【文献】
浸潤・転移等、がんの重要な臨床的特性の病理・病態学分子基盤の解析とそれに基づく診断・治療法の開発に資する研究,厚生労働科学研究費補助金第3次対がん総合戦略研究事業 平成25年度 総括研究報告書,2014年,p.9-12
【文献】
The Journal of Biological Chemistry,2002年,Vol.277, No.5,p.3784-3792
【文献】
The Journal of Biological Chemistry,1999年,Vol.274, No.41, p.29251-29259
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
配列番号2で表されるアミノ酸配列における第524番〜第659番アミノ酸の領域内のエピトープにおいて、ヒト膜型ADAM28に特異的に結合する活性を有する、抗体であって、
軽鎖可変領域及び重鎖可変領域を含み、
該軽鎖可変領域が、配列番号5で表されるアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号6で表されるアミノ酸配列を有するCDR2及び配列番号7で表されるアミノ酸配列を有するCDR3を含み、且つ
該重鎖可変領域が、配列番号8で表されるアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号9で表されるアミノ酸配列を有するCDR2及び配列番号10で表されるアミノ酸配列を有するCDR3を含む、抗体。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ヒト膜型ADAM28に特異的に結合する活性を有する抗体を提供する。
【0014】
ADAM28は公知のタンパク質であり、そのアミノ酸配列やcDNA配列も公知である。ADAM28には、膜型(ADAM28m)と、分泌型(ADAM28s)の2種類が存在する。ヒト膜型ADAM28の代表的なアミノ酸配列を配列番号2に、ヒト膜型ADAM28の代表的なcDNA配列を配列番号1に、ヒト分泌型ADAM28の代表的なアミノ酸配列を配列番号4に、ヒト分泌型ADAM28の代表的なcDNA配列を配列番号3に、それぞれ示す。また、ヒト膜型ADAM28(成熟型)の代表的なアミノ酸配列を配列番号22に、ヒト膜型ADAM28(成熟型)の代表的なcDNA配列を配列番号21に、ヒト分泌型ADAM28(成熟型)の代表的なアミノ酸配列を配列番号24に、ヒト分泌型ADAM28(成熟型)の代表的なcDNA配列を配列番号23に、それぞれ示す。配列番号22は、配列番号2の第199番〜第775番アミノ酸に相当する。
【0015】
「ヒト膜型ADAM28」とは、膜型ADAM28のアミノ酸配列又はヌクレオチド配列が、ヒトにおいて天然に発現している膜型ADAM28のアミノ酸配列又はヌクレオチド配列と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列又はヌクレオチド配列を有することを意味する。「実質的に同一」とは、着目したアミノ酸配列又はヌクレオチド配列が、ヒトにおいて天然に発現している膜型ADAM28のアミノ酸配列又はヌクレオチド配列と70%以上(好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上)の同一性を有しており、且つヒト膜型ADAM28の機能を有することを意味する。ヒト以外の生物種や、膜型ADAM28以外のタンパク質、遺伝子、それらの断片についても同様に解釈する。
【0016】
抗体による抗原Xへの「特異的結合」とは、抗原抗体反応における、抗体の抗原Xに対する結合親和性が、非特異的な抗原(例、牛血清アルブミン(BSA))に対する結合親和性よりも高いことを意味する。
【0017】
一態様において、抗原抗体反応における、本発明の抗体のヒト膜型ADAM28に対する結合親和性についてのK
D値が1×10
-7M以下(例えば、1×10
-8 M以下、1×10
-9 M以下、1×10
-10 M以下、1×10
-11 M以下)である。
【0018】
本発明の抗体は、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第524番〜第659番アミノ酸の領域内のエピトープにおいて、ヒト膜型ADAM28に特異的に結合する。本発明の抗体は、好ましくは、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第536番〜第543番アミノ酸の領域内のエピトープにおいて、ヒト膜型ADAM28に特異的に結合する。配列番号2で表されるアミノ酸配列における第524番〜第659番アミノ酸の領域、及び配列番号2で表されるアミノ酸配列における第536番〜第543番アミノ酸の領域は、ヒト膜型ADAM28には存在するが、ヒト分泌型ADAM28には存在しないため、本発明の抗体は、ヒト分泌型ADAM28に結合する活性を有していない。一態様において、抗原抗体反応における、本発明の抗体のヒト分泌型ADAM28に対する結合親和性についてのK
D値が1×10
-5 M以上(例えば、1×10
-4 M以上、1×10
-3 M以上、1×10
-2 M以上、1×10
−1 M以上)である。
【0019】
本発明の抗体は、マウス膜型ADAM28に特異的に結合する活性を有していてもよい。マウス膜型ADAM28への交差反応性を有することにより、マウスを用いた本発明の抗体の薬理効果や安全性に関する試験結果を、ヒトへ外挿することが容易になる。配列番号2で表されるアミノ酸配列における第524番〜第659番アミノ酸の領域は、ヒトADAM28とマウスADAM28との間で高度に保存されている。従って、当業者であれば、本発明の抗体の中から、マウス膜型ADAM28への交差反応性を有する抗体を、過度の試験を要することなく得ることができる。本発明の抗体がマウス膜型ADAM28への交差反応性を有する場合、抗原抗体反応における、本発明の抗体のマウス膜型ADAM28に対する結合親和性についてのK
D値が1×10
-7M以下(例えば、1×10
-8 M以下、1×10
-9 M以下、1×10
-10 M以下、1×10
-11 M以下)である。マウス膜型ADAM28の代表的なアミノ酸配列を配列番号26に、マウス膜型ADAM28の代表的なcDNA配列を配列番号25に、それぞれ示す。
【0020】
一態様において、本発明の抗体がマウス膜型ADAM28への交差反応性を有する場合、抗原抗体反応における、本発明の抗体のヒト膜型ADAM28に対する結合親和性についてのK
D値が1×10
-7 M以下(例えば、1×10
-8 M以下、1×10
-9 M以下、1×10
-10 M以下、1×10
-11 M以下)であり、且つ抗原抗体反応における、本発明の抗体のマウス膜型ADAM28に対する結合親和性についてのK
D値が1×10
-7 M以下(例えば、1×10
-8 M以下、1×10
-9 M以下、1×10
-10 M以下、1×10
-11 M以下)である。
【0021】
抗体の抗原(例えば、ヒト膜型ADAM28、マウス膜型ADAM28)に対する結合親和性についてのK
D値は、例えば、BIAcore 3000 (GE Healthcare Life Sciences)を用いて表面プラズモン共鳴によりKa値及びKd値を測定し、得られたKa値及びKd値から算出することができる。K
D値の測定にあたっては、抗原の全長のみならず、エピトープを含む抗原の断片、他のタンパク質と抗原又はエピトープを含むその断片との融合タンパク質を用いてもよい。例えば、抗体のヒト膜型ADAM28及びマウス膜型ADAM28に対するK
D値を測定する場合、MBPのC末端にヒト膜型ADAM28(配列番号2)の524-659の領域を付加した融合タンパク質(MBP-human ADAM28m 524-659)及び、MBPのC末端にマウス膜型ADAM28(配列番号26)の527-622の領域を付加した融合タンパク質(MBP-mouse ADAM28m 527-622)を、それぞれ、アミンカップリングによりCM5センサーチップ(GE Healthcare Life Sciences, Buckinghamshire, UK)上に固相化し、BIAcore 3000を用いて評価対象の抗体をフローセルにインジェクトすることにより、KaおよびKd値を測定し、得られたKaおよびKd値からK
D値を算出し、これを評価対象の抗体のヒト膜型ADAM28及びマウス膜型ADAM28に対するK
D値とすることができる。
【0022】
配列番号2で表されるアミノ酸配列における第536番〜第543番アミノ酸の領域は、マウス膜型ADAM28(配列番号26)における第539番〜第546番アミノ酸の領域に対応する。この領域においては、セリン(ヒト膜型ADAM28(配列番号2)の第539番アミノ酸)のスレオニン(マウス膜型ADAM28(配列番号26)の第541番アミノ酸)への保存的置換を除き、全てのアミノ酸がヒト膜型ADAM28とマウス膜型ADAM28とで同一である。従って、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第536番〜第543番アミノ酸の領域内のエピトープにおいて、ヒト膜型ADAM28に特異的に結合する活性を有する抗体は、マウス膜型ADAM28への交差反応性を有し得る。
【0023】
本明細書において、「抗体」は、全長抗体及びそのいかなる抗原結合断片(すなわち、「抗原結合部分」)又はその一重鎖を含むものとして使用する。「抗体」は、ジスルフィド結合で連結された少なくとも2個の重鎖(H)と2個の軽鎖(L)を含む糖タンパク質またはその抗原結合部分を称する。各重鎖は、重鎖可変領域(本文においてV
Hと略す。)と重鎖定常領域とから構成されている。重鎖定常領域は、3個のドメインC
H1、C
H2およびC
H3から構成されている。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本文においてV
Lと略す。)と軽鎖定常領域から構成されている。軽鎖定常領域は、1個のドメインC
Lで構成されている。V
HおよびV
L領域は、更に、相補性決定領域(CDR)と称される変異性の高い領域に小分割され、それらには、フレームワーク領域(FR)と称され、より保存性の高い領域が散在している。各V
HおよびV
Lは、3個のCDRと4個のFRで構成され、下記の順序、すなわち、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4でアミノ末端からカルボキシ末端へ配置されている。当該重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含んでいる。抗体の定常領域は、イムノグロブリンの宿主組織または因子への結合を媒介でき、それらには、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)および旧来の補体系の第1成分(C1q)が含まれる。
【0024】
本明細書において、抗体の「抗原結合部分」とは、特異的に抗原(例えば、ヒト膜型ADAM28)に結合する能力を保持する抗体の1個以上の断片を称するものとして使用する。抗体の抗原結合機能は全長抗体の当該断片によって行われることが明らかとなっている。抗体の「抗原結合部分」という用語に含まれる結合断片の例として、(i)V
L、V
H、C
LおよびC
H1ドメインから構成される1価の断片であるFab断片、(ii)ヒンジ領域中ジスルフィド架橋で結合した2個のFab断片を含む2価の断片であるF(ab’)
2断片、(iii)ヒンジ領域の部分を持つ本来的FabであるFab’断片(FUNDAMENTAL IMMUNOLOGY(Paul ed., 3rd ed. 1993参照)、(iv)V
HおよびC
H1ドメインから構成されるFd断片、(v)抗体のシングルアームのV
LおよびV
Hドメインで構成されるFv断片、(vi)V
Hドメインから構成されるdAb断片(Wardら、(1989) Nature 341:544-546)、(vii)単離相補性決定領域(CDR)および(viii)単一可変ドメインと二つの定常領域を含む重鎖可変領域であるナノボディを含む。更に、Fv断片の2個のドメインであるV
LおよびV
Hは別々の遺伝子によりコードされているが、それらは、組換え技術を用いてそれらを単一タンパク質鎖として作製できる合成リンカーにより連結でき、この鎖中では、V
LおよびV
H領域が対となって1価の分子を形成する(単一鎖のFv(scFv)として知られている;例えば、Birdら(1988) Science 242:423-426;およびHustonら、(1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883参照)。このような単一鎖の抗体も、抗体の「抗原結合部分」に包含される。これらの抗体断片は、当業者に公知の従来の技術を用いて得られ、当該断片について、未改変抗体の場合と同様に有用性を求めてスクリーニングされる。
【0025】
本発明の抗体は、ポリクローナル抗体(抗血清)、モノクローナル抗体のいずれであってもよいが、好ましくはモノクローナル抗体である。「モノクローナル抗体」とは、単一分子組成の抗体分子の調製物をいう。モノクローナル抗体組成物は、特定のエピトープに対して単一結合特異性と親和性を示す。抗体は、IgG、IgM、IgA、IgDあるいはIgE等のいずれのアイソタイプであってもよいが、好ましくはIgGまたはIgMである。
【0026】
モノクローナル抗体は、細胞融合法により作成することができる。例えば、マウスに抗原として、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第524番〜第659番アミノ酸の領域や第536〜543番アミノ酸の領域を含む単離されたポリペプチドをアジュバントと共に2〜4回皮下あるいは腹腔内に投与し、最終投与の3日後に脾臓あるいはリンパ節を採取し、リンパ球(B細胞)を採取する。このリンパ球(B細胞)とミエローマ細胞(例えば、NS−1、P3X63Ag8など)を細胞融合して該抗原に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る。細胞融合はPEG法でも電圧パルス法であってもよい。所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、周知のEIAまたはRIA法等を用いて抗原と特異的に結合する抗体を、培養上清中から検出することにより選択できる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの培養は、インビトロ、またはマウスもしくはラット、好ましくはマウス腹水中等のインビボで行うことができ、抗体はそれぞれハイブリドーマの培養上清および動物の腹水から取得することができる。
【0027】
本発明の抗体は、ヒト化抗体であってもよい。また、本明細書において、「ヒト化抗体」とは、遺伝子工学的に作製されるモノクローナル抗体であって、その可変領域の相補性決定領域の一部または全部がヒト以外の動物種(例、マウス)のイムノグロブリンに由来し、その可変領域のフレームワーク領域およびその定常領域がヒトイムノグロブリンに由来するモノクローナル抗体を意味する。換言すれば、例えばマウスモノクローナル抗体の可変領域の相補性決定領域の一部または全部以外の全ての領域が、ヒトイムノグロブリンの対応領域と置き代わったモノクローナル抗体を意味する。
【0028】
ヒト化抗体は、自体公知の方法により作製できる。例えば、マウスモノクローナル抗体に由来する組換えヒト化抗体は、既報(例、特表平4-506458号公報および特開昭62-296890号公報)に従って作製できる。詳細には、マウスモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマから、少なくとも1つのマウスH鎖CDR遺伝子と該マウスH鎖CDR遺伝子に対応する少なくとも1つのマウスL鎖CDR遺伝子を単離し、またヒトイムノグロブリン遺伝子から前記マウスH鎖CDRに対応するヒトH鎖CDR以外の全領域をコードするヒトH鎖遺伝子と、マウスL鎖CDRに対応するヒトL鎖CDR以外の全領域をコードするヒトL鎖遺伝子を単離する。単離した該マウスH鎖CDR遺伝子と該ヒトH鎖遺伝子を発現可能なように適当な発現ベクターに導入し、同様に該マウスL鎖CDR遺伝子と該ヒトL鎖遺伝子を発現可能なように適当なもう1つの発現ベクターに導入する。または、該マウスH鎖CDR遺伝子/ヒトH鎖遺伝子とマウスL鎖CDR遺伝子/ヒトL鎖遺伝子を同一の発現ベクターに発現可能なように導入することもできる。このようにして作製された発現ベクターで宿主細胞を形質転換することによりヒト化抗体産生細胞を得、該細胞を培養することにより培養上清中から目的のヒト化抗体を得ることができる。
【0029】
本発明の抗体は、ヒト抗体であってもよい。「ヒト抗体」とは、フレームワークとCDR領域の両方ともにヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域を有する抗体をいう。更に、抗体が定常領域を含む場合には、この定常領域もヒト生殖細胞系列イムノグロブリン配列に由来する。本明細書において、「ヒト抗体」は、ヒト生殖細胞系列イムノグロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロにおけるランダムまたは部位特異的変異誘発またはインビボにおける体細胞変異により導入される変異)を含む態様をも包含する。
【0030】
ヒト抗体は、自体公知の方法により作製できる。例えば、ヒト抗体は、少なくともヒトイムノグロブリン遺伝子をマウス等のヒト以外の哺乳動物の遺伝子座中に組込むことにより作製されたトランスジェニック動物を、抗原で免疫感作することにより、前述したポリクローナル抗体あるいはモノクローナル抗体の作製法と同様にして製造することができる。例えば、ヒト抗体を産生するトランスジェニックマウスは、既報(Nature Genetics, Vol.15, p.146-156, 1997;Nature Genetics, Vol.7, p.13-21, 1994;特表平4-504365号公報;国際出願公開WO94/25585号公報;Nature, Vol.368, p.856-859, 1994;および特表平6-500233号公報)に従って作製できる。
【0031】
本明細書において、ヒト抗体には「再構成ヒト抗体」が包含される。再構成ヒト抗体とは、第1のヒトドナー抗体に含まれる少なくとも1つのCDRが、第2のヒトアクセプター抗体において、第2のヒトアクセプター抗体のCDRの代わりに用いられる改変型抗体をいう。好ましくは、6つのCDR全てが置換される。より好ましくは、第1のヒトドナー抗体の抗原結合領域(例えば、Fv、FabまたはF(ab')2)全体が第2のヒトアクセプター抗体における対応領域の代わりに用いられる。より好ましくは、第1のヒトドナー抗体のFab領域が第2のヒトアクセプター抗体の適切な定常領域と機能可能なように連結して全長抗体を形成する。
【0032】
再構成ヒト抗体は、例えば、EP125023、WO96/02576等に開示された、一般的な遺伝子組換え手法を用いて製造することができる。具体的には、例えばドナーヒト抗体中の目的のCDRとアクセプターヒト抗体中の目的のフレームワーク領域(FR)とを連結するように設計したDNA配列を、CDRおよびFR両方の末端領域にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCR法により合成する(WO98/13388に記載の方法を参照)。得られたDNAをヒト抗体定常領域もしくはヒト抗体定常領域改変体をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより再構成ヒト抗体を得ることができる(EP125023、WO96/02576参照)。
【0033】
また本明細書において、ヒト抗体には「人工ヒト抗体」が包含される。人工ヒト抗体は、例えば、Rothe, C. et al. J. Mol. Biol. 2008; 376:1182-1200等に開示された、一般的な遺伝子組換え手法を用いて製造することができる。
【0034】
本発明の抗体には、上述の抗体と他のペプチド又はタンパク質とが融合した融合タンパク質も含まれる。融合タンパク質を作製する方法は、本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドと他のペプチド又はポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをフレームが一致するように連結してこれを発現ベクターに導入し、宿主で発現させればよく、当業者に公知の手法を用いることができる。本発明の抗体との融合に付される他のペプチドとしては、例えば、FLAG(Hopp, T. P. et al., BioTechnology (1988) 6, 1204-1210)、6個のHis(ヒスチジン)残基からなる6×His、10×His、ヒトc-mycの断片、VSV-GPの断片、p18HIVの断片、T7-tag、HSV-tag、E-tag、SV40T抗原の断片、lck tag、α-tubulinの断片、B-tag、Protein Cの断片等の公知のペプチドを使用することができる。また、本発明の抗体との融合に付される他のポリペプチドとしては、例えば、GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)、HA(インフルエンザ凝集素)、イムノグロブリン定常領域、β-ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合タンパク質)等が挙げられる。市販されているこれらペプチドまたはポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドと融合させ、これにより調製された融合ポリヌクレオチドを発現させることにより、融合ポリペプチドを調製することができる。
【0035】
本発明の抗体は単離又は精製されていることが好ましい。「単離又は精製」とは、天然に存在する状態から、目的とする成分以外の成分を除去する操作が施されていることを意味する。単離又は精製された本発明の抗体の純度(全タンパク質重量に対する、本発明の抗体の重量の割合)は、通常50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上(例えば実質的に100%)である。
【0036】
本発明の抗体の好ましい態様としては、以下の(1)及び(2)に記載の抗体を挙げることができる:
(1)軽鎖可変領域及び重鎖可変領域を含み、
該軽鎖可変領域が、配列番号5で表されるアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号6で表されるアミノ酸配列を有するCDR2及び配列番号7で表されるアミノ酸配列を有するCDR3を含み、且つ
該重鎖可変領域が、配列番号8で表されるアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号9で表されるアミノ酸配列を有するCDR2及び配列番号10で表されるアミノ酸配列を有するCDR3を含む、抗体;及び
(2)軽鎖可変領域及び重鎖可変領域を含み、
該軽鎖可変領域が、配列番号5で表されるアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号6で表されるアミノ酸配列を有するCDR2及び配列番号7で表されるアミノ酸配列を有するCDR3を含み、且つ
該重鎖可変領域が、配列番号8で表されるアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号9で表されるアミノ酸配列を有するCDR2及び配列番号10で表されるアミノ酸配列を有するCDR3を含む、抗体
(但し、配列番号5、6及び7で表されるアミノ酸配列からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列において、1〜3個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加しており、且つ/或いは、
配列番号8、9及び10で表されるアミノ酸配列からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列において、1〜3個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加している)。
【0037】
(2)の態様においては、置換、欠失、挿入、及び/又は付加されるアミノ酸の数は、抗体が配列番号2で表されるアミノ酸配列における第524番〜第659番アミノ酸の領域内のエピトープ(好ましくは、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第536番〜第543番アミノ酸の領域内のエピトープ)において、ヒト膜型ADAM28に特異的に結合する活性を有する限り特に限定されないが、1つのCDR配列につき、好ましくは2アミノ酸以内、より好ましくは1アミノ酸である。また、アミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加するCDR配列の数は、抗体が配列番号2で表されるアミノ酸配列における第524番〜第659番アミノ酸の領域内のエピトープ(好ましくは、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第536番〜第543番アミノ酸の領域内のエピトープ)において、ヒト膜型ADAM28に特異的に結合する活性を有する限り特に限定されないが、1つの軽鎖可変領域につき、好ましくは2つ以内、より好ましくは1つであり、1つの重鎖可変領域につき、好ましくは2つ以内、より好ましくは1つである。アミノ酸の置換、欠失、挿入、及び/又は付加は、軽鎖可変領域と重鎖可変領域の両方において行われてもよいし、いずれか一方のみにおいて行われてもよい。
【0038】
(2)の態様においては、好ましくは、軽鎖可変領域のCDR3のアミノ酸配列においてのみ、1〜3個(好ましくは1又は2個、より好ましくは1個)のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加している。
【0039】
1又は複数のアミノ酸残基を目的の他のアミノ酸に置換する方法としては、例えば、部位特異的変異誘発法(Hashimoto-Gotoh, T, Mizuno, T, Ogasahara, Y, and Nakagawa, M. (1995) An oligodeoxyribonucleotide-directed dual amber method for site-directed mutagenesis. Gene 152, 271-275、 Zoller, MJ, and Smith, M.(1983) Oligonucleotide-directed mutagenesis of DNA fragments cloned into M13 vectors. Methods Enzymol. 100, 468-500、 Kramer,W, Drutsa,V, Jansen,HW, Kramer,B, Pflugfelder,M, and Fritz,HJ (1984) The gapped duplex DNA approach to oligonucleotide-directed mutation construction. Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456、 Kramer W, and Fritz HJ (1987) Oligonucleotide-directed construction of mutations via gapped duplex DNA Methods. Enzymol. 154, 350-367、 Kunkel,TA(1985) Rapid and efficient site-specific mutagenesis without phenotypic selection. Proc Natl Acad Sci U S A. 82, 488-492)が挙げられる。該方法を用いて、抗体の所望のアミノ酸を目的の他のアミノ酸に置換することができる。又、フレームワークシャッフリング(Mol Immunol. 2007 Apr;44(11):3049-60)およびCDR修復(US2006/0122377)等のライブラリー技術を用いることにより、フレームワークおよびCDRにおけるアミノ酸を適切な他のアミノ酸に置換することも可能である。
【0040】
本発明の抗体において、CDRと連結される抗体のフレームワーク領域(FR)は、CDRが良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。本発明の抗体に用いられるFRは特に限定されず、如何なるFRが用いられていてもよいが、マウス又はヒト抗体のFRが用いられることが好ましい。ヒト抗体のFRは天然配列を有するFRが用いられてもよいし、必要に応じ、CDRが適切な抗原結合部位を形成するように、天然配列を有するフレームワーク領域の1又は複数のアミノ酸を置換、欠失、付加及び/又は挿入等してもよい。例えば、アミノ酸を置換したFRを用いた抗体の抗原への結合活性を測定し評価することによって、所望の性質を有する変異FR配列が選択できる(Sato, K. et al.,Cancer Res.(1993)53, 851-856)。
【0041】
本発明の抗体で用いられる定常領域は特に限定されず、如何なる定常領域が用いられてもよい。本発明の抗体で用いられる定常領域の好ましい例としては、マウス又はヒト抗体の定常領域(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgM由来の定常領域など)を挙げることができる。例えばH鎖では、Cγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4、Cμ、Cδ、Cα1、Cα2、Cεを、L鎖ではCκ、Cλを使用することができる。
【0042】
一態様において、(1)の抗体においては、軽鎖については、マウス抗体のkappaの定常領域が、重鎖については、マウス抗体のIgG2aの定常領域が用いられる。
【0043】
本発明の好ましい抗体として以下のものを挙げることができる:
(1’)軽鎖可変領域及び重鎖可変領域を含み、該軽鎖可変領域が配列番号11で表されるアミノ酸配列を含み、且つ、該重鎖可変領域が配列番号12で表されるアミノ酸配列を含む、抗体;
【0044】
上記(1’)の抗体は、上記(1)の抗体の好ましい態様に相当する。
【0045】
また、本発明は上記本発明の抗体をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを提供するものである。該ポリヌクレオチドは、DNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。また、該ポリヌクレオチドは二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNAまたはDNA:RNAのハイブリッドでもよい。
【0046】
尚、本発明のポリヌクレオチドには、本発明の抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域の両方をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、及び重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドと、軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドとの組み合わせが包含される。
【0047】
本発明のポリヌクレオチドは、本発明の抗体のアミノ酸配列情報、公知の配列情報や本明細書の配列表に記載された配列情報に基づき、公知の遺伝子組換え技術を利用することにより容易に製造することができる。例えば、配列情報に基づき適当なプライマーを設計し、本発明の抗体を構成する構成要素をコードするDNAをPCR反応によって増幅し、DNAフラグメントをリガーゼなどの適切な酵素を用いて連結することにより、本発明のポリヌクレオチドを製造することができる。或いは、本発明の抗体のアミノ酸配列情報に基づいて、ポリヌクレオチド合成装置により各構成要素をコードするポリヌクレオチドを合成してもよい。
【0048】
取得された本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドは、目的によりそのまま、または所望により制限酵素で消化するか、リンカーを付加した後に、使用することができる。該ポリヌクレオチドはその5’末端側に翻訳開始コドンとしてのATGを有し、また3’末端側には翻訳終止コドンとしてのTAA、TGAまたはTAGを有していてもよい。これらの翻訳開始コドンや翻訳終止コドンは、適当な合成DNAアダプターを用いて付加することができる。
【0049】
本発明のポリヌクレオチドは、好ましくは単離又は精製されている。単離又は精製された本発明のポリヌクレオチドの純度(全ポリヌクレオチド重量に対する、本発明のポリヌクレオチドの重量の割合)は、通常50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上(例えば実質的に100%)である。
【0050】
本発明は、上記本発明のポリヌクレオチドを含むベクターを提供するものである。本発明のベクターには、本発明の抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域の両方をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを含むベクター、及び重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを含むベクターと、軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを含むベクターとの組み合わせが包含される。該ベクターは好ましくは単離又は精製されている。ベクターとしては発現ベクター、クローニングベクター等を挙げることができ、目的に応じて選択することが可能であるが、好ましくは、ベクターは発現ベクターである。該発現ベクターは、本発明の抗体を発現し得る。該発現ベクターは、本発明のポリヌクレオチドを適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に機能的に連結することにより製造することができる。ベクターの種類としては、プラスミドベクター、ウイルスベクター等を挙げることができ、用いる宿主に応じて適宜選択することができる。
【0051】
宿主としては、例えば、エシェリヒア属菌(エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等)、バチルス属菌(バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis)等)、酵母(サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等)、昆虫細胞(夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Spodoptera frugiperda cell;Sf細胞)等)、昆虫(カイコの幼虫等)、哺乳動物細胞(ラット神経細胞、サル細胞(COS-7等)、チャイニーズハムスター細胞(CHO細胞等)等)などが用いられる。
【0052】
哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、カニクイザル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
プラスミドベクターとしては、大腸菌由来のプラスミドベクター(例、pBR322,pBR325,pUC12,pUC13)、枯草菌由来のプラスミドベクター(例、pUB110,pTP5,pC194)、酵母由来プラスミドベクター(例、pSH19,pSH15)等を挙げることができ、用いる宿主の種類や使用目的に応じて適宜選択することができる。
【0054】
ウイルスベクターの種類は、用いる宿主の種類や使用目的に応じて適宜選択することができる。例えば、宿主として昆虫細胞を用いる場合には、バキュロウイルスベクター等を用いることができる。また、宿主として哺乳動物細胞を用いる場合には、モロニーマウス白血病ウイルスベクター、レンチウイルスベクター、シンドビスウイルスベクター等のレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、パルボウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、センダイウイルスベクター等を用いることができる。
【0055】
また、プロモーターは、用いる宿主の種類に対応して、該宿主内で転写を開始可能なものを選択することができる。例えば、宿主がエシェリヒア属菌である場合、trpプロモーター、lacプロモーター、T7プロモーターなどが好ましい。宿主がバチルス属菌である場合、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーターなどが好ましい。宿主が酵母である場合、PHO5プロモーター、PGKプロモーターなどが好ましい。宿主が昆虫細胞である場合、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーターなどが好ましい。宿主が哺乳動物細胞である場合、サブゲノミック(26S)プロモーター、CMVプロモーター、SRαプロモーターなどが好ましい。
【0056】
本発明のベクターには、抗体分泌のためのシグナル配列が含まれていてもよい。抗体分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol. (1987) 169, 4379)を使用すればよい。
【0057】
本発明のベクターは、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製オリジン(以下、SV40oriと略称する場合がある)などを、それぞれ機能可能な態様で含有していてもよい。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素(以下、dhfrと略称する場合がある)遺伝子〔メソトレキセート(MTX)耐性〕、アンピシリン耐性遺伝子(Amp
rと略称する場合がある)、ネオマイシン耐性遺伝子(Neo
rと略称する場合がある、G418耐性)等が挙げられる。
【0058】
上記本発明のベクターを、自体公知の遺伝子導入法(例えば、リポフェクション法、リン酸カルシウム法、マイクロインジェクション法、プロプラスト融合法、エレクトロポレーション法、DEAEデキストラン法、Gene Gunによる遺伝子導入法等)に従って上記宿主へ導入することにより、該ベクターが導入された形質転換体(本発明の形質転換体)を製造することができる。導入されるベクターとして発現ベクターを使用することにより、該形質転換体は本発明の抗体を発現し得る。本発明の形質転換体は、本発明の抗体の製造等に有用である。
【0059】
本発明の形質転換体を、宿主の種類に応じて、自体公知の方法で培養し、培養物から本発明の抗体を単離することにより、本発明の抗体を製造することができる。宿主がエシェリヒア属菌である形質転換体の培養は、LB培地やM9培地等の適切な培地中、通常約15〜43℃で、約3〜24時間行なわれる。宿主がバチルス属菌である形質転換体の培養は、適切な培地中、通常約30〜40℃で、約6〜24時間行なわれる。宿主が酵母である形質転換体の培養は、バークホールダー培地等の適切な培地中、通常約20℃〜35℃で、約24〜72時間行なわれる。宿主が昆虫細胞または昆虫である形質転換体の培養は、約10%のウシ血清が添加されたGrace’s Insect medium等の適切な培地中、通常約27℃で、約3〜5日間行なわれる。宿主が動物細胞である形質転換体の培養は、約10%のウシ血清が添加されたMEM培地等の適切な培地中、通常約30℃〜40℃で、約15〜60時間行なわれる。いずれの培養においても、必要に応じて通気や撹拌を行ってもよい。
【0060】
尚、遺伝子工学的に抗体を製造する方法については、例えば、Co, M. S. et al., J. Immunol. (1994) 152, 2968-2976; Better, M. and Horwitz, A. H., Methods Enzymol. (1989) 178, 476-496; Pluckthun, A. and Skerra, A., Methods Enzymol. (1989) 178, 497-515; Lamoyi, E., Methods Enzymol. (1986) 121, 652-663; Rousseaux, J. et al., Methods Enzymol. (1986) 121, 663-669; Bird, R. E. and Walker, B. W., Trends Biotechnol. (1991) 9, 132-137等を参照のこと。
【0061】
培養物からの本発明の抗体の分離、精製は、通常の抗体の精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせれば抗体を分離、精製することができる。
【0062】
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1996)。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。例えば、プロテインAを用いたカラムとして、Hyper D, POROS, Sepharose FF(GE Amersham Biosciences社製)等が挙げられる。本発明は、これらの精製方法を用い、高度に精製された抗体も包含する。
【0063】
また本発明は、上記本発明の抗体を有効成分として含有する医薬組成物を提供する。本発明の抗体及び医薬組成物は、ヒト膜型ADAM28を発現する細胞又は組織へ薬物を送達するための、薬物送達媒体として有用である。薬物送達媒体とは、所望の薬物を、所望の細胞や組織へ送達することを媒介する担体を意味する。ヒト膜型ADAM28を発現する細胞又は組織は、好ましくは癌細胞又は癌組織である。癌の種類は、ヒト膜型ADAM28を発現する限り、特に限定されないが、肝癌、大腸癌、腎臓癌、黒色腫、膵癌、甲状腺癌、胃癌、肺癌(小細胞肺癌、非小細胞肺癌)、脳腫瘍、子宮癌、乳癌、多発性骨肉腫、卵巣癌、慢性白血病、前立腺癌、急性リンパ性白血病、胚細胞腫、急性骨髄性白血病、悪性リンパ腫、繊毛癌、小児悪性腫瘍、胆嚢・胆管癌等が挙げられる。細胞や組織がヒト膜型ADAM28を発現するか否かは、本発明の抗体、又はヒトADAM28を特異的に認識する抗体を用いた、フローサイトメトリー、免疫組織学的染色、ウェスタンブロッティング、RT−PCR等により評価することができる。
【0064】
本発明の抗体を用いて、所望の薬物を、ヒト膜型ADAM28を発現する細胞又は組織へ送達する場合、当該薬物及び本発明の抗体を含む免疫複合体(immunoconjugate)を、ヒト膜型ADAM28を発現する細胞又は組織(例えば、癌細胞や癌組織)を有するヒトへ投与する。本発明の抗体にコンジュゲートする薬物の種類は、特に限定されないが、例えば、ヒト膜型ADAM28を発現する細胞又は組織(例えば、癌細胞や癌組織)を傷害して、該細胞や組織に起因する疾患を治療するための化合物(例、化学療法剤等の抗癌剤、放射線同位元素、トキシン);ヒト膜型ADAM28を発現する細胞又は組織を検出し、イメージングするための標識剤(例、放射線同位体、蛍光物質、発光物質、酵素)等を挙げることが出来る。ヒト膜型ADAM28を発現する細胞又は組織(例えば、癌細胞や癌組織)を傷害して、該細胞や組織に起因する疾患を治療するための化合物と本発明の抗体との免疫複合体を、ヒトに投与することにより、当該ヒトにおいて、ヒト膜型ADAM28を発現する細胞又は組織に選択的に該化合物が送達され、当該ヒトにおける、ヒト膜型ADAM28を発現する細胞又は組織(例えば、癌細胞や癌組織)を傷害し、該細胞や組織に起因する疾患(例、癌)を治療することができる。また、ヒト膜型ADAM28を発現する細胞又は組織を検出し、イメージングするための標識剤と、本発明の抗体との免疫複合体を、ヒトに投与することにより、当該ヒトにおいて、ヒト膜型ADAM28を発現する細胞又は組織(例えば、癌細胞や癌組織)に選択的に標識剤が送達され、当該ヒトにおける、ヒト膜型ADAM28を発現する細胞又は組織を特異的に検出し、イメージングすることが出来る。本発明の抗体には、生体内における安定性を向上させるため、ポリエチレングリコール(PEG)やヒアルロン酸などの高分子物質をコンジュゲートしてもよい。
【0065】
薬物と本発明の抗体との結合様式は、生体内において免疫複合体が安定的に存在し、当該薬物をヒト膜型ADAM28を発現する細胞又は組織へ送達可能であれば、特に限定されないが、例えば、薬物と本発明の抗体との直接結合、スペーサーを介した薬物と本発明の抗体との結合、中間支持体(デキストラン、アルブミン等)を介した薬物と本発明の抗体との結合、薬物を封入したリポソーム等の担体と本発明の抗体との結合等を挙げることができる。このような免疫複合体の製造方法は、当該技術分野において既に確立されている(例えば、US5057313、US5156840)。
【0066】
ヒト膜型ADAM28を発現する癌細胞の多くは、ヒト分泌型ADAM28をも発現し、従来知られていた抗ADAM28抗体(特許文献1)は、この両方に結合するため、ミサイル療法においてこの抗体を用いると、分泌型ADAM28が膜型ADAM28と競合する形で抗体に結合し、癌細胞への抗ADAM28抗体の結合を阻害してしまう可能性がある。これに対して、本発明の抗体は、ヒト膜型ADAM28に特異的な領域内にエピトープを有することにより、ヒト膜型ADAM28に特異的に結合する活性を有し、ヒト分泌型ADAM28には結合しないので、分泌型ADAM28に阻害されることなく、ヒト膜型ADAM28に結合し、ヒト膜型ADAM28を発現する細胞や組織へ所望の薬物を送達することが可能である。従って、本発明の抗体は、ヒト膜型ADAM28に加えて、ヒト分泌型ADAM28をも発現する細胞や組織への薬物送達媒体として優れている。細胞や組織が、ヒト分泌型ADAM28を発現しているか否かは、ヒト分泌型ADAM28を特異的に認識する抗体を用いた、免疫組織学的染色、ウェスタンブロッティング、RT−PCR等により評価することができる。一部の癌においては、癌の進行、転移、再発等と共に、血清中の分泌型ADAM28の濃度が上昇することが知られている。そこで、血清中に分泌型ADAM28が検出されたヒト、又は健常人よりも血清中の分泌型ADAM28の濃度が高いヒトを投与対象として、本発明の抗体を薬物送達媒体として用いると、血流中の分泌型ADAM28に阻害されることなく、所望の薬物をヒト膜型ADAM28を発現する細胞や組織(例、癌細胞又は癌組織)へ送達することができるので、有利である。
【0067】
本発明の抗体や上述の免疫複合体は、常法に従って製剤化することができる(例えば、Remington’s Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)。更に、必要に応じ、医薬的に許容される担体及び/または添加物を含んでもよい。例えば、界面活性剤(PEG、Tween等)、賦形剤、酸化防止剤(アスコルビン酸等)、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤(リン酸、クエン酸、他の有機酸等)、キレート剤(EDTA等)、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等を含むことができる。しかしながら、本発明の医薬組成物は、これらに制限されず、その他常用の担体を適宜含んでいてもよい。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。また、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチン及び免疫グロブリン等のタンパク質、並びに、アミノ酸を含んでいてもよい。注射用の水溶液とする場合には、本発明の抗体や上述の免疫複合体を、例えば、生理食塩水、ブドウ糖またはその他の補助薬を含む等張液に溶解する。補助薬としては、例えば、D−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、更に、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO−50)等と併用してもよい。
【0068】
また、必要に応じポリペプチドをマイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる(Remington’s Pharmaceutical Science 16th edition &, Oslo Ed. (1980)等参照)。更に、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、ポリペプチドに適用し得る(Langer et al., J.Biomed.Mater.Res.(1981) 15: 167-277; Langer, Chem. Tech. (1982)12: 98-105;米国特許第3,773,919号; 欧州特許出願公開(EP)第58,481号; Sidman et al., Biopolymers (1983)22: 547-56;EP第133,988号)。更に、本剤にヒアルロニダーゼを添加あるいは混合することで皮下に投与する液量を増加させることも可能である(例えば、WO2004/078140等)。
【0069】
医薬組成物中の本発明の抗体又は上述の免疫複合体の含有量は、例えば、医薬組成物全体の約0.01〜100重量%、好ましくは0.1〜99.9%である。
【0070】
本発明の医薬組成物は、経口又は非経口のいずれでも投与可能であるが、好ましくは非経口投与される。具体的には、注射及び経皮投与により患者に投与される。注射剤型の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射または皮下注射等により全身又は局所的に投与することができる。治療部位又はその周辺に局所注入、特に筋肉内注射してもよい。経皮投与剤型の例としては、例えば、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、湿布剤、および貼付剤等があげられ、全身又は局所的に投与することができる。また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。投与量としては、例えば、1回につき体重1kgあたり本発明の抗体又は免疫複合体として0.5mg〜10mgの範囲で選ぶことが可能である。しかしながら、本発明の医薬組成物は、これらの投与量に制限されるものではない。
【0071】
刊行物、特許文献等を含む、本明細書に引用されたすべての参考文献は、引用により、それらが個々に具体的に参考として援用されかつその内容全体が具体的に記載されているのと同程度まで、本明細書に援用される。
【実施例】
【0072】
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。尚、実施例における各種遺伝子操作は、Molecular cloning third. ed. (Cold Spring Harbor Lab. Press, 2001)に記載の方法に従った。
【0073】
[実施例1]
ヒト膜型ADAM28を特異的に認識する抗体の作製
MBPのC末端に、ヒトADAM28の膜型特異的領域(配列番号2で表されるアミノ酸配列における第524番〜第659番アミノ酸の領域)を連結した融合タンパク質を、マウスへ免疫し、腸骨リンパ法により、ハイブリドーマを樹立し、フローサイトメトリーによりヒト膜型ADAM28のみに反応するクローン2B6D10を樹立した。
【0074】
(1)ELISA
抗原として、免疫原である融合タンパク質を用い、一次抗体として2B6D10の培養上清を用い、二次抗体として抗マウスIgG-HRP抗体(1:100000)を用いた。結果を下の表に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
(2)組織染色
ヒト膜型ADAM28をEGFPとコトランスフェクトしたCHO-K1細胞を、2B6D10抗体(5 μg/ml)で、4℃にて1.5時間処理した。該細胞を、洗浄後、抗マウスIgG-Alexa555(1:300)で、4℃にて1時間処理した。該細胞を洗浄後、37℃にて0分又は90分インキュベートした後に固定して観察した。結果を、
図1に示す。
2B6D10抗体は、ヒト膜型ADAM28をトランスフェクトしたCHO-K1細胞に結合した。また、抗体染色後に37℃でインキュベートすることで抗体のインターナリゼーションが認められ、その細胞内局在はリソソームマーカーであるLamp1-EGFPと一致した(
図2)。
【0077】
(3)マウスADAM28への交差反応性
マウス膜型ADAM28をEGFPとコトランスフェクトしたCHO-K1細胞を、2B6D10抗体(5 μg/ml)で、4℃にて1.5時間処理した。該細胞を、洗浄後、抗マウスIgG-Alexa555(1:300)で、4℃にて1時間処理した。該細胞を洗浄後固定して観察した。結果を、
図3に示す。
2B6D10抗体は、マウス膜型ADAM28へも交差反応した。
【0078】
(4)可変領域の配列解析
2B6D10のハイブリドーマから、全RNAを抽出し、RT-PCRにより、抗体の軽鎖及び重鎖可変領域のcDNAを増幅し、cDNA配列解析を行った。得られたcDNA配列から、2B6D10抗体の軽鎖及び重鎖可変領域のアミノ酸配列を求めた。結果を、下の表に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
また、2B6D10抗体の軽鎖及び重鎖可変領域の全長アミノ酸配列を、配列番号11及び12に、それぞれ示す。
【0082】
【表4】
【0083】
[実施例2]
MBPのC末端に、ヒト膜型ADAM28(配列番号2)の以下の領域の部分配列を付加した融合タンパク質をそれぞれ調製した。
524-562、554-596、588-630、622-659、524-543、534-553、544-562、536-545、538-547、540-549、542-551、536-543、537-544、538-545
(各数値は、配列番号2で表されるアミノ酸配列におけるアミノ酸番号を示す。)
上記融合タンパク質に対する抗ヒト膜型ADAM28抗体2B6D10の反応性を、ウェスタンブロッティングにより評価した。その結果、2B6D10は536-543の領域の部分配列を含む融合タンパク質(524-562、524-543、534-553、536-545、及び536-543)へ強く結合した。この結果から、2B6D10のエピトープは、ヒト膜型ADAM28(配列番号2)の536-543の領域(EGGSKYGY、配列番号27)内に含まれることが示唆された。
【0084】
[実施例3]
ELISAによる2B6D10抗体のヒト膜型ADAM28とマウス膜型ADAM28に対する反応性の比較
MBPのC末端にヒト膜型ADAM28(配列番号2)の524-659の領域を付加した融合タンパク質(MBP-human ADAM28m 524-659)及び、MBPのC末端にマウス膜型ADAM28(配列番号26)の527-622の領域(ヒト膜型ADAM28の524-659の領域に相当)を付加した融合タンパク質(MBP-mouse ADAM28m 527-622)を作製しELISAに用いた。各抗原を5μg/mlでELISAプレートに固相化し、測定用に希釈した2B6D10抗体と反応させた。その後、2次抗体として抗マウスIgG‐HRP (Jackson ImmunoResearch Laboratories)を1:10000希釈したものを反応させた。検出はTMBの発色で行った。
結果を
図4に示す。この結果から、2B6D10抗体はヒト膜型ADAM28とマウス膜型ADAM28に同等の反応性を持つことが明らかになった。
【0085】
[実施例4]
表面プラズモン共鳴(SPR)によるタンパク質相互作用解析
MBPのC末端にヒト膜型ADAM28(配列番号2)の524-659の領域を付加した融合タンパク質(MBP-human ADAM28m 524-659)及び、MBPのC末端にマウス膜型ADAM28(配列番号26)の527-622の領域を付加した融合タンパク質(MBP-mouse ADAM28m 527-622)を、それぞれ、アミンカップリングによりCM5センサーチップ(GE Healthcare Life Sciences, Buckinghamshire, UK)上に固相化し、BIAcore 3000 (GE Healthcare Life Sciences)を用いて2B6D10抗体をフローセルにインジェクトした。KD値は測定したKaおよびKd値より算出した。
結果を以下の表に示す。
【0086】
【表5】
【0087】
この結果、2B6D10抗体のKD値はヒト膜型ADAM28およびマウス膜型ADAM28に対してそれぞれ9.35×10
-11M、2.36×10
-10Mであり、両者に対して同等の高い親和性を示した。