特許第6784066号(P6784066)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6784066-空気入りタイヤ 図000006
  • 特許6784066-空気入りタイヤ 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784066
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/00 20060101AFI20201102BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20201102BHJP
   B60C 11/13 20060101ALI20201102BHJP
   B60C 11/12 20060101ALI20201102BHJP
   B60C 5/00 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   B60C11/00 D
   B60C11/03 100B
   B60C11/13 B
   B60C11/13 C
   B60C11/03 Z
   B60C11/12 B
   B60C5/00 H
   B60C11/03 B
【請求項の数】6
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-114584(P2016-114584)
(22)【出願日】2016年6月8日
(65)【公開番号】特開2017-218042(P2017-218042A)
(43)【公開日】2017年12月14日
【審査請求日】2019年4月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】竹本 義明
【審査官】 岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−086344(JP,A)
【文献】 特開2015−006810(JP,A)
【文献】 特開2016−094552(JP,A)
【文献】 特開2016−044262(JP,A)
【文献】 特開2015−013974(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/104955(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00−19/12
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部に、タイヤ周方向にのびる少なくとも3本の周方向主溝と、前記周方向主溝によって区画されかつタイヤ軸方向最外側に配されるショルダ陸部を含む少なくとも4本の陸部と、前記ショルダ陸部に配されかつこのショルダ陸部を横切る向きにのびる複数のショルダ横溝とを具えた空気入りタイヤであって、
前記周方向主溝の溝深さHgは、6.3mm以下、
前記ショルダ横溝は、タイヤ軸方向内端部に溝深さが最大となる最深部を有し、この最深部の溝深さHymax は、前記溝深さHgの75〜90%、かつトレッド接地端での溝深さHyeは、前記溝深さHgの63〜85%、
トレッド接地面を、タイヤ軸方向部最外側に配される周方向主溝により、タイヤ軸方向外側のショルダ領域と、その内側のクラウン領域とに区分したとき、前記ショルダ領域のランド比Lsは、前記クラウン領域のランド比Lcよりも小であるとともに、
前記トレッド接地面を構成するトレッドゴムは、0℃におけるtanδと30℃におけるtanδ30との比tanδ/tanδ30が3.75以上であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ショルダ陸部よりもタイヤ軸方向内側の陸部には、溝巾1.5mm以上の溝がなく、1.5mm未満のサイプが配されることを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
車両装着時に車両外側となるショルダ陸部は、タイヤ周方向に隣り合うショルダ横溝間をのびるショルダサイプを具えるとともに、このショルダ陸部に隣り合う陸部は、前記ショルダサイプの延長線上をのびるサイプを具えることを特徴とする請求項1又は2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記ショルダ横溝のタイヤ軸方向内端部は、ショルダ陸部内で途切れることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記ランド比Lcは85%以上、かつ前記ランド比Lsとの差(Lc−Ls)は10%以上であり、しかもトレッド接地面全体のランド比は70%以上であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記トレッドゴムは、ゴム硬度Hsが57〜67であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低転がり抵抗性とウエットグリップ性と耐摩耗性とを高レベルでバランス化させた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、トレッド部を、周方向主溝により、4本の陸部に区画した空気入りタイヤが提案されている。このタイヤでは、4本の陸部のうちタイヤ軸方向最外側となるショルダ陸部に、タイヤ軸方向内端部がショルダ陸部内で途切れるショルダ横溝が設けられるとともに、ショルダ陸部以外の陸部に、サイプのみが設けられている。そのため高いトレッド剛性を有し、優れた操縦安定性を発揮しうる。
【0003】
又空気入りタイヤでは、操縦安定性以外にも、低燃費化の観点から低転がり抵抗性が、又安全面の観点からウエットグリップ性が、又タイヤ寿命の観点から耐摩耗性が求められている。
【0004】
ここで、低転がり抵抗性およびウエットグリップ性は、トレッドゴムのtanδ(正接損失)に関連しており、30℃付近におけるtanδが小さい程転がり抵抗が低く、0℃付近におけるtanδが大きいほどウエットグリップ性が高いという関係があることが知られている。そして下記の特許文献2には、ポリイソブチレン/p−メチルスチレン共重合体の臭素化物とゴム成分とからなるトレッド用ゴム組成物が開示されている。
【0005】
しかし、今日のタイヤ市場においては、ウェットグリップ性及び低転がり抵抗性に対してさらなる向上が求められており、又低転がり抵抗性とウエットグリップ性とのバランス、さらには耐摩耗性を加えた3者とのバランスに関して、より一層の改良が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−157600号公報
【特許文献2】特開平11−80433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、低転がり抵抗性とウエットグリップ性と耐摩耗性とを高レベルでバランス化させた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、トレッド部に、タイヤ周方向にのびる少なくとも3本の周方向主溝と、前記周方向主溝によって区画されかつタイヤ軸方向最外側に配されるショルダ陸部を含む少なくとも4本の陸部と、前記ショルダ陸部に配されかつこのショルダ陸部を横切る向きにのびる複数のショルダ横溝とを具えた空気入りタイヤであって、
前記周方向主溝の溝深さHgは、6.3mm以下、
前記ショルダ横溝は、タイヤ軸方向内端部に溝深さが最大となる最深部を有し、この最深部の溝深さHymax は、前記溝深さHgの75〜90%、かつトレッド接地端での溝深さHyeは、前記溝深さHgの63〜85%、
トレッド接地面を、タイヤ軸方向部最外側に配される周方向主溝により、タイヤ軸方向外側のショルダ領域と、その内側のクラウン領域とに区分したとき、前記ショルダ領域のランド比Lsは、前記クラウン領域のランド比Lcよりも小であるとともに、
前記トレッド接地面を構成するトレッドゴムは、0℃におけるtanδと30℃におけるtanδ30との比tanδ/tanδ30が3.75以上であることを特徴としている。
【0009】
本発明に係る空気入りタイヤでは、前記ショルダ陸部よりもタイヤ軸方向内側の陸部には、溝巾1.5mm以上の溝がなく、1.5mm未満のサイプが配されることが好ましい。
【0010】
本発明に係る空気入りタイヤでは、車両装着時に車両外側となるショルダ陸部は、タイヤ周方向に隣り合うショルダ横溝間をのびるショルダサイプを具えるとともに、このショルダ陸部に隣り合う陸部は、前記ショルダサイプの延長線上をのびるサイプを具えることが好ましい。
【0011】
本発明に係る空気入りタイヤでは、前記ショルダ横溝のタイヤ軸方向内端部は、ショルダ陸部内で途切れることが好ましい。
【0012】
本発明に係る空気入りタイヤでは、前記ランド比Lcは85%以上、かつ前記ランド比Lsとの差(Lc−Ls)は10%以上であり、しかもトレッド接地面全体のランド比は70%以上であることが好ましい。
【0013】
本発明に係る空気入りタイヤでは、前記トレッドゴムは、ゴム硬度HSが57〜67であることが好ましい。
【0014】
なお本発明において、「トレッド接地面」とは、正規リムにリム組みしかつ正規内圧を充填した状態のタイヤに、正規荷重を負荷した時に接地しうるトレッド面を意味する。又、トレッド接地面におけるタイヤ軸方向の最外の位置を、「トレッド接地端」という。
【0015】
又前記「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば標準リム、TRAであれば "Design Rim" 、或いはETRTOであれば "Measuring Rim"を意味する。 前記「正規内圧」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE"を意味するが、乗用車用タイヤの場合には180kPaとする。
前記「正規荷重」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY"である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、トレッドゴムの0℃におけるtanδを大きくし、かつ30℃におけるtanδ30を小さくすることで、その比tanδ/tanδ30を3.75以上に規制している。これにより、低転がり抵抗性とウエットグリップ性との向上が図られる。しかし、tanδが小さ過ぎると、ゴム弾性や引っ張り強度などのゴム物性を損ねる結果を招く。そのため、tanδだけで低転がり抵抗性を減じるには、限界があり、ゴム組成だけで、低転がり抵抗性とウエットグリップ性とを、それぞれ目標レベルに高めることは難しい。
【0017】
そこで本発明では、周方向主溝の溝深さを6.3mm以下と、通常のタイヤよりも浅く形成している。この周方向主溝が浅い分、トレッド厚さを減じることができ、タイヤを軽量化しうる。又同一サイズのタイヤに比して、トレッド厚さが小な分、タイヤ内腔容積を増やしてタイヤ支承能力を高めることができ、前記軽量化と相俟って、低転がり抵抗性を向上させうる。この周方向主溝による低転がり抵抗性の向上効果により、トレッドゴムにおけるtanδ30の規制をゆるめてゴム物性を確保しながら、低転がり抵抗性を高レベルに高めることが可能となる。
【0018】
又本発明では、トレッド厚さが減じることで、耐摩耗性に不利となるが、ショルダ横溝の溝深さ、及びショルダ領域とクラウン領域とのランド比Lcを適正化するとともに、tanδ30の規制をゆるめることで、ゴム物性が確保される。その結果、耐摩耗性を、従来レベル、さらにはそれ以上に引き上げることができ、低転がり抵抗性とウエットグリップ性と耐摩耗性とを高レベルでバランス化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の空気入りタイヤの一実施形態を示すトレッドパターンの展開図である。
図2】トレッド部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤ1は、トレッド部2に、タイヤ周方向にのびる少なくとも3本の周方向主溝3と、この周方向主溝3によって区画される少なくとも4本の陸部4とを具える。
【0021】
本例では、周方向主溝3として、タイヤ赤道C上をのびるクラウン周方向主溝3Cと、その両側に配されるショルダ周方向主溝3S、3Sとの3本が配される場合が示される。これにより、トレッド部2は、本例では、タイヤ軸方向最外側に配されるショルダ陸部4Sと、このショルダ陸部4S、4S間に配される2本のクラウン陸部4Cとからなる4本の陸部4に区分される。
【0022】
本例では、前記ショルダ周方向主溝3S及びクラウン周方向主溝3Cが、タイヤ周方向に直線状にのびる直線溝として形成される場合が示される。このような直線溝は、車両のふらつき等の不安定な挙動を抑制する上で好ましい。しかし直線溝以外に、ジグザグ溝(波状も含む)等を採用しても良い。
【0023】
ショルダ周方向主溝3S及びクラウン周方向主溝3Cの溝巾Wgs、Wgcについては、慣例に従って種々定めることができる。なお溝巾Wgsは、溝巾Wgcより大であるのが、トレッド接地面全体における排水性の観点から好ましい。
【0024】
本発明では、図2に示すように、周方向主溝3の溝深さHgは6.3mm以下に規制される。具体的には、ショルダ周方向主溝3S及びクラウン周方向主溝3Cの各溝深さHgs、Hgcが、6.3mm以下に規制される。本例では、溝深さHgcが例えば6.3mm、溝深さHgsが例えば6.0mmであり、Hgs<Hgcとして形成される。
【0025】
このように、前記溝深さHgを6.3mm以下と、通常のタイヤよりも浅く形成しているため、その分、トレッド厚さTを減じることができ、タイヤを軽量化しうる。又同一サイズのタイヤに比して、トレッド厚さTが小な分、タイヤ内腔1Hの容積を増やしてタイヤ支承能力を高めることができる。その分、転動時のタイヤの撓みが減じ、前記軽量化と相俟って、低転がり抵抗性を向上させうる。
【0026】
図1に示すように、本例では、各クラウン陸部4Cには、溝巾1.5mm以上の溝がなく、1.5mm未満のサイプ11が配される。
【0027】
これに対し、各ショルダ陸部4Sには、このショルダ陸部4Sを横切る向きにのびる複数のショルダ横溝5が配される。ショルダ横溝5は、溝巾が1.5mm以上であって、トレッド接地端Teの外側からタイヤ軸方向内側にのびる。又ショルダ横溝5の内端部5eは、ショルダ陸部4S内で途切れる。
【0028】
図2に示すように、ショルダ横溝5は、前記内端部5eに溝深さHyが最大となる最深部を有する。本例では、ショルダ横溝5の溝深さHyは、前記最深部からトレッド接地端Teまで漸減している。最深部の溝深さHymax は、周方向主溝3の溝深さHgの75〜90%である。又トレッド接地端Teでの溝深さHyeは、前記溝深さHgの63〜85%である。なお本例の如く周方向主溝3によって溝深さHgが相違する場合、溝深さHgとして、最も深い周方向主溝3の溝深さ(本例ではクラウン周方向主溝3Cの溝深さHgc)が採用される。
【0029】
ショルダ陸部4Sのうち、車両装着時に車両外側となるショルダ陸部4Sは、タイヤ周方向に隣り合うショルダ横溝5、5間を通り、トレッド接地端Teの外側からタイヤ軸方向内側にのびるショルダサイプ7を具える。本例のショルダサイプ7は、ショルダ横溝5と略平行にのびる主部7A、及びこの主部7Aとショルダ周方向主溝3Sとの間に配されるL字状の屈曲部7Bとを具える。前記屈曲部7Bは、主部7Aからタイヤ周方向一方側に折れ曲がる第1屈曲部分7B1と、この第1屈曲部分7B1に連なりかつタイヤ周方向に対する角度が第1屈曲部分7B1よりも大な第2屈曲部分7B2とから形成される。
【0030】
車両外側のショルダ陸部4Sに隣り合う車両外側のクラウン陸部4Cは、前記ショルダサイプ7の延長線上をのびるサイプ8を具える。本例では、サイプ8は、第2屈曲部分7B2の延長線上をのびる。
【0031】
又ショルダ陸部4Sのうち、車両装着時に車両内側となるショルダ陸部4Sは、各ショルダ横溝5の内端部5eからショルダ周方向主溝3Sまでのびるショルダサイプ9を具える。車両内側のショルダ陸部4Sに隣り合う車両内側のクラウン陸部4Cは、前記ショルダサイプ9の延長線上をのびるサイプ10を具える。なお前記サイプ8、10は、前記サイプ11に含まれる。
【0032】
又トレッド接地面Tsを、ショルダ周方向主溝3Sにより、タイヤ軸方向外側のショルダ領域Ysと、その内側のクラウン領域Ycとに区分したとき、ショルダ領域Ysのランド比Lsは、クラウン領域Ycのランド比Lcよりも小に設定される。好ましくは、前記ランド比Lcは85%以上、かつ前記ランド比Lsとの差(Lc−Ls)は10%以上であり、しかもトレッド接地面Ts全体のランド比Lは70%以上である。なおランド比は、周知の如く、トレッド部2に溝が形成されないと仮定したときの仮想接地面積に対する、溝が形成されたときの実接地面積の比を意味する。
【0033】
さらに本発明では、トレッド接地面Tsを構成するトレッドゴム2Gが次式(1)、(2)を満たすことが必要である。
tanδ/tanδ30≧3.75 −−−(1)
67≧Hs≧57 −−−(2)
【0034】
上記式(1)中のtanδは、0℃におけるトレッドゴム2Gのtanδであって、厳密には、初期歪10%、動歪5%で粘弾性測定を行った際の0℃におけるtanδを示す。又tanδ30は、30℃におけるトレッドゴム2Gのtanδであって、厳密には、初期歪10%、動歪2%で粘弾性測定を行った際の30℃におけるtanδを示す。又式(2)中のHsは、トレッドゴム2Gのゴム硬度であって、厳密には、JIS−K6253に基づきデュロメータータイプAにより測定した23℃におけるデュロメータA硬さである。
【0035】
前述した如く、tanδはウエットグリップ性の指標であり、この値が大きいほどウエットグリップ性に優れる。又tanδ30は転がり抵抗性の指標であって、この値が小さいほど転がり抵抗が低い。式(1)は、tanδを大に、かつtanδ30を小にすることで達成される。そのため、式(1)を満たすことにより、低転がり抵抗性とウエットグリップ性との高レベルでの両立が可能となる。このとき、tanδ30が小さ過ぎると、ゴム弾性や引っ張り強度などのゴム物性を損ねる結果を招く。しかし、本発明では、前述したように、周方向主溝3を浅くしたことによる低転がり抵抗性の向上効果を有するため、tanδ30をそれほど低く設定する必要がなくなり、ゴム物性を確保しながら、低転がり抵抗性を高レベルに高めることが可能となる。
【0036】
又周方向主溝3を浅くしたことで、摩耗寿命(耐摩耗性)に不利を招く。しかし、前述したように、ショルダ横溝5の溝深さHy、及びショルダ領域Ysとクラウン領域Ycとのランド比Ls、Lcが規制されることで、偏摩耗が抑えられ摩耗の均一化が図られる。さらに、上記式(2)を満たすことで、必要なゴム硬度が確保されて摩耗しにくくなる。そのため、前記摩耗寿命の不利を克服して、耐摩耗性を、従来レベル、さらにはそれ以上に引き上げることができる。即ち、低転がり抵抗性とウエットグリップ性と耐摩耗性とを高レベルでバランス化させることができる。なおtanδ30の規制緩和によるゴム物性の確保も、耐摩耗性の向上に貢献しうる。
【0037】
なおゴム硬度Hsが57を下回ると、操縦安定性と耐摩耗性が不充分となり、逆に67を超えるとウエットグリップ性が不充分となる。又比tanδ/tanδ30が3.75を下回ると、ウエットグリップ性及び低転がり抵抗性の一方又は双方が不充分となる。又前記ランド比Lcが85%を下回る場合、及びランド比の差(Lc−Ls)が10%を下回る場合、センタ摩耗の発生傾向を招く。又ランド比Lが70%を下回るとトレッド剛性が低下し、操縦安定性及び耐摩耗性に不利を招く。
【0038】
低転がり抵抗性とウエットグリップ性との高レベルでの両立のためには、tanδ、tanδ30は、次式(3)、(4)を満たすことが好ましい。
tanδ≧0.60 −−−(3)
tanδ30≦0.16 −−−(4)
tanδが0.60を下回るとウエットグリップ性が不充分となり、tanδ30が0.16を超えると低転がり抵抗性が不充分となる。なおtanδ30の下限は、ゴム物性確保の観点から0.12より大が好ましい。
【0039】
又トレッドゴム2Gは、下記式(5)〜(8)を満たすことがさらに好ましい。
E*30/tanδ30≧21.88 −−−(5)
3.5≦E*30≦6.0 −−−(6)
EB≧600 −−−(7)
TB×EB≧12000 −−−(8)
上記式(5)、(6)中のE*30は、初期歪10%、動歪2%で粘弾性測定を行った際の30℃における動的弾性率(単位:MPa)を表す。上記式(7)、(8)中のEBは、JIS K6251に準拠して測定した引張伸び(単位:%)を表す。上記式(8)中のTBは、JIS K6251に準拠して測定した引張破断強度(単位:MPa)を表す。
【0040】
上記式(5)を満たすことにより、操縦安定性と低転がり抵抗性とを良好なものとすることができる。E*30/tanδ30が21.88MPaを下回る場合、E*30が小となって操縦安定性を低下させるか、或いはtanδ30が大となって低転がり抵抗性を低下させる。
【0041】
上記式(6)を満たすことで、操縦安定性とウェットグリップ性とを良好なものとすることができる。E*30が3.5MPaを下回ると操縦安定性を低下させ、逆に6.0MPaを超えると、ウェットグリップ性を低下させる。
【0042】
上記式(7)を満たすことで、優れた耐疲労特性が得られ、耐久性を確保しうる。
【0043】
上記式(8)を満たすことで、優れた耐破壊強度が得られる。
【0044】
なお、tanδは、主にゴム成分の種類や配合量を変更することにより調整することができる。tanδ30は、主に補強剤(充填剤)の種類や配合量を変更することにより調整することができる。E*30は、主に補強剤や軟化剤の配合量により調整することができる。EBは、主に補強剤や軟化剤の配合量により調整することができる。TBは、主に補強剤、ゴム成分の種類や配合量により調整することができる。又Hsは、主に補強剤(充填剤)の種類や配合量を変更することにより調整することができる。
【0045】
次に、前記トレッドゴム2Gとして好適なゴム組成物について説明する。トレッドゴム2G(ゴム組成物)のゴム成分として、シリカとの相互作用を有する変性ジエン系ゴムを含むことが好ましい。該変性ジエン系ゴムとしては、例えば、ジエン系ゴムの少なくとも一方の末端を、シリカと相互作用する官能基を有する化合物(変性剤)で変性された末端変性ジエン系ゴムや、主鎖に上記官能基を有する主鎖変性ジエン系ゴムや、主鎖及び末端に上記官能基を有する主鎖末端変性ジエン系ゴム(例えば、主鎖に上記官能基を有し、少なくとも一方の末端を上記変性剤で変性された主鎖末端変性ジエン系ゴム)や、分子中に2個以上のエポキシ基を有する多官能化合物により変性(カップリング)され、水酸基やエポキシ基が導入された末端変性ジエン系ゴム等が挙げられる。このような変性ジエン系ゴムを用いることによって、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性、耐摩耗性が良好なものとなる。なお、変性ジエン系ゴムは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
上記官能基としては、例えば、アミノ基、アミド基、シリル基、アルコキシシリル基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、メルカプト基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基、水酸基、オキシ基、エポキシ基等が挙げられる。なお、これらの官能基は、置換基を有していてもよい。なかでも、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性の向上効果が特に高いという理由から、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜6のアルコキシ基)、アミノ基(好ましくはアミノ基が有する水素原子が炭素数1〜6のアルキル基に置換されたアミノ基)、アルコキシシリル基(好ましくは炭素数1〜6のアルコキシシリル基)、水酸基、エポキシ基が好ましい。
【0047】
上記官能基が導入されるジエン系ゴム(上記変性ジエン系ゴムの骨格を構成するポリマー)としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等が挙げられる。なかでも、IR、BR、SBRが好ましく、BR、SBRがより好ましい。特に、低転がり抵抗性とウェットグリップ性とがバランス良く得られるという理由から、SBRが好ましい。
【0048】
上記IRとしては、特に限定されず、例えば、JSR(株)製のIR2200、日本ゼオン(株)のIR2200など、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
【0049】
上記BRとしては、特に限定されず、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR130B、BR150B等の高シス含有量(例えば、シス含量90質量%以上)のBR、宇部興産(株)製のVCR412、VCR617等のシンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR等を使用できる。
【0050】
上記SBRとしては、特に限定されず、例えば、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S−SBR)等も使用できる。
【0051】
上記変性ジエン系ゴムとして変性SBRを用いる場合、そのような変性SBRとしては、特開2010−111753号公報に記載されている下記化学式(I)で表される化合物で変性されたSBRを好適に使用できる。具体的には、例えば、旭化成ケミカルズ(株)製のE15等を使用することができる。
【0052】
【化1】
【0053】
上記化学式(I)中、R11、R12及びR13は、同一又は異なって、アルキル基、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基)、シリルオキシ基、アセタール基、カルボキシル基(−COOH)、メルカプト基(−SH)又はこれらの誘導体を表す。R14及びR15は、同一又は異なって、水素原子又はアルキル基(好ましくは炭素数1〜4のアルキル基)を表す。nは整数(好ましくは1〜5、より好ましくは2〜4、更に好ましくは3)を表す。
【0054】
11、R12及びR13としては、少なくとも1つが炭素数1〜4のアルコキシ基であることが好ましく、R14及びR15としては、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましい。これにより、優れた加工性、耐摩耗性が得られる。
【0055】
上記化学式(I)で表される化合物の具体例としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、2−ジメチルアミノエチルトリメトキシシラン、3−ジエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−ジメチルアミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0056】
上記化学式(I)で表される化合物(変性剤)による変性SBRの変性方法としては、特公平6−53768号公報、特公平6−57767号公報、特表2003−514078号公報などに記載されている方法など、従来公知の手法を使用できる。例えば、スチレンブタジエンゴムと変性剤とを接触させることで変性でき、具体的には、アニオン重合によるスチレンブタジエンゴムの調製後、該ゴム溶液中に変性剤を所定量添加し、スチレンブタジエンゴムの重合末端(活性末端)と変性剤とを反応させる方法などが挙げられる。
【0057】
上記変性SBRのビニル含量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上である。ビニル含量が10質量%未満であると、充分なウェットグリップ性が得られないおそれがある。該ビニル含量は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。ビニル含量が90質量%を超えると、強度が悪化するおそれがある。なお、本明細書において、SBRのビニル含量(1,2−結合ブタジエン単位量)は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定できる。
【0058】
上記変性SBRのスチレン含量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。スチレン含量が5質量%未満であると、充分なウェットグリップ性が得られないおそれがある。該スチレン含量は、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。スチレン含量が70質量%を超えると、加工性が悪化するおそれがある。なお、本明細書において、SBRのスチレン含量は、H1−NMR測定により算出される。
【0059】
上記変性SBRはまた、ガラス転移温度(Tg)が−45℃以上であることが好ましく、−40℃以上であることがより好ましく、−35℃以上であることが更に好ましい。該ガラス転移温度は、10℃以下であることが好ましく、5℃以下であることがより好ましく、0℃以下であることが更に好ましい。なお、本明細書において、SBRのガラス転移温度は、JISK7121に従い、昇温速度10℃/分の条件で示差走査熱量測定(DSC)を行って測定される値である。
【0060】
ゴム成分100質量%中の上記変性ジエン系ゴムの含有量は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、特に好ましくは70質量%以上である。40質量%未満であると、ウェットグリップ性が低下するおそれがある。該変性ジエン系ゴムの含有量は、100質量%であってもよいが、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは85質量%以下である。95質量%を超えると、低転がり抵抗性、耐摩耗性が低下するおそれがある。
【0061】
上記変性ジエン系ゴム以外に、トレッドゴム2Gで使用できるゴム成分としては、特に限定されず、上記変性ジエン系ゴム以外の、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)等のジエン系ゴムが挙げられる。これらジエン系ゴムは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性、耐摩耗性がバランスよく得られるという理由から、BR、NR、SBRが好ましく、BR、NRがより好ましく、BRが特に好ましい。
【0062】
BRとしては、特に限定されず、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR130B、BR150B等の高シス含有量のBR、宇部興産(株)製のVCR412、VCR617等のシンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR等を使用できる。なかでも、低転がり抵抗性、耐摩耗性が良好であるという理由から、BRのシス含量は90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。なお、BRのシス含量は赤外吸収スペクトル分析法により測定できる。
【0063】
ゴム成分としてBRを配合する場合の、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上である。該含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。該含有量を上記範囲内とすることにより、耐摩耗性を飛躍的に改善できる。
【0064】
NRとしては、特に限定されず、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(HPNR)等、タイヤ工業において一般的なものも使用できる。
【0065】
ゴム成分としてNRを配合する場合の、ゴム成分100質量%中のNRの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。該含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。該含有量を上記範囲内とすることにより、耐摩耗性を飛躍的に改善できる。
【0066】
SBRとしては、特に限定されず、例えば、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S−SBR)等も使用できる。
【0067】
ゴム成分としてSBRを配合する場合の、ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。該含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。該含有量を上記範囲内とすることにより、耐摩耗性を飛躍的に改善できる。
【0068】
前記ゴム組成物は、少なくとも1種のシリカを配合してなるものであることが好ましい。上記変性ジエン系ゴムとともにシリカを配合することにより、優れた低転がり抵抗性、ゴム強度(耐疲労特性、耐破壊強度)を得ることができる。シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)等が挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0069】
シリカの窒素吸着比表面積(NSA)は、40m/g以上が好ましく、50m/g以上がより好ましい。40m/g未満では、加硫後の破壊強度が低下する傾向がある。また、シリカのNSAは、250m/g以下が好ましく、200m/g以下がより好ましい。250m/gを超えると、低転がり抵抗性、ゴムの加工性が低下する傾向がある。なお、シリカの窒素吸着比表面積は、ASTMD3037−93に準じてBET法で測定される値である。
【0070】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは20質量部以上、より好ましくは25質量部以上、更に好ましくは45質量部以上である。20質量部未満であると、シリカ配合による充分な効果が得られない傾向がある。該含有量は、好ましくは150質量部以下、より好ましくは120質量部以下、更に好ましくは100質量部以下である。150質量部を超えると、シリカのゴムへの分散が困難になり、ゴムの加工性が悪化する傾向がある。
【0071】
前記ゴム組成物は、シリカを含む場合、シリカとともにシランカップリング剤を含むことが好ましい。上記シランカップリング剤としては、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができ、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリメトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィドなどのスルフィド系、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシランなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランなどのグリシドキシ系、3−ニトロプロピルトリメトキシシラン、3−ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、2−クロロエチルトリメトキシシラン、2−クロロエチルトリエトキシシランなどのクロロ系などが挙げられる。商品名としてはSi69、Si75、Si363(Degussa社製)やNXT、NXT−LV、NXTULV、NXT−Z(モメンティブ社製)などがある。なかでも、良好な低転がり抵抗性が得られるという理由から、メルカプト系シランカップリング剤が好ましい。これらシランカップリング剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
前記ゴム組成物にシランカップリング剤を配合する場合の、シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1.5質量部以上、更に好ましくは2.5質量部以上、特に好ましくは5質量部以上である。0.5質量部未満であると、シリカを良好に分散させることが難しくなるおそれがある。該含有量は、好ましくは25質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは15質量部以下である。25質量部を超えるシランカップリング剤を配合しても、シリカの分散を向上させる効果が得られず、コストが不必要に増大する傾向がある。また、スコーチタイムが短くなり、混練りや押し出しでの加工性が低下する傾向がある。
【0073】
前記ゴム組成物には、シリカに加えて、炭酸カルシウム、タルク、アルミナ、クレー、水酸化アルミニウム、マイカ等の充填剤を配合してもよい。なかでも、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性を高いレベルで両立できる点で、水酸化アルミニウムを配合することが好ましい。すなわち、本発明においては、シリカと水酸化アルミニウムとを併用することが好ましい。これにより、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性をバランス良く改善しつつ、耐摩耗性、操縦安定性、ゴム強度(耐疲労特性、耐破壊強度)も向上できる。なお、本明細書において、水酸化アルミニウムとはAl(OH)又はAl・3HOを意味する。これら充填剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0074】
水酸化アルミニウムの平均粒子径は、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下、更に好ましくは3μm以下である。10μmを超えると、良好なウェットグリップ性が得られないおそれがある。該平均粒子径は、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上である。0.05μm未満であると、分散が困難になり、ウェットグリップ性が低下するおそれがある。
【0075】
なお、水酸化アルミニウムの平均粒子径は、透過型又は走査型電子顕微鏡を用いて測定する。平均粒子径は長径を意味し、該長径とは、投影面に対する水酸化アルミニウム粉末の方向を種々変化させながら水酸化アルミニウム粉末を投影面に投影したときの最長の長さである。
【0076】
前記ゴム組成物に水酸化アルミニウムを配合する場合の、水酸化アルミニウムの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上である。1質量部未満では、ウェットグリップ性の改善効果が小さいおそれがある。また、水酸化アルミニウムの含有量は、好ましくは75質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは30質量部以下、特に好ましくは20質量部以下である。75質量部を超えると、分散不良が発生し、耐摩耗性が悪化するおそれがある。
【0077】
前記ゴム組成物に水酸化アルミニウムを配合する場合の、水酸化アルミニウムとシリカとの質量比(水酸化アルミニウム(質量部)/シリカ(質量部))は、0.3未満であることが好ましく、0.28以下がより好ましく、0.25以下が更に好ましい。水酸化アルミニウムとシリカとの質量比がこのような範囲であることにより、低転がり抵抗性、耐摩耗性を特にバランスよく改善できる。該水酸化アルミニウムとシリカとの質量比(水酸化アルミニウム(質量部)/シリカ(質量部))の下限は、特に制限されないが、0.01以上が好ましく、0.10以上がより好ましく、0.15以上が更に好ましい。
【0078】
前記ゴム組成物には、カーボンブラックを配合してもよい。これにより、ゴム強度を向上することができる。使用できるカーボンブラックとしては、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFなどが挙げられるが、特に限定されない。これらカーボンブラックは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは10m/g以上、より好ましくは20m/g以上、更に好ましくは70m/g以上である。また該NSAは、好ましくは200m/g以下、より好ましくは150m/g以下、更に好ましくは140m/g以下である。10m/g未満であると、充分な補強効果が得られないおそれがあり、200m/gを超えると、低転がり抵抗性が低下する傾向がある。なお、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JISK6217のA法によって求められる。
【0080】
前記ゴム組成物にカーボンブラックを配合する場合の、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましい。また、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましい。カーボンブラックの配合量を上記範囲とすることにより、耐候性、帯電防止、ゴム強度を向上させることができる。1質量部未満であると、充分な補強性が得られない傾向がある。また、20質量部を超えると、低転がり抵抗性に劣るおそれがある。
【0081】
前記ゴム組成物には、上記成分以外にも、タイヤ工業において一般的に使用される配合剤、例えば、オイルなどの軟化剤、芳香族系石油樹脂、ワックス、各種老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、加工助剤、硫黄などの加硫剤、加硫促進剤などを適宜配合してもよい。
【0082】
前記ゴム組成物に使用できる軟化剤としては、特に限定されないが、例えば、アロマチック系鉱物油(粘度比重恒数(V.G.C.値)0.900〜1.049)、ナフテン系鉱物油(V.G.C.値0.850〜0.899)、パラフィン系鉱物油(V.G.C.値0.790〜0.849)などのオイルが挙げられる。オイルの多環芳香族含有量は、好ましくは3質量%未満であり、より好ましくは1質量%未満である。該多環芳香族含有量は、英国石油学会346/92法に従って測定される。また、オイルの芳香族化合物含有量(CA)は、好ましくは20質量%以上である。また、軟化剤として、液状ポリマー(液状ジエン系重合体)、液状樹脂、植物オイルやエステル系可塑剤などを用いることもできる。これら軟化剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0083】
前記ゴム組成物に軟化剤を配合する場合の、軟化剤の含有量は、本発明の効果がより好適に得られるという理由から、ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、10質量部以上が更に好ましい。また、該含有量は、ゴム成分100質量部に対して、40質量部以下が好ましく、35質量部以下がより好ましく、30質量部以下が更に好ましい。
【0084】
前記ゴム組成物には、芳香族系石油樹脂を配合することが好ましい。芳香族系石油樹脂としては、フェノール系樹脂、クマロンインデン樹脂、スチレン樹脂、ロジン樹脂、DCPD樹脂等が挙げられる。これら芳香族系石油樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、スチレン樹脂が好ましく、α−メチルスチレン及び/又はスチレンを重合して得られる芳香族ビニル重合体がより好ましい。
【0085】
上記芳香族ビニル重合体では、芳香族ビニル単量体(単位)として、スチレン、α−メチルスチレンが使用され、それぞれの単量体の単独重合体、両単量体の共重合体のいずれでもよい。上記芳香族ビニル重合体としては、経済的で、加工しやすく、ウェットグリップ性に優れていることから、α−メチルスチレンの単独重合体又はα−メチルスチレンとスチレンとの共重合体が好ましい。
【0086】
芳香族系石油樹脂の軟化点は、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上である。70℃未満であると、ウェットグリップ性が悪化する傾向がある。また、該軟化点は、好ましくは140℃以下、より好ましくは120℃以下、更に好ましくは100℃以下である。140℃を超えると、耐摩耗性、ウェットグリップ性が悪化する傾向がある。なお、芳香族系石油樹脂の軟化点は、JISK6220−1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0087】
芳香族系石油樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは500以上、より好ましくは800以上である。500未満では、ウェットグリップ性の充分な改善効果が得られにくい傾向がある。また、芳香族系石油樹脂の重量平均分子量は、好ましくは3000以下、より好ましくは2000以下である。3000を超えると、耐摩耗性が悪化する傾向がある。なお、芳香族系石油樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製のGPC−8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGELSUPERMALTPORE HZ−M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求められる。
【0088】
前記ゴム組成物に芳香族系石油樹脂を配合する場合の、芳香族系石油樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは5質量部以上、更に好ましくは7質量部以上である。2質量部未満では、ウェットグリップ性の改善効果が充分に得られないおそれがある。また、該含有量は、好ましくは25質量部以下、より好ましくは20質量部以下である。25質量部を超えると、充分なウェットグリップ性が得られないおそれがある。また、温度依存性が増大し、温度変化に対する性変化が大きくなり、例えば、熱ダレ性が低下する傾向がある。
【0089】
前記ゴム組成物に使用可能な老化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、ナフチルアミン系、キノリン系、ジフェニルアミン系、p−フェニレンジアミン系、ヒドロキノン誘導体、フェノール系(モノフェノール系、ビスフェノール系、トリスフェノール系、ポリフェノール系)、チオビスフェノール系、ベンゾイミダゾール系、チオウレア系、亜リン酸系、有機チオ酸系老化防止剤などが挙げられる。
【0090】
ナフチルアミン系老化防止剤としては、フェニル−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン、アルドール−α−トリメチル1,2−ナフチルアミンなどが挙げられる。
【0091】
キノリン系老化防止剤としては、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体、6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンなどが挙げられる。
【0092】
ジフェニルアミン系老化防止剤としては、p−イソプロポキシジフェニルアミン、p−(p−トルエンスルホニルアミド)−ジフェニルアミン、N,N−ジフェニルエチレンジアミン、オクチル化ジフェニルアミンなどが挙げられる。
【0093】
p−フェニレンジアミン系老化防止剤としては、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N−シクロヘキシル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(1−メチルヘプチル)−p−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(1,4−ジメチルペンチル)−p−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(1−エチル−3−メチルペンチル)−p−フェニレンジアミン、N−4−メチル−2−ペンチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジアリール−p−フェニレンジアミン、ヒンダードジアリール−p−フェニレンジアミン、フェニルヘキシル−p−フェニレンジアミン、フェニルオクチル−p−フェニレンジアミンなどが挙げられる。
【0094】
ヒドロキノン誘導体老化防止剤としては、2,5−ジ−(tert−アミル)ヒドロキノン、2,5−ジ−tert−ブチルヒドロキノンなどが挙げられる。
【0095】
フェノール系老化防止剤に関し、モノフェノール系老化防止剤としては、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、1−オキシ−3−メチル−4−イソプロピルベンゼン、ブチルヒドロキシアニソール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、n−オクタデシル−3−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)プロピオネート、スチレン化フェノールなどが挙げられる。ビスフェノール系、トリスフェノール系、ポリフェノール系老化防止剤としては、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデン−ビス−(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、1,1’−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−シクロヘキサン、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが挙げられる。
【0096】
チオビスフェノール系老化防止剤としては、4,4’−チオビス−(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、2,2’−チオビス−(6−tert−ブチル−4−メチルフェノール)などが挙げられる。ベンゾイミダゾール系老化防止剤としては、2−メルカプトメチルベンゾイミダゾールなどが挙げられる。チオウレア系老化防止剤としては、トリブチルチオウレアなどが挙げられる。亜リン酸系老化防止剤としては、トリス(ノニルフェニル)ホスファイトなどが挙げられる。有機チオ酸系老化防止剤としては、チオジプロピオン酸ジラウリルなどが挙げられる。これら老化防止剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0097】
なかでも、キノリン系老化防止剤とp−フェニレンジアミン系老化防止剤とを併用することが好ましい。また、前記ゴム組成物に老化防止剤を配合する場合の、老化防止剤の含有量(2種以上の老化防止剤を配合する場合にはそれらの合計含有量)は、ゴム成分100質量部に対して、1〜10質量部であることが好ましく、3〜7質量部であることがより好ましい。
【0098】
前記ゴム組成物は、酸化亜鉛を含むことが好ましい。これにより、加硫がスムースになり、剛性と物性の等方性が得られる。酸化亜鉛としては特に限定されず、ゴム工業で従来から使用される酸化亜鉛(東邦亜鉛(株)製の銀嶺R、三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛など)や、平均粒子径が200nm以下の微粒子酸化亜鉛(ハクスイテック(株)製のジンコックスーパーF−2など)などが挙げられる。これら酸化亜鉛は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0099】
前記ゴム組成物に酸化亜鉛を配合する場合の、酸化亜鉛の配合量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1.0質量部以上、より好ましくは1.5質量部以上である。1.0質量部未満では、加硫戻りにより、充分な硬度(Hs)が得られないおそれがある。該配合量は、好ましくは3.7質量部以下、より好ましくは3.0質量部以下である。3.7質量部を超えると、破断強度が低下しやすいおそれがある。
【0100】
上記加硫剤としては、特に限定されないが、硫黄、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物等を好適に使用でき、硫黄が好ましい。これら加硫剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0101】
上記加硫剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上である。該加硫剤の含有量は、好ましくは7質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。上記範囲内に調整することで、本発明の効果がより好適に得られる。
【0102】
上記加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド−アミン系、アルデヒド−アンモニア系、イミダゾリン系、キサンテート系加硫促進剤などが挙げられる。これら加硫促進剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、本発明に効果がより好適に得られるという理由から、スルフェンアミド系、グアニジン系加硫促進剤が好ましく、スルフェンアミド系加硫促進剤とグアニジン系加硫促進剤の併用がより好ましい。
【0103】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)等が挙げられる。
【0104】
グアニジン系加硫促進剤としては、例えば、ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等が挙げられる。
【0105】
上記加硫促進剤の含有量(2種以上の加硫促進剤を配合する場合にはそれらの合計含有量)は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上である。該加硫促進剤の含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下、更に好ましくは6質量部以下である。
【0106】
本発明の空気入りタイヤは、乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ、競技用タイヤ等として好適に用いられ、特に乗用車用タイヤとして好適に用いられる。
【0107】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0108】
図1のトレッドパターンを基本パターンとした空気入りタイヤ(195/65R15)を表1の仕様に基づき試作した。そして各試作タイヤに対して、低転がり抵抗性、ウエットグリップ性、操縦安定性、及び耐摩耗性をテストし、その結果を表1に記載した。
【0109】
共通仕様は以下の通りである。
・トレッド接地巾=142mm
・クラウン周方向主溝
溝巾Wgc=8.8mm
・ショルダ周方向主溝
溝巾Wgs=10.4mm
【0110】
トレッドゴムに使用したゴムA〜Fの組成を表2に記載した。表2に記載の各種薬品は、以下の通りである。
・SBR1:住友化学(株)製の変性SBR(変性S−SBR(化学式(I)で表される化合物(R11=メトキシ基、R12=メトキシ基、R13=メトキシ基、R14=エチル基、R15=エチル基、n=3)により末端が変性されたS−SBR、スチレン含量:25質量%、ビニル含量:57質量%、Tg:−25℃))
・SBR2:日本ゼオン(株)製Nipol 1502(非変性SBR、スチレン含量:24.5質量%、ビニル含量:15.1質量%、Tg:−52℃)
・BR:宇部興産(株)製ウベポールBR150B(シス含量:96質量%)
・シリカ:エボニックデグッサ社製ウルトラシルVN3(NSA:175m/g)
・カーボンブラック:三菱化学(株)製ダイアブラックN220(ISAF、NSA:114m/g)
・水酸化アルミニウム:Nabaltec製Apyral200SM(平均粒子径:0.6μm)
・シランカップリング剤:モメンティブ社製NXT(3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシラン)
・オイル:(株)ジャパンエナジー製X−140
・レジン:アリゾナケミカル社製SYLVARES SA85(α−メチルスチレンとスチレンとの共重合体(芳香族ビニル重合体)、軟化点:85℃、Mw:1000)
・ワックス:大内新興化学工業(株)製サンノックN
・老化防止剤1:大内新興化学工業(株)製ノクラック6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
・老化防止剤2:大内新興化学工業(株)製ノクラック224(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体)
・ステアリン酸:日油(株)製ステアリン酸「椿」
・酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製亜鉛華2種
・硫黄:鶴見化学工業(株)製粉末硫黄
・加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製ノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
・加硫促進剤2:住友化学(株)製ソクシノールD(ジフェニルグアニジン)
【0111】
(1)低転がり抵抗性;
転がり抵抗試験機を用い、試験用タイヤを、リム(15×6JJ)、内圧(230kPa)、荷重(3.43kN)、速度(80km/h)で走行させたときの転がり抵抗を測定し、低転がり抵抗性を指数で表示した。指数が大きいほど低転がり抵抗性に優れている。なお指数は、以下の式で示される。
低転がり抵抗性=(比較例1のタイヤの低転がり抵抗)/(比較例1以外のタイヤの低転がり抵抗)×100
【0112】
(2)ウェットグリップ性;
各試験用タイヤを、リム(15×6JJ)、内圧(230kPa)の条件にて、車輌(国産FF車、排気量:2000cc)の全輪に装着して、湿潤アスファルト路面にて速度100km/hからの制動距離を測定するとともに、ウェットグリップ性を指数で表示した。指数が大きいほどウェットグリップ性に優れている。なお指数は、以下の式で示される。
ウェットグリップ性=(比較例1のタイヤの制動距離)/(比較例1以外のタイヤの制動距離)×100
【0113】
(3)操縦安定性;
各試験用タイヤを、リム(15×6JJ)、内圧(230kPa)の条件にて、車輌(国産FF車、排気量:2000cc)の全輪に装着し、テストコースを実車走行し、蛇行運転をした際のドライバーの官能評価により操縦安定性を評価した。結果は、比較例1の操縦安定性を100とする指数で示す。指数が大きいほど操縦安定性に優れている。
【0114】
(3)耐摩耗性;
各試験用タイヤを、リム(15×6JJ)、内圧(230kPa)の条件にて、車輌(国産FF車、排気量:2000cc)の全輪に装着して実車走行させ、35,000km走行後の周方向主溝の溝深さから摩耗量を測定するとともに、耐摩耗性を指数で表示した。指数が大きいほど耐摩耗性に優れている。なお指数は、以下の式で示される。
耐摩耗性=(比較例1のタイヤの摩耗量)/(比較例1以外のタイヤの摩耗量)×100
【0115】
【表1】
【0116】
【表2】
【0117】
表1に示されるように、実施例のタイヤは、低転がり抵抗性とウエットグリップ性と耐摩耗性とがバランス良く改善されているのが確認できる。
【符号の説明】
【0118】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
2G トレッドゴム
3 周方向主溝
3S ショルダ周方向主溝
4 陸部
4S ショルダ陸部
5 ショルダ横溝
7 ショルダサイプ
8、10,11 サイプ
Te トレッド接地端
Ts トレッド接地面
Yc クラウン領域
Ys ショルダ領域
図1
図2