特許第6784097号(P6784097)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784097
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】転写ベルト及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/16 20060101AFI20201102BHJP
【FI】
   G03G15/16
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-165155(P2016-165155)
(22)【出願日】2016年8月25日
(65)【公開番号】特開2018-31928(P2018-31928A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2019年6月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士ゼロックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 英樹
(72)【発明者】
【氏名】大森 健司
(72)【発明者】
【氏名】福田 茂
【審査官】 飯野 修司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−191277(JP,A)
【文献】 特開2005−082327(JP,A)
【文献】 特開2009−063901(JP,A)
【文献】 特開2006−085042(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0300604(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト表面に軸方向に沿って形成された複数の第1凸部と、前記ベルト表面に周方向に沿って形成された複数の第2凸部と、で囲まれた格子部を有し、
前記格子部の底部からの前記第1凸部の高さが50nm以上200nm以下とされると共に、前記格子部の底部からの前記第2凸部の高さが、前記第1凸部の高さよりも高く、
さらに前記ベルト表面の周方向に表面粗さを測定したときの二乗平均平方根傾斜をZΔqとしたとき、ZΔq≦0.33である転写ベルト。
【請求項2】
ベルト表面の周方向に表面粗さを測定したときの十点平均粗さRzDが、100nm以上400nm以下であり、
前記RzDが、前記ベルト表面の軸方向に表面粗さを測定したときの十点平均粗さRzHと比較して、前記RzHより小さく、
さらに前記ベルト表面の周方向に表面粗さを測定したときの二乗平均平方根傾斜をZΔqとしたとき、ZΔq≦0.33である転写ベルト。
【請求項3】
平均粒径が50nm以上200nm以下の粉体潤滑剤を含有した粉体現像剤によって、表面に現像剤像が形成される像保持体と、
前記像保持体から前記現像剤像が転写される請求項1又は請求項2に記載の転写ベルトと、
前記転写ベルトの表面の前記現像剤像を被転写体に転写する転写装置と、
前記転写装置により前記現像剤像が転写された前記転写ベルトをクリーニングするクリーニングブレードと、
を有する画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写ベルト及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、基材層と、該基材層の上の弾性層と、該弾性層の上の表層の少なくとも3層からなるベルトにおいて、表層の周方向に平行に連なる微細溝を有する構成が開示されている。このベルトでは、ベルト表面の軸方向走査におけるベルト表面十点平均粗さ(Rz)を0.7〜2.5μmとすることで、紙片やタルクなどを優先的に微細溝に入り込ませるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−068733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
転がり性のよい粉体潤滑剤が含まれる粉体現像剤では、粉体潤滑剤が転写ベルトとクリーニングブレードとの間に入り、粉体潤滑剤がクリーニングブレードをすり抜けることで、転写ベルトとクリーニングブレードとの摩擦力が低下する場合がある。これにより、クリーニング性能が低下する場合がある。
【0005】
本発明は、ベルト表面の周方向の第2凸部の高さが、ベルト表面の軸方向の第1凸部の高さ以下である構成と比較して、転写ベルトのクリーニング時に、クリーニング性能が低下することを抑制する転写ベルトを得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1態様に係る転写ベルトは、ベルト表面に軸方向に沿って形成された複数の第1凸部と、前記ベルト表面に周方向に沿って形成された複数の第2凸部と、で囲まれた格子部を有し、前記格子部の底部からの前記第1凸部の高さが50nm以上200nm以下とされると共に、前記格子部の底部からの前記第2凸部の高さが、前記第1凸部の高さよりも高い。
【0007】
第2態様に係る転写ベルトは、ベルト表面の周方向に表面粗さを測定したときの十点平均粗さRzDが、100nm以上400nm以下であり、前記RzDが、前記ベルト表面の軸方向に表面粗さを測定したときの十点平均粗さRzHと比較して、前記RzHより小さい。
【0008】
第3態様に係る転写ベルトは、第1態様又は第2態様に記載の転写ベルトにおいて、前記ベルト表面の周方向に表面粗さを測定したときの二乗平均平方根傾斜をZΔqとしたとき、ZΔq≦0.33である。
【0009】
第4態様に係る画像形成装置は、平均粒径が50nm以上200nm以下の粉体潤滑剤を含有した粉体現像剤によって、表面に現像剤像が形成される像保持体と、前記像保持体から前記現像剤像が転写される請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の転写ベルトと、前記転写ベルトの表面の前記現像剤像を被転写体に転写する転写装置と、前記転写装置により前記現像剤像が転写された前記転写ベルトをクリーニングするクリーニングブレードと、を有する。
【発明の効果】
【0010】
第1態様に係る転写ベルトによれば、ベルト表面の周方向の第2凸部の高さが、ベルト表面の軸方向の第1凸部の高さ以下である構成と比較して、転写ベルトのクリーニング時に、クリーニング性能が低下することが抑制される。
【0011】
第2態様に係る転写ベルトによれば、RzDがRzH以上である構成と比較して、転写ベルトのクリーニング時に、クリーニング性能が低下することが抑制される。
【0012】
第3態様に係る転写ベルトによれば、ZΔqが、0.33より大きい構成と比較して、転写ベルトのクリーニング時に、クリーニング性能が低下することが抑制される。
【0013】
第4態様に係る画像形成装置によれば、第2凸部の高さが第1凸部の高さよりも高い転写ベルトを有しない構成と比較して、クリーニングブレードが転写ベルトに接触したときに、クリーニング性能が低下することが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る画像形成装置の一例を示す概略構成図である。
図2図1に示す画像形成装置に用いられる第1実施形態の中間転写ベルトの表面を拡大した状態で示す斜視図である。
図3図2に示す中間転写ベルトの表面を示す断面図である。
図4図2に示す中間転写ベルトの表面の周方向に表面粗さを測定したときの二乗平均平方根傾斜を説明する図である。
図5図2に示す中間転写ベルトの表面をクリーニングブレードで清掃する状態を示す斜視図である。
図6】比較例の転写ベルトの表面を拡大した状態で示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の画像形成装置の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲がある場合は、数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0016】
<画像形成装置の全体構成>
図1は、一実施形態に係る転写ベルトを備えた画像形成装置の構成の一例を示す概略構成図である。図1に示されるように、画像形成装置40は、画像データに基づくイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色の画像を出力する電子写真方式の第1乃至第4の画像形成ユニット10Y、10M、10C、10Kを備えている。これらの画像形成ユニット(以下、単に「ユニット」と称する場合がある)10Y、10M、10C、10Kは、水平方向に互いに予め定められた距離離間して並設されている。なお、これらユニット10Y、10M、10C、10Kは、画像形成装置に対して脱着するプロセスカートリッジであってもよい。
【0017】
各ユニット10Y、10M、10C、10Kの図面における上方には、各ユニットに跨るように配置される転写ベルトの一例としての中間転写ベルト20が設けられている。中間転写ベルト20は、図における左右方向(上下方向と交差する方向)に互いに離間して配置された駆動ロール22及び支持ロール24により、中間転写ベルト20の内面から支持されており、第1のユニット10Yから第4のユニット10Kに向う方向に走行するようになっている。なお、支持ロール24は、図示しないバネ等により駆動ロール22から離れる方向に力が加えられており、両者に支持された中間転写ベルト20に張力が与えられている。また、中間転写ベルト20の外側には、駆動ロール22と対向する位置に、中間転写ベルト20の表面をクリーニングするクリーニング装置30が設けられている。クリーニング装置30は、中間転写ベルト20に接触するクリーニングブレード42を備えている。
【0018】
また、各ユニット10Y、10M、10C、10Kの現像装置4Y、4M、4C、4Kのそれぞれには、トナーカートリッジ8Y、8M、8C、8Kに収められたイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色のトナーを含むトナーの供給がなされる。
【0019】
第1乃至第4のユニット10Y、10M、10C、10Kは、同等の構成を有しているため、ここでは中間転写ベルト20の走行方向上流側に配設されたイエロー画像を形成する第1のユニット10Yについて代表して説明する。なお、第1のユニット10Yと同等の部分に、イエロー(Y)の代わりに、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)を付した参照符号を付すことにより、第2乃至第4のユニット10M、10C、10Kの説明を省略する。
【0020】
第1のユニット10Yは、像保持体の一例としての感光体1Yを有している。感光体1Yの周囲には、感光体1Yの表面を予め定められた電位に帯電させる帯電ロール2Y、帯電された表面を画像信号に基づくレーザ光線3Yによって露光して静電潜像を形成する露光装置3、静電潜像をトナーにより現像する現像装置4Y、現像したトナー画像を中間転写ベルト20上に転写する一次転写ロール5Y、及び一次転写後に感光体1Yの表面に残存するトナーを除去するクリーニング装置6Yが順に配置されている。
【0021】
なお、一次転写ロール5Yは、中間転写ベルト20の内側に配置され、感光体1Yに対向した位置に設けられている。更に、各一次転写ロール5Y、5M、5C、5Kには、一次転写バイアスを印加するバイアス電源(図示せず)がそれぞれ接続されている。
【0022】
次に、第1ユニット10Yにおいてイエロー画像を形成する動作について説明する。帯電ロール2Yによって感光体1Yの表面が帯電される。感光体1Yの表面に、露光装置3によりレーザ光線3Yが照射されることで、感光体1Yの表面に静電潜像が形成される。さらに、感光体1Y上の静電潜像が、現像装置4Yによって現像剤像の一例としてのトナー画像として可視像化される。感光体1Y上に現像されたトナー画像は、予め定められた一次転写位置へ搬送され、一次転写ロール5Yに一次転写バイアスが印加されることで、感光体1Y上のトナー画像が中間転写ベルト20上に転写される。感光体1Y上に残留したトナーはクリーニング装置6Yで除去されて回収される。
【0023】
また、第2乃至第4のユニット10M、10C、10Kにおいても、第1ユニット10Yと同様の動作により、感光体1M、1C、1Kに各色に対応するトナー画像が形成される。第1のユニット10Yにてイエロートナー画像の転写された中間転写ベルト20は、第2乃至第4のユニット10M、10C、10Kに順次搬送され、一次転写ロール5M、5C、5Kにより感光体1M、1C、1Kの各色のトナー画像が重ねられて多重転写される。
【0024】
4色のトナー画像が多重転写された中間転写ベルト20は、中間転写ベルト20と、中間転写ベルト20の内面に接する支持ロール24と、中間転写ベルト20の像保持面側に配置された二次転写ロール26とから構成される二次転写部23に移動する。支持ロール24及び二次転写ロール26は、転写装置の一例として構成されている。一方、収容部32には、被転写体の一例としての記録紙(記録媒体の一例)Pが収容されており、給紙ロール34及び複数の搬送ロール36により、二次転写ロール26と中間転写ベルト20との接触部に予め定められたタイミングで給紙される。そして、支持ロール24に二次転写バイアスが印加されることで、中間転写ベルト20上のトナー画像が記録紙P上に転写される。この後、記録紙Pは定着装置28における一対の定着ロールの圧接部(ニップ部)へと送り込まれ、トナー画像が記録紙P上へ定着され、定着画像が形成される。カラー画像の定着が完了した記録紙Pは、排出部へ向けて搬出され、一連のカラー画像形成動作が終了される。
【0025】
<転写ベルトの構成>
次に、一実施形態に係る中間転写ベルト20について説明する。
【0026】
図2には、一実施形態に係る中間転写ベルト20の一部の表面が拡大された状態で斜視図にて示されている。また、図3には、中間転写ベルト20の表面側が拡大された状態で断面図にて示されている。図2及び図3では、中間転写ベルト20の周方向の一方向、すなわち、中間転写ベルト20の移動方向(周方向)を矢印Aで示しており、中間転写ベルト20の軸方向を矢印Bで示している(図5も同様である)。なお、図2及び図3では、構成を分かりやすくするために、中間転写ベルト20の表面をストレートに展開のうえ模式的に示している。
【0027】
図2及び図3に示されるように、中間転写ベルト20には、ベルト表面52に軸方向(矢印B方向)に沿って形成された複数の第1凸部54と、ベルト表面52に周方向(矢印A方向)に沿って形成された複数の第2凸部56と、を備えている。これにより、ベルト表面52には、複数の第1凸部54と複数の第2凸部56とで囲まれた格子部58が設けられている。格子部58の底部58Aからの第1凸部54の高さD(図3参照)は、例えば、50nm以上200nm以下とされている。格子部58の底部58Aからの第2凸部56の高さH(図3参照)は、第1凸部54の高さDよりも高い。格子部58の底部58Aからの第2凸部56の高さHは、例えば、200nmよりも高い。格子部58の底部58Aからの第1凸部54の高さDと、格子部58の底部58Aからの第2凸部56の高さHの制御については、後に説明する。
【0028】
中間転写ベルト20のベルト表面52の周方向(矢印Aに沿った方向)に表面粗さを測定したときの十点平均粗さRzDは、例えば、100〜400nmとされている。また、中間転写ベルト20のベルト表面52の軸方向(矢印B方向)に表面粗さを測定したときの十点平均粗さRzHと比較したとき、RzDは、RzHよりも小さい(すなわち、RzH>RzD)。十点平均粗さRz(本実施形態ではRzD、RzH)の測定は、JIS B0601(2001)に準拠した方法で、表面粗さ形状測定機((株)東京精密製、サーフコム1400)により測定される。なお、測定条件は、カットオフ:0.025mm、測定長:3mm、トラバーススピード:0.03mm/sとする。
【0029】
RzDはRzHよりも小さいという関係は、前述の格子部58の底部58Aからの第2凸部56の高さHが第1凸部54の高さDよりも高いという関係に対し、同じ中間転写ベルト20の表面状態を表現している。言い換えると、前述の格子部58の底部58Aからの第2凸部56の高さHが第1凸部54の高さDよりも高いという関係を満たす中間転写ベルト20は、結果として、RzDはRzHよりも小さいという関係を満たしている。
【0030】
本実施形態の中間転写ベルト20では、中間転写ベルト20の周方向において、複数の第1凸部54は、等間隔で配置されていなくてもよい。また、複数の第1凸部54のうちの一部の第1凸部54が、中間転写ベルト20の軸方向に対して交差する方向に配置されていてもよい。また、複数の第1凸部54は、軸方向に繋がっていなくてもよい。また、中間転写ベルト20の軸方向において、複数の第2凸部56は、等間隔で配置されていなくてもよい。また、複数の第2凸部56のうちの一部の第2凸部56が、中間転写ベルト20の周方向に対して交差する方向に配置されていてもよい。
【0031】
図1に示されるように、中間転写ベルト20を用いた画像形成装置40では、中間転写ベルト20上に形成されたトナー画像を記録紙Pに転写した後、中間転写ベルト20に残存した転写残トナーをクリーニング装置30により清掃する。本実施形態では、クリーニングブレード42により、中間転写ベルト20の転写残トナーをかき取ることで、中間転写ベルト20の表面を清掃する。クリーニングブレード42は、クリーニング装置30に固定される支持体と、該支持体の先端部側に取り付けられたブレード本体と、を備えている。中間転写ベルト20の表面にブレード本体が接触する。ブレード本体は、例えば、ゴム製とされている。
【0032】
画像形成装置40では、例えば、転写性能の調整を目的として、直径50nm以上200nm以下の球形粒子状の粉体潤滑剤70が添加された現像剤が用いられている(図2及び図3参照)。前述したように、格子部58の底部58Aからの第1凸部54の高さD(図3参照)は、例えば、50nm以上200nm以下とされているため、第1凸部54の高さDは、粉体潤滑剤70の直径に近い構成とされている。
【0033】
中間転写ベルト20の材料としては、例えば、熱可塑性樹脂などの樹脂が用いられている。中間転写ベルト20に用いる樹脂としては、具体的には、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニルサルホン(PPSU)、ポリサルホン(PSF)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等が挙げられる。その中でも、転写ベルトの強度、耐久性、環境安定性、クリーニング性等の点から、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリフッ化ビニリデンからなる群より選択される1種の樹脂がより好ましく、特に、ポリイミドが好ましい。
【0034】
<中間転写ベルト20の製造方法>
次に、中間転写ベルト20の製造方法について説明する。
【0035】
本実施形態では、中間転写ベルト20の材料として、ポリイミドを用いた例を説明する。中間転写ベルト20は、外径のバラツキを抑えるため、円筒形の金型の内部にポリイミドワニスを塗布し、該金型を回転させながら乾燥・焼成を行い、ポリイミドワニスを固化させる遠心成形法を用いて生成されたものである。遠心成形法では、中間転写ベルト20のベルト表面52側は金型に接触した状態となるため、金型内面(金型表面)の形状がベルト表面52に転写される。本実施形態では金型内面は周方向に研磨するため、周方向の研磨溝が形成され、ベルト表面52に転写されると、ベルト表面52に筋状の凸部が形成される。これらの筋状の凸部が、ベルト表面52の周方向の第2凸部56に対応している(図2等参照)。
【0036】
また、金型内面はハードクロムメッキを施しており、メッキ後経時でクラックが発生するため、ベルト表面52にはメッキクラックを転写した筋状の凹凸が軸方向にも形成されている。これらの筋状の凹凸のうちの凸部が、ベルト表面52の軸方向の第1凸部54に対応している(図2等参照)。
【0037】
すなわち、図2に示されるように、中間転写ベルト20では、ベルト表面52の軸方向の複数の第1凸部54と、ベルト表面52の周方向の複数の第2凸部56とで囲まれた格子部58が存在する。本実施形態の中間転写ベルト20では、金型内面の研磨に際し、金型表面の周方向は、ホーニング処置によって周方向の凸筋(隣り合う研磨溝の間の凸筋)の高さを200nm以上となるように調整する。これにより、ベルト表面52の周方向の第2凸部56の高さHが、200nm以上に制御されている。
【0038】
また、中間転写ベルト20では、ベルト表面52の周方向(矢印A方向)に表面粗さを測定したときの二乗平均平方根傾斜をZΔqとしたとき、ZΔq≦0.33とされている。ベルト表面52の周方向(矢印A方向)に表面粗さを測定したときの二乗平均平方根傾斜ZΔqは、数1の式で表される。
【0039】
【数1】
【0040】
この式において、l は積分範囲であり任意である(例えば、粗さ曲線などが得られている範囲である)。Z(x)は粗さ曲線(凹凸の高さを示す曲線)であり、粗さ曲線の微分値の二乗を積分し、距離で除した後、平方根をとっているため、二乗平均平方根傾斜ZΔqは、粗さ曲線微分値の平均値である。図4に示されるように、二乗平均平方根傾斜ZΔqを0.33以下にするということは、粗さ曲線の傾きの平均を1/3以下にするということである。言い換えると、ベルト表面52の軸方向の複数の第1凸部54の傾き(ベルト表面52の周方向の接線に対する傾き)の平均を1/3以下の値に近づけることで、ベルト表面52の軸方向の複数の第1凸部54の傾き(ベルト表面52をマクロで見たときの周方向の接線に対する傾き)を緩やかにしている。これにより、ベルト表面の軸方向の複数の第1凸部の傾きが1/3より大きい場合と比較して、粉体潤滑剤70がベルト表面52の軸方向の複数の第1凸部54を乗り越えやすくなる。
【0041】
<作用及び効果>
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0042】
図1に示されるように、中間転写ベルト20の表面のトナー画像が二次転写ロール26と支持ロール24とが対向する二次転写部23で記録紙Pに転写された後、中間転写ベルト20の表面がクリーニングブレード42で清掃される。
【0043】
中間転写ベルト20を用いた画像形成装置40では、例えば、転写性能の調整を目的として、現像剤に直径50nm以上200nm以下の球形粒子状の粉体潤滑剤70が添加されている(図2及び図3参照)。図5に示されるように、クリーニングブレード42が中間転写ベルト20の表面に接触したときに、クリーニングブレード42の先端部がベルト表面52の周方向(A方向)の複数の第2凸部56に接触する。すなわち、クリーニングブレード42がベルト表面52の周方向(A方向)の複数の第2凸部56で規制され、ベルト表面52の軸方向(B方向)の複数の第1凸部54とクリーニングブレード42との間に余裕がある。このため、粉体潤滑剤70がベルト表面52の軸方向(B方向)の複数の第1凸部54を乗り越えることで、粉体潤滑剤70がクリーニングされる。
【0044】
一般的に、中間転写ベルトを用いた画像形成装置では、現像剤に直径50nm以上200nm以下の球形粒子状の粉体潤滑剤70が添加されている場合、二次障害として、中間転写ベルトとクリーニングブレードの間にある程度の量の粉体潤滑剤70が入り込むと、コロ効果によって中間転写ベルトとクリーニングブレードとの摩擦力が低下する。これにより、中間転写ベルトに対するクリーニングブレードの姿勢が変化し、狙い通りのクリーニング性能が得られない場合がある。
【0045】
図6には、比較例の中間転写ベルト100が断面図にて示されている。図6に示されるように、中間転写ベルト100のベルト表面102には、軸方向(矢印B方向)に沿って形成された複数の第1凸部104と、周方向に沿って形成された複数の第2凸部106と、を備えている。すなわち、ベルト表面102には、複数の第1凸部104と複数の第2凸部106とで囲まれた格子部108が設けられている。比較例の中間転写ベルト100では、格子部108の底部108Aからの複数の第1凸部104の高さD1と、格子部108の底部108Aからの複数の第2凸部106の高さH1とを制御しないため、例えば、複数の第1凸部104の高さD1が、複数の第2凸部106の高さH1以上とされている。
【0046】
比較例の中間転写ベルト100では、クリーニングブレード42の先端部が接触した状態で周方向に移動すると、ベルト表面102に軸方向(矢印B方向)に沿って筋状の第1凸部104が形成されているため、クリーニングブレードによる粉体潤滑剤70のかき取りが阻害される場合がある。すなわち、クリーニングブレード42による粉体潤滑剤70のかき取り方向が、ベルト表面102に軸方向(矢印B方向)の複数の第1凸部104と交差しているため、格子部108に粉体潤滑剤70が大量に残存し、クリーニングブレード42と中間転写ベルト100との摩擦力が低下して、トナーのクリーニング性能が低下する場合がある。
【0047】
これに対し、本実施形態の中間転写ベルト20では、ベルト表面52の軸方向(B方向)の複数の第1凸部54と、ベルト表面52の周方向(A方向)の複数の第2凸部56とで囲まれた格子部58が設けられている。格子部58の底部58Aからの第1凸部54の高さD(図3参照)は、例えば、50nm以上200nm以下とされている。複数の第1凸部54の高さDは、金型のハードクロムメッキのクラックの高さに対応している。複数の第1凸部54の高さDは、粉体潤滑剤70の直径(例えば、50nm以上200nm以下)に近い。また、格子部58の底部58Aからの第2凸部56の高さH(図3参照)は、第1凸部54の高さよりも高い(すなわち、H>D)。例えば、金型内面の研磨に際し、周方向はホーニング処理によって、周方向の研磨溝の寸法を調整することで、格子部58の底部58Aからの第2凸部56の高さHは、例えば、200nm以上に制御する。本実施形態の中間転写ベルト20では、例えば、H−D>200nmとなるように制御している。
【0048】
これにより、図5に示されるように、クリーニングブレード42が中間転写ベルト20の表面に接触したときに、クリーニングブレード42の先端部がベルト表面52の周方向(A方向)の複数の第2凸部56に接触する。すなわち、クリーニングブレード42がベルト表面52の周方向(A方向)の複数の第2凸部56で規制され、ベルト表面52の軸方向(B方向)の複数の第1凸部54とクリーニングブレード42との間に余裕がある。このため、粉体潤滑剤70がベルト表面52の軸方向(B方向)の複数の第1凸部54を乗り越えることで、粉体潤滑剤70がクリーニングされる。すなわち、中間転写ベルト20のクリーニング時に、ベルト表面52の第1凸部54により粉体潤滑剤70がせき止められることが抑制される。したがって、中間転写ベルト20では、比較例の中間転写ベルト100に比べて、クリーニングブレード42と中間転写ベルト20との摩擦力が低下することが抑制される。
【0049】
<まとめ>
本実施形態の中間転写ベルト20では、ベルト表面の周方向の第2凸部の高さが、ベルト表面の軸方向の第1凸部の高さ以下である構成と比較して、中間転写ベルト20のクリーニング時に、クリーニング性能が低下することが抑制される。
【0050】
また、中間転写ベルト20では、ベルト表面52の周方向に表面粗さを測定したときの十点平均粗さRzDが、100nm以上400nm以下であり、ベルト表面52の軸方向に表面粗さを測定したときの十点平均粗さRzHと比較して、RzDは、RzHよりも小さい。このため、中間転写ベルト20にクリーニングブレード42が接触したときに、ベルト表面52の軸方向の第1凸部54により粉体潤滑剤70がせき止められることが抑制される。したがって、中間転写ベルト20では、RzDがRzH以上である構成と比較して、中間転写ベルト20のクリーニング時に、クリーニング性能が低下することが抑制される。
【0051】
また、中間転写ベルト20では、ベルト表面52の周方向に表面粗さを測定したときの二乗平均平方根傾斜ZΔqが、0.33以下とされている(ZΔq≦0.33)。図4に示されるように、二乗平均平方根傾斜ZΔqを0.33以下にするということは、粗さ曲線の傾きの平均を1/3以下にするということである。すなわち、ベルト表面52の軸方向の複数の第1凸部54の傾き(ベルト表面52の周方向の接線に対する傾き)の平均を1/3以下の値に近づけている。このため、中間転写ベルト20では、ZΔqが、0.33より大きい構成、すなわち、第1凸部54の傾きが急である構成と比較して、中間転写ベルト20にクリーニングブレード42が接触したときに、粉体潤滑剤70がベルト表面52の軸方向の第1凸部54を乗り越えやすくなる。したがって、中間転写ベルト20では、ZΔqが、0.33より大きい構成と比較して、中間転写ベルト20のクリーニング時に、クリーニング性能が低下することが抑制される。
【0052】
さらに、画像形成装置40では、第2凸部の高さが第1凸部の高さよりも高い転写ベルトを有しない構成と比較して、中間転写ベルト20のクリーニング時に、クリーニング性能が低下することが抑制される。
【0053】
なお、上記実施形態において、中間転写ベルト20の表面の軸方向の複数の第1凸部54の間隔や、外形形状などは変更可能である。また、中間転写ベルト20の表面の軸方向の複数の第2凸部56の間隔や、外形形状などは変更可能である。
【0054】
また、上記実施形態において、画像形成装置40には、中間転写ベルト20の表面をクリーニングするクリーニングブレード42が設けられているが、クリーニングブレード42に代えて、又は、クリーニングブレード42と共に、中間転写ベルト20の表面をクリーニングするクリーニングロールなどの他のクリーニング部材を設ける構成でもよい。
【0055】
なお、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかである。また、各レーザ素子ユニットに供給する電源、信号の配線図は省略している。
【符号の説明】
【0056】
1Y、1M、1C、1K 感光体(像保持体の一例)
20 中間転写ベルト(転写ベルトの一例)
24 支持ロール(転写装置の一例)
26 二次転写ロール(転写装置の一例)
40 画像形成装置
42 クリーニングブレード
52 ベルト表面
54 第1凸部
56 第2凸部
58 格子部
58A 底部
70 粉体潤滑剤
P 記録紙(被転写体の一例)
図1
図2
図3
図4
図5
図6