(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
建築物の外壁、内壁を構成する建材として、窯業系サイディング、ALCボード等の無機質材が用いられている。
【0003】
昨今、建材においては外観意匠性に対する要請が高まっており、無機質材を基材とし、その表面に塗料を塗布して塗膜を形成させ、意匠性を向上させることが行われている。その方策の一つとして、特許文献1には、基材の表面にポリエステルサフェーサーを塗布して下地層を形成し、次いで、ポリエステル黒エナメル塗料を塗布して中塗り層を形成し、次いで、ポリエステルクリア塗料が塗布され、硬化乾燥後、研磨して鏡面仕上げとすることが開示されている。
【0004】
特許文献1の方法によれば表面を鏡面仕上げとすることができるが、最表面に形成された塗膜を研磨する必要がある。研磨は塗膜が硬化してから行わなければならず、時間と手間がかかる。また、塗膜を広範囲で研磨し、鏡面仕上げとするには設備と技術が必要で有り、研磨斑が発生する懸念がある。
【0005】
更に、窯業系サイディング、ALCボード等の無機質材は、表面に微細な凹凸が存在するので研磨が必要である。しかし、無機質材を研磨した場合には、研磨斑が発生し、見栄えが悪く、隠蔽したいという実情もある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の態様による製造方法は、無機質基材の上(表面)に下地塗料を塗布し、硬化、研磨する第一のステップと、エナメル塗料を塗布し、硬化させる第二のステップとを備える。
【0012】
無機質基材としては、例えば、繊維補強セメント板、木質セメント板、木毛セメント板、スラグ石膏板、パルプ繊維混入セメント板、繊維補強セメント・ケイ酸カルシウム板、木片混入セメントけい酸カルシウム板、木質系繊維混入セメントけい酸カルシウム板、木繊維混入セメントけい酸カルシウム板、繊維混入セメントけい酸カルシウム板、ALCボードなどがあげられる。
【0013】
なお、無機質基材の表面には、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂などからなるシーラー塗膜が形成されていても良い。
【0014】
無機質基材はその表面を研磨しても微小な凹凸が存在することから、無機質基材の表面を鏡面とするべく、塗膜を形成する。本態様の建材の製造方法では、無機質基材の表面に下地塗料による塗膜が形成されており、下地塗料による塗膜の表面にエナメル塗料による塗膜が形成されている。
【0015】
下地塗料は、下地形成材と充填剤とを含有している。
下地形成材としては、紫外線硬化型樹脂、溶剤系ウレタン樹脂、溶剤系アクリル樹脂などが適用できる。下地形成材として紫外線硬化型樹脂、溶剤系ウレタン樹脂を用いると、膜厚が厚く、表面が平滑に近い塗膜を形成することができるとともに、研磨が行いやすいので好ましい。
下地塗料の充填剤としては、タルク、炭酸カルシウム、シリカ(結晶性シリカ、溶融シリカ、無定型シリカ)、ガラス(ガラスフレーク、ガラス繊維粉末)、石英(粉末)、アルミニウム(粉末)、雲母(粉末)などが適用できる。充填剤として、タルク、炭酸カルシウム、シリカの少なくともいずれかを含むと、形成された塗膜は研磨が行いやすく、無機質基材の隠蔽に優れるので好ましい。
【0016】
下地塗料においては、充填剤の含有量を固形分対比で40質量%以上で70質量%以下の範囲に調整する。充填剤の含有量を特定することで、研磨が行いやすく、無機質基材を隠蔽した塗膜を形成することができる。なお、下地塗料は、必要に応じて光重合開始剤、増粘剤、消泡剤、pH調整剤、溶剤、防腐剤などを含有することができる。
【0017】
第一のステップにおいては、無機質基材の上(表面)に下地塗料を塗布し、硬化、研磨して、無機質基材の表面を平滑にする。研磨に特に限定はなく、サンドペーパー、バフ研磨、ベルト研磨などの一般的な研磨手段が適用できる。
【0018】
エナメル塗料は、建材の表面を鏡面仕上げとするとともに、無機質基材をより隠蔽するものである。エナメル塗料は、エナメル形成材と顔料とを含有している。エナメル形成材は溶剤系樹脂であり、溶剤系フッ素樹脂、溶剤系アクリル樹脂、溶剤系ウレタン樹脂などが適用できる。顔料としては、酸化チタン、カーボン、弁柄、黄鉛、酸化鉄、ウルトラマリン、フタロシアニンブルー、コバルト、酸化クロムなどが適用できる。顔料として、酸化チタン、カーボン、酸化鉄、有機顔料の少なくともいずれかを含むと、形成された塗膜は着色力に優れ、無機質基材がより隠蔽されるので好ましい。溶剤系樹脂を含有するとともに、顔料の含有量を固形分対比で1質量%以上で50質量%以下の範囲に調整したエナメル塗料を、塗布し、硬化させることで、表面を研磨しなくても平滑で、無機質基材を隠蔽した塗膜を形成することができる。なお、エナメル塗料は、必要に応じて増粘剤、消泡剤、pH調整剤、防腐剤、充填剤、紫外線吸収剤、溶剤、光安定剤などを含有することができる。
【0019】
本態様の建材の製造方法によれば、最表面の塗膜を研磨せず、かつ、無機質基材を隠蔽した、鏡面仕上げ建材を提供することができる。
【0020】
以下、図面を参照して本発明の建材の実施の形態を説明する。
【0021】
(本発明の実施形態1について)
図1は本発明の実施形態1により製造された建材の一部を拡大した縦断面図である。
【0022】
図示する建材10は、無機質基材1の表面に下地塗膜2が形成され、下地塗膜2の表面にエナメル塗膜3が形成されてその全体が構成されている。
【0023】
ここで、無機質基材1としては、繊維補強セメント板、木質セメント板、木毛セメント板、スラグ石膏板、パルプ繊維混入セメント板、繊維補強セメント・ケイ酸カルシウム板、木片混入セメントけい酸カルシウム板、木質系繊維混入セメントけい酸カルシウム板、木繊維混入セメントけい酸カルシウム板、繊維混入セメントけい酸カルシウム板、ALCボード等が適用される。
【0024】
建材10の製造方法では、無機質基材1の表面を研磨し、平滑とする。研磨に特に限定はなく、サンドペーパー、バフ研磨、ベルト研磨などの一般的な研磨手段が適用できる。一例として、無機質基材1の表面をサンドペーパーで研磨する際に、サンドペーパーの粗さを#80から#100へ順次移行させる方法があげられる。
【0025】
次に、無機質基材1の表面に、下地塗料を塗布し、硬化、研磨して、下地塗膜2を形成する(第一のステップ)。下地塗料としては、下地形成材と充填剤とを含む塗料が適用される。
【0026】
下地形成材としては、紫外線硬化型樹脂、溶剤系ウレタン樹脂、溶剤系アクリル樹脂などが適用される。紫外線硬化型樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などを主成分として含む樹脂が適用される。下地形成材として紫外線硬化型樹脂、溶剤系ウレタン樹脂を用いると、容易に膜厚が厚く、表面が平滑に近い塗膜を形成することができ、研磨が行いやすいので好ましい。下地形成材が紫外線硬化型樹脂の場合、下地塗料には、更に光重合開始剤も含まれる。また、下地塗料は、必要に応じて増粘剤、消泡剤、pH調整剤、溶剤、防腐剤などを含有することができる。
【0027】
充填剤としては、タルク、炭酸カルシウム、シリカ(結晶性シリカ、溶融シリカ、無定型シリカ)、ガラス(ガラスフレーク、ガラス繊維粉末)、石英(粉末)、アルミニウム(粉末)、雲母(粉末)などが適用される。充填剤として、タルク、炭酸カルシウム、シリカの少なくともいずれかを含むと、形成された塗膜は研磨が行いやすく、無機質基材の隠蔽に優れるので好ましい。下地塗料においては、充填剤の含有量を固形分対比で40質量%以上で70質量%以下の範囲に調整することで、研磨が行いやすく、無機質基材を隠蔽した塗膜を形成することができる。
【0028】
下地塗料の塗布は、スプレー、フローコーター、ナチュラルコーター、ロールコーターなどの一般的な塗装手段が適用される。例として、下地形成材が溶剤系ウレタン樹脂である下地塗料をスプレーを用いて塗布する方法、下地形成材が紫外線硬化型樹脂である塗料をロールコーターを用いて塗布する方法があげられる。
【0029】
下地塗料の硬化は、下地塗料が紫外線硬化型塗料の場合には紫外線を照射、溶剤系塗料の場合には50〜120℃のドライヤーでの乾燥、常温乾燥などの一般的な手段により行われる。
【0030】
研磨は、サンドペーパー、バフ研磨、ベルト研磨などの一般的な研磨手段が適用できる。一例として、硬化した下地塗膜2の表面をサンドペーパーで研磨する際に、サンドペーパーの粗さを#320から#400へ順次移行させる方法があげられる。
【0031】
次に、下地塗膜2の表面に、エナメル塗料を塗布し、硬化させて、エナメル塗膜3を形成する(第二のステップ)。エナメル塗料としては、エナメル形成材と顔料とを含む塗料が適用される。
【0032】
エナメル形成材は溶剤系樹脂であり、溶剤系フッ素樹脂、溶剤系アクリル樹脂、溶剤系ウレタン樹脂などが適用される。
【0033】
顔料としては、酸化チタン、カーボン、弁柄、黄鉛、酸化鉄、ウルトラマリン、フタロシアニンブルー、コバルト、酸化クロムなどが適用される。顔料として、酸化チタン、カーボン、酸化鉄、有機顔料の少なくともいずれかを含むと、形成された塗膜は着色力に優れ、無機質基材がより隠蔽されるので好ましい。エナメル塗料においては、顔料の含有量を固形分対比で1質量%以上で50質量%以下の範囲に調整することで、無機質基材を隠蔽した塗膜を形成することができる。なお、エナメル塗料は、必要に応じて増粘剤、消泡剤、pH調整剤、防腐剤、充填剤、紫外線吸収剤、溶剤、光安定剤などを含有することができる。
【0034】
エナメル塗料の塗布は、スプレー、フローコーター、ナチュラルコーター、ロールコーターなどの一般的な塗装手段が適用できる。
【0035】
エナメル塗料の硬化は、50〜120℃のドライヤーでの乾燥により行われる。
【0036】
次に、本例の作用効果について説明する。
【0037】
建材10において、無機質基材1の表面に、充填剤を固形分対比で40〜70%含有した下地塗料を塗布し、硬化するので、形成される塗膜は研磨が行いやすいとともに、無機質基材を隠蔽する。そして、下地塗料により形成された塗膜の表面を研磨することにより、無機質基材を隠蔽するとともに、表面が平滑な下地塗膜2が形成される。平滑な下地塗膜2の表面に、溶剤系樹脂を含有するエナメル塗料を塗布し、硬化するので、研磨しなくても表面が平滑なエナメル塗膜3が形成される。エナメル塗膜3は、顔料を固形分対比で1〜50%含有するので、その着色により、無機質基材の隠蔽に優れるとともに、建材10の表面は鏡面仕上げとなる。
【0038】
(本発明の実施形態2について)
図2は本発明の実施形態2により製造された建材の一部を拡大した縦断面図である。
【0039】
図示する建材10Aは、無機質基材1Aの表面に下地塗膜2が形成され、下地塗膜2の表面にエナメル塗膜3が形成されてその全体が構成されている。
【0040】
ここで、無機質基材1Aは、無機質基材1の表面に、シーラーを塗布したものである。シーラーとしては特に限定はなく、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂などからなるシーラーが適用できる。また、塗布としては、スプレー、フローコーター、ナチュラルコーター、ロールコーターなどの一般的な塗装手段が適用できる。塗布量も特に限定はなく、一例として3g/尺
2塗布することがあげられる。
【0041】
下地塗膜2、エナメル塗膜3は、建材10と同じである。
【0042】
建材10Aによれば、無機質基材1Aにシーラーが塗布されているので、無機質基材1Aはより耐水性に優れると共に、無機質基材1Aと下地塗膜2との密着性に優れた建材となる。
【0043】
次に、建材10Aの製造方法を概説すると、無機質基材1Aにシーラーが塗布されていることを除き、建材10と同じである。
建材10Aの製造方法は、無機質基材1Aの表面(シーラー塗布面)に下地塗料を塗布する点が異なるだけであり、他は建材10の製作方法と同じである。
【0044】
(本発明の実施形態3について)
図3は本発明の実施形態3により製造された建材の一部を拡大した縦断面図である。
【0045】
図示する建材10Bは、無機質基材1の表面に下地塗膜2が形成され、下地塗膜2の表面にエナメル塗膜3が形成され、エナメル塗膜3の表面に保護塗膜4が形成されてその全体が構成されている。
【0046】
ここで、保護塗膜4は、保護形成材から形成されている。保護形成材としては、溶剤系フッ素樹脂、溶剤系アクリル樹脂、溶剤系ウレタン樹脂などが適用される。
【0047】
建材10Bによれば、最表面に保護塗膜4を備えることで、耐候性に優れた建材となる。
【0048】
次に、建材10Bの製造方法を概説すると、エナメル塗膜3までの製作方法は建材10と同じである。
エナメル塗膜3の表面に、保護塗料を塗布し、50〜120℃のドライヤーで乾燥させる。保護塗料としては、保護形成材を含む塗料が適用される。塗布としては、スプレー、フローコーター、ナチュラルコーター、ロールコーターなどの一般的な塗装手段が適用できる。
【0049】
(検証実験とその結果について)
本発明者等は本発明の建材の各種性能を検証する実験を行った。この実験に際し、試料1〜20の試験体を製作し、各試験体の表面観察を行うとともに、60度鏡面光沢度と、密着性確認と、無機質基材の隠蔽性を評価した。下地塗料、エナメル塗料、保護塗料の構成は、表1の通りである。また、各試験体は、無機質基材の表面をサンドペーパーで研磨した(サンドペーパーの粗さを#80から#100へ順次移行させる)後、試料1〜6、10〜16、18〜20についてはロールコーターを用いて下地塗料を塗布し、紫外線を照射して下地塗料を硬化させ、試料7〜9、17についてはスプレーを用いて下地塗料を塗布し、50〜120℃のドライヤーで乾燥させた。その後、硬化した下地塗料の表面をサンドペーパーで研磨した(サンドペーパーの粗さを#320から#400へ順次移行させる)後、フローコーターを用いて、研磨した下地塗膜の表面にエナメル塗料を塗布し、50〜120℃のドライヤーで乾燥させた。試料7〜13、16〜19については、フローコーターを用いて、エナメル塗膜の表面に保護塗料を塗布し、50〜120℃のドライヤーで乾燥させた。使用した無機質基材の表面は、いずれもフラット柄(平坦)である。各試料の評価結果も表1、2に示す。
【0052】
「表面観察」は、試験体を蛍光灯の2メートル下に置き、試験体の最表面への蛍光灯の映り込みを目視により観察したものであり、「○」は、映り込む蛍光灯が一直線に見えるもの(良好)、「△」は映り込む蛍光灯がゆらいで見えるもの(可)、「×」は映り込む蛍光灯がぼやけて見えるもの(不可)である。
【0053】
「60度鏡面光沢度」は、JIS K 5600−4−7に準拠し、ハンディ光沢計(IG−320 株式会社堀場製作所製)を用いて、試験体の最表面の60度鏡面光沢度を測定した結果である。
【0054】
「密着性確認」は、試験体の最表面に粘着テープを圧着し、前記粘着テープを剥離した後の塗膜の状態を観察したものであり、「○」は塗膜剥離が10%未満(良好)、「△」は塗膜剥離が10〜29%(可)、「×」は塗膜剥離が30%以上である(不可)。
【0055】
「無機質基材の隠蔽性確認」は、試験体を上側から目視により観察したものであり、「○」は無機質基材が確認できない(良好)、「×」は無機質基材が確認できるである(不可)。
【0056】
表1、2より、試料1〜13は、下地形成材に紫外線硬化型アクリル樹脂、溶剤系ウレタン樹脂のいずれかを用い、充填剤を固形分対比で40〜70%含有した下地塗料を塗布、硬化、研磨するとともに、エナメル塗膜形成材に溶剤系フッ素樹脂、溶剤系ウレタン樹脂、溶剤系アクリル樹脂のいずれかを用い、顔料を固形分対比で1〜50%含有するエナメル塗料を塗布、硬化した実証である。試料1〜13は、表面観察が「○」で、60度鏡面光沢度がいずれも80以上と高く、鏡面仕上げであるとともに、密着性、無機質基材の隠蔽性も「○」と良好な結果であることが実証されている。
【0057】
一方、充填剤の含有量が40〜70%ではない下地塗料と、顔料の含有量が1〜50%ではないエナメル塗料を用いた試料14、17は、60度鏡面光沢度が低く、表面観察も「△」と鏡面仕上げではない結果が実証されている。
【0058】
顔料の含有量が60%のエナメル塗料を用いた試料15、16についても、60度鏡面光沢度が低く、表面観察も「△」と鏡面仕上げではない結果が実証されている。
【0059】
顔料の含有量が0.4%と低いエナメル塗料を用いた試料18は、表面観察が「△」と鏡面仕上げではなく、無機質基材の隠蔽性も「△」という結果が実証されている。
【0060】
エナメル形成材にアクリルエマルションを用いた試料19、20は、60度鏡面光沢度が低く、表面観察も「△」と鏡面仕上げではなく、密着性も悪い結果が実証されている。
【0061】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。