(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
特許文献1及び特許文献2では、上記のような構成のα−Al
2O
3層を含む被膜を有することにより、切削工具の耐摩耗性、耐欠損性(例えば、耐チッピング性等)といった機械特性が向上し、以って切削工具の寿命が長くなることが期待されている。
【0008】
しかしながら、近年の切削加工においては、高速化及び高能率化が進行し、切削工具にかかる負荷が増大し、切削工具の寿命が短期化する傾向があった。このため、切削工具の被膜の機械特性を更に向上させることが求められている。
【0009】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、耐チッピング性が向上した切削工具を提供することを目的とする。
【0010】
[本開示の効果]
本開示によれば、耐チッピング性が向上した切削工具を提供することが可能になる。
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0012】
[1]本開示に係る切削工具は、
基材と、上記基材を被覆する被膜とを備える切削工具であって、
上記被膜は、上記基材上に設けられたα−アルミナ層を含み、
上記α−アルミナ層は、α−アルミナの結晶粒を含み、
上記α−アルミナ層は、下側部と上側部とを含み、
上記下側部は、上記基材の側の第一界面から厚み方向に0.2μm離れた地点を通る上記第一界面に平行な仮想平面Aと、上記仮想平面Aから更に厚み方向に1.3μm離れた地点を通る上記第一界面に平行な仮想平面Bとに挟まれた領域であり、
上記上側部は、上記基材の側と反対の第二界面から厚み方向に0.5μm離れた地点を通る上記第二界面に平行な仮想平面Cと、上記仮想平面Cから更に厚み方向に1μm離れた地点を通る上記第二界面に平行な仮想平面Dとに挟まれた領域であり、
上記第一界面は、上記第二界面に平行であり、
上記第二界面の法線を含む平面で上記α−アルミナ層を切断したときの断面に対し、電界放射型走査顕微鏡を用いた電子後方散乱回折像解析によって上記α−アルミナの結晶粒のそれぞれの結晶方位を特定し、これに基づいたカラーマップを作成した場合に、
上記カラーマップにおいて、
上記上側部は、(006)面の法線方向が上記第二界面の法線方向に対して±15°以内となる上記α−アルミナの結晶粒の占める面積比率が50%以上であり、
上記下側部は、(012)面、(104)面、(110)面、(113)面、(116)面、(300)面、(214)面、及び(006)面それぞれの結晶面において、当該結晶面の法線方向が上記第二界面の法線方向に対して±15°以内となる上記α−アルミナの結晶粒の占める面積比率が5%以上50%未満であり、
上記α−アルミナ層の厚みが3μm以上20μm以下である。
【0013】
上記切削工具は、上述のような構成を備えることによって、耐チッピング性が向上する。ここで、「耐チッピング性」とは、被膜の微小な欠けに対する耐性を意味する。
【0014】
[2]上記被膜は、上記基材と上記α−アルミナ層との間に設けられている内部層を更に含み、
上記内部層は、TiCNを含む。このように規定することで、耐チッピング性に加えて、耐摩耗性が向上する。
【0015】
[3]上記被膜は、上記内部層と上記α−アルミナ層との間に設けられている中間層を更に含み、
上記中間層は、チタン元素と、炭素、窒素、ホウ素及び酸素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物を含み、
上記中間層は、上記内部層とは組成が異なる。このように規定することで、耐チッピング性に加えて、基材と被膜との密着力が向上する。
【0016】
[4]上記被膜は、上記α−アルミナ層上に設けられている最外層を更に含み、
上記最外層は、チタン元素と、炭素、窒素及びホウ素からなる群より選ばれる1種の元素とからなる化合物を含む。このように規定することで、耐チッピング性に加えて、被膜の識別性に優れた切削工具を提供することが可能になる。
【0017】
[5]上記被膜の厚みが3μm以上30μm以下である。このように規定することで、耐チッピング性に加えて、耐摩耗性に優れた切削工具を提供することが可能になる。
【0018】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す。)について説明する。ただし、本実施形態はこれに限定されるものではない。本明細書において「X〜Y」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちX以上Y以下)を意味し、Xにおいて単位の記載がなく、Yにおいてのみ単位が記載されている場合、Xの単位とYの単位とは同じである。さらに、本明細書において、例えば「TiC」等のように、構成元素の組成比が限定されていない化学式によって化合物が表された場合には、その化学式は従来公知のあらゆる組成比(元素比)を含むものとする。このとき上記化学式は、化学量論組成のみならず、非化学量論組成も含むものとする。例えば「TiC」の化学式には、化学量論組成「Ti
1C
1」のみならず、例えば「Ti
1C
0.8」のような非化学量論組成も含まれる。このことは、「TiC」以外の化合物の記載についても同様である。
【0019】
≪表面被覆切削工具≫
本開示に係る切削工具は、
基材と、上記基材を被覆する被膜とを備える切削工具であって、
上記被膜は、上記基材上に設けられたα−Al
2O
3層(α−アルミナ層)を含み、
上記α−Al
2O
3層は、α−Al
2O
3(α−アルミナ)の結晶粒を含み、
上記α−Al
2O
3層は、下側部と上側部とを含み、
上記下側部は、上記基材の側の第一界面から厚み方向に0.2μm離れた地点を通る上記第一界面に平行な仮想平面Aと、上記仮想平面Aから更に厚み方向に1.3μm離れた地点を通る上記第一界面に平行な仮想平面Bとに挟まれた領域であり、
上記上側部は、上記基材の側と反対の第二界面から厚み方向に0.5μm離れた地点を通る上記第二界面に平行な仮想平面Cと、上記仮想平面Cから更に厚み方向に1μm離れた地点を通る上記第二界面に平行な仮想平面Dとに挟まれた領域であり、
上記第一界面は、上記第二界面に平行であり、
上記第二界面の法線を含む平面で上記α−Al
2O
3層を切断したときの断面に対し、電界放射型走査顕微鏡を用いた電子後方散乱回折像解析によって上記α−Al
2O
3の結晶粒のそれぞれの結晶方位を特定し、これに基づいたカラーマップを作成した場合に、
上記カラーマップにおいて、
上記上側部は、(006)面の法線方向が上記第二界面の法線方向に対して±15°以内となる上記α−Al
2O
3の結晶粒の占める面積比率が50%以上であり、
上記下側部は、(012)面、(104)面、(110)面、(113)面、(116)面、(300)面、(214)面、及び(006)面それぞれの結晶面において、当該結晶面の法線方向が上記第二界面の法線方向に対して±15°以内となる上記α−Al
2O
3の結晶粒の占める面積比率が5%以上50%未満であり、
上記α−Al
2O
3層の厚みが3μm以上20μm以下である。
【0020】
本実施形態の表面被覆切削工具(以下、単に「切削工具」という場合がある。)50は、基材10と、上記基材10を被覆する被膜40とを備える(
図2参照)。本実施形態の一側面において、上記被膜は、上記基材におけるすくい面を被覆していてもよいし、すくい面以外の部分(例えば、逃げ面)を被覆していてもよい。上記切削工具は、例えば、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ等であり得る。
【0021】
<基材>
本実施形態の基材は、この種の基材として従来公知のものであればいずれの基材も使用することができる。例えば、上記基材は、超硬合金(例えば、炭化タングステン(WC)基超硬合金、WCの他にCoを含む超硬合金、WCの他にCr、Ti、Ta、Nb等の炭窒化物を添加した超硬合金等)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム等)、立方晶型窒化硼素焼結体(cBN焼結体)及びダイヤモンド焼結体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、超硬合金、サーメット及びcBN焼結体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0022】
これらの各種基材の中でも、特にWC基超硬合金又はcBN焼結体を選択することが好ましい。その理由は、これらの基材が特に高温における硬度と強度とのバランスに優れ、上記用途の切削工具の基材として優れた特性を有するためである。
【0023】
基材として超硬合金を使用する場合、そのような超硬合金は、組織中に遊離炭素又はη相と呼ばれる異常相を含んでいても本実施形態の効果は示される。なお、本実施形態で用いる基材は、その表面が改質されたものであっても差し支えない。例えば、超硬合金の場合はその表面に脱β層が形成されていたり、cBN焼結体の場合には表面硬化層が形成されていてもよく、このように表面が改質されていても本実施形態の効果は示される。
【0024】
図1は、切削工具の基材の一態様を例示する斜視図である。このような形状の基材は、例えば、旋削加工用刃先交換型切削チップの基材として用いられる。上記基材10は、すくい面1と、逃げ面2と、上記すくい面1と逃げ面2とが交差する刃先稜線部3とを有する。すなわち、すくい面1と逃げ面2とは、刃先稜線部3を挟んで繋がる面である。刃先稜線部3は、基材10の切刃先端部を構成する。このような基材10の形状は、上記切削工具の形状と把握することもできる。
【0025】
上記切削工具が刃先交換型切削チップである場合、上記基材10は、チップブレーカーを有する形状も、有さない形状も含まれる。刃先稜線部3の形状は、シャープエッジ(すくい面と逃げ面とが交差する稜)、ホーニング(シャープエッジに対してアールを付与した形状)、ネガランド(面取りをした形状)、ホーニングとネガランドを組み合わせた形状の中で、いずれの形状も含まれる。
【0026】
以上、基材10の形状及び各部の名称を、
図1を用いて説明したが、本実施形態に係る切削工具において、上記基材10に対応する形状及び各部の名称については、上記と同様の用語を用いることとする。すなわち、上記切削工具は、すくい面と、逃げ面と、上記すくい面及び上記逃げ面を繋ぐ刃先稜線部とを有する。
【0027】
<被膜>
本実施形態に係る被膜40は、上記基材10上に設けられたα−Al
2O
3層20を含む(
図2参照)。「被膜」は、上記基材の少なくとも一部(例えば、切削加工時に被削材と接するすくい面等)を被覆することで、切削工具における耐欠損性(耐チッピング性等)、耐摩耗性等の諸特性を向上させる作用を有するものである。上記被膜は、上記基材の一部に限らず上記基材の全面を被覆することが好ましい。しかしながら、上記基材の一部が上記被膜で被覆されていなかったり被膜の構成が部分的に異なっていたりしていたとしても本実施形態の範囲を逸脱するものではない。
【0028】
上記被膜は、その厚みが3μm以上30μm以下であることが好ましく、5μm以上25μm以下であることがより好ましい。ここで、被膜の厚みとは、被膜を構成する層それぞれの厚みの総和を意味する。「被膜を構成する層」としては、例えば、後述するα−Al
2O
3層、中間層、内部層及び最外層等が挙げられる。上記被膜の厚みは、例えば、走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いて、基材の表面の法線方向に平行な断面サンプルにおける任意の10点を測定し、測定された10点の厚みの平均値をとることで求めることが可能である。後述するα−Al
2O
3層、中間層、内部層、最外層等のそれぞれの厚みを測定する場合も同様である。走査透過型電子顕微鏡としては、例えば、日本電子株式会社製のJEM−2100F(商品名)が挙げられる。
【0029】
(α−Al
2O
3層)
本実施形態のα−Al
2O
3層は、α−Al
2O
3(結晶構造がα型である酸化アルミニウム)の結晶粒(以下、単に「結晶粒」という場合がある。)を含む。すなわち、上記α−Al
2O
3層は、多結晶のα−Al
2O
3を含む層である。
【0030】
上記α−Al
2O
3層は、本実施形態に係る切削工具が奏する効果を損なわない範囲において、上記基材の直上に設けられていてもよいし、後述する内部層、中間層等の他の層を介して上記基材の上に設けられていてもよい。上記α−Al
2O
3層は、その上に最外層等の他の層が設けられていてもよい。また、上記α−Al
2O
3層は、上記被膜の最外層(最表面層)であってもよい。
【0031】
上記α−Al
2O
3層は、以下の特徴を有する。すなわち、上記α−Al
2O
3層は、下側部と上側部とを含み、
上記下側部は、上記基材の側の第一界面から厚み方向に0.2μm離れた地点を通る上記第一界面に平行な仮想平面Aと、上記仮想平面Aから更に厚み方向に1.3μm離れた地点を通る上記第一界面に平行な仮想平面Bとに挟まれた領域であり、
上記上側部は、上記基材の側と反対の第二界面から厚み方向に0.5μm離れた地点を通る上記第二界面に平行な仮想平面Cと、上記仮想平面Cから更に厚み方向に1μm離れた地点を通る上記第二界面に平行な仮想平面Dとに挟まれた領域であり、
上記第一界面は、上記第二界面に平行であり、
上記第二界面の法線を含む平面で上記α−Al
2O
3層を切断したときの断面に対し、電界放射型走査顕微鏡を用いた電子後方散乱回折像解析によって上記α−Al
2O
3の結晶粒のそれぞれの結晶方位を特定し、これに基づいたカラーマップを作成した場合に、
上記カラーマップにおいて、
上記上側部は、(006)面の法線方向が上記第二界面の法線方向に対して±15°以内となる上記α−Al
2O
3の結晶粒(以下、「(006)面配向性結晶粒」とも記す。)の占める面積比率が50%以上であり、
上記下側部は、(012)面、(104)面、(110)面、(113)面、(116)面、(300)面、(214)面、及び(006)面それぞれの結晶面において、当該結晶面の法線方向が上記第二界面の法線方向に対して±15°以内となる上記α−Al
2O
3の結晶粒の占める面積比率が5%以上50%未満である。
【0032】
言い換えると、上記下側部は、
(012)面の法線方向が上記第二界面の法線方向に対して±15°以内となる上記α−Al
2O
3の結晶粒の占める面積比率、
(104)面の法線方向が上記第二界面の法線方向に対して±15°以内となる上記α−Al
2O
3の結晶粒の占める面積比率、
(110)面の法線方向が上記第二界面の法線方向に対して±15°以内となる上記α−Al
2O
3の結晶粒の占める面積比率、
(113)面の法線方向が上記第二界面の法線方向に対して±15°以内となる上記α−Al
2O
3の結晶粒の占める面積比率、
(116)面の法線方向が上記第二界面の法線方向に対して±15°以内となる上記α−Al
2O
3の結晶粒の占める面積比率、
(300)面の法線方向が上記第二界面の法線方向に対して±15°以内となる上記α−Al
2O
3の結晶粒の占める面積比率、
(214)面の法線方向が上記第二界面の法線方向に対して±15°以内となる上記α−Al
2O
3の結晶粒の占める面積比率、及び
(006)面の法線方向が上記第二界面の法線方向に対して±15°以内となる上記α−Al
2O
3の結晶粒の占める面積比率、
のそれぞれが5%以上50%未満である。
【0033】
ここで、
図4を用いながら、上記のカラーマップの具体的な作成方法について説明する。
図4は、α−Al
2O
3層の第二界面の法線を含む平面で被膜を切断したときのα−Al
2O
3層の断面に基づいて作成されたカラーマップの一部である。なお、
図4に示されるα−Al
2O
3層20の第一界面20aは、基材10の側に位置する界面であり、第二界面20bは、基材10の側と反対に位置する界面である。第一界面20aは、第二界面20bに平行である。なお、α−Al
2O
3層20が被膜の最外層である場合、上記第二界面20bは、α−Al
2O
3層20の表面となる。上記第一界面20aは、上記カラーマップにおける上記基材の主面の法線方向において、基材側における上記基材に最も遠い点を通り且つ上記基材の主面に平行な直線L1と、当該基材側における上記基材に最も近い点を通り且つ上記基材の主面に平行な直線L2との中心を通る直線である。上記第二界面20bは、上記カラーマップにおける上記基材の主面の法線方向において、上記基材とは反対側における上記基材に最も遠い点を通り且つ上記基材の主面に平行な直線M1と、上記基材とは反対側における上記基材に最も近い点を通り且つ上記基材の主面に平行な直線M2との中心を通る直線である。ただし、上述の「基材に最も近い点」及び「基材に最も遠い点」を選択するにあたり、一見して異常点と思われる点は除外する。
【0034】
まずα−Al
2O
3層を後述の製造方法に基づき基材上に形成する。そして、形成されたα−Al
2O
3層を、基材なども含めα−Al
2O
3層に垂直な断面が得られるように切断する。すなわち、上記第二界面20bの法線を含む平面でα−Al
2O
3層を切断した切断面が露出するように切断する。その後、その切断面を耐水研磨紙(研磨剤としてSiC砥粒研磨剤を含むもの)で研磨する。
【0035】
なお、上記の切断は、たとえばα−Al
2O
3層20の表面(α−Al
2O
3層20上に他の層が形成されている場合は被膜の表面)を十分に大きな保持用の平板上にワックス等を用いて密着固定した後、回転刃の切断機にてその平板に対して垂直方向に切断する(当該回転刃と当該平板とが可能な限り垂直となるように切断する)ものとする。この切断は、このような垂直方向に対して行なわれる限り、α−Al
2O
3層20の任意の部位で行なうことができるが、後述のように、刃先稜線部3の近傍を切断することが好ましく、刃先稜線部3の近傍であって基材10が比較的平坦な箇所を切断することがより好ましい。
【0036】
また、上記の研磨は、上記耐水研磨紙を用いて行う(#400、#800、#1500を順に用いて行なう)ものとする。耐水研磨紙の番号(#)は、研磨剤の粒径の違いを意味し、番号が大きくなるほど研磨剤の粒径は小さくなる。
【0037】
引続き、上記の研磨面をArイオンによるイオンミーリング処理によりさらに平滑化する。イオンミーリング処理の条件は以下の通りである。
加速電圧:6kV
照射角度:α−Al
2O
3層の第二界面の法線方向(すなわち切断面におけるα−Al
2O
3層の厚み方向に平行となる直線方向)から0°
照射時間:6時間。
【0038】
次に、上記の平滑化処理された断面(鏡面)を、電子線後方散乱回折装置(EBSD装置)を備えた電界放出型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)(製品名:「SU6600」、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて観察し、得られた観察像に対してEBSD解析を行う。上記平滑化処理された断面を観察する位置は、特に限定されないが、切削特性との関係を考慮すると、刃先稜線部3の近傍を観察することが好ましく、刃先稜線部3の近傍であって基材10が比較的平坦な箇所を観察することがより好ましい。い。なお、FE−SEMの観察倍率は5000倍とする。
【0039】
またEBSD解析に関し、データは、集束電子ビームを各ピクセル上へ個別に位置させることによって順に収集する。サンプル面(平滑化処理されたα−Al
2O
3層の断面)の法線は、入射ビームに対して70°傾斜させ、解析は、15kVにて行なう。帯電効果を避けるために、10Paの圧力を印加する。開口径60μmまたは120μmと合わせて高電流モードを用いる。データ収集は、断面上、20μm(α−Al
2O
3層の厚み方向)×30μm(α−Al
2O
3層の界面に平行な方向)の面領域(観察領域)に相当する200×300ポイントについて、0.1μm/ステップのステップにて行なう。このときの測定視野数は、3以上とする。
【0040】
上記EBSD解析結果を、市販のソフトウェア(商品名:「orientation Imaging microscopy Ver 6.2」、EDAX社製)を用いて分析し、上記カラーマップを作成する。具体的には、まずα−Al
2O
3層20の断面に含まれる各結晶粒の結晶方位を特定する。ここで特定される各結晶粒の結晶方位は、α−Al
2O
3層20の断面に現れる各結晶粒を、当該断面の法線方向(
図4において紙面を貫く方向)から平面視したときに観察される結晶方位である。そして、得られた各結晶粒の結晶方位に基づいて、α−Al
2O
3層20の表面(すなわち、第二界面20b)の法線方向における各結晶粒の結晶方位を特定する。そして、特定された結晶方位に基づいてカラーマップを作成する。該カラーマップの作成には、上記ソフトウェアに含まれる「Cristal Direction MAP」の手法を用いることができる。なお、カラーマップは切断面に観察されるα−Al
2O
3層20の厚み方向の全域に亘って作成される。また、一部が測定視野の外に出ている結晶粒も1つとしてカウントする。
【0041】
図4においては、実線で囲まれかつドットのハッチングを有する各領域が、各(006)面配向性結晶粒である。また、実線で囲まれかつ斜線のハッチング(6種類)を有する各領域、又は実線で囲まれかつハッチングを有さない各領域が、(012)面、(104)面、(110)面、(113)面、(116)面、(300)面、又は(214)面のいずれかの結晶面配向性結晶粒である。すなわち、
図4では、α−Al
2O
3層20の第二界面20bの法線方向に対して、(006)面の法線方向が±15°以内となる結晶粒がドットでハッチングされている。α−Al
2O
3層20の第二界面20bの法線方向に対して、(012)面、(104)面、(110)面、(113)面、(116)面、(300)面、又は(214)いずれかの結晶面の法線方向が±15°以内となる結晶粒が、斜線(6種類)でハッチングされている、又はハッチングされていないこととなる。なお、
図4において黒色で示される領域があるが、これは、上記方法において結晶方位が特定されなかった結晶粒の領域とみなす。
【0042】
また、
図4に示されているようにα−Al
2O
3層20は、下側部20Aと上側部20Bとを含む。
下側部20Aは、上記基材の側の第一界面20aから厚み方向に0.2μm離れた地点を通る上記第一界面に平行な仮想平面Aと、上記仮想平面Aから更に厚み方向に1.3μm離れた地点を通る上記第一界面に平行な仮想平面Bとに挟まれた領域である。すなわち、仮想平面Aと仮想平面Bとの直線距離(最短距離)は、1.3μmであり、これが下側部20Aの厚みとなる。ここで、上記仮想平面A及び仮想平面Bは、作成したカラーマップ上で、第一界面からの距離に基づいて設定することができる。
上側部20Bは、上記基材の側と反対の第二界面20bから厚み方向に0.5μm離れた地点を通る上記第二界面に平行な仮想平面Cと、上記仮想平面Cから更に厚み方向に1μm離れた地点を通る上記第二界面に平行な仮想平面Dとに挟まれた領域である。すなわち、仮想平面Cと仮想平面Dとの直線距離(最短距離)は、1μmであり、これが上側部20Bの厚みとなる。ここで、上記仮想平面C及び仮想平面Dは、作成したカラーマップ上で、第二界面からの距離に基づいて設定することができる。
【0043】
上記カラーマップにおいて、上記上側部20Bは、(006)面の法線方向が上記第二界面20bの法線方向に対して±15°以内となる上記α−Al
2O
3の結晶粒の占める面積比率が50%以上であり、50%以上90%以下であることが好ましく、60%以上85%以下であることがより好ましい。ここで、上記面積比率は、上記カラーマップにおける上記上側部20Bの面積全体を基準とした面積比率である。
【0044】
上記カラーマップにおいて、上記下側部20Aは、(012)面、(104)面、(110)面、(113)面、(116)面、(300)面、(214)面、及び(006)面それぞれの結晶面において、当該結晶面の法線方向が上記第二界面20bの法線方向に対して±15°以内となる上記α−Al
2O
3の結晶粒の占める面積比率が5%以上50%未満であり、5%以上40%以下であることが好ましく、7%以上35%以下であることがより好ましい。ここで、上記面積比率は、上記カラーマップにおける上記下側部20Aの面積全体を基準とした面積比率である。また、上記α−Al
2O
3の結晶粒の中には、複数の結晶面において当該結晶面の法線方向が上記第二界面20bの法線方向に対して±15°以内となる場合がある。例えば、上記α−Al
2O
3の結晶粒の中には、(006)面配向性結晶粒に該当しかつ、(012)面配向性結晶粒にも該当する結晶粒がある。このような場合、当該結晶粒の面積は、(006)面配向性結晶粒の面積比率及び(012)面配向性結晶粒の面積比率の両方に加えられる。そのため、上述した8種類の各結晶面において求められた面積比率の総和は、100%を超える場合がある。
【0045】
上記要件を満たすα−Al
2O
3層20を備える切削工具10は、耐チッピング性が向上している。これについて、従来技術と比較しながら説明する。
【0046】
従来、α−Al
2O
3層の機械特性を向上させるべくとられていたアプローチは、α−Al
2O
3層の表面における各結晶の態様を制御することによってα−Al
2O
3層の特性を向上させ、もってα−Al
2O
3層を有する被膜の特性を向上させるというものであった。このような従来のアプローチは、α−Al
2O
3層の表面が切削加工による負荷を大きく受ける部分であり、この部分の特性の制御によって、α−Al
2O
3層全体の特性が制御されるとの考えに基づいていた。このため、Al
2O
3層の厚み方向の構成については、これまで着目されることはなかった。例えば、従来の製造方法によって形成されたα−Al
2O
3層では、その下側部は主に(214)配向性を示す結晶粒が多いことが知られていたが、上記下側部における結晶粒の配向性を制御することは着目されていなかった。
【0047】
しかし、本発明者らは、従来のアプローチのみでは、切削工具の寿命をさらに長寿命化させるという目的において、ブレイクスルーを図れないと考えた。そして、本発明者らは、α−Al
2O
3層の厚み方向における各結晶の態様に着眼して種々の検討を行い、これによって、α−Al
2O
3層を構成する結晶のうち、基材側に位置する結晶の態様が耐チッピング性(耐欠損性)に大きく寄与することを知見した。
【0048】
上記知見に基づいてさらに検討を重ねることにより、本発明者らは以下の点を見いだした。
(1)α−Al
2O
3層の全体において、(006)面配向性結晶粒の占める面積比率が増加するにつれて、層自体の硬度が高くなる傾向があること
(2)さらに、α−Al
2O
3層の下側部において結晶粒の配向性が等方的になることによって、被膜に発生した亀裂がα−Al
2O
3層中を進展しにくくなること。その結果、耐チッピング性が更に高くなる傾向があること
【0049】
本実施形態に係る切削工具50は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、厚み方向において結晶の配向性が変化するα−Al
2O
3層20を有する被膜40を含む。具体的にはα−Al
2O
3層20は、(006)面配向性結晶粒の占める面積比率が50%以上の上側部20Bと、(012)面、(104)面、(110)面、(113)面、(116)面、(300)面、(214)面、又は(006)面の結晶面配向性結晶粒の占める面積比率がそれぞれ5%以上50%未満の下側部20Aとを含む。
【0050】
このようなα−Al
2O
3層20によれば、上側部20Bにおいて切削工具の硬度を大幅に向上させることができ、もって高い耐摩耗性を有することができる。一方で、下側部20Aにおける結晶粒は等方性を有するため、被膜に発生した亀裂がα−Al
2O
3層中を進展しにくくなる。そのため、上述のような耐チッピング性を発揮していると本発明者らは考えている。以上のことから、本実施形態の被膜40は、耐摩耗性とともに耐チッピング性に優れるため、切削工具50の機械特性が従来と比して向上したものとなる。
【0051】
(α−Al
2O
3層の厚み)
本実施形態において、α−Al
2O
3層は、その厚みが3〜20μmである。α−Al
2O
3層はの厚みは、4〜20μmであることが好ましく、5〜15μmであることがより好ましい。これにより、上記のような優れた効果を発揮することができる。ここで、α−Al
2O
3層の厚みとは、上記第一界面から上記第二界面までの最短距離を意味する。
【0052】
α−Al
2O
3層の厚みが3μm未満の場合、α−Al
2O
3層の存在に起因する耐摩耗性の向上の程度が低い傾向がある。20μmを超えると、α−Al
2O
3層と他の層との線膨張係数の差に起因する界面応力が大きくなり、α−Al
2O
3の結晶粒が脱落する場合がある。したがって、α−Al
2O
3層が、上側部および下側部の間に中側部を有する場合、当該中側部の厚みは0〜17μmであることが好ましいこととなる。このような厚みは、上述したのと同様に走査透過型電子顕微鏡(STEM)等を用いて基材と被膜の垂直断面を観察することにより確認することができる。
【0053】
(α−Al
2O
3の結晶粒の平均粒径)
本実施形態において、上記α−Al
2O
3の結晶粒は、その平均粒径が0.1〜3μmであることが好ましく、0.2〜2μmであることがより好ましい。本実施形態の一側面において、上記α−Al
2O
3の下側部における結晶粒は、その平均粒径が0.1〜2μmであることが好ましく、0.1〜1μmであることがより好ましい。上記結晶粒の平均粒径は、例えば、上記カラーマップを用いて求めることが可能である。具体的には、まず、上記カラーマップにおいて、色彩が一致し(すなわち結晶方位が一致し)、かつ周囲が他の色彩(すなわち他の結晶方位)で囲まれている領域を、各結晶粒の個別の領域とみなす。次に、各結晶粒の面積を求め、それと同じ面積を有する円の直径を各結晶粒の粒径とする。
【0054】
(内部層)
上記被膜40は、上記基材10と上記α−Al
2O
3層20との間に設けられている内部層21を更に含み(
図3参照)、上記内部層21は、TiCNを含むことが好ましい。上記TiCNは、立方晶であることが好ましい。
【0055】
上記内部層は、その厚みが3〜20μmであることが好ましく、5〜15μmであることがより好ましい。このような厚みは、上述したのと同様に走査透過型電子顕微鏡(STEM)等を用いて基材と被膜の垂直断面を観察することにより確認することができる。
【0056】
(中間層)
上記被膜40は、上記内部層21と上記α−Al
2O
3層20との間に設けられている中間層22を更に含み(
図3参照)、上記中間層22は、チタン元素と、C(炭素)、N(窒素)、B(ホウ素)及びO(酸素)からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物を含むことが好ましい。ここで、上記中間層は、上記内部層とは組成が異なる。
【0057】
上記中間層に含まれる化合物としては、例えば、TiCNO、TiBN、及びTiB
2等が挙げられる。
【0058】
上記中間層は、その厚みが0.3〜2.5μmであることが好ましく、0.5〜1μmであることがより好ましい。このような厚みは、上述したのと同様に走査透過型電子顕微鏡(STEM)等を用いて基材と被膜の垂直断面を観察することにより確認することができる。
【0059】
(最外層)
上記被膜40は、上記α−Al
2O
3層20上に設けられている最外層23を更に含み(
図3参照)、上記最外層23は、チタン元素と、C、N及びBからなる群より選ばれる1種の元素とからなる化合物を含むことが好ましい。
【0060】
上記最外層に含まれる化合物としては、例えば、TiC、TiN、及びTiB
2等が挙げられる。
【0061】
上記最外層は、その厚みが0.1〜1μmであることが好ましく、0.3〜0.8μmであることがより好ましい。このような厚みは、上述したのと同様に走査透過型電子顕微鏡(STEM)等を用いて基材と被膜の垂直断面を観察することにより確認することができる。
【0062】
(他の層)
本実施形態に係る切削工具が奏する効果を損なわない範囲において、上記被膜は、他の層を更に含んでいてもよい。上記他の層は、上記α−Al
2O
3層、上記内部層、上記中間層又は上記最外層とは組成が異なっていてもよいし、同じであってもよい。他の層に含まれる化合物としては、例えば、TiN、TiCN、TiBN、及びAl
2O
3等を挙げることができる。なお、上記他の層は、その積層の順も特に限定されない。上記他の層の厚みは、本実施形態の効果を損なわない範囲において、特に制限はないが例えば、0.1μm以上20μm以下が挙げられる。
【0063】
≪表面被覆切削工具の製造方法≫
本実施形態に係る切削工具の製造方法は、
上記基材を準備する第1工程(以下、単に「第1工程」という場合がある。)と、
化学気相蒸着法を用いて、二酸化炭素ガス及び硫化水素ガスを含む原料ガスを用いて、上記基材上に上記α−Al
2O
3層における下側部を形成する第2工程(以下、単に「第2工程」という場合がある。)と、
化学気相蒸着法を用いて、二酸化炭素ガス及び硫化水素ガスを含む原料ガスを用いて、上記下側部上に上記α−Al
2O
3層における上側部を形成する第3工程(以下、単に「第3工程」という場合がある。)と、
を含み、
上記第2工程における上記硫化水素ガスに対する上記二酸化炭素ガスの体積比(CO
2/H
2S)をR1とし、上記第3工程における上記硫化水素ガスに対する上記二酸化炭素ガスの体積比(CO
2/H
2S)をR2とした場合、1≦(R1/R2)<1.5を満たす。
なお、上述の中側部は第2工程から第3工程へ移る過程で形成される「遷移部」と把握することができる。
【0064】
<第1工程:基材を準備する工程>
第1工程では基材を準備する。例えば、基材として超硬合金基材が準備される。超硬合金基材は、市販品を用いてもよく、一般的な粉末冶金法で製造してもよい。一般的な粉末冶金法で製造する場合、例えば、ボールミル等によってWC粉末とCo粉末等とを混合して混合粉末を得る。該混合粉末を乾燥した後、所定の形状に成形して成形体を得る。さらに該成形体を焼結することにより、WC−Co系超硬合金(焼結体)を得る。次いで該焼結体に対して、ホーニング処理等の所定の刃先加工を施すことにより、WC−Co系超硬合金からなる基材を製造することができる。第1工程では、上記以外の基材であっても、この種の基材として従来公知の基材であればいずれも準備可能である。
【0065】
<第2工程:α−Al
2O
3層における下側部を形成する工程>
第2工程では、化学気相蒸着法(CVD法)を用いて、二酸化炭素ガス及び硫化水素ガスを含む原料ガスを用いて、上記基材上に上記α−Al
2O
3層における下側部が形成される。
【0066】
図5は、被膜の製造に用いられる化学気相蒸着装置(CVD装置)の一例を示す模式断面図である。以下
図5を用いて第2工程について説明する。CVD装置30は、基材10を保持するための基材セット治具31の複数と、基材セット治具31を覆う耐熱合金鋼製の反応容器32とを備えている。また、反応容器32の周囲には、反応容器32内の温度を制御するための調温装置33が設けられている。反応容器32にはガス導入口34を有するガス導入管35が設けられている。ガス導入管35は、基材セット治具31が配置される反応容器32の内部空間において、鉛直方向に延在し当該鉛直方向を軸に回転可能に配置されており、またガスを反応容器32内に噴出するための複数の噴出孔36が設けられている。このCVD装置30を用いて、次のようにして上記被膜を構成するα−Al
2O
3層の下側部等を形成することができる。
【0067】
まず、基材10を基材セット治具31に配置し、反応容器32内の温度および圧力を所定の範囲に制御しながら、α−Al
2O
3層20の下側部用の原料ガスをガス導入管35から反応容器32内に導入させる。これにより、基材10上にα−Al
2O
3層20の下側部20Aが形成される。ここで、α−Al
2O
3層20の下側部20Aを形成する前に(すなわち、第2工程の前に)、内部層用の原料ガスをガス導入管35から反応容器32内に導入させることにより、基材10の表面に内部層(TiCNを含む層、図示せず。)を形成することが好ましい。以下、基材10の表面に内部層を形成した後に、上記α−Al
2O
3層20の下側部20Aを形成する方法について説明する。
【0068】
上記内部層用の原料ガスとしては、特に制限はないが例えば、TiCl
4、N
2及びCH
3CNの混合ガスが挙げられる。
【0069】
上記内部層を形成する際の反応容器32内の温度は、1000〜1100℃に制御されることが好ましい。上記内部層を形成する際の反応容器32内の圧力は0.1〜1013hPaに制御されることが好ましい。なお、キャリアガスとしては、H
2を用いることが好ましい。また、ガス導入時、不図示の駆動部によりガス導入管35を回転させることが好ましい。これにより、反応容器32内において各ガスを均一に分散させることができる。
【0070】
さらに、上記内部層を、MT(Medium Temperature)−CVD法で形成してもよい。MT−CVD法は、1000〜1100℃の温度で実施されるCVD法(以下、「HT−CVD法」ともいう。)とは異なり、反応容器32内の温度を850〜950℃といった比較的低い温度に維持して層を形成する方法である。MT−CVD法は、HT−CVD法と比して比較的低温で実施されるため、加熱による基材10へのダメージを低減することができる。特に、上記内部層がTiCN層である場合、MT−CVD法で形成することが好ましい。
【0071】
次に、上記内部層上にα−Al
2O
3層20の下側部20Aを形成する。原料ガスとしては、例えば、AlCl
3、HCl、CO、CO
2及びH
2Sの混合ガスを用いる。
【0072】
原料ガス中におけるCO
2の含有割合は、0.1〜6体積%であることが好ましく、0.5〜3体積%であることがより好ましく、0.6〜2.5体積%であることが更に好ましい。CO
2の好ましい流量は、0.1〜4L/minである。
【0073】
原料ガス中におけるH
2Sの含有割合は、0.1〜1体積%であることが好ましく、0.5〜1体積%であることがより好ましく、0.5〜0.8体積%であることが更に好ましい。H
2Sの好ましい流量は、0.1〜0.5L/minである。
【0074】
このとき、H
2Sに対するCO
2の体積比(CO
2/H
2S)は、0.5〜4であることが好ましく、0.5〜2であることがより好ましい。
【0075】
原料ガス中におけるAlCl
3の含有割合は、2〜5体積%であることが好ましく、3〜4体積%であることがより好ましい。AlCl
3の好ましい流量は、例えば、2.4L/minである。
【0076】
原料ガス中におけるHClの含有割合は、1〜4体積%であることが好ましく、2〜3.5体積%であることがより好ましい。HClの好ましい流量は、例えば、2L/minである。
【0077】
原料ガス中におけるCOの含有割合は、0.1〜4体積%であることが好ましい。COの好ましい流量は、0.1L/min〜2L/minである。
【0078】
反応容器32内の温度は950〜1000℃に制御されることが好ましい。反応容器32内の圧力は50〜100hPaに制御されることが好ましい。温度を上述の範囲で制御することにより、α−Al
2O
3の微粒組織が形成され易くなる。また、キャリアガスとしてはH
2を用いることができる。なお、ガス導入時、ガス導入管35を回転させることが好ましいことは、上記と同様である。
【0079】
上記製造方法に関し、CVD法の各条件を制御することによって、各層の態様が変化する。たとえば、反応容器32内に導入する原料ガスの組成によって、各層の組成が決定される。実施時間(成膜時間)により、各層の厚みが制御される。なかでも、α−Al
2O
3層20における粗粒の割合を低下させたり、後述する第3工程において(006)面配向性を高めるためには、原料ガスのうち、CO
2ガスとH
2Sガスとの流量比(CO
2/H
2S)の制御が重要である。
【0080】
<第3工程:α−Al
2O
3層における上側部を形成する工程>
第3工程では、化学気相蒸着法を用いて、二酸化炭素ガス及び硫化水素ガスを含む原料ガスから、上記下側部上に上記α−Al
2O
3層における上側部が形成される。
【0081】
原料ガスとしては、例えば、AlCl
3、HCl、CO
2及びH
2Sの混合ガスを用いる。
【0082】
原料ガス中におけるCO
2の含有割合は、0.15〜8体積%であることが好ましく、0.5〜3体積%であることがより好ましく、0.6〜2.5体積%であることが更に好ましい。CO
2の好ましい流量は、0.1〜4L/minである。
【0083】
原料ガス中におけるH
2Sの含有割合は、0.15〜1体積%であることが好ましく、0.5〜1体積%であることがより好ましく、0.5〜0.8体積%であることが更に好ましい。H
2Sの好ましい流量は、0.1〜0.5L/minである。
【0084】
このとき、H
2Sに対するCO
2の体積比(CO
2/H
2S)は、0.5〜4であることが好ましく、0.5〜2であることがより好ましい。
【0085】
さらに、上記第2工程における上記H
2Sに対する上記CO
2の体積比(CO
2/H
2S)をR1とし、上記第3工程における上記H
2Sに対する上記CO
2の体積比(CO
2/H
2S)をR2とした場合、1≦(R1/R2)<1.5を満たすことが好ましい。
【0086】
原料ガス中におけるAlCl
3の含有割合は、6〜12体積%であることが好ましく、8〜10体積%であることがより好ましい。AlCl
3の好ましい流量は、例えば、4.8L/minである。
【0087】
原料ガス中におけるHClの含有割合は、1〜4体積%であることが好ましく、1.5〜3体積%であることがより好ましい。HClの好ましい流量は、例えば1L/minである。
【0088】
反応容器32内の温度は950〜1000℃に制御されることが好ましい。反応容器32内の圧力は50〜100hPaに制御されることが好ましい。温度を上述の範囲で制御することにより、α−Al
2O
3の結晶粒の成長が促進される。また、キャリアガスとしてはH
2を用いることができる。なお、ガス導入時、ガス導入管35を回転させることが好ましいことは、上記と同様である。
【0089】
<その他の工程>
本実施形態に係る製造方法では、上述した工程の他にも、本実施形態の効果を損なわない範囲で追加工程を適宜行ってもよい。上記追加工程としては例えば、上記内部層と上記α−Al
2O
3層との間に中間層を形成する工程、上記α−Al
2O
3層上に最外層を形成する工程、及び被膜にブラスト処理を行う工程等が挙げられる。中間層及び最外層を形成する方法としては、特に制限はなく、例えば、CVD法等によって形成する方法が挙げられる。
【0090】
以上の説明は、以下に付記する特徴を含む。
(付記1)
基材と、前記基材を被覆する被膜とを備える表面被覆切削工具であって、
前記被膜は、前記基材上に設けられたα−Al
2O
3層を含み、
前記α−Al
2O
3層は、α−Al
2O
3の結晶粒を含み、
前記α−Al
2O
3層は、下側部と上側部とを含み、
前記下側部は、前記基材の側の第一界面から厚み方向に0.2μm離れた地点を通る前記第一界面に平行な仮想平面Aと、前記仮想平面Aから更に厚み方向に1.3μm離れた地点を通る前記第一界面に平行な仮想平面Bとに挟まれた領域であり、
前記上側部は、前記基材の側と反対の第二界面から厚み方向に0.5μm離れた地点を通る前記第二界面に平行な仮想平面Cと、前記仮想平面Cから更に厚み方向に1μm離れた地点を通る前記第二界面に平行な仮想平面Dとに挟まれた領域であり、
前記第一界面は、前記第二界面に平行であり、
前記第二界面の法線を含む平面で前記α−Al
2O
3層を切断したときの断面に対し、電界放射型走査顕微鏡を用いた電子後方散乱回折像解析によって前記α−Al
2O
3の結晶粒のそれぞれの結晶方位を特定し、これに基づいたカラーマップを作成した場合に、
前記カラーマップにおいて、
前記上側部は、(006)面の法線方向が前記第二界面の法線方向に対して±15°以内となる前記α−Al
2O
3の結晶粒の占める面積比率が50%以上であり、
前記下側部は、(012)面、(104)面、(110)面、(113)面、(116)面、(300)面、(214)面、及び(006)面それぞれの結晶面において、当該結晶面の法線方向が前記第二界面の法線方向に対して±15°以内となる前記α−Al
2O
3の結晶粒の占める面積比率が5%以上50%未満である、表面被覆切削工具。
(付記2)
前記α−Al
2O
3層は、その厚みが3μm以上20μm以下である、付記1に記載の表面被覆切削工具。
(付記3)
前記被膜は、前記基材と前記α−Al
2O
3層との間に設けられている内部層を更に含み、
前記内部層は、TiCNを含む、付記1又は付記2に記載の表面被覆切削工具。
(付記4)
前記被膜は、前記内部層と前記α−Al
2O
3層との間に設けられている中間層を更に含み、
前記中間層は、チタン元素と、C、N、B及びOからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物を含み、
前記中間層は、前記内部層とは組成が異なる、付記1〜付記3のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
(付記5)
前記被膜は、前記α−Al
2O
3層上に設けられている最外層を更に含み、
前記最外層は、チタン元素と、C、N及びBからなる群より選ばれる1種の元素とからなる化合物を含む、付記1〜付記4のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
(付記6)
前記被膜は、その厚みが3μm以上30μm以下である、付記1〜付記5のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
【実施例】
【0091】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0092】
≪切削工具の作製≫
<第1工程:基材を準備する工程>
基材として、TaC(2.0質量%)、NbC(1.0質量%)、Co(10.0質量%)及びWC(残部)からなる組成(ただし不可避不純物を含む。)の超硬合金製切削チップ(形状:CNMG120408N−UX、住友電工ハードメタル株式会社製、JIS B4120(2013))を準備した。
【0093】
<内部層、中間層を形成する工程>
後述の第2工程の前に、準備した基材に対し、CVD装置を用いて、内部層及び中間層をこの順に形成させた。各層の形成条件を以下に示す。なお、各ガス組成に続く括弧内の値は、各ガスの流量(L/min)を示す。また、内部層及び中間層の厚み、並びに、中間層の組成を表1に示す。
【0094】
(内部層:TiCN)
原料ガス:TiCl
4(12L/min)、CH
3CN(2L/min)、N
2(15L/min)、H
2(80L/min)
圧力 :100hPa
温度 :860℃
成膜時間:表1に示される厚みとなるように適宜調製した
【0095】
(中間層:TiCNO、TiCN又はTiBN)
(TiCNOの場合)
原料ガス:TiCl
4(0.5L/min)、CH
4(3L/min)、CO(0.5L/min)、N
2(30L/min)、H
2(55L/min)
圧力 :150hPa
温度 :980℃
成膜時間:表1に示される厚みとなるように適宜調製した
【0096】
(TiCNの場合)
原料ガス:TiCl
4(4L/min)、CH
3CN(2L/min)、N
2(25L/min)、H
2(75L/min)
圧力 :90hPa
温度 :970℃
成膜時間:表1に示される厚みとなるように適宜調製した
【0097】
(TiBNの場合)
原料ガス:TiCl
4(5L/min)、BCl
3(0.7L/min)、N
2(20L/min)、H
2(70L/min)
圧力 :70hPa
温度 :960℃
成膜時間:表1に示される厚みとなるように適宜調製した
【0098】
<第2工程:α−Al
2O
3層における下側部を形成する工程>
内部層及び中間層が形成された基材に対し、CVD装置を用いて、α−Al
2O
3層における下側部を形成させて、後工程の第3工程に移った。α−Al
2O
3層における下側部の形成条件を以下に示す。また、α−Al
2O
3層の厚みを表1に示す。
【0099】
(α−Al
2O
3層の下側部)
原料ガス:AlCl
3(2.4L/min)、CO
2(0.1〜4.0L/min)、CO(0.1〜2.0L/min)、H
2S(0.1〜0.5L/min)、HCl(2.0L/min)、H
2(65L/min)
圧力 :50〜100hPa
温度 :950〜1000℃
成膜時間:下側部の厚みが2μmとなるように適宜調製した
【0100】
<第3工程:α−Al
2O
3層における上側部を形成する工程>
次に、α−Al
2O
3層における下側部が形成された基材に対し、CVD装置を用いて、α−Al
2O
3層における上側部を形成させることで、α−Al
2O
3層を形成した。α−Al
2O
3層における上側部の形成条件を以下に示す。ここで、上記第2工程における上記H
2Sに対する上記CO
2の体積比(CO
2/H
2S)をR1とし、上記第3工程における上記H
2Sに対する上記CO
2の体積比(CO
2/H
2S)をR2とした場合における比率R1/R2を表1に示す。
【0101】
(α−Al
2O
3層の上側部)
原料ガス:AlCl
3(4.8L/min)、CO
2(0.1〜4.0L/min)、H
2S(0.1〜0.5L/min)、HCl(1.0L/min)、H
2(45L/min)
圧力 :50〜100hPa
温度 :950〜1000℃
成膜時間:下側部と上側部との合計の厚みが表1に示される厚みとなるように適宜調製した
【0102】
【表1】
【0103】
<最外層を形成する工程>
最後に、上記α−Al
2O
3層が形成された基材(ただし、試料7、8及びcを除く。)に対し、CVD装置を用いて、最外層を形成させた。最外層の形成条件を以下に示す。また、最外層の厚み及び組成を表1に示す。
【0104】
(最外層:TiN、TiC又はTiB
2)
(TiNの場合)
原料ガス:TiCl
4(5L/min)、N
2(20L/min)、H
2(75L/min)
圧力 :150hPa
温度 :980℃
成膜時間:表1に示される厚みとなるように適宜調製した
【0105】
(TiCの場合)
原料ガス:TiCl
4(3L/min)、CH
4(5L/min)、H
2(90L/min)
圧力 :400hPa
温度 :1000℃
成膜時間:表1に示される厚みとなるように適宜調製した
【0106】
(TiB
2の場合)
原料ガス:TiCl
4(10L/min)、BCl
3(0.2L/min)、H
2(80L/min)
圧力 :350hPa
温度 :995℃
成膜時間:表1に示される厚みとなるように適宜調製した
【0107】
以上の手順によって、試料1〜12及び試料a〜fの切削工具を作製した。
【0108】
≪切削工具の特性評価≫
上述のようにして作製した試料の切削工具を用いて、以下のように、切削工具の各特性を評価した。ここで、試料1〜12は実施例に相当し、試料a〜fは比較例に相当する。
【0109】
<カラーマップの作成>
まず、被膜におけるα−Al
2O
3層の表面(又は界面)に垂直な断面が得られるように上記切削工具を切断した。その後、その切断面を耐水研磨紙(株式会社ノリタケコーテッドアブレーシブ(NCA)製、商品名:WATERPROOF PAPER、#400、#800、#1500)で研磨を実施し、α−Al
2O
3層の加工面を作製した。引き続き、上記加工面をArイオンによるイオンミーリング処理によりさらに平滑化を行った。イオンミーリング処理の条件は以下の通りである。
加速電圧:6kV
照射角度:α−Al
2O
3層の第二界面の法線方向(すなわち切断面におけるα−Al
2O
3層の厚み方向に平行となる直線方向)から0°
照射時間:6時間
【0110】
作製された上記加工面をEBSDを備えたFE−SEM(日立ハイテクノロジーズ社製、商品名:「SU6600」)を用いて5000倍の倍率で観察することにより、加工面における20μm(α−Al
2O
3層の厚み方向)×30μm(α−Al
2O
3層の界面に平行な方向)の観察領域に関して上述のカラーマップを作成した。このとき作成したカラーマップの数(測定視野の数)は、3とした。具体的には、まずα−Al
2O
3層の断面に含まれる各結晶粒の結晶方位を特定した。ここで特定される各結晶粒の結晶方位は、α−Al
2O
3層の断面に現れる各結晶粒を、当該断面の法線方向(
図4において紙面を貫く方向)から平面視したときに観察される結晶方位である。そして、得られた各結晶粒の結晶方位に基づいて、α−Al
2O
3層の第二界面の法線方向における各結晶粒の結晶方位を特定した。そして、特定された結晶方位に基づいてカラーマップを作成した(例えば、
図4)。各カラーマップについて、市販のソフトウェア(商品名:「Orientation Imaging Microscopy Ver 6.2」、EDAX社製)を用いて、α−Al
2O
3層の下側部における(110)面配向性結晶粒、(012)面配向性結晶粒、(104)面配向性結晶粒、(113)面配向性結晶粒、(116)面配向性結晶粒、(300)面配向性結晶粒、(214)面配向性結晶粒及び(006)面配向性結晶粒それぞれの占める面積比率、及びα−Al
2O
3層の上側部における(006)面配向性結晶粒の占める面積比率を求めた。その結果を表2及び
図6に示す。ここで、上記下側部は、上記基材の側の第一界面から厚み方向に0.2μm離れた地点を通る上記第一界面に平行な仮想平面Aと、上記仮想平面Aから更に厚み方向に1.3μm離れた地点を通る上記第一界面に平行な仮想平面Bとに挟まれた領域である(例えば、
図4)。上記上側部は、上記基材の側と反対の第二界面から厚み方向に0.5μm離れた地点を通る上記第二界面に平行な仮想平面Cと、上記仮想平面Cから更に厚み方向に1μm離れた地点を通る上記第二界面に平行な仮想平面Dとに挟まれた領域である(例えば、
図4)。
【0111】
ここで、上記第一界面及び上記第二界面は上記カラーマップにおいて以下のようにして定めた。まず、カラーマップにおいて、α−Al
2O
3層の領域と、α−Al
2O
3層以外の領域とが区別つくように色を分けて表示した。上記カラーマップにおける上記基材の主面の法線方向において、基材側における上記基材に最も遠い点を通り且つ上記基材の主面に平行な直線L1と、当該基材側における上記基材に最も近い点を通り且つ上記基材の主面に平行な直線L2との中心を通る直線を、上記第一界面とした。また、上記カラーマップにおける上記基材の主面の法線方向において、上記基材とは反対側における上記基材に最も遠い点を通り且つ上記基材の主面に平行な直線M1と、上記基材とは反対側における上記基材に最も近い点を通り且つ上記基材の主面に平行な直線M2との中心を通る直線を上記第二界面とした。
【0112】
【表2】
【0113】
図6は、試料番号1のα−Al
2O
3層の下側部における各結晶面ごとに、所定の結晶面の法線方向が上記第二界面の法線方向に対して±15°以内となる結晶粒が占める面積比率を示すグラフである。面積比率を求めた結晶面は、(110)面の他、(012)面、(104)面、(113)面、(116)面、(300)面、(214)面及び(006)面である。
図6の結果から、試料番号1のα−Al
2O
3層の下側部において、(012)面、(104)面、(110)面、(113)面、(116)面、(300)面、(214)面、又は(006)面の法線方向が上記第二界面の法線方向に対して±15°以内となる結晶粒が占める面積比率がそれぞれ5%以上50%未満であることが分かった。
【0114】
≪切削試験≫
(切削評価(1):断続加工試験)
上述のようにして作製した試料(試料1〜12及び試料a〜f)の切削工具を用いて、以下の切削条件により、刃先にチッピングが発生するまでの衝撃回数を測定した。その結果を表3に示す。衝撃回数が多いほど耐チッピング性に優れる切削工具として評価することができる。
断続加工の試験条件
被削材 :SCM415断続材
切削速度:200m/min
送り :0.25mm/rev
切込み :2mm
切削油 :湿式
【0115】
(切削評価(2):連続加工試験)
上述のようにして作製した試料(試料1〜12及び試料a〜f)の切削工具を用いて、以下の切削条件により、10分間切削を行った後の、逃げ面における平均摩耗量を測定した。その結果を表3に示す。平均摩耗量が小さいほど耐摩耗性に優れる切削工具として評価することができる。
連続加工の試験条件
被削材 :SCr440H
切削速度:250m/min
送り :0.25mm/rev
切込み :2mm
切削油 :湿式
【0116】
【表3】
【0117】
表3の結果から試料1〜12の切削工具(実施例の切削工具)は、断続加工におけるチッピング発生までの衝撃回数が4000回以上の良好な結果が得られた。一方試料a〜fの切削工具(比較例の切削工具)は、断続加工における上記衝撃回数が2000回以下であった。以上の結果から、実施例の切削工具は、比較例の切削工具に比べて耐チッピング性に優れることが分かった。
【0118】
表3の結果から、試料1〜12の切削工具(実施例の切削工具)は、連続加工における逃げ面の平均摩耗量が0.14mm以下の良好な結果が得られた。一方試料a〜fの切削工具(比較例の切削工具)は、連続加工における逃げ面の平均摩耗量が0.27mm以上であった。以上の結果から実施例の切削工具は、耐摩耗性に優れることが分かった。
【0119】
以上のように本発明の実施形態及び実施例について説明を行なったが、上述の各実施形態及び各実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0120】
今回開示された実施の形態及び実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態及び実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
基材と、基材を被覆する被膜とを備える切削工具であって、被膜は、基材上に設けられたα−アルミナ層を含み、α−アルミナ層は、α−アルミナの結晶粒を含み、α−アルミナ層は、下側部と上側部とを含み、第二界面の法線を含む平面でα−アルミナ層を切断したときの断面に対し、電界放射型走査顕微鏡を用いた電子後方散乱回折像解析によってα−アルミナの結晶粒のそれぞれの結晶方位を特定し、これに基づいたカラーマップを作成した場合に、カラーマップにおいて、上側部は、(006)面の法線方向が前記第二界面の法線方向に対して±15°以内となるα−アルミナの結晶粒の占める面積比率が50%以上であり、下側部は、(012)面、(104)面、(110)面、(113)面、(116)面、(300)面、(214)面、及び(006)面それぞれの結晶面において、当該結晶面の法線方向が第二界面の法線方向に対して±15°以内となるα−アルミナの結晶粒の占める面積比率が5%以上50%未満であり、α−アルミナ層の厚みが3μm以上20μm以下である、切削工具。