(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被覆層によって外周面が覆われたケーブルの内部に,上記ケーブルの長手方向に沿って,上記ケーブルの長手方向の全体にわたって上記ケーブルに固定されることなく,ファイバブラッググレーティングが形成された光ファイバが設けられているセンシング・ケーブルと,
上記光ファイバに入射する入射光を生成する光源,上記ファイバブラッググレーティングからの反射光を受光する受光素子,および上記受光素子から出力される受光信号を用いて上記ファイバブラッググレーティングによる反射光の波長を演算する波長演算装置を備えるインテロゲータと,
上記インテロゲータから出力される反射光の波長を表すデータを温度を表すデータに変換する変換手段,上記反射光の波長を表すデータまたは上記温度を表すデータを所定時間にわたって記録する記録手段,および所定時間にわたる温度を表すデータに基づいて,測定開始時における基準温度からの差である温度差の時間経過に伴う変化を表す,上記ケーブル内部の水分の有無およびその程度を捉えるための温度変化曲線を生成する温度変化曲線生成手段を備えるモニタリング装置と,
を備えているケーブル診断システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
橋梁の橋桁を吊るためのケーブルを含め,屋外で使用されるケーブルはその腐食をできるだけ抑制するために,表面を被覆して水や空気がケーブルを構成するワイヤ素線に直接に触れないようにするのが一般的である。しかしながら,ケーブルの架設中にケーブル内部に水が入り込んだり,被覆の劣化や損傷によってケーブル内部に水が侵入したりすることがある。この場合,ケーブル内部では日中の外気温上昇による水の蒸気化と夜間の外気温低下による結露とが繰り返され,ケーブル内部は湿った状態が継続する。ケーブル内部の水分は上述のようにワイヤ素線の腐食の原因になる。
【0007】
この発明は,被覆ケーブルの内部に水分が存在するかどうか,さらに存在する場合にはその程度を効率よく診断できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明によるケーブル診断システムは,被覆層によって外周面が覆われたケーブルの内部に,上記ケーブルの長手方向に沿って,上記ケーブルに固定されることなく,ファイバブラッググレーティングが形成された光ファイバが設けられているセンシング・ケーブルと,上記光ファイバに入射する入射光を生成する光源,上記ファイバブラッググレーティングからの反射光を受光する受光素子,および上記受光素子から出力される受光信号を用いて上記ファイバブラッググレーティングによる反射光の波長を演算する波長演算装置を備えるインテロゲータと,上記インテロゲータから出力される反射光の波長を表すデータを温度を表すデータに変換する変換手段,上記反射光の波長を表すデータまたは上記温度を表すデータを所定時間にわたって記録する記録手段,および所定時間にわたる温度を表すデータに基づいて温度変化曲線を生成する温度変化曲線生成手段を備えるモニタリング装置と,を備えていることを特徴とする。モニタリング装置は上記温度変化曲線を表示するための表示装置を備えてもよい。
【0009】
光ファイバに形成されるファイバブラッググレーティング(以下,FBGともいう)は,ひずみを受けても,温度変化を受けても,回折格子の周期が変化し,FBGによる反射光の波長が変化する。ここでこの発明によるケーブル診断システムに用いられるセンシング・ケーブルは,FBGを備える光ファイバが,ケーブル内部においてケーブルに固定されることなく設けられているので,ケーブルにひずみが加わっても光ファイバにはそのひずみが伝わらないまたは伝わりにくい。したがって温度変化に強く依存させてFBGによる反射光の波長を変化させることができる。逆に言えば,FBGによる反射光の波長変化に基づいて,FBGが位置する箇所におけるケーブル内部の温度変化を正確に把握することができる。
【0010】
ケーブルは,構造物,たとえば橋梁を吊るためのケーブルとして用いることができるもので,たとえば複数本のワイヤ素線を断面円形に束ねたものである。複数本のワイヤ素線を平行に束ねた平行線ケーブルでもあってもよいし,複数本のワイヤ素線を撚った撚り線ケーブルであってもよい。光ファイバはケーブルと一緒に被覆層内に設けられる。光ファイバはケーブルの長手方向に沿って直線状にのびるように設けてもよいし,ケーブルの外周面に巻き付くようにらせん状に設けてもよい。屋外で用いられるケーブルは気温変化によってその内部の温度が変化する。
【0011】
インテロゲータは光源,受光素子および波長演算装置を備えるもので,光源において生成される入射光が上記光ファイバに入射し,光ファイバに形成されたFBGによる反射光が受光素子によって受光され,受光素子から出力される受光信号を用いてFBGによる反射光の波長が波長演算装置によって演算される。上述のように,FBGが位置する箇所のケーブル内部に温度変化が生じると,波長演算装置によって演算される反射光の波長が変化する。
【0012】
FBGによる反射光の波長を表すデータは,モニタリング装置において温度を表すデータに変換される。絶対温度ではなく,相対的な温度,たとえば診断(測定)開始時点の温度を基準温度としてその基準温度からのずれが,データ変換によって算出される。上述のように,この発明による光ファイバはケーブルに固定されることなくケーブル内部に設けられているので,ケーブルにひずみが生じてもそれによってFBGからの反射光の波長は変化しない。反射光の波長を表すデータを温度を表すデータに正確に変換することができる。
【0013】
所定時間,たとえば一日から数日にわたるFBGからの反射光の波長を表すデータが経時的に取得されて記録され,これにより一日から数日にわたるFBGの温度変化を得ることができる。FBGの温度変化から温度変化曲線が生成される。反射光の波長を表すデータを記録しても,温度を表すデータを記録してもよい。もちろん,両方のデータを記録することもできる。
【0014】
温度変化曲線は,ケーブル内部に水分が存在しない(乾燥状態)場合と水分が存在する(濡れ状態)場合とでは,空気と水の比熱の違いに起因して全く異なる曲線を描く。所定時間にわたるFBGの温度変化を表す温度変化曲線を観察することで,ケーブル内部の水分の有無を診断することができる。
【0015】
一実施態様では,上記モニタリング装置は,上記温度変化曲線を微分して温度勾配を算出する温度勾配算出手段を備えている。温度変化曲線を微分することで算出される温度勾配(温度変化曲線の傾き)は,ケーブル内部に水分が存在する場合と存在しない場合はもちろんのこと,ケーブル内部に存在する水分量の程度によっても変化する。上述した温度変化曲線のみならず,温度勾配も利用することで,ケーブル内部の水分の有無,さらには水分がある場合の程度についても,正確に診断することができる。
【0016】
好ましくは,上記モニタリング装置は,上記温度変化曲線および上記温度勾配の少なくともいずれか一方を用いて上記ケーブルの内部の水分の有無およびその程度を判定する判定手段を備えている。温度変化曲線および温度勾配に表れる特徴量(特徴値)が用いられて,ケーブルの内部の水分の有無およびその程度が判定される。
【0017】
好ましくは,上記光ファイバには,回折格子の周期が互いに異なる複数のファイバブラッググレーティングが上記光ファイバの長手方向に間隔をあけて形成されている。一本のケーブルの長手方向の複数箇所のそれぞれにおける,ケーブル内部の水分の有無と程度とを診断することができる。
【0018】
この発明によるセンシング・ケーブルは,被覆層によって外周面が覆われたケーブルの内部に,上記ケーブルの長手方向に沿って,ファイバブラッググレーティングを有する光ファイバが,上記ケーブルに固定されることなく設けられていることを特徴とする。ひずみによってFBGによる反射光の波長変化を生じさせないようにする,すなわち温度変化のみを波長変化によって捉えることができる。
【0019】
一実施態様では,上記ケーブルは,複数本のワイヤ素線を断面円形に束ねたケーブル本体部と,上記ケーブル本体部の外周面に設けられた被覆層とを備え,上記ケーブル本体部の表面に細長い中空のチューブが固定されており,上記チューブの中に,上記チューブの中空内径よりも小さい外径を持つ上記光ファイバが通されている。ケーブル本体部のひずみを光ファイバに伝えないようにすることができる。
【0020】
好ましくは,上記ケーブル本体部の外周面にフィラメント・テープが巻き付けられており,上記フィラメント・テープの外周面に上記被覆層が設けられている。センシング・ケーブルの形状を安定化することができる。
【0021】
他の実施態様では,上記光ファイバに,回折格子の周期が互いに異なる複数のファイバブラッググレーティングが,上記光ファイバの長手方向に間隔をあけて形成されている。一本のケーブルの長手方向の複数箇所のそれぞれにおける波長変化を取得することができる。
【発明の効果】
【0022】
上述のように,この発明によると,被覆ケーブルの内部に水分が存在するかどうか,さらに存在する場合にはその程度を効率よく診断することができる。
【実施例】
【0024】
図1は,河川または海峡の両岸に掛け渡された斜張橋の一部を概略的に示す正面図である。
【0025】
斜張橋1は,立設された塔2と,両岸に掛け渡される橋桁3と,複数本のセンシング・ケーブル10とから構成される。塔2は,橋桁3の両サイドのそれぞれに立設されており(
図1では一方の塔2が図示されている),2本の塔2の間を橋桁3が通っている。塔2から橋桁3にかけて,塔2の左右のそれぞれから,複数本のセンシング・ケーブル10が斜めに張設されている。センシング・ケーブル10は,その一端が塔2に,他端が橋桁3にそれぞれ固定される。塔2の左右に斜めに張られる複数本のセンシング・ケーブル10によって,橋桁3がバランスよく支えられる。
【0026】
橋桁3を支えるセンシング・ケーブル10は,その内部に光ファイバ15を備えている(センシング・ケーブル10の構造の詳細は後述する)。光ファイバ15の長さは,塔2と橋桁3とを結ぶセンシング・ケーブル10の本体部分(後述するケーブル本体部11)の長さよりも長く,センシング・ケーブル10の下端部から外に出た光ファイバ15は橋桁3に沿って這わされて一箇所に集められる。一箇所に集められた複数本の光ファイバ15のそれぞれは,後述するインテロゲータ30に接続される。インテロゲータ30は,ケーブルを診断するときにだけ設置してもよいし,斜張橋1の適所に,または斜張橋1の近辺に常設してもよい。
【0027】
図2はセンシング・ケーブル10の横断面図である。
図3はセンシング・ケーブル10の正面図を,後述するフィラメント・テープおよび被覆層の一部を省略して示している。
【0028】
センシング・ケーブル10は,複数本の断面円形のワイヤ素線12をほぼ断面円形に束ねたケーブル本体部11と,上記ケーブル本体部11の外周面に隙間無くらせん状に巻き付けられたフィラメント・テープ13と,フィラメント・テープ13の外周面を覆う被覆層14と,光ファイバ15と,上記光ファイバ15が中を通されるチューブ16とを備えている。
【0029】
ケーブル本体部11は,たとえば直径が7mmの複数本のワイヤ素線12を束ねることで構成される。ワイヤ素線12は亜鉛によって表面がめっきされた鋼線である。求められるケーブル本体部11の強度に応じてワイヤ素線12の本数は決められるが,一般には数十本から数百本のワイヤ素線12からケーブル本体部11は構成される。引っ張り強度を高くするために,3°程度の撚り角度によって複数本のワイヤ素線12を撚り合わせてもよい。
【0030】
複数本のワイヤ素線12を束ねることによって構成されるケーブル本体部11の表面には,隣り合うワイヤ素線12によって形成される隙間(空間)がケーブル本体部11の長手方向に形成される。この隙間を利用して細長いチューブ16がケーブル本体部11に接着(固定)されている。チューブ16はケーブル本体部11の長手方向の全体に設けられる。このチューブ16の中に光ファイバ15が通されている。光ファイバ15はケーブル本体部11の長手方向の全体に設けられるとともに,上述したように,センシング・ケーブル10の下端部から外に出されてインテロゲータ30に接続するのに十分な長さを持つ。
【0031】
図4はチューブ16およびチューブ16内を通されている光ファイバ15の横断面を拡大して示している。
【0032】
光ファイバ15は,その中心に配置された石英ガラスまたはプラスチック製のコア15Aと,コア15Aの外周面に設けられた石英ガラスまたはプラスチック製のクラッド15Bと,さらにその外周面に被覆された樹脂製のコーティング層15Cとから構成されている。クラッド15Bの屈折率はコア15Aの屈折率よりも小さく,コア15Aに入射した光は全反射を繰り返しながらコア15A内を伝播する。チューブ16はポリイミド製のものでたとえば 600μmの内径を持つ。他方,チューブ16に通される光ファイバ15の外径はたとえば 125μmであり,光ファイバ15はチューブ16内にゆるく通される。光ファイバ15はケーブル本体部11に固定されていないので,ケーブル本体部11が伸縮したとしても(ひずんだとしても),その伸縮が光ファイバ15に伝わることはない。
【0033】
図2,
図3に戻って,フィラメント・テープ13がケーブル本体部11の外周面にらせん状に巻き付けられることで,ケーブル本体部11の断面円形の形状が保持される。光ファイバ15が通されるチューブ16も,ケーブル本体部11とともにフィラメント・テープ13の内側に位置する。
【0034】
フィラメント・テープ13のさらに外周面に,数mmの厚さの高密度ポリエチレンが被覆されて被覆層14が形成されている。被覆層14は,たとえば,フィラメント・テープ13が巻き付けられたケーブル本体部11を筒状体に挿通して移動させながらこの筒状体内に加熱して軟化(流動化)させた高密度ポリエチレンを圧入し,高密度ポリエチレンをフィラメント・テープ13の外周面に付着させ,付着した高密度ポリエチレンの外形をダイス等に通して整え,冷却することによって形成される。
【0035】
図5はインテロゲータ30の電気的構成を示すブロック図を,インテロゲータ30に接続される光ファイバ15およびモニタリング装置40とともに示している。インテロゲータ30には,斜張橋1を構成する複数本のセンシング・ケーブル10のそれぞれの内部に設けられる複数本の光ファイバ15のすべてが接続されるが,
図5においては,分かりやすくするために,1本の光ファイバ15が接続されている様子を示している。
【0036】
インテロゲータ30は,光源31と,受光モジュール32と,波長演算装置33と,光サーキュレータ34と,光接続端子35と,USB(Universal Serial Bus)接続端子36とを備えている。
【0037】
光源31から所定の波長帯域の光が出射される。たとえば1510nm〜1590nmの80nmの波長帯域を持つ光を出射する半導体レーザが光源31として用いられる。光源31からの光は光サーキュレータ34を介して光接続端子35に接続された光ファイバ15に入射する。
【0038】
光ファイバ15のうち,上記被覆層14によって被覆されたセンシング・ケーブル10の内部に配置されている部分には,回折格子の周期が互いに異なる複数のファイバブラッググレーティング(以下,FBGという)が,間隔をあけて形成されている。
図5には3つのFBG1〜FBG3を示すが,FBGの数およびFBG間の間隔は任意に設定することができる。
【0039】
FBGは光ファイバ15のコア15Aに形成された回折格子であり,回折格子の周期の2倍の波長(ブラッグ波長)の光を反射する。たとえば,FBG1は1528nmの中心波長の光を,FBG2は1535nmの中心波長の光を,FBG3は1538nmの中心波長の光をそれぞれ反射するように光ファイバ15のコア15Aに形成される。
【0040】
FBG1〜3からの反射光は,光サーキュレータ34を介して受光モジュール32によって受光され,ここで光電変換される。受光モジュール32から出力される電気信号が波長演算装置33に与えられる。
【0041】
波長演算装置33は,受光モジュール32から出力される電気信号から,FBG1〜3によって反射された光の波長を演算する装置(回路)である。互いに周期の異なる3つのFBG1〜FBG3からの反射光の波長が波長演算装置33によって演算される。波長演算装置33によって演算される反射光の波長を表すデータは,USB接続端子36に接続されたUSBケーブルを通じてモニタリング装置40に与えられる。
【0042】
モニタリング装置40は,典型的にはパーソナル・コンピュータであり,CPU(Central Processing Unit ),メモリ,ハードディスク,キーボード,表示装置等を備える。モニタリング装置40は,センシング・ケーブル10を診断するときにインテロゲータ30に接続される。もっとも,モニタリング装置40をインテロゲータ30と常時接続してもよく,またUSBケーブルを用いた接続に代えて,無線接続によってインテロゲータ30に接続してもよい(この場合には,インテロゲータ30およびモニタリング装置40のそれぞれに無線通信装置が設けられる)。いずれにしても,FBG1〜3からの反射光の波長を表すデータはインテロゲータ30からモニタリング装置40に与えられ,以下に説明するようにモニタリング装置40において所定の処理が実行される。
【0043】
光ファイバ15は温度によって熱膨張/熱収縮を生じる。熱膨張/熱収縮によって光ファイバ15に形成されたFBGにおける回折格子間隔(周期)が変化するので,FBGにおける反射光の波長は温度に応じて変化する。使用する光ファイバ15を用いてあらかじめ温度変化と波長変化の対応関係を求めておくことで,上記波長演算装置33によって演算される反射光の波長変化からFBGにおける温度変化を算出することができる。
【0044】
一例を挙げると,温度変化と波長変化の対応関係は 0.01015nm/℃である。すなわち,1℃の変化があると反射光の波長は約0.01nm変化する。逆に言えば,反射光の波長が0.01nm変化した場合,それはFBGにおいて1℃の変化が生じたことを意味する。反射光の波長が長波長側に変化した場合,それはFBGの温度が上昇したことを意味し,逆に反射光の波長が短波長側に変化した場合,それはFBGの温度が下降したことを意味する。
【0045】
光ファイバ15は外力が加えられた場合にも伸縮(ひずみ)が生じる。しかしながら,上述したように,光ファイバ15はチューブ16内をゆるく通されているので(
図4),ケーブル本体部11に伸縮が生じたとしてもそれは光ファイバ15には伝わらない。したがってセンシング・ケーブル10内に設けられた光ファイバ15(FBG)は,温度変化に起因する波長変化を効率よく捉えることができる。
【0046】
図6はモニタリング装置40の処理の流れを示すフローチャートである。
【0047】
上述したように,モニタリング装置40は,インテロゲータ30の波長演算装置33によって演算されるFBGからの反射光の波長を表すデータを受信する(ステップ51)。時系列の反射光の波長を表すデータがモニタリング装置40に順次入力される。
【0048】
モニタリング装置40は,波長演算装置33から与えられるFBGからの反射光の波長(その変化)を表すデータを,FBGにおける温度変化に変換する処理を実行する(ステップ52)。上述した温度変化と波長変化の対応関係を表すデータがあらかじめモニタリング装置40のハードディスクに記憶され,これが変換処理に用いられる。温度変化と波長変化の対応関係を表すデータは,数式をプログラミングしたものであってもよいし,ルックアップテーブルであってもよい。
【0049】
変換されることで算出される時系列のFBGの温度変化を表すデータが用いられて,FBGの温度変化を表す曲線(以下,温度変化曲線という)がモニタリング装置40の表示装置の表示画面に表示される(ステップ53)。
【0050】
図7は,外気温の変化に伴う,3日間( 259,200秒)にわたるFBG1〜3の温度変化曲線を,縦軸を温度差(℃),横軸を時間(s)とするグラフ上に示している。縦軸は,測定開始時における温度を基準温度(0℃)として,この基準温度からの差(温度差)を示している。
【0051】
図7において,実線は健全部位(水分が含まれていない乾燥箇所)に設けられたFBG1によって計測された温度変化曲線,一点鎖線は程度の小さい水含有部位(濡れの程度が小さい箇所)に設けられたFBG2によって計測された温度変化曲線,破線は程度の大きい水含有部位(濡れの程度が大きい箇所)に設けられたFBG3によって計測された温度変化曲線をそれぞれ示している。水含有の程度は,実験ではケーブル本体部11に水(霧)を吹きかける回数を変化させることで再現した。具体的には,被覆層14およびフィラメント・テープ13を取り除いたセンシング・ケーブル10のケーブル本体部11に1回水を噴霧して軽く湿らせた状態を「程度の小さい水含有部位」(濡れ小)とし,数回にわたって水を噴霧してひどく濡らした状態を「程度の大きい水含有部位」(濡れ大)としている。
【0052】
1日単位の温度変化に着目すると,最高温度と最低温度の温度差が健全部位と水含有部位とでは大きく異なることが分かる。たとえば,1日目(0秒〜86,400秒)のFBG1〜3の温度変化に着目すると,水含有部位(一点鎖線(FBG2)および破線(FBG3))の温度差はいずれも約20℃であったのに対し,健全部位(実線(FBG1))の温度差は約15℃にとどまっている。温度変化曲線の温度差に着目することで,センシング・ケーブル10の内部の水分の有無を診断することができる。
【0053】
図8は,
図7に示す温度変化曲線の測定開始直後(0秒から10,000秒まで)の様子を拡大して示している。
【0054】
測定開始直後において,健全部位(FBG1)の温度が上昇して,たとえば+7℃の温度変化が生じるに至るまでに要する時間は約3800秒であった(実線)。他方,水含有部位(FBG2,FBG3)の温度が上昇して,同様に+7℃の温度変化が生じるに至るまでに要する時間は約5000秒以上であった(一点鎖線および破線)。測定開始直後の温度変化の速度に着目しても,センシング・ケーブル10の内部の水分の有無を診断することができる。
【0055】
さらに
図7,
図8において,温度変化曲線の勾配(傾き)に着目すると,健全部位(FBG1)の温度変化曲線(実線)には大きな勾配が現れているのに対し,水含有部位(FBG2,FBG3)の温度変化曲線(一点鎖線,破線)には健全部位の温度変化曲線ほどの大きな勾配は現れていないことが分かる。さらに,程度の小さい水含有部位(FBG2)の温度変化曲線(一点鎖線)と程度の大きい水含有部位(FBG3)の温度変化曲線(破線)とを対比すると,程度の大きい水含有部位(破線)の方が,温度変化曲線の勾配(傾き)が小さいことが分かる。すなわち,温度変化曲線の勾配値に着目することで,センシング・ケーブル10の内部の水分の有無のみならず,その程度についても正確に診断することが可能である。
【0056】
図9(A)〜(C)は,
図7に示すFBG1,FBG2,FBG3のそれぞれについての温度変換曲線の勾配値(温度勾配)を示している(勾配算出の時間間隔は60秒)。
図7に示すFBG1〜3のそれぞれについての温度変化曲線を微分することによって,
図9(A)〜(C)に示す温度勾配は算出される(ステップ54,55)。
【0057】
上述したように,健全部位の温度変化曲線は比較的大きい勾配を含む。したがって,たとえば温度勾配の最大値(絶対値の最大値でもよい)を特徴量(特徴値)として利用して,温度勾配の最大値が所定の閾値を超えていれば,その部位は健全部位であることを判定することができる。
図9(A)を参照して,FBG1についての温度変化曲線から算出される温度勾配の最大値は 0.5を超えている。他方,
図9(B),(C)を参照して,FBG2,FBG3についての温度勾配の最大値は0.5を超えていない。たとえば閾値を0.5に設定して,温度勾配の最大値が 0.5を超えていれば健全部位であることを,モニタリング装置40によって自動的に判定するようにしてもよい。
【0058】
図9(B)と
図9(C)を比較して,水含有の程度が大きいと,最大の勾配値は小さくなることが勾配曲線からよく分かる。上述のように温度勾配の最大値が所定の閾値以下であればモニタリング・ケーブル10の内部に水が存在することを判定し,さらに温度勾配の最大値が小さければ小さいほど水含有の程度が大きいことを,モニタリング装置40によって自動的に判定するようにしてもよい。このように温度変化曲線,および温度変化曲線から算出される温度勾配は,モニタリング・ケーブル10の内部の水の有無およびその程度を自動的に判定するために用いることができる。
【0059】
図7,
図8および
図9(A)〜(C)に示すグラフは,いずれもモニタリング装置40の表示装置の表示画面上に表示することができる。すなわち,
図7に示すグラフは,インテロゲータ30からモニタリング装置40に与えられる反射光の波長を表すデータを所定時間分記録しておき,それを温度変化と波長変化の対応関係を表すデータに基づいて温度変化に変換すればよい。もちろん,反射光の波長を表すデータに代えて,変換後の温度を表すデータを所定時間分記録してもよい。
図8に示すグラフは
図7に示すグラフを拡大することで表示することができる。
図9に示すグラフは
図7に示す温度変化曲線を微分処理することで作成することができる。表示画面に表示される
図7,
図8および
図9のグラフを用いることで,センシング・ケーブル10の内部に水分が含まれているかどうか,さらにはその程度を診断することができる。また,上述したように,特に
図9に示す温度変換曲線の勾配値を表すデータを用いれば,センシング・ケーブル10の内部の水分の有無およびその程度を,一または複数の閾値を用いて自動的に判定することができる。1本のセンシング・ケーブル10には複数のFBGが設けられるので,センシング・ケーブル10のうち水分が含まれている部分も把握することができる。