(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記検出手段は、前記測域センサから出力される前記物体の位置情報に基づいて定められる当該物体の前記座標平面における位置座標の内、前記座標平面において前記長尺物のみが存在すると想定される想定座標領域外に属する位置座標を排除することにより、前記長尺物の前記座標平面における位置座標を検出することを特徴とする請求項1に記載の長尺物引掛り検出装置。
前記エレベータは、かごと釣合おもりとが主ロープ群でつるべ式に吊り下げられると共に、前記かごと前記釣合おもりとの間に釣合ロープ群が垂下され、前記かごと前記釣合おもりとが前記昇降路内を反対向きに昇降する構成とされたエレベータであり、
前記長尺物は、前記主ロープ群または前記釣合ロープ群を構成する複数本のロープであって、
前記判断手段は、前記検出手段によって、前記基準座標領域外に前記複数のロープの内の一部が検出され、前記基準座標領域内に残余のロープが検出された場合、前記基準座標領域外に検出された前記一部のロープが引掛っていると判断することを特徴とする請求項1または2に記載の長尺物引掛り検出装置。
前記エレベータは、前記建物が地震などによって揺れることに起因して前記長尺物が横振れし、当該横振れの振幅の前記座標平面における大きさが所定の閾値を超えると管制運転を行うエレベータであって、
前記基準座標領域は、前記所定の閾値を画定する領域よりも狭いことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の長尺物引掛り検出装置。
【背景技術】
【0002】
長周期地震動や強風による建物の揺れが原因で、エレベータの主ロープやガバナロープなどの長尺物に、振幅の大きな水平方向の振れが生じることがある(以下、この振れを「横振れ」と称する。)。この場合、横振れの大きさのレベルを建物に設置した長周期振動感知器によって感知される建物の揺れの大きさから推定し、前記レベルに応じた管制運転を実施して、かごを所定の階に停止させることが行われる。
【0003】
建物の揺れが大きかった場合、前記長尺物が大きく横振れして昇降路内設備に引っ掛っているおそれがある。このため、建物揺れが収束した後、保守員を現場に派遣し、長尺物の引掛りの無いことを確認した上で、復旧するようにしている。
【0004】
しかし、数多くの建物に設置されているエレベータの点検を全て終えるのには、長時間を要し、このため復旧が遅れてしまう。これに対し、長尺物の一つであるガバナロープの引掛りを、保守員によらずに検出し得る技術が特許文献1の第5の実施形態の中に開示されている(特許文献1の段落[0059]、
図6)。
【0005】
特許文献1では、その
図6に示されているように、発光器16aから照射されるレーザー光線17aの形状が扇状をした第1光センサ10aと、発光器16bから照射されるレーザー光線17bの形状が直線状をした第2光センサ10bとを備えている。
【0006】
第1光センサ10aは、静止しているガバナーロープ9bが前記扇状の中心を貫通するように設置されている(引用文献1の
図6)。第2光センサ10bは、前記扇状の前記中心と平行で、かつ当該中心と所定の間隔をおいて前記レーザー光線17bが照射されるように設置されている(引用文献1の
図6)。引用文献1の段落[0051]において、『前記第1光センサ10aによる正常検出範囲Tは、前記レーザー光線17aの角度αの範囲(丸で囲まれた範囲T)となる一方、前記第2光センサ10bでは、他端側索条9aがこのレーザー光線17bに触れたこと、つまりこのレーザー光線17b上を異常境界線Lとし、これを検出するようになっている。』とされている。
【0007】
上記の構成において、第1光センサ10aが、ガバナーロープ9bが前記検出範囲T内にあるとして検出オン信号を出力しているか(引用文献1の段落[0054])、あるいは、第1光センサ10aと第2光センサ10bの両方がオフ信号を出力している場合には、通常の運転を行うとされている(引用文献1の段落[0055])。
【0008】
また、第1光センサ10aがオフ信号を出力し、第2光センサ10bがオン信号を出力した場合、ガバナーロープ9bが大きく振れて、昇降路内設備(引用文献1では、
図6の階床レベル調整用ベーン18,19)に引っ掛ってしまうおそれがあることから、管制運転として、速やかにかごを最寄り階に停止させることとしている(引用文献1の段落[0056])。
【0009】
そして、引用文献1の段落[0059]には、『前記第1光センサ10aがオフ信号を出力し、第2光センサ10bもオフ信号を出力し、これらの各それぞれの信号が所定時間継続して出力されている場合は、…ガバナーロープ9が昇降路1内の機器に絡まっている可能性があるので、乗りかご3の駆動を速やかに停止させる制御を行う。』とも記載されている。
【0010】
すなわち、引用文献1では、管制運転が必要なレベルまで、ガバナーロープが振れた状態が継続していることが検出されることをもって、ガバナーロープの引掛りを検出することとしている。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る長尺物引掛り検出装置の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各図において、構成要素間の尺度は、必ずしも統一していない。
【0026】
図1は、実施形態に係る長尺物引掛り検出装置の構成要素である測域センサ54,56を有するエレベータ10が収納された昇降路12内を乗り場(不図示)側から見た正面図(
図1には、測域センサ54,56は現れていない。)であり、
図2は、エレベータ10の右側面図である。
【0027】
図1、
図2に示すように、エレベータ10は駆動方式としてトラクション方式を採用したロープ式エレベータである。昇降路12最上部よりも上の建物14部分に機械室16が設けられている。機械室16には、巻上機18とそらせ車20が設置されている。巻上機18を構成する綱車22とそらせ車20には、複数本の主ロープが巻き掛けられている。この複数本の主ロープを「主ロープ群24」と称することとする(なお、
図1において、主ロープ群24は正確な本数で記載していない。)。
【0028】
主ロープ群24の一端部にはかご26が連結されており、他端部には釣合いおもり28が連結されていて、かご26と釣合おもり28とが主ロープ群24でつるべ式に吊り下げられている。
【0029】
かご26と釣合おもり28との間には、最下端に釣合車30がかけられた複数本の釣合ロープが垂下されている。この複数本の釣合ロープを「釣合ロープ群32」と称することとする。本例では、主ロープ群24を構成する主ロープの本数と釣合ロープ群32を構成する釣合ロープの本数は同数(本例では、8本)である。主ロープと釣合ロープの径は、一般的に、10mm〜20mmである。なお、主ロープ群24を構成する主ロープの本数と、釣合ロープ群32を構成する本数は、上記の本数に限らず、エレベータの仕様に応じて任意に選択される。
【0030】
かご26の下端部からはトラベリングケーブル34が垂下されていて、トラベリングケーブル34のかご26とは反対側の端部は、昇降路12の上下方向における中程の側壁に設置されたケーブル接続箱(不図示)に接続されている。すなわち、トラベリングケーブル34は、かご26の下端部と前記ケーブル接続箱との間で、細長いU字状に吊り下げられている。トラベリングケーブル34は、かご26と後述する制御盤50との間で電力・信号を伝送するケーブルであり、かご26の動きに合わせて昇降するケーブルである。トラベリングケーブル34としては、一般的には平形ケーブルが用いられ、例えば、その厚みは15mmで幅が100mm程度である。
【0031】
昇降路12内には、一対のかご用ガイドレール36,38と一対の釣合いおもり用ガイドレール40,42とが、上下方向に敷設されている(いずれも、
図1、
図2において不図示、
図4を参照)。
【0032】
上記の構成を有するエレベータ10において、不図示の巻上機モータにより綱車22が正転または逆転されると、綱車22に巻き掛けられた主ロープ群24が走行し、主ロープ群24で吊り下げられたかご26と釣合おもり28が互いに反対向きに昇降する。また、これに伴って、かご26と釣合おもり28との間に垂下された釣合ロープ群32は、釣合車30において折り返し走行する。さらに、かご26の昇降に伴って、U字状に吊り下げられたトラベリングケーブル34の下端部(折返し部)も上下方向に変位する。
【0033】
かご26には、
図4に示すように、かご26が目的階に正確に着床したか否かを検出するための公知の着床センサ44が取り付けられている(
図4以外は不図示)。着床センサ44には、例えば、投光器と受光器が対向して設けられてなる(いずれも、不図示)透過型の光電センサが用いられる。
【0034】
また、各階に対応させて、遮光板46が設けられている(
図4以外は不図示)。遮光板46は、例えば、
図4に示すように、L字形をした細長い金属板からなる。遮光板46は、下かご26が目的階に正確に着床したときに、先端部が着床センサ44で検出されるよう位置決めされて、基端部がかご用ガイドレール36に固定されている。
【0035】
図1、
図2に戻り、機械室16には、地震や強風に伴って生じる建物14の長周期揺れを検知する長周期振動感知器48が設置されている。
【0036】
機械室16には、また、巻上機18やかご26に設置された各種装置(不図示)に電力を供給する電源ユニット(不図示)、および、これらの装置を制御する制御回路ユニット52(
図5)を有する制御盤50が設置されている。
【0037】
制御回路ユニット52は、CPUにROM、RAMが接続された構成を有している(いずれも、不図示)。前記CPUは、前記ROMに格納された各種制御プログラムを実行することにより、巻上機18などを統括的に制御して、円滑なかごの昇降動作等による通常運転を実現する一方、地震などが発生した場合には、乗客の安全を図るため管制運転を実現する。
【0038】
ここで、
図2に示すように、主ロープ群24において、かご26を吊り下げる部分をかご側主ロープ部分24Aと称し、釣合おもり28を吊り下げる部分を釣合おもり側主ロープ部分24Bと称することとする。また、釣合ロープ群32において、かご26から垂下された部分(かご26と釣合車30との間の釣合ロープ群32部分)をかご側釣合ロープ部分32Aと称し、釣合おもり28から垂下された部分(釣合おもり28と釣合車30との間の釣合ロープ群32部分)を釣合おもり側釣合ロープ部分32Bと称することとする。上記の定義に従えば、主ロープ群24に占めるかご側主ロープ部分24Aと釣合おもり側主ロープ部分24Bの長さ(範囲)、および、釣合ロープ群32に占めるかご側釣合ロープ部分32Aと釣合おもり側釣合ロープ部分32B長さ(範囲)は、かご26および釣合おもり28の昇降位置によって伸縮(変動)する。
【0039】
主ロープ群24を構成する複数本(本例では8本)の主ロープM1〜M8の配列について、
図3を参照しながら説明する。
図3は、綱車22とかご26との間の主ロープ群24部分、すなわち、かご側主ロープ部分24Aを表した概念図である。
【0040】
図3(a)の上図は、綱車22およびかご側主ロープ部分24Aの一部を正面から見た図であり、
図3(a)の下図は、かご26を上面から見た図である。
図3(a)の下図は、主ロープ群24を構成する主ロープM1〜M8のかご26に対する平面視における連結位置と主ロープM1〜M8との対応関係を示す図である。
図3(b)は、綱車22、かご側主ロープ部分24A、およびかご26の一部を右側方から見た図である。
【0041】
8本の主ロープM1〜M8は、
図3(a)の上図に示すように、この順で、綱車22に水平方向(綱車22の軸心方向)に等間隔で巻き掛けられている。主ロープM1〜M8の下端部は、
図3(a)の下図に示すように、奇数番目の主ロープM1,M3,M5,M7と偶数番目の主ロープM2,M4,M6,M8とで2列に振り分けて、かご26に連結されている。
【0042】
このように、2列に振り分けるのは、1列で連結すると、主ロープM1〜M8端部をかご26へ連結する止め金具(シャックルロッド)の大きさ(外径)の影響により、綱車22における主ロープM1〜M8の間隔よりも大きくなり、かご26上部の限られたスペースを有効に用いるのに支障があるからである。
【0043】
かご26への連結位置における主ロープM1,M3,M5,M7の間隔も、主ロープM2,M4,M6,M8の間隔も等間隔であり、主ロープM1〜M8の水平方向の間隔も等間隔である。よって、綱車22からかご26に至る主ロープ群24部分(かご側主ロープ部分24A)の主ロープM1,M3,M5,M7、主ロープM2,M4,M6,M8、および主ロープM1〜M8の水平方向の間隔は、上下いずれの位置においても等間隔である。
【0044】
なお、釣合おもり側主ロープ部分24Bにおける主ロープM1〜M8の配列の態様も、上記したかご側主ロープ部分24Aと基本的に同様である(
図9)。また、釣合ロープ群32を構成する複数本(本例では8本)の釣合ロープC1〜C8に関しても、その折り返し位置が綱車22になるか釣合車30になるかが異なるだけで(すなわち、上下方向が反対になるだけで)、かご側釣合ロープ部分32A、釣合おもり側釣合ロープ部分32Bにおける複数本のロープの配列は、
図9、
図4に各々示すように、基本的に、それぞれ、かご側主ロープ部分24A、釣合おもり側主ロープ部分24Bと同様である。
【0045】
上記の構成を有するエレベータ10が設置される建物14が長周期地震や強風によって揺れると、昇降路12内に吊り下げられた主ロープ群24、釣合ロープ群32、トラベリングケーブル34などの長尺物が横振れする。なお、昇降路12内に吊り下げられた長尺物は、これら以外に、ガバナロープ(不図示)がある。ガバナロープは、言うまでもなく、機械室16に設置された調速機のシーブと昇降路12底部に設けられた張り車との間にエンドレスに張られたロープである(いずれも不図示)。
【0046】
長尺物、例えば、主ロープ群24や釣合ロープ群32の横振れの程度に応じた管制運転を実現するため、横振れの振幅の程度が検出される。
【0047】
当該横振れの振幅を検出するための測域センサ54,56が、
図2に示すように、昇降路12の側壁に設置されている。測域センサ54は、上下方向における昇降路12の中央位置に設置されており、測域センサ56は、昇降路12の全長に対して昇降路12の底部から1/4の高さの位置に設置されている。測域センサ54と測域センサ56は、上下方向における設置位置が異なるだけで同じセンサであり、用いられ方も同じである。よって、以下、測域センサ54を代表に説明し、測域センサ56の詳細については省略する。
【0048】
ここで、昇降路12は、
図4に示すように、本例では、四つの側壁58で囲まれた空間であり、この四つの側壁58を区別する必要がある場合は、符号「58」にアルファベットA,B,C,Dを付すこととする。測域センサ54は、乗り場(不図示)側の側壁58Aに設置されている。また、測域センサ54は、
図2、
図4に示すように、かご26および釣合おもり28の昇降経路外に設置されている。
【0049】
測域センサ54は、その設置位置を含む水平面に存する昇降路12内の物体(通常、複数)の当該設置位置からの方向と距離を計測し、当該方向と距離を2次元位置情報として出力する。前記2次元位置情報は、極座標形式である。
【0050】
測域センサ54は、例えば、所定角度間隔(例えば、0.125度)でレーザ光を出射して前記水平面を扇状に走査し、出射したレーザ光毎に物体まで往復してくる時間を計測し、距離に換算する光飛行時間測距法(Time of Flight)により、測域センサ54の設置位置から物体までの距離を計測する公知の2次元測域センサ(Laser Range Scanner)である。走査1回当たりの時間(走査時間)は、例えば、25msecである。測域センサ54の走査角度αは、
図4に示すように180度に近い大きさであり、測域センサ54の設置位置を含む水平面における昇降路12のほぼ全域が走査範囲になっている。
【0051】
長周期地震や強風に起因して横振れしているかご側主ロープ部分24Aおよびかご側釣合ロープ部分32Aの前記水平面における振幅を検出する方法について、
図4〜
図7を適宜参照しながら説明する。
【0052】
測域センサ54からの前記2次元位置情報は、制御回路ユニット52の
図5(a)に示す長尺物検出部60に入力される。制御回路ユニット52は、長尺物検出部60の他、運転制御部62を含む。運転制御部62は、上述したように、各種装置を制御して前記通常運転や前記管制運転を実現する。
【0053】
極座標形式の2次元位置情報は、長尺物検出部60の
図5(b)に示す座標変換部6002によって、前記水平面に採った座標平面における直交座標(xy直交座標)に変換される。
【0054】
当該直交座標は、例えば、測域センサ54(
図6(a)では不図示)の設置位置を原点とする
図6(a)に示すようなxy直交座標である。
【0055】
図6(a)には、かご側主ロープ部分24Aおよび釣合おもり側釣合ロープ部分32Bが測域センサ54の走査範囲に入っている状態(
図4に示す状態)において一走査で検出された物体の座標(以下、「位置座標」と言う。)がプロットされている。
【0056】
図6(a)において、プロットされた座標に対応する物体の符号を括弧付きで記すこととする(
図6(b)、
図8(b)、
図8(c)についても同様)。
【0057】
上述した測域センサ54の検出原理から理解されるように、第1の物体が検出された場合、測域センサ54から見て、第1の物体の背後に隠れた第2の物体(または、その部分)は検出されない。例えば、側壁58Bの一部が検出されていないのは、当該一部が測域センサ54から見てガイドレール36の背後に隠れているからであり、釣合ロープC1〜C8が検出されないのは、釣合ロープC1〜C8が主ロープM1〜M8の背後に隠れているからである。
【0058】
本例において、
図6(a)に記した位置座標の内、必要な位置座標は、かご側主ロープ部分24Aに係る主ロープM1〜M8の位置座標であり、その他の物体の位置座標は、当該主ロープM1〜M8の特定のためには支障となる。なお、かご26が測域センサ54よりも上方に位置する場合には、測域センサ54の検出対象として必要となるのは、かご側釣合ロープ部分32Aに係る釣合ロープC1〜C8である。
【0059】
そこで、かご側主ロープ部分24A、およびかご側釣合ロープ部分32Aに生じ得る横振れの想定範囲を考慮し、測域センサ54の走査面(水平面)において、かご側主ロープ部分24A、およびかご側釣合ロープ部分32Aのみが存在すると想定される想定座標領域R1(
図6において、一点鎖線で囲まれた領域)を予め設定しておく。本例では、想定座標領域R1は、
図6(a)に示すように、4点P1〜P4の座標(X1,Y1)、(X2,Y2)、(X3,Y3)、(X4,Y4)によって画定される。このP1〜P4の前記座標の一組は、「R1画定情報として」、長尺物検出部60の想定座標領域記憶部6006(
図5(b))に記憶されている。
【0060】
上述したように、測域センサ54から出力される2次元位置情報は、座標変換部6002に入力され、座標変換部6002において極座標から直交座標に変換される。変換後の座標(位置座標)は、座標変換部6002から出力され、不要座標排除部6004に入力される。
【0061】
不要座標排除部6004は、想定座標領域記憶部6006に記憶されている前記R1画定情報を参照し、座標変換部6002からの物体の位置座標の内、想定座標領域R1内に属する位置座標のみを出力し、出力された当該位置座標は振幅割出部6008へ入力される。換言すると、不要座標排除部6004は、座標変換部6002からの物体の位置座標の内、想定座標領域R1外に属する位置座標を排除して出力し、出力された当該位置座標は振幅割出部6008へ入力される。
【0062】
図6(b)は、振幅割出部6008へ入力された前記位置座標を前記直交座標にプロットした図である。
図6(b)に示すように、振幅割出部6008に入力された位置座標は想定座標領域R1内に存する物体、すなわち、主ロープM1〜M8に対するもののみになっている。
【0063】
ここで、長周期地震や強風に伴う建物14の揺れに起因してかご側主ロープ部分24Aが横振れする場合、かご側主ロープ部分24Aを構成する主ロープM1〜M8の各々は、独立して横振れするものの、障害物が無い場合には、基本的には同じ挙動で横振れする。すなわち、
図4に示す配列を維持したまま、横振れする。
【0064】
そこで、振幅割出部6008は、主ロープM1〜M8の内の一の主ロープの変位から、かご側主ロープ部分24A全体の走査面(水平面)における振幅を割り出すこととしている。
【0065】
具体的には、例えば、
図6(b)に示す主ロープ(M1)の変位から当該振幅を割り出す。また、主ロープM1の変位は、主ロープM1に対応する位置座標の内、
図6(b)の紙面に向かって最も左端の位置座標(Xm1、Ym1)で特定する。当該位置座標は、主ロープM1〜M8に対応する位置座標の内、X座標値が最も小さい位置座標として特定される。以下、かご側主ロープ部分24A全体の振幅の割出に用いる位置座標(Xm1、Ym1)を「特定座標」と称することとする。
【0066】
振幅割出部6008は、測域センサ54の一走査毎に不要座標排除部6004から入力される位置座標から特定座標(Xm1、Ym1)を所定時間(複数回の走査に亘って)モニタリングする。当該所定時間は、例えば、想定される横振れの最大周期(例えば、10秒)である。この所定時間を以下、「観測時間」と言う。
【0067】
1回のモニタリングの結果を
図7に示す。1回のモニタリングにおける複数の特定座標(Xm1、Ym1)は、
図7に示すように、直線的に列を成す(以下、この列を「座標列」と称する。)。振幅割出部6008は、当該座標列の両端に位置する座標(Xe1,Ye1)、(Xe2,Ye2)を抽出し、この2点間の距離SXを演算する。SXが、1回のモニタリングの観測時間中に生じた最大振幅SXとみなされる。
【0068】
振幅割出部6008は、SXを振れレベル判定部6010へ出力する。振れレベル判定部6010は、振幅割出部6008から入力されるSXに基いて、横振れの大きさのレベルを判定する。
【0069】
振れレベル判定部6010は、予め定められた振幅の基準値S1、S2、S3、S4(S1<S2<S3<S4)と振幅SXを以下のように比較し、振幅SXが振れレベルL0(管制運転不要レベル)、L1(特低レベル)、L2(低レベル)、L3(高レベル)、およびL4(極高レベル)のいずれに該当するかを判定する。
【0070】
SX<S1→L0
S1≦SX<S2→L1
S2≦SX<S3→L2
S3≦SX<S4→L3
S4≦SX →L4
【0071】
振れレベル判定部6010は、判定結果の振れレベル(L0、L1、L2、L3、L4のいずれか)を運転制御部62へ出力する。
【0072】
運転制御部62は、振れレベル判定部6010から入力される振れレベルに応じた管制運転を実施する。レベル毎に異なる管制運転の内容については省略する。
【0073】
以上説明したように、実施形態では、測域センサ54、長尺物検出部60の座標変換部6002、不要座標排除部6004、想定座標領域記憶部6006、および振幅割出部6008でロープ振れ検出装置が構成されている(
図5)。当該ロープ振れ検出装置によれば、上述の通り、測域センサ54から、その設置位置を含む水平面に存する物体の当該設置位置からの方向と距離が2次元位置情報として出力され、当該2次元位置情報から、かご26を吊るすかご側主ロープ部分24Aおよびかご26から垂下されたかご側釣合ロープ部分32Aのいずれかのロープ部分の前記水平面内における位置座標が検出されて、検出された前記ロープ部分の前記位置座標から、当該ロープ部分が横振れしたときの当該横振れの前記水平面における振幅が割り出される。
【0074】
長周期地震動や強風による建物14の揺れが収まり、長尺物の横振れが収束したと判断されると、長尺物が昇降路12内設備に引っ掛っていないかどうかの点検を行う。長尺物の横振れの収束の判断は、振幅割出部6008で検出される振幅の大きさを参照しても構わないし、あるいは、長周期振動感知器48によって検知される建物14の揺れの大きさが、地震等の発生前の通常の範囲内の大きさになった時点から長尺物の横振れが同じく通常の範囲まで収束すると見做される時間が経過したことをもってしても構わない。
【0075】
昇降路12内設備の内、主ロープや釣合ロープが引っ掛る可能性が最も高いのは、遮光板46(
図4)である。この他、長尺物が引っ掛る可能性がある昇降路12内設備としては、かごの戸と乗り場の戸を連動して開閉させるための係合装置を構成する乗り場側の係合機構(不図示)などがある。当該係合機構は、各階の乗り場毎に設けられている。
【0076】
以下、主ロープまたは釣合ロープの引掛りを検出する方法について説明する。建物14の揺れがないときの正常なかご側主ロープ部分24A、およびかご側釣合ロープ部分32Aのみが存在する基準座標領域R2を予め設定しておく。本例では、基準座標領域R2は、
図6(a)に示すように、4点P5〜P8の座標(X5,Y5)、(X6,Y6)、(X7,Y7)、(X8,Y8)によって画定される。
【0077】
基準座標領域R2は、長周期地震動や強風による建物14の揺れが収まり、長尺物の横振れが収束したと判断されたときに、主ロープ群24または釣合ロープ群32を構成する複数本のロープの全てが基準座標領域R2内で検出されると異常がないと判断される領域である。換言すると、基準座標領域R2は、前記複数本のロープの一部でも基準座標領域R2外で検出された場合には、検出された当該一部のロープが昇降路12内設備に引っ掛っていると判断される領域である。
【0078】
基準座標領域R2は、例えば、
図6(a)に示すように方形をしており、その中心(対角線の交点)が正常な状態の主ロープ群24全体および釣合ロープ群32全体の位置座標の中心(以下、「ロープ群中心」と言う。)と一致するような方形領域である。前記ロープ群中心とは、主ロープ群24または釣合ロープ群32を構成する複数本のロープのかご26との連結位置における、平面視でのロープ各々の中心のX座標とY座標の算術平均で求められる座標である。ロープ群中心を(Xc,Yc)とする(
図8(a))。
【0079】
基準座標領域R2は、例えば、
図8(a)に示すように、振れレベルL1で横振れする主ロープ群24および釣合ロープ群32の横振れの範囲よりも狭い領域に設定される。
図8(a)において斜線が施された領域が、振幅SXが振れレベルL1と判定される領域であり、L0の範囲の振れであれば、管制運転不要レベルと判定される領域である。
【0080】
基準座標領域R2は、このL0よりも狭い領域に設定されている。すなわち、管制運転不要のレベルに止まる振幅分しか変位していない状態であっても、主ロープまたは釣合ロープが昇降路12内設備に引っ掛っている場合はあるので、これを検出するためである。
【0081】
基準座標領域R2を画定する上記P5〜P8の座標の一組は、「R2画定情報として」、長尺物検出部60の基準座標領域記憶部6012(
図5(b))に記憶されている。
【0082】
図5(b)に示すように、長尺物検出部60は、引掛り判断部6014を有している。引掛り判断部6014は、R2画定情報を参照して、主ロープまたは釣合ロープが引っ掛っていないかどうかを判断する。
【0083】
長周期地震動や強風による建物14の揺れが収まり、長尺物の横振れが収束したと判断されると、引掛り判断部6014は、R2画定情報を参照し、不要座標排除部6004から出力される座標の中に、基準座標領域R2外のものがあるかどうかの判定を行う。基準座標領域R2外のものがあると判定した場合、主ロープまたは釣合ロープの引掛りが発生していると判断する。主ロープ群24または釣合ロープ群32を構成する複数のロープ全てが同時に引掛る可能性はほとんどなく、通常、引っ掛ったとしても1〜2本である。
【0084】
よって、複数のロープの内の一部(1〜2本)が、基準座標領域R2外で検出され、残余のロープ(複数のロープの大半)が基準座標領域R2内で検出されることとなる。
【0085】
長尺物検出部60は、引掛り位置推定部6016を有している。引掛り位置推定部6016は、基準座標領域R2外で検出されたロープ、すなわち、引っ掛っているロープの昇降路12の上下方向における引掛り位置を推定する。
【0086】
また、長尺物検出部60は、設備位置情報記憶部6018を有している。設備位置情報記憶部6018には、長尺物が引っ掛かる可能性のある設備の昇降路12内における位置を特定する位置情報が記憶されている。
【0087】
当該位置情報は、
図6(a)に示したxy直交座標にz軸を加えたxyz直交座標で特定される。前記z軸は、鉛直方向に延びる軸で、昇降路12底部をz=0とし、
図6(a)のxy直交座標の原点を通る軸である。
【0088】
設備位置情報記憶部6018には、遮光板46(
図4)や前記乗り場側の係合機構(不図示)毎に、その位置情報(xyz直交座標)が記憶されている。
【0089】
引掛り位置推定部1016による引掛り位置の推定処理について、
図8(c)等を参照しながら説明する。不要座標排除部6004から引掛り判断部6014に出力された位置座標が
図8(c)に示すような結果であったとする。
【0090】
基準座標領域R2外に長尺物(本例では、主ロープM1)が検出されているため、引掛り判断部6014は、当該長尺物が引っ掛っていると判断する。なお、基準座標領域R2外に長尺物が検出されない場合、引掛り判断部6014は、引掛りは発生していない旨、運転制御部62に通知する。
【0091】
引掛りが発生していると判断した場合、引掛り判断部6014は、その旨および基準座標領域R2外で検出された位置座標(以下、「基準外座標」と言う。)を引掛り位置推定部6016に通知する。
【0092】
引掛り位置推定部6016は、運転制御部62からその時のかご26の停止位置情報を取得し、かご26の停止位置と前記基準外座標とから、長尺物(本例では、主ロープ)の昇降路12の上下方向における引掛り位置を推定する。
【0093】
具体的には、かご16の停止位置情報から、前記ロープ群中心(Xc,Yc)の前記xyz座標系における座標(Xc,Yc,Zc)を求める。また、基準外座標のX座標とY座標の算術平均、および測域センサ54のz軸上の設置位置から、引っ掛っていると判断された長尺物(本例では、主ロープM1)の測域センサ54の走査平面上における位置の前記xyz座標系における座標(Xh,Yh,Zh)を求める。
【0094】
引っ掛った主ロープ(ここでは、主ロープM1)は、通常、かご26との連結位置から引っ掛った昇降路12内設備までの間は略直線状を成す。引掛り位置推定部6016は、座標(Xc,Yc,Zc)と座標(Xh,Yh,Zh)とを結ぶ線分を座標(Xh,Yh,Zh)側へ、昇降路12の側壁58近傍まで延長する。引掛り位置推定部6016は、側壁58近傍において当該延長した直線に最も近い昇降路12内設備に主ロープが引っ掛かっていると推定する。
【0095】
推定結果(すなわち、引っ掛っていると推定される昇降路12内設備)は、運転制御部62に通知される。
【0096】
通知を受けた運転制御部62は、中央管理室(不図示)に設置された中央監視盤64(
図5)に長尺物(本例では、主ロープ)が引掛っている旨および引っ掛っていると推定される昇降路12内設備を通知する。通知を受けた中央監視盤64は、同室内のモニターに当該通知内容を表示する。
【0097】
以上説明したように、実施形態では、測域センサ54、長尺物検出部60の座標変換部6002、不要座標排除部6004、引掛り判断部6014、基準座標領域記憶部6012、引掛り位置推定部6016、および設備位置情報記憶部6018で長尺物引掛り検出装置が構成されている(
図5)。
【0098】
当該長尺物引掛り装置検出装置によれば、上述の通り、測域センサ54から、その設置位置を含む水平面に存する物体の当該設置位置からの方向と距離が2次元位置情報として出力され、当該2次元位置情報から、かご26を吊るすかご側主ロープ部分24Aおよびかご26から垂下されたかご側釣合ロープ部分32Aのいずれかのロープ部分の前記水平面内における位置座標が検出される。建物14が揺れた後、建物14の揺れに伴う長尺物(主ロープおよび釣合ロープ)の振れが収束したとみなされたときに検出された位置座標の内、基準座標領域R2外のものがあれば、引っ掛っているロープがあると判断される。
これにより、管制運転不要のレベルに止まる振幅分しか変位していない状態であっても、引掛りの検出がされるため、従来よりも精度よく、長尺物の引掛りの有無を検出することができる。
【0099】
なお、以上では、複数本のロープの内の1本のみが引っ掛った例を示したが、引っ掛っているロープが複数の場合であっても、個々のロープの引掛り位置(昇降路12内設備)は、以下のようにして、推定することができる。
【0100】
引っ掛っているロープは、基準座標領域R2外で複数の座標として検出される。その複数の座標を、その連続性から座標のかたまり毎にグループ分けし、個々のグループを1本のロープとして処理することにより、上述した手法で、個々のロープの引掛り位置を推定することができる。
【0101】
上記では、かご側主ロープ部分24A又はかご側釣合ロープ部分32Aを引掛り検出の対象としたが、釣合おもり側主ロープ部分24B、釣合おもり側釣合ロープ部分32Bを引掛り検出の対象としても構わない。
【0102】
この場合、釣合おもり側主ロープ部分24B、釣合おもり側釣合ロープ部分32Bを検出し易くするため、測域センサ54,56は、側壁58C(
図4)に設置しても構わない。
【0103】
あるいは、かご側主ロープ部分24A及びかご側釣合ロープ部分32A、並びに、釣合おもり側主ロープ部分24B及び釣合おもり側釣合ロープ部分32Bを検出し易くするため、測域センサ54,56は、側壁58B又は側壁58D(
図4)に設置しても構わない。
【0104】
また、かご26が測域センサ54よりも上方に停止した場合、
図9に示すように、測域センサ54の走査面には、トラベリングケーブル34が現れるので、トラベリングケーブル34も引掛り検出の対象としても構わない。
【0105】
すなわち、引掛り検出の対象となる長尺物毎に、想定座標領域と基準座標領域を定めて、上述した、かご側主ロープ部分24A及びかご側釣合ロープ部分32Aでした引掛り検出の処理と同様にすればよいのである。
【0106】
また、本実施形態では、センサ54に加えセンサ56を設置しているので、上下方向において、センサ54とセンサ56の間にかご26が停止した場合、例えば、センサ54ではかご側主ロープ部分24Aの引掛り検出を、センサ56ではかご側釣合ロープ部分32Aの引掛り検出をそれぞれすることができる。