特許第6784266号(P6784266)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784266
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】コイル部品及びコイル部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20201102BHJP
   H01F 27/26 20060101ALI20201102BHJP
   H01F 41/04 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   H01F17/04 F
   H01F27/26 130W
   H01F41/04 B
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-14093(P2018-14093)
(22)【出願日】2018年1月30日
(65)【公開番号】特開2019-134042(P2019-134042A)
(43)【公開日】2019年8月8日
【審査請求日】2019年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100087985
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 宏司
(72)【発明者】
【氏名】鄭 裕行
【審査官】 鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−363178(JP,A)
【文献】 特表2017−508298(JP,A)
【文献】 特開2017−143121(JP,A)
【文献】 特開2003−086442(JP,A)
【文献】 特開2017−005079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/04
H01F 27/26
H01F 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻芯部と、前記巻芯部の軸方向両側にそれぞれ鍔部を有するドラム状コアと、
前記巻芯部に巻回されたワイヤと、
前記各鍔部の天面上及び前記ワイヤ上のそれぞれにおいて接着剤を介して配置された板状コアとを備え、
前記接着剤が、フィラーを含まず、
前記鍔部の天面と前記板状コアとの最短距離が3μm以上であり
前記鍔部の天面上の前記接着剤と、前記ワイヤ上の前記接着剤が一体化しており、
前記巻芯部の軸方向において前記鍔部が存在する箇所における前記接着剤は、前記巻芯部の軸方向において前記ワイヤが設けられている箇所における前記接着剤よりも、前記巻芯部の幅方向に広がっている、コイル部品。
【請求項2】
請求項1に記載のコイル部品において、
前記ワイヤと前記板状コアとの最短距離が50μm未満である、コイル部品。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のコイル部品において、
前記ワイヤが、前記巻芯部に多層に巻回された、コイル部品。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のコイル部品において、
前記板状コアの厚さが、前記板状コアの厚さを含む前記コイル部品の高さの1/3以下である、コイル部品。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のコイル部品において、
前記板状コアの厚さが、200μm以下である、コイル部品。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のコイル部品において、
前記板状コアが、磁性粉を含有する樹脂板である、コイル部品。
【請求項7】
巻芯部と、前記巻芯部の軸方向両側にそれぞれ鍔部を有するドラム状コアの巻芯部にワイヤを巻回するコイル部品の製造方法であって、
板状コアにフィラーを含まない接着剤を塗布し、
前記塗布後の板状コアを、前記鍔部の天面上及び前記ワイヤ上のそれぞれにおいて前記接着剤が介するように配置し、
前記配置後に前記接着剤を硬化させ、前記鍔部の天面と前記板状コアとの間の最短距離を3μm以上と
前記塗布において、前記接着剤を、前記板状コアの前記各鍔部の天面に対向する位置となる四隅部分と、前記ワイヤに対向する位置となる中央部の5箇所に塗布する、コイル部品の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のコイル部品の製造方法において、
前記塗布において、前記板状コアの前記中央部に塗布される接着剤の塗布幅を、前記板状コアの前記四隅部分に塗布される接着剤の塗布幅の和より小さくした、コイル部品の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のコイル部品の製造方法において、
前記塗布において、前記接着剤をディスペンサで塗布する、コイル部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、巻線型のコイル部品及びそのコイル部品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
巻線型のコイル部品は、例えば、巻芯部の軸方向両側にそれぞれ鍔部を有するドラム状コアと、前記巻芯部に巻回されたワイヤと、前記各鍔部の天面上において接着剤を介して配置された板状コアとを備える。上記の接着剤には、特許文献1のように、フィラーを含む樹脂を用いることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−302321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
今後、コイル部品の小型化が進むと、鍔部天面の面積が減少するため、接着剤の塗布面積も減少し、板状コアと鍔部との接着力を十分に確保できないことが考えられる。同様に、コイル部品の低背化が進むと、板状コアの厚さも薄くなり、板状コアの機械的強度を確保することが困難となることが考えられる。
【0005】
また、コイル部品の小型化が進み、鍔部天面の面積が減少すると、接着剤の塗布精度が求められる可能性も考えられる。そこで、接着剤の塗布工法として、塗布精度の低いディップ工法に代えて、塗布精度の高いディスペンサで塗布するディスペンサ工法の採用が期待される。しかし、従来のフィラーを含む接着剤を使用する場合には、ディスペンサにより接着剤を塗布しようとすると、吐出部がフィラーでつまるため、現実的にはディップ工法に限定される。
【0006】
この開示はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的はドラム状コアと板状コアとの接着強度向上及び板状コアの機械的強度向上を図り得るコイル部品及びコイル部品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係るコイル部品は、巻芯部と、前記巻芯部の軸方向両側にそれぞれ鍔部を有するドラム状コアと、前記巻芯部に巻回されたワイヤと、前記各鍔部の天面上及び前記ワイヤ上のそれぞれにおいて接着剤を介して配置された板状コアとを備え、前記接着剤が、フィラーを含まず、前記鍔部の天面と前記板状コアとの最短距離が3μm以上である。
【0008】
この構成により、ドラム状コアと板状コアとの接着強度及び板状コアの機械的強度が向上する。
また、上記のコイル部品において、前記ワイヤと前記板状コアとの最短距離が50μm未満であることが好ましい。
【0009】
この構成により、ワイヤと板状コアとの間の接着剤の応力を十分確保でき、鍔部の天面と前記板状コアとの間の距離を確保することが容易となる。
また、上記のコイル部品において、前記ワイヤが、前記巻芯部に多層に巻回されることが好ましい。
【0010】
この構成により、ワイヤと板状コアとの間の接着剤の応力が高まり、鍔部の天面と前記板状コアとの間の距離を確保することが容易となる。
また、上記のコイル部品において、前記板状コアの厚さが、前記板状コアの厚さを含む前記コイル部品の高さの1/3以下であることが好ましい。
【0011】
この構成では、板状コアの機械的強度向上効果が、より一層効果的となる。
また、上記のコイル部品において、前記板状コアの厚さが、200μm以下であることが好ましい。
【0012】
この構成では、板状コアの機械的強度向上効果が、より一層効果的となる。
また、上記のコイル部品において、前記板状コアが、磁性粉を含有する樹脂板であることが好ましい。
【0013】
この構成により、板状コアの機械的強度向上効果がより一層効果的となる。
また、上記のコイル部品において、前記鍔部の天面上の前記接着剤と、前記ワイヤ上の前記接着剤が一体化していることが好ましい。
【0014】
この構成により、ドラム状コアと板状コアとの接着強度及び板状コアの機械的強度がより向上する。
また、上記のコイル部品において、前記鍔部の天面上の前記接着剤は、幅方向について、前記ワイヤ上の前記接着剤よりも広がっていることが好ましい。
【0015】
この構成により、接着剤の塗布量が過大となっても、過大な接着剤がワイヤ上の接着剤側に吸収され、板状コア又は鍔部の側面への接着剤の漏れが抑制される。
上記課題を解決するコイル部品の製造方法は、巻芯部と、前記巻芯部の軸方向両側にそれぞれ鍔部を有するドラム状コアの巻芯部にワイヤを巻回するコイル部品の製造方法であって、板状コアにフィラーを含まない接着剤を塗布し、前記塗布後の板状コアを、前記鍔部の天面上及び前記ワイヤ上のそれぞれにおいて前記接着剤が介するように配置し、前記配置後に前記接着剤を硬化させ、前記鍔部の天面と前記板状コアとの間の最短距離を3μm以上とする。
【0016】
この方法により、ドラム状コアと板状コアとの接着強度向上、板状コアの機械的強度向上を図り得る。
また、上記のコイル部品の製造方法において、前記塗布において、前記接着剤を、前記板状コアの前記各鍔部の天面に対向する位置となる四隅部分と、前記ワイヤに対向する位置となる中央部の5箇所に塗布することが好ましい。
【0017】
この方法により、各鍔部の天面上及びワイヤ上に板状コアを配置すると、5個所に塗布された接着剤が押し広げられて一体化する。従って、ドラム状コアと板状コアとの接着強度及び板状コアの機械的強度が向上する。
【0018】
また、上記のコイル部品の製造方法において、前記塗布において、前記板状コアの前記中央部に塗布される接着剤の塗布幅を、前記板状コアの前記四隅部分に塗布される接着剤の塗布幅の和より小さくすることが好ましい。
【0019】
この方法により、この方法により、接着剤の塗布量が過大となっても、過大な接着剤がワイヤ上の接着剤側で吸収され、板状コア又は鍔部の側面への接着剤の漏れが抑制される。
【0020】
また、上記のコイル部品の製造方法では、前記塗布において、前記接着剤をディスペンサで塗布することが好ましい。
この方法により、接着剤の塗布精度が向上する。
【発明の効果】
【0021】
本発明のコイル部品及びコイル部品の製造方法によれば、ドラム状コアと板状コアとの接着強度向上及び板状コアの機械的強度向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】コイル部品を示す斜視図。
図2】ドラム状コア及びワイヤと板状コアの接着前の状態を示す側面図。
図3】接着剤が塗布された板状コアを示す下面図。
図4】ドラム状コア及びワイヤと板状コアの接着後の状態を示す側面図。
図5】板状コアが鍔部に接着されたときの接着剤の状態を示す下面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示の一態様である実施形態を図面に従って説明する。図1に示すコイル部品1は、ドラム状コア2と、2本のワイヤ3a,3bと、板状コア13とを備える。コイル部品1は、例えば、コモンモードチョークコイルである。
【0024】
ドラム状コア2の材料は、電気絶縁性材料、具体的にはアルミナやガラス、樹脂のような非磁性体、フェライトや磁性粉を含有する樹脂のような磁性体等であるが、好ましくはアルミナ、ガラス又はフェライトのような焼結体である。
【0025】
ドラム状コア2は、四角柱状の巻芯部4と、巻芯部4の軸方向(巻芯部4が延伸する方向。図1において矢印A方向)の両側に第1の鍔部5及び第2の鍔部6と、を有し、巻芯部4と鍔部5,6は一体に形成されている。
【0026】
鍔部5,6は、巻芯部4の幅及び高さより大きい幅W及び高さHと、巻芯部4の軸方向の長さより小さい厚さTとを有し、巻芯部4に対し鍔状に形成されている。
このような構成により、鍔部5,6は、巻芯部4の軸方向外側に位置する外側側面7a,7bと、軸方向内側に位置する内側側面9a,9bとをそれぞれ有する。また、鍔部5,6はともに、外側側面7a,7bの幅方向両側で、外側側面7a,7bに直交する第1の側面8a及び第2の側面8bを備えている。なお、本開示においては、幅方向は、軸方向Aに直交する方向であって、コイル部品1を回路基板に実装した際に、回路基板の主面と平行となる方向を指す。
【0027】
鍔部5,6の底面(図1においては上面)には、幅方向両側に端子電極10a〜10dがそれぞれ設けられている。端子電極10a〜10dは、鍔部5,6の底面に形成された凸状の段部上に形成され、例えば銀を導電成分とする導電性ペーストの焼き付けによって形成され、その上に、必要に応じて、Ni、Cu、Sn等のメッキが施されてもよい。これに代えて、端子電極10a〜10dは導電性金属からなる端子金具を鍔部5,6に接着したものであってもよい。
【0028】
ワイヤ3a,3bは、例えばポリウレタンやポリイミド等の樹脂で絶縁被覆された銅線からなる。巻芯部4には、ワイヤ3a,3bが螺旋状に2層に巻回されてコイルCが形成され、ワイヤ3aの第1端11aは端子電極10aに接続され、第2端11bは端子電極10cに接続されている。また、ワイヤ3bの第1端12aは端子電極10bに接続され、第2端12bは端子電極10dに接続されている。端子電極10a〜10dとワイヤ3a,3bの接続には、例えば熱圧着が適用されるが、溶接などの方法であってもよい。
【0029】
ドラム状コア2の端子電極10a〜10dが設けられた底面とは反対側の天面側(図1において下面)には板状コア13が接着剤14で接着されている。板状コア13は、ドラム状コア2と同様な材料で形成され、その厚さt3は鍔部5,6に板状コア13を接着した状態のコイル部品1の高さの1/3以下であることが好ましい。また、図1に示すように、板状コア13は、鍔部5,6の天面5a,6a及び鍔部5,6間の巻芯部4の上方を覆う直方体の板状であり、その厚さは200μm以下であることが好ましい。また、板状コア13は、焼結体ではなく、樹脂で成形された樹脂板であってもよいし、さらに磁性粉を含有する樹脂板であってもよい。これらの構成では、コイル部品1の低背化がより容易に実現される一方で、板状コア13の機械的強度が相対的に低下しやすいため、後述する板状コア13の機械的強度向上効果がより一層効果的となる。
【0030】
以下、板状コア13の接着構成について詳述する。
図2及び図3に示すように、板状コア13の下面、すなわちドラム状コア2に対向する面には、接着剤14が塗布される。接着剤14は、例えばシリカなどのフィラーを含まないものが使用される。なお、塗布精度向上の観点からは、接着剤14をディスペンサで塗布することが好ましいが、接着剤14の塗布方法は特に限定されない。
【0031】
図3に示すように、接着剤14は、板状コア13の各角部近傍及び中央部の5個所に塗布される。そして、接着剤14が塗布された板状コア13が、鍔部5,6の天面5a,6a及びコイルCに押し付けられると、図4に示すように、板状コア13と鍔部5,6の天面5a,6a上及びワイヤ3a,3b上のそれぞれに接着剤14が充填された状態となる。すると、板状コア13を、鍔部5,6の天面5a,6a上及び前記ワイヤ3a,3b上のそれぞれにおいて接着剤14が介するように配置することができる。この配置の後、接着剤14を乾燥や加熱などによって、硬化させることにより、板状コア13がドラム状コア2に接着され、天面5a,6a上及びワイヤ3a,3b上のそれぞれにおいて接着剤14を介して配置される。この構成により、従来のように、板状コア13が鍔部5,6の天面5a,6a上のみで接着剤14を介して配置される構成と比較して、ワイヤ3a,3b上の領域分、接着剤14の塗布面積が増加し、ドラム状コア2と板状コア13との接着強度が向上する。また、この構成により、板状コア13が、従来のように鍔部5,6の天面5a,6a上のみで保持される構成と比較して、ワイヤ3a,3b上を含むより広い範囲で保持されるため、板状コア13の機械的強度も向上する。
【0032】
ここで、鍔部5,6の天面5a,6aと板状コア13との間の最短距離t2(図4の場合は、天面5a,6aの平坦面と板状コア13の下面の平坦面との間隔)は、3μm以上である。最短距離t2は、通常、板状コアの接着時の押し付けによらず、接着剤14のフィラー含有の有無が支配的であり、従来のように、接着剤14がフィラーを含む場合は、フィラーがスペーサとなるため、最短距離t2はフィラーの粒径や含有量によって定まる。ここで、コイル部品1のように、板状コア13とコイルCとの間で挟まれる接着剤14の応力により、板状コア13と鍔部5,6の天面5a,6aとの間の距離t2が3μm以上となる。
【0033】
さらに、コイル部品1では、接着剤14が、フィラーを含まず、鍔部5,6の天面5a,6aと板状コア13との最短距離t2が、3μm以上である。最短距離t2は微小な間隔であり、板状コア13の押し付け量や押し付け時間によらず、接着剤14の物性によって支配的に定まり、従来のように接着剤14がフィラーを含む場合、フィラーの粒径や含有量(密度)によって影響を受ける。
【0034】
ここで、コイル部品1では、上記のように、天面5a,6a上だけでなく、ワイヤ3a,3b上にも接着剤14が塗布されることにより、板状コア13の押し付け時に、鍔部5,6の天面5a,6a上に、ワイヤ3a,3b上の接着剤14が流動するため、天面5a,6a上の接着剤14の量が多くなる。従って、接着剤14がフィラーを含む場合、天面5a,6a上のフィラーの含有量が相対的に大きくなり、最短距離t2が大きくなり過ぎてしまう。最短距離t2は、コイルCによって発生する磁束のドラム状コア2及び板状コア13を通過する磁路における磁気抵抗に影響するため、最短距離t2が大きくなり過ぎると、コイル部品1のインダクタンス値が低下し、必要な特性を得ることができなくなる。そこで、コイル部品1では、接着剤14がフィラーを含まないことにより、最短距離t2が過大となることを抑制している。
【0035】
一方で、接着剤14がフィラーを含まない場合は、最短距離t2は極端に小さくすることが可能となる。しかし、本願発明者は、最短距離t2が極小、特に3μm未満となると、最短距離t2のばらつきによるインダクタンス値のばらつきが極端に大きくなり、インダクタンス値の許容公差を満たすために、量産品の歩留まりが大きく低下することを発見した。そこで、コイル部品1では、最短距離t2が、3μm以上であることにより、インダクタンス値を安定させ、現実的に量産可能な品質を達成している。なお、接着剤14がフィラーを含まない場合、最短距離t2は、接着剤14の材料と、板状コア13への接着剤14の塗布量により調整可能である。
【0036】
以上より、コイル部品1では、板状コア13が鍔部5,6の天面5a,6a上及びワイヤ3a,3b上のそれぞれにおいて接着剤14を介して配置された上で、接着剤14が、フィラーを含まず、鍔部5,6の天面5a,6aと板状コア13との最短距離t2が3μm以上である。このため、現実的に量産可能な品質を達成した上で、ドラム状コア2と板状コア13との接着強度向上及び板状コア13の強度向上を図り得る。
【0037】
なお、この時、ワイヤ3a,3bと板状コア13との最短距離t1(図4の場合は、ワイヤ3a,3bの外周縁と板状コア13の下面との間隔)は50μm未満であることが好ましい。なお、この最短距離t1の調整は、板状コア13への接着剤14の塗布量の調整によって設定される。
【0038】
通常、最短距離t2は、接着剤14の材料と、板状コア13への接着剤14の塗布量によって調整される。しかし、上記の構成によれば、接着剤14の材料によらず、ワイヤ3a,3bと板状コア13との間の接着剤14の応力を十分確保でき、最短距離t2を3μm以上にできることが分かっており、鍔部5,6の天面5a,6aと板状コア13との間の最短距離t2を確保することが容易となる。
【0039】
また、鍔部5,6の天面5a,6a上の接着剤14と、ワイヤ3a,3b上の接着剤14とは一体化していることが好ましい。例えば、コイル部品1では、板状コア13の下面において、5個所に塗布された接着剤14は、板状コア13を鍔部5,6及びワイヤ3a、3bに押し付けることにより、図5に示すように、それぞれ押し広げられて一体化している。この構成により、板状コア13の機械的強度向上効果がより一層効果的となる。この時、接着剤14の塗布時における板状コア13の中央部での接着剤14の塗布位置は、板状コア13の四隅部分において幅方向に位置する一対の接着剤の塗布位置より内側に位置するので、押し付けられた接着剤14は、板状コア13の下面中央部分に向かって延伸し易い。
【0040】
なお、接着剤14は、ディスペンサによりあらかじめ図5に示すような範囲で一体状に塗布してもよい。
また、ワイヤ3a,3bの巻芯部4への巻回形状に特に限定はないが、コイル部品1のように、ワイヤ3a,3bが、巻芯部4に多層に巻回されることが好ましい。この構成により、ワイヤ3a,3bと板状コア13との間の間隔がより狭くなることで、接着剤14の応力が高まり、鍔部5,6の天面5a,6aと板状コア13との最短距離t2を確保することがより容易となる。
【0041】
また、板状コア13の下面における接着剤14の塗布形状に特に限定はないが、コイル部品1のように、板状コア13の下面において、中央部及び四隅部分に接着剤14を塗布するなどにより、板状コア13の中央部に塗布される接着剤14の塗布幅を、板状コア13の四隅部分に塗布される接着剤14の塗布幅の和より小さくしてもよい。なお、これによって、コイル部品1では、鍔部5,6の天面5a,6a上の接着剤14は、幅方向について、ワイヤ3a,3b上の接着剤14よりも広がっていることが好ましい。この構成により、接着剤14の塗布量が過大となっても、過大な接着剤14がワイヤ3a,3b上の接着剤14側に吸収され、板状コア13又は鍔部5,6の側面への接着剤14の漏れが抑制される。
【0042】
上記のようなコイル部品1では、次に示す効果を得ることができる。
(1)板状コア13が、接着剤14でドラム状コア2の鍔部5,6の天面5a,6a及び巻芯部4に巻装されたワイヤ3a,3bに接着されるので、ドラム状コア2と板状コア13との接着強度及び板状コア13の機械的強度が向上する。また、鍔部5,6の天面5a.6aと板状コア13との最短距離t2が3μm以上であるので、インダクタンス値が安定する。
【0043】
(2)接着剤14がフィラーを含まないことにより、鍔部5,6の天面5a.6aと板状コア13との最短距離t2が過大となることが抑制される。また、板状コア13への接着剤14の塗布量を調整することにより、最短距離t2を調整することができる。従って、コイル部品1のインダクタンス値を調整が容易である。
【0044】
(3)板状コア13への接着剤14の塗布量を調整して、ワイヤ3a,3bと板状コア13との最短距離を50μm未満とすると、ワイヤ3a,3bと板状コア13との間の接着剤14の応力により、最短距離t2を3μm以上することが容易である。
【0045】
(4)ワイヤ3a,3bが、巻芯部4に多層に巻回されることにより、ワイヤ3a,3bと板状コア13との間の間隔がより狭くなる。従って、接着剤14の応力が高まり、鍔部5,6の天面5a,6aと板状コア13との最短距離t2を確保することがより容易となる。
【0046】
(5)板状コア13の機械的強度が向上するので、板状コア13の厚さt3を、鍔部5,6に板状コア13を接着した状態のコイル部品1の高さの1/3以下として、コイル部品1の小型化及び低背化を図ることが容易であるとともに、コイル部品1のインダクタンス値が向上する。
【0047】
(6)板状コア13の機械的強度が向上するので、板状コア13の厚さを200μm以下に薄くして、コイル部品1の小型化及び低背化を図ることが容易となる。
(7)板状コア13を磁性粉を含有する樹脂板で形成すると、セラミックで形成する場合に比して、機械的強度を確保しながら厚さを薄くすることが容易である。
【0048】
(8)板状コア13の下面において、中央部及び四隅部分の計5個所に接着剤14を塗布した状態で、板状コア13を鍔部5,6の天面5a,6a及び鍔部5,6間のワイヤ3a,3bに接着するので、5個所に塗布された接着剤14が押し広げられて一体となる。従って、板状コア13の機械的強度が向上する。
【0049】
(9)接着剤14の塗布量が過大となっても、過大な接着剤14がワイヤ3a,3bと板状コア13との間で吸収され、板状コア13の側面への漏れが抑制される。
(10)フィラーを含まない接着剤14を使用して、板状コア13をドラム状コア2及び巻芯部4に巻装されたワイヤ3a,3bに接着するので、ディスペンサを使用して、接着剤14を板状コア13に塗布することができる。従って、接着剤14の塗布精度が向上する。
【0050】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・板状コアは、金属箔であってもよい。
【符号の説明】
【0051】
1…コイル部品、2…ドラム状コア、3a,3b…ワイヤ、4…巻芯部、5,6…鍔部、5a,6a…天面、13…板状コア、14…接着剤、C…コイル。
図1
図2
図3
図4
図5