特許第6784458号(P6784458)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784458
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】グラフェンオキシド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/19 20170101AFI20201102BHJP
   C01B 32/198 20170101ALI20201102BHJP
   C01B 32/225 20170101ALI20201102BHJP
【FI】
   C01B32/19
   C01B32/198
   C01B32/225
【請求項の数】20
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-530711(P2018-530711)
(86)(22)【出願日】2015年12月14日
(65)【公表番号】特表2019-505462(P2019-505462A)
(43)【公表日】2019年2月28日
(86)【国際出願番号】CN2015097227
(87)【国際公開番号】WO2017100968
(87)【国際公開日】20170622
【審査請求日】2018年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】514216801
【氏名又は名称】バオシャン アイアン アンド スティール カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ジョン, ユーリン
(72)【発明者】
【氏名】リ, ダン
(72)【発明者】
【氏名】サイモン, ジョージ フィリップ
【審査官】 若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0161199(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第103359712(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0164208(US,A1)
【文献】 国際公開第2014/065241(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第104876211(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00−32/991
Scopus
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェンオキシドを製造する方法であって、
黒鉛粒子を、作用電極、対電極及び水性酸電解質を有する電気化学セル内に配置するステップであり、前記作用電極が、前記電解質内で前記黒鉛粒子の少なくとも一部と接触するように位置決めされており、前記作用電極が容器を備え、前記容器内で、前記黒鉛粒子が、配置され、保持され、前記電気化学セル内で前記対電極から分離されており、前記作用電極が、前記作用電極内に黒鉛及びGO粒子を保持するように2μm未満の孔径を有する膜部を備える、ステップ、
前記電解質内で前記黒鉛粒子をかき混ぜるステップであり、前記電解質内での前記黒鉛粒子のかき混ぜにより、黒鉛スラリーの渦が生じる、ステップ、
並びに
前記作用電極及び前記対電極間に電位差を与え、
これによって、前記黒鉛粒子の電気化学剥離及び酸化をもたらして、グラフェンオキシドを製造するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
前記黒鉛粒子が、機械によるかき混ぜ、流れの抑制又は流体流特性のうちの少なくとも1つによって、前記電解質内でかき混ぜられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
機械によるかき混ぜが、撹拌を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記電解質内での前記黒鉛粒子の前記かき混ぜにより、酸化されたグラフェン層の剥離を補助するのに十分なせん断力が生じる、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記電解質内での前記黒鉛粒子のかき混ぜにより、前記電解質で少なくとも0.1m/秒の流速が生じる、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記膜部が、1μm未満の孔径を有する、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記作用電極が、導電性メッシュを備える、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記導電性メッシュが、金属メッシュを備える、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記対電極が、導電体を備える、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記水性酸性電解質が、前記黒鉛粒子の黒鉛層のインターカレーションを促進する、分子及び/又はイオン成分を含む、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記水性酸電解質が、硫酸、過塩素酸、硝酸、リン酸又はホウ酸から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記黒鉛粒子が、10μm〜25mmの平均粒径を有する、請求項に記載の方法。
【請求項13】
前記黒鉛粒子が、片状黒鉛を含む、請求項に記載の方法。
【請求項14】
前記作用電極と対電極との間の前記電位差が、これらの電極間に少なくとも1Aの電流をもたらす、請求項に記載の方法。
【請求項15】
黒鉛粒子の電気化学剥離によって、グラフェンオキシドを製造するための装置であって、
水性酸電解質を収容するように構成された流体ハウジング、
前記電解質内に位置決めされており、前記装置に配置された黒鉛粒子とかみ合うように構成されている作用電極であり、前記作用電極が容器を備え、前記容器内で、前記黒鉛粒子が、配置され、保持され、電気化学セル内で対電極から分離されており、前記作用電極が、前記作用電極内に黒鉛及びGO粒子を保持するように2μm未満の孔径を有する膜部を備える、作用電極、
前記作用電極及び黒鉛粒子から分離された対電極、
前記作用電極及び前記対電極間に電位差を生じさせるためのポテンショスタット、並びに
使用時に、前記電解質内で前記黒鉛粒子をかき混ぜることで黒鉛スラリーの渦を生じさせるかき混ぜ配置構成
を備える、装置。
【請求項16】
前記かき混ぜ配置構成が、機械によるかき混ぜ配置構成を備える、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記作用電極が、導電性メッシュを備える、請求項15に記載の装置。
【請求項18】
前記導電性メッシュが、金属メッシュを備える、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記対電極が、導電体を備える、請求項15に記載の装置。
【請求項20】
前記水性酸性電解質が、硫酸、過塩素酸、硝酸、リン酸又はホウ酸から選択される、請求項15に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
[1]本発明は、一般には、グラフェンオキシドを製造する方法、及び特有の特性を有する、この方法から製造されたグラフェンオキシドに関する。本発明は、特に、グラフェンオキシドの電気化学的製造方法に適用可能であり、便宜上、以下、この例示的な適用に関連して本発明を開示する。
【0002】
[発明の背景]
[2]本発明に関する背景の以下の議論は、本発明の理解を促進することを意図したものである。しかし、この議論は、言及される要素のうちの任意のものが、本願の優先日の時点で公開されていた、公知であった又は技術常識の一部であったことを承認又は自認するものではないことが認識されるべきである。
【0003】
[3]グラフェンオキシド(GO)は、還元型グラフェンオキシド(rGO)へのGOの後続の還元を通して、グラフェンの製造に幅広く使用される前駆体である。GOは、従来、黒鉛の厳しい化学酸化が関与する、Hummers法などの多工程化学合成プロセスを使用して製造されている。そのような化学経路は、高い収率及びスケーラビリティを有し、これらの化学経路により様々な溶媒への良好な分散性を有する生成物が製造される。しかし、この経路には、爆発の危険性及び金属イオン(Mn2+)の混入問題を含む、いくつかの欠点がある。KMnO、KFeO及びKClOなどの強い酸化剤の使用により、直すことのできない穴欠陥が生じ、化学的又は熱的方法による還元後でさえ、生成物の電気伝導率に悪影響が及ぶことがあることが、最も重要である。
【0004】
[4]黒鉛の電気化学剥離は、上述の化学的方法のいくつかの不利点を克服するために開発されてきた。黒鉛剥離の電気化学剥離には、電気化学活性化を通した黒鉛層間の分子又はイオンのインターカレーションが関与する。さらに、電気化学的剥離方法によって製造されたグラフェンは、化学的方法と比較して、穴欠陥及び酸素官能基を低い割合で含有する。
【0005】
[5]既存の電気化学的剥離方法では、黒鉛ロッド、黒鉛箔又は高配向熱分解黒鉛(HOPG)などのバルク黒鉛が、電気化学セルの電極として用いられる。そのような電極は、片状黒鉛から事前に形成するか、又は大きな黒鉛インゴットを機械加工して、電極を形成する必要がある。事前形成の必要があるため、そのようなバルク黒鉛電極は、余剰費用をもたらし、黒鉛電極のバッチ間変動を通して電気化学剥離の再現性に影響が及ぶことがある。さらに、そのような黒鉛電極は、完全な酸化又は官能化が起こり得る前に、剥離して数層又は多層グラフェンになる(及び電気接触を喪失する)ことが多いため、バルク黒鉛電極を使用して均一で完全な酸化を達成するのは困難である。さらに、黒鉛電極のサイズも、電気化学剥離の効率に影響を及ぼすことがある。これらすべての要素により、既存の電気化学剥離技術は、スケーラビリティが限定される。
【0006】
[6]したがって、黒鉛からグラフェンオキシドを製造するための、改善された及び/又は代替の電気化学的剥離方法を提供することが望まれる。
【0007】
[発明の概要]
[7]本発明は、グラフェンオキシドを製造する方法であって、
黒鉛粒子を、作用電極、対電極及び水性酸電解質を有する電気化学セル内に配置するステップであり、作用電極が、電解質内で黒鉛粒子の少なくとも一部と接触するように位置決めされている、ステップ、
電解質内で黒鉛粒子をかき混ぜるステップ、並びに
作用電極及び対電極間に電位差を与え、
これによって、黒鉛粒子の電気化学剥離及び酸化をもたらして、グラフェンオキシドを製造するステップ
を含む、方法を提供する。
【0008】
[8]したがって、本発明は、作用電極との電気接続状態にありながら、片状黒鉛などの黒鉛粒子がかき混ぜられて、グラフェンオキシドが形成される、電気化学的剥離方法を提供する。電解質内での黒鉛粒子のかき混ぜにより、黒鉛粒子の作用電極との密接な物理的/電気的接触が生じ、電解質内で形成された黒鉛スラリーの良好な混合がもたらされ、一部の実施形態では、酸化されたグラフェン層の剥離を補助するのに十分なせん断力がもたらされることがある。連続的なかき混ぜにより、部分的に剥離した片状黒鉛が、完全な剥離のために作用電極に繰り返し接触することを可能にすることができる。さらに、黒鉛粒子の使用により、バルク黒鉛の使用が回避され、黒鉛源に対する高い費用が削減され、したがってプロセスがより大規模に実現できるようになる。
【0009】
[9]電解質内での黒鉛粒子のかき混ぜは、電解質のゆるい黒鉛粒子を撹拌するために使用され、片状黒鉛の剥離を補助するためのさらなるせん断力をもたらすことができる。様々なかき混ぜシステム、配置構成及び方法を、電解質内で黒鉛粒子をかき混ぜるために使用することができる。実施形態では、黒鉛粒子は、機械によるかき混ぜ、流れの抑制又は流体流特性のうちの少なくとも1つによって、電解質内でかき混ぜられる。機械によるかき混ぜを使用するこれらの実施形態では、このかき混ぜは、好ましくは撹拌を含む。
【0010】
[10]一部の実施形態では、電解質内での黒鉛粒子のかき混ぜにより、酸化されたグラフェン層の剥離を補助するのに十分なせん断力が生じる。例えば、電解質内での黒鉛粒子のかき混ぜにより、電解質で少なくとも0.1m/秒、好ましくは0.2〜10m/秒、より好ましくは1〜5m/秒、より好ましくは約2m/秒の流速が、好ましくは生じることがある。さらに、電解質内での黒鉛粒子のかき混ぜにより、黒鉛スラリーの渦が生じることが好ましい。
【0011】
[11]作用電極は、任意の好適な構成を有してもよい。一部の実施形態では、作用電極は容器を備え、容器内で、黒鉛粒子が、配置され、保持され、電気化学セル内で対電極から分離される。この配置構成により、黒鉛粒子が対電極から有利に分離される一方、電気化学セル内の電解質及び電流の両方の流れが可能になる。一部の実施形態では、作用電極は、作用電極内に黒鉛及びGO粒子を保持するようにサイズ調整された孔を有する膜部を備える。膜部により、電解質の流れが促進される一方、GO及び黒鉛粒子が作用電極容器内に保持される。膜部は、2μm未満、好ましくは1μ未満、より好ましくは0.8μm未満、より好ましくは約0.6μmの孔径を有することが好ましい。
【0012】
[12]一部の実施形態では、作用電極は、導電性メッシュを備える。導電性メッシュは、金属メッシュ、好ましくは白金メッシュで好ましくは構成される。
【0013】
[13]対電極は、任意の好適な構成を有してもよい。一部の実施形態では、対電極は、導電体、好ましくは、金属体又は炭素体で構成される。
【0014】
[14]任意の好適な水性酸性電解質を、電解セルで使用することができる。一部の実施形態では、水性酸性電解質は、黒鉛粒子の黒鉛層のインターカレーションを促進する、分子及び/又はイオン成分を含む。水性酸性電解質は、硫酸、過塩素酸、硝酸、リン酸又はホウ酸から好ましくは選択される。
【0015】
[15]任意の好適な黒鉛粒子を、電気化学セルに配置することができる。実施形態では、黒鉛粒子は、10μm〜25mm、好ましくは50μm〜10mm、より好ましくは100μm〜1mmの平均粒径を有する。黒鉛粒子は、所望される任意の形態を有してもよい。例示的な実施形態では、黒鉛粒子は、片状黒鉛を含む。
【0016】
[16]作用電極と対電極との間の電位差は、黒鉛粒子の電気化学剥離及び酸化を開始し、維持するのに十分である必要がある。実施形態では、作用電極と対電極との間の電位差は、これらの電極間に少なくとも1Aの電流をもたらす。
【0017】
[17]本発明の第2の態様は、黒鉛粒子の電気化学剥離によって、グラフェンオキシドを製造するための装置であって、
水性酸電解質を収容するように構成された流体ハウジング、
電解質内に位置決めされており、装置に配置された黒鉛粒子とかみ合うように構成されている作用電極、
作用電極及び黒鉛粒子から分離された対電極、
作用電極及び対電極間に電位差を生じさせるためのポテンショスタット、並びに
使用時に、電解質内で黒鉛粒子をかき混ぜるかき混ぜ配置構成
を備える、装置を提供する。
【0018】
[18]本発明のこの第2の態様は、電気化学誘導されたグラフェンオキシドを形成するための電気化学装置であって、かき混ぜ配置構成、好ましくは、黒鉛粒子の電気化学剥離及び酸化を促進してグラフェンオキシドを製造するための機械によるかき混ぜ配置構成を備える装置を提供する。第1の態様について記述したように、電解質内での黒鉛粒子のかき混ぜにより、1)黒鉛粒子の作用電極との密接な物理的/電気的接触が生じ、(2)黒鉛スラリーの良好な混合がもたらされ、一部の実施形態では、(3)酸化されたグラフェン層の剥離を補助するのに十分なせん断力がもたらされる。
【0019】
[19]また、様々なかき混ぜシステム、配置構成及び方法を、電解質内で黒鉛粒子をかき混ぜるために使用することができる。実施形態では、かき混ぜ配置構成は、機械によるかき混ぜ配置構成、好ましくは撹拌配置構成で構成される。
【0020】
[20]また、作用電極は、任意の好適な構成を有してもよい。実施形態では、作用電極は容器を備え、容器内で、黒鉛粒子が、供給され、保持され、電気化学セル内で対電極から分離される。一部の実施形態では、作用電極は、作用電極内に黒鉛及びGO粒子を保持するようにサイズ調整された膜部を備える。作用電極の実施形態は、導電性メッシュ、好ましくは金属メッシュ、より好ましくは白金メッシュを備えることがある。
【0021】
[21]また、対電極は、任意の好適な構成を有してもよい。実施形態では、対電極は、導電体、好ましくは、金属体又は炭素体で構成される。
【0022】
[22]任意の好適な水性酸性電解質を、電解セルで使用することができる。一部の実施形態では、水性酸性電解質は、黒鉛粒子の黒鉛層のインターカレーションを促進する、分子及び/又はイオン成分を含む。水性酸性電解質は、硫酸、過塩素酸、硝酸、リン酸又はホウ酸から好ましくは選択される。
【0023】
[23]本発明の第1の態様の方法は、本発明の第2の態様の装置を使用して、好ましくは実施される。本発明は、好ましくは本発明の第2の態様による装置を使用して、本発明の第1の態様による方法から形成されたグラフェンオキシドにも関し得る。
【0024】
[24]本発明のこの第3の態様では、ヒドロキシ及びエポキシ基から本質的になる、酸素官能性を有する、電気化学誘導されたグラフェンオキシドを提供する。
【0025】
[25]この本発明の第3の態様では、本発明者らは、本発明により、任意の他の従来のGO製造方法では製造することができない組成を有する高品質のグラフェンオキシドを製造することができることを見出した。このグラフェンオキシドは、実質的にカルボニル官能基を含まず、むしろヒドロキシ及びエポキシ基から本質的になる、酸素官能性を備える。本発明のグラフェンオキシド組成物は、本発明のGO製造方法に特有である。
【0026】
[26]本発明の電気化学誘導されたグラフェンオキシドは、エタノール及びDMFなどの溶媒への良好で安定な分散性を有する、主に単一層のグラフェンオキシドとして好ましくは特徴付けられる。したがって、電気化学誘導されたグラフェンオキシドは、好ましくは実質的に単一層のグラフェンオキシドである。実施形態では、単層グラフェンオキシドシートの数分率は、50〜90%、好ましくは60〜80%、より好ましくは60〜70%、さらにより好ましくは約66%である。実施形態では、単層グラフェンオキシドシートの質量分率は、30〜40質量%、好ましくは30〜35質量%、より好ましくは約33質量%である。
【0027】
[27]本発明の電気化学誘導されたグラフェンオキシドは、グラフェンシートの縁又は穴縁に位置することが公知である酸素含有官能基、特にカルボキシル(COOH)官能基を、他の経路によって形成されたグラフェンオキシドと比較して、好ましくはより少なく示す。実施形態では、酸素官能性は、5%未満のカルボニル基、好ましくは1%未満のカルボニル基、より好ましくは0.05%未満のカルボニル基、好ましくは0.01%未満のカルボニル基で構成される。そのような構造により、電気化学誘導されたグラフェンオキシドは、
20〜25atom%の酸素、好ましくは20〜22atom%の酸素、及び
74〜78atom%の炭素、好ましくは75〜77atom%の炭素
を好ましくは含む。
【0028】
[28]一部の実施形態では、電気化学誘導されたグラフェンオキシドは、約21.0atom%の酸素及び約76.4atom%の炭素を含む。
【0029】
[29]本発明のグラフェンオキシドは、他の電気化学的方法と比較して、高い分散性を有する。実施形態では、グラフェンオキシドは、1mg/mLまで、好ましくは0.1〜1mg/Lの水への分散性を有する。
【0030】
[30]感熱酸素官能基(エポキシ、ヒドロキシ)のみが存在することにより、低温で単純な熱還元を使用して、高導電性グラフェンシートを形成することを可能にすることができることが有利である。これと比較すると、従来の化学誘導されたグラフェンオキシドは、同様の熱還元処理の後、絶縁体のままである。実施形態では、グラフェンオキシドは、150〜400℃、好ましくは150〜250℃、より好ましくは約200℃の温度で、熱還元を受けて、高導電性グラフェン生成物を形成することができる。得られたグラフェン生成物の導電率は、好ましくは10〜10Sm−1である。
【0031】
[31]本発明は、本発明の第1の態様による方法から形成された、本発明の第3の態様による電気化学誘導されたグラフェンオキシドも提供することができる。第1の態様に関連して開示されている特徴は、本発明のこの第3の態様に組み込むことができ、逆もまた同様であることが認識されるべきである。
【0032】
[32]ここで本発明を、本発明の特定の好ましい実施形態を例示する添付の図面の図を参照して記載する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】(a)本発明の一実施形態による、機械補助された電気化学構成の模式図である。(b)同じ機械補助された電気化学構成の斜視図である。
図2】撹拌を用いた電気化学剥離後の片状黒鉛の大きな体積膨張を比較して例示する図であり、(a)電気化学剥離前の黒鉛、(b)撹拌を用いない対照実験の生成物、及び(c)撹拌を用いた本発明の実験の生成物を示す。
図3】電気化学剥離の間のSOイオンのインターカレーションの段階の模式図である。
図4】本発明の方法によって製造された電気化学グラフェンオキシド(EGO)についての代表的な赤外分光法結果を示す図である。
図5】(a)化学酸化されたグラフェンオキシド、及び(b)本発明によって製造されたグラフェンオキシド(EGO)の代表的な構造を比較する模式図である。
図6】対照グラフェンオキシド電気化学構成の模式図である。
図7】本発明の一実施形態による機械補助された電気化学的方法によって製造された電気化学グラフェンオキシド(EGO)のX線回折パターンを示す図である。
図8】(a)典型的な本発明のEGOシートのTEM画像、(b)(a)のEGOシートの縁を示す高分解能TEM画像、(c)(a)のEGOシートから取った電子回折パターン、及び(d)(c)に示すパターンについて1−210から−2110軸に沿って取った回折強度を示す図である。
図9】(a)数枚積層された本発明のEGOシートのAFM画像、(b)(a)の上面EGOシートのヒストグラム、(c)1つの単層EGOシートのAFM画像、(d)(c)のEGOシートのヒストグラム、(e)EGOシートの厚さの数分率、及び(f)EGOシートの厚さの質量分率を示す図である。
図10a】(a)本発明の一実施形態による機械補助された電気化学的方法によって製造された本発明のEGOの、室温でのXPS検査スペクトルを示す図である。
図10b】(b)異なる温度での加熱後のEGOの炭素及び酸素含有率を示す図である。
図10c】(c)EGOのXPS C 1sスペクトルを示す図である。
図10d】(d)異なる温度での加熱後のEGOのC=C、C−O/C−O−C、COOH濃度を示す図である。
図11】超音波処理の直後、1日後、1週間後及び1ヶ月後の、溶媒:水、DMF、IPA、エタノール、THF、アセトン、トルエン、ヘキサンへの本発明のEGO材料の分散液を示す図である。
図12】対照「Tセル」方法を介した異なる黒鉛質量負荷を有する本発明のEGO生成物のX線回折パターンを示す図である。
図13】異なる帯電期間で酸化された黒鉛のX線回折パターンを示す図である。サンプルは、いかなる処理も用いず、反応後直ちに試験した。
図14】異なる帯電期間で酸化された黒鉛のXRDパターンを示す図である。酸化されたサンプルは、アノードの酸化後、いかなる超音波処理も用いずに、終夜水に浸漬した。
図15】異なる帯電期間で酸化された黒鉛のXRDパターンを示す図である。アノードの酸化後、酸化されたサンプルは、pHがほぼ7になるまで水で繰り返し洗浄した。
図16】化学誘導されたグラフェンオキシド(CGO)及び異なる帯電期間で酸化された黒鉛のX線データを示す図である。アノードの酸化後、酸化されたサンプルを、上清のpH値がほぼ7になるまで数回水で洗浄し、次いで、50°で終夜乾燥した。
図17a】(a)CGO及び異なる反応期間での本発明のEGOサンプルのTGA曲線を示す図である。
図17b】(b)300℃でのそれらそれぞれの重量減少率を示す図である。
図18】異なる反応期間での本発明のEGOサンプル及びCGOのATR−FTIRスペクトルを示す図である。
図19】異なる反応期間での本発明のEGOサンプルの導電率を示す図である。
【0034】
[詳細な記載]
[52]本発明は、官能グラフェンを大量生産するために使用することができる、大規模に実現でき、費用効果の高い、グラフェンオキシドを製造する方法を創出する。本発明のプロセス又は方法により、任意の他の従来のGO製造方法では製造することができない組成を有する高品質のグラフェンオキシドを製造することができる。本発明のグラフェンオキシド組成物は、本発明のグラフェンオキシド製造方法に特有である。
【0035】
[53]本発明のグラフェンオキシドを製造する方法には、本明細書で電気化学誘導されたグラフェンオキシド(EGO)と呼ぶ、酸化されたグラフェンシートへのゆるい片状黒鉛の電気化学剥離を補助するための、機械による撹拌の使用が関与する。図1には、本発明の実施形態の方法又はプロセスによる、グラフェンオキシドを製造するために使用される装置(100)が例示されている。この装置構成の重要な要素は以下の通りである。
【0036】
1.黒鉛コンテナ(110)
[54]黒鉛コンテナ110は、水性酸電解質115、及び典型的には片状黒鉛の形態で供給される黒鉛粒子120を含有するための液体容器で構成され、これによって黒鉛粒子を作用電極125の近傍に限局するが、電解質115及び電流が通過することが可能になる。実施形態では、黒鉛コンテナ110は、1μm未満(典型的には、0.6μm)の孔径を有する、一片の酸抵抗膜(例えば、PVDF、PP、ガラスファイバーなど)から形成された基部130を有するガラス円柱状コンテナ(逆50mL遠心管)で構成される。
【0037】
2.作用電極(125)
[55]不活性酸抵抗作用電極125(例えば、白金、白金めっきニオブ、混合金属酸化物被膜ニオブなど)は、黒鉛コンテナ110内に位置決めされて、黒鉛コンテナ110に含有されている黒鉛粒子120と接触する。例示されている実施形態では、作用電極125は、箔又はメッシュの形態であり、黒鉛コンテナ110の壁の周囲を取り囲んで、黒鉛コンテナ110の内部に置かれている。作用電極125は、黒鉛粒子120との物理的接触を通して、黒鉛粒子120に正電流を供給する。電流は、ポテンショスタット又はDC電源140によって2つの電極構成を介して供給される。黒鉛粒子の酸化剥離のために、作用電極125に正端子が設けられる。
【0038】
3.電解質(115)及び対電極(145)
[56]円柱状黒鉛コンテナ110は、液体の詰まった外部コンテナ150、例えば、所望のレベルまで満たされた、水性硫酸(50質量%)を含む電解質115を含有する、大容量のガラスビーカーに浸漬される。対電極145は、黒鉛コンテナ110及び外部コンテナ150の壁間の電解質115に浸漬される。対電極145は、別の不活性酸抵抗電極、例えば、白金メッシュ又は導電性炭素布などである。カソード反応(主に水素生成)は炭素電極を損傷しないため、炭素電極も対電極145(カソード)として使用することができる。
【0039】
4.かき混ぜ配置構成160 − 機械による撹拌
[57]黒鉛コンテナ110も、電解質115及び黒鉛粒子120混合物(又は「黒鉛スラリー」)をかき混ぜるためのかき混ぜ配置構成160を備える。例示されている実施形態では、かき混ぜ配置構成160は、機械によるかき混ぜ配置構成、すなわち撹拌器を備える。黒鉛スラリーの機械による撹拌は、磁気スピンバー(磁気撹拌器を介した)又はオーバーヘッド撹拌器/ミキサーなどの様々な手段によって駆動することができる。例示されている実施形態では、かき混ぜ配置構成160は、磁気撹拌バー161及び磁気撹拌器駆動部162を備える。3つの理由:(1)黒鉛粒子の作用電極との密接な物理的/電気的接触を生じさせること、(2)酸化されたグラフェン層の剥離を補助するのに十分なせん断力を生じさせること、及び(3)黒鉛スラリーの良好な混合をもたらすことのために、十分に高い撹拌速度(使用される黒鉛コンテナ及び撹拌器の大きさに応じて、典型的には、800rpm超)を使用して、黒鉛コンテナ中で黒鉛スラリーの渦を生じさせることができる。さらに、連続的な撹拌により、部分的に剥離した片状黒鉛が、完全な剥離のために作用電極に繰り返し接触することを可能にすることができる。
【0040】
[58]任意の形態の黒鉛粒子を、本発明の方法において使用することができることが認識されるべきである。好ましい形態では、黒鉛粒子は、10μm〜25mm、好ましくは50μm〜10mm、より好ましくは100μm〜1mmの平均粒径を有する。例示的な実施形態では、黒鉛粒子は、片状黒鉛を含む。
【0041】
[59]上に記載及び例示されている装置構成100により、黒鉛粒子が、作用電極付近に限局され、絶えず十分に混合される。このことにより、片状黒鉛の、所望の電気化学誘導されたグラフェンオキシドへの連続的で効率的な電気化学剥離及び酸化が可能になる。十分に高い正電圧の印加によって、アニオンインターカレーションを通した黒鉛粒子の電気化学剥離、及び水の電気分解を通した酸化が達成される。
【0042】
[60]いかなる一理論に限定されることも望まないが、本発明者らは、本発明の方法による、黒鉛粒子の機械補助された電気化学剥離及び酸化の機構は、正電流/電圧を作用電極125に印加することで、作用電極125と接触している黒鉛粒子/片状黒鉛120が正電荷を帯び、したがって、二酸素及びヒドロキシルイオン及びラジカルを引きつけるものであると考える。この強い求核剤は、黒鉛の縁及び黒鉛粒子120の粒界のsp炭素を攻撃し、酸素官能基を生成することができる。酸素官能基は、黒鉛粒子/片状黒鉛120の膨張をもたらし、これは、SO2−イオン及び水分子のインターカレーションを促進する。印加電流及び電圧で、水の酸素ガスへの電気分解が正電極作用電極125及び黒鉛粒子/片状黒鉛120で起こり、同じことはギャラリー間の黒鉛中のインターカレートされた水に起こることがあり、したがって、黒鉛剥離プロセスに寄与する。電気化学剥離以外に、撹拌スピンバー161により、黒鉛層間にせん断力が生じ、黒鉛粒子/片状黒鉛120の剥離を補助し、連続的な撹拌により、助長された繰り返しの剥離及び酸化がもたらされる。最終的に、繰り返しの電気化学剥離及び酸化プロセスの組合せにより、片状黒鉛がグラフェンオキシド(又はEGO)に最終的に変換される。
【0043】
[61]図2は、撹拌を用いた電気化学剥離後の片状黒鉛の大きな体積膨張を、撹拌を用いない対照実験との比較で、例示している。さらに、電気化学剥離の間のSOイオンのインターカレーションの段階の模式図が、図3に示されている。
【0044】
[62]したがって、本発明の方法は、少なくとも以下の利点を有する。
1.費用の高いバルク黒鉛の使用を回避する、ゆるい片状黒鉛及びさらには採掘後そのままの片状黒鉛(より容易により大きな体積が製造される)の直接使用;
2.グラフェンシートの所定の官能基の性質及び密度の、高度な制御能;
3.高い再現性及びスケーラビリティ;並びに
4.バッチ式プロセスの連続プロセスへの変換の可能性。
【0045】
[63]本発明のプロセス又は方法により、任意の他の従来のGO製造方法では製造することができない組成を有する高品質のグラフェンオキシドを製造することができる。したがって、本発明は、新しい化学的に定義された、戦略的に有用な電気化学誘導されたグラフェンオキシド(EGO)(酸素官能性は、実質的にヒドロキシ(アルコール)又はエポキシの形態である)にも関する。
【0046】
[64]本発明のグラフェンオキシドは、例えば、図4に示す赤外分光法結果に示されるように、酸素官能性を備え、これは、化学酸化されたグラフェンオキシドに典型的に存在するカルボニル官能基C=O基を実質的に含まない。本発明によって製造されたグラフェンオキシドは、むしろ、ヒドロキシ及びエポキシ基から本質的になる。これは、黒鉛の縁及び底面のヒドロキシルラジカルからの攻撃によって主に起こる電気化学酸化の性質によるものである。化学酸化されたグラフェンオキシド及び本発明によって製造されたグラフェンオキシド(ECO)の代表的な構造の比較が、図5に示されている。
【0047】
[65]本発明のグラフェンオキシドは、以下の特有の性質を示す。
a.他の電気化学的方法と比較して高い分散性、及び
b.感熱酸素官能基(エポキシ、ヒドロキシル)により、低温(200℃)での単純な熱還元を使用して、高導電性グラフェンシートを形成することが可能であること。
【0048】
[66]以下の実施例に記載し、表1に示すように、本発明の方法から形成されたグラフェンオキシドは、単純な熱還元を通して得られた、高い導電率(逆に低い抵抗)を有する。高導電グラフェンを得るための容易な還元の利点を利用することができる他の適用は、リチウムイオン電池及び透明導電電極である。比較すると、対照の化学誘導されたグラフェンオキシドは、同じ熱還元処理の後、絶縁体のままであった。
【0049】
[67]
【表1】
【実施例】
【0050】
実施例1−機械補助された電気化学的方法
実験
材料:
[68]実験に使用した片状黒鉛は、Sigma−Aldrichから購入した(製品番号332461)。すべての化学薬品をSigma−Aldrichから得、受け取った後そのまま又は超純水で必要な濃度に希釈して使用した。
【0051】
機械補助された電気化学的方法:
[69]図1に例示するように、基本電気化学構成要素として作用電極125、対電極145、電解質115(50体積%硫酸)及び電源140、並びに追加の磁気撹拌器162及びスピンバー161を有する、電気化学構成100(図1)を使用した。電解質に浸漬したPVDF膜(0.6μm孔、Durapore、Millipore)で蓋をした逆50mL遠心管を備える黒鉛コンテナ110を、片状黒鉛を含有するために使用した。黒鉛コンテナ110は、コンテナ110の内壁の周りに置かれた円柱状白金メッシュ(PT008710、Goodfellow Cambridge Ltd.、UK)作用電極125を有していた。磁気Teflonスピンバー161を、ゆるい片状黒鉛120(典型的には200mg)と一緒に、コンテナ/管110の内側に置いた。白金メッシュ又はワイヤ対電極145を、250mLビーカー/黒鉛コンテナ110の外側の外部コンテナ150に置いた。PVDF膜により、黒鉛及びグラフェンオキシド生成物は黒鉛コンテナ110の内部に維持されたが、イオン及び電解質は通過することが可能であった。典型的な実験室磁気撹拌器162を、磁気スピンバー161の回転を制御するために使用した。
【0052】
比較/対照「T−セル」法:
[70]機械補助されない電気化学的方法についての対照実験及び異なる電解質の効果を評価するための簡便な方法として、電解化学誘導されたグラフェンオキシド(EGO)も、微電流定電流法を使用して、図6に示す二電極Swagelok Teeセル200において調製した。アノードのサンプルは、結合剤を含まない片状黒鉛を、直径13mm、厚さ185μmのペレットに圧縮(圧力:100bar)することによって得られた黒鉛ディスク210であった。ディスク210の質量は約40mgであり、円形白金作用電極215と接触させて置いた。円形白金板(直径13mm)を、対電極225として用いた。黒鉛箔又はディスク210を、短い分離管230によって、対電極225から分離した。調製プロセスの間、I=50μA/mgの電流密度を、異なる期間セル200に付加した。黒鉛ディスク210を、徐々にインターカレートさせ、70%過塩素酸で酸化させた。電気化学酸化プロセスの後、固体を、中性pHが得られるまで遠心分離を介して水で繰り返し洗浄した。
【0053】
[71]さらなる比較のために、化学誘導されたグラフェンオキシド(CGO)を、その内容がこの参照によって本明細書に組み込まれると理解されるべきである、Kovtyukhova NI、Ollivier PJ、Martin BRら(Layer−by−layer assembly of ultrathin composite films from micron−sized graphite oxide sheets and polycations. Chemistry of Materials 1999;11:771−778)で最初に報告された改変Hummers法によって合成した。
【0054】
特徴付け:
[72]X線回折(XRD)パターンを、室温で、Philips 1130X線回折計(40kV、25mA、Cu Kα放射、λ=1.5418Å)で記録した。データを2°/分の走査速度及び0.02°の間隔で5°〜40°まで収集した。減衰全反射法(ATR)FTIR測定を、ユニバーサルATRアクセサリー(ダイアモンド/ZnSe ATR結晶)に連結したPerkinElmer Spectrum 100システムで実施した。
【0055】
[73]サンプルの熱重量分析(TGA)を、熱重量分析/示差熱分析装置(TG/DTA)6300で実施した。サンプルを、アルゴン雰囲気下5℃/分で、30℃〜700℃に加熱した。EGOフィルム(直径:35mm、厚さ:80μm)についての電気伝導率測定を、直列4点ヘッドを使用することによって、Jandel 4点伝導プローブで実施した。
【0056】
[74]SEM画像を、Nova450及びJEOL JSM7001F走査電子顕微鏡を使用して得た。X線光電子分光法(XPS)分析を、180W(15kV×12mA)の電力でモノクロメーターのAl Kα源とともにAXIS Ultra DLD分光計(Kratos Analytical Inc.、Manchester、UK)を使用して実施した。
【0057】
結果
[75]電気化学誘導されたグラフェンオキシド(EGO)の、機械補助された電気化学製造:典型的な電気化学的条件は、図1に示す実験室構成について、50体積%HSO電解質中200mgの黒鉛を用いて、1Aの電流を24時間印加することである。電気化学プロセスの間、正の定電流(1A)を作用電極−白金メッシュに印加した。同時に、スピンバーを回転させ、管コンテナ中で黒鉛スラリーの渦を生じさせ、遠心管の片状黒鉛をPtメッシュに向けて押した。結果として、片状黒鉛の作用電極との密接な物理的/電気的接触が生じた。片状黒鉛は正電荷を帯び、電気化学酸化及び剥離が生じた。さらに、スラリーの渦のせん断力により、酸化されたグラフェン層の剥離が補助された。反応(24時間)後、剥離し、酸化したEGO生成物を、EGO分散液のpHが6.0よりも高くなるまで遠心分離を介して水で繰り返し洗浄した。図2は、撹拌を用いた電気化学剥離後の片状黒鉛の体積膨張を、撹拌を用いない対照実験との比較で、示している。
【0058】
[76]図7は、グラフェンオキシドの酸素官能基の存在によって生じるギャラリー間の間隔の増加による、黒鉛(25.6°でのXRDピーク)からグラフェンオキシド(11.4°でのXRDピーク)への変換を確証する、EGO生成物のXRDパターンを示している。
【0059】
形態的及び構造的特徴付け:
[77]EGOの形態を、穴のある炭素グリッドをEGO分散液に漬けることによる透過型電子顕微鏡法(TEM)によって調査した。図8aは、約数マイクロメートルの側面サイズを有する典型的なEGOシートを示している。折りたたまれ、巻かれた縁が観察でき、これは、柔軟な単一シートのグラフェンの特徴である。図8bに示すように、EGOシートの縁を拡大すると、観察された単一のフリンジにより単一層EGOの存在が明らかになる。図8cから、典型的な6回対称回折パターンが観察される。(0−110)面からの回折点の強度は、(1−210)面からの回折点の強度よりも強く(図8d)、したがって、観察されたEGOが単一層であることをさらに確証している。
【0060】
[78]EGOシートの厚さをさらに検査するために、原子間力顕微鏡法(AFM)を用いた。図9aは、異なる厚さを有する、数枚積層されたEGOシートを示している。AFM画像の上面で、折りたたまれ、くしゃくしゃになったEGOシートが観察されたが、これは、単一層のEGOの特徴である。図9bに示すようにEGO片を横切る高さプロファイルの線を引くことによって、EGOシートの厚さが1.5nmであることが分かった。このことは、EGOシートにおける酸素官能基の存在を示している。厚さを測定することによって、異なるEGOシート又は積層部分の層の数を、図9aに標識した。約1.5nmの厚さを有する、別の典型的な単一層EGOシートを図9c及びdに示している。生成物の単層EGOの分率を推定するために、数枚のAFM画像を分析して、厚さの統計を生成した。異なる層数のEGOシートの数分率を、図9eに示すように算出した。データから、生成物の単層EGOの数分率は約66%であることを見出すことができる。質量分率を算出するために、すべてのグラフェンシートの面積を測定し、式1を使用する。生成物の単層EGOシートの質量分率は、約33質量%である。しかし、数層のEGOは、1.5nm(単一シートEGOの厚さ)の倍数であり、これは、EGO生成物が、すべて良好に酸化されており、加工ステップの間の不完全な剥離又はわずかな凝集のために、数層のEGOとして存在していることを示していることに注意することが重要である。
【0061】
【数1】
【0062】
[79]MIndは、すべての単層グラフェンの質量である。Mは、すべてのEGOシートの質量である。
【0063】
EGOの化学組成:
[80]図10aは、加熱を用いない、EGOのX線光電子分光法(XPS)検査スペクトルを示している。異なる温度での加熱後のEGOの炭素及び酸素含有率が、図10bに示されており、これは、図10aにおけるピーク比から算出し、それらの原子感度係数について較正したものである。製造後そのままのEGOシートは、およそ21.0atom%の酸素及び76.4atom%の炭素を含有していた。加熱温度を上昇させると(超高真空で)、600℃での加熱後、酸素含有率は、7.8atom%に減少し、炭素は91.6atom%に増加した。原子組成の大幅な変化は、約200度で起こり、これは、この温度でのEGOの容易な熱脱酸素を示している。図10cは、室温でのEGOの高分解能XPS C 1sスペクトルを示しており、ここで3個の炭素成分を曲線に適合させることができる。これらは、C=C(60.3atom%)、C−O/C−O−C(32.5atom%)及びCOOH(7.2atom%)官能基の存在を示していた。熱アニーリングの間、C=C含有率は増加し、C−O/C−O−Cは減少し、これは、加熱による酸素官能基の除去を示している。
【0064】
EGOの分散性:
[81]EGOを、超音波処理によって、異なる溶媒:水、DMF、IPA、エタノール、THF、アセトン、トルエン、ヘキサンに分散した。図11は、超音波処理直後、超音波処理の1日、1週間及び1ヶ月後のすべての分散液の写真を示している。「超音波処理直後」サンプルについて、EGOが、水、DMF、IPA及びエタノールに良好に分散され得たが、THF、アセトン、トルエン及びヘキサンには分散されていないことを観察した。1ヶ月後、EGOの堆積がIPA分散液及び水分散液において観察されたが、DMF及びエタノール分散液では観察されなかった。このことは、DMF及びエタノール中のEGOの長期安定性を示している。
【0065】
「Tセル」法:
[82]電気化学的方法を、機械補助された方法に対する比較における対照実験として、並びにまた、電気化学機構を研究するため、及び電解質の効果を評価するための簡便な方法として、図6に示すSwagelok「Tセル」構成200(静的環境)で実施した。図12に示すように、最適黒鉛質量負荷は、黒鉛(25.6°でのXRDピーク)のほとんどが、グラフェンオキシド(約15°でのXRDピーク)に変換されたことを示した、40mg未満に制限した。最適黒鉛質量負荷を超えると、変換百分率は、劇的に減少し、静的方法は大規模に実現できず、機械による撹拌が、黒鉛のグラフェンオキシドへの完全な変換のために重要であることが示された。
【0066】
[83]電気酸化機構及び他の電解質(70%過塩素酸)の効果を研究するために、黒鉛ディスクを、一連の時間間隔について電気酸化させ、XRDを介して直ちに特徴付けした。アノード酸化の6.5キロ秒(ks)後の電解セルから取った黒鉛ディスクは、段階1 HClO−GICに典型的なXRDパターンを示した(図13)。11.8°及び35.2°での(001)及び(003)シグナルとともに23.2°2θ角での(002)回折ピークは、明確に段階1 HClO−GICに割り当てることができる。50ksの酸化後、段階1 HClO−GICシグナルは、まだ観察することができたが、幅が広がっていた。60ksで荷電が生じた場合、(001)及び(003)回折ピークは消失し、(002)回折ピークは、さらに幅広くなり、これは、黒鉛が広範囲にわたって剥離したことを示していた。
【0067】
[84]図14に示すように、EGOサンプルを終夜水に浸漬した後、6.5ksサンプルを除くすべてのサンプルについて、約8.5°で新しい回折ピークが観察された。この回折ピークは、酸素含有官能基の存在に帰することができた。すべての酸化されたサンプルの(002)回折角が26.6°にシフトし、(002)回折ピークの幅が帯電時間に関して、とりわけ50ks帯電後のサンプルについて増加したことを除き、(002)回折ピークはほとんど見ることができなかった。このことは、長い反応時間後には、積層された多層グラフェンはほとんど存在しなかったことを例示していた。この浸漬プロセスにおける水の役割は、以下の2つの方法のうちの1つと解釈することができる。1)酸化されたサンプルの水への浸漬により、酸化されたサンプルと水との間の溶媒和された酸の濃度勾配のために、単純に拡散によって、サンプル中の溶媒和された酸含有率が減少し、したがって、結晶度が改善された、又は2)水の添加により酸化されたサンプルの加水分解を加速することができ、これが最終的にそれらのEGOへの変換につながった。
【0068】
[85]酸化されたサンプルを、残りの酸を完全に除去するために、水で連続的に洗浄し、得られたサンプルを、図15に示すように、再度XRDによって特徴付けした。一般に、図15の曲線は、それらの傾向及び2θ回折角の点で図15の曲線と類似しているが、差異は、図15のグラフェンオキシド回折ピークがより鋭く、より明らかであることである。このことは、酸化されたサンプルが、水で洗浄された後、より良好に再積層されたことを示した。
【0069】
[86]図16は、真空オーブンで乾燥後、洗浄されたサンプルのXRDスペクトルを示している。図16に示すように、EGOサンプルは、CGOの層間d間隔(8.37Å)と比較して、より小さい層間d間隔(6.0〜6.7Å)とともに、より幅広い回折ピークを有し、これは、EGOにおける官能基の量がより少ないことによると思われる。酸化された湿サンプル及び酸化された乾燥サンプル間には2つの主な差異が存在する。第1に、26.5°での回折ピークは、60ksの反応後の酸化されたサンプルについては非常に幅広かったものの、すべての乾燥サンプルで可視であった。第2に、図14及び15で約8.5°の以前の回折ピークが、より高い角度に移動した。より大きな回折角について較正した回折ピークの強度は、反応時間の増加につれて強くなった。2つの可能性のある理由が存在する。第1に、水が、加熱によって酸化されたサンプルのギャラリーからなくなった場合、層間間隔は、縮小し、これは、最終的に回折角のシフトにつながる。第2に、炭素面には多くの異なる酸素含有官能基が存在し、これらの異なる官能基は、グラフェン層間の層間間隔の異なる拡大を生じると思われる。
【0070】
[87]EGOサンプルの酸化度と帯電時間との間の関係をさらに確認するために、TGAを用いて異なるEGOサンプルにおける官能基の相対量を定量した。図17は、不活性雰囲気での異なるEGOサンプル及びCGOの重量減少率プロファイルを示している。図17から見られるように、より長い帯電時間は、700℃でのより低い重量保持率(65.1質量%〜72質量%)に対応した。重量保持率は、70ksの帯電を超えるとほとんど変化しなかったことも、指摘するべきである。比較として、EGOサンプルの最低重量保持率の値が、Brodie法によって調製した酸化黒鉛(56.7質量%)及びCGO(47質量%)よりも高かった。TGA曲線の一次導関数は、元のTGAデータ及び約250℃で起こる大幅な重量減少からも算出することができ、これは、Hummers法(202℃)によって調製したサンプルよりも高いが、Brodie法(281℃)よりも低い。
【0071】
[88]様々なEGO酸素含有官能基の存在は、図18に示すようにそれらのFTIRスペクトルの分析によって確認することができる。C−O、C−OH、C=O及びO−H伸縮に対応する主なピークは、それぞれおよそ1070、1420、1715及び3500cm−1で観察された。約1568cm−1でのピークは、面伸縮におけるspハイブリダイズC=Cに対応しており、1620cm−1ピークは、カルボキシル(COOH及び/又はHO)振動モードのためであった。しかし、一部のピークの相対強度は、顕著に異なっており、これは、異なる合成方法により、炭素面における異なる化学官能性につながったことを示していた。CGOと比較して、EGOサンプルは、1715cm−1で極度に弱いスペクトル特性を示したが、これは、C=Oの量が比較的少ないことを意味している。より高酸化度のCGOは、対応するより強いC=Oピーク伸縮を有したことが観察された。
【0072】
[89]図19から、4点プローブ測定により、EGOが非常に10〜10Sm−1のオーダーの導電率の、非常に導電性であったことが示されており、これは、CGOよりもおよそ7又は3桁高い導電性であり、化学変換グラフェン(CCG)にさえ匹敵する。導電率は、電気酸化/反応時間の増加に伴い減少したが、これは、グラフェンでのより多くの官能基の形成と一致している。
【0073】
結論
[90]機械補助された、グラフェンオキシドの新規な電気化学製造が実証され、機械による補助により、電気化学誘導されたグラフェンオキシド(EGO)の大規模に実現可能な製造が可能になることが見出された。グラフェンオキシドの大規模に実現可能な電気化学製造は、黒鉛質量負荷の増加に伴うグラフェンオキシドへの不完全な変換から証明されるように、静的構成では可能ではなかった。製造後そのままのEGOは、主に、エタノール及びDMFへの良好で安定な分散性を有する、単一層グラフェンオキシドであることが見出だされた。様々な特徴付けを通して、EGOは酸素含有官能基、特に、グラフェンシートの縁又は穴縁に位置することが公知であるカルボキシル(COOH)官能基を、より少なく示した。硫酸と比較して、より酸化性の酸(過塩素酸)を用いた調査により、伝統的な厳しい化学酸化法(例えば、Hummers法及びドブロイ法)と比較して同様に穏やかな酸化作用が示された。機械補助された電気化学的製造方法の非爆発性で大規模に実現可能な性質は、産業によって高く求められるようになり、将来の研究において探求されるであろうグラフェンオキシド生成物のより高い制御を提案する。
【0074】
[91]当業者であれば、本明細書に記載の本発明が、具体的に記載されているもの以外の変化形態及び変更形態で実施可能であることを認識するであろう。本発明は、本発明の精神及び範囲内に入る、すべてのそのような変化形態及び変更形態を含むことが理解される。
【0075】
[92]用語「含む(comprise)」「含む(comprises)」「含まれる」又は「含むこと」が、本明細書(特許請求の範囲を含む)において使用されるとき、これらは述べられた特徴、整数、ステップ又は構成要素の存在を特定するが、1又は複数の他の特徴、整数、ステップ、構成要素又はこれらの群の存在を除外しないものとして解釈されるべきである。
図1(a)】
図1(b)】
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10a
図10b
図10c
図10d
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17a
図17b
図18
図19