(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記検体認識部が分析対象の検体を液状のものであると認識したときに、前記搬送機構によって前記前処理容器設置部に設置されている空の前記前処理容器を前記分注位置へ搬送し、その前処理容器内に分析対象の検体を前記検体分注部によって分注した後、前記前処理部へ搬送して所定の前処理を実行し、前記検体認識部が分析対象の検体を前記固体試料に含まれるものであると認識したときに、前記搬送機構によって前記前処理容器設置部に設置されている前記固定試料を収容した前記前処理容器を前記前処理部へ搬送して前記抽出処理を含む所定の前処理を実行するように構成されている前処理動作部をさらに備えている請求項1に記載の前処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0019】
前処理装置の一実施例について
図1を用いて説明する。
【0020】
この実施例の前処理装置1は、用意された分離デバイス50と回収容器54の組からなる前処理容器を検体ごとに一組用いて必要な前処理項目を実行する。前処理装置1には、各前処理項目を実行するための複数の処理ポートが設けられており、検体を収容した前処理容器をいずれかの処理ポートに設置することで、その前処理容器に収容された検体に対し各処理ポートに対応する前処理項目が実行されるようになっている。各処理ポートについては後述する。前処理項目とは、分析者が指定した分析項目を実行するために必要な前処理の項目である。
【0021】
前処理容器をなす分離デバイス50及び回収容器54は、搬送機構をなす搬送アーム24によって搬送される。搬送アーム24は先端側に分離デバイス50及び回収容器54を保持するための保持部25を有し、保持部25が円弧状の軌道を描くようにその基端部を保持する鉛直軸29を回転中心として水平面内において回転する。分離デバイス50及び回収容器54の搬送先である各処理ポートやその他のポートは、すべて保持部25が描く円弧状の軌道に沿って設けられている。
【0022】
液状の検体を収容した検体容器6を設置するための検体設置部2が設けられ、その近傍に検体設置部2に設置された検体容器から検体を採取するための検体分注部であるサンプリングアーム20が設けられている。検体設置部2には複数の検体容器6を保持するサンプルラック4が円環状に設置される。検体設置部2はサンプルラック4をその周方向に移動させるように水平面内において回転し、検体設置部2の回転によって所望の検体容器6が所定のサンプリング位置に配置されるようになっている。サンプリング位置とは、サンプリングアーム20の先端のサンプリングノズル20aの軌道に沿った位置であって、サンプリングノズル20aにより検体を採取する位置である。
【0023】
サンプリングアーム20は、基端部を鉛直軸22が貫通し、軸22を中心とする水平面内での回転動作及び軸22に沿った鉛直方向への上下動を行なう。サンプリングノズル20aはサンプリングアーム20の先端側でその先端が鉛直下方向を向くように保持されており、サンプリングアーム20によって水平面内における円弧状の軌道を描く移動と鉛直方向への上下動を行なう。
【0024】
サンプリングノズル20aの軌道上で、かつ搬送アーム24の保持部25の軌道上の位置に分注ポート32が設けられている。分注ポート32は未使用の分離デバイス50に対してサンプリングノズル20aが検体を分注するためのポートである。未使用の分離デバイス50は搬送アーム24によって分注ポート32に設置される。また、分注ポート32は、検体を収容した分離デバイス50に試薬を添加したり、後述する固体試料を収容した分離デバイス50に試薬を添加したりするためのものでもある。
【0025】
検体設置部2の内側に、試薬容器10を設置するための試薬設置部8が設けられ、試薬設置部8に設置された試薬容器から試薬を採取するための試薬アーム26(試薬添加部)が設けられている。試薬アーム26は基端が搬送アーム24と共通の鉛直軸29によって支持されており、水平面内において回転するとともに上下動を行なうようになっている。試薬アーム26の先端部にプローブ27が設けられている。プローブ27はその先端が鉛直下方向を向いた状態で設けられており、搬送アーム24の保持部25と同一の円弧状の軌道を描く水平面内の移動と上下動を行なう。プローブ27の基端は液の吸入と吐出を行なうシリンジポンプに接続されており、その先端からの試薬の吸入と吐出を行なうものである。
【0026】
試薬設置部8は検体設置部2とは独立して水平面内で回転する。試薬設置部8には複数の試薬容器10が円環状に配置され、試薬設置部8が回転することによって試薬容器10がその回転方向に搬送され、所望の試薬容器10が所定の試薬採取位置に配置されるようになっている。試薬採取位置とは、試薬アーム26のプローブ27の軌道に沿った位置であって、プローブ27により試薬の採取を行なうための位置である。プローブ27は所定の試薬を吸入した後、分注ポート32に設置された分離デバイス50に対して吸入した試薬を分注することで、検体への試薬の添加を行なう。
【0027】
検体設置部2や試薬設置部8とは異なる位置に、前処理容器設置部12が設けられている。前処理容器設置部12は、未使用の分離デバイス50と回収容器54が重ねられた状態の複数組の前処理容器を円環状に設置するようになっている。前処理容器設置部12は水平面内において回転して前処理容器を円周方向に移動させ、任意の一組の前処理容器を搬送アーム24の保持部25の軌道に沿った位置に配置する。搬送アーム24は、保持部25の軌道に沿った位置に配置された未使用の分離デバイス50又は回収容器54を保持することができる。
【0028】
前処理容器設置部12には、異なる分離性能をもつ分離剤が設けられた複数種類(例えば2種類)の分離デバイス50を分析者が設置しておくこともできる。これらの分離デバイス50は試料の分析項目に応じて使い分けられ、分析者によって指定された分析項目に応じた分離デバイス50がこの前処理容器設置部12によって選択される。適当な分離デバイス50の選択は、この前処理装置1の動作を制御している制御部が行なう。制御部については後述する。ここでの分析項目とは、この前処理装置1で前処理の施された試料を用いて引き続いて行なわれる分析の種類である。そのような分析を実行する分析装置としては、例えば液体クロマトグラフ(LC)や液体クロマトグラフ−質量分析計(LC/MS)などが挙げられる。
【0029】
また、この実施例では、前処理容器設置部12に、固体試料が収容された分離デバイス50と回収容器54からなる前処理容器を設置することができるように構成されている。固体試料とは、例えば
図3Aに示されているように、血液(検体)が浸み込んだろ紙の検体部分(もしくは検体を少なくとも含む部分)を所定の大きさ(例えば直径3mm)に切り出したろ紙片など、液状(又はその液が固化した状態)の検体が固形媒体に保持された状態のものである。そのような固体試料を、
図3Bに示されているように分離デバイス50内に入れて前処理容器設置部12に設置することで、その個体試料から検体を抽出する抽出処理などの前処理が自動的になされる。
【0030】
分析者は、固体試料を収容した分離デバイス50を前処理容器設置部12に設置する際に、その固体試料に含まれる検体に関する情報のほか、その分離デバイス50を設置する前処理容器設置部12での位置を装置に入力する。装置側では、ここで入力された情報に基づいて、その検体の前処理を行なう際に、その検体が収容されている分離デバイス50の位置を特定し、その分離デバイス50に対して分析者により指定された前処理項目を実行する。前処理動作の詳細については後述する。
【0031】
前処理容器をなす分離デバイス50及び回収容器54について、
図2A、
図2B、
図2C及び
図2Dを用いて説明する。
【0032】
分離デバイス50は、
図2Aに示されているように、検体や試薬を収容する内部空間50aを有する円筒状の容器である。内部空間50aの底部に分離層52が設けられている。分離層52とは、検体を通過させて特定成分と物理的又は化学的に反応することで、検体中の特定成分を選択的に分離させる機能を有する分離剤又は分離膜である。分離層52をなす分離剤としては、例えばイオン交換樹脂、シリカゲル、セルロース、活性炭などを用いることができる。分離膜としてはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)膜、ナイロン膜、ポリプロピレン膜、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)膜、アクリル共重合体膜、混合セルロース膜、ニトロセルロース膜、ポリエーテルスルホン膜、イオン交換膜、グラスファイバー膜などを用いることができる。
【0033】
また、検体中の蛋白質を濾過によって取り除くための除蛋白フィルタ(分離膜)として、PTFE、アクリル共重合体膜などを用いることができる。この場合、除蛋白フィルタの目詰まりを防止するために、
図2Dに示されているように、除蛋白フィルタ52aの上側にプレフィルタ52bを設けてもよい。かかるプレフィルタ52bとしては、ナイロン膜、ポリプロピレン膜、グラスファイバー膜などを用いることができる。プレフィルタ52bは検体中から粒径の比較的大きな不溶物質や異物を取り除くためのものであり、これによって除蛋白フィルタ52aが粒径の比較的大きな不溶物質や異物によって目詰まりすることを防止することができる。
【0034】
分離デバイス50の上面に検体や試薬を注入するための開口50bが設けられ、下面に分離剤52を通過した液を抽出するための抽出口50dが設けられている。外周面の上部に、後述する搬送アーム24の保持部25を係合させるために周方向へ突出した鍔部50cが設けられている。
【0035】
鍔部50cの下方に、周方向へ突起し、そこから下方へ一定距離だけ延びて外周面の周囲を取り囲むスカート部51が設けられている。後述するが、スカート部51は、処理部28の濾過ポート30に回収容器54とともに収容されたときに、濾過ポート30の縁に密接することによってスカート部51の内側の空間を密閉空間にするためのものである。
【0036】
回収容器54は、
図2B及び
図2Cに示されているように、分離デバイス50の下部を収容し、分離デバイス50の抽出口50dから抽出された抽出液を回収する円筒状の容器である。上面に分離デバイス50の下部を挿入させる開口50bを有し、内部に分離デバイス50のスカート部51よりも下側の部分を収容する空間54aを有する。外周面の上部に、分離デバイス50と同様に、搬送アーム24の保持部25を係合させるために周方向へ突出した鍔部54cが設けられている。鍔部54cは分離デバイス50の鍔部50cと同一の形状及び外径を有するものである。搬送アーム24の保持部25は、分離デバイス50の鍔部50cと回収容器54の鍔部54cを同様に保持することができる。
【0037】
回収容器54の上部は、分離デバイス50に装着されたときにスカート部51の内側に入り込む。分離デバイス50の外径と回収容器54の内径は、回収容器54の内部空間54aに分離デバイス50が収容されたときに、分離デバイス50の外周面と回収容器54の内周面との間に僅かな隙間が生じるように設計されている。前処理容器設置部12には、分離デバイス50と回収容器54が、分離デバイス50の下部が回収容器54に収容された状態(
図2Cの状態)で設置される。
【0038】
図1に戻って説明を続ける。前処理容器を収容して特定の前処理項目を実行するための前処理部のポートとして、濾過ポート30、撹拌ポート36a、分離デバイス50用の温調ポート38及び回収容器54用の温調ポート40が設けられている。濾過ポート30は前処理容器設置部12の内側の2ヶ所の位置に設けられている。撹拌ポート36aは、前処理容器設置部12の近傍に設けられた撹拌部36に3つ設けられている。温調ポート38、40は円弧上に並んで配置されている。温調ポート40に隣接して希釈ポート41が設けられている。
【0039】
濾過ポート30には負圧負荷機構55(
図4C及び
図5を参照。)が接続されており、濾過ポート30に設置された前処理容器に対して負圧を付加するように構成されている。濾過ポート30及び負圧負荷機構55は前処理として検体の濾過を行なう前処理部を構成する。撹拌部36も前処理部をなすものである。撹拌部36は、各撹拌ポート36aを個別に水平面内で周期的に動作させる機構を有し、各撹拌ポート36aに配置された分離デバイス50内の検体溶液を撹拌するものである。温調ポート38及び40も前処理部をなすものであって、例えばヒータとペルチェ素子により温度制御された熱伝導性のブロックに設けられ、分離デバイス50又は回収容器54を収容して分離デバイス50又は回収容器54の温度を一定温度に調節するものである。
【0041】
濾過ポート30は前処理容器を収容する凹部からなる。濾過ポート30には、
図4Dに示されているように、まず回収容器54が収容され、回収容器54の内部空間54aに分離デバイス50の下部が収容される。
【0042】
濾過ポート30内に、回収容器54を挟み込むように互いに対向する2方向から回収容器54を均等に押圧して回収容器54を中央部に保持する回収容器保持部材31が設けられている(
図4B及び
図4D参照。)。回収容器保持部材31は上方が開口したU字型の金属部材であって、上方へ伸びた2本の腕が濾過ポート30の内径方向へ弾性的に変位するように構成された2本の板バネを構成している。回収容器保持部材31の2本の板バネ部分は、上端部と下端部の間の部分の互いの間隔が最も狭くなるように内側へ凹んだ湾曲形状又は屈曲形状になっている。2本の板バネ部分の間の間隔は、上端部や下端部では回収容器54の外径よりも広く、最も狭い部分では回収容器54の外径よりも狭くなっている。かかる回収容器保持部材31の形状により、濾過ポート30内に回収容器54が差し込まれると、回収容器54が下降するにしたがって回収容器保持部材31の2本の板バネ部分が開き、その弾性力によって回収容器54を濾過ポート30の中央部に保持する。回収容器保持部材31は、濾過ポート30内に固定されており、回収容器54が取り出される際に回収容器54とともに浮き上がらないようになっている。
【0043】
濾過ポート30の上面開口部の縁に弾力性を有するリング状の封止部材60が設けられている。封止部材60は濾過ポート30の上面開口部の縁の周囲に設けられた窪みに嵌め込まれている。封止部材60の材質は、例えばシリコーンゴムやEPDM(エチレン-プロピレン-ジエンゴム)などの弾性材料である。濾過ポート30に回収容器54及び分離デバイス50が設置されると、分離デバイス50のスカート部51の下端が封止部材60に当接し、スカート部50の内側側面と濾過ポート30の内側側面によって囲まれた空間が密閉される。
【0044】
濾過ポート30の底面には、減圧用の流路56が通じている(
図4A及び
図4C参照。)。流路56には負圧負荷機構55の流路57が接続されている。負圧負荷機構55の具体的な構成については後述するが、負圧負荷機構55は真空ポンプによって濾過ポート30側に負圧を負荷するものである。
【0045】
濾過ポート30に分離デバイス50及び回収容器54が収容された状態で負圧負荷機構55によってその濾過ポート30内を減圧することで、スカート部50の内側側面と濾過ポート30の内側側面によって囲まれた空間が負圧になる。負圧になった空間には回収容器54の内部空間54aが通じている。分離デバイス50の上面は大気開放されているため、分離デバイス50の内部空間50aと回収容器54の内部空間54aとの間に分離剤52を介して圧力差が生じ、分離デバイス50の内部空間50aに収容されている試料溶液のうち分離剤52を通過することができる成分のみがその圧力差によって回収容器54の内部空間54a側へ抽出される。
【0046】
負圧負荷機構55の一例を
図5に示す。
【0047】
2つの濾過ポート30は共通の真空タンク66に接続されている。各濾過ポート30と真空タンク66の間を接続するそれぞれの流路57は、圧力センサ62及び3方バルブ64を備えている。圧力センサ62により濾過ポート30の圧力が検知される。3方バルブ64は、濾過ポート30と真空タンク62の間を接続した状態、流路57のうち濾過ポート30側を大気開放した状態(図の状態)、又は流路57のうち濾過ポート30側の端部を密閉した状態のいずれかの状態にすることができる。
【0048】
真空タンク66には、圧力センサ68が接続されているとともに、3方バルブ70を介して真空ポンプ58が接続されており、必要に応じて真空タンク66に真空ポンプ58を接続し、真空タンク66内の圧力を調節することができる。
【0049】
いずれかの濾過ポート30において検体の抽出処理を実行する際は、その濾過ポート30と真空タンク66の間を接続し、その濾過ポート30の圧力を検知する圧力センサ62の値が所定値になるように調節した後、流路57のうち濾過ポート30側の端部を密閉した状態にする。これにより、濾過ポート30内が密閉系となり、濾過ポート30内の減圧状態が維持され、検体の抽出が行なわれる。
【0050】
次に、攪拌部36の構造について
図6A及び
図6Bを用いて説明する。
図6A及び
図6Bは撹拌部36の一つの撹拌ポート36aについて示している。
【0051】
攪拌部36の撹拌ポート36aは分離デバイス50を収容する容器である。撹拌ポート36aはその下方に設けられた撹拌機構によって駆動される。
【0052】
撹拌ポート36aを駆動する撹拌機構について説明する。撹拌ポート36aの下方に回転体76が配置され、回転体76の上面の中心からずれた位置に鉛直向きに配置された駆動軸74が取り付けられている。駆動軸74の上端は撹拌ポート36aの下面に設けられた支持穴72に挿入されている。回転体76はモータ80によって回転させられる回転軸78に支持されており、モータ80の駆動により回転体76が回転し、それに伴なって駆動軸74が水平面内で旋回するようになっている。
【0053】
モータ80に支持フレーム82が取り付けられている。支持フレーム82はモータ80側から鉛直上向きに延びた側壁を有し、その側壁の上端に例えばコイルバネなどの弾性部材83の一端が取り付けられている。弾性部材83の他端は撹拌ポート36aの上部外面に取り付けられており、撹拌ポート36aの上部を弾性的に保持している。弾性部材83は撹拌ポート36aの周囲の均等な複数箇所(例えば4箇所)に設けられている。
【0054】
撹拌ポート36aに試料と試薬を収容した分離デバイス50を収容してモータ80を駆動すると、
図6Bに示されているように、駆動軸74が水平面内で旋回することにより、回収容器72の下端部がそれに伴なって旋回する。これにより、撹拌ポート36aに収容された分離デバイス50内が攪拌され、検体と試薬が混合される。
【0055】
図1に戻って、この前処理装置1は回収容器54に抽出された試料をこの前処理装置1に隣接配置された試料注入装置(例えば、オートサンプラなど)側へ転送するための試料転送装置42を、筐体側縁部に備えている。試料転送装置42はラックピニオン機構を有する駆動機構により水平面内で一方向(
図1の矢印の方向)へ移動する移動部44を備えている。移動部44の上面に、抽出試料を収容する回収容器54を設置するための転送ポート43が設けられている。
【0056】
試料注入装置側への試料の転送を行なっていないときは、転送ポート43が搬送アーム24の保持部25の軌道に沿う位置(図の実践で示されている位置)に配置され、この位置において、搬送アーム24による転送ポート43への回収容器54の設置や転送ポート43からの回収容器54の回収が行われる。
【0057】
試料注入装置側への検体の転送を行なう際は、抽出検体を収容した回収容器54が転送ポート43に設置された後、移動部44がこの前処理装置1の外側方向へ移動し、転送ポート43が隣接する試料注入装置側の位置(図の破線で示されている位置)に配置される。この位置において、試料注入装置に設けられたサンプリング用のノズルが回収容器54内の検体を吸入する。試料注入装置による検体の吸入が終了すると、移動部44は元の位置(図の実践で示されている位置)に戻り、搬送アーム24によって回収容器54が回収される。使用済みの回収容器54は、搬送アーム24によって廃棄ポート34に搬送されて廃棄される。
【0058】
この前処理装置1は、分注ポート32の近傍で搬送アーム24の保持部25の軌道に沿う位置に、使用済みの分離デバイス50及び回収容器54を廃棄するための廃棄ポート34を備えている。また、サンプリングノズル20aの軌道に沿う位置に、サンプリングノズル20aの洗浄を行なうための洗浄ポート45を備えている。図示は省略されているが、プローブ27の軌道に沿う位置に、プローブ27の洗浄を行なうための洗浄ポートが設けられている。
【0059】
次に、前処理装置1の制御系統について
図7を用いて説明する。以下の説明おいて「ポート」とは、分離デバイス50又は回収容器54が設置される濾過ポート30、分注ポート32、撹拌ポート36a、温調ポート38,40及び転送ポート43のうちのいずれかのポートを意味する。
【0060】
前処理装置1に設けられている検体設置部2、試薬設置部8、前処理容器設置部12、サンプリングアーム20、搬送アーム24、試薬アーム26、攪拌部36、試料転送装置42、負圧負荷機構55の動作は、制御部84により制御される。制御部84は、前処理装置1内に設けられたコンピュータ及びそのコンピュータによって実行されるソフトウェアによって実現される。制御部84には、例えばパーソナルコンピュータ(PC)や専用のコンピュータによって実現される演算処理装置86が接続されており、分析者は演算処理装置86を介してこの前処理装置1を管理する。演算処理装置86には、前処理装置1に隣接して配置され、前処理装置1で前処理が施された試料の分析を行なう液体クロマトグラフシステム(以下、LCシステム)200(
図11及び
図12を参照。)が電気的に接続されており、そのLCシステム200に設けられている試料注入装置202が前処理装置1の動作と連動するようになっている。
図7ではLCシステム200のうち試料注入装置202のみを図示している。
【0061】
制御部84は、前処理動作部84a、検体認識部84b、前処理容器特定部84c及び固体試料設置情報保持部84dを備えている。前処理動作部84a、検体認識部84b及び前処理容器特定部84cは、制御部84をなすCPUなどの演算素子がソフトウェアを実行することによって得られる機能である。また、固体試料設置情報保持部84dは、制御部84をなすコンピュータに設けられた記憶装置の記憶領域によって実現される機能である。
【0062】
既述のように、この実施例の前処理装置1で取り扱う検体としては、検体設置部2に設置された検体容器内に収容されている液状の検体と、前処理容器設置部12に設置された分離デバイス50内の固体試料に保持されている検体の2種類が存在する。装置には、分析対象の検体に関する情報が予め分析者によって登録され、制御部84がその登録情報に基づいて、次に前処理を行なうべき検体の設置場所や、その検体に対して行なうべき前処理項目を特定し、その前処理項目を実行するために必要な動作を行なう。
【0063】
前処理動作部84aは、各検体に対して次に行なうべき処理項目を確認し、その処理項目に対応したポートの空き状況を確認し、空きがあればその検体を収容した分離デバイス50又は回収容器54をそのポートへ搬送してその処理項目を実行するように構成されている。また、その処理項目に対応するポートに空きがない場合には、そのポートが空き次第、対象の分離デバイス50又は回収容器54をそのポートへ搬送する。
【0064】
検体認識部84bは、分析対象の検体が液状のものであるか固体試料に含まれるものであるかを、予め登録された情報に基づいて認識するように構成されている。検体認識部84bによって分析対象の検体が液状のものであると認識されたときは、液状検体用の前処理動作が実行される。他方、検体認識部84bによって分析対象の検体が固体試料に含まれるものであると認識されたときは、固体試料用の前処理動作が実行される。各前処理動作については後述する。
【0065】
前処理容器特定部84cは、検体認識部84bによって分析対象の検体が固体試料に含まれるものであると認識されたときに、その固体試料が収容されている前処理容器(分離デバイス50)の位置を、予め分析者によって登録された検体に関する情報に基づいて特定するように構成されている。固体試料の設置場所に関する情報は、その固体試料を収容した分離デバイス50が前処理容器設置部12に設置される際に、分析者によって登録されて固体試料設置情報保持部84dに記憶される。
【0066】
図1とともに
図8、
図9、
図10のフローチャートを用いて、この実施例の1つの試料についての前処理動作の一例について説明する。
図8から
図10のフローチャートは1つの検体についての前処理の流れのみを示しており、この前処理の動作は他の検体の前処理動作とは同時並行的にかつ独立して実行される。「前処理を同時並行的にかつ独立して実行する」とは、ある検体について濾過ポート30や撹拌ポート36aなどのポートで濾過処理や撹拌処理を行なっている間も、搬送アーム24が別の検体を収容した分離デバイス50又は回収容器54を他のポートに搬送し、その検体の処理を独立して実行することをいう。
【0067】
まず、
図8に示されているように、分析対象の検体の状態、すなわち分析対象の検体が液状のものであるか、固体試料に含まれるものであるかを、予め分析者によって登録された情報に基づいて確認する(ステップS1)。その検体が固体試料に含まれるものである場合には(ステップS2)、固体試料用の前処理動作を実行する(ステップS3)。一方で、その検体が固体試料に含まれるものでない、すなわち検体容器内に収容された液状の検体である場合には(ステップS2)、液状検体用の前処理動作を実行する(ステップS4)。
【0068】
分析対象の検体が固体試料に含まれるものである場合、その検体に対して行なう前処理動作として、新生児マススクリーニング用の前処理動作を挙げることができる。そのような前処理動作の一例を、
図9を用いて説明する。
【0069】
まず、分析対象の検体を含む固体試料が収容されている分離デバイス50の設置位置を特定するとともに(ステップS101)、その検体に対して設定されている分析項目を確認する(ステップS102)。
【0070】
次に、分注ポート32が空いているか否かを確認し、分注ポート32が空いていれば、搬送アーム24がその固体試料を収容する分離デバイス50を前処理容器設置部12から取り出して分注ポート32に設置する(ステップS103、S104)。前処理容器設置部12には分離デバイス50と回収容器54とが重ねられた状態(
図2Cの状態。)で設置されているが、搬送アーム24は上側の分離デバイス50のみを保持部25で保持して分注部32へ搬送する。
【0071】
固体試料から検体を抽出するための試薬を試薬分注ノズル26aによって試薬容器10から採取し、分注ポート32の分離デバイス50に分注する(ステップS105)。なお、試薬を分注するための試薬分注用ポートを分注ポート32とは別の位置に設けておき、搬送アーム24によってその試薬分注用ポートに分離デバイス50を設置し、その位置において試薬の分注を行なってもよい。検体抽出用の試薬としては、アミノ酸とアシルカルニチン−32の安定同位体(IS)を溶解したものが挙げられる。
【0072】
分離デバイス50に検体抽出用の試薬を分注した後、撹拌ポート36aの空き状況を確認する(ステップS106)。撹拌ポート36aに空きがあれば、搬送アーム24によって分注ポート32の分離デバイス50を空いている撹拌ポート36aに設置して撹拌を行ない、固体試料から検体を抽出する(ステップS107)。
【0073】
上記の撹拌処理は45℃程度の温度条件で数十分間程度行なうことが好ましいため、検体抽出用の試薬が添加された分離デバイス50を撹拌ポート36aよりも先に温調ポート38へ搬送し、分離デバイス50の温度を45℃程度の温度にした後で撹拌ポート36aへ搬送して撹拌を行なうことが好ましい。さらには、分離デバイス50の温度を安定させるために、検体抽出用の試薬が添加された分離デバイス50を温調ポート38と撹拌ポート36aに交互に設置し、温調と撹拌が交互になされるようにしてもよい。
【0074】
上記の試薬の添加から撹拌までの処理は、固体試料から検体を抽出するための抽出処理である。この抽出処理中に、濾過ポート30の空き状況を確認し(ステップS108)、濾過ポート30に空きがある場合は搬送アーム24によって回収容器54を濾過ポート30に設置する(ステップS109)。濾過ポート30に設置する回収容器54は、撹拌ポート36aにおいて撹拌中の分離デバイス50と対をなす回収容器54であり、前処理容器設置部12において撹拌中の分離デバイス50と重ねられて設置されていた回収容器54である。なお、この攪拌処理中に、搬送アーム24は別の試料の分離デバイス50や回収容器54の搬送を行なうこともできる。
【0075】
攪拌部36における攪拌処理(抽出処理)が終了すると、搬送アーム24は、分離デバイス50を濾過ポート30へ搬送し、濾過ポート30に設置された回収容器54内に分離デバイス50の下部が収容されるように、分離デバイス50を回収容器54上に設置する(
図4Dの状態、ステップS110)。このとき、分離デバイス50を下方(濾過ポート30側)へ押圧し、分離デバイス50のスカート部51の下端が濾過ポート30の周囲に設けられた封止部材60の上面の高さよりも僅かに(例えば、0.1mm程度)低い高さまで下降させる。これにより、分離デバイス50のスカート部51の下端が封止部材60を押し潰し、スカート部51の下端と封止部材60との間の気密性が向上する。搬送アーム24は、下記の濾過処理が開始されて濾過ポート30内が負圧になるまで、分離デバイス50を下方へ押圧した状態を維持する。
【0076】
分離デバイス50を濾過ポート30の回収容器54上に設置して濾過ポート30内を気密にした状態で、濾過処理を開始する。濾過処理は、分離デバイス50及び回収容器54を収容した濾過ポート30内を負圧にするように、負圧負荷機構55によって濾過ポート30内を減圧する。濾過ポート30内が負圧にされた状態で一定時間維持されることにより、分離デバイス50内の溶液が濾過され回収容器54に検体が抽出される(ステップS111)。
【0077】
濾過処理が開始された後、その濾過ポート30内の圧力が負圧になったことを圧力センサ62(
図5参照。)によって検知すると、搬送アーム24は分離デバイス50の下方への押圧及び分離デバイス50の保持を解除する。分離デバイス50の保持を解除した搬送アーム24は、他の分離デバイス50や回収容器54の搬送を行なうことができる。搬送アーム24による分離デバイス50の下方への押圧及び分離デバイス50の保持の解除は、必ずしも圧力センサ62の検出信号に基づいて行われる必要はなく、濾過処理が開始された後、所定時間の経過後に行なわれるようになっていてもよい。
【0078】
検体の濾過処理が終了した後(ステップS112)、3方バルブ64(
図5参照。)を切り替えて濾過ポート30内を大気圧にし、使用済みの分離デバイス50を搬送アーム24の保持部25で濾過ポート30から取り出して廃棄ポート34に廃棄する(ステップS113)。その後、濾過された検体を収容した回収容器54を静置し、酸性条件下でヒドラジン(hydrazine)によるアクシニルアセトンの誘導体化反応を進行させる。この処理に要する時間は、数十分から2時間程度である。この処理は、温調ポート40において行なうことができる。
【0079】
上記の処理が終了した後、転送ポート43の空き状況を確認し、転送ポート43が空いていれば、搬送アーム24によって回収容器54を転送ポート43に設置する。転送ポート43に回収容器54が設置されると、移動部44が隣接配置されたLCシステム200(
図11及び
図12を参照。)に設けられている試料注入装置202側の位置(
図1の破線で示された位置)へ移動することで、回収容器54が試料吸入装置90側へ転送される(ステップS114)。
【0080】
試料注入装置202側では、転送装置42によって転送されてきた回収容器54内に対してサンプリング用ノズルによる検体の吸入が行われる。移動部44は試料注入装置202における検体の吸入が終了するまでLCシステム200側の位置で停止し、検体の吸入が終了した旨の信号をLCシステム200側から受け取ると元の位置(
図1の実線で示された位置)に戻る。
【0081】
試料の転送が終了した後、搬送アーム24によって使用済みの回収容器54を転送ポート43から回収し、その回収容器54を廃棄ポート34へ廃棄する(ステップS115)。
【0082】
次に、分析対象の検体が液状の検体である場合の前処理動作の一例を、
図10を用いて説明する。
【0083】
分析対象の検体が液状のものである場合、まず、その検体に対して分析者が予め指定した分析項目を確認し(ステップS201)、その分析項目を実行するために必要な前処理項目を割り出す。分注ポート32が空いているか否かを確認し、分注ポート32が空いていれば、搬送アーム24がその検体を収容するための未使用の分離デバイス50を前処理容器設置部12から取り出して分注ポート32に設置する(ステップS202,S203)。既述のように、前処理容器設置部12には分離デバイス50と回収容器54とは重ねられた状態(
図2Cの状態。)で設置されているが、この場合も、搬送アーム24は上側の分離デバイス50のみを保持部25で保持して分注部32へ搬送する。
【0084】
サンプリングノズル20aによって検体をその分離デバイス50に分注する(ステップS204)。検体を分離デバイス50に分注したサンプリングノズル20aはその後洗浄ポート45において洗浄を行ない、次の検体の分注に備える。分離デバイス50に分注された検体に対して実行すべき前処理に応じた試薬を試薬分注ノズル26aによって試薬容器10から採取し、分注ポート32の分離デバイス50に分注する(ステップS205)。なお、分離デバイス50への試薬の分注を試料の分注の前に実行してもよい。
【0085】
分離デバイス50に検体と試薬を分注した後、撹拌ポート36aの空き状況を確認する(ステップS206)。撹拌ポート36aに空きがあれば、搬送アーム24によって分注ポート32の分離デバイス50を空いている撹拌ポート36aに設置して撹拌を行なう(ステップS207)。この攪拌処理は予め設定された一定時間行なわれ、これによって分離デバイス50内の検体と試薬が混合される。この撹拌処理中に、濾過ポート30の空き状況を確認し(ステップS208)、濾過ポート30に空きがある場合は搬送アーム24によって回収容器54を濾過ポート30に設置する(ステップS209)。
【0086】
攪拌部36における攪拌処理が終了すると、搬送アーム24は、分離デバイス50を濾過ポート30へ搬送し、分離デバイス50を回収容器54上に設置し(
図4Dの状態)、さらに分離デバイス50を下方(濾過ポート30側)へ押圧することによって、スカート部51の下端と封止部材60との間の気密性を向上させる(ステップS210)。搬送アーム24は、下記の濾過処理が開始されて濾過ポート30内が負圧になるまで、分離デバイス50を下方へ押圧した状態を維持する。
【0087】
分離デバイス50を濾過ポート30の回収容器54上に設置して濾過ポート30内を気密にした状態で、負圧負荷機構55によって濾過ポート30内を減圧し、濾過処理を行なう。濾過ポート30内が負圧にされた状態で一定時間維持されることにより、分離デバイス50の溶液が濾過され回収容器54に検体が抽出される(ステップS211)。
【0088】
濾過処理が開始された後、その濾過ポート30内の圧力が負圧になったことを圧力センサ62(
図5参照。)によって検知すると、搬送アーム24は分離デバイス50の下方への押圧及び分離デバイス50の保持を解除する。分離デバイス50の保持を解除した搬送アーム24は、他の分離デバイス50や回収容器54の搬送を行なうことができる。搬送アーム24による分離デバイス50の下方への押圧及び分離デバイス50の保持の解除は、必ずしも圧力センサ62の検出信号に基づいて行われる必要はなく、濾過処理が開始された後、所定時間の経過後に行なわれるようになっていてもよい。
【0089】
なお、この前処理動作には組み込まれていないが、分離デバイス50内の試料の撹拌後に分離デバイス50内の試料を一定の時間一定温度下に置いておくという温度処理が組み込まれる場合もある。その場合、撹拌処理の終了後、温調ポート40の空き状況を確認し、空きがあれば分離デバイス50を空いている温調ポート38に設置する。そして、一定時間が経過した後で温調ポート38の分離デバイス50を濾過ポート30の回収容器54上に設置する。
【0090】
検体の濾過処理が終了した後(ステップS212)、3方バルブ64(
図5参照。)を切り替えて濾過ポート30内を大気圧にし、使用済みの分離デバイス50を搬送アーム24の保持部25で濾過ポート30から取り出して廃棄ポート34に廃棄する(ステップS213)。
【0091】
その後、転送ポート43の空き状況を確認し、転送ポート43が空いていれば、搬送アーム24によって回収容器54を転送ポート43に設置して、試料注入装置202への検体の転送を行なうとともに(ステップS214)、使用済みの回収容器54を転送ポート43から回収し、その回収容器54を廃棄ポート34へ廃棄する(ステップS215)。
【0092】
なお、試料の濾過処理が終了した後、回収容器54に抽出された試料を一定の時間一定温度下に置いておくという温度処理が行われる場合がある。その場合は、温調ポート40の空き状況を確認し、空きがあれば回収容器54を空いている温調ポート40に設置する。そして、一定時間が経過した後で温調ポート40の回収容器54を転送ポート43に設置し、試料の転送を行なう。
【0093】
次に、
図2A−
図2Dに示されている分離デバイス50及び回収容器54に代えて使用することができる分離デバイス550と回収容器554について、
図13A、
図13B、
図14A及び
図14Bを用いて説明する。以下の説明では、分離デバイス550及び回収容器554が分離デバイス50及び回収容器54と異なっている点について説明する。
【0094】
図13A及び
図13Bに示された分離デイバス550は、スカート部551の付け根部分よりも下側の部分(デバイス下部)の内径及び外径がその上側の部分より小さくなっている。このデバイス下部が回収容器554内の空間554aに収容される。これにより、分離デバイス550の鍔部550cが設けられている部分の外径と、回収容器554の鍔部554cが設けられている部分の外径とを同じにすることができる。そうすることで、分離デバイス550の鍔部550cと回収容器554の鍔部554cの形状及び寸法を完全に一致させることができ、搬送アーム24の保持部25が分離デバイス550と回収容器554を同様に保持することができる。
【0095】
分離デイバス550の外周面の鍔部550cとスカート部551の付け根部分との間に、鍔部550cと同様に周方向へ鍔状に突起した突起部550eが設けられている。突起部550eは、この分離デバイス550が撹拌ポート36aに設置されたときに、撹拌ポート36aの内壁面の上端部分に相当する位置に設けられている。突起部550eは、スカート部551と同じ外径を有しており、撹拌動作が実行されたときに撹拌ポート36aの内壁面の上端部と当接し、撹拌ポート36a内における分離デバイス550の振動を防止する。
【0096】
図14A及び
図14Bに示された回収容器554は、上部開口554bの縁の複数の箇所(例えば3か所)に切欠き554dが設けられている。この切欠き554dは、分離デバイス550と回収容器554が一体化されてこの回収容器554の上部が分離デバイス550のスカート部551の内側に入り込んだときに、スカート部551の付け根部分の内側壁面と回収容器554の上端部との間に、空気を流通させる開口を形成する。濾過ポート30における濾過処理は、一体化された分離デバイス550及び回収容器554が濾過ポート30に設置された状態で濾過ポート30内の空気を吸入し、回収容器554内の圧力を負圧にすることでなされる。このとき、回収容器554内の空気が切欠き554dによって形成された開口を通過することで、回収容器554内の減圧が効率よくなされる。
【0097】
次に、前処理装置1を備えた分析システムの一実施例について
図11を用いて説明する。
【0098】
上記実施例において説明した前処理装置1に隣接してLCシステム200が配置され、さらにそのLCシステム200に隣接して質量分析計(MS)が配置されている。前処理装置1、LCシステム200及びMS300は、共通のシステム管理装置400によってその動作管理がなされる。システム管理装置400は、前処理装置1、LCシステム200及びMS300の制御や管理を行なうためのソフトウェアを備えた専用のコンピュータ又は汎用のパーソナルコンピュータであり、
図7における演算処理装置100の機能も含むものである。
【0099】
LCシステム200は、前処理装置1において前処理がなされた検体を採取して液体クロマトグラフの分析流路に注入する試料注入装置202を備えている。既述のように、前処理装置1は、前処理のなされた検体が収容されている回収容器54(又は554)をLCシステム200側へ転送する転送装置42を備えており、試料注入装置202は転送装置42によりLCシステム200側に転送されてきた回収容器54(又は554)から検体を採取するようになっている。転送装置42の移動部44がLCシステム200側へ移動すると、移動部44の転送ポート43に設置された回収容器54(又は554)が試料注入装置202内の所定の位置に配置されるようになっている。
【0100】
前処理装置1において前処理のなされた検体を収容した回収容器54(又は554)が転送装置42の転送ポート43に設置され、移動部44がLCシステム200側へ移動して回収容器54(又は554)が試料注入装置202の所定の位置に配置されると、その旨の信号がシステム管理装置400を介して試料注入装置202側に伝えられ、試料注入装置202がその回収容器54(又は554)から検体を採取する動作を開始する。試料注入装置202による試料採取動作が終了するまで、転送装置42は回収容器54(又は554)を試料注入装置202内の所定の位置に保持する。試料注入装置202による試料採取動作が終了すると、その旨の信号がシステム管理装置400を介して前処理装置1側へ伝えられ、転送装置42は移動部44を前処理装置1側へ移動させて回収容器54(又は554)を前処理装置1内の所定の位置に戻す。前処理装置1側に戻された回収容器54(又は554)は搬送アーム24によって廃棄ポート34へ搬送されて廃棄される。
【0101】
この実施例におけるLCシステム200について
図12を用いて説明する。
【0102】
LCシステム200は、試料注入装置202のほか、送液装置204、カラムオーブン206及び検出器208を備えている。送液装置204は、例えば2種類の溶媒を送液ポンプによってミキサへ送液し、ミキサで混合された溶液を移動相として送液する装置である。カラムオーブン206は試料(前処理済みの検体)を成分ごとに分離する分析カラム207を備えている。検出器208は分析カラム207で分離された試料成分を検出する、例えば紫外線吸光検出器などの検出器である。
【0103】
送液装置204は上流側分析流路218の上流端に位置し、上流側分析流路218を通じて移動相を送液する。分析カラム207と検出器208は下流側分析流路220上に設けられている。上流側分析流路218と下流側分析流路220はともに試料注入装置202に設けられた2ポジションバルブ210のポートに接続され、2ポジションバルブ210を介して互いに接続されている。
【0104】
試料注入装置202の2ポジションバルブ210は6つのポートを備えている。2ポジションバルブ210の各ポートには、上流側分析流路218、下流側分析流路220のほか、試料導入流路212、ドレイン流路214、サンプルループ216の一端及び他端が接続されている。2ポジションバルブ210の切替えにより、(1)試料導入流路212、サンプルループ216及びドレイン流路214が直列に接続され、上流側分析流路218のすぐ下流に下流側分析流路220が接続された状態(
図12に示されている状態)、又は(2)上流側分析流路218、サンプルループ216及び下流側分析流路220が直列に接続された状態、のいずれか一方の状態に切り替えられるように構成されている。試料導入流路212はインジェクションポート213に通じている。
【0105】
試料注入装置202は、先端から液の注入と吐出を行なうことができるニードル222と、そのニードル222とは流路を介して接続されたシリンジポンプ226を備えている。ニードル222は、図示されていない駆動機構によって水平方向と鉛直方向に移動するようになっていて、転送装置42によってLCシステム200側へ転送されてきた回収容器54(又は554)から試料を採取し、インジェクションポート213からその試料を注入することができる。シリンジポンプ226は、流路切替バルブ230の切替えによって、洗浄液を貯留した洗浄液容器228とも接続されるようになっている。洗浄液を吸入したシリンジポンプ228をニードル222と接続し、ニードル222をインジェクションポート213に接続した状態でシリンジポンプ226から洗浄液を送液することで、サンプルループ224やニードル222、試料導入流路212の内面洗浄を行なうことができる。
【0106】
回収容器54(又は554)に収容された検体を試料としてを採取する際は、ニードル22の先端が回収容器54(又は554)内に挿入され、シリンジポンプ226によって試料が吸入され、ニードル222とシリンジポンプ226との間に設けられたサンプルループ224に保持される。サンプルループ224に保持された試料はインジェクションポート213から注入される。試料がインジェクションポート213から注入される際、2ポジションバルブ210は、(1)試料導入流路212、サンプルループ216及びドレイン流路214を直列に接続した状態にされ、インジェクションポート213から注入された試料がサンプルループ216に保持される。その後、(2)上流側分析流路218、サンプルループ216及び下流側分析流路220が直列に接続された状態となるように、2ポジションバルブ210が切り替えられることで、送液装置204からの移動相により、サンプルループ216に保持された試料が分析カラム207に導かれ、分析カラム207において成分ごとに分離される。分析カラム207で分離された各成分は検出器208によって検出された後、さらにMS300に導入される。
【0107】
検出器208やMS300で得られた信号はシステム管理装置400(
図11参照。)に取り込まれ、分析カラム207で分離された各成分の定量や各成分の組成分析などの演算処理が、システム管理装置400に組み込まれたソフトウェアとそのソフトウェアを実行するCPUなどのハードウェアによってなされる。