(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両に備えられ、車幅方向に延びるトーション部と、車両の前後方向に延びるアーム部と、前記トーション部と前記アーム部とを接続する曲げ部とを備える管状の中空スタビライザの製造方法であって、
中空スタビライザの素材となる素管に曲げ加工を施して前記曲げ部を備える製品形状に成形する成形工程と、
曲げ加工が施された前記素管に焼入れを施す焼入れ工程とを含み、
前記焼入れ工程において、前記素管の両端間に通電して通電加熱を行い、加熱された前記素管を冷却剤に浸漬し、前記素管の内部に冷却剤を噴入すると共に、前記曲げ部の曲げ内側の外面に対向するように相対位置を固定してノズルを配置し、前記ノズルから前記曲げ部の曲げ内側の外面のみに冷却剤を噴射して冷却処理を行うことを特徴とする中空スタビライザの製造方法。
前記成形工程において、加熱された前記素管に総曲げ型を使用した曲げ加工を施すことを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか一項に記載の中空スタビライザの製造方法。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、車輪の上下の偏移による車体のロールを抑制するスタビライザ(スタビライザーバー又はアンチロールバー)が備えられている。スタビライザは、一般に、車幅方向に延びるトーション部と、車両の前後方向に向けて曲げ成形された左右一対のアーム部とを備えており略コ字状の棒体からなる。車両において、スタビライザは、各アーム部の先端が車輪の懸架装置にそれぞれ連結され、トーション部が車体側に固定されたブッシュに挿通されることによって、左右の懸架装置の間に懸架された状態で支持される。
【0003】
運転時に車両がコーナリングしたり路面の起伏を乗り越えたりする際には、左右の車輪の上下により左右の懸架装置にストローク差が生じる。このとき、スタビライザの各アーム部には、各懸架装置間のストローク差に起因する荷重(変位)がそれぞれ入力され、各アーム部からの荷重(変位差)によってトーション部がねじれ、ねじれ変形を復元しようとする弾性力が生じる。スタビライザは、このねじれ変形を復元しようとする弾性力によって左右の車輪の上下変位差を抑え車体のロール剛性を高め、車体のロールを抑制する。
【0004】
スタビライザの形態としては、中実構造を有する中実スタビライザと、中空構造を有する中空スタビライザとがある。中実スタビライザは、機械的強度に優れ、製造コストも低廉に抑えられるといった特徴を有している。これに対して、中空スタビライザは、中実スタビライザと比較して機械的強度の確保が容易でないものの、車両の軽量化を図るのに適した形態となっている。中空スタビライザの素材としては、一般に、電縫鋼管、継目無鋼管、鍛接鋼管等が利用されている。これらの中でも、電縫鋼管は、製造コストが低く量産性にも優れていることから中空スタビライザの素材として多用されている。
【0005】
中空スタビライザは、このような鋼管に曲げ加工を施して製品形状に賦形した後、熱処理を施すことによって製造することが多い。曲げ加工としては、NCベンダを使用して行う冷間曲げ加工や、総曲げ型を使用して行う熱間曲げ加工等が鋼管の厚さや径に応じて実施されている。また、熱処理としては、一般に、油焼入れ又は水焼入れと焼戻しとが行われている。或いは、冷間曲げ加工された鋼管に、焼入れ焼戻しに代えて焼鈍を施すアズロール型の工程が実施されることもある。そして、熱処理が施された鋼管は、ショットピーニングによる表面加工処理や、塗装処理等の仕上処理を経て製品化されている。
【0006】
近年、自動車等の車両においては、電気モータや二次電池の搭載等によって車両重量が大重量化する傾向がみられる。これに伴って、中空スタビライザについても、より高い応力に対応すべく、機械的強度や疲労耐久性等の更なる向上が求められている。従来、中空スタビライザの素材としては、管の厚さ(t)と外径(D)との比(t/D)が比較的小さく、管の厚さが5.5mm程度未満であり、寸法精度や成形性が良好な薄肉の電縫管が利用されてきた。しかしながら、現在では、大径且つ厚肉の電縫管を熱間で縮径圧延することによって、多岐にわたる外径について、より厚肉の鋼管が製造されるようになっている。そして、鋼管の厚さ(t)と外径(D)との比(t/D)の選択幅が拡大されることで、機械的強度の確保に主眼を置いた中空スタビライザの設計範囲も拡がってきている。
【0007】
例えば、特許文献1には、安価で品質の良好な鋼管を提供する技術として、肉厚tと外径Dの%比がt/D≧20%である中空スタビライザー用電縫溶接鋼管が開示されている。また、肉厚tと外径Dの%比がt/D≧20%である中空スタビライザー用電縫溶接鋼管は、電縫溶接後に縮径圧延されてなる電縫溶接鋼管を採用することによって実現することができ、鋼管をストレッチレデューサによって熱間絞り圧延することにより、鋼管の外径を縮径し、結果として絞り圧延前に比較してt/Dを増加させることができることが記載されている(段落0009参照)。
【0008】
また、特許文献2には、スタビライザの耐久性を得る技術として、電縫管を熱間または温間の温度範囲で縮管して外径に対する肉厚の割合を18〜35%にする縮管工程を行い、縮管された電縫管をスタビライザ形状に冷間で成形する成形工程を行い、成形されたスタビライザ半製品に対して熱処理工程を行い、次いで、スタビライザ半製品にショットを投射するショットピーニングを行い、次いでスタビライザ半製品に塗装を行うことを特徴とする中空スタビライザの製造方法が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
はじめに、本発明の実施形態に係る中空スタビライザの製造方法によって製造される中空スタビライザについて図を用いて説明する。なお、各図において共通する構成要素については同一の符号を付して示し、重複する説明を省略する。
【0019】
図1は、中空スタビライザの一例を示す図である。(a)は、車両に備えられる懸架装置に連結された中空スタビライザの斜視図であり、(b)は、中空スタビライザの平面図である。
【0020】
本実施形態に係る中空スタビライザの製造方法では、
図1に示されるような車両用の中空スタビライザ1を製造することができる。中空スタビライザ1は、中空の鋼管などを用いて成形される管状のスタビライザである。中空スタビライザ1は、車幅方向に延びるトーション部1aと、車両の前後方向に延びる左右一対のアーム部1b,1bとを備えている。
【0021】
中空スタビライザ1は、中空スタビライザ1は、車幅方向に延びるトーション部1aの両端に対称的に位置する曲げ部1c,1c(
図1(b)に破線で示す)でそれぞれ屈曲され、左右一対のアーム部1b,1bに連なる略コ字状の形状を有している。なお、曲げ部1cは2か所以上有する構成としてもよい。
【0022】
中空スタビライザ1は、トーション部1aの外径Dが約10mm〜約43mmであり、板厚tが約2mm〜約10mmである。後記するt/Dとは、上記の(板厚t/外径D)を示す。各アーム部1b,1bの先端には、取り付け部となる平板状の連結部(目玉部)1d、1dを有している。連結部(目玉部)1d、1dは、プレス加工によって取り付け孔1d1、1d1を有する平板状(扁平状)に形成されている。
【0023】
アーム部1b,1bの先端の各連結部1d、1dは、スタビライザリンク2,2を介して、不図示の車体に固定される左右一対の懸架装置3,3にそれぞれ連結されている。各懸架装置3の車軸部3aには、不図示の車輪が取り付けられる。懸架装置3は、圧縮ばね、オイルダンパを有し、車輪からの衝撃、振動等を内部摩擦、粘性抵抗により減衰して車体に和らげて伝える働きをする。
【0024】
トーション部1aは、車体の不図示のクロスメンバ等に固定されるゴム製のブッシュ4に挿通されて、左右の懸架装置3,3の間に懸架される。この構成により、左右の車輪の上下移動により左右の懸架装置3,3にストローク差が生じると、各懸架装置3,3から各アーム部1b,1bに変位による荷重が伝達され、トーション部1aがねじり変形する。そして、トーション部1aには、該ねじり変形を復元しようとする弾性力が生じる。中空スタビライザ1は、このねじり変形に抗する弾性力によって、車体の左右の傾きを抑えてロール剛性を高め、車両の走行を安定化させる。
【0025】
中空スタビライザ1は、電縫管、SR(Stretch Reduce)管(熱間圧延電縫鋼管)、電縫引抜鋼管等の鋼管を素材としている。電縫鋼管は、熱間で鋼板がロールによりパイプ状に成形され、パイプの長手方向の継目となる短手方向の端縁が電気抵抗溶接で接合される。そして、パイプの継目にある外面ビードは、機能上障害となるため、切削加工により除去される。SR管は、大径の電縫管が用意され、高周波加熱が行われる。その後、熱間絞り加工による成形により小径管に厚肉化され、いわば厚肉小径管の電縫管が製管される。また、電縫引抜鋼管は、母材となる電縫管やSR管を、プラグを挿入して行う冷間引抜加工等により縮径化することによって得られる鋼管である。電縫引抜鋼管の引抜加工に伴う断面積の減面率は、一般に30%以上45%以下程度の範囲である。
【0026】
例えば、外径約12mm〜約44mm、板厚tが約2mm〜約6.5mmの中空スタビライザ1には、電縫管が使用される。t/D=0.09〜0.22程度の中空スタビライザ1である。また、外径約12mm〜約44mm、板厚tが約2mm〜約10mmの中空スタビライザ1には、SR管が使用される。t/D=0.12〜0.31程度の中空スタビライザ1である。
【0027】
図2は、中実スタビライザと等価サイズの中空スタビライザとを重量、外面応力、内面応力で比較したものである。横軸にt(板厚)/D(外径)をとり、縦軸に重量(実線)、外面応力(破線)、内面応力(一点鎖線)をとっている。
図2においては、中実スタビライザの場合を100%として、中空スタビライザでどのように重量、外面応力、内面応力が変化するかを表わしている。そのため、中実スタビライザの重量、外面応力が100%であり、中実スタビライザは、内面がなく内面応力が発生しないので、内面応力は0%である。
【0028】
重量は中実スタビライザが100%であり、t/Dが低下する(板厚tが薄くなる)に従って、板厚tの変化は径の変化であるので、重量比は2次関数的に低下する。中実スタビライザからt/Dが低下する中空スタビライザとなると断面積が減少することから、外面応力、内面応力は増加する傾向となる。
【0029】
外面応力は、中実スタビライザからt/D=0.275以上の中空スタビライザ1まで同等であり、t/D=約0.275を境にt/Dが低下するに従って外面応力は増加する。なお、t/D=約0.275の中空スタビライザ1とすると重量が約20%低下できる。
【0030】
内面応力は、中実スタビライザが0%であり、t(板厚)が減少する(t/D低下する)に従って断面積が減少するに伴い、内面応力が増加する。t/Dが約0.275以下での内面応力は外面応力より変化が大である。t/D=約0.18以下では、内面からの疲労破壊が発生する。t/D=約0.18以下では、内面応力および外面応力ともに急激に上昇する。そこで、t/D=約0.18以下では、内面の硬度の向上がより重要である。
【0031】
内面応力は、中実スタビライザが0%であり、t(板厚)が減少する(t/D低下する)に従って断面積が減少するに伴い、内面応力が増加する。t/Dが約0.275以下での内面応力は外面応力より変化が大である。t/D=約0.18以下では、内面からの疲労破壊が発生する。t/D=約0.18以下では、内面応力および外面応力ともに急激に上昇する。そこで、t/D=約0.18以下では、内面の硬度の向上がより重要である。
【0032】
以上のことから、t/D=約0.18以下では、内面応力および外面応力ともに急激に上昇するため、内面側および外面側の硬度向上がより必要となる。また、中空スタビライザ1は、t/D=約0.18〜0.275など板厚tが厚くなるので、前記したように、曲げ部1cの内側の焼入れが不充分となるおそれがある。一方、t(板厚)が厚く中実に近いt/D=0.275以上では、外面応力が中実の場合と同様であり、内面応力が低いため、内面応力の管理は不要としてもよいと考えられる。
【0033】
図1(b)に示すように、中空スタビライザ1が備えるトーション部1a及びアーム部1bは、略直管状の形状をそれぞれ有している。その一方で、曲げ部1cは、中空スタビライザ1の軸方向に曲率を持つ曲げ形状を有している。なお、本明細書においては、曲げ部1cは、
図1(b)に破線で示すように、略直管状のトーション部1aと中空スタビライザ1の軸方向に曲率を持つ部位との境界と、略直管状のアーム部1cと中空スタビライザ1の軸方向に曲率を持つ部位との境界とによって挟まれる領域を意味するものとする。したがって、中空スタビライザ1が多段曲げされた製品形状を有する場合には、曲げ部1cが直管状の区間を一部に有することも妨げられない。
【0034】
この曲げ部1cは、中空スタビライザ1の実使用時において、アーム部1bの一端側に加わる荷重が他端側に連結するために曲げ応力とねじり応力が発生し、通常、中空スタビライザ1における最大主応力が分布する領域となっている。したがって、管の厚さ(t)と外径(D)との比(t/D)が所定範囲にある場合には、中空スタビライザ1の疲労強度を向上させる上で、鋼管の内面側の硬さ、特に曲げ部1cの内面側の硬さの確保が重要であるといえる。
【0035】
特に、SR管の場合、中空スタビライザ1は、曲げ部1c,1c(
図1参照)の内側が焼入れが完全に入らないおそれがある。何故なら、焼入れした際、厚肉化や形状的に冷却剤が当たり難いことによる冷却速度の低下が起因するものと考えられる。焼入れが完全に入らない場合、中空スタビライザ1の耐久性に悪影響がある。
【0036】
そこで、本実施形態に係る中空スタビライザの製造方法では、中空スタビライザ1の素材となる鋼管に焼入れを施す際に、鋼管に冷却剤を噴射して冷却処理を行い、曲げ部1cの外面のみならず内面についても焼の入りを向上させて、曲げ部1cの内側の焼入れ硬さの向上を実現するものとしている。
【0037】
図3は、本発明の実施形態に係る中空スタビライザの製造方法を示す工程図である。
【0038】
図3に示す中空スタビライザの製造方法は、成形工程S10と、焼入れ工程S20と、焼戻し工程S30と、管端加工工程S40と、表面加工工程S50と、塗装工程S60とを含んでなる。この製造方法では、これらの工程を順次経ることによって中空スタビライザ1の製造を行う。
【0039】
中空スタビライザ1の素材となる素管の長さ及び径は、所望の製品形状に応じて適宜の寸法とすることが可能である。前記したように、電縫管の場合、トーション部1aの外径は約12mm〜約44mm、板厚tが約2mm〜約6.5mmの範囲を用いる。t/D=0.09〜0.22程度である。SR管の場合、例えば、トーション部1aの外径は約12mm〜約44mm、板厚tが約2mm〜約10mmの範囲を用いる。t/D=0.12〜0.31程度である。
【0040】
中空スタビライザ1の素管は、管の厚さ(t)と外径(D)との比(t/D)が、0.10以上であることが好ましい。曲げ成形時に素管が屈曲されると、素管の曲げ外側は、曲げ方向に引っ張られて管の厚さ(t)が薄くなる一方で、曲げ内側は、曲げ方向に圧縮されて管の厚さ(t)が厚くなる傾向がある。管の厚さ(t)と外径(D)との比(t/D)が0.10以上であれば、このようにして素管の断面形状が扁平化することが少ないため、素材として好適に用いることができる。
【0041】
中空スタビライザ1の素管は、マンガンボロン鋼、ばね鋼等の適宜の材質とすることができる。これらの中でも好ましい材質は、マンガンボロン鋼である。マンガンボロン鋼の炭素(C)量は、0.20質量%以上0.35質量%以下であることが好ましい。炭素量を0.20質量%以上とすることで、良好な強度や硬さを確保することができる。また、炭素量を0.35質量%以下とすることで、良好な成形性や、電縫管の製造時の溶接性を確保することができる。
【0042】
成形工程S10は、中空スタビライザの素材となる素管に曲げ加工を施して曲げ部を備える製品形状に成形する工程である。この工程では、素管を曲げることによって、左右一対の曲げ部1c,1cを形成し、各曲げ部1cを介してトーション部1aとアーム部1cとが連なる製品形状近くに賦形する。素管の溶接部の余盛は、素管の外面側のみが除去されたものであっても、外面側と内面側との両方が除去されたものであってもよい。なお、曲げ加工は、所望の製品形状に応じて、複数の曲げ部1cが形成されるように複数箇所に施すことが可能である。
【0043】
素管の成形は、曲げ加工によって行う。また、曲げ加工は、総曲げ型を使用した型成形、及び、ベンダを使用した曲げ成形のいずれであってもよい。総曲げ型を使用した型成形が特に好適である。一般に、総曲げ型を使用した型成形においては、素管の曲げ外側が両管端側にそれぞれ引張られて、曲げ部1cの断面形状が扁平化する傾向がある。しかしながら、素管の管の厚さ(t)と外径(D)との比(t/D)が0.10以上であれば扁平化のおそれは低いため、総曲げ型を使用して一括した多段曲げを施すことが可能なことが多い。
【0044】
曲げ加工における加熱方法としては、加熱炉による加熱、通電加熱、高周波誘導加熱等の適宜の方法を用いることができる。通電加熱は、急速加熱によって脱炭や脱ホウ素を抑制しつつ素管を加熱処理することができる。そのため、通電加熱を用いることが好ましい。型成形における加熱温度は、約900℃以上約1200℃以下が好ましい。この温度での型成形は、加工性がよく、量産性も高い。一方、720℃以下で曲げ加工を行う場合は、ベンダを使用した曲げ成形が好ましい。
【0045】
焼入れ工程S20は、曲げ加工が施された素管に焼入れを施す工程である。この工程では、詳細には、加熱処理によってオーステナイト化させた鋼管を、液体の冷却剤を用いて下部臨界冷却速度以上で冷却処理する。
【0046】
素管の加熱処理は、加熱炉による加熱、通電加熱、高周波誘導加熱等の適宜の方法によって行うことができる。これらの中でも特に好ましい方法は、通電加熱である。通電加熱は、例えば、素管の両端に電極を兼ねたクランプをそれぞれ接続し、素管の両端間に通電することによって行うことができる。通電加熱は、低廉な処理設備で実施することが可能であり、急速な加熱も可能であるため、良好な生産性を実現するのに適している。また、素管を急速且つ長さ方向に均一に昇温させることができるため、脱炭や熱変形を低度に抑えることができる点で有効である。なお、成形工程S10において、総曲げ型を使用した熱間曲げ加工を行う場合は、素管の加熱処理を曲げ加工の前工程として行う工程としてもよい。
【0047】
素管の加熱処理は、浸炭剤を併用して行うこともできる。すなわち、焼入れ工程S20において、素管に浸炭焼入れを施すものとすることも可能である。浸炭焼き入れは、素管の外面のみ、内面のみ又は外面と内面との両方のいずれに施すこともできる。浸炭法としては、固体浸炭法、ガス浸炭法及び液体浸炭法のいずれを用いてもよい。固体浸炭法としては、木炭または骨炭に炭酸バリウム(BaCO
3)などの浸炭促進剤を用いる。ガス浸炭法は、Cを含む天然ガスなどのガスを用いて炉中で空気を混合して不完全燃焼させ、加熱して行われる。液体浸炭法は、NaCNなどを主成分とする塩浴中で加熱して行われる。
【0048】
浸炭焼入れを施す場合、素管の厚さ(t)と外径(D)との比(t/D)は、0.10以上0.275未満であることが好ましく、0.10以上0.18未満であることがより好ましい。このような内面側の焼入れ硬さの要求が高くなる比(t/D)の範囲において、浸炭焼入れを実施する形態とすることで、表面に所定硬さを有する中空スタビライザ1を実現するにあたり、疲労強度の向上に寄与しない不必要な浸炭焼入れの実施を避けることができる。また、後記する焼入れ処理における焼の入りの効果を、素管の材質によらず、より確実なものとすることができる。その一方で、素管の厚さ(t)と外径(D)との比(t/D)が0.275以上である場合には、素管の内面に浸炭焼入れを施さなくてもよい。
【0049】
素管の冷却処理(焼入れ処理)は、水焼入れ、水溶液焼入れ、塩水焼入れ、油焼入れ等の液体冷却剤を用いる適宜の方法によって行うことができる。水焼入れは、冷却剤として、水を用いる方法である。水温は、0℃以上100℃以下程度、好ましくは5℃以上40℃以下の温度範囲とすることができる。水溶液焼入れ(ポリマー焼入れ)は、冷却剤として、高分子を添加した水溶液を用いる方法である。高分子としては、例えば、ポリアルキレングリコール、ポリビニルピロリドン等の各種の高分子を用いることができる。塩水焼入れは、冷却剤として、塩化ナトリウム等の塩類を添加した水溶液を用いる方法である。
【0050】
冷却処理は、素管の材質や管の厚さ(t)や外径(D)等に応じて、適宜の冷却速度となるように実施することができる。特に好ましい冷却処理は、水焼入れを行うものである。水焼入れであれば、使用済みの冷却剤の廃棄コストや冷却剤による環境負荷を低減することができるためである。また、冷却剤自体の取り扱いや、焼入れ後の素管からの冷却剤の除去等も比較的簡便に行うことができる点で有利である。
【0051】
図4は、曲げ成形された素管の曲げ部の内側を外面から局所的に焼入れを行っている状態を示す上面図である。
【0052】
焼入れ工程S20においては、
図4に示すように曲げ加工された素管1Sを、冷却剤が満たされている焼入れ槽(不図示)に導入し、焼入れ槽中の冷却剤に浸漬させて焼入れを施す。
図4では、焼入れ処理される素管1Sが、焼入れ治具Jに固定され、焼入れ治具Jごと焼入れ槽に投入された状態を示している。素管1Sは、両管端1s1,1s2の開口が閉塞していない状態で全体が冷却剤に浸漬されている。そのため、素管1Sの外面1eの大部分と素管1Sの内面1fとは、いずれも冷却剤に接触した状態となっている。なお、
図4において、素管1Sは、透視断面が破線で示されており、焼入れ治具Jは、概略形状が2点鎖線で矩形状に示されている。
【0053】
焼入れ治具Jは、
図4に示すように、クランプc1、c2、c3、c4と、支持部j1、j2とを備えている。焼入れ治具Jは、焼入れ処理される素管1Sを支持し、焼入れ槽の槽内と槽外との間における素管1Sの搬送を容易にしている。焼入れ治具Jには、焼入れ槽に満たされている冷却剤中で、素管1Sを揺動させる機能を持たせてもよい。
【0054】
焼入れ治具Jは、例えば、板状、組板状、ラス状等の適宜の形態の本体を備える構成とすることができる。また、焼入れ処理される素管1Sを支持し得る適宜の大きさとすることができる。焼入れ治具Jは、焼入れ槽の槽外で固定された素管1Sが焼入れ槽の槽内に移送され得るように、不図示の可動機構等と連結し、焼入れ槽の槽内と槽外との間を入脱自在にすることができる。また、焼入れ治具Jは、冷却剤中で素管1Sが揺動し得るように、不図示の可動機構等によって、一軸方向又は他軸方向に往復動自在にすることができる。揺動の速度は、220mm/sec以上とすることが好ましく、350mm/sec以上とすることがより好ましい。揺動の速度の上限は、素管1Sの固定状態、冷却剤の振とう状態等にもよるが、650mm/sec以下程度とすることが好ましい。
【0055】
クランプc1、c2、c3、c4は、焼入れ治具J上に固定され、焼入れ処理される素管1Sを着脱自在に把持する。クランプc1、c2、c3、c4は、
図4においては、トーション部1a上に4体備えられているが、これに代えて、適宜の個数や配置で設けることも可能である。但し、クランプc1、c2、c3、c4は、素管1Sの熱変形を防止し得るように、素管1Sの直管状部分、すなわちトーション部1a及びアーム部1cの少なくとも一方を固定する位置に設けることが好ましく、トーション部1aのみを固定する位置に設けることがより好ましい。また、素管1Sの外面のうちでクランプc1、c2、c3、c4に接している被拘束部1h(
図1(b)参照)は、冷却剤との接触が悪化して冷却速度が低下してしまうため、曲げ部1cから離れた区間で把持する位置に設けることが好ましい。
【0056】
支持部j1、j2は、焼入れ処理される素管1Sを支持する部位である。支持部j1、j2は、例えば、焼入れ治具Jに対して高さを持つように台座等で構成され、焼入れ治具J上に固設される。支持部j1、j2は、
図4においては、アーム部1bの管端1s1,1s2側に備えられているが、これに代えて、適宜の個数や配置で設けることも可能である。但し、クランプc1、c2、c3、c4をトーション部1aを把持する位置に設ける場合は、アーム部1bを支持する位置に少なくとも設けることが好ましい。
【0057】
本実施形態に係る中空スタビライザの製造方法では、焼入れ工程S30において、冷却剤に浸漬された素管1Sの曲げ部1c,1cの内側1c1、1c2の各外面1eに冷却剤のジェット流であるジェット水流を連続的に噴射(外面ジェット)する冷却処理を実施する。冷却剤の噴射は、
図4に示される冷却剤噴射手段(n1,h1,p1、n2,h2,p2)によって行うことができる。冷却剤噴射手段からの冷却剤の噴射は、素管1Sを焼入れ槽に浸漬させると同時に速やかに開始することが好ましく、少なくともMs変態点に達するまで継続することが好ましい。
【0058】
冷却剤噴射手段は、ノズル(n1,n2)と、ホース(h1,h2)と、小型水中ポンプ(p1,p2)とを備えている。冷却剤噴射手段は、
図4に示すように、焼入れ処理される素管1Sの両管端1s1,1s2にそれぞれ配置されている。冷却剤噴射手段は、冷却処理の間には、焼入れ処理される素管1Sに対する相対位置が固定されることが好ましい。そのため、素管1Sを冷却剤中で揺動させる場合には、冷却剤噴射手段も同期するように、例えば、焼入れ治具Jに固定したり、焼入れ治具Jと一体的に設けたりすることができる。
【0059】
ノズルn1,n2は、冷却剤を噴出する部位となっている。
図4に示すように、一方のノズルn1は、冷却剤に浸漬された素管1Sの一方の曲げ部1cの内側1c1の外面1eに対向するように配置し、他方のノズルn2は、他方の曲げ部1cの内側1c2の外面1eに対向するように配置することが好ましい。焼入れ工程S20において通電加熱を実施する場合、素管1Sの曲げ部1cの内側1c1,1c2が、電流密度の集中により高温化し易い傾向がある。そのため、冷却剤を曲げ部1c,1cの曲げ内側1c1,1c2の各外面1eに直接噴射すると、冷却速度を効率的に高められる点で有利である。
【0060】
ホースh1,h2は、ノズルn1,n2と不図示の冷却剤供給源とをポンプp1,p2を介して接続している。ホースn1は、好ましくはゴム製、樹脂製、金属製例えばステンレス鋼(SUS)でできたジャバラ構造のフレキシブル管で構成され、可撓性、防錆性など、冷却剤の水を円滑に長時間供給できる機能を有すれば、特に限定されない。ホースh1,h2は、冷却剤供給源からポンプp1,p2まで、冷却剤を通流させる流路を形成する。冷却剤供給源としては、冷却剤が満たされている焼入れ槽自体や、焼入れ槽に供給される冷却剤を貯留する冷却剤貯槽等を利用することができる。すなわち、ホースh1,h2を焼入れ槽の槽内と連通し、焼入れ槽内の冷却剤を循環的にノズルn1,n2から噴射する形態としてよいし、ホースn1,n2を冷却剤貯槽等と連通し、焼入れ槽外から新たに供給される冷却剤をノズルn1,n2から噴射する形態としてもよい。
【0061】
以上の冷却剤噴射手段(n1,h1,p1、n2,h2,p2)によって、冷却剤に浸漬された素管1Sの曲げ部1cの曲げ内側1c1,1c2の各外面1eに冷却剤を噴射する冷却処理を実施することで、素管1Sの曲げ部1cの曲げ内側1c1,1c2の各外面1eと曲げ部1cの近傍の冷却剤との間の熱伝達率を増大させることができる。そのため、素管1Sの曲げ部1cの冷却速度をより高めることが可能である。その結果、中空スタビライザ1の曲げ部1cの外面1eのみならず内面1fについても、マルテンサイト生成比率を高めることができる。そして、曲げ部1cの外面1e及び内面1fの硬さが確保されることで、疲労耐久性が良好な中空スタビライザ1を製造することができるようになる。冷却剤噴射手段による外面ジェットの流量は、ジェット流量8.5リットル/min以上、流速2000mm/sec以上が望ましい。
【0062】
焼戻し工程S30は、焼入れが施された素管に焼戻しを施す工程である。この工程では、詳細には、素管をAC1変態点以下の所定の温度に加熱処理した後、適宜の冷却処理を行う。素管の加熱処理は、加熱炉による加熱、通電加熱、高周波誘導加熱等の適宜の方法によって行うことができる。焼戻し温度は、所望の製品仕様に応じて適宜の温度とすることができるが、通常、200℃以上400℃未満とすることが好ましく、200℃以上290℃以下とすることがより好ましく、230℃以上270℃以下とすることがさらに好ましい。一方で、素管の冷却処理は、水冷、空冷等の適宜の方法及び時間で行うことができる。なお、焼戻し工程S30は、製造される中空スタビライザ1の材質や製品仕様によっては、実施を省略化することも可能である。
【0063】
管端加工工程S40は、素管に管端加工を施して連結部を形成する工程である。この工程では、例えば、曲げ成形された素管の末端をプレスによる圧縮加工で塑性変形させて扁平状に形成した後、穴開け型で孔開けする。これにより、曲げ成形された素管の末端に取り付け孔1d1、1d1をそれぞれ有する連結部1d、1dが形成される。なお、連結部1d、1dの形態や形成方法は、特に制限されない。
【0064】
表面加工工程S50は、素管の外面にショットピーニングを施す工程である。ショットピーニングは、約900℃以下及び約720℃以下のいずれで行ってもよく、粒子径や投射速度等の条件を変えて複数回繰り返し行ってもよい。ショットピーニングを施すことによって、中空スタビライザ1の表面に圧縮残留応力が付加され、疲労強度や耐摩耗性の向上と共に、置割れや応力腐食割れ等の防止が図られる。ショットピーニングは、t/D=約0.18以下の中空スタビライザ1の耐久性向上等に有効である。なお、表面加工工程S50は、中空スタビライザ1の材質や製品仕様によっては、実施を省略化することも可能である。
【0065】
塗装工程S60は、素管の表面に塗装を施す工程である。この工程では、素管に塗装処理を行うため、まず表面洗浄や表面処理を行う。素管の表面に、油脂分や異物等を除去する除去処理や下地処理等の各種の前処理を施す。下地処理としては、例えば、リン酸亜鉛、リン酸鉄等の被膜を形成することができる。そして、素管に塗料を用いた塗装が行われる。塗料としては、粉体塗料が好ましく用いられ、例えば、エポキシ樹脂製の粉体塗料を好適に用いることができる。塗装方法としては、例えば、中空スタビライザ1の表面に厚さ50μm以上程度の塗膜が形成されるように塗料の噴射を行う方法や、塗料への浸漬を行う方法を用いることができる。粉体塗料を用いる場合、焼付けのための加熱処理は、加熱炉による加熱及び赤外線加熱のいずれによって行ってもよい。塗装処理として、電着塗装、溶剤塗装等を実施してもよい。
【0066】
以上の工程を経て、中空スタビライザ1を製造することができる。製造される中空スタビライザ1は、焼入れ工程S20において、素管の曲げ部1cの冷却速度が高められた焼入れ処理を施されているため、曲げ部1cの外面1eのみならず内面1fについても、目標硬さに近似した高い焼入れ硬さが実現されることになる。そのため、本実施形態に係る中空スタビライザの製造方法によれば、疲労耐久性が良好な中空スタビライザ1を製造することができる。
【0067】
次に、本発明の他の実施形態に係る中空スタビライザの製造方法について説明する。
【0068】
図5は、内面ジェットによる焼入れ方法で、曲げ成形された素管を内面から焼入れを行っている状態を示す上面図である。
【0069】
この中空スタビライザの製造方法では、焼入れ工程S20において、素管1Sの曲げ部1c,1cの内側1c1、1c2の各外面に冷却剤を噴射する冷却処理(
図4参照)に代えて、素管1Sを冷却剤に浸漬すると共に素管1Sの内部に冷却剤を噴入(内面ジェット)する冷却処理を採用している(
図5参照)。冷却剤の噴入は、
図5に示される冷却剤噴入手段(n3,h3,p3、n4,h4,p4)によって行うことができる。冷却剤の噴入は、素管1Sを焼入れ槽に浸漬させると同時に速やかに開始することが好ましく、少なくともMs変態点に達するまで継続することが好ましい。また、素管1Sの外面と内面との冷却速度差を抑える観点からは、素管1Sの内部に冷却剤を噴入すると共に素管1Sを揺動させることが好ましい。
【0070】
この製造方法では、中空スタビライザ1の素管は、管の厚さ(t)と外径(D)との比(t/D)が、0.10以上であることが好ましく、0.25以上0.275未満であることがより好ましい。管の厚さ(t)と外径(D)との比(t/D)が0.10以上であれば、前記のとおり素材として好適に用いることができる。一方で、管の厚さ(t)と外径(D)との比(t/D)が0.275未満であると、中空スタビライザ1の内面側に発生する応力(主応力)が高くなり、材料毎の理想硬さを目標として焼入れが施される外面側に対して、より近似した内面応力を発生するようになる(
図2参照)。そのため、このような場合に、素管1Sの内部に冷却剤を噴入する冷却処理を適用すると、内面側の焼の入りを向上させることができる点で有利である。他方、管の厚さ(t)と外径(D)との比(t/D)が0.275以上の鋼管については、中空スタビライザの疲労耐久性に関して内面側の硬さの寄与は低いため、素管1Sの内部に冷却剤を噴入する冷却処理を適用しなくてもよい。
【0071】
図5に示すように、冷却剤噴入手段は、ノズル(n3,n4)と、ホース(h3,h4)と、小型水中ポンプ(p3,p4)とを備えている。冷却剤噴射手段は、焼入れ処理される素管1Sの両管端1s1,1s2にそれぞれ配置されている。冷却剤噴入手段は、冷却処理の間には、焼入れ処理される素管1Sに対する相対位置が固定されることが好ましい。そのため、素管1Sを冷却剤中で揺動させる場合には、冷却剤噴入手段も同期するように、例えば、焼入れ治具Jに固定したり、焼入れ治具Jと一体的に設けたりすることができる。
【0072】
ノズルn3,n4は、冷却剤を噴出する部位となっている。ノズルn3,n4は、冷却剤に浸漬された素管1Sの両管端1s1,1s2にそれぞれ近接すると共に両管端1s1,1s2の開口と略同心上にに配置されている。ノズルn3,n4の先端は、
図5に示すように、管端1s1,1s2からやや離間した位置に配置され、素管1Sの内部と焼入れ槽との間で冷却剤の出入りの自由が確保されるようになっている。なお、冷却剤噴入手段(n3,h3,p3、n4,h4,p4)が備えるその他の構成は、冷却剤噴射手段(n1,h1,p1、n2,h2,p2)における構成と同様のものにすることができる。
【0073】
以上の冷却剤噴入手段(n3,h3,p3、n4,h4,p4)によって、冷却剤に浸漬された素管1Sの内部に冷却剤を噴入する冷却処理を実施することで、一方のノズルn3から高圧で噴射される冷却剤は、素管1Sの一方の管端1s1,1s2から内部に噴入される(
図5の白抜き矢印β1,β2)。そして、素管1Sの内部を通流した後に管端1s1,1s2から排出される(
図5の矢印β3,β4)。このようにすることによって、素管1Sの内面1fと素管1Sの内部を通流する冷却剤との間の熱伝達率を増大させ、素管1Sの内面側の冷却速度を、理想硬さを目標とした冷却が行われる外面側に近い水準に高めることが可能である。その結果、中空スタビライザ1の内面1f、特に、曲げ部1c,1cの内面1f1,1f2や、被拘束部1hの内面1fについて、マルテンサイト生成比率を高めることができる。そして、中空スタビライザ1の内面1fの硬さが確保されることで、疲労耐久性が良好な中空スタビライザを製造することができるようになる。冷却剤噴入手段による内面ジェットの流量は、素管1Sの内径、アーム部1bの長さ、曲げ部1cの形状等にもよるが、ジェット流量8.5リットル/min以上、流速2000mm/sec以上が望ましい。
【0074】
素管1Sの両管端1s1,1s2に配置される各冷却剤噴入手段(n3,h3,p3、n4,h4,p4)は、ノズルn3,n4から噴射される冷却剤の流れを素管1Sの内部の中心付近の流速が高くなるように設定することが好ましい。冷却剤の噴射を曲げ部1c,1cの内面1f1,1f2付近に到達させる(
図5の白抜き矢印β10、β20)ことで、
図5に矢印で示すように素管1Sの両管端1s1,1s2の周壁側から冷却剤を効率的に排出させることができる(
図5の矢印β3、β4)。素管1Sの両管端1s1,1s2付近に配置される各冷却剤噴入手段(n3,h3,p3、n4,h4,p4)により素管1Sの両管端1s1,1s2から冷却剤を噴入することによって、素管1Sの軸方向に沿って生じる熱変形を抑制することができる。
【0075】
素管1Sの両管端1s1,1s2に配置される各冷却剤噴入手段(n3,h3,p3、n4,h4,p4)は、冷却剤を両管端1s1,1s2から同時に噴入してよいし、交互に噴入してもよい。冷却剤を両管端1s1,1s2から同時に噴入することによって、素管1Sの内面1f、特に左右一対の曲げ部1c,1cの内面1f1,1f2の冷却速度を均一且つ高速にすることができる。一方、適宜の噴射間隔で冷却剤を両管端1s1,1s2から交互に噴入すると、鋼管の曲げ部1c,1cの内面1f1,1f2の冷却速度を高めつつ、トーション部1aの中央付近に昇温した冷却剤が滞留するのを抑制することができるため、素管1Sの両管端1s1,1s2にわたる軸方向の冷却速度の均一性を高め易い。
【0076】
次に、本発明の変形例に係る中空スタビライザの製造方法について説明する。
【0077】
図6は、他例の内面ジェットによる焼入れ方法で、曲げ成形された素管を内面から局所的に焼入れを行っている状態を示す上面図である。
【0078】
前記の他の実施形態に係る中空スタビライザの製造方法では、焼入れ工程S20における冷却処理に用いられる冷却剤噴入手段(n3,h3,p3、n4,h4,p4)が、焼入れ処理される素管1Sの両管端1s1,1s2に配置され、両管端1s1,1s2から素管1Sの内部に冷却剤が噴入されている(
図5参照)。しかしながら、これに代えて、
図6に示すように、冷却剤噴入手段(n5,h5,p5)を素管1Sの一方の管端1s1のみに配置し、素管1Sの内部を一方向に冷却剤を通流させる方法を採ることもできる。
【0079】
図6に示すように、冷却剤噴入手段は、ノズルn5と、ホースh5と、小型水中ポンプp5とを備えている。なお、冷却剤噴入手段(n5,h5,p5)が備えるその他の構成は、冷却剤噴入手段(n3,h3,p3、n4,h4,p4)における構成と同様のものにすることができる。冷却剤噴入手段(n5,h5,p5)は、焼入れ処理される素管1Sの一方の管端1s1のみに配置されている。そして、他方の管端1s2には、噴射ガードg1が配設されている。
【0080】
噴射ガードg1は、焼入れ治具Jに固定された素管1Sの管端1s2を覆っている。噴射ガードg1は、その内面が素管1Sと離間するように素管1Sよりも大径に設けられている。素管1Sの内部に噴入された冷却剤は、管端1s2から排出されたときに噴射ガードg1に衝突し、排出されるジェット水流の流速を柔げて流す作用を奏する。
【0081】
以上の冷却剤噴入手段(n5,h5,p5)によって、冷却剤に浸漬された素管1Sの内部に冷却剤を噴入する冷却処理を実施することで、一方のノズルn5から高圧で噴射される冷却剤は、素管1Sの一方の管端1s1から内部に噴入される(
図6の白抜き矢印β5)。そして、素管1Sの内部を通流した後に他方の管端1s2から排出される(
図6の矢印β6)。このようにすることによって、素管1Sの内面1fと素管1Sの内部を通流する冷却剤との間の熱伝達率を増大させ、素管1Sの内面側の冷却速度を、理想硬さを目標とした冷却が行われる外面側に近い水準に高めることが可能である。その結果、中空スタビライザ1の内面1f、特に、曲げ部1c,1cの内面1f1,1f2や、被拘束部1hの内面1fについて、マルテンサイト生成比率を高めることができる。そして、中空スタビライザ1の内面1fの硬さが確保されることで、疲労耐久性が良好な中空スタビライザを製造することができるようになる。
【0082】
以上の他の実施形態に係る中空スタビライザの製造方法における、冷却剤噴入手段を用いた内面ジェットによる冷却処理は、前記の冷却剤噴射手段を用いた外面ジェットによる冷却処理と併せて行うことも可能である。すなわち、焼入れ工程S20において、素管を冷却剤に浸漬し、素管の内部に冷却剤を噴入すると共に、曲げ部の外面に冷却剤を噴射して冷却処理を行うことも可能である。また、このとき、冷却剤噴入手段は、焼入れ処理される素管の一端側にのみ配置してよいし、素管の両端側に配置してもよい。なお、素管の内部に冷却剤を噴入すること無く、曲げ部の外面に冷却剤を噴射して冷却処理を行う形態については、管端加工工程S40において行う連結部1dの形成を成形工程S10において行ってもよい。
【実施例】
【0083】
以下、本発明の実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0084】
[実施例1]
実施例1として、中空スタビライザの素材となる素管を冷却剤に浸漬すると共に曲げ部の外面に冷却剤を噴射して冷却処理を行う形態の中空スタビライザの製造方法を実施した。そして、製造した中空スタビライザの曲げ部における硬さ分布について評価を行った。なお、実施例1においては、管の厚さ(t)が7.5mm、外径(D)が30mm、管の厚さ(t)と外径(D)との比(t/D)が0.25のSR鋼管を素材とする複数の試験材(実施例1−1、実施例1−2)を評価した。
【0085】
[比較例1]
比較例1として、中空スタビライザの素材となる素管の曲げ部の外面に冷却剤を噴射すること無く冷却処理を行った点を除いて、実施例1と同様にして中空スタビライザの製造方法を実施した。そして、実施例1の対照として、製造した中空スタビライザの評価を行った。なお、比較例1においては、実施例1と同様に、管の厚さ(t)が7.5mm、外径(D)が30mm、管の厚さ(t)と外径(D)との比(t/D)が0.25のSR鋼管を素材とする複数の試験材(比較例1−1、比較例1−2)を評価した。
【0086】
図7は、外面ジェットによる効果を硬度で示す図である。
【0087】
図7において、横軸は、曲げ部の曲げ内側の外表面からの距離(深さ)(mm)、縦軸は、試験力300gfにおけるビッカース硬さ(HV)を示す。太実線は、比較例1−1に係る中空スタビライザ、細実線は、比較例1−2に係る中空スタビライザ、太破線は、実施例1−1に係る中空スタビライザ、細破線は、実施例1−2に係る中空スタビライザにおける測定値である。また、
図7には、ロックウェル硬さHRC40及びHRC43に換算した基準線を併せて示している。
【0088】
図7に示すように、焼入れ工程S20において実施例1−1及び実施例1−2に係る中空スタビライザでは、比較例1−1及び比較例1−2に係る中空スタビライザと比較して、曲げ部の焼入れ硬さが高められていることが分かる。また、外表面からの深さ方向にわたる硬さ分布は、均一性が比較的良好になっていることが確認できる。よって、曲げ部の外面に冷却剤を噴射して冷却処理を行う形態の中空スタビライザの製造方法は、実使用時における応力の集中等を考慮すると、疲労耐久性の向上に有効であることが認められる。
【0089】
[実施例2]
実施例2として、中空スタビライザの素材となる素管を冷却剤に浸漬すると共に素管の内部に冷却剤を噴入して冷却処理を行う形態の中空スタビライザの製造方法を実施した。そして、製造した中空スタビライザの疲労耐久性について評価を行った。なお、冷却剤の素管への噴入は、
図5に示すように、焼入れ処理される素管の両端から行う方法によった。中空スタビライザの素材としては、管の厚さ(t)が7.5mm、外径(D)が30.0mm、管の厚さ(t)と外径(D)との比(t/D)が0.25のSR鋼管を用いた。
【0090】
[比較例2]
比較例2として、中空スタビライザの素材となる素管の内部に冷却剤を噴入すること無く冷却処理を行った点を除いて、実施例2と同様にして中空スタビライザの製造方法を実施した。そして、実施例2の対照として、製造した中空スタビライザの評価を行った。
【0091】
図8は、水焼入れおよび内面ジェットによる焼入れの効果を、水焼入れのみの場合との比較を疲労試験で示すS−N線図である。
【0092】
図8における、一点鎖線は、従来の冷却処理を経た中空スタビライザ製品について、ワイブル分布の下で50%の累積折損確率の平均を求めた結果、破線は、ワイブル分布の下で10%の累積折損確率の平均を求めた結果をそれぞれ示している。▲のプロットは、比較例2に係る中空スタビライザにおける測定値、△のプロットは、実施例2に係る中空スタビライザにおける測定値である。
【0093】
図8に示すように、実施例2に係る中空スタビライザでは、管の厚さ(t)と外径(D)との比(t/D)が0.25と比較的大きいSR鋼管を素材としているにもかかわらず、比較例2に係る中空スタビライザと比較して疲労耐久性が向上しており、折損確率が低水準に抑えられていることが確認できる。よって、素管の内部に冷却剤を噴入して冷却処理を行う形態の中空スタビライザの製造方法は、疲労耐久性の向上に有効であることが認められる。