特許第6784382号(P6784382)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784382
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】澱粉麺の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20201102BHJP
【FI】
   A23L7/109 G
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-95932(P2016-95932)
(22)【出願日】2016年5月12日
(65)【公開番号】特開2017-201943(P2017-201943A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2019年5月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】390015004
【氏名又は名称】株式会社サナス
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100080609
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 正孝
(74)【代理人】
【識別番号】100109287
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 泰三
(72)【発明者】
【氏名】中間 勝之
【審査官】 上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭26−003426(JP,B1)
【文献】 特開昭57−122763(JP,A)
【文献】 特開昭61−031053(JP,A)
【文献】 特開2007−068533(JP,A)
【文献】 特開2007−166936(JP,A)
【文献】 特開2012−254071(JP,A)
【文献】 調理科学,1988年,Vol.21, No.1,p.2-14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/00−7/25
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)100重量部の澱粉(A成分)に対して、20〜40重量部の糊用澱粉(C成分)を準備する工程、
(ii)糊用澱粉(C成分)に水を加えて加熱し、澱粉糊(D成分)を調製する工程、
(iii)100重量部の澱粉(A成分)に対して、10〜35重量部のアルファ化澱粉(B成分)および工程(ii)で得られた澱粉糊(D成分)を混練して、含水率35〜55重量%のドウを製造する工程、
(iv)ドウを圧延して麺帯を製造する工程、
(v)麺帯を冷却する工程、並びに
(vi)冷却した麺帯を麺状に切り出す工程、
を含む澱粉麺の製造方法。
【請求項2】
さらに切り出した麺を乾燥する工程(vii)を含む請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
澱粉(A成分)は、低温糊化性甘藷澱粉、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、とうもろこし澱粉、緑豆澱粉、えんどう澱粉、葛澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉、糯種とうもろこし澱粉、糯種馬鈴薯澱粉、糯種米澱粉およびこれらの加工澱粉からなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
アルファ化澱粉(B成分)は、低温糊化性甘藷澱粉、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、とうもろこし澱粉、緑豆澱粉、えんどう澱粉、葛澱粉およびこれらの加工澱粉からなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
糊用澱粉(C成分)は、低温糊化性甘藷澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉およびこれらの加工澱粉からなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項1記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、澱粉麺の製造方法に関する。さらに詳しくは、澱粉を原料とし、ドウを圧延して麺を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
澱粉を原料とする澱粉麺としては、春雨、葛きりが広く知られており、落下式製法とシート製法のいずれかの方法で製造するのが一般的である。
前者は、原料を部分糊化(1次糊化)した柔らかいドウをトンピョーと呼ばれる多数の小孔のある装置から押し出して麺状にし、熱湯中で糊化(2次糊化)させて固め、冷凍、乾燥して製造される。これらの方法では、麺を構成する澱粉が糊化した状態になっており、麺の表面がべたつき取扱いが難しく、糊化した澱粉を冷凍により老化させる工程を必要とする。一般的に冷凍時間は8〜15時間は必要であり、冷凍中の澱粉の老化により麺から離水が起き、麺の分線に効果的に働いている。この製法は、冷凍工程によって製造時間が長くかかるばかりでなく、老化が遅い澱粉では、離水による分線効果が低下し、利用しづらいという課題がある。
後者は、原料を部分糊化(1次糊化)した澱粉乳液をベルトコンベア上に薄く拡げた後、外部からの水分補給を断った状態で蒸気により加熱糊化(2次糊化)させて固め、冷却、切り出しおよび乾燥して製造する。前者と比較すると冷凍工程を必要とせず製造時間が大幅に短縮されるが、2次糊化後の澱粉を冷却して老化させる工程は必要であり、1〜3時間冷却するのが一般的である。老化の遅い澱粉を利用する場合、澱粉が老化してべたつかない状態になるまで、冷却時間を大幅に長く確保する必要があるため、老化の遅い澱粉の利用は制限されている。各澱粉の老化特性に合わせて冷却時間を取らない場合、切り出し後麺同士がくっついてしまう不具合が生じ、良好な麺は得られない。
【0003】
本明細書では、澱粉乳液またはドウを作るために混練時点で澱粉の一部を糊化することを1次糊化、澱粉乳液またはドウを作った後、全体を糊化させることを2次糊化と呼ぶ。
これに対し、澱粉を主原料とし製麺機によってドウを成形して麺を製造する方法が提案されている。例えば特許文献1には、主原料の米粉とアルファ化乾燥澱粉からなる捏和物を成形し、蒸煮加熱により糊化して麺を製造する方法が記載されている。この方法は、捏和物を成形し蒸煮加熱して2次糊化する工程を必要とし、工程の簡素化に改良の余地がある。また実施例では、米粉50%以上を配合することを条件とする以外に、小麦粉や塩水など澱粉麺の原料とは大きく異なる原料を用いている。また蒸煮後やや冷却という表現で冷却時間は短いとされているが、切り出し時に麺がくっつかないように油の塗布も必要としている。
また特許文献2には、澱粉と水とを混合しながら加熱して1次糊化した澱粉糊を製造し、得られた澱粉糊に更に澱粉を投入したドウを圧延して麺帯を製造した後、加熱し2次糊化して麺を製造する方法が記載されている。この方法では2次糊化を必要とするため、冷却時間が長くなり、生産性が低下することは避けられない。従ってこの方法も、ドウを加熱し2次糊化する工程を必要とし、工程の簡素化に改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭54−70447号公報
【特許文献2】特開2007−166936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、澱粉を主原料として小麦粉麺等で一般的に利用されているロール圧延機を用いて2次糊化することなく麺を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、澱粉(A成分)に対して、所定量のアルファ化澱粉(B成分)および所定量の澱粉糊(D成分)を混練したドウを用いて、ロール圧延により製麺すると、2次糊化することなく麺を製造することができることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、以下の発明を包含する。
(i)100重量部の澱粉(A成分)に対して、20〜40重量部の糊用澱粉(C成分)を準備する工程、
(ii)糊用澱粉(C成分)に水を加えて加熱し、澱粉糊(D成分)を調製する工程、
(iii)100重量部の澱粉(A成分)に対して、10〜35重量部のアルファ化澱粉(B成分)および工程(ii)で得られた澱粉糊(D成分)を混練して、含水率35〜55重量%のドウを製造する工程、
(iv)ドウを圧延して麺帯を製造する工程、
(v)麺帯を冷却する工程、並びに
(vi)冷却した麺帯を麺状に切り出す工程、
を含む澱粉麺の製造方法。
2. さらに切り出した麺を乾燥する工程(vii)を含む前項1記載の製造方法。
3.澱粉(A成分)は、低温糊化性甘藷澱粉、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、とうもろこし澱粉、緑豆澱粉、えんどう澱粉、葛澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉、糯種とうもろこし澱粉、糯種馬鈴薯澱粉、糯種米澱粉およびこれらの加工澱粉からなる群より選ばれる少なくとも一種である前項1記載の製造方法。
4.アルファ化澱粉(B成分)は、低温糊化性甘藷澱粉、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、とうもろこし澱粉、緑豆澱粉、えんどう澱粉および葛澱粉およびこれらの加工澱粉からなる群より選ばれる少なくとも一種である前項1記載の製造方法。
5.糊用澱粉(C成分)は、低温糊化性甘藷澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉およびこれらの加工澱粉からなる群より選ばれる少なくとも一種である前項1記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、澱粉を老化させるための冷却時間を大幅に短縮し、澱粉麺を製造できる。本発明によれば、麺の切れの発生が少なく安定して澱粉麺を製造することができる。本発明によれば、最高荷重(N)とその時の変形量(mm)の数値が共に高い破断強度に優れた澱粉麺帯が得られ、切り出し時や乾燥時に切れにくい強度に優れた澱粉麺を製造することができる。本発明によれば、ゆでた後の麺重量をゆでる前の乾麺重量で割ったもどり倍率が高く、良好な品質を有する澱粉麺を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<工程(i)>
工程(i)は、100重量部の澱粉(A成分)に対して、20〜40重量部の糊用澱粉(C成分)を準備する工程である。糊用澱粉(C成分)の量は、100重量部の澱粉(A成分)に対して、好ましくは22〜38重量部、より好ましくは25〜35重量部、さらに好ましくは28〜33重量部である。澱粉(A成分)と糊用澱粉(C成分)とは同一でも異なっていても良い。
【0009】
<工程(ii)>澱粉糊(D成分)の調製
工程(ii)は、糊用澱粉(C成分)に水を加えて加熱し、澱粉糊(D成分)を調製する工程である。加える水の量は、工程(iii)におけるドウの含水率が35〜55重量%になるように調整する。加える水の量は澱粉(A成分)、アルファ化澱粉(B成分)、糊用澱粉(C成分)の澱粉合計100重量部に対し、好ましくは40〜70重量部、より好ましくは45〜60重量部、さらに好ましくは48〜56重量部である。
澱粉糊(D成分)は、アルファ化澱粉(B成分)と共にドウを圧延する際の麺帯強度、展延性、結着性、粘弾性などを付与する重要な役割を担う。糊用澱粉(C成分)は、澱粉の特性により選定する必要がある。糊用澱粉(C成分)として、低温糊化性甘藷澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉およびこれらの加工澱粉からなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましい。糊用澱粉(C成分)自体も10〜18重量%程度の水分を含有するが、基準となる100重量部には、この澱粉自体に含有する水分量も含む。
澱粉糊(D成分)の調製は、工程(iii)の混練を行うミキサーまたは別に設けた糊調製容器中で、糊用澱粉(C成分)に20〜40℃の水を加えながら攪拌して両者を混合したのち、70〜100℃の熱湯を加えて加熱し糊化させることが好ましい。澱粉と水を混合後、容器内をヒーターで昇温して糊化させても良い。加熱温度は、澱粉(C成分)の糊化温度によって異なるが、低温糊化性甘藷澱粉の場合50〜60℃、甘藷澱粉、タピオカ澱粉の場合70〜80℃まで高める必要がある。
【0010】
<工程(iii)>
工程(iii)は、100重量部の澱粉(A成分)に対して、10〜35重量部のアルファ化澱粉(B成分)および工程(ii)で得られた澱粉糊(D成分)を混練して含水率35〜55重量%のドウを製造する工程である。
(A成分)
澱粉(A成分)として、従来の製法で主原料として利用可能な澱粉(I群)に加えて、老化スピードが遅いために従来の製法では利用しづらい澱粉(II群)が利用可能である。
I群澱粉とII群澱粉は、澱粉麺の製造方法(シート製法)にて、糊化後の冷却条件(2℃、1時間〜3時間)で製造可能かどうかによって分類するものである。3時間以内に切刃でスムーズにカットでき、その後の麺線同士がくっ付くことがないものをI群澱粉、同条件において3時間経過してもべたつきがあり、正常に切刃でカットができないものをII群澱粉に分類する。本発明によれば、II群澱粉を工程で糊化させないか、または一部のみ糊化させることにより、I群澱粉のみの場合と同様冷却時間を変えることなく生産性を落とさずに製造することができる。
I群澱粉として、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、とうもろこし澱粉、緑豆澱粉、えんどう澱粉、葛澱粉等が挙げられる。日本国内で製造および海外から輸入され流通している澱粉麺の原料はほぼすべて、I群澱粉を単独または混合して製造されたものである。
II群澱粉は、澱粉を糊化後老化させる一般的な澱粉麺製造には不向きなものである。II群澱粉として、こなみずき(さつま芋品種)、クイックスィート(さつま芋品種)等の低温糊化性甘藷澱粉、糯種とうもろこし、糯種馬鈴薯澱粉、糯種米澱粉、タピオカ澱粉、耐老化性の官能基を付与した加工澱粉(アセチル化澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉リン酸架橋澱粉)が含まれる。
I群澱粉、II群澱粉の澱粉特性を考慮しながら目的によって、単独またはこれらの二種以上を混合物して用いることができる。澱粉(A成分)は、工程(ii)で用いる糊用澱粉(C成分)と同じものでも、異なる種類の澱粉でも良い。
澱粉(A成分)自体も10〜18重量%程度の水分を含有するが、基準となる100重量部には、この澱粉(A成分)自体に含有する水分量も含む。
【0011】
(B成分)
アルファ化澱粉(B成分)は、ドラムドライヤー等を用いて澱粉を糊化後、急速に乾燥させた粉末体であり、冷水で糊化状態が再現できるものである。
アルファ化澱粉(B成分)として、低温糊化性甘藷澱粉、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、とうもろこし澱粉、緑豆澱粉、えんどう澱粉、葛澱粉およびこれらの加工澱粉等が挙げられる。これらの二種以上を混合物して用いても良い。
アルファ化澱粉(B成分)の量は、100重量部の澱粉(A成分)に対して、10〜35重量部、好ましくは15〜33重量部、より好ましくは17〜28重量部、さらに好ましくは18〜25重量部である。
アルファ化澱粉(B成分)自体も5〜15重量%程度の水分を含有するが、アルファ化澱粉(B成分)の重量部には、このアルファ化澱粉(B成分)自体に含有する水分量も含む。
【0012】
(その他)
工程(iii)では、A、B、D成分の他に、麺をゆでた時の澱粉の溶出防止など品質向上を目的として増粘安定剤を混練しても良い。増粘安定剤として、キサンタンガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸エステル、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。
また、栄養強化や麺の見た目を変える目的で、貝殻や卵殻などのカルシウム粉末、人参、ホウレンソウなどの野菜粉末、ワカメやヒジキなどの海藻粉末を混練しても良い。
【0013】
(混練)
混練は、容器内でD成分を調製した後、A成分とB成分の混合物を加えて混練することが好ましい。D成分を別の容器で調製する場合は、後に入れることになるがどちらでも良い。混練装置として、縦型ミキサー、プレスニーダー等が挙げられる。得られるドウの含水率は、35〜55重量%、好ましくは36〜50重量%、より好ましくは37〜45重量%、さらに好ましくは38〜43重量%である。
【0014】
<工程(iv)>
工程(iv)は、ドウを圧延して麺帯を製造する工程である。圧延は、単式で製造する場合には、複合後段階的にロール幅を狭めながら3〜5回通して、目的とする商品形態によって0.7〜2.0mmの厚みの麺帯に仕上げる。連続生産の場合は、麺帯複合機と3〜5段の連続圧延機を組み合わせて徐々にロール幅を狭めながら、同様の厚みに仕上げることができる。
【0015】
<工程(v)>
工程(v)麺帯を冷却し、ドウに含まれる糊化澱粉(B成分およびD成分)を老化させる工程である。ドウに含まれる主原料であるA成分が未糊化であり、一緒に混練することによりB成分およびD成分のべたつきを抑える働きがあるため、B成分およびD成分は完全に老化しなくても、切り出し後麺同士がくっつかない状態になれば良く、必要とする冷却時間は、2℃で10〜15分、20℃で20〜40分程度である。
麺帯を麺棒に巻き取り保管しても良いが、広げる際に剥がれが悪い場合には、麺帯表面に打ち粉をするかプラスチックフィルムを挟んで巻くと良い。打ち粉に使用する澱粉は特に限定するものではないが、A成分またはC成分と同じ澱粉を利用することもできる。巻き取らない場合は、ベルトコンベアやバーコンベアにて滞留させると良い。
【0016】
<工程(vi)>
工程(vi)冷却した麺帯を麺状に切り出す工程である。切り出し装置は、商品形態によってカットする幅に応じて一般の麺に用いられている切刃を使用し、麺状に切り出すものである。乾麺の場合には、切り出した麺を竿掛けする装置を含むが、ベルトコンベア上で連続的に乾燥しても良く、この場合竿掛け装置は必要としない。
<工程(vii)>
工程(vii)は、切り出した麺を乾燥する工程である。麺を1〜2mの長さにして、含水率9〜15重量%になるまで乾燥する。乾燥温度、時間は特に限定するものではなく、麺の特性に応じて設定すれば良い。
<澱粉麺の特性>
本発明により得られる澱粉麺は、可食に適した柔らかさにもどるゆで時間における、ゆでた後の麺重量をゆでる前の乾麺重量で割った「もどり倍率」が2.5倍以上、好ましくは2.8倍以上、より好ましくは3倍以上である。
【実施例】
【0017】
以下の実施例では、評価は以下の方法で行った。
(1)含水率
含水率は、KETT赤外線水分計FD−240で測定した。
(2)製麺適性
2次糊化がない製法においては、麺帯圧延および竿掛け時の麺の切れ状況などから総合的に判定し、以下の三段階で評価した。
○:良い
麺帯圧延が安定しており、切り出し時の切刃カットの衝撃や1.5mに竿掛けした時点で切れる麺が10%以下。
△:やや悪い
麺帯圧延時にやや脆く切れが見られるまたは圧延時は安定しているが、切り出し時切刃カットの衝撃や1.5mに竿掛けした時点で切れる麺が10〜30%。
×:悪い
麺帯の圧延が難しいまたは圧延時は安定しているが、切り出し時切刃カットの衝撃や1.5mに竿掛けした時点で切れる麺が30%以上。
【0018】
(3)最大荷重、最大荷重時変形量(mm)
φ40mm、厚さ1mmの麺帯を、(株)山電製クリープメータにてφ5mmの球状プランジャーを用いた破断強度測定にて、最高荷重(N)と最大荷重時の変形(mm)を測定した。最高荷重(N)とその時の変形量(mm)がともに数値が高いものが良い麺帯と評価できる。評価は、下記表1に示す評価レベルにより行った。
【0019】
【表1】
【0020】
総合評価は、最高荷重レベルと変形量レベルを掛けて最高点25を100として、以下の指数で表した。
○:良い 指数70〜100
△:やや悪い 指数40〜69
×:悪い 指数39以下
【0021】
(4)麺品質の評価
麺品質は、可食に適した柔らかさにもどるゆで時間において、何倍にもどるかで品質を評価する「もどり倍率」にて評価した。倍率の差異が生じる主因は、ゆで水への澱粉の溶出の違いによるものである。「もどり倍率」は下記式で算出した。
【0022】
もどり倍率=ゆでた後の麺重量÷ゆでる前の乾麺重量
◎:大変良い 3.0倍以上
○:良い 2.5〜2.9倍
△:やや悪い 2.0〜2.4倍
×:悪い 1.9倍以下
【0023】
〔実施例1〕
<工程(i)>
A成分として100重量部の低温糊化性甘藷澱粉(さつま芋品種こなみずき、日本澱粉工業(株)製)、C成分として29重量部の低温糊化性甘藷澱粉(さつま芋品種こなみずき、日本澱粉工業(株)製)を準備した。
<工程(ii)>澱粉糊(D成分)の調製
愛工舎製作所製縦型ミキサー中で、29重量部の低温糊化性甘藷澱粉(さつま芋品種こなみずき、日本澱粉工業(株)製)(C成分)に、25℃の水29重量部を加えて攪拌して両者を混合したのち、攪拌しながら80℃の熱湯45重量部を加えて糊化させ澱粉糊(D成分)を調製した。攪拌直後の澱粉糊(D成分)の温度は55〜57℃程度である。澱粉糊(D成分)を55℃以下になるまで放冷した後、均一になるまで攪拌した。
<工程(iii)>ドウの調製
100重量部の低温糊化性甘藷澱粉(さつま芋品種こなみずき、日本澱粉工業(株)製)(A成分)、B成分として14重量部のアルファ化馬鈴薯澱粉(朝日化学工業(株)製)をあらかじめ袋内で混合し、工程(ii)で得られた澱粉糊(D成分)が入った愛工舎製作所製縦型ミキサーに加え、均一になるまで攪拌しドウを製造した。ドウの含水率は、42.0重量%であった。
<工程(iv)>ドウの圧延
得られたドウを製麺機(リッチメン、大和製作所製)にて5mmの麺帯にしたもの2枚を複合し、その後3〜5回ロール幅を狭めながら圧延し、厚み約1.2mmの麺帯に仕上げた。
<工程(v)>冷却
得られた麺帯をバーに掛け、2℃の冷蔵庫に15分間放置し冷却し老化を進めた。
<工程(vi)および(vii)>切り出しおよび乾燥
同製麺機の切刃24番(カット幅1.25mm)にてカット麺状化し、1.5mの長さに竿掛けして常温室内で自然乾燥し、乾燥後17〜18cmの長さにはさみでカットし、麺を製造した。
【0024】
〔実施例2〕
A成分100重量部の低温糊化性甘藷澱粉に対してB成分として19重量部のアルファ化馬鈴薯澱粉、C成分として30重量部の低温糊化性甘藷澱粉を用い、77重量部の水を用いる以外は、実施例1と同じ方法で麺を製造した。
【0025】
〔実施例3〕
A成分100重量部の低温糊化性甘藷澱粉に対してB成分として23重量部のアルファ化馬鈴薯澱粉、C成分として31重量部の低温糊化性甘藷澱粉を用い、80重量部の水を用いる以外は、実施例1と同じ方法で麺を製造した。
【0026】
〔実施例4〕
A成分100重量部の低温糊化性甘藷澱粉に対してB成分として33重量部のアルファ化馬鈴薯澱粉、C成分として33重量部の低温糊化性甘藷澱粉を用い、87重量部の水を用いる以外は、実施例1と同じ方法で麺を製造した。
【0027】
〔比較例1〕
B成分およびD成分は用いず、A成分として100重量部の低温糊化性甘藷澱粉、その他の成分として、1.5重量部のキサンタンガム((株)カーギルジャパン製)および2.0重量部のグアーガム((株)タカラゲン製)を用い、60重量部の水を用いた以外は実施例1と同じ方法で麺を製造した。
【0028】
〔比較例2〕
C成分は用いず、A成分100重量部の低温糊化性甘藷澱粉に対してB成分として11重量部のアルファ化タピオカ澱粉(朝日化学工業(株)製)、1.7重量部のキサンタンガム((株)カーギルジャパン製)および2.2重量部のグアーガム((株)タカラゲン製)を用い、71重量部の水を用いた以外は実施例1と同じ方法で麺を製造した。
【0029】
〔比較例3〕
C成分は用いず、A成分100重量部の低温糊化性甘藷澱粉に対してB成分として18重量部のアルファ化タピオカ澱粉(朝日化学工業(株)製)を用い、61重量部の水を用いた以外は実施例1と同じ方法で麺を製造した。
【0030】
〔比較例4〕
C成分は用いず、A成分100重量部の低温糊化性甘藷澱粉に対してB成分として18重量部のアルファ化馬鈴薯澱粉を用い、61重量部の水を用いた以外は実施例1と同じ方法で麺を製造した。
【0031】
〔比較例5〕
C成分は用いず、A成分100重量部の低温糊化性甘藷澱粉に対してB成分として18重量部のアルファ化低温糊化性甘藷澱粉(さつま芋品種こなみずき、朝日化学工業(株)試作品)を用い、61重量部の水を用いた以外は実施例1と同じ方法で麺を製造した。
【0032】
〔比較例6〕
B成分は用いず、A成分100重量部の低温糊化性甘藷澱粉に対してC成分として18重量部の低温糊化性甘藷澱粉を用い、71重量部の水を用いた以外は実施例1と同じ方法で麺を製造した。
【0033】
〔比較例7〕
B成分は用いず、A成分100重量部の低温糊化性甘藷澱粉に対してC成分として25重量部の低温糊化性甘藷澱粉を用い、100重量部の水を用いた以外は実施例1と同じ方法で麺を製造した。
【0034】
実施例1〜4のように、未糊化の澱粉(A成分)に対して、一定の割合でアルファ化澱粉(B成分)と澱粉糊(D成分)を配合すると、製麺適性、麺品質共に良好なものが得られた。比較例1〜7のようにアルファ化澱粉(B成分)と澱粉糊(D成分)のいずれかがない配合では、麺品質は良好なものもあったが、いずれも良好な製麺適性が得られなかった。
実施例1〜4で示した配合では、湯戻しした春雨100重量部に対してノンオイル青じそドレッシング(理研ビタミン製)50重量部を和えて作った春雨サラダで、2℃冷蔵保存で1週間良好な食感を保つことができた。また、−18℃の冷凍庫で保管後25℃の室温で自然解凍した場合でも良好な食感が得られた。これは低温糊化性甘藷澱粉の老化が遅い特性によるもので、2次糊化させる従来の製法でも実現可能であるが、従来の製法では、老化させる冷却工程が少なくとも10時間以上かかり、生産性は大幅に低下することになる。
【0035】
【表2】
【0036】
〔実施例5〕
<工程(i)>
A成分として54重量部の糯種とうもろこし澱粉(日本澱粉工業(株)製)、46重量部のとうもろこし澱粉(日本澱粉工業(株)製)、C成分として31重量部の甘藷澱粉(日本澱粉工業(株)製)(C成分)を準備した。
<工程(ii)>澱粉糊(D成分)の調製
ステンレスボール中で、31重量部の甘藷澱粉(日本澱粉工業(株)製)(C成分)に、80重量部の水を加えて攪拌しながら80℃まで昇温、糊化した。その後、自然冷却させ澱粉糊(D成分)を調製した。
<工程(iii)>ドウの調製
愛工舎製作所製縦型ミキサーに、54重量部の糯種とうもろこし澱粉(日本澱粉工業(株)製)、46重量部のとうもろこし澱粉(日本澱粉工業(株)製)、(A成分)、アルファ化澱粉(B成分)として23重量部の馬鈴薯澱粉(朝日化学工業(株)製)、4.6重量部の貝殻カルシウム((株)エヌ・シー・コーポレーション製)を入れて混合し、55℃の温度の澱粉糊(D成分)を加えて均一になるまで攪拌しドウを製造した。ドウの含水率は、38.0%であった。
<工程(iv)>ドウの圧延
得られたドウを製麺機(リッチメン、大和製作所製)にて5mmの麺帯したもの2枚を複合し、その後3〜4回ロール幅を狭めながら圧延し、厚み約1.2mmの麺帯に仕上げた。
<工程(v)>冷却
得られた麺帯を2℃の冷蔵庫に15分間放置し冷却し老化を進めた。
<工程(vi)および(vii)>切断および乾燥
同製麺機の切刃13番にてカット麺状化し、1.5mの長さに竿掛けして常温室内で自然乾燥し、乾燥後17〜18cmの長さにはさみでカットし、麺を製造した。
〔実施例6〕
A成分として44重量部の糯種とうもろこし澱粉、41重量部のとうもろこし澱粉、15重量部のアセチル化リン酸架橋タピオカ澱粉(日本澱粉工業(株)製)を用い、アルファ化澱粉(B成分)として19重量部のアルファ化馬鈴薯澱粉を用いた以外は実施例5と同じ方法で麺を製造した。
〔実施例7〕
A成分としての52重量部の国産米粉((株)高橋製粉所製)、48重量部のとうもろこし澱粉を用い、アルファ化澱粉(B成分)として19重量部のアルファ化馬鈴薯澱粉を用いた以外は実施例5と同じ方法で麺を製造した。
【0037】
実施例5〜7で示した配合では、未糊化澱粉の種類を変えた場合でも、糊化澱粉、アルファ化澱粉を適切な配合比率で組み合わせることで、製麺適性、品質共に良好なものを得ることができる。糯種とうもろこし澱粉、タピオカ加工澱粉など従来の澱粉麺の製法では利用し難い澱粉を配合することで、小麦粉麺に近いもちもちとした食感を得ることが可能となる。カルシウムの添加は、麺の透明感をなくし外観的に小麦粉麺に近づけるために使用した。実施例7は、澱粉の一部を穀物粉に置き換えても安定したものが得られた事例である。
小麦アレルギーの方やたんぱく質の摂取を制限されている方向けとして利用可能な麺が提案可能となる。
【0038】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の製造方法は、春雨、葛きりなどの製造に適用できる。