特許第6784482号(P6784482)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カヤバ システム マシナリー株式会社の特許一覧 ▶ 清水建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6784482-ボールジョイント 図000002
  • 特許6784482-ボールジョイント 図000003
  • 特許6784482-ボールジョイント 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784482
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】ボールジョイント
(51)【国際特許分類】
   F16C 11/06 20060101AFI20201102BHJP
【FI】
   F16C11/06 N
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-146565(P2015-146565)
(22)【出願日】2015年7月24日
(65)【公開番号】特開2017-26075(P2017-26075A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年5月22日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】304039065
【氏名又は名称】カヤバ システム マシナリー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】岡本 真成
(72)【発明者】
【氏名】石川 哲平
(72)【発明者】
【氏名】磯田 和彦
【審査官】 増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−31822(JP,A)
【文献】 特開2013−137044(JP,A)
【文献】 実開平3−100626(JP,U)
【文献】 仏国特許出願公開第2398214(FR,A1)
【文献】 特開2012−92865(JP,A)
【文献】 実公昭35−32026(JP,Y1)
【文献】 実開昭59−181323(JP,U)
【文献】 実開昭54−90853(JP,U)
【文献】 特開2005−121141(JP,A)
【文献】 特開平6−249232(JP,A)
【文献】 仏国特許出願公開第2570774(FR,A1)
【文献】 英国特許出願公開第2207970(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールスタッドの端部に設けた球と、
前記球を回転自在に包み持つブラケットと、
前記球に取付られ、前記球の回転中心を通る軸線を持つピンと、
前記ブラケットの内周にあって前記球に対向して設けられて前記ピンが挿入される溝とを備え、
前記ブラケットは、前記球を包み持つとともに一端からの前記ボールスタッドの突出を許容する筒状のハウジングと、前記ハウジングの他端を閉塞する蓋とを有し、
前記溝は、前記ハウジングの内側の途中から前記他端にかけて前記ボールスタッドの軸線方向に沿って直線状に形成されるとともに、前記蓋によって他端開口部が閉塞されており、
前記溝内への前記ピンの挿入により、前記ブラケットに対して前記ボールスタッドの軸周りの回転が規制される
ことを特徴とするボールジョイント。
【請求項2】
前記溝は、前記ボールスタッドの軸線方向に沿う長溝であって、前記溝の長さが前記ピンの直径より長く、幅が前記ピンの側面に摺接する長さに設定される
ことを特徴とする請求項1に記載のボールジョイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールジョイントは、たとえば、ダンパを被制振対象としての構造物の柱とは梁や、構造物と地盤との間に設置する際に、ダンパ等の端部に設けられてダンパを取付箇所へ連結する接合部として使用される。ボールジョイントは、歳差運動と回転を許容する接合部であるため、互いの相対移動の方向が拘束されていない箇所への設定に向く。
【0003】
しかしながら、ダンパが回転錘の慣性によって減衰力を発揮する回転慣性質量ダンパであるような場合、接合部にボールジョイントを用いると、ダンパにおけるロッドの回転が許容されてしまうため、回転錘が回転せず減衰力の発揮ができなくなる。
【0004】
そこで、ボールスタッドの軸線方向に沿う長孔をボールジョイントの球に設け、球を保持するハウジングの外側から螺着されるボルトの先端を前記長孔に挿入して、球のボールスタッド軸周りの回転を拘束するボールジョイントが開発されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−031822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のボールジョイントは、ボールスタッドの歳差運動は許容されるが軸周りの回転は阻止されるため、回転慣性質量ダンパに適用してもダンパは減衰力を発揮できるとともに、互いの相対移動の方向が拘束されていない被制振対象へのダンパの取付にも好適となる。
【0007】
しかしながら、従来のボールジョイントでは、ボールスタッドの軸周りの回転を拘束するためのボルトがハウジングの外側から取り付けられているため、球とハウジングとの間に充填される潤滑油のハウジングに設けられたボルト孔からの漏洩を阻止するシールが必要となるとともに、防錆面で不利となる。また、ボルト孔がハウジングに設けられているので、強度面で不利となる。
【0008】
そこで、本発明は、前記問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、ボールスタッドの軸周りの回転を阻止可能であってもシールが不要で防錆面および強度面で有利となるボールジョイントの提供である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した目的を達成するため、ボールジョイントでは、球に設けたピンと、ブラケットの内周にピンが挿入される溝を設けたので、球をボールスタッドの軸周りにおいて回り止めできる。さらに、本発明のボールジョイントにあっては、ブラケットが球を包み持つとともに一端からのボールスタッドの突出を許容する筒状のハウジングと、ハウジングの他端を閉塞する蓋とを有し、溝がハウジングの内側の途中から他端にかけてボールスタッドの軸線方向に沿って直線状に形成されるとともに、前記蓋によって他端開口部が閉塞される構成を採用している。このように、本発明のボールジョイントにあっては、球のボールスタッドの軸周りの回り止めのための構造は、全てブラケット内に収容されるため、シールが別途必要とならず、ブラケットの外方から内方へ孔を設ける必要もない。また、本発明のボールジョイントにあっては、球のボールスタッドの軸周りの回転が阻止されるので、回転慣性質量ダンパの接合部への利用が可能となり、回転慣性質量ダンパの全長を短くできる。
【0010】
また、請求項2のボールジョイントにあっては、溝がボールスタッドの軸線方向に沿う長溝とされており、溝の長さがピンの直径より長く、幅がピンの側面に摺接する長さに設定されている。このようにすると、ボールジョイントは、ボールスタッドの軸周りの回転のみを規制するが歳差運動については許容するので、互いの相対移動の方向が規制されていない二部材間に設けられるダンパの接合部に好適となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のボールジョイントによれば、ボールスタッドの軸周りの回転阻止が可能であっても、シールが不要であって、回り止めのためにブラケットに孔を設ける必要もないため防錆上でも有利となる。また、従来のボールジョイントに比較してブラケットにボルトを挿通する孔がないため強度的に有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施の形態におけるボールジョイントの縦断面図である。
図2】一実施の形態におけるボールジョイントの横断面図である。
図3】一実施の形態におけるボールジョイントのAA矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。一実施の形態におけるボールジョイント1は、図1から図3に示すように、ボールスタッド2の端部に設けた球3と、球3を回転自在に包み持つブラケットBと、球3に取付られて球3の回転中心を通る軸線を持つピン4,4と、ブラケットBの球3に対向する内周に設けられてピン4,4が挿入される溝5,5とを備えて構成されている。
【0015】
以下、ボールジョイント1の各部について説明する。ボールスタッド2は、円柱状であって先端外周に螺子部2aを備えるとともに、基端には、球3が設けられている。ボールスタッド2は、螺子部2aを利用して、図示しないダンパ等へ装着できるようになっている。
【0016】
球3には、ボールスタッド2の軸線BAに直交するとともに球3の中心を通る仮想軸線VA上に、球3の中心を通る軸線を持つ一対のピン4,4が設けられている。ピン4,4の軸線は、仮想軸線VAに一致しており、ピン4,4は、ボールスタッド2の軸線BAに直交するとともに球3の中心を通る仮想平面と球3の外周が交わる仮想円上に180度位相差をもって球3に設けられている。図1中で、左右方向をZ軸方向、上下方向をX軸方向、紙面を貫く方向をY軸方向とすると、ボールスタッド2の軸線BAは、図1中でZ軸に平行な軸線となる。
【0017】
ピン4,4は、基端に外周に螺子部4aを備えており、螺子部4aを球3に設けた螺子孔3a,3aに螺着して球3に装着されている。また、ピン4の頭部には、図示はしないが差込孔が設けられており、差込孔への工具の差し込みが可能とされ、球3へ螺子締結を容易に行えるようになっている。なお、ピン4,4の球3への装着に当たり、球3に孔を設けておき、ピン4を孔に圧入或いは嵌合して装着してもよい。また、ピン4は、ブラケットBに設けて溝5内に挿入され、球3からの脱落が阻止されるので、球3に仮止めできる程度の態様で装着してもよい。
【0018】
ブラケットBは、球3を包み持つとともに一端からのボールスタッド2の突出を許容する筒状のハウジング6と、ハウジング6の他端を閉塞する蓋7と、ハウジング6内に挿入されて球3を支持する筒状のホルダ8とを備えている。
【0019】
ハウジング6の一端側となる図1中左端側が他端側となる図1中右端側よりも小径とされていて、一端側の縮径部6aと他端側の拡径部6bとが設けられている。縮径部6aの内径は、ボールスタッド2の外径よりも大径ではあるが、球3の直径よりは小径となっている。そして、ハウジング6の内周であって、縮径部6aの内周面6cと拡径部6bの内周面6dとの間には、球3の外周に摺接する湾曲面6eが形成されている。また、湾曲面6eの曲率半径は、球3の外周面に摺接可能となるように設定されている。さらに、ハウジング6の内周であって、湾曲面6eから拡径部6bの内周である内周面6dにかけてボールスタッド2の軸線方向に沿う溝5,5が周方向で180度位相差をもって形成されている。溝5,5は、ハウジング6の他端にまで通じており、溝5,5の幅寸法は、ピン4の挿入を許容するようになっている。また、溝5,5は、ボールスタッド2の軸線BAに直交し球3の中心を通る仮想平面に対してボールスタッド2の軸線BA方向に沿って両側に延びる長溝とされていて、その長さは、ピン4の直径よりも長く設定されている。溝5の深さは、ピン4の球3からの突出長さよりも深く、溝5の底部がピン4に干渉しないようになっていて、ピン4の溝5内での移動を阻害しないように配慮されている。
【0020】
ハウジング6内に球3を挿入するには、ピン4,4をそれぞれ対応する溝5,5内に挿入可能な位置に符合させ、ボールスタッド2をハウジング6の他端となる図1中右端側から挿入する。球3をハウジング6の湾曲面6eに接触するまで挿入すると、ハウジング6の一端からボールスタッド2が外方へ突出し、湾曲面6eで球3を受けて球3が滑らかに回転できるようになっている。
【0021】
このように、球3がハウジング6内に収容された状態で、内周に球3の先端を支持する湾曲凹部8aを備えた筒状のホルダ8が挿入され、ハウジング6内へ潤滑剤の充填後、ハウジング6の他端を閉塞する蓋7がハウジング6にボルト締結される。すると、球3がハウジング6の湾曲面6eとホルダ8の湾曲凹部8aとに摺接し、球3は、ブラケットBに包み持たれる。
【0022】
そして、溝5,5の幅寸法は、ピン4の挿入を許容するようになっているが、挿入されるピン4の側部に溝5の側壁が摺接してピン4が溝5,5の幅方向へガタつかないようになっている。また、溝5,5の先端である図1中左端は、ボールスタッド2の軸線BAに直交し球3の中心を通る仮想平面よりもボールスタッド2側に延長されるとともに、ハウジング6の他端まで通じていて、溝5,5の長さは、ピン4,4の直径よりも長い。図1中で、球3がY軸周りに時計回りに回転するとピン4,4は溝5内を移動するが、上側のピン4がホルダ8の先端に当接または下側のピン4が溝5の先端壁面に当接すると、ピン4の移動が規制され、球3はそれ以上の回転が阻止される。反対に、球3がY軸周りに反時計回りに回転するとピン4,4が溝5内を移動するが、上側のピン4が溝5の先端壁面に当接または下側のピン4がホルダ8の先端に当接すると、ピン4の移動が規制され、球3はそれ以上の回転が阻止される。よって、球3は、ピン4,4の移動が規制される範囲内で図1中Y軸周りに回転可能となっていて、回転可能角度は、溝5の先端位置とホルダ8の先端位置で設定されている。
【0023】
他方、ピン4,4は、溝5,5内において、回転は許容されているため、球3は、図1中X軸周りへの回転は許容される。しかしながら、溝5,5は、その幅方向では、ピン4,4の移動を拘束するため、球3は、図2中Z軸周りへの回転が拘束され、回り止めされる。
【0024】
よって、本例のボールジョイント1にあっては、歳差運動は許容されるが、ボールスタッド2の軸周りの回転は許容されず、回転慣性質量ダンパの接合部への利用が可能となる。また、このボールジョイント1を接合部として利用すれば、回転慣性質量ダンパにおけるロッドの回り止めを回転慣性質量ダンパに設ける必要が無くなるので、回転慣性質量ダンパの全長を短くできる。
【0025】
そして、このボールジョイント1にあっては、球3のボールスタッド2の軸周りの回り止めは、ブラケットB内に設けたピン4と溝5で達成される。つまり、球3の回り止めのための構造は、全てブラケットB内に収容されるため、ブラケットBに球3の回り止めのための構成を採用したためにシールが別途必要とならない。また、ブラケットBの外方から内方へ孔を設ける必要もないので、防錆上有利となる。さらに、ブラケットBの外方から内方へボルトを挿通する孔を設ける必要がないので、従来のボールジョイントに比較して強度的に有利となる。したがって、本発明のボールジョイント1によれば、ボールスタッド2の軸周りの回転を阻止が可能であっても、シールが不要で防錆面および強度面でも有利となるのである。
【0026】
さらに、溝5,5は、ボールスタッド2の軸線BA方向に沿う長溝とされており、溝5,5の長さがピン4の直径より長く、幅がピン4の側面に摺接する長さに設定されている。このようにすると、ボールジョイント1は、ボールスタッド2の軸周りの回転のみを規制するが歳差運動については許容するので、互いの相対移動の方向が規制されていない二部材間に設けられるダンパの接合部に好適となる。
【0027】
また、本例のボールジョイント1にあっては、ブラケットBが球3を包み持つとともに一端からのボールスタッド2の突出を許容する筒状のハウジング6と、ハウジング6の他端を閉塞する蓋7とを有し、溝5をハウジング6の他端へ通じる構成を採用している。このようにボールジョイント1を構成すると、球3にピン4,4を取り付けた状態で球3をハウジング6内へ挿入する際に、ピン4を溝5内に挿入でき、ボールジョイント1の組み立て作業が非常に簡単となる。
【0028】
なお、本例のボールジョイント1では、ピン4を球3に二つ設けて、それぞれのピン4をハウジング6の内周に設けた溝5,5内に挿入するようにし、球3の回り止めをしているが、ピン4の設置数は任意であり、ピン4と溝5を一つずつ設ける構成も採用できる。また、ピン4は、本例では、球3に対して、ボールスタッド2の軸線BAに直交するとともに球3の中心を通る仮想軸線VA上に設けられているが、これに限られず球3の中心を通る軸線上に当該軸線と同じ軸線を持つように設置してもよい。この場合、球3のピン4の軸周りの回転は、XYZの三軸に対して傾きを持った軸周りの回転となるが、球3のボールスタッド2の軸周りの回り止め機能は失われない。
【0029】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されない。
【符号の説明】
【0030】
1・・・ボールジョイント、2・・・ボールスタッド、3・・・球、4・・・ピン、5・・・溝、6・・・ハウジング、7・・・蓋、B・・・ブラケット
図1
図2
図3