(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784391
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】コンパウンドヘリコプタ
(51)【国際特許分類】
B64C 27/08 20060101AFI20201102BHJP
B64C 27/26 20060101ALI20201102BHJP
B64C 27/35 20060101ALI20201102BHJP
B64C 27/37 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
B64C27/08
B64C27/26
B64C27/35
B64C27/37
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-187880(P2016-187880)
(22)【出願日】2016年9月27日
(65)【公開番号】特開2018-52186(P2018-52186A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】原田 正志
【審査官】
岩本 薫
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第03409249(US,A)
【文献】
西独国特許出願公開第02901115(DE,A)
【文献】
特開平07−077065(JP,A)
【文献】
特開2010−023820(JP,A)
【文献】
米国特許第01957813(US,A)
【文献】
米国特許第02344967(US,A)
【文献】
米国特許第02476516(US,A)
【文献】
米国特許第02595875(US,A)
【文献】
米国特許第02695674(US,A)
【文献】
米国特許第02702084(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0104922(US,A1)
【文献】
米国特許第08376264(US,B1)
【文献】
仏国特許出願公開第00846646(FR,A1)
【文献】
仏国特許出願公開第00936056(FR,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 27/08
B64C 27/26
B64C 27/35
B64C 27/37
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交差式二重反転ロータと、
前記交差式二重反転ロータのそれぞれのロータ以外で推力を発生する推力発生部と、
前記ロータの回転のためのパワが最小となるロータブレードの方位角において、ロータブレードで発生する揚力が最大となるようにサイクリックピッチをコントロールする機構と、
前記ロータブレードで発生する揚力により生じる頭あげモーメントをキャンセルする揚力を発生する水平尾翼と
を具備し、
前記水平尾翼は、前記推力発生部よりも前方に位置するコンパウンドヘリコプタ。
【請求項2】
請求項1に記載のコンパウンドヘリコプタであって、
前記サイクリックピッチをコントロールする機構は、速度50m/s又はこれ以上の速度で、前記ロータの回転のためのパワが最小となるロータブレードの方位角において、ロータブレードで発生する揚力が最大となるようにサイクリックピッチをコントロールする
コンパウンドヘリコプタ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のコンパウンドヘリコプタであって、
前記ロータブレードの先端速度が音速を超えないよう、高速飛行時には前記ロータブレードの回転数を下げる
コンパウンドヘリコプタ。
【請求項4】
請求項1から3のうちいずれか1項に記載のコンパウンドヘリコプタであって、
前記水平尾翼は、全遊動式水平尾翼であり、当該全遊動式水平尾翼を構成する水平安定板の取付け角の増加又はエレベータを下げ舵にすることで、前記頭あげモーメントをキャンセルする揚力を発生する
コンパウンドヘリコプタ。
【請求項5】
請求項1から4のうちいずれか1項に記載のコンパウンドヘリコプタであって、
前記推力発生部は、尾部に配置された一基のプッシャー式プロペラである
コンパウンドヘリコプタ。
【請求項6】
請求項1から5のうちいずれか1項に記載のコンパウンドヘリコプタであって、
前記ロータは、ヒンジオフセットあるいは等価ヒンジオフセットが3%から20%である全関節式、セミリジッド式、またはリジッド式である
コンパウンドヘリコプタ。
【請求項7】
請求項1から6のうちいずれか1項に記載のコンパウンドヘリコプタであって、
それぞれの前記ロータのロータブレードの枚数は、前記ロータの片側につき2枚から4枚である
コンパウンドヘリコプタ。
【請求項8】
請求項7に記載のコンパウンドヘリコプタであって、
それぞれの前記ロータの前記ロータブレードの枚数は、前記ロータの片側につき3枚である
コンパウンドヘリコプタ。
【請求項9】
請求項1から8のうちいずれか1項に記載のコンパウンドヘリコプタであって、
前記交差式二重反転ロータのそれぞれの前記ロータが配設されたロータマストの交差角は、5度から40度である
コンパウンドヘリコプタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンパウンドヘリコプタに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘリコプタはホバリングが可能である長所を持つ反面、最高速度が低い短所を持っている。古くから高速化の研究開発が行われており、通常のヘリコプタ形式を採用した英国のWestland Lynx(非特許文献1)が1986年に400.87km/hの速度を記録した。2010年には米国のSikorsky X2が460km/hを記録し、2013年に欧州のEurokopter X3が473km/hを記録している。
【0003】
ヘリコプタの高速化を阻む要因は二つある。一つは回転するロータブレードに当たる空気の流速が、前進速度とブレード回転速度が加算される方位角90度(ロータブレード方位角は後方を起点としてロータブレード回転方向を正とする)付近で音速に近づき、圧縮性の影響で抵抗が急増する(以下、抵抗発散)ことにより大きなパワを消費するためであり、一つはロータブレードに当たる空気の流れがブレード回転速度から前進速度が減じられる方位角270度付近で逆流する領域が速度の増加とともに拡大し、揚力を生じる事が困難になるためである。
【0004】
これら問題を解決する手段としてブレード先端形状を工夫することと、前進推力をロータ回転面の前傾による揚力の前傾成分に頼らず、推進用のジェットエンジンまたはプロペラによって発生する手段(コンパウンド方式)がある。前者としてはWestland LynxのBERP(特許文献1)が知られている。BERPはロータブレードの先端に後退角をつける事で抵抗発散を抑え、また先端の翼弦長を増して翼面積を稼ぐとともに、後退角の開始点にドッグツースの働きをする張出を設ける事で積極的に縦渦を発生させ、後退側(方位角270度近辺)で先端が大きな揚力を発生できる工夫がされている。後者は古くからあった概念であり、1957年に英国のFairey Rotodyne(非特許文献2)がメインロータに加え胴体の左右に推進用のプロペラを二基装備した形態で飛行している。前述のSikorsky X2では同軸二重反転ロータとプッシャー式プロペラ一基を装備している。またEurokopter X3では通常のメインロータに加え、胴体両側に主翼と二基の推進用プロペラを装備している(特許文献2)。
【0005】
Eurokopter X3は高速飛行時にロータ回転数を15%減らして前進側ブレードの抵抗発散を抑えるとともに、主翼で揚力の7割を発生してロータの負荷を減らし、余剰パワをプロペラに伝達している。
【0006】
Sikorsky X2では高速飛行時にロータ回転数を下げて前進側ロータブレードの抵抗発散を抑え、またABC(Advancing Blade Concept)と呼ばれる揚力を前進側だけで負担する技術を用いている(特許文献3)。通常の関節式ロータやリジッドロータで前進側のみで揚力を負担すると、ジャイロスコピックプレセッションによってフラッピング角が最大となる位置が70度から90度遅れる。その結果ロータ回転面は後傾し、頭上げモーメントを発生する。ABCではロータのフラッピングヒンジを極めてリジッドにしジャイロスコピックプレセッションによるフラッピングの位相遅れを極力0に近づけることで頭上げモーメントを発生させずロールモーメントを発生させている。更にこのロールモーメントは同軸二重反転ロータを採用する事で上下のロータ間で打ち消している。
【0007】
このようにヘリコプタの高速化の技術としてコンパウンド方式、ABC、BERP、回転数減少、主翼による揚力負担が実用化されてきた。Sikorsky X2はこのうちABC、コンパウンド方式、回転数減少を用いているが更にBERPと主翼による揚力負担を組み合わせる事で高速化が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5174721号明細書
【特許文献2】米国特許第2009/0321554号明細書
【特許文献3】米国特許第3409249号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Jane's all the world's aircraft 1986−1987, pp. 321.
【非特許文献2】Jane's all the world's aircraft 1957−1958, pp. 77.
【非特許文献3】Jane's all the world's aircraft 1992−1993, pp. 390.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
Sikorsky X2はABC、コンパウンド方式、回転数減少を用いて高速性能を獲得しているが、ABCに次のような問題がある。
・極めてリジッドなロータブレードを実現するためにブレード付根の厚さが大きくなり、空力的に不利である。
・極めてリジッドなロータブレードを使用するため、ロータブレードが発生する曲げモーメントが機体に伝達され、これが大きな振動を生じ乗り心地性が極めて悪い。
・極めてリジッドなロータブレードを使用するため、ブレードがフラッピングしないため、飛行速度に応じて最適なロータ回転面の前後の傾きに調整できず、装着されたロータマストに直角なロータ回転面の傾きしか利用できない。
・同軸二重反転ロータでは上下のロータ間をある程度離す必要があり、ロータ間のロータマストの空気抵抗が大きく高速性能を阻害する。
・同軸二重反転ロータを実用化している企業は限られており、特にスワッシュプレートの設計に高い技術を要する。
・同軸二重反転ロータ用のスワッシュプレートは複雑であるため、高価でありメインテナンス性が悪い。
【0011】
そこで、本発明の目的は、極めてリジッドなロータブレード及び同軸二重反転ロータを用いることなく高速性能を発揮することができるコンパウンドヘリコプタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るヘリコプタは、交差式二重反転ロータと、前記交差式二重反転ロータのそれぞれのロータ以外で推力を発生する推力発生部と、前記ロータの回転のためのパワが最小となるロータブレードの方位角において、ロータブレードで発生する揚力が最大となるようにサイクリックピッチをコントロールする機構と、前記ロータブレードで発生する揚力により生じる頭あげモーメントをキャンセルする揚力を発生する水平尾翼とを具備する。
【0013】
前記サイクリックピッチをコントロールする機構は、速度50m/sあるいはこれ以上の速度で、前記ロータの回転のためのパワが最小となるロータブレードの方位角において、ロータブレードで発生する揚力が最大となるようにサイクリックピッチをコントロールすることが好ましい。
【0014】
前記ロータブレードの先端速度が音速を超えないよう、高速飛行時には前記ロータブレードの回転数を下げることが好ましい。
【0015】
前記水平尾翼は、全遊動式水平尾翼であり、当該全遊動式水平尾翼を構成する水平安定板の取付け角の増加又はエレベータを下げ舵にすることで、前記頭あげモーメントをキャンセルする揚力を発生することが好ましい。
【0016】
前記推力発生部は、尾部に配置された一基のプッシャー式プロペラ又は胴体左右に配置されたプロペラであることが好ましい。
【0017】
前記ロータは、ヒンジオフセットあるいは等価ヒンジオフセットが3%から20%である全関節式、セミリジッド式、またはリジッド式であることが好ましい。
【0018】
それぞれの前記ロータのロータブレードの枚数は、前記ロータの片側につき2枚から4枚であることが好ましく、更には前記ロータの片側につき3枚であることがより好ましい。
【0019】
前記交差式二重反転ロータのそれぞれの前記ロータが配設されたロータマストの交差角は、5度から40度であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、極めてリジッドなロータブレード及び同軸二重反転ロータを用いることなく高速性能を発揮することができる。従って、簡単な構成で、かつ、低コストで、更に乗り心地の悪化を極力抑え、またロータマストの抵抗を抑えて、高速性能を発揮することができるコンパウンドヘリコプタを汎用性のある技術で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係るコンパウンドヘリコプタの斜視図である。
【
図2】
図1に示したコンパウンドヘリコプタの正面図である。
【
図3】
図1に示したコンパウンドヘリコプタの上面図である。
【
図4】
図1に示したコンパウンドヘリコプタの側面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るブレード先端速度と縦のロータ回転面のスケジュールを示すグラフである。
【
図6】本発明の一実施形態に係る釣り合い飛行時の制御量を示すグラフである。
【
図7】本発明の一実施形態に係る釣り合い飛行時の必要パワを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るコンパウンドヘリコプタの斜視図である。
図2、
図3、
図4はそれぞれこのコンパウンドヘリコプタの正面図、上面図、側面図である。
これらの図に示すように、コンパウンドヘリコプタ1は、交差式二重反転ロータ10と、推力発生部としてのプッシャー式プロペラ20と、水平尾翼30とを有する。
このコンパウンドヘリコプタ1は、更に主翼41、垂直尾翼42、主車輪43、主脚44、尾輪45、空気取り入れ口46、キャノピー47などを有する。
【0023】
交差式二重反転ロータ10は、右ロータマスト11に配設された右ロータ12及び左ロータマスト13に配設された左ロータ14から構成される。それぞれのロータ12、14はロータブレード15を有する。
【0024】
ここで、ロータ12、14は、ヒンジオフセットあるいは等価ヒンジオフセットが3%から20%である全関節式、セミリジッド式、またはリジッド式である。
交差式二重反転ロータ10のそれぞれのロータ12、14が配設されたロータマストの交差角は、5度から40度の範囲にある。
それぞれのロータ12、14のロータブレード15の枚数は、ロータ12、14の片側につき2枚から4枚であることが好ましく、更にはロータ12、14の片側につき3枚であることがより好ましい。
このコンパウンドヘリコプタ1は、ロータブレード15の先端速度が音速を超えないよう、高速飛行時にはロータブレード15の回転数を下げるように構成されている。
【0025】
コンパウンドヘリコプタ1は、典型的には、速度50m/sあるいはこれ以上の速度で、ロータ12、14の回転のためのパワが最小となるロータブレード15の方位角において、ロータブレード15で発生する揚力が最大となるようにサイクリックピッチをコントロールする機構16を有する。この機構16については一般的なヘリコプタが有する機構と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0026】
プッシャー式プロペラ20は、このコンパウンドヘリコプタ1の尾部に一基装備されている。なお、推力発生部としては、典型的にはEurocopter X3のように胴体の左右に配置したプロペラなどを用いてもよい。
【0027】
水平尾翼30は、典型的には、全遊動式水平尾翼により構成される。全遊動式水平尾翼は、エレベータと水平安定板とが分離されておらず、水平安定板の取り付け角を変更して操縦舵面とする尾翼をいう。
この実施形態では、この水平尾翼30の水平安定板の取付け角の増加することで、上記の揚力最大となるようなサイクリックピッチコントロールで発生する頭あげモーメントをキャンセルする揚力を発生している。なお、エレベータを下げ舵にすることで、この頭あげモーメントをキャンセルする揚力を発生してもよい。
【0028】
なお、このコンパウンドヘリコプタ1の構成は、高速飛行時における主翼41による揚力負担との併用を妨げるものではない。
このコンパウンドヘリコプタ1では、低速では通常のサイクリックピッチコントロールを行うが、速度50m/sあるいはこれ以上の速度ではロータブレード15が方位角90度近辺で最大揚力を発生するようサイクリックピッチコントロールを行う。これにより生じる頭上げモーメントは、全遊動式の水平尾翼30を構成する水平安定板の取付け角を増す、又はエレベータを下げ舵にし、水平尾翼30で揚力を発生してキャンセルする。
【0029】
また、ロータ12、14としては、ヒンジオフセット又は等価ヒンジオフセットが3%から20%である全関節式、セミリジッド式あるいはリジッドロータを使用する。前進側のロータブレード15の先端速度が音速以下になるよう、高速飛行時には回転速度を下げる。ロータ12、14としては、第二次世界大戦中にドイツで使用されたFlettner Fl-282やKaman K−MAX(非特許文献3)のように交差式二重反転ロータ10を使用する。尾部のプッシャー式プロペラ20により推進力を得るコンパウンドヘリコプタ1の形式を採る。
【0030】
ロータブレード15の前進側(方位角90度付近)では逆流領域が無く、前進速度と回転速度が加算された対気速度にさらされ失速の恐れがない。高速飛行時に前進側の抵抗発散が問題となるが、高速飛行時にはロータブレード15の先端が音速を超えないよう回転数を落とす事で、この問題を回避できる。高速飛行時はこのロータブレード15の前進側近辺の最適な位置で揚力を負担する。これにより、ロータ12、14の回転面が後傾、あるいは左右のどちらかに傾き、前者によって生じる頭あげモーメントは水平尾翼30が発生する揚力で打ち消し、後者によって生じる横転モーメントは左右の対象なロータ12、14によって打ち消される。
【0031】
このコンパウンドヘリコプタ1では、一般的なフラッピングヒンジを用いるためロータ12、14付根の厚みを増して剛性をあげる必要もなく、空力的に有利な薄い翼断面を用いることができる。
【0032】
ロータブレード15がフラッピングできるため、飛行速度に応じて最適になるようロータ回転面の前後の傾きを調整でき、高速飛行時にはコンパウンドロータで有利とされるやや後傾した回転面とすることができる。
また、ロータブレード15に生じる曲げモーメントが伝達されにくく、乗り心地性が改善される。
同軸二重反転ロータでは上下のロータブレード15の接触の恐れがあるが、交差式二重反転ロータ10を用いることでこれを回避することができる。
前進飛行時にロータブレード15は自重を支えるだけの揚力を発生し、推進力を推進用のプッシャー式プロペラ20で発生させるコンパウンド方式を採用することで高い速度を得ることができる。ロータヘッドもスワッシュプレートも一般的なヘリコプタ技術の流用で製作可能となる。同軸二重反転ヘリコプタよりも露出するロータマスト11、13を短くでき、抵抗を低減できる。
〈実施例〉
コンパウンドヘリコプタ1の実施例を以下に示す。
【0033】
【表1】
ヒンジオフセットがある場合、2枚ロータブレード15のロータ12、14のロータ回転面が傾くと一回転につき2回のモーメントの脈動が生じる。3枚ロータブレード15とすれば理論的にモーメントの脈動は消えるため3枚ロータブレード15が好ましい。ロータブレード15の枚数は一般に多いほど機体の振動は小さくなるが、交差式二重反転ロータ10では4枚ロータブレード15までが、お互いのロータブレード15の干渉を避けることができる限界である。
【0034】
プッシャー式プロペラ20は1000kWの吸収馬力であれば3mをやや上回る直径が適当であるが、地上とのクリアランス確保のために直径が制限される。また地面とプロペラ20の接触を防ぐために垂直尾翼42は下方につけ、先端に尾輪45をつける。主脚44はプロペラクリアランスの確保のために長くなるが、これを格納するために固定翼を付け、内側引き込み式とする。ロータ回転面が外側にそれぞれ15度傾いているため、地面との接触を防ぐためにも長い主脚44は必要となる。
【0035】
固定翼は主脚格納のために必然的に必要になるが、これに高速飛行時の揚力を負担させることでロータ12、14が負担する揚力を軽減させることができる。主翼41は重心位置に近くに位置するため燃料タンク格納のスペース確保のためにも装備が好ましい。
【0036】
低速域ではロータブレード15の先端速度V
TIPを200m/s(ヘリコプタの絶対最低速度)とし、飛行速度が80m/sから130m/sにかけて漸減させ、飛行速度130m/s以上ではV
TIPを160m/sと一定にする。
【0037】
更に、低速域ではロータブレード15は全方位角で一様に揚力を負担するが、飛行速度が80m/sから120m/sにかけて徐々にロータ回転面を後傾させる。ここではロータ回転面の傾きを表すために慣例的に使われるブレードフラッピング角βの1次のフーリエ級数展開式、
β=a
0-a
1cosΨ-b
1sinΨ (式1)
のコサインの係数a
1を徐々に大きくしていく。ここでΨは方位角である。
【0038】
ロータ回転面の前後の傾きを表すa
1は低速域では0とするが、飛行速度が80m/sから120m/sにかけて漸増させ、飛行速度120m/s以上では1.8度と一定にする。また左右の傾きを表すb
1は常に0とする。この制御を
図5にグラフで示した。
【0039】
一般にブレード取付角θは慣例に基づいて次式で表される。
【0040】
θ=θ
0-A
1cosΨ-B
1sinΨ (式2)
ここでθ
0、A
1、B
1が制御量である。また通常のこれら制御量に加え、実施例では水平尾翼30を全遊動式とし、その取付角θ
Tも制御量となる。
【0041】
表1の諸元を持つ
図1から
図4に示した形態の機体の数学モデルをつくり、速度0から飛行速度を徐々にあげていったところ、150m/s(540km/h)まで釣り合い飛行が可能であった。この時の制御量の変化を
図6に示した。低速時に水平尾翼取付角θ
Tが大きな値をとっているが、これはメインロータが作る吹き下ろしのため水平尾翼30に斜め上から風が当たるためであり、低速時には水平尾翼30は揚力を発生していない。高速時にはロータヘッドが作る頭上げモーメント、及びロータヘッドに作用する抵抗、揚力の合力がつくる頭上げモーメントが増加し、これを水平尾翼30の揚力による頭下げモーメントでキャンセルしている。
【0042】
ロータ12、14を回すために必要なパワP
ROTOR、ロータ12、14と機体の抵抗に釣り合う推力をプロペラ20で発生させるために必要なパワP
PROP、そしてこれらの合計P
TOTALの推移を
図7に示す。P
ROTORが漸減するのはロータが影響をおよぼす領域に流入する単位時間あたり空気量が増えるため、吹き下ろし速度が低下することと、回転数が飛行速度80m/sから減少するためである。またロータ回転面が後傾しているため、オートジャイロのように自転する力がロータブレード15に加わるためでもある。プロペラ20が吸収するパワP
PROPが飛行速度とともに急増するが、それでも150m/sにおいても合計パワは1150kWと最大出力を下回った。最大速度は釣り合い飛行可能かで決定され150m/s(540km/h)となった。
【0043】
本発明に係るコンパウンドヘリコプタ1は、旅客用ヘリコプタ、観測用ヘリコプタ、救助用ヘリコプタなどとして用いることができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定され
るものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0045】
1 コンパウンドヘリコプタ
10 交差式二重反転ロータ
11 右ロータマスト
12 右ロータ
13 左ロータマスト
14 左ロータ
15 ロータブレード
16 サイクリックピッチをコントロールする機構
20 プッシャー式プロペラ
30 水平尾翼