(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
遺族あるいは飼い主の求めに応じて脳死した人あるいは愛玩動物の死体から採取された細胞であって、且つ、生化学的活動を維持している細胞が汚染されているか否かを判定する工程と、
脳死した人あるいは愛玩動物の死体から生化学的活動を維持している細胞を採取する工程と、
脳死した人あるいは愛玩動物の死体から採取された生化学的活動を維持している細胞を搬送する工程と、
脳死した人あるいは愛玩動物の死体から採取された生化学的活動を維持している細胞を培養する工程と、
培養された細胞を冷凍保存する工程と、
観察の要請がある細胞の一部を解凍する工程と、
解凍された細胞を拡大して表示する工程を備え、
前記培養する工程と冷凍保存する工程と解凍する工程と拡大して表示する工程では、細胞を特定の個人の情報と関連付けており、
遺族あるいは飼い主から観察の要請があった際に、冷凍保存されている細胞から観察の要請があった細胞を選択し、解凍して、拡大表示装置で拡大表示することを特徴とする細胞観察方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、細胞培養の技術を用いて、遺族の故人に対する喪失感や悲しみ、飼い主が愛玩動物の死に直面した時に抱く喪失感や悲しみ、担当医師が抱く無力感等を緩和することが出来る細胞観察システム及び細胞観察方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者は、脳死後であっても所定時間内であれば、個々の細胞は生化学的活動を継続しており、いわゆる「生きている」状態を保つことに着目した。また、愛玩動物の場合にも、死んでから所定時間内であれば、皮膚細胞等は生化学的活動を継続していることにも着目した。
そして発明者は、自らの親しい者が死去する体験と、臓器移植の現場を研究することにより、たとえ一部といえども「故人(或いは愛玩動物)が生きている」と認識することが出来れば、遺族その他の「残された者」の精神に大いに安らぎを与えることが出来ることを見出した。
本発明は係る知見に基づいて創造された。
【0007】
本発明の細胞観察システムは、
遺族あるいは飼い主の求めに応じて脳死した人(D)あるいは愛玩動物の死体から故人の遺体から細胞を採取して採取された細胞(C)であって、且つ、生化学的活動を維持している細胞が汚染されているか否かを判断する装置(例えば、故人Dや愛玩動物の血液から感染症やガンの罹患の有無を判断するキット10)と、
脳死した人(D)あるいは愛玩動物の死体から採取された生化学的活動を維持している細胞(C1)を搬送する装置(例えば搬送ボックス20)と、
脳死した人(D)あるいは愛玩動物の死体から採取された生化学的活動を維持している細胞(C1)を培養する装置(細胞培養装置30)と、
培養された細胞(C2)を冷凍保存する装置(冷凍保存装置40)と、
遺族(RF)あるいは飼い主から観察の要請がある細胞(C)の一部を解凍する装置(例えば、解凍・活性化装置50)と、
解凍された細胞(C2)を拡大して表示する拡大表示装置(60)と、
一つの装置(例えば、細胞を培養する装置30、冷凍保存する装置40、解凍する装置50の何れか)から選択された細胞(C2)を取出して他の装置(例えば、細胞を培養する装置30、冷凍保存する装置40、解凍する装置50の何れかであって、前記「一つの装置」ではない装置)まで搬送する取出し及び搬送装置(70)と、
制御装置(例えば、コントロールユニット80)を備え、
前記制御装置(80)は、採取されて培養された細胞(C2)と、冷凍保存された細胞(C2)と、解凍された細胞(C2)を特定の個人(故人或いは愛玩動物)と関連付ける(例えば故人の俗名、愛玩動物の愛称、死亡年月日、冷凍保存を依頼した親族或いは飼い主の名称等を関連付ける)機能と、
冷凍保存する装置(40)から観察の要請があった細胞(C2)を選択して、解凍する装置(50)で解凍して、拡大表示装置(60)で拡大表示する機能を有していることを特徴としている。
【0008】
また本発明の細胞観察方法は、
遺族(RF)あるいは飼い主の求めに応じて脳死した人(D)あるいは愛玩動物の死体から採取された細胞(C)であって、且つ、生化学的活動を維持している細胞が汚染されているか否かを(例えば、故人Dの血液から感染症やガンの罹患の有無を判断するキット10により)判定する工程(S1)と、
脳死した人(D)あるいは愛玩動物の死体から採取された生化学的活動を維持している細胞(C)を(故人や愛玩動物から)採取する工程(S2)と、
脳死した人(D)あるいは愛玩動物の死体から採取された細胞(例えば故人や愛玩動物から採取された皮膚細胞C1)を(例えば搬送ボックス70で)搬送する工程(S3)と、
脳死した人(D)あるいは愛玩動物の死体から採取された細胞(C1)を(例えば細胞培養装置30により)培養する工程(S4)と、
培養された細胞(C2)を(例えば冷凍保存装置40により)冷凍保存する工程(S5)と、
観察の要請がある細胞(例えば遺族或いは愛玩動物の飼い主より観察の要請がある細胞C)の一部を(解凍・活性化装置50により)解凍する工程(S6)と、
(例えば拡大表示装置60により)解凍された細胞(C2)を拡大して表示する工程(S7)を備え、
前記培養する工程(S4)と冷凍保存する工程(S5)と解凍する工程(S6)と拡大して表示する工程(S7)では、(例えば制御装置80により)細胞(C2)を特定の個人(故人D)の情報(例えば故人の俗名、愛玩動物の愛称、死亡年月日、冷凍保存を依頼した親族或いは飼い主の名称等)と関連付けており、
遺族(RF)あるいは飼い主から観察の要請があった際に、冷凍保存されている細胞(C2)から観察の要請があった細胞(C)を選択し、解凍して、拡大表示装置(60)で拡大表示することを特徴としている。
【0009】
本発明において、
培養された細胞(C2)は多分化能を
有しているのが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
上述の構成を具備する本発明によれば、生存している皮膚細胞(C)を採取して培養し、細胞(C2)が生存可能な状態で冷凍保存するので、当該冷凍保存された細胞(C2の一部)を解凍すれば、何時でも皮膚細胞(C2)が生化学反応を行っている状態(当該細胞の所謂「生きている」状態)の状態を観察することが可能である。
例えば、当該解凍された細胞(C2)を拡大表示装置(60)により故人の遺族(RF)や死んだ愛玩動物の飼い主が観察すれば、その遺族(RF)或いは飼い主は故人(D)或いは愛玩動物の皮膚細胞(C2)が活性を失わずに動いていることを視認することが出来る。故人(D)や愛玩動物の細胞(C2)が生きて動いている状態を目の当たりにすることにより、その遺族(RF)愛玩動物の飼い主は故人(D)或いは愛玩動物を偲び、故人(D)や愛玩動物の一部が生きていると認識して、故人(D)或いは愛玩動物との思い出を再構築し、生きる希望を取り戻すことが出来る。
【0011】
また担当医師は、患者が死亡しても細胞が生きていて保存できることを当該患者や遺族に伝えることが出来るので、患者が死亡した際における前記無力感や苦痛が緩和される。その結果、内科医や外科医の減少を抑制することが出来る。
さらに、死期が近づいた患者は自分の存在が無くなること、忘れ去られてしまうことに対して恐怖を抱くが、当該患者の細胞を生きた状態で保存することが出来ることを知れば、その様な恐怖が緩和され、迫り来る死の恐怖も緩和される。
【0012】
ここで、感染力が高い疾病で亡くなった遺体(D)或いは愛玩動物の死体から細胞(C)を採取する場合には、採取された細胞(C1)が病原体やウィルスに汚染されており、培養の結果、病原体やウィルスを培養してしまう危険が存在する。同様にガンで亡くなった遺体から細胞を採取する場合には、ガン細胞を培養してしまう危険が存在する。
本発明では、細胞採取に先立って血液を採取し、その血液を検査して採取する前の細胞(C)が病原体やウィルスに汚染されている危険性や、ガン細胞が包含される危険性を判定している。そのため、病原体やウィルスを培養してしまう危険や、ガン細胞を培養してしまう危険を回避して、細胞を採取する者が病原体やウィルスに感染する可能性を減少させることが出来る。
【0013】
さらに本発明によれば、細胞(C2)が生存可能な状態で冷凍保存するので、長期間に亘って細胞(C2)の活性を維持して、所謂「生きている状態」の細胞を観察することが出来る。
また、多数回に亘って観察を繰り返し、冷凍保存されている細胞(C2)の数量が減少しても、当該細胞(C2)を新たに培養することにより、さらに長い期間且つ多数回に亘り、細胞を観察することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。図示の実施形態では、故人の細胞を観察する場合について説明するが、死んだ愛玩動物の細胞を観察する場合についても同様に行うことが出来る。
本発明の実施形態を示す
図1において、全体を符号500で示す細胞観察システムは、感染チェックキット10と、搬送ボックス20と、細胞培養装置30と、冷凍保存装置40と、解凍・活性化装置50と、拡大表示装置60と、取出し・搬出手段70と、制御手段であるコントロールユニット80を備えている。
拡大表示装置60は、細胞観察施設100内に設置されている。細胞観察施設100としては、細胞の活性を保持するためには、細胞培養装置30、冷凍保存装置40、解凍・活性化装置50の近傍の施設、例えば実験設備、研究所に設けることが好ましい。しかし、たとえば葬儀場、斎場に併設することも可能である。故人の細胞観察を希望する遺族等を収容することが出来る程度の空間があれば、特に限定条件はない。
【0016】
感染チェックキット10は、細胞、例えば故人(遺体)Dの皮膚細胞Cが各種感染症の原因となる微生物を含んでいるか否か、或いは、ガン細胞を有しているか否かを判定(故人Dの血液から感染症やガンの罹患の有無を判定)する機能を有する装置であり、従来、公知の機器を適用することが出来る。感染チェックキット10は、例えば携帯可能な装置として構成することが可能である。
搬送ボックス20は、採取された細胞(例えば故人Dから採取された皮膚細胞C1)を細胞培養装置30に搬送する装置であり、携帯可能な装置である。
【0017】
細胞培養装置30は、採取された細胞C1を必要量培養する装置である。
冷凍保存装置40は、細胞培養装置30で培養された細胞(C2)を冷凍保存する装置である。
解凍・活性化装置50は、観察の要請(例えば、遺族RFよる故人の細胞を観察したいという要請:後述)がある細胞(例えば遺族RFより観察の要請がある細胞C2)の一部C2を冷凍保存装置から取出して、解凍する装置である。
図1において、符号Cは皮膚細胞一般を示し、符号C1は採取されたばかりの細胞を示し、符号C2は採取された細胞C1を培養して得られた細胞(培養細胞)を示す。
【0018】
拡大表示装置60は、解凍・活性化装置50によって解凍された細胞C2を拡大して表示する装置である。
取出し・搬出手段70は、細胞を培養する装置30、冷凍保存する装置40、解凍・活性化装置50、拡大表示装置60の何れか一つから選択された細胞C2(例えば遺族RFより観察の要請がある細胞)を取り出して、他の装置まで搬送する機能を有している。ここで、「他の装置」は、冷凍保存する装置40、解凍・活性化装置50、拡大表示装置60の何れかであって、前記選択された細胞C2を取り出した装置とは別の装置である。
【0019】
制御装置であるコントロールユニット80は記憶手段90を備えており、入出力装置85によって操作される。そして、コントロールユニット80は、採取されて培養された細胞C2と、冷凍保存された細胞C2と、解凍された細胞C2を<特定の個人(故人)と関連付ける(例えば故人の俗名、死亡年月日、冷凍保存を依頼した親族の名称等を関連付ける)機能を有している。
また、コントロールユニット80は取出し・搬出手段70を制御して、冷凍保存装置40から観察の要請があった細胞C2を選択して取り出し、解凍装置50で解凍して、拡大表示装置60に搬入して拡大表示する機能を有している。
なおコントロールユニット80の各種機能は、図示しないオペレータが実行しても良い。
【0020】
細胞培養装置30は入力信号ラインLi38によって、コントロールユニット80と接続され、例えば、培養する細胞の種類や、その時点での培養された細胞の量及び培養された細胞の活性度等の情報をコントロールユニット80に出力し、コントロールユニット80は細胞の培養量の適否等を判断することが出来る。それと共に、コントロールユニット80から、細胞培養装置30における各種パラメータを制御する信号が入力されて、適正な細胞培養が出来る環境を実現している。
冷凍保存装置40は入力信号ラインLi48によって、コントロールユニット80と接続され、例えば、冷凍保存する細胞の種類や量、各細胞を保存している位置情報、冷凍保存領域の温度等の情報をコントロールユニット80に出力する。それと共に、冷凍温度、保存されている細胞の情報等がコントロールユニット80から入力されている。
解凍・活性化装置50は入力信号ラインLi58によりコントロールユニット80と接続され、例えば、解凍・活性化する細胞の種類や量、解凍温度、活性度等の情報をコントロールユニット80に出力する。それと共に、コントロールユニット80から解凍する温度、解凍速度、その他の制御信号が入力される。
【0021】
コントロールユニット80は制御信号ラインLoを介して取出し・搬出手段70に制御信号を出力する機能を有している。これにより、取出し・搬出手段70による取り出すべき培養細胞の位置、取出量、搬出先などが制御される。上述したが、コントロールユニット80は操作信号ラインLcによって入出力装置85に接続されており、入出力装置85を介してシステム全体の制御を行う機能を有している。
例えば、皮膚細胞を採取する場合には、通常、脳死から48時間以内が好適である。通常、脳死から48時間以内であれば、皮膚細胞は生存しているからである。
また、採取については、例えば専用の機具により故人の耳の下部を引っ掻くことにより、培養に必要な細胞を採取することが出来る。
【0022】
ここで、皮膚細胞の採取に際して、当該皮膚細胞が有害なウィルス、危険な感染症の病原体で汚染されている場合や、ガン細胞が包含されている場合には、その様な細胞を培養することにより、有害なウィルスや危険な病原体が拡散する可能性があり、ガン細胞を培養してしまう危険性が増大してしまう。
そのため、図示の実施形態では遺体から血液を採取して、当該血液の各種検査を感染チェックキット10によって行っている。ここで感染チェックキット10による判定に際しては、その他の公知のウィルス検出用キット、その他の危険な病原体の検出用キット、ガン細胞検出用キットを用いても良い。
【0023】
図示の実施形態では遺体Dの耳の下付近の皮膚細胞を採取しているが、採取するのは皮膚細胞に限定されない。
多分化能があり且つ脳死から長時間経過しても生存している細胞であれば、皮膚細胞以外の細胞であっても、図示の実施形態において培養し、冷凍保存して、観察することが出来る。
ただし、多分化能がない細胞(例えば毛髪細胞)についても図示の実施形態を適用することは可能である。
【0024】
図示の実施形態では、培養している細胞C2、観察の要請があり冷凍保存されているものの一部を取出して解凍するべき細胞C2、細胞観察施設に搬送するべき細胞C2を、特定の個人(故人)と関連付けるために、コントロールユニット80で制御するように構成されている。
関連付けを行う場合には、例えば入出力装置85から必要な情報(例えば故人の俗名、死亡年月日、冷凍保存を依頼した親族の名称等)を入力して、検索する。各種細胞と特定の個人(故人)との関連付けについては、従来技術、公知技術を適用することが出来る。
【0025】
細胞培養装装置30から特定の個人の細胞C2を選択して(取出して)冷凍保存装置40に搬送するための取出し・搬出手段70、冷凍保存装置40から特定の個人の細胞C2を選択して解凍・活性化装置50に搬送するための取出し・搬出手段70、解凍・活性化装置50から特定の個人の細胞C2を選択して細胞観察施設100に搬送するための取出し・搬出手段70についても、従来・公知の装置を適用することが出来る。
取出し・搬出手段70を制御する技術としても、従来・公知の技術を適用可能である。
【0026】
解凍する際に細胞C2に与えるダメージを少なくするため、冷凍保存するに際しては、一回の細胞観察に必要な量ずつ(いわゆる「小分け」して)解凍している。観察の要請があり解凍する際には、小分けされた量の細胞C2のみが解凍される。
ただし、培養された細胞C2の全量をまとめて冷凍し、解凍する際には冷凍保存されている細胞C2の一部のみを解凍しても良い。
【0027】
解凍した結果、細胞C2の活性が低下しており、動きが確認できない場合には、公知の手法により細胞の活性を向上する処理を行う。
解凍して遺族等が観察(面会)した細胞は、再度解凍はせずに、無害化処理(例えば焼却処理)を行ったうえで処分する。ただし、一定の条件(冷凍保存されている同一の細胞の数量が少ない、観察された後も細胞の活性或いは増殖能力が高い等)を満たす場合には、再度、培養することもできる。
【0028】
図2は、図示の実施形態「細胞観察システム」において、故人の逝去後に遺族の求めに応じて、故人の遺体から細胞を採取して、当該細胞を培養し、日時が経過した後に、遺族が当該培養細胞を観察するまでの概略手順を説明したフローチャートである。
図2のステップS1では、故人の遺体Dから血液を採取し、当該血液を感染チェックキット10(
図1参照)によって検査して、故人の遺体Dの皮膚細胞が汚染されているか否か、例えば感染症やガンに罹患しているか否かを判定する。
ステップS2では、故人が感染症やガンに罹患していない場合に、故人の遺体から皮膚細胞C1を採取する。
【0029】
ステップS3では、採取した皮膚細胞を搬送ボックス20で搬送して、細胞培養装置30で培養可能な状態にせしめて、ステップS4に進む。ステップS4では、採取した皮膚細胞を細胞培養装置30(
図1参照)によって培養する。
ステップS5では、細胞培養装置30で培養した皮膚細胞を冷凍保存装置40(
図1参照)によって冷凍保存する。
ステップS5に続くステップS6では、冷凍保存装置40で冷凍保存されている皮膚細胞を取り出し、解凍して、必要に応じて活性化する。
ステップS6に続くステップS7では、解凍・活性化した培養細胞を取り出して、細胞観察施設100(
図1参照)に搬送し、細胞観察施設100内の拡大表示装置60によって拡大表示する。ステップS7では、細胞観察施設100内に故人の遺族が訪れており、遺族は拡大表示された故人の皮膚細胞を観察することができる(生化学的活動を行っている故人の皮膚細胞と対面することができる)。
【0030】
図3は、
図2における「採取」(ステップS2)、「培養」(ステップS4)、「冷凍保存」」(ステップS6)の詳細を示している。
図3のステップS11では、細胞観察システム500のコントロールユニット8において、故人の親族から故人の遺体(以下、「遺体」と言う)Dの細胞を保存して観察可能な状態にしたい旨の依頼があったか否かを判断する。細胞保存の依頼がなければ(ステップS11がNO)、終了する。
一方、遺族から細胞保存の依頼があれば(ステップS11がYES)ステップS12に進み、遺体Dから血液の採取を行う。採取された血液は、感染チェックキット10によって血液検査が行われ、ステップS13において、故人(遺体D)が感染症やガン等に罹患している恐れがないか否かを判断する。
【0031】
感染症やガン等に罹患している恐れがあれば(ステップS13がNO)、後述の細胞培養の際に有害なウィルスや危険な病原体が拡散する可能性があり、ガン細胞を培養してしまう危険性が増大してしまう。そのためステップS14に進み、以後の作業は中止して、終了する。
感染症やガン等に罹患している恐れがなければ(ステップS13がYES)、ステップS15に進む。ステップS15では、遺体Dから皮膚細胞C1を採取する。
皮膚細胞C1の採取に当たっては、図示の実施形態では、遺体Dの耳の下付近の皮膚細胞C1を採取している。
【0032】
採取した皮膚細胞C1は、搬送ボックス20に収容されて(ステップS16)、培養装置30に搬送される(ステップS17)。培養装置30に搬送された皮膚細胞C1は、直ちに培養が開始され、ステップS18において、コントロールユニット80は、所定量以上培養が進んだか否かを判断する。所定量以上培養が進んでいなければ(ステップS18がNO)、培養を続行する(ステップS18がNOのループ)。一方、所定量以上の細胞が培養されれば(ステップS18がYES)、ステップS19に進み、培養された皮膚細胞C2は冷凍保存装置40において冷凍保存される。
【0033】
遺族より個人の細胞を観察したいという要請があった場合における「解凍/活性化」(ステップS6)から「遺族が観察」(ステップS7)の詳細が
図4に示されている。
図4のステップS21では、細胞観察システム500のコントロールユニット80において、故人の遺族から故人Dの培養細胞C2を観察したい(故人と面会したい)旨の要請があったか否かを判断する。
故人Dの培養細胞C2を観察したい(故人と面会したい)旨の要請がなければ(ステップS21がNO)、当該要請があるまでステップS21が「NO」のループを継続する。一方、故人Dの培養細胞C2を観察したい(故人と面会したい)旨の要請があれば(ステップS21がYES)、ステップS22に進む。
【0034】
ステップS22では、冷凍保存装置40に保存された培養細胞C2から適切な培養細胞C2を選択して、その一部を解凍・活性化装置50により解凍する。
ステップS22に続くステップS23では、コントロールユニット80は、解凍・活性化装置50から得た情報等により、解凍された培養細胞C2が生化学的な活動を行っており、動いているか否か(活性化処理が不要であるか否か)を判断する。明確に図示してはいないが、活性化処理が不要であるか否かを判断する際に、拡大表示装置60で拡大表示して判断することもできる。
活性化が必要であれば(ステップS23がYES)ステップS24に進み、活性化が不要であれば(ステップS23がNO)ステップS25まで進む。
【0035】
ステップS24では、解凍した培養細胞C2に対して従来公知の活性処理を施す。活性化は、回答した細胞が所謂「動いている」状態となる様にせしめる。
ステップS25では、活性処理した培養細胞C2を細胞観察施設へ搬送する。そしてステップ26では、活性処理した培養細胞C2を、拡大表示装置60(例えば図示しない電子顕微鏡及びモニターから構成)セットして、培養細胞C2が生存して動いている状態が表示される。
ステップS27において、遺族は拡大表示装置60のモニター画面を設置した観察室(面会室)に案内され、生き生きと動き回っている故人の培養細胞と面会できる。この際に、例えば厳かな曲を流す等の演出を施すことも可能である。そして手順を終了する。
【0036】
図示の実施形態によれば、脳死後であっても生化学的活動を継続している(所謂「生きている」)皮膚細胞C1を採取して培養し、培養した細胞C2が生存可能な状態で冷凍保存するので、当該冷凍保存された細胞C2(の一部)を解凍すれば、何時でも皮膚細胞の状態を観察することが可能である。
解凍された細胞C2を拡大表示装置60により故人Dの遺族RFが観察すれば、その遺族RFは故人Dの皮膚細胞C2が活性を失わずに動いていることを視認することが出来る。故人Dの細胞C2が生きて動いている状態を目の当たりにすることにより、その遺族RFは故人Dを偲び、故人Dの一部が生きていると認識することが出来る。
【0037】
ここで、感染力が高い疾病で亡くなった遺体から細胞を採取する場合には、採取された細胞が病原体やウィルスに汚染されており、培養の結果、病原体やウィルスを培養してしまう危険が存在する。同様にガンで亡くなった遺体から細胞を採取する場合には、ガン細胞を培養してしまう危険が存在する。
図示の実施形態では細胞採取に先立って血液を採取し、その血液を検査して細胞が病原体やウィルスに汚染されている危険性や、ガン細胞が包含される危険性を判定している。そのため、病原体やウィルスを培養してしまう危険や、ガン細胞を培養してしまう危険を回避することが出来る。また、細胞を採取する者が病原体やウィルスに感染する可能性を減少させることが出来る。
【0038】
さらに図示の実施形態によれば、細胞C2が生存可能な状態で冷凍保存するので、長期間に亘って細胞C2の活性を維持して、何時でも生きている状態の細胞C2を観察することが出来る。
また、多数回に亘って観察を繰り返し、冷凍保存されている細胞C2の数量が減少しても、当該細胞C2を新たに培養することにより、長期間に亘り、且つ多数回に亘り、細胞C2の観察が可能である。
【0039】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
例えば、図示の実施形態では故人の細胞を観察する場合について示しているが、愛玩動物が死んだ場合にその細胞を冷凍保存して観察することも、故人の細胞の場合と同様に行うことが出来る。すなわち、本発明は故人の細胞を観察する場合のみならず、死んだ愛玩動物の細胞を観察する場合についても適用される。