特許第6783984号(P6783984)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6783984
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/38 20100101AFI20201102BHJP
   H01L 33/10 20100101ALI20201102BHJP
   H01L 29/41 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   H01L33/38
   H01L33/10
   H01L29/44 S
   H01L29/44 Y
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-141224(P2016-141224)
(22)【出願日】2016年7月19日
(65)【公開番号】特開2018-14346(P2018-14346A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2018年8月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(74)【代理人】
【識別番号】100165962
【弁理士】
【氏名又は名称】一色 昭則
(74)【代理人】
【識別番号】100206357
【弁理士】
【氏名又は名称】角谷 智広
(72)【発明者】
【氏名】石黒 雄也
(72)【発明者】
【氏名】矢羽田 孝輔
【審査官】 百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】 韓国公開特許第10−2009−0015633(KR,A)
【文献】 国際公開第2014/208341(WO,A1)
【文献】 特開2001−274535(JP,A)
【文献】 特開2001−217461(JP,A)
【文献】 特開平11−186599(JP,A)
【文献】 特表2015−505790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00−33/64
H01L 21/28−21/288
H01L 21/44−21/445
H01L 29/40−29/51
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
p層と、前記p層上に設けられた透明電極と、前記透明電極上に設けられたDBR層と、前記DBR層上に設けられ、前記DBR層に設けられた孔を介して前記透明電極と接続された反射電極と、を有した発光素子であって、
前記反射電極は、AgまたはAg合金からなり、厚さが10〜100nmの反射膜と、透明導電性酸化物からなり、厚さが1〜10nmの酸化膜とを交互に繰り返し積層させ、前記反射膜の層数を2以上とした構造であり、
前記反射膜は、前記酸化膜の厚さの10倍以上である、
ことを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記反射膜の厚さの総計は、100nm以上であることを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記反射膜の層数は3以上である、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記酸化膜は、IZOまたはITOからなることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項5】
反射電極は、最表層が前記反射膜である、ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項6】
III 族窒化物半導体からなることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項7】
前記DBR層と前記反射電極との間に、IZO膜をさらに有する、ことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射電極を有した発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
フリップチップ型の発光素子では、p電極を兼ねる反射膜(反射電極)を設け、これにより基板側へと光を反射させて光取り出し効率を向上させている。反射電極の材料には、反射率の高いAgまたはAg合金が広く用いられている。
【0003】
Agはマイグレーション(電気化学的な作用による金属イオンの移動)を起こしやすいことが知られている。マイグレーションは電流リークなど発光素子の各種特性を劣化させてしまう。
【0004】
このAgのマイグレーションを抑制するため、Agを絶縁膜などで封止し、Agが水分などと接触しないようにすることが行われている。
【0005】
特許文献1では、ITOからなるオーミック電極の端部を覆うようにしてAgを含む反射金属層を設け、ITOからなる被覆電極層の中にAgを含む反射金属層を埋設することが記載されている。このように構成すると、反射金属層の端部がp層に接するため、オーミック電極と接するよりも密着性がよく、反射金属層の端部の隆起が抑制される。その結果、反射金属層をオーミック電極と被覆電極層によって確実に被覆することができ、Agのマイグレーションの発生が防止される。また、被覆電極層の酸素濃度を小さくすることで、水分や酸素の影響による水酸化銀の発生を抑制し、これによってマイグレーションの発生を抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−65205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明者らの検討によると、たとえ絶縁膜によって反射電極が封止されていても、高温、高電流で使用するとAgがマイグレーションを起こし、反射電極内にボイドが生じてしまうことがわかった。このボイドは反射電極の反射率を低下させ、発光素子の光量を低下させてしまう。また、電流リークなどの原因にもなる。
【0008】
また、反射電極の反射率を向上させるためには、Agをなるべく厚くする必要がある。しかし、Agを厚くするとマイグレーションを起こしやすくなり、特許文献1の構造を採用しても、Agが厚い場合にはマイグレーションの抑制効果が十分でなかった。
【0009】
そこで本発明は、マイグレーションが抑制された反射電極を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、p層と、p層上に設けられた透明電極と、透明電極上に設けられたDBR層と、DBR層上に設けられ、DBR層に設けられた孔を介して透明電極と接続された反射電極と、を有した発光素子であって、反射電極は、AgまたはAg合金からなり、厚さが10〜100nmの反射膜と、透明導電性酸化物からなり、厚さが1〜10nmの酸化膜とを交互に繰り返し積層させ、反射膜の層数を2以上とした構造であり、反射膜は、酸化膜の厚さの10倍以上である、ことを特徴とする発光素子である。
【0011】
透明導電性酸化物は、発光素子の発光波長の光に対して透光性を有し、かつ導電性を有した材料である。酸化インジウム系材料、酸化亜鉛系材料、酸化スズ系材料などを用いることができる。特に、透光性と導電性が高いことからITO(スズドープの酸化インジウム)またはIZO(亜鉛ドープの酸化インジウム)が好ましい。特に透光性の高さからIZOが好ましい。
【0012】
反射膜は、酸化膜の厚さの10倍以上とすることが望ましい。反射電極のマイグレーション抑制効果を高めつつ、反射電極の反射率も高めることができる。より望ましくは15倍以上、さらに望ましくは20倍以上である。
【0013】
反射膜の厚さの総計は、100nm以上であることが望ましい。これにより、マイグレーション抑制効果を損なうことなく、反射電極の反射率をさらに向上させることができる。
【0014】
各反射膜の厚さは、10〜100nmとするのがよい。10nmよりも薄いと、反射膜を透過する光の割合が増大し、反射電極の反射率が十分に向上せず、100nmよりも厚いと、マイグレーションが発生する可能性が高くなるためである。
【0015】
各酸化膜の厚さは、1〜10nmとするのがよい。1nmよりも薄いと、反射膜のAgのマイグレーション抑制効果が十分でなく、10nmよりも厚いと、反射電極の反射率や導電性が低下してしまうためである。
【0016】
反射膜の層数は3以上とするのがよい。反射電極のマイグレーションを抑制しつつ、反射電極の反射率をより向上させるためである。また、反射電極は、最表層が反射膜であることが望ましい。反射電極の最表層と接する金属層とのコンタクトを良好とし、反射電極の電極としての機能を十分に発揮させるためである。
【0017】
また、本発明はIII 族窒化物半導体からなる発光素子に好適である。III 族窒化物半導体からなる発光素子は、照明用として広く用いられ、大電流で駆動されることになる。このような大電流での使用においても、本発明の発光素子によれば、反射電極のマイグレーションを効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、マイグレーション抑制の効果が高い反射電極を実現することができ、発光素子の光量低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1の発光素子の構成を示した断面図。
図2】実施例1の発光素子を上方から見た平面図。
図3】反射電極17の構成を示した図。
図4】光度と駆動時間の関係を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施例について、図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
図1は、実施例1のフリップチップ型の発光素子の構成を示した断面図である。また、図2は、実施例1の発光素子の平面パターンを示した平面図である。実施例1の発光素子は、平面視で1mm×1.35mmの長方形であり、発光波長は450nmである。図1のように、実施例1の発光素子は、サファイアからなる基板10を有している。基板10表面には、凹凸加工が施され、光取り出し効率の向上を図っている。基板10の凹凸加工側の表面上には、AlNからなるバッファ層(図示しない)を介して、n層11、発光層12、p層13が順に積層されている。n層11、発光層12、p層13には、従来知られている任意の構成を採用することができる。
【0022】
p層13表面には、n層11に達する深さのドット状の孔が複数設けられている。その各孔の底面に露出するn層11上には、それぞれドット状のnドット電極14が設けられている。nドット電極14は、Ti/AlNd/Taからなる。ここで記号「/」は、積層を意味し、A/BはAを成膜した後Bを成膜した積層構造であることを意味する。以下においても材料の説明において「/」を同様の意味で用いる。
【0023】
p層13上には透明電極15が設けられている。透明電極15は、IZO(亜鉛ドープの酸化インジウム)からなる。他にもITO(スズドープの酸化インジウム)、ICO(セリウムドープの酸化インジウム)などを用いることができる。さらに、透明電極15上を含む素子全体(ただしnドット電極14を除く)を覆うようにして、DBR層16が設けられている。DBR層16は、Nb2 5 (酸化ニオブ)と、SiO2 が交互に繰り返し積層された構造である。DBR層16の各層の厚さは、発光波長において高い反射率となるように設定されている。このDBR層16によって発光層12から放射される光を基板10側へと反射させて光取り出し効率を向上させている。
【0024】
DBR層16には、そのDBR層16を貫通して透明電極15に達する深さの孔25が複数設けられている。また、DBR層16上に連続して膜状に反射電極17が設けられている。孔25の領域においては、その孔25の側面および底面に沿って膜状に反射電極17が設けられている。そして、DBR層16に空けられた孔25を介して透明電極15と反射電極17が接続されている。反射電極17は、以下の2つの機能を備えるものである。1つは、発光層12から放射される光を基板10側へと反射させて光取り出し効率を向上させる反射膜としての機能である。もう1つは、DBR層16の各孔25底面に露出する透明電極15間を並列に電気的に接続する配線電極としての機能である。反射電極17のより詳細な構成については後述する。
【0025】
反射電極17上には、その反射電極17を覆うようにしてカバーメタル層18が設けられている。反射電極17の表面および側面は、カバーメタル層18と接触している。カバーメタル層18は、Ti/Pt/Au/Taからなる。このカバーメタル層18によって反射電極17を覆うことによって、反射電極17が水や酸素と接触するのを防止し、反射電極17のマイグレーションを抑制するとともに、後述のp側接合層23から反射電極17側へと原子が拡散するのを防止している。
【0026】
また、カバーメタル層18上には、ドット上のpドット電極19が複数設けられている。pドット電極19は、Ti/Pt/Au/Taからなる。このpドット電極19を除いて素子全体を覆うようにして、SiO2 からなる第1絶縁膜20が設けられている。
【0027】
第1絶縁膜20のうち、平面視でnドット電極14と重なる位置には、第1絶縁膜20を貫通する孔26が設けられており、nドット電極14の表面が露出する。また、第1絶縁膜20上には、Ti/Pt/Au/Taからなるn配線電極21が設けられている。n配線電極21は、第1絶縁膜20に形成された複数の孔26を介して、複数のnドット電極14と接続されている。
【0028】
n配線電極21、第1絶縁膜20、pドット電極19を含む素子全体を覆うようにして、SiO2 からなる第2絶縁膜22が設けられている。第2絶縁膜22のうち、平面視でpドット電極19と重なる位置には、第2絶縁膜22を貫通する孔27が設けられており、pドット電極19の表面が露出する。また、第2絶縁膜22上には、p側接合層23が設けられている。p側接合層23は、第2絶縁膜22に設けられた複数の孔27を介して、複数のpドット電極19と接続されている。
【0029】
また、第2絶縁膜22のうち、平面視でn配線電極21と重なる位置に、第2絶縁膜22を貫通する孔28が複数設けられており、n配線電極21が露出する。また、第2絶縁膜22上であって、p側接合層23とは離間した位置には、n側接合層24が設けられている。n側接合層24は、第2絶縁膜22に設けられた複数の孔28を介して、n配線電極21と接続されている。
【0030】
次に、反射電極17のより詳細な構成について説明する。反射電極17は、図3に示すように、Agからなる反射膜17AとIZO(亜鉛ドープの酸化インジウム)からなる酸化膜17Bとを交互に繰り返し積層した多層構造である。反射膜17Aと酸化膜17Bの積層を1ペアとしてこれを2ペア積層し、さらに酸化膜17B上に反射膜17Aを積層している。初層(最もDBR層16側の層)と最終層(最もカバーメタル層18側であり、表面が露出する最表層である層)は反射膜17Aである。反射膜17Aは50nm、酸化膜17Bは2nmである。反射膜17Aの厚さの総計は150nmであり、反射電極17の総膜厚は、154nmである。
【0031】
反射電極17とDBR層16との間には、IZO膜(図示しない)が形成されている。これにより、DBR層16と反射電極17との密着性を高めるとともに、透明電極15と反射電極17とのコンタクトを良好にしている。また、反射電極17とカバーメタル層18との間には、カバーメタル層18側からの原子の熱拡散防止のためにTa膜(図示しない)が設けられている。
【0032】
また、反射電極17の端面には、各反射膜17Aおよび各酸化膜17Bの端面が露出している。そして、反射電極17を覆うカバーメタル層18が、その反射電極17の上面および端面と接触している。このように、反射膜17Aの端面がカバーメタル層18によって覆われることにより、反射膜17Aのマイグレーションがより抑制されている。
【0033】
なお、実施例1では反射膜17Aの材料としてAgを用いているが、Agを主とするAg合金を用いてもよく、複数材料の積層としてもよい。Ag合金は、たとえばAgPdCuである。このようなAg合金を用いることで、Agと同等の反射率を維持しつつ、対酸化性や対腐食性などを向上させることができる。また、実施例1では、製造の容易さなどの点で各反射膜17Aは同一材料としているが、異なる材料としてもよい。
【0034】
また、反射膜17Aは、厚さ150nmでの発光波長の光の反射率が80%以上の材料であることが好ましい。より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。また、反射膜17Aの電気伝導率は、30×106 S/m以上の材料であることが好ましい。より好ましくは40×106 S/m以上であり、さらに好ましくは50×106 S/m以上である。
【0035】
また、実施例1では、酸化膜17Bの材料としてIZOを用いているが、発光素子の発光波長に対して透明であって導電性を有した酸化物(透明導電性酸化膜)であれば、IZO以外にも任意の材料を用いてよく、複数材料の積層としてもよい。たとえば、酸化インジウム系材料、酸化亜鉛系材料、酸化スズ系材料などを用いることができる。また、実施例1では作製の容易さなどの点から各酸化膜17Bは同一材料としているが、異なる材料としてもよい。また、同様に作製の容易さから、実施例1のように透明電極15と酸化膜17Bを同一材料とするのがよい。
【0036】
酸化インジウム系材料は、In2 3 (酸化インジウム)、あるいは酸化インジウムに各種元素を添加した材料であり、ITO(スズドープの酸化インジウム)、ICO(セリウムドープの酸化インジウム)、IZOなどである。
【0037】
酸化亜鉛系材料は、ZnO(酸化亜鉛)、あるいは酸化亜鉛に各種元素を添加した材料であり、たとえば、AZO(アルミニウムドープの酸化亜鉛)、GZO(ガリウムドープの酸化亜鉛)、などである。
【0038】
酸化スズ系材料は、SnO2 (酸化スズ)、あるいは酸化スズに各種元素を添加した材料であり、FTO(フッ素ドープの酸化スズ)、などである。
【0039】
導電率や透過率の高さから酸化膜17BとしてIZOまたはITOを用いることが望ましい。特に、透過率の高さから、実施例1のようにIZOを用いることが望ましい。
【0040】
また、酸化膜17Bの電気伝導率は、1×104 S/m以上であることが好ましい。より好ましくは10×104 S/m以上であり、さらに好ましくは20×104 S/m以上である。また、酸化膜17Bの厚さ100nmでの発光波長の光の内部透過率は、50%以上であることが好ましい。より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは70%以上である。
【0041】
また、実施例1では、反射膜17Aの厚さを50nm、酸化膜17Bの厚さを2nmとしたが、反射膜17Aの厚さが酸化膜17Bの厚さよりも大きければ任意の厚さでよい。このように反射膜17A、酸化膜17Bの厚さを設定することで、反射電極としての導電性と反射率を確保しつつ、反射膜17AのAgのマイグレーションを抑制することができる。反射電極17の反射率を十分に高め、マイグレーションの抑制効果も十分とするために、反射膜17Aの厚さは酸化膜17Bの厚さの10倍以上とすることが望ましい。より望ましくは15倍以上、さらに望ましくは20倍以上である。ただし、反射膜17Aが厚くなりすぎるとマイグレーションの発生する可能性が高まるため、反射膜17Aの厚さは酸化膜17Bの厚さの100倍以下とすることが望ましい。より望ましくは80倍以下、さらに望ましくは50倍以下である。
【0042】
また、各反射膜17Aの厚さは、10〜100nmとすることが望ましい。10nmよりも薄いと、反射膜17Aを透過する光の割合が増大し、反射電極17の反射率が十分に向上しない。また、100nmよりも厚いと、マイグレーションが発生する可能性が高くなる。より望ましくは10〜50nmであり、さらに望ましくは10〜20nmである。なお、酸化膜17Bの厚さが薄いほど反射膜17Aの厚さも薄くすることができる。
【0043】
各反射膜17Aの厚さは等しくなくともよいが、反射膜17Aの厚さの総計が100nm以上となるようにするのが望ましい。これにより反射電極17の反射率をより向上させることができる。各反射膜17Aの厚さの総計が大きくなるにつれて反射率向上の効果は飽和していく。そのため、各反射膜17Aの厚さの総計は300nm以下とすることが望ましい。
【0044】
また、各酸化膜17Bの厚さは、1〜10nmとすることが望ましい。1nmよりも薄いと、反射膜17AのAgのマイグレーション抑制効果が十分でなく、厚さにばらつきが生じるなど形成も容易でない。また、10nmよりも厚いと、反射電極17の反射率や導電性が低下してしまい望ましくない。より望ましくは1〜5nmであり、さらに望ましくは1〜2nmである。各酸化膜17Bの厚さは異なっていてもよい。ただし、各酸化膜17Bのうち最も厚い酸化膜17Bの厚さは、反射膜17A(各反射膜17Aの厚さが異なっている場合には、そのうち最も薄い反射膜17A)よりも薄くする。
【0045】
また、実施例1では初層と最終層が反射膜17Aとなるように、反射膜17Aと酸化膜17Bを交互に積層しているが、初層と最終層の少なくとも一方が酸化膜17Bとなるように交互に積層させてもよい。ただし、最終層は反射膜17Aとなるように交互に積層することが望ましい。カバーメタル層18との良好なコンタクトを実現し、反射電極17の電極としての機能を十分に発揮させるためである。
【0046】
また、実施例1では反射膜17Aと酸化膜17Bとを交互に繰り返し積層して、反射膜17Aの層数を3としているが、反射膜17Aの層数が2以上であれば任意の積層回数でよい。ただし、実施例1のように反射膜17Aの層数は3以上とすることが望ましい。反射電極17のマイグレーションを抑制しつつ、反射電極17の反射率をより向上させるためである。
【0047】
反射電極17は、スパッタ法を用いて、DBR層16上に反射膜17Aと酸化膜17Bを交互に積層させることで作製する。反射膜17Aについては、たとえば、純Agターゲットを用いて形成する。酸化膜17Bについては、たとえば、ターゲットとして、IZOターゲットを用いて形成する。
【0048】
もちろん、反射電極17はスパッタ法以外の方法を用いて作製してもよく、たとえば蒸着法などを用いて作製してもよい。ただし、膜厚や組成の均一さ、生産性などの点でスパッタ法を用いることが好ましい。また、スパッタ法には、DCスパッタ、RFスパッタ、マグネトロンスパッタ、ECRスパッタなど各種方式を用いることができる。
【0049】
実施例1の反射電極17は、Agからなる反射膜17AとIZOからなる酸化膜17Bを交互に積層させた構造とし、反射膜17Aの層数を2以上とし、反射膜17Aの厚さを酸化膜17Bの厚さよりも大きくしている。このような構造とすることで、反射膜17A中のAgのマイグレーションを抑制することができる。その結果、反射電極17中にマイグレーションによるボイドが発生して反射率が低下してしまうことを抑制することができる。また、反射電極17をこのような構造とすれば、反射電極17の導電性や反射率が損なわれることはなく、反射電極17の電極としての機能、反射膜としての機能も確保される。
【0050】
反射電極17を上記構造とすることによってマイグレーションが抑制される理由は明らかではないが、以下のように推察される。
【0051】
第1に、反射電極17の構造では、酸化膜17BをAg層の間に挟むことで、反射電極17中のAg層は各反射膜17Aに分断されている。そのため、反射電極17が1層のAg層で構成されている場合よりも各反射膜17Aの厚さは薄くなっている。通常、Ag層は厚くなるほどマイグレーションが発生しやすくなる。したがって、Ag層が各反射膜17Aに分かれて薄くなったことでマイグレーションが生じにくくなったと考えられる。また、上記の理由から、Ag層が分断されて2層以上となっていること、つまり反射膜17Aが2層以上となっていることが必要である。
【0052】
第2に、反射電極17は、反射膜17Aと酸化膜17Bが接触した構造である。また、酸化膜17BはIZOであり、酸素欠陥により導電性を獲得している。この酸化膜17Bの酸素欠陥の存在と、反射膜17Aと酸化膜が接触した構造とにより、反射電極17中に拡散した水分や酸素は、反射膜17Aよりも反射膜17Aに接した酸化膜17Bと優先的に反応する。特に、反射膜17Aと酸化膜17Bを交互に繰り返し積層させた構造であるため、反射膜17Aと酸化膜17Bとの接触面積が広くなっている。この結果、反射膜17Aは水分や酸素の影響を受けにくくなり、マイグレーションが抑制されたものと考えられる。
【0053】
なお、酸化膜17Bが反射膜17Aよりも優先して酸素を取り込んでいるとすれば、反射膜17Aのマイグレーションが抑制される替わりに、酸化膜17Bの導電性が悪化していると考えられる。酸化膜17B中の酸素欠陥が減少していると考えられるからである。しかし、実際には反射電極17全体としては導電性はほとんど悪化しない。酸化膜17Bは非常に薄いため、酸化膜17Bの導電性が悪化したとしても、その影響が小さいためと考えられる。
【0054】
図4は、実施例1の発光素子について、光度の時間変化を示したグラフである。比較のため、反射電極をAgの一層とした以外は実施例1の発光素子と同一の構成とした発光素子(比較例の発光素子)についても、光度の時間変化を調べた。横軸は駆動開始からの経過時間であり、縦軸は実施例1の発光素子の駆動開始時の光度を1とした相対値である。なお、実施例1および比較例の発光素子は、IF(順方向電流)2200mA、Tj(ジャンクション温度)150℃で駆動した。
【0055】
図4のように、駆動時間が500時間経過までは、実施例1の発光素子も比較例の発光素子も同程度の光度の低下であった。しかし、500時間を超えると、実施例1の発光素子と比較例の発光素子とでは光度に徐々に差が生じ、実施例1の発光素子の方が比較例の発光素子に比べて光度の低下が小さかった。駆動時間が2000時間のとき、比較例の発光素子は光度がおよそ0.94まで低下していた。これに対し、実施例1の発光素子は光度がおよそ0.97までの低下であり、比較例の発光素子に比べて光度の低下がゆるやかであることがわかった。この結果から、実施例1の反射電極17の構造は、Ag単層とするよりもAgのマイグレーションが抑制され、反射電極のボイド発生が抑制されていることがわかった。
【0056】
以上、実施例1の発光素子では、反射電極17がAgからなる反射膜17AとIZOからなる酸化膜17Bを交互に繰り返し積層させた構造であって、反射膜17Aが2層以上であるため、Agのマイグレーションが抑制されており、反射率の低下が抑制されている。また、反射膜17Aが酸化膜17Bよりも厚いため、反射電極17の電極としての機能と反射膜としての機能を損なうことなく、マイグレーションの抑制効果を高めることができる。
【0057】
なお、実施例1の発光素子はフリップチップ型であったが、本発明はこれに限らず、反射電極を有した任意の構造の発光素子に適用することができる。また、実施例1は、III 族窒化物半導体からなる発光素子であったが、任意の発光素子に対して適用可能である。たとえば、LEDやLDだけでなく、有機EL素子や無機EL素子に対しても本発明は適用することができる。また、本発明は照明用の発光素子に好適である。照明用途では、発光素子は大電流で駆動され、高温となるが、本発明によればそのような状況でも反射電極のマイグレーションを効果的に抑制することができ、反射電極の反射率が低下して光度が低下してしまうのを抑制することができる。特に、III 族窒化物半導体からなる発光素子に好適である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の発光素子は、照明やバックライトの光源などに利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
10:基板
11:n層
12:発光層
13:p層
14:透明電極
15:nドット電極
16:DBR層
17:反射電極
17A:反射膜
17B:酸化膜
18:カバーメタル層
19:pドット電極
23:p側接合層
24:n側接合層
図1
図2
図3
図4