(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転する一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶融金属溜まり部に溶融金属を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法であって、
鋳造開始時において前記一対の冷却ドラムを停止した状態で前記溶融金属溜まり部に前記溶融金属を供給した際に形成される前記薄肉鋳片の肉厚部が、前記冷却ドラムの回転起動後に前記一対の冷却ドラムの最近接点を通過するまでの第1ステップにおいては、前記一対の冷却ドラムの回転軸方向の一端側及び他端側を同一の所定の圧力(第1圧力)で、前記一対の冷却ドラムが互いに近接する方向に向けて押圧し、
前記第1ステップ後から前記冷却ドラムが1回転以上するまでの第2ステップにおいては、前記一対の冷却ドラムの回転軸方向の一端側及び他端側を同一の圧力で、かつ、前記第1ステップよりも高い所定の圧力(第2圧力)で、前記一対の冷却ドラムが互いに近接する方向に押圧し、
前記第2ステップ以後の第3ステップにおいては、前記一対の冷却ドラムの回転軸方向の一端側及び他端側の反力の合計値が所定の値となるように、かつ、前記一対の冷却ドラムの互いの回転軸が平行に保持されるように圧力制御を行うことを特徴とする薄肉鋳片の製造方法。
【背景技術】
【0002】
金属の薄肉鋳片を製造する方法として、例えば、特許文献1、2に示すように、内部に水冷構造を有する冷却ドラムを備え、回転する一対の冷却ドラム間に形成された溶融金属溜まり部に溶融金属を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させ、一対の冷却ドラムの外周面にそれぞれ形成された凝固シェル同士をドラムキス点で接合し、圧下して所定の厚さの薄肉鋳片を製造する双ドラム式連続鋳造装置を用いた製造方法が提供されている。このような双ドラム式連続鋳造装置を用いた製造方法は、各種金属において適用されている。
【0003】
ここで、上述の双ドラム式連続鋳造装置においては、板幅方向の厚さが均一な薄肉鋳片を製造するために、一対の冷却ドラムの互いの回転軸が平行に保持されるように、圧力制御を行う必要がある。
そこで、特許文献1においては、一方の冷却ドラムの両端部の押付力を検出加算し、これに基づく信号により、一方の冷却ドラムの両端の押付力の和が所定の値となるように他方の冷却ドラムの両端を油圧シリンダーによって平行に移動させる方法が提案されている。
【0004】
上述の双ドラム式連続鋳造装置において鋳造を開始する際には、冷却ドラム間にダミーシートを挟持しておき、一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶融金属溜まり部に溶融金属を供給し、溶融金属溜まり部に一定量の溶融金属が溜まった段階で冷却ドラムを回転させて、ダミーシートに連結するように薄肉鋳片を形成し、冷却ドラム間からダミーシート及びこのダミーシートに連結された薄肉鋳片を引き出している。
【0005】
このため、鋳造開始直後の非定常時には、凝固シェルの厚みの偏差が大きく、特許文献1のように圧力制御した場合には、ドラムキス点で凝固シェルを十分に圧下することができず、薄肉鋳片の厚み中央部分に未凝固部が形成され、薄肉鋳片の表面温度が比較的高くなって強度が不足し、薄肉鋳片の破断等が生じ、安定して鋳造を開始できないことがあった。特に、冷却ドラムを停止した状態で凝固シェルが成長することにより、鋳造開始直後の薄肉鋳片には、こぶ状の肉厚部が形成されることになり、この肉厚部がドラムキス点を通過する際には、鋳造が不安定となる。
【0006】
そこで、特許文献2においては、鋳造開始直後と定常状態とで、一対の冷却ドラム間の圧力制御を切り替える方法が提案されている。
具体的は、冷却ドラムを回転起動した後に薄肉鋳片の肉厚部が冷却ドラムの最近接点(ドラムキス点)を通過するまでの第1ステップでは、冷却ドラムの平行制御を行うことなく、一対の冷却ドラムが近接する方向に比較的低圧で押圧し、第1ステップの後からノズルからの溶鋼の吐出流によるシェル洗いの影響がなくなるまでの第2ステップでは、冷却ドラムの平行制御を行うことなく、第1ステップよりも高い圧力で押圧し、第2ステップの後の第3ステップでは、一対の冷却ドラムの回転軸が互いに平行となるように平行制御を実施している。
【0007】
この特許文献2においては、凝固シェルの厚みの偏差が大きい鋳造開始直後の非定常時においては、一対の冷却ドラムを単純に押圧しているので、ドラムキス点において凝固シェル同士を十分に圧下することができ、薄肉鋳片の厚み中央部分に未凝固部が形成されることを抑制できる。なお、ノズルからの溶鋼の吐出流によるシェル洗いの影響がなくなるまでの第2ステップは、溶融金属の湯面が十分に上昇するまでの期間であり、この期間では冷却ドラムはおおよそ0.4回転する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載された方法によって一対の冷却ドラムの圧力制御を実施した場合であっても、鋳造開始時において、サイド堰の表面に形成された地金が冷却ドラム間に噛み込まれ、ドラムキス点において凝固シェル同士を十分に圧下することができなくなり、薄肉鋳片の破断が発生することがあった。
【0010】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、双ドラム式連続鋳造装置において、薄肉鋳片の破断を抑制でき、鋳造を安定して開始することが可能な薄肉鋳片の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。双ドラム式連続鋳造装置においては、上述のように、冷却ドラムを停止した状態で溶融金属溜まり部に溶融金属を供給していることから、冷却ドラムの最近接点(ドラムキス点)においては、溶融金属との接触時間が長く、局所的に加熱されて熱膨張し、熱膨張部が形成される。一方、ドラムキス点よりもドラム回転方向の前方側は溶融金属と接触していないため、熱膨張しておらず、前記熱膨張部との間には大きな段差が生じる。
【0012】
そして、冷却ドラムが回転して上述の熱膨張部がサイド堰と接触する位置となった場合には、サイド堰と冷却ドラムとの間に隙間が形成され、この隙間に溶融金属が差し込み、差し込んだ溶融金属が固化してサイド堰表面の地金と一体化し、これが冷却ドラムの間に噛み込まれる。このとき、冷却ドラムを平行制御した場合には、ドラムキス点において凝固シェル同士を十分に圧下できない領域が存在し、薄肉鋳片の厚み中央部分に未凝固部が形成され、薄肉鋳片の破断が生じるおそれがある。
なお、時間が経過するに伴い、局所的な熱膨張は抑えられ、上述の熱膨張部の影響はなくなる。
【0013】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明に係る薄肉鋳片の製造方法は、回転する一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶融金属溜まり部に溶融金属を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法であって、鋳造開始時において前記一対の冷却ドラムを停止した状態で前記溶融金属溜まり部に前記溶融金属を供給した際に形成される前記薄肉鋳片の肉厚部が、前記冷却ドラムの回転起動後に前記一対の冷却ドラムの最近接点を通過するまでの第1ステップにおいては、前記一対の冷却ドラムの回転軸方向の一端側及び他端側を同一の所定の圧力(第1圧力)で、前記一対の冷却ドラムが互いに近接する方向に向けて押圧し、前記第1ステップ後から前記冷却ドラムが1回転以上するまでの第2ステップにおいては、前記一対の冷却ドラムの回転軸方向の一端側及び他端側を同一の圧力で、かつ、前記第1ステップよりも高い所定の圧力(第2圧力)で、前記一対の冷却ドラムが互いに近接する方向に押圧し、前記第2ステップ以後の第3ステップにおいては、前記一対の冷却ドラムの回転軸方向の一端側及び他端側の反力の合計値が所定の値となるように、かつ、前記一対の冷却ドラムの互いの回転軸が平行に保持されるように圧力制御を行うことを特徴としている。
【0014】
この構成の薄肉鋳片の製造方法によれば、前記第1ステップ後に前記冷却ドラムが1回転以上するまでの第2ステップにおいては、前記一対の冷却ドラムの回転軸方向の一端側及び他端側を同一の所定の圧力(第2圧力)で、前記一対の冷却ドラムが互いに近接する方向に押圧し、前記第2ステップ以後の第3ステップにおいては、前記一対の冷却ドラムの回転軸方向の一端側及び他端側の反力の合計値が所定の値となるように、かつ、前記一対の冷却ドラムの互いの回転軸が平行に保持されるように圧力制御を行うように構成されていることから、鋳造開始時に形成された熱膨張部がサイド堰と接触する期間において、平行制御を実施しておらず、前記一対の冷却ドラムの回転軸方向の一端側及び他端側を同一の圧力で押圧されることになり、冷却ドラム間に地金が噛み込まれてもドラムキス点において凝固シェル同士を十分に圧下することができ、薄肉鋳片の厚み中央部分に未凝固部が形成されることが抑制される。これにより、薄肉鋳片の破断が抑制され、鋳造を安定して開始することができる。
【0015】
また、本発明の薄肉鋳片の製造方法においては、鋳造開始時において前記一対の冷却ドラムを停止した状態で前記溶融金属溜まり部に前記溶融金属を供給した際に形成される前記薄肉鋳片の肉厚部が、前記冷却ドラムの回転起動後に前記冷却ドラムの最近接点を通過するまでの第1ステップにおいては、前記一対の冷却ドラムの回転軸方向の一端側及び他端側を同一の所定の圧力(第1圧力)で、前記一対の冷却ドラムが互いに近接する方向に向けて押圧しているので、肉厚部を比較的安定して冷却ドラム間を通過させることができる。
さらに、第2ステップでは、第1ステップよりも高い所定の圧力(第2圧力)で冷却ドラムを押圧しているので、ドラムキス点において凝固シェル同士を十分に圧下することができ、薄肉鋳片の厚み中央部分に未凝固部が形成されることを抑制できる。
【0016】
ここで、本発明に係る薄肉鋳片の製造方法においては、前記第2ステップは、前記第1ステップ後から前記冷却ドラムが2回転以上するまでの期間であることが好ましい。
この場合、冷却ドラムが2回転以上するまでの期間を第2ステップとすることにより、上述の熱膨張部が2回転目まで残存していた場合であっても、前記一対の冷却ドラムの回転軸方向の一端側及び他端側を同一の圧力で押圧することになり、ドラムキス点において凝固シェル同士を十分に圧下することができ、薄肉鋳片の厚み中央部分に未凝固部が形成されることを抑制できる。これにより、薄肉鋳片の破断を抑制でき、鋳造を安定して開始することができる。
【発明の効果】
【0017】
上述のように、本発明によれば、双ドラム式連続鋳造装置において、薄肉鋳片の破断を抑制でき、鋳造を安定して開始することが可能な薄肉鋳片の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態である薄肉鋳片の製造方法について、添付した図面を参照して説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
ここで、本実施形態では、溶融金属として溶鋼を用いており、鋼材からなる薄肉鋳片1を製造するものとされている。また、本実施形態では、製造される薄肉鋳片1の幅が200mm以上1800mm以下の範囲内、厚さが0.8mm以上5mm以下の範囲内とされている。
【0020】
まず、本実施形態である薄肉鋳片の製造方法に用いられる双ドラム式連続鋳造装置10について説明する。
図1に示す双ドラム式連続鋳造装置10は、一対の冷却ドラム11、11と、薄肉鋳片1を支持するピンチロール13、13と、一対の冷却ドラム11、11の幅方向端部に配設されたサイド堰15と、これら一対の冷却ドラム11、11とサイド堰15とによって画成された溶鋼プール部16に供給される溶鋼3を保持するタンディッシュ18と、このタンディッシュ18から溶鋼プール部16へと溶鋼3を供給する浸漬ノズル19と、を備えている。
【0021】
この双ドラム式連続鋳造装置10においては、溶鋼3が回転する冷却ドラム11,11に接触して冷却されることにより、冷却ドラム11,11の周面の上で凝固シェル5、5が成長し、一対の冷却ドラム11,11にそれぞれ形成された凝固シェル5、5同士がドラムキス点で圧着されることによって、所定厚みの薄肉鋳片1が鋳造される。
【0022】
ここで、
図2に示すように、冷却ドラム11の端面にサイド堰15が配設されることによって、溶鋼プール部16が画成されている。
溶鋼プール部16の湯面は、
図2に示すように、一対の冷却ドラム11,11の周面と一対のサイド堰15,15によって四方を囲まれた矩形状をなしており、この矩形状をなす湯面の中央部に浸漬ノズル19が配設されている。
【0023】
また、
図3に示すように、サイド堰15の溶鋼3との接触部は、略逆三角形状をなしている。鋳造開始時には、サイド堰15の温度が比較的低いため、この接触部において地金Mが発生することになる。
なお、サイド堰15においては、
図4に示すように、ベースプレート15aと、冷却ドラム11と摺接する領域に配設されたセラミックプレート15bと、を有しており、セラミックプレート15bは、ベースプレート15aよりも硬質の耐火材で構成されている。
なお、
図4は、冷却ドラム11の端面とセラミックプレート15bの接触部(
図5(d)のE点)の水平断面である。
【0024】
ここで、上述の双ドラム式連続鋳造装置10において鋳造開始時には、一対の冷却ドラム11,11が停止した状態で、冷却ドラム11、11の間にダミーシート(図示なし)が挿入され、溶鋼プール部16に向けて溶鋼3が供給される。
そして、冷却ドラム11,11を回転起動し、薄肉鋳片1が冷却ドラム11,11の下方側から引抜かれていく。
【0025】
このとき、鋳造開始直後は、溶鋼プール部16の溶鋼3が凝固して薄肉鋳片1の厚みは厚くなり、こぶ状の肉厚部が形成される。
また、溶鋼プール部16においては、浸漬ノズル19からの溶鋼3の吐出流が凝固シェル5を洗い流すシェル洗いが発生する。このシェル洗いは、溶鋼プール部16における湯面高さが高くなると発生しなくなる。
【0026】
ここで、鋳造開始直後における冷却ドラム11とサイド堰15との関係について
図5を用いて説明する。
まず、
図5(a)に示すように、溶鋼3を供給する前には冷却ドラム11とサイド堰15とは密着した状態である。
【0027】
そして、冷却ドラム11,11を停止した状態で溶鋼3を供給する。すると、
図5(b)に示すように、冷却ドラム11,11の最近接点P(ドラムキス点)の近傍において、溶鋼3との接触により冷却ドラム11が熱膨張し、熱膨張部Eが形成される。なお、冷却ドラム11,11の最近接点Pよりもドラム回転方向Rの前方側の領域は、溶鋼3と接触していないため、熱膨張はしておらず、熱膨張部Eとの間に大きな段差が生じる。
一方、冷却ドラム11,11の最近接点Pよりもドラム回転方向Rの後方側の領域は、溶融プール部16に位置するため、溶鋼3との接触によって熱膨張しているが、溶鋼3との接触時間によって熱膨張量は、ドラム回転方向Rの後方側に向かうにしたがい漸次小さくなっている。このため、サイド堰15は傾斜した状態で冷却ドラム11、11と当接しているが、大きな隙間は生じていない。
【0028】
この状態で、冷却ドラム11,11の回転が起動される。このときも、
図5(c)に示すように、冷却ドラム11,11の最近接点Pよりもドラム回転方向Rの後方側の領域は、熱膨張しているが、その熱膨張量がドラム回転方向Rの後方側に向かうにしたがい漸次小さくなっているので、サイド堰15は傾斜した状態で冷却ドラム11、11と当接しているが、大きな隙間は生じていない。
【0029】
そして、冷却ドラム11がさらに回転して、熱膨張部E(鋳造開始時に冷却ドラム11を停止した際に冷却ドラム11,11の最近接点P(ドラムキス点)に位置した部分)がサイド堰15と摺接する領域に位置すると、
図5(d)に示すように、サイド堰15と冷却ドラム11との間に隙間が生じる。ここで、隙間の大きさが例えば0.2mm以上となると、この隙間に溶鋼3が差し込むことになる。
【0030】
ここで、鋳造開始時においては、
図4に示すように、サイド堰15の表面に地金Mが形成されており、サイド堰15と冷却ドラム11との間の隙間に差し込んだ溶鋼3が固化して、上述の地金Mと一体化し、冷却ドラム11、11の間に噛み込まれる。
冷却ドラム11、11の間に地金Mが噛み込まれた部分は、薄肉鋳片の板厚が幅方向且つ長手方向で局所的に厚くなる。
【0031】
そこで、本実施形態においては、冷却ドラム11,11の圧力制御を、以下のようにして実施している。
【0032】
まず、一対の冷却ドラム11,11を停止した状態から、一対の冷却ドラム11,11を回転起動させて、薄肉鋳片1の肉厚部が一対の冷却ドラム11,11の最近接点P(ドラムキス点)を通過するまでの第1ステップにおいては、
図6(a)に示すように、一対の冷却ドラム11,11の回転軸方向の一端側及び他端側に配設された油圧シリンダー21A,21Bによって、所定の圧力(第1圧力)で一対の冷却ドラム11,11が互いに近接する方向に向けて押圧する。本実施形態では、
図6(a)に示すように、移動側の冷却ドラム11aに油圧シリンダー21A、21Bが配設されており、固定側の冷却ドラム11bに向けて移動側の冷却ドラム11aを押圧するように構成されている。第1圧力は、冷却ドラム11の起動に影響を与えない範囲で出来るだけ高い値を狙いとするが、その具体的数値は、主に、冷却ドラム11の幅、直径、溶融金属種類、ドラム最大駆動力から決まるものである。現実的には、事前の計算等にて適正値を求めるのは難しいため、実際の試験にて適正値を求めて設定される。
【0033】
次に、上述の第1ステップの後、冷却ドラム11,11が1回転以上するまでの第2ステップにおいては、
図6(a)に示すように、一対の冷却ドラム11,11の回転軸方向の一端側及び他端側に配設された油圧シリンダー21A,21Bによって、所定の圧力(第2圧力)で一対の冷却ドラム11,11が互いに近接する方向に向けて押圧する。なお、第2圧力は、冷却ドラム11の表面に変形等の損傷を与えない範囲で出来るだけ高い値を狙いとするが、主に冷却ドラム11の幅、直径、表面形状、表面材質、溶融金属種類、最大ドラム圧下から決まるものである、現実的には、第1圧力と同様に、実際の試験にて適正値を求めて設定される。ここで、第2ステップにおける第2圧力は、第1ステップにおける第1圧力よりも高く設定されている。
【0034】
すなわち、第1ステップ及び第2ステップにおいては、一対の冷却ドラム11,11が近接する方向に、一対の冷却ドラム11,11の回転軸方向の一端側及び他端側に配設された油圧シリンダー21A,21Bによってそれぞれ同一の圧力で押圧しているのである。このため、上述のように、地金Mの噛み込みが発生しても、冷却ドラム11,11同士が近接する方向に押し付けられることになる。
【0035】
次に、第2ステップ以後の第3ステップにおいては、
図6(b)に示すように、一対の冷却ドラム11,11の回転軸方向の一端側及び他端側の反力の合計値が所定の値となるように、かつ、一対の冷却ドラム11,11の互いの回転軸が平行に保持されるように圧力制御を行う。具体的には、
図6(b)に示すように、移動側の冷却ドラム11aに油圧シリンダー21A、21Bが配設され、固定側の冷却ドラム11bにロードセル22A、22Bが配設されており、ロードセル22A、22Bによって測定された反力信号が反力制御部24に送信され、この反力制御部24において、和荷重が所定値になるように、油圧シリンダー21A、21Bにおいて前後進するように指令を与える。これにより、一対の冷却ドラム11,11の互いの回転軸が平行に保持され、板厚制御された薄肉鋳片1が製造されることになる。なお、前記和荷重の所定値は、主に薄肉鋳片1の品質を満足する範囲で、操業の安定性の維持を狙いとするが、主に冷却ドラム11の幅、直径、溶融金属種類から決まるものである。現実的には、第1圧力、第2圧力と同様に、実際の試験にて適正値を求めて設定される。
【0036】
ここで、第2ステップにおいては、第1ステップ後に冷却ドラム11が2回転以上するまでの期間とすることが好ましい。
ただし、第2ステップから第3ステップへの切り替えタイミングが遅くなると、板厚制御された薄肉鋳片1を得るまでの初期不良量が多くなるため、冷却ドラム11が3回転する前に、第3ステップに切り替えることが好ましい。
【0037】
以上のような構成とされた本実施形態である薄肉鋳片1の製造方法によれば、第1ステップの後、冷却ドラム11,11が1回転以上するまでの第2ステップにおいては、一対の冷却ドラム11,11の回転軸方向の一端側及び他端側に配設された油圧シリンダー21A,21Bによって、所定の圧力(第2圧力)で一対の冷却ドラム11,11が互いに近接する方向に向けて押圧しているので、冷却ドラム11の熱膨張部Eがサイド堰15と摺接する領域に位置してサイド堰15と冷却ドラム11との間に隙間が生じ、この隙間に溶鋼3が差し込んで地金Mの巻き込みが発生した場合でも、一対の冷却ドラム11,11が互いに近接する方向に押圧されることになり、一対の冷却ドラム11,11の最近接点P(ドラムキス点)において凝固シェル5,5同士を十分に圧下することができ、薄肉鋳片1の厚み中央部分の未凝固部がほとんど形成されず、鋳片強度が維持される。これにより、薄肉鋳片1の破断を抑制でき、鋳造を安定して開始することができる。
【0038】
また、本実施形態である薄肉鋳片1の製造方法においては、一対の冷却ドラム11,11を停止した状態から、一対の冷却ドラム11,11を回転起動させて、薄肉鋳片1の肉厚部が一対の冷却ドラム11,11の最近接点P(ドラムキス点)を通過するまでの第1ステップにおいて、一対の冷却ドラム11,11の回転軸方向の一端側及び他端側に配設された油圧シリンダー21A,21Bによって、比較的低圧の第1圧力で、一対の冷却ドラム11,11が互いに近接する方向に向けて押圧しているので、鋳造開始時に形成された薄肉鋳片1の肉厚部を比較的安定して冷却ドラム11,11間を通過させることができ、鋳造への影響を抑えることができる。
さらに、第2ステップでは、第1ステップの第1圧力よりも高い第2圧力で冷却ドラム11を押圧しているので、一対の冷却ドラム11,11の最近接点P(ドラムキス点)において凝固シェル5,5同士を十分に圧下することができ、薄肉鋳片1の厚み中央部分の未凝固部がほとんど形成されず、鋳片強度を維持することができる。
【0039】
なお、本実施形態において、第2ステップを、第1ステップ後に冷却ドラム11が2回転以上するまでの期間とした場合には、上述の熱膨張部Eが2回転目まで残存していて地金Mの噛み込みが発生しても、一対の冷却ドラム11,11の最近接点P(ドラムキス点)において凝固シェル5,5同士を十分に圧下することができる。これにより、薄肉鋳片1の破断を抑制でき、鋳造を安定して開始することができる。
【0040】
以上、本発明の実施形態である薄肉鋳片の製造方法について具体的に説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
本実施形態では、
図1に示す双ドラム式連続鋳造装置を例に挙げて説明したが、これに限定されることはない。
また、冷却ドラムの押圧方式は、
図6に示すものに限定されることはなく、実施形態で示したように圧力制御が実施可能な構成であればよい。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明の効果を確認すべく、実施した実験結果について説明する。
図1に示す双ドラム式連続鋳造装置を用いて、炭素量0.05mass%の炭素鋼からなる薄肉鋳片の製造を行った。
ここで、冷却ドラム径を600mm、冷却ドラム幅を400mmとした。また、定常鋳造の鋳片厚さを2.0mmとした。
【0042】
本発明例1においては、冷却ドラムの回転数が0.1回転の時点で第1ステップから第2ステップへの切り替えを実施し、冷却ドラムの回転数が1.3回転の時点で第2ステップから第3ステップへの切り替えを実施した。
本発明例2においては、冷却ドラムの回転数が0.1回転の時点で第1ステップから第2ステップへの切り替えを実施し、冷却ドラムの回転数が2.3回転の時点で第2ステップから第3ステップへの切り替えを実施した。
比較例においては、冷却ドラムの回転数が0.1回転の時点で第1ステップから第2ステップへの切り替えを実施し、冷却ドラムの回転数が0.4回転の時点で第2ステップから第3ステップへの切り替えを実施した。尚、この場合の第2ステップから第3ステップへの切り替えは、シェル洗いが終了した時点に該当する。
【0043】
そして、本発明例1,2及び比較例において、冷却ドラムの1〜2回転目における薄肉鋳片の破断回数及び破断数を評価した。評価結果を表1に示す。
また、比較例におけるドラム反力とドラムギャップの変化を
図7に、本発明例1におけるドラム反力とドラムギャップの変化を
図8に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
比較例においては、冷却ドラムの1〜2回転目における薄肉鋳片の破断率が25%であり、鋳造の開始が不安定傾向であった。
これに対して、本発明例1,2においては、冷却ドラムの1〜2回転目における薄肉鋳片の破断率が0%であった。
【0046】
また、比較例においては、
図7に示すように、WSで地金を噛み込んだ際に、DSのドラムギャップがWSに追従することになり、このとき、DSではドラム反力が大きく低下し、冷却ドラムの凝固シェルとの接触が不安定となり、冷却が不十分となる。
これに対して、本発明例1においては、
図8に示すように、WSで地金を噛み込んだ時点でもDSではドラム反力が低下しておらず、凝固シェル同士が強く圧着され、DSのドラムギャップが小さくなっている。したがって、薄肉鋳片の厚み中央部分の未凝固部はほとんど存在せず、薄肉鋳片の表面温度が比較的低くなり、鋳片強度が維持される。これにより、薄肉鋳片の破断が抑制される。
【0047】
以上の結果から、本発明に係る薄肉鋳片の製造方法によれば、双ドラム式連続鋳造装置において、薄肉鋳片の破断を抑制でき、鋳造を安定して開始することが可能な薄肉鋳片の製造方法を提供できることが確認された。