(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784105
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】フローセル及びそのフローセルを備えた吸光度検出器
(51)【国際特許分類】
G01N 21/05 20060101AFI20201102BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
G01N21/05
G01N21/27 Z
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-174170(P2016-174170)
(22)【出願日】2016年9月7日
(65)【公開番号】特開2018-40651(P2018-40651A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2018年12月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】藤原 理悟
(72)【発明者】
【氏名】軍司 昌秀
【審査官】
横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−053345(JP,A)
【文献】
特開2000−121547(JP,A)
【文献】
特開2010−249725(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3136221(JP,U)
【文献】
国際公開第2007/049332(WO,A1)
【文献】
特開2014−040061(JP,A)
【文献】
特開2010−014407(JP,A)
【文献】
特開2009−288047(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0193752(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/83
G01N 33/48−33/98
G01N 30/00−30/96
B01L 1/00−99/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を入射させる入射面と、
前記入射面から入射した光の進行方向に対して垂直な方向に試料溶液を流通させるセル部と、
前記セル部を挟んで前記入射面とは反対側に位置し、前記セル部を通過した光を出射させる出射面と、
前記セル部に試料溶液を導入する入口部と、
前記セル部を経た試料溶液を前記セル部の外部へ排出する出口部と、を備え、
前記セル部は、前記入射面から入射した光の進行方向に対して垂直な面内に配列され、前記入口部から導入された試料溶液を流通させる複数の細流路によって構成され、
前記入射面に入射する光が照射される領域のうち前記細流路が設けられている領域以外の領域は、光を透過させない遮光領域となっているフローセルであって、
前記フローセルは、前記細流路をなす貫通した溝を有する金属製の遮光性基板の両面に光透過性基板がそれぞれ接合されて構成されている、フローセル。
【請求項2】
前記細流路は互いに直列に接続されている請求項1に記載のフローセル。
【請求項3】
前記細流路は互いに並列に接続されている請求項1に記載のフローセル。
【請求項4】
前記光透過性基板との接合面が耐薬品性素材によって被覆されている請求項1から3のいずれか一項に記載のフローセル。
【請求項5】
前記耐薬品性素材はポリテトラフルオロエチレンである請求項4に記載のフローセル。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のフローセルと、
前記フローセルに対して測定光を照射する光源部と、
前記フローセルを通過した光の光量を検出する光検出素子と、
前記光検出素子の検出信号に基づいて前記フローセル内を流れる試料溶液の吸光度を求める演算処理部と、を備えた吸光度検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フローセル及びそのフローセルを備えた吸光度検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフ用の検出器として吸光度検出器が知られている(特許文献1参照。)。吸光度検出器は、透明材料で構成されたフローセルを有し、そのフローセルの内部に設けられたセル部において、試料を含む試料溶液を流通させ、そのセル部に対して所定波長の光を照射してセル部を透過した光の光量変化を検出することで、セル部を流れる試料溶液の吸光度を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−038208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吸光度検出器で高濃度の試料溶液を分析する場合、フローセルのセル部を通過する光の光路長が長いと、セル部を流れる試料溶液によって光の大部分が吸収されてしまい、検出素子の受光光量が小さくなって正確に分析することができなくなる。そのため、高濃度の試料を分析する場合には、セル部の光路長を、例えば数10μm〜100μm程度にまで短くすることが考えられる。
【0005】
ここで、セル部は、測定光の全体を通過させるような形状である必要がある。そのため、光の進行方向に対して垂直な方向のセル部の断面形状はある程度の大きさをもった円盤形状等の形状にする必要があるが、セル部をそのような形状にすると、セル部における試料溶液の拡散が大きくなり、検出されるピークのピーク幅が大きくなって隣接ピークとの分離が悪くなる。
【0006】
そこで、本発明は、フローセル内における試料の拡散を抑制することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るフローセルは、光を入射させる入射面と、前記入射面から入射した光の進行方向に対して垂直な方向に試料溶液を流通させるセル部と、前記セル部を挟んで前記入射面とは反対側に位置し、前記セル部を通過した光を出射させる出射面と、前記セル部に試料溶液を導入する入口部と、前記セル部を経た試料溶液を前記セル部の外部へ排出する出口部と、を備えている。さらに、前記セル部は、互いに直列に又は並列に接続され、前記入射面から入射した光の進行方向に対して垂直な面内に配列され、前記入口部から導入された試料溶液を流通させる複数の細流路によって構成され、前記入射面に入射する光が照射される領域のうち前記細流路が設けられている領域以外の領域は、光を透過させない遮光領域となっている。
【0008】
試料溶液の流れる流路の拡散容量は、セル部内を流れる試料溶液の流速をv、流路長をL、流路半径をr、拡散係数をDとすると、次式によって表わすことができる。
上記の式から、拡散容量は流路半径の3乗に比例することがわかる。そこで、上記のように、セル部を複数の細流路によって構成することで、セル部において試料溶液が流れる流路の半径が小さくなり、セル部の拡散容量が小さくなる。これにより、セル部での試料の拡散が抑制される。
【0009】
また、上記式によれば、流路の拡散容量は、流路長の0.5乗に比例する。そこで、好ましい実施形態では、前記細流路は互いに直列に接続されている。セル部を構成する細流路が互いに直列に接続されていれば、試料溶液が流れる細流路の流路長が長くなって拡散容量がさらに小さくなり、セル部での試料の拡散がさらに抑制される。
【0010】
好ましい実施形態では、前記入射面又は出射面のうち前記遮光領域に相当する領域が光を透過させない材料で覆われている。かかる構成にすることで、光が照射される領域のうち細流路が設けられている領域以外の領域を容易に遮光領域にすることができ、本発明に係るフローセルの作成が容易になる。
【0011】
さらに好ましい実施形態では、前記細流路は、積層された光透過性基板の接合面に設けられた溝によって構成されている。かかる構成にすることで、光路長の短いフローセルの作成が容易になる。
【0012】
また、フローセルは、細流路をなす溝を有する遮光性基板と該遮光性基板と接合された光透過性基板によって構成することもできる。細流路をなす溝を有する遮光性基板を利用することで、遮光性基板の主平面のうち溝の設けられていない領域は自動的に光を透過させない遮光領域となるので、遮光領域とする部分を遮光性の材料によって被覆する必要がない。
【0013】
上記遮光性基板としては、レーザー加工、ケミカルエッチング、電気鋳造等が可能なチタン、ステンレス、白金など化学的に安定な金属材料からなるものを用いることができ、その場合には、光透過性基板との接合面が耐薬品性素材によって被覆されていることが好ましい。そうすれば、耐薬品性を向上させることができる。
【0014】
耐薬品性素材の一例としてポリテトラフルオロエチレンを挙げることができる。
【0015】
本発明に係る吸光度検出器は、上記フローセルと、前記フローセルに対して測定光を照射する光源部と、前記フローセルを通過した光の光量を検出する光検出素子と、前記光検出素子の検出信号に基づいて前記フローセル内を流れる試料溶液の吸光度を求める演算処理部と、を備えている。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るフローセルでは、セル部が、互いに直列に又は並列に接続され、前記入射面から入射した光の進行方向に対して垂直な面内に配列され、前記入口部から導入された試料溶液を流通させる複数の細流路によって構成されているので、セル部の拡散容量が小さくなり、セル部での試料の拡散を抑制することができる。ここで、セル部を構成する各細流路の間には試料溶液の流れない(セル部を構成しない)領域が存在することになる。この領域を通過する光が光検出素子に入射すると迷光となってしまい、検出器の検出感度を低下させることとなる。本発明では、前記入射面に入射する光が照射される領域のうち前記細流路が設けられている領域以外の領域が光を透過させない遮光領域となっているので、検出感度の低下を抑制することができる。
【0017】
本発明に係る吸光度検出器では、本発明のフローセルを用いているので、セル部における試料の拡散が抑制され、ピークの分離が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】(A)は
図1のX−X位置における断面図、(B)は
図1のY−Y位置における断面図である。
【
図3】(A)、(B)及び(C)はそれぞれフローセルの他の実施例を構成する各基板の平面図である。
【
図4】同実施例のフローセルを
図1のX−X位置に対応する位置で切断したときの断面図である。
【
図5】フローセルを備えた吸光度検出器の一実施例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1及び
図2を用いてフローセルの一実施例について説明する。
【0020】
この実施例のフローセル1は2枚の基板2a、2bが積層されてなる積層基板2により構成されている。基板2a、2bは、例えば石英などの光透過性材料によって構成されている。このフローセル1は、基板2b側の表面(
図2において左側表面)が、光源からの光を入射させる入射面となっており、反対側の基板2a側の表面(
図2において右側表面)が、内部のセル部を透過した光を出射させる出射面となっている。
【0021】
積層基板2の接合面に複数の細流路4が設けられている。この実施例では、細流路4が基板2aに形成された溝によって構成されている。細流路4は積層基板2の接合面内において互いに平行に等間隔で配列され、かつ、1本の蛇行した流路をなすように互いに直列に接続されている。蛇行した1本の細流路4の両端部には、該細流路4に試料溶液を導入するための入口部をなす貫通孔6と、細流路4を経た試料をフローセル1の外部へ排出するための出口部をなす貫通孔8が設けられている。
【0022】
図1において破線で示された円12は、このフローセル1に照射される光束を表している。光束12の直径は例えば1mm程度である。細流路4をなす溝の深さを例えば100μmとする。この場合、セル部を通過する光の光路長が100μmとなる。細流路4の幅を光路長と同じ100μmとし、隣り合う細流路4の間の間隔も100μmとすれば、直径1mmの円盤の中にかかる細流路4を形成するとすれば、細流路4の全長は6mm程度となる。かかる細流路4の拡散容量を直径1mmの円盤形状の流路の拡散容量と比較すると、拡散容量が約60/1000倍となり、試料の拡散が大幅に抑制されることとなる。
【0023】
また、
図1では、細流路4の設けられている領域以外の領域10にハッチングがなされている。吸光度検出器において、試料の吸光度測定に寄与するのは細流路4が設けられている部分のみであり、細流路4の設けられていない領域を光が通過して検出されてしまうと、迷光となって直線性や検出感度を低下させてしまう。
【0024】
そこで、この実施例では、出射面(基板2a側の表面)のうち細流路4が設けられている領域に相当する領域以外の全領域が、遮光性材料からなるマスク14によって覆われている。すなわち、このフローセル1は、細流路4が設けられている領域以外の領域が、入射面に入射した光を透過させない遮光領域となっている。マスク14をなす遮光性材料としては、例えば金属板、黒色塗装板金などを用いることができる。これらは、レーザー加工、ケミカルエッチング若しくは電気鋳造による製造などにより製作することができる。なお、この実施例において、マスク14は出射面側に設けられているが、入射面側に設けられていてもよい。
【0025】
なお、マスク14によって細流路4が設けられている領域以外の領域を遮光領域とするのは、細流路4以外の領域を光が通過して迷光となることを防止するためであるから、少なくとも光12が入射する領域のうち細流路4が設けられている領域以外の領域が遮光領域となるように、マスク14が設けられていればよい。
【0026】
この実施例では、複数の細流路4が互いに直列に接続されて1本の蛇行した流路を構成しているが、他の実施形態として、複数の細流路4が互いに並列に接続されている例を挙げることができる。その場合、入口部及び出口部は、細流路4の一端側から他端側へ試料溶液が流れるように設けられる。
【0027】
既述のように、流路の拡散容量は、流路内径の3乗、流路長の0.5乗に比例するのであるから、細流路4を並列に接続すれば、直列に接続した場合よりも流路長は短くなり、細流路4を直列に接続した場合に比べて、拡散容量を小さくする効果は小さい。しかし、複数の細流路4を互いに並列に接続した場合でも、セル部を1つの流路で構成する場合に比べて、拡散容量を小さくして試料の拡散を抑制するという効果が得られる。したがって、細流路4は必ずしも直列に接続されている必要はない。
【0028】
上記実施例のフローセル1は2枚の光透過性基板2a,2bによって構成されているが、遮光性基板を使用して上記実施例のフローセル1と同等のフローセルを構成することもできる。遮光性基板を利用することで、上記実施例のように細流路4が設けられていない領域を遮光領域とするためのマスク14が不要となる。
【0029】
遮光性基板を利用したフローセルの一実施例について
図3及び
図4を用いて説明する。なお、
図4はこの実施例のフローセルを
図1のX−X位置に対応する位置で切断したときの断面図である。
【0030】
この実施例のフローセルは、2枚の光透過性基板2c及び2eと遮光性基板2dが積層されて構成されている。遮光性基板2dに細流路4をなす溝が設けられており、遮光性基板2dの両面に光透過性基板2cと2eが接合されている。光透過性基板2cには、細流路4に試料溶液を導入するための入口部をなす貫通孔6と、細流路4を経た試料をフローセル1の外部へ排出するための出口部をなす貫通孔8が設けられている。
【0031】
光透過性基板2c及び2eは例えば石英基板である。遮光性基板2dは、レーザー加工、ケミカルエッチング、電気鋳造等が可能なチタン、ステンレス、白金など化学的に安定な金属材料からなるものである。遮光性基板2dの両面には、例えばポリテトラフルオロエチレンなどの耐薬品性素材による被膜が施されており、耐薬品性の向上及び光透過性基板2c,2eとの接合強度の向上が図られている。
【0032】
遮光性基板2dに細流路4をなす溝を設け、その遮光性基板に光透過性基板2c及び2eを接合した構造をとることで、遮光性のマスクを設けなくても、
細流路4が設けられている領域以外の領域が遮光領域となる。
【0033】
次に、以上において説明したフローセルを備えた吸光度検出器の一実施例について、
図5を用いて説明する。この実施例におけるフローセル1は、
図1及び
図2に示された構造を有するものであってもよいし、
図3及び
図4に示された構造を有するものであってもよい。
【0034】
この実施例の吸光度検出器は、フローセル1のほかに、光源16、バンドパスフィルタ18、コリメーションレンズ20、ビームスプリッタ22、光検出素子24、26、及び演算処理部28を備えている。フローセル1内のセル部を、例えば液体クロマトグラフの分析カラムから溶出した溶出液が流れる。演算処理部28は専用のコンピュータ又は汎用のパーソナルコンピュータによって実現される。
【0035】
光源16とフローセル1との間に、バンドパスフィルタ18、コリメーションレンズ20及びビームスプリッタ22が配置されている。光源16で発せられた光から測定で用いる波長の光がバンドパスフィルタ18によって抽出され、コリメーションレンズ20によって平行光化される。コリメーションレンズ20を経た光の一部はビームスプリッタ22で反射されて参照用の光検出素子26に参照光として入射する。ビームスプリッタ22で反射せずに透過した光は、測定光としてフローセル1に入射し、フローセル1を透過した光が測定用の光検出素子24に入射する。
【0036】
光検出素子24と26の検出信号はそれぞれ演算処理部28に取り込まれる。演算処理部28は、光検出素子24と26の検出信号に基づいてフローセル1内を流れる試料溶液の吸光度を求め、液晶ディスプレイなどの表示部(図示は省略)に表示する。
【0037】
この吸光度検出器では、上記のフローセル1を用いているので、フローセル1内のセル部を流れる試料の拡散が小さく、演算処理部28によって求められるクロマトグラムのピーク形状がブロードになることが抑制され、分離性能が向上する。
【符号の説明】
【0038】
1 フローセル
2 積層基板
2a,2b,2c,2e 光透過性基板
2d 遮光性基板
4 細流路
6 貫通孔(入口部)
8 貫通孔(出口部)
10 遮光領域
12 光束
14 マスク
16 光源
18 バンドパスフィルタ
20 コリメーションレンズ
22 ビームスプリッタ
24,26 光検出素子
28 演算処理部