特許第6784388号(P6784388)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784388
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】呼吸診断装置及び呼吸診断プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/08 20060101AFI20201102BHJP
【FI】
   A61B5/08
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-155759(P2016-155759)
(22)【出願日】2016年8月8日
(65)【公開番号】特開2018-23453(P2018-23453A)
(43)【公開日】2018年2月15日
【審査請求日】2019年7月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100133592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(72)【発明者】
【氏名】余 永
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 拓馬
【審査官】 近藤 利充
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0101399(US,A1)
【文献】 特開2006−229301(JP,A)
【文献】 特開昭58−036526(JP,A)
【文献】 中国実用新案第201134929(CN,Y)
【文献】 米国特許第05671733(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00 − 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの鼻に装着され、該鼻の軟骨を通じて体導音を取り込む集音器と、
前記集音器に取り付けられ、該集音器によって取り込まれた前記体導音の振幅の時間変化を表す音データを生成するマイクロホンと、
前記マイクロホンによって生成された前記音データにフーリエ変換を施すと共に、該音データにフーリエ変換を施した結果を用いて、前記ユーザが鼻呼吸と口呼吸のいずれを行ったかの判定を行う周波数解析器と、
を備え
前記周波数解析器が、
前記音データに対して、前記音データの或る時間幅分の部分データ毎に繰り返し前記フーリエ変換を施すと共に、前記或る時間幅毎に前記フーリエ変換で得られたパワースペクトル波形の平均周波数値を求める移動フーリエ変換処理を行うことにより、前記平均周波数値の時系列を表す時間周波数データを生成する移動フーリエ変換処理手段と、
前記時間周波数データに対して、前記時間周波数データの波形が立ち上がって振動している期間毎に平均値を求める平均化処理を行うことにより、時間軸上に並ぶ複数の矩形パルスを表す平均化時間周波数データを生成する平均化処理手段と、
前記平均化時間周波数データが表す前記矩形パルス毎に、該矩形パルスの高さを予め定められた閾値周波数と比較することにより、前記矩形パルス毎に前記ユーザが鼻呼吸と口呼吸のいずれを行ったかの判定を行い、鼻呼吸又は口呼吸が行われたことを表す前記矩形パルスのパルス時間幅の合計である延べ時間長を求め、求めた該延べ時間長に基づいて、鼻呼吸又は口呼吸が行われた割合を算出する割合算出手段と、
を有する呼吸診断装置。
【請求項2】
前記集音器が、
両端が開口した中空筒状をなし、一端に前記マイクロホンが嵌められた伝音部材と、
前記伝音部材の他端に張られ、前記ユーザの鼻に接触する薄膜と、
を有する請求項1に記載の呼吸診断装置。
【請求項3】
前記集音器を前記ユーザの鼻に装着された状態に保持する保持フレームを更に備え、
前記保持フレームが、
各々一端に前記ユーザの耳に掛ける耳掛けが形成された棒状の一対のテンプルバーと、
前記一対のテンプルバーの他端同士を繋ぐ棒状をなし、長さ方向中央部分に、前記ユーザの鼻に当てる鼻当てが形成され、前記集音器が取り付けられるフロントバーと、
を有する請求項1又は2に記載の呼吸診断装置。
【請求項4】
コンピュータに、
ユーザが呼吸をすることに伴って生じる音の振幅の時間変化を表す音データを外部から取得する音データ取得機能と、
前記音データに対して、前記音データの或る時間幅分の部分データ毎に繰り返しフーリエ変換を施すと共に、前記或る時間幅毎に前記フーリエ変換で得られたパワースペクトル波形の平均周波数値を求める移動フーリエ変換処理を行うことにより、前記平均周波数値の時系列を表す時間周波数データを生成する移動フーリエ変換処理機能と、
前記時間周波数データに対して、前記時間周波数データの波形が立ち上がって振動している期間毎に平均値を求める平均化処理を行うことにより、時間軸上に並ぶ複数の矩形パルスを表す平均化時間周波数データを生成する平均化処理機能と、
前記平均化時間周波数データが表す前記矩形パルス毎に、該矩形パルスの高さを予め定められた閾値周波数と比較することにより、前記矩形パルス毎に前記ユーザが鼻呼吸と口呼吸のいずれを行ったかの判定を行い、鼻呼吸又は口呼吸が行われたことを表す前記矩形パルスのパルス時間幅の合計である延べ時間長を求め、求めた該延べ時間長に基づいて、鼻呼吸又は口呼吸が行われた割合を算出する割合算出機能と、
を実現させる呼吸診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼吸診断装置及び呼吸診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
人は口と鼻のいずれでも呼吸を行えるが、口呼吸は、口内細菌の増殖をもたらしやすいだけでなく、いびきや無呼吸症候群の原因ともなりやすい。一方、鼻呼吸は、そのような弊害をもたらしにくい。また、鼻には、吸った空気を清浄化する機能がある。そこで、鼻呼吸が推奨されている。
【0003】
しかし、人は呼吸を常に意識的に行っている訳ではない為、自力で口呼吸を鼻呼吸へと改善するのは難しい。そこで、鼻呼吸と口呼吸のいずれが主に行われているかを診断する呼吸診断装置の開発が望まれる。
【0004】
特許文献1に、従来の呼吸診断装置が開示されている。この呼吸診断装置は、ユーザの顔面の鼻孔と口との間の皮膚に貼り付けられるマイクロホンと、このマイクロホンで得られた音データを解析することで、鼻呼吸と口呼吸のいずれが行われているかを判別する解析装置とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−160644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記マイクロホンは、ユーザの鼻孔と口との周囲に発生する気流の音を取り込む。上記解析装置は、その音の大きさによって鼻呼吸か口呼吸かの判定を行う。この構成では、生活音等のノイズも取り込みやすい。また、音の大きさを判定基準とすると、鼻呼吸か口呼吸かの判定に誤りが生じやすい。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、鼻呼吸と口呼吸のいずれが行われたかの判定の正確性が高められた呼吸診断装置及び呼吸診断プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する為に、本発明の第1の観点に係る呼吸診断装置は、
ユーザの鼻に装着され、該鼻の軟骨を通じて体導音を取り込む集音器と、
前記集音器に取り付けられ、該集音器によって取り込まれた前記体導音の振幅の時間変化を表す音データを生成するマイクロホンと、
前記マイクロホンによって生成された前記音データにフーリエ変換を施すと共に、該音データにフーリエ変換を施した結果を用いて、前記ユーザが鼻呼吸と口呼吸のいずれを行ったかの判定を行う周波数解析器と、
を備え
前記周波数解析器が、
前記音データに対して、前記音データの或る時間幅分の部分データ毎に繰り返し前記フーリエ変換を施すと共に、前記或る時間幅毎に前記フーリエ変換で得られたパワースペクトル波形の平均周波数値を求める移動フーリエ変換処理を行うことにより、前記平均周波数値の時系列を表す時間周波数データを生成する移動フーリエ変換処理手段と、
前記時間周波数データに対して、前記時間周波数データの波形が立ち上がって振動している期間毎に平均値を求める平均化処理を行うことにより、時間軸上に並ぶ複数の矩形パルスを表す平均化時間周波数データを生成する平均化処理手段と、
前記平均化時間周波数データが表す前記矩形パルス毎に、該矩形パルスの高さを予め定められた閾値周波数と比較することにより、前記矩形パルス毎に前記ユーザが鼻呼吸と口呼吸のいずれを行ったかの判定を行い、鼻呼吸又は口呼吸が行われたことを表す前記矩形パルスのパルス時間幅の合計である延べ時間長を求め、求めた該延べ時間長に基づいて、鼻呼吸又は口呼吸が行われた割合を算出する割合算出手段と、
を有する
【0009】
前記集音器が、
両端が開口した中空筒状をなし、一端に前記マイクロホンが嵌められた伝音部材と、
前記伝音部材の他端に張られ、前記ユーザの鼻に接触する薄膜と、
を有してもよい。
【0010】
前記呼吸診断装置が、
前記集音器を前記ユーザの鼻に装着された状態に保持する保持フレームを更に備え、
前記保持フレームが、
各々一端に前記ユーザの耳に掛ける耳掛けが形成された棒状の一対のテンプルバーと、
前記一対のテンプルバーの他端同士を繋ぐ棒状をなし、長さ方向中央部分に、前記ユーザの鼻に当てる鼻当てが形成され、前記集音器が取り付けられるフロントバーと、
を有してもよい。
【0012】
本発明の第2の観点に係る呼吸診断プログラムは、
コンピュータに、
ユーザが呼吸をすることに伴って生じる音の振幅の時間変化を表す音データを外部から取得する音データ取得機能と、
前記音データに対して、前記音データの或る時間幅分の部分データ毎に繰り返しフーリエ変換を施すと共に、前記或る時間幅毎に前記フーリエ変換で得られたパワースペクトル波形の平均周波数値を求める移動フーリエ変換処理を行うことにより、前記平均周波数値の時系列を表す時間周波数データを生成する移動フーリエ変換処理機能と、
前記時間周波数データに対して、前記時間周波数データの波形が立ち上がって振動している期間毎に平均値を求める平均化処理を行うことにより、時間軸上に並ぶ複数の矩形パルスを表す平均化時間周波数データを生成する平均化処理機能と、
前記平均化時間周波数データが表す前記矩形パルス毎に、該矩形パルスの高さを予め定められた閾値周波数と比較することにより、前記矩形パルス毎に前記ユーザが鼻呼吸と口呼吸のいずれを行ったかの判定を行い、鼻呼吸又は口呼吸が行われたことを表す前記矩形パルスのパルス時間幅の合計である延べ時間長を求め、求めた該延べ時間長に基づいて、鼻呼吸又は口呼吸が行われた割合を算出する割合算出機能と、
を実現させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1の観点に係る呼吸診断装置によれば、集音器がユーザの鼻の軟骨を通じて体導音を取り込むので、ノイズが取り込まれ難いと共に、音データに、鼻呼吸を行った場合と口呼吸を行った場合とで周波数の差異が現れやすい。そして、割合算出手段が、平均化時間周波数データが表す矩形パルス毎に、矩形パルスの高さを予め定められた閾値周波数と比較することにより、矩形パルス毎にユーザが鼻呼吸と口呼吸のいずれを行ったかの判定を行うので、判定の正確性を高めることができる。
【0014】
本発明の第2の観点に係る呼吸診断プログラムによれば、割合算出機能が、平均化時間周波数データが表す矩形パルス毎に、矩形パルスの高さを予め定められた閾値周波数と比較することにより、矩形パルス毎にユーザが鼻呼吸と口呼吸のいずれを行ったかの判定を行う。これにより、単純に音の大きさを判定基準としていた従来技術に比べて、判定の正確性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係る呼吸診断装置の全体構成を示す概念図である。
図2】(A)は集音器の断面図、(B)は集音器付きフレームがユーザに装着された状態を示す概念図である。
図3】(A)は周波数解析器のハードウエア構成を示すブロック図、(B)は周波数解析器の機能を示すブロック図である。
図4】(A)は閾値周波数算出処理のフローチャート、(B)は呼吸診断処理のフローチャートである。
図5】移動フーリエ変換処理の手順を説明する為の概念図である。
図6】(A)は鼻呼吸で生じた体導音を表す音データの波形、(B)はその音データに移動フーリエ変換処理を施した時間周波数データの波形、(C)はその時間周波数データに平均化処理を施した平均化時間周波数データの波形である。
図7】(A)は鼻と口の双方を用いた混合呼吸で生じた体導音を表す音データの波形、(B)はその音データに移動フーリエ変換処理を施した時間周波数データの波形、(C)はその時間周波数データに平均化処理を施した平均化時間周波数データの波形である。
図8】(A)は口呼吸で生じた体導音を表す音データの波形、(B)はその音データに移動フーリエ変換処理を施した時間周波数データの波形、(C)はその時間周波数データに平均化処理を施した平均化時間周波数データの波形である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態に係る呼吸診断装置について説明する。図中、同一又は対応する部分に同一の符号を付す。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係る呼吸診断装置300は、ユーザに装着され、ユーザから呼吸に伴って生じる音を取り込み、その音の振幅の時間変化を表す音データを生成する集音器付きフレーム100と、集音器付きフレーム100で生成された音データを周波数解析することで、ユーザが鼻呼吸と口呼吸のいずれを行ったかの判定を行う周波数解析器200とを備える。
【0018】
集音器付きフレーム100は、ユーザの鼻に装着される集音器110と、集音器110をユーザの鼻に装着された状態に保持する保持フレーム150とを有する。
【0019】
保持フレーム150は、各々一端にユーザの耳に掛ける耳掛け160aが形成された棒状の左右一対のテンプルバー160及び160と、一対のテンプルバー160及び160の他端同士を繋ぐ棒状をなし、長さ方向中央部分に、ユーザの鼻に当てられる鼻当て170a及び170bが形成されたフロントバー170とを有する。フロントバー170の鼻当て170a及び170bの部分に、集音器110が取り付けられている。
【0020】
図2(A)に示すように、集音器110は、両端が開口した中空円筒状をなす伝音部材120と、伝音部材120の一端に嵌められたマイクロホン130と、伝音部材120の他端に張られた薄膜140とを有する。伝音部材120の、薄膜140が張られた他端は、薄膜140をユーザの鼻の傾斜に沿わせる為に、中空円筒体をその高さ方向に対して交差する斜め方向に切断した形状を有する。
【0021】
なお、伝音部材120は、プラスチックで形成されており、薄膜140は、ポリ塩化ビニリデンで形成されている。薄膜140の厚さは、約10μmである。
【0022】
図2(B)に示すように、ユーザが保持フレーム150を装着したとき、薄膜140が、ユーザの鼻の少なくとも軟骨が存在する部分に接触した状態となる。この状態で、ユーザが呼吸を行う。すると、呼吸に伴って生じた体導音が、鼻の軟骨を通じて、薄膜140を振動させる。なお、体導音とは、ユーザの体内の骨や軟骨や皮膚を伝わってくる音を指す。
【0023】
そして、薄膜140の振動を通じて、上記体導音が、伝音部材120の内部空洞と伝音部材120自身とを伝播し、マイクロホン130に取り込まれる。本構成によれば、マイクロホン130が伝音部材120に取り付けられている為、ノイズが取り込まれ難いと共に、体導音を殆ど外部に散逸させることなく、効率的にマイクロホン130に取り込ませることができる。
【0024】
なお、薄膜140を鼻の少なくとも軟骨が存在する部分に接触させる理由は次の通りである。人の皮膚や筋肉や脂肪等の軟組織は、骨や軟骨に比べて、体導音の高周波数成分を大きく減衰させる。この為、軟組織の厚い部分を通じて音を取り込んでも、マイクロホン130によって生成される音データに、ユーザが鼻呼吸を行った場合と口呼吸を行った場合とで周波数の差異が現れ難い。
【0025】
一方、鼻の軟骨が存在する部分は、軟骨を覆う皮膚が薄い為、体導音の高周波数成分が損なわれにくい。この結果、鼻の軟骨が存在する部分を通じて体導音を取り込むと、マイクロホン130によって生成される音データに、ユーザが鼻呼吸を行った場合と口呼吸を行った場合とで周波数の差異が現れやすい。そこで、薄膜140をユーザの鼻の少なくとも軟骨が存在する部分に接触させ、鼻の軟骨を通じて体導音を取り込む。
【0026】
以上のようにして、マイクロホン130に体導音が取り込まれると、マイクロホン130は、取り込んだ体導音の振幅の時間変化を表す音データを生成すると共に、生成した音データを、図1に示したように、無線によって、周波数解析器200に送る。周波数解析器200は、マイクロホン130から取得した音データをフーリエ変換し、フーリエ変換することで得られたパワースペクトルデータを用いて、ユーザが鼻呼吸と口呼吸のいずれを行ったかの判定を行う。
【0027】
本願発明者らの研究によれば、ユーザが鼻呼吸のみを行った場合に生成される音データの周波数は、同ユーザが口呼吸又は口と鼻の双方を用いた混合呼吸を行った場合に生成される音データの周波数よりも高い傾向にあることが判明した。従って、ユーザが鼻呼吸のみを行った場合の音データが表す周波数を予め求めておき、その周波数を閾値(以下、閾値周波数)として用いると、同ユーザが鼻呼吸と口呼吸のいずれを行ったかの判定が可能となる。
【0028】
そこで、本実施形態では、予めユーザが、ティーチングの為に、意識的に鼻呼吸のみを行う。これにより、鼻呼吸のみを行った場合の音データが周波数解析器200に与えられる。周波数解析器200は、その音データを用いて、閾値周波数を算出する処理(以下、閾値周波数算出処理という)を行う。その後、周波数解析器200は、同ユーザが無意識的に呼吸を行った場合の音データの周波数と、閾値周波数との比較によって、その無意識的に複数回行われた呼吸のうち鼻呼吸が行われた割合を判定する処理(以下、呼吸診断処理という)を行う。以下、周波数解析器200について詳細に説明する。
【0029】
図3(A)に示すように、周波数解析器200は、記憶部210、RAM(Random Access Memory)220、通信I/F(interface)230、表示部240、及びCPU(Central Processing Unit)250が、バス260で接続された構成を有する。
【0030】
記憶部210は、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ等の不揮発性の記憶媒体を含んで構成され、呼吸診断プログラム211と、予め求められた閾値周波数212とを記憶している。
【0031】
呼吸診断プログラム211は、(i)ティーチングの為にマイクロホン130から与えられる鼻呼吸の音を表す音データを用いて閾値周波数212を求め、求めた閾値周波数212を記憶部210に格納する閾値周波数算出処理、及び(ii)その閾値周波数212と、マイクロホン130から与えられる音データとを用いてユーザの呼吸を診断する呼吸診断処理をCPU250に実行させる。具体的には、呼吸診断プログラム211は、CPU250を、後述する図3(B)に示す各部として機能させる。
【0032】
RAM220は、CPU250のメインメモリとして機能し、CPU250による呼吸診断プログラム211の実行に際し、呼吸診断プログラム211が展開されると共に、マイクロホン130から取得された音データ等が一時的に記憶される。
【0033】
通信I/F230は、マイクロホン130から、無線通信によって、音データを取得する為のハードウエアである。
【0034】
表示部240は、CPU250による呼吸診断処理の結果を出力する為のディスプレイで構成される。
【0035】
図3(B)は、CPU250が実現する機能を示すブロック図である。上記呼吸診断プログラム211は、CPU250に、音データを取得する音データ取得部251、音データ取得部251で取得された音データに繰り返しフーリエ変換を施す移動フーリエ変換処理部252、移動フーリエ変換処理部252の出力に平均化処理を施す平均化処理部253、平均化処理部253の出力を用いて閾値周波数212を算出する閾値周波数算出部255、閾値周波数212と平均化処理部253の出力とを用いて、ユーザが鼻呼吸を行っている割合を求める鼻呼吸率算出部256、及び鼻呼吸率算出部256の判定結果を表示部240に出力させる出力部257としての機能を実現させる。
【0036】
なお、移動フーリエ変換処理部252と平均化処理部253とによって、周波数変動データ生成部254が構成されている。周波数変動データ生成部254は、音データを用いて上記体導音の周波数の時間変化を表す周波数変動データを生成する。
【0037】
以下、図4に示すフローチャートに従い、図5図8も参照しながら、上記各部としてのCPU250が行う処理を具体的に説明する。
【0038】
図4(A)を参照し、まず閾値周波数算出処理について説明する。前提として、ユーザは、図2(B)に示したように保持フレーム150を装着した状態で、ティーチングの為に、意識的に鼻呼吸のみを行う。これにより、マクロホン130から、鼻呼吸を行った場合に生じる体導音を表す音データが出力される。音データ取得部251は、マイクロホン130から出力されるその音データの、通信I/F230を通じた取得を開始する(ステップS21)。
【0039】
次に、移動フーリエ変換処理部252が、音データ取得部251によって取得されている音データに対して、移動フーリエ変換処理を施す(ステップS22)。移動フーリエ変換処理とは、音データに対して、その或る時間幅分の部分データ毎に、繰り返しフーリエ変換を施すと共に、その時間幅毎にフーリエ変換で得られたパワースペクトル波形の平均周波数値を求める処理をいう。
【0040】
図5を参照し、移動フーリエ変換処理を具体的に説明する。まず、移動フーリエ変換処理部252は、音データDのうち或る時間幅T1分の部分データをフーリエ変換し、図示せぬパワースペクトルデータを得る。次に、移動フーリエ変換処理部252は、そのパワースペクトルデータに含まれる各周波数値の、パワーで重み付けられた加重平均値を、平均周波数値F1として求める。
【0041】
次に、移動フーリエ変換処理部252は、ずらし時間ΔT後の同じ時間幅T2分の部分データについて、同様に平均周波数値F2を求める。なお、Ti<ΔTであり、時間幅TiとTi+1とは重なりを有する(ここでiは1以上の整数とする)。このようにして、移動フーリエ変換処理部252は、ずらし時間ΔT毎に、繰り返しフーリエ変換を行い、平均周波数値を求めることで、時間周波数データFを生成する。即ち、時間周波数データFは、ずらし時間ΔT間隔で時間軸上に並ぶ平均周波数値の時系列データである。ここで、T1,T2,…の各時間幅は等しい。
【0042】
なお、マイクロホン130による体導音のサンプリング周波数は、例えば44100[Hz]であり、T1,T2,…の各時間幅は、例えば0.05[sec]であり、ずらし時間ΔTは、例えば0.01[sec]である。
【0043】
図6(B)に、以上のようにして得られた時間周波数データFの実際の波形を示す。また、図6(A)に、図6(B)の波形と同じ時間スケールで表した音データDの実際の波形を示す。音データDの波形が相対的に激しく振動している期間Bは、ユーザが息を吸っている期間又は吐いている期間を表す。この期間Bに、時間周波数データFの波形も立ち上がって振動している。期間Bは、概ね0.5[sec]以上である。
【0044】
図4(A)に戻り、次に、ステップS23で、平均化処理部253が、時間周波数データFに対して平均化処理を施すことにより、上述した周波数変動データとしての平均化時間周波数データを生成する(ステップS23)。次に、閾値周波数算出部255が、平均化時間周波数データを用いて、閾値周波数212を算出する(ステップS24)。以下、ステップS23とS24の処理を具体的に説明する。
【0045】
図6(C)に、図6(B)に示した時間周波数データFに対して平均化処理を施すことにより得られた平均化時間周波数データGの実際の波形を示す。平均化処理部253は、時間周波数データFにおける呼気又は吸気を表す各期間Bの部分データ毎に平均値を求める平均化処理を行う。これにより、矩形波状の平均化時間周波数データGが得られる。
【0046】
なお、平均化処理部253は、時間周波数データFの波形が0.5[sec]以上にわたって立ち上がって振動が継続している期間を、呼気又は吸気を表す期間Bとみなす。
【0047】
閾値周波数算出部255は、平均化時間周波数データGを構成する周波数値の、呼気又は吸気を表す期間Bの間での平均値を算出し、その算出結果を閾値周波数212とする。なお、図6(C)に示す具体例では、閾値周波数212は、150[Hz]であった。閾値周波数算出部255は、算出した閾値周波数212を記憶部210(図3(A)参照)に格納する。
【0048】
図4(B)を参照し、次に呼吸診断処理について説明する。呼吸診断処理は、以上のようにして求めた閾値周波数212と、ユーザが無意識的に呼吸を行った場合に得られる音データDとを用いて、鼻呼吸が行われた割合を判定する処理である。
【0049】
前提として、CPU250は、閾値周波数212が既に定まっているか否かを判定し(ステップS1)、閾値周波数が未だ定まっていなければ(ステップS1;NO)、図4(A)に示した手順で閾値周波数算出処理を行っておく(ステップS2)。
【0050】
ユーザは、図2(B)に示したように保持フレーム150を装着した状態で、無意識的に呼吸を行う。これにより、マクロホン130から、体導音を表す音データDが出力される。音データ取得部251は、閾値周波数が既に定まっている場合(ステップS1;YES)、マイクロホン130から出力されるその音データDの取得を開始する(ステップS3)。
【0051】
次に、移動フーリエ変換処理部252が、音データ取得部251によって取得されている音データDに対して、移動フーリエ変換処理を施すことで、時間周波数データFを生成する(ステップS4)。
【0052】
次に、平均化処理部253が、時間周波数データFに対して平均化処理を施すことで、周波数変動データとしての平均化時間周波数データGを生成する(ステップS5)。なお、ステップS4〜S5の処理は、既述のステップS22〜S23の処理と同じである。
【0053】
次に、鼻呼吸率算出部256が、平均化時間周波数データを用いて、ユーザが鼻呼吸を行っている割合を求める鼻呼吸率算出処理を行い(ステップS6)、その判定結果を表示部240に表示させる(ステップS7)。
【0054】
図7を参照し、以下、鼻呼吸率算出処理について具体的に説明する。図7(A)はステップS3で取得される音データDの波形の具体例を示す。図7(B)は、その音データDに対して、ステップS4で移動フーリエ変換処理を施すことで得られた時間周波数データFの波形を示す。図7(C)は、その時間周波数データFに対して、ステップS5で平均化処理を施すことで得られた平均化時間周波数データGの波形を示す。
【0055】
図7(C)で、鼻呼吸率算出部256は、平均化時間周波数データGを構成する周波数値を閾値周波数A(本実施形態では150[Hz])と比較する。具体的には、鼻呼吸率算出部256は、平均化時間周波数データGの波形を構成する、時間軸上に並ぶ複数の矩形パルスPの各々について、その矩形パルスPの高さが閾値周波数A以上か否かを判定する。
【0056】
既述のように、ユーザが口呼吸を行った場合に生成される音データDの周波数は閾値周波数A未満となり、鼻呼吸を行った場合に生成される音データDの周波数は閾値周波数A以上となる。従って、矩形パルスPの高さが閾値周波数A以上であれば、その矩形パルスPは鼻呼吸を表し、矩形パルスPの高さが閾値周波数A未満であれば、その矩形パルスPは口呼吸を表す。このようにして、鼻呼吸率算出部256は、ユーザが鼻呼吸と口呼吸のいずれを行ったかの判定を繰り返し行う。
【0057】
これにより、鼻呼吸率算出部256は、平均化時間周波数データGの波形を構成する全ての矩形パルスPのうちの、閾値周波数A以上の高さをもつ矩形パルスPNを複数特定する。次に、鼻呼吸率算出部256は、それら矩形パルスPNのパルス時間幅の合計TYを求める。次に、鼻呼吸率算出部256は、求めたTYの、平均化時間周波数データGの波形を構成する全ての矩形パルスPのパルス時間幅の合計TXに占める割合、(TY/TX)×100[%]を鼻呼吸率として算出する。
【0058】
ここで、TXはユーザが吸気又は呼気を行った延べ時間長を表す。また、TYは鼻で吸気又は呼気を行った延べ時間長を表す。従って、(TY/TX)×100[%]は、鼻呼吸が行われた割合である鼻呼吸率を表す。
【0059】
なお、図7(C)に示した具体例では、鼻呼吸率は、約35%であった。鼻呼吸率算出部256は、鼻呼吸率算出処理の結果として、鼻呼吸率が約35%である旨を表示部240に表示させる。
【0060】
図8は、鼻呼吸率の判定の正確性を検証する為に、ユーザが意図的に口呼吸のみを行った場合に得られる各波形を示す。具体的には、図8(A)はステップS3で取得される音データDの波形を示す。図8(B)は、その音データDに対して、ステップS4で移動フーリエ変換処理を施すことで得られた時間周波数データFの波形を示す。図8(C)は、その時間周波数データFに対して、ステップS5で平均化処理を施すことで得られた平均化時間周波数データGの波形を示す。
【0061】
図8(C)に示した具体例では、平均化時間周波数データGの波形を構成する全ての矩形パルスPのパルス時間幅の合計TXに占める、閾値周波数A(本実施形態では150[Hz])以上の周波数値をもつ矩形パルスPNのパルス時間幅の合計TYの割合である鼻呼吸率は、約5%未満であった。このことから、鼻呼吸率の判定の正確性が確かめられた。
【0062】
以上説明したように、本実施形態によれば、集音器110がユーザの鼻の軟骨を通じて体導音を取り込むので、生活音等のノイズを取り込み難いと共に、音データDに、鼻呼吸を行った場合と口呼吸を行った場合とで周波数の差異が現れやすい。
【0063】
そして、周波数解析器200が、この音データDにフーリエ変換を施すと共に、フーリエ変換の結果を用いて、ユーザが鼻呼吸と口呼吸のいずれを行ったかの判定を行う。具体的には、ユーザが呼吸をすることに伴って生じる音の周波数の時間変化を表す周波数変動データとしての平均化時間周波数データGを、予め算出した閾値周波数212と比較することにより、ユーザが鼻呼吸と口呼吸のいずれを行ったかの判定を行う。これにより、単純に音の大きさを判定基準としていた従来技術に比べて、ユーザが鼻呼吸と口呼吸のいずれを行ったかの判定の正確性を高めることができる。
【0064】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、以下に述べる変形が可能である。
【0065】
上記実施形態では、平均化時間周波数データGの波形を構成する全ての矩形パルスPのパルス時間幅の合計TXに占める、閾値周波数212以上の周波数値をもつ矩形パルスPNのパルス時間幅の合計TYの割合を鼻呼吸率としたが、平均化時間周波数データGの波形を構成する全ての矩形パルスPの個数Xに対する、閾値周波数212以上の周波数値をもつ矩形パルスPNの個数Yの割合(Y/X)×100[%]を鼻呼吸率としてもよい。即ち、閾値周波数以上の周波数値をもつ矩形パルスPNの個数Yも、鼻呼吸が行われた延べ時間長を表すといえる。
【0066】
上記実施形態では、ユーザが鼻呼吸を行った割合である鼻呼吸率を算出したが、同様にして、ユーザが口呼吸を行った割合である口呼吸率を算出するようにしてもよい。また、鼻呼吸率と口呼吸率の双方を算出するようにしてもよい。
【0067】
上記実施形態では、閾値周波数算出処理を必須としたが、閾値周波数212をユーザ間で共通とする場合は、閾値周波数算出処理を省略し、その共通の閾値周波数212を予め記憶部210に格納しておいてもよい。
【0068】
なお、呼吸診断プログラム211を既存のコンピュータにインストールすることで、そのコンピュータを周波数解析器200として機能させることができる。呼吸診断プログラム211の配布方法は任意であり、有線又は無線の通信回線を介して配布してもよいし、光ディスク、磁気ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリ等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納して配布してもよい。
【0069】
本発明は、その広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施形態及び変形が可能とされる。上記実施形態は、本発明を説明する為のものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本発明の範囲は、実施形態ではなく、請求の範囲によって示される。請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【符号の説明】
【0070】
100…集音器付きフレーム、110…集音器、120…伝音部材、130…マイクロホン、140…薄膜、150…保持フレーム、160…テンプルバー、160a…耳掛け、170…フロントバー、170a,170b…鼻当て、200…周波数解析器、210…記憶部、211…呼吸診断プログラム、212,A…閾値周波数、220…RAM、230…通信I/F、240…表示部、250…CPU、251…音データ取得部、252…移動フーリエ変換処理部、253…平均化処理部、254…周波数変動データ生成部(周波数変動データ生成手段)、255…閾値周波数算出部、256…鼻呼吸率算出部(割合算出手段)、257…出力部、260…バス、300…呼吸診断装置、B…吸気又は呼気の期間、D…音データ、F…時間周波数データ、G…平均化時間周波数データ(周波数変動データ)、P,PN…矩形パルス。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8