特許第6784500号(P6784500)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784500
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】車両の衝撃緩和機構
(51)【国際特許分類】
   B62D 21/15 20060101AFI20201102BHJP
   B60R 21/02 20060101ALI20201102BHJP
   B62D 25/08 20060101ALI20201102BHJP
   B62D 25/20 20060101ALI20201102BHJP
   B60R 19/24 20060101ALI20201102BHJP
   B60R 19/34 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   B62D21/15 C
   B60R21/02
   B62D25/08 D
   B62D25/20 C
   B60R19/24 N
   B60R19/34
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-56931(P2016-56931)
(22)【出願日】2016年3月22日
(65)【公開番号】特開2017-170999(P2017-170999A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2018年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人 エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【審査官】 田中 成彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−310006(JP,A)
【文献】 特開2008−265628(JP,A)
【文献】 実開平03−118874(JP,U)
【文献】 実開平04−122284(JP,U)
【文献】 特開2016−002795(JP,A)
【文献】 特開2014−201283(JP,A)
【文献】 特開2007−106161(JP,A)
【文献】 米国特許第05738378(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 21/15
B60R 19/24
B60R 19/34
B60R 21/02
B62D 25/08
B62D 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員が着座するシートが設けられる車体と、
前記車体に設けられ、先端からの衝突入力により軸方向に沿って圧縮変形される前記車体の骨格部材と、
衝突の際に衝撃入力側を反対側より上げるように前記車体の前記骨格部材を傾ける傾斜機構と、
前記傾斜機構により傾けられた状態の前記骨格部材の先端と全体的に接触する接触面を有する接触部材と、
前記接触部材の前記接触面から突出して設けられ、前記接触面に沿って上がって傾斜した前記骨格部材と接触する突起部と、
を有し、
前記突起部は、前記突起部から前記接触面の上部までの長さの方が、前記突起部から前記接触面の下部までの長さよりも、長い位置に設けられ、
衝突の際に前記骨格部材の先端が前記突起部と当接するまで上方に移動し、前記接触部材は、前記骨格部材の先端と全体的に接触する、
車両の衝撃緩和機構。
【請求項2】
前記傾斜機構を実現するために、
前記接触部材が、前記骨格部材の軸方向の先端側に並べて設けられ、
前記接触面および前記骨格部材の先端が、前記骨格部材の先端上部が先端下部より先端側へ突出するように、前記骨格部材の軸方向に対して傾けて形成され、
衝突の際に前記接触部材が前記骨格部材の先端に押し付けられることにより、前記車体の前記骨格部材の衝撃入力側が反対側より上がって傾く、
請求項1記載の車両の衝撃緩和機構。
【請求項3】
前記骨格部材は、多角形の筒形状に形成され、
前記接触面から突出する前記突起部は、前記骨格部材の筒形状の内部へ突出して設けられ、傾斜した前記骨格部材の下部と接触する、
請求項1記載の車両の衝撃緩和機構。
【請求項4】
筒形状の前記骨格部材の内部に設けられ、前記骨格部材内を塞ぐ閉塞部材、を有する、
請求項1記載の車両の衝撃緩和機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば自動車といった車両の衝撃緩和機構に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車といった車両では、衝突時に乗員を保護することが求められている。このため、たとえば自動車では、車体の乗員室から前へ水平方向に沿って延在するフロントサイドフレームといった骨格部材が用いられる(特許文献1、2)。フロントサイドフレームは、車両が前から衝突する際に、衝撃入力により圧縮変形し、これにより衝撃を吸収する。その結果、乗員室の変形を抑え、乗員室に乗車した乗員を保護することができる。
また、乗員室には、乗員が着座するシートとともに、シートベルト、エアバッグなどの乗員保護装置が用いられる。また、特許文献3では、追突時にシートの座面の前部を上へ膨らませている。これにより、シートに着座する乗員がシートから前へずれてしまうことを抑制できる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−044523号公報
【特許文献2】特開2015−140025号公報
【特許文献3】特開2007−203930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、衝突時の乗員保護機能は、これで十分というわけではない。たとえば高い速度で車両が追突する場合、シートベルトなどが適切に作動したとしても、乗員の上体に対して大きく前へ倒す力が作用する。この場合、前へ倒れる上体がシートベルトに対して強く押し付けられる。
【0005】
この対策として、たとえば車体の前部を上げて、着座した乗員の上体に後へ倒れる力を作用させ、上体を前へ倒す力の一部を相殺することが考えられる。これにより、前へ倒れる上体がシートベルトに対して強く押し付けられ難くなり、乗員の保護レベルを高めることができる可能性がある。しかしながら、車両が追突する際に車体の前を相対的に上げた場合、フロントサイドフレームに対して衝撃が軸方向に沿って真っ直ぐに入力され難くなる。骨格部材の先端からその軸方向に沿って衝撃が入力され難くなると、骨格部材が軸方向に沿って圧縮変形することによる衝撃の吸収性能が得られなくなる可能性がある。
【0006】
このように車両では、車両の骨格部材に対して衝撃荷重が軸方向に沿って入力される状態を確保しながら、乗員に作用する力を弱めて、乗員を更に高いレベルで保護することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両の衝撃緩和機構は、乗員が着座するシートが設けられる車体と、前記車体に設けられ、先端からの衝突入力により軸方向に沿って圧縮変形される前記車体の骨格部材と、衝突の際に衝撃入力側を反対側より上げるように前記車体の前記骨格部材を傾ける傾斜機構と、前記傾斜機構により傾けられた状態の前記骨格部材の先端と全体的に接触する接触面を有する接触部材と、前記接触部材の前記接触面から突出して設けられ、前記接触面に沿って上がって傾斜した前記骨格部材と接触する突起部と、を有し、
前記突起部は、前記突起部から前記接触面の上部までの長さの方が、前記突起部から前記接触面の下部までの長さよりも、長い位置に設けられ、衝突の際に前記骨格部材の先端が前記突起部と当接するまで上方に移動し、前記接触部材は、前記骨格部材の先端と全体的に接触する。
【0008】
好適には、前記傾斜機構を実現するために、前記接触部材が、前記骨格部材の軸方向の先端側に並べて設けられ、前記接触面および前記骨格部材の先端が、前記骨格部材の先端上部が先端下部より先端側へ突出するように、前記骨格部材の軸方向に対して傾けて形成され、衝突の際に前記接触部材が前記骨格部材の先端に押し付けられることにより、前記車体の前記骨格部材の衝撃入力側が反対側より上がって傾く、とよい。
【0010】
好適には、前記骨格部材は、多角形の筒形状に形成され、前記接触面から突出する前記突起部は、前記骨格部材の筒形状の内部へ突出して設けられ、傾斜した前記骨格部材の下部と接触する、とよい。
【0011】
好適には、筒形状の前記骨格部材の内部に設けられ、前記骨格部材内を塞ぐ閉塞部材、を有する、とよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、衝突の際に傾斜機構により傾けられた状態の骨格部材の先端と全体的に接触する接触面を有する接触部材を有する。よって、衝突の際に骨格部材の先端は、接触部材の接触面と全体的に接触し、衝撃が全体的に入力され得る。その結果、車両が衝突する際に車体の骨格部材の先端が相対的に上がるようにして乗員に作用する力を弱めた場合でも、骨格部材に対して、衝撃が軸方向に沿って入力され易くなる。衝撃が骨格部材の先端からその軸方向に沿って入力されることにより、骨格部材は軸方向に沿って圧縮変形し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の実施形態が適用される自動車の模式的なの側面透視図である。
図2図2は、前室の車体構造の模式図である。
図3図3は、図2のフロントサイドフレームの断面図である。
図4図4は、図2の車体が他の車体または構造体に追突する際の、車体変形の一例を示す説明図である(その1)。
図5図5は、図2の車体が他の車体または構造体に追突する際の、車体変形の一例を示す説明図である(その2)。
図6図6は、図4および図5の変形が生じる場合の車体の挙動を示す説明図である。
図7図7は、図2の変形例に係るフロントサイドフレームの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態が適用される自動車1の模式的なの側面透視図である。
自動車1は、車両の一例である。
【0016】
図1の自動車1は、前室3、乗員室4、および後室5が画成された車体2を有する。車体2は、たとえばモノコック構造を有する。
モノコック構造の車体2では、前室3において、乗員室4の前壁であるトーボード11から前へ向かって、一対のフロントサイドフレーム12が略水平に伸在する。前後方向に延在するフロントサイドフレーム12の前側の先端には、クラッシュボックス13が連結される。一対のクラッシュボックス13の前側の先端には、フロントバンパービーム14が取り付けられる。フロントバンパービーム14の前側には、車体2の前壁を構成するフロントバンパーフェイス15が配置される。フロントバンパーフェイス15は、フロントバンパービーム14に対して取り付けられても、フロントバンパービーム14と一体化して形成されてもよい。
また、後室5において、乗員室4の後壁から後へ向かって一対のリアサイドフレームが略水平に伸在する。リアサイドフレームの後端の先端には、リアクラッシュボックスが連結される。一対のリアクラッシュボックスの後側の先端には、リアバンパービームが取り付けられる。リアバンパービームの後側には、車体2の後壁を構成するリアバンパーフェイスが配置される。リアバンパーフェイスは、リアバンパービームに対して取り付けられても、リアバンパービームと一体化して形成されてもよい。
このような骨格構造を有する車体2では、たとえば車体2が他の車体100に追突する場合、フロントバンパーフェイス15が他の車体100と接触する。そして、追突の衝撃荷重の入力の程度に応じて、フロントバンパービーム14、一対のクラッシュボックス13、一対のフロントサイドフレーム12が、その順番で圧縮変形する。このように車体2の骨格部材が先端からの衝突荷重の入力により軸方向に沿って圧縮変形することにより、衝撃を吸収する。その結果、乗員室4に変形が及び難くなる。
【0017】
また、乗員室4内では、シート21に着座した乗員の前でシートベルト22がロックされることにより、乗員が前へ移動し難くなるように支えられる。また、乗員の前で、エアバッグ23が展開する。
これらの仕組みにより、車両は、乗員を保護する。
しかしながら、衝突時の乗員保護機能は、これで十分ということにはならない。
たとえば高い速度で車両が追突する場合、シートベルト22などが適切に作動したとしても、乗員には、上体を大きく前へ倒す力が作用する。前へ倒れる上体には、シートベルト22が強く押し付けられることになる。
このように自動車1といった車両では、衝突の際に乗員に作用する力を弱めて、乗員の保護レベルを更に改善することが求められている。
【0018】
図2は、前室3の車体構造の模式図である。
図2には、フロントサイドフレーム12、クラッシュボックス13、フロントバンパービーム14、フロントバンパーフェイス15、が図示されている。
図3は、図2のフロントサイドフレーム12の断面図である。
【0019】
フロントサイドフレーム12は、図3に示すように、高剛性の金属鋼板を、四角形断面の中空の筒形状に成形したものである。フロントサイドフレーム12は、車体2の前室3において、略水平方向に沿って延在する。
フロントサイドフレーム12の前側の先端には、クラッシュボックス13が連結される。フロントサイドフレーム12とクラッシュボックス13とは、たとえばねじ止めにより連結されてよい。
クラッシュボックス13は、たとえば金属材料または樹脂材料からなる。クラッシュボックス13は、フロントサイドフレーム12より圧縮され易く形成されてよい。本実施形態のクラッシュボックス13は、フロントサイドフレーム12より上下に長くなるように、縦長の略立方体形状を有する。
クラッシュボックス13の先端には、フロントバンパービーム14が連結される。クラッシュボックス13とフロントバンパービーム14とは、たとえばねじ止めにより連結されてよい。
フロントバンパービーム14は、たとえば樹脂材料からなる。フロントバンパービーム14は、一対のクラッシュボックス13と連結される一対の取付部36と、車幅方向に延在して一対の取付部36が両端近傍に設けられるビーム本体37と、を有する。本実施形態において、取付部36は、クラッシュボックス13と同じ高さの略立方体形状を有する。
フロントバンパービーム14の前側には、フロントバンパーフェイス15が位置する。フロントバンパーフェイス15は、車体2の前壁を構成する板状の樹脂部品である。
【0020】
また、本実施形態では、このような車体2の前室3において前後方向に沿って延びる骨格構造において、骨格構造の衝撃吸収性能を確保できるように、追突の際に骨格構造を上に傾けるための傾斜機構が設けられる。追突の際に骨格構造が上下にずれることにより、車体2の衝撃入力側(前側)がその反対側(後側)より上がるように車体2が傾く。
具体的には、フロントサイドフレーム12の軸方向に沿って一直線状に配列されるフロントサイドフレーム12の先端およびクラッシュボックス13についての後側の接触面41が、共に前上がりに傾斜して形成される。フロントサイドフレーム12およびクラッシュボックス13の軸方向に対して垂直な方向ではなく、軸方向に対して90°より小さい角度を成すように傾斜して形成される。前上がりに傾斜して形成されたフロントサイドフレーム12の先端は、先端上部が先端下部より先端側へ突出しており、前上がりに傾斜して形成されたクラッシュボックス13の後側の接触面41と向かい合わせに配置されて接触面41と全体的に接触している。
また、クラッシュボックス13と連結されるフロントサイドフレーム12は、クラッシュボックス13の下部に連結される。これにより、クラッシュボックス13の接触面41は、フロントサイドフレーム12の上に突出する。
【0021】
また、本実施形態では、前上がりに傾斜して形成されたクラッシュボックス13の接触面41の下部には、突起部42が突出して形成される。突起部42は、四角形の筒形状のフロントサイドフレーム12の下部から上側に離間するように、四角形の筒形状のフロントサイドフレーム12内に突出する。
また、クラッシュボックス13の接触面41についてのフロントサイドフレーム12の上側の長さは、フロントサイドフレーム12の下部から突起部42までの距離より長く形成されている。
【0022】
また、本実施形態では、四角形の筒形状のフロントサイドフレーム12の内部に、四角形の閉塞板52が設けられる。四角形の閉塞板52は、フロントサイドフレーム12の先端より後側へ下がった位置において、フロントサイドフレーム12の4辺と溶接される。これにより、閉塞板52は、フロントサイドフレーム12の内部を塞ぐ。
【0023】
次に、このような傾斜機構を有する車体2についての追突の際の動作について説明する。
図4および図5は、図2の車体2が他の車体100または構造体に追突する際の、車体変形の一例を示す説明図である。
【0024】
図4(A)に示すように、追突前の車体2では、フロントサイドフレーム12、クラッシュボックス13、およびフロントバンパービーム14は、フロントバンパーフェイス15の後側において水平方向に沿って一直線状に伸在する。また、フロントサイドフレーム12の先端およびクラッシュボックス13についての後側の接触面41とは、この水平方向に沿った一直線状の方向に対して、90°より小さい角度を成すように前上がりに傾斜する。
【0025】
次に、図4(B)に示すように、車両が構造体へ追突する。これにより、フロントバンパーフェイス15の外面は構造体と高い圧力で接触する。また、フロントバンパービーム14の先端もフロントバンパーフェイス15の内面と高い圧力で接触する。これにより、少なくとも追突した直後のタイミングでは、フロントバンパーフェイス15およびフロントバンパービーム14は、構造体に対して位置決めされる。フロントバンパーフェイス15およびフロントバンパービーム14は、追突した状態の位置から、水平方向に沿って後方へ向かって延在するように、仮固定状態(仮に一体化した状態)になる。
【0026】
次に、図4(C)に示すように、追突した車体2が更に前へ移動すると、最も座屈し易いフロントバンパービーム14が軸方向(ここでは水平方向)に沿って圧縮変形する。その後、フロントバンパービーム14とクラッシュボックス13との間の圧力が高まる。クラッシュボックス13は、水平方向に沿って後方へ向かって延在するように、仮固定状態(仮に一体化した状態)になる。
【0027】
次に、図4(D)に示すように、追突した車体2が更に前へ移動すると、二番目に座屈し易いクラッシュボックス13が軸方向(ここでは水平方向)に沿って圧縮変形する。その後、クラッシュボックス13とフロントサイドフレーム12との間の圧力が高まる。
この際、フロントサイドフレーム12の先端、およびクラッシュボックス13についての後側の接触面41は、共に前上がりに傾斜して形成されているので、フロントサイドフレーム12は、前へ移動しようとする力が作用することにより、クラッシュボックス13の傾斜面に沿って斜め上方向へずれようとする。このずれによるせん断力により、フロントサイドフレーム12とクラッシュボックス13とを連結していたネジが破断する。また、ネジが破断し始めると、フロントサイドフレーム12は、その先端の傾斜とクラッシュボックス13の後側の傾斜面の傾斜にしたがって、クラッシュボックス13の傾斜面に沿って斜め上方向へ移動し始める。
その後、図5(A)に示すように、上側へ移動したフロントサイドフレーム12は、その下部が、クラッシュボックス13の傾斜面の下部から突出している突起部42に当たる。フロントサイドフレーム12の先端は、傾斜面に対して全体的に当接した傾斜状態に維持される。
【0028】
次に、図5(B)に示すように、追突した車体2が更に前へ移動すると、傾斜したフロントサイドフレーム12が軸方向に沿って圧縮変形し始める。この際、フロントサイドフレーム12の先端が傾斜面に対して全体的に当接しているため、クラッシュボックス13からフロントサイドフレーム12への荷重も全体的に伝達される。これに対して、仮にたとえばフロントサイドフレーム12の一部のみがクラッシュボックス13と接触している場合、フロントサイドフレーム12に作用する荷重がフロントサイドフレーム12を全体的に軸方向へ圧縮する力として作用し難くなる。そして、たとえば下半分のみに荷重が作用する場合、フロントサイドフレーム12の途中が上に曲がるように折れてしまう可能性が生じ得る。フロントサイドフレーム12が折れてしまった場合、軸方向に沿って圧縮変形した場合のように高い荷重の吸収性能を得ることができなくなる。
【0029】
以上の一連の動作により、図2の車体2では、フロントバンパービーム14、クラッシュボックス13、およびフロントサイドフレーム12の圧縮変形により、追突の衝撃(荷重)を吸収できる。その結果、乗員室4が変形し難くなる。
【0030】
図6は、図4および図5の変形が生じる場合の車体2の挙動を示す説明図である。
図6(A)は、衝突前の車体2がほぼ水平である通常状態である。
図6(B)は、衝突直後の車体2がほぼ水平である通常状態である。
図6(C)は、フロントサイドフレーム12が変形し始めた後の車体2が前上がりに傾いた傾斜状態である。
【0031】
このように追突の衝撃を利用してフロントサイドフレーム12がその先端(衝撃入力側)が後端(反対側)に対して相対的に上がるように傾斜することにより、フロントサイドフレーム12とともに車体2も前上がりに傾く。車体は、フロントサイドフレーム12が圧縮変形するような強い衝突の場合、図6(B)の水平な通常状態から、図6(C)の前上がりに傾いた傾斜状態になる。
その結果、追突中に、車体2に対して固定されているシート21、およびシート21に着座している乗員も前上がりに傾く。このように追突中に乗員室4およびシート21の全体が前上がりに傾くことにより、シート21に着座している乗員の上体には後へ倒れようとする力が作用する。また、実際に乗員の上体には後へ倒れる。それゆえ、本実施形態では、衝突中に、シート21に着座した乗員に対して、衝突入力側の反対側へ若干倒す力を作用させることができる。そして、衝突の際にシート21に着座した乗員が衝突入力側の反対側へ若干倒れることにより、乗員を衝突入力側へ倒そうとする力の一部を相殺できる。たとえば高い速度で車両が追突して乗員の上体に対して大きく前へ倒す力が作用したとしても、その一部を相殺して、前へ倒れる上体がシートベルト22に対して強く押し付けられ難くなる。その結果、乗員の保護レベルを高めることができる。
【0032】
以上のように、本実施形態では、衝突の際に傾斜機構により傾けられた状態のフロントサイドフレーム12の先端と全体的に接触する接触面41を有するクラッシュボックス13を有する。よって、衝突の際にフロントサイドフレーム12の先端は、クラッシュボックス13の接触面41と全体的に接触し、衝撃が全体的に入力され得る。その結果、車両が衝突する際に車体2のフロントサイドフレーム12の先端が相対的に上がるようにした場合でも、フロントサイドフレーム12に対して、衝撃が軸方向に沿って真っ直ぐに入力され易くなる。衝撃がフロントサイドフレーム12の先端からその軸方向に沿って入力されることにより、骨格部材は軸方向に沿って圧縮変形し易くなる。
【0033】
また、本実施形態では、クラッシュボックス13が、フロントサイドフレーム12の軸方向の先端側に並べて設けられ、接触面41およびフロントサイドフレーム12の先端が、フロントサイドフレーム12の先端上部が先端下部より先端側へ突出するように、フロントサイドフレーム12の軸方向に対して傾けて形成される。よって、衝突の際には、まず接触面41がフロントサイドフレーム12の先端と全体的に接触し、次にフロントサイドフレーム12の先端が相対的に押し上げられて上へ移動し得る。その結果、衝突の際に衝撃入力側を反対側より上げるように車体2のフロントサイドフレーム12は傾くことになる。衝撃の力を利用して、フロントサイドフレーム12とともに車体2を傾けることができる。
【0034】
本実施形態において、クラッシュボックス13の接触面41に沿って押し上げられて傾斜したフロントサイドフレーム12は、接触面41から突出して設けられた突起部42と接触することにより、先端が全体的に接触面41と接触する状態に保持される。よって、傾斜したフロントサイドフレーム12の先端には、衝撃により押し込まれるクラッシュボックス13が全体的に当たり、フロントサイドフレーム12はその軸方向に沿って圧縮変形し易くなる。
【0035】
特に、突起部42は、フロントサイドフレーム12の多角形の筒形状の内部へ突出して設けられ、傾斜したフロントサイドフレーム12の下部と接触するので、クラッシュボックス13が押し込まれたとしても、突起部42により、フロントサイドフレーム12を上下方向へ押し潰す力が作用し難い。これに対して、仮にたとえば突起部42が、フロントサイドフレーム12の上側で突出して設けられ、傾斜したフロントサイドフレーム12の上部と接触する場合、クラッシュボックス13が押し込まれることにより、突起部42とフロントサイドフレーム12とが押し付けられ、フロントサイドフレーム12を上下方向へ押し潰す力が作用し易い。
【0036】
また、筒形状のフロントサイドフレーム12の内部には、フロントサイドフレーム12内を塞ぐ閉塞板52が設けられている。よって、フロントサイドフレーム12は、中空形状に形成されているにもかかわらず、その先端部が圧縮変形し始めるまで、原型を維持し易くなる。その結果、先端が軸方向に対して傾斜しているにもかかわらず、フロントサイドフレーム12は、その先端から軸方向に沿って圧縮変形し易くなる。
【0037】
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明は、これに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。
【0038】
たとえば上記実施形態では、連結される骨格部材の間において、軸方向に対して傾斜される傾斜面等は、フロントサイドフレーム12とクラッシュボックス13との接触部分に設けられている。
この他にもたとえば、傾斜面等は、たとえばクラッシュボックス13とフロントバンパービーム14との接触部分に設けても、フロントバンパービーム14とフロントバンパーフェイス15との接触部分に設けてもよい。
【0039】
上記実施形態では、突起部42は、筒形状のフロントサイドフレーム12の内部へ突出し、斜め上へ移動するフロントサイドフレーム12の下面と接触する。
この他にもたとえば、図7に示すように、フロントサイドフレーム12の上側に突出する他の突起部42を追加して設け、複数の突起部42を、傾斜したフロントサイドフレーム12の上部および下部に接触させてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1…自動車(車両)
2…車体
11…トーボード
12…フロントサイドフレーム(骨格部材)
13…クラッシュボックス(接触部材)
14…フロントバンパービーム
15…フロントバンパーフェイス
21…シート
22…シートベルト
23…エアバッグ
41…接触面(傾斜機構)
42…突起部
52…閉塞板(閉塞部材)
100…他の車体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7