(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記カルボジイミド結合を有する化合物の供給後、前記ポリアミド樹脂、前記フィラーおよび前記カルボジイミド結合を有する化合物を含む混練物を前記混練機のノズルから射出するまでの時間は、1秒間〜1分間である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の摺動部材の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような樹脂の摩耗・剥離を緩和するために、(1)ガラス繊維の表面を適切に処理することによって樹脂−ガラス繊維間の密着強度を向上させる、(2)ガラス繊維の径・形状を最適化することによってガラス繊維の相手攻撃性を緩和させる等の手法が考えられる。とりわけ、(3)樹脂の分子量を高くすることによって、樹脂の摩耗・剥離による亀裂の進展抵抗力を増大させる手法が効果的である。
【0007】
しかしながら、(3)の手法を実施するため、予め高分子量化されたポリアミド66にガラス繊維を混練する場合、次の問題が発生する。
・樹脂の粘度が高く、安定的に生産することが困難である(混練機のトルクオーバー、発熱、ストランドちぎれ等が発生)。
・樹脂の粘度が高く、ガラス繊維の分散不良や折損が発生し、樹脂の物性が低下する。
【0008】
そのため、現在まで、高分子量で且つガラス繊維を含有するポリアミドは存在しておらず、小型・高出力化を狙った将来の用途に対し、十分な耐摩耗性を確保できていない。
そこで、本発明の目的は、機械的強度の向上と耐摩耗性の向上とを両立することができる摺動部
材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の摺動部材(20,43)の製造方法は、混練機(27)のシリンダ(33)に前記ポリアミド樹脂(39)を供給し、前記ポリアミド樹脂(39)を練った後、前記シリンダ(33)の途中で、前記練られた前記ポリアミド樹脂(39)に前記フィラー(40)を供給し、前記フィラー(40)と同時に、または前記フィラー(40)の供給箇所(36a)よりも下流側(36b)
でカルボジイミド結合を有する化合物(41)を供給する工程を含み、前記摺動部材(20,43)を構成する樹脂(26)の数平均分子量Mnが、30,000以上であ
り、混練物の総量に対して0.5質量%〜4質量%の前記カルボジイミド結合を有する化合物(41)を配合する(請求項1)。
【0010】
上記の構成によれば、ポリアミド樹脂とフィラーとの混練時および射出成形時に、カルボジイミド結合を有する化合物の作用によって、ポリアミド樹脂の末端カルボキシル基(−COOH)と末端アミノ基(−NH
2)との脱水縮合反応を進行させることができる。
これにより、予め重合によって形成された複数のポリアミド樹脂の高分子鎖を、連鎖的につなげることができ、樹脂の分子量を高めることができる。
【0011】
しかも、カルボジイミド結合を有する化合物は混練の途中で供給されるので、脱水縮合反応が過大になることによるポリアミド樹脂の分解を抑制することができる。そのため、ポリアミド樹脂の分子量を、従来にはないレベルにまで高めることができる。
また、カルボジイミド結合を有する化合物が供給されるまでは、ポリアミド樹脂は連鎖反応しておらず分子量も高くない状態である。この状態ではポリアミド樹脂の粘度も比較的低いので、このポリアミド樹脂とフィラーとを混練することによって、フィラーを樹脂全体に良好に分散させることができる。
【0012】
その結果、優れた機械的強度および耐摩耗性を有する摺動部材を得ることができる。
また、ポリアミド樹脂、フィラーおよびカルボジイミド結合を有する化合物を混練機に同時に供給して混練を開始する場合、あるいはポリアミド樹脂およびカルボジイミド結合を有する化合物を同時に、混練機のメインフィーダ(最初)から投入して混練を開始する場合に比べて、混練機のトルクオーバー、発熱、ストランドちぎれ等の発生を低減することができる。その結果、摺動部材を安定的に生産することができる。
また、混練物の総量に対して0.5質量%〜4質量%の範囲でカルボジイミド結合を有する化合物を配合することによって、数平均分子量Mnが30,000以上の樹脂を良好に得ることができる。一方、カルボジイミド結合を有する化合物が過量でないので、混練中の樹脂圧力(粘度)の増大、発熱および当該発熱に伴う、ポリアミド樹脂およびカルボジイミドの熱分解、フィラーの集束劣化による樹脂との密着強度の低下等のリスクを軽減することもできる。
【0013】
本発明の摺動部材(20,43
)の製造方法では、前記フィラー(40)として、混練物の総量に対して10質量%〜50質量%のガラス繊維を配合してもよい(請求項
2)。
【0014】
この範囲でガラス繊維を配合することによって、摺動部材の摩耗の発生因子であるガラス繊維の量を抑えながら、摺動部材には十分な機械的強度を確保することができる。
本発明の摺動部材(20,43
)の製造方法では、前記フィラー(40)として、6μm〜15μmの径を有するガラス繊維を配合してもよい(請求項
3)。
この範囲の径を有するガラス繊維を配合することによって、ガラス繊維とポリアミド樹脂との接触面積を比較的大きくできるので、摺動部材の機械的強度および剛性を良好に向上させることができる。すなわち、より少ないガラス繊維の量で機械的強度等を確保できるため、摺動部材の摩耗の発生因子であるガラス繊維の量を抑え、耐摩耗性を向上させることができる。また、ガラス繊維の径が小さいほど相手攻撃性が低いため、樹脂を摩耗・剥離させる影響が小さく、この点においても耐摩耗性を向上させることができる。
【0015】
本発明の摺動部材(20,43)の製造方法では、前記カルボジイミド結合を有する化合物(41)の供給後、前記ポリアミド樹脂(39)、前記フィラー(40)および前記カルボジイミド結合を有する化合物(41)を含む混練物を前記混練機(27)のノズル(35)から射出するまでの時間は、1秒間〜1分間であってもよい
(請求項4)。
本発明の摺動部材(20,43)の製造方法は、前記ノズル(35)から射出された前記混練物を冷却固化して樹脂ペレット(26)を形成する工程と、前記樹脂ペレット(26)を溶融して射出することによって、前記摺動部材(20,43)を成形する工程とを含んでいてもよい
(請求項5)。
【0017】
また、本発明の摺動部材(20,43)
の製造方法によって得られる摺動部材(20,43)は、ポリアミド樹脂(39)とフィラー(40)とを含有する樹脂(26)で構成され、当該樹脂(26)の数平均分子量Mnが、30,000以上であ
る。
この構成によれば、ポリアミド樹脂にフィラーが含有されているため、摺動部材に十分な機械的強度を確保することができる。また、樹脂の数平均分子量Mnが、30,000以上であって亀裂の進展抵抗力に優れるため、フィラーによる樹脂の摩耗・剥離によって亀裂が生じても、その亀裂が進展する速度を小さくできる。その結果、樹脂の摩耗量を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るインターミディエイトシャフト5が組み込まれた電動パワーステアリング装置1の概略図である。
電動パワーステアリング装置1は、ハンドル2と一体回転可能に連結されたステアリングシャフト3、ステアリングシャフト3に自在継手4を介して連結されたインターミディエイトシャフト5、インターミディエイトシャフト5に自在継手6を介して連結されたピニオンシャフト7、およびピニオンシャフト7のピニオン歯7aに噛み合うラック歯8aを有して、自動車の左右方向に延びる転舵軸としてのラックバー8を備えている。
【0020】
ピニオンシャフト7およびラックバー8によって、ラックアンドピニオン機構からなる操舵機構9が構成されている。
ラックバー8は、車体に固定されるラックハウジング10内に、図示しない複数の軸受を介して直線往復動自在に支持されている。ラックバー8の両端部はラックハウジング10の両側へ突出し、各端部にはそれぞれタイロッド11が結合されている。
【0021】
各タイロッド11は、図示しないナックルアームを介して対応する操向輪12に連結されている。
ハンドル2が操作されてステアリングシャフト3が回転されると、その回転が、ピニオン歯7aおよびラック歯8aによって自動車の左右方向に沿うラックバー8の直線運動に変換されて操向輪12の転舵が達成される。
【0022】
ステアリングシャフト3は、ハンドル2に連なる入力軸3aと、ピニオンシャフト7に連なる出力軸3bとに分割されており、両軸3a、3bはトーションバー13を介して同一の軸線上で相対回転可能に互いに連結されている。
トーションバー13には、両軸3a、3b間の相対回転変位量から操舵トルクを検出するためのトルクセンサ14が設けられており、トルクセンサ14のトルク検出結果がECU(Electric Control Unit:電子制御ユニット)15に与えられる。
【0023】
ECU15では、トルク検出結果や、図示しない車速センサから与えられる車速検出結果等に基づいて、駆動回路16を介して操舵補助用の電動モータ17を駆動制御する。そして、電動モータ17の出力回転が、減速機18を介して減速されてピニオンシャフト7に伝達され、ラックバー8の直線運動に変換されて操舵が補助される。
減速機18は、電動モータ17により回転駆動される入力軸としてのウォームシャフト19(小歯車)と、ウォームシャフト19に噛み合うとともにステアリングシャフト3の出力軸3bに一体回転可能に連結される本発明の摺動部材の一例としてのウォームホイール20(大歯車)とを備えている。
【0024】
図2は、ウォームホイール20の模式的な斜視図である。
ウォームホイール20は、中心に貫通孔21を有する円環状に形成されている。貫通孔21には、ステアリングシャフト3の出力軸3b(
図1参照)が挿入される。
ウォームホイール20は、一体物の樹脂成形品で構成されており、貫通孔21から同心円状にスリーブ部22および歯形成部23を含む。スリーブ部22および歯形成部23は、互いに樹脂の連続層として形成されている。この実施形態では、スリーブ部22は、円環状の領域として定義され、歯形成部23は、スリーブ部22の周囲領域である円環状の領域として定義される。歯形成部23の外周には、周方向に沿って複数の歯24が刻まれている。ここで、2つの領域(この実施形態では、スリーブ部22と歯形成部23)が連続層を形成している構成とは、2つの領域の間に物理的な境界面がないことを意味する。たとえば、樹脂材料の相違による材料相の結晶粒界等の境界は、スリーブ部22と歯形成部23との間に存在していてもよい。一方、物理的な境界面は、たとえば、金属製または樹脂製のスリーブ部の外周に歯形成部を別途射出成形したときに、当該スリーブ部と歯形成部との間に現れることがある。なお、
図2では、明瞭化のため、スリーブ部22と歯形成部23との間に架空の境界25を示している。
【0025】
次に、ウォームホイール20の製造方法を説明する。
図3は、ウォームホイール20の製造のフロー図である。
図4は、原料樹脂26の調製に関連する工程を説明するための図である。
図5は、カルボジイミド41による脱水縮合の反応機構を示す図である。
ウォームホイール20を製造するには、まず、ウォームホイール20を構成する原料樹脂26を調製する(S1)。原料樹脂26の調製には、たとえば、
図4に示す混練機27を使用する。
【0026】
混練機27は、たとえば、本体28、タンク29、冷却水槽30およびペレタイザ31を主に備えている。
本体28は、メインフィーダ32、シリンダ33、スクリュー34およびノズル35を備え、メインフィーダ32とノズル35との間(メインフィーダ32の下流側)には、サイドフィーダ36が取り付けられている。本体28としては、特に制限されず、たとえば、二軸(多軸)押出機、一軸押出機等の公知の混練機を使用できる。
【0027】
タンク29の上流側には、攪拌機37が備えられている。攪拌機37で混合された原料は、タンク29およびその下流側のベルト式重量計38を介して、本体28のメインフィーダ32に供給される。
そして、原料樹脂26を調製するには、まず、ポリアミド樹脂39および任意の添加剤を、共通の投入箇所としてのメインフィーダ32を介してシリンダ33に供給する。ポリアミド樹脂39および任意の添加剤は、それぞれ単体でタンク29に投入して供給してもよいし、攪拌機37で混合(ドライブレンド、マスターバッチ化)してから供給してもよい。
【0028】
ポリアミド樹脂39としては、たとえば、脂肪族ポリアミド(PA6、PA66、PA12、PA612、PA610、PA11等)、芳香族ポリアミド(PA6T、PA9T、PPA)等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、脂肪族ポリアミドを使用し、さらに好ましくは、ポリアミド66(PA66)を使用する。また、これらは、単独使用または2種以上併用することができる。使用するポリアミド樹脂の数平均分子量Mnは、たとえば、15,000〜25,000であってもよい。また、メインフィーダ32に投入するベース樹脂は、ポリアミド樹脂39の他、たとえば、熱可塑性エラストマー(酸変性されたエチレン系エラストマー、EGMA、EPDM、ポリアミドエラストマー等)を含んでいてもよい。熱可塑性エラストマーを配合することで、耐衝撃性の向上を図ることができる。
【0029】
また、ポリアミド樹脂39の配合割合は、たとえば、原料樹脂26の調製に使用する材料の総量に対して45質量%〜90質量%であってもよい。
また、任意の添加剤としては、好ましくは、潤滑剤を配合する。潤滑剤によって、原料樹脂26の分子間の滑り効果を得ることができるので、ウォームホイール20の成形時の粘度を低減することができる。そのため、原料樹脂26の分子量が高くても比較的低い温度で成形できるので、成形時の樹脂の熱分解を抑制することができる。その結果、原料樹脂26の分子量を高く維持したまま成形できるので、原料樹脂26の機械的強度や耐摩耗性を良好に維持することができる。
【0030】
潤滑剤としては、ウォームホイール20を成形するときの原料樹脂26の粘度を低減できるものであれば特に制限されない。たとえば、ステアリン酸金属塩等の金属石鹸系、パラフィンワックス、合成ポリエチレンワックス等の炭化水素系、ステアリン酸等の脂肪酸系、ステアリルアルコール等の高級アルコール系、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド等の脂肪族アミド系、アルコールの脂肪酸エステル等のエステル系、シリコーン系化合物等、公知の潤滑剤を使用できる。これらのうち、好ましくは、金属石鹸系を使用し、さらに好ましくは、ステアリン酸金属塩を使用する。潤滑剤を配合する場合の配合割合は、たとえば、原料樹脂26の調製に使用する材料の総量に対して0.01質量%〜1質量%であってもよい。
【0031】
そして、シリンダ33に供給されたポリアミド樹脂39、および必要により加えた添加剤を、スクリュー34の回転によって混練する。混練条件は、たとえば、シリンダ33の温度が275℃〜325℃であり、スクリュー34の回転速度が100rpm〜500rpmであってもよい。
次に、フィラー40およびカルボジイミド結合を有する化合物(以下、単に「カルボジイミド」という)41を、共通の投入箇所としてのサイドフィーダ36を介して、シリンダ33に同時に供給する。
【0032】
使用するフィラー40としては、たとえば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、セルロース繊維等の短繊維状のフィラーや、ガラスフレーク等の板状のフィラー、あるいはカーボンナノチューブやカーボンナノファイバ等の微細強化が可能なフィラー等の1種または2種以上が挙げられる。これらのうち、好ましくは、短繊維状のフィラーを使用し、さらに好ましくは、ガラス繊維を使用し、とりわけ好ましくは、扁平形状のガラス繊維を使用する。扁平形状のガラス繊維を使用することによって、歯形成部23の歯切り後の面粗さを低減することができる。
【0033】
ガラス繊維を使用する場合、当該ガラス繊維は、6μm〜15μmの径を有していることが好ましい。この範囲の径を有するガラス繊維を配合することによって、原料樹脂26においてガラス繊維とポリアミド樹脂との接触面積を比較的大きくできるので、ウォームホイール20を成形したときに、スリーブ部22の機械的強度および剛性を良好に向上させることができる。すなわち、より少ないガラス繊維の量でスリーブ部22の機械的強度等を確保できるため、歯形成部23の摩耗の発生因子であるガラス繊維の量を抑え、耐摩耗性を向上させることができる。また、ガラス繊維の径が小さいほど相手攻撃性が低いため、樹脂を摩耗・剥離させる影響が小さく、この点においても耐摩耗性を向上させることができる。さらに、ガラス繊維の相手攻撃性が低くなれば、ウォームホイール20に噛み合うウォームシャフト19への影響も小さくできるので、ウォームシャフト19に対する硬化処理(たとえば、焼き入れ等の熱処理)の時間を短縮することもできる。
【0034】
また、フィラー40(ガラス繊維)の配合割合は、たとえば、原料樹脂26の調製に使用する材料の総量に対して10質量%〜50質量%であってもよい。この範囲でガラス繊維を配合することによって、歯形成部23の摩耗の発生因子であるガラス繊維の量を抑えながら、スリーブ部22には十分な機械的強度を確保することができる。
使用するカルボジイミド41としては、カルボジイミド基(−N=C=N−)を有する化合物であれば特に制限されず、カルボジイミド基を1つ有するモノカルボジイミドであってもよいし、カルボジイミド基を複数有するポリカルボジイミドであってもよい。また、脂肪族系カルボジイミド、芳香族系カルボジイミド、カルボジイミド変性体等のあらゆる種類のカルボジイミドを使用できる。これらのうち、好ましくは、脂肪族カルボジイミドが挙げられ、その具体的な市販品としては、たとえば、日清紡ケミカル社製「カルボジライト(登録商標)HMV−15CA」が挙げられる。
【0035】
また、カルボジイミド41の配合割合は、たとえば、原料樹脂26の調製に使用する材料の総量に対して0.5質量%〜4質量%であってもよい。この範囲でカルボジイミド41を配合することによって、数平均分子量Mnが30,000以上の原料樹脂26を良好に得ることができる。一方、カルボジイミド41が過量でないので、混練中の樹脂圧力(粘度)の増大、発熱および当該発熱に伴う、ポリアミド樹脂39およびカルボジイミド41の熱分解、フィラー40の集束劣化による樹脂との密着強度の低下等のリスクを軽減することもできる。
【0036】
また、カルボジイミド41は、カルボジイミド41が粉末の場合には、たとえば、サイドフィーダ36から単体で供給してもよいし、ポリアミド樹脂と混合(ドライブレンド、マスターバッチ化)してから供給してもよい。
そして、シリンダ33内を移送中のポリアミド樹脂39および必要により加えた添加剤からなる混練物に、フィラー40およびカルボジイミド41が加えられ、さらに混練する。カルボジイミド41の供給から当該混練物をノズル35から射出するまでの時間(カルボジイミド41の混練時間)は、たとえば、1秒間〜1分間であってもよい。したがって、サイドフィーダ36のノズル35からの距離は、当該混練時間を目安に設定すればよい。
【0037】
カルボジイミド41の供給後、混練物をストランド状の原料樹脂26としてノズル35から射出し、冷却水槽30で冷却固化した後、ペレタイザ31でペレット化する。以上の工程を経て、フィラー40が分散したポリアミド樹脂39からなる原料樹脂26が得られる。
ウォームホイール20の製造に関して、次の工程は、スリーブ部22および歯形成部23の一体成形である(
図3のS2)。この工程では、図示しない金型を準備し、この金型内に、
図4の工程で得られた原料樹脂26(ペレット)を溶融させて射出する。金型は、複数のウォームホイール20が円筒状に連なった円筒構造物になるように成形する型を有していてもよい。その後、一定時間冷却して原料樹脂26を固化させた後、一体成形されたウォームホイール20の円筒構造物を金型から取り出す。そして、当該円筒構造物から円板状のウォームホイール20を一つずつ切り出す。
【0038】
最後に、ウォームホイール20の歯形成部23の歯切り(歯24を形成)を行って(S3)、
図2に示すウォームホイール20が得られる。
以上の方法によれば、ポリアミド樹脂39とフィラー40との混練途中(ポリアミド樹脂39とフィラー40との混練開始時)でカルボジイミド41を供給することによって、混練時および射出成形時に、カルボジイミド41の作用によって、
図5に示すように、ポリアミド樹脂39(
図5では、ポリアミド66)の末端カルボキシル基(−COOH)と末端アミノ基(−NH
2)との脱水縮合反応を進行させることができる。これにより、予め重合によって形成された複数のポリアミド樹脂39の高分子鎖を、連鎖的につなげることができ、樹脂の分子量を高めることができる。たとえば、当該反応後の原料樹脂26の数平均分子量Mnを、30,000以上にまで高めることができる。
【0039】
しかも、カルボジイミド41は混練の途中で供給されるので、脱水縮合反応が過大になることによるポリアミド樹脂39の分解を抑制することができる。そのため、ポリアミド樹脂39の分子量を、従来にはないレベルにまで高めることができる。
また、カルボジイミド41が供給されるまでは、ポリアミド樹脂39は連鎖反応しておらず分子量も高くない状態(たとえば、Mn=20,000程度)である。この状態ではポリアミド樹脂39の粘度も比較的低いので、このポリアミド樹脂39とフィラー40とを混練することによって、フィラー40をポリアミド樹脂39全体に良好に分散させることができる。
【0040】
その結果、スリーブ部22に要求される機械的強度・剛性および寸法安定性を確保することができる。また、樹脂の数平均分子量Mnが、30,000以上であって亀裂の進展抵抗力に優れるため、フィラー40による樹脂の摩耗・剥離によって亀裂が生じても、その亀裂が進展する速度を小さくできる。その結果、歯形成部23の摩耗量を低減できるので、歯形成部23に要求される耐摩耗性も達成することができる。
【0041】
よって、ウォームホイール20の芯間距離の変化量の増大を抑制できるので、当該変化量増大によるラトル音の発生を防止でき、耐久寿命を向上させることができる。特に、ウォームホイール20に関しては、将来的に小型化が進められると、今まで以上に負荷が大きくなりウォームホイール20の大きなトルクがかかることがある。そのような大きなトルクに対して耐摩耗性が低いとウォームホイール20の耐久寿命が短くなるが、この実施形態のように優れた耐摩耗性を達成できるウォームホイール20では、小型・高出力化を狙った将来の用途にも十分適応することができる。
【0042】
また、ポリアミド樹脂39、フィラー40およびカルボジイミド41を本体28に同時に供給して混練を開始する場合、あるいはポリアミド樹脂39およびカルボジイミド41を同時に、混練機27のメインフィーダ32(最初)から投入して混練を開始する場合に比べて、本体28のトルクオーバー、発熱、ストランドちぎれ等の発生を低減することができる。その結果、ウォームホイール20を安定的に生産することができる。
【0043】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は他の形態で実施することもできる。
前述の実施形態では、ウォームホイール20は、一体成形されたスリーブ部22および歯形成部23を備えているとしたが、たとえば、金属製のスリーブ部22に、樹脂製の歯形成部23が密着した構成であってもよい。この場合、歯形成部23を、上記原料樹脂26を用いて形成すればよい。
【0044】
また、本発明の摺動部材は、前述のウォームホイール20以外の各種ギヤ、樹脂製保持器等の摺動部材に適用することもできる。たとえば、
図6に示すような転がり軸受42の保持器43に適用されてもよい。
転がり軸受42は、互いの間に環状の領域44を区画する一対の軌道部材としての内輪45および外輪46と、領域44に配置され内輪45および外輪46に対して転動する複数の転動体としてのボール47と、領域44に配置され、各ボール47を保持する保持器43と、領域44に充填されたグリースGと、外輪46に固定されて内輪45と摺接する一対の環状のシール部材48,49とを備えている。
【0045】
各シール部材48,49は、環状の芯金50,50と、この芯金50,50に焼き付けられた環状のゴム体51,51とを有している。各シール部材48,49は、その外周部が外輪46の両端面に形成した溝部52,52に嵌められて固定されており、内周部が内輪45の両端面に形成した溝部53,53に嵌められて固定されている。
グリースGは、両輪45,46間に一対のシール部材48,49で区画された領域44内に略一杯となるように封入されている。
【0046】
また、本体28は、
図7に示すように、サイドフィーダ36を二つ備えていてもよい。たとえば、サイドフィーダ36は、第1サイドフィーダ36aと、第1サイドフィーダ36aよりも下流側の第2サイドフィーダ36bとを含んでいてもよい。この場合、メインフィーダ32からポリアミド樹脂39の単体を供給し、第1サイドフィーダ36aからフィラー40を供給し、第2サイドフィーダ36bからカルボジイミド41を供給してもよい。
【0047】
また、フィラー40は、ポリアミド樹脂39とともにメインフィーダ32を介してシリンダ33に供給されてもよい。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【実施例】
【0048】
次に、本発明を実施例および参考例等に基づいて説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
<実施例1>
図4で示した構成の混練機27において、旭化成ケミカルズ株式会社製のポリアミド66(「1402S」数平均分子量Mn=23,000)を64.7質量%、日東紡績株式会社製のガラス繊維(「CS3PE−455S」)を33.3質量%、および日清紡ケミカル株式会社製のカルボジイミド(カルボジライト(登録商標)「HMV−15CA」)を2質量%の割合で混練し、原料樹脂を得た。そして、その原料樹脂を用いて試験用サンプルを成形した。なお、ポリアミド66をメインフィーダ32に投入し、ガラス繊維およびカルボジイミドはサイドフィーダ36に投入した。
<参考例1>
カルボジイミドをメインフィーダ32に投入したこと以外は、実施例1と同じ条件で試験用サンプルを作製した。
<参考例2>
数平均分子量Mn=27,000のポリアミド66を使用したこと、ガラス繊維を15質量%にしたこと、およびカルボジイミドを添加しなかったこと以外は、実施例1と同じ条件で試験用サンプルを作製した。
<参考例3>
カルボジイミドを添加しなかったこと以外は、実施例1と同じ条件で試験用サンプルを作製した。
<市販品1>
旭化成ケミカルズ社製のポリアミド66(レオナ(登録商標)の非強化グレード「1502S」)を用いて試験用サンプルを成形した。ガラス繊維およびカルボジイミドは添加しなかった。
<市販品2>
デュポン社製のポリアミド66(ザイテル(登録商標)「E51HSB NC010」)を用いて試験用サンプルを成形した。ガラス繊維およびカルボジイミドは添加しなかった。
<市販品3>
市販品1に、ラインケミージャパン株式会社製の芳香族カルボジイミド(「スタバックゾール(登録商標)P400」)を1質量%添加して試験用サンプルを成形した。ガラス繊維は添加しなかった。
<評価試験>
(1)数平均分子量Mn
参考例3を除く試験用サンプルについて、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって数平均分子量Mnを測定した。結果を
図8に示す。
図8の実施例1と参考例2の比較から、ポリアミド66とカルボジイミドとを混練することによって、30,000以上の数平均分子量Mnを達成できることが分かった。さらに、実施例1と参考例1との比較から、カルボジイミドをサイドフィーダ36に投入する方が、メインフィーダ32に投入するよりも分子量を高くすることができ、しかも、一般的な市販品1,2では達成し得ないレベルにまで分子量が高まっていることが分かった。
(2)引張破断伸び
実施例1、参考例1および参考例3について、JIS K 7161に準拠して引張破断伸びを測定した。結果を
図9に示す。
図9から、カルボジイミドをサイドフィーダ36に投入することによって(実施例1)、カルボジイミドをメインフィーダ32に投入する場合(参考例1)や、カルボジイミドを添加しない場合(参考例3)に比べて、優れた引張破断伸び(機械的強度)を達成できることが分かった。
(3)摩擦摩耗試験
実施例1、参考例1〜3、および市販品1,3について、鈴木式摩擦摩耗試験を実施し、摩耗量(mm)を測定した。結果を
図10および
図11に示す。なお、試験の条件は、次の通りとした。
【0049】
・4点金属ころ−樹脂リングによる摺動
・グリース潤滑
・試験温度:RT
・駆動−停止による断続接触
図10から、カルボジイミドによって高分子量化された実施例1および参考例1では、カルボジイミドを添加していない参考例2および3に比べて耐摩耗性に優れていることが分かった。なお、参考例2の高さ減少量(摩耗量)は、実施例1および参考例1とほぼ同等であるが、これは、参考例2にはガラス繊維が実施例1および参考例1の約半分(15質量%)しか含有されておらず、樹脂の摩耗の発生因子であるガラス繊維の絶対量が少ないためであると考えられる。
【0050】
また、
図11からは、非強化高分子量グレードのポリアミド66にカルボジイミドを添加しても、耐摩耗性の向上効果は得られないことが分かった。これは、グリース潤滑下の高面圧摺動下では、摩耗がほとんど発生せず、クリープ変形が主体であり、高分子量化による摩耗改善効果が発現しないためである。