特許第6784321号(P6784321)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784321
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】電線導体、絶縁電線、ワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/00 20060101AFI20201102BHJP
   H01B 5/08 20060101ALI20201102BHJP
   H01B 13/02 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   H01B7/00
   H01B5/08
   H01B13/02 Z
【請求項の数】15
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-504301(P2019-504301)
(86)(22)【出願日】2017年9月1日
(86)【国際出願番号】JP2017031525
(87)【国際公開番号】WO2018163465
(87)【国際公開日】20180913
【審査請求日】2019年8月20日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2017/009579
(32)【優先日】2017年3月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若松 孝徳
(72)【発明者】
【氏名】吉本 潤
【審査官】 久保 正典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−196881(JP,A)
【文献】 特開2014−060061(JP,A)
【文献】 特開2009−140661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
H01B 5/08
H01B 11/02
H01B 13/00
H01B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の同一径を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる素線が撚り合わせられた電線導体において、
前記電線導体は、全ての前記素線が一括して同芯撚にて撚り合わせられたものであり、
前記電線導体の軸線方向に交差する断面における前記素線の配置は、正六角形に近似される外接図形の中に前記素線と同じ径を有する仮想素線を最大本数充填した仮想断面の外周部から、1本または複数本の前記仮想素線を除去したものであり、
前記素線の外径が0.32mm、前記電線導体の呼び寸法が5sqであり、前記電線導体の外径の最大値が3.10mm未満であることを特徴とする電線導体。
【請求項2】
複数本の同一径を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる素線が撚り合わせられた電線導体において、
前記電線導体は、全ての前記素線が一括して同芯撚にて撚り合わせられたものであり、
前記電線導体を構成する前記素線の本数は、3n(n+1)+1(ただしnは1以上の自然数)を除く4以上の自然数であり、
前記素線の外径が0.32mm、前記電線導体の呼び寸法が5sqであり、前記電線導体の外径の最大値が3.10mm未満であることを特徴とする電線導体。
【請求項3】
複数本の同一径を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる素線が撚り合わせられた電線導体において、
前記電線導体は、全ての前記素線が一括して同芯撚にて撚り合わせられたものであり、
前記電線導体の軸線方向に交差する断面における前記素線の配置は、正六角形に近似される外接図形の中に前記素線と同じ径を有する仮想素線を最大本数充填した仮想断面の外周部から、1本または複数本の前記仮想素線を除去したものであり、
前記素線の外径が0.32mm、前記電線導体の呼び寸法が5sqであり、前記電線導体の外径の平均値が2.85mm未満であることを特徴とする電線導体。
【請求項4】
複数本の同一径を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる素線が撚り合わせられた電線導体において、
前記電線導体は、全ての前記素線が一括して同芯撚にて撚り合わせられたものであり、
前記電線導体を構成する前記素線の本数は、3n(n+1)+1(ただしnは1以上の自然数)を除く4以上の自然数であり、
前記素線の外径が0.32mm、前記電線導体の呼び寸法が5sqであり、前記電線導体の外径の平均値が2.85mm未満であることを特徴とする電線導体。
【請求項5】
前記電線導体の導体断面積を前記電線導体の外径の最大値を直径とする円の面積で除した値として算出される最大径断面積率が、0.62以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電線導体。
【請求項6】
前記電線導体の導体断面積を前記電線導体の外径の最大値を直径とする円の面積で除した値として算出される最大径断面積率は、0.66以上であることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の電線導体。
【請求項7】
前記電線導体の導体断面積を前記電線導体の外径の平均値を直径とする円の面積で除した値として算出される平均径断面積率が、0.73以上であることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の電線導体。
【請求項8】
前記電線導体の導体断面積を前記電線導体の外径の平均値を直径とする円の面積で除した値として算出される平均径断面積率は、0.76以上であることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の電線導体。
【請求項9】
複数本のアルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる素線が撚り合わせられた電線導体において、
前記電線導体は、それぞれ前記複数の素線が撚り合わせられた子撚線が複数撚り合わせられたものであり、
前記電線導体の導体断面積を前記電線導体の外径の最大値を直径とする円の面積で除した値として算出される最大径断面積率が、0.63以上であり、
前記電線導体の導体断面積を前記電線導体の外径の平均値を直径とする円の面積で除した値として算出される平均径断面積率が、0.71以上であることを特徴とする電線導体。
【請求項10】
前記素線の外径が0.32mm、前記電線導体の呼び寸法が10sqであり、前記電線導体の外径の最大値が4.6mm未満であることを特徴とする請求項9に記載の電線導体。
【請求項11】
前記素線の外径が0.32mm、前記電線導体の呼び寸法が10sqであり、前記電線導体の外径の平均値が4.3mm未満であることを特徴とする請求項9または10に記載の電線導体。
【請求項12】
前記素線の外径が0.32mm、前記電線導体の呼び寸法が20sqであり、前記電線導体の外径の最大値が6.5mm未満であることを特徴とする請求項9に記載の電線導体。
【請求項13】
前記素線の外径が0.32mm、前記電線導体の呼び寸法が20sqであり、前記電線導体の外径の平均値が6.0mm未満であることを特徴とする請求項9または12に記載の電線導体。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載の電線導体と、前記電線導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有することを特徴とする絶縁電線。
【請求項15】
請求項14に記載の絶縁電線を含むことを特徴とするワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線導体、絶縁電線、ワイヤーハーネス、電線導体の製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、アルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる素線を撚り合わせた電線導体、そのような電線導体を備えた絶縁電線およびワイヤーハーネス、そしてそのような電線導体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来一般に、自動車用電線の電線導体としては、銅または銅合金が用いられてきた。しかし、例えば特許文献1に示されるように、近年、自動車用電線などの電線の導体として、アルミニウム合金線を用いることが提案されている。アルミニウムは、銅よりも比重が小さく、自動車用電線の導体を構成する材料として用いることで、車両の軽量化、ひいては低燃費化に資するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5607853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、自動車用電線として、銅や銅合金の代わりにアルミニウムやアルミニウム合金を用いようとした際に、アルミニウムやアルミニウム合金の導電率が、銅や銅合金に比べて小さいことが問題になる。そのため、アルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる電線導体において、必要な電気伝導性を確保するためには、銅または銅合金を用いる場合よりも、導体断面積を大きくする必要がある。すると、電線導体、また電線導体の外周に絶縁被覆を設けた絶縁電線の外径が大きくなってしまう。
【0005】
電線導体および絶縁電線の外径が大きくなると、種々の不都合が生じうる。例えば、絶縁電線の端末に端子を接続し、コネクタハウジングに収容しようとした際に、絶縁電線の端末および端子をコネクタハウジングの中に挿入するのが難しくなるという問題がある。図6(a)に示すように、電線導体8aが銅または銅合金よりなる場合には、電線導体8aが細く、またそれに適合する端子8bの寸法(高さおよび幅)も小さいため、電線8の端末および端子8をコネクタハウジング90のキャビティ91に、余裕をもって挿入することができる。これに対し、図6(b)に示すように、電線導体9aがアルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる場合には、同じコネクタハウジング90を用いようとすると、絶縁電線9の大径化およびそれに伴う端子9bの大型化により、電線9の端末および端子9bをコネクタハウジング90のキャビティ91に挿入することができない。このような状況において、アルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる電線導体を従来よりも細径化することが望まれている。
【0006】
本発明の解決しようとする課題は、アルミニウムまたはアルミニウム合金よりなり、必要な導体断面積を確保しながら外径が小さく抑えられた電線導体、およびそのような電線導体を備えた絶縁電線およびワイヤーハーネスを提供することにある。またそのような電線導体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明にかかる第一の電線導体は、複数本の同一径を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる素線が撚り合わせられた電線導体において、前記電線導体は、全ての前記素線が一括して同芯撚にて撚り合わせられたものであり、前記電線導体の軸線方向に交差する断面における前記素線の配置は、正六角形に近似される外接図形の中に前記素線と同じ径を有する仮想素線を最大本数充填した仮想断面の外周部から、1本または複数本の前記仮想素線を除去したものである。
【0008】
また、本発明の第二の電線導体は、複数本の同一径を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる素線が撚り合わせられた電線導体において、前記電線導体は、全ての前記素線が一括して同芯撚にて撚り合わせられたものであり、前記電線導体を構成する前記素線の本数は、3n(n+1)+1(ただしnは1以上の自然数)を除く4以上の自然数である。
【0009】
上記第一の電線導体または第二の電線導体において、前記電線導体の導体断面積を前記電線導体の外径の最大値を直径とする円の面積で除した値として算出される最大径断面積率が、0.62以上であるとよい。さらに、前記最大径断面積率は、0.66以上であるとよい。また、前記電線導体の導体断面積を前記電線導体の外径の平均値を直径とする円の面積で除した値として算出される平均径断面積率が、0.73以上であるとよい。さらに、前記平均径断面積率は、0.76以上であるとよい。また、前記素線の外径が0.32mm、前記電線導体の呼び寸法が5sqである場合に、前記電線導体の外径の最大値が3.10mm未満、あるいは平均値が2.85mm未満であるとよい。
【0010】
本発明の第三の電線導体は、複数本のアルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる素線が撚り合わせられた電線導体において、前記電線導体は、それぞれ前記複数の素線が撚り合わせられた子撚線が複数撚り合わせられたものであり、前記電線導体の導体断面積を前記電線導体の外径の最大値を直径とする円の面積で除した値として算出される最大径断面積率が、0.63以上である。
【0011】
上記第三の電線導体において、前記電線導体の導体断面積を前記電線導体の外径の平均値を直径とする円の面積で除した値として算出される平均径断面積率が、0.71以上であるとよい。また、前記素線の外径が0.32mm、前記電線導体の呼び寸法が10sqである場合に、前記電線導体の外径の最大値が4.6mm未満、あるいは平均値が4.3mm未満であるとよい。そして、前記素線の外径が0.32mm、前記電線導体の呼び寸法が20sqである場合に、前記電線導体の外径の最大値が6.5mm未満、あるいは平均値が6.0mm未満であるとよい。
【0012】
本発明にかかる絶縁電線は、上記いずれかのような電線導体と、前記電線導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有するものである。
【0013】
本発明にかかるワイヤーハーネスは、上記のような絶縁電線を含むものである。
【0014】
本発明にかかる電線導体の製造方法は、前記素線に対して軟化処理を行う工程と、前記素線を複数撚り合わせて前記子撚線を作製する工程と、前記子撚線を複数撚り合わせる工程と、をこの順に実行して、上記第三の電線導体を製造する、というものである。
【発明の効果】
【0015】
上記発明にかかる第一の電線導体においては、全ての素線が一括して同芯撚にて撚り合わせられたものであることにより、素線が相互に対して密に配置され、また撚り構造の解消が起こりにくい。その結果として、必要な導体断面積を確保しながら、電線導体の外径を小さく抑えることができる。上記仮想断面のように、正六角形に近似される外接図形の中に素線を最大本数充填した素線配置を断面において構成することができない場合には、従来一般には、集合撚が採用されてきた。しかし、断面において、そのように正六角形に近似される外接図形を与える素線配置を取ることができない場合であっても、集合撚ではなく、上記仮想断面の外周部から1本または複数の仮想素線を除去した素線配置とすることで、素線を相互に対して密に撚り合わせることができ、電線導体の外径を小さく抑える効果が得られる。
【0016】
上記発明にかかる第二の電線導体においても、全ての素線が一括して同芯撚にて撚り合わせられたものであることにより、素線が相互に対して密に配置され、また撚り構造の解消が起こりにくい。その結果として、必要な導体断面積を確保しながら、電線導体の外径を小さく抑えることができる。素線の本数が3n(n+1)+1以外である場合には、同芯撚にて素線を最密に充填しても、正六角形に近似できる外接図形を与える素線配置を得ることができないが、そのような場合であっても、同芯撚を採用することで、素線を相互に対して密に撚り合わせることで、電線導体の外径を小さく抑える効果が得られる。
【0017】
ここで、上記第一の電線導体および第二の電線導体において、電線導体の導体断面積を電線導体の外径の最大値を直径とする円の面積で除した値として算出される最大径断面積率が、0.62以上、さらには0.66以上である場合、また、電線導体の導体断面積を電線導体の外径の平均値を直径とする円の面積で除した値として算出される平均径断面積率が、0.73以上、さらには0.76以上である場合には、必要な導体断面積を確保しながら、従来よりも外径の小さい電線導体としやすい。最大径断面積率および平均径断面積率は、電線導体の外径を直径とする円に占める素線の面積を表すものであり、導体断面積が同じ場合に、電線導体の外径が小さくなるほど、各断面積率の値が大きくなるからである。
【0018】
本発明の第三の電線導体は、それぞれ複数の素線が撚り合わせられた子撚線が複数撚り合わせられたものである。一般にこの種の撚り構造を有する電線導体においては、子撚線の間に空隙が生じやすいが、電線導体の外径の最大値を直径とする円に占める素線の面積を表す最大径断面積率を0.63以上に定めておくことで、そのような空隙が小さくなる。その結果、必要な導体断面積を確保しながら、外径の小さい電線導体とすることができる。
【0019】
ここで、上記第三の電線導体において、電線導体の導体断面積を電線導体の外径の平均値を直径とする円の面積で除した値として算出される平均径断面積率が、0.71以上である場合には、上記最大径断面積率に加えて、平均径断面積率を指標として、必要な導体断面積を確保しながら、外径の小さい電線導体を得ることができる。
【0020】
上記発明にかかる絶縁電線は、細径化された電線導体を有するために、絶縁電線全体として、小さな外径を有する。また、電線導体の細径化が十分であれば、絶縁被覆をある程度厚くしても、絶縁電線全体としての外径を小さく維持することができる。
【0021】
上記発明にかかるワイヤーハーネスにおいては、絶縁電線の細径化の効果を利用しながら、ワイヤーハーネスを構成することができる。
【0022】
上記第三の電線導体を製造するにあたり、上記発明にかかる電線導体の製造方法によれば、軟化処理により、素線の伸びが向上されるため、その後で撚り合わせを行う際に、素線が柔軟に変形しやすくなり、複数の素線を相互に対して密に配置しながら、撚り合わせることができる。特に、子撚線の間に生じる空隙を小さくしやすい。その結果、必要な導体断面積を確保しながら、外径の小さい電線導体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第一の実施形態にかかる絶縁電線を示す断面図である。
図2】本発明の第二の実施形態にかかる絶縁電線を示す断面図である。
図3】(a)は、素線を集合撚にて撚り合わせた電線導体を示す断面図である。(b)は素線を同芯撚にて撚り合わせた電線導体を示す断面図である。
図4】集合撚における素線配置を示す図であり、(a)は六角形配置を取らない場合、(b)は六角形配置を取る場合である。
図5】各実施例および比較例にかかる絶縁電線の断面の写真である。
図6】端子を取り付けた絶縁電線をコネクタハウジングに挿入する状態を説明する側面図であり、(a)は従来一般の銅電線の場合、(b)は従来一般のアルミニウム電線の場合である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0025】
[第一の電線導体および絶縁電線]
まず、図1を参照しながら、本発明の第一の実施形態にかかる電線導体3および絶縁電線10について説明する。なお、図1および後に説明する図2では、見やすいように、素線1の本数を実際の好ましい形態より少なくして表示している。
【0026】
本発明の第一の実施形態にかかる電線導体3は、アルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる素線1が複数本撚り合わせられたものよりなる。本実施形態においては、全素線1が一括して撚り合わせられているのではなく、子撚線3aを単位として撚り合わせられている。つまり、複数の素線1が撚り合わせられた子撚線3aが、複数撚り合わせられて、電線導体3が形成されている。
【0027】
ここで、電線導体3について、最大径断面積率を算出することができる。最大径断面積率は、電線導体3の導体断面を、電線導体3の外径の最大値を直径とする円の面積で除した値として算出される。つまり、最大径断面積率Rmを、以下の式(1)によって算出できる。ここで、電線導体3の導体断面をS、電線導体3の外径の最大値をLmとする。
Rm=S/π(Lm/2) (1)
なお、導体断面積Sは、電線導体3を構成する素線1の断面積の総和であり、素線1が全て同じものである場合には、1本の素線1の断面積に素線1の数を乗じた量として計算できる。また、電線導体3が理想的な円形に近い断面を有さない場合には、電線導体3の断面において外径を計測する位置および方向によって、得られる外径の値が異なるが、上記で最大径断面積率Rmの評価に用いる外径の最大値Lmとは、電線導体3の断面の重心を通って断面を横切る直線の長さとして計測される外径の計測値を、1つの断面における種々の位置において、また複数の断面において得たなかで、最大の値を指すものである。また、後述する外径の平均値とは、それら計測値の平均値を指すものである。
【0028】
導体断面積が同じであれば、最大径断面積率が大きいほど、電線導体3の外径の最大値が小さくなる。最大径断面積率は、電線導体3の断面において金属材料が占める面積の割合に対して、正の相関を有する量であり、最大径断面積率が大きいほど、小さな空間の中に必要な本数の素線1を配置できていることになる。よって、本実施形態においては、必要な導体断面積を確保しながら電線導体3を細径化する観点から、式(2)のように、最大径断面積率Rmが所定の下限値Am以上になるように管理する。
Rm≧Am (2)
【0029】
最大径断面積率Rmの具体的な下限値Amとして、本実施形態にかかる電線導体3においては、0.63とする。下限値Amは、0.64、さらには0.66とすれば、より好ましい。
【0030】
なお、ここでは、最大径断面積率Rmを電線導体3の細径化の指標として用いているが、素線径を基準とした電線導体3の外径の最大値Lm自体を、最大径断面積率Rmと等価な指標として用いてもよい。つまり、式(1)および式(2)を用いて以下のように表現することができる。ここで、dは素線1の外径、Nは電線導体3を構成する素線1の本数である。
Rm=S/π(Lm/2)=[Nπ(d/2)]/[π(Lm/2)]=Nd/Lm≧Am (3)
これより、
Lm≦Am−0.5・N0.5・d (4)
となる。
【0031】
素線1を構成するアルミニウム合金の種類は、特に指定されるものではない。伸びを大きくし、素線1を密に撚り上げる観点からは、純アルミニウムを含む1000系、または3000系のアルミニウム合金を用いることが好適である。特に、軟化処理後の状態で10%以上、さらには15%以上の伸びを有することが好ましい。
【0032】
本実施形態にかかる絶縁電線10は、上記電線導体3の外周に絶縁被覆2を設けたものである。絶縁被覆2の材料は特に指定されないが、樹脂材料として、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、オレフィン系樹脂等を挙げることができる。また、樹脂材料に加えて、適宜フィラーや添加剤を含有してもよい。さらに、樹脂材料は架橋されていてもよい。
【0033】
本実施形態にかかる絶縁電線10は、複数の絶縁電線を束にしたワイヤーハーネスの形で用いることができる。この場合に、ワイヤーハーネスを構成する絶縁電線を全て本実施形態にかかる絶縁電線10としても、その一部を本実施形態にかかる絶縁電線10としてもよい。
【0034】
上記のように、最大径断面積率が大きいほど、小さな空間の中に必要な本数の素線1を配置できていることになり、本実施形態にかかる電線導体3においては、最大径断面積率が0.63以上とされていることにより、電気伝導等の観点から要求される導体断面積を確保しながら、電線導体3の外径を小さくすることができる。
【0035】
電線導体3の外径を小さく抑えることにより、絶縁電線10全体としての外径を小さく抑えることが可能となる。あるいは、絶縁電線10の外径の上限値が定まっているような場合に、絶縁電線10全体の外径をその範囲に収めつつ、絶縁被覆2の厚さを大きくすることができる。すると、絶縁特性、機械的特性、電線導体3に対する保護性能等、絶縁被覆2が有する特性を十分に利用することができる。例えば、絶縁被覆2として現実的な厚さを確保しながら、同じ電気抵抗値を有する、導体が銅または銅合金よりなる絶縁電線の外径と、近接した外径を有する絶縁電線10を構成することができる。また、絶縁被覆2を厚くするほど、その厚さにおけるばらつきを小さくすることができ、絶縁被覆2の形成における工程能力指数(Cpk)が高くなる。その結果として、絶縁電線10全体の外径のばらつきを小さく抑えることができる。
【0036】
電線導体3が理想的な円形に近い断面を有さない場合に、上記のように、電線導体3の断面の重心を通って断面を横切る直線の長さとして外径を計測するとして、細径化の効果が最も現れやすいのは、外径の計測値のうちの最大値である。逆に効果が最も現れにくいのは、それらのうち、最小値である。平均値における効果は、最大値における効果と最小値における効果の間となる。素線1の配置、および子撚線3aの配置が高密度になって電線導体3の外径が小さくなる際に、それら配置の高密度化による寸法の減少は、寸法が大きい部位で顕著になるからである。このような観点から、電線導体3の外径の平均値や最小値ではなく、最大値を基準とした最大径断面積率を、電線導体3の細径化の指標として用いることで、特に効果的に電線導体3の細径化を達成することができる。
【0037】
このように、最大径断面積率は、電線導体3の断面において素線1を構成する金属材料が占める領域の割合を評価するのに適した指標であるが、絶縁電線10の細径化という観点から、別の量を細径化の指標として用いることも考えられる。例えば、電線導体3の導体断面積を、電線導体3の外径の最大値ではなく、電線導体3の外径の平均値を直径とする円の面積で除した値として算出される平均径断面積率を、指標として用いることができる。電線導体3の断面形状が、円形から大きく逸脱している場合には、上記のように、電線導体3の外径の最大値を基準とした最大径断面積率を、細径化の特に優れた指標として用いることができるが、電線導体3の外径の平均値を基準とした平均径断面積率も、電線導体3の細径化において、ある程度良い指標として用いることができる。よって、最大径断面積率に加えて、あるいはその代わりに、平均径断面積率を用いてもよい。特に、電線導体3の断面の形状が、円形から大きく逸脱していないような場合には、平均径断面積率が優れた指標となる。
【0038】
本実施形態にかかる電線導体3においては、上記のように算出される平均径断面積率が、0.71以上であるとよい。平均径断面積率が0.73以上、さらには0.75以上であればさらに好ましい。
【0039】
また、さらに別の指標として、導体断面積を、絶縁被覆2の内周に囲まれた領域の面積で除して得られる値(内周導体率と称する)が、所定の下限値よりも大きくなるようにすればよい。
【0040】
本実施形態にかかる電線導体3は、素線1を軟化処理してから、その軟化を受けた素線1に対して、撚り合わせを行うことで、好適に製造することができる(軟撚)。つまり、素線1の軟化処理を行ってから、素線1を複数撚り合わせる子撚りの工程によって子撚線3aを作製し、さらに子撚線3aを複数撚り合わせる親撚りを行うことで、好適に製造することができる。
【0041】
素線1に対する軟化処理の条件は電線導体3の材質等に応じて適宜設定される。軟化処理は、バッチ式軟化にて行っても、連続軟化にて行ってもよいが、伸びを効果的に向上させる観点等から、バッチ式軟化の方が好ましい。また、電線導体3は、軟化以外の熱処理を適宜受けていてもよい。そのような熱処理としては、時効処理を例示することができる。その場合に、時効処理は、素線1を撚り合わせる前に行っても、撚り合わせた後で行ってもよい。
【0042】
アルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる素線1に対して軟化処理を行うことで、素線1の伸びが向上する。すると、素線1が柔軟になり、また変形しやすくなる。よって、軟化処理を先に経た素線1を撚り合わせた際に、複数本の素線1を相互に対して密に配置しやすくなる。その結果として、電気伝導等の観点から要求される導体断面積を確保しながら、電線導体3の外径を小さく抑えることができ、最大径断面積率の値を小さくすることができる。また、電線導体3の外径におけるばらつきも小さく抑えることができる。得られた撚線に対してさらに径方向に圧縮成形を行ってもよく、それによってさらなる電線導体3の細径化を図ることもできる。ただし、圧縮成形を行わなくても、上記のような最大径断面積率や平均径断面積率を達成できることが好ましい。
【0043】
アルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる素線1を撚り合わせる際に、撚り合わせの工程で材料の表面に傷が生じやすいため、従来一般に、アルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる素線1を撚り合わせて電線導体3を構成する際には、傷の影響を小さく抑える観点から、撚り合わせを行った後に軟化処理を行っていた。しかし、撚り合わせの工程において、軟化処理を行っていない状態の素線1に対して撚り合わせを行い、撚線とした状態に対して軟化処理を行うとすれば(硬撚)、伸びが低く、柔軟性に乏しい状態の素線1を撚り合わせることになる。すると、素線1を十分に相互に対して近接させ、密に配置することが難しくなり、得られる電線導体3の外径が大きくなりやすい。本実施形態にかかる電線導体3のように子撚構造と親撚構造を有する電線導体を製造する際に、硬撚りを用いるとすれば、後の実施例に示すように、最大径断面積率は、0.63未満となり、さらには0.62未満にもなる。
【0044】
特に、本実施形態にかかる電線導体3のように、子撚線3aを複数撚り合わせる際には、全ての素線1を一括して撚り合わせる場合(一括撚)と比べて、硬撚ではなく軟撚を採用することによる細径化の効果が顕著に得られる。一般に、複数の子撚線3aを撚り合わせた場合には、子撚線3aの間の部位に空隙が生じるため、一括撚の場合よりも、電線導体3が大径化しやすい。しかし、軟化処理を先に行っておくことで子撚線3aが高い柔軟性を獲得していると、複数の子撚線3aが相互に対して柔軟に密着することが可能となり、得られた電線導体3の外径を小さく抑えることができる。
【0045】
各子撚線3aにおける素線1の撚り構造としては、全ての素線1をランダムにまとめて同じ方向に撚り合わせる集合撚(図3(a))としても、1本または複数の素線1を中心として他の素線1をその周りに同芯状に撚り合わせる同芯撚としてもよい。好ましくは、集合撚とする方がよい。子撚線3aが集合撚構造を有していることで、親撚りを行う際に、子撚線3aが潰れるように変形しやすく、その変形を利用することで、子撚線3aを細い電線導体3に撚り上げやすいからである。なお、親撚りを行うに際し、全ての子撚線3aを一括して撚り上げても、一部の子撚線3aを撚り上げた外周に残りの子撚線3aを配置して再度撚り上げるというように、親撚りを複数回に分けて行ってもよい。
【0046】
電線導体3の具体的な寸法は特に指定されるものではないが、導体外径が大きい方が、また、電線導体3を構成する素線1の数が多い方が、電線導体3が大径化する余地が大きいため、上記のように最大径断面積率を規定して細径化を図ることの効果が大きくなる。そして、実際に、最大径断面積率を大きくしやすい。おおむね、一括撚りではなく子撚−親撚構造が採用されるのはJASO D603に規定される呼び寸法で8sq(導体断面積7.882mm)以上の場合であり、呼び寸法8sq以上の領域で、本実施形態にかかる電線導体3を採用することが好ましい。さらに好ましくは、呼び寸法10sq(導体断面積10.13mm)以上、呼び寸法20sq(導体断面積19.86mm)以上とすればよい。
【0047】
用いる素線1の外径は、特に指定されるものではないが、素線1の外径が小さいほど、必要な導体断面積を得るために用いる素線1の本数が多くなり、撚り構造の選択等の要因により、電線導体3が大径化する余地が生じやすくなる。よって、素線1の外径が小さい場合の方が、最大径断面積率を規定して電線導体3の細径化を図ることの意味が大きくなる。また、同じ導体断面積を有する電線導体3を構成する際に、素線1が細い方が、振動や屈曲に対する電線導体3の耐性が高くなる。例えば、外径0.5mm以下、さらには0.32mm以下の外径を有する素線1を用いることが好ましい。また、電線導体3を構成する素線1の本数としては、100本以上、さらには200本以上が好ましい。
【0048】
本実施形態にかかる電線導体3においては、具体的な細径化の効果として、例えば、素線1の外径が0.32mm、呼び寸法が10sqである場合に、電線導体3の外径を、最大値で、4.6mm未満、さらには4.5mm以下とすることができる。平均値では、4.3mm未満、さらには4.2mm以下、最小値では、4.0mm未満、さらには3.9mm以下とすることができる。また、この場合に、絶縁電線10全体の外径を、最大値で5.8mm以下、平均値で5.7mm以下とした際に、絶縁被覆2の厚さ(平均値)を0.65mm以上、さらには0.75mm以上とすることができる。
【0049】
一方、素線1の外径が0.32mm、呼び寸法が20sqである場合に、電線導体3の外径を、最大値では、6.5mm未満、さらには6.2mm以下とすることができる。平均値では、6.0mm未満、さらには5.8mm以下、最小値では、5.5mm未満、さらには5.3mm以下とすることができる。また、この場合に、絶縁電線10全体の外径を、最大値で7.8mm以下、平均値で7.6mm以下とした際に、絶縁被覆2の厚さ(平均値)を0.75mm以上、さらには0.80mm以上とすることができる。
【0050】
なお、本実施形態においては、子撚−親撚構造よりなる電線導体3について、最大径断面積率を0.63以上としており、それを達成する好適な製造方法として軟撚を挙げている。しかし、最大径断面積率がこのようなものに限られず、素線1がアルミニウムまたはアルミニウム合金よりなり、子撚−親撚構造を有する電線導体3において、硬撚ではなく軟撚を用いることで、電線導体3の細径化の効果を得ることができる。例えば、上記のように、硬撚の場合には最大径断面積率が0.62未満となりやすいが、軟撚を採用することで、最大径断面積率が0.62以上の電線導体3を得ることができる。
【0051】
[第二の電線導体および絶縁電線]
次に、本発明の第二の実施形態にかかる電線導体4および絶縁電線20について説明する。ここで、上記第一の実施形態と異なる構成を中心に説明を行い、第一の実施形態と同様の構成をとる部分については記載を省略する。
【0052】
図2に、本発明の第二の実施形態にかかる電線導体4および絶縁電線20の断面を示す。本電線導体4は、アルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる素線1が複数本撚り合わせられたものよりなる。複数の素線1は全て、製造公差の範囲(例えば±10%の範囲)で同一の外径を有している。
【0053】
本実施形態にかかる電線導体4においては、複数の素線1が、一括して、同芯撚によって撚り合わせられている。上記のように、同芯撚においては、1本または複数の素線1を中心として他の素線1がその周りに同芯状に撚り合わせられている。ここでは、導体断面積の小ささに対応して、中心となる素線1が1本である場合が主に想定される。図2および図3(b)、図4に断面を示すように、同芯撚を受けた電線導体においては、素線1が密に配置されている。そして、電線導体の外周部に位置するもの以外の各素線1は、略正三角形の頂点を構成するように配置されており、6本の他の素線1に囲まれ、それら6本の他の素線1と接している(最密充填)。
【0054】
複数本の素線に対して同芯撚を行う場合に、電線導体の軸線方向に交差する断面において、図4(b)に示すように、正六角形に近似される外接図形Hの中に素線1を最大本数充填した配置(六角形配置)を取れる場合、つまり、上記最密充填によって得られる素線配置が正六角形の外接図形Hで近似できる場合が存在する。しかし、そのような六角形配置を取ることができる素線1の本数Nは、以下の式(5)で示される場合に限られる。ここで、nは1以上の自然数である。
【数1】
つまり、N=7,19,37,61,…の場合に限られる。
【0055】
これに対し、本実施形態にかかる電線導体4は、素線1が上記六角形配置を取ることができない場合において、全ての素線1が同芯撚にて撚り合わせられたものよりなる。この場合に、電線導体4の軸線方向に交差する断面は、図4(a)に示すように、正六角形に近似される外接図形Hの中に仮想素線1’を最大本数充填した仮想断面の外周部から、1本または複数本の仮想素線1’を除去したものとなる。仮想素線1’は、電線導体4を構成する素線1と同じ径を有する仮想的な素線であり、仮想断面は、その仮想素線1’を用いて構成した六角形配置を取る断面である。そして、その仮想断面の外周部から、つまり、六角形配置の外周縁を構成する複数の仮想素線1’の中から、一部の仮想素線1’を除去する。除去されない仮想素線1’の位置には、実際の素線1が充填される。図4(a)は、図3(b)と同一の素線配置を示しているが、仮想断面から除去された仮想素線1’を点線で示し、除去されなかった仮想素線1’の位置に充填された実際の素線1を実線で示している。結果として得られる電線導体4の断面は、正六角形の一部が円弧状に欠損したような外形を有している。なお、ここで、「仮想素線」や「仮想断面」、および「除去」という概念は、電線導体4の断面における素線1の配置を説明するための便宜的なものであり、実際に電線導体4を製造する際に、仮想断面のような六角形配置の断面を有する電線導体を作成し、その電線導体の外周部から素線の一部を除去するようなことを意味するものではない。
【0056】
仮想断面の外周部から除去する仮想素線1’の本数が、1本以上、かつ仮想断面の外周縁を構成する仮想素線1’の本数(図4(a)では24本)未満であれば、除去する仮想素線1’の位置および本数を、任意に設定することができる。できる限り電線導体4の外径の最大値を小さくする観点、また、素線1の撚り合わせを安定化させる観点からは、図4(a)の場合のように、外接図形Hの頂点に対応する位置の仮想素線1’を、外接図形Hの辺の中途部に対応する位置の仮想素線1’よりも優先的に除去することが好ましい。また、複数本の仮想素線1’を除去する場合に、除去する仮想素線1’どうしが隣接していない方がよい。なお、仮想断面の外周部に除去されない仮想素線1’が残っている状態で、外周部よりも内側に位置する仮想素線1’を除去することは行わない。つまり、電線導体4の断面は、仮想素線1’に相当する円が、仮想断面の径方向に、隣接して1個分を超えて正六角形から欠損したような外形を取ることはない。
【0057】
上記のように、最密充填によって六角形配置を取ることができる素線1の本数は、式(5)で表されるものに限られており、本実施形態にかかる電線導体4においては、素線1の本数は、式(5)で表される数を除いた4以上の自然数として設定される。そのように設定された本数の素線1が、一括して同芯撚にて撚り合わせられる。
【0058】
このように、複数の素線1が同芯撚されて電線導体4が構成されていることにより、複数の素線1が相互に対して密に配置された状態となる。また、素線1を強固に撚り合わせることができるので、電線導体4において、撚り構造が緩みにくい。特に、電線導体4の外周部において、素線1の浮きを防止しやすい。それらの結果、必要な導体断面積を確保しながら、外径の小さい電線導体4を得ることができ、最大径断面積率および平均径断面積率を大きくすることができる。また、電線導体4の外径におけるばらつきも小さく抑えることができる。
【0059】
六角形配置を取ることができない場合に、同芯撚を採用することで、例えば、電線導体4の最大径断面積率を、0.62以上とすることが好ましい。最大径断面積率が0.63以上、特に0.66以上であればさらに良い。また、平均径断面積率を、0.73以上とすることが好ましい。平均径断面積率が0.75以上、特に0.76以上であればさらに良い。本実施形態にかかる電線導体4においても、得られた撚線に対してさらに径方向に圧縮成形を行ってもよく、それによってさらなる電線導体4の細径化を図ることもできる。ただし、圧縮成形を行わなくても、上記のような最大径断面積率や平均径断面積率を達成できることが好ましい。
【0060】
特に、同芯撚において、素線1の配置を高精度に行うことで、細径化の効果を高めることができる。例えば、最大径断面積率および平均径断面積率、内周導体率において、断面円形の素線1を全て同芯状に相互に外接させて得られる図形に対して幾何学的に算出される数値に、素線1の製造誤差を含めた程度の大きな値を達成することも可能である。
【0061】
従来一般の素線を一括撚した電線導体においては、図4(b)に示すように、素線の最密充填によって六角形配置を取れる場合、換言すると、素線本数が上記式(5)で表せる場合には、同芯撚が採用されることも多い。しかし、そのような六角形配置を素線の最密充填によって実現できない場合には、従来一般には集合撚が用いられてきた。
【0062】
もし、同芯撚ではなく集合撚によって電線導体4を構成するとすれば、電線導体4の外径を小さくすることは難しい。集合撚においては、全ての素線1をまとめて同じ方向に撚り合わせる。図3(a)に示すように、集合撚を行った場合には、複数の素線1がランダムに配置された状態となる。この場合には、素線1の間に空隙が生じやすく、電線導体4における素線1の配置の密度が低くなる。また、素線1の撚り構造が緩みやすい。それらの結果として、電線導体4の外径が大きくなりやすい。集合撚の場合、最大径断面積率で0.62未満、平均径断面積率で0.73未満のように、断面積率が小さくなりやすい。
【0063】
本実施形態にかかる電線導体4を製造する際には、軟化処理の後に撚り合わせを行う軟撚を採用しても、撚り合わせの後に軟化処理を行う硬撚を採用してもよい。表面の傷つきを低減する観点からは、硬撚を採用する方が好ましい。
【0064】
本実施形態にかかる電線導体4においても、素線1を構成するアルミニウム合金の種類は、特に指定されるものではない。素線1を密に撚り上げる観点からは、純アルミニウムを含む1000系、または3000系のアルミニウム合金を用いることが好適である。
【0065】
本実施形態にかかる電線導体4も、外周に絶縁被覆2を設けて絶縁電線20とされるが、電線導体4の外径を小さく抑えることにより、絶縁電線20全体としての外径を小さく抑えることが可能となる。あるいは、絶縁電線20の外径の上限値が定まっているような場合に、絶縁電線20全体の外径をその範囲に収めつつ、絶縁被覆2の厚さを大きくすることができる。絶縁電線20も、ワイヤーハーネスの形で用いることができる。
【0066】
本実施形態においても、電線導体4の具体的な寸法等は特に指定されるものではない。しかし、電線導体4を構成する素線1の数が多いほど、高精度に一括撚りを行って細径化するために要するコストと労力が大きくなる。電線導体4の外径が小さい方が、電線導体4を構成する素線1の数が少なくなり、一括撚りによるコストおよび労力の上昇を抑えることができる。おおむね、子撚−親撚構造ではなく一括撚りが採用されるのはJASO D603に規定される呼び寸法で8sq(導体断面積7.882mm)未満の場合であり、呼び寸法8sq未満の領域で、本実施形態にかかる電線導体4を採用することが好ましい。さらに好ましくは、呼び寸法5sq(導体断面積4.665mm)以下とすればよい。
【0067】
また、上記のようにコストおよび労力を過度に大きくすることなく、一括撚を行う観点から、電線導体4を構成する素線1の本数としては、100本未満、さらには61本未満が好ましい。なお、61本との数は、式(5)で表される六角形配置が可能な数である。一方、集合撚と比較した際の細径化の効果を大きく得る観点からは、素線1の本数は、38本以上、さらには62本以上とすることが好ましい。電線導体4を構成する素線1の数が多い方が、電線導体3が大径化する余地が大きいため、集合撚ではなく同芯撚を採用することで、細径化を図ることの効果が大きくなる。また、実際に、最大径断面積率の大きさによって評価される細径化を達成しやすい。
【0068】
用いる素線1の外径も、特に指定されるものではないが、上記第一の形態と同様、外径0.5mm以下、さらには0.32mm以下の外径を有する素線1を用いることが好ましい。
【0069】
本実施形態にかかる電線導体4においては、具体的な細径化の効果として、例えば、素線1の外径が0.32mm、呼び寸法が5sqである場合に、電線導体4の外径を、最大値で、3.10mm未満、さらには3.00mm以下とすることができる。平均値では、2.85mm未満、さらには2.80mm以下、最小値では、2.65mm未満、さらには2.63mm以下とすることができる。また、この場合に、絶縁電線20全体の外径を、最大値で3.65mm以下、平均値で3.60mm以下とした際に、絶縁被覆2の厚さ(平均値)を0.38mm以上、さらには0.45mm以上とすることができる。
【0070】
なお、本実施形態においては、素線1を最密充填した際に六角形配置を取れない場合について、電線導体4の細径化を達成する好適な撚りの形態として、同芯撚を挙げている。しかし、素線1の取り得る配置および本数がそのような場合に限られず、素線1がアルミニウムまたはアルミニウム合金よりなり、一括撚された電線導体4において、集合撚ではなく同芯撚を用いることで、電線導体4の細径化の効果を得ることができる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0072】
[試料の作製]
アルミニウム合金よりなる素線(SR−16材:1.2質量%以下のFeと0.5質量%以下のMgを含有)を複数本撚り合わせて、所定の導体断面積を有する電線導体を作製した。表1に、撚り構造、導体断面積、素線構成(素線の外径[mm]/素線本数、素線の外径[mm]/子撚中の素線本数/子撚数)を示す。ここで、撚り構造の欄が「同芯撚」または「集合撚」となっているものについては、撚り合わせ後に、350℃×3時間の条件で軟化処理を行っている。一方、「軟撚」または「硬撚」となっているものについては、それぞれ撚り合わせ前または撚り合わせ後に、350℃×3時間の条件で軟化処理を行っている。また、「軟撚」および「硬撚」のいずれの場合も、集合撚による子撚構造を採用している。なお、いずれの電線導体についても、時効処理および圧縮成形は行っていない。
【0073】
さらに、得られた電線導体の外周に、押出成形により、PVCよりなる絶縁被覆を形成し、架橋を施すことで、絶縁電線を得た。形成した絶縁被覆の厚さ(絶縁厚さ)は、表1に示す。
【0074】
[評価方法]
各実施例および比較例にかかる電線導体および絶縁電線について、導体外径、絶縁厚さ、絶縁電線の外径(仕上外径)を計測した。各実施例および比較例における試料個体数は、N=30とした。ただし、各比較例における仕上外径の評価のみ、N=3とした。表1には、各寸法について、平均値とともに、最小値および最大値も表示している。ここで、各寸法は、1つの個体のある断面において、種々の位置で計測しており、そのようにして個体ごとに複数得られた値を全個体に対して集計し、それらの全平均値を算出するとともに、それらの中での最大値、最小値を記録している。さらに、得られた導体断面積と導体外径の平均値をもとに導体の最大径および平均径を基準とした断面積率(最大径断面積率および平均径断面積率)を算出するとともに、導体外径について、標準偏差を算出し、絶縁厚さについて、工程能力指数(Cpk)を算出した。
【0075】
[結果]
下の表1に、電線導体の構成とともに、各評価結果を示す。また、図5に、各実施例および比較例にかかる絶縁電線の断面を撮影した写真を示す。断面は、絶縁電線をエポキシ樹脂に包埋して切断することで作製した。
【0076】
【表1】
【0077】
図5の写真において、実施例1の同芯撚の形態について、六角形配置の仮想断面の外周部から3本の仮想素線を除去した素線配置を取っていることが確認される。また、実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、実施例3と比較例3をそれぞれ比較すると、各実施例において、絶縁被覆に囲まれた内部で、素線が占める領域の割合が増え、暗く観察される空隙の割合が減っているのが分かる。つまり、比較例1のような集合撚よりも実施例1のような同芯撚を採用することで、また比較例2,3のような硬撚よりも実施例2,3のような軟撚を採用することで、素線を高密度に配置することができている。
【0078】
その結果として、表1において、導体断面積が同じである実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、実施例3と比較例3の組をそれぞれ比較した際に、各実施例の方において、導体外径が、平均値、最小値、最大値のいずれにおいても小さくなっている。さらにその結果として、各実施例の方が、導体外径の平均径および最大径を基準とした断面積率が大きくなっている。
【0079】
導体外径における標準偏差も各実施例の方が小さくなっている。そして、各実施例と比較例の組において、絶縁電線の仕上外径をほぼ同じにしているが、各実施例の方において、絶縁被覆を厚くすることができている。それに伴い、絶縁被覆形成における工程能力指数も高くなっている。
【0080】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 素線
1’ 仮想素線
2 絶縁被覆
3,4 電線導体
3a 子撚線
10,20 絶縁電線
H 外接図形
図1
図2
図3
図4
図5
図6