(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の技術は、運転者の操作によるアクセル開度を反映した目標加速度に基づきエンジン出力を制御すれば、運転者の意図通りの良好な加速感を実現できるとの知見に基づく。確かにアクセル開度を反映させることにより、アクセルを踏込み操作したときに運転者が期待する加速度として目標加速度を算出でき、この目標加速度に基づくエンジン及びCVTの制御により、アクセル開度に対応する車両の加速度を得ることはできる。しかしながら、目標加速度を達成しただけでは、必ずしも運転者に良好な加速感を与えられるとは限らない。
【0005】
アクセル踏込み時の車両の加速度はエンジン出力と相関し、エンジン出力はエンジン回転速度とエンジントルクとの積である。このため、目標加速度による車両の加速は、エンジン回転速度を増加させてもエンジントルクを増加させても同様に達成できる。上記特許文献1の技術では、目標加速度の算出後に目標エンジン回転速度を算出し、その目標エンジン回転速度を前提として目標エンジントルクを算出している。このため、目標加速度は主にエンジン回転速度の増加によって達成され、エンジントルクの増加は補助的な役割を果たすだけとなる。
【0006】
このときの車両は、エンジン回転速度の増加と共にエンジン音を急激に高めながら加速するため、運転者はエンジン音の高まりから期待するだけの良好な加速が得られない印象、所謂回転先行感を抱いてしまう。このような運転者の感覚と車両の加速とのズレは、運転者が受ける加速感を損ねる要因、ひいては車両のドライバビリティを悪化させる要因になる。
【0007】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、アクセル踏込みによる車両の加速時にエンジン出力を適切に制御でき、これにより運転者の感覚と一致する良好な車両の加速を実現してドライバビリティを向上することができる車両の駆動力制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の車両の駆動力制御装置は、少なくともアクセル開度に基づき、アクセル踏込みに応じて車両を加速させる際の目標加速度を算出する目標加速度算出手段と、前記目標加速度算出手段により算出された目標加速度を達成するために必要なエンジンの目標出力を算出する目標出力算出手段と、前記目標出力算出手段により算出された目標出力を達成すべく前記エンジンの出力を制御するエンジン出力制御手段とを備え、前記エンジン出力制御手段が、前記目標出力を達成する際に、前記エンジンの回転速度の増加よりも高い寄与度をもって該エンジンのトルクを増加させ
、前記エンジン出力制御手段が、現在のエンジン回転速度で前記目標出力を達成可能な目標トルクを算出し、該目標トルクが前記エンジンの前記現在のエンジン回転速度での最大トルク以下のときには、変速機の変速比を維持したまま前記エンジンで前記目標トルクを発生させ、前記目標トルクが前記最大トルクを超えるときには、前記目標トルクを前記最大トルクに設定して前記エンジンで前記最大トルクを発生させつつ、トルク不足分を補って前記目標出力を達成すべく前記変速機を低ギヤ側へ変速させてエンジン回転速度を増加させることを特徴とする。
【0009】
このように構成した車両の駆動力制御装置によれば、アクセル開度等に基づき算出された目標加速度に倣って車両を加速させるために、エンジン回転速度の増加よりも高い寄与度をもってエンジントルクが増加される。このため、エンジン回転速度の増加を抑制しつつ、エンジントルクの増加により目標加速度に倣った車両の加速が実現され、運転者はエンジントルクの増加により良好な加速感を受けると共に、エンジン音の急激な高まりによる回転先行感が防止される。
また、目標トルクが最大トルクを超えるときには、低ギヤ側への変速制御によりエンジン回転速度を増加させるため、トルク不足分を補って確実に目標加速度が達成される。
【0011】
その他の態様として、前記アクセル開度が大であるほど、前記車両の駆動力が走行抵抗と釣り合ったときの平衡車速が高速域側に設定されると共に、アクセル踏込み
に応じて立ち上げられるときの目標加速度がより大きな値に設定されて車速の増加に伴って次第に低下して前記平衡車速で目標加速度が0となる特性のマップが予め設定され、前記目標加速度算出手段が、前記マップに従って前記アクセル開度及び前記車速に基づき前記目標加速度を算出することが好ましい。
【0012】
このように構成した車両の駆動力制御装置によれば、目標加速度に基づくエンジン出力の制御の結果、如何なるアクセル踏込みが行われた場合でも、その後のアクセル開度の加減を要することなく車両が平衡車速に到達する。
その他の態様として、前記目標出力算出手段が、前記車両の車重及び走行抵抗を反映して前記目標加速度から前記エンジンの目標出力を算出することが好ましい。
【0013】
このように構成した車両の駆動力制御装置によれば、車重及び走行抵抗を反映してエンジンの目標出力が算出されるため、車重や走行抵抗が異なる車種間で同一の車両挙動、より具体的にはアクセル開度や車速変化に対して同一の加速状態が実現される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の車両の駆動力制御装置によれば、アクセル踏込みによる車両の加速時にエンジン出力を適切に制御でき、これにより運転者の感覚と一致する良好な車両の加速を実現してドライバビリティを向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をFR車両の駆動力制御装置に具体化した一実施形態を説明する。
図1は本実施形態の車両の駆動力制御装置を示す全体構成図である。
車両1には走行用動力源としてエンジン2が搭載され、エンジン2にはCVT3(無段変速機)が連結されている。CVT3の出力側はプロペラシャフト4を介してディファレンシャルギア5に連結され、ディファレンシャルギア5は左右のドライブシャフト6を介して駆動輪7(後輪)に連結されている。図示はしないが、CVT3はプライマリプーリとセカンダリプーリとを無端状ベルトで連結して構成され、プライマリプーリはトルクコンバータ及びクラッチを介してエンジン2の出力軸に連結され、セカンダリプーリはプロペラシャフト4に連結されている。
【0017】
プライマリプーリ及びセカンダリプーリは油圧ユニット8により駆動され、これにより両プーリの変速比Rが変更されるようになっている。エンジン2が発生したトルクはCVT3、プロペラシャフト4、ディファレンシャルギア5、ドライブシャフト6を経て駆動輪7に伝達され、駆動輪7に発生した駆動力により車両1が走行する。
車室内には、図示しない入出力装置、制御プログラムや制御マップ等の記憶に供される記憶装置(ROM,RAM,BURAM等)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等を備えたECU10(電子制御ユニット)が設置されており、エンジン2及びCVT3の総合的な制御を行う。
【0018】
なお、このように単一のECU10で制御することなく、エンジン制御用のECUとCVT制御用のECUとに機能を分け、例えばエンジン制御用のECUからCVT制御用のECUに変速比を指示する等、何れか一方のECUが他方のECUに指示を与える構成としてもよい。
ECU10の入力側には、運転者によるアクセル開度APSを検出するアクセルセンサ11、エンジン2の回転速度Neを検出する回転速度センサ12、車両1の走行時の車速Vを検出する車速センサ13、車両1の前後方向の加速度Gsを検出する加速度センサ14等の各種センサ類が接続され、それらの検出情報が入力されるようになっている。
【0019】
また、ECU10の出力側には、図示はしないがエンジン2の筒内に燃料を噴射する燃料噴射弁、点火プラグを点火するイグナイタ、スロットル弁の開度を調整するモータ等が接続されると共に、CVT3の油圧ユニット8が接続されている。ECU10からの指令に基づき、燃料噴射弁の噴射量及び噴射時期、点火プラグの点火時期、スロットル弁の開度等が制御されて、エンジン2が所定のトルクTe及び回転速度Neで運転されると共に、油圧ユニット8が駆動されてCVT3の変速比Rが調整される。
【0020】
図2はECU10によるエンジン制御及びCVT制御の機能を示す制御ブロック図である。
目標G算出部16には、アクセルセンサ11により検出されたアクセル開度APS及び車速センサ13により検出された車速Vが入力され、それらの情報に基づき、
図3に示すマップから車両1の目標加速度Gが算出される(目標加速度算出手段)。予めアクセル開度APS及び車速Vに基づき、目標加速度Gの算出特性を異にした複数のマップがアクセル開速度ΔAPS毎に設定されており、目標G算出部では、アクセル開度APSに基づき算出したアクセル開速度ΔAPSに対応するマップを逐次選択し、そのマップに基づき、時々刻々と変化するアクセル開度APS及び車速Vから目標加速度Gを逐次算出する。
【0021】
アクセル開度APS、アクセル開速度ΔAPS及び車速Vに対し、目標加速度Gは以下に述べる特性で算出される。
図4〜6は緩急2種のアクセル踏込み(ΔAPS=高・低)後に異なる3種のアクセル開度APS(20,60,100%)に保持された場合の時間経過に応じた目標加速度Gの設定状況及び車速変化を示すタイムチャートである。
【0022】
何れの場合も基本的に目標加速度Gは、アクセル踏込みによるアクセル開度APSの増加に呼応して立ち上げられ、その後の時間経過(車速増加とも見なせる)に従って次第に低下し、最終的には、後述のように車両1の駆動力が走行抵抗と釣り合った車速Vで平衡して当該車速Vに保たれる。この平衡状態は所謂ロードロードに相当し、このときの車速Vを以下の説明では平衡車速と称し、平衡車速への到達時に車両1の加速度は0となる。
【0023】
図3のマップでは、ロードロードの観点に基づき目標加速度が設定されており、アクセル開度APSに応じて目標加速度G=0の平衡車速を設定することにより、その平衡車速に到達するように車両1を加速させている。
より詳しくは
図3のマップでは、アクセル開度APSが大であるほど目標加速度G=0の平衡車速が高速域側に設定されると共に、その目標加速度G=0に相当する平衡車速に車両1を到達させるべく、アクセル踏込みの当初により大きな目標加速度Gが設定された上で、車速Vの増加に伴って0に向けて次第に低下される。結果として
図4〜6の比較から判るように、アクセル開度APSが大であるほど、車速Vが急激に上昇してより高速域まで車両1が加速し、何れの場合も車両1は逐次算出されるそれぞれの目標加速度Gに倣って加速して個々の平衡車速に到達する。
【0024】
このようなアクセル開度APSに応じた目標加速度Gは、アクセル踏込みの当初から
図3のマップに基づき逐次算出され続ける。加速中のアクセル開度APSが一定保持された
図4〜6では、アクセル踏込みの当初に設定された平衡車速が変更されることはないが、加速中にアクセル開度APSが増減すると、増減後の値に応じてマップから新たな平衡車速(目標加速度G=0)が設定され、その平衡車速に向けて次第に低下するように目標加速度Gが逐次算出される。
【0025】
また、アクセル開速度ΔAPSに関しては、特にアクセル踏込み当初の目標加速度Gの設定が大きく相違する。即ち、
図4〜6に示すように何れのアクセル開度APSであっても、アクセル開速度ΔAPSが高い(アクセル踏込みが急激)ほど踏込み当初により大きな目標加速度Gが設定される。急激なアクセル踏込みは運転者が急加速を望んでいると見なせるが、そのように場合には目標加速度Gが急激に立ち上げられて良好な加速感を達成するように配慮されている。
【0026】
このようなアクセル開度APS、アクセル開速度ΔAPS及び車速Vに基づく目標加速度Gの設定により、アクセル踏込み操作に応じた車両1の加速が実現される。
図2に戻って説明を続けると、以上のようにして目標G算出部16で算出された目標加速度Gは目標W算出部17に入力される。目標W算出部17には車速Vが入力されると共に、走行抵抗算出部18から現在の車両1の走行抵抗が入力される。それらの情報に基づき目標W算出部17ではエンジン2の目標出力Wが算出されるが、その説明の前に、走行抵抗算出部18による走行抵抗の算出処理について述べる。
【0027】
車両1に作用する走行抵抗は、次式(1)で示すように空気抵抗、転がり抵抗及び勾配抵抗に大別される。
走行抵抗=空気抵抗+転がり抵抗+勾配抵抗 ……(1)
このため、走行抵抗算出部18では、次式(2)に基づき走行抵抗を算出している。
走行抵抗={(μa×A×V
2)+(m×μr×cosθ)+(m×sinθ)}×9.8……(2)
ここに、μaは空気抵抗係数、Aは前面投影面積(m
2)、Vは車速(km/h)、mは車重(kg)、μrは転がり抵抗係数、θは路面勾配(%)である。
【0028】
空気抵抗係数μa、前面投影面積A、車重m、転がり抵抗係数μrは車両1の仕様等に基づき予め判明しており、車速Vは車速センサ13により検出される。また、路面勾配θは路面勾配算出部19で算出される。
路面勾配θの算出処理としては従来から種々の手法が提案されており、例えば特開2000−97945号公報に記載のものを挙げることができる。登坂路や降坂路を走行中の車両1に作用する重力加速度には、路面勾配θに起因する加速度Grが含まれる。このため、車両1の搭載された加速度センサ14の検出値Gsは、実際の車両1の前後加速度Gvに加速度Grを加算した値となる。従って、例えば車速センサ13により検出された車速V等に基づき実際の前後加速度Gvを算出した上で、前後加速度Gs,Gvに基づき次式(3)に従って路面勾配θに起因する加速度Grを特定でき、求めた加速度Grから次式(4)に従って路面勾配θを算出できる。なお、算出処理の詳細は上記公報を参照されたい。
【0029】
Gr=Gs−Gv ………(3)
sinθ=Gr/g ………(4)
ここに、gは重力加速度である。
以上のようにして路面勾配算出部19で算出された路面勾配θが走行抵抗算出部18に入力され、上式(2)に従って算出された走行抵抗が目標W算出部17に入力される。
【0030】
目標加速度Gは次式(5)で表すことができる。
G={(K/V)×(W/m)−(走行抵抗/m)}×(1/9.8) ……(5)
ここに、Kは3.6×CVT3の効率、W/mはパワーウエイトレシオ、Wはエンジン2の出力である。
CVT効率はCVT3の仕様等に基づき予め判明しているため、目標W算出部17では、上式(5)に従って目標加速度Gを達成するために必要なエンジン2の目標出力W、換言すると車両1を走行させるための駆動力が算出される(目標出力算出手段)。
【0031】
目標W算出部17で算出された目標出力Wは目標Te算出部20に入力され、目標Te算出部20では、目標出力Wを達成するために必要なエンジン2の目標トルクTeが算出される。
エンジン出力はエンジン回転速度Neとエンジントルクとの積であるため、エンジン回転速度Neを増加させてもエンジントルクを増加させても目標出力Wを達成できるが、本実施形態では、エンジントルクの増加を優先している。
【0032】
詳しくは、目標Te算出部20では、現在のエンジン回転速度Ne(換言すると現在の変速比R)を維持したままで目標出力Wを達成可能な目標トルクTeを算出し、その算出値が現在エンジン2により発生可能な最大トルク以下の場合には、目標トルクTeを達成すべく、エンジン2のスロットル開度、燃料噴射量及び噴射時期、点火時期等を制御する(エンジン出力制御手段)。
【0033】
また、算出した目標トルクTeが最大トルクを超える場合には、目標トルクTeとして最大トルクを設定した上で、エンジン2のトルク不足分を補って目標出力Wを達成可能なエンジン回転速度Neを目標回転速度Neとして算出し、この目標回転速度Neを達成するために必要なCVT3の変速比Rを算出する。具体的には、現在の車速Vを前提として、現在のエンジン回転速度Neを目標回転速度Neまで増加できる低ギヤ側の変速比Rを算出し、この変速比Rを達成するように油圧ユニット8を駆動してCVT3を変速制御する(エンジン出力制御手段)。
【0034】
図7は通常時の変速制御、即ち、上記したトルク不足分を補うための低ギヤ側への変速を実行していない場合の変速制御を示す特性図、
図8は低ギヤ側への変速を実行したときの変速比Rの変化状況を示す特性図である。
図7中に実線で示すように本実施形態では、車速Vの増加に伴ってCVT3の変速比Rが次第に高ギヤ側に制御される。このためエンジン回転速度Neの上昇が抑制され、エンジン2が効率の良好な回転域に保たれる。
【0035】
但し、通常時の変速制御はこれに限るものではなく、例えば
図7中に破線で示すように所定の変速比Rに固定してもよい。或いは一般的な自動変速機と同様に、アクセル開度APS及び車速Vに基づき変速マップから算出した変速比Rを達成するように変速制御を行ってもよい。これらの変速制御を実行する場合も本発明に含まれるものとする。
そして、トルク不足分を補うための低ギヤ側への変速を実行する場合、例えばCVT3では
図8中のハッチング領域内であれば任意のポイントに変速比Rを制御可能である。このため、例えば変速比RがポイントAにあるときに目標トルクTeが最大トルクに達すると、エンジン回転速度Neを目標回転速度に一致可能なポイントBを狙って変速比Rが制御される。なお、遊星歯車式の自動変速機では変速段が有段のため、エンジン回転速度Neが最も目標回転速度に接近する変速段が選択される。即ち、本願はCVTのみならずAT(オートマチックトランスミッション)にも利用できる。
【0036】
以上のエンジン制御及びCVT制御に関する機能を果たすために、ECU10は車両1の走行中に
図9に示すE/Gトルク・変速比制御ルーチンを所定の制御インターバルで実行する。
まず、ステップS1でアクセル開度APS、車速V及び加速度Gsを取り込み、続くステップS2で目標加速度Gを算出する(目標G算出部16)。続くステップS3では走行抵抗を算出し(走行抵抗算出部18、路面勾配算出部19)、ステップS4で目標出力Wを算出する(目標W算出部17)。
【0037】
その後、ステップS5で目標出力Wを達成可能な目標トルクTeを算出し(目標Te算出部20)、続くステップS6で目標トルクTeをエンジン2が発生可能な否か、換言すると、目標Teがエンジン2の最大トルク以下であるか否かを判定する。判定がYes(肯定)のときにはステップS7に移行して、目標トルクTeを達成すべくエンジン制御を実行した後にルーチンを終了する。
【0038】
また、ステップS6の判定がNo(否定)のときにはステップS8に移行し、エンジン2のトルク不足分を補って目標出力Wを達成可能な目標回転速度Neを算出する。そして、ステップS9で目標回転速度Neを達成可能なCVT3の変速比Rを算出し、続くステップS10で変速比Rを達成すべくCVT制御を実行し、その後にステップS7に移行する。
【0039】
次に、以上のECU10の処理によるエンジン2及びCVT3の制御状況について述べる。
図7に基づき説明したように、通常時の変速制御が実行されながら車両1が一定車速で走行している状況で、運転者によりアクセル踏込みがなされると、
図10,11に示すように、アクセル開度APSの増加に呼応して目標加速度Gが立ち上げられる。上記したように、このときの目標加速度Gは、時々刻々と変化するアクセル開度APS、車速V及びアクセル開速度ΔAPSから逐次算出され、常にそれらのパラメータに応じた値に設定される。そして、これと並行して目標加速度Gを達成可能な目標出力W、及び目標出力Wを達成可能な目標トルクTeも逐次算出される。
【0040】
エンジン2が目標トルクTeを発生可能な場合には、
図10に示すようにエンジントルクの増加だけによって目標出力Wが達成される。
また、エンジン2が目標トルクTeを発生不能な場合には、
図11に示すように目標トルクTeがエンジン2の最大トルクに達した時点で最大トルクに保持され、以降は低ギヤ側へのCVT3の変速制御によりエンジン回転速度Neが高められて目標出力Wが達成される。何れの場合も逐次算出される目標加速度Gに倣って車両1は加速し、最終的にアクセル開度APSに対応する平衡車速に到達する。
【0041】
以上のように本実施形態の車両1の駆動力制御装置によれば、アクセル開度APS、アクセル開速度ΔAPS及び車速Vに基づき目標加速度Gを算出し、その目標加速度Gに倣って車両1を加速させるためにエンジントルクの増加を優先して実行し、エンジン2がトルク不足の場合に限り、エンジン回転速度Neの増加によりトルク不足分を補って目標加速度Gを達成している。即ち、目標加速度Gを達成するための寄与度で表現すれば、その達成にエンジントルクの増加が大きく寄与する(寄与度が高い)のに対し、エンジン回転速度Neの増加の寄与は相対的に小さなもの(寄与度が低い)となる。
【0042】
このため、エンジン回転速度Neの増加を極力抑制しつつ、エンジントルクの増加により目標加速度Gに倣った車両1の加速を実現できる。従って、運転者はエンジントルクの増加により良好な加速感を受けると共に、エンジン音の急激な高まりによる回転先行感を防止される。しかも、エンジン2がトルク不足の場合には、CVT3の変速比Rの低ギヤ側への制御によりエンジン回転速度Neが増加されるため、トルク不足分を補って確実に目標加速度Gを達成できる。従って、運転者の感覚と一致する良好な車両1の加速を実現でき、車両1のドライバビリティを向上することができる。
【0043】
また、目標加速度Gを指標として車両1の駆動力を制御することにより、以下のような利点も得られる。
上記したように平衡車速では車両1の駆動力が走行抵抗と釣り合い、この時点で車両1の加速度は0となる。本実施形態では、アクセル開度APSと、アクセル踏込みにより運転者が期待する車速V(=平衡車速)とを、ロードロードの観点に基づき目標加速度G=0を介して関連付けている。具体的には
図3のマップ上において、アクセル開度APSに応じて運転者が期待する車速Vを目標加速度G=0の平衡車速として設定している。このため、目標加速度Gに基づくエンジン出力の制御の結果、車両1は
図3のマップ上で設定された平衡車速に確実に到達する。
【0044】
これに対して従来の駆動力制御装置ではエンジン制御とCVT制御とが個別に実行されており、例えば、エンジン制御側では、エンジン回転速度Ne及びアクセル操作量APSに基づきエンジントルクが制御され、CVT制御側では、アクセル開度と車速Vに基づき変速比Rが制御されている。事前のキャリブレーションにより双方の制御の連携が図られているものの、アクセル踏込みによる車両1の到達車速は成り行きに任せたものでしかなく、運転者の期待通りとは言い難い。このため運転者は、加速中にアクセル開度APSを加減して到達車速を調整する必要が生じてしまう。
【0045】
また、特許文献1の技術に関して付言すれば、その
図5に示すように、アクセル踏込みに呼応して立ち上げた目標車速を車速Vの増加に伴って次第に低下させているものの、本実施形態の平衡車速に相当する目標加速度G=0のポイントを如何に設定するかの言及は一切ない。
本実施形態によれば、単にアクセル開度APSに応じて目標加速度Gを設定するだけでなく、
図3のマップ上で運転者がアクセル開度APSに応じて期待する車速Vを目標加速度G=0の平衡車速として設定している。このため、如何なるアクセル踏込みが行われた場合でも、その後のアクセル開度APSの加減を要することなく車両1は平衡車速、換言すると運転者の期待通りの車速Vに確実に到達する。よって、この点も運転者の感覚と一致する良好な車両1の加速を実現することに大きく貢献している。
【0046】
しかも、アクセル踏込みの開始から平衡車速に到達するまでの過渡的な加速度変化についても、
図3のマップに基づききめ細かに設定可能である。このため、その時点の運転者によるアクセル踏込み状態や車両1の走行状態等に対して最適な加速度変化をもって車両1を加速でき、この点も良好な車両加速の実現に貢献する。
また、これに関連して、一般的なオートクルーズ制御では、目標車速への到達に必要なエンジン出力からエンジントルク及びエンジン回転速度Neを算出しているが、これら算出値は到達点での値に過ぎない。よって、目標車速に到達するまでの加速度変化は成り行きに任せたものでしかなく、やはり運転者の期待通りの加速は望めない。本実施形態では、過渡的な加速度変化をきめ細かに設定することにより、オートクルーズ制御においても最適な加速度変化をもって目標車速に到達させることができる。
【0047】
また、目標加速度Gを指標として車両1の駆動力を制御することは、路面勾配θの変化やエンジン2のトルク変動等の外乱の影響を排除することにもつながる。例えば路面勾配θの変化により車両1の加速度が変動したとしても、目標加速度Gから算出された目標出力Wを達成するように車両1の駆動力が調整される結果、車両1の加速度は目標加速度Gに迅速に回復する。また、補機類の作動・停止或いは吸気温の変化等に応じてエンジン2がトルク変動したとしても、そのトルク変動は目標加速度Gから算出された目標トルクTeに基づき迅速に補償される。
【0048】
結果として、これらの外乱に関わらずアクセル開度APSと車両1の加速度とが
図3のマップに基づく所定の関係に保たれるため、運転者はアクセル開度APSを加減することなく期待通りの加速を実現することができる。
また、上式(5)に基づき目標加速度Gから目標出力Wを算出する際に車重mや走行抵抗が反映されるため、共通する
図3のマップを適用するだけで、車重mや走行抵抗(μa,A,μr等)が異なる車種間で同一の車両挙動を実現でき、より具体的にはアクセル開度APSや車速変化に対して同一の加速状態を実現できる。結果として、
図3のマップの適合等を車種毎に実施する必要がなくなり、事前のキャリブレーションに要する工数を大幅に削減して製造コストを低減できるという効果も得られる。
【0049】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態ではFR車両1の駆動力制御装置に具体化したが、車両の形式はこれに限るものではなく、例えばFF車両或いは4WD車両に適用してもよい。
また上記実施形態では、低ギヤ側への変速を実行しない通常時に
図7に示す変速制御を実行したが、例えば
図12に示すように、エンジン回転速度Neを予め設定された上限値Ne1と下限値Ne2との間に保持するように制御してもよい。
【0050】
また上記実施形態では、アクセル開度APS、アクセル開速度ΔAPS及び車速Vから
図3のマップに従って目標加速度Gを算出したが、これに限るものではない。例えばアクセル開度APS及び車速Vに基づき目標加速度Gを算出したり、或いはアクセル開度APS及びアクセル踏込みからの経過時間に基づき目標加速度Gを算出したりしてもよい。