られており、これらの有機酸と塩基のとの幅広い組合せが目的に応じて使い分けられている。
【0009】
導電性ポリマーの固体電解質層を形成したコンデンサ素子に電解液を含浸し、有底筒状の外装ケースに挿入し、ブチルゴムなど高弾性率、高強度のゴムで封口して導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサとなす。
【0010】
導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサの基本特性は、定格電圧(連続印加可能な最高電圧)、容量、等価直列抵抗(ESR)と、リップル電流規格、インピーダンス規格などの基本電気特性、およびその温度や回路周波数依存性、カテゴリー上限温度(連続使用可能最高温度)と高温での耐久性(高温信頼性)で評価される。このうち、定格電圧はアルミニウム陽極箔の箔耐圧(耐電圧)と電解液の火花電圧により決まる。またカテゴリー上限温度は、電解液の耐熱安定性および導電性ポリマーの耐熱性により決まり、高温での鉛フリーリフロー半田工程での耐熱性や耐久性・高温信頼性は、電解液の封口ゴムの蒸散性や、導電性ポリマーの耐熱性、電解液/導電性ポリマーの組合せによる相互作用などの複合要因で決まるとされている。
【0011】
本発明は、63V以上の高い定格電圧において、同じ導電性ポリマーを使用した場合と比較して、顕著に高い熱安定性と信頼性を有し、すなわち高温での長時間の使用によっても初期特性からの特性変化が少ない導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサに使用する電解液の組成に関わるものである。
【0012】
これまで導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサの主たる用途は、公称電圧が12Vの車載回路や、比較的低電圧回路の電源で、コンデンサの定格電圧は25Vと35Vが中心であった。しかし、近年において、車のマイルドハイブリッドシステムや、通信基地局などに搭載するための48V電源回路に使用する導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサのニーズが高まり、コンデンサに求められる定格電圧を63V以上に設定したときに電圧マージンを大きくする場合は、100V定格が要求されるようになった。また高耐圧のみならず、低ESR(低温まで)、高容量、高耐熱性や高信頼性(耐久性)も同時に要求されるようになっている。これらの特性のバランス、とりわけ高耐圧と高耐熱と耐久性(高信頼性)を同時に実現する導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサの基本技術は確立されているとは言い難い。
【0013】
さらに近年、これらの用途では生産性向上のために、導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサを使用する場合も表面実装比率が増加し、鉛フリーリフロー工程でのリフロー耐熱性の向上が強く要請されるようになった。従来のリフロー工程では、最高温度で250℃未満が許容されたが、最近は、JEDECに準拠した260℃5秒で+230℃40秒の高温プロファイルでかつ回数が2回以上という極めてシビアな条件を要求されることが増えている。
【0014】
導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサに関する従来技術(特許文献1、2)はいずれもエチレングリコールを主溶媒にした電解液の改良に関わるものである。特許文献1は、エチレングリコールとγ-ブチロラクトンの混合溶媒と特定の溶質からなる電解液により、鉛フリーリフロー等による耐電圧特性の劣化を防止することができる高耐電圧の導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサの技術である。特許文献2は、エチレングリコールを主溶媒とし、溶質の酸成分にヒドロキシル基を有する第1芳香族化合物を主成分とする電解液を用いた高耐圧で耐熱性が高く、低ESRを維持できる導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサを開示する。特許文献3は、エチレングリコールなどのグリコール化合物とスルホランの混合溶媒と、フタル酸卜リエチルアミンのような一般的な溶質を含有する電解液により、漏れ電流が小さく、耐熱性に優れ、低ESRを維持できる導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサに関わる発明である。これらの先行文献では、定格電圧が63Vまでのコンデンサについて改良が図られているが、定格電圧が80V以上での改良例はない。文献3に100V定格の改良例が認められるが、カテゴリー上限温度125℃での改良であり、かつ高温リフロー半田耐熱性についての説明はない。
【0015】
また実際に量産されている定格電圧が63V以上の導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサのリフロー半田耐熱性(10Φ)は、せいぜい245℃5秒&+230℃40秒の温度プロファイルで、回数は最大2回で、最高温度が260℃5秒の場合、リフロー回数は1回に制限されることが一般的である。またカテゴリー上限温度と最大定格電圧の関係は、105℃と125℃で125V、135℃で63V、150℃で63Vであり、高耐圧、高耐熱の水準は十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】国際公開第2014/021333号公報
【特許文献2】国際公開第2017/056447号公報
【特許文献3】特開2018−74046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、市場の要求変化に伴う63あるいは80V以上の高電圧定格においても市場のリフロー半田耐熱性要求を満たし、さらにカテゴリー上限温度が125℃を超える高温使用に耐える導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサに使用できる電解液の提供を目的とする。一般的に使用されるエチレングリコールは、水酸基を有し、溶質中のアミン塩を溶解し易く、電解液の電導度を高める効果〔低ESR〕や火花電圧(耐電圧)を高くする効果があり、コンデンサの初期のESRを低減し高電圧定格に適する溶媒として、前記先行技術の特許文献にあるように、導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサの電解液を構成する主溶媒としても使用されてきた。しかしながら、発明者らの実験結果によると、定格電圧が63V以上の高耐圧領域の導電性ポリマーハイブリッド構造においては、耐電圧の低下が大きく、さらに135℃のような高温での安定性が不十分で、高温使用時の耐久性が必ずしも満足の行く結果が得られないことが確認された。これは、加熱によって酸化劣化を受けやすく、信頼性試験(高温寿命試験)でショートが発生し易い、という従来から指摘されてきた問題点との関連性が示唆される。また、250℃以上の鉛フリーリフロー半田工程では、蒸気圧が急に増大するために、コンデンサの膨れが生じ、半田付け性が低下しやすく、近年、一層の高温化が要求されるリフロー工程での半田耐熱性の要求に応えることができないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0018】
そこで本発明者らは、溶媒及び溶質について徹底的な見直しを図った結果、電解液を構成するある特定の溶媒は、特定の溶質と組み合わせることで、高耐電圧と低ESRという導電性ポリマーハイブリッド型コンデンサの初期特性を維持したまま、高温での耐熱性・長期信頼性という特有の顕著な作用効果が奏されるという現象を初めて見出し、かかる知見に基づいて本発明を完成した。
【0019】
具体的には、溶媒については、水酸基を有するグリコール化合物としてのエチレングリコールの電導度を高める効果〔低ESR〕や、火花電圧(耐電圧)を高くする同様の効果を有し、かつ、63V以上の高い定格電圧での耐熱性・耐久性・導電性ポリマーの安定性の改良に繋がると期待される多価アルコールについて幅広く探索し、本発明電解液を構成する溶媒成分として、エチレングリコールに代わる耐熱性と耐圧性に優れた溶媒として、エチレングリコールの2分子または3分子が脱水縮合したジエチレングリコール又はトリエチレングリコールが好適であることを見出し、それらと特定の溶質組成とを組み合わせた電解液だけが、従来到達できなかった高い耐電圧性と高耐熱性(高温リフロー半田耐熱性及び高温耐久性)と言う顕著な作用効果を奏するコンデンサの製造を可能にすることを初めて見出し、かかる知見に基づいて本発明を完成した。
【0020】
即ち、第1の発明は、アルミニウムの誘電体酸化皮膜が形成された陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して巻回してなるコンデンサ素子を有する電解コンデンサであって、前記誘電体酸化皮膜上に形成された導電性ポリマー層と、電解液とを有し、前記電解液は溶質を溶解した溶媒を含み、前記溶媒がジエチレングリコールまたは/およびトリエチレングリコールを含み、更に、γ-ブチロラクトン単独またはγ-ブチロラクトンとスルホランの混合溶媒を第二の溶媒として含み、ジエチレングリコールまたは/およびトリエチレングリコールの含有率が、溶媒全体に対して、30〜90重量%であり、残部がγ-ブチロラクトン単独あるいはγ-ブチロラクトンとスルホランの混合溶媒であることを特徴とし、かつ、前記溶質が、炭素数が12以上の長鎖二塩基カルボン酸(ジカルボン酸)と沸点が150℃以上のアミンとの塩を含むことを特徴とする導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサに係る発明である。
【0022】
第2の発明は、上記第1の発明の導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサにおいて、上記溶媒において、ジエチレングリコールまたは/およびトリエチレングリコール及び第二の溶媒であるγブチロラクトンを含有する組成におけるエチレングリコールまたは/およびトリエチレングリコールの含有率が45重量%から80重量%の範囲であり、ジエチレングリコールまたは/およびトリエチレングリコールとγ-ブチロラクトンを合計した含有率は80重量%以上でありγ―ブチロラクトンの含有量は20重量%から55重量%であることを特徴とする。
【0024】
第3の発明は、上記第1の発明の導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサにおいて、上記溶質が、炭素数が12以上の長鎖二塩基カルボン酸と沸点が150℃以上のアミンとの塩を含み、上記電解液に含まれる前記溶質の含有率が5〜40重量%であることを特徴とする。
【0025】
第4の発明は、上記第1の発明の導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサにおいて、コンデンサの定格電圧範囲が63Vから200Vの範囲で、最高使用温度保証が105℃以上であることを特徴とする。
【0026】
第5の発明は、上記第1の発明の導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサにおいて、コンデンサの定格電圧範囲が63Vから200Vの範囲で、最高使用温度保証が125℃以上であることを特徴とする。
【0027】
第6の発明は、上記第1の発明の導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサにおいて、コンデンサの定格電圧範囲が63Vから200Vの範囲で、最高使用温度保証が135℃以上であることを特徴とする。
【0029】
これらのグリコール以外の、分子量の大きなテトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、あるいはプロピレン基を含有するジプロピレングリコールなどの一連のプロピレングリコール系、さらにグリセリンのような多価アルコールには、同等の効果を見出せなかった。ジエチレングリコール及びトリエチレングリコールと、その他の一連の高分子量のグリコールまたはグリセリンとの効果の違いの原因は明らかではないが、本発明の権利範囲に影響を与えないとの条件の下で推測するならば、分子の主鎖の長さや側鎖の構造の違いが、導電性ポリマーハイブリッド陰極を構成する導電性ポリマーとの相溶性や高温での両者の相互作用と安定化作用に好ましい効果を奏し、ジエチレングリコールまたはトリエチレングリコールが最も好ましい分子構造を有しているためと推測される。
【0030】
さらに本発明における特定の溶質とは、本発明に使用したカルボン酸のアミン塩を構成する二塩基性の長鎖ジカルボン酸と、耐熱温度(沸点)が150℃以上のアミンを最適な比率で含む特定のカルボン酸のアミン塩を含む溶質である。かかる溶質は、ジエチレングリコールやトリエチレングリコールを溶媒とする電解液において、他の溶質を使用した場合に較べて、高い定格電圧のコンデンサにおいて、特異的に優れた耐圧性と高温使用時の長時間耐久性(信頼性)を呈すると言う顕著な作用効果が奏され、その効果は、エチレングリコールから成る溶媒と他の公知の溶媒であるγ-ブチロラクトンやスルホランとの混合溶媒を含む電解液では得られない効果であることが本発明者による一連の実験で明らかにされた。
【0031】
すなわち本発明の高耐圧、高耐熱を具備する高信頼性の導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサは、高純度アルミからなる陽極電極箔、陰極電極箔を、電解紙を介して捲回したコンデンサ素子を、導電性ポリマーの高純度微粒子を含有する水分散体へ浸漬し、加圧または減圧により、中心部まで含浸させた後乾燥させて導電性ポリマー陰極層を形成した後に、ジエチレングリコールまたは/およびトリエチレングリコールを主溶媒とし、γ-ブチロラクトンやスルホランを第二、第三の溶媒とした混合溶媒と、炭素数が12以上の長鎖二塩基カルボン酸と沸点が150℃以上のアミンとの塩を含む溶質とを含む電解液を、コンデンサ素子内の空隙部に含浸させる方法で得られる。かかる第二、第三の溶媒は特にγ-ブチロラクトンが好ましい。低温から広い温度範囲で低粘性であるγ-ブチロラクトンを添加することで、通常は相対的に粘性の高いグリコール類の粘性が下がり、溶質の溶解性が高まり、コンデンサ素子への含浸性に優れた電解液が得られる。またスルホランは、ジエチレングリコールあるいはトリエチレングリコールと同等以上の耐熱性を有し、特に溶質との相溶性がよく、かつ電解液の誘電体層を修復する機能を高め、漏れ電流を低減するという効果があるので、一定量の添加が有効であるが、本発明の目的にとっては必須要素ではない。本発明の主溶媒であるジエチレングリコールまたは/およびトリエチレングリコールは溶媒全体に対して30重量%以上含有させるのが好ましい。それ以下では所期の性能が得られず、さらに好ましくは45重量%から80重量%の範囲であり、残部がγ-ブチロラクトン単独あるいはγ-ブチロラクトンとスルホランとの混合溶媒である。
【発明の効果】
【0032】
本発明により、63V以上の高定格電圧のコンデンサで、低温から高温の広範囲に亘って優れた初期特性を有し、250℃を超える高温リフロー半田工程を経た後でも、2回以上の半田操作に耐え、かつ135℃を超える高温長時間使用でも、初期特性、とりわけ最重要特性である低ESR特性を維持することが出来る高信頼性の導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明に係る導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサの典型的な構造、コンデンサを製造するための代表的な手順、および製造したコンデンサの特性評価方法を開示することで本発明をさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】面実装型電解コンデンサ断面模式図であり、本発明の実施形態に関わる面実装型電解コンデンサの外観及び断面模式図である。
図2】電解コンデンサの内部素子を示す図であり、電解コンデンサの内部素子の構造の一部を示すための素子の展開図である。
図3】電解コンデンサ内部素子の材料構成図であり、電解コンデンサ素子中の陽極箔、陰極箔、および絶縁紙と陰極材料の電解液及び導電性高分子の材料構成を示した概略図である。
【0035】
(コンデンサの製造工程全体)
本発明に関わるコンデンサの典型的な製造方法と代表的な手順は以下に述べるとおりである。すなわち、電気化学的なエッチング、あるいは物理的な蒸着によって電極利用面積を拡大した高純度(99.95%以上)アルミニウム箔表面に、陽極化成で誘電体層を形成した陽極箔1と、純度が99.5%以上のアルミニウム箔を同様の方法で高倍率に拡面した陰極箔2を一定幅に切断した電極スリット箔とを、セパレータ紙3を介して捲回して、円筒形のコンデンサ素子10(素子形成工程)を形成する。続いて、捲回した素子の端部を素子止めテープで固定する。次に、箔の切断や捲回工程で生じた誘電体層の欠陥を修復するために再化成を行い、この工程を経たコンデンサ素子を、導電性ポリマーの水分散体に浸漬した後乾燥させて陰極の固体電解質層Bを形成する(固体電解質形成工程)。その後、コンデンサ素子内の空隙に、溶媒と溶質を含む電解液Aを含浸させる(電解液含浸工程)。電解液を含浸した素子を円筒形の外装ケース9に挿入し、開口端部に、封口ゴム4を装着して、機械的に加締めることによって封口し、エージング工程(封口・エージング工程)でスクリーニングされる。面実装型のハイブリッド型アルミ電解コンデンサの場合は、さらにプラスチック製の絶縁板8に端子5Aを挿入し、端子の平坦化、折り曲げ、先端のカット加工6Aを行い、完成品とする。(端子加工工程)
【0036】
以下は、導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサの面実装部品を例に本発明の詳細な説明を行う。
(コンデンサ素子の製造)
導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサの耐電圧特性を決める要因の一つは、アルミニウム陽極箔1の化成倍率(誘電体形成の化成電圧とコンデンサの定格電圧の比)であるが、導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサの場合、通常の電解液型コンデンサより大きい値の陽極箔が使用され、定格電圧によっても異なるが、一般的に、定格電圧の2倍以上の化成電圧を印加し、陽極酸化反応で誘電体層を形成した陽極箔が使用される。高倍率の陰極箔は、必要に応じて薄い化成皮膜(1〜10V化成相当)を形成する。陽極と陰極箔を分離し絶縁するためのセパレータ紙としては、合成繊維製の不織布など、吸液性のよい素材や形態が好ましいが、特に限定されるものではない。電極箔の厚さは、陽極箔が100μm程度で、陰極箔は60μm程度である。陽極、陰極、セパレータ紙を捲回したコンデンサ素子は、次に燐酸や硼酸やアジピン酸のアンモニウム塩などの公知の化成液により電気化学的な化成反応で誘電体層の欠陥が修復され、素子は電気的に絶縁化されるので、導電性ポリマー層を形成しても電気的に短絡することはない。
【0037】
(導電性ポリマーの分散体)
誘電体の欠陥を修復し、純水で洗浄し、十分に乾燥して水分を除去したコンデンサ素子10に、導電性高分子の粒子を、陰極の固体電解質層Bとして付着させる。導電性ポリマー粒子を含浸・付着させる方法としては特に限定されないが、コンデンサ素子を導電性高分子の水分散体に浸漬した後、減圧と加圧を繰り返して、素子の内部まで浸透させる。導電性高分子としては、ポリ3,4−エチレンジオキシチオフェン(以下、PEDOTと称する)の微粒子と、ポリスチレンスルホン酸(以下、PSSと称する)からなるドーパントの固形分を混合したものを、溶媒である水に分散して安定化したサスペンジョンが最適である。導電性ポリマー化合物粒子の大きさは、光散乱法で測定した体積濃度基準平均粒径(D50)がサブミクロン以下であり、好ましくは0.1から0.5μmの範囲であり、固形分の導電性ポリマー濃度は0.5〜5%の範囲が望ましい。
【0038】
(導電性ポリマー分散体の素子への浸透・含浸を改良する改質剤)
かかる導電性ポリマー微粒子でコンデンサの陰極である固体電解質層を形成する際に、最も重要なファクターは、陽極表面の酸化アルミニウム誘電体の微細なエッチング空孔の深部まで、導電性ポリマー微粒子を浸透させ、実効容量(電極表面積被覆率)をなるべく多くすることである。そのためには、種々の改質剤と方法があるが、本発明では、ジエチレングリコールまたはトリエチレングリコールを0.3〜3重量%、好ましくは0.5重量%の濃度で、導電性ポリマーの水分散液に予め添加することにより、分散液の表面張力を低下させ、導電性ポリマー微粒子の分散性を高めることで、酸化アルミニウム誘電体層の微細なエッチング空孔への、導電性ポリマー微粒子の浸透性と濡れ性を向上することが出来る。さらには、導電性ポリマーの水溶液を用意し、そこにコンデンサ素子を浸漬して、予め導電性ポリマーのプレコート層を形成し、しかる後に、導電性ポリマー粒子の分散体に浸漬すると言う2段階方式の陰極形成方法が知られている。この目的には、ポリアニリンや、自己ドープ型の導電性ポリマー水溶液(商品名:1%SELFTRON(商標登録済)のSタイプの水溶液の粘度約5〜10mPa・s(20℃))が推奨される。また誘電体の酸化アルミニウムと導電性ポリマーの両方と相溶性の良い、官能基を有するシランカップリング剤を、プレコート層として用いることも有用である。
【0039】
(導電性ポリマー分散体の含浸工程)
コンデンサ素子の導電性ポリマー分散液への浸漬時間は、素子サイズにより変わるが、10ΦX10.5L(単位:mm)の素子の場合は、通常、1回の浸漬時間が、減圧(90Pa)下で、最低60秒間で十分であるが、より望ましくは同じ操作を2回繰り返すことで、バラツキが極めて少ない導電性ポリマー層が形成される。水分散液から引き上げられたコンデンサ素子は、過剰な水分を除去し、次の乾燥工程に送られる。
【0040】
(固体電解質の形成)
必要量の導電性ポリマー粒子を保持したコンデンサ素子中の余剰の水分を除くため、所定温度に設定したバッチ式または連続式の乾燥機で、絶乾状態まで乾燥される。好ましい乾燥温度は100℃乃至最高150℃で、乾燥時間は0.5乃至3時間であるが、装置の乾燥効率により変化する。この乾燥工程の結果、陽極の誘電体の微細空孔の深部まで達する導電性ポリマー及び前記改質剤を含む固体電解質層が形成される。
【0041】
(電解液溶媒)
本発明の必須構成要素は、電解液の溶媒に、一般的に使われるエチレングリコールを使用せずに、ジエチレングリコールまたは/およびトリエチレングリコールを主溶媒とすることである。さらに目的に応じて第二の溶媒としてγ-ブチロラクトン単独またはγ-ブチロラクトンとスルホランを混合した溶媒を含むことである。溶媒全体に占めるかかるグリコール化合物の量は少なくとも30重量%で、好ましい含有率は45重量%から80重量%の範囲であり、ジエチレングリコールまたは/およびトリエチレングリコールとγ-ブチロラクトンを合計した含有率は80重量%以上であり、好ましくは85重量%以上であることを特徴とする。さらに、電解液にポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコールまたはその誘導体を添加すると、リップル電流による発熱が重畳される過酷な高温使用条件で、導電性ポリマーの熱酸化劣化を防止し誘電体欠陥の修復性を向上することが知られている。添加するポリアルキレングリコールは、電解液の粘度の上昇を抑えるために、平均分子量が300乃至1000の比較的低分子量の範囲が好ましい。添加量は多すぎると粘度が上昇し電解液の含浸性が悪化するので最大10重量%少なくとも3重量%の範囲が好ましい。
【0042】
(電解液溶質)
一般的な導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサに使用する電解液の溶質は、フタル酸などの脂環式ジカルボン酸、有機酸と無機酸の複合化合物のボロジサリチル酸などの酸との塩を形成する塩基として、アンモニアやアミンが使用され、その中でも、アンモニアよりも塩基性の高いジエチルアミンやトリエチルアミンなどのアルキルアミンが推奨されている。しかしながら、前記の酸との塩を含む溶質を、ジエチレングリコールやトリエチレングリコールを主成分とする本発明に係る溶媒と組み合わせても、定格電圧が63V以上の高耐圧コンデンサとして、初期特性およびリフロー耐熱性、高温耐久性に優れた、125℃以上、好ましくは135℃以上の高温度定格の導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサは得られないことを本発明者は初めて確認した。これに反して、本発明に使用した溶媒と特定の酸と特定のアミンとの塩からなる溶質との組合せにおいてのみ、初めて、前記特性に関して、特異的に顕著な作用効果が奏されることを確認し、かかる知見に基づいて、本発明を完成した。すなわち、先行特許文献にあるエチレングリコールおよびγ-ブチロラクトンあるいはスルホランを含有する溶媒と、本発明に使用した特定の溶質を組み合わせた電解液を充填した導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサは、耐圧性及び耐熱性において、本発明が目的とするような結果は得られなかった。本発明に使用した特定の酸及び特定のアミンは以下の通りである。特定の酸は、総炭素数12以上で、さらに長鎖二塩基カルボン酸でなければならない。特定のアミンは、沸点が150℃以上の高沸点のアミンでなければならない。このような長鎖二塩基カルボン酸としては、ドデカン二酸、2−ブチルオクタン二酸、テトラデカン二酸、イソエイコサジエン二酸、ダイマー酸などのジカルボン酸が好ましい。本発明において上述の特定の溶質の一成分を構成するカルボン酸は数種類を組み合わせても良く、一般的に用いられる炭素数が12未満のものでも、高耐熱性の芳香族カルボン酸(例えばフタル酸やトリメリット酸)であれば、耐圧性を損なわない範囲で併用することは可能である。また、ここで言う特定のアミンとしては、ジブチルアミン(沸点159℃)、トリプロピルアミン(沸点156℃)、トリブチルアミン(沸点217℃)などのアルキルアミン、アニリン(沸点184℃)、トルイジン(沸点200℃)、N−メチルアニリン(沸点196℃)、イミダゾール(沸点256℃)及びその誘導体(4級イミダゾリウム塩を含む)、環状アミジン骨格を持つジアザピシクロノネン(沸点240℃)、ジアザビシクロウンデセン(沸点261℃)やその他のアミジン骨格を有するアミン、及びその誘導体アミン、及びその誘導体(4級アミジニウム塩を含む)などの芳香族アミン、複素環式アミン化合物が好適である。特にジアザビシクロウンデセン(沸点261℃)は熱安定性が高く、かつ電解液の耐電圧性(火花電圧)を高める効果があることが確認された。アミンの量はカルボン酸に比べて少ない量で配合し、電解液のpHは4から8好ましくは4から6の範囲になるように調整するのが好ましい。アミンを多く配合すると導電性子分子に利用しているドーパントと反応し、脱ドープを引き起こす可能性があるため、出来る限り少なくする必要がある。アミンを配合せず溶質にカルボン酸のみを利用する事は可能であるが電解液のpHが4になるとカルボン酸の劣化(溶媒とのエステル化など)、電極や化成膜の腐食などの問題が生じる可能性があるためアミンである程度、中和する必要がある。
これらの特定の酸と塩基から成る塩を含む溶質は、ジエチレングリコールまたは/およびトリエチレングリコールを主成分とする溶媒に容易に溶解するので、本発明の電解液を構成する溶媒に溶解して使用する。カルボン酸とアミンを合わせた液中の濃度は5〜40%、好ましくは10〜25%の範囲になるように処方される。本発明の好適な溶質である長鎖二塩基カルボン酸であるイソエイコサジエン二酸とアミンのジアザビシクロウンデセンの場合は添加量は溶媒100重量部に対してイソエイコサジエン二酸(iEDAと記す)は10〜25重量%、好ましくは10〜20重量%の範囲でジアザビシクロウンデセン(DBUと記す)は0.5〜4.0重量%の範囲で、好ましくは、1.0〜2.0重量%である。かかる特定の長鎖二塩基カルボン酸と特定の高沸点アミンとの塩を含む溶質とジエチレングリコールなどの主溶媒との組み合わせから構成される電解液が、高耐圧かつ高耐熱性のコンデンサにおいて、なぜかかる顕著な作用効果が奏されるのかは明らかではないが、本発明の範囲に制約を与えないとの条件の下で推測すれば、溶媒と溶質の相溶性が高く、電解液として高耐圧性と高温安定性を保ち、導電性ポリマーと誘電体の酸化アルミニウムの界面に存在して、両者を馴染ませるのに大きな作用を与えているのではないかと推測される。
【0043】
(電解液含浸工程)
導電性ポリマーを含む固体電解質が形成されたコンデンサ素子の中に水分が含まれると、大きな特性劣化の原因になるため、コンデンサ素子は、絶乾状態を保ったまま次の工程である電解液の充填工程に移送される。この移送工程と電解液の充填工程の環境は、湿度及び温度が厳密に制御され、特に湿度は極力低い状態に保たれ、コンデンサ素子の吸湿が防止される。電解液の充填工程は、湿度の望ましい管理水準は、絶対湿度で6.0g/m以下である。第一の陰極の導電性ポリマーを含む固体電解質層が形成されたコンデンサ素子を、イオン伝導性を有する本発明に使用した上述の溶質と、それを溶解する本発明に使用した上述の溶媒を含む電解液に浸漬して、コンデンサ素子内の空隙部に、かかる電解液を充填(含浸)する工程である。電解液の含浸条件は特に限定されないが、通常の減圧と加圧の繰返しによる含浸操作が好ましく、通常、電解液の温度は室温であるが、最高100℃まで加温した電解液を含浸しても良い。高い温度での含浸は、素子中心部への電解液の浸透速度を加速すると共に、電解液と導電性ポリマーとの親和力を高める。好ましい電解液の加温温度は60℃ないし80℃である。
【0044】
(封口と再化成検査工程)
電解液を充填したコンデンサ素子を外装ケース9に挿入し、開口端部に封口ゴム4を装着して、機械的にカール加工することによって封口し、定格電圧より高い電圧を印加し、高温状態でエージングを行い、電解液によるアルミニウム陽極誘電体の欠陥部分を再化成反応によって修復すると共に、電気特性を測定して、規格内の製品をスクリーニングし合格したコンデンサを次の工程に送る。
【0045】
(面実装部品への加工)
面実装型のハイブリッド型アルミ電解コンデンサの場合は、さらにプラスチック製の絶縁板8に端子5Aを挿入し、端子の平坦化、折り曲げ、先端のカット加工6Aを行い、完成品とする。本発明は、鉛フリー高温リフロー耐熱性の改良を含む面実装型導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサに関する発明であるが、その構造に限定されるものではない。リフロー工程を必要としないラジアルリード構造の、定格電圧が63V以上のハイブリッドコンデンサの高温での耐久性および信頼性の改良にも適用される技術である。
【0046】
(コンデンサの合否判定)
導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサの電解液の構成を変えたコンンデンサの耐電圧性は、電解液の火花電圧で良否を判断できるが、最終的には火花電圧の大きさと、陽極箔の化成電圧の余裕率を総合したコンデンサの耐電圧設計の結果として、コンデンサの定格電圧が決まり、コンデンサ製造工程のエージング検査(再化成検査)工程で、その定格電圧に対して、必要なエージング電圧を印加した後の、検査工程での歩留率によって良否判定される。通常の導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサのエージング合格率は99.9%以上である。かかる工程を経て製造されたコンデンサについて本発明に係る導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサの評価の一環として、リフロー耐熱性及び高温信頼性試験が適用される。
【0047】
(鉛フリーリフロー耐熱性)
半田耐熱性評価の温度プロファイル(コンデンサ径10Φ)は、IPC/JEDEC J−STD−020Dの鉛フリーリフロー条件よりも過酷な、ピーク温度が250℃で、+230℃が80秒の条件で、加熱回数を最大3回まで行い、高さ寸法(膨れ)と電気特性の変化を測定した。定格電圧が63V以上の、ケースサイズがΦ8〜10mmの導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサの一般的な許容リフロー条件は、ピーク温度が245℃で、+230℃が40秒以内で、回数は2回までである。リフロー耐熱性についての合否判定は、以下のように設定した。
コンデンサの高さ方向の膨れ量:
<0.2mm:良好(○)、0.2〜0.3mm:普通(△)、0.3mm<:不良(X)
容量の変化:ΔC <5%:合格 5%<:不合格
ESRの変化: ΔESR<300%(3倍):合格 300%(3倍)<:不合格
【0048】
(高温信頼性試験)リフロー耐熱性を評価した後のコンデンサを、125℃または135℃に設定した高温槽にセットし、定格電圧を印加した状態で保持し、500時間間隔で高温槽から取り出し、室温まで放冷後に、容量,誘電分散DF,漏れ電流,ESRを測定し、初期値(リフロー耐熱試験前)からの変化率を求める。高温信頼性試験の合否判定はΔC(容量)≦30%、ΔDF≦200%、ΔESR≦200%、LC≦0.01CVとした。
【0049】
(電解液の評価)
電解液の評価としては、
1)実施例及び比較例に使用した溶媒と溶質の組合せ、
2)先行特許文献記載の電解液組成、
3)本発明に使用した溶媒以外の溶媒と本発明に使用した溶質の組合せ、
4)本発明に使用した溶媒と本発明に使用した溶質以外の溶質との組合せ、
5)本発明に使用した溶媒以外の溶媒と本発明に使用した溶質以外の溶質の組合せなど、
多種類の実施例あるいは比較例に記載の電解液を使用した場合について、シンチレーション現象が起こる火花電圧、電解液のコンデンサ素子への浸透速度に関わる溶液の粘度を測定した。
【0050】
本発明に係る電解液を使用した場合、表面実装構造の導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサの鉛フリーリフロー等による耐電圧特性の劣化や、信頼性の低下に繋がるコンデンサの膨れを防止することができる。本発明の最良の実施形態においては、単一の電解液配合処方により、63Vから200V以上の低圧から中高圧までの幅広い定格電圧を可能にする導電性ポリマーハイブリッド型固体電解コンデンサであって、高耐電圧特性を有し、低温での充放電性能を確保しつつ、低ESRで、125℃を超える高温においても高信頼性の導電性ポリマーハイブリッド型固体電解コンデンサを提供することができる。従来技術では、高耐電圧定格の導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサを得るためには、各種の耐圧向上剤を添加するのが通例であるが、本発明では、特定のグリコール化合物と特定の高耐熱性の溶質の組合せだけの電解液でもって、200V定格のコンデンサを得ることが出来るのが特徴である。また、本発明に係る電解液を使用した導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサは高温リフロー耐熱性が特に優れており、本発明に係る電解液は、これまでリフロー耐熱温度の制約が大きかった中型サイズのチップ型の導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサのリフロー耐熱性を改善する効果も大きい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0052】
実施例においては、定格電圧が80WVで、静電容量が39uFの、直径がΦ10.0mmで高さが10.0mmの表面実装用コンデンサを製作し評価した。
【0053】
前記コンデンサ製造方法における素子形成工程において、定格電圧が80Vで、公称容量が39μFの導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサを製造するために必要な材料として、厚さが105μmで、純度が99.95%の高純度アルミ箔を、高倍率エッチング処理後、化成電圧150Vで陽極酸化した高純度陽極箔、および厚さが60μmで、純度が99.5%のエッチング箔に低電圧化成(2V)を施した陰極箔を用意した。次に陽極用と陰極用のタブ端子を、パンチ加締め加工で接続し、両者を絶縁するセルロース繊維を主体とするセパレータ紙を介して、コンデンサのサイズが10Φ(直径mm)x10.5L(最大高さmm)に相当するコンデンサ素子(サイズ9Φx6.5L:単位はmm)を作成した。電極箔の切断や、巻取り操作等により生じた箔断面の金属面や、突起物や素子中の酸化アルミ誘電体の欠陥部の絶縁化のために、コンデンサ素子を、数個単位で金属製のバーに溶接し、クエン酸アンモニウム水溶液中で直流電圧を印加しながら40分間浸漬し、再化成を行った。次に付着した薬品を、純水で繰返し洗浄し、120℃で高温乾燥した素子を、実施例と比較例に対してそれぞれ100個ずつ用意した。
【0054】
次に1リットル容器に、市販の2%濃度のPEDOT/PSS導電性ポリマー分散体水溶液を投入し、そこに、ジエチレングリコールを0.5重量%濃度になるように加えて本発明に使用した導電性ポリマー分散体水溶液とし、そこに、乾燥した前記コンデンサ素子を、1バッチ当り50個、浸漬し、容器全体を減圧チャンバー中に入れて、減圧と常圧復帰を二回繰返することで、コンデンサ素子内部に導電性ポリマー分散液を含浸させた後に、コンデンサ素子を引き上げ、80℃の真空乾燥機でコンデンサ素子を乾燥させ、第一の陰極である導電性ポリマーからなる固体電解質層を形成したコンデンサ素子を作成した。バッチ毎の条件の違いを補償するため、以下の実験で使用するコンデンサ素子は、全て、ランダムにサンプリングした。
【0055】
次に必要な個数の前記固体電解質層が形成されたコンデンサ素子を用意し、表1および表2に示す電解液を充填した。表1、表2の比較例または実施例のコンデンサは、いずれも定格電圧が80Vで、公称容量が39μFの導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサで、固体電解質層を形成後に、含浸する電解液の組成だけが異なるように作成されたものである。電解液を含浸させたコンデンサ素子は、速やかに機械的に封口ゴムでシーリングされ、次のエージング再化成検査工程に送られる。エージング工程では、定格電圧と同じ80Vの電圧を印加し、85℃の恒温槽内で約50分間エージングし、容量、ESR、漏れ電流の不良品を除いた良品サンプルを製造した。コンデンサの製造工程において、電解液その他の構成材料から混入してコンデンサ素子に含まれる水分量が多くなると、リフロー耐熱性が著しく低下するため、コンデンサ素子の乾燥から電解液充填を経て封口ゴムによる封口工程までは、温度と絶対湿度が6.0g/m以下になるように室内の空調管理を行い、コンデンサ素子中の水分含有量を1重量%以下にコントロールした。最後に、PPS樹脂製の絶縁板に電極端子を挿入し、端子の平坦化、折り曲げ、先端のカット加工を行い、電気特性の検査後、面実装形状のコンデンサを完成させる。
【0056】
表1は、ジエチレングリコール、及び従来技術における代表的な溶媒であるエチレングリコール単独、あるいはエチレングリコールとγ-ブチロラクトン(GBL)またはスルホランとの組合せによる溶媒と、先行特許文献1,2,3の実施例に使用された溶質、すなわち脂環式一塩基性カルボン酸であって、本発明の範囲に属さないボロジサリチル酸と、低沸点のアミンであって、本発明の範囲に属さないトリエチルアミンとの塩からなる溶質(PH=4〜5に調整し75重量%GBL溶液で添加)を含有する電解液と、それを充填した導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサについての比較例における、電解液の火花電圧と、溶液粘度及び夫々のサンプルの容量と等価直列抵抗(ESR)の初期値を示す。作成したコンデンサの数は、各水準50個でそのうちの5個をランダムに抜き取り評価した

【0057】
本発明に使用した溶媒を含む比較例5〜8の溶媒組成は、本発明の範囲に属さない溶質であるボロジサリチル酸トリエチルアミン塩を含む電解液においては、火花電圧および溶液粘度が先行技術の代表的な溶媒であるエチレングリコールあるいはγ-ブチロラクトン(GBL)またはスルホランとの組合せによる溶媒からなる電解液の場合の特性とほぼ同等であり、電解液を充填した導電性ポリマーハイブリッドコンデンサの初期特性(容量、ESR)もほぼ同等である。
次に表1−1に表1の比較例1〜8のコンデンサについて、前記半田耐熱試験(3回)及び125℃および135℃で高温信頼性試験を行った結果を示す。
【0058】
ジエチレングリコールを含有する比較例5〜8は、従来から知られているエチレングリコールを含有する電解液の比較例1〜4に較べて、夫々の電解液を充填した導電性ポリマーハイブリッド型電解コンデンサの半田耐熱試験において、相対的にコンデンサの膨れが小さく、容量変化も少ない傾向が認められる。しかしながら、125℃および135℃の温度で、定格電圧(80V)を連続的に印加した信頼性試験においては、結果的に、導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサの最重要特性である等価直列抵抗(ESR)の上昇が異常に大きく、溶媒の違いによる影響は無く、いずれも前記の判定基準で不合格であり、信頼性に乏しいコンデンサしか得られないという結果に終わった。これは80Vという高い定格電圧において、溶質であるボロジサリチル酸トリエチルアミンと本発明に使用した溶媒および公知の溶媒からなる電解液組成が、高温度かつ高電圧の印加条件では、導電性ポリマーの安定性が損なわれて、誘電体層からの剥離あるいは導電性ポリマーの高温での酸化劣化による絶縁劣化が起こったものと推測される。
【0059】
そこで本発明者らは鋭意、ジエチレングリコールと相溶性が良く、高温高電圧条件でも導電性ポリマーの安定化に寄与する溶質を幅広く探索した結果、優れた安定化作用を有する溶質を見出した
【0060】
表2と表2−1における実施例は、ジエチレングリコールと、本発明に使用した溶質であるイソエイコサジエン二酸(UB−20岡本製油製)とジアザビシクロウンデセンとの塩から成る溶質を溶媒に溶解させたプレミックス溶液(PH=6に調整し、40重量%GBL、40重量%DEGからなる溶媒に当該塩を溶解させて得られたプレミックス溶液の状態で添加)からなる組成の電解液を含浸したコンデンサを使用した場合であり、比較例は、実施例に使用したプレミックス溶液中の溶媒のうち本発明に使用したDEGを従来技術のEGに入れ替えて得られた電解液を含浸したコンデンサを使用した場合である。それぞれの場合における電解液の火花電圧、及び夫々の電解液を充填した導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサのサンプル(n=5)の容量と等価直列抵抗(ESR)の初期値を示したものである。
【0061】
表2によると、高耐圧特性の良い溶質として知られている長鎖二塩基カルボン酸のジアザビシクロウンデセン塩を含む電解液を使用した場合、公知の溶媒であるエチレングリコールに比べ、ジエチレングリコール溶媒を使用した本発明は、火花電圧を特に向上させる効果が認められる。

本発明に使用した溶質のイソエイコサジエン二酸とジアザビシクロウンデセンの塩は、比較例の場合は、40%GBL,40%EGの溶媒に20重量%を溶解して得られたプレミックス溶液として添加し、実施例の場合は、40%GBL,40%DEGの溶媒に20重量%を溶解したプレミックス溶液として添加した。またスルホランはγ−ブチロラクトンに溶解(90重量%)して使用した。
【0062】
導電性ポリマーによる固体電解質の形成まで比較例1から8までと、同じ材料および同じ工程・条件で作成したコンデンサ素子に、表2の比較例9,10,11と実施例1,2の各電解液を充填させた後、その後の工程で検査、組立完成した導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサを500個ずつ作成し、そのうちの10個について、電気特性の初期値および前記の条件で半田耐熱性の評価を行った。その結果を下記の表2−1に示した。
【0063】
表2−1の結果によると、常温及び低温−40℃でのESRなどの初期特性は、比較例と実施例で有意な差はなく、ジエチレングリコールを使用した場合は、エチレングリコールと同等の低温特性を有することが理解できる。半田耐熱性の結果は、実施例1、2の方がエチレングリコールを使用した場合と比較して、膨れ、容量変化、ESRの上昇率いずれにおいても優れた結果が得られている。
【0064】
さらに表2−1の半田耐熱性試験後のサンプル(各10個を2分割)について125℃および135℃での定格電圧(80V)を印加した状態の高温信頼性試験を行った。
表2−2の125℃の信頼性試験結果を見ると、比較例9,10,11の電解液を充填したコンデンサは、試験開始後、1000時間後には、ESRが初期値(半田耐熱試験後)の17倍から190倍の大きさまで上昇し、不合格判定された。3000時間後には、容量も20%を超えて減少した。同じ溶媒の配合組成の場合、溶質に本発明の範囲外のボロジサリチル酸トリエチルアミン塩を用いた電解液を充填した実施例1から4のコンデンサと同じ信頼性の低い結果であった。一方、実施例の1と2は、3000時間後の容量減少率は10%以下で、かつESRの変化率は試験時間が3000時間後でも初期値の5倍程度の上昇に留まり、高い信頼性を示した。
【0065】
表2−3は、より高温の135℃での定格電圧を印加した信頼性試験結果である。比較例9,10,11は、500時間後において、ESRの初期値からの上昇率が6倍以上になり、全て不合格判定になった。また、1000時間後には、容量減少率が20%を超え、ESRも80倍以上に増加したため、ここで試験を中止した。一方、実施例1と2は500時間までは容量及びESR共にわずかな変化しか認められなかった。また1000時間後はジエチレングリコール(DEG)が少ない実施例1(溶媒全体で30重量%)はESRが8倍程度まで増加し不合格判定されたが比較例よりは低いESRを維持した。さらに実施例2(DEG55%)は1000時間後の測定でも、容量変化は極僅かで、かつESRの上昇率も40%程度で、非常に高い耐熱安定性を示している。
ボロジサリチル酸トリエチルアミン塩を溶質に用いた前記比較例1〜8において使用した電解液は、公知の溶媒であるエチレングリコールに替えて、本発明に使用したジエチレングリコールを溶媒成分とした電解液であったが、その優位性は得られなかった。しかし、イソエイコサジエン二酸のジアザビシクロウンデセン塩を溶質に用いた電解液を使用した場合は、エチレングリコール溶媒の電解液に比べ、明らかな優位性が確認された。
【0066】
さらに、表3は、ジエチレングリコール以外の高沸点の溶媒に、本発明で使用した溶質を溶解させて得られた電解液を用意し、夫々を含有する導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンササンプルを作成し、初期特性、半田耐熱性および高温信頼性試験を行った結果を示す。溶媒の混合比率は、グリコールを55重量%、γ-ブチロラクトンを30重量%、スルホランを15重量%に固定した。またコンデンサの材料と製造条件は、これまでの比較例や実施例と同じで、定格電圧が80Vで、公称容量が39μFで、大きさは直径10mm、高さが10.5mmのコンデンサである。表3における電解液の場合、溶質は、イソエイコサジエン二酸のジアザビシクロウンデセン塩であり、その含有量は、溶媒に対して、外割りで、15重量%であるが、溶質は、GBL40重量%とDEG40重量%のグリコールの溶媒に溶解したものであり、その場合のグリコールとしては、各比較例及び各実施例において使用したグリコールを使用する。

【0067】
比較例と実施例を比較すると、使用したグリコール溶媒の間では、初期特性に有意な差異は無く、実施例のジエチレングリコールを溶媒とした電解液と同じ結果であった。一方、半田耐熱性については、実施例のジエチレングリコールあるいはトリエチレングリコールまたは両者の混合溶媒の場合が、比較例の他のグリコール化合物に較べて、コンデンサの膨れが相対的に少なく、かつESRの初期値からの変化も相対的に小さい、という結果が得られた。比較例と実施例のうち、200℃以下の低い沸点を有するエチレングリコールとプロピレングリコールを使用した場合は、加熱によるコンデンサの膨れが大きく、ESRの変化率も同じ傾向を示したが、他の230℃以上の高沸点グリコールの沸点と半田耐熱性能との間には明確な相関性は無く、比較例13,14,15のグリコールを使用した場合のように、必ずしも半田耐熱性が高いという傾向は認められなかった。
【0068】
特にグリコール間で大きな差があるのは、高温安定性・信頼性である。定格電圧80Vを印加し、135℃の高温槽中で、1000時間熱エージングした後の耐久性を、コンデンサの容量減少率とESRの増加率で評価した表3の結果を見ると、トリエチレングリコールの場合は、ジエチレングリコールの場合とほぼ同等の耐久安定性を示すことが分かった。しかしながら、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールやテトラエチレングリコールの場合は耐久性に劣り、前記した低沸点のエチレングリコールあるいはプロピレングリコールを溶媒とした場合の比較例11あるいは12の電解液を充填したコンデンサと同様の傾向を示し、特に1000時間後のESRの急激な上昇を示す点で同じ結果であった。
【0069】
これら比較例13,14,15の沸点の高い他のグリコールは、ジエチレングリコールあるいはトリエチレングリコールよりも、2個の水酸基が繋がる主鎖や側鎖の長さや分子の大きさが大きく、分子量が大きいという特長がある。本願発明の範囲の解釈には何ら影響しないとの前提の下で推測するならば、これらの構造の違いによって、溶媒と電解液の溶質成分との相溶性や、導電性ポリマーとの相溶性と、膨潤効果や、高温エージング時の導電性ポリマーと誘電体の界面を安定化させる作用が変化し、ジエチレングリコールとトリエチレングリコールが最も好ましい構造を有するため、に耐熱性や高温安定性(信頼性)に優れた効能を齎すのではなかろうかと推測される。
【0070】
表4は、ジエチレングリコールまたはトリエチレングリコールを使用した場合について、溶媒全体に占める好ましい含有率を検討した結果を示す。ジエチレングリコールやトリエチレングリコールは、エチレングリコールと同様、低温特性の優れたγ-ブチロラクトンとの混合使用が好ましい。また、γ-ブチロラクトンの一部を高温安定性の良いスルホランで置き換えることで、高温信頼性を一層向上させることも好ましい。

実施例1,2の場合の溶質は、前記と同じ組成で、同じ添加量のイソエイコサジエン二酸とDBUであるが、比較例16と17および実施例5,6の場合の溶質は、溶質を溶解した溶媒のプレミックス溶液からの溶媒と、新たに添加する溶媒の比率が、表中の比率になるように、プレミックス溶液中の組成(DEG,TEG及びGBL)と濃度を調整した。
【0071】
初期特性及び半田耐熱性について大きな差はなかったが、溶媒中の比率が90重量%を超えると電解液の粘度が上昇したためか、試作したサンプルの電気特性のバラツキが大きく、電解液の含浸性のバラツキが認められた。比較例16のジエチレングリコール100重量%溶媒の電解液は、γ-ブチロラクトンで希釈した混合溶媒(実施例5,6)に較べ、相対的に粘性が高く、電気特性の初期容量と、半田耐熱試験後の漏れ電流と、ESRのバラツキが他のサンプルより大きいことが問題である。一方、比較例17の135℃1000時間経過後の高温信頼性試験結果に示したように、ジエチレングリコールの含有率が少ないと、水酸基を持つグリコール化合物としての特徴であるところの高い定格電圧のコンデンサの半田耐熱性試験や、高温信頼性試験における低ESRを維持する効果が相対的に小さくなり、これらの溶媒としても特筆される効果が得られない。種々検討した結果、本発明に使用した溶媒であるジエチレングリコールまたは/およびトリエチレングリコールの溶媒全体に占める含有率は30重量%で、好ましくは45重量%から80重量%の範囲であり、ジエチレングリコールまたは/およびトリエチレングリコールと、希釈効果が大きく溶質の溶解性の向上と低温特性の向上に寄与するγ-ブチロラクトンを合計した含有率は80重量%以上であり、好ましくは90重量%以上であることを特徴とする。γ-ブチロラクトン以外の第三溶媒としては高耐電圧と耐熱性に優れたスルホランが好ましいが、スルホランの添加は、本発明を構成する不可欠な要件ではない。
【0072】
前記実施例の電解液において、溶質は炭素数12以上の長鎖二塩基カルボン酸のアミン塩で、アミンは沸点が150℃以上の特定のアミンであることが本発明の必須要件であり、酸と塩基の成分のいずれかがその要件を満たさなければ、本発明の溶媒との組合せによって特異的に顕著な作用効果を奏することは出来ない。また、ここで酸成分の長鎖二塩基カルボン酸は、前記実施例の溶質を構成する酸成分のイソエイコサジエン二酸に限定されるものではない。また、塩基のアミンも、前記実施例のジアザビシクロウンデセンに限定されるものではない。
【0073】
表5は、溶媒として、ジエチレングリコール、γ-ブチロラクトン及びスルホランを一定比率(55重量%:30重量%:15重量%)で混合した溶媒を使用し、溶質については、酸成分と塩基成分のいずれかが本発明要件を満たさない溶質組成を比較例とし、イソエイコサジエン二酸およびジアザビシクロウンデセン以外の酸・塩基で、同時に本発明要件を満たす溶質を実施例とする、各溶質を含む電解液を用意し、前記実施例及び比較例と同じ定格電圧が80Vで、公称容量が39μFのコンデンサ素子に、比較例あるいは実施例の各電解液を充填した導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサのサンプルを試作し、初期特性と半田耐熱性および135℃の高温信頼性試験を行った結果を示した。
【0074】
比較例18,19,20においては、塩基成分はいずれも本発明の範囲に含まれるジアザビシクロウンデセン(DBU)で、酸成分には炭素数が8の脂環式二塩基カルボン酸であるフタル酸(C(COOH))、二塩基カルボン酸であるが炭素数が少ない(n=9)アゼライン酸HOOC(CHCOOH、炭素数は14だが1塩基性のボロジルサリチル酸(OCCO)BNH・1.5HOであるので、溶質の酸成分が本発明の要件を満たさない。また、比較例21は、イソエイコサジエン二酸と、低沸点のトリエチルアミンとの塩からなる溶質であるので、発明要件を満たさない。一方、実施例7と8においては、イソエイコサジエン二酸の代わりに、長鎖二塩基カルボン酸で炭素数が12または20のドデカン二酸(1,6−DDA:C1222)または12−ビニル−8−オクタデセン二酸(VDDA:C2034)と、塩基としてのジアザビシクロウンデセン(DBU)を含む溶質である。これらの比較例及び実施例の溶質は、いずれもジエチレングリコールを主成分とする本発明に使用する溶媒に容易に溶解するが、溶解した電解液のpHが4ないし6の範囲に入るように酸と塩基の濃度を調整した。

【0075】
比較例と実施例との間に初期特性に差はないが、半田耐熱性については、比較例は実施例に較べてコンデンサの膨れおよび/またはESRの増加率が大きい。顕著な違いは、定格電圧を印加した状態での135℃1000時間後の容量減少率とESRの上昇率における違いであり、比較例の溶質を使用した場合は明らかに耐熱性が劣っていることが分かる。
【0076】
さらに高耐圧定格サンプルとして、サイズが10Φx10.5L(単位:mm)で、定格電圧・容量が200V6.8uFのコンデンサを試作した。前記の80V33μF定格のコンデンサを作成した材料と製造方法は、陽極箔が99.97%の高純度箔で、箔の耐電圧が化成電圧基準で、530Vfの高純度高耐圧陽極箔を用いた点を除けば、同じ材料と同じ工程で、電解液だけを変えた200V6.8μF定格の比較用及び実施例の導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサのサンプルの作成を試みた。試作を試みたコンデンサの電解液の溶媒と溶質の組み合わせと、各電解液の火花電圧の測定結果を下記の表6に示した。

【0077】
表6の電解液を使用した200V定格の導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサの試作結果は以下の表7の通りであった。
【0078】
実施例10および11と電解液の溶媒組成は同じであるが、溶質をボロジサリチル酸のトリエチルアミン塩に変えた比較例22,23の場合は、火花電圧が低く、コンデンサの製造工程のうち、前記封口後のエージング検査工程において、定格電圧が200Vのコンデンサに対するエージング電圧280Vを印加すると、漏れ電流が増大し、ショート不良を起こすため、200V定格のコンデンサを製造することはできなかった。本発明に使用した溶質であるイソエイコサジエン二酸とジアザビシクロウンデセン塩を用いながら、実施例11の溶媒のうち、本発明に使用したジエチレングリコールをエチレングリコールに変えた比較例の24、および先行特許文献3に開示された溶媒組成であって、エチレングリコールとスルホランを主な混合溶媒とする比較例25の場合は、ジエチレングリコールとγ-ブチロラクトン単独あるいはγ-ブチロラクトンとスルホランの混合溶媒を加えた場合に較べて、意外にも20%も火花電圧が低かった。定格電圧が200Vの導電性ポリマーハイブリッド型電解コンデンサを試作して評価した結果、エージング工程での歩留が低く、特に比較例24の場合は評価用サンプルを製作できなかった。一方、ジエチレングリコールとγ-ブチロラクトン単独あるいはγ-ブチロラクトンとスルホランの混合溶媒を加えた溶媒を用いた実施例10および11の場合は、電解液の火花電圧が高く、エージング工程での不良率は0%であった。
【0079】
表7のエージング検査工程で、全数が合格したコンデンサのうち、実施例11のコンデンサ・サンプル(5個)と、比較例25のエージング検査で合格したサンプル(5個)について、前記と同じ条件のリフロー耐熱性(3回)を評価した結果を表8に示す。いずれのサンプルも、コンデンサ頂部の膨れが比較的少なく、容量変化、漏れ電流もESRも、リフロー前からの変化は比較的少なかった。比較例24と実施例10の間には半田耐熱性試験の結果において大きな差はなかった。

【0080】
さらに、3回リフロー後のサンプル(5個)に対して、125℃の高温オーブン中で、定格電圧200Vを印加した状態で保持し、高温信頼性試験を実施した。試験時間が500時間後と3000時間後の測定結果を表9に示した。

【0081】
表9の高温信頼性試験結果によると、エチレングリコールとスルホランを主溶媒とし、γ-ブチロラクトン単独をさらに添加した混合溶媒と、本発明に使用した溶質(例)であるイソエイコサジエン二酸とジアザビシクロウンデセン塩を用いた電解液の場合は、同じ溶質と、ジエチレングリコールにγ-ブチロラクトンとスルホランの混合溶媒を加えたものを溶媒として含む電解液の場合に比べ、導電性ポリマーハイブリッド型のコンデンサに用いた場合、高温信頼性試験において、等価直列抵抗ESRの上昇が早く、500時間後には、初期値(リフロー耐熱試験後)の+57%、さらに3000時間後には、初期値の368%(3.7倍)まで上昇した。これは、ジエチレングリコールを含む溶媒が、200V定格の高耐圧領域において、125℃以上の高温においても、導電性ポリマーに対する安定化作用を維持していることを示している。
【0082】
本実施例以外に、ジエチレングリコールをトリエチレングリコールに変えた導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサも試作したが、同様の効果が認められた。また、イソエイコサジエン二酸とジアザビシクロウンデセンの組合せは、イソエイコサジエン二酸が総炭素数12以上の長鎖二塩基カルボン酸であり、塩基成分が、沸点が150℃以上のアミンであることを特徴とする溶質の具体的な一例であり、この組合せに限定されるものではなく、前記に記載した同等の物性を有するものであれば同様の効果を得ることができる。例えば、ジアザビシクロウンデセンをトリブチルアミン(沸点217℃)に変えてみたが、同様な効果が認められ、エチレングリコールを溶媒とする場合に比べ、高温での安定性が高かった。この効果は、ジエチレングリコールのような特定のグリコールを溶媒とし、かつ特定の高沸点アミン塩を溶質とする組み合わせの場合だけにおいて得られる特異的な作用効果であり、それぞれ単独では得られない。さらに、上述のように、80V定格の導電性ポリマーハイブリッド型電解コンデンサに使用した溶媒と溶質の組合せによる特異的な作用効果が、200V定格電圧の高耐圧のコンデンサでも同様に奏されることが証明された。すなわち本発明に使用した電解液は、同一組成であっても、低圧から高耐圧までの広い範囲の定格電圧の導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサの高温耐熱性を改良し、製造工程を簡素化するので産業上、極めて有用な技術である。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明に使用した特定の溶媒と特定の溶質の組合せによる電解液の場合、63Vから200Vの広い範囲の定格電圧の導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサを得ることが可能となり、従来から知られている(先行特許文献の2)ポリエチレングリコール(PEG)のような水溶性ポリマーあるいはマンニトールやソルビトールなどを用いる場合において添加される耐圧向上剤や耐熱安定剤を使用することなく、ハイブリッド型アルミ電解コンデンサの耐熱性と125℃以上の高温環境での長期信頼性を向上できることは従来知られておらず、導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサの定格電圧の範囲を拡大し、かつ生産効率を向上する上で極めて有用な技術である。

【要約】      (修正有)

【課題】定格電圧が63V以上の高耐圧特性と高温リフロー半田耐熱性及び125℃以上の高温度環境での耐久性と信頼性を具備した導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサとその製造方法を提供する。
【解決手段】電解液A及び導電性ポリマーを陰極とする導電性ポリマーハイブリッド型アルミ電解コンデンサにおいて、電解液Aが溶媒と溶質を含み、溶媒が、ジエチレングリコールまたは/およびトリエチレングリコールを主成分として含み、溶質が、炭素数が12以上の長鎖二塩基カルボン酸と高沸点のアミンとを含み、電解液Aが導電性ポリマーによる固体電解質層Bが形成されたコンデンサ素子内の空隙部に含有されている。
【選択図】図3
図1
図2
図3