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特許6784159絶縁電線の製造方法及びそれに用いる補充塗料の調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784159
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】絶縁電線の製造方法及びそれに用いる補充塗料の調製方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/16 20060101AFI20201102BHJP
   C09D 5/25 20060101ALI20201102BHJP
   C09D 5/44 20060101ALI20201102BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20201102BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20201102BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20201102BHJP
   C25D 13/16 20060101ALI20201102BHJP
   C25D 13/22 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   H01B13/16 A
   C09D5/25
   C09D5/44 Z
   C09D201/00
   C09D7/40
   H01B13/00 517
   C25D13/16 A
   C25D13/22 305
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-235827(P2016-235827)
(22)【出願日】2016年12月5日
(65)【公開番号】特開2018-92812(P2018-92812A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2019年10月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林井 研
【審査官】 中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−156378(JP,A)
【文献】 特開昭61−030699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/16
C09D 5/25
C09D 5/44
C09D 7/40
C09D 201/00
C25D 13/16
C25D 13/22
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導線を塗料槽に入れた電着塗料に連続的に通して前記導線の表面を電着塗装した後、前記電着塗装した前記導線を加熱して前記導線の表面に前記電着塗装による塗膜を焼き付けて絶縁被覆層を形成する絶縁電線の製造方法であって、
前記電着塗料は、帯電樹脂粒子と、前記帯電樹脂粒子が有する電荷の逆電荷に帯電する中和剤とを含有する分散液であり、
前記導線を前記電着塗料に通過させながら、前記塗料槽に、前記帯電樹脂粒子及び前記中和剤を含有する元塗料を希釈した後に前記中和剤を減量して調製した補充塗料を補充する絶縁電線の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された絶縁電線の製造方法において、
前記中和剤の減量を、前記元塗料の一部分を濾過して前記中和剤を濾液に含ませて除去することにより行う絶縁電線の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された絶縁電線の製造方法において、
前記元塗料を5体積倍以上に希釈する絶縁電線の製造方法。
【請求項4】
連続的に電着塗装する際に電着塗料に補充する補充塗料の調製方法であって、
前記電着塗料は、帯電樹脂粒子と、前記帯電樹脂粒子が有する電荷の逆電荷に帯電する中和剤とを含有する分散液であり、
前記帯電樹脂粒子及び前記中和剤を含有する元塗料を希釈した後に前記中和剤を減量する補充塗料の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線の製造方法及びそれに用いる補充塗料の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導線を絶縁被覆層で被覆した絶縁電線の製造方法として、導線を電着塗料に連続的に通して表面を電着塗装した後、その電着塗装した導線を加熱して表面に電着塗装による塗膜を焼き付けることにより絶縁被覆層を形成することが知られている。そして、かかる絶縁電線の製造方法において用いる電着塗料として、例えば、特許文献1には、帯電樹脂粒子としてのブロック共重合ポリイミド樹脂粒子と、それが有するアニオン性基を中和する中和剤としての塩基性化合物とを含有する分散液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−156378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、図7に示すように、導線11’を電着塗料P’に連続的に通して表面を電着塗装する場合、電着塗料P’に含まれる帯電樹脂粒子が消費されるため、電着塗装を行いながら、補充塗料SP’の補充を行う必要がある。このとき、電着塗装では基本的に中和剤n’は消費されないので、初期に仕込んだ電着塗料P’を濃縮した補充塗料SP’を補充したのでは、電着塗料P’における中和剤n’の濃度が上昇し、それによって導線11’への帯電樹脂粒子の析出が阻害されて外観不良を生じるという問題がある。
【0005】
本発明の課題は、電着塗料への補充塗料の補充に起因した電着塗装での外観不良を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、導線を塗料槽に入れた電着塗料に連続的に通して前記導線の表面を電着塗装した後、前記電着塗装した前記導線を加熱して前記導線の表面に前記電着塗装による塗膜を焼き付けて絶縁被覆層を形成する絶縁電線の製造方法であって、前記電着塗料は、帯電樹脂粒子と、前記帯電樹脂粒子が有する電荷の逆電荷に帯電する中和剤とを含有する分散液であり、前記導線を前記電着塗料に通過させながら、前記塗料槽に、前記帯電樹脂粒子及び前記中和剤を含有する元塗料を希釈した後に前記中和剤を減量して調製した補充塗料を補充する。
【0007】
本発明は、連続的に電着塗装する際に電着塗料に補充する補充塗料の調製方法であって、前記電着塗料は、帯電樹脂粒子と、前記帯電樹脂粒子が有する電荷の逆電荷に帯電する中和剤とを含有する分散液であり、前記帯電樹脂粒子及び前記中和剤を含有する元塗料を希釈した後に前記中和剤を減量する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、元塗料から中和剤を減量して調製した補充塗料を塗料槽に補充するので、補充塗料が補充された電着塗料における中和剤の濃度が高くなりすぎるのを抑えることができ、それによって電着塗料への補充塗料の補充に起因した電着塗装での外観不良を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】絶縁電線の斜視図である。
図1B】他の絶縁電線の斜視図である。
図2】実施形態に係る絶縁電線の製造方法の工程順を示す図である。
図3】絶縁被覆工程を示す図である。
図4】電着塗料への補充塗料の補充を示す説明図である。
図5】元塗料から補充塗料の調製を示す説明図である。
図6】元塗料から希釈塗料を経由する補充塗料の調製を示す説明図である。
図7】従来の電着塗料への補充塗料の補充を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0011】
(絶縁電線10)
図1A及び1Bは、実施形態に係る製造方法で製造する絶縁電線10を示す。絶縁電線10は、図1Aに示すように上下面及び両側面が平坦面に形成された断面形状が扁平な矩形のものであっても、また、図1Bに示すように上下面が平坦面に形成され且つ両側面が外側に膨出した曲面に形成された断面形状が扁平なものであっても、どちらでもよい。これらの絶縁電線10は、例えば、電気・電子機器分野における電子基板上に実装されるコイル、ノイズフィルタ、インダクタ、リアクトル等に用いられるものである。
【0012】
絶縁電線10は、扁平な断面形状を有する平角導線11と、その外周面を被覆する絶縁被覆層12とを備える。
【0013】
平角導線11は、例えば純度4N以上の高純度銅で形成されている。平角導線11の厚さは例えば0.01mm以上1mm以下、及び幅は例えば0.2mm以上4.0mm以下である。
【0014】
絶縁被覆層12は樹脂で形成されている。絶縁被覆層12は、単一処理層で構成されていることが好ましい。絶縁被覆層12の厚さは例えば1.5μm以上30μm以下である。
【0015】
(絶縁電線10の製造方法)
実施形態に係る絶縁電線10の製造方法は、図2に示すように、伸線加工工程、冷間加工工程、焼鈍工程、油分除去工程、及び絶縁被覆工程を含む。なお、これらの工程は、それぞれの工程をバッチ式で行ってもよく、また、全ての工程を連続式で行ってもよく、更には、例えば伸線加工工程及び冷間加工工程を連続式で行った後、焼鈍工程のみをバッチ式で行い、それ以降の油分除去工程及び絶縁被覆工程を連続式で行う場合のようにバッチ式と連続式とを組み合わせて行ってもよい。
【0016】
<伸線加工工程>
伸線加工工程では、母線としての荒引線を細径化して横断面が円形の丸線に伸線加工する。伸線加工としては、一般的には、荒引線を伸線ダイスに通す加工が挙げられる。荒引線の外径は例えば8.0mmであり、伸線後の丸線の外径は例えば0.05mm以上0.2mm以下である。なお、伸線加工は通常は多段階で行い、例えば、まず外径が8.0mmの荒引き線を外径が2.6mm以上3.2mm以下となるように伸線し、次いで0.6mm以上0.8mm以下となるように伸線し、更に0.05mm以上0.2mm以下となるように伸線する。
【0017】
<冷間加工工程>
冷間加工工程では、伸線工程で伸線した丸線を、外周面に平行な一対の平坦面を含む平角導線11に冷間加工する。冷間加工としては、例えば、丸線を圧延機のローラー間に通す圧延加工、丸線をダイスに通す加工等が挙げられる。図1Aに示すような上下面及び両側面が平坦面に形成された断面形状が扁平な矩形の絶縁電線10を製造する場合、丸線を厚さ方向及び幅方向のそれぞれで圧延加工することにより同様の断面形状の平角導線11を得ることができる。また、図1Bに示すような上下面が平坦面に形成され且つ両側面が外側に膨出した曲面に形成された断面形状が扁平の絶縁電線10を製造する場合、丸線を厚さ方向で圧延加工することにより同様の断面形状の平角導線11を得ることができる。
【0018】
<焼鈍工程>
焼鈍工程では、熱処理により、平角導線11を形成する金属の結晶粒度や0.2%耐力等の物性調整を行う。この焼鈍工程での熱処理は、長さ方向の特性を均一化させる観点からはバッチ式で行うことが好ましく、その場合、冷間加工工程後の平角導線11を巻回したボビンを熱処理炉に投入後、所定の昇温速度で炉内の温度を所定の保持温度まで高め、その保持温度で所定の保持時間を保持した後、所定の降温速度で炉内の温度を低下させることが好ましい。ここで、昇温速度は例えば20℃/h以上2000℃/h以下である。保持温度(焼鈍温度)は例えば150℃以上1000℃以下である。保持時間(焼鈍時間)は例えば1秒以上100時間以下である。降温速度は例えば10℃/h以上2000℃/h以下である。また、熱処理を連続式で行う場合、熱処理条件は、例えば焼鈍温度500℃以上900℃以下及び焼鈍時間1秒以上60秒以下である。熱処理は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。
【0019】
<油分除去工程>
油分除去工程では、平角導線11の外周面に付着した油分を洗浄除去する。この油分除去工程での洗浄は、例えば、平角導線11を洗浄液に浸漬して引き上げた後、窒素ガス等の不活性ガスを吹き付けて平角導線11の外周面に付着した洗浄液を飛散させることにより行うことができる。ここで、洗浄液としては、例えば、水(温水)、有機溶剤等が挙げられる。洗浄液を水とする場合、水温は例えば10℃以上60℃以下である。洗浄液には洗剤を含めてもよい。
【0020】
<絶縁被覆工程>
絶縁被覆工程では、図3に示すように、平角導線11を塗料槽21に入れた電着塗料Pに連続的に通して平角導線11の表面を電着塗装した後、その電着塗装した平角導線11を焼付炉22に通して加熱することにより平角導線11の表面に電着塗装による塗膜を焼き付けて絶縁被覆層12を形成する。平角導線11の線速は例えば5m/min以上40m/min以下である。
【0021】
絶縁被覆工程における電着塗装では、電着塗料Pとして、帯電樹脂粒子とその帯電樹脂粒子が有する電荷の逆電荷に帯電する中和剤とを含有するO/W型分散液を用い、平角導線11を帯電樹脂粒子が有する電荷の逆となる電極として電着塗料Pに電圧を印加することにより平角導線11の外周面に電着塗料P中の帯電樹脂粒子の塗膜を付着させる。電着塗料Pへの電圧印加は、定電流法で行っても、また、定電圧法で行っても、どちらでもよい。その印加電圧は例えば10V以上100V以下である。なお、電着塗料Pを入れた塗料槽21を隔室に収容し、低真空雰囲気(100Pa以上)或いは窒素ガス雰囲気で平角導線11の電着塗料Pへの浸漬を行ってもよい。
【0022】
絶縁被覆工程における塗膜焼付では、焼付温度、つまり、焼付炉22の炉内温度は、例えば200℃以上500℃以下である。焼付時間は例えば5秒以上1800秒以下である。焼付時間は、平角導線11の線速や焼付炉22の長さの設定によって調節することができる。塗膜焼付は、単一の焼付処理温度により一段階で行っても、また、相互に異なる焼付処理温度の多段階で行っても、どちらでもよい。
【0023】
実施形態に係る絶縁電線10の製造方法で用いる電着塗料Pは、上記の通り、帯電樹脂粒子とその帯電樹脂粒子が有する電荷の逆電荷に帯電する中和剤とを含有するO/W型分散液である。電着塗料Pは、帯電樹脂粒子が負電荷を有するアニオン型のものであってもよく、また、帯電樹脂粒子が正電荷を有するカチオン型のものであってもよい。
【0024】
ここで、帯電樹脂粒子を構成する樹脂としては、例えば、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ・アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。帯電樹脂粒子を構成する樹脂は、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましく、ポリアミドイミド樹脂を用いることがより好ましい。
【0025】
中和剤としては、アニオン型の電着塗料Pの場合にはカチオンを形成する塩基性中和剤を用い、カチオン型の電着塗料Pの場合にはアニオンを形成する酸性中和剤が用いる。
【0026】
塩基性中和剤としては、例えば、2−アミノエタノール(以下「AE」という。)、2,2’−イミノジエタノール、2−アミノ−2−メチルプロパノールなどのアミノアルコール系化合物;モルホリンなどのモルホリン系化合物;ピペラジン無水物、ピペラジン六水和物などのピペラジン系化合物;トリエチルアミン、トリプロピルアミンなどのアルキルアミン系化合物;ピペリジンなどのピペリジン系化合物等が挙げられる。塩基性中和剤は、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましく、AEを用いることがより好ましい。
【0027】
酸性中和剤としては、例えば、塩酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、シアノ酢酸、リン酸や硫酸などの無機酸及び有機酸等が挙げられる。酸性中和剤は、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0028】
電着塗料Pにおける中和剤の含有量は、帯電樹脂粒子100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、また、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0029】
電着塗料Pは、分散媒として水を含有する。水は、例えばイオン交換水や蒸留水である。電着塗料Pにおける水の含有量は、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、また、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。
【0030】
電着塗料Pは、水に加えて分散媒として非プロトン性極性溶媒を含有していてもよい。「非プロトン性極性溶媒」とは、アルコールを除く極性有機溶媒である。非プロトン性極性溶媒は、極性を有することから、水に対する親和性が高く、水と混合した際に相分離することなく相溶して均一な単一相となる。電着塗料Pに含まれる非プロトン性極性溶媒は、帯電樹脂粒子に対しての良溶媒であることが必要である。非プロトン性極性溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(以下「NMP」という。)、ジメチルホルムアミド(以下「DMF」という。)、ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、シクロヘキサノン等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒は、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましく、N−メチル−2−ピロリドンを用いることがより好ましい。
【0031】
電着塗料Pにおける非プロトン性極性溶媒の含有量は、帯電樹脂粒子100質量部に対して、好ましくは340質量部以上、より好ましくは370質量部以上であり、また、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは850質量部以下である。分散媒における非プロトン性極性溶媒の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは40質量%以上であり、また、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。非プロトン性極性溶媒の含有量の水の含有量に対する質量比(非プロトン性極性溶媒の含有量/水の含有量)は、好ましくは10/90以上、より好ましくは20/80以上であり、また、好ましくは60/40以下、より好ましくは50/50以下である。
【0032】
電着塗料Pは着色剤を含有していてもよい。着色剤としては、例えば、C.I.ソルベントブラック3、C.I.ソルベントブラック27、C.I.ソルベントブラック7等が挙げられる。着色剤は、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましく、C.I.ソルベントブラック3を用いることがより好ましい。電着塗料Pにおける着色剤の含有量は、帯電樹脂粒子100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上であり、また、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。電着塗料Pは、その他にナフサなどの非プロトン性非極性溶媒やアルコールなどのプロトン性極性溶媒等を含有していてもよい。
【0033】
電着塗料Pの初期固形分濃度は、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上であり、また、好ましくは11.5質量%以下、より好ましくは11質量%以下である。なお、固形分とは、電着塗料P等を乾燥固化させた場合に残留する帯電樹脂粒子等の成分のことである。
【0034】
電着塗料Pの50%径(D50:メジアン径)は、好ましくは20nm以上、より好ましくは50nm以上であり、また、好ましくは15000nm以下、より好ましくは10000nm以下である。この電着塗料Pの粒子径は、例えば大塚電子社製のゼータ電位・粒径・分子量測定システム(ELSZ−2000ZS)を用いた動的光散乱法により測定される。
【0035】
電着塗料Pの粘度は、液温20℃において、好ましくは2mPa・s以上、より好ましくは4mPa・s以上であり、また、好ましくは50mPa・s以下、より好ましくは30mPa・s以下である。この電着塗料Pの粘度はB型粘度計(100rpm)により測定される。
【0036】
電着塗料PのpHは、pHメーターにより測定され、例えば7以上9以下である。電着塗料Pの液温は例えば10〜30℃である。
【0037】
以上の電着塗料Pは、例えば、帯電樹脂粒子を構成する樹脂を含有する油相成分と水相成分とをそれぞれ準備し、それらを混合した後に撹拌して転相乳化させることにより調製することができる。この撹拌には、汎用の乳化機、分散機、混合機、又は、攪拌機を用いることができる。具体的には、例えば、高剪断を与えることができるローター式又はステーター式ミキサー、コロイドミル、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー等が挙げられる。撹拌の際における撹拌翼の外周の周速は、好ましくは1m/min以上、より好ましくは5m/min以上、更に好ましくは10m/min以上であり、また、好ましくは70m/min以下、より好ましくは50m/min以下、更に好ましくは30m/min以下である。撹拌時間は、好ましくは3分以上、より好ましくは5分以上であり、また、好ましくは60分以下、より好ましくは30分以下である。
【0038】
実施形態に係る絶縁電線10の製造方法では、図4に示すように、電着塗料Pに含まれる帯電樹脂粒子が消費されるため、平角導線11を電着塗料Pに通過させながら、塗料槽21に補充塗料SPを連続的又は間欠的に補充する。そして、この補充塗料SPは、図5に示すように、電着塗料Pと同一の帯電樹脂粒子及び中和剤nを含有するO/W型分散液で構成された元塗料OPから中和剤nを減量することにより調製する。また、このとき、元塗料OPを濃縮して補充塗料SPの固形分濃度を高めることが好ましい。
【0039】
図7に示すように、補充塗料SP’の補充を行うとき、初期に仕込んだ電着塗料P’を濃縮した補充塗料SP’を補充したのでは、電着塗料P’における中和剤n’の濃度が上昇し、それによって導線11’への帯電樹脂粒子の析出が阻害されて外観不良を生じるという問題がある。しかしながら、実施形態に係る絶縁電線10の製造方法によれば、図4に示すように、元塗料OPから中和剤nを減量して調製した補充塗料SPを塗料槽21に補充するので、補充塗料SPが補充された電着塗料Pにおける中和剤nの濃度が高くなりすぎるのを抑えることができ、それによって電着塗料Pへの補充塗料SPの補充に起因した電着塗装での外観不良を抑制することができる。
【0040】
ここで、元塗料OPの固形分濃度は、電着塗料Pの初期固形分濃度よりも高いことが好ましい。元塗料OPの固形分濃度は、好ましくは3.0質量%以上、より好ましくは5.0質量%以上であり、また、好ましくは13質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは8質量%以下である。
【0041】
元塗料OPにおける中和剤nの含有量は、帯電樹脂粒子100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、また、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5.0質量部以下である。元塗料OPにおける帯電樹脂粒子100質量部に対する中和剤nの含有量は電着塗料Pと同一であってもよい。
【0042】
元塗料OPの分散媒は電着塗料Pの分散媒と同一成分であることが好ましい。従って、電着塗料Pの分散媒が水及び非プロトン性極性溶媒を含有するとき、元塗料OPの分散媒も水及び非プロトン性極性溶媒を含有することが好ましい。この場合、元塗料OPにおける非プロトン性極性溶媒の帯電樹脂粒子100質量部に対する含有量、分散媒における非プロトン性極性溶媒の含有量、及び非プロトン性極性溶媒の含有量の水の含有量に対する質量比(非プロトン性極性溶媒の含有量/水の含有量)は電着塗料Pと同一であることが好ましい。元塗料OPの分散媒は電着塗料Pの分散媒と同一であることが好ましい。なお、元塗料OPは、電着塗料Pと同様の方法で調整することができる。
【0043】
元塗料OPから補充塗料SPを調製するときの中和剤nの減量手段としては、例えば、元塗料OPを濾過して中和剤nを濾液に含ませて除去する手段、中和剤nを吸着剤に吸着させて除去する手段、隔膜電極を用いて中和剤nを除去する手段等が挙げられる。これらのうち、濃縮も同時に行うことができるという観点から、元塗料OPを濾過して中和剤nを濾液に含ませて除去する手段が好ましい。特に分散媒が非プロトン性極性溶媒を含んで濃縮が困難な場合に有効な手段である。濾過は、孔径が1nm以上10nm以下の限外濾過膜を用いて行うことが好ましい。
【0044】
中和剤nの低減効果を高める観点からは、図6に示すように、元塗料OPを分散媒で希釈した希釈塗料DPを一旦調製した後、その希釈塗料DPにおいて中和剤nを減量することが好ましい。
【0045】
この希釈に用いる分散媒としては、例えば水や上記列挙した非プロトン性極性溶媒が挙げられる。希釈に用いる分散媒は、希釈後の希釈塗料DPの分散媒が電着塗料Pの分散媒と同一となるものを用いることが好ましい。従って、電着塗料P及び元塗料OPの分散媒が同一である場合には、希釈に用いる分散媒は、元塗料OPの分散媒と同一であることが好ましい。
【0046】
希釈は、元塗料OPを5体積倍以上にすることが好ましく、7体積倍以上にすることがより好ましく、10体積倍以上にすることが更に好ましい。
【0047】
希釈後の希釈塗料DPの固形分濃度は、好ましくは0.30質量%以上、より好ましくは0.50質量%以上であり、また、好ましくは4.0質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下である。希釈後の希釈塗料DPの固形分濃度は、電着塗料Pの初期固形分濃度よりも低いことが好ましく、この後、中和剤nの減量に加えて、希釈塗料DPを濃縮して電着塗料Pの初期固形分濃度よりも固形分濃度が高い補充塗料SPを調製することが好ましい。
【0048】
中和剤nを減量した後の補充塗料SPの固形分濃度は、電着塗料Pの初期固形分濃度よりも高いことが好ましい。また、補充塗料SPの固形分濃度は、元塗料OPの初期固形分濃度よりも高いことが好ましい。補充塗料SPの固形分濃度は、好ましくは3.0質量%以上、より好ましくは4.0質量%%以上であり、また、好ましくは13質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0049】
補充塗料SPにおける中和剤nの含有量は、帯電樹脂粒子100質量部に対して、好ましくは0.010質量部以上、より好ましくは0.10質量部以上であり、また、好ましくは3.0質量部以下、より好ましくは2.0質量部以下、更に好ましくは1.5質量部以下、より更に好ましくは1.0質量部以下である。なお、帯電樹脂粒子の分散のためには、補充塗料SPにもある程度の中和剤nが含まれている必要がある。また、補充塗料SPは、元塗料OPから中和剤nが減量されることにより、中和剤nの濃度が元塗料OPの中和剤nの濃度よりも低いことが好ましい。
【0050】
補充塗料SPの分散媒は電着塗料Pの分散媒と同一成分であることが好ましい。従って、電着塗料Pの分散媒が水及び非プロトン性極性溶媒を含有するとき、元塗料OPの分散媒も水及び非プロトン性極性溶媒を含有することが好ましい。この場合、元塗料OPにおける非プロトン性極性溶媒の帯電樹脂粒子100質量部に対する含有量、分散媒における非プロトン性極性溶媒の含有量、及び非プロトン性極性溶媒の含有量の水の含有量に対する質量比(非プロトン性極性溶媒の含有量/水の含有量)は電着塗料Pと同一であることが好ましい。補充塗料SPの分散媒は電着塗料Pの分散媒と同一であることが好ましい。
【0051】
なお、上記実施形態では、断面形状が扁平な矩形の絶縁電線10を示したが、特にこれに限定されるものではなく、例えば、厚さ方向及び幅方向の寸法が等しい断面形状が正方形のものであってもよく、また、断面形状が円形の丸線であってもよい。
【実施例】
【0052】
ポリアミドイミド樹脂の帯電樹脂粒子及び塩基性中和剤のAEを含有し、水並びに非プロトン性極性溶媒NMP及びDMFを分散媒とする固形分濃度が6.0%のO/W型分散液の元塗料を調製した。AEの含有量は1.90μg/ml(帯電樹脂粒子100質量部に対して3.3質量部)であった。
【0053】
実施例1では、この元塗料に、元塗料と同一の分散媒を加えて3体積倍に希釈した希釈塗料を調製した。続いて、その希釈塗料の一部分を限外濾過膜を用いて濾過してAEを濾液に含ませて除去することにより塩AEを減量すると共に濃縮して固形分濃度が10質量%の補充塗料を調製した。そして、得られた補充塗料におけるAEの含有量を測定したところ1.10μg/ml(帯電樹脂粒子100質量部に対して1.1質量部)であった。
【0054】
実施例2及び3では、それぞれ元塗料を5体積倍及び7体積倍に希釈した希釈塗料を調製し、同様に濾過して固形分濃度が10質量%の補充塗料を調製し、得られた補充塗料におけるAEの含有量を測定したところ、それぞれ0.83μg/ml(帯電樹脂粒子100質量部に対して0.83質量部)及び0.84μg/ml(帯電樹脂粒子100質量部に対して0.84質量部)であった。
【0055】
【表1】
【0056】
実施例1〜3のそれぞれで得られた補充塗料のAEの含有量を表1に示す。この表1によれば、元塗料の希釈倍率が高い程、得られる補充塗料におけるAEの含有量が少ないことが分かる。これは、希釈塗料を同一の10質量%の固形分濃度まで濾過する場合、元塗料の希釈倍率が高くなる程、分離する濾液量が多くなり、それに伴ってAEの除去量が多くなるためである。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、絶縁電線の製造方法及びそれに用いる補充塗料の調製方法の技術分野について有用である。
【符号の説明】
【0058】
10 絶縁電線
11 平角導線
11’ 導線
12 絶縁被覆層
21 塗料槽
22 焼付炉
P,P’ 電着塗料
OP 元塗料
SP,SP’ 補充塗料
DP 希釈塗料
n,n’ 中和剤
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7