【課題を解決するための手段】
【0010】
金属の腐食は、水と接触する金属が溶解(イオン化)して遊離電子を生ずるアノード反応(酸化反応)と、その遊離電子によって水中の溶存酸素が水酸基OH
−を生成するカソード反応(還元反応)が同時に起こることで進行する、という腐食モデルが知られている。
【0011】
そこで、本発明は、被覆金属材にアノードサイトとカソードサイトを人工的に形成して腐食を促進させるようにした。
【0012】
ここに開示する
耐食性試験方法は、金属製基材に表面処理膜が設けられてなる被覆金属材を対象とし、
上記被覆金属材の相離れた2箇所に、上記表面処理膜を貫通して上記金属製基材に達する人工傷を加えるステップと、
上記2箇所の人工傷部を、該人工傷部に接触する含水電解質材料を介して外部回路で電気的に接続するステップと、
上記外部回路によって上記金属製基材に通電することにより、上記2箇所の人工傷部の一方をアノードサイトとし、他方をカソードサイトとして、上記被覆金属材の腐食を進行させるステップと
、
上記表面処理膜の膨れの広がり程度によって耐食性を評価するステップと
を備えていることを特徴とする。
【0013】
また、ここに開示する金属製基材に表面処理膜が被覆されてなる被覆金属材の
耐食性試験装置は、
上記被覆金属材の相離れた2箇所に加えられた、上記表面処理膜を貫通して上記金属製基材に達する人工傷部間を、該人工傷部に接触する含水電解質材料を介して接続する外部回路と、
上記2箇所の人工傷部の一方がアノードサイトとなり、他方がカソードサイトとなって、上記被覆金属材の腐食が進行するように、上記外部回路によって上記金属製基材に通電する通電手段と
、
上記表面処理膜の膨れの広がり程度によって耐食性を評価する手段と
を備えていることを特徴とする。
【0014】
上記方法又は上記装置に係る
耐食性試験によれば、被覆金属材の2箇所の人工傷部のうちの一方が、金属製基材の金属の溶出反応(酸化反応)を生ずるアノードサイトとなる。アノードサイトで発生した電子が金属製基材を通って流入する他方の人工傷部が、電子による還元反応が起きるカソードサイトとなる。
【0015】
アノードサイトでは、溶出した金属イオンは、電極(負極)に引き寄せられ、含水電解質材料中の溶存酸素や電極(負極)での水の電気分解により発生したOH
−と反応して水酸化鉄になる。このアノードサイトでは、電子が供給されるから、電気防食と同じ原理で、金属製基材の金属がイオンになって含水電解質材料に多少溶解するものの、被覆金属材の腐食は進まない。
【0016】
一方、カソードサイトでは、アノードサイトから金属製基材を介して流入する電子が、表面処理膜を浸透した水や溶存酸素、水中の電離H
+と反応して水素やOH
−が発生する。また、水の電気分解による水素も発生する。これにより、表面処理膜下でのpHが上がり、被覆金属材の腐食が進行する。
【0017】
上記カソードサイトにおけるOH
−の生成は上述の腐食モデルのカソード反応に相当するから、上記
耐食性試験は、外部回路による金属製基材への通電により、当該被覆金属材の実際の腐食を加速再現するものであるということができる。
【0018】
上記2箇所の人工傷部のうちのカソードサイトでは、アルカリ性になること(OH
−の生成)により、金属製基材表面の下地処理(化成処理)がダメージを受けて表面処理膜の密着性が低下し(下地処理がされていない場合は単純に金属製基材と表面処理膜の密着性が低下し)、表面処理膜の膨れが発生する。また、水の電気分解やH
+の還元により発生した水素ガスが表面処理膜の膨れを促進する。従って、この表面処理膜の膨れの
広がり程度をみることによって、当該
耐食性試験における供試材の腐食進展速度を計る
、すなわち、供試材の耐食性を評価することができる。
【0019】
後に実験データに基づいて詳述するが、上記
耐食性試験は、上述の如く、実際の腐食を加速再現するから、得られる腐食進展速度データは、実際の腐食進展速度と相関性が高いものになる。よって、当該腐食進展速度データによって、供試材の耐食性について信頼性が高い評価を行なうことができる。
【0020】
上記含水電解質材料としては、種々のものを採用することができる。一実施形態では、上記含水電解質材料は泥状物であり、上記2箇所の人工傷部各々の上記表面処理膜の表面に設けられる。含水電解質材料が泥状であることにより、人工傷部において水が表面処理膜に浸透し易くなり、腐食が進み易くなる。また、含水電解質材料が泥状であることにより、表面処理膜が水平になっていない場合でも、該表面処理膜の表面に含水電解質材料を設けることができる。
【0021】
含水電解質材料は、粘土鉱物を添加材として採用することによって泥状物とすることができる。粘土鉱物としては、例えば、層状ケイ酸塩鉱物又はゼオライトを採用することができる。層状ケイ酸塩鉱物としては、カオリナイト、モンモリロナイト、セリサイト、イライト、グローコナイト、クロライト及びタルクから選択される少なくとも一つを好ましく採用することができる。支持電解質(塩)としては、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、リン酸カルシウム、塩化カリウム、硝酸カリウム、酒石酸水素カリウム及び硫酸マグネシウムから選択される少なくとも一つの塩を好ましく採用することができる。含水電解質材料は、有機溶剤(アセトン、エタノール、トルエン、メタノール等)を含有するものであってもよい。
【0022】
含水電解質材料における粘土鉱物の含有量は、1質量%以上70質量%以下であることが好ましい。その含有量は、10質量%以上50質量%以下であること、20質量%以上40質量%以下であることがさらに好ましい。
【0023】
含水電解質材料における支持電解質の含有量は、1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。その含有量は、3質量%以上15質量%以下であること、5質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0024】
含水電解質材料における有機溶剤の含有量は、水に対して体積比で5%以上60%以下であることが好ましい。その体積比は、10%以上40%以下であること、20%以上30%以下であることがさらに好ましい。
【0025】
上記金属製基材への通電のために、上記外部回路の両端の電極を上記含水電解質材料に埋没状態に設けることができる。そのような電極としては、炭素電極、白金電極等を使用することができ、特に、上記表面処理膜に相対する少なくとも一つの貫通孔を有する有孔電極を採用することができ、該有孔電極を上記表面処理膜と略平行に配置することが好ましい。例えば、有孔電極は、中央に貫通孔を有するリング状とされ、該貫通孔が上記人工傷に相対するように設けられる。或いは、有孔電極としてメッシュ状の電極を採用し、該メッシュ電極を上記含水電解質材料に埋没した状態で上記表面処理膜と略平行になるように配置してもよい。
【0026】
上記人工傷は、表面処理膜を貫通して金属製基材に達する限り、切り傷、刺し傷、擦り傷などいずれの形態であってもよい。
【0027】
上記カソードサイトの人工傷の大きさに関しては、表面処理膜における金属製基材の露出面積が小さくなるほど、通電性が低下してカソード反応が進み難くなる。一方、その露出面積が大きくなると、カソード反応が不安定になり、腐食の加速再現性が低下する。実験によれば、上記人工傷による上記金属製基材の露出面積は、0.005mm
2以上25mm
2以下であることが好ましく、0.05mm
2以上4mm
2以下であること、更には0.13mm
2以上2.25mm
2以下であることがさらに好ましい。
【0028】
上記2箇所の人工傷間の距離は、カソードサイトの表面処理膜の膨れの確認の容易さの観点から、2cm以上であることが好ましく、3cm以上であることがさらに好ましい。
【0029】
上記外部回路による通電の電流値に関しては、該電流値が小さくなるほど腐食の加速性が低下して試験に長時間を要するようになる。一方、その電流値が大きくなると、腐食反応速度が不安定になり、実際の腐食の進行との相関性が悪くなる。実験によれば、その電流値は、10μA以上10mA以下の電流値とすることが好ましく、100μA以上5mA以下の電流値とすること、或いは500μA以上2mA以下の電流値とすることがさらに好ましい。
【0030】
当該
耐食性試験に供するに適した被覆金属材としては、例えば、金属製基材に表面処理膜として樹脂皮膜、すなわち、塗膜が設けられた塗装金属材がある。
【0031】
金属製基材は、例えば、家電製品、建材、自動車部品等を構成する鋼材、例えば、冷間圧延鋼板(SPC)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)、高張力鋼板又はホットスタンプ材等であり、或いは軽合金材であってもよい。金属製基材は、表面に化成皮膜(リン酸塩皮膜(例えば、リン酸亜鉛皮膜),クロメート皮膜等)が形成されたものであってもよい。
【0032】
塗膜としては、例えば、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系等のカチオン電着塗膜(下塗り塗膜)があり、電着塗膜に上塗り塗膜が重ねられた積層塗膜、電着塗膜に中塗り塗膜及び上塗り塗膜が重ねられた積層塗膜等であってもよい。