特許第6784020号(P6784020)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784020
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】回路装置、発振器、電子機器及び移動体
(51)【国際特許分類】
   H03M 1/06 20060101AFI20201102BHJP
   H03M 1/12 20060101ALI20201102BHJP
   H03M 1/38 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   H03M1/06
   H03M1/12 C
   H03M1/38
【請求項の数】10
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2015-236405(P2015-236405)
(22)【出願日】2015年12月3日
(65)【公開番号】特開2017-103662(P2017-103662A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2018年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(72)【発明者】
【氏名】加納 新之助
【審査官】 工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−242756(JP,A)
【文献】 特開平5−56356(JP,A)
【文献】 特開2014−135603(JP,A)
【文献】 特開平9−258902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M1/06
H03M1/08
H03M1/12−1/64
H03B5/32−5/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度センサー部からの温度検出電圧のA/D変換を行い、温度検出データを出力するA/D変換部と、
前記温度検出データに基づいて温度補償処理を行うデジタル信号処理部と、
を含み、
前記A/D変換部は、
起動期間では、第1のA/D変換方式によるA/D変換処理を行って前記温度検出データの初期値を求め、
前記起動期間の後の通常動作期間では、前記初期値に基づいて、前記第1のA/D変換方式とは異なる第2のA/D変換方式によるA/D変換処理を行って前記温度検出データを求め、
A/D変換でのデータの最小分解能をLSBとしたとき、
前記A/D変換部は、
前記第2のA/D変換方式として、
第1の出力タイミングの前記温度検出データを第1の温度検出データとし、前記第1の出力タイミングの次の第2の出力タイミングの前記温度検出データを第2の温度検出データとし、jをA/D変換の分解能を表す整数とし、kをk<jを満たす整数としたとき、前記第1の温度検出データに対する前記第2の温度検出データの変化がk×LSB以下となるように、前記温度検出データを求める処理を行うことを特徴とする回路装置。
【請求項2】
請求項1に記載の回路装置において、
前記A/D変換部は、
前記第2のA/D変換方式として、
前記第1の出力タイミングでの前記温度検出データをD/A変換したD/A変換電圧と、前記温度検出電圧とを比較して第1の比較結果を生成し、
前記第1の出力タイミングでの前記温度検出データをk×LSB以下の範囲で更新し、更新後のデータをD/A変換した前記D/A変換電圧と、前記温度検出電圧とを比較して第2の比較結果を生成し、
前記第1の比較結果及び前記第2の比較結果に基づく判定処理を行い、前記判定処理に
基づいて、前記第1の出力タイミングでの前記温度検出データをk×LSB以下の範囲で更新して、前記第2の出力タイミングでの前記温度検出データとして決定する処理を行うことを特徴とする回路装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の回路装置において、
k=1であることを特徴とする回路装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の回路装置において、
記A/D変換部は、
結果データを記憶するレジスター部と、
前記結果データをD/A変換してD/A変換電圧を出力するD/A変換器と、
前記温度センサー部からの前記温度検出電圧と、前記D/A変換器からの前記D/A変換電圧との比較を行う比較部と、
前記比較部の比較結果に基づいて判定処理を行い、前記判定処理に基づいて、前記結果データの更新処理を行う処理部と、
を含み、
前記A/D変換部は、
前記結果データの前記更新処理により求められた最終結果データを前記温度検出データとして出力することを特徴とする回路装置。
【請求項5】
請求項に記載の回路装置において、
前記第1のA/D変換方式と前記第2のA/D変換方式は、
前記処理部の前記判定処理及び前記更新処理の内容が異なることを特徴とする回路装置。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の回路装置において、
発振信号生成回路を含み、
前記デジタル信号処理部は、
前記温度検出データに基づく周波数制御データを出力し、
前記発振信号生成回路は、
前記デジタル信号処理部からの前記周波数制御データと振動子を用いて、前記周波数制御データにより設定される発振周波数の発振信号を生成することを特徴とする回路装置。
【請求項7】
請求項に記載の回路装置において、
前記発振信号生成回路は、
前記デジタル信号処理部からの前記周波数制御データのD/A変換を行うD/A変換部と、
前記D/A変換部の出力電圧と前記振動子を用いて、前記発振信号を生成する発振回路と、
を含むことを特徴とする回路装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の回路装置と、
前記振動子と、
を含むことを特徴とする発振器。
【請求項9】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の回路装置を含むことを特徴とする電子機器。
【請求項10】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の回路装置を含むことを特徴とする移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路装置、発振器、電子機器及び移動体等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アナログ信号をデジタルデータに変換するアナログデジタル変換(以下A/D変換)、及びA/D変換を行う回路であるA/D変換回路が広く知られている。A/D変換回路の方式としては、フラッシュ型、逐次比較型、ΔΣ型等、種々の方式が知られている。例えば特許文献1には、逐次比較型のA/D変換を実行する一手法が開示されている。
【0003】
また、温度センサー部からの温度検出信号(アナログ信号)をA/D変換した結果である温度検出データを用いる種々の回路が知られている。例えば、従来より、TCXO(temperature compensated crystal oscillator)と呼ばれる温度補償型発振器が知られている。このTCXOは、例えば携帯通信端末、GPS関連機器、ウェアラブル機器、又は車載機器などにおける基準信号源等として用いられている。デジタル方式の温度補償型発振器であるDTCXOの従来技術としては特許文献2に開示される技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−223404号公報
【特許文献2】特開昭64−82809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
A/D変換を行う回路装置において、起動期間、すなわち回路装置の起動後、最初のA/D変換結果が出力されるまでの期間と、起動期間の後の通常動作期間とでは状況が大きく異なる。具体的には、起動期間ではそれ以前にA/D変換結果データが取得されていないのに対して、通常動作期間では過去のA/D変換結果データ、特に時間的に近いタイミングでのA/D変換結果データが参照可能である。
【0006】
特に、温度検出電圧のA/D変換結果データである温度検出データを求める場合、起動期間では高速性が重視される場合もあるし、通常動作期間では自然条件下での温度変動を考慮することでより効率的な処理が可能な場合もある。しかし従来手法では、このような条件の違いを考慮したA/D変換手法は開示されていない。
【0007】
本発明の幾つかの態様によれば、起動期間と通常動作期間において、それぞれ適切な方式によりA/D変換を行う回路装置、発振器、電子機器及び移動体等を提供できる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、温度センサー部からの温度検出電圧のA/D変換を行い、温度検出データを出力するA/D変換部と、前記温度検出データに基づいて温度補償処理を行うデジタル信号処理部と、を含み、前記A/D変換部は、起動期間では、第1のA/D変換方式によるA/D変換処理を行って前記温度検出データの初期値を求め、前記起動期間の後の通常動作期間では、前記初期値に基づいて、前記第1のA/D変換方式とは異なる第2のA/D変換方式によるA/D変換処理を行って前記温度検出データを求める回路装置に関係する。
【0009】
本発明の一態様では、A/D変換により温度検出データを求め、当該温度検出データにより温度補償処理を行う回路装置において、起動期間と通常動作期間とでA/D変換方式を切り替える。このようにすれば、各期間に適した方式によりA/D変換を行うことが可能になり、A/D変換に対する種々の要求を満たすこと等が可能になる。
【0010】
また、本発明の一態様では、A/D変換でのデータの最小分解能をLSBとした場合に、前記A/D変換部は、前記第2のA/D変換方式として、第1の出力タイミングの前記温度検出データを第1の温度検出データとし、前記第1の出力タイミングの次の第2の出力タイミングの前記温度検出データを第2の温度検出データとした場合に、前記第1の温度検出データに対する前記第2の温度検出データの変化がk×LSB(kはk<jを満たす整数、jはA/D変換の分解能を表す整数)以下となるように、前記温度検出データを求める処理を行ってもよい。
【0011】
このようにすれば、温度検出データの急激な変化を抑制し、当該変化に起因する不具合を抑止すること等が可能になる。
【0012】
また、本発明の一態様では、前記A/D変換部は、前記第2のA/D変換方式として、前記第1の出力タイミングでの前記温度検出データをD/A変換したD/A変換電圧と、前記温度検出電圧とを比較して第1の比較結果を出力し、前記第1の出力タイミングでの前記温度検出データをk×LSB以下の範囲で更新し、更新後のデータをD/A変換した前記D/A変換電圧と、前記温度検出電圧とを比較して第2の比較結果を出力し、前記第1の比較結果及び前記第2の比較結果に基づく判定処理を行い、前記判定処理に基づいて、前記第1の出力タイミングでの前記温度検出データをk×LSB以下の範囲で更新して、第2の出力タイミングでの前記温度検出データとして決定する処理を行ってもよい。
【0013】
このようにすれば、複数回の比較の結果に基づいて、前回の最終結果データからk×LSB以下の範囲で変化した値を、今回の最終結果データ(温度検出データ)として決定することが可能になる。
【0014】
また、本発明の一態様では、前記A/D変換部は、途中結果データ又は最終結果データである結果データを記憶するレジスター部と、前記結果データをD/A変換してD/A変換電圧を出力するD/A変換器と、前記温度センサー部からの前記温度検出電圧と、前記D/A変換器からの前記D/A変換電圧との比較を行う比較部と、前記比較部の比較結果に基づいて判定処理を行い、前記判定処理に基づいて、前記結果データの更新処理を行う処理部と、を含んでもよい。
【0015】
このようにすれば、結果データを比較結果に基づく判定処理により更新していくことができ、逐次比較型と同様の構成によりA/D変換部を実現すること等が可能になる。
【0016】
また、本発明の一態様では、前記第1のA/D変換方式と前記第2のA/D変換方式は、前記処理部の前記判定処理及び前記更新処理の内容が異なってもよい。
【0017】
このようにすれば、判定処理、更新処理を変更することでA/D変換方式を切り替えること等が可能になる。
【0018】
また、本発明の一態様では、発振信号生成回路を含み、前記デジタル信号処理部は、前記温度検出データに基づいて発振周波数の温度補償処理を行い、前記発振周波数の周波数制御データを出力し、前記発振信号生成回路は、前記デジタル信号処理部からの前記周波数制御データと振動子を用いて、前記周波数制御データにより設定される前記発振周波数の発振信号を生成してもよい。
【0019】
このようにすれば、DTCXO等の、温度検出電圧に基づく温度補償処理を行って発振信号を出力する回路を実現すること等が可能になる。
【0020】
また、本発明の一態様では、前記発振信号生成回路は、前記デジタル信号処理部からの前記周波数制御データのD/A変換を行うD/A変換部と、前記D/A変換部の出力電圧と前記振動子を用いて、前記発振信号を生成する発振回路と、を含んでもよい。
【0021】
このようにすれば、D/A変換部と発振回路とにより、発振信号を生成することが可能になる。
【0022】
また本発明の他の態様は、上記のいずれかに記載の回路装置と、前記振動子と、を含む発振器に関係する。
【0023】
また本発明の他の態様は、上記のいずれかに記載の回路装置を含む電子機器に関係する。
【0024】
また本発明の他の態様は、上記のいずれかに記載の回路装置を含む移動体に関係する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本実施形態の回路装置の構成例。
図2】A/D変換部の構成例。
図3図3A図3B図3CはDTCXOの利点や問題点についての説明図。
図4】k×LSB以下の更新によって生じる課題を説明する図。
図5】振動子の温度特性やそのバラツキの例を示す図。
図6】温度補償処理の説明図。
図7図7A図7B図7Cは比較部の構成例。
図8】比較部の波形図の例。
図9】周波数ドリフトが原因で発生する通信エラーの説明図。
図10】通常動作モードの処理を説明するフローチャート。
図11図11A図11Bはアナログ信号とデジタルデータの関係例。
図12】比較部の他の構成例。
図13図13A図13Bはハイスピードモードにおける判定期間の設定例。
図14図14Aはハイスピードモードの処理を説明するフローチャート、図14B図14Cは判定処理の具体例。
図15】ハイスピードモードでの結果データの遷移の具体例。
図16】A/D変換部以外の構成で周波数ホッピング等を抑止する手法の説明図。
図17図17A図17BはA/D変換部以外の構成で周波数ホッピング等を抑止する手法の説明図。
図18】周波数ホッピングについての説明図。
図19図19A図19B図19Cは温度センサー部の詳細な構成例及びその説明図。
図20】発振回路の詳細な構成例。
図21】本実施形態の変形例の回路装置の構成例。
図22図22A図22B図22Cは発振器、電子機器、移動体の構成例。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお以下に説明する本実施形態は特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0027】
1.本実施形態の手法
1.1 第1のA/D変換方式と第2のA/D変換方式
まず本実施形態の手法について説明する。所与のアナログ信号をA/D変換してデジタルデータを取得する回路装置、特に、当該デジタルデータに基づいてデジタル信号処理部(例えばDSP,digital signal processor)において種々の処理を行う回路装置が知られている。一例としては、温度センサー部からの温度検出電圧のA/D変換結果である温度検出データに基づいて、デジタル処理により周波数の温度補償処理を行うDTCXOが知られている。
【0028】
また、A/D変換結果データ、特に温度検出電圧VTDをA/D変換した温度検出データDTDを利用する回路装置は、DTCXOに限定されるものではない。例えば、ジャイロセンサーの出力は温度特性を有し、当該温度特性に起因して出力データに誤差が生じることが知られている。そのため、温度検出データDTDに基づいて、ジャイロセンサーの出力の温度特性を補償する処理(例えばゼロ点補正処理)が行われることがあり、本実施形態における回路装置はそのようなジャイロセンサーに利用されてもよい。
【0029】
このような回路装置におけるA/D変換に対しては種々の要求があるが、当該要求は回路装置の起動期間と、当該起動期間の後の通常動作期間とで異なることが考えられる。例えば、起動期間では実際の温度に対する追従性が高いことが求められる。なぜなら、起動期間ではそれ以前に温度検出データが取得されていない(或いは取得されていたとしても時間的にかなり前のタイミングである)ことが想定されるため、温度検出データをできるだけ早く実際の温度に合致したものとしなければ、温度補償処理等を精度よく実行できないためである。また、単に追従性が高いだけでなく、高速であること(A/D変換に要する時間であるA/D変換期間が短いこと)が要求されることもある。
【0030】
一方で、A/D変換結果データの値の変動がある程度小さいことが求められる場合がある。A/D変換結果データの値が短期間に大きく変化してしまう場合、例えば所与の出力タイミングでのA/D変換結果データと、次の出力タイミングのA/D変換結果データとの間での値の変動が大きすぎる場合、当該変動に起因して不具合が発生する可能性が生じるためである。
【0031】
例えば、DTCXO等のデジタル方式の発振器では、その発振周波数の周波数ドリフトが原因で、発振器が組み込まれた通信装置において通信エラー等が発生してしまうという問題がある。デジタル方式の発振器では、温度センサー部からの温度検出電圧をA/D変換し、得られた温度検出データに基づいて周波数制御データの温度補償処理を行い、当該周波数制御データに基づいて発振信号を生成する。この場合に、温度変化により周波数制御データの値が大きく変化すると、これが原因で周波数ホッピングの問題が生じることが判明した。このような周波数ホッピングが生じると、GPS関連の通信装置を例にとれば、GPSのロックが外れてしまうなどの問題が発生してしまう。このような問題の発生を抑止するには、温度補償処理に用いる温度検出データの変動を抑えることが必要となる。なお、後述するようにA/D変換以外の部分(例えばデジタル信号処理部の処理)で周波数ホッピングを抑止することも可能であり、本実施形態の回路装置ではそれらの手法を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
しかし、温度に対する追従性が高いことと、温度検出データの変動が小さいことは相反する要求であり、この両方を同時に満足するA/D変換方式の実現は困難である。よって本実施形態では、起動期間と通常動作期間とでA/D変換方式を切り替える手法を提案する。
【0033】
具体的には、回路装置は図1に示したように、温度センサー部10からの温度検出電圧VTDのA/D変換を行い、温度検出データDTDを出力するA/D変換部20と、温度検出データDTDに基づいて温度補償処理を行うデジタル信号処理部50を含む。そして、A/D変換部20は、起動期間では、第1のA/D変換方式(A/D変換モード)によるA/D変換処理を行って温度検出データDTDの初期値を求め、起動期間の後の通常動作期間では、初期値に基づいて、第1のA/D変換方式とは異なる第2のA/D変換方式によるA/D変換処理を行って温度検出データDTDを求める。
【0034】
このようにすれば、それぞれ要求の異なる起動期間と通常動作期間とで、A/D変換方式を切り替えることができ、適切なA/D変換を実現することが可能になる。
【0035】
ここで、A/D変換部20は、図2に示したように、途中結果データ又は最終結果データである結果データを記憶するレジスター部24と、結果データをD/A変換してD/A変換電圧を出力するD/A変換器26と、温度センサー部10からの温度検出電圧VTDと、D/A変換器26からのD/A変換電圧VDACとの比較を行う比較部27と、比較部27の比較結果に基づいて判定処理を行い、判定処理に基づいて、結果データの更新処理を行う処理部23を含んでもよい。
【0036】
このようにすれば、一般的な逐次比較型と同様の構成により、本実施形態のA/D変換を実現することが可能になる。
【0037】
この際、第1のA/D変換方式と第2のA/D変換方式は、処理部23の判定処理及び更新処理の内容が異なる。具体例については後述するが、第1のA/D変換方式がハイスピードモードにより実現される場合、判定処理、更新処理は図14B図14Cに示す処理となり、第2のA/D変換方式が通常動作モードにより実現される場合、判定処理及び更新処理は、図10のステップS103〜S106に示す処理となる。
【0038】
以下、第2のA/D変換方式の具体例である通常動作モード、第1のA/D変換方式の具体例であるハイスピードモードについて、その概要を説明する。
【0039】
1.2 通常動作モード(第2のA/D変換方式の具体例)の概要
TCXOとしてデジタル方式のDTCXOを採用した場合に生じうる周波数ドリフトの問題について簡単に説明する。温度補償型発振器であるTCXOでは、周波数精度の向上と低消費電力化への要求がある。例えばGPS内蔵の時計や脈波等の生体情報の測定機器などのウェアラブル機器では、バッテリーによる動作継続時間を長くする必要がある。このため、基準信号源となるTCXOに対しては、周波数精度を確保しながら、より低消費電力であることが要求される。
【0040】
また通信端末と基地局との通信方式としては種々の方式が提案されている。例えばTDD(Time Division Duplex)方式では、各機器は割り当てられたタイムスロットにおいてデータを送信する。そしてタイムスロット(上がり回線スロット、下り回線スロット)の間にガードタイムが設定されることで、タイムスロットが重なることが防止される。次世代の通信システムでは、例えば1つの周波数帯域(例えば50GHz)を用いて、TDD方式でデータ通信することが提案されている。
【0041】
しかしながら、このようなTDD方式を採用した場合には、各機器において時刻同期を行う必要があり、正確な絶対時刻の計時が要求される。このような要求を実現するために、例えば各機器に、基準信号源として原子時計(原子発振器)を設ける手法も考えられるが、機器の高コスト化を招いたり、機器が大型化するなどの問題が生じる。
【0042】
そして基準信号源としてATCXOを用いた場合に、周波数精度を高精度化しようとすると、図3Aに示すように回路装置のチップサイズが増加してしまい、低コスト化や低消費電力化の実現が難しくなる。一方、DTCXOでは、図3Aに示すように、回路装置のチップサイズをそれほど大きくすることなく、周波数精度の高精度化を実現できるという利点がある。
【0043】
しかしながら、上述したような周波数ドリフトの問題があるため、DTCXO等のデジタル方式の発振器では、様々な回路方式が提案されているものの、このような通信エラーが問題となる実際の製品の基準信号源としては、デジタル方式の発振器は殆ど採用されず、ATCXO等のアナログ方式の発振器が採用されているのが現状であった。
【0044】
例えば図3BはATCXOの周波数ドリフトを示す図である。ATCXOでは、図3Bに示すように時間経過に伴い温度が変化した場合にも、その周波数ドリフトは、許容周波数ドリフト(許容周波数エラー)の範囲内(±FD)に収まる。図3Bでは、周波数ドリフト(周波数エラー)は、公称発振周波数(例えば16MHz程度)に対する割合(周波数確度。ppb)で示されている。例えば通信エラーが生じないようにするためには、所定期間TP(例えば20msec)内において、周波数ドリフトを許容周波数ドリフトの範囲内(±FD)に収める必要がある。ここでFDは、例えば数ppb程度である。
【0045】
一方、図3Cは、従来のDTCXOを用いた場合の周波数ドリフトを示す図である。図3Cに示すように、従来のDTCXOでは、その周波数ドリフトが許容周波数ドリフトの範囲内に収まっておらず、当該範囲を超えてしまう周波数ホッピングが発生している。このため、この周波数ホッピングを原因とする通信エラー(GPSのロック外れ等)が発生してしまい、実際の製品の基準信号源としてDTCXOを採用することの妨げとなっていた。
【0046】
よって本実施形態のA/D変換部20は、A/D変換でのデータの最小分解能をLSBとした場合に、第2のA/D変換方式として、第1の出力タイミングの温度検出データDTDを第1の温度検出データとし、第1の出力タイミングの次の第2の出力タイミングの温度検出データDTDを第2の温度検出データとした場合に、第1の温度検出データに対する第2の温度検出データの変化がk×LSB(kはk<jを満たす整数、jはA/D変換の分解能を表す整数)以下となるように、温度検出データDTDを求める処理を行ってもよい。
【0047】
なお、ここでの出力タイミングとは、1つの温度検出データが出力されるタイミングを表すものであり、例えばA/D変換が15ビットで行われる場合であれば15ビット精度のA/D変換結果データが出力されるタイミングを表す。詳細については後述するが、本実施形態では暫定的な値(途中結果データ)による比較処理を複数回行い、当該複数回の比較処理の結果に基づいて15ビット精度のA/D変換結果データ(最終結果データ=温度検出データ)を求めるという、逐次比較型に準じた方式によりA/D変換を行う。つまり、1回の温度検出データを出力するにあたっては、複数回の比較処理の結果として1又は複数の途中結果データが出力される。途中結果データも広義にはA/D変換処理における出力ということになるが、ここでの「出力タイミング」とは、あくまで最終的なA/D変換結果データ(15ビット精度の温度検出データ)の出力を表すものであり、途中結果データの出力タイミングではない。
【0048】
また、A/D変換の分解能を表す整数jは、A/D変換結果データのビット数に依存する値であり、ビット数をpとした場合に、j=2であってもよい。
【0049】
本実施形態の手法によれば、隣り合う2タイミング間での温度検出データDTDの変動がk×LSB以下に抑えられる。なお、ここでのLSBはA/D変換でのデータの最小分解能であるため、例えばT1℃からT2(>T1)℃の温度範囲をpビットのデジタルデータで表現する場合、1LSBの変動は(T2−T1)/2℃に対応する温度の変動を表すことになる。このような条件を設けない場合、温度検出データは最大で2(=j)LSBだけ変化しうる。2LSBの変化とは第1のタイミングでの温度検出データが想定される最小値(最大値)であり、第2のタイミングでの温度検出データが想定される最大値(最小値)となった場合に相当する。
【0050】
これにより、上記のDTCXOの例であれば、温度検出データの変動が抑えられることにより、周波数ホッピングについても許容周波数ドリフトの範囲内に収められる可能性が向上する。また、DTCXO以外の例においても、A/D変換結果データの変動を抑止することで、不具合の発生を抑止することが可能になる。
【0051】
また、本実施形態では、温度検出電圧VTDをA/D変換して温度検出データDTDを出力することを想定している。この場合、温度検出データDTDの変動を抑制する本実施形態の手法を採用することには合理的な理由が存在する。自然条件下での温度変動(環境温度の変動)はさほど大きくないことが知られており、例えば最大でも0.28℃/sec程度の温度変動を考慮すればよい。そのため、A/D変換のレートを2Kサンプル/secであるとすれば、1A/D変換期間当たりの温度変動、すなわち所与の出力タイミングと、その次の出力タイミングとの間での温度検出データの想定最大変化量は、0.14m℃/サンプルとなる。
【0052】
ここで、回路装置で考慮すべき温度範囲を125℃(例えば上述のT1=−40℃、T2=85℃)とし、p=15とすれば、1LSB当たりの温度変化は125/215≒4m℃/LSBとなる。つまり、上述の0.14m℃/サンプルと、4m℃/LSBとを比較すればわかるように、自然条件下では30回のA/D変換結果データの出力が行われる間に、1LSBの値の変化が生じるかどうかといった程度の温度変化を想定すれば充分である。
【0053】
本実施形態の手法のように、出力である温度検出データDTDの変動を抑制した場合、実際の温度と温度検出データDTDとの乖離が生じてしまうと問題となる。例えば、アナログ信号である温度検出電圧VTDが大きく変化している(具体的にはk×LSBに対応する電圧値よりも大きく変化している)場合には、出力のデジタルデータである温度検出データDTDがその変化に追随できず(k×LSBまでしか変化せず)、実際の温度と温度検出データDTDとの乖離が生じてしまう。しかし自然条件下、且つA/D変換の変換レート及びビット数を上述の値に設定した例では、隣接出力タイミング間での実際の温度変化は1LSBよりも小さい程度である。そのため、前の出力タイミングでの温度検出データDTDに対する変動をk×LSB(この例ではk=1)に限定したとしても、実際の温度と温度検出データDTDとの乖離は生じないと考えてよく、適切なA/D変換が可能となる。
【0054】
なお、自然条件下での環境温度の変動は、上述したように単位時間当たり(例えば1秒や10秒)の変動として定義される。そのため、隣り合う出力タイミング間で想定される温度変動は、当該隣り合う出力タイミング間の長さ、すなわちA/D変換期間に応じて変化することになる。A/D変換期間が長ければ想定される温度変動は大きくなるし、A/D変換期間が短ければ想定される温度変動は小さくなる。
【0055】
よって本実施形態では、1回のA/D変換期間での温度検出電圧VTDの電圧変化量が、k×LSBに対応する電圧以下となるように、A/D変換期間が設定されてもよい。このような設定をしておけば、温度変動(実際には当該変動に起因する温度検出電圧VTDの変化量)が、k×LSB以下(実際にはk×LSBに対応するD/A変換電圧以下)となるため、温度検出データDTDの変動をk×LSB以下に抑制したとしても、実際の温度との乖離を抑止できる。
【0056】
ここで、上述したように温度変動は℃(或いはケルビン)等で定義されるため、1LSBが何℃に対応するかも重要となる。例えば、A/D変換のビット数(上述したp)を減らした場合、或いは回路装置で考慮する温度範囲(上述の例では125℃)を広くした場合、デジタルデータが1LSB変動した場合に、当該デジタルデータにより表される温度の変動は大きくなる。
【0057】
自然条件下での環境温度の変動<k×LSBに対応する温度変動、という条件を満たすことだけを考慮すると、1LSB当たりの温度を大きくする(pを小さくする、温度範囲を広くする)とよいように見える。しかし、そもそもの課題はA/D変換結果データの変動を抑止し、周波数ホッピング等に起因する不具合を抑止することである。つまり、A/D変換結果データの変動をk×LSB以下に抑えたとしても、当該k×LSBに対応する温度が大きければ結局大きな温度変動を許容してしまっていることになり、不適切である。
【0058】
よって本実施形態では、例えば回路装置で想定する温度範囲や、A/D変換のビット数は、周波数ホッピングを抑止するという観点から設定し、設定された条件に基づいて、自然条件下での温度変動<k×LSBに対応する温度変動となるように、A/D変換期間を設定するとよい。
【0059】
値の変動をk×LSB以下に限定できることで、効率的に(高速に)A/D変換を実行することも可能になる。通常のpビットのA/D変換であれば、各出力タイミングでは、2通りの値のすべてが候補となるため、当該2通りの全てが出力可能な変換を実行しなくてはならない。例えば、一般的な逐次比較型のA/D変換であれば、pビットの各ビットの値を1つ1つ決定するため、p回の比較処理が必要となる。その点、本実施形態の手法であれば、前回の出力タイミングでの温度検出データDTDに対して、そのままの値(変化0)、±1LSB、±2LSB、・・・±k×LSBの値のみを候補とすればよい。特に、k=1であれば、値の候補は変化が0或いは±1LSBの3通りのみを考慮すればよいため、A/D変換に要する処理を簡略化することができる。具体的には比較部27での比較処理や、当該比較処理に用いるアナログ信号の生成処理(D/A変換処理)の回数を減らすことができる。
【0060】
つまり本実施形態の手法によれば、周波数ホッピング等のA/D変換結果データの急激な変動による不具合を抑止する、効率的なA/D変換処理を実現するという2つの効果を奏しつつ、当該A/D変換を実行しても実温度と温度検出データDTDとの乖離を抑止可能となる。以下、後述するハイスピードモードと区別するため、上記のA/D変換を行うモードを通常動作モードと表記する。
【0061】
1.3 ハイスピードモード(第1のA/D変換方式の具体例)の概要
上述したように、自然条件下での温度変化を考慮すれば、温度検出データDTDの変化がk×LSB以下に抑制される通常動作モードは合理的な方式と言える。しかしこれは、所与の出力タイミングで実際の温度(温度検出電圧VTD)に合致した適切な温度検出データDTDが求められていることが前提となる。例えば、回路装置の起動時等には、それ以前に温度検出データDTDが取得されていない。そのため、初期値として何らかの値、例えば15ビットであれば”100000000000000”といった中間的な値が設定され、当該初期値は実際の温度とは何ら関係ない値となる。
【0062】
そのため、当該初期値から通常動作モードを開始してしまうと、実際の温度が初期値と大きく異なる場合であっても、出力である温度検出データDTDは、1回の出力当たりk×LSBしか変化できないため、出力が安定するまでに多大な時間を要してしまう。
【0063】
図4にこの場合の温度検出データDTDの時間変化例を示す。図4の縦軸が温度検出データDTDを表し、横軸が時間を表す。DTDAが温度検出データDTDの初期値であり、DTDBが実際の温度に対応するデジタル値を表す。一般的な逐次比較型のA/D変換のように、pビットの値を全てその都度求める方式であれば、初期値と実際の温度との差が大きかったとしても、次の出力タイミングにおいて、実際の温度に対応した温度検出データを求めることができる。しかし本実施形態の通常動作モードでは、前回の出力に対する変動がk×LSB以下に抑制されるため、図4に示したように、DTDAとDTDBの差が大きかったとしても、温度検出データDTDはk×LSBずつ段階的にしか変化させられない。その結果、温度検出データDTDが実際の温度に追従するまでに長い時間が必要となる。例えば、上記のような中間的な値を初期値とし、実際の温度に対応するデータが”111111111111111”或いは”000000000000000”といった値に対応する場合、k=1であれば2p−1回の出力を経てようやく実際の温度と温度検出データDTDとが合致することになる。
【0064】
具体的に安定するまでの時間Tは、初期値の設定やA/D変換期間の長さにもよるが、最悪の場合には10秒以上を要することになる。この間は、温度検出データDTDは正確な温度を反映するものではないため、その後の処理、例えばDTCXOにおける温度補償処理も正確に行うことができず問題となる。特に、起動後に高速で出力を安定させることに対する要求も多いためこの問題は重要となる。
【0065】
例えば、DTCXOを携帯電話の通信で利用する場合、起動から2msec以内に出力周波数を安定させるという要求がある。そのためには、最悪でも2msecよりも短い時間で温度補償用の温度検出データDTDを精度のよい値としておかなくてはならず、上記の10秒と言った時間はとても許容できるものではない。
【0066】
よって、第1のA/D変換方式は、実際の温度に対する追従性が高いモードを用いる。そのため、1回のA/D変換でデジタルデータの全ビットを一から全て求める一般的なA/D変換手法を広く適用することができる。一般的なA/D変換方式は、以前の出力に対する変化幅に制約はないため、実際の温度に合致した温度検出データDTDを初期値として出力可能である。また、実際の温度に合致した初期値が決定できれば、その後に通常動作モードを用いても問題がないことは上述したとおりである。
【0067】
例えば、フラッシュ型や逐次比較型のA/D変換を利用してもよい。なお、ΔΣ型を利用することは妨げられないが、ΔΣ型は積分回路を利用する関係上、速度の面で不利となる。また、フラッシュ型は高速ではあるがビット数が増えるほど回路規模が増大するため、例えば10ビットを超えるような場合には不適当である。
【0068】
しかし、より厳しい条件、例えば上述した携帯電話のように2msecよりも短い期間で精度の高い温度検出データDTDを出力する必要がある場合、一般的な方式でも不十分なことがある。逐次比較型では、ビット数に相当する回数の比較処理が必要であるため、例えば2Kサンプル/secで15回の比較をすると、出力まで7.5msecを要することになり上記要求を満たせない。
【0069】
逐次比較型の場合、1ビット当たりの比較処理にかける時間を短くすれば、出力までに要する時間を短縮することができる。しかし、比較処理を行う時間が短くなれば判定精度が低くなることが知られている。図7A等を用いて後述するチョッパー回路を用いた比較部27の例であれば、スイッチS1をオフ、S2,S3をオンにして温度検出電圧VTDに対応する電荷をキャパシターCに蓄積する時間(サンプルモード、図8のA1やA5)、及びスイッチS1をオン、S2,S3をオフにして、蓄積された電荷に対するD/A変換電圧VDACの関係を出力するための時間(コンパレーターモード、図8のA2やA6)、のそれぞれが短くなるため、回路状態が充分安定する前に比較処理の結果が出力され、精度が低下してしまう。
【0070】
以上を踏まえ、本実施形態ではA/D変換結果データのMSB(most significant bit)側の判定処理を第1の判定期間で行い、A/D変換結果データのLSB(least significant bit)側の判定処理を第1の判定期間よりも長い期間である第2の判定期間で行うモードを第1のA/D変換方式としてもよい。ここで、「MSB側」、「LSB側」の定義は種々考えられるが、例えばMSB側とはよりMSB(最上位ビット)に近い位置の1又は複数のビットから構成されるビット範囲であり、LSB側とは、MSB側に比べてLSB(最下位ビット)に近い位置の1又は複数のビットから構成されるビット範囲であってもよい。狭義には、MSB側とはMSBを含む1又は複数のビットであり、LSB側とはLSBを含む1又は複数のビットであってもよい。
【0071】
以下、この方式で動作するモードをハイスピードモードとも表記する。MSB側のデータは大きい値を表すものであるため、当該ビットが0である場合に対応するアナログ信号(電圧値)と、1である場合に対応するアナログ信号との差異が比較的大きい。逆に、LSB側のデータは小さい値を表すものであるため、当該ビットが0である場合に対応するアナログ信号と、1である場合に対応するアナログ信号との差異が比較的小さい。
【0072】
つまり、MSB側はLSB側に比べて、粗い比較処理を行ったとしても誤判定の可能性を低くすることができる。この点を考慮し、MSB側の判定処理の期間を相対的に短くすることで、1回のA/D変換に要する時間を短縮することが可能になる。具体的な数値例は種々考えられるが、例えば図13A図13Bを用いて後述する例であれば、1.5msec程度の所要時間でA/D変換結果データの出力が可能である。
【0073】
以下、本実施形態について詳細に説明していく。まず、本実施形態に係る回路装置の構成例を説明する。図1に示したように、DTCXO等を想定したデジタル方式の発振器に用いられる回路装置の構成例を説明するが、本実施形態に係る回路装置はこれに限定されるものではない。その後、図1の各部の詳細について説明する。具体的には、A/D変換の具体的な手法を通常動作モード、ハイスピードモードのそれぞれについて説明する。さらに、デジタル信号処理部(DSP)やD/A変換回路、温度センサー部、発振回路等についても説明する。なお、デジタル信号処理部の処理により、DTCXOの周波数ホッピングを抑止する手法についても説明する。その後、いくつかの変形例を説明し、さらに本実施形態の回路装置を含む電子機器等の例について説明する。
【0074】
2.構成
図1に本実施形態の回路装置の構成例を示す。この回路装置は、DTCXOやOCXO等のデジタル方式の発振器を実現する回路装置(半導体チップ)である。例えばこの回路装置と振動子XTALをパッケージに収納することで、デジタル方式の発振器が実現される。
【0075】
図1の回路装置は、A/D変換部20、デジタル信号処理部50、発振信号生成回路140を含む。なお、図2に示した回路装置の各部の構成は、例えばA/D変換部20に含まれる。また回路装置は温度センサー部10、バッファー回路160を含むことができる。なお回路装置の構成は図1の構成には限定されず、その一部の構成要素(例えば温度センサー部、バッファー回路等)を省略したり、他の構成要素を追加するなどの種々の変形実施が可能である。
【0076】
振動子XTALは、例えば水晶振動子等の圧電振動子である。振動子XTALは恒温槽内に設けられるオーブン型振動子(OCXO)であってもよい。振動子XTALは共振器(電気機械的な共振子又は電気的な共振回路)であってもよい。振動子XTALとしては、圧電振動子、SAW(Surface Acoustic Wave)共振子、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)振動子等を採用できる。振動子XTALの基板材料としては、水晶、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム等の圧電単結晶や、ジルコン酸チタン酸鉛等の圧電セラミックス等の圧電材料、又はシリコン半導体材料等を用いることができる。振動子XTALの励振手段としては、圧電効果によるものを用いてもよいし、クーロン力による静電駆動を用いてもよい。
【0077】
温度センサー部10は、温度検出電圧VTDを出力する。具体的には、環境(回路装置)の温度に応じて変化する温度依存電圧を、温度検出電圧VTDとして出力する。温度センサー部10の具体的な構成例については後述する。
【0078】
A/D変換部20は、温度センサー部10からの温度検出電圧VTDのA/D変換を行って、温度検出データDTDを出力する。例えば温度検出電圧VTDのA/D変換結果に対応するデジタルの温度検出データDTD(A/D変換結果データ)を出力する。A/D変換部20のA/D変換方式は例えば上述したように通常動作モードとハイスピードモードを切り替えて用いてもよく、詳細については後述する。
【0079】
デジタル信号処理部50(DSP部)は種々の信号処理を行う。例えばデジタル信号処理部50(温度補償部)は、温度検出データDTDに基づいて発振周波数(発振信号の周波数)の温度補償処理を行う。そして発振周波数の周波数制御データDDSを出力する。具体的にはデジタル信号処理部50は、温度に応じて変化する温度検出データDTD(温度依存データ)と、温度補償処理用の係数データ(近似関数の係数のデータ)などに基づいて、温度変化があった場合にも発振周波数を一定にするための温度補償処理を行う。このデジタル信号処理部50は、ゲートアレイ等のASIC回路により実現してもよいし、プロセッサーとプロセッサー上で動作するプログラムにより実現してもよい。
【0080】
発振信号生成回路140は発振信号SSCを生成する。例えば発振信号生成回路140は、デジタル信号処理部50からの周波数制御データDDSと振動子XTALを用いて、周波数制御データDDSにより設定される発振周波数の発振信号SSCを生成する。一例としては、発振信号生成回路140は、周波数制御データDDSにより設定される発振周波数で振動子XTALを発振させて、発振信号SSCを生成する。
【0081】
なお発振信号生成回路140は、ダイレクト・デジタル・シンセサイザー方式で発振信号SSCを生成する回路であってもよい。例えば振動子XTAL(固定発振周波数の発振源)の発振信号をリファレンス信号として、周波数制御データDDSで設定される発振周波数の発振信号SSCをデジタル的に生成してもよい。
【0082】
発振信号生成回路140は、D/A変換部80と発振回路150を含むことができる。但し発振信号生成回路140は、このような構成には限定されず、その一部の構成要素を省略したり、他の構成要素を追加するなどの種々の変形実施が可能である。
【0083】
D/A変換部80は、デジタル信号処理部50からの周波数制御データDDS(処理部の出力データ)のD/A変換を行う。D/A変換部80に入力される周波数制御データDDSは、デジタル信号処理部50による温度補償処理後の周波数制御データ(周波数制御コード)である。D/A変換部80のD/A変換方式としては例えば抵抗ストリング型(抵抗分割型)を採用できる。但し、D/A変換方式はこれには限定されず、抵抗ラダー型(R−2Rラダー型等)、容量アレイ型、又はパルス幅変調型などの種々の方式を採用できる。またD/A変換部80は、D/A変換器以外にも、その制御回路や変調回路やフィルター回路などを含むことができる。
【0084】
発振回路150は、D/A変換部80の出力電圧VQと振動子XTALを用いて、発振信号SSCを生成する。発振回路150は、第1、第2の振動子用端子(振動子用パッド)を介して振動子XTALに接続される。例えば発振回路150は、振動子XTAL(圧電振動子、共振子等)を発振させることで、発振信号SSCを生成する。具体的には発振回路150は、D/A変換部80の出力電圧VQを周波数制御電圧(発振制御電圧)とした発振周波数で、振動子XTALを発振させる。例えば発振回路150が、電圧制御により振動子XTALの発振を制御する回路(VCO)である場合には、発振回路150は、周波数制御電圧に応じて容量値が変化する可変容量キャパシター(バリキャップ等)を含むことできる。
【0085】
なお、前述のように発振回路150はダイレクト・デジタル・シンセサイザー方式により実現してもよく、この場合には振動子XTALの発振周波数はリファレンス周波数となり、発振信号SSCの発振周波数とは異なる周波数になる。
【0086】
バッファー回路160は、発振信号生成回路140(発振回路150)で生成された発振信号SSCのバッファリングを行って、バッファリング後の信号SQを出力する。即ち、外部の負荷を十分に駆動できるようにするためのバッファリングを行う。信号SQは例えばクリップドサイン波信号である。但し信号SQは矩形波信号であってもよい。或いはバッファー回路160は、信号SQとしてクリップドサイン波信号と矩形波信号の両方の出力が可能な回路であってもよい。
【0087】
図5は振動子XTAL(AT振動子等)の温度による発振周波数の周波数偏差の一例を示す図である。デジタル信号処理部50は、図5のような温度特性を有する振動子XTALの発振周波数を、温度に依存せずに一定にするための温度補償処理を行う。
【0088】
具体的にはデジタル信号処理部50は、A/D変換部20の出力データ(温度検出データDTD)とD/A変換部80の入力データ(周波数制御データ)とが図6に示すような対応関係になるような温度補償処理を実行する。図6の対応関係(周波数補正テーブル)は、例えば回路装置が組み込まれた発振器を恒温槽に入れ、各温度でのD/A変換部80の入力データ(DDS)とA/D変換部20の出力データ(DTD)をモニターするなどの手法により取得できる。
【0089】
そして図6の対応関係を実現するための温度補償用の近似関数の係数データを、回路装置のメモリー部(不揮発性メモリー)に記憶しておく。そしてデジタル信号処理部50が、メモリー部から読み出された係数データと、A/D変換部20からの温度検出データDTDとに基づいて、演算処理を行うことで、振動子XTALの発振周波数を温度に依らずに一定にするための温度補償処理を実現する。
【0090】
なお温度センサー部10の温度検出電圧VTDは、後述するように例えば負の温度特性を有している。従って、図6のような温度補償特性で、図5の振動子XTALの発振周波数の温度依存性を相殺して補償できるようになる。
【0091】
3.A/D変換部
次に、A/D変換部20の詳細について説明する。具体的には、A/D変換部20の構成例を説明した後、通常動作モード、ハイスピードモードのそれぞれの手法を説明する。
【0092】
3.1 構成例
A/D変換部20の構成例は図2に示したとおりである。図2に示したようにA/D変換部20は、処理部23、レジスター部24、D/A変換器26(DACE、DACF)、比較部27を含む。また温度センサー部用アンプ28を含むことができる。処理部23、レジスター部24は、ロジック部22として設けられ、D/A変換器26、比較部27、温度センサー部用アンプ28は、アナログ部25として設けられる。
【0093】
レジスター部24は、A/D変換の途中結果データや最終結果データなどの結果データを記憶する。このレジスター部24は、例えば逐次比較方式における逐次比較結果レジスターに相当する。D/A変換器26(DACE、DACF)は、レジスター部24の結果データをD/A変換する。これらのDACE、DACFとしては広く知られた種々のD/A変換器を採用できる。比較部27は、D/A変換器26の出力電圧(D/A変換電圧VDAC)と、温度検出電圧VTD(温度センサー部用アンプ28による増幅後の電圧)との比較を行う。比較部27は例えばチョッパー型比較器などにより実現できる。処理部23は、比較部27の比較結果に基づいて判定処理を行い、レジスター部24の結果データの更新処理を行う。そして、当該更新処理により求められた最終的な温度検出データDTDが、温度検出電圧VTDのA/D変換結果として、A/D変換部20から出力される。このような構成により、通常動作モードやハイスピードモード、或いは一般的な逐次比較方式等のA/D変換を実現できる。
【0094】
ここで、途中結果データ及び最終結果データは、レジスター部24に記憶されるデジタルデータである。最終結果データとは、1つのA/D変換結果(温度の場合は温度検出データDTD)に対応するものであり、途中結果データとは最終結果データを求める過程で求められるデータである。例えば、図15を用いて後述する例では、DB,DOの両方が結果データに含まれるが、DBについては途中結果データに対応する。またDOについては、図15の処理の終了時の値は最終結果データであるが、図15の処理中の値は途中結果データに対応する。また、通常動作モードの場合、前回の最終結果データに1LSBを加算(減算)したデータは途中結果データに対応し、判定処理により求められるデータが最終結果データに対応する。
【0095】
また、D/A変換器26は、処理部23における更新処理後の結果データのD/A変換を行う。これにより、更新処理後の結果データは、次の比較処理において温度検出電圧VTDとの比較対象として用いることができる。
【0096】
つまり、比較結果に基づき判定処理を行い、判定処理により結果データの更新処理を行い、更新処理後の結果データを、さらに次の比較処理に利用する、というサイクルを繰り返すことで、温度検出データDTDを適切に更新していくことが可能になる。
【0097】
図7Aに比較部27の構成例を示す。比較部27は、レジスター部24の結果データがD/A変換器26でD/A変換された結果であるD/A変換電圧が入力される第1のスイッチS1と、温度検出電圧VTDが入力される第2のスイッチS2と、S1及びS2に一端(ここを入力端子Ninとする)が接続されるキャパシターCと、キャパシターCの他端にゲート端子が接続されるトランジスターTrと、トランジスターTrのゲート端子とドレイン端子との間に設けられる第3のスイッチS3と、トランジスターTrのドレイン端子と高電位側電源端子との間に設けられる電流源ISとを含む。トランジスターTrのソース端子は低電位側電源端子(グラウンド)に接続される。また、トランジスターTrのドレイン端子に出力端子Noutが接続され、Noutからは出力電圧Voutが出力される。
【0098】
比較部27は、サンプルモードとコンパレーターモードの2つのモードを有する。サンプルモードでは、スイッチS1がオフに設定されるとともに、S2及びS3がオンに設定される。図7Bがサンプルモードの状態を表す模式図である。この場合、電流源ISとトランジスターTrとにより構成されるインバーターのゲインが1となるため、サンプルモードでの出力電圧Vout1は下式(1)により求められる。下式(1)において、VcはキャパシターCの両端の電位差を表し、VthはトランジスターTrの閾値電圧を表す。
Vout1=Vth=(VTD+Vc) (1)
【0099】
サンプルモードの実行後に、比較部27はコンパレーターモードに移行する。コンパレーターモードでは、S1がオンに設定されるとともに、S2及びS3がオフに設定される。図7Cがコンパレーターモードの状態を表す模式図である。コンパレーターモードでの出力電圧Vout2は、インバーターのゲインを−Gxとした場合、下式(2)により求められる。
Vout2=−Gx×{(VDAC+Vc)−Vth}
=−Gx(VDAC−VTD) (2)
【0100】
このように、VTDとVDACとの大小関係に応じて、トランジスターTrのオンオフが決まることになる。具体的には、温度検出電圧VTDよりもD/A変換電圧VDACが大きければ、トランジスターTrはオンとなるため、出力電圧Voutは低電位側電源電圧(例えばグラウンド)となる。逆に、温度検出電圧VTDよりもD/A変換電圧VDACが小さければ、トランジスターTrはオフとなるため、出力電圧Voutは高電位側電源電圧(例えばVDD)となる。このように、コンパレーターモードにおける出力電圧に基づいて、温度検出電圧VTDとD/A変換電圧VDACの比較が可能となる。
【0101】
図8が比較部27における具体的な波形図である。Vcomは第1のスイッチS1を制御する制御電圧であり、Vsmpは第2のスイッチS2及び第3のスイッチS3を制御する制御電圧である。VcomとVsmpは、Highの時に対応するスイッチがオンになり、Lowの時に対応するスイッチがオフとなる。また、Vinがチョッパー回路の入力電圧(入力端子Ninの電圧)、Voutが出力電圧である。
【0102】
図8のA1はサンプルモードに対応する期間であり、VsmpがHighであり、VcomがLowであるため、S1がオフ、S2及びS3がオンに設定される。この状態では、温度検出電圧VTDが入力され、徐々にキャパシターCに電荷が蓄積されていき、安定した状態ではVinはVTD及びVcに対応する電圧となる。図8のA2からわかるように、キャパシターCのチャージは即座に行われるわけではないため、サンプルモードの期間を過剰に短くしてしまうと、Vcが温度検出電圧VTDに対応した値とならず、精度が低下することになる。
【0103】
図8のA3がコンパレーターモードであり、VcomがHighであり、VsmpがLowであるため、S1がオン、S2及びS3がオフに設定される。この状態では、VinはD/A変換電圧VDACとなる。図8の例では、VDAC<VTDであったため、Voutは徐々に大きくなり、安定した状態では高電位側電源電圧となる。
【0104】
処理部23では、Voutが高電位側電源電圧(或いはそれに近い電圧)であると判定された場合には、温度検出電圧VTDがD/A変換電圧VDACよりも大きいとしてアップ判定を行う。
【0105】
図8のA4からわかるように、Voutの高電位側電源電圧への変化は即座に行われるわけではないため、コンパレーターモードの期間を過剰に短くしてしまうと、Voutが温度検出電圧VTDとD/A変換電圧VDACの関係に対応した値とならず、精度が低下することになる。例えば、VDAC>VTDである場合(後述するA6の場合)のVoutと明確に区別可能な程度までVoutが変化する長さの期間を設けなければ判定精度は低下してしまう。また、図8のA2とA4の比較からわかるように、コンパレーターモードでは回路状態が安定するまでに要する時間がサンプルモードよりも長い。そのため、コンパレーターモードに設定される期間は、サンプルモードに設定される期間よりも長くすることが望ましい。
【0106】
また、本実施形態の手法では、所与のタイミングでの温度検出電圧VTDに対して、少なくとも2つのD/A変換電圧VDACを用いた比較処理を行う。A1及びA3は1つめのD/A変換電圧VDACを用いた比較処理に相当する。A3の終了後、温度検出電圧VTDと2つめのD/A変換電圧VDACを用いた比較処理を行う。この2回目の比較処理がA5、A6に対応する。
【0107】
A5は、A1と同様に温度検出電圧VTDに対応する電荷を蓄積するサンプルモードである。なお、A1とA5では同じ温度検出電圧VTDを対象としており、理想的にはキャパシターCのチャージ電圧Vcはコンパレーターモードの期間でも一定に保たれることから、A5のサンプルモードは不要であるとも考えられ、実際にA5を省略してもよい。しかし、サンプルモードとコンパレーターモードとの切り替えの際には、アナログスイッチ(S1〜S3)のオンオフが行われるため、電荷漏れが生じうる。図8の例では、この電荷漏れの可能性を考慮して、2回目の比較処理の際にも再度サンプルモードで動作する期間A5を設けている。
【0108】
A6は、A3と同様にVcomがHigh、VsmpがLowとなり、D/A変換電圧VDACが入力される。ただし、入力されるD/A変換電圧VDACは、A3とは異なるデジタルデータ(通常動作モードであれば後述するように1LSB加算した値)をD/A変換した電圧となり、それによりA3とA6ではVinの値が異なっている。
【0109】
図8の例では、A6ではVDAC>VTDであったため、Voutは徐々に小さくなり、安定した状態では低電位側電源電圧となる。処理部23では、Voutが低電位側電源電圧(或いはそれに近い電圧)であると判定された場合には、温度検出電圧VTDがD/A変換電圧VDACよりも小さいとしてダウン判定を行う。
【0110】
処理部23では、このようなアップ判定、ダウン判定の組み合わせに応じて、出力である温度検出データDTDの値を決定すればよい。D/A変換電圧VDACの生成に用いる具体的なデジタル値や、温度検出データDTDの具体的な決定手法については、通常動作モード、ハイスピードモードのそれぞれについて後述する。
【0111】
3.2 通常動作モード
通常動作モードは、上述したようにA/D変換結果データの急激な変化に起因する不具合、例えば周波数ホッピングによる不具合等を抑止する手法である。まず図9を用いて、周波数ホッピングが原因で発生するGPS(Global Positioning System)の通信エラーについて説明する。
【0112】
GPS衛星は、衛星軌道や時刻等に関する情報を図9の航法メッセージに含めて、GPS衛星信号として、50bpsのデータレートで送信している。このため1ビットの長さは20msec(PNコードの20周期)になる。1つの航法メッセージは1つのマスターフレームで構成されており、1つのマスターフレームは1500ビットからなる25個のフレームで構成される。
【0113】
GPS衛星信号は、図9に示すように航法メッセージのビット値に応じてBPSK変調方式で変調されている。具体的には、航法メッセージに対してPNコード(疑似ランダム符号)が乗算されてスペクトラム拡散が行われ、スペクトラム拡散後の信号に搬送波(1575.42MHz)が乗算されることで、BPSK変調が行われる。図9では、航法メッセージのB1の部分のPNコードが示され、PNコードのB2の部分の搬送波が示されている。PNコードの論理レベルが変化するタイミングで、B3に示すように搬送波が位相反転する。搬送波の1波長の期間は0.635ns程度である。GPS受信機は、BPSK変調方式で変調された航法メッセージの搬送波を受信し、搬送波の受信信号の復調処理を行うことで、航法メッセージを取得する。
【0114】
このような受信信号の復調処理の際に、搬送波の周波数(1575.42MHz)との残差周波数を4Hz/20msec内に収めないと、復調処理において誤判定が生じてしまう。即ち、GPS航法メッセージの1ビット長の期間(GPS航法メッセージの周期)であるTP=20msecにおいて、搬送波の周波数との残差周波数を4Hz内に収めないと、周波数ホッピングによる通信エラーが生じてしまう。
【0115】
そして搬送波の周波数である1575.42MHzに対する上記の4Hzの割合が数ppb程度であるため、図3B図3Cに示す許容ドリフト周波数であるFDも数ppb程度になる。
【0116】
例えばGPSの受信機では、本実施形態の回路装置(発振器)により生成される発振信号により、復調処理における搬送波の周波数が設定される。このため、発振信号の発振周波数の周波数ドリフトを、TP=20msecにおいて±FD内に収めることが必要になる。こうすることで、GPS衛星信号の受信信号の復調処理において誤判定の発生を防止でき、通信エラー(受信エラー)が生じるのを回避できる。
【0117】
しかしながら、従来のDTCXO等のデジタル方式の発振器では、期間TP(20msec)において周波数ドリフトを±FD(数ppb程度)内に抑えることは行っていなかった。このため図3Cに示すような周波数ホッピングが原因で、復調処理の誤判定による通信エラーが発生するという問題点があった。
【0118】
これに対して、通常動作モードでは隣り合う出力タイミング間での温度検出データDTDの変化がk×LSB以下となるため、周波数ホッピング等を抑止可能である。
【0119】
図10は通常動作モードにおける処理を説明するフローチャートである。なお、ここではまずk=1の場合を例にとって説明を行う。通常動作モードが開始されると、まず前回の温度検出データDTDのコードをD/A変換器26でD/A変換してD/A変換電圧VDACとする(S101)。そして、図8を用いて上述したように、サンプルモード(例えばA1)、コンパレーターモード(例えばA3)により温度検出電圧VTDとの比較処理を行い、アップ判定とダウン判定のいずれかであるかの結果を取得する。
【0120】
次に、レジスター部の値、すなわち前回の温度検出データDTDの値そのものに対して、1LSBだけ加算し、加算後のデータをD/A変換器26でD/A変換してD/A変換電圧VDACとする(S102)。そして、図8を用いて上述したように、サンプルモード(例えばA5)、コンパレーターモード(例えばA6)により温度検出電圧VTDとの比較処理を行い、アップ判定とダウン判定のいずれかであるかの結果を取得する。
【0121】
S101とS102により、比較部27は、前回の出力タイミングでの温度検出データDTD(前回の最終結果データ)をD/A変換器26で変換したD/A変換電圧VDACと、温度検出電圧VTDを比較する第1の比較結果の出力、及び前回の最終結果データに1LSBを加算した第2のデータをD/A変換器26で変換したD/A変換電圧VDACと、温度検出電圧VTDを比較する第2の比較結果の出力を行ったことになる。
【0122】
処理部23は、この2つの比較処理の結果に基づいて、今回の温度検出データDTDを決定する判定処理を行う(S103)。
【0123】
まず、第1の比較結果に基づく判定処理により、温度検出電圧VTDがD/A変換電圧VDACよりも大きいと判定された場合、すなわちアップ判定であり、第2の比較結果に基づく判定処理の結果もアップ判定である場合は、今回の前記最終結果データを、第2のデータ、すなわち前回の温度検出データDTDに1LSBを加算した値に決定する(ステップS104)。
【0124】
2つの比較処理の両方がアップ判定である場合とは、現在の温度が前回の出力タイミングでの温度よりも充分大きくなっている状態に対応する。そのため、今回の温度検出データDTDは前回の温度検出データDTDよりも大きくするとよく、ここでは変化幅を1LSB以下としているため、1LSBだけ加算した値を出力すればよい。
【0125】
また、第1の比較結果に基づく判定処理により、温度検出電圧VTDがD/A変換電圧VDACよりも小さいと判定された場合、すなわちダウン判定であり、第2の比較結果に基づく判定処理の結果もダウン判定である場合は、今回の最終結果データを、前回の最終結果データから1LSBを減算したデータに決定する(ステップS105)。
【0126】
2つの比較処理の両方がダウン判定である場合とは、現在の温度が前回の出力タイミングでの温度よりも充分小さくなっている状態に対応する。そのため、今回の温度検出データDTDは前回の温度検出データDTDよりも小さくするとよく、ここでは変化幅を1LSB以下としているため、1LSBだけ減算した値を出力すればよい。
【0127】
また、第1の比較結果に基づく判定処理の結果がアップ判定であり、第2の比較結果に基づく判定処理の結果がダウン判定である場合とは、温度の変化が大きくない状態に対応する。そのため、今回の温度検出データDTDは前回の温度検出データDTDの値を維持すればよい(ステップS106)。
【0128】
また、第1の比較結果に基づく判定処理の結果がダウン判定であり、第2の比較結果に基づく判定処理の結果がアップ判定である場合とは、通常起こりえない状態である。なぜなら、この場合の温度検出電圧VTDは、所与の電圧に比べて小さく、且つ当該所与の電圧よりも大きい電圧に比べて大きいことになり、そのような電圧値は存在しないためである。この状態では第1,第2の比較処理の少なくとも一方が適切に行えていないおそれがあるため、そのような不適切な判定により出力する温度検出データDTDの値を変動させることは好ましくない。よって本実施形態では、第1の比較結果がダウン判定であり、第2の比較結果がアップ判定である場合には、今回の温度検出データDTDは前回の温度検出データDTDの値を維持する(ステップS106)。
【0129】
ここではk=1としたため比較処理が2回となったが、kが2以上の場合も処理の簡略化が可能な点は同様である。すなわち、±k×LSBを超えるようなMSB側のビットについては、既に求められている前回の温度検出データDTDの値をそのまま流用可能であるため、当該ビットを決定するための比較処理を省略できるという効果がある。
【0130】
例えば、比較部27は、前回の出力タイミングでの温度検出データDTDに対応する前回の最終結果データをD/A変換器26で変換したD/A変換電圧VDACと、温度検出電圧VTDとを比較して第1の比較結果を出力し、前回の最終結果データがk×LSB以下の範囲で更新されたデータをD/A変換器26で変換したD/A変換電圧VDACと、温度検出電圧とを比較して第2の比較結果を出力する。そして処理部23は、第1の比較結果及び第2の比較結果に基づく判定処理を行い、判定処理に基づいて、前回の最終結果データをk×LSB以下の範囲で更新して、今回の最終結果データとして決定する更新処理を行えばよい。
【0131】
ステップS104〜S106のいずれかの処理後は、通常動作モードを終了するか否か、例えばディスエーブル信号が入力されたか否かを判定し(ステップS107)、S107でYesの場合には通常動作モードを終了し、Noの場合にはステップS101に戻り処理を継続する。
【0132】
なお、以上では所与のデジタルデータと、当該デジタルデータに対応するアナログ信号(D/A変換電圧)との関係として図11Aに示した関係を想定していた。具体的には、デジタルデータとして所与の値Dと、D+1LSB、D−1LSBを設定し、各デジタルデータに対応するアナログ信号(電圧値)をV,VD+1、VD−1とした場合に、電圧値がVD−1〜Vの場合に対応するデジタルデータをD−1LSBとし、電圧値がV〜VD+1の場合に対応するデジタルデータをDとし、電圧値がVD+1〜VD+2の場合に対応するデジタルデータをD+1LSBとする関係である。この例であれば、出力であるデジタルデータをDにするかD±1LSBにするかの境界は、BO1とBO2すなわちVとVD+1である。そのため、S101,S102を用いて上述したように、D/A変換器26に入力するデータ(コード)は、前回の温度検出データDTD、及びそれに1LSBを加算した値を用いれば、今回の温度検出データDTDを前回の値そのままとするか±1LSBするかを適切に判定可能である。
【0133】
しかし、アナログ信号とデジタルデータとの関係は図11Aに限定されるものではなく、例えば図11Bを用いてもよい。図11Bでは、電圧値がVD−2〜VD−1の場合に対応するデジタルデータをD−1LSBとし、電圧値がVD−1〜Vの場合に対応するデジタルデータをDとし、電圧値がV〜VD+1の場合に対応するデジタルデータをD+1LSBとしている。図11Bの例であれば、出力であるデジタルデータをDにするかD±1LSBにするかの境界は、BO3とBO4すなわちVD−1とVである。そのため、D/A変換器26に入力するデータ(コード)は、前回の温度検出データDTD、及びそれから1LSBを減算した値を用いるとよいことになる。
【0134】
この場合、比較部27は、前回の出力タイミングでの温度検出データDTDに対応する前回の最終結果データをD/A変換器26で変換したD/A変換電圧VDACと、温度検出電圧VTDを比較する第1の比較結果の出力、及び前回の最終結果データから1LSBが減算された第2のデータをD/A変換器26で変換したD/A変換電圧VDACと、温度検出電圧VTDを比較する第2の比較結果の出力を行えばよい。
【0135】
この場合も処理部23での判定は同様に行えばよい。処理部23は、第1の比較結果に基づく判定処理の結果がアップ判定であり、第2の比較結果に基づく判定処理の結果もアップ判定である場合は、今回の最終結果データを、前回の最終結果データに1LSBを加算したデータに決定する。また、第1の比較結果に基づく判定処理の結果がダウン判定であり、第2の比較結果に基づく判定処理の結果もダウン判定である場合は、今回の最終結果データを第2のデータ(−1LSBしたデータ)に決定する。
【0136】
また、処理部23は、第1の比較結果に基づく判定処理の結果、及び第2の比較結果に基づく判定処理の結果の一方がアップ判定であり、且つ他方がダウン判定である場合は、今回の最終結果データ(温度検出データDTD)を、前回の最終結果データに決定すればよい。
【0137】
なお、図7Aでは比較部27への入力は、D/A変換電圧VDACと温度検出電圧VTDの2つであるものとしたがこれには限定されない。上述したように、通常動作モードでは温度検出電圧VTDとの比較対象となる電圧は、前回の温度検出データDTDをD/A変換した第1のD/A変換電圧VDACAと、前回の温度検出データDTDに1LSBを加算(減算)したデータをD/A変換した第2のD/A変換電圧VDACBとの2つである。つまり、比較部27に対してVDACAとVDACBとが入力できればよいため、図7A図7Cに示したように1つの入力経路を時分割的に利用して、VDACAを入力する期間とVDACBを入力する期間を設けてもよいし、VDACAを入力する経路とVDACBを入力する経路を別途設けてもよい。
【0138】
図12が経路を別途設ける場合の比較部27の構成例である。図12に示したように、比較部27はD/A変換器26とキャパシターCの一端との間に設けられる第4のスイッチS4を含み、S4に対してはD/A変換器26から第2のD/A変換電圧VDACBが入力される。この例では、VDACAとVTDを比較するコンパレーターモード(図8のA3)では、S1をオン、S2〜S4をオフに設定し、VDACBとVTDを比較するコンパレーターモード(図8のA5)では、S1〜S3をオフ、S4をオンに設定すればよい。
【0139】
3.3 ハイスピードモード
次に第1のA/D変換方式の具体例としてハイスピードモードについて説明する。ハイスピードモードは上述したように、MSB側とLSB側とで判定期間に差を設ける手法であるため、まず具体的な判定期間について説明する。
【0140】
上述したように、MSB側のビットは大きな値に対応するため、当該ビットを0にするか1にするかに応じて値(D/A変換をした場合にはアナログ信号である電圧値)が大きく変化する。そのため、比較部27における比較処理の誤判定の可能性がLSB側に比べて低い。しかし、そうは言っても誤判定の可能性は残るし、本実施形態ではMSB側の判定期間が短いため誤判定の可能性も高まる。さらに、上述してきたようにMSB側は値に対する寄与度が高いため、誤判定が生じた場合の影響が非常に大きい。
【0141】
本実施形態では、その点を考慮して、LSB側の判定結果に基づいてMSB側の判定結果を修正する。LSB側は判定期間が相対的に長いため、判定精度も高くできる。つまり、判定精度が高いLSB側の結果により、判定精度が相対的に低いMSB側の結果を修正することで、温度検出データDTDの精度を高くすることが可能になる。よって以下では、この修正手法についても説明する。
【0142】
なお、ハイスピードモードは逐次比較型に準ずる手法であり、温度検出データDTDの値をMSB側から1ビットずつ決定していくことは妨げられない。ただし、後述するように、LSB側の結果によるMSB側の結果の修正を、下位ビットからの繰り上がり又は繰り下がりにより実現しようとした場合、1ビットずつの処理では全ビットについて繰り上がり、繰り下がりの可能性を考慮しなくてはならず比較処理の回数が増えてしまう。例えばA/D変換を15ビットで行う場合、最上位ビットを除く14ビットの処理において、毎回繰り上がり繰り下がりの有無を判定しなくてはならない。その場合、1回当たりの比較処理の時間を短くしたとしても、高速化の効果が薄れるおそれがある。
【0143】
よって、下位ビットからの繰り上がり又は繰り下がりを行いつつ、効率的に高速化を行うためには、繰り上がり(繰り下がり)の発生を判定する回数を少なくするとよい。例えば、2ビットを1単位として処理を行った場合、15ビットは後述するように8つのビット範囲に区画され、最上位2ビット以外の7つのビット範囲において繰り上がり繰り下がりの判定をすればよいことになる。
【0144】
よって以下では、A/D変換結果データを、所与のビット幅で複数のビット範囲に区画し、区画された各ビット範囲においてMSB側からLSB側にビット値を決定していく場合を例にとって説明する。特に後述の例では、所与のビット幅とは2ビットである。もちろん、ここでの所与のビット幅を3ビット以上としてもよいし、上述したように1ビット単位で処理を行ってもよい。また、図13A図13Bでは最下位ビットが1ビットを単位としていることからわかるように、全ビット範囲を同一のビット幅に設定する必要はなく、例えばMSB側とLSB側とで異なるビット幅を設定するといった変形実施も可能である。
【0145】
3.3.1 MSB側とLSB側での判定期間の差
図13A図13Bにハイスピードモードにおける判定期間の設定例を示す。図13Aの横軸は時間を表す。図13Aの上段はモードを表し、ここではハイスピードモードの中でも判定期間の長さが異なる3つのモード(モード1〜モード3)が設定されている。図13Aの下段は、15ビットのA/D変換結果データのうち、どのビットが判定対象となっているかを表すものである。D[x:y]との表記は、A/D変換結果データのうち、最下位ビット(LSB)から数えてyビット目からxビット目までのx−y+1ビットの幅を持つデータを表す。最下位ビットをD[0]としているため、例えばD[14:13]であれば最もMSB側の2ビットを表す。
【0146】
図13Aからわかるように、D[14:13]〜D[6:5]の5区画では最も判定期間の短い(最も高速の)モード1に設定される。なお、図13AではD[14:13]とそれ以外とで判定期間の長さが異なるが、これは最上位のビットでは繰り上がり繰り下がりを考慮しなくてもよいという観点から生じたものであって、1回の比較処理に要する時間に差はない。
【0147】
そして、D[4:3]では、モード1に比べて判定期間の長いモード2に設定され、D[2:1]ではさらに判定期間の長いモード3に設定される。また、最下位ビットであるD[0]については、モード3よりもさらに判定期間が長く設定される。詳細については後述するが、例えばD[0]の判定は上述した通常動作モードと同様の処理により実現されてもよい。
【0148】
図13Bが具体的な判定期間の設定例である。図13Bの例では最も高速であるモード1では、サンプルモード及びコンパレーターモードのいずれについても、A/D変換に用いるクロックに換算して2クロック分の期間を設定している。クロックは種々の設定が可能であるが、例えば128kHzである。
【0149】
D[14:13]については、図14AのステップS201、ステップS203(或いはステップS204)を用いて後述するように、当該2ビットのデータの決定には2回の比較処理を行えばよい。つまり、D[14:13]は、1回目のサンプルモード、1回目のコンパレーターモード、2回目のサンプルモード、2回目のコンパレーターモードのそれぞれについて2クロック分の期間を要するため、合計で8クロック分の期間が判定期間として設定される。クロックが128kHzであれば、D[14:13]の判定期間は62.5μsecとなる。
【0150】
D[12:11]〜D[6:5]の4区画については、図14AのステップS206、ステップS208及びステップS209(或いはステップS210及びステップS211)を用いて後述するように、当該2ビットのデータの決定及び繰り上がり繰り下がりの有無の決定に3回の比較処理が必要となる。よって、サンプルモード、コンパレーターモードはそれぞれ3回ずつ実行され、各期間が2クロック分であるため、合計で12クロック分の期間が判定期間として設定される。クロックが128kHzであれば、D[12:11]〜D[6:5]の各区画の判定期間は93.75μsecとなる。
【0151】
D[4:3]では、それよりもMSB側に比べて判定精度を高くするために、比較的長い判定期間を設定する。その際、図8の波形図を用いて説明したように、コンパレーターモードの期間を長くする方が、サンプルモードの期間を長くする場合に比べて精度に対する寄与が大きい。よって図13Bの例では、モード2では、サンプルモードに2クロック分、コンパレーターモードに6クロック分の期間を割り当てる。D[4:3]でも、行われる比較処理は3回であるため、(2+6)×3の合計24クロック分の期間が判定期間として設定される。クロックが128kHzであれば、D[4:3]の判定期間は187.5μsecとなる。
【0152】
D[2:1]では、さらに長い判定期間を設定する。図13Bの例では、モード3では、コンパレーターモードに12クロック分の期間を割り当てている。また、図8を用いて上述したようにサンプルモードも長い方が精度が期待できるため、ここではサンプルモードの期間も4クロック分に拡張している。D[2:1]でも、行われる比較処理は3回であるため、(4+12)×3の合計48クロック分の期間が判定期間として設定される。クロックが128kHzであれば、D[2:1]の判定期間は375μsecとなる。
【0153】
D[0]では、さらに長い判定期間を設定する。図13Bの例では、コンパレーターモードに24クロック分、サンプルモードに8クロック分の期間を割り当てている。なお、後述するようにD[0]では通常動作モードと同様の処理を行ってもよい。この場合、比較処理は2回となるため、(8+24)×2の合計64クロック分の期間が判定期間として設定される。クロックが128kHzであれば、D[0]の判定期間は500μsecとなる。
【0154】
なお、通常動作モードの説明では具体的な判定期間について触れなかったが、一例としてはD[0]と同様に、コンパレーターモードに24クロック分、サンプルモードに8クロック分の期間を割り当てればよい。もちろん、D[0]の処理内容や判定期間は通常動作モードと同一にする必要はなく、種々の変形実施が可能である。
【0155】
また、図14Aのフローチャートを用いて後述するように、ハイスピードモード自体はD[14:1]までを決定するモードであると考え、ハイスピードモード内でD[0]を決定しないものとしてもよい。この場合、ハイスピードモードで決定したD[14:1]と、初期状態(後述の例では0)のままであるD[0]とから構成される15ビットのデータを初期値として、通常動作モードに移行することになる。最下位ビットやその近傍のビットについては実際の温度と誤差が生じている可能性があるが、その誤差は充分小さく、通常動作モードにおいてk×LSBずつ値を近づけていく処理でも大きな問題は生じない。
【0156】
図13Bの変換時間の積算を見ればわかるように、15ビット精度のA/D変換の実行を例えば1.5msecで実現することができ、上述した2msec以内といった要求を満足することが可能になる。
【0157】
なお、図13A図13Bはハイスピードモードにおける判定期間の設定の一例であり、種々の変形実施が可能である。例えば、サンプルモードとコンパレーターモードに割り当てるクロック数を図13Bとは異なる値に設定してもよいし、上述したように2回目3回目のサンプルモード自体を省略してもよい。或いは、LSB側の判定結果に基づくMSB側の判定結果の修正、例えば繰り上がりや繰り下がりを考慮しない場合であれば、D[12:11]〜D[2:1]の各区間についても比較処理の回数を減らせるため、より高速化を実現することが可能である。また、ここではハイスピードモードのモード1〜3及びノーマルモードの4段階で判定期間を変更する設定例を示したが、少なくともMSB側とLSB側とで判定期間が異なればよいため、判定期間の長さは2段階や3段階で変化させてもよいし、5段階以上で変化させることも可能である。
【0158】
3.3.2 LSB側の判定結果に基づくMSB側の判定結果の修正
図14Aは、ハイスピードモードにおける具体的な処理の流れを説明するフローチャートである。ハイスピードモードは、大きくD[14:13]を判定する部分(ステップS201〜S205)と、D[12:1]を判定する部分(ステップS206〜S213)とに分けられる。両者の差異は、MSB側への繰り上がり繰り下がりの有無である。以下詳細に説明する。
【0159】
ハイスピードモードの開始時には、A/D変換結果データとして中間的な値が設定されている。例えば”100000000000000”といったデータである。まず、D[14:13]の判定では、当該2ビットに”10”をセットしたデータをD/A変換してD/A変換電圧VDACを生成し、温度検出電圧VTDとの比較処理を行い(ステップS201)、処理部23でその結果に基づく判定処理を行う(ステップS202)。なお、判定対象とされていない他の13ビットについては、既に判定済みの値、或いは初期値をセットしておけばよい。D[14:13]の場合、D[12:0]は未判定、且つ初期値は全て0であるため、D[14:13]に”10”をセットした場合のデータは、”100000000000000”となる。
【0160】
ステップS202でVTD>VDACである、すなわちアップ判定であるとされた場合には、D[14:13]に”11”をセットしたデータをD/A変換してD/A変換電圧VDACを生成し、温度検出電圧VTDとの比較処理を行う(ステップS203)。一方、ステップS202でVTD<VDACである、すなわちダウン判定であるとされた場合には、D[14:13]に”01”をセットしたデータをD/A変換してD/A変換電圧VDACを生成し、温度検出電圧VTDとの比較処理を行う(ステップS204)。
【0161】
そして処理部23は、ステップS203或いはS204の結果を判定する(ステップS205)。図14Bは、具体的な判定内容を示す図である。”10”でアップ判定且つ”11”でもアップ判定の場合(ステップS203に移行しそこでもアップ判定の場合)、D[14:13]=”11”とする。”10”でアップ判定且つ”11”でダウン判定の場合(ステップS203に移行しそこでダウン判定の場合)、D[14:13]=”10”とする。”10”でダウン判定且つ”01”でアップ判定の場合(ステップS204に移行しそこでアップ判定の場合)、D[14:13]=”01”とする。”10”でダウン判定且つ”01”でもダウン判定の場合(ステップS204に移行しそこでもダウン判定の場合)、D[14:13]=”00”とする。
【0162】
以上の処理は一般的な比較処理と同様であり、特に繰り上がり繰り下がりは考慮しなくてよい。
【0163】
次に、2ビットLSB側の判定処理に移行する。まずはD[12:11]の2ビットについて”10”をセットしたデータをD/A変換してD/A変換電圧VDACを生成し、温度検出電圧VTDとの比較処理を行い(ステップS206)、処理部23でその結果に基づく判定処理を行う(ステップS207)。この場合、D[14:13]には、ステップS205で決定された値をセットし、D[10:0]には初期値(ここでは”0”)をセットする。例えば、D[14:13]=”11”と決定された場合であれば、ステップS206でセットするデータは”111000000000000”となる。
【0164】
ステップS207でアップ判定の場合、D[12:11]に”11”をセットしたデータをD/A変換してD/A変換電圧VDACを生成し、温度検出電圧VTDとの比較処理を行う(ステップS208)。しかし、”11”をセットした場合にVTD>VDACとなったとしても、ステップS205で上述したように、D[12:11]が”11”と判定されるのみで、よりMSB側のビット(ここではD[14:13])に対する修正ができない。よって、繰り上がりを考慮するためには、D[12:11]に”11”をセットするよりもさらに大きい値をセットする必要がある。
【0165】
具体的には、繰り上がりが生じた状態のデータをセットしたデータをD/A変換してD/A変換電圧VDACを生成し、温度検出電圧VTDとの比較処理を行う(ステップS209)。この例ではD[12:11]=”00”とし、D[13]の値を1大きくすればよい。例えば、D[14:13]=”01”と判定されていた場合であれば、D[14:11]=”1000”をセットする。つまりステップS208でD[14:11]=”0111”をセットし、ステップS209ではさらにそれよりも大きい”1000”をセットする。
【0166】
また、ステップS207でダウン判定の場合、D[12:11]に”01”をセットしたデータをD/A変換してD/A変換電圧VDACを生成し、温度検出電圧VTDとの比較処理を行う(ステップS210)。しかし、”01”をセットした場合にVTD<VDACとなったとしても、ステップS205で上述したように、D[12:11]が”00”と判定されるのみで、よりMSB側のビットに対する修正(具体的には小さくする修正)ができない。よって、繰り下がりを考慮するためには、D[12:11]に”01”をセットするよりもさらに小さい値をセットする必要がある。具体的には、D[12:11]に”00”をセットしたデータをD/A変換してD/A変換電圧VDACを生成し、温度検出電圧VTDとの比較処理を行う(ステップS211)。
【0167】
そして処理部23は、ステップS208、S209の比較結果、或いはステップS210、S211の比較結果に基づく判定を行う。図14Cは、具体的な判定内容を示す図である。まず207でアップ判定である場合について説明する。この場合、ステップS208、S209の比較処理を行い、それぞれについてアップ判定、ダウン判定があり得るため合計4通りのパターンがあり得る。
【0168】
ステップS208及びS209の両方でアップ判定の場合、温度検出電圧VTDは繰り上がりが必要な程度に大きいことがわかる。よって、判定対象としている2ビットの値は”00”に決定し、その1つMSB側のビットに1を加算する。また、ステップS208及びS209の両方でダウン判定の場合、温度検出電圧VTDは”10”をセットした場合と”11”をセットした場合の間にあることがわかるため、判定対象としている2ビットは”10”に決定する。
【0169】
また、ステップS208でアップ判定であり、ステップS209でダウン判定の場合、温度検出電圧VTDは、”11”をセットした場合と繰り上がりが生じる場合との間にあることがわかるため、判定対象としている2ビットは”11”に決定する。
【0170】
また、ステップS208でダウン判定であり、ステップS209でアップ判定の場合、通常ではあり得ないエラー状態であることがわかる。エラー状態である場合の処理は種々考えられるが、ここでは”11”という値を設定するものとしている。つまり、ステップS208,209については(1)両方アップ判定の場合(2)両方ダウン判定の場合(3)一方がアップ判定で他方がダウン判定の場合、の3パターンを考慮して値を決定する。
【0171】
次に、207でダウン判定である場合について説明する。この場合、ステップS210、S211の比較処理を行い、それぞれについてアップ判定、ダウン判定があり得るため合計4通りのパターンがあり得る。
【0172】
ステップS210及びS211の両方でアップ判定の場合、温度検出電圧VTDは”01”をセットした場合と”10”をセットした場合の間にあることがわかるため、判定対象としている2ビットは”01”に決定する。ステップS210及びS211の両方でダウン判定の場合、温度検出電圧VTDは繰り下がりが必要な程度に小さいことがわかる。よって、判定対象としている2ビットの値は”11”に決定し、その1つMSB側のビットから1を減算する。例えば、D[14:13]=”10”である場合であって、D[12:11]で繰り下がりが必要と判定された場合には、D[14:11]=”0111”に決定すればよい。
【0173】
また、ステップS210でダウン判定であり、ステップS211でアップ判定の場合、温度検出電圧VTDは、”00”をセットした場合と”01”をセットした場合との間にあることがわかるため、判定対象としている2ビットは”00”に決定する。
【0174】
また、ステップS210でアップ判定であり、ステップS211でダウン判定の場合、通常ではあり得ないエラー状態であることがわかる。エラー状態である場合の処理は種々考えられるが、ここでは”00”という値を設定するものとしている。つまり、ステップS210,S211についても(1)両方アップ判定の場合(2)両方ダウン判定の場合(3)一方がアップ判定で他方がダウン判定の場合、の3パターンを考慮して値を決定する。
【0175】
図15にハイスピードモードでの具体的な数値の決定例を示す。縦軸が時間を表し、表の上から下へ向かって処理が進んでいく。DB[14:0]はD/A変換器26でのD/A変換の対象となるデータ(D/A変換電圧VDACのもととなるデータ)を表し、DO[14:0]がハイスピードモードの出力となる15ビット精度のA/D変換結果データを表す。DBの値を種々変更しながら比較処理、判定処理を行い、その結果によりDOを更新していく。そしてLSB側のビットまで処理が終わったタイミングでのDOがA/D変換結果データに対応することになる。なお、上述したように、MSB側とLSB側とで実際には判定期間が異なることになるが、図15では便宜上縦軸での長さには差を設けていない。また、DB,DOのうち、網掛けで示された部分は値が更新されたビットを表す。C8を用いて後述するように、繰り上がり繰り下がりが生じる場合には、処理対象でないビットについても更新対象となる可能性がある。
【0176】
まず、最もMSB側の2ビットの”10”がセットされ(C1、ステップS201に対応)、判定処理が行われる。ここではアップ判定であったため、次に当該2ビットに”11”がセットされ(C2、ステップS203に対応)、判定処理が行われる。ここでもアップ判定であったため、DO[14:13]が”11”に決定され(C3)、D[12:11]の判定に移行する。
【0177】
D[12:11]では、まず”10”がセットされ(C4、ステップS206に対応)、判定処理が行われる。ここではダウン判定であったため、”01”、”00”がセットされる(C5、C6、ステップS210,211に対応)。図15の例では、C5,C6の両方がアップ判定であったため、DO[12:11]が”01”に決定され(C7)、D[10:9]の判定に移行する。
【0178】
以下、説明を簡略化する。D[10:9]では、”10”でアップ判定、且つ”11”、”100(繰り上がり)”の一方がアップ、他方がダウン判定となり、DO[10:9]は”11”に決定されている。なお、”100”をセットする際には、繰り上がりが生じるためDB[12:11]が”10”となっている(C8)。
【0179】
D[8:7]では、”10”でダウン判定、且つ”01”、”00”の両方がダウン判定となり、繰り下がりが生じている。具体的には、DO[8:7]は”11”に決定されるとともに、”11”に決定されてたD[10:9]に対して減算が行われ、D[10:9]が”10”に修正されている。
【0180】
D[6:5]では、”10”でアップ判定、且つ”11”、”100(繰り上がり)”の両方がアップ判定となり、繰り上がりが生じている。具体的には、DO[6:5]は”00”に決定されるとともに、”11”に決定されてたDO[8:7]に対して加算が行われる。この場合、さらにMSB側のビットまで繰り上がりが波及し、D[10:7]=”1011”であったものが、”1100”に修正されている。
【0181】
D[4:3]では、”10”でアップ判定、且つ”11”、”100(繰り上がり)”の両方がダウン判定となり、DO[4:3]は”10”に決定されている。
【0182】
D[2:1]では、”10”でダウン判定、且つ”01”、”00”の一方がアップ、他方がダウン判定となり、DO[2:1]は”00”に決定されている。
【0183】
D[0]では、通常動作モードと同様であるため、それまでに決定されたDO[14:0]をセットした場合の比較処理と、DO[14:0]に1LSBを加算した値をセットした場合の比較処理とを行い、1LSB以下の範囲で値を更新すればよい。この例では、D[0]の初期値が0であるため、1LSB減算した場合に繰り下がりが生じる。繰り上がりを生じさせたいのであれば初期値を1にセットすればよい。
【0184】
或いは、通常動作モードとは動作を変更し、まず”1”をセットし、アップ判定の場合に”10(繰り上がり)”をセット、ダウン判定の場合に”0”をセットするという変形実施を行ってもよい。この例では、両方アップ判定であれば繰り上がり、両方ダウン判定であれば繰り下がり、”1”でアップ判定且つ”10”でダウン判定の場合は”1”に決定、”1”でダウン判定且つ”0”でアップ判定の場合は“0”に決定すればよい。
【0185】
4.DTCXOの場合の他の構成の例
図1を用いて上述したように、本実施形態に係る回路装置は、発振信号生成回路140を含み、デジタル信号処理部50は、温度検出データDTDに基づいて発振周波数の温度補償処理を行い、発振周波数の周波数制御データDDSを出力し、発振信号生成回路140は、デジタル信号処理部50からの周波数制御データDDSと振動子XTALを用いて、周波数制御データDDSにより設定される発振周波数の発振信号を生成してもよい。
【0186】
この場合、発振信号生成回路140は図1に示したように、デジタル信号処理部50からの周波数制御データDDSのD/A変換を行うD/A変換部80と、D/A変換部80の出力電圧VQと振動子XTALを用いて、発振信号を生成する発振回路150を含むものであってもよい。ただし、図21を用いて後述するように、発振信号生成回路140の構成は図1の構成に限定されない。
【0187】
この例において、周波数ホッピングはA/D変換部20の出力である温度検出データDTDの変化をk×LSB以下に抑制することで実現されてもよい。しかし、周波数ホッピングは直接的には発振信号生成回路140の出力の変動に関連するものであるため、当該出力に関係する他の構成において周波数ホッピングを抑止する手法を併用してもよい。
【0188】
以下、具体的な手法を説明した後、当該手法を実現するデジタル信号処理部50、D/A変換部80の構成例について説明する。また、DTCXOに用いられる温度センサー部10や発振回路150の構成例についても説明する。
【0189】
4.1 A/D変換部以外の構成による周波数ホッピングの抑止手法
周波数ホッピングを抑止するには、図16に示すように、第1の温度T1から第2の温度T2に温度が変化した場合に、第1の制御電圧VC1と第2の制御電圧VC2の差分電圧VDFの絶対値よりも小さい電圧幅で変化する出力電圧VQが、D/A変換部80から発振回路150に出力されるようにすればよい。
【0190】
差分電圧VDFの絶対値は、例えば|VC1−VC2|である。この場合にVC1>VC2であってもよいし、VC1<VC2であってもよい。また、温度変化が無いことなどにより、VC1=VC2(DTD1=DTD2)である場合には、出力電圧VQの変化電圧幅も当然に0Vになり、差分電圧VDFの絶対値と出力電圧VQの変化電圧幅は一致する。即ちこのケースは本実施形態の手法の例外のケースとなる。
【0191】
例えばこの手法を採用しなかった場合には、温度がT1からT2に変化した場合に、D/A変換部80の出力電圧VQは、図16のD1に示すように差分電圧VDFのステップ幅で変化してしまう。
【0192】
これに対して本実施形態の手法では、図16のD2に示すように、この差分電圧VDFの絶対値よりも小さい電圧幅VAで、D/A変換部80の出力電圧VQを変化させる。電圧幅VAは例えば期間TDAC内での出力電圧VQの電圧変化である。
【0193】
図16のD2に示すように、VA<VDFとなるようにD/A変換部80の出力電圧VQを変化させれば、D1の場合に比べて、発振回路150の発振周波数の変化も非常に小さくなる。従って、図3Cのような周波数ホッピングの発生が抑制され、図9で説明した通信エラーの発生も防止できるようになる。
【0194】
具体的には、デジタル信号処理部50が、第1の温度から第2の温度に温度が変化した場合に、第1の温度(第1の温度検出データ)に対応する第1のデータから、第2の温度(第2の温度検出データ)に対応する第2のデータへと、k’×LSB単位で変化(k’×LSBずつ変化)する周波数制御データDDSを出力すればよい。ここでk’は1以上の整数である。なお、k’は上述したkと同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。
【0195】
図17Aは、本実施形態の手法を周波数領域において説明する図である。例えば発振信号生成回路140(D/A変換部80及び発振回路150)による発振周波数の周波数可変範囲をFRとする。例えば発振信号生成回路140は、温度変化に対して図17Bに示すような周波数調整を行うが、この周波数調整での周波数可変範囲がFRになる。即ち、この周波数可変範囲FR内に収まる温度変化であれば、発振信号生成回路140による周波数調整が可能となる。
【0196】
また所定期間TP内における発振周波数の許容周波数ドリフトをFDとする。例えば図9で説明した通信エラーの発生を防止するためには、所定期間TP内での発振周波数の周波数ドリフトを、許容周波数ドリフトFD内に収める必要がある。図3Cに示すような周波数ホッピングにより、発振周波数の周波数ドリフトが許容周波数ドリフトFD内に収まらなくなると、例えばGPS衛星信号等の受信信号の復調処理において誤判定が発生して、通信エラーが生じてしまう。
【0197】
またD/A変換部80のフルスケール電圧をVFSとする。D/A変換部80は、このフルスケール電圧VFSの範囲で、出力電圧VQを変化させることができる。このフルスケール電圧VFSは、例えばD/A変換部80に入力される周波数制御データDDSが、0〜2というようにフルレンジで変化した場合の電圧範囲に相当する。
【0198】
そして図16で説明したD/A変換部80のD/A変換間隔(TDAC)での出力電圧VQの電圧変化の電圧幅をVAとする。この場合に本実施形態の手法では、図17Aに示すように、下式(3)が成立する。
VA<(FD/FR)×VFS (3)
【0199】
具体的には、D/A変換部80の分解能をiビットとした場合に、下式(4)が成立する。
1/2<(FD/FR) (4)
【0200】
上式(3)、(4)に示す本実施形態の手法を採用することで、図17Aに示すように、所定期間TP(例えば20msec)での、公称発振周波数fos(例えば16MHz程度)に対する発振周波数の周波数ドリフトを、許容周波数ドリフトFD内(例えば数ppb程度)に収めることが可能になる。これにより、図3C等で説明した周波数ホッピングを原因とする通信エラー等の発生を抑制できるようになる。
【0201】
例えば上式(3)の右辺である(FD/FR)×VFSは、周波数可変範囲FRに対する許容周波数ドリフトFDの比率である(FD/FR)を、D/A変換部80のフルスケール電圧VFSに乗算したものである。
【0202】
そしてD/A変換部80のD/A変換間隔(TDAC)での出力電圧VQの変化の電圧幅VAを、この(FD/FR)×VFSよりも小さくすれば、周波数領域においては、図17Aに示すように、公称発振周波数fosに対する周波数ドリフトを、許容周波数ドリフトFD内に収めることが可能になる。即ち、D/A変換部80の出力電圧VQの変化の電圧幅VAを、図16のD2に示すように小さくすることができ、周波数ホッピングの発生を抑制できるようになる。
【0203】
例えば上式(3)が成り立たないと、図18に示すように、公称発振周波数fosに対する周波数ドリフトが許容周波数ドリフトFD内に収まらなくなる周波数ホッピングが生じ、図9で説明した通信エラー等が発生してしまう。本実施形態では上式(3)が成り立つように、D/A変換部80の出力電圧VQを変化させることで、このような周波数ホッピングの発生が抑制され、通信エラー等を防止できるようになる。
【0204】
上記の手法を実現するためのD/A変換部80の構成は種々考えられる。例えば、D/A変換部80は、変調回路と、D/A変換器と、フィルター回路(LPF)とを含んでもよい。デジタル信号処理部50は、D/A変換器の分解能であるnビット(例えば16ビット)よりもビット数が多いi=m+nビットの周波数制御データDDSを出力する。デジタル信号処理部50は、例えば温度補償処理等のデジタル信号処理を実現するために、浮動小数点演算等を行っているため、このようなnビット(例えばn=16ビット)よりもビット数が多いi=m+nビットの周波数制御データDDSを出力することは容易である。
【0205】
そして変調回路は、i=m+nのうちのmビットのデータに基づいて、i=m+nのうちのnビットのデータの変調(PWM変調等)を行い、変調後のnビットのデータDMをD/A変換器に出力する。そしてD/A変換器がデータDMのD/A変換を行い、得られた出力電圧VDAの平滑化処理をフィルター回路が行うことで、i=m+nビット(例えば20ビット)というような高分解能のD/A変換を実現できるようになる。
【0206】
4.2 温度センサー部、発振回路
図19Aに温度センサー部10の第1の構成例を示す。図19Aの温度センサー部10は、電流源ISTと、電流源ISTからの電流がコレクターに供給されるバイポーラートランジスターTRTを有する。バイポーラートランジスターTRTは、そのコレクターとのベースが接続されるダイオード接続となっており、バイポーラートランジスターTRTのコレクターのノードに、温度特性を有する温度検出電圧VTDが出力される。温度検出電圧VTDの温度特性は、バイポーラートランジスターTRTのベース・エミッター間電圧の温度依存性によって生じる。図19Cに示すように温度検出電圧VTDは、負の温度特性(負の勾配を有する1次の温度特性)を有する。
【0207】
図19Bに温度センサー部10の第2の構成例を示す。図19Bでは、図19Aの電流源ISTが抵抗RTにより実現される。そして抵抗RTの一端は電源電圧のノードに接続され、他端はバイポーラートランジスターTRT1のコレクターに接続される。またバイポーラートランジスターTRT1のエミッターは、バイポーラートランジスターTRT2のコレクターに接続される。そしてバイポーラートランジスターTRT1、TRT2は共にダイオード接続されており、バイポーラートランジスターTRT1のコレクターのノードに出力される電圧VTSQは、図19Cのように負の温度特性(負の勾配を有する1次の温度特性)を有している。
【0208】
また図19Bの温度センサー部10では、オペアンプOPDと抵抗RD1、RD2が更に設けられている。オペアンプOPDの非反転入力端子には、電圧VTSQが入力され、反転入力端子には、抵抗RD1の一端及び抵抗RD2の一端が接続される。そして抵抗RD1の他端には基準温度電圧VTA0が供給され、抵抗RD2の他端はオペアンプOPDの出力端子に接続される。
【0209】
このようなオペアンプOPD及び抵抗RD1、RD2により、基準温度電圧VAT0を基準として電圧VTSQを正転増幅する増幅アンプが構成される。これにより、温度検出電圧VTD=VAT0+(1+RD2/RD1)×(VTSQ−VAT0)が、温度センサー部10から出力されるようになる。そして基準温度電圧VAT0を調整することにより、基準温度T0の調整が可能になる。
【0210】
図20に発振回路150の構成例を示す。この発振回路150は、電流源IBX、バイポーラートランジスターTRX、抵抗RX、可変容量キャパシターCX1、キャパシターCX2、CX3を有する。
【0211】
電流源IBXは、バイポーラートランジスターTRXのコレクターにバイアス電流を供給する。抵抗RXは、バイポーラートランジスターTRXのコレクターとベースの間に設けられる。
【0212】
容量が可変である可変容量キャパシターCX1の一端は、振動子XTALの一端に接続される。具体的には、可変容量キャパシターCX1の一端は、回路装置の第1の振動子用端子(振動子用パッド)を介して振動子XTALの一端に接続される。キャパシターCX2の一端は、振動子XTALの他端に接続される。具体的には、キャパシターCX2の一端は、回路装置の第2の振動子用端子(振動子用パッド)を介して振動子XTALの他端に接続される。キャパシターCX3は、その一端が振動子XTALの一端に接続され、その他端がバイポーラートランジスターTRXのコレクターに接続される。
【0213】
バイポーラートランジスターTRXには、振動子XTALの発振により生じたベース・エミッター間電流が流れる。そしてベース・エミッター間電流が増加すると、バイポーラートランジスターTRXのコレクター・エミッター間電流が増加し、電流源IBXから抵抗RXに分岐するバイアス電流が減少するので、コレクター電圧VCXが低下する。一方、バイポーラートランジスターTRXのベース・エミッター間電流が減少すると、コレクター・エミッター間電流が減少し、電流源IBXから抵抗RXに分岐するバイアス電流が増加するので、コレクター電圧VCXが上昇する。このコレクター電圧VCXはキャパシターCX3を介して振動子XTALにフィードバックされる。
【0214】
振動子XTALの発振周波数は温度特性(例えば図5の温度特性)を有しており、この温度特性は、D/A変換部80の出力電圧VQ(周波数制御電圧)により補償される。即ち、出力電圧VQは可変容量キャパシターCX1に入力され、出力電圧VQにより可変容量キャパシターCX1の容量値が制御される。可変容量キャパシターCX1の容量値が変化すると、発振ループの共振周波数が変化するので、振動子XTALの温度特性による発振周波数の変動が補償される。可変容量キャパシターCX1は、例えば可変容量ダイオード(バラクター)などにより実現される。
【0215】
なお、本実施形態の発振回路150は、図20の構成に限定されず、種々の変形実施が可能である。例えば図20ではCX1を可変容量キャパシターとする場合を例に説明したが、CX2又はCX3を、出力電圧VQで制御される可変容量キャパシターとしてもよい。また、CX1〜CX3のうち複数を、VQで制御される可変容量キャパシターとしてもよい。
【0216】
5.変形例
次に本実施形態の種々の変形例について説明する。図21に本実施形態の変形例の回路装置の構成例を示す。図21の回路装置は、温度センサー部10からの温度検出電圧VTDのA/D変換を行い、温度検出データDTDを出力するA/D変換部20と、温度検出データDTDに基づいて発振周波数の温度補償処理を行い、発振周波数の周波数制御データDDSを出力するデジタル信号処理部50と、発振信号生成回路140を含む。
【0217】
そしてデジタル信号処理部50は、第1の温度から第2の温度に温度が変化した場合に、第1の温度に対応する第1のデータから第2の温度に対応する第2のデータへと、k’×LSB単位で変化する周波数制御データDDSを出力する。そして発振信号生成回路140は、デジタル信号処理部50からの周波数制御データDDSと振動子XTALを用いて、周波数制御データDDSにより設定される発振周波数の発振信号SSCを生成する。
【0218】
即ち図21では、図1図19とは異なり、発振信号生成回路140にD/A変換部80が設けられていない。そして発振信号生成回路140により生成される発振信号SSCの発振周波数が、デジタル信号処理部50からの周波数制御データDDSに基づいて、直接に制御される。即ちD/A変換部を介さずに発振信号SSCの発振周波数が制御される。
【0219】
例えば図21では、発振信号生成回路140が、可変容量回路142と発振回路150を有する。この発振信号生成回路140には図1図19のD/A変換部80は設けられていない。そして図20の可変容量キャパシターCX1の代わりに、この可変容量回路142が設けられ、可変容量回路142の一端が振動子XTALの一端に接続される。
【0220】
この可変容量回路142は、デジタル信号処理部50からの周波数制御データDDSに基づいて、その容量値が制御される。例えば可変容量回路142は、複数のキャパシター(キャパシターアレイ)と、周波数制御データDDSに基づき各スイッチ素子のオン、オフが制御される複数のスイッチ素子(スイッチアレイ)を有する。これらの複数のスイッチ素子の各スイッチ素子は、複数のキャパシターの各キャパシターに電気的に接続される。そして、これらの複数のスイッチ素子がオン又はオフされることで、複数のキャパシターのうち、振動子XTALの一端に、その一端が接続されるキャパシターの個数が変化する。これにより、可変容量回路142の容量値が制御されて、振動子XTALの一端の容量値が変化する。従って、周波数制御データDDSにより、可変容量回路142の容量値が直接に制御されて、発振信号SSCの発振周波数を制御できるようになる。
【0221】
このように、k’×LSB単位で周波数制御データDDSを変化させる本実施形態の手法は、図21のように発振信号生成回路140にD/A変換部80を設けない構成においても実現可能である。そして、k’×LSB単位で周波数制御データDDSを変化させることで、図16図17Bで説明した本実施形態の手法と同様の効果を実現することが可能となり、図3Cの周波数ホッピングの発生を抑制して、周波数ホッピングを原因とする通信エラー等の発生を防止できるようになる。なお図21の構成においても、発振信号SSCをダイレクト・デジタル・シンセサイザー方式で生成することが可能である。
【0222】
6.発振器、電子機器、移動体
図22Aに、本実施形態の回路装置500を含む発振器400の構成例を示す。図22Aに示すように、発振器400は、振動子420と回路装置500を含む。振動子420と回路装置500は、発振器400のパッケージ410内に実装される。そして振動子420の端子と、回路装置500(IC)の端子(パッド)は、パッケージ410の内部配線により電気的に接続される。
【0223】
図22Bに、本実施形態の回路装置500を含む電子機器の構成例を示す。この電子機器は、本実施形態の回路装置500、水晶振動子等の振動子420、アンテナANT、通信部510、処理部520を含む。また操作部530、表示部540、記憶部550を含むことができる。振動子420と回路装置500により発振器400が構成される。なお電子機器は図22Bの構成に限定されず、これらの一部の構成要素を省略したり、他の構成要素を追加するなどの種々の変形実施が可能である。
【0224】
図22Bの電子機器としては、例えばGPS内蔵時計、生体情報測定機器(脈波計、歩数計等)又は頭部装着型表示装置等のウェアラブル機器や、スマートフォン、携帯電話機、携帯型ゲーム装置、ノートPC又はタブレットPC等の携帯情報端末(移動端末)や、コンテンツを配信するコンテンツ提供端末や、デジタルカメラ又はビデオカメラ等の映像機器や、或いは基地局又はルーター等のネットワーク関連機器などの種々の機器を想定できる。
【0225】
通信部510(無線回路)は、アンテナANTを介して外部からデータを受信したり、外部にデータを送信する処理を行う。処理部520は、電子機器の制御処理や、通信部510を介して送受信されるデータの種々のデジタル処理などを行う。この処理部520の機能は、例えばマイクロコンピューターなどのプロセッサーにより実現できる。
【0226】
操作部530は、ユーザーが入力操作を行うためのものであり、操作ボタンやタッチパネルディスプレイなどにより実現できる。表示部540は、各種の情報を表示するものであり、液晶や有機ELなどのディスプレイにより実現できる。なお操作部530としてタッチパネルディスプレイを用いる場合には、このタッチパネルディスプレイが操作部530及び表示部540の機能を兼ねることになる。記憶部550は、データを記憶するものであり、その機能はRAMやROMなどの半導体メモリーやHDD(ハードディスクドライブ)などにより実現できる。
【0227】
図22Cに、本実施形態の回路装置を含む移動体の例を示す。本実施形態の回路装置(発振器)は、例えば、車、飛行機、バイク、自転車、或いは船舶等の種々の移動体に組み込むことができる。移動体は、例えばエンジンやモーター等の駆動機構、ハンドルや舵等の操舵機構、各種の電子機器(車載機器)を備えて、地上や空や海上を移動する機器・装置である。図22Cは移動体の具体例としての自動車206を概略的に示している。自動車206には、本実施形態の回路装置と振動子を有する発振器(不図示)が組み込まれる。制御装置208は、この発振器により生成されたクロック信号により動作する。制御装置208は、例えば車体207の姿勢に応じてサスペンションの硬軟を制御したり、個々の車輪209のブレーキを制御する。例えば制御装置208により、自動車206の自動運転を実現してもよい。なお本実施形態の回路装置や発振器が組み込まれる機器は、このような制御装置208には限定されず、自動車206等の移動体に設けられる種々の機器(車載機器)に組み込むことが可能である。
【0228】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また本実施形態及び変形例の全ての組み合わせも、本発明の範囲に含まれる。また回路装置、発振器、電子機器、移動体の構成・動作や、A/D変換手法、D/A変換手法、周波数制御データの処理手法、処理部の周波数制御データの出力手法、D/A変換部の電圧の出力手法、振動子の周波数制御手法等も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0229】
ANT…アンテナ、C…キャパシター、DDS…周波数制御データ、
DTD…温度検出データ、FD…許容周波数ドリフト、FR…周波数可変範囲、
IS…電流源、S1〜S4…スイッチ素子、TDAC…期間、TP…所定期間、
Tr…トランジスター、VFS…フルスケール電圧、XTAL…振動子、
10…温度センサー部、20…A/D変換部、22…ロジック部、23…処理部、
24…レジスター部、25…アナログ部、26…D/A変換器、27…比較部、
28…温度センサー部用アンプ、50…デジタル信号処理部、80…D/A変換部、
140…発振信号生成回路、142…可変容量回路、150…発振回路、
160…バッファー回路、206…自動車、207…車体、208…制御装置、
209…車輪、400…発振器、410…パッケージ、420…振動子、
500…回路装置、510…通信部、520…処理部、530…操作部、
540…表示部、550…記憶部
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