(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置において、前記溶融金属プール部に配設されるスカム堰であって、
耐火性金属酸化物を含有する不定形耐火物又は定形れんがで構成されており、気孔の体積率が15体積%以上70体積%以下であることを特徴とするスカム堰。
回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置において、前記溶融金属プール部に配設されるスカム堰であって、
前記溶融金属プール部の溶融金属と接触する表層領域が、耐火性金属酸化物を含有する不定形耐火物又は定形れんがで構成されており、前記表層領域における気孔の体積率が15体積%以上70体積%以下であり、
前記表層領域の厚さが3mmを超えることを特徴とするスカム堰。
回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置であって、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のスカム堰が、前記溶融金属プール部に配設されていることを特徴とする双ロール式連続鋳造装置。
回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法であって、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のスカム堰を、前記溶融金属プール部に配設することを特徴とする薄肉鋳片の製造方法。
【背景技術】
【0002】
金属の薄肉鋳片を製造する方法として、内部に水冷構造を有し互いに逆方向に回転する一対の冷却ロールを備え、回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させ、一対の冷却ロールの外周面にそれぞれ形成された凝固シェル同士をロールキス点で圧着して所定の厚さの薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置が提供されている。このような双ロール式連続鋳造装置は、各種金属において適用されている。
【0003】
ここで、上述の溶融金属プール部においては、酸化物等が溶融金属プール部の湯面上に浮上して、スカムと称する膜状の異物が形成され、このスカムが冷却ロールの周面に断続的に巻き込まれるおそれがあった。巻き込まれたスカムは、薄肉鋳片の冷却不均一、薄肉鋳片の表面割れ、表面疵等、鋳片の表面欠陥の原因となる。
そこで、上述の双ロール式連続鋳造装置を用いて薄肉鋳片を鋳造する際には、スカムの除去や無害化によって表面欠陥の発生を抑制する手法として、以下に示すような技術が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、上記溶融金属プール部の溶融金属と気相の界面に固相酸化物を配し、スカムを捕捉することで凝固シェルへのスカムの巻き込みを防止することが提案されている。
また、特許文献2には、不活性ガス吹き込みにより発生したスカムをサイド堰近傍に押し流し、冷却ロールと凝固シェルとの間にスカムが取り込まれることを防ぐ手段が提案されている。
さらに、特許文献3には、浸漬ノズルからの吐出流を利用しスカムをサイド堰近傍に押し流すことで、冷却ロールと凝固シェルとの間にスカムが取り込まれることを防ぐ手段が提案されている。
【0005】
特許文献4には、溶融金属プール部の冷却ロール幅方向に沿って一対のスカム堰を設置し、浸漬ノズルから吐出される溶融金属の流動を緩和することで、溶融金属の波立ちを防止するとともに、溶融金属の流動を制御することでスカムが凝固シェルに取り込まれることを防ぐ手法が提案されている。
さらに、特許文献5には、スカム堰を、スカムとの濡れ性を悪い材質で作製することで、スカム堰へのスカムの付着を抑制し、長時間にわたり流動制御の効果を持続させる手法が提案されている。
また、特許文献6には、より安価な材質で無予熱に近い状態での使用に耐える高耐熱衝撃性のスカム堰の使用が提案されている。
【0006】
特許文献7には、溶融金属の表面張力を上昇させる元素を含有する材料で作製したスカム堰が提案されている。表面張力を上昇させる元素が溶融金属中に溶け出すことにより、スカム堰へのスカムの付着を抑制することができる。
また、特許文献8には、Al
2O
3によって作製されたスカム堰が提案されており、スカム堰によってスカムを吸着することにより、薄肉鋳片へのスカムの巻込み防止を図っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、特許文献1に開示された方法では、溶融金属の湯面を固体酸化物が覆うことで湯面レベルの検出が困難になるといった問題があった。また、固体酸化物と冷却ロールとが近接して配置されると、固体酸化物に付着して成長したスカムが冷却ロールと接触する懸念が高まり、薄肉鋳片へスカムが捕捉されるおそれがあった。
また、特許文献2,3に開示された方法では、鋳造時間が延びるにつれてスカムの総量が多くなってくると、サイド堰近傍のみにスカムを留めておくことが困難になり、表面欠陥発生防止の効果が小さくなるといった問題があった。
【0009】
さらに、特許文献4、5、6に開示された方法では、スカムの総量が多くなった場合の凝固シェルへの巻き込みを防ぐことはできず、結局のところ長時間の鋳造が困難であるといった問題があった。
また、特許文献7に開示された方法では、スカム堰の成分が溶融金属に溶け出すことで機能を発揮させるため、スカム堰成分の溶解に伴って溶融金属の成分が変化してしまうといった問題があった。
さらに、特許文献8に開示された方法では、スカムの吸着量には限りがあるとともに、スカムの組成によっては浸食により長時間使用できないといった問題があった。
【0010】
以上のように、従来の技術においては、スカムの巻き込みを長時間にわたって十分に抑制することができなかった。
【0011】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、無予熱に近い状態で溶融金属と接触しても亀裂を発生させない耐熱衝撃性を有し、6時間を超える鋳造時間においても溶損することなく、自身の有する気孔にスカムを吸収・吸着除去することでスカムの凝固シェルへの捕捉を抑制することができるスカム堰、このスカム堰を備えた双ロール式連続鋳造装置、及び、薄肉鋳片の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。
従来、スカム堰を安定に使用するための方策として、スカム堰へのスカム付着を抑制する手法に主眼が置かれてきた。具体的には、スカムに対して濡れにくいCを含む材料系とすることでスカムに対して接触防止を図る手法が取られてきた。しかし、この手法では、凝固シェルへスカムが捕捉されてしまい、鋳片品位が低下してしまうことが課題であった。さらに、Cを含む材料系ではスカム堰への地金付着が進行し、それが脱離して薄肉鋳片に巻き込まれることが課題であった。これらはひとえに高熱伝導率、スラグに対する濡れにくいというCの性質によるものであり、Cを使用した場合にはこれらの課題を解決することは困難である。
【0013】
一方、スカムの薄肉鋳片への捕捉を抑制するため、Al
2O
3質のスカム堰にスカムを吸着させる手法が考えられた。しかしながら、単純にAl
2O
3質とするだけではスカムの吸着量は低位であり、CaOが含まれる組成のスカムに対して使用された場合にはスカム堰の溶損が発生し、耐用性に難があった。このように、従来検討された系ではスカム堰に求められる具備特性を十分満足するものは存在しなかった。
【0014】
本発明者らは鋭意研究の末、スカム堰の気孔を適切に制御することで、気孔が膨張の吸収代となり高耐熱衝撃性の実現が可能であること、更に気孔がスカムの吸着代となりスカムの吸着を長時間持続させつつ、気孔の体積率(以後、気孔率とも称する)が高い場合には高断熱性により地金の付着をも抑制できることを知見した。さらに、スカム堰を構成する材質を適切に制御することで、たとえ気孔率の高いスカム堰としてもスカムによる浸食速度を低減することができ、高い耐食性をも実現可能であることとの知見を得た。
【0015】
本発明は上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明のスカム堰は、回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置において、前記溶融金属プール部に配設されるスカム堰であって、耐火性金属酸化物を含有する不定形耐火物又は定形れんがで構成されており、気孔の体積率が15体積%以上70体積%以下の範囲内とされていることを特徴としている。
【0016】
この構成のスカム堰によれば、耐火性金属酸化物を含有する不定形耐火物又は定形れんがで構成されており、気孔の体積率が15体積%以上とされているので、熱膨張の吸収代が確保されて耐熱衝撃性が向上するとともに、この気孔によってスカムを十分に吸着することができる。一方、気孔の体積率が70体積%以下とされているので、強度が確保されており、溶融金属の流れ等による折損を抑制することができる。
以上により、熱衝撃性に優れるとともにスカムの巻き込みを長時間にわたって十分に抑制することができ、安定して薄肉鋳片の鋳造を行うことが可能である。
【0017】
また、本発明のスカム堰は、回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置において、前記溶融金属プール部に配設されるスカム堰であって、前記溶融金属プール部の溶融金属と接触する表層領域が、耐火性金属酸化物を含有する不定形耐火物又は定形れんがで構成されており、前記表層領域における気孔の体積率が15体積%以上70体積%以下であり、前記表層領域の厚さが3mmを超えることを特徴とする。
【0018】
この構成のスカム堰によれば、前記溶融金属プール部の溶融金属と接触する表層領域が、耐火性金属酸化物を含有する不定形耐火物又は定形れんがで構成されており、前記表層領域における気孔の体積率が15体積%以上70体積%以下の範囲内とされているので、溶融金属と接触する表層領域の耐熱衝撃性に優れるとともにスカムを十分に吸着することができる。さらに、表層領域の強度が確保されており、溶融金属の流れ等による折損を抑制することができる。また、前述の表層領域の厚さが3mmを超えているので、スカムを十分に吸着することができる。
【0019】
また、本発明のスカム堰においては、前記耐火性金属酸化物が、Al
2O
3,ZrO
2,MgO,SiO
2,CaO・6Al
2O
3から選択される少なくとも1種または2種以上であることが好ましい。
この場合、スカムの吸着性、耐熱衝撃性、スカムに対する耐食性等の各種特性に優れた材質を選択することで、各種鋳造条件に応じたスカム堰を適用することができ、長時間安定して鋳造することが可能となる。
【0020】
さらに、本発明のスカム堰においては、前記気孔の平均径が10μm以上50μm未満の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、気孔の平均径が10μm以上50μm未満の範囲内とされているので、スカムを十分に吸着することができる。なお、本発明における気孔の平均径は、水銀圧入法(JIS R 1655)により測定され、累積体積率が50%の気孔径を「気孔の平均径」とする。
【0021】
また、本発明のスカム堰においては、前記気孔の体積率が20体積%以上50体積%未満の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、気孔の体積率が20体積%以上とされているので、熱膨張の吸収代が的確に確保され、耐熱衝撃性が十分に向上するとともに、この気孔によってスカムを十分に吸着することができる。一方、気孔の体積率が50体積%以下とされているので、強度が十分確保されており、溶融金属の流れ等による折損を抑制することができる。
【0022】
本発明の双ロール式連続鋳造装置は、回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置であって、前述のスカム堰が、前記溶融金属プール部に配設されていることを特徴としている。
【0023】
また、本発明の薄肉鋳片の製造方法は、回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法であって、前述のスカム堰を、前記溶融金属プール部に配設することを特徴としている。
【0024】
この構成の双ロール式連続鋳造装置及び薄肉鋳片の製造方法によれば、上述のスカム堰が溶融金属プール部に配設されているので、スカム堰によってスカムを吸着することができ、スカムが冷却ロールに巻き込まれることを抑制できる。また、熱衝撃性や強度に優れており、長時間使用することができる。よって、表面品質に優れた薄肉鋳片を安定して鋳造することができる。
【発明の効果】
【0025】
上述のように、本発明によれば、無予熱に近い状態で溶融金属と接触しても亀裂を発生させない耐熱衝撃性を有し、6時間を超える鋳造時間においても溶損することなく、自身の有する気孔にスカムを吸収・吸着除去することでスカムの凝固シェルへの捕捉を抑制することができるスカム堰、このスカム堰を備えた双ロール式連続鋳造装置、及び、薄肉鋳片の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の実施形態について、添付した図面を参照して説明する。以下の実施形態においては、鋳造する対象金属を鋼として説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
本実施形態では、溶融金属として溶鋼を用いており、鋼材からなる薄肉鋳片1を製造するものとされている。なお、鋼種としては、例えば0.001〜0.01%C極低炭鋼、0.02〜0.05%C低炭鋼、0.06〜0.4%C中炭鋼、0.5〜1.2%C高炭鋼、SUS304鋼に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼、SUS430鋼に代表されるフェライト系ステンレス鋼、3.0〜3.5%Si方向性電磁鋼、0.1〜6.5%Si無方向性電磁鋼等(なお、%は、質量%)が挙げられる。
また、本実施形態では、製造される薄肉鋳片1の幅が200mm以上1800mm以下の範囲内、厚さが0.8mm以上5mm以下の範囲内とされている。
【0028】
本実施形態である薄肉鋳片の製造方法に用いられる双ロール式連続鋳造装置10について説明する。
図1に示す双ロール式連続鋳造装置10は、一対の冷却ロール11、11と、薄肉鋳片1を支持するピンチロール12,12及び13,13と、一対の冷却ロール11、11の幅方向端部に配設されたサイド堰15と、これら一対の冷却ロール11、11とサイド堰15とによって画成された溶鋼プール部16に供給される溶鋼3を保持するタンディッシュ18と、このタンディッシュ18から溶鋼プール部16へと溶鋼3を供給する浸漬ノズル19と、を備えている。
【0029】
この双ロール式連続鋳造装置10においては、溶鋼3が回転する冷却ロール11,11に接触して冷却されることにより、冷却ロール11,11の周面の上で凝固シェル5、5が成長し、一対の冷却ロール11,11にそれぞれ形成された凝固シェル5、5同士がロールキス点で圧着されることによって、所定厚みの薄肉鋳片1が鋳造される。
【0030】
ここで、
図3に示すように、溶鋼プール部16には、溶鋼3が貯留されており、溶鋼面には、アルミナ皮膜等からなるスカムXが形成されている。
このスカムXが冷却ロール11に巻き込むことを抑制するために、溶鋼プール部16には、スカム堰20が配設される。詳述すると、
図2から
図4に示すように、スカム堰20は、浸漬ノズル19と冷却ロール11、11との間に配置され、その一部が溶鋼3内に浸漬されている。
【0031】
ここで、本実施形態であるスカム堰20は、矩形平板状をなしており、
図3に示すように、溶鋼3への浸漬深さ(鉛直方向の深さ)Dが5mm以上とされている。なお、この浸漬深さDが5mmを下回った場合には、溶鋼プール部16の表面の波立ちや表面流れによって、スカムXがスカム堰20を潜り抜けることがある。
【0032】
そして、本実施形態におけるスカム堰20は、耐火性金属酸化物を含有する不定形耐火物又は定形れんがで構成されており、気孔の体積率が15体積%以上70体積%以下である。好ましくは、気孔の体積率は20体積%以上50体積%未満である。
また、本実施形態におけるスカム堰20においては、気孔の平均径が10μm以上50μm未満であることが好ましい。
さらに、上述の耐火性金属酸化物としては、Al
2O
3,ZrO
2,MgO,SiO
2,CaO・6Al
2O
3から選択される少なくとも1種または2種以上を用いることが好ましい。
【0033】
以下に、スカム堰20の気孔の体積率、気孔の平均径、耐火性金属酸化物を、上述のように規定した理由について説明する。
【0034】
(気孔の体積率)
本実施形態であるスカム堰20においては、上述のように気孔を有しており、この気孔によって、熱膨張の吸収代の確保による耐熱衝撃性向上、スカムの吸着代の付与、伝熱経路の低減による地金付着抑制、といった作用効果を得ることが可能となる。
ここで、気孔の体積率が15体積%未満の場合には、気孔による上述の作用効果を奏することができなくなるおそれがある。一方、気孔の体積率が70体積%を超えると、強度が不足し、溶鋼流によって折損してしまうおそれがある。
このため、本実施形態であるスカム堰20においては、気孔の体積率を15体積%以上70体積%以下の範囲内に設定している。
なお、気孔による上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、気孔の体積率の下限を20体積%以上とすることが好ましい。また、溶鋼流による折損を確実に抑制するためには、気孔の体積率の上限を50体積%未満とすることが好ましい。
【0035】
ここで、スカム堰20における気孔率の制御は、軽量骨材、有機繊維の使用や、混練時に使用する水分量を調整することによって実施することができる。
なお、軽量骨材は、それ自体が気孔を有していることから、成形後の気孔率を向上させることが可能となる。また、有機繊維や水分は、加熱時に消失して成形体の内部に気泡を生成させることから、気孔率を向上させることが可能となる。
【0036】
(気孔の平均径)
スカム堰20における気孔は、上述のようにスカムを吸着する作用を有する。ここで、気孔の平均径を10μm以上とすることにより、スカムの浸透量が確保され、スカムを十分に吸着することができる。一方、スカム堰20における気孔の平均径を50μm未満とすることにより、スカム堰20の気孔とスカムとが十分に接触することになり、スカムを十分に吸着することができる。
よって、本実施形態であるスカム堰20においては、気孔の平均径を10μm以上50μm未満の範囲内に設定している。なお、スカムの吸着作用を確実に奏功せしめるためには、スカム堰20における気孔の平均径の下限を25μm以上とすることが好ましく、気孔の平均径の上限を40μm以下とすることがより好ましい。
【0037】
なお、本実施形態における気孔の平均径は、水銀圧入法(JIS R 1655)によって測定され、累積体積率が50%の気孔径を「気孔の平均径」とした。
また、気孔の平均径は、有機繊維の添加量や、混練時の水分量を適切に制御することにより調整することができる。これにより、本実施形態であるスカム堰20においては、いわゆる多孔質断熱材のように単純に気孔が多い材料とは異なり、スカムの吸着に寄与する気孔の量や径を制御することができる。
【0038】
(耐火性金属酸化物)
本実施形態であるスカム堰20を構成する耐火性金属酸化物としては、Al
2O
3,ZrO
2,MgO,SiO
2,CaO・6Al
2O
3から選択される少なくとも1種または2種以上を用いることができる。
【0039】
主成分としてAl
2O
3を選択した場合には、高気孔率としても比較的高強度なスカム堰20とすることができる。なお、主成分としてAl
2O
3を選択した場合に、後述する他の成分を配合することにより、吸着性の高いAl
2O
3による耐食性の低下を他の成分で抑制し、多孔質にした場合であっても強度を維持しつつ、且つスカムによる浸食を抑制することができ、高耐用なスカム堰20を得ることができる。
【0040】
主成分としてZrO
2を選択した場合には、その低熱伝導率から地金付着抑制能の向上が図れるとともに、CaOに対する耐食性の高さからスカムに対する耐食性向上効果が得られる。
主成分としてCaO・6Al
2O
3を選択した場合には、その板状構造から高気孔率の実現が容易でスカム吸着能の向上が得られるとともに、FeOに対する耐食性の高さからスカムに対する耐食性の向上効果が得られる。
【0041】
主成分としてMgOを選択した場合には、CaO、FeOに対する耐食性の高さから、上述のCaO・6Al
2O
3、ZrO
2と比較してスカムに対するさらに高い耐食性が得られる。
主成分としてSiO
2を選択した場合には、その熱膨張率の低さから耐熱衝撃性の向上の効果が得られる。これにより、耐食性を重視して比較的低気孔率としたい場合に、耐熱衝撃性が低下する懸念のある材料においても、安定に使用可能な耐用性を得ることができる。
【0042】
以上のような本実施形態のスカム堰20は、耐火性金属酸化物を含有する不定形耐火物又は定形れんがで構成されており、スカム堰20における気孔の体積率が15体積%以上であるので、熱膨張の吸収代が確保され、耐熱衝撃性が向上するとともに、この気孔によってスカムを十分に吸着することができる。一方、気孔の体積率が70体積%以下であるので、強度が確保されており、溶鋼3の流れ等による折損を抑制することができる。
よって、熱衝撃性に優れるとともにスカムの巻き込みを長時間にわたって十分に抑制することができ、安定して薄肉鋳片1の鋳造を行うことが可能である。
【0043】
また、本実施形態であるスカム堰20においては、気孔の平均径が10μm以上50μm未満の範囲内であるので、スカム堰20の気孔にスカムが十分に浸透することになり、スカムを的確に吸着することができる。よって、スカムの薄肉鋳片1への巻き込みをさらに抑制でき、表面品質に優れた薄肉鋳片1を製造することができる。
【0044】
さらに、本実施形態であるスカム堰20においては、耐火性金属酸化物が、Al
2O
3,ZrO
2,MgO,SiO
2,CaO・6Al
2O
3から選択される少なくとも1種または2種以上であるので、スカムの吸着性、耐熱衝撃性、スカムに対する耐食性等の各種特性に優れた材質を選択することで、各種鋳造条件に応じたスカム堰20を適用することができ、長時間安定して薄肉鋳片1を鋳造することが可能となる。
【0045】
また、本実施形態である双ロール式連続鋳造装置10及び薄肉鋳片1の製造方法によれば、本実施形態であるスカム堰20が溶鋼プール部16に配設されているので、このスカム堰20によってスカムを十分に吸着することができ、スカムが冷却ロール11に巻き込まれることを抑制できる。また、スカム堰20の耐熱衝撃性、耐食性に優れているので、長時間安定して使用することができる。よって、表面品質に優れた薄肉鋳片1を安定して鋳造することが可能となる。
【0046】
以上、本発明の実施形態であるスカム堰、双ロール式連続鋳造装置及び薄肉鋳片の製造方法について具体的に説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、
図1に示すように、ピンチロールを配設した双ロール式連続鋳造装置を例に挙げて説明したが、これらのロール等の配置に限定はなく、適宜設計変更してもよい。
【0047】
以上の本実施形態では、スカム堰20の全体を、耐火性金属酸化物を含有する不定形耐火物又は定形れんがで構成されたものとして説明したが、これに限定されることはなく、例えば
図5に示すように、溶融金属プール部の溶融金属と接触する表層領域21と本体22の複層構造とされており、表層領域21が、耐火性金属酸化物を含有する不定形耐火物又は定形れんがで構成され、この表層領域21における気孔の体積率が15体積%以上70体積%以下であってもよい。
【0048】
スカムの吸着、地金の付着といった現象は溶融金属との接触界面で生じることから、少なくとも溶融金属と接触する表層領域21を、耐火性金属酸化物を含有する不定形耐火物又は定形れんがで構成し、この表層領域21における気孔率を15体積%以上70体積%以下の範囲内とすることで、本実施形態と同様の作用効果を奏することが可能となる。
【0049】
上述のように、溶融金属と接触しない本体22は、気孔率を特に限定しなくともその効果を得ることができることから、スカム吸着性以外の性質は従来材と同程度を維持するためにも、吸着の起こる表層領域21のみを多孔質とし、本体22の気孔率は従来材程度にするのが好ましい。同様に、本体22の材質についても、表層領域21と同材質に限定されない。複層化したスカム堰20は、例えば不定形耐火物の場合は、まず緻密質で強度を担保するための本体22を鋳込んだ後、その周りに表層領域21の多孔質材料が施工されるように金枠や発泡枠を用いて鋳込む、鋳込み分けによって作製することができる。また、本体22と表層領域21とを別々に鋳込み、モルタルにより接着させることでも作製することができる。
【0050】
ここで、
図5に示すスカム堰20においては、表層領域21の厚さが3mmを超えていると、スカムの吸着可能部位が確保され、スカム吸着の効果を長く維持することが可能となる。よって、
図5に示すスカム堰20においては、表層領域21の厚さは3mmを超えることが好ましい。
なお、スカムの吸着はスカム堰20の表面にある開気孔によって生じるが、開気孔は表面から10mm以内にあるものが大部分を占めるため、表層領域21の厚さが10mmを超えてもスカム吸着の効果への寄与は少ない。このため、表層領域21の厚さの上限は10mm以下とすることが好ましい。
【実施例】
【0051】
以下に、本発明の効果を確認すべく、実施した実験結果について説明する。
【0052】
表1、表2に示す耐火性金属酸化物を用いて、アルミナセメントを外掛けで11mass%添加した配合物に焼き飛ばし材として綿を添加し、水と混練し、鋳型に注ぎ入れて24時間の養生後110℃で24時間の乾燥を行うことでスカム堰を作製した。気孔率の制御は焼き飛ばし材と添加水分の量によって行った。
【0053】
得られたスカム堰について、気孔の体積率、気孔の平均径、耐熱衝撃性、スカム吸着性、耐食性、地金の付着性を以下のようにして評価した。評価結果を表3、表4に示す。
【0054】
(気孔の体積率)
気孔の体積率(見掛気孔率)の測定は、煮沸法(JIS R 2205)により行った。複層化したスカム堰の表層領域の気孔の体積率は、表層領域のみを切削し取出した上で測定を行った。
【0055】
(気孔の平均径)
気孔の平均径の測定は水銀圧入法(JIS R 1655)により行った。複層化したスカム堰の表層領域の気孔の平均径は、表層領域のみを切削し取り出した上で測定した。
【0056】
(耐熱衝撃性)
耐熱衝撃性の評価では、1550℃の溶銑中に40mm×40mm×160mmの耐火物を浸漬させ、5分間保持した後、空冷させる条件で耐熱衝撃性試験を行った。この一連の加熱、冷却の操作を繰り返し行い、5回以内に折損したものは「×」、5回から10回のサイクルの間に折損したものは「○」、11回以上折損なく維持できたものは「◎」と表記した。
【0057】
(スカムの吸着性)
スカムの吸着性は、1550℃の溶銑にスカムを200g浮かべ、この溶銑に対して40mm×100mm×25mm形状に加工した耐火物を浸漬させ、30分間保持した後の重量の増分によって評価した。表3、表4には実施例1で示すスカム堰における重量増分によって規格化した値を表示した。スカムの組成は質量比で38%FeO−24%Al
2O
3−14%CaO−24%SiO
2とした。数値が大きいと、スカム堰に対して多くのスカムが吸着されているということであり、スカム吸着能が長時間維持できることを示す。なお、溶鋼を用いると地金の付着が生じることから、スカムのみの吸着性を評価するために、溶銑を用いて試験を行った。
【0058】
(耐食性)
スカムに対する耐食性は、1550℃の溶鋼にスカムを200g浮かべ、この溶鋼に対してφ50mm×150mmの耐火物を浸漬させ150rpmの回転を付与し、スカムと溶鋼界面の寸法変化を測定することで評価を行った。表3、表4には実施例1で示すスカム堰における寸法変化によって規格化した値を表示した。数値が大きいと、スカムに対して溶損が進行しやすいことを示し、使用中の溶損による折損のリスクが高まることを示している。
【0059】
(地金の付着性)
地金の付着性は、1580℃の溶鋼中に40mm×40mm×160mmの耐火物を浸漬させ、10秒間保持した後、溶鋼から引き上げ空冷する前後での重量の増分によって評価した。表3、表4には実施例1で示すスカム堰における重量増分によって規格化した値を表示した。数値が大きいと、より多くの地金が付着していることを示し、鋳片への地金巻き込みのリスクが高くなることを示している。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
気孔の体積率(見掛気孔率)の増大に伴いスカムの吸着量が増加するとともに地金付着量が低減する傾向が見られた。その一方で、気孔の体積率(見掛気孔率)を増加させると耐食性は低下するものの、ZrO
2、MgO、CA6(CaO・6Al
2O
3)の使用により耐食性の低減を抑制できる結果であった。またSiO
2の使用によりスカム堰の耐熱衝撃性の向上が可能な結果であった。
【0065】
以上の結果から、本発明によれば、無予熱に近い状態で溶融金属と接触しても亀裂を発生させない耐熱衝撃性を有し、6時間を超える鋳造時間においても溶損することなく、自身の有する気孔にスカムを吸収・吸着除去することでスカムの凝固シェルへの捕捉を抑制することができるスカム堰を提供可能であることが確認された。