特許第6784335号(P6784335)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6784335被覆金属材の耐食性試験方法及び耐食性試験装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784335
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】被覆金属材の耐食性試験方法及び耐食性試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20201102BHJP
【FI】
   G01N17/00
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-534500(P2019-534500)
(86)(22)【出願日】2018年7月30日
(86)【国際出願番号】JP2018028447
(87)【国際公開番号】WO2019026843
(87)【国際公開日】20190207
【審査請求日】2020年1月27日
(31)【優先権主張番号】特願2017-151600(P2017-151600)
(32)【優先日】2017年8月4日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅田 照朗
(72)【発明者】
【氏名】重永 勉
【審査官】 川瀬 正巳
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−048649(JP,A)
【文献】 特開2015−059745(JP,A)
【文献】 特開平07−234202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製基材に表面処理膜が設けられてなる被覆金属材の耐食性試験方法であって、
上記被覆金属材の相離れた2箇所に、上記表面処理膜を貫通して上記金属製基材に達する人工傷を加えるステップと、
上記2箇所の人工傷部を、該人工傷部に接触する含水電解質材料を介して外部回路で電気的に接続するステップと、
上記外部回路によって上記金属製基材に通電することにより、上記2箇所の人工傷部の一方をアノードサイトとし、他方をカソードサイトとして、上記被覆金属材の腐食を進行させるステップと
上記表面処理膜の膨れの広がり程度によって耐食性を評価するステップと
を備えていることを特徴とする被覆金属材の耐食性試験方法。
【請求項2】
請求項1において、
上記含水電解質材料は、泥状物であり、上記2箇所の人工傷部各々の上記表面処理膜の表面に設けられることを特徴とする被覆金属材の耐食性試験方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
上記カソードサイトとなる側の上記人工傷による上記金属製基材の露出面積が0.005mm以上25mm以下であることを特徴とする被覆金属材の耐食性試験方法。
【請求項4】
請求項3において、
上記2箇所の人工傷間の距離が3cm以上であることを特徴とする被覆金属材の耐食性試験方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一において、
上記外部回路による通電は10μA以上10mA以下の電流値とすることを特徴とする被覆金属材の耐食性試験方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一において、
上記表面処理膜は、樹脂塗膜であることを特徴とする被覆金属材の耐食性試験方法。
【請求項7】
金属製基材に表面処理膜が被覆されてなる被覆金属材の耐食性試験装置であって、
上記被覆金属材の相離れた2箇所に加えられた、上記表面処理膜を貫通して上記金属製基材に達する人工傷部間を、該人工傷部に接触する含水電解質材料を介して接続する外部回路と、
上記2箇所の人工傷部の一方がアノードサイトとなり、他方がカソードサイトとなって、上記被覆金属材の腐食が進行するように、上記外部回路によって上記金属製基材に通電する通電手段と
上記表面処理膜の膨れの広がり程度によって耐食性を評価する手段と
を備えていることを特徴とする被覆金属材の耐食性試験装置。
【請求項8】
請求項7において、
上記電解質材料は、泥状物であり、上記2箇所の人工傷部各々の上記表面処理膜の表面に設けられることを特徴とする被覆金属材の耐食性試験装置。
【請求項9】
請求項7又は請求項8において、
上記カソードサイトとなる側の上記人工傷による上記金属製基材の露出面積が0.005mm以上25mm以下であることを特徴とする被覆金属材の耐食性試験装置。
【請求項10】
請求項9において、
上記2箇所の人工傷間の距離が3cm以上であることを特徴とする被覆金属材の耐食性試験装置。
【請求項11】
請求項7乃至請求項10のいずれか一において、
上記外部回路による通電は10μA以上10mA以下の電流値とすることを特徴とする被覆金属材の耐食性試験装置。
【請求項12】
請求項7至請求項11のいずれか一において、
上記表面処理膜は、樹脂塗膜であることを特徴とする被覆金属材の耐食性試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被覆金属材の耐食性試験方法及び耐食性試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、塗膜性能を評価する手法として複合サイクル試験、塩水噴霧試験等の腐食促進試験が行われている。
【0003】
しかし、かかる腐食促進試験においては、評価に数ヶ月を要するため、例えば塗装鋼板の構成材料や焼付条件の異なる塗膜の膜質を簡便に評価し、塗装条件の最適化等を迅速に行うことが困難である。従って、材料開発、塗装工場の工程管理、車両防錆に係る品質管理の場において、塗装鋼板の耐食性を迅速且つ簡便に評価する定量評価法の確立が望まれている。
【0004】
これに対して、特許文献1には、金属部材の表面に施された皮膜の耐食性を評価する手法として、金属部材及び対極部材を水又は電解質液に浸漬し、測定電源の負端子側を金属部材に、正端子側を対極部材に電気的に接続し、対極部材から皮膜を通して金属部材に流れる酸素拡散限界電流に基づいて当該皮膜の防食性能を評価することが記載されている。
【0005】
特許文献2には、塗装金属材の塗膜表面側に電解質材料を介して電極を配置し、塗装金属材の基材と塗膜表面との間に電圧を印加し、塗膜が絶縁破壊するときの電圧値に基づいて、塗装金属材の耐食性を評価することが記載されている。
【0006】
特許文献3には、塗装金属材の塗膜表面側に電解質材料を介して電極を配置し、塗装金属材の塗膜に電解質材料を浸透させ、塗装金属材の基材と塗膜表面との間に電圧を印加し、該電圧の印加に伴って流れる電流に関する値に基づき、塗装金属材の耐食性を評価することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−271501号公報
【特許文献2】特開2016−50915号公報
【特許文献3】特開2016−50916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1−3に記載された耐食性試験方法においても、塗装金属材の耐食性を評価することができるが、より信頼性が高い評価結果が得られる耐食性試験の確立が求められる。特に、腐食は金属製基材の表面処理膜の傷に起因して進行することが多いところ、従来、そのような腐食を模擬した簡便で且つ信頼性が高い電気化学的耐食性試験についての報告は見当たらない。
【0009】
本発明は、当該電気化学的耐食性試験の方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
金属の腐食は、水と接触する金属が溶解(イオン化)して遊離電子を生ずるアノード反応(酸化反応)と、その遊離電子によって水中の溶存酸素が水酸基OHを生成するカソード反応(還元反応)が同時に起こることで進行する、という腐食モデルが知られている。
【0011】
そこで、本発明は、被覆金属材にアノードサイトとカソードサイトを人工的に形成して腐食を促進させるようにした。
【0012】
ここに開示する耐食性試験方法は、金属製基材に表面処理膜が設けられてなる被覆金属材を対象とし、
上記被覆金属材の相離れた2箇所に、上記表面処理膜を貫通して上記金属製基材に達する人工傷を加えるステップと、
上記2箇所の人工傷部を、該人工傷部に接触する含水電解質材料を介して外部回路で電気的に接続するステップと、
上記外部回路によって上記金属製基材に通電することにより、上記2箇所の人工傷部の一方をアノードサイトとし、他方をカソードサイトとして、上記被覆金属材の腐食を進行させるステップと
上記表面処理膜の膨れの広がり程度によって耐食性を評価するステップと
を備えていることを特徴とする。
【0013】
また、ここに開示する金属製基材に表面処理膜が被覆されてなる被覆金属材の耐食性試験装置は、
上記被覆金属材の相離れた2箇所に加えられた、上記表面処理膜を貫通して上記金属製基材に達する人工傷部間を、該人工傷部に接触する含水電解質材料を介して接続する外部回路と、
上記2箇所の人工傷部の一方がアノードサイトとなり、他方がカソードサイトとなって、上記被覆金属材の腐食が進行するように、上記外部回路によって上記金属製基材に通電する通電手段と
上記表面処理膜の膨れの広がり程度によって耐食性を評価する手段と
を備えていることを特徴とする。
【0014】
上記方法又は上記装置に係る耐食性試験によれば、被覆金属材の2箇所の人工傷部のうちの一方が、金属製基材の金属の溶出反応(酸化反応)を生ずるアノードサイトとなる。アノードサイトで発生した電子が金属製基材を通って流入する他方の人工傷部が、電子による還元反応が起きるカソードサイトとなる。
【0015】
アノードサイトでは、溶出した金属イオンは、電極(負極)に引き寄せられ、含水電解質材料中の溶存酸素や電極(負極)での水の電気分解により発生したOHと反応して水酸化鉄になる。このアノードサイトでは、電子が供給されるから、電気防食と同じ原理で、金属製基材の金属がイオンになって含水電解質材料に多少溶解するものの、被覆金属材の腐食は進まない。
【0016】
一方、カソードサイトでは、アノードサイトから金属製基材を介して流入する電子が、表面処理膜を浸透した水や溶存酸素、水中の電離Hと反応して水素やOHが発生する。また、水の電気分解による水素も発生する。これにより、表面処理膜下でのpHが上がり、被覆金属材の腐食が進行する。
【0017】
上記カソードサイトにおけるOHの生成は上述の腐食モデルのカソード反応に相当するから、上記耐食性試験は、外部回路による金属製基材への通電により、当該被覆金属材の実際の腐食を加速再現するものであるということができる。
【0018】
上記2箇所の人工傷部のうちのカソードサイトでは、アルカリ性になること(OHの生成)により、金属製基材表面の下地処理(化成処理)がダメージを受けて表面処理膜の密着性が低下し(下地処理がされていない場合は単純に金属製基材と表面処理膜の密着性が低下し)、表面処理膜の膨れが発生する。また、水の電気分解やHの還元により発生した水素ガスが表面処理膜の膨れを促進する。従って、この表面処理膜の膨れの広がり程度をみることによって、当該耐食性試験における供試材の腐食進展速度を計る、すなわち、供試材の耐食性を評価することができる。
【0019】
後に実験データに基づいて詳述するが、上記耐食性試験は、上述の如く、実際の腐食を加速再現するから、得られる腐食進展速度データは、実際の腐食進展速度と相関性が高いものになる。よって、当該腐食進展速度データによって、供試材の耐食性について信頼性が高い評価を行なうことができる。
【0020】
上記含水電解質材料としては、種々のものを採用することができる。一実施形態では、上記含水電解質材料は泥状物であり、上記2箇所の人工傷部各々の上記表面処理膜の表面に設けられる。含水電解質材料が泥状であることにより、人工傷部において水が表面処理膜に浸透し易くなり、腐食が進み易くなる。また、含水電解質材料が泥状であることにより、表面処理膜が水平になっていない場合でも、該表面処理膜の表面に含水電解質材料を設けることができる。
【0021】
含水電解質材料は、粘土鉱物を添加材として採用することによって泥状物とすることができる。粘土鉱物としては、例えば、層状ケイ酸塩鉱物又はゼオライトを採用することができる。層状ケイ酸塩鉱物としては、カオリナイト、モンモリロナイト、セリサイト、イライト、グローコナイト、クロライト及びタルクから選択される少なくとも一つを好ましく採用することができる。支持電解質(塩)としては、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、リン酸カルシウム、塩化カリウム、硝酸カリウム、酒石酸水素カリウム及び硫酸マグネシウムから選択される少なくとも一つの塩を好ましく採用することができる。含水電解質材料は、有機溶剤(アセトン、エタノール、トルエン、メタノール等)を含有するものであってもよい。
【0022】
含水電解質材料における粘土鉱物の含有量は、1質量%以上70質量%以下であることが好ましい。その含有量は、10質量%以上50質量%以下であること、20質量%以上40質量%以下であることがさらに好ましい。
【0023】
含水電解質材料における支持電解質の含有量は、1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。その含有量は、3質量%以上15質量%以下であること、5質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0024】
含水電解質材料における有機溶剤の含有量は、水に対して体積比で5%以上60%以下であることが好ましい。その体積比は、10%以上40%以下であること、20%以上30%以下であることがさらに好ましい。
【0025】
上記金属製基材への通電のために、上記外部回路の両端の電極を上記含水電解質材料に埋没状態に設けることができる。そのような電極としては、炭素電極、白金電極等を使用することができ、特に、上記表面処理膜に相対する少なくとも一つの貫通孔を有する有孔電極を採用することができ、該有孔電極を上記表面処理膜と略平行に配置することが好ましい。例えば、有孔電極は、中央に貫通孔を有するリング状とされ、該貫通孔が上記人工傷に相対するように設けられる。或いは、有孔電極としてメッシュ状の電極を採用し、該メッシュ電極を上記含水電解質材料に埋没した状態で上記表面処理膜と略平行になるように配置してもよい。
【0026】
上記人工傷は、表面処理膜を貫通して金属製基材に達する限り、切り傷、刺し傷、擦り傷などいずれの形態であってもよい。
【0027】
上記カソードサイトの人工傷の大きさに関しては、表面処理膜における金属製基材の露出面積が小さくなるほど、通電性が低下してカソード反応が進み難くなる。一方、その露出面積が大きくなると、カソード反応が不安定になり、腐食の加速再現性が低下する。実験によれば、上記人工傷による上記金属製基材の露出面積は、0.005mm以上25mm以下であることが好ましく、0.05mm以上4mm以下であること、更には0.13mm以上2.25mm以下であることがさらに好ましい。
【0028】
上記2箇所の人工傷間の距離は、カソードサイトの表面処理膜の膨れの確認の容易さの観点から、2cm以上であることが好ましく、3cm以上であることがさらに好ましい。
【0029】
上記外部回路による通電の電流値に関しては、該電流値が小さくなるほど腐食の加速性が低下して試験に長時間を要するようになる。一方、その電流値が大きくなると、腐食反応速度が不安定になり、実際の腐食の進行との相関性が悪くなる。実験によれば、その電流値は、10μA以上10mA以下の電流値とすることが好ましく、100μA以上5mA以下の電流値とすること、或いは500μA以上2mA以下の電流値とすることがさらに好ましい。
【0030】
当該耐食性試験に供するに適した被覆金属材としては、例えば、金属製基材に表面処理膜として樹脂皮膜、すなわち、塗膜が設けられた塗装金属材がある。
【0031】
金属製基材は、例えば、家電製品、建材、自動車部品等を構成する鋼材、例えば、冷間圧延鋼板(SPC)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)、高張力鋼板又はホットスタンプ材等であり、或いは軽合金材であってもよい。金属製基材は、表面に化成皮膜(リン酸塩皮膜(例えば、リン酸亜鉛皮膜),クロメート皮膜等)が形成されたものであってもよい。
【0032】
塗膜としては、例えば、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系等のカチオン電着塗膜(下塗り塗膜)があり、電着塗膜に上塗り塗膜が重ねられた積層塗膜、電着塗膜に中塗り塗膜及び上塗り塗膜が重ねられた積層塗膜等であってもよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、被覆金属材の相離れた2箇所の人工傷部を、含水電解質材料を介して外部回路で電気的に接続し、通電によって、上記2箇所の人工傷部の一方をアノードサイトとし、他方をカソードサイトとして腐食を進行させるから、当該耐食性試験によって、当該被覆金属材の実際の腐食を加速再現することができ、耐食性について信頼性が高い評価を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本実施形態に係る耐食性試験の原理を示す図。
図2】供試材1〜3の処理条件及び耐食性試験結果を示す図表。
図3】供試材4〜6の処理条件及び耐食性試験結果を示す図表。
図4】本耐食性試験による腐食進展速度と実腐食試験による腐食進展速度の相関を示すグラフ図。
図5】塗膜上の付着物が水、5%NaCl(スプレー)、及び5%CaClスプレーであるときの塗膜の吸水量及び膨れ発生率を示す図表。
図6】塗膜上の付着物が模擬泥であるときの塗膜の吸水量及び膨れ発生率を示す図表。
図7】塗膜上の付着物が5%NaCl(浸漬)であるときの塗膜の吸水量及び膨れ発生率を示す図表図。
図8】各種塗膜上付着物に係る腐食抑制期間と塗膜への水の浸入速度の関係を示すグラフ図。
図9】実施形態の耐食性試験における定電流通電制御時の電流プロット図。
図10】実施形態の耐食性試験における定電圧通電制御時の電流プロット図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0036】
図1は腐食試験原理を示す。同図において、1は被覆金属材である。本実施形態に係る被覆金属材1は、金属製基材としての表面に化成皮膜3が形成された鋼板2の上に表面処理膜としての樹脂塗膜、すなわち、本実施形態では電着塗膜4が設けられたものである。
【0037】
被覆金属材1には、相離れた2箇所に電着塗膜4及び化成皮膜3を貫通して鋼板2に達する人工傷5が加えられている。
【0038】
耐食性試験装置>
本実施形態に係る耐食性試験装置は、導電材として機能する含水電解質材料6を介して被覆金属材1の上記2箇所の人工傷5部分を電気的に接続する外部回路7と、該外部回路7によって上記鋼板2に通電する通電手段としての直流の定電流源8とを備えてなる。
【0039】
被覆金属材1の当該2箇所には、人工傷5よりも大径の円筒11が人工傷5と同心状に設けられている。含水電解質材料6は、円筒11内に収容され、電着塗膜4の表面に接触しているとともに、人工傷5内に浸入している。外部回路7の両端には電極12が設けられ、その電極12は円筒11内の含水電解質材料6に埋没状態に設けられている。
【0040】
含水電解質材料6は、水、粘土鉱物及び支持電解質を含有してなる泥状物である。本実施形態では、粘土鉱物として、層状ケイ酸塩鉱物であるカオリナイトを採用し、支持電解質として、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム及び塩化カルシウムの3種を採用している。含水電解質材料6における粘土鉱物の含有量は1質量%以上70質量%以下であることが好ましく、支持電解質の含有量は1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0041】
電極12は、中央に貫通孔12aを有するリング状の有孔電極であり、該貫通孔12aが人工傷5に相対し該人工傷5と同心になるように、電着塗膜4と平行に配置されている。
【0042】
定電流源8としては、例えば、ガルバノスタットを採用することができ、電流値は10μA以上10mA以下に制御される。
【0043】
耐食性試験方法>
上記耐食性試験装置を用いる被覆金属材1の耐食性試験方法をステップ順に説明する。
【0044】
−人工傷を加えるステップ−
被覆金属材1の相離れた2箇所に表面処理膜(電着塗膜4及び化成皮膜3)を貫通して鋼板2に達する人工傷5を加える。人工傷5による鋼板2の露出面積は0.005mm以上25mm以下とすればよい。人工傷を付ける道具の種類は特に問わない。人工傷5の大きさや深さにばらつきを生じないように、すなわち、定量的に傷を付けるために、例えば、ビッカース硬さ試験機を用い、その圧子によって所定荷重で傷を付けることが好ましい。2箇所の人工傷5間の距離は2cm以上とすること、さらには3cm以上とすることが好ましい。
【0045】
圧子によって人工傷を付ける場合、その圧子先端形状としては、後述するビッカース硬さ試験機の圧子のような四角錐に限らず、球面形状など適宜の径を有する種々の形状を採用することができる。
【0046】
−外部回路接続ステップ−
被覆金属材1の電着塗膜4の上に、2箇所の人工傷5各々を囲む円筒11を立て、円筒11の中に泥状の含水電解質材料6を所定量入れる。このとき、定電流源8を備えた外部回路7のリング状有孔電極12が含水電解質材料6に埋没した状態になるようにする。円筒11は人工傷5と同心に設けることが好ましい。有孔電極12は、電着塗膜4の表面と平行になるように、且つ人工傷5と同心になるように設けることが好ましい。
【0047】
以上により、円筒11内に収容された含水電解質材料6が電着塗膜4の表面に接触しているとともに、人工傷5内に浸入した状態になる。そして、上記2箇所の人工傷部が、該人工傷部に接触する含水電解質材料6を介して外部回路7で電気的に接続された状態になる。
【0048】
−通電ステップ−
定電流源8を作動させ、外部回路7によって被覆金属材1の鋼板2に有孔電極12、含水電解質材料6及び電着塗膜4を介して通電する。この通電は、電流値が10μA以上10mA以下の定電流値となるように定電流制御することが好ましい。
【0049】
上記通電により、上記2箇所の人工傷部のうちの定電流源8の負極側に接続された一方(図1の左側)では、含水電解質材料6から電子eが鋼板2に流入する。この一方の人工傷部がアノードサイトになる。鋼板2に流入したeは鋼板2を通って他方の人工傷部(図1の右側)に移動し、該他方の人工傷部において含水電解質材料6に放出される。この他方の人工傷部がカソードサイトになる。
【0050】
アノードサイトでは、eが供給されるから、電気防食と同じ原理で、鋼板2のFeがイオンになって含水電解質材料に溶解する(Fe → Fe2++2e)ものの、被覆金属材1の腐食は進まない。
【0051】
これに対して、カソードサイトでは、アノードサイトから電子が移動してくるから、含水電解質材料6の水、溶存酸素及び当該電子eの反応によりOHを生ずる(HO+1/2O+2e → 2OH)。また、含水電解質材料6の電離した水素イオンと当該電子eの反応により水素が発生する(2H+2e → H)。OH及び水素の生成はカソード反応(還元反応)である。また、水の電気分解による水素も発生する。
【0052】
カソードサイトでは、アルカリ性になること(OHの発生)により、化成皮膜3が溶解し、また、鋼板2の腐食が進む(水和酸化鉄の生成)ことで、電着塗膜4の鋼板2に対する付着力が低下する。そして、上記水素ガスの発生によって、電着塗膜4の膨れを生じ、鋼板2の腐食が人工傷5の部位から周囲に進展していく。
【0053】
また、上記外部回路7による通電では、カソードサイトにおいて、含水電解質材料6に電圧が加わることにより、含水電解質材料6中の陽イオン(Na等)が電着塗膜4を通って鋼板2に向かって移動する。そして、この陽イオンに引きずられて水が電着塗膜4に浸透していく。また、アノードサイトにおいても、含水電解質材料6の陰イオン(Cl等)が電着塗膜4を通って鋼板2に向かって移動し、これに引きずられて水が電着塗膜4に浸透していく。
【0054】
特に、上記実施形態では、有孔電極12が人工傷5を囲むように配置されているから、人工傷5まわりの電着塗膜4に電圧が安定して印加され、該電着塗膜4へのイオンの移動及び水の浸透が効率良く行なわれる。また、カソードサイトでは、人工傷5部分において上述のように水素ガスが発生するところ、この水素ガスは有孔電極12の貫通孔12aを通って抜けるため、通電性が悪化することが避けられる。
【0055】
また、含水電解質材料6が粘土鉱物を含有する泥状物であるから、水及びイオンが人工傷5まわりの電着塗膜4に浸透し易くなる。
【0056】
このように、アノードサイト及びカソードサイトにおいて、上記通電により、人工傷5まわりの電着塗膜4への水及びイオンの浸透が促進されるから、電気の流れが速やかに安定した状態になる。よって、カソードサイトにおける人工傷5からその周囲への腐食の進展が安定したものになる。
【0057】
<耐食性評価ステップ>
上述の如く、カソードサイトにおける腐食の進展は、電着塗膜4の膨れの進展、つまり、塗膜膨れ範囲の拡大となって現れる。従って、上記通電開始から所定時間を経過した時点での塗膜膨れの広がり程度をみることによって、当該供試材の耐食性を評価することができる。
【0058】
塗膜膨れの広がりの程度は、耐食性試験後に、電着塗膜4に粘着テープを貼り、電着塗膜4の膨れた部分を剥がし、露出した鋼板2の露出面の径(以下、「剥離径」という。)を測定することによって知ることができる。
【0059】
塗膜膨れの広がりみるための耐食性試験時間は、例えば、0.5時間以上24時間以下とすればよい。その試験時間は、好ましくは1時間以上10時間以下、より好ましくは1時間以上5時間以下とする。
【0060】
供試材の耐食性を実腐食試験(塩水噴霧試験)と関連付けて評価する場合は、当該耐食性試験による腐食進展速度(単位時間当たりの塗膜膨れ径の広がり量)と、実腐食試験での腐食進展速度との関係を予め求めておき、当該耐食性試験結果に基づいて、それが実腐食試験においてどの程度の耐食性に相当するかをみることができる。
【0061】
<実施例>
耐食性試験−
供試材(被覆金属材)として、リン酸亜鉛による化成処理時間及び電着塗装の焼付条件が異なる図2及び図3に示す6種類を準備した。供試材1〜6はいずれも金属製基材が鋼板2であり、電着塗膜4の厚さは10μmである。そして、各供試材について、図1に示す態様で本耐食性試験を行なった。
【0062】
供試材には、圧子先端部の形状が四角錐であるビッカース硬さ試験機を用いて定量的に、すなわち、荷重(試験力)30kgで鋼板に達する対角線長さが1mmである四角錐の人工傷5(鋼板2の露出面積は0.54mm)を2箇所に4cmの間隔をあけて付与した。
【0063】
なお、対角線長さが1mmである四角錐の底面の面積は0.5mmであるから、供試材の表面に開口する人工傷5の開口面積は当該底面の面積に対応する0.5mmであるが、四角錐の人口傷5による鋼板2の露出面は錐面になるから、鋼板2の露出面積は上記開口面積よりも大きい0.54mmになる。
【0064】
含水電解質材料6としては、pH7の模擬泥を5%塩水(塩化ナトリウム)で20%希釈して用いた。模擬泥の組成は、水:カオリナイト:塩化ナトリウム:硫酸ナトリウム:塩化カルシウム=500:500:25:25:25(質量比)である。
【0065】
電極12としては、外径約32mm、内径約30mmのリング状の有孔電極(白金製)を用いた。
【0066】
定電流源8の電流値は1mmAとし、50℃の環境下で5時間通電した。
【0067】
図2及び図3に本耐食性試験結果(アノードサイトの外観、カソードサイトの剥離前と剥離後の外観、腐食進展速度(塗膜の膨れの進展速度)、並びに実腐食試験(傷部に模擬泥を付着させて、温度50℃、湿度98%の環境に暴露する実腐食試験)による腐食進展速度)を示す。
【0068】
図2及び図3によれば、化成処理時間が120秒である供試材1,4,6をみると、電着塗膜4の焼付条件が良くなる(焼付温度が高くなる、又は焼付け時間が長くなる)ほど、つまり、電着塗膜4の膜質が良くなるほど、本耐食性試験による腐食進展速度が遅く(膨れ径が小さく)なっている。すなわち、当該腐食進展速度は電着塗膜4の膜質の良否に対応している。
【0069】
電着塗膜4の焼付条件が150℃×20分である供試材5,6をみると、化成処理時間が長い供試材6の方が本耐食性試験による腐食進展速度が遅く(膨れ径が小さく)なっている。すなわち、当該腐食進展速度は化成皮膜の良否に対応している。
【0070】
なお、電着塗膜4の焼付条件が140℃×20分である供試材2,3,4をみると、化成処理時間が30秒である供試材3の方が化成処理時間が120秒である供試材4よりも当該腐食進展速度が遅くなっている。しかし、実腐食試験による腐食進展速度を見ても、供試材3の方が供試材4よりも遅くなっているから、本耐食性試験に問題があったわけではなく、何らかの原因で供試材3の電着塗膜4又は化成皮膜3の膜質が供試材4よりも良くなったものと考えられる。
【0071】
図4に示すように、供試材1〜6について、本耐食性試験に係る腐食進展速度と実腐食試験に係る腐食進展速度の相関をみると、その相関が強い(R=0.9863)ことがわかる。従って、本耐食性試験によって腐食進展速度を測定することにより、被覆金属材1の耐食性について、実腐食試験に匹敵する評価を行なうことができることがわかる。
【0072】
−含水電解質材料による塗膜の吸水促進性−
焼付条件又は膜厚が異なる各種電着塗膜4の表面に種々の付着物を設けて、その電着塗膜4の9日経過後の吸水量及び9日経過後の膨れ発生率を調べた。図5図7に示すように、付着物の種類及び形態は、「水」、「5%NaCl(スプレー)」、「5%CaCl(スプレー)」、上記「模擬泥」及び「5%NaCl(浸漬)」の5種類である。
【0073】
図5によれば、水、5%NaCl(スプレー)及び5%CaCl(スプレー)のいずれも、9日経過後でも、吸水量はわずかであり、塗膜の膨れもほとんどみられない。
【0074】
これに対して、図6によれば、模擬泥の場合は、9日経過後の吸水量及び膨れ発生率が、水、5%NaCl(スプレー)及び5%CaCl(スプレー)に比べると、格段に大きくなっている。特に、電着塗膜4の焼付条件が同じ150℃×20分であるケースで比較すると、模擬泥の場合は、当該吸水量及び膨れ発生率が桁違いに大きくなっていることがわかる。
【0075】
図7によれば、5%NaCl(浸漬)の場合は、当該吸水量及び膨れ発生率が、水、5%NaCl(スプレー)及び5%CaCl(スプレー)よりも大きくなっているが、図6の標準泥に比べるとかなり低い。
【0076】
図8は上記5種類について、電着塗膜4の焼付条件が150℃×20分であるケースでの腐食抑制期間と塗膜への水の浸入速度をみたものである。膨れ発生率が0.5%に到達するまでの時間を腐食抑制期間としている。塗膜への水の浸入速度は、塗膜の吸水量が25μg/mmmに到達するまで時間から計算している。同図によれば、模擬泥の場合、腐食抑制期間が短く、すなわち、塗膜への水の浸入速度が大きいことが塩水スプレー等に比べて格段に大きいことがわかる。
【0077】
以上から、含水電解質材料6として模擬泥を採用すると、水が塗膜に対して速やかに浸透し、上述の電気化学的手法による耐食性試験を迅速に且つ安定して行なうことができることがわかる。
【0078】
−通電制御について−
本実施形態に係る耐食性試験において、金属製基材(鋼板)2に対する通電は、定電流制御方式に限らず、定電圧制御方式にすることもできる。
【0079】
図9は1mAの定電流制御による通電の電流プロットであり、図10は1mAの電流が流れる程度の定電圧を印加したときの電流プロットである。この定電流制御の腐食試験及び定電圧制御の耐食性試験において、通電条件を除く、他の試験条件は同じである。
【0080】
定電流制御の場合、電流値が通電初期において多少ばらつくものの、略1mAに制御されている。このように腐食の加速に直接関与する電流値が安定することにより、腐食の加速再現性が良くなる。すなわち、耐食性試験の信頼性が高くなる。
【0081】
これに対して、定電圧制御の場合、電流値が大きく変動しており、腐食の加速再現性の面で不利になることがわかる。通電開始から7000秒付近までの電流値の変動が大きい期間は、電着塗膜4に水が浸透する期間にあたり、塗膜への水の浸透が定常的に進まないために、電流値が大きく変動しているものと認められる。その後も、電流値は0.5mA〜1.5mAの範囲で変動しており、化成皮膜の劣化や発錆に伴う抵抗値の変動の影響と認められる。
【0082】
定電圧制御での電流プロット(電流波形)から、腐食の進行状態ないしは腐食の程度を捉えることが可能になる。
【符号の説明】
【0083】
1 被覆金属材
2 鋼板(金属製基材)
3 化成皮膜
4 電着塗膜(表面処理膜)
5 人工傷
6 含水電解質材料
7 外部回路
8 定電流源(通電手段)
12 電極(有孔電極)
12a 貫通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10