【0010】
<工程(iii)>
工程(iii)は、100重量部の澱粉(A成分)に対して、10〜35重量部のアルファ化澱粉(B成分)および工程(ii)で得られた澱粉糊(D成分)を混練して含水率35〜55重量%のドウを製造する工程である。
(A成分)
澱粉(A成分)として、従来の製法で主原料として利用可能な澱粉(I群)に加えて、老化スピードが遅いために従来の製法では利用しづらい澱粉(II群)が利用可能である。
I群澱粉とII群澱粉は、澱粉麺の製造方法(シート製法)にて、糊化後の冷却条件(2℃、1時間〜3時間)で製造可能かどうかによって分類するものである。3時間以内に切刃でスムーズにカットでき、その後の麺線同士がくっ付くことがないものをI群澱粉、同条件において3時間経過してもべたつきがあり、正常に切刃でカットができないものをII群澱粉に分類する。本発明によれば、II群澱粉を工程で糊化させないか、または一部のみ糊化させることにより、I群澱粉のみの場合と同様冷却時間を変えることなく生産性を落とさずに製造することができる。
I群澱粉として、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、とうもろこし澱粉、緑豆澱粉、えんどう澱粉、葛澱粉等が挙げられる。日本国内で製造および海外から輸入され流通している澱粉麺の原料はほぼすべて、I群澱粉を単独または混合して製造されたものである。
II群澱粉は、澱粉を糊化後老化させる一般的な澱粉麺製造には不向きなものである。II群澱粉として、こなみずき(さつま芋品種)、クイックスィート(さつま芋品種)等の低温糊化性甘藷澱粉、糯種とうもろこし、糯種馬鈴薯澱粉、糯種米澱粉、タピオカ澱粉、耐老化性の官能基を付与した加工澱粉(アセチル化澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉リン酸架橋澱粉)が含まれる。
I群澱粉、II群澱粉の澱粉特性を考慮しながら目的によって、単独またはこれらの二種以上を混合物して用いることができる。澱粉(A成分)は、工程(ii)で用いる糊用澱粉(C成分)と同じものでも、異なる種類の澱粉でも良い。
澱粉(A成分)自体も10〜18重量%程度の水分を含有するが、基準となる100重量部には、この澱粉(A成分)自体に含有する水分量も含む。
【実施例】
【0017】
以下の実施例では、評価は以下の方法で行った。
(1)含水率
含水率は、KETT赤外線水分計FD−240で測定した。
(2)製麺適性
2次糊化がない製法においては、麺帯圧延および竿掛け時の麺の切れ状況などから総合的に判定し、以下の三段階で評価した。
○:良い
麺帯圧延が安定しており、切り出し時の切刃カットの衝撃や1.5mに竿掛けした時点で切れる麺が10%以下。
△:やや悪い
麺帯圧延時にやや脆く切れが見られるまたは圧延時は安定しているが、切り出し時切刃カットの衝撃や1.5mに竿掛けした時点で切れる麺が10〜30%。
×:悪い
麺帯の圧延が難しいまたは圧延時は安定しているが、切り出し時切刃カットの衝撃や1.5mに竿掛けした時点で切れる麺が30%以上。
【0018】
(3)最大荷重、最大荷重時変形量(mm)
φ40mm、厚さ1mmの麺帯を、(株)山電製クリープメータにてφ5mmの球状プランジャーを用いた破断強度測定にて、最高荷重(N)と最大荷重時の変形(mm)を測定した。最高荷重(N)とその時の変形量(mm)がともに数値が高いものが良い麺帯と評価できる。評価は、下記表1に示す評価レベルにより行った。
【0019】
【表1】
【0020】
総合評価は、最高荷重レベルと変形量レベルを掛けて最高点25を100として、以下の指数で表した。
○:良い 指数70〜100
△:やや悪い 指数40〜69
×:悪い 指数39以下
【0021】
(4)麺品質の評価
麺品質は、可食に適した柔らかさにもどるゆで時間において、何倍にもどるかで品質を評価する「もどり倍率」にて評価した。倍率の差異が生じる主因は、ゆで水への澱粉の溶出の違いによるものである。「もどり倍率」は下記式で算出した。
【0022】
もどり倍率=ゆでた後の麺重量÷ゆでる前の乾麺重量
◎:大変良い 3.0倍以上
○:良い 2.5〜2.9倍
△:やや悪い 2.0〜2.4倍
×:悪い 1.9倍以下
【0023】
〔実施例1〕
<工程(i)>
A成分として100重量部の低温糊化性甘藷澱粉(さつま芋品種こなみずき、日本澱粉工業(株)製)、C成分として29重量部の低温糊化性甘藷澱粉(さつま芋品種こなみずき、日本澱粉工業(株)製)を準備した。
<工程(ii)>澱粉糊(D成分)の調製
愛工舎製作所製縦型ミキサー中で、29重量部の低温糊化性甘藷澱粉(さつま芋品種こなみずき、日本澱粉工業(株)製)(C成分)に、25℃の水29重量部を加えて攪拌して両者を混合したのち、攪拌しながら80℃の熱湯45重量部を加えて糊化させ澱粉糊(D成分)を調製した。攪拌直後の澱粉糊(D成分)の温度は55〜57℃程度である。澱粉糊(D成分)を55℃以下になるまで放冷した後、均一になるまで攪拌した。
<工程(iii)>ドウの調製
100重量部の低温糊化性甘藷澱粉(さつま芋品種こなみずき、日本澱粉工業(株)製)(A成分)、B成分として14重量部のアルファ化馬鈴薯澱粉(朝日化学工業(株)製)をあらかじめ袋内で混合し、工程(ii)で得られた澱粉糊(D成分)が入った愛工舎製作所製縦型ミキサーに加え、均一になるまで攪拌しドウを製造した。ドウの含水率は、42.0重量%であった。
<工程(iv)>ドウの圧延
得られたドウを製麺機(リッチメン、大和製作所製)にて5mmの麺帯にしたもの2枚を複合し、その後3〜5回ロール幅を狭めながら圧延し、厚み約1.2mmの麺帯に仕上げた。
<工程(v)>冷却
得られた麺帯をバーに掛け、2℃の冷蔵庫に15分間放置し冷却し老化を進めた。
<工程(vi)および(vii)>切り出しおよび乾燥
同製麺機の切刃24番(カット幅1.25mm)にてカット麺状化し、1.5mの長さに竿掛けして常温室内で自然乾燥し、乾燥後17〜18cmの長さにはさみでカットし、麺を製造した。
【0024】
〔実施例2〕
A成分100重量部の低温糊化性甘藷澱粉に対してB成分として19重量部のアルファ化馬鈴薯澱粉、C成分として30重量部の低温糊化性甘藷澱粉を用い、77重量部の水を用いる以外は、実施例1と同じ方法で麺を製造した。
【0025】
〔実施例3〕
A成分100重量部の低温糊化性甘藷澱粉に対してB成分として23重量部のアルファ化馬鈴薯澱粉、C成分として31重量部の低温糊化性甘藷澱粉を用い、80重量部の水を用いる以外は、実施例1と同じ方法で麺を製造した。
【0026】
〔実施例4〕
A成分100重量部の低温糊化性甘藷澱粉に対してB成分として33重量部のアルファ化馬鈴薯澱粉、C成分として33重量部の低温糊化性甘藷澱粉を用い、87重量部の水を用いる以外は、実施例1と同じ方法で麺を製造した。
【0027】
〔比較例1〕
B成分およびD成分は用いず、A成分として100重量部の低温糊化性甘藷澱粉、その他の成分として、1.5重量部のキサンタンガム((株)カーギルジャパン製)および2.0重量部のグアーガム((株)タカラゲン製)を用い、60重量部の水を用いた以外は実施例1と同じ方法で麺を製造した。
【0028】
〔比較例2〕
C成分は用いず、A成分100重量部の低温糊化性甘藷澱粉に対してB成分として11重量部のアルファ化タピオカ澱粉(朝日化学工業(株)製)、1.7重量部のキサンタンガム((株)カーギルジャパン製)および2.2重量部のグアーガム((株)タカラゲン製)を用い、71重量部の水を用いた以外は実施例1と同じ方法で麺を製造した。
【0029】
〔比較例3〕
C成分は用いず、A成分100重量部の低温糊化性甘藷澱粉に対してB成分として18重量部のアルファ化タピオカ澱粉(朝日化学工業(株)製)を用い、61重量部の水を用いた以外は実施例1と同じ方法で麺を製造した。
【0030】
〔比較例4〕
C成分は用いず、A成分100重量部の低温糊化性甘藷澱粉に対してB成分として18重量部のアルファ化馬鈴薯澱粉を用い、61重量部の水を用いた以外は実施例1と同じ方法で麺を製造した。
【0031】
〔比較例5〕
C成分は用いず、A成分100重量部の低温糊化性甘藷澱粉に対してB成分として18重量部のアルファ化低温糊化性甘藷澱粉(さつま芋品種こなみずき、朝日化学工業(株)試作品)を用い、61重量部の水を用いた以外は実施例1と同じ方法で麺を製造した。
【0032】
〔比較例6〕
B成分は用いず、A成分100重量部の低温糊化性甘藷澱粉に対してC成分として18重量部の低温糊化性甘藷澱粉を用い、71重量部の水を用いた以外は実施例1と同じ方法で麺を製造した。
【0033】
〔比較例7〕
B成分は用いず、A成分100重量部の低温糊化性甘藷澱粉に対してC成分として25重量部の低温糊化性甘藷澱粉を用い、100重量部の水を用いた以外は実施例1と同じ方法で麺を製造した。
【0034】
実施例1〜4のように、未糊化の澱粉(A成分)に対して、一定の割合でアルファ化澱粉(B成分)と澱粉糊(D成分)を配合すると、製麺適性、麺品質共に良好なものが得られた。比較例1〜7のようにアルファ化澱粉(B成分)と澱粉糊(D成分)のいずれかがない配合では、麺品質は良好なものもあったが、いずれも良好な製麺適性が得られなかった。
実施例1〜4で示した配合では、湯戻しした春雨100重量部に対してノンオイル青じそドレッシング(理研ビタミン製)50重量部を和えて作った春雨サラダで、2℃冷蔵保存で1週間良好な食感を保つことができた。また、−18℃の冷凍庫で保管後25℃の室温で自然解凍した場合でも良好な食感が得られた。これは低温糊化性甘藷澱粉の老化が遅い特性によるもので、2次糊化させる従来の製法でも実現可能であるが、従来の製法では、老化させる冷却工程が少なくとも10時間以上かかり、生産性は大幅に低下することになる。
【0035】
【表2】
【0036】
〔実施例5〕
<工程(i)>
A成分として54重量部の糯種とうもろこし澱粉(日本澱粉工業(株)製)、46重量部のとうもろこし澱粉(日本澱粉工業(株)製)、C成分として31重量部の甘藷澱粉(日本澱粉工業(株)製)(C成分)を準備した。
<工程(ii)>澱粉糊(D成分)の調製
ステンレスボール中で、31重量部の甘藷澱粉(日本澱粉工業(株)製)(C成分)に、80重量部の水を加えて攪拌しながら80℃まで昇温、糊化した。その後、自然冷却させ澱粉糊(D成分)を調製した。
<工程(iii)>ドウの調製
愛工舎製作所製縦型ミキサーに、54重量部の糯種とうもろこし澱粉(日本澱粉工業(株)製)、46重量部のとうもろこし澱粉(日本澱粉工業(株)製)、(A成分)、アルファ化澱粉(B成分)として23重量部の馬鈴薯澱粉(朝日化学工業(株)製)、4.6重量部の貝殻カルシウム((株)エヌ・シー・コーポレーション製)を入れて混合し、55℃の温度の澱粉糊(D成分)を加えて均一になるまで攪拌しドウを製造した。ドウの含水率は、38.0%であった。
<工程(iv)>ドウの圧延
得られたドウを製麺機(リッチメン、大和製作所製)にて5mmの麺帯したもの2枚を複合し、その後3〜4回ロール幅を狭めながら圧延し、厚み約1.2mmの麺帯に仕上げた。
<工程(v)>冷却
得られた麺帯を2℃の冷蔵庫に15分間放置し冷却し老化を進めた。
<工程(vi)および(vii)>切断および乾燥
同製麺機の切刃13番にてカット麺状化し、1.5mの長さに竿掛けして常温室内で自然乾燥し、乾燥後17〜18cmの長さにはさみでカットし、麺を製造した。
〔実施例6〕
A成分として44重量部の糯種とうもろこし澱粉、41重量部のとうもろこし澱粉、15重量部のアセチル化リン酸架橋タピオカ澱粉(日本澱粉工業(株)製)を用い、アルファ化澱粉(B成分)として19重量部のアルファ化馬鈴薯澱粉を用いた以外は実施例5と同じ方法で麺を製造した。
〔実施例7〕
A成分としての52重量部の国産米粉((株)高橋製粉所製)、48重量部のとうもろこし澱粉を用い、アルファ化澱粉(B成分)として19重量部のアルファ化馬鈴薯澱粉を用いた以外は実施例5と同じ方法で麺を製造した。
【0037】
実施例5〜7で示した配合では、未糊化澱粉の種類を変えた場合でも、糊化澱粉、アルファ化澱粉を適切な配合比率で組み合わせることで、製麺適性、品質共に良好なものを得ることができる。糯種とうもろこし澱粉、タピオカ加工澱粉など従来の澱粉麺の製法では利用し難い澱粉を配合することで、小麦粉麺に近いもちもちとした食感を得ることが可能となる。カルシウムの添加は、麺の透明感をなくし外観的に小麦粉麺に近づけるために使用した。実施例7は、澱粉の一部を穀物粉に置き換えても安定したものが得られた事例である。
小麦アレルギーの方やたんぱく質の摂取を制限されている方向けとして利用可能な麺が提案可能となる。
【0038】
【表3】