(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784038
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】液体クロマトグラフ用検出器
(51)【国際特許分類】
G01N 21/01 20060101AFI20201102BHJP
【FI】
G01N21/01 D
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-44943(P2016-44943)
(22)【出願日】2016年3月8日
(65)【公開番号】特開2017-161318(P2017-161318A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2018年7月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長井 悠佑
【審査官】
田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−149135(JP,A)
【文献】
特開平08−261932(JP,A)
【文献】
特開2007−033295(JP,A)
【文献】
特開平02−215498(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0260693(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/61
G01N 30/00−30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送液ポンプ、試料注入部、分析カラムおよび検出器を備える液体クロマトグラフにおける前記検出器であって、
前記分析カラムから溶出した試料を含む移動相が流れるフローセルと、
前記フローセルを流れる試料を分析するために試料に照射される光を発生する光源と、
前記フローセルを流れる試料からの光の光量を検出する検出素子と、
前記光源に電力を供給する電源と、
外部からの信号に基づき、前記液体クロマトグラフによる分析又は分取の種別に応じて、前記電源が該光源に供給する電力を変化させる電力可変部と
を備え、
前記電力可変部は、
幅広い試料について高精度または高感度の分析を行う場合には、前記電源から前記光源に、第1の電力を供給させ、
限定された範囲の試料の中で一の試料と他の試料の違いを検出する場合には、前記電源から前記光源に、前記第1の電力よりも小さい第2の電力を供給させる、液体クロマトグラフ用検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸光度測定装置、蛍光測定装置、ラマン分光測定装置、示差屈折率測定装置等の、光源を用いる分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料の成分を定性、定量評価する際、吸光度測定や蛍光測定、ラマン分光測定、示差屈折率測定などの光学的手法が有効である。これらの測定を行う装置(分析装置)では、試料に光を照射し、試料から反射された光や透過した光、或いは散乱光を検出し、検出した光のスペクトルや光量を解析することにより、試料の定性、定量情報を得る。
【0003】
こうした試料の分析において、複数の分析、複数の試料の分析結果を比較する場合には、それらの分析条件を揃える(一定にしておく)ことが重要である。そのため、試料に照射する光の量も一定にしておかねばならない。その場合、測定を高精度、高感度に行うためには、測定光(反射光、透過光等の試料に関する光)による信号がノイズに起因する信号よりも十分大きいことが望まれることから、それら分析装置においては一般に、光源の発光量ができるだけ大きくなるように設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-093410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの分析装置で用いられる光源には、タングステンランプ等のジュール発光を利用したものや重水素ランプ等の放電現象を利用したものがあるが、いずれにおいても光源に電流を流すことにより発光させる。もちろん、光源に流される電流又はそれに印加される電圧(すなわち、光源に投入される電力)が大きいほど、光源が発する光量は大きくなるが、寿命は投入電力が大きいほど短くなる。例えばタングステンランプの場合、寿命は印加電圧の12乗に反比例すると言われており、定格電圧の1.05倍の電圧で駆動すると寿命は定格寿命の約半分となる。
【0006】
このように、光源は消耗部品であり、多くの分析装置において最も交換頻度の高い消耗部品となっている。従って、長時間の分析を連続的に繰り返すという使い方をする分析装置においては、光源の寿命が連続分析の数、長さを律速し、場合によっては実際の寿命よりもかなり早期に交換をせざるを得ないことがある。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、光源を使用する分析装置の光源の寿命を延ばし、分析装置の連続使用可能時間をできるだけ延長することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係る
液体クロマトグラフ用検出器は、
送液ポンプ、試料注入部、分析カラムおよび検出器を備える液体クロマトグラフにおける前記検出器であって、
前記分析カラムから溶出した試料を含む移動相が流れるフローセルと、
前記フローセルを流れる試料を分析するために試料に照射される光を発生する光源と、
前記フローセルを流れる試料からの光の光量を検出する検出素子と、
前記光源に電力を供給する電源と、
外部からの信号に基づき、
前記液体クロマトグラフによる分析又は分取の種別に応じて、前記電源が該光源に供給する電力を変化させる電力可変部と
を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る光源を用いる分析装置において、上記電力可変部は、光源に供給する電力を変化させるために、光源の種類に応じて、光源に流す電流を変化させるものであってもよいし、光源に印加する電圧を変化させるものであってもよい。もちろん、可能である場合には双方を変化させるものであってもよい。
【0010】
上記電力可変部が受ける外部からの信号としては、本分析装置の使用者がスイッチやつまみ等を操作することにより生成されるアナログ指令信号或いはデジタル指令信号であってもよいし、本分析装置がコンピュータにより制御されている場合には該コンピュータ(制御プログラム)が生成する信号であってもよい。
【0011】
電源が光源に供給する電力を変化させる場合、連続的に変化させてもよいし、段階的に(ステップ状に)変化させるようにしてもよい。例えば、幅広い試料について高精度又は高感度の分析を行う必要があるときは光源に供給可能な最大の電力を供給する一方、そのような精度や感度が必要なく、限定された範囲の試料の中で一の試料と他の試料の違いを検出できれば良いだけの場合等には、予め実験により求めておいた、そのような目的の分析に必要な最小限の電力を供給すれば良い。例えば、前者を「高感度モード」、後者を「長寿命モード」等として、使用者に分かりやすい表示としたスイッチやつまみを設けたり、コンピュータ上の制御プログラムの表示を設定することも本発明に係る分析装置の一つの具体的な実施形態として挙げることができる。
【0012】
上記光源は、ジュール発光型光源や放電型光源のいずれでも良いが、放電型光源では駆動電圧又は電流が低すぎると放電が維持できず、発光自体ができなくなってしまうため可変幅が小さいことから、タングステンランプ等のジュール発光型光源を用いることが望ましい。
【0013】
本発明に係る光源を用いる分析装置において光源としてさらに望ましいのは、LED等の半導体光源である。同じ光量を出力するタングステンランプ等のジュール発光型光源と比較すると駆動電力(電流)が小さくて済むため、電源を小さくすることができるとともに、その電力を変化させるための電力可変部(制御部)も小型化することができる。ジュール発光型光源と比較すると寿命が非常に長いことも利点である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る光源を用いる分析装置では、例えば、高精度又は高感度の分析を行う必要があるときは光源に供給可能な電力の最大値を供給する一方、そのような精度や感度が必要なく他の試料との違いを検出できれば良いだけの場合等にはそのような目的の分析に必要な最小限の電力を供給する、という、目的に則した使い分けをすることができる。そのため、そのような設定をすることができない従来の分析装置よりも光源の寿命を延ばすことができ、多くの分析装置において最も交換頻度の高い消耗部品である光源の交換頻度を下げることができる。これにより、長時間の分析を連続的に繰り返すという使い方をする場合でも、従来よりもより多くの繰り返し回数、長時間の分析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る分析装置の一実施形態である高速液体クロマトグラフ(HPLC)における、検出器に関する構成を示す概略図。
【
図2】本実施形態のHPLCの全体構成を示す概略図。
【
図3】本実施形態のHPLCで用いるフローセルを示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る分析装置の一実施形態として、カラムから溶出する試料を検出する検出器用の光源を有する高速液体クロマトグラフ(High Performance Liquid Chromatograph:HPLC)について説明する。
【0017】
図1に本実施形態のHPLC1における検出部10に関する構成の概略図を示し、
図2に本実施形態のHPLC1の全体構成を示す。HPLC1は、移動相Mが流れる流路2上に、送液ポンプ3、試料注入部4、分析カラム5及び検出部10がこの順に設けられている。送液ポンプ3は移動相Mを試料注入部4側に送液するポンプである。試料注入部4は、流路2を流れる移動相Mに試料Sを注入するものである。分析カラム5は、試料注入部4で注入された試料Sに含まれる成分毎の溶出時間の相違を利用して各成分を分離するものである。
【0018】
検出部10は、分析カラム5から溶出した試料を含む移動相Mが流れるフローセル20において該試料を検出するものであり、
図1に示すように、光源11と、レンズ12と、スリット13と、回折格子14と、フォトダイオード15を有する。光源11は、所定の波長帯内の種々の波長を含む光を発する光源であり、本実施形態ではジュール発光型光源の一種であるタングステンランプを用いている。光源11、レンズ12、スリット13及び回折格子14は、光源11からの光がレンズ12及びスリット13を通して回折格子14の格子面の全体に照射されるように配置されている。回折格子14はパルスモータ(図示せず)により回動させることができ、この回動により、所定方向に進行する光の波長が制御される。
【0019】
フローセル20には、
図3に示すように、フローセル内流路21と、入射レンズ22と、出射レンズ23を有する。フローセル内流路21は、向きが90°変化する屈曲部が2箇所設けられており、そのうちの上流側である第1屈曲部211に接するフローセル内流路21の壁に入射レンズ22が、下流側である第2屈曲部212に接するフローセル内流路21の壁に出射レンズ23が、それぞれ設けられている。入射レンズ22と出射レンズ23は、第1屈曲部211と第2屈曲部212の間のフローセル内流路21Aを挟んで対向して設けられている。フローセル20は、回折格子14で回折された光のうち前記所定方向に進行する光、すなわち回折格子14の回動により制御された所定波長の光が入射レンズ22に入射し、フローセル内流路21Aを通過して出射レンズ23から出射するように配置されている。フォトダイオード15は、出射レンズ23から出射した光が入射する位置に配置されており、フローセル内流路21Aを通過する移動相中の試料による光の吸収を受けて変化した光量を検出する。
【0020】
光源11には、該光源に電力を供給する電源16が接続されている。電源16は、外部電源である商用電源30の交流電力を脈流(直流)電力に変換するブリッジ回路161と、ブリッジ回路161から出力された脈流電力を商用電源30の交流電力の2倍の周期でON/OFFするスイッチング素子162とを有する。使用する電圧に応じて、商用電源30とブリッジ回路161の間に変圧器を設けてもよい。
【0021】
検出部10はさらに、電源16から光源11に供給される電力を設定する電力設定部17を有する。電力設定部17は、使用者が操作するスイッチやつまみ等のハードウエアであってもよいし、コンピュータを動作させるソフトウエアであってもよい。電力設定部17で使用者が設定する値は、電力であってもよいし、光源11の光量であってもよい。電力設定部17は、設定された電力又は光量に対応して、スイッチング素子162におけるONの時間とOFFの時間の比(デューティ比)を設定する。スイッチング素子162はこの電力設定部17による設定に基づいてON/OFFを行い、デューティ比に応じた電力を光源11に供給する。このスイッチング素子162が上記電力可変部に該当する。
【0022】
電源16から光源11に供給する電力は、以下の方針で使用者が設定すればよい。高精度又は高感度の分析を行いたい場合には、電力を、電源16から光源11に供給可能な最大値にする。それに対して、精度や感度をさほど高くする必要が無い場合には、目的の分析に必要な最小値の電力を光源11に供給することにより、光源11の寿命を延ばすことができる。また、精度や感度と光源11の寿命のバランスを取って、電力を最大値と最小値の中間の値に設定してもよい。この場合、最大値と最小値の間の値を複数段階設けて、それら複数の段階から使用者が選択するようにしてもよい。
【0023】
一方、HPLC1を用いて試料の分取を行う場合には、通常のHPLCにおける分析時よりも高濃度で試料Sがフローセル内流路21を通過し、光源11からの光の透過率が低下する。そのため、フォトダイオード15での光量を多くするために電力を大きくするとよい。従来、HPLCにおいて通常の分析から試料の分取に切り替える場合には、フローセルを、光源からの光が通過するフローセル内流路21Aがより短いものに付け替える操作を行っていたが、本実施形態では光源11に供給する電力の設定値を変更するだけで通常の分析から試料の分取に切り替えが可能になり、操作を簡略化することができる。
【0024】
ここまで、HPLCの検出器を例として本発明の一実施形態を説明したが、蛍光測定装置、ラマン分光測定装置、示差屈折率測定装置等の、光源を用いる分析装置にも同様に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0025】
10…検出部
11…光源
12…レンズ
13…スリット
14…回折格子
15…フォトダイオード
16…電源
161…ブリッジ回路
162…スイッチング素子
17…電力設定部
20…フローセル
21…フローセル内流路
211…第1屈曲部
212…第2屈曲部
21A…第1屈曲部と第2屈曲部の間のフローセル内流路
22…入射レンズ
23…出射レンズ
30…商用電源
1…HPLC
2…流路
3…送液ポンプ
4…試料注入部
5…分析カラム
M…移動相
S…試料