(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、自動車などの車両においては、当該車両とその周囲の車両や障害物との距離や相対速度を検知するためにミリ波レーダ装置(以下、レーダ装置)が搭載されたものがある。こうした車両においては、レーダ装置がむき出しで配置されると、車両の意匠性が損なわれるおそれがある。そこで、例えば車両の前面に設けられたエンブレムやフロントグリルの後側にレーダ装置を配置し、エンブレムなどを電波の透過する電波透過カバー(以下、カバーと称する。)として用いるようにしている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載のカバーは、意匠層、意匠層の前面を覆うカバー層、及び意匠層の後面を覆う基材層を有している。
カバー層は、透明樹脂材料からなる第1カバー層と、上記透明樹脂材料と着色材とを含む混合材料からなり第1カバー層の後面の一部を覆う第2カバー層とを有している。第2カバー層は、第1カバー層の後面に隣接する一般部と、一般部の後面から全周にわたって突出してアンダーカット形状をなすカバー側係合部とを有している。基材層は、上記透明樹脂材料とは融点の異なる樹脂材料からなり、カバー側係合部と係合する基材側係合部を有している。
【0004】
こうしたカバーによれば、カバーを構成する第2カバー層のカバー側係合部と基材層の基材側係合部とが係合されることで第2カバー層と基材層とが機械的に固定される。このため、第2カバー層と基材層とが互いに異なる融点の異なる材料からなる場合であっても、第2カバー層と基材層とが強固に一体化される。このため、第2カバー層と基材層との間がシールされ、雨水などの水分の浸入が阻止される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、こうしたカバーにおいては、互いに融点の異なる樹脂材料からなる第2カバー層と基材層との間をシールするために、アンダーカット形状のカバー側係合部及び基材側係合部を全周にわたって設ける必要がある。そのため、例えばカバーの前方を撮影するカメラをカバーの後側に配置する場合には、カメラのレンズを逃がすために、カバーの外周縁に内周側に凹んだ凹部を設ける必要があり、カバーの意匠性が損なわれるおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、シール性を確保しつつ、意匠の自由度を高めることのできる電波透過カバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための電波透過カバーは、電波レーダ装置の電波の経路内に配置されており、樹脂材料により形成された透明な第1カバー層と、前記樹脂材料と同一の樹脂材料と着色材とを含む材料により形成され、前記第1カバー層の後面に設けられた有色の第2カバー層と、前記第1カバー層及び前記第2カバー層を構成する前記樹脂材料とは異なる樹脂材料により形成され、前記第2カバー層の後面に設けられた基材層と、を有するカバー本体を備えている。前記カバー本体の外周縁と中央部との間の部分には、少なくとも前記基材層と前記第2カバー層とを厚さ方向に貫通するとともに前記基材層の後面に開口する開口部が設けられており、前記開口部の周囲には、前記基材層と前記第2カバー層とが凹凸の関係を有して接合されることで前記基材層と前記第2カバー層との間をシールするシール部が設けられている。
【0009】
同構成によれば、カバー本体の外周縁と中央部との間の部分、すなわち電波レーダ装置の電波の邪魔になりにくい部分に形成された開口部を通じて、可視光の透過が許容されることとなる。このため、開口部の内部や後方に、例えばLEDなどの照明装置を配置すれば、開口部を通じてカバーの前面を光らせることが可能となる。また、例えばカバーの前方を撮影するカメラを開口部の内部に配置することが可能となる。
【0010】
このように、開口部を設けることによってカバー本体の外周縁の形状が影響を受けないことから、電波透過カバーの意匠の自由度を高めることができる。
ここで、開口部の周囲に設けられたシール部では、基材層と第2カバー層とが凹凸の関係を有して接合されている。このため、基材層と第2カバー層との間を通じて水が浸入することが回避される。
【0011】
したがって、シール性を確保しつつ、意匠の自由度を高めることができる。
上記電波透過カバーにおいて、前記開口部は、前記基材層及び前記第2カバー層のみを厚さ方向に貫通していることが好ましい。
【0012】
同構成によれば、開口部が基材層及び第2カバー層のみを厚さ方向に貫通しており、第1カバー層には開口部が設けられていない。
このため、開口部の内部や後方に照明装置やカメラなどの機器を配置する場合に、第1カバー層の存在によって照明装置やカメラがカバーの前方から視認しにくくなる。
【0013】
また、開口部がカバー本体を厚さ方向に貫通していないため、前方からの雨水などが開口部を通じて照明装置やカメラに付着することがない。このため、雨水などが付着することに起因して照明装置やカメラの機能が損なわれることを抑制できる。
【0014】
上記電波透過カバーにおいて、前記開口部は、前記カバー本体を厚さ方向に貫通していることが好ましい。
同構成によれば、開口部がカバー本体を厚さ方向に貫通している。すなわち、開口部が基材層から第1カバー層までを厚さ方向に貫通している。このため、例えばエンジンが車両の前部に搭載されるものにあって、電波透過カバーが自動車のフロントグリルの開口に取り付けられる場合には、上記開口部を通じて走行風をエンジンルームに取り込むことが可能となり、エンジンなどの冷却を図ることができる。
【0015】
また、開口部が第1カバー層を貫通していない構成に比べて、電波透過カバーの軽量化を図ることができる。
上記電波透過カバーにおいて、前記第2カバー層には、厚さ方向に貫通する貫通部が前記開口部とは別に設けられており、前記第1カバー層と前記基材層との間のうち前記貫通部に対応する部分には、加飾層が設けられていることが好ましい。
【0016】
同構成によれば、透明な第1カバー層を介してカバー本体の前面に加飾層が表示されることとなる。したがって、基材層と第2カバー層とが凹凸の関係を有して接合される構成を採用しながらも、加飾層を有する電波透過カバーを具現化することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シール性を確保しつつ、意匠の自由度を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1実施形態>
以下、
図1〜
図3を参照して、電波透過カバーの第1実施形態について説明する。
図1に示すように、電波透過カバー(以下、カバー10)は、正面視横長の長円状をなし、エンブレムとして機能するカバー本体11と、カバー本体11の後面から延びるとともに車両のフロントグリルに設けられた開口部に取り付けられる複数の取付部(いずれも図示略)を有している。
【0020】
図2に示すように、カバー本体11の後方には、前方に向けて電波(ミリ波)を送信するとともに、当該車両の周囲の車両や障害物にて反射された電波を受信する電波レーダ装置99が配置される。すなわち、カバー本体11は、電波レーダ装置99の電波の経路内に配置される。
【0021】
以降において、電波レーダ装置99から送信される電波の進行方向の前方及び後方を「前方」及び「後方」として説明する。なお、本実施形態では、電波レーダ装置99が車両の前方に向けて電波を送信するものであるため、電波の進行方向の前方及び後方が車両の前後方向の前方及び後方と一致する。
【0022】
図1に示すように、カバー本体11の前面には、背景領域10aと文字領域10b(この場合、「A」)とが表示される。
図2及び
図3に示すように、カバー本体11は、カバー本体11の前面を構成する第1カバー層20を有している。
【0023】
第1カバー層20は、車両に搭載された状態において外部に露出することから、耐候性や耐摩耗性などに優れたポリカーボネートによって形成されている。
第1カバー層20の後面には、前述した背景領域10aに対応する一般部20aと、一般部20aに対して前方に凹んでおり、前述した文字領域10bに対応する凹部20bとが設けられている。
【0024】
第1カバー層20の後面のうち一般部20aに対応する部分には、ポリカーボネートと着色材とを含む材料によって形成された有色の第2カバー層30が一体に設けられている。
【0025】
第2カバー層30の前面30aと第1カバー層20の一般部20aとは、互いに同種の樹脂材料により熱溶着されている。このため、第1カバー層20と第2カバー層30との間がシールされ、雨水などの水分の浸入が阻止される。
【0026】
図3に示すように、第2カバー層30における第1カバー層20の凹部20bに対応する部分には、厚さ方向に貫通する貫通部30bが設けられている。第2カバー層30の後面には、後方に向けて突出する複数の凸部32が、上下方向に互いに間隔をおいて設けられている。複数の凸部32は、第2カバー層30の後面の全体にわたって設けられている。各凸部32は、カバー本体11の長手方向(
図3の紙面に直交する方向であり、
図1の左右方向)に沿って延在している。
【0027】
図2及び
図3に示すように、第1カバー層20の凹部20bの底面(後面)及び内側面、並びに第2カバー層30の貫通部30bの内側面には、インジウムなどの金属材料からなる断面コ字状の加飾層40が蒸着されて一体に設けられている。加飾層40は、文字領域10bに対応した凹部20bに形成されるため、透明な第1カバー層20を通じてカバー本体11の前面に表示される。
【0028】
第2カバー層30及び加飾層40の後面には、AES樹脂からなり、カバー本体11の後面をなす基材層50が一体に設けられている。基材層50の後面には、前述した複数の取付部(図示略)が一体に設けられている。
【0029】
図3に示すように、基材層50の前面には、第2カバー層30の各凸部32を受ける複数の凹部52が設けられている。すなわち、基材層50と第2カバー層30とが凹凸の関係を有して接合されている。基材層50の凹部52と第2カバー層30の凸部32とによって基材層50と第2カバー層30との間をシールするシール部60が構成される。
【0030】
基材層50は、第1カバー層20、第2カバー層30、及び加飾層40が一体に形成されたものを成形型(図示略)内にインサートした状態で、同成形型内にAES樹脂を射出することにより形成される。このため、AES樹脂が射出成形される際に、第2カバー層30の各凸部32の先端部がAES樹脂の射出圧によって緩やかに倒れ込むこととなり、基材層50の凹部52と第2カバー層30の凸部32との間には一層強固なアンカー効果が作用する。
【0031】
また、基材層50は、加飾層40の底面(後面)及び内側面によって囲まれた凹部44内に充填された凸部54を有している。
図1〜
図3に示すように、カバー本体11の外周縁と中央部との間の部分であり、且つ背景領域10aの部分には、基材層50と第2カバー層30とを厚さ方向に貫通するとともに基材層50の後面に開口する開口部70が設けられている。本実施形態の開口部70は、正面視円状をなしている。また、開口部70は、カバー本体11における幅方向(
図1の左右方向)の中央部であり、上下方向の下部に設けられている。
【0032】
前述したように、基材層50と第2カバー層30との間には、第2カバー層30の貫通部30bに対応する部分を除く全体にわたってシール部60が設けられている。したがって、開口部70の周囲には、全周にわたって前述したシール部60が設けられている。
【0033】
次に、本実施形態の作用について説明する。
本実施形態のカバー10においては、カバー本体11の外周縁と中央部との間の部分、すなわち電波レーダ装置99の電波の邪魔になりにくい部分に形成された開口部70及び透明な第1カバー層20を通じて、可視光の透過が許容されることとなる。このため、
図3に示すように、開口部70の内部に、カバー10の前方を撮影するカメラ80を配置することが可能となる。
【0034】
ここで、開口部70の周囲に設けられたシール部60では、基材層50と第2カバー層30とが凹凸の関係を有して接合されている。このため、基材層50と第2カバー層30との間を通じて水が浸入することが回避される。
【0035】
以上説明した本実施形態に係る電波透過カバーによれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)カバー本体11の外周縁と中央部との間の部分には、基材層50と第2カバー層30とを厚さ方向に貫通するとともに基材層50の後面に開口する開口部70が設けられている。開口部70の周囲には、基材層50と第2カバー層30とが凹凸の関係を有して接合されることで基材層50と第2カバー層30との間をシールするシール部60が設けられている。
【0036】
こうした構成によれば、開口部70を設けることによってカバー本体11の外周縁の形状が影響を受けないことから、カバー10の意匠の自由度を高めることができる。したがって、シール性を確保しつつ、カバー10の意匠性を高めることができる。
【0037】
(2)開口部70は、基材層50及び第2カバー層30のみを厚さ方向に貫通している。
こうした構成によれば、開口部70が基材層50及び第2カバー層30のみを厚さ方向に貫通しており、第1カバー層20には開口部70が設けられていない。このため、開口部70の内部や後方にカメラ80を配置する場合に、第1カバー層20の存在によってカメラ80がカバー10の前方から視認しにくくなる。
【0038】
また、開口部70がカバー本体11を厚さ方向に貫通していないため、前方からの雨水などが開口部70を通じてカメラ80に付着することがない。このため、雨水などが付着することに起因してカメラ80の機能が損なわれることを抑制できる。
【0039】
(3)第2カバー層30には、厚さ方向に貫通する貫通部30bが開口部70とは別に設けられており、第1カバー層20と基材層50との間のうち貫通部30bに対応する部分には、加飾層40が設けられている。
【0040】
こうした構成によれば、透明な第1カバー層20を介してカバー本体11の前面に加飾層40が表示されることとなる。したがって、基材層50と第2カバー層30とが凹凸の関係を有して接合される構成を採用しながらも、加飾層40を有するカバー10を具現化することができる。
【0041】
<第2実施形態>
以下、
図4及び
図5を参照して、第2実施形態について説明する。
なお、本実施形態において、第1実施形態と同一の構成については同一の符号を付すとともに、第1実施形態と対応する構成については、第1実施形態の符号「**」に「100」を加算した「1**」を付すことにより、重複する説明を省略する。
【0042】
図4及び
図5に示すように、カバー本体111の背景領域110aのうち長手方向における文字領域110bの両側には、カバー本体111の厚さ方向に貫通する一対の開口部170が設けられている。本実施形態の各開口部170は、上下方向に対して長い正面視長円状をなしている。
【0043】
図5に示すように、各開口部170の周囲には、基材層150と第2カバー層130との間をシールするシール部160が各開口部170の全周にわたって形成されている。
以上説明した本実施形態に係る電波透過カバーによれば、以下に示す作用効果が得られるようになる。
【0044】
(
4)開口部170は、カバー本体111を厚さ方向に貫通している。
こうした構成によれば、開口部170が基材層150から第1カバー層120までを厚さ方向に貫通している。このため、例えばエンジンが車両の前部に搭載されるものにあっては、開口部170を通じて走行風をエンジンルームに取り込むことが可能となり、エンジンなどの冷却を図ることができる。
【0045】
<変形例>
なお、上記実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。
・第1実施形態において例示した開口部70を有するカバー10を、例えば以下に説明するカバー210のように変更することもできる。なお、
図6及び
図7に示すカバー210において、第1実施形態と同一の構成については同一の符号を付すとともに、第1実施形態と対応する構成については、第1実施形態の符号「**」に「200」を加算した「2**」を付すことにより、重複する説明を省略する。
【0046】
すなわち、
図6及び
図7に示すように、カバー本体211の背景領域210aのうち長手方向における文字領域210bの両側には、一対の開口部270A,270Bが左右対称に設けられている。各開口部270A,270Bは、互いに同一の大きさの正面視円状をなしている。この場合においても、各開口部270A,270Bの周囲には、基材層250と第2カバー層230との間をシールするシール部260が各開口部270A,270Bの全周にわたって形成されている。この場合、
図7に示すように、各開口部270A,270Bの内部に、当該車両からその周囲(前方)の他の車両や障害物までの距離などを把握するためのステレオカメラ280A,280Bを1つずつ配置することが可能となる。
【0047】
・第1実施形態のカバー10を、例えば以下のように使用することもできる。すなわち、
図8に示すように、カバー10の開口部70の後方に、カメラ80に代えて、LEDなどの照明装置90を設けてもよい。この場合、開口部70を通じてカバー本体11の前面を光らせることが可能となる。また、開口部70の形状は正面視円状に限られるものではなく、任意に変更することができる。このように開口部70のみを光らせることが可能となることから、カバー10の意匠の自由度を高めることができる。
【0048】
・基材層50,150,250をABS樹脂によって形成することもできる。
・第1カバー層20は樹脂材料により形成された透明なものであればよく、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)樹脂などのアクリル樹脂によって形成することもできる。
【0049】
・例えば第1実施形態において、第1カバー層20の後面のうち開口部70に対応する部分にスモーク処理をしてもよい。
・本発明に係る電波透過カバーは、フロントグリルの開口部に取り付けられてエンブレムとして機能するものに限定されず、エンブレムとしての機能を有していないカバーであってもよい。要するに、電波透過カバーは、電波レーダ装置の電波の経路内に配置されるものであればよく、車両の後面や側面に設けられるものであってもよい。