特許第6783946号(P6783946)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6783946動力伝達ベルト用の心線のウレタン接着剤処理
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6783946
(24)【登録日】2020年10月26日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】動力伝達ベルト用の心線のウレタン接着剤処理
(51)【国際特許分類】
   F16G 1/08 20060101AFI20201102BHJP
   F16G 1/28 20060101ALI20201102BHJP
   F16G 5/06 20060101ALI20201102BHJP
   F16G 5/20 20060101ALI20201102BHJP
   C08G 18/10 20060101ALI20201102BHJP
   C08G 18/80 20060101ALI20201102BHJP
   C08G 18/32 20060101ALI20201102BHJP
   D06M 15/564 20060101ALI20201102BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20201102BHJP
【FI】
   F16G1/08 A
   F16G1/28 E
   F16G5/06 A
   F16G5/20 A
   F16G5/20 B
   C08G18/10
   C08G18/80
   C08G18/32 053
   D06M15/564
   D06M101:40
【請求項の数】29
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2019-540300(P2019-540300)
(86)(22)【出願日】2017年10月10日
(65)【公表番号】特表2019-533124(P2019-533124A)
(43)【公表日】2019年11月14日
(86)【国際出願番号】US2017055879
(87)【国際公開番号】WO2018071382
(87)【国際公開日】20180419
【審査請求日】2019年4月19日
(31)【優先権主張番号】15/290,686
(32)【優先日】2016年10月11日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504005091
【氏名又は名称】ゲイツ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ウィリアム ダブリュー.エル.
(72)【発明者】
【氏名】ウィルソン,キャシー ピーク
(72)【発明者】
【氏名】デューク,ジョセフ アール.,ジュニア.
【審査官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−512405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 1/00
F16G 5/00
C08G 18/00
D06M 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマー本体に埋設された抗張心線を備えるエラストマー本体を含む動力伝達ベルトの製造方法であって、
i)ポリイソシアネート及び第1のポリオールを含み、3,5−ジメチルピラゾール(「DMP」)ブロッキング剤によってブロックされたイソシアネート末端基をその分子上に有するポリウレタンプレポリマーと、
ii)ジアミン、トリアミン、及びテトラミンからなる群から選択される少なくとも1つの硬化剤と
を含む接着剤組成物を前記抗張心線に含浸させ;
含浸させたポリウレタンプレポリマーと硬化剤とを反応させて反応生成物を形成し;そして
形成された当該反応生成物を含む接着剤組成物が付与された前記抗張心線を前記ベルトのエラストマー本体に埋設することを含む方法。
【請求項2】
ポリウレタンプレポリマーと硬化剤とを反応させる前に、前記接着剤組成物がさらに第2のポリオール又はオリゴマーポリアミンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記接着剤組成物がさらに可塑剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
エラストマー本体に埋設された抗張心線を備えるエラストマー本体を含む動力伝達ベルトの製造方法であって、
i)ポリイソシアネート及びポリオールを含むポリウレタンプレポリマーと、
ii)ブロッキング剤によってその反応性基がブロックされたジアミン、トリアミン、及びテトラミンからなる群から選択される少なくとも1つの硬化剤と
を含む接着剤組成物を前記抗張心線に含浸させ;
含浸させたポリウレタンプレポリマーと硬化剤とを反応させて反応生成物を形成し;そして
形成された当該反応生成物を含む接着剤組成物が付与された前記抗張心線を前記ベルトのエラストマー本体に埋設することを含む方法。
【請求項5】
前記接着剤組成物がさらに可塑剤を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
エラストマー本体に埋設された抗張心線を備えるエラストマー本体を含む動力伝達ベルトの製造方法であって、
i)ポリイソシアネート及び第1のポリオールを含み、ブロッキング剤によってブロックされたイソシアネート末端基をその分子上に有するポリウレタンプレポリマーと、
ii)ブロッキング剤によってその反応性基がブロックされたジアミン、トリアミン、及びテトラミンからなる群から選択される少なくとも1つの硬化剤と
を含む接着剤組成物を前記抗張心線に含浸させ;
含浸させたポリウレタンプレポリマーと硬化剤とを反応させて反応生成物を形成し;そして
形成された当該反応生成物を含む接着剤組成物が付与された前記抗張心線を前記ベルトのエラストマー本体に埋設することを含む方法。
【請求項7】
ポリウレタンプレポリマーと硬化剤とを反応させる前に、前記接着剤組成物がさらに第2のポリオール又はオリゴマーポリアミンを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記接着剤組成物がさらに可塑剤を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
エラストマー本体に埋設された抗張心線を備えるエラストマー本体を含む動力伝達ベルトの製造方法であって、
i)ブロッキング剤によってその反応性基がブロックされたポリイソシアネートと、
ii)ポリオールと、
iii)ジアミン、トリアミン、及びテトラミンからなる群から選択される少なくとも1つの硬化剤と
を含む接着剤組成物を前記抗張心線に含浸させ;
含浸させたポリイソシアネートとポリオールと硬化剤とを反応させて反応生成物を形成し;そして
形成された当該反応生成物を含む接着剤組成物が付与された前記抗張心線を前記ベルトのエラストマー本体に埋設することを含む方法。
【請求項10】
エラストマー本体に埋設された抗張心線を備えるエラストマー本体を含む動力伝達ベルトの製造方法であって、
i)ブロッキング剤によってその反応性基がブロックされたポリイソシアネートと、
ii)ポリオールと、
iii)ブロッキング剤によってその反応性基がブロックされたジアミン、トリアミン、及びテトラミンからなる群から選択される少なくとも1つの硬化剤と
を含む接着剤組成物を前記抗張心線に含浸させ;
含浸させたポリイソシアネートとポリオールと硬化剤とを反応させて反応生成物を形成し;そして
形成された当該反応生成物を含む接着剤組成物が付与された前記抗張心線を前記ベルトのエラストマー本体に埋設することを含む方法。
【請求項11】
前記可塑剤が、フタレート、有機ホスフェート、ジアルキルエーテルジアルキルエステル及びポリアルキレンエーテルジアルキルエステルからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項3、5又は8に記載の方法。
【請求項12】
前記ブロックされた硬化剤が4,4’−メチレンビスジアニリン−NaCl錯体である、請求項4〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ブロックされた硬化剤が4,4’−メチレンビスジアニリン−NaCl錯体である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリウレタンプレポリマーが、3,5−ジメチルピラゾール(「DMP」)、ジエチルマロネート(「DEM」)、ε−カプロラクタム(「CAP」)、及びメチルエチルケトキシム(「MEKO」)からなる群から選択される少なくとも1つの前記ブロッキング剤でブロックされている、請求項6〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ブロッキング剤がDMPである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ブロッキング剤がMEKOである、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記抗張心線が炭素繊維を含む、請求項1〜8、11、12及び14〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記抗張心線が炭素繊維を含む、請求項9、10及び13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記接着剤組成物が溶媒溶液中で前記抗張心線に付与され、その後に乾燥して溶媒及びブロッキング剤を除去する、請求項1〜8、11、12及び14〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記接着剤組成物が溶媒溶液中で前記抗張心線に付与され、その後に乾燥して溶媒及びブロッキング剤を除去する、請求項9、10、13及び18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記接着剤組成物を前記抗張心線に含浸させるのに前記接着剤組成物の溶液を用いる工程、及び前記含浸後に加熱して前記抗張心線を乾燥する工程をさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記接着剤組成物を前記抗張心線に含浸させるのに前記接着剤組成物の溶液を用いる工程、及び前記含浸後に加熱して前記抗張心線を乾燥する工程をさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記加熱の工程は前記ポリウレタンプレポリマー又は硬化剤のブロックされた反応性基の少なくとも一部を脱ブロックもする、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記加熱の工程は前記ポリイソシアネート又は硬化剤のブロックされた反応性基の少なくとも一部を脱ブロックもする、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記プレポリマーがブロックされるまで有機溶媒中で前記ブロッキング剤と前記プレポリマーとを混合し、次いで硬化剤を添加することによって含浸工程用の接着剤浸漬液を調製する工程を含み、前記接着剤組成物が溶媒溶液中で前記抗張心線に付与され、その後に乾燥して溶媒及びブロッキング剤を除去する、請求項1〜3及び6〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
動力伝達ベルトを強化するための抗張心線の製造方法であって、
i)ポリイソシアネートと、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びポリエーテルポリオールから選択される少なくとも1つのポリオールとの反応生成物を含み、3,5−ジメチルピラゾール(「DMP」)ブロッキング剤によってブロックされたイソシアネート末端基をその分子上に有するポリウレタンプレポリマーと、
ii)ジアミン、トリアミン、及びテトラミンからなる群から選択される鎖延長剤と
を含む接着剤組成物を前記抗張心線の少なくとも一部に含浸させ;
含浸させたポリウレタンプレポリマーと鎖延長剤とを反応させてポリウレア−ウレタン組成物を形成することを含む方法。
【請求項27】
動力伝達ベルトを強化するための抗張心線の製造方法であって、
i)ポリイソシアネートと、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びポリエーテルポリオールから選択される少なくとも1つのポリオールとの反応生成物を含むポリウレタンプレポリマーと、
ii)ブロッキング剤によってその反応性基がブロックされたジアミン、トリアミン、及びテトラミンからなる群から選択される鎖延長剤と
を含む接着剤組成物を前記抗張心線の少なくとも一部に含浸させ;
含浸させたポリウレタンプレポリマーと鎖延長剤とを反応させてポリウレア−ウレタン組成物を形成することを含む方法。
【請求項28】
動力伝達ベルトを強化するための抗張心線の製造方法であって、
i)ポリイソシアネートと、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びポリエーテルポリオールから選択される少なくとも1つのポリオールとの反応生成物を含み、ブロッキング剤によってブロックされたイソシアネート末端基をその分子上に有するポリウレタンプレポリマーと、
ii)ブロッキング剤によってその反応性基がブロックされたジアミン、トリアミン、及びテトラミンからなる群から選択される鎖延長剤と
を含む接着剤組成物を前記抗張心線の少なくとも一部に含浸させ;
該含浸させたポリウレタンプレポリマーと鎖延長剤とを反応させてポリウレア−ウレタン組成物を形成することを含む方法。
【請求項29】
前記抗張心線が炭素繊維間に間隙を有する複数の炭素繊維を含むフィラメントヤーンを含み、及び前記ポリウレア−ウレタン組成物が前記間隙の体積の20%〜99%を含浸し及び前記炭素繊維を被覆する、請求項2628のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、ベルト強化のために抗張心線を処理する方法、その処理、その心線及び結果として得られたベルトに関し、さらに詳細には、ブロックされたウレタン接着剤組成物で処理された抗張心線強化材を備えたベルトに関し、そして具体的には、ブロックされた成分を用いて調製されたアミン硬化型ポリウレア−ウレタン組成物が含浸された炭素繊維心線に関する。
【背景技術】
【0002】
その内容の全体が本明細書中に組み込まれる、ナットソン(Knutson)等の米国特許第5,807,194号明細書は、注型ウレタンベルト材料のベルト本体と、当該本体から形成されたベルト歯と、当該ベルト歯の周面に沿って配置された耐摩耗性布補強材と、及び前記ベルト本体内に埋設された螺旋状に形成された心線であって炭素繊維のヤーンからなる抗張部材とを備え、前記心線の繊維間に間隙があり、そしてベルトが注型されるときにベルト材料が前記心線の間隙の少なくとも一部に浸透して、当該心線の間隙が心線体積1mm当たり最低約0.21mgのベルト材料を含む、同期動力伝達ベルトを開示している。心線中へのポリウレタンエラストマーの浸透は、優れた物理的接着を与えることができる。しかしながら、高モジュラスベルト材料としてその硬化状態のウレタンは、それが心線の間隙に浸透するときに特定の心線材料を受け入れ難いものにすることがある。なぜならば、そのように浸透された心線は受け入れ難いほど高い曲げ弾性率を有することがあるからである。また、浸透したウレタンは、心線を含むフィラメントに高すぎる歪を移行させることがあるので、結果として心線破損を生じる、受け入れ難いほどのフィラメント破断を引き起こすことがある。注型ポリウレタン材料は、心線を十分に含浸するのが難しいような粘度となることが多い。不十分な含浸に由来する問題としては、心線のほつれ、疲労寿命の低下などを挙げることができる。
【0003】
その内容の全体が本明細書中に組み込まれる、パターソン(Patterson)等の米国特許第5,231,159号明細書は、ベルトに有用な注型又はRIMポリウレタン組成物を記載している。ポリウレタンは、イソシアネート末端(好ましくは、ポリエーテル)プレポリマー、アミン末端又はヒドロキシル末端のポリオール、及びポリアミン又はポリオール鎖延長剤の反応生成物に基づいている。
【0004】
その内容の全体が本明細書中に組み込まれる、ウー(Wu)等の米国特許第6,964,626号明細書は、動的用途における使用のための、約140〜150℃までの高温安定性と約−35〜−40℃の低温可撓性とを有する、改善されたポリウレタン/ウレアエラストマーを開示している。これらのエラストマーは、ベルト、具体的には、自動車のタイミングベルト又は同期ベルト、Vベルト、マルチVリブドベルト又はマイクロリブドベルト、平ベルト材等における用途に有用である。ポリウレタン/ウレアエラストマーは、ポリイソシアネートプレポリマーを、対称性の第1ジアミン鎖延長剤、対称性の第1ジアミン鎖延長剤と第2ジアミン鎖延長剤との混合物、又は対称性の第1ジアミン鎖延長剤と非酸化性ポリオールとの混合物と反応させることにより調製されるが、これら成分はすべて標準的な成形工程を通して触媒の必要をなくし及び相分離を改善するように選択される。ポリイソシアネートプレポリマーは、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、又はそれらの混合物などの高温で非酸化性であるポリオールと、パラ−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、及び2,6−トルエンジイソシアネートなどの緻密、対称性で芳香族の有機ポリイソシアネート、又はtrans−1,4−シクロヘキサンジイソシアネート及びtrans,trans−4,4’−ジシクロヘキシルメチルジイソシアネートなどのtrans又はtrans,trans幾何構造を有し脂肪族である有機ポリイソシアネートとの反応生成物である。
【0005】
ポリウレタンベルトにおいて、より可撓性のある心線を作るために、心線をより軟質な材料で処理しようとする従来の取り組みでは、低いトルク耐性、屈曲の間に増大する高熱、離層に対する不十分な耐性等を有するベルトという結果に終わった。炭素繊維心線の接着剤処理は、ポリウレタンベルト又はゴムベルトのいずれの場合も、要求されるベルトの用途に対し、概して十分ではなかった。従来の炭素繊維の接着剤処理の代表的なものは、ナットソン(Knutson)の米国特許第6,695,733号明細書及び第6,945,891号明細書であり、それらはレゾルシノール−ホルムアルデヒド−ラテックス(「RFL」)処理された炭素繊維の抗張心線を用いた歯付ゴムベルトを開示している。また、炭素繊維接着剤技術の代表的なものは、トキ等の米国特許第4,044,540号明細書のエポキシプライマー及びRFL処理と、フジワラ等の米国特許第4,978,409号明細書のプライマー及びRFL処理である。
【0006】
サカジリ等の米国特許出願公開第2005−0271874A1号明細書は、主成分として不飽和ウレタン化合物を用いた炭素繊維のサイズ剤処理を開示している。サカジリ等の日本国特許出願公開第2005−023480A2号は、炭素繊維束を含浸するためのポリウレタン、エポキシ樹脂及び架橋剤を含む樹脂組成物を開示している。
【0007】
米国特許出願公開第2009/0098194A1号明細書は、ウレア−ウレタン化学物質を記載している。
【0008】
米国特許第3,962,511号明細書は、産業用搬送ベルト用の織布を被包するためのポリウレタン組成物及び、有機溶剤溶液中にポリウレタン反応混合物を付与する方法を開示している。
【0009】
それら両方の内容の全体が本明細書中に組み込まれる、米国特許第7,824,284号明細書及び米国特許第7,824,288号明細書が参照される。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、ポリウレタン動力伝達ベルト及びゴム駆動ベルトを含む、ベルト及び他の動的ゴム製品を強化するための可撓性で高モジュラスの抗張心線を提供することができるシステム及び方法を対象とする。本発明は、ポリウレタンベルト本体材料との良好な接着性と適合性を有し、かつ優れた引張強さ、低減されたほつれ又は毛羽立ち、及び耐久性を含む改善された取扱性を有する心線を提供することができる。本発明に係るポリウレタンベルトは、取扱や後方曲げ等に耐える改善された可撓性、及び改善された裁断性能を有することができる。本発明に係る炭素製抗張心線を備えたゴムベルトは、従来のRFL処理炭素心線と比べて改善された性能を示すことができる。本発明は、繊維の撚られた束の中に良好に浸透して当該束に適用されることができる接着剤処理を施した心線を対象とする。
【0011】
本発明は、エラストマーベルト本体内に埋設された抗張心線を備えたベルトであって、心線がポリウレア−ウレタン(「PUU」)接着剤処理されているベルトを対象とする。PUU接着剤は、ジイソシアネートと反応させたポリオールから得られる、イソシアネートを末端とするポリウレタンプレポリマー、例えば、ポリエステル又はポリエーテル又はポリカーボネートなどに基づくことができ、又はプレポリマーの原料に基づくことができる。ポリエステルは、ポリカプロラクトンであることができる。ポリオールは、ジオールとトリオールとの混合物であることができる。ジイソシアネートは、対称性で緻密なジイソシアネート、例えば、PPDI、TDI、MDI等であることができる。ジイソシアネートは完全に対称性でなくてもよいが、好ましくは対称性である。接着剤処理はポリアミン硬化剤を有する。ポリアミンは、緻密で対称性のジアミン硬化剤、又はトリアミン又はテトラミンであることができる。接着剤処理の反応性成分の少なくとも1つはブロックされて、接着剤組成物に対して室温安定性を与えると共に、高温における迅速な反応を与えることができる。代わりに、ポリアミンとプレポリマー(又はジイソシアネート)の両方が同時にブロックされていることができる。本発明は処理された抗張心線及び接着剤組成物も対象とする。
【0012】
本発明の一実施形態において、ポリウレタンプレポリマーは、ブロッキング剤、例えば、ピラゾール、ポリケチミン、フェノール、環状ケトン、カプロラクタム、オキシム、又はトリアゾールなどでブロックされる。この実施形態において接着剤組成物はさらに、接着剤の最終特性、例えば、モジュラスなどを調整するのに有用であることができる、ポリオール又は可塑剤又はその両方を任意の所望の割合で含んでいることができる。
【0013】
本発明の別の実施形態において、ポリアミン硬化剤は、ブロックされたアミン硬化剤、例えば、MDA−NaCl錯体などである。この実施形態における接着剤組成物はさらに、接着剤の最終特性、例えば、モジュラスなどを調整するのに有用であることができる可塑剤を含んでいることができる。
【0014】
種々の実施形態において、接着剤組成物はさらに、ポリオールのプレポリマーとの反応性が十分な作用時間又は保存寿命を与えるという条件で、モジュラスなどの特性を調整するのに有用であることができる、ポリオールを含んでいることができる。
【0015】
本発明の実施形態において、抗張心線は、接着剤を含浸させる前に撚られていることができる、炭素繊維フィラメントヤーンに基づいたものであることができる。繊維の種類にかかわらず、繊維間の間隙は接着剤で部分的又は完全に充填されることができる。繊維は接着剤で被覆されることができる。充填は、間隙の体積の20%〜99%又は100%であることができる。繊維は被覆されており一部の間隙は接着剤で充填されていることができるが、当該被覆は比較的に薄いものであってすべての繊維を完全に一緒に結合するほど十分ではないことができる。ベルト本体材料に注型ポリウレタンを用いる実施形態では、注型ポリウレタンが残りの間隙の一部又はすべてを含浸して接着剤被膜と密接に接触することができる。代わりに、心線は追加の保護被膜接着剤を有していることができる。
【0016】
本発明は、その1つがブロックされていることができる、ポリウレタンプレポリマー又はその構成成分をアミン硬化剤とともに適切な溶媒中に混合又は溶解することによって接着剤浸漬液を作る工程と、当該浸漬液中にヤーン又は撚られたヤーンを浸漬する工程と、溶媒を乾燥除去する工程と、及び接着剤を少なくとも部分的に硬化させる工程とを含む方法も対象とする。硬化の間に、ブロッキング剤は脱ブロックされ、そしてプレポリマー分子上のイソシアネート末端基とアミン硬化剤上のアミノ末端基との間にウレア結合ができる。プレポリマーは線状(2つのイソシアネート末端)又は分枝状(3つ以上のイソシアネート末端基)であることができる(好ましくは2つ又は3つだけ、又はそれらの混合物)。プレポリマーは、硬化剤を添加する前に溶媒中にブロッキング剤を添加することによってブロックされていることができる。アミン硬化剤は、溶媒中での又は相溶性の不活性な可塑剤中での塩を用いた錯形成によってブロックされていることができる。プレポリマーと硬化剤の両方がブロックされていることができる。
【0017】
前述したことは、以下の発明の詳細な説明がよりよく理解されることができるように、本発明の特徴及び技術的な利点をむしろ広く概説したものである。本発明のさらなる特徴及び利点は以下に説明されて本発明の特許請求の範囲の主題を形成する。当業者であれば、開示された概念及び特定の実施形態は、本発明の同じ目的を実施するためにモディファイし又は他の構造を設計するための基礎として容易に用いられることができることを理解されたい。当業者であれば、かかる同等の構成は別紙の特許請求の範囲に記載された発明の範囲から逸脱していないことも理解されよう。さらなる目的及び利点と共に、その機構及び操作方法の両方について、本発明に特有であると考えられる新規な特徴は、添付の図面と関連して考慮されれば、以下の説明からより良く理解されるであろう。しかしながら、各図面は例示及び説明だけの目的で設けられているのであり、本発明の範囲の定義として意図されるものではないことは明確に理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
同様の数字が同様の部分を示す、本明細書に組み込まれて本明細書の一部を成す添付の図面は、本発明の実施形態を説明するものであり、本明細書の記載と一緒になって本発明の原理を説明するように働く。図面において、
【0019】
図1】本発明の実施形態に従って構成されたタイミングベルトの、一部が断面で示される、断片透視図である。
【0020】
図2】本発明の実施形態に従って構成されたVベルトの、一部が断面で示される、断片透視図である。
【0021】
図3】本発明の実施形態に従って構成されたマルチVリブドベルトの、一部が断面で示される、断片透視図である。
【0022】
図4】本発明のベルトの実施形態の特性を試験するために用いられた可撓性試験の概略図である。
【0023】
図5】示された直径のロッド上で3回後方曲げした後の幾つかの実施例及び対照についてのベルト引張強さのグラフである。
【0024】
図6】ワイブル座標上の実施例のベルトの寿命のグラフである。
【0025】
図7】示された直径のロッド上で3回後方曲げした後の2つのさらなる実施例及び対照についてのベルト引張強さのグラフである。
【0026】
図8】示された直径のロッド上で3回後方曲げした後の幾つかのさらなる実施例及び対照についてのベルト引張強さのグラフである。
【詳細な説明】
【0027】
本発明は、紡織繊維に用いるための、そしてとりわけ、ベルト又はホースなどの強化ゴム製品に用いる処理された抗張心線を調製するための、ポリウレア−ウレタン(「PUU」)接着剤組成物を対象とする。PUU接着剤は、後にアミン又は水を用いて硬化されてウレア結合を形成するウレタン結合プレポリマーに基づく。PUU接着剤は、好ましくは、湿分硬化されるよりもむしろ、アミン硬化されることができる。好ましくは、反応体の1つはブロックされる。PUU接着剤は、好ましくは、パラ−フェニレンジイソシアネート(「PPDI」)とポリカプロラクトン(「PCL」)とのプレポリマーに基づいていることができる。PUU処理された心線は、注型エラストマー又は熱可塑性エラストマーのいずれの場合でも、ポリウレタン(「PU」)及び/又はPUUのベルト材又は他のポリウレタン製品にとりわけ好都合である。適切な保護被膜接着剤を用いると、PUU処理心線は、ゴムベルト材、ホース、又は他の加硫ゴム製品における使用にも適している。処理された心線の繊維は、好ましくは、炭素繊維であることができる。
【0028】
PUU接着剤はイソシアネート末端を有するポリエステル又はポリエーテル又はポリカーボネートなどのポリウレタンプレポリマーに基づくことができる。かかるプレポリマーはポリイソシアネートをポリオール(すなわち、ヒドロキシ末端ポリマー、好ましくはジオール及び/又はトリオール)と反応させることによって調製される。或いは、接着剤はプレポリマーの代わりにポリイソシアネート及びポリオールに基づくことができる。好ましくは、ポリイソシアネートは緻密な対称性のジイソシアネート、例えば、PPDI、2,4−及び/又は2,6−トルエンジイソシアネート(「TDI」)、4,4’−メチレンジフェニルジイソシアネート(「MDI」)などであることができる。ポリイソシアネートは完全に対称性でなくてもよいが、好ましくは対称性である。PUプレポリマーは、次いで、低分子又は緻密で、対称性のジアミン又はポリアミン硬化剤/鎖延長剤と共に、又は溶媒及び/又は空気中に存在する周囲湿分から簡単に得ることができる水と共に、適当な溶媒中に溶解されることができ、溶媒の乾燥後にプレポリマー分子上のイソシアネート末端基との間にウレア結合を形成することができる。プレポリマーは線状(すなわち、2つのイソシアネート末端基を有する)又は分枝状(すなわち、3つ以上のイソシアネート末端基を有する)であることができるが、好ましくは、2つ又は3つのイソシアネート末端基だけを有するプレポリマー、又はそれらの混合物若しくはブレンドである。ウレア結合/セグメントは凝集して、ポリエステル、ポリエーテル等のソフトセグメントのマトリックス全体にわたって分散されたハードセグメント領域を形成する。ベルト心線の用途に対し、接着剤をベルト本体材料より軟質にすることが好都合であることが見出されているので、低分子の緻密な硬化剤が好ましい。最も好ましい硬化剤は水であり、最小のハードセグメントを与え、従って最も軟質なPUU接着剤を与える。ベルト用途に対して最も好ましいソフトセグメントは、耐熱性、引裂抵抗等に優れている理由から、ポリカプロラクトンなどのポリエステルである。ポリエーテルは概して、ポリエステルより引裂抵抗が低い。引裂抵抗は、ベルトなどの強化ゴム製品において、とりわけ、心線と製品の本体又はベルトの歯コンパウンドとの境界面において極めて重要である。ベルト用途に対して最も好ましいジイソシアネートは、その熱的に安定な結合ゆえに、そして水などの硬化剤との反応性が最もよい理由から、PPDIである。好ましいPUUを用いて製造された心線は、浸漬又は処理され、そしてこのようにPUUが部分的又は十分に含浸した後に極めて可撓性である。結果として、処理された心線は、加工処理及び最終使用において最小の取扱損傷を示し、種々の注型PU又はPUUベルト本体の配合物に、熱可塑性エラストマー(「TPE」)及び熱可塑性ポリウレタン(「TPU」)に、並びに加硫ゴムベルトのゴムによく結合する。一部の用途では、適切な保護被覆接着剤を用いることで結合が増強されることができる。
【0029】
一般用語「ポリウレタン」(PU)は、通常当該技術分野において、ポリウレア、ポリイソシアヌレート、及び実際のウレタン基又はウレタン結合をほとんど又は全く有しない他のポリマーを含むように用いられることができる。本明細書中で、「ポリウレタン」は、より文字通りの意味で用いられ、イソシアネートとアルコールとの反応生成物であり、従って有意量のウレタン結合−NR−CO−O−を含むポリマーを指す。本明細書中及び特許請求の範囲において、「ポリウレア」は、湿気又は水の存在下でのイソシアネートとそれら自体との反応生成物、又は結果として有意量のウレア結合−NR’−CO−NR” −を生ずる、イソシアネートと反応中間体であることができるアミンとの反応を指すのに用いられる。これらのウレタン結合又はウレア結合において、R、R’及びR”はそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、又はアリール基である。「ポリウレア」という用語には、ウレア基がさらなるイソシアネートと反応して分枝ポリマーを形成する際に形成されるビウレットが含まれる。「ポリイソシアヌレート」は、トリ−イソシアヌレート環構造を形成する、イソシアネートとそれら自体との高温下での反応生成物であるポリマーを指すのに用いられる。ポリウレア及びポリウレタンという用語は、反応の総純度を意味するものではなく、本発明の接着剤系に関連する主な反応機構及び/又は反応生成物であると考えられるものを示すのに用いられる。従って、本明細書中で主にポリウレア−ウレタン反応生成物と称されることができるものにおいては、さらに言及することなく、少量の他の反応生成物又は他の反応機構が関与することがある。用語「ポリマー」は、ポリマー、コポリマー(例えば、2以上の異なるモノマーを用いて形成されたポリマー)、オリゴマー(すなわち、比較的に少数の繰り返し単位を有するポリマー)、及びそれらの組み合わせ、並びに混和性のブレンド中に形成されることができるポリマー、オリゴマー、又はコポリマーを含むことを理解されたい。「プレポリマー」という用語は、中間の分子量の状態まで反応されているモノマーの系又はモノマーを指す。この材料は、反応性基によって完全に硬化された高分子量の状態までさらに重合することができる。このように、反応性ポリマーと未反応モノマーとの混合物もまた、プレポリマーと称されることがある。典型的には、かかるプレポリマーは、通常、モノマーの分子量とフィルムポリマー又は樹脂の分子量との間である、比較的低分子量のポリマーである。それゆえに、当業者であれば、いったんポリマーが形成されるとモノマーはもはや存在しないようにモノマーが反応してポリウレア−ウレタンを形成することを理解されよう。しかしながら、本明細書中に記載された組成物には、硬化前の配合物にモノマーとポリマーの両方が存在することがある。用語「ポリアミン」は、1分子当たり少なくとも2つの(第1及び/又は第2)アミン官能基を有する化合物を意味する。用語「ポリオール」は、1分子当たり少なくとも2つのヒドロキシル官能基を有する化合物を意味する。用語「ジオール」は、1分子当たり2つのヒドロキシル官能基を有する化合物を意味する。用語「トリオール」は、1分子当たり3つのヒドロキシル官能基を有する化合物を意味する。総称して「ポリイソ(チオ)シアネート」と呼ばれる用語「ポリイソシアネート」及び「ポリイソチオシアネート」は、1分子当たり、それぞれ、少なくとも2つのイソシアネート又はイソチオシアネート官能基を有する化合物を意味する。用語「ジイソシアネート」は、1分子当たり2つのイソシアネート官能基を有する化合物を意味する。
【0030】
本発明の実施形態において有用なポリウレタンプレポリマーは、当該技術分野において公知の方法に従って、ポリオールをポリイソシアネートと反応させることによって調製されることができる。有用なポリオールとして、これらに限定されるものではないが、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリチオエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びポリカプロラクトンポリオールを挙げることができる。ポリカプロラクトンは、ポリエステルの種類と考えることができる。熱安定性を必要とする用途に好ましいポリオールは、150℃まで非酸化性であり、これらに限定されるものではないが、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、及びポリカーボネートポリオールを含む。本発明で使用されるポリエステルポリオールとして、これらに限定されるものではないが、多価アルコール、好ましくは、三価アルコールを一部加えた二価アルコール、及び/又は多塩基性カルボン酸、好ましくは、三塩基性カルボン酸を一部加えた二塩基性カルボン酸の反応生成物を含む。対応する無水ポリカルボン酸又は対応する低級アルコールのポリカルボン酸エステル又はそれらの混合物が、ポリエステルの調製に対してそれらの遊離ポリカルボン酸対応物よりも好ましい。ポリカルボン酸は特性上、脂肪族、脂環式、及び/又は芳香族である。非限定的な例として以下のものが挙げられる。コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸、無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水テトラクロロフタル酸、無水エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、無水エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、無水グルタル酸、フマル酸、任意に単量体の脂肪酸と混合された二量体及び三量体の脂肪酸、ジメチルテレフタル酸エステル及びテレフタル酸−ビス−グリコールエステル。かかるポリエステルの製造に用いられる適切な多価アルコールとして、これらに限定されるものではないが、以下のものを挙げることができる、エチレングリコール、1,2−及び1,3−プロピレングリコール、1,4−及び2,3−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール又は1,4−ビス−ヒドロキシメチルシクロヘキサン、2−メチル−1,3−プロパンジオール、グリセロール、トリメチロールプロパン(「TMP」)、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、及びそれらの混合物。ε−カプロラクトンなどのラクトンのポリエステル及びオメガ−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸も用いられることができる。
【0031】
適切なポリカーボネートポリオールは公知であり、例えば、ジオール、例えば、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール又はテトラエチレングリコール、及びそれらの混合物と、炭酸ジアリール、例えば、炭酸ジフェニル、炭酸ジアルキル、例えば、炭酸ジエチル、又はホスゲンとの反応によって調製されることができる。適切なポリエーテルポリオールは公知であり、ヒドロキシル末端ポリエーテル、例えば、プロピレンオキシド(PPO)、エチレンオキシド、及びポリテトラメチレンオキシド(PTMO)を含むアルキレンオキシド系のものを含む。好ましいアルキレンオキシドは、ポリプロピレンオキシドである。ポリオールは、平均ヒドロキシル当量約500〜5000で平均ヒドロキシル官能価約2〜8を有するポリエーテルポリオール、又はヒドロキシル当量約1000〜3000でヒドロキシル官能価約2〜4を有するポリエーテルポリオールであることができる。実施形態において、ポリエーテルポリオールは平均ヒドロキシル当量約1500〜2500で平均ヒドロキシル官能価約2〜3を含む。
【0032】
好ましいポリオールは、分子量約500〜約4000又は5000のポリカーボネートポリオール及びポリエステルポリオール、又はこれらのポリオールの混合物である。より好ましいポリオールは、分子量約300又は500〜約4000又は5000のポリ(ヘキサメチレンカーボネート)(「PCB」)ジオール及び/又はトリオール、ポリカプロラクトン(「PCL」)ジオール及び/又はトリオール、及び、ポリ(ヘキサメチレンアジペート)ジオール及び/又はトリオールである。ベルト及びホース用の抗張心線を処理するのに最も好ましいポリオールは、ポリカプロラクトンジオール及び/又はトリオールである。ジオールについて最も好ましい分子量の範囲は、約1500〜約2500であり、トリオールについては約1000〜約4000、又は約2500〜約3500である。ポリオールは、本発明に有用なポリイソシアネートプレポリマーを形成するジイソシアネートとの反応前に、約0.03重量%未満、より好ましくは約0.0150重量%の水分レベルまで乾燥される。プレポリマーを調製するために使用されるポリオールは、上記ポリオールから選択される少なくとも1つのトリオールと、1つ以上の他のポリオール、好ましくはジオールとの混合物であることができる。最も好ましいジオール及びトリオールは、上記に列挙された最も好ましいポリオールである。ポリオール混合物中のトリオール架橋剤の量は、トリオールを約2%〜100%までの範囲で使用することができるので、特に制限されない。それにもかかわらず好ましい実施形態では、ポリオール混合物中のトリオールの量は、好ましくは、プレポリマーの全ポリオール成分の5重量%〜約65重量%までであることが好ましく、より好ましくは、約15%〜約55%である。ポリオール混合物の残余は、ジオールであることができる。過剰なトリオールは、プレポリマーの粘度上昇、及び/又はポリウレタンによる繊維強化材のぬれ性や浸透性の欠如、及び/又は混合物の化学的不安定性から、加工又は混合の困難性をもたらす一方で、寡少のトリオールは、不十分な架橋をもたらし及び高温性能がほとんど若しくは全く改善されない。本発明の実施形態で、プレポリマーはジオール系のプレポリマーとトリオール系のプレポリマーとを混合することにより調製されることができる。しかしながら、トリオール系プレポリマーの粘度の上昇はこのことを困難にする。従って、好ましい実施形態は、ジオールとトリオールとの混合物から、好ましくは、PCLポリオールから調製されたプレポリマーである。
【0033】
プレポリマーを調製するのに有用なポリイソシアネートとして、これらに限定されるものではないが、パラ−フェニレンジイソシアネート(「PPDI」)、2,4−及び/又は2,6−トルエンジイソシアネート(「TDI」)、4,4’−メチレンジフェニルジイソシアネート(「MDI」)、ヘキサメチレンジイソシアネート(「HDI」)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(「NDI」)、trans−1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(「t−CHDI」)、トリメチルキシリレンジイソシアネート(「TMXDI」)、イソホロンジイソシアネート(「IPDI」)等、及びそれらの混合物を挙げることができる。本発明に用いられるポリイソシアネートプレポリマーに適した有機ポリイソシアネートは、好ましくは、以下の特性。得られるエラストマーの相分離の改善、及び、配合物において触媒の必要をなくすアミン基又は水との高い反応性(そうでなければ得られるエラストマーの高温における戻りを促進する)のために、芳香族化合物では緻密で対称な構造、又は脂肪族化合物ではtrans又はtrans,trans幾何構造、を有するものである。ポリウレタンプレポリマーの調製に出発成分として好ましいポリイソシアネートとして、これらに限定されるものではないが、緻密で対称性の芳香族ジイソシアネートを挙げることができ、これらに限定されるものではないが、PPDI、NDI、及び2,6−トルエンジイソシアネート(「2,6−TDI」)を挙げることができる。ポリイソシアネートプレポリマーの調製に出発成分として有用なポリイソシアネートとして、trans又はtrans,trans幾何構造を有する脂環式ジイソシアネートも挙げることができる。これらのアイソマーは、概して純粋であり、すなわち、シス構造のアイソマーが実質的にない状態で存在し、従って硬化すると良好な相分離を促進する。これらとして、以下に限定されるものではないが、t−CHDI、及びtrans,trans−4,4’−ジシクロへキシルメチルジイソシアネート(「t,t−HMDI」)を挙げることができる。ベルト及びホース用の抗張心線の強化において本発明の実施形態に用いるのに最も好ましいのは、PPDIである。
【0034】
本発明に有用な鎖延長剤(すなわち、硬化剤)は、プレポリマーとの十分な反応時間が可能であり、そして所望量の相分離とハードセグメント特性とを有する望ましいウレア結合をもたらすように選択される。鎖延長剤は、脂肪族アミン、芳香族アミンの化合物及びそれらの混合物を含んでいることができる。鎖延長剤として、脂肪族アミン、例えば、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、アミノエタノールアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン(「IPDA」)及びトリエチレンテトラミンなどを挙げることができる。鎖延長剤は、好ましくは、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、1,5−ナフタレンジアミン、1,4−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノベンゼン、4,4’−メチレンビス(オルトクロロアニリン)(「MOCA」)、4,4’−メチレンビスジアニリン(「MDA」)、3,5−ジエチル−2,4−ジアミノトルエン、ジエチルトルエンジアミン(「DETDA」)、トリメチレングリコールジアミノベンゾエート(「TMGDAB」)、4,4’−メチレンビス(3−クロロ−2,6−ジエチルアニリン)(「MCDEA」)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)(「MDEA」)、及び3,3’,5,5’テトライソプロピル−4,4’−メチレンビスアニリンを含むことができる芳香族アミンであることができる。好ましい鎖延長剤は、低分子、緻密で対称の芳香族ジアミンである。好ましくは、硬化剤は2以下のフェニル環及び/又は3以下の炭素原子の脂肪族基を有する。一つの実施形態において、鎖延長剤は水であり、例えば、環境湿分を含む。水は、最も小型のウレア結合−NH−CO−NH−を形成する。硬化剤としての水との反応によって形成される単純なウレア結合は、なおも良好な相分離及び物理的特性を与えながら、ハードセグメント領域のサイズを最小にする。このことは、ベルト及びホースのような動的ゴム用途に用いるのに望ましい、得られる処理された繊維又は抗張心線の良好な可撓性をもたらす。さらに、水に基づくこのような小さなハードセグメントは、PPDIなどの低分子の対称性ジイソシアネートと結合して、高温安定性、可撓性、モジュラス及び強度を含む特性の全体的なバランスが良好になる。しかしながら、水は所望よりもゆっくりと反応することができそして処理された心線は長過ぎる期間にわたりあまりに粘着性のままであることができる。従って、ポリアミン硬化剤が好ましいことができる。
【0035】
本発明の実施形態に係るポリウレア−ウレタン接着剤の調製において有用な対称性の第1ジアミン鎖延長剤は、触媒を必要とせずに迅速にポリイソシアネートプレポリマーと反応することができるものである。本発明の実施形態において有用な鎖延長剤の対称性は改善された相分離を与えそしてそれゆえに動的用途における最終PUUエラストマーの熱安定性を高める。適切な第1ジアミン鎖延長剤として、これらに限定されるものではないが、約90〜約500の分子量を有する対称性の芳香族アミン、及びそれらの混合物を挙げることができる。例として以下のものを挙げることができる。1,4−フェニレンジアミン、2,6−ジアミノトルエン、1,5−ナフタレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、1−メチル−3,5−ビス(メチルチオ)−2,6−ジアミノベンゼン、1−メチル−3,5−ジエチル−2,6−ジアミノベンゼン、4,4’−メチレン−ビス−(3−クロロ−2,6−ジエチルアニリン)(MCDEA)、4,4’−メチレン−ビス−(オルトクロロアニリン)、4,4’−メチレン−ビス−(2,3−ジクロロアニリン)、トリメチレングリコールジ−パラ−アミノ安息香酸、4,4’−メチレン−ビス(2,6−ジエチルアニリン)(MDEA)、4,4’−メチレン−ビス−(2,6−ジイソプロピルアニリン)、4,4’−メチレン−ビス−(2−メチル−6−イソプロピルアニリン)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン等。対称性の第1ジアミン鎖延長剤は、硬度などのエラストマー特性を変化させるために、場合により、少量の第2ジアミン鎖延長剤と組み合わせられることができる。第2ジアミン鎖延長剤の適切な例は分子量約150〜約500を有し、そしてこれらに限定されるものではないが、N,N’−ジ−sec−ブチル−アミノベンゼン及びN,N’−ジ−sec−ブチル−アミノ−ジフェニルメタンを含む。
【0036】
本発明の接着剤組成物において、反応性成分、すなわち、ポリイソシアネート、プレポリマー又は硬化剤の1以上をブロックすることが好都合であることができる。ブロッキング(キャッピングとも呼ばれる)とは、ポリイソシアネート若しくはプレポリマーのイソシアネート末端基又はジアミン硬化剤のアミン基などの反応性基にブロッキング剤を結合させることをいい、ブロッキング剤は室温において反応性基がその通常の反応を行うのを防ぐが、高温においては容易に解離して反応性基が通常の反応に再び利用されることができるようにする。
【0037】
プレポリマー中のイソシアネート基をブロックすることが好都合であることができる。適切なブロッキング試薬として、ポリケチミン、フェノール、環状ケトン、カプロラクタム、オキシム、トリアゾール、特定のアルコール、及びβ−ジカルボニル化合物、例えば、エチルアセトアセテート及びマロン酸エチルなどを挙げることができる。好ましいブロッキング剤は、メチルエチルケトキシム(「MEKO」)である。有用なフェノールとして、ノニルフェノール(例えば、p−ノニルフェノール)、ブチルフェノール(例えば、p−若しくはo−tertブチルフェノール)、ドデシルフェノール、プロピルフェノール、ヘプチルフェノール、オクチルフェノール、クレゾール、トリメチルフェノール、キシレノールなどを挙げることができる。他の好ましいブロッキング剤として、3,5−ジメチルピラゾール(「DMP」)、ジエチルマロネート(「DEM」)、ε−カプロラクタム(「ε−CAP」又は単に「CAP」)、1,2,4−トリアゾール、ジメチル−1,2,4−トリアゾール、イミダゾール、ジイソプロピルアミン、アセト酢酸エステルを挙げることができる。有用なオキシムとして、アセトフェノンオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトキシム、シクロヘキサノンオキシム、プロピルアルデヒドオキシム、ホルムアルドキシム、ブチルアルデヒドオキシム、シクロペンタノンオキシム、ベンゾフェノンオキシム、及びブタノンオキシムを挙げることができる。ブロッキング剤の混合物が使用されることができる。ブロックされたポリウレタンプレポリマーを調製するのに使用される出発材料におけるイソシアネート基対ブロッキング剤の当量比も望ましいように変えられることができる。或る実施形態において、NCO当量対ブロッキング剤の比は1:1.01〜1:1.20、好ましくは、1:1.03〜1:1.10、又は好ましくは、約1:1.05の範囲内であることができる。
【0038】
本発明の実施形態によれば、浸漬溶液は、ブロックされたイソシアネートプレポリマー(1以上)、及びジアミン又は脂肪族第1又は第2トリアミン(1以上)又はテトラミン(1以上)を適切なモル比で、及び場合により、可塑剤、オリゴマーポリアミン、又はポリオールを、すべて有機溶媒溶液中に含んでいることができる。これらの挙げられたアミンの選択肢のすべては「ポリアミン」という用語に含まれるとみなされる。アミンは高温において脱ブロックされたイソシアネートプレポリマーと自発的に反応して速乾性のポリウレタン−ウレア処理を生じることができる。配合物中への1以上の可塑剤、オリゴマーポリアミン、又はポリオールの添加はフィルムモジュラスを低下させて抗張心線の可撓性を改善し、より良好なベルト後方曲げ耐性を生じさせることができる。接着剤特性は、例えば、硬度及び引張弾性率、伸び、及び強度について、試験用の適切なフィルムを注型することによって決定されることができる。
【0039】
適切なブロックされたイソシアネートプレポリマーとして、ケムチュラ社(Chemtura Corporation)によりアディプレン(Adiprene)商標の下に販売される、アディプレンBLFP2950A、アディプレンBLM500、及びアディプレンBL16、さらに、バクセンデン・ケミカルズ社(Baxenden Chemicals Ltd.)によりトリキセン(Trixene)商標の下に販売される、トリキセンBI−7641を含むトリキセン「BIグレード」、さらに、コヴェストラ(Covestra)によりデスモジュール(Desmodur)商標の下に販売される、デスモジュールBL 1100/1を挙げることができる。より少ないNCOを有する同様なブロックされたプレポリマーはフィルムモジュラスを低下させるのに好ましいであろう。より多いNCOのプレポリマーは概して、より高いフィルムモジュラスを与えるが、それは可塑剤、ポリオール等を添加することによって下方に調整されることができる。ポリオールはイソシアネートと反応し過ぎるのでブロックされていないプレポリマーと一緒に溶液中に用いることができないことに留意されたい。プレポリマーのブロッキングはこのように接着剤組成物に対する追加の配合選択を可能にする。
【0040】
ブロックされたプレポリマーと共に用いるのに適した脂肪族第1又は第2トリアミン又はテトラミン硬化剤として、ハンツマン社(Huntsman Corporation)により商品名ジェファミン(Jeffamine)T−5000、ジェファミンT−403、 ジェファミンST−404、及び ジェファミン XTJ−616で販売されているものを挙げることができる。3又は4(2より大きい)のアミン官能価は、ジアミン官能価より迅速な硬化及び乾燥並びに処理フィルムについて低いモジュラスを与えることができる。
【0041】
ジアミン硬化剤と共に用いられるプレポリマーのブロッキングの代わりに、1以上のブロックされたジアミン硬化剤を用いることが好都合であることがある。ジアミン硬化剤は、例えば、溶媒中又は相溶性で不活性の可塑剤中で塩を用いて錯生成(complexing)することによってブロックされることができる。ブロックされたジアミンの例として以下を挙げることができる。トリス(4,4’−ジアミノ−ジフェニルメタン)塩化ナトリウム(可塑剤中に分散されたMDA−NaCl塩錯体)、例えば、ケムチュラ社による商品名カイトゥール(Caytur)31、デュラキュール(Duracure)C3LF、及びデュラキュールC3で販売されるもの。ケチミンもブロックされたアミンと考えることができそして有用であることができる。プレポリマーと硬化剤の両方がブロックされていることができることに留意されたい。
【0042】
ポリアミンの添加量はプレポリマー上のすべての利用可能なイソシアネート末端基と反応する化学量論的な量、又はそれよりやや多いか又は少ない量であることができる。ポリアミンの化学量論的な量よりやや少ない量を用いると幾らかの架橋を促すことができ、それは一部の用途で有益であることができる。接着剤組成物中に追加のポリオールが含められると、ポリオールがプレポリマー上のイソシアネート末端基と反応するので、ポリアミンの量はそれに応じて低減されることができる。プレポリマー上のイソシアネート基の数に対する追加のポリオール上の活性アルコール基を加えた反応性アミン基のモル比は、有利には、0.8〜1.1、好ましくは、0.9〜1.0の範囲内であるように選ばれることができる。
【0043】
可塑剤はより低いフィルムモジュラスのために加えられることができる。有用な又は適切な可塑剤の例として、フタレート、有機ホスフェート、ジアルキルエーテルジアルキルエステル、及びポリアルキレンエーテルジアルキルエステル、例えば、ジ−又はポリ−エチレングリコールジアルキルエステルなどを挙げることができる。ジアルキルエーテルジエステルとして、C1〜C4−エーテル−又はポリエーテル−ジカルボン酸のC4〜C12−エステルを挙げることができる。かかる可塑剤の例として、カプレート、カプリレート、ヘキサノエート、ヘプタノエート、ペラルゴネート、2−エチルヘキソエートなどのエステルを挙げることができる。かかる可塑剤の例として、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、及び約800までの分子量を有するポリエチレングリコール(PEG)などのエーテルのジアルキルエステルを挙げることができる。市販のフタレート型及びエステル型の可塑剤の有用な非限定的な例として、BASF社により商品名パラチノール(Palatinol)(登録商標)で、エクソンモビル社(ExxonMobile)によりジェイフレックス(Jayflex)(登録商標)で、及びハルスター社(Hallstar)によりテグマー(Tegmer)(登録商標)で販売されているものを挙げることができる。
【0044】
ポリオールは接着剤の硬度又はモジュラスを調整するように用いられることができるが、溶液中でのプレポリマー又はポリイソシアネートとポリオールとの間の初期の反応を防ぐようにプレポリマー又はイソシアネートがブロックされている場合だけである。適切なポリオールは前記した1以上のポリオールを含んでいることができる。幾つかの好ましいポリオールはプレポリマーを形成するのに用いられる上記したと同じものである。
【0045】
オリゴマーポリアミンも接着剤の硬度又はモジュラスを調整するように用いられることができる。有用なポリアミンは上記したポリオールと同じであることができるが、ヒドロキシル基がアミン基によって置換されている。かかるポリアミンは有利なことに同等のポリオールより速く反応し、配合物をより速く硬化/乾燥させるので抗張心線をより迅速に加工又は処理することができる。典型的なオリゴマーポリアミンとして、ハンツマン社からジェファミンD−2000として入手可能なポリオキシプロピレンジアミンを挙げることができる。
【0046】
本発明は、本発明の組成物からの製品の処理加工を補助するため、又は本発明のエラストマーから製造される製品の機能を補助するために、種々の他の添加剤、例えば、酸化防止剤、他の可塑剤、充填剤、着色剤、定着剤、共反応体、鎖延長剤等を用いることもできる。例えば、酸化防止剤は、本発明のエラストマー組成物が動力伝達ベルト製品に用いられる場合にとりわけ有用である。適切な酸化防止剤として、2,6−ジ−t−ブチルフェノール及び置換アルカン酸のヒンダードフェノールのポリアルキレングリコールエステルを挙げることができる。酸化防止剤の例として、エチレングリコールの3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸エステル、トリメチレングリコールのビス{3−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}を挙げることができる。他のポリオール、ポリイソシアネート、イソシアネート末端ポリマー、エポキシ、及び/又はアミンが、例えば、定着剤、共反応体として含められることができるが、好ましくは、それらは含まれない。
【0047】
加えられる他の化合物は本発明の組成物と共に有用であることができる。これらは、組成物の反応時間を減少させる触媒を含む。触媒は、当該技術分野で公知の任意の望ましい化合物、例えば、有機金属化合物、第三アミン及びアルカリ金属アルコキシドなどから選択されることができる。しかしながら、ポリウレア−ウレタンは触媒を用いて又は用いないで調製されることができるが、一方、アミン末端基を含有しないポリオール系ポリウレタンは、最も典型的には、触媒を用いて調製される。触媒として有用の適切な有機金属化合物として、必ずしもこれらに限定されるものではないが、錫、水銀、鉄、亜鉛、ビスマス、アンチモン、コバルト、マンガン、バナジウム、銅等の脂肪族石鹸を挙げることができる。例として、炭素数2〜20のカルボン酸である有機配位子、例えば、ジブチルジラウリン酸錫、ジメチルジラウリン酸錫、フェニルプロピオン酸水銀、ナフテン酸銅、ネオデカン酸ビスマスなどを挙げることができる。好ましい実施形態において、触媒は用いられない。
【0048】
このように、本発明に係る接着剤組成物の好ましい実施形態は、唯一の反応性成分としてポリウレタンプレポリマー及びポリアミン硬化剤を含む。或る適用において、硬化剤として水のみの使用は所望より遅速である硬化速度を生じることがあり、ジアミン硬化剤の使用は所望より低い保存安定性の接着剤混合物を生じることがある。本発明の実施形態に係る接着剤組成物におけるブロックされた成分の使用は、許容することのできる保存安定性と適切に速い硬化速度との両方を提供することができる。ブロックされた成分はポリウレタンプレポリマー又はポリアミン硬化剤のいずれかであることができ、そしていずれの場合も、硬化剤として水に依存しない。意外なことに、ブロックされた成分の使用は以下の所定の実施例において見られるように改善された製品性能をもたらすこともできることも見出された。
【0049】
本明細書の開示の全体を通じて、「心線処理」という用語は、ヤーン及び/又はヤーンフィラメント(サイズ剤を含んでいる又は含んでいないことができる)に付与される材料を意味するように用いられ、この材料は、ヤーン及び/又はヤーンフィラメントの表面又はサイズ処理された表面の少なくとも一部であってかかるフィラメント及びヤーンの間に形成される1以上の間隙の少なくとも一部の内に位置して終わる。本明細書に開示された心線処理はヤーン又はフィラメント上に存在する任意のサイズ剤とは性質が異なると考えられる。
【0050】
多くのポリイソシアネートプレポリマーは市販され入手可能であり、本発明の1以上の実施形態の実施において有益に用いられることができ、例えば、ピーター(Peter)の米国特許第6,174,984号明細書、ローゼンバーグ(Rosenberg)の米国特許第5,703,193号明細書、ローゼンバーグ(Rosenberg)等の米国特許出願公開第2003/0065124号明細書、及びローゼンバーグ(Rosenberg)等の米国特許第6,046,297号明細書に記載されているような、プレポリマー中の遊離ジイソシアネートの濃度が、例えば、プレポリマーの1%未満、又は0.5%未満、又は0.25%未満、例えば、約0.1%以下のレベルまで低減された、一般に「低遊離」プレポリマーと称されるプレポリマーを含む。
【0051】
本発明を実施するための適切なイソシアネート末端プレポリマーは、市販されている以下のものを含む。例えば、多くの有用なプレポリマーはケムチュラ社からアディプレン(ADIPRENE)(登録商標)、デュラキャスト(DURACAST)及びヴィブラタン(VIBRATHANE)(登録商標)の1以上の商標の下で入手可能であり、好ましい低遊離モノマーであるPPDI末端ポリカプロラクトンプレポリマーであるアディプレン(登録商標)LFP2950A、PPDI末端ポリカーボネートプレポリマーであるアディプレン(登録商標)LFP3940A、PPDI末端ポリエステルプレポリマーであるアディプレン(登録商標)LFP1950A、TDI末端ポリエステルプレポリマーであるアディプレン(登録商標)LF1950A、及びPPDI末端ポリエーテルプレポリマーであるアディプレン(登録商標)LFP950Aを含み、アディプレン(登録商標)LF1600D、LF1700A、LF1800A、LF1860A及びLF1900Aは、有用な低遊離モノマーであるTDI末端ポリエステルプレポリマーであり、そしてアディプレン(登録商標)LF600D、LF750D、LF753D、LF800A、LF900A、LF950A、LFG740D、LFG920及びLFG964Aは、有用な低遊離モノマーであるTDI末端ポリエーテルプレポリマーであり、アディプレン(登録商標)LFM2450、デュラキャスト(登録商標)C930及びヴィブラタン(登録商標)8030及び8045は、有用なMDI末端ポリカプロラクトンプレポリマーであり、アディプレン(登録商標)LFH120、2840、3520、及び3860は、有用なHDI末端プレポリマーである。有用なプレポリマーは、コヴェストラからヴルコラン(VULKOLLAN)(登録商標)及びバイテック(BAYTEC)(登録商標)の1以上の商標の下に、トレルボルグ(Trelleborg)からテクタン(TECHTHANE)(登録商標)の商標の下に、コイム ユーエスエー社(COIM USA, Inc.)からイムタン(IMUTHANE)(登録商標)及び/又はヴェルサタン(VERSATHANE)(登録商標)の商標の下に、アンダーソン・ディヴェロープメント社(Anderson Development Company)からアンデュール(ANDUR)(登録商標)の下に、ダウ(Dow)からエシェロン(ECHELON)(登録商標)の商標の下に販売されるポリウレタンプレポリマー、なども入手可能である。
【0052】
適切なブロックされたイソシアネートプレポリマーは、本発明を実施するための適切なイソシアネート末端プレポリマーから、当該プレポリマー及びブロッキング剤を有機溶媒に加えそして適切な条件下に反応させることによって製造されることができる。好ましくは、イソシアネート末端基の完全なブロッキングを確実にするために少し過剰のブロッキング剤が用いられる。適切な条件は選択された成分の揮発性及び反応性に依存する。一般に、ブロッキングは室温において攪拌しながら溶液中で行われることができる。ブロッキング反応は熱を加える、例えば、溶液を約70℃又は80℃まで加熱することによって促進されることができる。
【0053】
図1を参照すると、典型的なタイミングベルト10が図示されている。ベルト10は、エラストマーの主本体部12及び主本体部12の内周に沿って配置されたシーブ接触部14を含む。この特定のシーブ接触部14は、横溝付きプーリ又はスプロケットと噛合するように設計される横歯16と底部18とが交互に配置された形状にある。抗張層20は、主本体部12内に配置されて、ベルト10に支持及び強度を与えている。図示された形状では、抗張層20は、主本体部12の長さに沿って縦に配列された複数の抗張心線22の形状にある。一般に、抗張層20は当該技術分野で公知のいかなるタイプのものを用いてもよいことを理解されたい。さらに、抗張部材として任意の所望の材料、例えば、綿、レーヨン、ポリアミド、ポリエステル、アラミド、鋼、ガラス、炭素、PBO、ポリケトン、玄武岩(basalt)、ホウ素、及び低い耐負荷能力に対して向けられた不連続繊維さえも、又はそれらのハイブリッドが用いられることができる。図1の実施形態において、抗張層20は、一緒に心線に撚られ又はプライされそして本明細書中に記載のPUU接着剤処理で処理される、高モジュラス繊維の1以上のヤーンから製造された図示の抗張心線22の形状にある。好ましい高モジュラス繊維として、炭素、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ(p−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール)(PBO)、アラミド、玄武岩、ホウ素又は液晶ポリマー(LCP)を挙げることができる。好ましい実施形態において、心線22はアラミド又は炭素繊維を含む。より好ましくは、心線は、撚られたフィラメントヤーン、又は連続炭素フィラメントのヤーンの撚られた束であることができる。
【0054】
アラミドによって、パラ位又はメタ位のいずれかにおいて2つの芳香環に直接に結合されたそのアミド結合を有する長鎖合成ポリアミドが意味される。本発明において、例えば、PPD−T、ポリ(p−ベンズアミド)、コポリ(p−フェニレン/3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド)等が用いられることができる。PPD−Tによって、p−フェニレンジアミンと塩化テレフタロイルの等モル重合から得られるホモポリマーを意味し、及び、少量の他のジアミンをp−フェニレンジアミンと共に及び少量の他の二酸塩化物を塩化テレフタロイルと共に取り込むことから得られるコポリマーも意味する。本発明の実施に対して適切な市販のアラミド繊維として、帝人株式会社による商標であるテイジンコーネックス(TEUINCONEX)(登録商標)、テクノーラ(TECHNORA)(登録商標)及びトワロン(TWARON)(登録商標)、並びにデュポン社(E.I. DuPont de Nemours and Company)による商標ノーメックス(NOMEX)(登録商標)及びケブラー(KEVLAR)(登録商標)の下に販売されるものを挙げることができる。
【0055】
補強布24が用いられてベルト10の交互に配置された歯16と底部18とに沿って密着され、シーブ接触部に対する面カバー又は歯布を形成する。この布は、任意の所望の角度をなす縦糸と横糸とからなる従来の織布のような任意の所望の構成であることができ、又は間隔を空けたピックコードによって一緒に保持された縦糸、又は編まれ若しくはブレイドされた(braided)構成、又は不織布等からなることができる。1プライより多い布、又は異なる布の種類の組み合わせが用いられることができる。所望により、布24はストランドがベルトの移動方向と角度をなすようにバイアスで裁断されることができる。綿、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、アラミド、ポリケトン、麻、ジュート、ガラス繊維、及び、種々の他の天然及び合成繊維(これらのブレンド又は組み合わせを含む)などの材料を使用した従来の布が用いられることができる。本発明の好ましい実施形態において、布層24は、縦糸又は横糸の少なくとも1つがナイロン製である伸張性の耐磨耗布からなる。好ましい形態において、布層24はナイロン66伸縮性布で作られており、そして協動する駆動シーブに係合するためのエラストマー不含(ポリウレタン/ウレア不含)表面を提供する。エラストマー不含表面は布に積層された高分子フィルムを含んでいることができる。布は、所望により、本発明のPUU心線接着剤で処理されていてもよい。
【0056】
図2を参照すると、標準的なノッチ付きVベルト26が図示される。Vベルト26は、図1のものと同様なエラストマー本体部12と、また同じく図1に示されたと同様の、心線22の形態である抗張強化層20を含む。Vベルト26のエラストマーの本体12、抗張層20及び心線22は、図1について上述されたと同じ材料から構成されることができる。抗張層20は、モジュラス又は他の特性の観点から転移層を設けるために、及び/又は心線と主本体との間の接着層として機能するように、場合により主本体部の残余の部分とは異なるエラストマー組成物又はゴム材料を含んでいることができることに留意されたい。任意の接着性ゴム部材は、例えば、その内容が参照までに本明細書中に組み込まれるサウス(South)の米国特許第6,616,558号明細書に記載されたような、主本体より高モジュラスのものであることができる。
【0057】
Vベルト26も図1の動力伝達ベルトにおけると同様にシーブ接触部14を含む。しかしながら、この実施形態では、シーブ接触部14は、Vシーブ中に楔入るように設計された、ベルトの2つの並置側面である。Vベルト26の底面は、交互に配置されたノッチの凹み表面又は凹部28及び凸部30の形態である。これらの交互に配置された凹み表面28及び凸部30は、図示されるように概ね正弦曲線の経路に沿っており、シーブ接触部14がプーリ及びシーブの周囲を通過する際に、曲げ応力を分配して最小にするように働く。種々の方法で正弦曲線から逸れる種々のノッチの形状も有用である。しかしながら、凹部28及び凸部30は任意である。ベルト厚さより比較的に幅広のベルト本体を示すものが多い、無段変速機(「CVT」)用に設計されたVベルトは、Vベルトのカテゴリーに含まれる。
【0058】
図3を参照すると、マルチVリブドベルト32が図示される。マルチVリブドベルト32は、図1及び図2のベルトのように、主エラストマー本体部12を含み、そして、既述のように、好ましくは心線22の形態である抗張強化部材20も含む。長手方向に溝が刻まれたシーブ接触部14は、ベルト32の駆動面34を規定する対向側面を有する複数の凹部領域38と交互になっている複数の隆起領域又は頂部36の形態にある。図1図3のこれらの例のそれぞれにおいて、シーブ接触部14は、主本体部12と一体になっており、以下でより詳細に説明される同じエラストマー材料で形成されるか、又は別の材料で層状にされることができる。本発明は、図1図3に示された実施形態を参照して説明されるが、本発明は例示されたようなこれらの特定の実施形態や形状に限定されるものではなく、むしろ以下に定義される特許請求の範囲内において任意のベルト構造に適用可能であることを理解されたい。
【0059】
炭素繊維は、一般に、ポリアクリロニトリル繊維などの別の繊維を炭化することによって製造され、この炭化工程の間に、繊維の径は実質的に減少する。炭素ヤーンは、概して、デニール又はデシテックス(dtex)によるよりは、そこに含まれる繊維の数によって特徴づけられる。数の命名法及び文字「k」がヤーン内の炭素繊維の数を示すのに用いられる。もちろん、炭素繊維は望ましい場合にはこのような他の用語によって特徴付けられることができる。「3k」炭素繊維ヤーンの「k」は、「1000の繊維」の略称であり、「3」は乗数を示す。従って、「3k」炭素ヤーンは3000の繊維又はフィラメントのヤーンを特定する。フィラメントは、概して、連続的と考えられるだけの十分な長さである。他の織物材料と同様に、数多くの炭素繊維が一緒にされてヤーンを形成する。ヤーンは他のヤーンと一緒にされてより大きなヤーンを形成することができ、ヤーン又はヤーン束は一緒に撚られて心線を形成することができる。炭素繊維は、約4〜約8ミクロン、又は約5〜7ミクロンの範囲にあることができる極めて小さな径を有していることができる。個々の繊維はヤーンが加工されて心線を形成する際に破損されやすい。この理由から、心線を形成する際にヤーンが付される機械的操作の数を最小にすることが望ましい。例えば、数本のヤーンを一緒に撚ってヤーン束を形成し、そして、そのようにパイルされたヤーン束を逆向きに撚って心線を形成することは個々の繊維を破損する機械的な操作である。破損の数は、撚り操作の数を減らすことで低減される。所望の心線サイズを形成ことは、より小さいフィラメント総数の複数のヤーン、例えば、3kヤーン5つを一緒に束ねて15k(3k−5と表示)を得るか、又は6kヤーン3つで18k心線(6k−3と表示)を得ることを含んでいることができる。好ましくは、撚りの程度は高くし過ぎず繊維を損傷しないようにする。このように、好ましい撚りの程度は、1インチ当たり0.75〜2.5回転、又は1インチ当たり約2回転までである。最終的な炭素繊維束は、所望の用途に応じて、3k〜60kであることができる。
【0060】
繊維製造業者は、繊維を潤滑にして繊維がヤーンに加工され及びスプールに巻き付けられる際の破損を防ぐように働くサイズ剤によって繊維を被覆することが多い。或る場合には、サイズ剤は、動力伝達ベルト中への包含のために心線を処理するのに用いられる接着剤と相溶性である化学構造を有していることができる。炭素繊維の製造業者に用いられるサイズ剤の種類として、例えば、エポキシ、エポキシとポリウレタンとのブレンド、オルガノシロキサン、ポリアミド−イミド等を挙げることができる。サイズ剤は、ヤーンの最終重量に基づいて約0.1〜約2.5%のピックアップ重量で存在することができる。本明細書中に記載の本発明の実施形態は、炭素繊維上に存在することができるサイズ剤の種類または量に対して特に影響されるものではないと考えられる。炭素繊維束へのPUU接着剤処理の結合の主たる形態は化学的結合というよりむしろ物理的連結であるということができる。また、本発明は、PUU接着剤を炭素繊維束に付与するために溶媒を用いることを含んでいることができ、そして溶媒は浸透することができ又は望ましい場合にはサイズ剤を除去することさえできる。
【0061】
エラストマーのベルト(又は、他の製品)の本体部は、加硫ゴム又は他の架橋エラストマー、例えば、注型ポリウレタン(PU)などであることができ、又は、熱可塑性エラストマー(TPE)又は熱可塑性ポリウレタン(TPU)であることができる。本明細書中に開示されるPUU心線処理はとりわけ、注型のポリウレタン又はPUUのベルト本体と適合性であり、有利なことに何らの追加の接着剤処理を必要としないで、それらと共に用いられることができる。同様に、PUU心線処理は、TPE及びTPUエラストマーと適合性であることができ、それらと共に用いるための追加の接着剤処理を何ら必要としないことができる。加硫ゴム製品の場合、1以上の追加の接着剤処理を含んで、PUU処理された抗張心線と加硫エラストマーとの間に改善された結合を与えることが有利であることがある。かかる追加の接着剤処理は本明細書中で保護被膜(overcoat)又は保護被膜接着剤と称される。2つの異なる保護被膜接着剤を用いてPUUとゴムベルト本体材料との間に最大の結合を与えることが有利なことがある。
【0062】
PUU処理された抗張心線の実施形態と共に用いる主エラストマー本体に関して、本発明の種々の実施形態の実施において利用されることができる有用な注型のPU又はPUU組成物、並びにかかる組成物及び方法は、例えば、パターソン(Patterson)等の米国特許第5,231,159号明細書及びウー(Wu)等の米国特許第6,964,626号明細書に記載されており、それらは参考として本明細書中に組み込まれる。PUUは、一般に、より高い相分離、より強固なハードセグメント等により、PUと比べてより良好な動的特性を有するので、PUUは高性能ベルトの用途に好適である。
【0063】
エラストマー本体は、例えば、長尺のベルト材に対する熱可塑性樹脂のラミネーション法、又は他の適切な成形工程を用いて、TPE又はTPUで形成されることができる。種々の実施形態において有用であることができるTPEの種類として、限定的でなく、ポリスチレン−エラストマーブロックコポリマー、ポリエステルブロックコポリマー、ポリウレタンブロックコポリマー、ポリアミドブロックコポリマー及びポリプロピレン/EPコポリマーブレンドを挙げることができる。種々の実施形態において有用であることができるTPUの種類は特に限定されるものではないが、注型ポリウレタンとの関連において上述したと同様の化学物質、例えば、ポリエステル熱可塑性ウレタン又はポリエーテル熱可塑性ウレタンなどを含んでいることができる。熱可塑性ベルト材の実施形態は、図1の歯付ベルトの一般的な形態、例えば、成形された又は2つのベルト末端を一緒に結合することによる、無端ベルトの形態を有していることができる。実施形態は、例えば、搬送、輸送、保持、又は位置決めの用途において、種々の関連した機構に固定されることができる2つの端部を有していることができる。
【0064】
上記に示された図1〜3の場合のそれぞれにおいて、主ベルト本体部12は、任意の通常の及び/又は適切な硬化エラストマー組成物で形成されていることができ、抗張層20を含む任意の接着ゴム部材に関して後述されるものと同じもの又は異なるものであることができる。この目的に対して用いられることができる適切なエラストマーとして、例えば、ポリウレタンエラストマー(ポリウレタン/ウレアエラストマー及びいわゆるロール練り用ゴムも同様に含む)(PU)、ポリクロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化NBR(HNBR)、スチレン‐ブタジエンゴム(SBR)、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレン(ACSM)、ポリエピクロロヒドリン、ポリブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、及び、エチレンアルファオレフィンエラストマー、例えば、エチレンプロピレンコポリマー(EPM)、エチレンプロピレンジエンターポリマー(EPDM)、エチレンオクテンコポリマー(EOM)、エチレンブテンコポリマー(EBM)、エチレンオクテンターポリマー(EODM)、及びエチレンブテンターポリマー(EBDM)、エチレンビニルアセテートエラストマー(EVM)、エチレンメチルアクリレート(EAM)、及びシリコーンゴムなど、又は上述のいずれか2以上の組み合わせを挙げることができる。
【0065】
本発明の実施形態に従ってエラストマーベルト(または他の製品)の本体部12を形成するために、エラストマー(1以上)は、充填剤、可塑剤、安定剤、加硫剤/硬化剤及び促進剤を含む通常のゴム配合成分と、通常に使用される量でブレンドされることができる。例えば、エチレン−α−オレフィンエラストマー及びジエンエラストマー、例えば、HNBRなどと共に使用される場合は、1以上のα−β有機酸の金属塩が、得られる製品の動的性能を向上させるのに現在通常に用いられている量で使用されることができる。このように、ジメタクリル酸亜鉛及び/又はジアクリル酸亜鉛がかかる組成物中に、約1〜約50phr、又はそれに代えて約5〜約30phr、又は約10〜約25phrの量で使用されることができる。これらの材料はさらに、組成物の接着性に寄与し、そして当業者に現在周知であるように、過酸化物又は関連の薬剤を用いたイオン性架橋を介した硬化後にポリマーの全体的な架橋密度を上げる。
【0066】
関連技術分野の当業者であれば、本発明において有用なゴム製品のエラストマー部分において又は当該部分として利用するための、いくつもの適切な組成物を容易に理解されよう。多くの適切なエラストマー組成物が、例えば、ザ・R.T.ヴァンダービルト・ゴム・ハンドブック(The R. T. Vanderbilt Rubber Handbook)(第13版、1996年)に記載されており、EPM又はEPDM組成物及び特有の高い引張弾性率特性を有するかかる組成物に関しては、さらに米国特許第5,610,217号明細書及び第6,616,558号明細書にそれぞれ明記されており、動力伝達ベルト本体部の形成に用いるのに適切であることができる種々のエラストマー組成物に関する内容は、とりわけ参考として本明細書中に組み込まれる。自動車付属部品の駆動用途に関連する本発明の実施形態において、エラストマーのベルト本体部12は、EPM、EPDM、EBM又はEOM組成物などの適切なエチレンアルファオレフィン組成物から形成されていることができる。
【0067】
エラストマーの主ベルト本体部12にはさらに、例えばこれらに限定されるわけではないが、綿、ポリエステル、ガラス繊維、アラミド及びナイロンなどの材料を、ステープル繊維若しくは短繊維、フロック又はパルプのような形態で用いる、当該技術分野において周知である不連続繊維が、通常使用される量で充填されていることができる。(例えば、カッティング又はグラインディング等によって)輪郭が形成されたマルチVリブドベルトに関する好ましい実施形態において、かかる繊維充填は、好ましくは、繊維の実質的な部分がベルトの進行方向をほぼ横断する方向に横たわるように形成され及び配置されるようにして形成され配置される。しかしながら、流入法に従って製造された成形マルチVリブドベルト及び/又は同期ベルトにおいて、繊維充填は概して同一の配向度を欠くであろう。
【0068】
ゴムベルトに用いる場合、本発明のPUU処理心線は、好都合に、主に心線束の外表面を被覆する目的で第2の接着剤で被覆されることができる。かかる接着剤は本明細書中で保護被膜接着剤と呼ばれる。保護被膜は、概して、このように処理された心線の最終重量に基づき、約1%〜約10%の乾燥重量の範囲の量で付与される。有用な保護被膜接着剤の例は、当該技術分野において見出され、その例として、限定なしに、ロード社(Lord Corporation)により商標ケムロック(CHEMLOK)(登録商標)又はケモシル(CHEMOSIL)(登録商標)の下に販売される種々の組成物、及びケミカル・イノベーションズ社(Chemical Innovations Limited)(CIL)により商標シルボンド(CILBOND)の下で販売される種々の組成物を挙げることができる。下層接着剤処理とゴムベルト本体の両方に適合性があってしかも耐熱性、環境耐性などの他の所望の特性を有するように、特定の保護被膜が選ばれることができる。2つの別々の保護被膜接着剤組成物を付与することが好都合なことがある。PUU処理された心線が部分的にのみ含浸される場合、第1の保護被膜は心線を充分に含浸するように用いられ、第2の保護被膜は処理された心線束の外表面を被覆するように用いられることができる。PUU処理された心線とゴムベルト本体組成物のいくつかの組み合わせについて、例えば、PUUが多くのエラストマーより極性であることができるので、2層の保護被膜を用いて良好な結合を確実にすることが好都合であることがある。
【0069】
このように、本発明は、PUUバインダーが少なくとも部分的に充填又は含浸された炭素心線などの高モジュラス抗張心線を製造する方法を提供する。注型PUベルトに生繊維材料の炭素心線(又は他の高モジュラス心線)を用いる従来技術に比べて、本発明は心線の特性の独立した管理を提供する。例えば、炭素心線に使用されるPUUバインダーは、ベルト本体の注型PUより軟質又は硬質であるように選択されることができる。本発明は、このように、動的負荷又は屈曲能力に悪影響を及ぼすことなくベルトの取扱い特性を向上させることができる。本発明は、低圧注型操作において及び注型樹脂がより速いゲル化時間又はより高い粘度を有する工程において製造される製品及び加工を改善することもできる。なぜならば、心線は既にPUUバインダーが含浸されており、それは心線に一体性を付与して、その後の注型樹脂が心線にも浸透しているか否かにかかわらず、裁断時のほつれを防止するからである。すでに撚られた炭素繊維を低粘度の接着剤で処理する能力は、好都合なことに、処理の間に繊維を伸ばし、その後で撚ることを必要とする従来の処理方法より概ね円形でより均質な心線をもたらすことができる。
【0070】
高モジュラスの歯又は本体のPUコンパウンドを有する注型PU製品又はベルトの一実施形態において、抗張心線はポリウレタンプレポリマーの溶液を用いて処理されそして本体の注型PUより低分子の硬化剤又はより軟質のセグメント又はより多量の可塑剤を用いて硬化されて、同様の又は少なくとも適合性のある化学物質の低モジュラスのバインダーを得る。このように、心線の複合モジュラスは、複合物の一体性に悪影響を及ぼすことなく低減されることができる(すなわち、心線の可撓性が増大されることができる)。充填された心線と本体/歯のコンパウンドとの間は良好に接着している。好ましくは、本体のPUコンパウンドは心線内部で、同様なプレポリマーであるがより低分子でより緻密なハードセグメント又は水などの硬化剤を有するプレポリマーと置き換えられて、より軟質でより低モジュラスの心線処理を与える。このように、製品の本体は同じプレポリマーであるがジアミン又は高分子ジアミンなどのような通常の鎖延長剤を用いることができる一方で、心線の接着剤硬化剤は、好ましくは、より低分子でより緻密なジアミン硬化剤及び/又は追加のポリオールソフトセグメント及び/又は可塑剤を含んで、本体より低モジュラスである接着剤を生じさせることができる。
【0071】
抗張心線繊維にPUU接着剤樹脂を付与するために、接着剤組成物の成分は適切な溶媒中に溶解又は懸濁されることができる。適切な溶媒は、プレポリマーを溶解しそして良好な含浸のために抗張心線の繊維を濡らす溶媒である。溶媒又は接着剤溶液と繊維との間は低い接触角度が望ましい。適切な溶媒として、限定なしに、テトラヒドロフラン(「THF」)、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン(「NMP」)、トルエン、キシレン、ベンゼン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどを挙げることができる。本発明の実施形態に従って炭素繊維の心線を処理するのに好ましい溶媒としてテトラヒドロフラン及びトルエンを挙げることができる。
【0072】
好ましい実施形態において、低遊離PPDI/ポリカプロラクトンプレポリマーは、10%重量〜50重量%又は20%重量〜40重量%の範囲であることができる所定の濃度で、トルエン又はTHFなどの溶媒中に溶解され、その溶液は浸漬タンクに加えられる。心線は、好ましくは、例えば炭素繊維心線に対し1インチ当たり0.75〜2.5回転撚られた形態であることができるが、それは浸漬タンクを通し次いでオーブンを通して引張られ、そこで溶媒は蒸発分離される。代わりに、心線は、最大限の浸透のために繊維を広げる手段を用いて、撚られていない形態で浸漬及び乾燥され、その後に撚られることができる。オーブンを通して、溶媒の大部分を除去した後、プレポリマーは水との反応に付される。ジアミン硬化が用いられない場合、心線はウォーターバスに浸漬されてスプーリングの前に反応を高め、例えば、スプールへの心線の固着を防止することができる。ウォーターバスは、必須ではないが、心線の外表面上にウレア表皮(skin)の形成を促進する触媒などの化学物質を含有していることができる。同様に、例えば乾燥オーブン内の熱がウレア表皮の形成を促進するのに用いられることができる。心線の内側のプレポリマーは、周囲の環境湿分によって硬化していく。心線の内側のこの硬化には数日かかることがあるが、心線は、完全に硬化されているか否かにかかわらず、処理後いつでも、注型PUで製造された製品に使用されることができる。製品が硬化されるにつれて心線は硬化し続ける。十分に硬化された心線の処理でさえも、概して、製品硬化の間に製品の本体材料と結合し及び硬化し続けるのに十分な反応性基を有している。水は、プレポリマーのイソシアネート基と反応することによって硬化剤の機能を果たす。イソシアネートは水と反応して、カルバミン酸を形成する。カルバミン酸は分解してアミンと二酸化炭素を形成する。アミンは別のイソシアネートと反応して2置換のウレア結合を及びさらなる縮合反応をもたらす。この反応は、ウレア結合を持つ極めて緻密なハードセグメントを形成する。
【0073】
市販の入手可能なブロックされたプレポリマーがアミン硬化剤と共に用いられる場合、プロセスは、結果がより速い乾燥/硬化処理となって、リール上での心線のそれ自体への粘着が少なくなることを除き、上記されたと本質的に同じであることができる。ジアミン硬化剤をブロックされたプレポリマーと共に用いると(水硬化と比較して)反応時間が速くなるため、浸漬プロセスは、例えば、浸漬ラインを異なる速度又はテンションで走ることによって、又は浸漬溶液中での異なる滞留時間を用いて、浸漬による心線のより良好な浸透を得るように調整される必要があることがある。
【0074】
代わりに、ブロッキングが現場で、すなわち、接着剤溶液を作成している間に行われる場合、プロセスは幾分か適切に変更されることができる。ブロックされていないプレポリマーが、例えば、MEKO又はDMPでブロックされる場合、プロセスは以下のようにモディファイされることができる。プレポリマーとブロッキング剤とは、上記の適切な溶媒の1つを用いて、溶媒溶液中で反応されることができる。わずかに過剰量のブロッキング剤が用いられて、すべてのイソシアネート基の完全なブロッキングを確実にすることができる。例えば、1.05モル比のブロッキング剤対NCOが用いられることができる。一つの例示的ケースにおいて、反応は攪拌しながらドラム中で室温において8時間で完了されたが、他の反応条件が用いられることができた。ブロッキング反応の速度を上げるために熱が用いられることができる。得られたブロックされたプレポリマー溶液に、ジアミン、トリアミン、及び/又はテトラミン、及び場合により、ポリオール、例えば、ジオール又はトリオール又はそれらの混合物、及び/又は可塑剤又は他の成分が添加されることができる。得られた浸漬溶液は、浸漬、噴霧等によって抗張心線を処理するのに用いられることができる。適切な高温及び滞留時間で心線を乾燥すると、溶媒は除去され、ブロッキング剤は遊離され(脱ブロックされ)、そして脱ブロックされたイソシアネート末端プレポリマー、ポリアミン(1以上)及び任意のポリオールとの間の反応によってポリウレタン−ウレア反応生成物が形成されることができる。ブロックされたプレポリマーは触媒を用いてより速くそれを脱ブロックさせることができる。
【0075】
ブロッキング法の利点は多い。浸漬溶液は比較的に安定であり良好な保存寿命を有する。ブロックされたプレポリマーの方法は最も安定であり多様性がある。なぜならば、ブロックされたプレポリマーは熱及び湿分に対して及びポリオールのような他の成分に対して、より安定だからである。いったん脱ブロックされると、反応は大変に急速に進行し、より速い処理及びそれ自体に対し粘着しない乾燥した心線を得る。処理が、所望の通りに、ベルト本体配合物より軟質又は硬質にされることができるように、配合物の選択肢が多い。ブロッキング剤の大部分は乾燥/硬化段階で除去されることができるが、ブロッキング剤のトレース量が処理された心線及び/又は最終製品中に残存することができるので、この心線又は製品を非ブロック代替物から区別することができる。
【0076】
本発明の実施形態によれば、PUU処理は、好都合には、固体分が20%〜40%であることができ、好ましくは、撚りの有無によらず、浸漬処理の間に繊維束に十分に浸透するのに十分な低粘度であることができる。溶媒が乾燥(おそらく、硬化又は部分硬化と共に)によって除去された後、PUUは、好ましくは繊維束の個々の繊維を被覆するが、心線の間隙を完全に充填する必要はない。PUU樹脂は、処理された心線の目的とする用途に応じて、間隙の約20%〜約99%又は100%を占めることが好都合であることがある。とりわけ、動力伝達ベルトなどの注型ポリウレタン製品に用いる場合、部分的に間隙を、例えば、20%〜90%、又は30%〜最大80%、又は40%〜最大60%充填すると、ベルト本体の注型PUによって浸透されることができる間隙又は空隙を残すことができ、このようにして心線を過度に剛性にすることなく機械的な接着のレベルを与え、そしてなおもPUU処理の使用からの利益を得ることができる。このように、注型PUベルト本体がPUU処理された心線内の空隙に浸透すると、PU材料とPUU材料とが密接に接触してそれらの間の化学的結合を促進する。一方、所定のゴム製品における結合に対して行われることがある化学的接着のために心線が追加の接着剤で保護被覆される場合に、より十分に含浸された、例えば、40%〜100%、又は60%〜最大99%含浸された心線がより適切であることがある。例えば、生繊維材料(未処理の)心線の重量に基づき接着剤ピックアップ重量%として示されるピックアップ量は、撚られた心線内の空隙又は間隙の程度に応じて変化することができる。心線のPUU接着剤のピックアップ量は、6%〜25%、又は8%〜22%又は10%〜20%の範囲にあることができる。
【0077】
本発明の抗張心線を用いた実施形態に係る注型ウレタンベルトは、参照により本明細書中に既に組み込まれた参考文献に記載されたような、公知の方法に従って製造されることができる。同様に、TPE又はTPUベルトは、無端ベルトに代えて2つの端部を有するベルトを製造する連続積層/押出法を含む、公知の方法によって製造されることができる。2つの端部は公知の方法によって接合されて無端のTPE又はTPUベルトを製造することができる。ゴムベルトは、当該技術分野において公知の方法に従って、マンドレル上に構築され、硬化され、幅まで裁断されることができる。
【0078】
本発明の実施形態に係る強化心線は、様々な種類のエラストマー複合製品、例えば、動力伝達ベルト、運搬又は移送用ベルト、コンベアベルト、ストラップ、タイヤ、ホース、空気ばね、振動マウント等などに用いられることができることを理解されたい。
【0079】
実施例
【0080】
以下の例示及び実施例は、本発明を限定することを意図したものではなく、種々の実施形態におけるその有用性を明らかにするものである。実施例は、注型ポリウレア−ウレタンベルト用途、TPUベルト用途及びゴムベルト用途における本発明の使用を明示する。
【0081】
例示I
【0082】
Toho製の一対の12k−1ヤーンが、1インチ当たり2.0±0.1回転のレベルまで反対方向に撚られて「S撚り」及び「Z撚り」の12k炭素心線を形成する。生繊維材料の撚られた心線の一部分がナットソン(Knutson)等の米国特許第5,807,194号明細書の方法に従って用いられ、本明細書中で比較の例1(「比較例」1)と称される8mmピッチの注型PU歯付ベルトのスラブを調製した。心線の別の部分が本発明の実施形態に従って処理された後、本明細書中で実施例2(「実施例」2)と称される本発明の8mmピッチの歯付ベルトの第2のスラブを調製するのに用いられた。
【0083】
実施例2のPUU接着剤処理では、約2.1の最終官能価を有する二官能価と三官能価のPPDI末端ポリカプロラクトンプレポリマーのブレンドがトルエン溶媒に加えられ、浸漬タンクに33重量パーセント固形物の溶液を調製した。生繊維材料の撚られた心線が浸漬され、その後に濡れた心線をオーブンに通すことによって溶媒が蒸発分離された。オーブンから出た直後に、心線はウォーターバスに浸漬され、風乾され、その後にスプールに巻きつけられた。浸漬された「S撚り」及び「Z撚り」の心線に対して固形物のピックアップが測定され、それぞれ16.1及び14.0重量パーセントであった。心線の剛性は、スプーリング直後と高湿度環境下で一晩静置した後に測定された。心線の剛性は、ASTM D747の手順に従うが、0°〜65°の撓み範囲にわたり12.7mmスパンで試験された5つの平行な心線に対して重量ポンド(又は重量キログラム)の単位の実際のピーク曲げ力に基づき、Tinius Olsen剛性試験機で測定された。実施例2の初期剛性は、それぞれ0.49lbfと0.73lbfであった。一晩静置後、剛性はそれぞれ1.14lbfと1.08lbfであった。水硬化は、比較的に遅速であることができ、結果として数時間又は数日間にさえわたり剛性が徐々に変化した。報告されたヤーン中の炭素の同等の断面(0.00455cm)及びベルト中の最終的な心線の面積(0.00665cm)に基づいて、心線内の空隙容量は、最終的な断面の約31.6%であると算出された。このように、S撚り及びZ撚りの心線についてピックアップされた処理の重量パーセントは、約55〜60パーセントがPUU樹脂で充填される心線の間隙に相当する。得られた心線の検査は、繊維の外層がベルト形成の間の注型PUによる追加の含浸に対して多くの間隙空間を残して軽度に被覆されることで、心線のベルト本体への接着が極めて良好になることを示した。生繊維材料の心線に対して処理された心線の引張試験を行ったところ、生繊維材料の心線では148lbs及び処理された心線では222lbsの引張強さで、50%の改善となった。引張強さのこの飛躍的な改善は、生繊維材料ヤーンを引張試験することにおける困難性と処理されたヤーンの取扱い特性における改善を反映していることができる。ベルト断面を高倍率で検査すると、注型PU樹脂が心線の接着剤処理の後に残った間隙すべてをほぼ完全に充填していたことが示された。ベルトを製造するのに用いられた注型PU樹脂の配合物は、TMGDABで硬化される、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(「PTMEG」)に基づいたTDI末端ポリエーテルプレポリマーに基づいていた。
【0084】
ベルト製造後に、心線のサンプルが生繊維材料及び処理された心線ベルトから取り出されて心線の剛性試験に付された。2つの平行な心線のサンプルが通常の5つの代わりに用いられた。比較例1の心線は、実施例2の処理された心線より硬く、剛性はそれぞれ0.66lbf対0.52lbfであった。このように、本発明の心線処理はベルト内の心線の静的曲げ剛性を約20%低下させた。
【0085】
2つの頻度及び温度で行われた動的ベルト曲げ試験も、生繊維材料の心線と処理された心線との間の有意なモジュラスの差を示した。この試験の結果は表1に示される。すべての試験条件において、実施例2の処理された心線を用いたベルトでは、ベルトの曲げ弾性率が比較例1の生繊維材料の心線を用いたベルトよりも低くなった。本発明のPUU接着剤処理を用いた心線の処理は、心線の動的曲げ弾性率を減少させた。
【0086】
【表1】
【0087】
実施例2のPUU処理はまた、固形分25重量%の濃度でTHF中に混合されてIR窓上でフィルムを注型するのに用いられた。得られるPUUフィルムは0.018インチ厚であった。それは溶媒の蒸発及びNCO基と水の反応を観察するFTIR測定器内に置かれた。NCOピーク面積は、約200分後に50%低下し、約500分後に実質的に消滅した。引張試験のためにベルト本体の注型PUU及び本発明の処理のより厚いフィルムを注型する試みがなされた。いくらかの気泡が観察されたが、得られたフィルムは張力試験比較には十分なものと判断された。水硬化の接着剤処理はTMGDAB硬化のベルト材料と比べて約2/3低いモジュラス、ほぼ同じ伸び、及び約1/3低い引張強さを示した。このように、本発明の実施形態に従って、強化心線はジアミン硬化型PUU注型組成物の湿分硬化型PUUアナログを用いて処理され、同等からはるかに良好である引張強さを有し、及び注型PUUとの優れた適合性を有する、相対的に低いモジュラスでより可撓性のある心線を得ることができる。
【0088】
実施例2のベルトは多くの試験に供されて、比較例1を超える一定の利点を証明した。ベルトの引張強さは、ベルトを2つの60溝スプロケットに取り付け、任意にクリップ式の伸縮計を用い、通常の引張試験機で25.4mm/分で引張ることによって測定された。ベルトの屈曲状態調節は、3600rpmで駆動される2つの22溝プーリを備えた2点配置において、静荷重165ポンドの張力で168時間及び336時間実施された。屈曲状態調節の後(すなわち、「調節後」)に保持された引張強さは表2に報告される。後方曲げ試験で、ベルトは、ベルトの同じ位置で、所定の径のパイプの周りに3回後方に曲げられた後、2つのプーリ間のスパン内に損傷位置を有して引張試験された。後方曲げ後に保持された引張強さも表2に報告される。静的心線接着性試験(ベルトから短い長さの2本の心線を引き抜く)及びベルトの静的歯部せん断試験は、比較例と2と実施例1との間に有意差を示さなかった。最後に、力量計装置で動的ベルト試験(「Dyno試験」)が行われ、ベルト負荷容量、動的接着性、耐久性等が評価された。有意に異なる結果について知られる2つの異なる試験機が用いられた。表2に報告された各結果に対して2つのベルトの寿命の平均値が求められた。
【0089】
表2からわかるように、本発明に係るベルトは初期及び屈曲状態調節後に対照ベルトよりわずかに高い引張強さを有する。これは、処理された心線が生繊維材料と比べて改良された取扱耐性を有することに起因するものであることができる。しかし、後方曲げ試験は、生繊維材料の心線を超えるより軟質のPUU処理心線の飛躍的な利点をもっとも明確に示している。生繊維材料が27mmの後方曲げ後にその強さを半分失っているのに対し、本発明の心線には強さの損失がない。よりきつい後方曲げでは、本発明の心線に強さの損失が見られるが、対照ベルトよりはるかに少ない損失率である。このように、本発明のベルトは、10mm径の曲げの下で、27mm径の曲げの下での対照ベルトと同様の性能を示す。Dyno試験において実施例2のベルトが平均で対照ベルトより少し良好な性能であったことも表2から理解されることができる(歯のせん断破損モードはすべてのベルトについて観察された)。このように、軟質なPUU接着剤の処理は、接着性や負荷容量などの他の性能特性を失うことなく、取扱耐性における有意な改善を提供する。
【0090】
【表2】
【0091】
例示II
【0092】
第2の一連の試験において、比較例3及び実施例4のベルトがポリエステル系TPUベルト本体及び歯表面上のナイロン織布を用いて構成された。これらの歯付ベルトは、メトリックT10形(10mmピッチ、及び台形の歯形状)を有するエンドレスであり25mm幅に裁断されたものであった。比較例3は従来の鋼製の心線で構成され、実施例4は上記実施例2と同じ本発明の心線を用いた。これらの2つのベルトの試料が心線の接着性試験に供せられ、その結果が表3に示される。表3は、実施例4の本発明の処理された心線が比較例3で用いられた従来の心線と同等か又はそれより良好な接着性能を有していることを示しており、このことは本発明の実施形態がTPUベルトにおける使用に適していることを証明している。
【0093】
【表3】
【0094】
例示III
【0095】
この一連の試験では、トレカ(Torayca)(登録商標)12k−1ヤーンが例示Iの場合のように8mmピッチの歯付注型PUUベルトを調製するのに用いられた。生繊維材料の撚られた心線で調製された対照ベルトは比較例5と称される。心線の一部分が本発明の別の実施形態に従って処理された後に、本明細書中で実施例6と称される、本発明の8mmピッチの歯付ベルトのスラブを調製するのに用いられた。実施例6のPUU接着剤処理は、イソシアネート基上にMEKOブロック剤を有する、ポリエステル/TDIプレポリマーを含んでいた。硬化剤は、ジアミン、DETDAであった。ブロックされたプレポリマーと硬化剤との液体混合物が圧力下で炭素繊維束内に含浸されたが、上記のように溶媒を用いる方が容易であったであろう。ベルトは、種々の直径のパイプ上での後方曲げ及び前方曲げの両方による取扱損傷に対して、150ポンド静荷重の張力での屈曲状態調節試験における張力低下について再度評価された。結果は表4に示される。この実施形態も対照と比べて改善された取扱耐性を示すものであることが理解されることができる。実施例7と呼ばれる、ブロックされたプレポリマーを用いた別の例において、硬化剤はジアミン、MCDEAであったが、利用可能なベルトのデータはない。
【0096】
【表4】
【0097】
例示IV
【0098】
この実施例のセットにおいて、PUU処理された炭素心線を用いる実施形態が、ゴム製の歯付ベルトにおいて従来のRFL処理された炭素心線と比較される。12k−1の炭素束は再び例示Iの実施例2のようにPUU処理されたが、さらに、処理された心線はシルボンド81保護被覆接着剤中に浸漬され再び乾燥された。対照として、X−HNBR−RFL処理された12k心線が米国特許第6,695,733号明細書(当該明細書中の表1及び関連記載を参照されたい、それらは参考として本明細書中に組み込まれる)の方法に従って調製され、同様にシルボンド81で保護被覆された。歯付ベルトは周知の方法に従って調製され、その方法は、ナイロン布スリーブを97溝(9.525mmピッチ)のマンドレルに当て、1インチ当たり計18ストランドでS撚り及びZ撚り心線の両方を螺旋に巻いてゴムが中を流れるのを可能にするように適切な間隔を設ける工程、硫黄硬化HNBRゴムの層を付与する工程、及びゴムが心線の中を流れて、複合体が硬化されるときに、溝内に布を押圧して歯を形成するように、圧力及び温度下で硬化する工程を含む。得られたスリーブをマンドレルから取り出した後、個々のベルトは19mm幅に裁断された。RFL処理された心線を用いた対照ベルトは比較例8と呼ばれ、そしてPUU処理された心線を用いた本発明のベルトは実施例9と呼ばれる。多数のベルト試験が行われ、その結果は表5に示される。引張強さは前述のように測定され、心線接着力も同様であった。外被(jacket)接着力試験は、外被−心線の接着力が主に測定される織布(web)領域において最小値を与えそして外被−ゴム接着力が主に測定される歯領域において最大値を与える、ベルトからの歯布の剥離を含んでいた。ベルトの運転温度は、無負荷の屈曲試験装置で24時間にわたり測定された。この屈曲試験は図4に示される。97歯の同期ベルトは、19溝を有する原動プーリ50、それぞれ19溝と20溝を有する2つの伝動プーリ52及び54、2つの背面アイドラ56(直径50mm)及びテンショナ58上で走行された。吊り下げ重量により張力200Nがテンショナ58を用いて付与された。
【0099】
表5は、本発明に係るゴムベルトが対照のベルトと同等の性能を有することを示している。場合によっては、試験された本発明のベルトは初期に対照のベルトより劣っているが、空気エイジングされた本発明のベルトは、例えば、心線接着力試験及び動的な歯の耐久性試験において、同等であったことに留意されたい。これは、PUU材料の緩やかな硬化によるものと考えられ、本発明の一部の実施形態について、硬化後処理又は接着剤への触媒の添加又はアミン系の硬化を用いることが有利であるという可能性を示している。屈曲試験装置において、本発明のPUU処理された心線はRFL処理された心線よりもベルトの走行温度が低いという結果が得られたが、これはRFLと比べて改善されたPUUの動的特性によるものと考えられる。
【0100】
【表5】
【0101】
例示V
【0102】
この一連の実施例は、大部分は例示Iの繰り返しであるが、接着剤溶液中の固形物27.5%で、接着剤のピックアップレベルの変化を有し、及び1インチ当たり1.2〜1.3回転撚られた、はるかに大きい12k−4炭素心線束を含む種々の他の炭素心線サイズを有する。処理後、水中浸漬なしに湿分硬化が用いられた。上述のように、生繊維材料の撚られた心線(S撚り及びZ撚りの両方)の一部分が、ナットソン(Knutson)等の米国特許第5,807,194号明細書の方法に従って比較用の注型PUU歯付ベルトの調製に用いられた。表6に示されるように、処理された12k−4炭素心線(例示IのToho製12kヤーンで調製)が14mmピッチHTD(登録商標)形ベルトに調製された。この例示の14mmベルトは、上記例示Iの場合と同じベルト本体用の注型PUU樹脂配合物、すなわち、TMGDABで硬化される、PTMEG系のTDI末端ポリエーテルプレポリマーを用いた。表6に示されるように、実施例11及び12の12k−4心線は、比較例10の生繊維材料心線と比べて改善された引張強さを示した。例示Iの12k−1心線に対する剛性の増加は、増大された心線の径に相応している。処理後の心線の引張強さの増加は、例示Iで上記観察された増加と同等である。浸漬ピックアップは12k−4心線のこの試験に対して10.3〜14%の範囲であった。最後に、実施例11及び12のベルトに対する取扱試験が比較例10と比べ、減少した大きさのプーリ上での後方曲げ後に保持された引張強さにおいて飛躍的な改善を示すことに留意されたい。
【0103】
【表6】
【0104】
表7に示された結果は、本発明がこの例示において12k−1〜18k−1の範囲の心線サイズを調製するのに適用可能であることを示している。表7の結果は、得られた心線について6.2%〜17%の広範囲の固形物のピックアップ値も示している。それぞれの場合において、本発明の実施例の心線は、生繊維材料の心線と比べて引張強さの有意な改善を示しており、これは引張試験において改善された取扱性を最もよく表していると考えられる。本発明の心線の引張強さは固形物のピックアップレベルとは無関係であり、S撚り及びZ撚り心線に対してただ一つの平均値が報告されていることも注目すべきである。心線の剛性は、心線のサイズ及び固形物のピックアップとともに増加すると思われる。
【0105】
調製された種々の心線試料について及び注型後又は成形後のベルト断面について顕微鏡検査が行われた。本発明の心線の外側は概して高分子の表皮を含んでいない。心線の外側繊維は概してPUUで十分に被覆されているように見えるが、必ずしも一緒に結合されているわけではなく、しかし外側繊維は心線の裁断時に飛散したりほつれているようには見えない。心線の内側は概してPUU接着剤が十分に浸透しているが、必ずしも完全に充填されているわけではない。注型ウレタンベルトのベルト本体材料は概して処理された心線に浸透してほぼ完全に残りの間隙を埋めることができる。これは、化学的接着に加え、優れた物理的又は機械的な接着を与えると考えられる。処理条件に応じて、処理された心線は、スプール上でその乾燥及び重合又は硬化が行われるため、断面が生繊維材料の心線のような円形ではないことがある。このように、本発明の心線は、スプール上に巻き付けるため、心線の前の層の上に座る箇所で平らな部分が形成されることがある。
【0106】
【表7】
【0107】
例示VI
【0108】
この一連の実施例において、ブロックされたイソシアネート末端プレポリマーが上記例示IIIにおけると同様に用いられたが、溶媒溶液を用いて炭素繊維抗張心線に接着剤組成物を付与した。さらに、ポリオールが用いられて、11mmHTD(登録商標)ベルトの本体に用いられた注型ウレタンマトリックスのモジュラスより低くなるように硬化された接着剤モジュラスを最適化した。得られたベルトは、上記例示Iと同じ方法で後方曲げ耐性、すなわち、表示された直径のロッド上で3回の後方曲げ後に保持された引張強さについて試験された。また、力量計装置で動的ベルト試験が行われ(「負荷寿命試験」)、ベルト負荷容量、動的接着性、耐久性等が評価された。負荷寿命試験は、室温において総静荷重張力396ポンド及び5/1の張力比を有する2つの30溝プーリ上を、15hp及び1750rpmで走行する幅10mm、歯数108、111、又は113、11mmHTD(登録商標)形のベルトを用いた。比較可能な結果を生じさせることが知られている2つの異なる試験機が用いられた。2つのベルト寿命が表8に報告された各結果に対して平均化された。寿命は試験された種々の長さに対してサイクルの数に基づき正規化されることができたが、小差(<5%)はこれらの例に対して有意とみなされなかった。
【0109】
ベルト試験の結果は表8に示される。対照のベルトは炭素繊維抗張心線に接着剤処理を受けていないが、注型PUベルト本体からの浸透は良好であった。実施例2’は上記実施例2のように調製されたが、11mmHTD(登録商標)形であった。実施例21及び22は、添加されたポリカプロラクトントリオールを有するDMPブロックされたPPDI−ポリカプロラクトンプレポリマーであった。実施例23は、添加されたポリカプロラクトントリオールを有するDMPブロックされたTDI−ポリエーテルプレポリマーであった。実施例21〜23のブロッキングは接着剤溶液を調製するプロセスにおいて(すなわち、インサイチュで)行われた。実施例24は、市販のDMPブロックされたTDI−ポリエーテルプレポリマーであり、ポリカプロラクトンジオールも接着剤組成物に添加された。4つの実施例すべてが硬化剤としてMDEAを用いた。本発明の実施例は対照のベルトよりはるかに良好な引張強さを保持していることが明らかである。さらに、ブロックされたプレポリマーをポリアミン硬化により用いることは、後方曲げ耐性において湿分硬化法と比べて有意な改善を与える。さらに、負荷寿命試験結果は、接着剤処理がベルト本体材料より軟質であるにもかかわらず改善されている。或る場合には(すなわち、実施例21及び23)、負荷寿命は対照の約3倍である。対照的に、例示I(水硬化)のDyno試験結果は対照と比べてより穏やかな改善を示し、そして例示IVの耐久性の結果は硬化後長期間の後の改善を示唆しただけである。表8の後方曲げ引張データも図5のグラフにプロットされている。
【0110】
【表8】
【0111】
湿分硬化法に対するこれらのベルトの負荷寿命の改善をさらに比較するために、実施例2’及び実施例21からそれぞれ8つのベルトのシリーズが負荷寿命試験において試験された。これは、データのワイブル分布解析に対して十分な反復を提供した。実施例21のベルトは寿命210、220、230、240、260、270、300、及び400を有して、ワイブルEta及びBetaがそれぞれ291時間及び6.4であったが、実施例2のベルトは寿命105、110、110、130、190、220、310、及び400を有して、ワイブルEta及びBetaはそれぞれ221時間及び2.4であった。(Etaは平均寿命を示しており、そしてBetaは分布の狭さを示している。)このように、実施例21のベルトは平均で約1/3長い寿命を有しているが、ベルト寿命の分布もはるかに狭く、これは短い寿命がずっと少ないという結果を反映している。実施例2のベルトの8つのうち5つは100時間と200時間の間の寿命を有していたが、実施例21のベルトで200時間未満の寿命のものはなかった。図6はこれら2つの実施例である実施例2’及び実施例21のワイブルプロットである。
【0112】
クリンプ耐性は例示のベルトから得られる極めて重要な利益の一つである。これをさらに明らかにするために、クリンプ耐性と負荷寿命試験の両方が合わせられた。この特別な試験のために、実施例2’及び実施例21からのベルトは0.25インチ径で3回後方曲げされた後に負荷寿命試験に付された。実施例21のベルトは正常に、すなわち、クリンプされていない対照ベルトと同様な寿命及び破損モードで破損した。しかしながら、実施例2’のクリンプされたベルトは曲げ位置で引張破断によって数分以内に破損した。
【0113】
例示VII
【0114】
このシリーズは前のシリーズ、例示VIと同様に実施されたが、用いられたブロッキング剤はMEKOであった。実施例25はTDI/ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールに基づくMEKOでブロックされたプレポリマーを用い、そして実施例26はPPDI/ポリカプロラクトンジオールに基づくMEKOでブロックされたプレポリマーを用いる。両方とも硬化剤としてMCDEAを用い、追加のポリカプロラクトンジオールを含む。本発明の実施例は対照のベルトよりはるかに良好な引張強さを保持していることが明らかである。さらに、ブロックされたプレポリマーをポリアミン硬化とともに用いることは、実施例2’の湿分硬化法と比べて後方曲げ耐性における有意な改善を与える。さらにまた、意外にも、接着剤処理がベルト本体材料より軟質であるにもかかわらず負荷寿命が改善される。表9の後方曲げ引張データも図7のグラフにプロットされる。
【0115】
【表9】
【0116】
例示VIII
【0117】
この一連の実施例において、イソシアネート末端プレポリマーがブロックされたアミン硬化剤と共に及び硬化された接着剤のモジュラスを調整するために任意に可塑剤と共に用いられた。プレポリマーは実施例27においてPPDI/ポリカプロラクトン並びに実施例28及び実施例29においてTDL/ポリテトラメチレングリコールであった。ブロックされたアミンはジオクチルアジペート中に分散されたトリス(4,4’−メチレンジアニリン)塩化ナトリウムであった。可塑剤はC6、C8及びC10フタレートのブレンドであり、量は実施例27及び実施例29においてプレポリマーの80重量%であり、そして実施例28では可塑剤は用いられなかった。NCO官能価に対するアミン官能価のモル比は90%であった。接着剤組成物の固形分は40重量%であった。接着剤組成物は前のように炭素繊維抗張心線に付与された。ベルト及び試験は、同じ対照ベルトを用い、上記例示VIと同様であった。ベルト試験結果は表10に示される。本発明の実施例は再び、後方曲げによる誤った取扱いをされた場合に対照ベルトよりはるかに良好な引張強さを再び保持していることが明らかである。さらに、ブロックされたポリアミン硬化の使用は、実施例2’の湿分硬化法と比べて後方曲げ耐性における有意な改善を与える。表10の後方曲げ引張データも図8のグラフにプロットされる。さらに、接着剤処理がベルト本体材料より軟質であるにもかかわらず、可塑剤が用いられると負荷寿命は有意に改善される。しかしながら、可塑剤が用いられない場合、負荷寿命はほぼ対照の寿命まで低下するにもかかわらず、後方曲げ耐性は優れたままであることに留意されたい。このことは、より高いモジュラスの接着剤は高いベルト負荷を支えるが可撓性が低くなるということを教示する従来の常識と相反するように思われる。この証拠は、本明細書に記載されたブロッキング法を単に用いるだけで、ベルトの後方曲げ(又はクリンプ)耐性と負荷寿命の両方を同時に改善することができることを示しているように思われる。
【0118】
【表10】
【0119】
物理的性質試験のためのポリウレアフィルムを注型することを含む他の例示的な試験において、種々のブロッキング剤、種々のイソシアネート末端プレポリマー、種々のアミン硬化剤、及び種々のポリオール及び/又は可塑剤を、及び種々の比率又はレベルで用いて、種々の適切な接着剤組成物が得られた。このように、本発明は本明細書中で及び特許請求の範囲において規定されるように広く実用的であると判断された。これらのフィルム試験の一部が、物理的特性としてのショアA硬度、引張強さ、及び伸びによって、表11にリストされている。上記の実施例21及び実施例25は比較のために含まれている。実施例30及び実施例31は実施例25と同様であるが、それぞれブロッキング剤としてCAP又はDMPを有し、追加のポリオールは有しない。同様に、実施例32は実施例21と同様であるが、追加のポリオールは有しない。実施例33はPPDIの代わりにMDIを用いている。実施例34から実施例37は、実施例21と同様の配合においてポリオールの代わりに硬度を調整するため種々のレベルの可塑剤を用いていることを示す。
【0120】
【表11】
表11の続き
【0121】
表12は、接着剤組成物が、ブロックされたプレポリマーの代わりに、ポリオールを伴うブロックされたポリイソシアネートに基づく実施形態を示す実施例を含んでいる。実施例38及び実施例39は、実施例38ではPCLトリオールと、そして実施例39ではPCLテトラオールと、HDI及びIPDIとのDEMブロックされたブレンドを有する。これらは実際にはウレタンポリマーを形成する。実施例40から実施例42は、PCLポリオール及びMDEAポリアミンが添加されたMEKOブロックされた高分子MDIを有する。実施例42は、ブロックされたイソシアネートに対するトリオールの比率が実施例41より高い比率を有する。
【0122】
【表12】
【0123】
本発明の実施形態は、先行技術と比べて多くの利点を示している。本発明は、裁断時の心線のほつれを解消し、ベルト引張強さ、ベルト曲げ耐性及び取扱損傷に対する耐性の向上をもたらすことができる。概して、ベルト性能に関するベルトの他の物理的特性は本発明によってマイナスの影響を受けなかった。例えば、注型PUベルトの場合、本発明のベルトの屈曲疲労耐性及び負荷寿命容量は、生繊維材料心線で製造されたベルトよりはるかに良好であることができる。同様の利点が、本明細書中で前記して一覧にされ及び/又は例示されたような他の強化エラストマー用途においても実現されるであろう。
【0124】
以下の特徴が、本発明の心線、方法、又はベルトの実施形態に含まれることができる。
【0125】
前記ポリウレタンプレポリマーがパラ−フェニレンジイソシアネートと1つ以上のポリカプロラクトンポリオールとの反応生成物を含むこと。
【0126】
前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオール及びポリカプロラクトンポリオールからなる群から選択される1つ以上であること。
【0127】
前記ポリオールがジオールとトリオールとの混合物を含むこと。
【0128】
前記エラストマー本体が注型ポリウレタンエラストマーを含み、及び前記エラストマーが前記接着剤組成物と密接に接触していること。
【0129】
前記抗張心線が繊維間に間隙を有する複数の炭素繊維を含むヤーンを含み、そして前記接着剤組成物が前記間隙の体積の20%〜99%を含浸し及び前記炭素繊維を被覆すること、及び前記エラストマーが前記間隙の残りの少なくとも一部を含浸すること。
【0130】
前記エラストマー本体が加硫ゴムを含むこと。
【0131】
前記抗張心線が前記接着剤組成物と前記加硫ゴムとの間に配置された保護被膜接着剤層を含むこと。
【0132】
前記ベルトがエンドレスの動力伝達ベルトであること。又は
【0133】
前記ベルトが歯付ベルトであること。
【0134】
本発明及びその利点が詳細に述べられてきたが、添付の特許請求の範囲によって定められる発明の範囲から逸脱することなく本発明において種々の変化、置換、及び変更がなされ得ることを理解されたい。さらに、本発明の適用の範囲は、明細書に記載されたプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法、及び段階の特定の実施形態に限定されることを意図するものではない。当業者であれば本発明の開示から容易に理解できるように、本明細書に記載された対応する実施形態と実質的に同じ機能を果たす又は実質的に同じ結果を達成する既存の又は後発のプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法又は段階が本発明に従って使用されることができる。従って、添付の特許請求の範囲は、その範囲内に、かかるプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法又は段階を含むことを意図するものである。本明細書に開示された発明は、本明細書に具体的には開示されていない任意の要素の非存在下で適切に実施されることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8