特許第6784123号(P6784123)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784123
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】ガラス母材の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/014 20060101AFI20201102BHJP
   F27B 1/09 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   C03B37/014 Z
   F27B1/09
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-191524(P2016-191524)
(22)【出願日】2016年9月29日
(65)【公開番号】特開2018-52772(P2018-52772A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧原 和昌
(72)【発明者】
【氏名】古川 将人
【審査官】 宮崎 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−208261(JP,A)
【文献】 特開平11−246231(JP,A)
【文献】 特開2006−124252(JP,A)
【文献】 特開平04−342433(JP,A)
【文献】 特開2016−003150(JP,A)
【文献】 特開平06−127964(JP,A)
【文献】 特開平01−138146(JP,A)
【文献】 特開平7−33465(JP,A)
【文献】 特開平7−10583(JP,A)
【文献】 特開2014−227310(JP,A)
【文献】 特開2014−162653(JP,A)
【文献】 特開2013−249224(JP,A)
【文献】 特開2013−32266(JP,A)
【文献】 特開2004−339014(JP,A)
【文献】 特開2002−338259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B37/00−37/16
C03B8/04
C03B20/00
F27B1/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス母材を石英ガラスで構成された炉心管内に挿入して前記ガラス母材を焼結する焼結工程を含むガラス母材の製造方法であって、
前記焼結工程を実行する前に、前記炉心管を所定の温度に加熱した状態で前記炉心管内部の圧力を前記炉心管外部の圧力より高くなるように所定時間加圧して、前記炉心管の内径を拡大させる拡径工程を有する、ガラス母材の製造方法。
【請求項2】
前記拡径工程は、
前記炉心管の外部に配置されたヒータの内周部に前記炉心管の外周部が接触するように前記炉心管の内径を拡大させる、請求項1に記載のガラス母材の製造方法。
【請求項3】
前記焼結工程は、
前記拡径工程を実行する前の前記炉心管の内径に対して80%以上の外径を有する前記ガラス母材を焼結する、請求項1または請求項2に記載のガラス母材の製造方法。
【請求項4】
前記拡径工程は、
前記炉心管の外径を5%以上拡大させる、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のガラス母材の製造方法。
【請求項5】
石英ガラスで構成された炉心管と、前記炉心管の外周側に配置されたヒータと、を備えるガラス母材の製造装置であって、
前記ヒータからの加熱が行われるヒートゾーン部における前記炉心管の側壁が、前記ヒータに向けて前記炉心管の内径を拡大させるように膨らんだ形状に形成されており、
前記炉心管の外周部と前記ヒータの内周部とが接触している、ガラス母材の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス母材の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス母材を炉心管内に入れて加熱処理するガラス母材の製造方法および製造装置が知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−1336号公報
【特許文献2】特開2014−214991号公報
【特許文献3】特開2003−137584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガラス母材の製造装置における炉心管は、炉心管を構成する石英ガラスが高温時に軟化するため、炉心管内と外部との差圧が生じることにより、凹みや膨らみなどの変形が生じる。凹みによって炉心管内径が小さくなる箇所が生じると、炉心管内径に近い外径のガラス母材が入らなかったり、ガラス母材が炉心管内壁に接触して外傷が発生するなどの不具合があるため、炉心管の交換が必要になるおそれがある。
【0005】
このような炉心管内と外部との差圧を防ぐため、例えば特許文献1では、石英チャンバと炉心管の間に圧力隔壁板を設けている。また、特許文献3では、Heを炉心管内部と外部とに同時に供給し独立に排気することで差圧を制御している。また、特許文献2では、カーボン製のスリーブを炉心管内部に挿入することにより、炉心管の変形を防いでいる。
【0006】
上記各特許文献による技術では、圧力隔壁板や炉心管内部と外部とに同時に供給し独立に排気する機構等の設備、さらにそれらの設備を制御する機構等が必要である。また、炉心管内部にスリーブを挿入すると炉心管に挿入可能なガラス母材の外径サイズが小さくなってしまう。しかしながら、上記各特許文献による技術を用いた場合であっても、ガラス母材を焼結する際に炉心管の形状を一定に保つことは困難である。
【0007】
本発明は、ガラス母材の焼結時に、炉心管が変形してガラス母材が接触する可能性を低減することができるガラス母材の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るガラス母材の製造方法は、
ガラス母材を石英で構成された炉心管内に挿入して前記ガラス母材を焼結する焼結工程を含むガラス母材の製造方法であって、
前記焼結工程を実行する前に、前記炉心管を所定の温度に加熱した状態で前記炉心管内部の圧力を前記炉心管外部の圧力より高くなるように所定時間加圧して、前記炉心管の内径を拡大させる拡径工程を有する。
【0009】
また、本発明の一態様に係るガラス母材の製造装置は、
石英で構成された炉心管と、前記炉心管の外周側に配置されたヒータと、を備えるガラス母材の製造装置であって、
前記炉心管の外周部と前記ヒータの内周部とが接触している。
【発明の効果】
【0010】
上記発明によれば、ガラス母材の焼結時に、炉心管が変形してガラス母材が接触する可能性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係るガラス母材の製造装置の一例を示す概略構成図である。
図2】本実施形態に係るガラス母材の製造方法における拡径工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本発明の実施形態の説明)
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
本発明の一態様に係るガラス母材の製造方法は、
(1)ガラス母材を石英ガラスで構成された炉心管内に挿入して前記ガラス母材を焼結する焼結工程を含むガラス母材の製造方法であって、
前記焼結工程を実行する前に、前記炉心管を所定の温度に加熱した状態で前記炉心管内部の圧力を前記炉心管外部の圧力より高くなるように所定時間加圧して、前記炉心管の内径を拡大させる拡径工程を有する。
上記方法によれば、拡径工程によって、炉心管の内径を拡大させると、炉心管は外周側に膨らんだ形状になる。このように、外周側に膨らんだ形状の炉心管は、焼結時に内周側に凹みにくくなる。したがって、ガラス母材の焼結時に炉心管とガラス母材が接触する可能性を低減することができる。これにより、ガラス母材が炉心管内壁に接触して外傷が発生するなどの不具合が生じて、炉心管の交換が必要になるなどの問題を解消することができる。
【0013】
(2)前記拡径工程は、
前記炉心管の外部に配置されたヒータの内周部に前記炉心管の外周部が接触するように前記炉心管の内径を拡大させることが好ましい。
焼結工程において、炉心管の外部に配置されたヒータの内周部に炉心管の外周部が接触しているので、炉心管に伝わる熱量が大きく、炉心管の石英ガラス失透を促進する効果が得られるためである。そして失透後は、炉心管は変形しにくくなる。
【0014】
(3)前記焼結工程は、
前記拡径工程を実行する前の前記炉心管の内径に対して80%以上の外径を有する前記ガラス母材を焼結することが好ましい。
炉心管の内径に近い外径のガラス母材を焼結させることができる。よって、同じ炉心管を使用してもより大きな外径のガラス母材の製造をすることができる。
【0015】
(4)前記拡径工程は、
前記炉心管の外径を5%以上拡大させることが好ましい。
拡径工程により、炉心管の外径を5%以上拡大させることができるので、より大きな外径のガラス母材を焼結させることができる。
【0016】
また、本発明の一態様に係るガラス母材の製造装置は、
(5)石英ガラスで構成された炉心管と、前記炉心管の外周側に配置されたヒータと、を備えるガラス母材の製造装置であって、
前記炉心管の外周部と前記ヒータの内周部とが接触している。
上記構成によれば、本製造装置は、炉心管の外周部とヒータの内周部とが接触しているので、ガラス母材を焼結する際に炉心管とガラス母材が接触する可能性を低減することができる。これにより、ガラス母材の製造時に、ガラス母材に外傷が発生したり、炉心管の交換が必要になるなどの問題を解消することができる。
【0017】
(本発明の実施形態の詳細)
本発明の実施形態に係るガラス母材の製造方法および製造装置の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。
なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0018】
図1は、ガラス母材の製造装置の一例を示す図である。
図1に示すように、製造装置1は、被加熱材である多孔質のガラス母材2を加熱処理する加熱炉10を備えている。
加熱炉10は、上部が閉塞され、ガラス母材2を上下に移動可能に収容する炉心管11と、炉心管11の外側に設けられた筐体12と、筐体12内で、炉心管11の外周側に設けられた熱源としてのヒータ13とを備えている。本実施形態における炉心管11は、石英ガラスで構成された炉心管である。
【0019】
加熱炉10は、炉心管11の内部においてヒータ13からの加熱が、一点鎖線で示されるヒートゾーン部14を中心に行われるように設計されている。すなわち、ガラス母材2への加熱処理は、主にヒートゾーン部14内で行われる。
【0020】
ヒートゾーン部14における炉心管11の側壁11aは、外周側にあるヒータ13に向けて炉心管11の内径を拡大させるように膨らんで形成されている。膨らんだヒートゾーン部14の側壁11aは、その外周面がヒータ13の内周面に接触するような大きさに拡大されている。例えばヒートゾーン部14における拡大された炉心管11の内径R1は、拡大されていない(拡大させる前の)炉心管11の内径R0と比較して、5%以上大きくなっていることが好ましい。なお、内径R1は、内径R0と比較して10%以上拡大されていればより好ましい。
【0021】
また、製造装置1は、ヒータ13の加熱温度を測定するための温度計21を備えている。ヒータ13は、温度計21で測定される加熱温度に基づいて、温度制御部22により加熱制御されている。また、製造装置1は、炉心管11内の圧力と炉心管11外の圧力(筐体12内の圧力)をそれぞれ制御する圧力制御部23を備えている。
【0022】
また、製造装置1は、炉心管11の外部に、シード棒32によって吊り下げられたガラス母材2を上下にトラバースさせるトラバース機構31を備えている。
【0023】
また、製造装置1は、炉心管11内にヘリウムガスなどの不活性ガス、塩素やフッ化物などの腐食性ガス等を導入するガス導入部41と、不要なガスを炉心管11から排出するガス排出部42とを備えている。
【0024】
次に、図2に示すフローチャートを参照しつつ、本実施形態に係るガラス母材の製造方法について説明する。
本実施形態に係るガラス母材の製造方法は、炉心管11の所定部分の内径を拡大させる拡径工程と、炉心管11内でガラス母材2を焼結する焼結工程とを有する。拡径工程は、焼結工程よりも前に実行する。
【0025】
拡径工程は、炉心管11を構成する石英ガラスが失透していない(透明な状態の)新規の炉心管11に対して、炉心管11内にガラス母材2を入れる前に行う工程である。
製造装置1の加熱炉10において、図2に示すように、ヒータ13の加熱温度を所定の温度(例えば、1500℃)に設定する(ステップS101)。この温度の設定は、温度制御部22が、温度計21で測定される温度を所定の温度(例えば、1500℃)となるように、ヒータ13を加熱制御することで設定する。
【0026】
同時に、炉心管11内の圧力が炉心管11外部の圧力(筐体12内の圧力)よりも例えば30Pa高くなるように炉心管11内と外部との差圧を設定する(ステップS102)。例えば、筐体12内の圧力を大気圧などの一定の圧力とし、ガス導入部41から供給する不活性ガスなどのガス流量とガス排出部42から排出させるガス流量とを調整して炉心管11内の圧力を筐体12内の圧力より高くするなどの方法により、圧力制御部23によって上記差圧を設定する。
なお、圧力制御部23における差圧の制御は例えば炉心管11内の圧力値と筐体12内の圧力値をもとに、ガス導入部41から導入するガスの流量を増加する、またはガス排出部42から排出するガスの流量を減少させる等の方法で行う。自動で制御する方式が好ましいが、差圧の制御は厳密に行う必要はないので、人手によるガス流量調整で行っても良い。
【0027】
加熱炉10を作動させて、上記のステップS102の差圧の条件下で、ステップS101の温度条件による加熱を所定時間(例えば、1時間)継続する(ステップS103)。このように、炉心管11内部の圧力を炉心管11外部の圧力より高くなるように所定時間加圧して炉心管11を加熱すると、ヒートゾーン部14における炉心管11の側壁11aが、外周側にあるヒータ13に向かって炉心管11の内径が拡大するように膨らむ。
【0028】
続いて、温度制御部22が、ヒータ13の加熱温度を制御することにより、ヒータ13の加熱温度を(例えば、800℃まで)低下させる(ステップS104)。また、圧力制御部23が、炉心管11内の圧力制御を行うことにより、炉心管11内と外部との差圧が0Paとなるように設定する(ステップS105)。
【0029】
続いて、炉心管11の膨らんだ側壁11aの外周面がヒータ13の内周面に接触しているか否かを、例えば目視によって確認する(ステップS106)。接触していない場合、ステップS101からステップS105までの各処理を繰り返す。また、接触している場合は、拡径工程を終了する。
【0030】
拡径工程の終了後、炉心管11内にガラス母材2を挿入してガラス母材2を焼結する焼結工程を行う。例えば、径が拡大される前の炉心管11の内径R0に対して80%以上の外径R2(図1参照)を有するガラス母材2を炉心管11内に挿入し焼結する。
【0031】
先ず、炉心管11内の温度を所定の脱水温度にして、炉心管11内に挿入されたガラス母材2の脱水処理を行う。続いて、トラバース機構31によって、ヒートゾーン部14の所定位置まで(最初は、ガラス母材2の下端部がヒートゾーン部14に位置するように)上昇させる。そして、ヒータ13をさらに加熱して、ヒートゾーン部14に位置する炉心管11内の温度を例えば1500〜1600℃に上昇させる。炉心管11のガス導入部41から所定量の不活性ガスを導入させながら、ガス排出部42から不要なガスを排出させる。ガラス母材2を徐々に下降させながら、ヒータ13で炉心管11内を加熱することで、ガラス母材2の全体が焼結されて透明化した透明ガラス母材が得られる。
【0032】
なお、拡径工程は、失透していない新規の炉心管11に対して1度だけ行えばよい。したがって、上記の焼結工程を実施して炉心管11内から透明ガラス母材を取り出した後、再び拡径工程を行わずに、繰り返し新たな多孔質のガラス母材2を炉心管11内に入れて焼結させる(焼結工程を実施する)ことができる。
【0033】
(実施例)
失透していない新規の炉心管11を用意し、拡径工程を以下の条件で実施した。
炉心管11は、外径φ220mm、側壁の厚さ3mmのものを使用した。ヒータ13の加熱温度は、1500℃に設定し、炉心管11内の圧力が筐体12内の圧力よりも30Pa高くなるように炉心管11内と外部との差圧を設定した。このような加熱温度および圧力(差圧)を保持した状態で1時間継続して加熱炉10を作動させた。1時間経過後に、一旦、ヒータ13の加熱温度を800℃に低下させるとともに、炉心管11内と外部との差圧を0Paにした。
【0034】
上記一連の処理を3回繰り返したとき、炉心管11の膨らんだ側壁11aの外周面とヒータ13の内周面とが接触していることを目視で確認することができたので拡径工程の処理を終了した。この拡径工程は、約10時間で終了することができた。
【0035】
続いて、上記拡径工程によりヒートゾーン部14の径が拡大された炉心管11を使用して、ガラス母材2の焼結工程を実施した。焼結工程では、外径φ180mmのガラス母材2を焼結させた。
この場合、ガラス母材2を炉心管11の側壁内面に接触させずに炉心管11内に挿入可能であることが確認できた。また、焼結完了後のガラス母材2に外傷は発生しなかった。
炉心管11は、サイズが大きいもの程、変形による凹みが生じやすく、特に内径が220mm以上のもので顕著である。本発明は、この実施例のように、内径が220mm以上の炉心管11に対して適用する場合に特に有効である。
【0036】
(比較例)
失透していない新規の炉心管を用意し、ガラス母材2を焼結する前に、炉心管を失透させる空焼き処理を以下の条件で実施した。
炉心管は、上記実施例と同様に、外径φ220mm、側壁の厚さ3mmのものを使用した。炉心管内を陽圧に保ちながらヒータで加熱して、最初は1000℃で8時間、次に1100℃で8時間というように徐々に加熱温度を上昇させた。各温度で加熱した後は一旦炉心管内の温度を下げてから次の温度での加熱を行い、ヒートゾーン部における炉心管の石英ガラスが失透(ガラスの結晶化)するまで繰り返し実施した。
この空焼き処理は、炉心管(石英ガラス)が失透するまでに、約2週間かかった。
【0037】
ところで、上記比較例に示すように、新規な炉心管を空焼きして失透させる場合、空焼き処理に2週間程度必要となるため、この間にガラス母材を製造することができない。また、この間の装置稼働にかかる費用(例えば電気代等)が必要になる。さらに、空焼きの処理が不十分だと、ガラス母材を加熱した際に炉心管が変形して凹みが生じる可能がある。そして、凹みが生じた場合、接触によりガラス母材に外傷を生じさせるので、その炉心管は使えなくなり廃却となるため費用がかさむ。
【0038】
これに対して、本実施形態のガラス母材の製造装置および製造方法によれば、ヒートゾーン部14における炉心管11の内径が拡大されて側壁11aが外周側に膨らみ、膨らんだ側壁11aの外周面がヒータ13の内周面に接触するように形成される。このように、ヒートゾーン部14の側壁11aが予め外周側に膨らんだ状態で形成されている炉心管11では、焼結時に側壁11aが炉心管11の内側へ凹むような変形を起こしにくくなる。このため、ガラス母材2の焼結時に炉心管11とガラス母材2が接触する可能性を低減することができる。また、炉心管11内の圧力が変動してヒートゾーン部14の炉心管11の内径が多少小さくなるような変形を起こしても、予め膨らんだ形状に形成されているので、炉心管11とガラス母材2が接触する可能性は低減される。したがって、ガラス母材2の製造時に、ガラス母材2に外傷が発生するのを抑制することができるため、炉心管11を交換する必要性も抑制される。また、炉心管11を拡径する処理は、上記比較例の空焼き処理に比べて短期間で実施することができるので、ガラス母材2の生産性が向上する。
【0039】
また、ヒータ13の内周面に炉心管11の外周面が接触するように形成されているので、ヒータ13から炉心管11に伝わる熱量が大きく、炉心管11が失透するのを促進することができる。また、ヒートゾーン部14における炉心管11の内径R1が拡大される前の内径R0と比較して5%以上拡大されているので、拡大される前の炉心管11の内径R0に近い外径の大きなガラス母材2を焼結させることができる。
【0040】
以上、本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。また、上記説明した構成部材の数、位置、形状等は上記実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等に変更することができる。
例えば、ガラス母材の製造装置における加熱炉は、炉心管内に収容されたガラス母材をトラバース機構で上下させずに加熱処理する均熱炉であってもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 製造装置
2 ガラス母材
10 加熱炉
11 炉心管
12 筐体
13 ヒータ
14 ヒートゾーン部
21 温度計
22 温度制御部
23 圧力制御部
31 トラバース機構
32 シード棒
41 ガス導入部
42 ガス排出部
R0,R1 内径
R2 外径
図1
図2