(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
A.第1実施形態:
図1は、半導体装置100の構成を模式的に示す断面図である。
図1には、相互に直交するX軸、Y軸およびZ軸が図示されている。X軸は、
図1の左から右に延びる軸である。Y軸は、
図1の紙面の手前から奥に延びる軸である。Z軸は、
図1の下から上に延びる軸である。なお、本明細書において、+Z軸方向側を便宜的に「上」と呼ぶことがある。この「上」という呼称は、半導体装置100の配置(向き)を限定するものではない。すなわち、半導体装置100は、任意の向きに配置しうる。
【0016】
半導体装置100は、III族窒化物半導体を用いて形成されたIII族窒化物系の半導体装置である。本実施形態では、半導体装置100は、窒化ガリウム(GaN)を用いて形成されたGaN系の半導体装置であり、いわゆる横型MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)である。本実施形態では、半導体装置100は、電力制御に用いられ、パワーデバイスとも呼ばれる。
【0017】
半導体装置100は、基板110と、i型半導体層120と、p型半導体層130と、n型半導体領域142と、n型半導体領域144と、ソース電極152と、ドレイン電極154と、ゲート絶縁膜160と、ゲート電極170とを備える。
【0018】
基板110、i型半導体層120およびp型半導体層130は、X軸及びY軸に沿って広がる板状の半導体である。本実施形態では、基板110、i型半導体層120およびp型半導体層130は、III族窒化物半導体である窒化ガリウム(GaN)から形成されている。III族窒化物半導体としては、窒化ガリウム(GaN)、の他に、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化インジウムアルミニウムガリウム(InAlGaN)などが例示できる。なお、電力制御用の半導体装置に用いる観点から、III族窒化物半導体としては、窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)が好ましい。なお、本実施形態の効果を奏する範囲において、窒化ガリウム(GaN)の一部をアルミニウム(Al)やインジウム(In)などの他のIII族元素に置換してもよく、他の不純物を含んでいてもよい。
【0019】
基板110は、n型の特性を有する半導体である。本実施形態では、基板110には、ドナー元素として、ケイ素(Si)が含まれる。
【0020】
i型半導体層120は、i型の特性を有する半導体である。i型の特性を有する半導体とは、不純物を意図的に展開していないノンドープの半導体のことである。i型半導体層120は、基板110の上に位置する。
【0021】
p型半導体層130は、p型の特性を有する半導体である。p型半導体層130は、i型半導体層120の上に位置する。本実施形態では、p型半導体層130には、アクセプタ元素として、マグネシウム(Mg)が含まれる。
【0022】
n型半導体領域142およびn型半導体領域144は、n型の特性を有する半導体である。n型半導体領域144は、p型半導体層130のうち+X軸方向側に形成される。n型半導体領域142は、p型半導体層130のうち−X軸方向側に形成される。n型半導体領域142およびn型半導体領域144は、p型半導体層130にケイ素(Si)を不純物としてイオン注入するとともに、加熱による活性化処理(アニール)を行うことにより形成される。
【0023】
ソース電極152は、n型半導体領域142およびp型半導体層130の上にまたがるよう位置する。ドレイン電極154は、n型半導体領域144の上に位置するがp型半導体層130には接していない。
【0024】
ゲート絶縁膜160は、電気絶縁性を有する膜である。ゲート絶縁膜160は、ソース電極152とドレイン電極154との間において、p型半導体層130、n型半導体領域142およびn型半導体領域144にまたがって接するよう形成されている。本実施形態では、ゲート絶縁膜160は、酸化シリコン(SiO
2)から形成されている。他の実施形態では、ゲート絶縁膜160は、酸化アルミニウム(Al
2O
3)から形成されてもよい。本実施形態では、ゲート絶縁膜160は、原子層堆積法によって形成される。
【0025】
ゲート電極170は、ゲート絶縁膜160の上に接して形成されている。本実施形態では、ゲート電極170は、窒化チタン(TiN)から形成されている。ゲート電極170に電圧が印加された場合、p型半導体層130に反転層が形成され、この反転層がチャネルとして機能することによって、ソース電極152とドレイン電極154との間に導通経路が形成される。
【0026】
本実施形態では、ゲート電極170は、結晶配向に(200)配向を含む窒化チタンから形成されている。窒化チタンの結晶配向は、主に(111)配向、(200)配向および(220)配向を示す。ゲート電極170を形成する窒化チタンのうち(111)配向の結晶は、ゲート絶縁膜160の面に対して斜めに成長した結晶である。ゲート電極170を形成する窒化チタンのうち(200)配向および(220)配向の結晶は、ゲート絶縁膜160の面に対して垂直に成長した結晶である。
【0027】
本実施形態では、ゲート電極170は、反応性スパッタ法によって形成される。
図2は、反応性スパッタ法において処理チャンバ内の窒素分圧を種々の条件にして形成されたゲート電極について、X線回折法による測定を行なった結果を示す説明図である。
図2の横軸は、回折角度を示す。
図2の縦軸は、回折強度を示す。
図2で示される波形は、窒素分圧の各条件において、ゲート絶縁膜160に接して形成されたゲート電極を形成する窒化チタンの結晶配向の状態を示す。
図2の結果から、処理チャンバ内の窒素分圧0.042Paの条件では、ゲート電極を形成する窒化チタンの結晶配向において(111)配向が支配的であるが、窒素分圧を高くすることに伴って、ゲート電極を形成する窒化チタンの結晶配向に(111)配向が含まれる割合が低くなるとともに(200)配向が含まれる割合が高くなることが確認された。本実施形態では、ゲート電極170は、処理チャンバ内の窒素分圧を0.270Paの条件にした反応性スパッタ法により形成させたものである。他の実施形態では、ゲート電極170は、処理チャンバ内の窒素分圧を0.270Paより高い条件にした反応性スパッタ法により形成させたものであってもよい。
【0028】
ゲート電極170を反応性スパッタ法によって形成する際、結晶の成長速度が早い面が結晶配向の決定において優位になる。処理チャンバ内の窒素分圧が低い場合、(111)配向が優位に形成されるが、処理チャンバ内の窒素分圧が0.270Pa以上である場合、(200)配向が形成されるようになる。後述するように、窒化チタンにおいて、(111)配向より(200)配向の方が結晶粒界に沿って窒素を拡散させやすい配向である。
【0029】
本実施形態では、ゲート電極170は、反応性スパッタ法によって形成された後、加熱処理が施される。加熱処理の効果については、
図3から
図6を用いて説明する。
図3から
図6は、種々の条件で形成されたゲート電極を含む試料について、バックサイドSIMSによる測定を行った結果を示す説明図である。
図3から
図6において測定された試料は、Si基板の上に、酸化シリコンから形成されたゲート絶縁膜、窒化チタンから形成されるゲート電極が順に配されたものである。
図3から
図6において測定された試料の違いは、ゲート電極の結晶配向の状態もしくは反応性スパッタ法の後の加熱処理の有無である。
図3から
図6の横軸は、Si基板表面からの深さを示す。
図3から
図6の縦軸は、窒素濃度を示す。
【0030】
図3の結果は、
図2で示した処理チャンバ内の窒素分圧を0.042Paの条件にして形成させた(111)配向が支配的である窒化チタンから形成されたゲート電極であって加熱処理が施されていないものを備える試料の測定結果である。
図4の結果は、
図2で示した処理チャンバ内の窒素分圧を0.270Paの条件にして形成させた(200)配向を含む窒化チタンから形成されたゲート電極であって加熱処理が施されていないものを備える試料の測定結果である。
図5の結果は、
図3の試料に加熱処理が施されたものを測定した結果である。
図6の結果は、
図4の試料に加熱処理が施されたものを測定した結果である。
図6で測定された試料中のゲート絶縁膜とゲート電極との組み合わせは、本実施形態における半導体装置100が備えるゲート絶縁膜160とゲート電極170との組み合わせと同じである。
【0031】
図3および
図4を比較すると、
図3および
図4の横軸SiO
2にて範囲が図示されたゲート絶縁膜中の窒素拡散量について、
図4の方が高い濃度であることが確認された。よって、ゲート電極を形成する窒化チタンに(200)配向が含まれていた方が、ゲート電極によるゲート絶縁膜側への窒素の拡散量を多くできることが確認された。窒化チタンにおいて、(111)配向より(200)配向の方が結晶粒界に沿って窒素を拡散させやすい配向であることが、
図3および
図4の結果より推察された。
【0032】
図3および
図5、
図4および
図6を比較すると、ゲート絶縁膜中の窒素拡散量について、
図5および
図6の方が高い濃度であることが確認された。よって、ゲート電極は、反応性スパッタ法によって形成された後に加熱処理を施された方が、窒素の拡散量を多くできることが確認された。この結果は、ゲート電極を形成する窒化チタンの結晶粒界に存在していた窒素が、加熱処理により結晶粒界から容易に離脱できるようになったためであると考えられる。
【0033】
図5および
図6を比較すると、
図3および
図4の比較と同様に、ゲート絶縁膜中の窒素拡散量は、
図6の方がより高い濃度であることが確認された。よって、ゲート電極は、加熱処理を施された場合でも、ゲート電極を形成する窒化チタンに(200)配向が含まれていた方が、ゲート電極によるゲート絶縁膜側への窒素の拡散量を多くできることが確認された。
【0034】
図7、
図8、
図9および
図10は、半導体装置を構成するp型半導体層とゲート絶縁膜との界面を、TEM(Transmission Electron Microscope)により観察した画像を示す説明図である。
図7および
図8は、本実施形態の半導体装置100とは異なる半導体装置100aをTEMにより観察した画像である。半導体装置100aは、
図2で示した処理チャンバ内の窒素分圧を0.042Paの条件にして形成させた(111)配向が支配的である窒化チタンからゲート電極が形成されている点を除き、本実施形態の半導体装置100と同じである。なお、半導体装置100aのゲート電極には、加熱処理が施されているものとする。
【0035】
図7は、半導体装置100aを構成するp型半導体層130のa面方向から、p型半導体層130とゲート絶縁膜160との界面を観察した画像である。
図8は、半導体装置100aを構成するp型半導体層130のm面方向から、p型半導体層130とゲート絶縁膜160との界面を観察した画像である。
【0036】
図9および
図10は、本実施形態の半導体装置100をTEMにより観察した画像である。
図9は、半導体装置100を構成するp型半導体層130のa面方向から、p型半導体層130とゲート絶縁膜160との界面を観察した画像である。
図10は、半導体装置100を構成するp型半導体層130のm面方向から、p型半導体層130とゲート絶縁膜160との界面を観察した画像である。
【0037】
図7および
図8では、p型半導体層130とゲート絶縁膜160との界面に改質層135が確認された。改質層135は、p型半導体層130の上にゲート絶縁膜160が形成される際、p型半導体層130の表面が酸化されて形成されたガリウムの酸化膜であると推定される。このとき、p型半導体層130の表面は、改質層135が形成される際に、p型半導体層130を形成している窒化ガリウム(GaN)中のガリウムが酸素と結合することによって、ガリウムと結合していた窒素がp型半導体層130から抜けている状態であると考えられる。一方、
図9および
図10では、p型半導体層130とゲート絶縁膜160との界面に改質層135が確認されなかった。
【0038】
図11は、X線光電子分光(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)により、p型半導体層130とゲート絶縁膜160との界面におけるガリウム原子の3d軌道の結合エネルギーを測定した結果を示す説明図である。
図11において、黒塗りの四角は、ゲート電極を形成する窒化チタンの結晶配向において(111)配向が支配的である半導体装置100aにおけるp型半導体層130とゲート絶縁膜160との界面を測定した結果である。
図11において、白抜きの丸は、ゲート電極170を形成する窒化チタンの結晶配向において(200)配向を含む半導体装置100におけるp型半導体層130とゲート絶縁膜160との界面を測定した結果である。
図11の横軸は、光電子の脱出角度を示す。
図11の縦軸は、結合エネルギーを示す。
図11の結果より、本実施形態の半導体装置100では、半導体装置100aに比べて、界面におけるガリウム原子の3d軌道の結合エネルギーが低いことが確認された。
【0039】
窒素とガリウムの結合エネルギーは、酸素とガリウムの結合エネルギーより低いことから、
図11の結果より、半導体装置100aに比べて、本実施形態の半導体装置100では、p型半導体層130とゲート絶縁膜160との界面に含まれる窒素濃度が高いことが確認された。したがって、半導体装置100では、p型半導体層130の上にゲート絶縁膜160が形成される際に改質層135が形成されてp型半導体層130から窒素が抜けたとしても、ゲート電極170によるゲート絶縁膜160を介したp型半導体層130への窒素の補填が後に行われることにより、p型半導体層130とゲート絶縁膜160との界面の状態を、改質層135が形成されていない状態に回復させていることが推察された。
【0040】
図12は、ソース電極152とドレイン電極154との間に導通経路を形成するためにゲート電極170に印加される電圧であるしきい値電圧について測定した結果を示す説明図である。
図12における実線は、半導体装置100aのしきい値電圧について測定した結果である。
図12における破線は、半導体装置100のしきい値電圧について測定した結果である。
図12の横軸は、ゲート電圧を示す。
図12の縦軸は、ソース電極152とドレイン電極154との間に流れるドレイン電流を示す。
【0041】
図12の結果より、半導体装置100aのしきい値電圧は、V1である。一方、半導体装置100のしきい値電圧は、V2(>V1)である。したがって、半導体装置100の方が、半導体装置100aより、しきい値電圧が高いことが確認された。
【0042】
図13は、ゲートリーク電流を測定した結果を示す説明図である。
図13における実線は、半導体装置100aのゲートリーク電流について測定した結果である。
図13における破線は、半導体装置100のゲートリーク電流について測定した結果である。
図13の横軸は、ゲート電圧を示す。
図13の縦軸は、ゲートリーク電流を示す。
【0043】
図13の結果より、半導体装置100は、半導体装置100aと比べて、ゲートリーク電流が抑制されていることが確認された。
【0044】
図12および
図13の結果より、半導体装置100aでは、p型半導体層130において窒素抜けが生じたことにより、ゲート電圧の低下およびゲートリーク電流の増加が起こっていることが確認された。一方、半導体装置100では、p型半導体層130に生じた窒素抜けに対して、ゲート電極170からゲート絶縁膜160を介してp型半導体層130への窒素の補填が行われることから、ゲート電圧の低下およびゲートリーク電流の増加が起こることを抑制できていることが確認された。
【0045】
以上説明した第1実施形態によれば、(200)配向を含む窒化チタンから形成されるゲート電極170は、(111)配向のみを含む窒化チタンから形成されるゲート電極と比べて、窒化物半導体層であるp型半導体層130の窒素抜けに対するゲート絶縁膜160を介した窒素の補填をより多く行うことができる。したがって、窒化シリコンから形成される絶縁膜を用いることなく、窒化物半導体層の窒素抜けに対する窒素を補填できる。
【0046】
また、第1実施形態の半導体装置100のゲート電極170は、処理チャンバ内の窒素分圧が0.270Paである条件下において反応性スパッタ法によって形成される。このため、ゲート電極170を形成する窒化チタンの結晶配向に(200)配向がより多く含まれた半導体装置100を製造できる。
【0047】
また、第1実施形態の半導体装置100のゲート電極170は、反応性スパッタ法で形成された後、加熱処理が施される。このため、ゲート電極170によるp型半導体層130へのゲート絶縁膜160を介した窒素の補填量を増加させることができる。
【0048】
第1実施形態の反応性スパッタ法によって形成されたゲート電極170を構成する窒化チタンでは、窒化チタンにおける窒素とチタンとの結合力が、原子層堆積法や化学気相成長法によって形成された窒化チタンと比べて弱い。よって、窒化チタンの結晶粒が不完全に形成される傾向があることから、窒化チタンの結晶粒界に不安定な窒素を豊富に存在させることができる。したがって、第1実施形態のゲート電極170を構成する窒化チタンでは、原子層堆積法や化学気相成長法によって形成された窒化チタンと比べて、窒素の拡散量を多くすることができる。言い換えれば、ゲート電極170を形成する方法を変更することによって、ゲート電極170からの窒素の拡散量を調整することができる。
【0049】
B.第2実施形態:
第2実施形態における半導体装置は、ゲート電極170とは異なるゲート電極を備える点を除き、第1実施形態における半導体装置100と同じ構成である。第2実施形態ゲート電極は、結晶配向に(200)配向および(220)を含む窒化タンタルから形成されている。
【0050】
第2実施形態のゲート電極は、第1実施形態と同様に、反応性スパッタ法によって形成される。
図14は、反応性スパッタ法において処理チャンバ内の窒素分圧を種々の条件にして形成されたゲート電極について、X線回折法による測定を行なった結果を示す説明図である。
図14の横軸は、回折角度を示す。
図14の縦軸は、回折強度を示す。
図14で示される波形は、窒素分圧の各条件において、ゲート絶縁膜160に接して形成されたゲート電極の結晶配向の状態を示す。
図14の結果から、窒素分圧を高くすることに伴って、ゲート電極を形成する窒化タンタルの結晶配向に(111)配向が含まれる割合が低くなるとともに(200)配向および(220)配向が含まれる割合が高くなることが確認された。(220)配向の結晶は、(200)配向の結晶と同様に、ゲート絶縁膜の面に対して垂直に成長した結晶であることから、結晶粒界に沿って窒素を拡散させやすい配向である。第2実施形態のゲート電極は、処理チャンバ内の窒素分圧を0.252Paの条件にした反応性スパッタ法により形成させたものである。第2実施形態のゲート電極は、処理チャンバ内の窒素分圧を0.252Paより高い条件にした反応性スパッタ法により形成させたものであってもよい。
【0051】
以上説明した第2実施形態によれば、(200)配向および(220)配向を含む窒化タンタルから形成される第2実施形態のゲート電極は、(111)配向のみを含む窒化タンタルから形成されるゲート電極と比べて、窒化物半導体層であるp型半導体層130の窒素抜けに対するゲート絶縁膜160を介した窒素の補填をより多く行うことができる。したがって、窒化シリコンから形成される絶縁膜を用いることなく、窒化物半導体層の窒素抜けに対する窒素を補填できる。
【0052】
なお、第2実施形態のゲート電極においても、反応性スパッタ法によって形成された後、加熱処理が施すことにより、ゲート電極による窒素の拡散量を多くすることができる。
【0053】
C.第3実施形態:
図15は、第3実施形態における半導体装置200の構成を模式的に示す断面図である。半導体装置200は、いわゆる縦型MOSFETである。半導体装置200は、基板210と、n型半導体層220と、p型半導体層230と、n型半導体層240と、ソース電極252と、ドレイン電極254と、ゲート絶縁膜260と、ゲート電極270とを備える。
【0054】
基板210は、第1実施形態の基板110と同じである。p型半導体層230は、X軸方向中央寄りにトレンチ265が形成されている点を除き、第1実施形態のp型半導体層130と同じである。n型半導体層220およびn型半導体層240は、n型の特性を有する半導体であり、n型半導体層220はp型半導体層230の下に位置し、n型半導体層240はp型半導体層230の上に位置する。基板210および各半導体層は、窒化ガリウム(GaN)から形成されている。
【0055】
ソース電極252は、n型半導体層240の上に位置する。ソース電極252は、p型半導体層230の上にもまたがって形成され、ボディ電極としても機能する。ドレイン電極254は、基板210の下に位置する。
【0056】
トレンチ265は、n型半導体層240からp型半導体層230を貫通してn型半導体層220の一部を削って窪んだ溝部である。トレンチ265は、各半導体層に対するドライエッチングによって形成された構造である。
【0057】
ゲート絶縁膜260は、n型半導体層240のうちX軸方向中央寄りの一部およびトレンチ265の表面を覆う。ゲート絶縁膜260は、第1実施形態のゲート絶縁膜160と同様に、酸化シリコン(SiO
2)から形成されているとともに、原子層堆積法によって形成される。
【0058】
ゲート電極270は、ゲート絶縁膜260の上に接して形成されている。ゲート電極270は、第1実施形態のゲート電極170と同様に、結晶配向に(200)配向を含む窒化チタンから形成されている。また、ゲート電極270は、第1実施形態のゲート電極170と同様に、反応性スパッタ法によって形成されるとともに、反応性スパッタ法によって形成された後、加熱処理が施される。
【0059】
以上説明した第3実施形態によれば、(200)配向を含む窒化チタンから形成されるゲート電極170は、(111)配向のみを含む窒化チタンから形成されるゲート電極と比べて、窒化物半導体層であるn型半導体層220、p型半導体層230およびn型半導体層240の窒素抜けに対するゲート絶縁膜260を介した窒素の補填をより多く行うことができる。したがって、窒化シリコンから形成される絶縁膜を用いることなく、窒化物半導体層の窒素抜けに対する窒素を補填できる。
【0060】
半導体装置200のようなトレンチを含む縦型MOSFETの場合、窒化物半導体層の表面に絶縁膜として酸化膜を形成することに加えて、トレンチを形成する際に窒化物半導体層の表面がエッチングされる。すなわち、トレンチを含まない横型MOSFETと比べて、窒化物半導体層に一層窒素抜けが生じやすい。このため、上述した各実施形態のようなゲート電極を備えることにより、窒化物半導体層の窒素抜けに対する窒素を補填できる。
【0061】
D.他の実施形態:
上述した各実施形態では、ゲート電極の結晶配向は、処理チャンバ内の窒素分圧を高くすることによって(200)配向が形成されるよう調整されていたが、本発明はこれに限られない。例えば、ゲート電極の結晶配向は、RFスパッタ法において高周波電力を印加する、もしくは、基板バイアス印加を行うことで調整されてもよい。また、ゲート電極の結晶配向は、処理チャンバに流すガスに含まれる窒素量の割合を増加させることによって(200)配向が形成されるよう調整されてもよい。
【0062】
第1実施形態では、ゲート電極170は、結晶配向に(200)配向を含む窒化チタンから形成されていたが、本発明はこれに限られない。例えば、ゲート電極170は、(200)配向と同様の結晶構造を有する(220)配向を含む窒化チタンから形成されていてもよい。(200)配向と(220)配向とは同様の結晶構造であると考えられるため、結晶配向に(220)配向を含む窒化チタンから形成されているゲート電極は、(200)配向を含む窒化チタンから形成されているゲート電極170と同様の効果を有すると推測される。
【0063】
本発明は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。